第47回病院学会研究発表会抄録集(PDF : 0.96 MB)

1.臨床検査技師の脳波判読はてんかん
センターの生産性向上に寄与する
2.「繋ぐ」を意識した医療安全への取り組み
臨床工学室
○中島 俊一、土屋
てんかんセンター
○西村 光代、岡西
徹、藤本 礼尚、山田 紗暉、
敬、西條 幸志
高岡 伸次、北本 憲永
榎 日出夫、山本 貴道
【はじめに】
【はじめに】
医療安全では全警鐘事例の約 66%は非効率なコミュニケー
当院てんかんセンターは、近年めざましく発展し、手術件
ションが原因であると言われており、当院でもコミュニケーシ
数は 2015 年度全国 1 位であった。急速な成長の背景には
ョンエラーの削減をめざしチームステップスの導入や教育
難治てんかん患者の紹介受診がある。難治てんかんの診
が盛んに行われている。腎センターでもハンドオフをはじめ、
療は広域診療(高度医療)であり、浜松市外・静岡県外の
ブリーフィング、デブリーフィング等チームステップスの導入
医師や患者への学術・広報活動といった特殊業務が不可
を行ったが、スタッフが必要性を「認知」し、質の向上を図る、
欠であり、実際当院てんかんセンターの医師は精力的に活
また今後継承し続けるためには、医療安全とコミュニケーシ
動している。当院では北米に習い、多くの施設で医師の業
ョンを繋ぎ、スタッフ個々が「認知」する必要性がある。
務とする長時間脳波判読を臨床検査技師が行うことで、忙
今回、昨年度より医療安全とコミュニケーションを「繋ぐ」を
しい医師へ特殊業務に割り当てる時間を提供している。
考慮し取り組み始めたので、現状を課題も踏まえ報告す
【目的】
る。
当院にて臨床検査技師が脳波判読をしていることが、どの
【取り組み】
程度病院の利益に繋がっているかを費用と時間について
検討した。
【方法】
2012~2014 年の期間について、医師でなく検査技師が脳
波判読を行うことで、1)人件費をどれだけ削減できたか、2)
医師の日常診療としての労働時間をどれだけ削減したか
算出した。1)2)により検査技師のてんかんセンターへの貢
① 講義・演習を通してコミュニケーション・チームについ
て体験する。
② 医療安全の学習会を開催し安全に対しての認識を高
める。
③ 現場で起こった事柄の背景を確認し、必要な場合分
析を行う。
④ 演習や学習会の個々のアウトプットと繋ぐ。
献度を数値化する。
【結果及び課題】
【結果】
以前の振り返りでは、攻められる感じがするとの意見が多か
平均 320 件/年の長時間脳波判読を検査技師が行った。
ったが、今回は起こった事柄を伝える必要性を感じていると
脳波判読には平均 3 時間/件を要し、その労働時間は年
いうように変化し、現場で起こった事象の報告件数が増え
間 960 時間である。1)平均年収を臨床検査技師 468 万円、
た。また客観的ではあるが、日常のコミュニケーションで確
医師 1098 万円(出典:厚生労働省「平成 27 年 賃金構造
認会話を行う場面を見受けられるようになり、クローズドコミ
基本統計調査」)とし、年間労働時間を医師も検査技師も
ュニケーションを意識したものとなったように感じる。またブリ
2,200 時間とすると、削減できた人件費は約 270 万円/年
ーフィングでは危険箇所を予測し、スタッフで共有する風土
である。2)960 時間をてんかんセンターの医師 4 人に割り振
となってきており、スタッフが必要性を認知し始めたと感じて
り日常診療の時間を特殊業務の時間に転化することができ
いる。しかし、拾い上げる事象の数が増加したため、分析、
たと考えられる。
フィードバックがタイムリーに行えておらず、今後の課題とな
【考察】
っている。
国内の多くの施設では検査技師は脳波判読技術を持ち合
【まとめ】
わせていない。当院では検査技師が判読することで、人件
何事においても、個人が必要と感じない限り質の担保は出
費削減に大きく貢献し、また医師に学術・広報活動といった
来ない。「繋ぐ」を意識した教育とすることで医療安全のみ
特殊業務に割り当てる時間を提供できたと考えられる。臨
ならず医療の質の向上に繋がる事を実感した。
床検査技師が脳波を判読することは費用面だけでなく、難
治てんかん患者の診療を増やし、てんかんセンターの生産
性向上、発展に寄与していると考える。
3.聖隷浜松病院での
トラマドール使用動向について
4.患者さんにやさしい MRI 検査
放射線部
1)
2)
○遠藤 嘉泰、米山 浩司
3)
薬剤部、 看護部、 緩和医療科
1)
1)
2)
○宮城 明実 、荒川 大輔 、塚本 美加 、
山田 博英 3)、塩川 満 1)
【背景・目的】
MRI 検査は「音がうるさい」「狭い」「長時間動けない」など患
【はじめに】
者さんにとっては苦痛を伴う検査である。これらに対して新
トラマドールは WHO3 段階除痛ラダーで軽度から中等度の
MRI 装置でできる対策を紹介する。
痛みに使用される薬剤であり麻薬、向精神薬などの規制は
【方法】
ない。作用機序はμオピオイド受容体に対する弱い親和性
従来装置・撮像方法と新装置・撮像方法の比較をする。
とセロトロニン・ノルアドレナリン再取り込阻害作用を有す
【結果】
る。
従来の装置では音が大きく患者さんが苦痛を感じる検査で
同薬剤は安全性の高い医薬品であり依存性の頻度は尐な
あったのに対し、サイレントスキャンという新撮像方法を用い
いとされている。しかし、オピオイド製剤であり、依存性は否
ることで音のしない撮像をする事ができるようになった。これ
定はできない。また副作用への懸念もあり使用動向につい
により大きな音の苦手な患者さんや小児の患者さんの検査
て調査することとした。
に対して苦痛を緩和することができた。1 日に 5 人前後の閉
【方法】
所恐怖症の患者さんはい る。従来装置のトンネ ル径は
1) 2012 年 4 月1日~2016 年 3 月 31 日までに疼痛緩和
60cm と非常に狭いのに対し、新装置ではトンネル径が
に使用されたオピオイド製剤について経口モルヒネ換
70cm のワイドボアになっており、閉所恐怖症により我慢をし
算量で比較検討した。
て検査していた患者さんや、検査施行不可能であった患者
2) 2015 年 10 月 1 日~12 月 31 日にトラマール®OD 錠
さんの不安を取り除くことで検査が可能になることが増えた。
の定期服用開始した 90 名の患者の処方理由、併用
また従来装置では体格の大きな患者さんの検査が出来な
薬や有害事象の有無などについて後方視的にカルテ
い事もあったが、ワイドボアの新装置でポジショニングを工
調査を行った。
夫する事で検査可能となることも増えた。円背が強い患者
【結果】
さんの頭部や腰椎の検査の際に、従来装置の硬い検査台
1) オピオイドの合計使用量は 2014 年度まで増加傾向に
では長時間動かず寝ていることが非常につらく、また技師
あり 2015 年度は若干減尐した。使用量はトラマドール
側もポジショニングに苦労する事や転落の危険があった。
32%に次いでオキシコドン 24%と高かった。
新装置にリクライニングをしながら撮像できる補助器具が導
2) トラマール®OD 錠はがん性疼痛 69%、非がん性疼痛
入されたことで円背の強い患者さんの苦痛を緩和すること
は 31%に使用されていた。投与開始 1 週間前後に、オ
ができた。
ピオイド以外の鎮痛剤が処方されている患者は 69%、
【考察】
緩下剤は 60%、制吐剤は 21%であった。副作用により
新装置・撮像方法により、患者さんの負担が尐ない検査が
投与中止に至った患者は 6 名(嘔気嘔吐 4 名、薬疹 1
できるようになったと考えられる。しかし撮像部位の制限や
名、便秘 1 名)であった。腎機能低下患者に対し
体内金属による入室制限、検査の時間が長いことなど患者
200mg/日を超える投与はなかった。また依存性につ
さんの苦痛は完全に解消はできていない。今後も装置や撮
いての記載症例はなかった。
像方法の技術開発を促し、技師側も撮像方法を工夫するこ
【考察】
とでより患者さんにやさしい MRI 検査ができるようにしていく
トラマドールが最も使用量が高いことが示された。トラマドー
必要があると考える。
ル製剤の使用による副作用や依存性などは、問題となる症
例は尐なかった。しかし、トラマドールは、オピオイドと同様
の作用機序を持ち、安易に処方できることから、患者への
教育は重要である。今後も動向調査を継続し、安全に使用
されるように、薬剤師を含めた緩和ケアチームとして介入で
きることを検討していく。
5.後方診療支援活動とそのシステム化に
よる医療安全への貢献
6.患者を含めたチームで行なう在宅支援
のための取り組み
1)
看護部(A8 病棟)
臨床検査部、2)臨床検査科
○山本 晶 、原田 収見 、鈴木 健 、大庭 恵子 、
1)
1)
1)
森本 典子 1)、直田健太郎 1)、米川
1)
○吉田 恵理、川崎美乃里、西脇 裕美
修 2)
【目的】
【背景と目的】
私達は、厚労省が推進する地域包括ケアシステムの構築を
近年、臨床検査の領域では、検体分析装置の進歩に伴い
受け、終末期患者が可能な限り住み慣れた地域で、自分ら
精度の高い検査結果の迅速報告が可能となっている。一
しい暮らしを人生の最期まで続ける事ができるよう、タイムリ
方、利用する医師側では確認すべき情報量は増大し、全
ーな在宅調整と患者さんや御家族の安心・安全の担保を
ての検査結果を確実に確認するのは困難であると考えられ
めざした支援を大切にしている。
る。このような状況を踏まえて当院検査室では、臨床検査
2013 年から取り組んだ改善活動では、退院指導内容の統
専門医と連携し、「後方診療支援」という活動を開始した。
一と、担当看護師不在時でも調整活動が滞らない仕組み
「後方診療支援」とは、データ解析を行なって異常値から推
を再構築したのでその取り組み内容と成果を報告する。
測される病態に対する追加検査等の情報を医師へ発信し、
【方法】
診断や治療に繋げる活動である。2013 年より、システム化
による効率化を目指し、アボット社と共同で「後方診療支援
システム化」へ向けた研究開発を開始した。今回、「後方診
療支援」活動と、そのシステム化による効果について報告
① 退院指導に関する病棟職員向けの勉強会を開催し、
事後にアンケート調査を実施した。
② 既存の「院内 HPN ポンプ用在宅 CV ポート指導マニュ
アル」を修正した。
する。
③ 他病棟に指導用物品を貸出す際の管理方法を整備した。
【方法】
④ 他職種、患者さんやご家族と、在宅調整に関する患者情
同システムにてデータ解析を行い対象患者の抽出をする。
報や進捗状況の共有を可能とする仕組みを構築した。
対象患者の時系列データ・既往歴・処方・医師の対応状況
【倫理的配慮】
など確認し、コメント発信の必要性を判断して電子カルテへ
対象とする個人が特定出来ないよう配慮した。
入力を行う。
【結果】
【結果】
病棟職員向け勉強会後のアンケート結果(配付人数 14 名,
2012 年度の紙面によるデータ解析 5,767 件、コメント発信
回収率 100%)では、「今後の指導に活かせる」の回答が
154 件、コメントに対する医師の対応件数 48 件に対し、シス
100%、誤解の多い輸液バッグの分別方法を理解した者が
テム化以降の 2015 年度では、データ解析 16,384 件、コメ
93%だった。
ント発信 1,378 件、対応件数 434 件と飛躍的に増加した。
院内 HPN ポンプ用在宅 CV ポート指導マニュアルと、指導
【考察】
用物品の貸出し運用を整備したことで、他病棟からの協力
データ解析を通した診療支援活動は、見落とされがちな異
要請に速やかに対応できた。
常値の確認や追加検査の提案を行なうことで、診療の補助
外来・在宅連携課の看護師や、医師、薬剤師等の他職種と
や患者への貢献に繋がると考えられる。データ解析をシス
共に在宅支援共有カンファレンスをすることで、主たる調整
テム化することで、データ解析件数が増加し、コメント発信
役である担当看護師が不在であっても各々の役割が明確
件数が増加した。この後方診療支援活動は、医療安全にも
になり、在宅調整業務が滞りなく進むようになった。また、患
寄与すると考えている。今後、採血から診察までの間にリア
者さんや家族を招く患者参画カンファレンスの開催で、不
ルタイムでコメント発信が実施できるように努めると同時に、
安や疑問、在宅療養に関する具体的な問題点が明確とな
検査室から発信したデータ解析コメントを臨床側が有効に
り支援に生かすことができた。
活用できるように活動していきたいと考える。
【考察】
指導書や物品の教育ツールの整備や、患者さんやご家族、
他職種と率直な意見交換をする情報共有方法の強化にて、
在宅移行支援方法の質向上につながった。対象患者が多
く、在宅調整に関する経験値の高い職場として、他病棟で
も同様の支援が提供できる質保証としての仕組み作りをさ
らに進めるために貢献していきたい。
7.医療的ケアを必要とする子どもの在宅
療養への移行の支援
8.外来部門における転倒転落事故予防
のための試み
看護部(看護部管理室)
1)
○加藤 智子
看護部(外来・在宅連携課)
2)
病院安全管理委員会・転倒転落予防プロジェクト部会
○山本 典代 1) 2)、中野由美子 2)、背戸 佑介 2)、守山 貴宣 2)、
【はじめに】
森本 典子 2)、宗像 倫子 2)、高塚由紀子 2)、
新生児医療の高度救命が可能になったことにより、医療的
大木島尚弘 2)、沖原 俊宏 2)、中村 秀範 2)
ケアを必要とする子どもが増加している。NICU・GCUの
退院支援において、全国的調査では、看護師が家族に対
する援助方法に苦慮していることも明らかにされている。こ
のような背景から、経験豊富な退院支援をしている看護師
(以下退院支援看護師とする)の在宅移行への支援方法を
明らかにする必要性があると考えた。
【目的】
医療的ケアを必要とする子どもの家族に対する退院支援看
護師のアセスメントの視点と支援方法を明らかにし、今後の
看護援助と看護教育に役立てる。
【方法】
東海地方 2 県の 2 つの病院を協力施設とし、看護師経験 5
年以上で、NICU に入院した子どもの家族に退院支援を実
践した経験をもつ看護師 10 名に、2015 年 4 月~6 月の期
間にインタビューガイドを用いた半構成的面接を行った。
【結果】
看護師は、[子どもの状態][母の意欲][養育環境の準備]
[家族内の協力][医療的ケアへの対処行動][子どもの受
け入れ][子どもに対する愛着行動][ピアサポート][社会資
源の活用]をアセスメントしていることが明らかになった。
また、上記に基づいた看護援助として、[支援体制を調整]
[外部支援の情報提供][医療的ケア習得への支援][揺れ
動く気持ちの傾聴][子どもの治療の意思決定支援]などの
具体的な支援内容が抽出された。
【考察】
経験豊かな看護師を選定したことによって、家族のアセスメ
ント項目が、具体的でより実践に基づいた内容として抽出さ
れたため、家族に関わる全ての看護師が活用できる項目が
見いだされたと考えられる。さらに、チームメンバーも共有
することによって、在宅療養への看護実践をより促進できる
ようなサポートにも役立てられるものと考える。
【背景・目的】
尐子高齢化社会の影響や在宅医療の充実により、高齢者
や介護の必要な方の受診割合が高くなったことを背景に、
外来部門の転倒転落事故発生件数は、2011 年が 13 件、
2012 年が 24 件、2013 年には 50 件と年々増加していること
から、患者の転倒転落予防が外来部門の重要な課題のひ
とつとなっている。
病院安全管理委員会ではプロジェクト部会を結成し、2014
年 11 月より外来受診患者の転倒転落リスクを捉えた予防
対策を実施したことで効果が得られたので報告する。
【方法】
・調査期間:アセスメントシート導入前
(2013 年 11 月 1 日~2014 年 10 月 31 日)
アセスメントシート導入後
(2014 年 11 月 1 日~2015 年 10 月 31 日)
・対象:救急外来(ER)受診患者を除いた外来患者
① 「外来患者専用の転倒転落リスクアセスメントシート」を
用いて 4 ヶ月以内に転倒歴のある初診患者に対しア
セスメントを行った。
② リスクのある患者に使用する院内案内用ファイルを青
色に変更し、転倒予防対策を実施した。
③ 予防対策導入前、後で転倒転落発生率を比較分析し
た。
【倫理的配慮】
臨床研究審査委員会の承認のもと対象者患者が特定でき
ないよう配慮した。
【結果】
導入前 1 年間の転倒転落事故発生率は 0.072‰(33 件)、
65 歳以上は 0. 048‰(22 件)であり、導入後 1 年間の発生
率は 0.061‰(28 件)、65 歳以上は 0. 050‰(23 件)だった。
導入前 6 件(0.013‰)だった初診患者の転倒転落発生件
数は、導入後は 0 件だった。
【考察】
外来患者の転倒転落リスクを認識できる仕組みを作り、職
員が予防行動を実施したことで、転倒転落発生率が低下し
た。リスクアセスメントを実施した初診患者の転倒転落事故
発生が 0 件となった成果が反映していると考える。一方で、
事故件数の約 70%を占める 65 歳以上の発生率がわずかに
上昇しているため、今後は高齢者に的を絞った予防対策に
取り組んでいきたい。職員・利用者が転倒転落予防の共通
認識をもち予防策に取り組むことで、安心して受診できる安
全な病院を目指していきたい。
9.てんかん科手術におけるブリーフィング
実施の効果
1)
看護部(手術室)
、2)てんかん科
○石岡 哲 1)、西條 篤子 1) 、中山 久実 1) 、
10.新人看護職員の離職防止に関する
キャリア支援室の取り組み
看護部(キャリア支援室)
○大石真美子、村木ゆかり
藤本 礼尚 2)
【背景と目的】
【目的】
2009 年から、専門職としての役割と責任を自覚し、看護を
WHO 安全な手術のためのガイドライン 2009 では、手術安
通して人としても成長するように看護師のキャリア支援目的
全チェックリストの実施を推奨している。当院でもガイドライ
でキャリア支援室が設置され、現在まで続いている。キャリ
ンの実施により、安全に手術を行なうための取り組みは徹
ア支援担当の役割は、①1人ひとりの看護師の採用から退
底されている。しかし、手術中には予想外の事象や様々な
職までのキャリアコーディネート、②個人のキャリアニーズと
スタッフが関わることによるコミュニケーションエラーが生じる
組織ニーズとのコーディネートの 2 つがある。業務内容は、
場合もあり、その予防のためには円滑なコミュニケーション
①採用活動、②教育(新人・既卒者)③離職防止である。
が行える環境作りが必要と考える。2016 年 4 月からてんか
今回はこの③離職防止の中でも新人看護職員に対する取
ん科手術において、医療安全の観点からも推進されている
り組みについて報告する。
術前カンファレンス(以下ブリーフィングとする)を実施した。
【取り組み】
ブリーフィングによるスタッフ間の円滑なコミュニケーション
職場長と連携し、入職した看護職員に対し次の取り組みを
構築が、手術にどのような影響を及ぼしたかについて検討
行っている。①新入職員に重点を置いた病棟ラウンド、②
した。
個別看護技術指導、③相談対応 ④全員面接 ⑤リアリテ
【対象と方法】
ィショック・職場の支援体制調査結果の分析・共有などであ
① 手術室看護師を対象にアンケートを実施し、ブリーフ
ィング導入前の状況把握をする。
る。
【結果】
② ブリーフィングに参加した手術室看護師にアンケート
新人離職率について全国、静岡県平均と比較すると、2009
を実施し、ブリーフィング導入前とブリーフィング導入
年以降の全国平均は 8%~7.5%、静岡県平均は 8.8%、2013
後の意識変化を調査する。
年以降は 3.7%である。当院は 2009 年 5.8%であったが、
③ ブリーフィング導入前(2015 年 5 月から 2016 年 4 月 11
徐々に低下し、2013 年~2015 年は 1.4%~ 2.7%であり、ど
日)と導入後(2016 年 4 月 12 日以降)の手術時間を比
の年も当院が低い値である。相談件数は、例年 20 件程度
較する。
であったが、2015 年の延べ相談件数は 100 件である。リアリ
【結果】
ティショック・職場の支援体制調査でもキャリア支援担当へ
看護師のアンケートからは「スムーズに手術が進んだ」など
の相談割合は 2013 年、2014 年の 20%台と比較すると 2015
ブリーフィングの効果を得られた意見があった。また、ブリ
年は 50%台に上昇している。
ーフィング導入前後で術式ごとの手術時間を比較すると、
【考察】
手術時間が減尐した術式があった。
キャリア支援室に来訪する新人看護職員は、自己効力感
【考察】
が低く職場での対人関係やコミュニケーションに苦慮するこ
ブリーフィングでは、執刀医が手術の行程を説明し、患者
とも尐なくないように見受けられる。そこで、相談内容に応じ
の病態を含め問題点などを明らかにし、チェックリストをもと
て誰とどのように相談すれば良いかなどの相談を行うなど、
に必要物品の確認を行う。ブリーフィングを実施することで、
職場長、看護部管理室とも連携を取りながら活動している。
執刀医の予測が頭の中に留まっているのではなく、チーム
相談件数増加要因としては、就職説明会から新人看護職
がこれから行う業務に関して共通のイメージを確立すること
員研修等で継続的に関わる機会が多いことに加え、就職
ができた。看護師からも疑問や不明点の再確認を行う場面
後の全員面接の実施によるものと考えられる。
を確保したことで、スタッフ間のコミュニケーションが円滑と
なり手術時間の短縮に繋がった。以前はタイムアウトのみだ
ったが、チェックリストを用いた「ブリーフィング」を実施する
ことで、円滑なコミュニケーションに繋がり、患者の安全性を
高めることもできたと考える。今後はデブリーフィングも実施
していくことで、更なるチーム力の向上に努めたい。
11.一般撮影で上手にハンドオフ
1)
12.高齢心不全患者に対する
心臓リハビリテーションの取り組み
《交換演題》
看護部(通院治療看護課)
、2)放射線部
1)
1)
1)
2)
○林 久美子 、加藤 怜子 、貝久保浩子 、蛭田 淳也 、
2)
2)
宮本 尚賢 、杉浦 康行 、山名 史織
2)
聖隷三方原病院
1)
2)
リハビリテーション部、 循環器科
1)
○山本 敦也 、高塚 俊行 1)、湯浅 圭史 1)、
鈴木
塁 1) 、生駒 剛典 2)
【はじめに】
現在、放射線部の一般撮影(以下「50 番」とする)では 500
【はじめに】
~600 件/日の撮影が行なわれている。撮影時、車椅子で
循環器疾患患者においては安静臥床が治療のひとつであ
検査室に来ても医師の指示で立位での撮影を行うことがあ
り、要介護状態となる高齢者が生じやすい環境にある。近
るが、技師が全て付き添って撮影を行うことは被ばくの観点
年、高齢者の虚弱(フレイル)が注目されており、フレイルが
からも難しい。その車椅子で来た患者の情報を充分得られ
進行することで介助量の増加や自宅退院率の低下が懸念
ないまま撮影をしているという状況の中、年に 1~2 件程度
されている。高齢心不全患者に対するフレイル予防のため
の転倒事故が発生しているのが現状である。この状況を改
の心臓リハビリテーションの取り組みについてご紹介させて
善することはできないか、50 番に関わる技師・受付・看護師
いただく。
と検討を開始した。
【フレイル予防のための取り組み】
【目的】
2015 年 2 月から高齢心不全患者に対し、フレイル予防とし
50 番に車椅子で来た患者情報は受付でどのように申し送りさ
て①全例リハビリ介入、②早期からのリハビリ介入、③作業
れるのか、現状を把握し問題点を明らかにし、50 番受付で有
療法士の介入を実施している。
効な申し送り=ハンドオフについて検討することを目的とする。
【研究方法】
【対象と方法】
2014 年 2~5 月と取り組み実施後の 2015 年 2~5 月に循
環器科に心不全の診断で入院した後期高齢者(75 歳以上)
① 車椅子で出棟する病棟スタッフにアンケートを実施する
を対 象とし た 。リ ハビリ 介 入 率、リ ハビリ 介 入日 、 clinical
・アンケート内容
frailty scale にてフレイルが進行した患者の割合、自宅退院
「50 番への患者の搬送にあたってどのような情報が必要か」
率を比較した。
「実際にはどのような情報を申し送るか」
・アンケート実施時期
2015 年 12 月 1 日~12 月 18 日
【結果・考察】
取り組み実施後、リハビリ介入例が 57%から 90%に向上し、
リハビリ介入開始が入院後 4.7 日目から 3.5 日目と早期にな
② アンケート結果を集計
った。フレイルが進行した患者は 43%から 33%に減尐し、
③ 現在の問題点を連関図・系統図を用い整理し、考察する。
自宅退院率は 75%から 82%に向上した。理学療法士が早
【結果】
期から介入し、体力の維持・向上を図るとともに作業療法士
アンケートは看護師・ヘルパー71 人から回答を得た。車椅
が退院に向けて ADL 訓練や認知機能低下を予防すること
子で降りてくる患者の申し送りについて病棟スタッフは「申
で、フレイル予防の一助になったと考えられる。
し送る必要がある」とは考えているが、病棟で感じる危険行
動や当日朝からの安静度の変化、認知機能の低下に関す
る情報はほとんどが、「要見守り」の一言で申し送りされてい
た。「混雑している 50 番の受付では忙しそうにしているから
声をかけにくい」という声もあった。
【考察】
病棟スタッフは搬送する患者情報を持っている。そして、そ
の情報があれば技師も撮影時に患者を危険な場面に遭遇
させることなく撮影できると考えられる。今後は安全な撮影
に必要な情報を病棟より発信してもらう必要性を伝えていく
ことが重要である。同時に、業務量が多く時間調整が難し
い 50 番受付で情報を受取りやすくする具体的検討や看護
の協力体制の検討、および受付から技師への情報の引き
継ぎ方について検討していく必要がある。
13.当院における手術室 2 室移動式 CT の
実際と有用性についての検討
14.当院における経カテーテル的大動脈弁
置換術(TAVI)の臨床成績とその推移
―TAVI チームのチーム力は向上したか?―
脳神経外科
○内田 大貴、黒田直生人、中戸川裕一、山添 知宏、
藤本 礼尚、稲永 親憲、山本 貴道、田中篤太郎
1)
心臓血管外科、2)循環器科、3)麻酔科、4)臨床工学室、TAVI チーム
○小出 昌秋 1) 、岡田 尚之 2) 、國井 佳文 1) 、岡 俊明 2) 、
磯村 大地 2) 、鈴木 清由 3) 、奥井 悠介 3), 神谷 典男 4)
【背景】
2015 年 9 月より当院手術室を新築するにあたって手術室 2
【背景】
室移動式 CT を導入した。手術室 CT は術中画像補助とし
当センターでは高齢者の重症大動脈弁狭窄症に対する経
て、また術後合併症の確認として有用であることが報告され
カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)を 2014 年 4 月から導
ているが、広く一般的なのは 1 室内での CT である。2 室移
入し、昨年後半からは指導医から独立して独自で治療を行
動式 CT は当院が全国初となる導入だが、実際にこれまで
っている。 TAVI はチームの総合力が要求される高度な治
使用してきた中で非常に有用なデバイスだと実感してい
療であり、 導入後成績安定を目指してきた。
る。
【目的】
【目的】
当院における TAVI の臨床成績とその推移を分析し、
当院における 2 室移動式 CT の導入後の使用状況、その有
TAVI チームのチーム力向上について検討した。
用性について検討する。
【対象と方法】
【方法】
2014 年 4 月~2016 年 6 月に TAVI を行った 31 例を対象と
2015 年 9 月 24 日より 2016 年 6 月 30 日まで当院にて頭部
し治療成績を検討した。 経時的な治療成績の推移を検討
手術を施行した連続 248 例を対象とした。安全性確保のた
するために、 指導医立ち会いで行っていた前期 16 例と独
め頭部手術後は全例で術直後 CT を撮影、必要な症例で
立してからの後期 15 例を比較検討した。 TAVI チームメン
は術中 CT を施行した。撮影症例の年齢、撮影状況などに
バーに対してアンケート調査も行った。
関して後ろ向きに検討をおこなった。
【結果】
【結果】
平均年齢は 84.1±4.4 歳、 平均 STS スコア(予測手術死亡
0 歳から 97 歳まで 248 例において術後 CT 撮影を施行し
率)は 6.7±2.9%であった。 31 例中 30 例で人工弁留置に
ていた。術中 CT は 17 件で施行していた。術後 CT におい
成功、 1 例で開胸弁置換に移行した(手技成功率 96.8%)。
て異常所見を 4 件に認めたが、いずれも速やかな対応が可
手術死亡はなく全例独歩退院した。 遠隔死亡は癌による
能であり、経過良好だった。CT 常駐側の手術室にて 217
1 例のみ。 術前後の平均大動脈弁圧較差は 56.5±13.5
件撮影を行った。17 件は非常駐側の手術室に CT を移動
から 10.6±2.9mmHg と有意に低下 (p<0.01)、 術前後の
させて撮影、11 件はその他の手術室にて手術を施行、手
BNP 値は 355±453 から 158±177pg/ml と有意に改善した
術終了後に部屋を移動して撮影を行っていた。
(p<0.05)。 前期と後期の比較では、 Major な合併症は前
【考察】
期 4/16 例に対し後期 1/15 例と前期に集中しており、 術中
手術室固定式 CT 装置だった場合、11%の症例で術後 CT
に人工心肺による補助を必要とした例は、 前期 3/16 例中
を撮影できなかったと考えられた。2 室移動式にすることで
であったのに対し、 後期は 1/14 例であった。 手術時間は
取りこぼしが尐なく、緊急手術も含めたほぼ全件で術後合
後期に短い傾向となり出血量も尐ない傾向にあった。
併症の確認が可能だったことから、当院で 2 室移動式を採
【考察】
用したメリットは大きいと考えられた。導入後よりルーチンの
導入から約 2 年間全体の成績としては、 手術死亡なく全
術後撮影を徹底することで医師はもとより看護師、放射線
例独歩退院しており満足のゆくものであったが、 指導医の
技師、臨床工学技士にも同 CT システムが浸透しており、科
もとで手技を行っていた前期に比較的合併症が多かった。
や職種を越えた運用がストレスなく安全に実施できていた。
指導医から独立してからの方がむしろ合併症は尐なく、 手
実際に活用する中で手術室 CT の有用性を強く実感してお
技時間が短く出血も尐なくなっており、 TAVI チームの総
り、術中、術後 CT は当院における手術の安全性および精
合力向上による効果と考えられた。 今後更なる成績向上
度向上の両面に貢献していると考えられた。
を目指してゆく必要がある。 口演では TAVI チームメンバ
ーのアンケート調査の結果も報告する。
15.当院における眼窩骨折診療について
16.マーケティング理論からみた無痛分娩
プロジェクトの成功と今後の展望
眼形成眼窩外科
○齋藤 智一、嘉鳥 信忠、土居 亮博、
松浦 祐介、上田 幸典
1)
麻酔科、2)産婦人科
○入駒 慎吾 1)、鳥羽 好恵 1)、小久保荘太郎 1)、
花岡美枝子 2)、稲岡 直子 2)、野口 翔平 2)、
【はじめに】
長谷川瑛洋 2)、今野 寛子 2)、伊藤 崇博 2)、
眼窩は眼球、神経、筋、血管およびそれらを保護する脂肪
松下
充 2)、村越
毅 2)
に内包された空間である。その周囲は眼窩骨に囲まれてお
り、特に薄い下壁や内壁は前方からの外力により比較的容
易に骨折する。骨折により、外眼筋や脂肪などの眼窩内組
織が、副鼻腔内へ脱出し、複視などさまざまな症状を引き
起こす。眼窩骨折は眼科救急においてしばしばみられるが、
初期診療を適切に行えたかどうかで眼球運動障害などの
後遺症の程度が決まる。今回、本疾患の病態から、当科に
おける検査、診断、治療に至るまでの流れを報告する。
【目的】
本疾患の病態や診断、治療までの流れを報告すること。
【方法】
過去に当科で手術加療を行った症例を提示し、臨床所見、
画像および検査所見を参考に、病型に分けて適切な治療
時期を考察する。
【結果】
眼窩骨折は骨の厚みが非常に薄い下壁、内壁に好発し、
また骨折の形状により開放型と閉鎖型に分類された。開放
型骨折では、経過とともに脱出した眼窩内組織が副鼻腔粘
膜と癒着、瘢痕化を来すため、およそ 1 週間以内の早期手
術を要した。一方、閉鎖型では外眼筋の絞扼を伴うことが
あり、この場合は、眼球運動時痛、悪心・嘔吐などの強い初
期症状がみられ、放置すると外眼筋壊死に至り不可逆的な
眼球運動障害を来すため、緊急手術を要した。
【考察】
眼球運動障害を残さず治癒させるには適切な時期に適切
な手術を行うことが重要であると考える。手術では、単に骨
折を戻すことを目的とせず、破綻し逸脱した眼窩内組織を
愛護的に眼窩内へ整復すると共に、その整復位を保持す
るために眼窩壁を適切に再建することが必要と考える。
【背景】
2012 年 7 月に始まった無痛分娩プロジェクト(以後、無痛
PJ)は、1 年後の 2013 年 7 月に 24 時間体制無痛分娩の本
格導入に至り、現在年間 350 件を超えている。
【目的】
無痛 PJ の成功要因と今後の展望について、マーケティング
理論から検討する。
【方法】
2012 年 7 月の無痛 PJ 始動から 2016 年 6 月までの 4 年間
に、当院の無痛分娩に関する事業展開について、会議資
料、症例数の推移などを調査し、マーケティング理論を用
いて無痛 PJ の成功要因を分析する。さらに事業の持続可
能性についても検討する。
【結果】
月平均の無痛分娩件数は、2013 年が 8.8 件、2014 年が
15.3 件、2015 年が 23 件、2016 年は 29.2 件であった。全体
では年に約 100 件ずつの直線的な増加を示した。
環境分析:①総合周産期センターのある総合病院であるこ
とや産科麻酔科医がいることなどの強み(Company)、②協
働して市場価値を作り上げている職員の不文律に注意した
1 年間に及ぶ準備期間(Customer)、③競合(Competitor)
が 1 病院だけであり計画分娩で行っていること、④市場へ
の新規参入が当院だけである、が挙げられた。
セグメンテーション:24 時間体制の無痛分娩の提供に絞り、
競合との差別化を図っていた。
ターゲッティング:院内での周知に加え、院外向けの勉強
会を開催し情報提供が行われていた。
ブランディング:病院理念に基づき、妊婦さんの要望に沿っ
た無痛分娩とされていた。
ポジショニング:産科医と助産師が管理する質の高い無痛
分娩とされていた。
マーケティングミックス(4P):突発痛の尐ない無痛分娩の追
究(Product)と 24 時間対応(Place)が行われていただけで
あった。
【考察】
無痛 PJ は図らずしもマーケティング理論に則った事業展開
を行い、競争優位性の高い状況で成功を収めていた。しか
し、医療界では成功した戦略の見直しが行われることは稀
である。今回、マーケティング理論により、戦略の抜けてい
る点や改善点が認められ、これらの見直しにより更なる成長
が見込めることがわかった。