チタンの自動車部品への 応用の現状と問題

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チタンの自動車部品への
応用の現状と問題
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ニューマテリアルセンター顧問
村上 陽太郎
1.はじめに
チタンは自動車部品に利用されているが、特定の部品に限定され
ている。その製品コストは已然高く、新規で安価なプロセスが緊急
に求められている。一方、1930 年代に始まったアルミとその後の
マグネの自動車用材としての歴史的な進展をもとに、チタンの軽量
性や機能性等を考えれば、チタンは唯一の残された材料として、自
動車への応用の将来は明るい。
2.チタンの機械的性質と価格
3
σ0/ρ[MPa・cm3/g]
図 1 は最もよく利用されてい 250
2.5
る Ti-6Al-4V、α+β相合金と高強 200
2
1.5
度熱処理鋼 34CrMo4(SAE- 150
100
1
(ASTM-)No.4134, B.S. 708 A37)
、
50
0.5
高力 AlZnMg 合金 Al7075、及び
0
0
34 CrMo 4
Ti-6Al4V
Al7075
Mg AZ 80
高力 Mg 鍛造用合金 A280 との降
図1 Ti-6Al-4V合金と各種高力合金の降伏
伏応力、疲労強度、及びヤング
応力、疲労強度、ヤング率の比較
率の比較を示す。チタンは降伏強度
40
価格/kg
と疲労強度は他の材料より明らかに 35
価格/dm
30
優れている。しかし構造部品は剛性 25
価格/比強度
を最適に設計しなければならないの 20
15
で、ヤング率の小さいチタンは軽量 10
構造には、アルミとマグネに劣る。 50
チタン
アルミ
マグネ
鋼
チタンはボディには用いられず、
図2 チタンとアルミニウム、マグ
シャーシーやパワー系統に応用でき
ネシウム、鋼の価格の比較
る。図 2 はチタンの価格を、重量
(kg)
、容積(dm3)
、及び比強度当りで、他材料との比較を示す。何
れを取っても、将来はともかく現在は明らかに高価格である。その
使用は技術的利点が特別に大きい場合にのみ可能になる。
YS/ρ
E/ρ[GPa1/3・cm3/g]
価格指数
3
3.チタンの自動車部品への利用
図 3 はチタンの
自動車への応用が
考えられる部品名
を図示した。また
表 1 に自動車用チ
タン合金の機械的
性質と潜在的応用
分野を示し、図 4
パワー系統
コンロッド
ピストン・ピン
バルブ・バネ
バルブ・バネ座
バッケット・タペット
カム・シャフト
クランク・シャフト
装甲
クラッシュ・エレメント
排気装置
スタピライザー
サスペンシ
ョン・バネ
装飾
車輪
シーリング・ワシャー
車輪ハブ
車輪ボルト
ブレーキ・ピストン
図3 チタンの自動車への応用の可能性の例
表1 自動車用チタン合金の機械的性質と潜在的応用分野
種
類
CPチタン(1級)
CPチタン(2級)
Ti-6Al-4V
引張強度
(MPa)
〜300
降伏強度
(MPa)
〜250
伸び
(%)
30
〜450
〜380
22
排気系、
デザイン要素
〜1,050
〜950
10
コンロッド、
インテイク・バルブ、
車輪ハブ
潜在的応用分野
マフラー
シーリング・ワッシャー
排気バルブ
Ti-6Al4Sn4Zr1Nb1Mo0.2Si
1,150
4
(PM合金、5Vol.%TiBで強化、弾性率〜150GPa)
Ti-4.5Fe6.8Mo1.5Al
(β合金(LCB))
1,290
1,380
10
サスペンション・バネ、
バルブ・バネ、
ボルト
γTi-46.8Al1Cr0.2Si
525
410
〜2
バルブ、
ターボチャージャー、
ローター、
ピストン・ピン
第7号(7)
に自動車及びオートバイのチ
c)
b)
タン製品の実例を示す。これ
らの部品の大部分は研究開発
a)
が殆ど終了したものであるが、
実際に大量生産されていない。
d)
その理由は単にメタル素材が
高価であるだけではなく、決
e)
f)
定的な因子は、部品に仕上げ
図4 自動車及びオートバイへのチタンの利用例
る加工コストが高くつくこと
a)コンロッド(Ti-6Al-4V.Ducati)
;
である。しかし自動車メー b)インテーク・バルブ(Ti-6Al-4V),アウトレット・
バルブ(TiB粒子強化ニヤα合金)
カーは高価な部品であっても、 c)γ-TiAl,バルブ、非被覆、被覆; ;
(CP2級、
メルセデス・ベンツ)
;
性能等に従来材よりも大きな d)ブレーキ・ピン
e)ブレーキ圧力管のシーリング・リング(CP1級、
フォルクスワーゲン)
;
メリットがあれば、その使用
f)リム・スクリュウ(Ronal及びBBS, Ti-6Al4V)。
に躊躇しない。
4.潜在的応用と問題点
表 2 に 1998 年以降にチタンが自動車部品に使用された例を年次
順に、部品名、合金名、製造会社、モデル及び年産額を示す。これ
らからチタンの応用の傾向が判る。チタン部品による軽量化と高性
能化によって、低エミッション、低燃費等が実現できる。エンジン
では主にコンロッドで代表される往復運動部分やバルブなどの弁系
統に用いられる。チタン・コンロッドは耐摩耗性が低いので被覆が
必要である。Ducati のコンロッドには、PVD-CrN 被覆が行われて
いる。弁系統では、排気温度は 900℃にも上昇するので、交番応力
表2 チタン部品の製造年次
年
部品名
1998
ブレーキガイド・ピン
CP2級
合金名
メルセデス ベンツ
製造会社
Sクラス
モデル
年産額
1998
シーリング・ワッシャ
CP1級
フォルクスワーゲン
全部
ギヤシャフト・ノブ
CP1級?
ホンダ
B2000
ロードスター
不詳
1999
コンロッド
Ti-6Al-4V
ポルシェ
GT3
〜1t
1999
バルブ
Ti-6Al-4V
PM-Ti
トヨタ
アルテッア
6気筒
不詳
1999
ターボチャージャー・ Ti-6Al-4V
ローター
メルセデス ベンツ
ディーゼル
トラック
不詳
2000
サスペンション・バネ
LCB
フォルクスワーゲン
Lupo FSI
3〜4t
2000
バルブ・キャップ
β-Ti
2000
ターボチャージャー・ γ-TiAl
ローター
2001
排気系
CP2級
GM
Corvette Z06
2002
バルブ
Ti-6Al-4V
日産
インフィニティ Q45
〜8t
〜40t
三菱
all 1.81-4cyl
不詳
三菱
ランサー
不詳
>150t
不詳
のかかる弁座や、曲げ応力の加わるシャフトには、耐クリープ性、
長期間の安定性、延性、耐酸化性が要求される。γ-TiAl 又は耐熱
Ti 合金を鋼の代替に使用すれば、40 〜 50%の重量減が可能になる。
トヨタで開発されたチタン弁では、吸入弁は温度が低いので、Ti6Al-4V で充分であるが、排気弁には、ニヤαTIMETAL834(Ti-6Al4Sn-4Zr-1Nb-1Mo-0.2Si-0.3O)をマトリックスにし、TiB 粒子で強
化した PM 合金が用いられ、室温及び高温強度が高く、特にヤング
率が 150GPa まで増大する。1999 年以降トヨタでは Altezza6 気筒に
用いている。ドイツでは弁材として、γ-TiAl に対して大きい期待
が持れている。この合金の利点は、低密度、高温強度、耐酸化性、
耐クリープ性に優れているのみならず、熱膨張係数が、11.5×10-6
mK-1 で、連結する鋼部品とよりよくマッチングする。三菱自動車
では同社のランサーの排気側に、精密鋳造のγ-TiAl のターボチャー
ジャー・ローターを少量使用している。β -Ti 合金がシャシーのサ
スペンション・バネへの応用が考えられている。安価な母合金 FeMo
を用いて製造できるβ合金、TIMETAL LCB !(低価格β、Ti4.5Fe6.8Mo-1.5Al)が利用の高い可能性を持っている。
参考文献:下記より多くを参考にした。深謝する。
1)Oliver Schauete:Titanium in Automotive Production, Advanced Eng.
Materals, Vol.5(2003), No.6, pp.411 〜 418.
2)高橋恭、丸井勇治:二輪、四輪車へのチタン部品の適用と今後の展望、日
本チタン協会 50 周年記念誌(2002 年 11 月 18 日発行),149 〜 154 頁 .