複素環高分子半導体材料の開発に基づく 高効率有機薄膜太陽電池の構築

The Murata Science Foundation
複素環高分子半導体材料の開発に基づく
高効率有機薄膜太陽電池の構築
Development of Transition-Metal-Catalyzed Polycondensation for
the Synthesis of Conjugated Hetero-Aromatic Polymers toward Efficient Organic Photovoltaics
H26助自26
代表研究者 倉 橋 拓 也 京都大学 大学院工学研究科 材料化学専攻 准教授
Takuya Kurahashi
Associate Professor, Graduate School of Engineering, Kyoto University
Since conjugated hetero-aromatic polymers are potentially important materials for such as
organic photovoltaics, semi-conducting, conducting, and light emitting materials, synthesis
of polymers with an sp2-sp2 bond formation along the polymer chains has been an interesting
research subject. Although there are a large number of methods for synthesis of such polymers,
the development of new methodologies, which allow for unprecedented types of conjugated
polymers, remains an important research topic. In that context, we developed a new nickelcatalyzed decarboxylative cycloaddition of alkynes with isatoic anhydrides to give quinolone.
Our success in synthesis of a quinolone from the readily available isatoic anhydride and alkynes
with decarboxylative cycloadditions prompted us to investigate new polymerization reaction,
which allows us to prepare an unprecedented type of polyheterocycle, polyquinolone, from
6-alkynyl isatoic anhydride. The process enables the straightforward synthesis of novel
conjugated hetero-aromatic polymers without formation of residual byproduct such as metal
halides, which are usually produced when the polymer was synthesized with transition-metalcatalyzed poly-condensation using dihalo-organic compounds and may contaminate resulting
polymer.
型高分子(p型)のほうがデザインしやすいとい
研究目的
う点が分子設計の観点から挙げられる。さら
軽量、フレキシブル、低コストという特長を
に、現在見つかっているn型半導高分子は、低
有する有機薄膜太陽電池は次世代の太陽電池
い溶解性、合成の難しさ、空気中での不安定
として研究が盛んに行われている。しかしなが
性という致命的な欠点を有する。例えば、ポ
ら、これまでに有機薄膜太陽電池として開発
リピロールやポリチオフェンなどのp型半導体
されている複素環高分子半導体材料の多くは、
高分子が酸化重合によって比較的容易に合成
ポリピロールやポリチオフェンに代表されるp
できるのに対して、ピリジンのような孤立電子
型半導体特性を示す高分子を利用したものが
対を有する電子親和力の大きな複素環化合物
ほとんどであり、良好なn型半導体特性を示す
をモノマーとする酸化重合では、ポリピリジン
高分子の開発例は未だに少ない。その理由と
などのn型半導体高分子の直接的な合成が困難
して、電子不足型高分子(n型)よりも電子過剰
とされている。しかしながら、次世代有機半導
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Annual Report No.30 2016
体材料の研究・開発を考えた場合、当然なが
このような観点から、本研究では、まず初め
ら有機p型半導体材料の開発だけでは不十分で
に複素環自体を構築する新しい反応の開発を
あり、優れた有機n型半導体材料の開発が必要
実施した。複素環化合物は、有機機能性材料の
である。そこで、本申請研究では有機n型半導
みならず、医薬品などの多岐にわたる有用物質
体材料の開発の基盤となる、複素環新規合成
に含まれる主要骨格である。その理由が複素環
法の開発を行い、その知見を基にして複素環
構造の多様性に由来するとも言える。したがっ
高分子合成法を新たに開発した。
て、複素環合成法の継続した開発は、有機薄
膜太陽電池の高エネルギー変換効率の実現の
概 要
みならず、現代社会を物質面から支えるために
現在、普及が進んでいる太陽光発電用パネ
も必要不可欠である。実際に、環構造を一挙
ルには、単結晶または多結晶シリコンを用いた
に構築でき、さらに位置および立体の各選択
太陽電池が多く使用されている。再生可能エ
性に関して高いレベルでの制御が可能な遷移
ネルギーの利用促進に向けて、太陽電池のさ
金属触媒を用いた複素環合成法の開発は、長
らなる低コスト化と多用途化のための革新が求
年にわたって多くの化学者の関心を集める重
められている。このような革新を実現する次世
要な研究領域となってきた。ところが、構造・
代技術として期待されている一つに、有機系
置換様式など複素環が有する潜在的多様性に
太陽電池が挙げられる。特に、有機薄膜太陽
比べれば、従前の合成法を用いて合成が可能
電池は多用途展開や環境性能の点からも、他
な複素環化合物は未だ限られていると言える。
の太陽電池よりも優れており、エネルギー変換
すなわち、高エネルギー変換効率を可能にする
効率の向上がますます望まれている。一般的に
有機半導体材料の研究開発においても、根本
有機薄膜太陽電池の基本は有機半導体のpn接
的な課題となっている。この様な状況を鑑み、
合体であることから、適切な有機半導体材料
既存の反応形式の範疇にない環化付加反応の
を組み合わせてデバイス化する必要がある。そ
開発を試みた。合成入手容易な複素環化合物
の有機半導体材料の選択や設計・合成の指針
の一部分から分子を脱離させて、かわりに違
としては、主に分子の溶解性や配向性、分子
う分子で置き換える、分子置換型環化付加反
軌道のエネルギー準位を基にして判断される
応を開発し、従来法では不可能であった置換
が、シリコン系太陽電池とは大きく異なり、実
様式あるいは構造を有する複素環化合物群の
際のエネルギー変換効率は設計値・予想値と
合成法の開発に取り組んだ。その際、低原子
定量的に合致しないことが多い。したがって、
価ニッケルがカルボニル化合物に対して高い反
研究開発において、実際に多様な有機半導体
応性を有することに着目し、それらを前駆体と
材料を合成して、組み合わせてデバイスを作成
する様々なニッケラサイクルを創製して触媒反
したのちにエネルギー変換効率を求めて、その
応に利用することにより、これを実現した。す
向上を模索する必要がある。すわなち、根本
なわち、環状カルボニル化合物の低原子価ニッ
的には多様な有機半導体材料の合成法の開発
ケルへの酸化的付加および脱カルボニルを利用
自体が、高エネルギー変換効率を可能にする
することによりニッケラサイクルが生成する。
有機半導体材料の実現に必要不可欠であると
これを触媒反応に組み込むことで、炭素⊖炭素
言える。
不飽和化合物との環化付加反応により、複素
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環化合物が得られることを見出した。脱カルボ
ニルを利用した環化付加反応は反応条件を選
択することで、脱離するカルボニル基の数と炭
素⊖炭素不飽和結合が挿入する位置を制御でき
る事を明らかにした。環状カルボニル化合物の
低原子価ニッケルへの酸化的付加と、β-ヘテロ
原子脱離と組み合わせることにより、ニッケラ
サイクルを調製する新しい手法を見出し、炭
素⊖炭素不飽和化合物との環化付加反応の開発
に成功した。脱炭酸により高い位置および官
能基選択性を有する環化付加反応が進行する
ことがわかった。本手法を用いることで、窒素、
酸素および硫黄を含有する複素環合成に応用
が可能であることがわかった。このような、新
たに開発した環化付加反応を応用することによ
り、合成または入手容易な複素環化合物をモ
ノマーとして用いて、様々な置換基を有する
複素環を骨格に有する複素環高分子の設計・
合成を行った。
-以下割愛-
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