複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 日本消化器病学会 大腸ポリープ診療ガイドライン 2014 Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Colonic Polyp 2014 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 日本消化器病学会大腸ポリープ診療ガイドライン作成・評価委 員会は,大腸ポリープ診療ガイドラインの内容については責任を負 うが,実際の臨床行為の結果については各担当医が負うべきであ る. 大腸ポリープ診療ガイドラインの内容は,一般論として臨床現場 の意思決定を支援するものであり,医療訴訟等の資料となるもので はない. 日本消化器病学会 2014 年 4 月 1 日 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 日本消化器病学会ガイドラインの刊行にあたって 日本消化器病学会は,すでに胃食道逆流症(GERD) ,消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆 石症,慢性膵炎の 6 疾患ガイドラインを刊行し,市民向けの姉妹版であるそれぞれの疾患ガイ ドブックと併せ会員に配布している.これらのガイドラインは一般書籍としても販売され学会 員以外の方々にも広く利用されているほか,その内容も他の書籍に数多く引用されている.こ のように,日常的によく遭遇するいわゆる Common Disease に関するきちんとしたガイドライ ンの必要性と重要性に鑑み,日本消化器病学会は,ガイドラインとしてさらに整備する必要度 が 高 い 疾 患 に つ い て 評 議 員 ア ン ケ ー ト を 行 い ,機 能 性 消 化 管 疾 患 ,大 腸 ポ リ ー プ , NAFLD/NASH ガイドラインを策定することが決定された.ガイドライン作成過程で機能性消 化管疾患は,機能性ディスペプシア(FD)と過敏性腸症候群(IBS)との 2 つのガイドラインとし て別々に作成されることになり,第二次ガイドラインについては合計 4 疾患がこの度発刊され ることになった. 第一次ガイドライン 6 疾患では,関連学会から作成あるいは評価委員を推薦していただき, それらの方々にガイドラインの作成メンバーとして加わっていたのであるが,第二次ガイドラ インではそれぞれの疾患に関連の深い各学会との協力体制を強化し日本消化器病学会が核となっ て共同体制のもと策定されたものである.すなわち,機能性消化管疾患は,日本消化管学会, 日本神経消化器病学会,大腸ポリープは,日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消 化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会,大腸癌研究会,NAFLD/NASH は日本肝臓学会を協力 学会としており,これらの諸学会のご協力に深く感謝したい.様々なガイドラインが数多くつ くられているなかで,複数の専門学会が共通認識に基づいて日常臨床に役立つよう協力して, これらの Common Disease のガイドラインを策定した意義は大きいと思われる.今後も,関連 する学会のいわば相互乗り入れ方式が積極的に導入され,ガイドライン相互の齟齬などをきた すことのない継続的な努力が望まれる. 第二次ガイドラインの策定にあたっても,第一次ガイドラインと同様,学会総会,大会など において中間報告や最終案の報告を行い,会員からの意見交換を行ってきたが,学会ホームペー ジでもパブリックコメントを求め,作成過程の透明性や公開性を担保した.しかし,学会ホー ムページ上でのパブリックコメントに関しては,私自身もコメントを寄せた経験から,システ ムの利便性やコメント期間が必ずしも十分ではなく,幅広い意見の汲み取りができていたとは いえないように感じられた.ガイドライン刊行後にも,幅広い疑問点や意見,あるいは新たな 知見を反映できるようにするには,さらにシステム改良を行っていく必要があると考えている. 今回の第二次日本消化器病学会ガイドラインのエビデンスレベル,推奨の強さに関しては, 第一次の 6 疾患ガイドラインで用いた Minds(Medical information network distribution service)システムとは異なる,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)Working Group が提唱するシステムの考え方を取り入れることとした. これは GRADE システムが,単にエビデンスに基づいて推奨の強さを決めるのではなく,それ が患者にとって便益があるのかどうか,費用はどうなのか,あるいは比較対照試験であっても その方法によってエビデンスレベルを変更する必要があることなど,臨床介入や推奨が患者の — iv — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 アウトカムにとって有用かどうかを重視する立場に立っているため,患者の立場により即した ガイドラインをつくるうえで有用であると考えられることによる.したがって,Evidence-Based Medicine(EBM)ではこのシステムに基づくガイドラインが国際的には主流となっている.一方, GRADE システムに基づくガイドラインは国内では先駆的な試みであり,その適用にあたって は,GRADE システムをきちんと理解し,文献的エビデンスについてもより肌理細かな配慮が 必要となるため,今回の第二次ガイドラインの発刊が予定より遅れる原因ともなった.しかし, 日本消化器病学会はこれらのガイドラインを日本消化器病学会の英文誌である J. Gastroenterology に掲載する予定であり,その場合にも国際的に認知されている GRADE システムを用いる ほうが世界的視野に基づくガイドラインとしての位置づけをより強化できると思われる.現在 前掲の 6 疾患ガイドラインもいわゆる Sunset Rule(日没ルール:作成から長期経過したガイドラ インは妥当性が担保できないため,退場させる取り決め)に基づいて改訂作業が行われている が,その際にもこの GRADE システムに準じた方式を採用する予定である. このように新しく刊行される日本消化器病学会ガイドラインは,国内諸学会との密接な連携 のもとに策定され,わが国の消化器臨床の規範となるべき方法論と内容を有しており,英文論 文として国際的にも発信できる優れたガイドラインではないかと思われる. ガイドラインづくりには,多大な時間と労力を必要とすることはいうまでもないが,その過 程で得られるものも少なくない.なにより,これらのガイドラインにより消化器病学の臨床水 準が向上し,患者のための適正な医療が提供できる一助となれば幸いである. これまでガイドライン委員会で多大なご尽力をいただいた木下芳一理事,渡辺 守理事,なら びに各疾患ガイドライン作成ならびに評価委員会のメンバーの諸先生,ならびに刊行にあたっ て惜しみなくご協力をいただいた南江堂出版部の方々に厚く御礼申し上げる. 2014 年 4 月 日本消化器病学会理事長 菅野健太郎 —v— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 統括委員会一覧 委員長 木下 芳一 島根大学第二内科 副委員長 渡辺 東京医科歯科大学消化器内科 委員 荒川 哲男 大阪市立大学消化器内科学 上野 文昭 大船中央病院内科 西原 利治 高知大学消化器内科 坂本 長逸 日本医科大学消化器内科学 下瀬川 徹 東北大学消化器病態学 白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科 杉原 健一 東京医科歯科大学腫瘍外科 田妻 広島大学総合診療科 オブザーバー 守 進 田中 信治 広島大学内視鏡診療科 坪内 博仁 鹿児島市立病院 中山 健夫 京都大学健康情報学 二村 雄次 愛知県がんセンター 野口 善令 名古屋第二赤十字病院総合内科 福井 博 奈良県立医科大学第三内科 福土 審 東北大学行動医学分野・東北大学病院心療内科 本郷 道夫 公立黒川病院 松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器科 三輪 洋人 兵庫医科大学内科学消化管科 森實 敏夫 日本医療機能評価機構 山口直比古 東京理科大学野田図書館 吉田 雅博 化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科 芳野 純治 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院消化器内科 渡辺 純夫 順天堂大学消化器内科 菅野健太郎 自治医科大学消化器内科 — vi — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 大腸ポリープ診療ガイドライン委員会 協力学会:日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消化器内視鏡学会, 日本大腸肛門病学会,大腸癌研究会 ■ 責任者 渡辺 守 東京医科歯科大学消化器内科 ■ 作成委員会 委員長 田中 信治 広島大学内視鏡診療科 副委員長 斉藤 裕輔 市立旭川病院消化器病センター 委員 五十嵐正広 がん研有明病院内視鏡診療部 岩男 泰 慶應義塾大学病院予防医療センター 菅井 有 岩手医科大学病理診断学講座 委員長補佐 鈴木 康元 松島病院大腸肛門病センター松島クリニック 西田 パナソニック健康保険組合産業保健センター 博 松本 主之 岩手医科大学内科学講座消化器内科消化管分野 松田 尚久 国立がん研究センター中央病院消化管内視鏡科 渡邉 聡明 東京大学腫瘍外科 岡 広島大学内視鏡診療科 志郎 ■ 評価委員会 委員長 杉原 健一 東京医科歯科大学腫瘍外科 副委員長 鶴田 修 久留米大学消化器病センター 委員 斎藤 博 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター 作成協力者 平田 一郎 藤田保健衛生大学消化管内科 樋渡 信夫 いわき市立総合磐城共立病院 田中 敏明 東京大学腫瘍外科学 — vii — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 大腸ポリープ診療ガイドライン作成の手順 食生活の欧米化と社会の高齢化に伴い,大腸腫瘍の罹患率・大腸癌の死亡率は増加傾向にあり, 21 世紀は大腸の時代ともいわれている.このような背景のなか,日本消化器病学会において「大 腸ポリープ診療ガイドライン」を作成した.このガイドラインのタイトルは「大腸ポリープ」 と記載されてはいるが,いわゆる大腸ポリープのみならず,表面型を含めた腫瘍性病変・早期 癌・ポリポーシスなどの「大腸局在性病変」すべてを対象とした. 本ガイドライン作成にあたってまず作成委員会と評価委員会を立ち上げたが,その構成員に 関しては,日本消化管学会,日本消化器がん検診学会,日本消化器内視鏡学会,日本大腸肛門 病学会,大腸癌研究会を協力学会として各学会から委員を推薦頂き,その先生方を作成委員会 と評価委員会に振り分けた.実際のガイドライン作成にあたっては,まず face to face の作成委 員会を開催し,また,メール審議も併用して,クリニカルクエスチョン(CQ)案を作成した.そ して,その CQ 案について評価委員会の評価を仰ぎ CQ が確定した.その CQ ごとに文献検索 式を作成し,1983 年~2011 年 9 月を検索期間として PubMed と医学中央雑誌などで文献検索 を行い,不足する文献についてはハンドサーチを併用した.そして,構造化抄録を作成し,ス テートメントと解説を完成した.推奨の強さとエビデンスレベルは作成委員会での Delphi 法に よる審議で決定した.完成したガイドライン案は評価委員会の評価を受けたうえで修正を加え たのち学会会員に公開し,パブリックコメントを求め,その結果に関する議論を経て本ガイド ラインが完成した.本ガイドラインの内容は,①疫学,②スクリーニング,③病態・定義・分 類,④診断,⑤治療・取り扱い,⑥治療の実際,⑦偶発症と治療後のサーベイランス,⑧その 他(粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ,ポリポーシス・遺伝性腫瘍,潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌)で 構成されており,定義・分類や分子生物学的内容にまで踏み込んだかゆいところにまで手が届 く網羅的で素晴らしい内容になっている. なお,本ガイドラインの利用者は大腸病変に対して診療を行う一般臨床医であるが,ガイド ラインはあくまで標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況などに より慎重に対応する必要があることに留意していただきたい. 最後に,今回のガイドライン作成は「GRADE システム」の考え方を取り入れて行ったもの であるが,文献の絞り込みの過程からステートメントと解説の作成まで多大な時間と労力を必 要としたものであり,作成委員会各委員および委員長補佐の岡 志郎先生と評価委員会各委員 にこの場を借りて心から感謝申し上げたい.また,協力頂いた日本消化器病学会事務局と南江 堂の関係諸氏にも深謝いたします. 2014 年 4 月 日本消化器病学会大腸ポリープ診療ガイドライン作成委員長 田中信治 — ix — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 本ガイドライン作成方法 1.エビデンス収集 それぞれのクリニカルクエスチョン(CQ)からキーワードを抽出し,学術論文を収集した. データベースは,英文論文は MEDLINE,Cochrane Library を用いて,日本語論文は医学中央雑 誌を用いた.各キーワードおよび検索式,検索期間は日本消化器病学会ホームページに掲載す る予定である. 収集した論文のうち,ヒトまたは human に対して行われた臨床研究を採用し,動物実験や遺 伝子研究に関する論文は除外した.患者データに基づかない専門家個人の意見は参考にしたが, エビデンスとしては用いなかった. 2.エビデンス総体の評価方法 1)各論文の評価:構造化抄録の作成 各論文に対して,研究デザイン 1) (表 1)を含め,論文情報を要約した構造化抄録を作成した. さらに RCT や観察研究に対して,Verhagen らの内的妥当性チェックリストを参考にしてバイ アスのリスクを判定した(表 2) .総体としてのエビデンス評価は,GRADE(The Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム 2~21)の考え方を参考にして 評価し,CQ 各項目に対する総体としてのエビデンスの質を決定し表記した(表 3) . 2)アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価 (1)初期評価:各研究デザイン群の評価 メタ群,ランダム群=「初期評価 A」 非ランダム群,コホート群,ケースコントロール群,横断群=「初期評価 C」 ケースシリーズ群=「初期評価 D」 (2)エビデンスレベルを下げる要因の有無の評価 研究の質にバイアスリスクがある 結果に非一貫性がある 表1 研究デザイン 各文献へは下記 9 種類の「研究デザイン」を付記した. (システマティックレビュー /RCT のメタアナリシス) (1)メタ (2)ランダム (ランダム化比較試験) (3)非ランダム (非ランダム化比較試験) (4)コホート (分析疫学的研究(コホート研究)) (5)ケースコントロール (分析疫学的研究(症例対照研究)) (6)横断 (分析疫学的研究(横断研究)) (7)ケースシリーズ (記述研究(症例報告やケース・シリーズ)) (8)ガイドライン (診療ガイドライン) (9) (記載なし) (患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見は, 参考にしたが,エビデンスとしては用いないこととした) —x— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 本ガイドライン作成方法 表2 バイアスリスク評価項目 (1)ランダム系列生成 選択バイアス 実行バイアス 検出バイアス 詳細に記載されている か (2)コンシールメント 組み入れる患者の隠蔽化がなされているか (3)盲検化 (4)盲検化 (5)ITT 解析 ITT 解析の原則を掲げて,追跡からの脱落者に対してその原則を遵守 しているか (6)アウトカム報告バイアス 症例減少バイアス (解析における採用および除外データを含めて) (7)その他のバイアス 告・研究計画書に記載されているにもかかわらず,報 告されていないアウトカムがないか 表3 エビデンスの質 A:質の高いエビデンス(High) 真の効果がその効果推定値に近似していると確信できる. B:中程度の質のエビデンス(Moderate) 効果の推定値が中程度信頼できる. 真の効果は,効果の効果推定値におおよそ近いが,それが実質的に異なる可能性もある. C:質の低いエビデンス(Low) 効果推定値に対する信頼は限定的である. 真の効果は,効果の推定値と,実質的に異なるかもしれない. D:非常に質の低いエビデンス(Very Low) 効果推定値がほとんど信頼できない. 真の効果は,効果の推定値と実質的におおよそ異なりそうである. エビデンスの非直接性がある データが不精確である 出版バイアスの可能性が高い (3)エビデンスレベルを上げる要因の有無の評価 大きな効果があり,交絡因子がない 用量–反応勾配がある 可能性のある交絡因子が,真の効果をより弱めている (4)総合評価:最終的なエビデンスの質「A,B,C,D」を評価判定した. 3)エビデンスの質の定義方法 エビデンスレベルは海外と日本で別の記載とせずに 1 つとした.またエビデンスは複数文献 を統合・作成した統合レベル(body of evidence)とし,表 3 の A~D で表記した. また,1 つ 1 つのエビデンスに「保険適用あり」の記載はせず,保険適用不可の場合に,解 説の中で明記した. — xi — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.推奨の強さの決定 以上の作業によって得られた結果をもとに,治療の推奨文章の案を作成提示した.次に,推 奨の強さを決めるためにコンセンサス会議を開催した. 推奨の強さは,①エビデンスの確かさ,②患者の嗜好,③益と害,④コスト評価,の 4 項目 を評価項目とした.コンセンサス形成方法は,Delphi 変法,nominal group technique(NGT)法 に準じて投票を用い,70%以上の賛成をもって決定とした.1 回目で,結論が集約できないとき は,各結果を公表し,日本の医療状況を加味して協議の上,投票を繰り返した.作成委員会は, この集計結果を総合して評価し,表 4 に示す推奨の強さを決定し,本文中の囲み内に明瞭に表 記した. 推奨の強さは「1:強い推奨」 , 「2:弱い推奨」の 2 通りであるが, 「強く推奨する」や「弱く 推奨する」という文言は馴染まないため,下記のとおり表記した.また,投票結果を「合意率」 として推奨の強さの下段に括弧書きで記載した. 表4 推奨の強さ 推奨度 1(強い推奨) 2(弱い推奨) “ 実施する ” ことを推奨する “ 実施しない ” ことを推奨する “ 実施する ” ことを提案する “ 実施しない ” ことを提案する 4.本ガイドラインの対象 1)利用対象:一般臨床医 2)診療対象:成人の患者を対象とした.小児は対象外とした. 5.改訂について 本ガイドラインは,日本消化器病学会ガイドライン委員会を中心として改訂を予定している. 6.作成費用について 本ガイドラインの作成はすべて日本消化器病学会が費用を負担しており,他企業からの資金 提供はない. 7.利益相反について 1)日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員・各ガイドライン作 成・評価委員と企業との経済的な関係につき,各委員から利益相反状況の申告を得た(詳細は 「利益相反に関して」に記す) . 2)本ガイドラインでは,利益相反への対応として,協力学会の参加によって意見の偏りを防 ぎ,さらに委員による投票によって公平性を担保するように努めた.また,出版前のパブリッ クコメントを学会員から受け付けることで幅広い意見を収集した. — xii — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 本ガイドライン作成方法 ■引用文献 1) 福井次矢,山口直人(監修) .Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014,医学書院,東京,2014 2) 相原守夫,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム,凸版メディア,弘前, 2010 3) The GRADE* working group. Grading quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2004; 328: 1490-1494 (printed, abridged version) 4) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ 2008; 336: 924-926 5) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: What is "quality of evidence" and why is it important to clinicians? BMJ 2008; 336: 995-998 6) Schünemann HJ, Oxman AD, Brozek J, et al; GRADE Working Group. Grading quality of evidence and strength of recommendations for diagnostic tests and strategies. BMJ 2008; 336: 1106-1110 7) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE working group .Rating quality of evidence and strength of recommendations: incorporating considerations of resources use into grading recommendations. BMJ 2008; 336: 1170-1173 8) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; GRADE Working Group. Rating quality of evidence and strength of recommendations: going from evidence to recommendations. BMJ 2008; 336: 1049-1051 9) Jaeschke R, Guyatt GH, Dellinger P, et al; GRADE working group. Use of GRADE grid to reach decisions on clinical practice guidelines when consensus is elusive. BMJ 2008; 337: a744 10) Guyatt G, Oxman AD, Akl E, et al. GRADE guidelines 1. Introduction-GRADE evidence profiles and summary of findings tables. J Clin Epidemiol 2011; 64: 383-394 11) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 2. Framing the question and deciding on important outcomes.J Clin Epidemiol 2011; 64: 295-400 12) Balshem H, Helfand M, Schunemann HJ, et al. GRADE guidelines 3: rating the quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 401-406 13) Guyatt GH, Oxman AD, Vist G, et al. GRADE guidelines 4: rating the quality of evidence - study limitation (risk of bias). J Clin Epidemiol 2011; 64: 407-415 14) Guyatt GH, Oxman AD, Montori V, et al. GRADE guidelines 5: rating the quality of evidence - publication bias. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1277-1282 15) Guyatt G, Oxman AD, Kunz R, et al. GRADE guidelines 6. Rating the quality of evidence - imprecision. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1283-1293 16) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 7. Rating the quality of evidence - inconsistency. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1294-1302 17) Guyatt GH, Oxman AD, Kunz R, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 8. Rating the quality of evidence - indirectness. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1303-1310 18) Guyatt GH, Oxman AD, Sultan S, et al; The GRADE Working Group. GRADE guidelines: 9. Rating up the quality of evidence. J Clin Epidemiol 2011; 64: 1311-1316 19) Brunetti M, Shemilt I, et al; The GRADE Working. GRADE guidelines: 10. Considering resource use and rating the quality of economic evidence. J Clin Epidemiol 2013; 66: 140-150 20) Guyatt G, Oxman AD, Sultan S, et al. GRADE guidelines: 11. Making an overall rating of confidence in effect estimates for a single outcome and for all outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 151-157 21) Guyatt GH, Oxman AD, Santesso N, et al. GRADE guidelines 12. Preparing Summary of Findings tablesbinary outcomes. J Clin Epidemiol 2013; 66: 158-172 — xiii — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 利益相反に関して 日本消化器病学会ガイドライン委員会では,ガイドライン統括委員と企業との経済的な関係につき,下記の基準で, 各委員から利益相反状況の申告を得た. 大腸ポリープ診療ガイドライン作成・評価委員には診療ガイドライン対象疾患に関連する企業との経済的な関係につ き,下記の基準で,各委員から利益相反状況の申告を得た. 申告された企業名を下記に示す(対象期間は 2011 年 1 月 1 日から 2013 年 12 月 31 日) .企業名は 2014 年 3 月現在の 名称とした.非営利団体は含まれない. 1.委員または委員の配偶者,一親等内の親族,または収入・財産を共有する者が個人として何らかの報酬を得た企 業・団体 役員・顧問職(100 万円以上) ,株(100 万円以上または当該株式の 5%以上保有) ,特許権使用料(100 万円以上) 2.委員が個人として何らかの報酬を得た企業・団体 講演料(100 万円以上) ,原稿料(100 万円以上) ,その他の報酬(5 万円以上) 3.委員の所属部門と産学連携を行っている企業・団体 研究費(200 万円以上) ,寄付金(200 万円以上) ,寄付講座 ※統括委員会においては日本消化器病学会診療ガイドラインに関係した企業・団体,作成・評価委員においては診 療ガイドライン対象疾患に関係した企業・団体の申告を求めた 統括委員および作成・評価委員はすべて,診療ガイドラインの内容と作成法について,医療・医学の専門家として科 学的・医学的な公正さを保証し,患者のアウトカム,Quality of life の向上を第一として作業を行った. 利益相反の扱いは,国内外で議論が進行中であり,今後,適宜,方針・様式を見直すものである. 表 1 統括委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社 2.アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ合同会社,アボットジャパン株式会社,株式会社 医学書院,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,杏林製薬株式会社,ゼリア新薬工業株式会社, 第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,ファイザー株式会 社,株式会社ヤクルト本社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ 合同会社,アボットジャパン株式会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株 式会社,株式会社カン研究所,杏林製薬株式会社,協和発酵キリン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーン ケア研究所,株式会社スズケン,ゼリア新薬工業株式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会 社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製 薬株式会社,東レ株式会社,ブリストル・マイヤーズ株式会社,株式会社ミノファーゲン製薬,持田製薬株式会 社,株式会社ヤクルト本社,ヤンセンファーマ株式会社,ユーシービージャパン株式会社 表 2 作成・評価委員と企業との経済的な関係(五十音順) 1.株式会社いかがく 2.アッヴィ合同会社,エーザイ株式会社,杏林製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,田 辺三菱製薬株式会社 3.旭化成メディカル株式会社,味の素製薬株式会社,アステラス製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,アッヴィ 合同会社,エーザイ株式会社,MSD 株式会社,大塚製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,杏林製薬株式会社, 協和発酵キリン株式会社,株式会社 JIMRO,株式会社ジーンケア研究所,株式会社スズケン,ゼリア新薬工業株 式会社,センチュリーメディカル株式会社,第一三共株式会社,大日本住友製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会 社,武田薬品工業株式会社,田辺三菱製薬株式会社,中外製薬株式会社,東レ株式会社,ブリストル・マイヤー ズ株式会社,株式会社ヤクルト本社,ユーシービージャパン株式会社 — xiv — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 本ガイドラインの構成 第 1 章 疫学 第 2 章 スクリーニング 第 3 章 病態・定義・分類 第 4 章 診断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) (2)病理診断 第 5 章 治療・取り扱い 第 6 章 治療の実際 第 7 章 偶発症と治療後のサーベイランス 第 8 章 その他 (1)粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 — xv — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 フローチャート 【大腸ポリープ診断フローチャート】 大腸ポリープ 注腸造影検査 大腸内視鏡検査 単発 多発 非ポリポーシス 表面性状 表面微細構造 陥凹辺縁の性状 上皮性 形態,表面性状 硬さ,色調 腫瘍 非腫瘍 腫瘍 SSA/P 腺腫 早期癌 カルチノイド など 過形成 炎症性 過誤腫性 など GIST 脂肪腫 血管腫 など 随伴症状 家族歴 非上皮性 ポリポーシス 形態,表面性状 硬さ,色調 (遺伝子検索) ポリープの数,密度,分布 非腫瘍 上皮性 表面性状 表面微細構造 陥凹辺縁の性状 形態,表面性状 硬さ,色調 腫瘍 FAP など MLP:multiple lymphomatous polyposis 非腫瘍 Peutz-Jeghers 症候群 Cowden 病 など — xvi — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 非上皮性 腫瘍 MLP lipomatosis など 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 クリニカルクエスチョン一覧 第 1 章 疫学 CQ 1-1 大腸癌の危険因子と抑制因子は何か? ……………………………………………………2 CQ 1-2 大腸腫瘍(癌・腺腫)の罹患率(発生率) ,有病率は? ……………………………………4 CQ 1-3 大腸腫瘍(癌・腺腫)の好発部位はどこか? ………………………………………………5 CQ 1-4 平坦陥凹型腫瘍の頻度は? …………………………………………………………………6 第 2 章 スクリーニング CQ 2-1 大腸がん検診は有用か? ……………………………………………………………………8 CQ 2-2 便潜血検査(FOBT)の適切な採便方法は? ………………………………………………10 CQ 2-3 大腸腫瘍に対する便潜血検査(FOBT)の感度・特異度は? ……………………………12 CQ 2-4 大腸腫瘍に対する大腸内視鏡検査の感度・特異度は? …………………………………14 CQ 2-5 大腸内視鏡検査に伴う偶発症の発生頻度は? ……………………………………………15 CQ 2-6 大腸腫瘍に対する注腸造影検査の感度・特異度は? ……………………………………16 CQ 2-7 大腸腫瘍に対する CT colonography の感度・特異度は?………………………………17 CQ 2-8 大腸腫瘍に対する PET,PET/CT による感度・特異度は? ……………………………19 CQ 2-9 便中遺伝子,その他のバイオマーカーを用いた有用なスクリーニング法は? ………20 CQ 2-10 画像強調観察は大腸腫瘍のスクリーニングに有用か? …………………………………22 CQ 2-11 大腸癌の適切なスクリーニング法とその間隔は? ………………………………………23 第 3 章 病態・定義・分類 CQ 3-1 大腸ポリープには組織学的にみてどのようなものがあるか? …………………………26 CQ 3-2 腺腫の担癌率は? ……………………………………………………………………………28 CQ 3-3 大腸腺腫の癌化に関与する遺伝子は? ……………………………………………………30 CQ 3-4 CIMP(CpG island methylator phenotype) ,MSI(microsatellite instability) phenotype とは? …………………………………………………………………………32 CQ 3-5 分子生物学的特徴からみた大腸癌の発癌経路は? ………………………………………34 CQ 3-6 adenoma-carcinoma sequence 説とは? …………………………………………………36 CQ 3-7 de novo 癌とは? ……………………………………………………………………………37 CQ 3-8 PG(polypoid growth) ,NPG(non-polypoid growth)とは? …………………………38 CQ 3-9 sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)とは? ………………………………………40 — xvii — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 CQ 3-10 serrated polyposis syndrome(SPS)とは? ………………………………………………43 CQ 3-11 大腸癌の肉眼型分類は? ……………………………………………………………………45 CQ 3-12 大腸 pit pattern 分類とは?…………………………………………………………………46 CQ 3-13 LST(laterally spreading tumor)とは? …………………………………………………48 CQ 3-14 advanced neoplasia とは何か? ……………………………………………………………49 第 4 章 診断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) CQ 4-1 通常内視鏡検査による大腸上皮性腫瘍の質的診断は可能か? …………………………52 CQ 4-2 大腸鋸歯状病変に対する内視鏡診断のポイントは? ……………………………………54 CQ 4-3 拡大内視鏡検査は大腸病変の質的診断に有用か? ………………………………………56 CQ 4-4 色素撒布を含む通常内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? ………………57 CQ 4-5 大腸 SM 高度浸潤癌に特徴的な内視鏡所見は何か? ……………………………………59 CQ 4-6 拡大内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? …………………………………61 CQ 4-7 画像強調観察を併用した拡大内視鏡検査は,大腸腫瘍の組織診断および深達度 診断に有用か? ……………………………………………………………………………63 CQ 4-8 超音波内視鏡検査(EUS)は早期大腸癌の深達度診断に有用か?………………………64 CQ 4-9 注腸造影検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? ……………………………………66 CQ 4-10 早期大腸癌の内視鏡的深達度診断法のストラテジーは? ………………………………68 (2)病理診断 CQ 4-11 大腸ポリープの病理診断について注意すべきことは? …………………………………70 CQ 4-12 大腸癌の組織分類とは? ……………………………………………………………………71 CQ 4-13 2010 年の WHO 分類で提唱されている内分泌腫瘍の組織分類は? …………………73 第 5 章 治療・取り扱い CQ 5-1 内視鏡的摘除の適応となる大腸腺腫の大きさは? ………………………………………76 CQ 5-2 径 5 mm 以下の微小腺腫の取り扱いは? …………………………………………………78 CQ 5-3 過形成性ポリープの取り扱いは? …………………………………………………………80 CQ 5-4 大腸鋸歯状病変に対する治療適応は? ……………………………………………………82 CQ 5-5 LST(laterally spreading tumor)の治療方針は? ………………………………………83 CQ 5-6 早期大腸癌に対する内視鏡的治療の適応は? ……………………………………………84 CQ 5-7 早期大腸癌内視鏡的摘除後に外科的切除を考慮しなければならない病理所見は? …85 CQ 5-8 分割内視鏡的粘膜切除術(EMR)が容認される大腸腫瘍とは? ………………………87 CQ 5-9 内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の適応は?………………………………………………89 CQ 5-10 大腸腫瘍の治療方針決定に生検は必須か? ………………………………………………90 CQ 5-11 ポリペクトミーの禁忌は? …………………………………………………………………91 — xviii — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 クリニカルクエスチョン一覧 CQ 5-12 ポリペクトミー後出血に対する緊急内視鏡検査の適応と注意点は? …………………92 第 6 章 治療の実際 CQ 6-1 大腸癌に対する chemoprevention は可能か? …………………………………………96 CQ 6-2 ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR) ,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の 使い分けは? ………………………………………………………………………………98 CQ 6-3 内視鏡的粘膜切除術(EMR)における粘膜下局注液の選択は? ………………………100 CQ 6-4 内視鏡的治療後クリッピングは穿孔や後出血の予防に有効か? ……………………101 CQ 6-5 抗血栓薬服用者における内視鏡検査・治療時の対応は? ……………………………102 CQ 6-6 心臓ペースメーカー植込み患者に対する内視鏡的治療時の注意点は? ……………104 CQ 6-7 基礎疾患(呼吸器,循環器系)を有する患者に対する内視鏡的治療時の注意点は? CQ 6-8 大腸のなかで腹腔鏡下手術を行いやすい部位と行いにくい部位はどこか? ………106 CQ 6-9 直腸ポリープの局所切除術にはどのような術式があるか? …………………………108 ……………………………………………………………………………………………105 第 7 章 偶発症と治療後のサーベイランス CQ 7-1 内視鏡的治療に伴う偶発症発生率は? …………………………………………………110 CQ 7-2 内視鏡的治療に伴う偶発症発生時の対応策は? ………………………………………112 CQ 7-3 大腸腺腫に対する内視鏡的摘除により大腸癌罹患率は低下するか? ………………114 CQ 7-4 大腸腺腫の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべきか? ……………………116 CQ 7-5 大腸 SM 癌の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべきか? …………………118 CQ 7-6 大腸 SM 癌治療後の長期成績は?(内視鏡的摘除例,外科的切除例) ……………120 CQ 7-7 大腸 SM 癌に対する外科手術後のサーベイランスは必要か? ………………………122 第 8 章 その他 (1)粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ CQ 8-1 大腸粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の診断と取り扱いは? …………………126 CQ 8-2 カルチノイド腫瘍の診断と取り扱いは? ………………………………………………128 CQ 8-3 非腫瘍性大腸ポリープの診断と取り扱いは? …………………………………………130 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 CQ 8-4 大腸ポリポーシスにはどのようなものがあるか? ……………………………………131 CQ 8-5 大腸ポリポーシスにおける遺伝子診断の臨床的意義は何か? ………………………133 CQ 8-6 遺伝性腫瘍の遺伝子診断を行う場合の手続きとは? …………………………………135 CQ 8-7 家族性大腸腺腫症(FAP)の臨床像と治療方針は原因遺伝子により異なるか? ……137 — xix — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 CQ 8-8 家族性大腸腺腫症(FAP)と attenuated FAP(AFAP)で治療方針は異なるか? ……139 CQ 8-9 家族性大腸腺腫症(FAP)に対する術式は何か? ………………………………………140 CQ 8-10 家族性大腸腺腫症(FAP)の家族(血縁者)に対する適切なサーベイランス法は 何か? ……………………………………………………………………………………142 CQ 8-11 Peutz-Jeghers 症候群(PJS)における消化管サーベイランスの意義は? ……………144 CQ 8-12 若年性ポリポーシスに伴う消化管悪性腫瘍に対するサーベイランス法は何か? …146 CQ 8-13 Cowden 病に伴う悪性腫瘍とそのサーベイランス法は? ……………………………148 CQ 8-14 Cronkhite-Canada 症候群の治療方針は? ………………………………………………149 CQ 8-15 Lynch 症候群の概念と診断基準は? ……………………………………………………151 CQ 8-16 Lynch 症候群に対する術式は何か? ……………………………………………………153 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 CQ 8-17 潰瘍性大腸炎における dysplasia の考え方と診断基準とは?…………………………155 CQ 8-18 潰瘍性大腸炎に合併する dysplasia/早期癌の形態的特徴は? ………………………157 CQ 8-19 潰瘍性大腸炎に対する癌化サーベイランスの対象と方法は? ………………………159 CQ 8-20 潰瘍性大腸炎に dysplasia/癌が検出されたらすべて手術適応か?(low-grade CQ 8-21 潰瘍性大腸炎における隆起型 dysplasia と通常腺腫の鑑別診断は?…………………163 dysplasia:LGD でも手術適応か?) …………………………………………………161 索引 ………………………………………………………………………………………………………165 — xx — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 略語一覧 AFAP ALM/ALD asc BLI CAD CHRPE CIMP CIN DALM EMR ESD EUS EUS-FNA FAP FICE FOBT GIST HGD HNPCC HP IPAA IRA JP JPS LGD LHP LOH LST MANEC MITAS MP MSI muc NBI NEC NET NPG NSAIDs pap PET PG PJS PRR SA scc sig SMT SPS SSA/P TA TCS TEM TSA tub VMV attenuated FAP adenoma-like mass/adenoma-like dysplasia adenosquamous carcinoma blue laser imaging computer-aided detection congenital hypertrophy of the retinal pigment epithelium CpG island methylator phenotype chromosomal instability dysplasia associated mass or lesion endoscopic mucosal resection endoscopic submucosal dissection endoscopic ultrasonography endoscopic ultrasonography guided fine needle aspiration biopsy familial adenomatous polyposis flexible spectral imaging color enhancement faecal occult blood test gastrointestinal stromal tumor high grade dyplasia hereditary non-polyposis colorectal cancer hyperplastic polyp ileal pouch-anal anastomosis ileorectal anastomosis juvenile polyp juvenile polyposis syndrome low-grade dysplasia large hyperplastic polyp loss of heterozygosity laterally spreading tumor mixed adenoendocrine cell carcinoma minimally invasive transanal surgery mixed polyp microsatellite instability mucinous adenocarcinoma narrow band imaging neuroendocrine carcinoma neuroendocrine tumor non-polypoid growth non-steroidal anti-inflammatory drugs papillary adenocarcinoma positron emission tomography polypoid growth Peutz-Jeghers syndrome profuse relationg region serrated adenoma squamous cell carcinoma signet-ring cell carcinoma submucosal tumor serrated polyposis syndrome sessile serrated adenoma/polyp traditional adenoma total colonoscopy transanal endoscopic microsurgery traditional serrated adenoma tubular adenocarcinoma varicose microvascular vessel 腺扁平上皮癌 先天性網膜色素上皮肥大 染色体不安定性 内視鏡的粘膜切除術 内視鏡的粘膜下層剝離術 超音波内視鏡検査 超音波内視鏡下吸引生検法 家族性大腸腺腫症 便潜血検査 消化管間質腫瘍 遺伝性非ポリポーシス大腸癌 回腸囊肛門吻合術 回腸直腸吻合術 若年性ポリープ 若年性ポリポーシス 側方発育型腫瘍 マイクロサテライト不安定性 粘液癌 神経内分泌癌 神経内分泌腫瘍 非ステロイド性消炎鎮痛薬 乳頭状腺癌 Peutz-Jeghers 症候群 鋸歯状腺腫 扁平上皮癌 印環細胞癌 粘膜下腫瘍 全大腸内視鏡検査 管状腺癌 — xxi — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 1.疫 学 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 1.疫 Clinical Question 1-1 学 大腸癌の危険因子と抑制因子は何か? CQ 1-1 大腸癌の危険因子と抑制因子は何か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸癌の危険因子として①年齢(50 歳以上) ,②大腸癌の家族歴, ③高カロリー摂取および肥満,④過量のアルコール,⑤喫煙,抑制 因子として①適度な運動,②食物繊維,③アスピリン,などが報告 されている. なし B 解説 食習慣や生活習慣については多くのコホート研究があり,大腸癌発生のリスクにかかわって いることがわかっている 1) .ただし,報告によって結果は必ずしも一定していない.ほぼコンセ ンサスを得ている大腸癌の危険因子として年齢 2) ,家族歴(advanced neoplasia,CQ 3-14 参照)3) に加えて高カロリー摂取および肥満 1, 4, 5) ,胆囊摘出後 6) ,大量のアルコール摂取 7) ,喫煙 8)があ る.赤身肉,加工肉については確実とするものと 1) ,明らかな関連性は認められていないとする ものがある 10) . 一方,抑制因子として,適度な運動は大腸癌発生の抑制効果が確実とされている 1, 11) .食物繊 維,果物,野菜の抑制効果も報告されているが 1, 9) ,積極的な摂取による発生率の減少は証明され ていない 10) .アスピリンが比較的高いエビデンスがある 12) .大腸ポリープ(腺腫)については NSAIDs 13)が発生を抑制することが比較的高いエビデンスレベルで示されている.ただし,大腸 癌発生を抑制するというデータは今のところなく,アスピリンも含めて長期服用に伴う消化管 障害の危険性,対費用効果についての検討も必要である. 文献 1) World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Reserch: 7.9 Colon and rectum. In: Food, Nutrition, Physical Activity and the Prevention of Cancer: a Global Perspective, American Institute for Cancer Research, Wasington DC, 2007: p280-288 2) Strul H, Kariv R, Leshno M, et al. The prevalence rate and anatomic location of colorectal adenoma and cancer detected by colonoscopy in average-risk individuals aged 40-80 years. Am J Gastroenterol 2006; 101: 255-262(コホート) 3) Lynch KL, Ahnen DJ, Byers T, et al. First-degree relatives of patients with advanced colorectal adenomas have an increased prevalence of colorectal cancer. Clin Gastroenterol Hepatol 2003; 1: 96-102(ケースコン —2— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 トロール) 4) Neugut AI, Garbowski GC, Lee WC, et al. Dietary risk factors for the incidence and recurrence of colorectal adenomatous polyps: a case-control study. Ann Intern Med 1993; 118: 91-95(ケースコントロール) 5) Siddiqui A, Chang M, Mahgoub A, et al. Increase in body size is associated with an increased incidence of advanced adenomatous colon polyps in male veteran patients. Digestion 2011; 83: 288-290(コホート) 6) Siddiqui AA, Kedika R, Mahgoub A, et al. A previous cholecystectomy increases the risk of developing advanced adenomas of the colon. South Med J 2009; 102: 1111-1115(コホート) 7) Cho E, Smith-Wamer SA, Ritz J, et al. Alcohol intake and colorectal cancer: a pooled analysis of 8 cohort studies. Ann Intern Med 2004; 10: 603-613(コホート) 8) Botteri E, Iodice S, Bagnardi V, et al. Smoking and colorectal cancer: a meta anlysis. JAMA 2008; 134: 388395(メタ) 9) Bingham SA, Day NE, Luben R, et al. Dietary fibre in food and protection against colorectal cancer in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC): an observational study. Lancet 2003; 361: 1496-1501(コホート) 10) Tantamango YM, Knutsen SF, Beeson WL, et al. Foods and food groups associated with the incidence of colorectal polyps: the Adventist Health Study. Nutr Cancer 2011; 63: 565-572(コホート) 11) Spence RR, Heesch KE, Brown WJ. A systematic review of the association between physical activity and colorectal cancer risk. Scand J Med Sci Sports 2009; 19: 761-781(メタ) 12) Dube A, Rostom G, Lewin A, et al. The use of aspirin for primary prevention of colorectal cancer: a systematic review prepared for the U.S. Preventive Services Task Force (Structured abstract). Ann Intern Med 2007; 146: 365-375(メタ) 13) Garcia Rodriguez LA, Huerta-Alvarez C. Reduced incidence of colorectal adenoma among long-term users of nonsteroidal antiinflammatory drugs: a pooled analysis of published studies and a new population-based study. Epidemiology 2000; 11: 376-381(コホート) —3— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 1.疫 Clinical Question 1-2 学 大腸腫瘍(癌・腺腫)の罹患率(発生率) ,有病率は? CQ 1-2 大腸腫瘍(癌・腺腫)の罹患率(発生率),有病率は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 日本人における大腸癌の年齢調整罹患率(人口 10 万人対)は男性 64.1,女性 36.1 程度である. なし B 解説 本邦における癌罹患率の推計は,地域がん登録からの推計値がある(Jpn J Clin Oncol 2012; 42: 139-147 a) ,Jpn J Clin Oncol 2013; 43: 492-450 b) [検索期間外文献] ) .2006 年度の全国 32 の都道府 県がん登録から精度基準を満たした 15 登録を解析したもので,10 万人対で男性が粗罹患率 99.7, 年齢調整罹患率 64.1,女性で粗罹患率 68.4,年齢調整罹患率 36.1 となっている.粗罹患率は増 加傾向にあるが,年齢調整罹患率は横ばいが続いている a, b) . 罹患率のデータ集計には時間を要することと,登録の精度そのものに限界があることは知っ ておかなければならない.国際的ながん登録データに基づくデータベースである International Agency for Research on Cancer(IARC)の GLOBOCAN series の報告 1)をみても,大腸癌の罹 患率は地域によってかなりの差がある.この報告では最も高いオーストラリア/ニュージーラン ドで年齢調整罹患率が男性 45.7,女性 33.0,日本は男性 41.7,女性 22.8 となっている.なお, その他の欧米の大規模コホートをまとめたものでは,人口 10 万人対で男性 54~62,女性 34~ 40 程度とする報告がある 2) . 文献 1) Ferlay J, Shin HR, Bray F, et al. Estimates of worldwide burden of cancer in 2008: GLOBOCAN 2008. Int J Cancer 2010; 127: 2893-2917 2) Cooper K, Squires H, Carroll C, et al. Chemoprevention of colorectal cancer: systematic review and economic evaluation (Provisional abstract). Health Technology Assessment 2010; 13; 1-206(コホート) 【検索期間外文献】 a) Matsuda T, Marugame T, Kamo K, et al. Cancer incidence and incidence rates in Japan in 2006: based on data from 15 population-based cancer registries in the monitoring of cancer incidence in Japan (MCIJ) project. Jpn J Clin Oncol 2012; 42: 139-147(コホート) b) Katanoda, K, Matsuda, T, Matsuda, A, et al. An updated report of the trends in cancer incidence and mortality in Japan. Jpn J Clin Oncol 2013; 43: 492-450(コホート) —4— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 1.疫 Clinical Question 1-3 学 大腸腫瘍(癌・腺腫)の好発部位はどこか? CQ 1-3 大腸腫瘍(癌・腺腫)の好発部位はどこか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸癌および腺腫は広く全大腸に分布しているが,大腸癌の発生部 位としては直腸・肛門管 22.8%,直腸 S 状部 9.3%,S 状結腸 30.6%と直腸から S 状結腸にかけてが 60%以上を占める. なし D 解説 平成 22 年度の日本消化器がん検診学会の全国集計(日本消化器がん検診学会雑誌 2013; 51: 75101 a)[検索期間外文献] )によると,病巣部位として S 状結腸が 30.6%と最も多くを占める.盲 腸 6.4%,上行結腸 16.2%,横行結腸 9.7%,下行結腸 5.5%,直腸 S 状部 9.3%,直腸 21.8%, 肛門管 0.4%と深部結腸にも 30%以上が分布している.平成 12 年度の集計でもほぼ同様のデー タである.検診受診者を対象とした限界はあるが,大腸癌が特定の部位に偏在して発生するこ とはなく,大腸癌の検診にあたっては全大腸を検索しうる方法を選択する必要がある.高齢者 では深部結腸での大腸癌,腺腫ともに発生比率が高まることが報告されている 1, 2) . 文献 1) Slattery ML, Friedman GD, Potter JD, et al. A description of age, sex, and site distributions of colon carcinoma in three geographic areas. Cancer 1996; 78: 1666-1670 2) Troisi RJ, Freedman AN, Devesa SS. Incidense of colorectal carcinoma in the U.S.: an update of trends by gender, race, age, subsite and stage, 1975-1994. Cancer 1999; 85: 1670-1676 【検索期間外文献】 a) 北川晋二,宮川国久,入口陽介,ほか.平成 22 年度日本消化器がん検診全国集計.日本消化器がん検診 学会雑誌 2013; 51: 75-101 —5— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 1.疫 Clinical Question 1-4 学 平坦陥凹型腫瘍の頻度は? CQ 1-4 平坦陥凹型腫瘍の頻度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 腺腫および早期癌のうち 0.2〜2%の頻度と推定される. なし D 解説 平坦陥凹型大腸腫瘍の頻度の報告として前向きコホート研究の結果が報告されている 1~4) .ま た,日本消化器内視鏡学会附置研究会参加施設による集計がある.これらの報告をみると平坦 陥凹型腫瘍の頻度は 0~5.4%とばらつきが大きい.本邦の論文に比して欧米からの報告では頻 度が高い傾向がある.この乖離の理由として欧米では平坦陥凹型病変のなかに,表面隆起型も 含まれており,純粋な陥凹型ではないことがあげられる.なお,欧米と本邦との病理組織学的 な診断基準の相違もあり,癌と腺腫の頻度については言及するのは難しい.ただし,平坦陥凹 型病変は大きさに比して異型度が高く,浸潤傾向が強いことを銘記しておく必要がある. 文献 1) Saitoh Y, Waxman I, West B, et al. Prevalence and distinctive biologic features of flat colorectal adenomas in a North American population. Gastroenterology 2001; 120: 1657-1665(コホート) 2) Tsuda S, Veress B, Toth E, et al. Flat and depressed colorectal tumours in a southern Swedish population: a prospective chromoendoscopic and histopathological study. Gut 2002; 51: 550-555(コホート) 3) Rembacken BJ, Fujii T, Cairns A, et al. Flat and depressed colonic neoplasms: a prospective study of 1000 colonoscopies in the UK. Lancet 2000; 355: 1211-1214(コホート) 4) 奥野達哉,佐野 寧,大倉康男,ほか.多施設遡及的検討から見た平坦・陥凹型大腸腫瘍の頻度について. 早期大腸癌 2004; 8: 21-27 —6— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-1 大腸がん検診は有用か? CQ 2-1 大腸がん検診は有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸がん検診は有用であるため,実施することを推奨する(便潜血 検査) . 1 (100%) A 解説 1.大腸がん検診の有用性について (1)便潜血検査 1~10) 化学法については複数の RCT により,免疫法単独については 1 つの症例対照研究により,免 疫法+化学法については複数の症例対照研究により死亡率減少効果があることが示されている. (2)内視鏡検査 11~15) S 状結腸内視鏡検査については複数の RCT により死亡率減少効果があることが示されている. 一方,全大腸内視鏡検査については症例対照研究で死亡率減少効果があることが示されている が,まだ質の高い研究報告はない. 以上より,便潜血検査による大腸がん検診は有用性が高いといえる.また,今後,全大腸内 視鏡検査による大腸がん検診の有用性についても明らかになっていくものと予想される. 2.大腸がん検診の開始年齢について 免疫法便潜血検査の有効性が 40 歳以上で示されていることや大腸癌死亡率および罹患率が 40 歳代から上昇することから,大腸がん検診は 40 歳から開始するのがよいと考える.事実,本邦 でのがん検診推進事業における大腸がん検診の対象年齢は 40 歳以上となっている. 文献 1) Mandel JS, Bond JH, Church TR, et al. Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood. N Engl J Med 1993; 328: 1365-1371(ランダム) 2) Hardcastle JD, Chamberlain JO, Robinson MH, et al. Randomized controlled trial of fecal-occult-blood screening for colorectal cancer. Lancet 1996; 348: 1472-1477(ランダム) 3) Kronborg O, Fenger C, Olsen J, et al. Randomized study of screening for colorectal cancer with faecal —8— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 occult blood test. Lancet 1996; 348: 1467-1471(ランダム) 4) Mandel JS, Church TR, Bond JH, et al. The effect of fecal occult-blood screening on the incidence of colorectal cancer. N Engl J Med 2000; 343: 1603-1607(ランダム) 5) Saito H, Soma Y, Koeda J, et al. Reduction in risk of mortality from colorectal cancer by fecal occult blood screening with immunochemical hemagglutination test-A case-control study. Int J Cancer 1995; 61: 465-469 (ケースコントロール) 6) Hiwatashi N, Morimoto T, Fukao A, et al. An evaluation of mass screening ysing fecal occult blood test for colorectal cancer in Japan: a case-control study. Jpn J Cancer Res 1993; 84: 1110-1112(ケースコントロール) 7) Zappa M, Castiglione G, Grazzini G, et al. Effect of fecal occult blood testing on colorectal mortality: results of a population-based case-control study in the district of Florence,Italy. Int J Cancer 1997; 73: 208210(ケースコントロール) 8) Saito H, Soma Y, Nakajima M, et al. A case-control study evaluating occult blood screening for colorectal cancer with Hemoccult test and immunochemical hemagglutination test. Oncol Rep 2000; 7: 815-819(ケー スコントロール) 9) Nakajima M, Saito H, Soma Y, et al. Prevention of advanced colorectal cancer by screening using the immunochemical fecal occult blood test: a case-control study. Br J Cancer 2003; 89: 23-28(ケースコント ロール) 10) Saito H. Screening for colorectal cancer by immunochemical fecal occult blood testing. Jpn J Cancer Res 1996; 87: 1011-1024(ランダム) 11) Selby JV, Friedman GD, Quesenberry CP Jr, et al. A case-control study of screening sigmoidoscopy and mortality from colorectal cancer. N Engl J Med 1992; 326: 653-657(ケースコントロール) 12) Newcomb PA, Norfleet RG, Storer BE, et al. Screening sigmoidoscopy and colorectal cancer mortality. J Natl Cancer Inst 1992; 84: 1572-1575(ケースシリーズ) 13) Hoff G, Grotmol T, Skovlund E, et al. Risk of colorectal cancer seven years after flexible sigmoidoscopy screening: randomised controlled trial. BMJ 2009; 338: 1846(ランダム) 14) Atkin WS, Edwards R, Kralj-Hans I, et al. Once-only flexible sigmoidoscopy screening in prevention of colorectal cancer: a multicentre randomised controlled trial. Lancet 2010; 375: 1624-1633(ランダム) 15) Segnan N, Armaroli P, Bonelli L, et al. Once-only sigmoidoscopy in colorectal cancer screening: follow-up findings of the Italian Randomized Controlled Trial--SCORE. J Natl Cancer Inst 2011; 103: 1310-1322(ラン ダム) —9— 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-2 便潜血検査(FOBT)の適切な採便方法は? CQ 2-2 便潜血検査(FOBT)の適切な採便方法は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 自己採便による,2 日分の便サンプル(2 日法)を免疫法にて測定す ることを提案する. 2 (100%) C 解説 診察室での直腸指診による便の採取は,1 回のサンプリングであり,感度の向上が期待でき ないこと,受診者が毎年あるいは隔年で受診することがないため,無症状期に頻回に検査を行 い早期発見につなげる戦略がとれないことからスクリーニングとしては不適切である 1) . 家庭での自己採便では,一般に検査回数が増加すれば感度は増加するが,特異度が減少し偽陽 性が多くなる.採便回数の増加による感度の改善と特異度の減少のバランスが問題となる 2~5) . 今回のレビューでは便潜血検査を実施した対象者全員に全大腸内視鏡検査を実施し,感度と特 異度あるいは発見率を比較する手法で評価する論文が集められた.対象者は健常者(住民ベー ス)と有症状者(病院ベース)の場合があるが,それぞれに比較的質の高い論文が 1 編ずつあっ た.いずれも免疫法を用いたものであるが,前者では 1 日法,2 日法,3 日法で癌に対する感度 がそれぞれ 56%,83%,89%であり,1 日法と 2・3 日法の間で有意差をみた.特異度は 97%, 96%,94%で 3 日法が 1・2 日法より有意に低くかったことより,感度・特異度のバランスを考 慮して 2 日法が好ましいとしている 6) . 後者では 2 日法と 3 日法を比較し,癌に対する感度はそれぞれ 88%,96%,特異度は 96%, 89%であり,3 日法は感度は良好であるが特異度の低下が著しく,2 日法を推奨している 7) . average risk 者での研究で 3 日法を推すものもあったが,偽陽性を考慮しておらずその結論の 妥当性には疑義が生じる 8) . 採便方法については,便内部よりも表面のほうが血液の存在している部位が多く,便の長軸 方向に数本なぞる表面擦過法が適切とされている 9) . — 10 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Levin B, Lieberman DA, McFarland B, et al. Screening and surveillance for the early detection of colorectal cancer and adenomatous polyps, 2008. CA Cancer J Clin 2008; 58: 130-160(ガイドライン) 2) 春日井達造,通木俊逸,植田美津江,ほか.免疫学的便潜血反応を用いた郵送法による大腸癌検診(郵便 検診)13 万例の成績.消化器集団検診 1990; 87: 147-153(横断) 3) 早坂 隆,畑中一映,児嶋美朝,ほか.大腸癌集団検診における早期大腸癌と便潜血反応について.道南 医学会誌 1997; 32: 208-211(横断) 4) Grazzini G, Visioli CB, Zorzi M, et al. Immunochemical faecal occult blood test: number of samples and positivity cutoff: what is the best strategy for colorectal cancer screening? Br J Cancer 2009; 100: 259-265 (横断) 5) Rozen P, Levi Z, Hazazi R, et al. Identification of colorectal adenomas by a quantitative immunochemical faecal occult blood screening test depends on adenoma characteristics, development threshold used and number of tests performed. Aliment Pharmacol Ther 2009; 29: 906-917(横断) 6) Nakama H, Yamamoto M, Kamijo N, et al. Colonoscopic evaluation of immunochemical fecal occult blood test for detection of colorectal neoplasia. Hepatogastroenterology 1999; 46: 228-231(横断) 7) Li S, Wang H, Hu J, et al. New immunochemical fecal occult blood test with two-consecutive stool sample testing is a cost-effective approach for colon cancer screening: results of a prospective multicenter study in Chinese patients. Int J Cancer 2006; 118: 3078-3083(横断) 8) 三好雅美,須藤洋昌,三好佳子,ほか.免疫便潜血検査による大腸癌検診―職域における大腸癌検診への 一提案.消化器集団検診 1993; 31: 9-13(横断) 9) 今井信介.大腸癌および大腸腺腫患者糞便の免疫学的便潜血反応陽性部位.日本大腸肛門病会誌 1990; 43: 1142-1153(横断) — 11 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-3 大腸腫瘍に対する便潜血検査(FOBT)の感度・特異度は? CQ 2-3 大腸腫瘍に対する便潜血検査(FOBT)の感度・特異度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 免疫法 1 日法で大腸癌に対する感度は 30〜56%,特異度 96〜 97%,2 日法,3 日法では感度 83〜92%,特異度 90〜96%であ る.腺腫では,1 日法で感度 11〜58%,3 日法で 55%である. なし C 解説 検査精度の指標として最も一般性があるのは,感度・特異度である.その他の指標として陽 性反応的中率,発見率なども用いられるが,これらは対象集団の有病率に大きく影響される. よって今回の評価においても感度・特異度を主に FOBT の性能評価を行った.感度・特異度を 測定した研究では,対象集団を平均的リスク者としたもののみならず,有症状者,大腸癌の家 族歴や既往歴のある者を用いたものも存在した.さらに,あらかじめ大腸癌の確定診断がつい ている患者集団と健常者を合わせて対象集団を作成した研究も存在する.感度は病変の進行度 に沿って連続的に変化すると推定されるので,健常者集団以外では病変の存在の偏りが生じ, 感度・特異度の計測に影響を与えることが予想される 1) . さらに,免疫法/化学法,採便回数(1 日法~3 日法) ,ターゲットとする病変(大腸癌,腺腫) によっても値は変化する.また,大腸内視鏡検査を時間をおかずに実施する直接法(同日法)と がん登録などの登録情報を用いて偽陰性を把握する追跡法では,その値が異なることに留意し なければならない. 平均的リスク者を直接法で評価した場合,免疫法 1 日法で大腸癌をターゲットとした感度は 30 ~56%,特異度 96~97%,2 日法,3 日法では感度 83~92%,特異度 90~96%である 2~4) . 腺腫をターゲットとした場合,1 日法で感度 11~58%と幅があり,3 日法で 55%である 3, 5) . 化学法での検討では大腸癌をターゲットとした 3 日法で感度 13~31%,特異度 95~98%で あった 3, 6) .また,腺腫での検討では,感度 25%,特異度 85%であった 7) . 有症状者を用いた免疫法直接法では,大腸癌に対して感度は 1 日法で 65%,2~3 日法で 80 ~90%,特異度はそれぞれ 95%,96%である 8~10) .腺腫については,3 日法で感度は 45%程度, 特異度は 86~93%であり,大腸癌の場合に比して精度は低くなる 9~12) . 化学法では,大腸癌で感度 69~86%(3 日法) ,特異度 91~93%と免疫法に比して低い値と なっている 9, 13) .腺腫では感度 19%,特異度 88~93%との報告がある 13, 14) . — 12 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Fraser CG, Mathew CM, McKay K, et al. Automated immunochemical quantitation of haemoglobin in faeces collected on cards for screening for colorectal cancer. Gut 2008; 57: 1256-1260(横断) 2) Nakama H, Yamamoto M, Kamijo N, et al. Colonoscopic evaluation of immunochemical fecal occult blood test for detection of colorectal neoplasia. Hepatogastroenterology 1999; 46: 228-231(横断) 3) Park DI, Ryu S, Kim YH, et al. Comparison of guaiac-based and quantitative immunochemical fecal occult blood testing in a population at average risk undergoing colorectal cancer screening. Am J Gastroenterol 2010; 105: 2017-2025(横断) 4) Rozen P, Shabtai EI, Liphshitz I, et al. Risk for colorectal cancer in elderly persons and possible methodologies for their screening. Eur J Gastroenterol Hepatol 2011; 23: 431-437(横断) 5) Hundt S, Haug U, Brenner H. Comparative evaluation of immunochemical fecal occult blood tests for colorectal adenoma detection. Ann Intern Med 2009; 150: 162-169(横断) 6) Imperiale TF, Ransohoff DF, Itzkowitz SH, et al. Fecal DNA versus fecal occult blood for colorectal-cancer screening in an average-risk population. N Engl J Med 2004; 351: 2704-2714(横断) 7) Rozen P, Knaani J, Papo N. Evaluation and comparison of an immunochemical and a guaiac faecal occult blood screening test for colorectal neoplasia. Eur J Cancer Prev 1995; 4: 475-481(横断) 8) Jeanson A, Jamart J, Maisin JM, et al. Assessment of the new immunological test Hemoblot for detecting occult blood in faeces. Eur J Cancer Prev 1995; 3: 407-412(横断) 9) Greenberg PD, Bertario L, Gnauck R, et al. A prospective multicenter evaluation of new fecal occult blood tests in patients undergoing colonoscopy. Am J Gastroenterol 2000; 95: 1331-1338(横断) 10) Young GP, St John DJ, Cole SR, et al. Prescreening evaluation of a brush-based faecal immunochemical test for haemoglobin. J Med Screen 2003; 10: 123-128(横断) 11) Rozen P, Comaneshter D, Levi Z, et al. Cumulative evaluation of a quantitative immunochemical fecal occult blood test to determine its optimal clinical use. Cancer 2010; 116: 2115-2125(横断) 12) 平田一郎,吉岡大介,柴田知行,ほか.早期大腸癌のスクリーニング 便潜血反応 Hb・Tf 同時測定法.胃 と腸 2010; 45: 725-733(横断) 13) Bertario L, Spinelli P, Gennari L, et al. Sensitivity of Hemoccult test for large bowel cancer in high-risk subjects. Dig Dis Sci 1988; 33: 609-613(横断) 14) Robinson MH, Kronborg O, Williams CB, et al. Faecal occult blood testing and colonoscopy in the surveillance of subjects at high risk of colorectal neoplasia. Br J Surg 1995: 82; 318-320(横断) — 13 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-4 大腸腫瘍に対する大腸内視鏡検査の感度・特異度は? CQ 2-4 大腸腫瘍に対する大腸内視鏡検査の感度・特異度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸内視鏡検査の大腸腫瘍に対する感度は,大腸癌および径 1cm 以上の腺腫を対象とした場合は 79〜100%,径 1cm 未満の腺腫を 対象とした場合は 75〜85%である. なし C ● 大腸内視鏡検査の大腸腫瘍に対する特異度については,大腸内視鏡検査という特性から言及さ れていない. 解説 大腸内視鏡検査による大腸腫瘍に対する感度については,対象病変の大きさにより値が異な る.すなわち,大腸癌および径 1 cm 以上の腺腫を対象とした場合の感度は 79~100%1, 2)と高く なっているが,径 1 cm 未満の腺腫を対象とした場合は 75~85%にとどまっている 1) .ただ,参 考文献が 2001 年,2009 年と比較的古い年代のものであるため,ハイビジョン対応 CCD,拡大 観察機能,特殊光観察機能などを有したスコープや,高コントラスト動画への応答性が高いモ ニターの出現などにより,本ガイドライン発刊時の大腸内視鏡検査による大腸腫瘍に対する感 度は今回提示した値より高くなっていると推察される. 一方,大腸内視鏡検査による大腸腫瘍に対する特異度については,大腸検査の gold standard が大腸内視鏡検査となっているため,あまり言及されていない 1) . なお,2 回大腸内視鏡検査を行った症例をもとに,先に行った大腸内視鏡検査での大腸腺腫 の見逃し率をみた研究 3)では,径 10 mm 以上で 2.1%,径 5~10 mm で 13%,径 1~5 mm で 26%の見逃しがあったと報告している. 文献 1) de Zwart IM, Griffioen G, Shaw MP, et al. Barium enema and endoscopy for the detection of colorectal neoplasia: sensitivity, specificity, complications and its determinants. Clin Radiol 2001; 56: 401-409(メタ) 2) Graser A, Stieber P, Nagel D, et al. Comparison of CT colonography, colonoscopy, sigmoidoscopy and faecal occult blood tests for the detection of advanced adenoma in an average risk population. Gut 2009; 58: 241-248(コホート) 3) van Rijn JC, Reitsma JB, Stoker J, et al. Polyp miss rate determined by tandem colonoscopy: a systematic review. Am J Gastroenterol 2006; 101: 343-350(メタ) — 14 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-5 大腸内視鏡検査に伴う偶発症の発生頻度は? CQ 2-5 大腸内視鏡検査に伴う偶発症の発生頻度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸内視鏡検査(挿入のみ)に伴う重篤な偶発症の発生頻度は, 0.00〜0.08%である. なし C 解説 海外では大腸内視鏡検査(挿入のみ)に伴う穿孔の発生頻度について,0.00%(0/3,196)1), 0.02%2) ,0.06%(11/16,948)3) ,0.06%(3/5,235)4) ,0.08%5)と報告している. 一方,わが国では大腸内視鏡検査(挿入のみ)に伴う偶発症の発生頻度について,日本消化器 内視鏡学会が 0.012%(313/2,548,400)と報告しており,偶発症の発生頻度はおおむね 1 万件に 1 件程度となっている. また,大腸内視鏡検査(全般)に伴う死亡率については,日本消化器内視鏡学会が 0.00082% (28/3,311,104)と報告している 6) . 文献 1) Nelson DB, McQuaid KR, Bond JH, et al. Procedural success and complications of large-scale screening colonoscopy. Gastrointest Endosc 2002; 55: 307-314(コホート) 2) Bokemeyer B, Bock H, Huppe D, et al. Screening colonoscopy for colorectal cancer prevention: results from a German online registry on 269000 cases. Eur J Gastroenterol Hepatol 2009; 21: 650-655(ケースシ リーズ) 3) Tran DQ, Rosen L, Kim R, et al. Actual colonoscopy: what are the risks of perforation? Am Surg 2001; 67: 845-847(ケースシリーズ) 4) Levin TR, Zhao W, Conell C, et al. Complications of colonoscopy in an integrated health care delivery system. Ann Intern Med 2006; 145: 880-886(ケースシリーズ) 5) de Zwart IM, Griffioen G, Shaw MP, et al. Barium enema and endoscopy for the detection of colorectal neoplasia: sensitivity, specificity, complications and its determinants. Clin Radiol 2001; 56: 401-409(メタ) 6) 芳野純治,五十嵐良典,大原弘隆,ほか.消化器内視鏡関連の偶発症に関する第 5 回全国調査報告―2003 年より 2007 年までの 5 年間.Gastroenterol Endosc 2010; 52: 95-103(横断) — 15 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-6 大腸腫瘍に対する注腸造影検査の感度・特異度は? CQ 2-6 大腸腫瘍に対する注腸造影検査の感度・特異度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 腺腫に対する感度は 48〜74%,そのときの特異度は 97〜99%で あり,癌に対する感度は 50〜77%である. なし D 解説 注腸造影検査の精度を評価する際の対象として平均的リスク者が好ましいが,大腸癌の既往 歴がある者,大腸癌を疑う症状を有する者を対象者としているか,便潜血検査陽性者の精密検 査としての評価という形で精度が計測されているので,評価方法に問題が残る.また,gold standard の定義が曖昧で一定せず,研究の質はよくない. 既往歴がある者や有症状者を対象とした研究では,径 5~9 mm の腺腫に対する感度は 44%で, このときの特異度は 97%であり,径 10 mm 以上の腺腫では,それぞれ 39~56%,99%とされて いる 1) .また,Hemoccult 法陽性者を対象とした場合,径 10 mm 以上の腺腫での感度は 77%, 癌に対する感度は 50~81%と報告されている 2, 3) . 文献 1) Johnson CD, MacCarty RL, Welch TJ, et al. Comparison of the relative sensitivity of CT colonography and double-contrast barium enema for screen detection of colorectal polyps. Clin Gastroenterol Hepatol 2004; 2: 314-321(横断) 2) Jensen J, Kewenter J, Asztely M, et al. Double contrast barium enema and flexible rectosigmoidoscopy: a reliable diagnostic combination for detection of colorectal neoplasm. Br J Surg 1990; 77: 270-272(コホー ト) 3) Kewenter J, Brevinge H, Engaras B, et al. The yield of flexible sigmoidoscopy and double-contrast barium enema in the diagnosis of neoplasms in the large bowel in patients with a positive Hemoccult test. Endoscopy 1995; 27: 159-163(横断) — 16 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-7 大腸腫瘍に対する CT colonography の感度・特異度は? CQ 2-7 大腸腫瘍に対する CT colonography の感度・特異度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 径 10mm 以上の病変に対する病変ごとの感度は 94〜100%であ り,被験者ごとの感度は 100%,特異度は 99%である. なし C 解説 精度の評価に関して研究ごとに設定条件が異なっている.主な相違点は CAD(computeraided detection)の取り扱い,前処置法,tagging,segmental unblinding 法の採用などである. これら諸条件の組み合わせにより精度が異なるため正確な比較は困難である. また,対象集団も平均的リスク者集団から大腸腫瘍の既往歴を有する患者,有愁訴者など様々 であり,これらの諸条件を統一的に配慮した評価は困難になる.多くの検討は腺腫(ポリープ) を対象とした検討であるが,今回は①平均的リスク者を対象とした場合,②segmental unblinding 法を採用した場合,③癌を含めた場合に分けて整理する. 1)平均的リスク者を対象とした場合 腺腫の大きさ別の感度・特異度の評価がなされていた. 病変ごとの感度は,径 6~9 mm で 44~95%,径 10 mm 以上で 75~100%と広く分布してい る.しかし,径 6~9 mm 病変では 80~85%,径 10 mm 以上では 89~93%の感度の報告が平均 的である. 被験者ごとの感度の評価では,径 6~9 mm で感度 43~97%,特異度 92~95%,径 10 mm 以 上で感度 63~100%,特異度 96~98%と広く分布している.しかし,径 6~9 mm 病変では感度 84~87%,特異度 85~93%,径 10 mm 以上では感度 89~94%,特異度 96~98%の精度の報告 が平均的な値であった 1~7) . 2)segmental unblinding 法 を採用した場合 脚注) 病変ごとの解析では径 6~9 mm で感度は 47~96%,径 10 mm 以上では 57~95%であったが, 前者では 71~74%,後者では 77~78%が平均的な値と思われる.また,平坦型<無茎型<有茎 型の順に感度はよくなっていた. 被験者ごとの解析では,径 6~9 mm で感度 84~91%,特異度 83~93%,径 10 mm 以上で感 度 90~92%,特異度 95~98%であった 8~10) . — 17 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング 3)癌を含めた場合 advanced neoplasia(CQ 3-14 参照)を含む癌での検討がなされている.病変ごとの感度は,径 6 mm 以上の病変で 94~100%であり,被験者ごとの感度は 100%,特異度は 99%であった 11, 12) . 文献 1) Yee J, Akerkar GA, Hung RK, et al. Colorectal neoplasia: performance characteristics of CT colonography for detection in 300 patients. Radiology 2001; 219: 685-692(横断) 2) Pickhardt PJ, Choi JR, Hwang I, et al. Computed tomographic virtual colonoscopy to screen for colorectal neoplasia in asymptomatic adults. N Engl J Med 2003; 349: 2191-2200(横断) 3) Macari M, Bini EJ, Jacobs SL, et al. Colorectal polyps and cancers in asymptomatic average-risk patients: evaluation with CT colonography. Radiology 2004; 230: 629-636(横断) 4) Summers RM, Yao J, Pickhardt PJ, et al. Computed tomographic virtual colonoscopy computer-aided polyp detection in a screening population. Gastroenterology 2005; 129: 1832-1844(横断) 5) Graser A, Kolligs FT, Mang T, et al. Computer-aided detection in CT colonography: initial clinical experience using a prototype system. Eur Radiol 2007; 17: 2608-2615(横断) 6) Pickhardt PJ, Lee AD, Taylor AJ, et al. Primary 2D versus primary 3D polyp detection at screening CT colonography. AJR Am J Roentgenol 2007; 189: 1451-1456(横断) 7) Johnson CD, Chen MH, Toledano AY, et al. Accuracy of CT colonography for detection of large adenomas and cancers. N Engl J Med 2008; 359: 1207-1217(横断) 8) Pineau BC, Paskett ED, Chen GJ, et al. Virtual colonoscopy using oral contrast compared with colonoscopy for the detection of patients with colorectal polyps. Gastroenterology 2003; 125: 304-310(横 断) 9) Kim YS, Kim N, Kim SH, et al. The efficacy of intravenous contrast-enhanced 16-raw multidetector CT colonography for detecting patients with colorectal polyps in an asymptomatic population in Korea. J Clin Gastroenterol 2008; 42: 791-798(横断) 10) Liedenbaum MH, de Vries AH, van Rijn AF, et al. CT colonography with limited bowel preparation for the detection of colorectal neoplasia in an FOBT positive screening population. Abdom Imaging 2010; 35: 661-668(横断) 11) Regge D, Laudi C, Galatola G, et al. Diagnostic accuracy of computed tomographic colonography for the detection of advanced neoplasia in individuals at increased risk of colorectal cancer. JAMA 2009; 301: 2453-2461(横断) 12) Graser A, Stieber P, Nagel D, et al. Comparison of CT colonography, colonoscopy, sigmoidoscopy and faecal occult blood tests for the detection of advanced adenoma in an average risk population. Gut 2009; 58: 241-248(横断) 脚注) :CT colonography の結果を知らされずに内視鏡医が全大腸内視鏡検査を実施する.この際,大腸を(1)盲腸, (2)肝彎曲部,上行結腸, (3)横行結腸,脾彎曲部, (4)下行結腸, (5)S 状結腸, (6)直腸などの segment に分け,各 segment を内視鏡で観察したあと,CT colonography の所見を参照し,CT colonography で指摘され内視鏡検査で指摘さ れていない場合は,再度内視鏡による確認を行う.再観察によっても病変がない場合は偽陽性と判断される.もし再観察 により確認されれば,真陽性と判断される. — 18 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-8 大腸腫瘍に対する PET,PET/CT の感度・特異度は? CQ 2-8 大腸腫瘍に対する PET,PET/CT の感度・特異度は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 内視鏡検査を gold standard とした病変ごとの感度は 9〜37%で ある.特異度に関する報告はない. なし D 解説 PET の精度に関する適切な論文は 2 編であり,病院症例を対象としたもの 1)と検診受診者を 用いたものである 2) .両者とも内視鏡検査を gold standard にした病変ごとの精度解析である. 感度に関して,大きさでは径 6~10 mm で 47%,径 11 mm 以上で 59%,low-grade dysplasia 13%,high-grade dysplasia 67%,粘膜内癌 75%であり,径 5 mm 以下の病変まで含めた全体で の感度は 87 病変中 32 病変が指摘され,37%を示す報告がある 1) .一方,92 病変中指摘できた のは 9%という報告 2)も存在し,ばらつきが大きい.今後のデータの集積が必要であるが,現 在までの報告では,病変検索の手段として利用するには感度が不良と考えられる. 文献 1) Nakajo M, Jinnouchi S, Tashiro Y, et al. Effect of clinicopathologic factors on visibility of colorectal polyps with FDG PET. AJR Am J Roentgenol 2009; 192: 754-760(横断) 2) 高田勇馬,沖谷光博,田辺浩気,ほか.大腸癌検診における PET の有用性について.Rad Fan 2007; 5: 124127(横断) — 19 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-9 便中遺伝子,その他のバイオマーカーを用いた有用なスクリー ニング法は? CQ 2-9 便中遺伝子,その他のバイオマーカーを用いた有用なスクリーニング法 は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 便中 DNA 検査など数種の検査方法が提唱されているが,いずれも 研究段階でエビデンスはなく,実施を検討する段階ではない. なし C 解説 便潜血以外の便中マーカーをターゲットにした検査法がいくつか提唱されているが,スクリー ニングに用いた際の有効性についてはエビデンスがなく,現段階は研究レベルと判断される. 便中 DNA については,KRAS,APC,p53,BAT26,long DNA などが計測されている.一般 的にはパネルとして同時にこれらマーカーを評価し,精度が推定されている.平均的リスク者 集団,大腸腫瘍患者と健常者の混成集団が対象とされており,gold standard は大腸内視鏡検査 である.平均的リスク者集団を対象とした場合,癌と high-grade dysplasia,advanced adenoma に対する感度は 18~20%,特異度は 94~96%である.ただし,癌症例だけをターゲットと すると感度は 52%となる 1, 2) .混成集団での検討では,癌をターゲットとした場合の感度は 64~ 75%,advanced adenoma まで範囲を広げると感度は 57%となる.特異度は 90~96%である 3, 4) . long DNA だけに絞って混成集団で精度をみた研究があるが,カットオフ値の設定により感度 は 65~84%と変化し,それに対応する特異度は 78~96%であった 5) . SFRP2,HPP1,p16,MGMT,ITGA4,hMLH-1,vimentin 遺伝子のメチル化に注目した研究 もなされている.単独では精度不良のためこれらのいくつかを組み合わせて精度の評価が行わ れている.対象集団は病院ベースのため,癌,advanced adenoma などの症例に正常者を加えた 混成集団となる.癌に対する感度は,70~96%,advanced adenoma では 44~80%,両者を合 わせると 74~94%で特異度は 77~97%である 6~11) .今後,健常集団での評価が望まれる. 顆粒球由来の calprotectin をマーカーとした検討もなされている.カットオフ値の設定によっ て精度は変化するが 20~50 µg/g では大腸癌での感度は 37~80%,特異度は 63~72%である. また,カットオフ値 50 µg/g での無症状の癌症例では感度 79%,特異度 61%,有症状患者では 感度 91%との報告もある.しかし,特異度が低くスクリーニング検査としての性能には達して いない 12~14) . 便中 M2-PK の検出も試みられている.M2-PK は,一般に増殖する細胞で認められる pyruvate kinase の isoenzyme であり,腫瘍でも同様に検出される.精度の研究対象としては患者 — 20 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 ベースでそれに健常者が含まれている.癌に対する感度は 81~85%,癌と腺腫をターゲットに した場合は 58~89%と報告されている.特異度は 71~90%である.上記 calprotectin と同様に 特異度が低く,便潜血検査に対する優位性はない 15, 16) . 文献 1) Imperiale TF, Ransohoff DF, Itzkowitz SH, et al. Fecal DNA versus fecal occult blood for colorectal-cancer screening in an average-risk population. N Engl J Med 2004; 351: 2704-2714(横断) 2) Ahlquist DA, Sargent DJ, Loprinzi CL, et al. Stool DNA and occult blood testing for screen detection of colorectal neoplasia. Ann Intern Med 2008; 149: 441-450(横断) 3) Tagore KS, Lawson MJ, Yucaitis JA, et al. Sensitivity and specificity of a stool DNA multitarget assay panel for the detection of advanced colorectal neoplasia. Clin Colorectal Cancer 2003; 3: 47-53(横断) 4) Leung WK, To KF, Man EP, et al. Detection of hypermethylated DNA or cyclooxygenase-2 messenger RNA in fecal samples of patients with colorectal cancer or polyps. Am J Gastroenterol 2007; 102: 1070-1076 (横断) 5) Calistri D, Rengucci C, Molinari C, et al. Quantitative fluorescence determination of long-fragment DNA in stool as a marker for the early detection of colorectal cancer. Cell Oncol 2009; 31: 11-17(ケースコント ロール) 6) Huang ZH, Li LH, Yang F, et al. Detection of aberrant methylation in fecal DNA as a molecular screening tool for colorectal cancer and precancerous lesions. 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Hepatogastroenterology 2010; 57: 720-727(横断) 12) Kristinsson J, Nygaard K, Aadland E, et al. Screening of first degree relatives of patients operated for colorectal cancer: evaluation of fecal calprotectin vs. hemoccult II. Digestion 2001; 64: 104-110(横断) 13) Johne B, Kronborg O, Ton HI, et al. A new fecal calprotectin test for colorectal neoplasia: clinical results and comparison with previous method. Scand J Gastroenterol 2001; 36: 291-296(横断) 14) Limburg PJ, Devens ME, Harrington JJ, et al. Prospective evaluation of fecal calprotectin as a screening biomarker for colorectal neoplasia. Am J Gastroenterol 2003; 98: 2299-2305(横断) 15) Shastri YM, Naumann M, Oremek GM, et al. Prospective multicenter evaluation of fecal tumor pyruvate kinase type M2 (M2-PK) as a screening biomarker for colorectal neoplasia. Int J Cancer 2006; 119: 26512656(横断) 16) Mulder SA, van Leerdam ME, van Vuuren AJ, et al. Tumor pyruvate kinase isoenzyme type M2 and immunochemical fecal occult blood test: performance in screening for colorectal cancer. Eur J Gastroenterol Hepatol 2007; 19: 878-882(横断) — 21 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-10 画像強調観察は大腸腫瘍のスクリーニングに有用か? CQ 2-10 画像強調観察は大腸腫瘍のスクリーニングに有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 白色光観察と比較して,画像強調観察は大腸腫瘍のスクリーニング に有用とはいえないため,行わないように提案する. 2 (88%) A 解説 メタアナリシスの結果,NBI 観察(LUCERA 260,EXERA 2)は白色光観察と比較し病変指摘 率に差を認めなかったと報告されている(Am J Gastroenterol 2012; 107: 363-370 a) ,J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 882-887 b) [検索期間外文献] ) .FICE 観察でも白色光観察と比較し腫瘍の 発見率を改善しなかったと報告されている 1, 2) .しかし,新しい高画素で明るい光源システムに改 良された NBI(LUCERA ELITE,EXERA 3)や BLI などの新しいモダリティーが登場しており, これらの画像強調観察の大腸腫瘍のスクリーニングにおける有用性に関しては,現在新たな臨 床試験が進行中である. 文献 1) Chung SJ, Kim D, Song JH, et al. Efficacy of computed virtual chromoendoscopy on colorectal cancer screening: a prospective, randomized, back-to-back trial of Fuji Intelligent Color Enhancement versus conventional colonoscopy to compare adenoma miss rates. Gastrointest Endosc 2010; 72: 136-142(ランダム) 2) Aminalai A, Rösch T, Aschenbeck J, et al. Live image processing does not increase adenoma detection rate during colonoscopy: a randomized comparison between FICE and conventional imaging (Berlin Colonoscopy Project 5, BECOP-5). Am J Gastroenterol 2010; 105: 2383-2388(ランダム) 【検索期間外文献】 a) Pasha SF, Leighton JA, Das A, et al. Comparison of the yield and miss rate of narrow band imaging and white light endoscopy in patients undergoing screening or surveillance colonoscopy: a meta-analysis. Am J Gastroenterol 2012; 107: 363-370(メタ) b) Jin XF, Chai TH, Shi JW, et al. Meta-analysis for evaluating the accuracy of endoscopy with narrow band imaging in detecting colorectal adenomas. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 882-887(メタ) — 22 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング Clinical Question 2-11 大腸癌の適切なスクリーニング法とその間隔は? CQ 2-11 大腸癌の適切なスクリーニング法とその間隔は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 便潜血検査では逐年または隔年による検診が適切であり,逐年また は隔年で実施することを推奨する. 1 (100%) A ● 大腸内視鏡検査も個人レベルで行う任意型検診についてはスクリーニング法として有用である が間隔については明らかにされていない. 解説 スクリーニングに用いた検査法で死亡率減少効果が確認されているのは,便潜血検査と S 状 結腸鏡検査のみであり,大腸内視鏡検査の死亡率減少を示す直接的証拠はまだ存在しない.一 方,内視鏡検査については,臨床現場で経過観察にも用いられており,検査間隔の指標となる データが必要とされているという現実がある.このような現状を踏まえた評価を行った. 便潜血検査については,主に初期の 3 本の無作為化比較対照試験で 15~33%の死亡率減少効 果が証明されたが,これらは化学法で 3 日間のサンプルを利用したものであり,検診間隔は 1 年と 2 年であった.すなわち,逐年または隔年で便潜血検査を健常集団に実施すれば,死亡リ スクが低減すると考えられる 1~4) . また,症例対照研究では免疫法を用いた検討も含まれ,2~5 年以内の受診でオッズ比の低下 を報告しているが,多くは 2~3 年以内受診である 5~9) .以上より,便潜血検査では 2 年以内の 検査が適切と判断される. S 状結腸鏡検査での検討では,初回検査で所見がなかった者を用いたコホート研究がなされ ている.3 年後の腺腫や癌の発見率は 0.8%程度であり 10) ,3 年後受診群と 5 年後受診群で発見 率に差をみなかった 11) . S 状結腸鏡検査+便潜血検査(免疫法)で検診初回,所見のなかった者の経過観察では,腺腫 や癌を発見するオッズ比は 1 年後に発見されるリスクを 1 とした場合,3 年目までリスクに差が なく 4 年目からが 3.40 と有意に高くなった.浸潤癌を発見するリスクも同様で 3 年目までは 1 年目と差がなかった 12) .以上より,S 状結腸鏡検査を用いた場合,次回検診は 3~5 年後程度に 設定するのが適切と思われる. 全大腸内視鏡検査では初回検査で所見のなかった者を 5 年後に検査したところ 27%(41 人/154 人)で 1 個以上の腺腫を発見したが,径 10 mm 以上の腺腫は 1 例(0.6%) ,癌は発見せずという 結果のコホート研究がある 13) .また,以前に全大腸内視鏡検査受診歴のない集団を標準人口に — 23 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2.スクリーニング し,初回検査で所見のなかった者のその後の advanced adenoma に対する罹患リスクを標準化罹 患比で検討した研究では,11~15 年後でも 0.38 と有意に低い結果であった.また,癌は発見さ れなかった 14) .以上より,初回全大腸内視鏡検査で所見をみない場合,次回検査を 10 年程度に しても問題ないと推測される. また,わが国でも腺腫を完全に除去した状態から観察を開始し,大腸内視鏡検査の適切な間 隔を推定するための試験(Japan Polyp Study)が進行中であり,日本人に適した合理的な検査間 隔の指針が期待される 15) . 以上より欧米でのデータからは,便潜血検査では逐年または隔年による検診が適切で,S 状 結腸鏡検査では,初回検査で所見がなければ次回検査を 3~5 年後に設定できる.全大腸内視鏡 検査では,初回検査で所見がなければ,10 年後に次回検査を実施することが可能と推定される. 文献 1) Mandel JS, Bond JH, Church TR, et al. Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood: Minnesota Colon Cancer Control Study. N Engl J Med 1993; 328: 1365-1371(ランダム) 2) Kronborg O, Fenger C, Olsen J, et al. Randomised study of screening for colorectal cancer with faecaloccult-blood test. Lancet 1996; 348: 1467-1471(ランダム) 3) Hardcastle JD, Chamberlain JO, Robinson MH, et al. Randomised controlled trial of faecal-occult-blood screening for colorectal cancer. Lancet 1996; 348: 1472-1477(ランダム) 4) Mandel JS, Church TR, Bond JH, et al. The effect of fecal occult-blood screening on the incidence of colorectal cancer. N Engl J Med 2000; 343: 1603-1607(ランダム) 5) Selby JV, Friedman GD, Quesenberry CP Jr, et al. Effect of fecal occult blood testing on mortality from colorectal cancer: a case-control study. Ann Intern Med 1993; 118: 1-6(ケースコントロール) 6) Hiwatashi N, Morimoto T, Fukao A, et al. An evaluation of mass screening using fecal occult blood test for colorectal cancer in Japan: a case-control study. 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Carcinoma of the colon and rectum. In: WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, Carneiro F, Hruban RH, et al (eds), IARC Press, Lyon, 2010: p134-136 2) Nakamura S, Kino I, Akagi T. Inflammatory myoglandular polyps of the colon and rectum: a clinicopathological study of 32 pedunculated polyps, distinct from other types of polyps. Am J Surg Pathol 1992; 16: 772-779 3) Matake H, Matsui T, Yao T, et al. Long pedunculated colonic polyp composed of mucosa and submucosa: proposal of a new entity, colonic muco-submucosal elongated polyp. Dis Colon Rectum 1998; 41: 15571561(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 b) Clouston AD, Walker NI. Polyp and tumor-like lesions of the large intestine. In: Morson and Dawson’s Gastrointestinal Pathology, 5th Ed, Shepherd NA, Warren BF, Williams GT, et al (eds), Wiley-Blackwell, Oxford, 2013: p647-684 — 26 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 表1 大腸ポリーブの分類 通常型腺腫(Conventional adenoma) 管状腺腫(Tubular) 管状絨毛腺腫(Tubulovillous) 絨毛腺腫(Villous) 平坦腺腫(flat adenoma) 鋸歯状ポリープ(Serrated polyp) 過形成性ポリープ(Hyperplastic polyp; microvesicular, goblet cell, mucin) Sessile serrated adenoma 混合型ポリープ(Mixed polyp) Traditional serrated adenoma ポリポイド腺癌(polypoid adenocarcinoma) 炎症性(Inflammatory) Mucosal prolapse-associated polyp Inflammatory polyp Inflammatory myoglandular polyp Polypoid granulomatous tissue Infection-associated polyp 過誤腫性(Hamartomatous) Peutz-Jeghers polyp Jevenile polyp Cowden syndrome and Bannayan-Riley-Ruvalcaba syndrome Cronkheit-Canada syndrome 間質性(Stromal) Inflammatory fibroid polyp Fibroblastic polyp/peri-neurinoma Schwann cell hamartoma Neurilemmoma and nerve sheath tumor variants Ganglio-neuroma Leiomyoma of muscularis mucosae Lipoma Lipohyperplasia of ileocaecal valve Gastrointestinal stromal tumors Neurofibroma Granular cell tumor リンパ組織性(Lymphoid) Prominent lymphoid follicle/rectal tonsil Lymphomatous polyposis 内分泌性(Endocrine) Well differentiated endocrine(Carcinoid)tumor その他(Other) Prominent mucosal fold Muco-submucosal elongated polyp Everted appendical stump or caecal diverticulum Elastic polyp Endometriosis Mucosal xanthoma — 27 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-2 腺腫の担癌率は? CQ 3-2 腺腫の担癌率は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 腺腫の担癌率に影響する因子は,大きさ,肉眼型,腺腫の異型度,絨 毛成分の有無,である.腺腫の担癌率は,報告者によって異なってい るが,本邦の報告では径 5mm 以下での癌化率は 0.46%,径 6〜 9mm では 3.3%,径 10mm 以上では 28.2%程度とされている. なし C 解説 腺腫の担癌率は報告者によって異なった率が報告されている.その理由として病理医による 診断基準の違いがある.腺腫の診断も癌の診断も病理診断に依存しており,診断基準が診断医 によって異なっているからである.特に本邦と欧米の粘膜内癌の診断基準はまったく異なって おり,本邦の病理医は積極的に粘膜内癌を診断するが,欧米の病理医は粘膜下層浸潤癌になっ てはじめて腺腫の癌化として捉える傾向にある(Morson and Dawson’s Gastrointestinal Pathology, 5th Ed a) [検索期間外文献] ) .本邦の粘膜内癌は欧米では high grade dysplasia として記載さ れることが多い a) .上記のような事情から,本邦と欧米の担癌率は単純には比較できないと考え られる. 腺腫の癌化は一般に,大きさ,組織学的異型度,絨毛成分の比率,に関連しているとされる が,特に大きさが最も重要視される a) .異型度も腺腫の大きさに依存していることが知られてい るので,臨床的にも腺腫の癌化の危険性を判断する材料としては腺腫の大きさが最も有用と思 われる.一方,絨毛腺腫の癌化率が高いことは周知のとおりで a) ,管状腺腫および管状絨毛腺腫 と絨毛腺腫の癌化率の比較は単純にはできないと思われる.両者の生物学的性状が異なるので, 両者の癌化の比較は別々に行うべきである. 腺腫の癌化率を報告した論文は意外に少ないが,腺腫の癌化率が大きさに依存していること はどの論文でも共通している.本邦の山際らの報告では,管状腺腫および管状絨毛腺腫の癌化 率は,径 10 mm 未満で 15%,径 10 mm 以上 20 mm 未満で 39%,径 20 mm 以上で 65.9%であ る 1) .Sakamoto らの報告では,径 5 mm 以下での癌化率は 0.46%,径 6~9 mm では 3.3%,径 10 mm 以上では 28.2%としている(Colorectal Dis 2013; 15: e295-e300 b)[検索期間外文献] ) .ま た山野らの報告では,腺腫内癌と粘膜内癌における大きさ別の報告であるが,径 5 mm 未満の 粘膜内担癌率は 0.4%,径 5 mm 以上 10 mm 未満では 3.4%,径 10 mm 以上 15 mm 未満では 12%,径 15 mm 以上 20 mm 未満では 20.7%,径 20 mm 以上 25 mm 未満では 26.6%,径 25 mm — 28 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 以上 30 mm 未満では 32.1%,径 30 mm 以上では 28.7%であったとしている 2) .肉眼型別の担癌 率では,隆起型では(Ⅰp,Ⅰsp,Ⅰs,Ⅱa)では径 10mm 以下の癌化率は低いが(1~17%) ,一 方,Ⅱa+psedo-depression,Ⅱc と Ⅱa+Ⅱc では径 6~10 mm の癌化率は高い(それぞれ 50%, 58%)ことが報告されている.LST-G(LST-granular)の両群の中間程度とされる(23%)3) . 一方欧米の報告では,Gschwantler らの報告によると,径 5 mm 未満で 3.4%,径 5~10 mm の間で 13.5%.径 10 mm を超えると 38.5%に high grade dysplasia がみられたとしている 4) .ま た,Bertario ら 1,063 例の大腸腺腫の報告では 3.1%に high grade dysplasia が認められた 5) .欧 米の National Polyp Study では,径 0.1~0.5 cm では 2%,径 0.6~1.0 cm では 5%,径 1.1~ 1.5 cm では 10%,径 1.6~2.0 cm では 12%,径 2.1~2.5 cm では 20%,径 2.6~3.0 cm では 18% の high grade dysplasia 率であったとしている 6) . 上記の報告からもわかるように,各報告の腺腫の癌化率もしくは high grade dysplasia 率はか なりの相違がみられる.これは病理医の腺腫および癌もしくは high grade dysplasia の診断が異 なっていることが主要な理由であることは容易に理解できる.いずれにせよ腺腫の担癌率は腺 腫の大きさによって上昇することは明らかである. 文献 1) 山際裕史,大西徹哉.大腸腺腫の癌化―最近 5 年間のポリペクトミー例.治療 1994; 76: 2879-2882(横断) 2) 山野泰穂,黒田浩平,吉川健二郎,ほか.大腸腫瘍性病変の臨床病理学的特性からみた内視鏡治療の適応 と実際―スネア EMR の観点から.胃と腸 2007; 42: 1053-1059(横断) 3) 岡 志郎,田中信治.大腸腺腫の発育形態分類;私はこう考える―内視鏡の立場から(2)肉眼形態分類 及び発育形態分類の住み分け.早期大腸癌 2008; 12: 263-268 4) Gschwantler M, Kriwanek S, Langner E, et al. High-grade dysplasia and invasive carcinoma in colorectal adenomas: a multivariate analysis of the impact of adenoma and patient characteristics. Eur J Gastroenterol Hepatol 2002; 14: 183-188(横断) 5) Bertario L, Russo A, Sala P, et al. Risk of colorectal cancer following colonoscopic polypectomy. Tumori 1999; 85: 157-162(コホート) 6) O’Brien MJ, Winawer SJ, Zauber AG, et al. The National Polyp Study: patient and polyp characteristics associated with high-grade dysplasia in colorectal adenomas. Gastroenterology 1990; 98: 371-379(横断) 【検索期間外文献】 a) Clouston AD, Walker NI. Polyp and tumor-like lesions of the large intestine. In: Morson and Dawson’s Gastrointestinal Pathology, 5th Ed, Shepherd NA, Warren BF, Williams GT, et al (eds), Wiley-Blackwell, Oxford, 2013: p647-684 b) Sakamoto T, Matsuda T, Nakajima T, et al. Clinicopathological features of colorectal polyps: evaluation of the ‘predict, resect, and discard’ strategies. Colorectal Dis 2013; 15: e295-e300(横断) — 29 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-3 大腸腺腫の癌化に関与する遺伝子は? CQ 3-3 大腸腺腫の癌化に関与する遺伝子は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 正常粘膜から腺腫になる際に APC 変異が,腺腫の異型度が高くな る 際 に は KRAS 変 異 が ,癌 に な る 段 階 で p53 変 異 も し く は DPC4 変異が関与する. なし C 解説 Vogelstein が正常粘膜から大腸腺腫を介して大腸癌に至る多段階発現の仮説を提唱して以来, 現在でも通説化している(adenoma-carcinoma sequence)1, 2) .本仮説の意義は,腺腫から癌にな る際の責任遺伝子と責任染色体アレルの異常について明らかにしたことで,この仮説に登場す る遺伝子変異は今も大腸癌発生に重要な役割を担っている 3) . 本仮説における各遺伝子変異の役割を図 1 に示す 1~3) .要約すると,正常粘膜から腺腫になる 5q LOH Normal 1p LOH Low grade adenoma 17p LOH High grade adenoma 18q LOH,8p LOH,22q LOH Intramucosl cancer Advanced cancer 図 1 adenoma-carcinoma sequence 仮説 — 30 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 際に APC 変異が,腺腫のグレードアップ(異型が増したり,大きさが増大したりする場合)が起 こる場合には KRAS 変異が,最終的に腺腫が癌になる場合には p53 変異が関与するというもの である.DPC4 変異が腺腫から腺癌のどの段階に関与しているかについては報告者によって異 なっているが,癌化に関連する遺伝子と考える 4, 5) .APC 変異はほとんどの腺腫に認められ(80% 以上) ,その役割は一般には gate keeper 遺伝子とされている 3) .APC は wnt 系シグナルの中核 的遺伝子とされ,GSK3β や Axin と複合体を形成して,β catenin の分解を制御している.APC 遺伝子に変異が起こると,β catenin の分解が抑制され核内蓄積が引き起こされる.その結果, TCF/LEF などの転写因子が c-myc や cyclin D1 などのターゲット遺伝子の転写を活性化する 6) . Wnt 系シグナルには多数の分子が関しており,その多くに DNA メチル化異常が報告されてい る 6) .KRAS の腺腫における役割は種々のものが報告されているが,腺腫のサイズアップ,異型 度の上昇,絨毛成分の混在との関連性が指摘されている 7) . LST(laterally spreading tumor)は LST-G と LST-NG に分類されるが,LST-G には KRAS の 変異が異常に高率であることが明らかになっている 8) ,一方,LST-NG にはそのような特徴はな いとされる 8) .現在のところ,LST-NG を規定する遺伝子異常については知られていない. 文献 1) Vogelstein B, Fearon ER, Hamilton SR, et al. Genetic alterations during colorectal tumor development. N Eng J Med 1988; 319: 525-532(ケースコントロール) 2) Fearon ER, Vogelstein, B. A genetic model for colorectal tumorigenesis. Cell 1990; 61: 759-767(ケースコン トロール) 3) Jass JR, Whitehall VL, Young J, et al. Emerging concepts in colorectal neoplasia. Gastroenterology 2002; 123: 862-876 4) Koyama M, Ito M, Nagai H, et al. Inactivation of both alleles of the DPC4/SMAD4 gene in advanced colorectal cancers: identification of seven novel somatic mutations in tumors from Japanese patients. Mutat Res 1999; 406: 71-77(ケースコントロール) 5) Miyaki M, Iijima T, Konishi M, et al. 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CQ 3-4 CIMP(CpG island methylator phenotype),MSI(microsatellite instability)phenotype とは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● CIMP は,CpG 配列のメチル化がゲノムワイドに起きる分子異常 を指している. なし C ● MSI phenotype とは腫瘍細胞が MSI を認める分子病型のことを 指す. なし C 解説 遺伝子の発現の制御には,プロモーター領域(遺伝子の発現を制御している部分)の CpG 配 列のメチル化が重要である.CpG 配列にメチル化が起きるとその遺伝子の転写が抑制される. 癌抑制遺伝子の CpG 配列にメチル化が起きると,発癌に促進的に働く.CpG island methylator phenotype(CIMP)は,CpG 配列のメチル化がゲノムワイドに起きる分子異常を指している 1) (実際の臨床検体における CIMP の判定については,文献 1 および,Am J Pathol 2012; 180: 616625 a) [検索期間外文献]参照) .DNA メチル化そのものは,大腸癌であれば増殖・分化に関連す る遺伝子にしばしば起きるが,CIMP との違いはそれらの場合はゲノムワイドではないことで ある.すなわち CIMP 陰性ということは,癌細胞内の遺伝子にまったく DNA メチル化がみら れない,ということを示しているわけではないことに注意が必要である.CIMP を示す腫瘍は, 臨床病理学的にも分子病理学的にも特徴的な所見を呈することが知られており,後述する MSI 型の腫瘍と密接に関連している 1, a).また CIMP には,MSI 陽性癌と密接に関連するタイプ (CIMP 1)の他に,KRAS 変異と関連するタイプ(CIMP 2)があることも指摘されている 2) . MSI(microsatellite instability)はマイクロサテライト領域に起きる遺伝子異常である 1, a) .マイ クロサテライトは,1~5 塩基程度の塩基配列を 1 ユニットとする単純な繰り返し配列のことを 指している 1) .MSI 型とは腫瘍細胞が上記の MSI を認める分子病型のことを指す 3) .MSI の判定 はベセスダ基準を用いる 4) .MSI は Lynch 症候群ではミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞の変異 (MLH1,MSH2,MSH6,PMS2 遺伝子変異が主に報告されている)で,散発性大腸癌において は体細胞の MLH1 遺伝子のメチル化で引き起こされる 5) .散発性 MSI 型腫瘍は,臨床病理学的 にも,分子病理学的にも特徴を有している.臨床病理学的には高齢の女性に多く,右側発生の 大腸が多い.組織型も特徴的で,粘液癌,髄様癌(低分化腺癌の亜型) ,鋸歯状腺癌などの組織 像を示す 6) .分子病理学的には,BRAF 変異,CIMP などの分子異常を示すことが多い 6) .この — 32 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 ように MSI 型腫瘍では CIMP を認めることが多く,両者は互いに関連している 1, 6, a) . 文献 1) Toyota M, Ahuja N, Ohe-Toyota M, et al. CpG island methylator phenotype in colorectal cancer. Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96: 8681-8686(横断) 2) Shen L, Toyota M, Kondo Y, et al. Integrated genetic and epigenetic analysis identifies three different subclasses of colon cancer. Proc Natl Acad Sci U S A 2007; 104: 18654-18659(横断) 3) Lengauer C, Kinzler KW, Vogelstein B. 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CQ 3-5 分子生物学的特徴からみた大腸癌の発癌経路は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大 腸 癌 は ,分 子 異 常 の 観 点 か ら ①chromosomal instability (CIN)と,②microsatellite instability(MSI 型,MIN 型)の 2 つの代表的なタイプに分類される.両者は臨床病理学的にも分子病 理学的にも異なった特徴を有している. なし C 解説 大腸癌は,分子異常の観点から chromosomal instability(CIN)と microsatellite instability (MSI 型,MIN 型)の 2 つの代表的なタイプに分類される 1) (表 1) . 前者は,各染色体もしくは遺伝子を含む各染色体アレルの増減を特徴とする.CIN は染色体 分割の異常を本態とし(その詳細な機序は解明されていない) ,その結果として,DNA aneuploidy や LOH(loss of heterozygosity) ,遺伝子増幅,テロメアの機能異常を引き起こす.CIN を特徴づける遺伝子異常として p53 変異が知られている(J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 14231431 a) [検索期間外文献] ) . 一方後者は,マイクロサテライト領域の異常を特徴とする 1) .ミスマッチ修復遺伝子の異常が 原因とされる 2, a) .LOH の蓄積も低いとされ,DNA ploidy も diploid のことが多い 2, 3, a) .p53 変 異も低頻度であることが知られている 2, 3) .MSI 型癌の初期異常は BRAF 変異であることが明ら 表1 大腸癌における代表的な分子病型 Chromosomal instability(CIN,MSS) Microsatellite instability(MSI,MIN) DNA aneuploidy DNA diploidy 変異(+) 変異(±) 変異(+) 変異(−) 変異(−) 変異(+) LOH(+) LOH(+) CIMP(−) CIMP(+) 左側癌 右側癌 90% 10% MSS:microsatellite stable — 34 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 かになりつつあるが 2~4),KRAS 変異もみられる 5, 6).両遺伝子とも同一の細胞内シグナル系 (MAPK 経路)に関与しており,両者の変異が互いに排他的であることが指摘されている 2) .MIN 型大腸癌では,ゲノムワイドに多数の遺伝子がメチル化されている(CIMP)2, 7) .CIMP は MSI 型 癌のみにしかみられないものではないが,MSI 型と密接に関連している 2) .両者の違いは,前駆 病変の差異にも対応しており,CIN の前駆病変は通常型腺腫が 4) ,MIN 型では鋸歯状病変(特に SSA/P)が推定されている 8) . CIN は臨床病理学的に,左側に多く,分化型腺癌で,悪性度が比較的高い癌が多い.散発性 大腸癌の 90%程度を占めるとされる 4, a) .いわゆる通常遭遇する一般的な大腸癌の分子病型であ る.一方 MSI 型を示す腫瘍は,右側に多く,粘液癌や髄様癌を示し,悪性度が比較的低い癌が 多いことが指摘されている 9) .臨床的予後も比較的良好とされている 1) .MSI 型癌の頻度は散発 性大腸癌の約 10%程度とされる 1, a) . 文献 1) Lengauer C, Kinzler KW, Vogelstein B. Genetic instability in colorectal cancers. Nature 1997; 386: 623-627 2) Leggett B, Whitehall V. Role of the serrated pathway in colorectal cancer pathogenesis. Gastroenterology 2010: 138: 2088-2100 3) Sugai T, Habano W, Nakamura S, et al. Genetic alterations in DNA diploid, aneuploid and multiploid colorectal carcinomas identified by the crypt isolation technique. Int J Cancer 2000; 88: 614-619(横断) 4) Jass JR, Whitehall VL, Young J, et al. Emerging concepts in colorectal neoplasia. Gastroenterology 2002; 123: 862-876 5) Cancer Genome Atlas Network. Comprehensive molecular characterization of human colon and rectal cancer. Nature. 2012; 487: 330-337(横断) 6) Sugai T, Habano W, Jiao Y-F, et al. Analysis of molecular alterations in left- and right-sided colorectal carcinomas reveals distinct pathways of carcinogenesis: proposal for new molecular profile of colorectal carcinomas. J Mol Diagn 2006; 8: 193-201(横断) 7) Toyota M, Ahuja N, Ohe-Toyota M, et al. CpG island methylator phenotype in colorectal cancer. Proc Natl Acad Sci U S A 1999; 96: 8681-8686(横断) 8) O’Brien MJ, Yang S, Mack C, et al. Comparison of microsatellite instability, CpG island methylation phenotype, BRAF and KRAS status in serrated polyps and traditional adenomas indicates separate pathways to distinct colorectal carcinoma end points. Am J Surg Pathol 2006; 30: 1491-1501(横断) 9) Jass JR. Classification of colorectal cancer based on correlation of clinical, morphological and molecular features. Histopathology 2007; 50: 113-130 【検索期間外文献】 a) Al-Sohaily S, Biankin A, Leong R, et al. Molecular pathways in colorectal cancer. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 1423-1431 — 35 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-6 adenoma-carcinoma sequence 説とは? CQ 3-6 adenoma-carcinoma sequence 説とは? ステートメント ● “大腸癌は腺腫を介して発癌する”という仮説である. 解説 adenoma-carcinoma sequence 説は “大腸癌は腺腫を介して発癌する” という仮説である(Cancer 1975; 36: 2251-2270 a) ,Lancet 1978; 1: 245-247 b) [検索期間外文献] ) .大腸癌が腺腫を介する例 があることは日常の病理診断をみれば明らかであるが,本邦では腺腫を介さず正常粘膜から直 接癌が発生するという de novo 癌仮説も有力に主張されている 1) .しかしながら,現在では大腸癌 への主経路が adenoma-carcinoma sequence であるということに関してはおおよその理解が得ら れているものと思われる 2) . Vogelstein によって提唱された adenoma-carcinoma sequence 仮説に基づいた多段階発癌モデ ルは,正常粘膜から低グレード腺腫になる際に APC 遺伝子の変異が,高グレード腺腫(大きさ が増大したもの,異型度が高度になった腺腫)になる場合に,KRAS 変異が,癌になる場合には p53 遺伝子変異が関与している,という仮説である 3) . 文献 1) Kudo S. Endoscopic mucosal resection of flat and depressed types of early colorectal cancer. Endoscopy 1993; 25: 455-461 2) Jass JR, Whitehall VL, Young J, et al. Emerging concepts in colorectal neoplasia. Gastroenterology 2002; 123: 862-876 3) Vogelstein B, Fearon ER, Hamilton SR, et al. Genetic alterations during colorectal tumor development. N Eng J Med 1988; 319: 525-532(横断) 【検索期間外文献】 a) Muto T, Bussey HJR, Morson BC. The evolution of cancer of the colon and rectum. Cancer 1975; 36: 22512270(横断) b) Hill MJ, Morson BC, Bussey HJ. Aetiology of adenoma-carcinoma sequence in large bowel. Lancet 1978; 1: 245-247 — 36 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-7 de novo 癌とは? CQ 3-7 de novo 癌とは? ステートメント ● 正常の大腸粘膜から直接発生する癌をいう. 解説 adenoma-carcinoma sequence を介さず,正常の大腸粘膜から直接発生する癌をいう 1~3) .具体 的には正常腺管から直接発生する像をいうわけであるが,実際の症例をみて,de novo 癌と確定 的に診断することは困難である. 臨床的には表面・陥凹型癌を考えることが多い.この癌の特徴は早期に浸潤する悪性度の高 い癌 2, 3)とされている.de novo 癌の定義は必ずしも確定されていないので 4~6) ,分子異常を解析 する場合には腺腫成分を含まない表面・陥凹型癌の分子異常の特徴を de novo 癌の分子異常の特 徴としていることが多い(de novo 型癌)7, 8) .それによると,de novo 型病変の分子異常については, p53 遺伝子変異が重視されているが 7) ,adenoma-carcinoma sequence において重要な役割を担っ ている KRAS 変異は少ないことも明らかになっている 8) . 文献 1) Spratt JS Jr, Ackerman LV. Small primary adenocarcinomas of the colon and rectum. JAMA 1962; 179: 337346(ケースシリーズ) 2) Goto H, Oda Y, Murakami Y, et al. Proportion of de novo cancers among colorectal cancers in Japan. Gastroenterology 2006; 131: 40-46(コホート) 3) Kudo S. Endoscopic mucosal resection of flat and depressed types of early colorectal cancer. Endoscopy 1993; 25: 455-461 4) Shimoda T, Ikegami M, Fujisaki J, et al. Early colorectal carcinoma with special reference to its development de novo. Cancer 1989; 64: 1138-1146(横断) 5) Hornick JL, Farraye FA, Odze RD. Clinicopathologic and immunohistochemical study of small apparently “de novo” colorectal adenocarcinomas. Am J Surg Pathol 2007; 31: 207-215(横断) 6) Hanski C, Bornhoeft G, Shimoda T, et al. Expression of p53 protein in invasive colorectal carcinomas of different histologic types. Cancer 1992; 70: 2772-2777(横断) 7) Hasegawa H, Ueda M, Furukawa K, et al. p53 gene mutations in early colorectal carcinoma: de novo vs. adenoma-carcinoma sequence. Int J Cancer 1995; 64: 47-51(横断) 8) Fujimori T, Satonaka K, Yamamura-Idei Y, et al. Non-involvement of ras mutations in flat colorectal adenomas and carcinomas. Int J Cancer 1994; 57: 51-55(横断) — 37 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-8 PG(polypoid growth) ,NPG(non-polypoid growth) とは? CQ 3-8 PG(polypoid growth),NPG(non-polypoid growth)とは? ステートメント ● 早期大腸癌における割面形態による,癌の浸潤様式の分類である. 解説 早期大腸癌はその割面形態により PG(polypoid growth)と NPG(non-polypoid growth)に分 類できる(図 1)1, 2) .下田らは,癌の粘膜部が辺縁正常粘膜より丈が高くなっているものを PG 型 とし,癌粘膜分の厚さが辺縁粘膜(多くの場合は過形成性粘膜)と同等かあるいは薄くなってい るものを NPG と定義している 3) .また,潰瘍形成をきたし粘膜内病変が消失したものは NPG タイプとする 3) . ここで注意すべきことは,癌の粘膜下層浸潤部分が極めて多いものの扱いである.この場合 表面が潰瘍化し,粘膜病変を脱落させるので浸潤癌における初期粘膜病変の解析は困難になる. SM 浸潤癌の初期病変を推定するためには,癌の SM 浸潤量が少なく,かつ粘膜内病変が残存保 持されていることが必要になる 4) . PG 癌は,径 10 mm 以下で SM 浸潤するものが少なく,多くは径 20 mm 以上になって浸潤す a b 図 1 PG,NPG の病理像 a:PG タイプの粘膜下層浸潤癌.辺縁に腺腫部分が残存している. b:NPG タイプの粘膜下層浸潤癌 (東京慈恵会医科大学病理講座 池上雅博先生からの供与) — 38 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 る癌が多い.一方,NPG は径 5 mm ですでに SM 浸潤がみられ,小さい粘膜の陥凹ないし平坦 型病変から早期に深部浸潤する癌であることが多い 4) .また,癌の粘膜内全層性置換率は PG 癌 で低く,NPG 癌で高い.したがって,PG とされた病変は腺腫内癌が推定され,NPG 癌の場合 は de novo 癌由来が推定される 1, 2) .しかしながら,PG,NPG で初期病変が平坦陥凹型,adenoma-carcinoma sequence,de novo であったかは,直接結びつかないことに注意が必要である. 文献 1) Shimoda T, Ikegami M, Fujisaki J, et al. Early colorectal carcinoma with special reference to its development de novo. Cancer 1989; 64: 1138-1146(横断) 2) Ikegami M. A pathological study on colorectal cancer: from de novo carcinoma to advanced carcinoma. Acta Pathol Jpn 1987; 37: 21-37(横断) 3) 下田忠和,池上雅博,栗栖義賢,ほか.表面型期限大腸癌の病理学的特徴.胃と腸 1995; 30: 141-147(横 断) 4) 大野直人,下田忠和.大腸 pm 癌の病理学的検討―進行癌における pm 癌の位置づけ.日本大腸肛門病学 会雑誌 1993; 46: 733-739(横断) — 39 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-9 sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)とは? CQ 3-9 sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)とは? ステートメント ● 鋸歯状病変に分類される病変のひとつで,鋸歯状腺管の①腺底部の異常走行像,②不規則な分 岐,③拡張を組織学的な特徴とする.1)BRAF 変異,2)CpG island methylator phenotype(CIMP) ,3)MSI が関与している. 解説 giant hyperplastic polyp 1) ,variant hyperplastic polyp 2)など多くの類義語がある.いずれも まったくの同義語ではない.混同するので使用すべきではない.WHO における,鋸歯状病変 の分類を表 1 に示す.WHO では過形成性ポリープを表 1 のように 3 つのタイプに分類する. しかし,この分類の臨床的意義は明らかではない.鋸歯状腺腫は脳回状の表面構造を呈し,好 酸性の細胞質と先細りした核を有する円柱細胞で構成される.しばしば芽出像を認めることも . 組織学的な特徴である 2) 3) SSA/P の肉眼形態は,無茎性形態を有するポリープが多いとされる(図 1)(Am J Gastroen- terol 2012; 107: 1315-1329 a) [検索期間外文献] ) .発生部位は,右側に多い 3, a) .SSA/P の頻度は, 報告者によって異なっているが,Higuchi らによると大腸内視鏡によって切除されたポリープ のなかで 2.2%としている 3) .諸家による頻度の違いは,内視鏡診断の精度の違いによることが 多いと思われるが(拡大内視鏡や色素内視鏡を用いた検査かどうかなど) ,病理医の診断基準の 相違も影響していると考える. 組織学的特徴は,①陰窩底部の異常拡張,走行像(L 字型,逆 T 時型,ブーツ型など) ,②陰 窩の拡張像,③陰窩の不規則な分岐像,である 4, 5) .診断基準以外の組織学的特徴としては,寸胴 状,棍棒状,紡錘形拡張の腺管,左右不対照な crypt fission 様の所見,それと関連して増殖細胞 の不連続性所見(abnormal proliferation)などが組織所見として重要である 6~8) . 表1 WHO Classification of serrated lesions of the large bowel 1.hyperplastic polyp 1-1.microvesicular variant 1-2.goblet cell rich variant 1-3.mucin poor variant 2.sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P) 3.sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)with cytological dysplasia 4.serrated adenoma(traditional serrated adenoma:TSA) 5.hyperplastic(serrated adenomatous polyposis)polyposis — 40 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 a b 図 1 SSA/P の内視鏡所見 a:通常内視鏡 b:インジゴカルミン染色像 (広島大学 岡 志郎先生より供与) WHO では SSA/P with cytological dysplasia を分類に加えているが,これは①通常型腺腫に 類似した異型細胞の場合,②核小体の目立つ空砲状の核と好酸性細胞質を有する立方細胞の場 合,があるとされる.特に前者を認めた場合は APC 変異を認めないため通常型腺腫の合併では ないとしている(SSA/P から発生した異型病変と考える) . SSA/P の病態として,現在最も重視されているのは,陰窩のコンパートメントの障害である 6) . 一般に大腸管状腺腫の場合は,増殖領域の上方シフトがみられるのが特徴的であるが,過形成 性ポリープの場合は,増殖領域の移動は起こらず,増殖領域の拡大がみられるのが通常である. 一方 SSA/P は,増殖領域の上方シフトは起きないが,左右不対照性の増殖領域の拡大がみられ るのが特徴である 7) . SSP/A の分子病理学的所見であるが,①BRAF 変異 8, 9) ,②CpG island methylator phenotype (CIMP)8, 10) ,③MSI の 3 つが重要である 8) (Int J Cancer 2013; 132: 1800-1810 b) [検索期間外文 献] ) .初期の遺伝子異常は BRAF 変異で,中間的な段階が CIMP で.癌に至る最終的な分子異 常が MSI と考えられている 8) .SSA/P の癌化率であるが,真の癌化率は不明である.おおよそ, 2~5%前後と見積もられている 11) . 文献 1) Tonooka T, Sano Y, Fujii T, et al. Adenocarcinoma in solitary large hyperplastic polyp diagnosed by magnifying colonoscope: report of a case. Dis Colon Rectum 2002; 45: 1407-1411(ケースシリーズ) 2) Snover D, Ahnen DJ, Burt RW et al. Serrated polyps of the colon and rectum and serrated (“hyperplastic”) polyposis. In: WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, Carneiro F, Hruban RH, et al (eds), IARC Press, Lyon, 2010: p160 3) Higuchi T, Sugihara K, Jass JR. Demographic and pathological characteristics of serrated polyps of colorectum. Histopathology 2005; 47: 32-40 4) 菅井 有,山野泰穂,木村友昭,ほか.腸管.鋸歯状病変(28 巻臨時増刊号) .病理と臨 2010; 28: 144-147 — 41 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 5) 八尾隆史,菅井 有,岩下明徳,ほか.大腸 SSA/P の病理組織学的特徴と診断基準―大腸癌研究会プロ ジェクト研究から.胃と腸 2011; 46: 442-448 6) Torlakovic EE, Gomez JD, Driman DK, et al. Sessile serrated adenoma (SSA) vs. traditional serrated adenoma (TSA). Am J Surg Pathol 2008; 32: 21-29(横断) 7) Torlakovic E, Skovlund E, Snover DC, et al. Morphologic reappraisal of serrated colorectal polyps. Am J Surg Pathol 2003; 27: 65-81(横断) 8) Leggett B, Whitehall V. Role of the serrated pathway in colorectal cancer pathogenesis. Gastroenterology 2010: 138: 2088-2100(横断) 9) Spring KJ, Zhao ZZ, Karamatic R, et al. High prevalence of sessile serrated adenomas with BRAF mutations: a prospective study of patients undergoing colonoscopy. Gastroenterology 2006; 131: 1400-1407(横 断) 10) Kim KM, Lee EJ, Ha S, Kang SY, et al. Molecular features of colorectal hyperplastic polyps and sessile serrated adenoma/polyps from Korea. Am J Surg Pathol 2011; 35: 1274-1286(横断) 11) Lash RH, Genta RM, Schuler CM. Sessile serrated adenomas: prevalence of dysplasia and carcinoma in 2139 patients. J Clin Pathol 2010; 63: 681-686(横断) 【検索期間外文献】 a) Rex DK, Ahnen DJ, Baron JA, et al. Serrated lesions of the colorectum: review and recommendations from an expert panel. Am J Gastroenterol 2012; 107: 1315-1329 b) Gaiser T, Meinhardt S, Hirsch D, et al. Molecular patterns in the evolution of serrated lesion of the colorectum. Int J Cancer 2013; 132: 1800-1810(横断) — 42 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-10 serrated polyposis syndrome(SPS)とは? CQ 3-10 serrated polyposis syndrome(SPS)とは? ステートメント ● 鋸歯状ポリープが多発する疾患で,遺伝歴はないことが多い.大腸癌の合併が高率である. 解説 HPS の定義については,①少なくとも S 状結腸より近位で,2 個以上が 10 mm 以上の大きさ を有していること,②HPS に罹患している 1 親等以内の近親者で S 状結腸より近位にポリープ が発生していること,この場合数は問わない,③大きさは問わないが,全大腸に 20 個以上のポ リープを有していること,のうち,1 つ以上の基準を満足していることである 1) .名称は今回の WHO では hyperplastic polyposis より serrated polyposis を用いることを提案している 1) . これまで報告された HPS では,家族内に HPS がみられた症例はほとんどない.したがって, HPS は遺伝性の疾患ではないが,遺伝性の症例も報告されている 2) . 好発年齢は,50 歳代から 60 歳代とされており,性差は男性に多い(男女比は 4:1)3) .多くの 場合は無症状かポリポーシスに直接に関連しない症状で,ポリープそのものの症状は少ない. HPS を構成するポリープの肉眼形態も多様で,有茎性から無茎まで,種々のものがみられる. HPS を構成しているポリープの組織像は,①通常の過形成性ポリープ,②鋸歯状腺腫(serrated adenoma:SA) ,③少数の通常型の腺腫(traditional adenoma:TA) ,④sessile serrated polyp (adenoma) (SSA/P) ,⑤large hyperplastic polyp(LHP) ,⑥mixed polyp(MP)の 6 型のポリー プで主に構成されているとされている 4) .HPS の癌の合併は高率である 1) .多数例を扱った報告 では,50%以上で,同時性,異時性に癌の合併がみられる(大腸癌の高発癌グループ) .しかし, HPS と診断された症例を家族性大腸腺腫症のように大腸全摘術の対象にするということについ ては,現在のところは否定的とされる.HPS における監視対象になる所見は以下のもので,① 大腸全体に多発しているポリープ,②右にみられるポリープ,③大きさが 10 mm を超えている ポリープ(LHP と同義ではない.鋸歯状腺腫なども含まれる) ,④sessile serrated polyp,などで ある 5~8) . 文献 1) Snover D, Ahnen DJ, Burt RW et al. Serrated polyps of the colon and rectum and serrated (“hyperplastic”) — 43 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 polyposis. In: WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, Carneiro F, Hruban RH, et al (eds), IARC Press, Lyon, 2010: p160 2) Jeevaratnam P, Cottier DS, Browett PJ, et al. Familial giant hyperplastic polyposis predisposing to colorectal cancer: a new hereditary bowel cancer syndrome. J Pathol 1996; 179: 20-25(ケースシリーズ) 3) Jorgensen H, Mogensen AM, Svendsen LB. Hyperplastic polyposis of the large bowel: three cases and a review of the literature. Scand J Gastroenterol 1996; 31: 825-830(ケースシリーズ) 4) Torlakovic E, Snover DC. Serrated adenomatous polyposis in humans. Gastroenterology 1996; 110: 748-755 (横断) 5) Snover DC, Jass JR, Fenoglio-Preiser C, et al. Serrated polyps of the large intestine: a morphologic and molecular review of an evolving concept. Am J Clin Pathol 2005; 124: 380-391 6) Jass JR. Serrated adenoma of the colorectum and the DNA-methylator phenotype. Nat Clin Pract Oncol 2005; 2: 398-405(横断) 7) Yano T, Sano Y, Iwasaki J, et al. Distribution and prevalence of colorectal hyperplastic polyps using magnifying pan-mucosal chromoendoscopy and its relationship with synchronous colorectal cancer: prospective study. J Gastroenterol Hepatol 2005; 20: 1572-1577(横断) 8) Huang CS, O’Brien MJ, Yang S, et al. Hyperplastic polyps, serrated adenomas, and the serrated polyp neoplasia pathway. Am J Gastroenterol 2004; 99: 2242-2255 — 44 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-11 大腸癌の肉眼型分類は? CQ 3-11 大腸癌の肉眼型分類は? ステートメント ● 0 型:表在型,1 型:隆起腫瘤型,2 型:潰瘍限局型,3 型:潰瘍浸潤型,4 型:びまん浸潤 型,5 型:分類不能に分類される. 解説 大腸癌取扱い規約(第 8 版,金原出版,2013 a) [検索期間外文献] )では,大腸癌の肉眼分類と して 0~5 型までの肉眼型が設けられている.進行癌は胃癌の肉眼形態分類に準じて Borrmann 分類を基にした 1~4 型,分類不能の病変は 5 型で示されている.表在型腫瘍は 0 型(表在型) で示される.表在型大腸腫瘍の肉眼型は日本消化器内視鏡学会の早期胃癌分類に準じ,0-Ⅰ型 (隆起型)と 0-Ⅱ型(表面型)に分類されるが,さらに 0-Ⅰ型は 0-Ⅰp(有茎性),0-Ⅰsp(亜有茎 性) ,0-Ⅰs(無茎性)に,Ⅱ型は 0-Ⅱa(表面隆起型) ,0-Ⅱb(表面平坦型) ,0-Ⅱc(表面陥凹型)に 細分類される. パリ分類 1)においても,進行癌は Borrmann 分類に則って type 1~5 の 5 型のいずれかに分類 する.表在型腫瘍と判断される病変は type 0 とし,形状から polypoid(type 0-Ⅰ)と non-polypoid(type 0-Ⅱa,Ⅱb,Ⅱc)に分け,さらに type 0-Ⅰは type 0-Ⅰp(pedunculated)と type 0-Ⅰs (sessile)に細分類する.LST(laterally spreading tumor)は,内視鏡分類による肉眼形態分類に は含まず, “表層拡大型” という意味のニックネームとして取り扱う a, 2) .また,腺腫性病変の場合 も大腸癌に準じる. 文献 1) The Paris endoscopic classification of superficial neoplastic lesions: esophagus, stomach, and colon. Gastrointest Endosc 2003; 58: S3-S43 2) Kudo S, Lambert R, Allen JI, et al. Nonpolypoid neoplastic lesions of the colorectal mucosa. Gastrointest Endosc 2008; 68: S3-S47 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 — 45 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-12 大腸 pit pattern 分類とは? CQ 3-12 大腸 pit pattern 分類とは? ステートメント ● 拡大内視鏡観察による腺口形態分類である. 解説 pit pattern 分類は,大腸病変における拡大内視鏡観察による腺口形態分類であり,工藤,鶴田 らにより提唱された 1~3) .実体顕微鏡所見と病理組織所見との対比から,当初Ⅰ型からⅤ型まで の 5 つのパターンに分類されたが,その後の臨床病理学的検討により,箱根コンセンサス・ミー ティング以降,現在では Ⅰ型,Ⅱ型,ⅢS 型,ⅢL 型,Ⅳ型,ⅤI 型,ⅤN 型の 7 つに分類される (図 1)4) . Ⅰ型 pit pattern は円形で正常・炎症性病変,Ⅱ型は星芒状で過形成病変,ⅢS 型は小型類円 形,ⅢL 型は桿状,Ⅳ型は樹枝状・脳回状でともに大半が腺腫,ⅤI 型 pit pattern は,構造不整 を呈し主に高異型度粘膜内癌を反映した ⅤI 軽度不整と SM 高度浸潤癌を反映した ⅤI 高度不整 の 2 つに大別される.ⅤN 型 pit pattern は,無構造を呈しそのほとんどが SM 高度浸潤癌以深で ある.以上より,内視鏡的治療の対象となるのは ⅢS 型,ⅢL 型,Ⅳ型,ⅤI 軽度不整 pit pattern までの病変であり,ⅤI 高度不整および ⅤN 型 pit pattern は基本的に外科手術が選択される. 文献 1) Kudo S, Hirota S, Nakajima T, et al. Colorectal tumours and pit pattern. J Clin Pathol 1994; 47: 880-885(横 断) 2) Kudo S, Tamura S, Nakajima T, et al. Diagnosis of colorectal tumorous lesions by magnifying endoscopy. Gastrointest Endosc 1996; 44: 8-14(横断) 3) 河野弘志,鶴田 修,辻 雄一郎,ほか.拡大内視鏡を用いた大腸腫瘍性病変の pit pattern 診断.臨牀消 化器内科 2003; 18: 311-318(横断) 4) 工藤進英,倉橋利徳,樫田博史,ほか.大腸腫瘍に対する拡大内視鏡観察と深達度診断―箱根シンポジウ ムにおける Ⅴ型亜分類の合意.胃と腸 2004; 39: 747-752 — 46 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Ⅰ 類円形(正常) Ⅱ 星芒状 Ⅲs 小型類円形 ⅢL 桿状 Ⅳ 樹枝状・脳回状 ⅤI 不整形 ⅤN 無構造 図 1 pit pattern 分類 — 47 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-13 LST(laterally spreading tumor)とは? CQ 3-13 LST(laterally spreading tumor)とは? ステートメント ● 最大径 10mm 以上の表層拡大型大腸腫瘍である. 解説 最大径 10 mm 以上の表層拡大型大腸腫瘍は LST(laterally spreading tumor;側方発育型腫 瘍)と定義される 1) (大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,2013 a) [検索期間外文献] ) .表面顆 粒結節状の LST-G と表面平滑な LST-NG に亜分類され,LST-G は顆粒均一型(homogenous type)と結節混在型(nodular mixed type)に,LST-NG は平坦隆起型(flat elevated type)と全周 性に明瞭な境界の追える陥凹面(Ⅱc)を有さず,なだらかな盆状陥凹あるいは全周の追えない不 完全な陥凹を有する偽陥凹型(pseudodepressed type)に細分類される(表 1)1) .LST は肉眼型を 示す用語ではない. 表1 subtypes of LST lesions:morphologic classification of LST lesions and their correspondence in the Paris-Japanese classification * subtypes of LST LST granular homogenous type nodular mixed type LST nongranular elevated type pseudodepressed type classification in type 0 0-Ⅱa 0-Ⅱa,0- Ⅰs +Ⅱa,0-Ⅱa +Ⅰs 0-Ⅱa 0-Ⅱa +Ⅱc,0-Ⅱc +Ⅱa *:The term “laterally spreading type(LST)” refers to the lateral growth of lesions at least 10mm in diameter; this is in opposition to traditional polypoid(upward growth)or flat and depressed lesions(downward growth) (文献 1 より引用) 文献 1) Kudo S, Lambert R, Allen JI, et al. Nonpolypoid neoplastic lesions of the colorectal mucosa. Gastrointest Endosc 2008; 68: S3-S47 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 — 48 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3.病態・定義・分類 Clinical Question 3-14 advanced neoplasia とは何か? CQ 3-14 advanced neoplasia とは何か? ステートメント ● advanced neoplasia とは,浸潤癌,径 10mm 以上の腺腫,病理組織学的に villous または tubulovillous な成分を有するもの,high-grade dysplasia(本邦の粘膜内癌にほぼ相当)を 含めた概念である. 解説 advanced neoplasia 1) は,浸潤癌にいわゆる advanced adenoma を包括した概念である. advanced adenoma の定義は論文により多少異なっているが,Winawer ら 2)は,径 10 mm 以上 の腺腫,あるいは病理組織学的に絨毛構造を 25%以上有するもの,high-grade dysplasia(本邦 の粘膜内癌にほぼ相当) ,あるいは early invasive cancer(malignant polyp)を含む,と定義して いる.なお,advanced polyp は advanced adenoma と同義に使用されることもある. 文献 1) Regula J, Rupinski M, Kraszewska E, et al. Colonoscopy in colorectal-cancer screening for detection of advanced neoplasia. N Engl J Med 2006; 355: 1863-1872(横断) 2) Winawer SJ, Zauber AG. The advanced adenoma as the primary target of screening. Gastrointest Endosc Clin N Am 2002; 12: 1-9 — 49 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-1 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 通常内視鏡検査による大腸上皮性腫瘍の質的診断は可能か? CQ 4-1 通常内視鏡検査による大腸上皮性腫瘍の質的診断は可能か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 過形成性ポリープと腺腫の鑑別は,径 5mm 以下の病変では 75〜 88%可能である.腺腫と癌の質的診断は,M 癌では困難であるが, SM 癌では 75%可能である. なし C 解説 大腸病変で頻度の高い過形成病変と腺腫との鑑別では,鶴田ら 1)は径 5 mm 以下の微小病変 においてインジゴカルミン撒布を併用した検討では 87.8%可能との報告があるが,斉藤ら 2)は 75%と報告している. 腺腫と早期癌との鑑別は,表面型腫瘍に比べ隆起型腫瘍の質的診断が困難な病変が多い 3) .隆 起型での鑑別のポイントは,大きさ,表面の性状,易出血性,陥凹の有無,光沢などの所見か ら良悪性を診断できるが,粘膜内癌で focal な癌の場合は鑑別困難なことが多い.しかし,SM 深部まで浸潤するような癌では硬さ,緊満感,凹凸不整,陥凹,表面の粗糙などから鑑別可能 である 4, 5) .表面型では,表面隆起型は隆起型と同様であるが,表面陥凹型では,緊満感,硬さ, 陥凹の境界が明瞭,陥凹内凹凸不整,病変の厚み 3, 4) ,領域(境界)の追える面を有する陥凹,辺 縁が星芒状不整 6)などの所見から良悪性の鑑別は可能である.また,SM 癌では襞集中や,弧 の硬化,陥凹部の凹凸,台状拳上 7)などが出現してくるので診断に重要な所見となる.しかし, これらの指標を用いても通常観察による SM 癌の正診率は 75%程度との報告がある 8) . 内視鏡的治療を決定するうえで重要となる深達度診断では,隆起型 SM 癌における 1,000 µm 以深の浸潤を反映する有意な内視鏡所見は,緊満感,硬さ,凹凸不整,粘膜表面の粗糙,雛襞 集中,ひきつれ,弧の硬化.表面型 SM 癌における 1,000 µm 以深の浸潤を反映する有意な内視 鏡所見は,緊満感,硬さ,凹凸不整,陥凹内隆起,陥凹内凹凸,強い発赤,皺壁集中,ひきつ れ,弧の硬化,台状拳上などがあげられている 8) . 文献 1) 鶴田 修,辻 雄一郎,河野弘志,ほか.通常内視鏡下 pit 観察による大腸腫瘍・非腫瘍鑑別能の検討― 5mm 以下の病変を対象として.胃と腸 1999; 34: 1613-1622(横断) 2) Saitoh Y, Waxman I, Watari J, et al. Can assessment of the surface structure of diminutive polyps by con- — 52 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 ventional colonoscopy and chromoendoscopy predict histological findings? a prospective study. Gastrointest Endosc 49part2; AM68,1999(コホート) 3) 鶴田 修,有馬信之,佐々木 英,ほか.早期大腸がんの内視鏡診断.Monthly Book Gastro 1993; 3: 63-71 (横断) 4) 斉藤裕輔,垂石正樹,小沢賢一郎,ほか.早期大腸がんの内視鏡診断と治療―現状と問題点.Gastroenterol Endosc 2008; 50: 2466-2477(横断) 5) 寺井 毅,荻原達雄.大腸表面型腫瘍の内視鏡診断.医学のあゆみ 1995; 173: 547-551(横断) 6) 工藤進英,日下尚志,中島孝司,ほか.早期大腸癌の内視鏡診断と治療.外科治療 1993; 69: 282-288(横 断) 7) 帆足俊男,津田純郎,松井敏幸,ほか.内視鏡的切除適応拡大のための大腸 sm 癌の深達度診断-通常内視 鏡の検査の立場から.胃と腸 1999; 34: 731-736(横断) 8) 斉藤裕輔,多田正大,工藤進英,ほか.内視鏡治療の適応決定のための診断基準.大腸疾患 NOW2007, 武藤徹一郎(監修) ,日本メデイカルセンター,東京,2007: p101-107(コホート) — 53 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-2 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 大腸鋸歯状病変に対する内視鏡診断のポイントは? CQ 4-2 大腸鋸歯状病変に対する内視鏡診断のポイントは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大 腸 鋸 歯 状 病 変 は , sessile serrated adenoma/polyp (SSA/P),traditional serrated adenoma(TSA),hyperplastic polyp(HP)に分類され,病変の局在,形態,表面性状 (拡大内視鏡所見を含む)の観察が重要である. なし D 解説 大腸鋸歯状病変の内視鏡診断は,通常観察とピット診断で行われる. SSA/P は,右側結腸に優位に存在し径 10 mm 以上の扁平ないし広基性病変で表面は平滑~微 細乳頭状を呈し,褪色調で粘液が付着しているものが多い 1) .NBI 観察では,浦岡ら 2)が指摘し ている拡張・蛇行した血管(varicose microvascular vessel:VMV)の存在が診断の補助的所見と 考えられる.拡大観察では,開 Ⅱ型ピット(Ⅱ型類似の星芒状ピットを基本とするが腺管開口部 が開大しているもの)が特徴 3) .SSA/P の癌化例では,同一病変内に開Ⅱ型ピット以外にⅣ型や V 型ピットなどの複合した表面微細構造を呈する領域に腺腫様変化や癌化がみられ,早期に癌 化を捉える指標になるとの報告がある(Am J Gastroenterol 2012; 107; 460-469 a)[検索期間外文 献] ) .内視鏡観察による TSA との鑑別は以下に述べる所見から可能であるが HP との鑑別は局 在部位や大きさ,ピットの観察,粘液付着などから鑑別される. TSA は,左側結腸・直腸に多く,発赤調で有茎~亜有茎性のものが多い.表面性状が特徴的 で “松毬様 4)” や “枝サンゴ様 5)” を呈する.診断は,通常観察での特徴的な所見から可能である が,NBI 所見では幅広い間質に拡張した毛細血管が観察される 6) .また,拡大観察では藤井らの 提唱した ⅢH(シダの葉様ピット) ,松毬様所見に鋸歯状の腺口を伴う ⅣH ピット 7) ,さらにシダ の葉様所見の表面微細構造を有するものは鋸Ⅳ型 b)と称され,特徴的な所見である.したがっ て,TSA と SSA/P,HP との鑑別は可能である. HP は直腸・左側結腸に好発し,大きさは径 5 mm 以下のものが多い.色調は褪色ないし粘膜 と同色調で伸展良好な扁平隆起であり,Ⅱ型ピットが特徴である. — 54 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) 藤井隆広,永田和弘,斉藤 豊,ほか.10mm 以上鋸歯状病変の内視鏡診断―LHP と SSA/P は同一病変 か? 胃と腸 2011; 46: 449-457(横断) 2) 浦岡俊夫,東 玲冶,大原信哉,ほか.大腸鋸歯状病変の内視鏡診断―pit pattern 所見を中心に.胃と腸 2011; 46: 406-416(横断) 3) 木村友昭,山野泰穂,山本栄一郎.大腸鋸歯状病変の内視鏡診断―ピットパターンを中心に.胃と腸 2011; 46: 418-426(横断) 4) 佐野 寧,加藤茂治,目良清美,ほか.表面構造からみた大腸鋸歯状腺腫の質的診断の限界.消化器内視 鏡 2000; 12: 1113-1118(横断) 5) 尾田 恭,田中朋史,伊藤清治,ほか.大腸鋸歯状腺腫に対する通常内視鏡及び拡大内視鏡による表面構 造の観察からの質的診断.消化器内視鏡 2000; 12: 1119-1126(横断) 6) Gancayco J. Narrow band imaging features and pathological correlations of sessile serrated polyps. Am J Gastroenterol 2011; 106: 1559-1560(ケースコントロール) 7) 藤井隆広,永田和弘,斉藤 豊,ほか.大腸拡大内視鏡診断はどこまで病理診断に近づいたか―大腸上皮 性腫瘍を対象として.胃と腸 1999; 34: 1653-1664(横断) 【検索期間外文献】 a) Kimura T, Yamamoto E, Yamano H, et al. A novel pit pattern identifies the precursor of colorectal cancer derived from sessile serrated adenoma. Am J Gastroenterol 2012; 107; 460-469(横断) b) 長田修一郎,鶴田 修,河野弘志,ほか.大腸鋸歯状病変の内視鏡診断.消化器内視鏡 2012; 24: 1101-1110 (横断) — 55 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-3 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 拡大内視鏡検査は大腸病変の質的診断に有用か? CQ 4-3 拡大内視鏡検査は大腸病変の質的診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 拡大内視鏡検査は,通常・色素内視鏡検査よりも質的診断に有用で ある. なし C 解説 大腸病変に対する質的診断では,通常内視鏡観察に拡大観察(pit pattern 診断)を加えることに より,その感度・特異度・正診率が向上する 1~5) .通常観察および色素観察と拡大内視鏡観察と の診断精度に関するレビューにより 6) ,質的診断における拡大内視鏡観察の正診率・感度・特異 度・陽性的中率・陰性的中率は,いずれも通常観察・色素観察に比し,約 5~10%の向上効果 が期待できる. 文献 1) Kudo S, Tamura S, Nakajima T, et al. Diagnosis of colorectal tumorous lesions by magnifying endoscopy. Gastrointest Endosc 1996; 44: 8-14(横断) 2) Togashi K, Konishi F, Ishizuka T, et al. Efficacy of magnifying endoscopy in the differential diagnosis of neoplastic and non-neoplastic polyps of the large bowel. Dis Colon Rectum 1999; 42: 1602-1608(横断) 3) Kudo S, Rubio CA, Teixeira CR, et al. Pit pattern in colorectal neoplasia: endoscopic magnifying view. Endoscopy 2001; 33: 367-373(横断) 4) Tung SY, Wu CS, Su MY. Magnifying colonoscopy in differentiating neoplastic from nonneoplastic colorectal lesions. Am J Gastroenterol 2001; 96: 2628-2632(横断) 5) Konishi K, Kaneko K, Kurahashi T, et al. A comparison of magnifying and nonmagnifying colonoscopy for diagnosis of colorectal polyps: a prospective study. Gastrointest Endosc 2003; 57: 48-53(ランダム) 6) Kato S, Fu KI, Sano Y, et al. Magnifying colonoscopy as a non-biopsy technique for differential diagnosis of non-neoplastic and neoplastic lesions. World J Gastroenterol 2006; 12: 1416-1420(横断) — 56 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-4 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 色素撒布を含む通常内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に 有用か? CQ 4-4 色素撒布を含む通常内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有用である.早期大腸癌の深達度診断は,腫瘍の全体像,表面性 状,腫瘍周囲の性状などの所見から約 75%可能である. なし D 解説 通常観察で早期癌の深達度診断を行うには,観察の手順がある.すなわち管腔を十分伸展さ せた遠景での全体像の観察,近接して腫瘍の表面の性状などの観察のほか,管腔を縮小させた 後の観察,さらに色素撒布によって表面性状などを十分観察すること,腫瘍周囲の性状などの 所見から以下に示すような深達度を反映する指標となる所見の有無を読み取ることが重要であ る. 隆起型の SM 深部浸潤の所見は,強い発赤,陥凹,緊満感,易出血性,二段隆起 1, 2) ,表面型 では,皺壁集中,緊満感,陥凹部の凹凸,病変の厚み 3, 4) ,LST では緊満感を伴う粗大結節,陥 凹,皺壁集中 5, 6)などである.また,壁の硬化,台状挙上などの所見も SM 深部浸潤の所見であ る 7) . 以上のような所見からエキスパート施設での深達度正診率は 75%ほどである 8) .また,内視 鏡的治療の指標となる SM 浸潤距離 1,000 µm 未満,1,000 µm 以深の正診率は,隆起型 77.8%, 表面隆起型 66.7%,表面陥凹型 80.6%と報告されている 6) . 文献 1) 有馬信之,豊永 純,鶴田 修,ほか.大腸早期癌の内視鏡的深達度診断.消化器内視鏡 1992; 4: 13331342(横断) 2) Saitoh Y, Obara J, Watari J, et al. Invasion depth diagnosis of depressed type early colorectal cancers by combined use of videoendoscopy and chromoendoscopy. Gastrointest Endosc 1998; 48: 362-370(横断) 3) 平田一郎,浜本順博,佐々木伸一,ほか.大腸癌深達度診断のための検査法―早期大腸癌深達度診断にお ける内視鏡の有用性と限界.日本大腸検査学会雑誌 2000; 17: 33-37(横断) 4) 為我井芳郎,工藤進英,小暮悦子,ほか.大腸表面型腫瘍の内視鏡診断―陥凹型早期大腸癌の内視鏡診断 と治療.消化器外科 2002; 25: 1643-1658(横断) 5) 寺井 毅,坂本直人,二瓶英人,ほか.肉眼型による深達度診断(通常内視鏡)表面隆起型―Ⅱa,LST を中心に.早期大腸癌 1998; 2: 411-419(横断) 6) 佐藤 龍,斉藤裕輔,渡 二郎,ほか.1,000μm を読む―通常観察による早期大腸癌の深達度診断―sm2- — 57 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 3 の内視鏡的浸潤所見.消化器内視鏡 2006; 18: 287-291(横断) 7) 帆足俊男,松井敏幸,津田純郎,ほか.失敗しない大腸 sm 癌の診断―早期大腸癌の内視鏡的深達度診断― m 癌と sm1 癌の鑑別と m,sm1 癌と sm2,sm3 癌の内視鏡的鑑別に関する新たな考え方.消化器内視鏡 1997; 9: 167-173(横断) 8) 斉藤裕輔,多田正大,工藤進英,ほか.通常内視鏡による大腸 sm 癌垂直浸潤距離 1,000µm の診断精度と 浸潤距離.大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト研究結果報告.胃と腸 2005; 40: 1855-1858(横 断) — 58 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-5 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 大腸 SM 高度浸潤癌に特徴的な内視鏡所見は何か? CQ 4-5 大腸 SM 高度浸潤癌に特徴的な内視鏡所見は何か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 隆起型では,緊満感,病変の崩れ,凹凸不整,潰瘍形成,台状拳 上,壁の硬化.表面型では,陥凹境界明瞭,陥凹部の凹凸不整,陥 凹内隆起,台状拳上,皺壁集中などの所見である. なし C 解説 SM 高度浸潤の所見としては,隆起型では,緊満感,凹凸不整,病変の崩れ,潰瘍形成,台状 拳上,壁の硬化などの所見(図 1) ,表面型では陥凹境界が明瞭で陥凹が深いことや陥凹面が凹 凸不整,陥凹内隆起,皺壁集中,台状拳上などが深部浸潤の所見(図 2)である 1~3).また, Ⅰs+Ⅱc と分類される肉眼形態の病変の多くは SM 高度浸潤癌である 4) . 緊満感 潰瘍形成 病変の崩れ 凹凸不整 台状挙上 壁の硬化 図 1 大腸 SM 高度浸潤癌に特徴的な所見(隆起型) — 59 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 陥凹境界明瞭 陥凹部の凹凸不整 台状挙上 皺襞集中 陥凹内隆起 Ⅰs+Ⅱc 型 図 2 大腸 SM 高度浸潤癌に特徴的な所見(表面型) 文献 1) Matsuda T, Para-Blano A, Saitoh Y, et al. Assessment of likelihood of submucosal invasion in non-polypoid colorectal neoplasms. Gastrointest Endosc Clin N Am 2010; 20: 487-496(横断) 2) Saitoh Y, Obara T, Watari J, et al. Invasion depth diagnosis of depressed type early colorectal cancers by combined use of videoendoscopy and chromoendoscopy. Gastrointest Endosc 1998; 48: 362-370(コホー ト) 3) 斉藤裕輔,多田正大,工藤進英,ほか.通常内視鏡による大腸 sm 癌垂直浸潤距離 1,000μm の診断精度 と浸潤所見.大腸癌研究会「内視鏡摘除の適応」プロジェクト研究班結果報告.胃と腸 2005; 40: 1855-1858 (横断) 4) 杉坂宏明,池上雅博,斉藤彰一,ほか.大腸 Ⅰs+ c 型腫瘍の意義.消化器内視鏡 2000; 14: 1909-1915 (ケースシリーズ) — 60 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-6 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 拡大内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? CQ 4-6 拡大内視鏡検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有用である.通常・色素内視鏡検査に加え拡大内視鏡検査を行うこ とで深達度診断能は向上する. なし C 解説 早期大腸癌に対する深達度診断では,通常内視鏡観察に拡大観察(pit pattern 診断)を加えるこ とで,報告によりその程度は異なるものの,感度・特異度・正診率は向上する 1~12) (Int J Colorectal Dis 2011; 26: 1531-1540 a) [検索期間外文献] ) . 拡大内視鏡にて深達度診断を行う際には,色素撒布後に pit pattern を観察するが,インジゴカ ルミン色素撒布下の拡大観察だけでは不十分な場合もあり(特に Ⅲs 型,Ⅴ型 pit pattern) ,ク リスタルバイオレット染色下の pit pattern 診断が推奨される 6, 13) .また,病変の肉眼形態により その診断の精度は異なり,表面陥凹型に比し隆起型では正診率が低下する傾向がみられるため, 隆起型病変については通常観察所見を加味した総合診断が必要となる場合がある. 文献 1) Kudo S, Tamura S, Nakajima T, et al. Diagnosis of colorectal tumorous lesions by magnifying endoscopy. Gastrointest Endosc 1996; 44: 8-14(横断) 2) Kawano H, Tsuruta O, Ikeda H, et al. Diagnosis of the level of depth in superficial depressed-type colorectal tumors in terms of stereomicroscopic pit patterns. Int J Oncol 1998; 12: 769-775(横断) 3) 山野泰穂,工藤進英,今井 靖,ほか.拡大内視鏡による早期大腸癌の深達度診断.胃と腸 2001; 36: 759768(横断) 4) Kato S, Fujii T, Koba I, et al. Assessment of colorectal lesions using magnifying colonoscopy and mucosal dye spraying: can significant lesions be distinguished? Endoscopy 2001; 33: 306-310(横断) 5) Tanaka S, Nagata S, Oka S, et al. Determining depth of invasion by VN pit pattern analysis in submucosal colorectal carcinoma. Oncol Rep 2002; 9: 1005-1008(横断) 6) 工藤進英,倉橋利徳,樫田博史,ほか.大腸腫瘍に対する拡大内視鏡観察と深達度診断―箱根シンポジウ ムにおける Ⅴ型亜分類の合意.胃と腸 2004; 39: 747-752 7) Ohta A, Tominaga K, Sakai Y. Efficacy of magnifying colonoscopy for the diagnosis of colorectal neoplasia: comparison with histopathological findings. Digestive Endoscopy 2004; 16: 308-314(横断) 8) Tanaka S, Kaltenbach T, Chayama K, et al. High-magnification colonoscopy (with videos). Gastrointest Endosc 2006; 64: 604-613 9) Kanao H, Tanaka S, Oka S, et al. Clinical significance of type V(I) pit pattern subclassification in determin- — 61 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) ing the depth of invasion of colorectal neoplasms. World J Gastroenterol 2008; 14: 211-217(横断) 10) Tobaru T, Mitsuyama K, Tsuruta O, et al. Sub-classification of type VI pit patterns in colorectal tumors: relation to the depth of tumor invasion. Int J Oncol 2008; 33: 503-508(横断) 11) Matsuda T, Fujii T, Saito Y, et al. Efficacy of the invasive/non-invasive pattern by magnifying chromoendoscopy to estimate the depth of invasion of early colorectal neoplasms. Am J Gastroenterol 2008; 103: 2700-2706(横断) 12) Ikehara H, Saito Y, Matsuda T, et al. Diagnosis of depth of invasion for early colorectal cancer using magnifying colonoscopy. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 905-912(横断) 13) Fujii T, Hasegawa RT, Saitoh Y, et al. Chromoscopy during colonoscopy. Endoscopy 2001; 33: 1036-1041 【検索期間外文献】 a) Kobayashi Y, Kudo SE, Miyachi H, et al. Clinical usefulness of pit patterns for detecting colonic lesions requiring surgical treatment. Int J Colorectal Dis 2011; 26: 1531-1540(横断) — 62 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-7 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 画像強調観察を併用した拡大内視鏡検査は,大腸腫瘍の組織 診断および深達度診断に有用か? CQ 4-7 画像強調観察を併用した拡大内視鏡検査は,大腸腫瘍の組織診断および 深達度診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有用である. なし C 解説 大腸腫瘍に対する NBI 併用拡大内視鏡観察の診断能は,正診率 93%,感度 100%,特異度 75%で,通常観察の正診率 79%,感度 83%,特異度 44%に比べて優れていることが報告されて いる 1) .また,過形成性病変と腺腫を対象とした際の腺腫の診断能は,正診率 95%,感度 96%, 特異度 92%と報告されている 2) .NBI 併用拡大観察による vascular pattern,surface pattern は, 腺腫,M 癌,SM 浸潤癌の診断に有用であるとされる 3~5) .FICE 併用拡大内視鏡観察でも組織 診断および深達度診断に有用なことが報告されている 6) . 文献 1) Machida H, Sano Y, Hamamoto Y, et al. Narrow-band imaging in the diagnosis of colorectal mucosal lesions: a pilot study. Endoscopy 2004; 36: 1094-1098(横断) 2) Sano Y, Ikematsu H, Fu KI, et al. Meshed capillary vessels by use of narrow-band imaging for differential diagnosis of small colorectal polyps. Gastrointest Endosc 2009; 69: 278-283(横断) 3) Kanao H, Tanaka S, Oka S, et al. Narrow-band imaging magnification predicts the histology and invasion depth of colorectal tumors. Gastrointest Endosc 2009; 63: 631-636(横断) 4) Wada Y, Kudo SE, Kashida H, et al. Diagnosis of colorectal lesions with the magnifying narrow-band imaging system. Gastrointest Endosc 2009; 70: 522-531(横断) 5) Saito S, Tajiri H, Ohya T, et al. Imaging by magnifying endoscopy with NBI implicates the remnant capillary network as an indication for endoscopic resection in early colon cancer. Int J Surg Oncol (Epub) 2011 doi: 10.1155/2011/242608(横断) 6) Yoshida N, Naito Y, Kugai M, et al. Efficacy of magnifying endoscopy with flexible spectral imaging color enhancement in the diagnosis of colorectal tumors. J Gastroenterol 2011; 46: 65-72(横断) — 63 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-8 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 超音波内視鏡検査(EUS)は早期大腸癌の深達度診断に有用 か? CQ 4-8 超音波内視鏡検査(EUS)は早期大腸癌の深達度診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 有用である. なし C 解説 内視鏡検査と EUS(endoscopic ultrasonography)の深達度診断能に関するケースコントロール 研究 1, 2) ,コホート研究 3) ,非ランダム化比較試験 4) ,およびメタアナリシス 5)の結果から,早期 大腸癌を含む大腸ポリープの深達度診断およびリンパ節転移の診断に EUS の併用は有用である. 特に,粘膜下層浸潤(SM)癌を疑う病変において,EUS の併用は,内視鏡的摘除か,外科手 術かという治療法選択のための深達度診断において,色素撒布や拡大観察併用内視鏡検査と同 等に有用である 1~5) .低エコーを呈する癌浸潤が,高エコーを呈する SM 層への浸潤の度合いか ら深達度診断を行い,癌浸潤が SM 浅層にとどまる場合は内視鏡的摘除を考慮し,癌浸潤が SM 中層以深へ浸潤する場合は外科手術を考慮することが提案される 1~5) . しかし,病変の描出不能例が全体の 10%程度に認められ,また,深部減衰や粘膜下層の線維 化,リンパ濾胞の存在などにより,EUS による深達度診断能は低下する 1~3) . また,専用機器の購入にコストを必要とし,検査による保険点数上も収益性が低いため,広 く普及することは困難と考える. 以下に各深達度における早期大腸癌の EUS 像を提示する(図 1) . 文献 1) 小林清典,勝又伴栄,横山 薫,ほか.大腸癌深達度診断のための検査法―内視鏡的超音波断層法による 早期大腸癌の深達度診断―大腸内視鏡診断との比較を中心に.日本大腸検査学会雑誌 2000; 17: 51-55(ケー スコントロール) 2) 渡 二郎,斉藤裕輔,藤谷幹浩,ほか.超音波内視鏡(EUS)診断の実際―EUS を用いた早期大腸癌の内 視鏡治療.消化器の臨床 2005; 8: 364-370(横断) 3) Saitoh Y, Obara T, Einami K, et al. Efficacy of high-frequency ultrasound probes for the preoperative staging of invasion depth in flat and depressed colorectal tumors. Gastrointest Endosc 1996; 44: 34-39(コホー ト) 4) Hurlstone DP, Brown S, Cross SS, et al. High magnification chromoscopic colonoscopy or high frequency 20 MHz mini probe endoscopic ultrasound staging for early colorectal neoplasia: a comparative prospec- — 64 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 M癌 SM 軽度浸潤癌 SM 高度浸潤癌(中等量浸潤) SM 高度浸潤癌(多量浸潤) 図 1 各深達度における早期大腸癌の EUS 像 tive analysis. Gut 2005; 54: 1585-1589(非ランダム) 5) Puli SR, Bechtold ML, Reddy JB, et al. Can endoscopic ultrasound predict early rectal cancers that can be resected endoscopically? a meta-analysis and systematic review. Dig Dis Sci 2010; 55: 1221-1229(メタ) — 65 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-9 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 注腸造影検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? CQ 4-9 注腸造影検査は早期大腸癌の深達度診断に有用か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 比較的有用である. なし D 解説 注腸造影検査は早期大腸癌の深達度診断においてエビデンスレベルは高くはないが,これま での注腸造影検査施行の長い歴史から施行法,読影法が確立しており 1) ,低コストで,患者の受 容性も高い検査であるため,大腸内視鏡検査のみで深達度診断が困難な病変では注腸造影検査 を併用して内視鏡的摘除,または外科手術の適応かを決定する. 深達度診断に有用な所見としては,側面像における弧状変形 1) ,正面像では隆起型癌において は,陥凹あり,雛襞集中像あり,表面型においては皺襞集中像あり,深い陥凹,陥凹底の凹凸 2~4) が外科手術を考慮する有用な所見である.上述した所見がいずれも認められない場合は内視鏡 的摘除を考慮することが提案される 2~4) . 以下に SM 高度浸潤を示唆する代表的な X 線造影所見を示す(図 1) . 文献 1) 牛尾恭輔,後藤裕夫,村松幸男,ほか.消化管癌の X 線診断における側面像の意義―二重造影像による深 達度診断.胃と腸 1986; 21: 27-41(横断) 2) Watari J, Saitoh Y, Obara T, et al. Early nonpolypoid colorectal cancer: radiographic diagnosis of depth of invasion. Radiology 1997; 205: 67-74(横断) 3) 帆足俊男,八尾恒良,渕上忠彦,ほか.早期大腸癌における X 線学的および内視鏡学的深達度診断の研 究.胃と腸 1997; 32: 1651-1662(横断) 4) 斉藤裕輔,富永素矢,垂石正樹,ほか.早期大腸癌の精密画像診断 ―1)注腸 X 線診断.胃と腸 2010; 45: 784-799(横断) — 66 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 側面の弧状変形 皺襞集中 深い,凹凸を有する陥凹 陥凹を有する隆起性病変 図 1 SM 高度浸潤を示唆する代表的な X 線造影所見 — 67 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-10 断 (1)腫瘍の質的診断(組織型・深達度) 早期大腸癌の内視鏡的深達度診断法のストラテジーは? CQ 4-10 早期大腸癌の内視鏡的深達度診断法のストラテジーは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 通常内視鏡観察(色素内視鏡観察を含む)を基本とし,必要に応じ て拡大内視鏡観察(色素あるいは画像強調)や超音波内視鏡検査 (EUS)を加えて総合的に行う. なし C 解説 通常およびインジゴカルミン撒布下の色素観察により,色調,表面性状,病変の立ち上がり 粘膜の性状,緊満所見,雛襞集中,陥凹の有無などを参考にすることで SM 高度浸潤癌の診断 が可能である 1~6) .また,ⅤN 型 pit pattern を指標としたクリスタルバイオレットによる色素拡 a) 大観察 7~9) ,NBI,FICE,BLI などの画像強調拡大観察 10~12) (J Gastroenterol 2014; 49: 73-80 [検索 期間外文献] ) ,EUS が SM 高度浸潤癌の診断に有用であることが報告されている 13, 14) .これら複 数のモダリティーを組み合わせることで精度の高い深達度診断が可能である. 文献 1) Kudo S, Kashida H, Nakajima T, et al. Endoscopic diagnosis and treatment of early colorectal cancer. World J Surg 1997; 21: 694-701(横断) 2) 津田純郎,菊池陽介,佐藤 茂,ほか.大腸腫瘍性病変の通常内視鏡診断はどこまで病理診断に迫れるか. 胃と腸 1999; 34: 1623-1633(横断) 3) 斉藤裕輔,渡 二郎,藤谷幹浩,ほか.大腸 sm 癌における浸潤度の臨床診断精度.胃と腸 2004; 39: 13501356(横断) 4) Hurlstone DP, et al. Recent advances in chromoscopic colonoscopy and endomicroscopy. Curr Gastroenterol Rep 2006; 8: 409-415(ケースシリーズ) 5) 河野弘志,鶴田 修,長谷川 申ほか.早期大腸癌の精密画像診断.胃と腸 2010; 45: 801-809(横断) 6) 斉藤裕輔,田中信治,藤谷 幹浩,ほか.大腸 sm 癌の深達度診断の現状―前向き検討―集計結果の解析と 臨床的考察.胃と腸 2006; 41: 1241-1249(横断) 7) 河野弘志,鶴田 修,宮崎史郎,ほか.pit pattern からみた大腸表面型腫瘍の深達度の推定.胃と腸 1996; 31: 1353-1362(横断) 8) Jiang B. Chromoendoscopy and high-magnification colonoscopy in early detection of colorectal cancer. Di Yi Jun Yi Da Xue Xue Bao 2002; 22: 385-387(横断) 9) Hurlstone DP, Cross SS, Adam I, et al. Efficacy of high magnification chromoscopic colonoscopy for the diagnosis of neoplasia in flat and depressed lesions of the colorectum: a prospective analysis. Gut 2004; 53: 284-290(横断) — 68 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 10) Kanao H, Tanaka S, Oka S, et al. Narrow-band imaging magnification predicts the histology and invasion depth of colorectal tumors. Gastrointest Endosc 2009; 63: 631-636(横断) 11) Wada Y, Kudo SE, Kashida H, et al. Diagnosis of colorectal lesions with the magnifying narrow-band imaging system. Gastrointest Endosc 2009; 70: 522-531(横断) 12) Yoshida N, Naito Y, Kugai M, et al. Efficacy of magnifying endoscopy with flexible spectral imaging color enhancement in the diagnosis of colorectal tumors. J Gastroenterol 2011; 46: 65-72(横断) 13) Cho E, Nakajima M, Yasuda K, et al. Endoscopic ultrasonography in the diagnosis of colorectal cancer invasion. Gastrointest Endosc 1993; 39: 521-527(横断) 14) Saitoh Y, Obara T, Einami K, et al. Efficacy of high-frequency ultrasound probes for the preoperative staging of invasion depth in flat and depressed colorectal tumors. Gastrointest Endosc 1996; 44: 34-39(横断) 【検索期間外文献】 a) Yoshida N, Hisabe T, Inada Y, et al. The ability of a novel blue laser imaging system for the diagnosis of invasion depth of colorectal neoplasms. J Gastroenterol 2014; 49: 73-80(横断) — 69 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-11 断 (2)病理診断 大腸ポリープの病理診断について注意すべきことは? CQ 4-11 大腸ポリープの病理診断について注意すべきことは? ステートメント ● 内視鏡的摘除後は,速やかに 10%ホルマリンで固定する.ポリープの場合は,そのまま固定 してもよいが,表面型病変の場合は平坦なコルクや発泡スチロールの板の上で軽く引き伸ば し,ピンでとめてから固定することが重要である.ポリープの場合は有茎性と無茎性および表 面型に分けて標本作製を行う.各標本の間隔は 2mm 間隔で切り出す. 解説 大腸ポリープの病理診断には,部位,大きさ,肉眼型,組織診断名を記載する(大腸癌取扱い 規約,第 8 版,金原出版,2013 a) [検索期間外文献] ) .摘出されたポリープは 10%ホルマリン(も しくは緩衝ホルマリン)で固定する.ポリープの場合には有茎性と無茎性では標本作製の方法が 異なるので,各々下記の要領で標本作製を行う.有茎性病変で茎幅が 2 mm 以上の病変:茎の 中心部分から 1 mm ずらして,2 mm 間隔で切り出す;有茎性病変で茎幅が 2 mm 未満の病変: 茎は切り出させずに,茎全体が含まれる標本を作製し,粗削りと薄切で茎の中心が出るように する.一方,無茎性もしくは表面型の場合には,断端での腫瘍の有無が十分に検討できるよう に 2 mm 間隔で標本作製を行う 1) .可能であれば,クリスタルバイオレットなどで染色をして実 体顕微鏡観察を行い,術者の関心領域を認識したうえで割を入れることが望ましい.組織標本 の染色は HE 染色で十分であるが,癌が観察された場合は,リンパ管侵襲像のために D2-40 染 色を,静脈侵襲像のために弾性線維染色を行うことが推奨される 2) .また粘膜下層浸潤が示唆さ れる場合には粘膜筋板同定のためにデスミン染色が有用である. 文献 1) 味岡洋一,渡邉英伸,横山純二,ほか.大腸表面型腫瘍の診断と治療―病理組織学的評価における問題 点―腫瘍局所遺残の判定,sm 癌のおけるリンパ節転移(微小転移を含む)の評価について.消化器外科 2002; 25: 1683-1690 2) 大倉康男.切除標本の取り扱いと根治度判定のポイント.Intestine 2010; 14: 197-202 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 — 70 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-12 断 (2)病理診断 大腸癌の組織分類とは? CQ 4-12 大腸癌の組織分類とは? ステートメント ● 本邦における大腸癌の組織分類は腫瘍の分化度に基づいて,乳頭腺癌,管状腺癌(高分化,中 分化) ,低分化腺癌,粘液癌,印環細胞癌,髄様癌,その他に分類されている. 解説 大腸癌取扱い規約における組織分類(以下,規約分類)を表 1 にあげる.本邦における大腸癌 の腺癌の分類は分化の程度に基づいて,乳頭状腺癌,管状腺癌(高分化腺癌,中分化腺癌) ,低 分化腺癌に分類されている(大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,2013 a) [検索期間外文献] ) . 低分化腺癌はさらに充実型,非充実型に亜分類される.これに粘液癌,印環細胞癌,髄様癌も 加えている.腺癌以外の悪性上皮性腫瘍としてその他,腺扁平上皮癌,扁平上皮癌が含められ ている.なお,第 8 版の組織分類では,内分泌細胞癌は悪性上皮性腫瘍とは別に分類されてい る(次頁参照) . 2010 年に改訂された WHO では,このような分化に基づいた分類は行われていない 1) (表 2) . WHO では(通常の)腺癌と他の亜型(特殊型)に 2 分類し,後者を 6 型に亜分類している.臨床 病理学的,分子病理学的に異なった特徴を有していなければ,分類する必要がないという考え 方に基づいているものと思われる.大腸癌のほとんどは,高分化,中分化腺癌であるから, WHO の分類ではほとんどの大腸癌では,単に腺癌とのみ分類されることになる. 腺癌の特殊型では,本邦で取り上げられていない組織型も独立して採用されている.cribriform comedo-type adenocarcinoma は乳癌における組織型と類似する像を示す組織型で,極めて 表1 大腸癌の組織型分類 1.腺癌 Adenocarcinoma 1)乳頭状腺癌 Papillary adenocarcinoma(pap) 2)管状腺癌 Tubular adenocarcinoma(tub) a.高分化 Well differentiated type(tub1) b.中分化 Moderately differentiated type(tub2) 3)低分化腺癌 Poorly differentiated adenocarcinoma a.充実型 Solid type(por1) b.非充実型 Non-solid type(por2) 4)粘液癌 Mucinous adenocarcinoma(muc) 5)印環細胞癌 Signet-ring cell carcinoma(sig) 6)髄様癌 Medullary carcinoma 2.腺扁平上皮癌 Adenosquamous carcinoma(asc) 3.扁平上皮癌 Squamous cell carcinoma(scc) 4.その他 Miscellaneous histological types of malignant epithelial tumors — 71 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 (2)病理診断 表2 WHO の大腸癌の組織分類 Adenocarcinoma Cribriform comedo-type adenocarcinoma Medullary carcinoma Micropapillay carcinoma Mucinous adenocarcinoma Serrated adenocarcinoma Signet ring cell carcinoma Adenosquamous carcinoma Spindle cell carcinoma Squamous cell carcinoma Undiffentiated carcinoma まれとされる 2) .取扱い規約では中分化腺癌に分類されると思われる. medullary carcinoma は日本名では髄様癌といわれる組織型で,高齢者の女性で,右側優位に 発生するとされる 3) .組織学的には核小体の目立つ空胞状の核と好酸性の細胞質を有する腫瘍細 胞が充実性に増殖を示すことが特徴的とされる 3) .しばしば腫瘍内にリンパ球浸潤がみられる 3) . micropapillary carcinoma は,乳癌で確立した概念で,乳癌では予後も不良とされている.大 腸癌では通常型の腺癌内にみられることが多く,乳癌と同様の特徴を有しているかはまだ明ら かではない 4, 5) .規約分類では,コンセンサスはないが,乳頭状腺癌に分類されるものと思われ る.粘液癌は,全体の 50%以上を粘液癌成分が占める癌に適応されるが a) ,本邦の取扱い規約 に記載されている粘液癌の概念と同様である.通常型の腺癌を含むことも多く,後述の印環細 胞癌を合併することもある. 鋸歯状腺癌は,腺腔が鋸歯状を呈することが特徴である.右側に好発し,女性に多いとされ る 6) .取扱い規約では乳頭状腺癌もしくは管状腺癌に分類されるとされている.印環細胞癌は胃 癌の印環細胞と同様の形態を示す 7) .腫瘍全体の 50%以上を印環細胞癌が占める場合に用いる とされ,取扱い規約における概念と差異はない. 文献 1) Hamilton SR, Bosman FT, Boffetta, et al. Carcinoma of the colon and rectum. In: WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, Carneiro F, Hruban RH, et al (eds), IARC Press, Lyon, 2010: p134-136 2) Chirieac LR, Shen L, Catalano PJ, et al. Phenotype of microsatellite-stable colorectal carcinomas with CpG island methylation. Am J Surg Pathol 2005; 29: 429-436(ケースコントロール) 3) Rüschoff J, Dietmaier W, Lüttges J, et al. Poorly differentiated colonic adenocarcinoma, medullary type: clinical, phenotypic, and molecular characteristics. Am J Pathol 1997; 150: 1815-1825(ケースコントロール) 4) Hisamori S, Nagayama S, Kita S, et al. Rapid progression of submucosal invasive micropapillary carcinoma of the colon in progressive systemic sclerosis: report of a case. Jpn J Clin Oncol 2009; 39: 399-405(ケー スシリーズ) 5) Kuroda N, Oonishi K, Ohara M, et al. Invasive micropapillary carcinoma of the colon: an immunohistochemical study. Med Mol Morphol 2007; 40: 226-230(ケースコントロール) 6) Jass JR. Classification of colorectal cancer based on correlation of clinical, morphological and molecular features. Histopathology 2007; 50: 113-130 7) Greenson JK, Huang SC, Herron C, et al. Pathologic predictors of microsatellite instability in colorectal cancer. Am J Surg Pathol 2009; 33: 126-133(ケースコントロール) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 — 72 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 Clinical Question 4-13 断 (2)病理診断 2010 年の WHO 分類で提唱されている内分泌腫瘍の組織分 類は? CQ 4-13 2010 年の WHO 分類で提唱されている内分泌腫瘍の組織分類は? ステートメント ● 内分泌腫瘍は,神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)と神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)に大きく分類されている.NET は腫瘍の組織像と増殖能 (分裂像と ki-67 の陽性細胞率)の観点から NET G1 と NET G2 に分類した. 解説 2010 年に出版された WHO のテキストにおいて,新しい消化器内分泌細胞に対する腫瘍の分 類が 提案さ れ た 1).神経内分泌細胞に 由来す る 腫瘍は ,神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)と神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma:NEC)に大きく分類される.その特 徴を表 1 にあげる. この分類の特徴は NET を腫瘍の組織像と増殖能(分裂と ki-67 の陽性細胞率)の観点から NET G1 と NET G2 に分類し,さらに NEC との違いを明瞭にしたうえで予後との関連性を明らかに したことである 1) .従来用いられてきたカルチノイドは G1 に分類されることになるが 1) ,G2 が 従来の分類のどこに該当するかは明瞭ではない.その意味で,WHO 分類で G2 の存在を明らか にしたことに意義がある.しかしながら,WHO でも記載されているが,今回の WHO 分類の 表1 2010 年 WHO 分類 神経内分泌腫瘍 NET G1 (NET) NET G2 NET の 2010 年 WHO 分類 核分裂像数 ki-67 指数 <2 ≦ 2% 2 〜20 3〜20% > 20 >20% 特徴 比較的均一な円形の核を 有し,リボン状,索状,管状,充実性 の胞巣を形成する 2 ではまれに壊死を認めることもあ るが,その大きさは小さい ある(特に G1) 神経内分泌癌(NEC) N/C の大きい異型細胞で, 未熟であるが,組織像は小細胞癌型, 大細胞癌型で異なる (WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, et al (eds), IARC Press, Lyons, 2010) — 73 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 4.診 断 (2)病理診断 NEC の亜分類の有用性に関しては前腸系腫瘍(胃と膵臓)では明らかにされているが,後腸系で はその意義は明瞭に示されていない,ということに注意すべきである 1) .大腸においても今後本 邦で WHO 分類が積極的に用いられることになろうが,注意して用いるべきである. NEC に関しては取扱い規約では,組織像の説明のみで,小細胞癌,大細胞癌の区別は行われ a) ていない(大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,2013 [検索期間外文献] ) .しかし,注には小細 胞癌についての記載がある.WHO と取扱い規約の間における組織学的な違いはないと思われ る.NEC も腺癌もしくは腺腫成分を含むことがあり(肛門部では扁平上皮癌を含むことがまれ にある) ,その由来は腺形成性腫瘍と考えられている 1) .NET 由来の NEC は極めてまれとされて いる 1, 2) .最終的な診断は免疫染色に依存することも多い.WHO では,chromogranin A,synaptophysin,CD56 のなかで少なくとも 2 つのマーカーが陽性になることが必要としている 1) . WHO でのもうひとつの大きな特徴として mixed adenoendocrine cell carcinoma(MANEC) の概念の導入がある 1) .規約においても注において adenoendocrine cell carcinoma としてこの存 在について記載されているが,分類のなかには独立して取り上げられていない(定義の記載もな い)a) .MANEC の定義は,腺癌と内分泌細胞癌のいずれかの比率が少なくとも 30%あることで ある 1) .この定義からも推測されるように,腺癌や腺腫部分を含めばすべて MANEC に分類さ れるわけではない.WHO でも NEC に腺腫や腺癌の合併がしばしばみられることが指摘されて おり,NEC の由来が腺癌や腺腫由来であると述べている 1, 2) .WHO のテキストでも予後に関し ては明らかにされていないとされているが 1) ,内分泌細胞癌の成分に予後は関連するので, MANEC の予後も不良であることが想定される 1) .実際,早期癌の段階で肝転移を示した報告も ある 3) . 文献 1) Klimstra DS, Arnold R, Capella C, et al.. Neuroendocrine neoplasms of the colon and rectum. In: WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, Bosman FT, Carneiro F, Hruban RH, et al (eds), IARC Press, Lyon, 2010: p174-177 2) Shia J, Tang LH, Weiser MR, et al. Is nonsmall cell type high-grade neuroendocrine carcinoma of the tubular gastrointestinal tract a distinct disease entity? Am J Surg Pathol 2008; 32: 719-731(横断) 3) Ubiali A, Benetti A, Papotti M, et al. Genetic alterations in poorly differentiated endocrine colon carcinomas developing in tubulo-villous adenomas: a report of two cases. Virchows Arch 2001; 439: 776-781 (ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌取扱い規約,第 8 版,金原出版,東京,2013 — 74 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-1 内視鏡的摘除の適応となる大腸腺腫の大きさは? CQ 5-1 内視鏡的摘除の適応となる大腸腺腫の大きさは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 径 6mm 以上の病変は,内視鏡的摘除の適応であり,実施すること を提案する. 2 (100%) C ● ただし,径 5mm 以下の病変でも平坦陥凹型腫瘍および癌との鑑別 が困難な病変は摘除することを提案する. 2 (100%) D 解説 径 6 mm 以上の腫瘍性病変では,大きさ 5 mm 以下の病変と比較して,癌の頻度が高くなり, また形態学的に腺腫と癌との鑑別が困難であることがしばしばみられるため,内視鏡的摘除が 強く推奨される 1, 2) . 英国における検討から,径 6~10 mm の病変における癌の相対危険率は径 5 mm 未満を 1 と すると,径 6~10 mm で 7.2,径 11~20 mm で 12.7,径 20 mm<で 14.6 であり,肉眼的に腺腫 と癌との鑑別が困難な病変も多いため,径 6 mm 以上の大きさのポリープはすべて切除または 焼灼すべきとの研究がみられる 1) .ポリペクトミー 1) ,EMR 3)や ESD 4)はメタアナリシスの結果 からも大腸腫瘍に対する低侵襲治療として最良の治療法である 5, 6) . ただし,平坦陥凹型病変については,径 5 mm 以下でも隆起型病変と比較して癌の頻度が高 く,内視鏡的摘除が望ましい 3, 7) . 文献 1) Aldridge AJ, Simson JN. Histological assessment of colorectal adenomas by size: are polyps less than 10 mm in size clinically important? Eur J Surg 2001; 167: 777-781(ケースシリーズ) 2) Ahlawat SK, Gupta N, Benjamin SB, et al. Large colorectal polyps: endoscopic management and rate of malignancy: does size matter? J Clin Gastroenterol 2011; 45: 347-354(ケースシリーズ) 3) Kudo S. Endoscopic mucosal resectionof flat and depressed types of early colorectal cancer. Endoscopy 1993; 25: 455-461(ケースシリーズ) 4) Tanaka S, Oka S, Kaneko I, et al. Endoscopic submucosal dissection for colorectal neoplasia: possibility of standardization. Gastrointest Endosc 2007; 66: 100-107(ケースシリーズ) 5) Puli SR, Kakugawa Y, Gotoda T, et al. Meta-analysis and systematic review of colorectal endoscopic mucosal resection. World J Gastroenterol 2009; 15: 4273-4277(メタ) 6) Puli SR, Kakugawa Y, Saito Y, et al. Successful complete cure en-bloc resection of large nonpedunculated — 76 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 colonic polyps by endoscopic submucosal dissection: a meta-analysis and systematic review. Ann Surg Oncol 2009; 16: 2147-2151(メタ) 7) Saitoh Y, Waxman I, West AB, et al. Prevalence and distinctive biological features of flat colorectal adenomas in a North American population. Gastroenterology 2001; 120: 1657-1665(コホート) — 77 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-2 径 5mm以下の微小腺腫の取り扱いは? CQ 5-2 径 5mm 以下の微小腺腫の取り扱いは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 隆起性病変は経過観察も容認される(経過観察を提案する) . 2 (100%) C ● ただし,平坦陥凹型病変で,腫瘍および癌との鑑別が困難な病変は 内視鏡的摘除を提案する. 2 (100%) D 解説 径 5 mm 以下の微小病変のうち,内視鏡的に過形成性病変を疑う病変は,原則経過観察でよ い(CQ 5-3 参照) .径 5 mm 以下の隆起型腺腫のうち,癌の所見を呈さない病変も原則経過観察 が容認される.平坦陥凹型病変で腺腫や癌を疑う病変に対しては,内視鏡的摘除が望まれる. なお,癌の所見とは,①緊満所見(病変全体が張った感じ) ,②面状の陥凹,③粗糙所見(表面の 光沢が消失してざらざらした所見) ,④広基性病変で立ち上がり正常粘膜,⑤Ⅴ型 pit pattern で あり,これらの所見の有無を確認するために,色素撒布や拡大内視鏡観察を併用する 1, 2) .微小病 変に対する経過観察の方法については 3 年に 1 回程度の内視鏡検査が推奨される 3, 4) . 径 5 mm 以下の微小病変は 2~3 年間は観察しても大きさの増大や形態的変化がみられる病変 が少ないとのコホート研究がある 3) .また,微小病変における癌の頻度は欧米で 0.03~0.05%で あり,ポリペクトミーの全偶発症は,大規模コホート研究によると,0.7%程度で,穿孔は 0.1% (1,000 件に 1 例)とされており,径 5 mm 以下の微小ポリープをすべて摘除することは健康人の 不要なリスクを高め,社会に不要なコストを強いることになる,と報告されている 5, 6) . 大腸腺腫摘除後の経過観察は,微小病変を含めて全病変摘除達成までは 1 年おきに,微小病 変を含めて全病変摘除達成以降は 3 年に 1 回の全大腸内視鏡検査による経過観察を行うのが効 率的との報告がある 4, 7) . 文献 1) 斉藤裕輔,岩下明徳,工藤進英,ほか.大腸癌研究会「微小大腸病変の取り扱い」プロジェクト研究班結 果報告 5mm 以下の大腸微小病変の内視鏡治療指針.胃と腸 2009; 44: 1047-1051(コホート) 2) Tanaka S, Kaltenbach T, Chayama K, et al. High-magnification colonoscopy (with videos). Gastrointest Endosc 2006; 64: 604-613 — 78 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 3) 尾上耕治,山田浩己,宮崎貴浩,ほか.5mm 以下の大腸微小ポリープ自然史に関する前向き研究.日本 消化器がん検診学会雑誌 2008; 46: 729-734(コホート) 4) 豊永敬之,西野晴夫,鈴木康元,ほか.大腸腺腫の内視鏡的摘除後の適正なサーベイランス法.Gastroenterol Endosc 2009; 51: 1121-1128(コホート) 5) Gschwantler M, Kriwanek S, Langner E, et al. High-grade dysplasia and invasive carcinoma in colorectal adenomas: a multivariate analysis of the impact of adenoma and patient characteristics. Eur J Gastroenterol Hepatol 2002; 14: 183-188(コホート) 6) Bretagne JF, Manfredi S, Piette C, et al. Yield of high-grade dysplasia based on polyp size detected at colonoscopy: a series of 2295 examinations following a positive fecal occult blood test in a populationbased study. Dis Colon Rectum 2010; 53: 339-345(コホート) 7) Togashi K, Shimura K, Konishi F, et al. Prospective observation of small adenomas in patients after colorectal cancer surgery through magnification chromocolonoscopy. Dis Colon Rectum 2008; 51: 196-201 (コホート) — 79 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-3 過形成性ポリープの取り扱いは? CQ 5-3 過形成性ポリープの取り扱いは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 直腸,S 状結腸に好発する径 5mm 以下の過形成性ポリープは放置 することを提案する. 2 (100%) D ● 右側結腸に好発する径 10mm 以上で,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)との鑑別が困難な病変については内視鏡的摘 除を提案する. 2 (100%) D 解説 直腸・S 状結腸に高頻度に認められる径 5 mm 以下の白色扁平隆起を呈する典型的な過形成性 ポリープは,将来の腺腫の発生との関連性はみられないとの報告がみられ 1, 2) ,放置してよい.米 国のガイドラインでは過形成ポリープのみの場合,10 年に一度の大腸内視鏡検査でよいとして いる. ただし,右側結腸に好発する径 10 mm 以上の大きさで,SSA/P との鑑別が困難な病変につい ては,癌の頻度が 9.4%程度との報告もみられており 3) ,摘除することが望ましい. 2 つの計 1,800 例の大規模な Chemoprevention study の結果から,初回検査で過形成性ポリー プを認めた患者では有意に過形成が出現する危険性が高く(オッズ比 3.67,p<0.001) ,同様に, 初回検査で腺腫が発見された例では腺腫の再発危険性が高かった(オッズ比 2.08,p<0.01) .一 方,初回検査で過形成性ポリープを認めた例と腺腫発生との間に有意な相関はみられなかった. また腺腫出現例で過去の過形成性ポリープの有無との相関は認めなかったとの報告がみられて いる 1, 2) .過形成ポリープの存在で腺腫の,腺腫の存在で過形成性ポリープの発生を予知できない ことから,2 種のポリープは異なった生物学的振る舞いを示すことが推測されている 1, 2) . ただし,過形成ポリープではすでに BRAF の遺伝子変異が認められ,直腸・S 状結腸の過形 成ポリープは近位側の悪性病変の存在を予測するとの報告があり,今後,過形成性ポリープと SSA/P との関連性についての検討が必要であるとされている 1, 2) . — 80 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Bensen SP, Cole BF, Mott LA, et al. Colorectal hyperplastic polyps and risk of recurrence of adenomas and hyperplastic polyps: Polyps Prevention Study. Lancet 1999; 354: 1873-1874(コホート) 2) Laiyemo AO, Murphy G, Sansbury LB, et al. Hyperplastic polyps and the risk of adenoma recurrence in the polyp prevention trial. Clin Gastroenterol Hepatol 2009; 7: 192-197(コホート) 3) 長谷川 申,鶴田 修,河野弘志,ほか.大腸鋸歯状病変の内視鏡診断―通常内視鏡を中心に.胃と腸 2011; 46: 394-404(横断) — 81 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-4 大腸鋸歯状病変に対する治療適応は? CQ 5-4 大腸鋸歯状病変に対する治療適応は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸鋸歯状病変には,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P) , traditional serrated adenoma(TSA) ,hyperplastic polyp (HP)があり,前 2 者は癌化の可能性を有しており,治療を行うこ とを提案する. 2 (100%) D 解説 大腸鋸歯状病変には,sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P) ,traditional serrated adenoma(TSA) , hyperplastic polyp(HP)が含まれる.SSAP は BRAF 遺伝子変異,CIMP(CpG island methylator phenotype)を認め,MSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変と考えられている 1) . また,最近の研究では SSA/P 由来の癌化率は 1.5~20%2)といわれ,SSA/P に対しては積極 的に摘除すべきとする報告が多い 3) .一方,TSA は左側結腸・直腸に多くみられ発赤の目立つ隆 起性病変で組織学的には腫瘍であり,SSA/P と同様癌化のリスクを有する.したがって, SSA/P,TSA は治療の適応となる病変であり,TSA は通常の腺腫と同様径 5 mm 以上の病変を 治療適応とし,SSA/P では,径 10mm 以上の病変を治療の適応とするものが多い 4~6) . HP については,SSA/P や TSA の前駆病変の可能性はあるが,径 5 mm 以下の病変は治療の 適応とはされていない. 文献 1) Leggett B, Whitehall V. Role of the serrated pathway in colorectal cancer pathogenesis. Gastroenterology 2010; 138: 2088-2100 2) 吉森建一,鶴田 修,河野弘志,ほか.大腸 serrated polyp の内視鏡所見―鋸歯状腺腫(serrated adenoma)の内視鏡的診断と治療.早期大腸癌 2006; 10: 291-296(ケースシリーズ) 3) De Jesus-Monge WE, Gonzalez-Keelan MC, Cruz-Correa M. Serrated adenomas. Curr Gastroenterol Rep 2009; 11: 420-427(ケースシリーズ) 4) Matsumoto T, Mizuno M, Shimizu M, et al. Clinicopathological features of serrated adenoma of the colorectum: comparison with traditional adenoma. J Clin Pathol 1999; 52: 513-516(横断) 5) 樫田博史,工藤進英.大腸ポリープの新知見―大腸鋸歯状腺腫の概念,特徴,診断.医学のあゆみ 別冊 (消化器疾患 Ver.3) ,2006: p628-633(ケースシリーズ) 6) 浦岡俊夫,東 玲治,大原信哉,ほか.大腸鋸歯状病変の内視鏡診断―pit pattern 所見を中心に.胃と腸 2011; 46: 406-416(横断) — 82 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-5 LST(laterally spreading tumor)の治療方針は? CQ 5-5 LST(laterally spreading tumor)の治療方針は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● LST-G は顆粒均一型と結節混在型,LST-NG は平坦隆起型と偽陥 凹型に分類される.各亜分類別の組織学的悪性度は異なっている が,治療に際しては,この亜分類のみでなく,拡大内視鏡所見や必 要に応じて EUS 所見を加えて治療法を選択する. 2 (100%) C 解説 LST には granular type(LST-G)と non-granular type(LST-NG)があり,それぞれ顆粒均一型 (homogenous type)と結節混在型(nodular mixed type) ,平坦隆起型(flat elevated type)と偽 陥凹型(pseudodepressed type)に細分類される 1) .LST-G 顆粒均一型は腺腫が多く SM 浸潤率は 極めて低く,LST-NG 偽陥凹型は SM 浸潤率が高いことが明らかとなっている 2, 3) .LST-G 結節混 在型は粗大結節部で SM 浸潤率が高いため 4) ,同部位は一括切除が望ましい 5) .腺腫主体の LSTG 顆粒均一型は EMR 分割切除が容認される 6) .LST-NG 平坦隆起型は術前診断に応じて治療法 を決定する.LST-NG 偽陥凹型は多中心性に SM 浸潤をきたすため一括切除が必要である 4, 5) .な お,実際の治療方針決定の際には LST 亜分類だけではなく,拡大内視鏡・EUS 所見を加えて総 合的に決定することが重要である. 文献 1) Kudo S, Lambert R, Allen JI, et al. Nonpolypoid neoplastic lesions of the colorectal mucosa. Gastrointest Endosc 2008; 68: S3-S47 2) Saito Y, Fujii T, Kondo H, et al. Endoscopic treatment for laterally spreading tumors in the colon. Endoscopy 2001; 33: 682-686(横断) 3) Nishiyama H, Isomoto H, Yamaguchi N, et al. Endoscopic submucosal dissection for laterally spreading tumours of the colorectum in 200 consecutive cases. Surg Endosc 2010; 24: 2881-2887(横断) 4) Uraoka T, Saito Y, Matsuda T, et al. Endoscopic indications for endoscopic mucosal resection of laterally spreading tumours in the colorectum. Gut 2006; 55: 1592-1597(横断) 5) Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future perspective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651(横断) 6) Tanaka S, Haruma K, Oka S, et al. Clinicopathologic features and endoscopic treatment of superficially spreading colorectal neoplasms larger than 20 mm. Gastrointest Endosc 2001; 54: 62-66(横断) — 83 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-6 早期大腸癌に対する内視鏡的治療の適応は? CQ 5-6 早期大腸癌に対する内視鏡的治療の適応は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● リンパ節転移の可能性がほとんどなく一括切除できる病変である. なし C 解説 M 癌に関してはこれまでリンパ転移例の報告はない.一方,SM 浸潤癌の約 10%にはリンパ 節転移がある 1, 2) .すなわち,早期大腸癌の内視鏡的治療適応病変は,M 癌とリンパ節転移の可 能性がほとんどない SM 軽度浸潤癌である. 内視鏡的摘除は摘除生検(excisional biopsy)としての側面もあるが,SM 高度浸潤癌の内視鏡 的摘除では深部断端陽性になる危険性があり,適応を限定して行うべきである. なお,摘除標本 の組織学的検索によって治療の根治性と外科的追加切除の必要性を正確に判定するために癌病 変は一括切除が基本である(大腸癌治療ガイドライン a) [検索期間外文献] ) . 文献 1) Coverlizza S, Risio M, Ferrari A, et al. Colorectal adenomas containing invasive carcinoma: pathologic assessment of lymph node metastatic potenial. Cancer 1989; 64: 1937-1947(横断) 2) 小平 進,八尾恒良,中村恭一,ほか.sm 癌細分類からみた転移陽性大腸 sm 癌の実態―アンケート調査 集計報告.胃と腸 1994; 29: 1137-1142(横断) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) — 84 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-7 早期大腸癌内視鏡的摘除後に外科的切除を考慮しなければな らない病理所見は? CQ 5-7 早期大腸癌内視鏡的摘除後に外科的切除を考慮しなければならない病理 所見は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 内視鏡的摘除標本で,垂直断端陽性のときは外科的切除が望まし い.また,①SM 浸潤距離 1,000μm 以上,②脈管侵襲陽性,③ 低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌,④浸潤先進部の簇出(budding)Grade 2/3 を認めた場合には,外科的切除を考慮する. なし C 解説 大腸 SM 浸潤癌のリンパ節転移率は 6.8~17.0%であり 1~8) (大腸癌治療ガイドライン a) ,J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 1057-1062 b) ,Endoscopy 2012; 44: 590-595 c)[検索期間外文献] ) ,SM 浸潤癌の治療の原則はリンパ節郭清を伴う外科的切除である.SM 浸潤癌のリンパ節転移リスク 因子として,SM 浸潤距離 1~6, a, b) ,低分化腺癌,粘液癌などの組織型 1, 3~6, a, b) ,簇出 7, a~c) ,脈管侵襲 陽性 1~8, a~c)などが報告されている.内視鏡的摘除後に SM 浸潤癌と診断された際には,上記の病 理所見を参考にすることで不要な追加外科的切除を減少させることができる 1~3, 9, a)(Gastroenterology 2013; 144: 551-559 d) [検索期間外文献] ) .ただし,上記のリンパ節転移リスク因子の存 在は追加外科的切除の絶対適応ではなく(たとえば,1,000 µm 以深浸潤例のすべてが追加手術の 適応になるわけではない) ,実地臨床においては,患者背景やその他のリンパ節転移リスクなど を総合的に判断し,患者背景と具体的な予測リンパ節転移率を十分に比較したうえで追加外科 的切除の要否を決定する(図 1) . 文献 1) Son HJ, Song SY, Lee WY, et al. Characteristics of early colorectal carcinoma with lymph node metastatic disease. Hepatogastroenterology 2008; 55: 1293-1297(横断) 2) Kim JH, Cheon JH, Kim TI, et al. Effectiveness of radical surgery after incomplete endoscopic mucosal resection for early colorectal cancers: a clinical study investigating risk factors of residual cancer. Dig Dis Sci 2008; 53: 2941-2946(横断) 3) Tanaka S, Yokota T, Saito D, et al. Clinicopathologic features of early rectal carcinoma and indications for endoscopic treatment. Dis Colon Rectum 1995; 38: 959-963(横断) 4) Tanaka S, Haruma K, Oh-E H, et al. Conditions of curability after endoscopic resection for colorectal carci- — 85 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い 垂直断端陰性 乳頭腺癌 管状腺癌 低分化腺癌 印環細胞癌 粘液癌 浸潤度 <1,000μm 浸潤度 ≧1,000μm 脈管侵襲陰性 簇出 垂直断端陽性 脈管侵襲陽性 G1 簇出 経過観察 G2/3 郭清を伴う腸切除を考慮する 郭清を伴う腸切除 図 1 内視鏡的摘除後の pT1(pSM)癌の治療方針 (文献 a より) noma with submucosally massive invasion. Oncol Rep 2000; 7: 783-788(横断) 5) Oka S, Tanaka S, Kanao H, et al. Mid-term prognosis after endoscopic resection for submucosal colorectal carcinoma: summary of a multicenter questionnaire survey conducted by the colorectal endoscopic resection standardization implementation working group in Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Dig Endosc 2011; 23: 190-194(横断) 6) Okabe S, Arai T, Maruyama S, et al. A clinicopathological investigation on superficial early invasive carcinomas of the colon and rectum. Surg Today 1998; 28: 687-695(横断) 7) Ueno H, Mochizuki H, Hashiguchi Y, et al. Risk factors for an adverse outcome in early invasive colorectal carcinoma. Gastroenterology 2004; 127: 385-394(横断) 8) Meining A, von Delius S, Eames TM, et al. Risk factors for unfavorable outcomes after endoscopic removal of submucosal invasive colorectal tumors. Clin Gastroenterol Hepatol 2011; 9: 590-594(横断) 9) 依田雄介,池松弘朗,松田尚久,ほか.大腸癌治療ガイドライン 2005/2009 の妥当性.胃と腸 2011; 46: 1442-1448(横断) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) b) Nakadoi K, Tanaka S, Kanao H, et al. Management of T1 colorectal carcinoma with special reference to criteria for curative endoscopic resection. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 1057-1062(横断) c) Suh JH, Han KS, Kim BC, et al. Predictors for lymph node metastasis in T1 colorectal cancer. Endoscopy 2012; 44: 590-595(横断) d) Ikematsu H, Yoda Y, Matsuda T, et al. Long-term outcomes after resection for submucosal invasive colorectal cancers. Gastroenterology 2013; 144: 551-559(コホート) — 86 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-8 分割内視鏡的粘膜切除術(EMR)が容認される大腸腫瘍とは? CQ 5-8 分割内視鏡的粘膜切除術(EMR)が容認される大腸腫瘍とは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 術前診断で腺腫または粘膜内癌と確信できれば分割切除を行っても よい.ただし, 一般的に分割切除では不完全切除率が高く,局所遺 残再発率が高いことに留意する. 2 (100%) C 解説 術前に癌と診断,あるいは癌が疑われる病変は, 摘除標本の緻密な組織学的検索のために一括 切除が原則である.スネアで確実に一括切除できる大腸腫瘍の大きさは径 20 mm 程度までであ るため,径 20 mm 以上の明らかな腺腫性病変,あるいは術前診断で粘膜内癌と確信できる病変 はスネアによる分割切除も容認される(大腸癌治療ガイドライン a) [検索期間外文献] ) .ただし, 一般的に分割切除では不完全切除率が高く,局所遺残再発率が高いことに留意する 1~7) (J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 734-740 b) [検索期間外文献] ) .また,腺腫主体の病変であっても癌 成分を有することがあるため,術前に拡大内視鏡検査を行い,癌を疑う部分は一括切除が必要 である 6) .局所遺残再発病変のほとんどは粘膜内病変であり,追加内視鏡的治療で根治可能であ る 1, 4, b, c) .なお,ESD を用いると大きさに関係なく病変の一括摘除が可能であるが,技術的難易 度が高いため術者の技量を考慮して施行することが重要である. 文献 1) Tamura S, Nakajo K, Yokoyama Y, et al. Evaluation of endoscopic mucosal resection for laterally spreading rectal tumors. Endoscopy 2004; 36: 306-312(横断) 2) Tanaka S, Haruma K, Oka S, et al. Clinicopathologic features and endoscopic treatment of superficially spreading colorectal neoplasms larger than 20 mm. Gastrointest Endosc 2001; 54: 62-66(横断) 3) Luigiano C, Consolo P, Scaffidi MG, et al. Endoscopic mucosal resection for large and giant sessile and flat colorectal polyps: a single-center experience with long-term follow-up. Endoscopy 2009; 41: 829-835(横 断) 4) Mannath J, Subramanian V, Singh R, et al. Polyp recurrence after endoscopic mucosal resection of sessile and flat colonic adenomas. Dig Dis Sci 2011; 56: 2389-2395(横断) 5) Hurlstone DP, Sanders DS, Cross SS, et al. Colonoscopic resection of lateral spreading tumours: a prospective analysis of endoscopic mucosal resection. Gut 2004; 53: 1334-1339(コホート) 6) Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future per- — 87 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い spective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651 7) Saito Y, Fukuzawa M, Matsuda T, et al. Clinical outcome of endoscopic submucosal dissection versus endoscopic mucosal resection of large colorectal tumors as determined by curative resection. Surg Endosc 2010; 24: 343-352(横断) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) b) Terasaki M, Tanaka S, Oka S, et al. Clinical outcomes of endoscopic submucosal dissection and endoscopic mucosal resection for laterally spreading tumors larger than 20 mm. J Gastroenterol Hepatol 2012; 27: 734740(横断) c) Tanaka S, Terasaki M, Hayashi N, et al. Warning for unprincipled colorectal endoscopic submucosal dissection: accurate diagnosis and reasonable treatment strategy. Dig Endosc 2013; 25: 107-116 — 88 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-9 内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の適応は? CQ 5-9 内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の適応は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● ①早期癌あるいは早期癌の可能性が高く,摘除後標本の詳細な病理 組織学的検索が必要であるが,スネアによる一括切除が困難な病 変,②粘膜下層に線維化を伴う粘膜内腫瘍,③慢性炎症を背景とし た sporadic な粘膜内腫瘍,④内視鏡的切除後の局所遺残粘膜内 癌,である. なし C 解説 大腸 ESD 標準化検討部会(案)によると 1) ,大腸 ESD の適応病変は,スネアによる一括切除が 困難な,①LST-NG(特に pseudodepressed type) ,ⅤI 型 pit pattern を呈する病変,SM 軽度浸 潤癌,大きな陥凹型腫瘍,癌を疑う大きな隆起性病変,②粘膜下層に線維化を伴う粘膜内腫瘍, ③潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性疾患を背景とした sporadic な局在腫瘍,④内視鏡的切除後の 局所遺残粘膜内癌,と記載されている.なお,④に関して大腸腫瘍遺残再発病変に対する ESD の治癒切除率は 83~88%と報告されている 2, 3) . 本邦では,2012 年 4 月に大腸 ESD が径 2~5 cm 未満の早期大腸悪性腫瘍に対して保険適用が 認可された.なお,日本消化器内視鏡学会における大腸 ESD 先進医療コホート研究の結果より, 径 5 cm 以上の大腸 ESD の治療成績は径 5 cm 未満と同様に有効かつ安全であることが明らかと なり,現在径 5 cm 以上の大腸 ESD に関しても保険適用拡大を申請中である. 文献 1) Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future perspective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651 2) Hurlstone DP, Shorthouse AJ, Brown SR, et al. Salvage endoscopic submucosal dissection for residual or local recurrent intraepithelial neoplasia in the colorectum: a prospective analysis. Colorectal Dis 2008; 10: 891-897(コホート) 3) Kuroki Y, Hoteya S, Mitani T, et al. Endoscopic submucosal dissection for residual/locally recurrent lesions after endoscopic therapy for colorectal tumors. J Gastroenterol Hepatol 2010; 25: 1747-1753(横断) — 89 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-10 大腸腫瘍の治療方針決定に生検は必須か? CQ 5-10 大腸腫瘍の治療方針決定に生検は必須か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 病変の性質によっては,生検を行わずに治療方針を決定してもよい (決定することを提案する) . 2 (100%) C 解説 ポリペクトミー,EMR 可能な病変であれば,生検後の結果をみてポリープ切除を行うことは 患者の負担も増し医療経済の面からも推奨できない.しかし,SM 癌が疑われる病変では生検後 病変の性質を知ったうえで治療方針を決定することは容認される.また,表面型腫瘍などで EMR や ESD の治療適応となる病変では,治療前に生検を行うと粘膜下層に線維化が生じ 1) ,内 視鏡的治療の妨げとなることも留意すべきである. 以上より,内視鏡的摘除術が可能な病変か否かを通常観察や拡大観察などで見極めることが 重要である. 文献 1)Dirschmid K, Kiesler J, Mathis G, et al. Epithelial misplacement after biopsy of colorectal adenomas. Am J Surg Pathol 1993; 17: 1262-1265(ケースシリーズ) — 90 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-11 ポリペクトミーの禁忌は? CQ 5-11 ポリペクトミーの禁忌は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 出血傾向,穿孔のリスクの高い病変,SM 高度浸潤癌が疑われる病 変,同意が得られない場合などではポリペクトミーを行うべきでは ない.なお,抗血栓薬服用者は『抗血栓薬服用者に対する消化器内 視鏡診療ガイドライン』に準じて施行することを推奨する. 1 (100%) C 解説 ポリペクトミーの禁忌となるのは,身体的な要因として,出血傾向があり,出血のコントロー ルが困難と予想される場合である.また,全身状態が悪い場合や患者の協力(同意)が得られな い場合も禁忌となる(消化器内視鏡ハンドブック,2012: p347-355 a) [検索期間外文献] ) . 病変側の問題として,穿孔のリスクの高い病変(憩室の反転)1) ,大きくスネアがかけられない ような病変,粘膜下腫瘍,non-lifting sign 陽性の病変 2) ,SM 深部浸潤が疑われる病変では治療 の目的が達成できないので禁忌である. また,抗凝固薬や抗血小板薬を使用中の患者では,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診 療ガイドライン(Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102 b) [検索期間外文献] )に準じて施行す ることが推奨される.すなわち,アスピリン服用者では,血栓症高危険群では休薬なしで施行. 血栓症低危険群では 3~5 日休薬して行う.チエノピリジン服用者では,血栓症高危険群ではア スピリン,シロスタゾール置換し施行.血栓症低危険群では 5~7 日休薬後施行.チエノピリジ ン以外の抗血小板薬服用者では 1 日休薬して施行.抗凝固薬服用者ではヘパリン置換後ポリペ クトミーを施行するなどの指針が抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインによっ て示されている b) . 文献 1) 藤木茂篤,河原祥朗.胃・大腸ポリペクトミーの禁忌は? 成人病と生活習慣病 2003; 32: 974-975 2) Ishiguro A, Uno Y, Ishiguro Y, et al. Correlation of lifting versus non-lifting and microscopic depth of invasion in early colorectal cancer. Gastrointest Endosc 1999; 50: 329-333(ケースコントロール) 【検索期間外文献】 a) 樫田博史,山野㤗穂,田村 智.ホットバイオプシー,ポリペクトミー,EMR,EPMR.消化器内視鏡ハ ンドブック,日本消化器内視鏡学会(監修) ,2012: p347-355 b) 藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,ほか.抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102(ガイドライン) — 91 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 5.治療・取り扱い Clinical Question 5-12 ポリペクトミー後出血に対する緊急内視鏡検査の適応と注意 点は? CQ 5-12 ポリペクトミー後出血に対する緊急内視鏡検査の適応と注意点は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 輸血や手術を要するような大量出血例もあるので,出血の状況(大 量の血便,短時間内の頻回血便)や全身状態を考慮して適応や検査 時期を決定することを推奨する. 1 (100%) D 解説 ポリペクトミー後の出血(後出血)は,内視鏡的治療後に Hb 値 2 g/dL 以上の低下あるいは血 便をきたしたものと定義されている 1) .病変の大きさや部位,摘除方法などによって頻度は異な る 2) . 自然止血する場合もあるが,動脈性出血の場合には,ショックをきたすなど循環動態に影響 を与える.内視鏡による止血が困難で輸血や手術が必要となることもある 3)ので,後出血が発 生した場合には慎重に対応する必要がある.後出血は切除後 3 日までの間に発生することが多 いが,7 日以降発生するものもある 4) . 治療前に十分インフォームドコンセントを行っておく必要がある.また,時間外や夜間に発 生した場合の連絡先を伝えておくことが重要である.特に時間外の対応には注意を要する.す なわち,電話対応だけではなく,診察を行い,緊急内視鏡検査の必要性を判断することが重要 である.適正な対応は,トラブルを未然に防ぐ意味でも重要である. 診察では,直腸診が有用で,直腸内の血液の状態を把握し,鮮血であれば緊急内視鏡検査の 適応である.出血後時間をおいて検査を行うと腸管内の血液が凝固し観察が困難となるので出 血後は速やかに内視鏡検査を行う.緊急内視鏡検査時は腸管内の洗浄が必要となるので,その 準備や止血器具などをあらかじめ準備したうえで施行する.また,ポリープを摘除した部位を 把握したうえで検査を行うことも,速やかに出血部を同定するのに重要である.なお,頻度は 高くないと思われるが,後出血でショック,プレショックの状態に陥っている場合は,ショッ クの治療を優先し循環動態を安定させてから緊急内視鏡検査を行う.その際,再出血や再ショッ クなどに備え緊急対応策を周到に準備しておくことが必要である. — 92 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Tajiri H, Kitano S. Complication associated with endoscopic mucosal resection: definition of bleeding that can be viewed as accidental. Dig Endosc 2004; 16: S134-S136(横断) 2) Complication associated with endoscopic mucosal resection: definition of bleeding that can be viewed as accidental. Dig Endosc 2008; 20: 913-918(横断) 3) Matsukawa M, Fujimori M, Kouda T, et al. Incidence and management of hemorrhage after endoscopic removal of colorectal lesions. Showa Univ J Med Sci 2000; 12: 253-258(横断) 4) Sawhney MS, Salfiti N, Nelson DB, et al. Risk factors for severe delayed post polypectomy bleeding. Endoscopy 2008; 40: 115-119(横断) 5) Rex DK, Lewis BS, Waye JD. Colonoscopy and endoscopic therapy for delayed post-polypectomy hemorrhage. Gastrointest Endosc 1992; 38: 127-129(横断) — 93 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-1 大腸癌に対する chemoprevention は可能か? CQ 6-1 大腸癌に対する chemoprevention は可能か? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸癌発生を抑制することが証明された化学予防(chemoprevention)薬はない. なし − ● 一般人において,セレコキシブやアスピリンは大腸腺腫の再発抑制 効果を有し,カルシウム製剤は腺腫増大抑制効果を示す. なし − ● 大腸腺腫症ではスリンダク,セレコキシブ,EPA-FFA の短期投与 で腺腫の数や大きさを抑制する. なし B 解説 1)非大腸腺腫症患者を対象とした試験結果 非大腸腺腫症患者を対象とした臨床試験の結果を示す.セレコキシブ 400 mg/day とプラセボ とのランダム化比較試験では,3 年後の腺腫陽性率がセレコキシブ群 33.6%,プラセボ群 49.3% であり,腺腫発生が有意に抑制された[RR 0.64(95%CI 0.56~0.75,p<0.001) ]1) .また,腺腫サ イズもセレコキシブ群で有意に低値であった(p=0.005)1) .心血管イベントはセレコキシブ群 2.5%,プラセボ群 1.9%で有意差なし[RR 1.30(95%CI 0.65~2.62) ]1) .また,アスピリンとプラ セボの比較試験のメタアナリシスでは,アスピリン投与群で腺腫発生率が有意に低かった[RR 0.836(95%CI 0.706~0.965) ]2) .炭酸カルシウム(1,200 mg/day)とプラセボとの 4 年間の比較試 験では,腺腫発生率に有意差がなかった[RR 0.89(95%CI 0.77~1.03) ]3) .ただし,腺管絨毛腺 腫,絨毛腺腫,高度異型,ないし浸潤癌の発生は炭酸カルシウム投与で有意に低下した[RR 0.65 (95%CI 0.46~0.93) ]3) .葉酸とプラセボを比較した臨床試験のメタアナリシスでは,腺腫発生抑 制[RR 0.98(95%CI 0.82~1.17) ]と腺腫再発抑制効果はみられなかった 4) .抗ヒスタミン受容体拮 抗薬とプラセボの比較試験のメタアナリシスでは,ヒスタミン受容体(H)1 拮抗薬[RR 1.10 (95%CI 0.97~1.25) ] ,H2 受容体拮抗薬[RR 0.90(95%CI 0.77~1.06) ]のいずれも腺腫再発抑制 効果はなかった 5) .なお,3~5 年ごとの内視鏡検査と予防的セレコキシブ投与の費用対効果を みた試験では,セレコキシブ投与が費用対効果に劣り,高リスク群で積極的に行うべきではな いとされる 6) . 2)非大腸切除の大腸腺腫症患者を対象とした試験結果 非大腸切除の大腸腺腫症患者を対象としたセレコキシブとプラセボのランダム化比較試験で — 96 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 は,セレコキシブ 400 mg 群で腺腫数が 28%低下し(p=0.003) ,大きさも 30.7%退縮(p=0.001) したが,セレコキシブ 100 mg とプラセボでは腺腫数,大きさともに有意な変化はなかった 7) . 何らかの非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)とプラセボを比較した臨床研究のメタアナリシ スでは,腺腫数の減少率が NSAIDs で 11.9~44%であり,プラセボの 4.5~10%よりも有意に減 少した[RR 0.77(95%CI 0.61~0.96) ]8) .FAP 患者の残存直腸の腺腫に対する eicosapentaenoic acid in the free fatty acid form(EPA-FFA)の効果を検討したランダム化比較試験では,EPA-FFA でプラセボ群と比較して腺腫数で 22.4%(5.1~39.6%,p=0.012) ,サイズで 29.8%(3.6~56.1%, p=0.027)と有意に腺腫が退縮した 9) . 以上の臨床研究は,いずれも腺腫予防効果を示したものであり,大腸癌の発生予防効果を示 した報告はない. 文献 1) Arber N, Eagle CJ, Spicak J, et al. Celecoxib for the prevention of colorectal adenomatous polyps. N Engl J Med 2006; 355: 885-895(ランダム) 2) Gao F, Liao C, Liu L, et al. The effect of aspirin in the recurrence of colorectal adenomas: a meta-analysis of randomized controlled trials. Colorectal Dis 2009; 11: 893-901(メタ) 3) Wallace K, Baron JA, Cole BF, et al. Effect of calcium supplementation on the risk of large bowel polyps. J Natl Cancer Inst 2004; 96: 921-925(ランダム) 4) Figueiredo JC, Mott LA, Giovannucci E, et al. Folic acid and prevention of colorectal adenomas: a combined analysis of randomized clinical trials. Int J Cancer 2011; 129: 192-203(メタ) 5) Robertson DJ, Burke CA, Schwender BJ, et al. Histamine receptor antagonists and incident colorectal adenomas. Aliment Pharmacol Ther 2005; 22: 123-128(コホート) 6) Arguedas MR, Heudebert GR, Wilcox CM. Surveillance colonoscopy or chemoprevention with COX-2 inhibitors in average-risk post-polypectomy patients: a decision analysis. Aliment Pharmacol Ther 2001; 15: 631-638(メタ) 7) Steinbach G, Lynch PM, Phillips RK, et al. The effect of celecoxib, a cyclooxygenase-2 inhibitor, in familial adenomatous polyposis. N Engl J Med 2000; 342: 1946-1952(ランダム) 8) Asano TK, McLeod RS. Non steroidal anti-inflammatory drugs (NSAID) and aspirin for preventing colorectal adenomas and carcinomas. Cochrane Database of Sys Rev 2004: CD004079(メタ) 9) West NJ, Clark SK, Phillips RK, et al. Eicosapentaenoic acid reduces rectal polyp number and size in familial adenomatous polyposis. Gut 2010; 59: 918-925(ランダム) — 97 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-2 ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR) ,内視鏡的粘膜 下層剝離術(ESD)の使い分けは? CQ 6-2 ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的粘膜下層剝離 術(ESD)の使い分けは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● ポリペクトミーは有茎性/亜有茎性ポリープが,EMR は無茎性あ るいは表面型病変がよい適応であり,実施することを提案する. ESD は一括切除が必要だが EMR で一括切除困難な病変が適応で あり,実施することを提案する. 2 (100%) C 解説 内視鏡的治療法の選択は腫瘍の形態や腫瘍径を考慮して決定する.有茎性,亜有茎性ポリー プに対しては,ポリペクトミーの適応である.EMR は癌を疑う無茎性あるいは亜有茎性病変や 表面型病変がよい適応であり 1) (Endoscopy 1973; 5: 38-40 a) [検索期間外文献] ) ,正常粘膜も含め た完全切除が望ましい病変である.ESD は大きさにかかわらず一括切除可能な手技である 2~5) (Surg Endosc 2013; 27: 3262-3270 b) [検索期間外文献] ) .ESD の適応は一括切除が必要だが EMR では困難な病変である 5) .特に陥凹型や LST-NG 偽陥凹型は SM 浸潤率が高いため 4, 6) ,確実な一 括切除が必要である.一方,LST-G 顆粒均一型は SM 浸潤率が低いため分割 EMR が容認され る 5) .また,SM 癌が疑われる病変は,ポリペクトミーよりも EMR または ESD が望ましい. 文献 1) Kudo S. Endoscopic mucosal resection of flat and depressed types of early colorectal cancer. Endoscopy 1993; 25: 455-461(ケースシリーズ) 2) Kobayashi N, Saito Y, Uraoka T, et al. Treatment strategy for laterally spreading tumors in Japan: before and after the introduction of endoscopic submucosal dissection. J Gastroenterol Hepatol 2009; 24: 13871392(横断) 3) Tanaka S, Oka S, Kaneko I, et al. Endoscopic submucosal dissection for colorectal neoplasia: possibility of standardization. Gastrointest Endosc 2007; 66: 100-107(横断) 4) Saito Y, Fujii T, Kondo H, et al. Endoscopic treatment for laterally spreading tumors in the colon. Endoscopy 2001; 33: 682-686(横断) 5) Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future perspective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651 6) Nishiyama H, Isomoto H, Yamaguchi N, et al. Endoscopic submucosal dissection for laterally spreading — 98 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 tumours of the colorectum in 200 consecutive cases. Surg Endosc 2010; 24: 2881-2887(横断) 【検索期間外文献】 a) Deyhle P, et al. A method for endoscopic electroresection of sessile colonic polyps. Endoscopy 1973; 5: 3840(ケースシリーズ) b) Nakajima T, Saito Y, Tanaka S, et al. Current status of endoscopic resection strategy for large, early colorectal neoplasia in Japan. Surg Endosc 2013; 27: 3262-3270(コホート) — 99 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-3 内視鏡的粘膜切除術(EMR)における粘膜下局注液の選択は? CQ 6-3 内視鏡的粘膜切除術(EMR)における粘膜下局注液の選択は? ステートメント ● 病変の性状に応じて,生理食塩水,ヒアルロン酸製剤などを使い分 けることを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) D 解説 病変を一括で内視鏡的粘膜切除術(EMR)できそうな場合には,粘膜下局注液として生理食塩 水を用いることが多い.ただし,病変の性状や術者の技量により,病変の切除に時間がかかり そうな場合や病変を一括切除できずに分割 EMR になりそうな場合,または ESD を行う場合に 1) は粘膜下局注液として隆起保持性の高いヒアルロン酸製剤を用いる (消化器内視鏡ハンドブッ ク,2012: p347-355 a)[検索期間外文献] ) .また,海外の論文ではエピネフリンを加えた 50%ブ ドウ糖液の局注やブドウ糖液の局注が推奨されている 2~5)が,高張ブドウ糖液の局注には組織 傷害性を認め病理診断に支障をきたすとの報告 6)があるので,使用には注意が必要である. 文献 1) 樫田博史,林 武雄,細谷寿久,ほか.局注のポイント―局注液の選択・局注のコツ.消化器内視鏡 2009; 21: 1411-1419 2) Katsinelos P, Kountouras J, Paroutoglou G, et al. Endoscopic mucosal resection of large sessile colorectal polyps with submucosal injection of hypertonic 50 percent dextrose-epinephrine solution. Dis Colon Rectum 2006; 49: 1384-1392(ケースシリーズ) 3) Sato T. A novel method of endoscopic mucosal resection assisted by submucosal injection of autologous blood (blood patch EMR). Dis Colon Rectum 2006; 49: 1636-1641(ケースシリーズ) 4) Katsinelos P, Kountouras J, Paroutoglou G, et al. A comparative study of 50% dextrose and normal saline solution on their ability to create submucosal fluid cushions for endoscopic resection of sessile rectosigmoid polyps. Gastrointest Endosc 2008; 68: 692-698(ランダム) 5) Hurlstone DP, Fu KI, Brown SR, et al. EMR using dextrose solution versus sodium hyaluronate for colorectal Paris type I and 0- lesions: a randomized endoscopist-blinded study. Endoscopy 2008; 40: 110-114 (ランダム) 6) 女屋純一,吉岡敬二,随念亮至,ほか.内視鏡的粘膜下層剥離術に用いる粘膜下注入材としてのヒアルロ ン酸ナトリウムの有用性と基礎的研究.消化器内視鏡 2008; 20: 242-248(横断) 【検索期間外文献】 a) 日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会(編) .ホットバイオプシー,ポリペクトミー,EMR,EPMR.消化 器内視鏡ハンドブック,2012: p347-355 — 100 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-4 内視鏡的治療後のクリッピングは穿孔や後出血の予防に有効 か? CQ 6-4 内視鏡的治療後のクリッピングは穿孔や後出血の予防に有効か? ステートメント ● 内視鏡的治療後のクリッピングについては,穿孔防止・出血防止の いずれにおいても有効性は確立されていない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 内視鏡的治療後のクリッピングについては,クリッピングにより出血や他の合併症を認めな かったとする報告 1, 2)や抗血栓薬の長期服用例であっても安全にポリペクトミーを実施できたと する報告 3)があるが,いずれもエビデンスレベルの低いものである.一方,クリップ実施群と 非実施群で出血率に差があるかをみた比較的質の高い研究では両群間に有意差はなかったと報 告 4)している. このように,内視鏡的治療後のクリッピングの穿孔や後出血の予防に対する有効性について は評価が交錯しており,現時点ではその有効性は確立されていない.ただし,内視鏡的治療後 に出血を認めた場合や内視鏡的治療部に露出血管を認めた場合はその限りではない 5) . 文献 1) 石川尚之,志村和政,竹内英津子,ほか.大腸ポリープ摘除後の出血例の検討.Progress of Digestive Endoscopy 2003; 63: 46-50(ケースコントロール) 2) Friedland S, Soetikno R. Colonoscopy with polypectomy in anticoagulated patients. Gastrointest Endosc 2006; 64: 98-100(ケースシリーズ) 3) Luigiano C, Ferrara F, Ghersi S, et al. Endoclip-assisted resection of large pedunculated colorectal polyps: technical aspects and outcome. Dig Dis Sci 2010; 55: 1726-1731(ケースシリーズ) 4) Shioji K, Suzuki Y, Kobayashi M, et al. Prophylactic clip application does not decrease delayed bleeding after colonoscopic polypectomy. Gastrointest Endosc 2003; 57: 691-694(ランダム) 5) 柴田喜明,瀬尾継彦,三井啓吾,ほか.内視鏡的大腸ポリープ切除術後クリッピング症例の検討.日本大 腸検査学会雑誌 2001; 18: 356-357(ケースシリーズ) — 101 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-5 抗血栓薬服用者における内視鏡検査・治療時の対応は? CQ 6-5 抗血栓薬服用者における内視鏡検査・治療時の対応は? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 大腸内視鏡検査(生検を含む)のみの場合,抗血栓薬が単剤の場合 は休薬不要(観察のみ) ,休薬不要可能(生検時) .多剤併用の場合 は慎重に行う.また,内視鏡的治療を行う場合,事前に処方医と休 薬の可否に関して相談するとともに,患者本人にも利益・不利益を 十分に説明した上で,明確な同意がある時のみに実施する.なお, 『抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン』に準じ て施行することを提案する. 1 (100%) D 解説 表 1,表 2 は「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」に掲載されている フローチャートであるが,基礎疾患および服用中の抗血小板薬,抗凝固薬の種類によっては服 用中止により重篤な合併症を引き起こす可能性があるため,抗血小板薬,抗凝固薬を服用して いる患者に大腸内視鏡検査のみを行う場合,休薬はしない.しかし,治療も行う場合は事前に 処方医に休薬の可否について相談する.また,患者本人にも抗血小板薬,抗凝固薬服用者に治 療を行った場合の不利益について十分に説明する(Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102 a) [検 索期間外文献] ) . 表1 単独投与 内視鏡検査 抗血小板薬・抗凝固薬の休薬:単独投与の場合 観察 生検 出血低危険度 出血高危険度 アスピリン ◎ ○ ○ ○ /3 〜 5 日休薬 チエノピリジン ◎ ○ ○ ASA,CLZ 置換 /5 〜 7 日休薬 チエノピリジン 以外の抗血小板薬 ◎ ○ ○ 1 日休薬 ワルファリン ◎ ○治療域 ○治療域 ヘパリン置換 ダビガトラン ◎ ○ ○ ヘパリン置換 投薬の変更は内視鏡に伴う一時的なものにとどめる. ◎:休薬不要,○:休薬不要で可能,/:または,ASA:アスピリン,CLZ:シロスタゾール — 102 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 表2 2 剤併用 抗血小板薬・抗凝固薬の休薬:多剤併用の場合 アスピリン チエノピリジン ○ /CLZ 置換 5〜 7 日休薬 ○ /CLZ 置換 チエノピリジン 以外の抗血小板薬 1 日休薬 ○ /CLZ 置換 ヘパリン置換 ASA/CLZ 置換 1 日休薬 ASA/CLZ 置換 ヘパリン置換 CLZ 置換 /1 日休薬 3 剤併用 ○ /CLZ 置換 ワルファリン, ダビガトラン 5〜 7 日休薬 ○ /CLZ 置換 ASA/CLZ 置換 ヘパリン置換 ヘパリン置換 1 日休薬 ヘパリン置換 1 日休薬 ヘパリン置換 生検・低危険度の内視鏡:症例に応じて慎重に対応する. 出血高危険度の内視鏡:休薬が可能となるまでは延期が望ましい.投薬の変更は内視鏡に伴う一時的なものに とどめる. ○:休薬不要,/:または,ASA:アスピリン,CLZ:シロスタゾール 文献 【検索期間外文献】 a) 藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,ほか.抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102(ガイドライン) — 103 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-6 心臓ペースメーカー植込み患者に対する内視鏡的治療時の注 意点は? CQ 6-6 心臓ペースメーカー植込み患者に対する内視鏡的治療時の注意点は? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● モノポーラースネア使用時は事前に安全性の確認を行うことを推奨 する.なお,バイポーラースネアの場合はその限りではない. 1 (100%) D ● 事前にペースメーカーのポリペクトミー時における安全性が確認で きれば,バイポーラースネアのみでなく,モノポーラースネアで あってもポリペクトミーを行うことを推奨する. 1 (100%) D 解説 心臓ペースメーカー植込み患者に対する内視鏡的治療(ポリペクトミー)は,穿孔や出血など の合併症を引き起こす危険性は高くなく安全に実施することが可能である.また,内視鏡的治 療(ポリペクトミー)が心臓ペースメーカーの機能に障害を与えることもない 1) . なお,心臓ペースメーカー植込み患者の内視鏡的治療(ポリペクトミー)において安全とされ てきたバイポーラースネアには耐久性や価格に問題があること,また最近の植込み型(体内式) 心臓ペースメーカーであればモノポーラースネアであっても安全に内視鏡的治療(ポリペクト ミー)を実施できる 1)ことなどから,モノポーラースネアで心臓ペースメーカー植込み患者の内 視鏡的治療(ポリペクトミー)を行う機会が増えてきている. ただ,心臓ペースメーカーの型式によってはバイポーラースネアを使用したほうがよい場合 があるため,事前に心臓ペースメーカーの型式と内視鏡的治療(ポリペクトミー)実施の可否に ついて確認しておくことが必要である.また,さらに安全を期すのであれば,心臓ペースメー カーに精通した者を同席させたうえで内視鏡的治療(ポリペクトミー)を行うのがよい. 文献 1) Tanigawa K, Yamashita S, Maeda Y, et al. Endoscopic polypectomy for pacemaker patients. Chin Med J 1995; 108: 579-581(ケースシリーズ) — 104 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-7 基礎疾患(呼吸器,循環器系)を有する患者に対する内視鏡的 治療時の注意点は? CQ 6-7 基礎疾患(呼吸器,循環器系)を有する患者に対する内視鏡的治療時の 注意点は? ステートメント ● 基礎疾患の病態を把握したうえで治療による利益と不利益を考慮し て施行するかどうかを決定する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 大腸ポリープに対する内視鏡的治療には,ESD,EMR,ポリペクトミーなどが含まれるが, 内視鏡的治療を行う際には腸管の前処置から前投薬の投与そして内視鏡の挿入に内視鏡的治療 といった患者に負担を強いることが続くため,基礎疾患のない患者でも治療中にバイタルサイ ンに変化が生じることがある.そこで,基礎疾患を有する患者に内視鏡的治療を行う場合は, まず基礎疾患の病態を十分把握したうえでその治療が本当に必要なものであるかを吟味し,患 者にとって利益が不利益を大きく上回る治療のみを実施するように心がけることが重要である (消化器内視鏡ハンドブック,2012: p347-355 a) [検索期間外文献] ) .また,バイタルサインが低 下している場合には,あらかじめバイタルサインを改善させてから治療に臨むようにする(消化 器内視鏡ハンドブック,2012: p58-63 b)[検索期間外文献] ) .そして,治療を行っている最中は 患者が深刻な状態に陥らないようにバイタルサインの変化を注意深く観察するとともに,患者 の状態によっては内視鏡的治療を中止する勇気が求められることもある. 文献 【検索期間外文献】 a) 日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会(編) .ホットバイオプシー,ポリペクトミー,EMR,EPMR.消化 器内視鏡ハンドブック,2012: p347-355 b) 日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会(編) .循環器胴体を含む全身管理.消化器内視鏡ハンドブック, 2012: p58-63 — 105 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-8 大腸のなかで腹腔鏡下手術を行いやすい部位と行いにくい部 位はどこか? CQ 6-8 大腸のなかで腹腔鏡下手術を行いやすい部位と行いにくい部位はどこ ステートメント ● 技術的難易度が低い部位として回盲部・上行結腸・S 状結腸があげ られ,技術的難易度が高い部位として横行結腸・直腸があげられ る. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 術後合併症を腹腔鏡下手術と開腹手術で比較した RCT などの比較検討では,腹腔鏡下手術の 短期成績の優越性,また,長期成績の非劣性が報告されている.しかし,これらの試験では, 横行結腸癌・直腸癌症例は除外されていた 1~6) .また,腹腔鏡下横行結腸切除術は他の腹腔鏡下 結腸切除術に比較して,手術時間が長いとの報告もあり 7) ,D1 郭清は他の部位と同程度の難度 であるが,D3 郭清は難度が高いと考えられる. しかし近年は,腹腔鏡下手術症例数の多い施設からの報告に限られるものの,横行結腸癌に対 する腹腔鏡下手術は,出血量や術後の食事開始期間・入院日数の点において開腹手術よりも優 位性があるとの報告がなされている 8) (Surg Laparosc Endosc Percutan Tech 2011; 21: 415-418 a) [検索期間外文献] ) .また,横行結腸癌と他の部位の腹腔鏡下結腸切除との比較でも,開腹移行 率や術中出血量,入院期間において同等であるとの報告が認められる 8) . 文献 1) Lacy AM, Garcia-Valdecasas JC, Delgado S, et al. Laparoscopy-assisted colectomy versus open colectomy for treatment of non-metastatic colon cancer: a randomised trial. Lancet 2002; 359: 2224-2229(メタ) 2) Hasegawa H, Kabeshima Y, Watanabe M, et al. Randomized controlled trial of laparoscopic versus open colectomy for advanced colorectal cancer. Surg Endosc 2003; 17: 636-640(メタ) 3) Senagore AJ, Delaney CP, Brady KM, et al. Standardized approach to laparoscopic right colectomy: outcomes in 70 consecutive cases. J Am Coll Surg 2004; 199: 676-679(ケースシリーズ) 4) Anonymous. A comparison of laparoscopically assisted and open colectomy for colon cancer. N Engl J Med 2004; 350: 2050-2059(メタ) 5) Weeks JC, Nelson H, Gelber S, et al. Short-term quality-of-life outcomes following laparoscopic-assisted colectomy vs open colectomy for colon cancer: a randomized trial. JAMA 2002; 287: 321-328(メタ) 6) Veldkamp R, Kuhry E, Hop WC, et al. Laparoscopic surgery versus open surgery for colon cancer: shortterm outcomes of a randomised trial. Lancet Oncol 2005; 6: 477-484(メタ) — 106 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7) Schlachta CM, Mamazza J, Poulin EC. Are transverse colon cancers suitable for laparoscopic resection? Surg Endosc 2007; 21: 396-399(コホート) 8) Akiyoshi T, Kuroyanagi H, Fujimoto Y, et al. Short-term outcomes of laparoscopic colectomy for transverse colon cancer. J Gastrointest Surg 2010; 14: 818-823 (コホート) 【検索期間外文献】 a) Nakashima M, Akiyoshi T, Ueno M, et al. Colon cancer in the splenic flexure: comparison of short-term outcomes of laparoscopic and open colectomy. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech 2011; 21: 415-418(コ ホート) — 107 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 6.治療の実際 Clinical Question 6-9 直腸ポリープの局所切除術にはどのような術式があるか? CQ 6-9 直腸ポリープの局所切除術にはどのような術式があるか? ステートメント ● 内視鏡的摘除のほかに,経肛門的切除術,経括約筋的切除術,経仙 骨的切除術がある. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 直腸ポリープの局所切除術には,内視鏡的摘除のほかに,経肛門的切除術,経括約筋的切除 術,経仙骨的切除術がある.また経肛門的切除術は,切除方法により,従来法,TEM(transanal endoscopic microsurgery),MITAS(minimally invasive transanal surgery)に分けられる 1, 2). これらの切除方法別における治療成績に関する RCT はない.症例集積研究では,合併症は,穿 孔・出血・縫合不全などが報告されており(1~14.5%) ,手術関連死亡は 0~0.58%,平均在院 日数は 4~5 日程度と報告されている 3, 4) .局所再発率は 3.7%で切除方法による差は認められず, 5 年生存率は M 癌 99.7%,SM 癌 97.6%,MP 癌 84.7%,a 以深 65.9%であり,SM 癌と MP 癌 の間で有意差が認められている 5) . 文献 1) Buess G, Theiss R, Gunther M, et al. Endoscopic surgery in the rectum. Endoscopy 1985; 17: 31-35 2) Middleton PF, Sutherland LM, Maddern GJ. Transanal endoscopic microsurgery: a systematic review (Structured abstract). Dis Colon Rectum 2005; 48: 270-284(メタ) 3) Ramirez JM, Aguilella V, Gracia JA, et al. Local full-thickness excision as first line treatment for sessile rectal adenomas: long-term results. Ann Surg 2009; 249: 225-228(ケースシリーズ) 4) Platell C, Denholm E, Makin G. Efficacy of transanal endoscopic microsurgery in the management of rectal polyps. J Gastroenterol Hepatol 2004; 19: 767-772(ケースシリーズ) 5) 冨木裕一,細田誠弥,笠巻伸二,ほか.直腸癌の局所切除術の現況 第 63 回大腸癌研究会アンケート調査報 告.日本大腸肛門病学会雑誌 2006; 59: 309-316(ケースシリーズ) — 108 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-1 内視鏡的治療に伴う偶発症発生率は? CQ 7-1 内視鏡的治療に伴う偶発症発生率は? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● 治療に伴う重篤な偶発症の発生頻度は 0.3%以下であり,死亡につ いては 0〜0.09%と報告されている. なし B 解説 内視鏡的治療後,急性・遅発性出血の危険因子としてポリープに関する多変量解析では,大 きさ径 3 cm 以上では径 5 mm 以下に比べて 30 倍の危険率(オッズ比 27.522,CI 17.198~44.049) で複数個,形態は平坦,無茎性で高い 1) . 患者関連では年齢(65 歳以上) (オッズ比 1.37,CI 1.02~1.87) ,心疾患(オッズ比 2.08,CI 1.45 ~2.99) ,慢性腎疾患(6 ヵ月以上続く Cr 3 mg/dL 以上,または透析中)の併存(オッズ比 3.28, CI 1.84~5.37) ,抗凝固薬の服用(オッズ比 3.71,CI 1.05~13.05) ,ポリープ関連では 1 cm 以上 の大きさ(オッズ比 2.38,CI 1.78~3.18)で Ⅰsp(Ⅰp ではない)または LST(オッズ比 1.42,CI 1.06~1.89) ,手技関連では前処置不良(オッズ比 1.54,CI 1.09~2.19) ,高周波装置の cut mode (オッズ比 6.95,CI 4.42~10.94) ,通電前の不適切な切除(オッズ比 7.15,CI 3.13~16.36)とされ ている 2~5) .また,径 6 mm 以上のポリープに対する cold polypectomy(高周波通電を行わない ポリペクトミー)は出血の危険因子となる可能性があるため行わない 1) . ASGE,日本消化器内視鏡学会のガイドラインではアスピリンや他の NSAIDs は出血の危険 因子にならないとしているが,急性出血の危険因子や遅発性出血の予測因子にもなるとの報告 もみられている 1, 5) . 穿孔の危険因子も大きさと関連(径 3 cm 以上ではオッズ比 31.485,CI 6.368~155.664)し,形 態とも関連している(表面型 vs. 無茎性;オッズ比 3.239,CI 1.524~6.885)との報告がある 4) . 出血,穿孔の頻度については日本消化器内視鏡学会のアンケート調査も参照とした 6, 7) . 文献 1) Kim HS, Kim TI, Kim WH, et al. Risk factors for immediate postpolypectomy bleeding of the colon: a multicenter study. Am J Gastroenterol 2006; 101: 1333-1341(ランダム) 2) Watabe H, Yamaji Y, Okamoto M, et al. Risk assessment for delayed hemorrhagic complication of colonic polypectomy: polyp-related factors and patient-related factors. Gastrointest Endosc 2006; 64: 73-78( コ — 110 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 ホート) 3) Rosen L, Bub DS, Reed JF 3rd, et al. Hemorrhage following colonoscopic polypectomy. Dis Colon Rectum 1993; 12: 1126-1131(ケースシリーズ) 4) Levin TR, Zhao W, Conell C, et al. Complications of colonoscopy in an integrated health care delivery system. Ann Intern Med 2006; 145: 880-886(コホート) 5) Witt DM, Delate T, McCool KH, et al. Incidence and predictors of bleeding or thrombosis after polypectomy in patients receiving and not receiving anticoagulation therapy. J Thromb Haemost 2009; 7: 1982-1989 (ケースコントロール) 6) 金子榮藏,原田英雄,春日井達造,ほか.消化器内視鏡関連の偶発症に関する第 4 回全国調査報告―1998 年より 2002 年までの 5 年間.Gastroenterol Endosc 2004; 46: 54-61 7) 芳野純治,五十嵐良典,大原弘隆,ほか.消化器内視鏡関連の偶発症に関する第 5 回全国調査報告―2003 年より 2007 年までの 5 年間.Gastroenterol Endosc 2010; 52: 95-103 — 111 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-2 内視鏡的治療に伴う偶発症発生時の対応策は? CQ 7-2 内視鏡的治療に伴う偶発症発生時の対応策は? ステートメント ● 出血,穿孔などの偶発症が発生した場合,止血,穿孔部の縫縮に努 めるとともに,患者の全身状態を詳細に観察のうえ,外科との連携 を行いつつ,手術か保存的治療を行うかを決定することを推奨す る. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) B 解説 1)内視鏡的治療に伴う偶発症の予防策 アスピリンと NSAIDs は内視鏡的治療時の急性出血・後出血の危険因子であり治療前の休薬 が望ましい 1)との報告もあるが,日本消化器内視鏡学会のガイドラインでは,アスピリンや NSAIDs は出血の危険因子にならず,内視鏡的治療前に休薬の必要はない(Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102 a) [検索期間外文献] ) . ワルファリンは休薬可能であれば,治療施行 4 日前程度から休薬し,ワルファリン服用患者 では治療 24 時間前から低分子ヘパリンを用いた bridging therapy を行い,治療直前の INR は 1.5 以下にしておくことが望ましい.治療直後からワルファリンを再開すること,and/or 低分 子ヘパリンを用いた bridging therapy を行うことは治療後出血の危険性を増加させることになる ため,行わないことが望ましい 1) . これら抗血栓薬の休薬の是非,休薬期間については, 「抗血栓薬服用患者に対する消化器内視 鏡診療ガイドライン」a)に準拠する. 出血予防のために 10 mm 以上の有茎性ポリープの切除時は,1/10,000 希釈のボスミンを茎に 2~10 mL 局注,または止血クリップや留置スネアを使用しての切除が望ましい 2~4) . 出血予防のための高周波の設定は,エンドカットモードまたはブレンドモードを用い,カッ トモードでは行わない 5) . 右側結腸の大型の病変は出血,ポリペクトミー後症候群発生の危険因子との報告がみられ(有 意差なしとの報告もあり) ,注意を要する 4) . 後出血の危険因子はポリープの大きさ(1 cm 以上) ,高血圧(14/90 以上)で有意に高く,注意が 必要である.また,高血圧患者では,後出血までの期間が長い(中央値 6 日,範囲 2~14 日)2~5) . EMR,ESD は,良好な前処置の状況で施行されることが望ましい 2~5) . 治療時には炭酸ガス送気を使用することが望ましい 6) . — 112 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 心疾患,腎疾患患者では,ポリペクトミーの有益性と危険性をよく考慮しての治療決定が重 要である 1, 5, 7~9) . 高齢者,前処置不良例に対しても十分な注意と慎重な治療が必要である 1, 5, 7~9) . 2)内視鏡的治療に伴う偶発症発生時の対応策 出血については,止血クリップ,止血鉗子,1/10,000 希釈のボスミンの局注,茎が残存する 例では,留置スネアなどによる止血を行う 2~5, 11) . 穿孔が発生した場合は,腸管内容が腹腔内に漏出しないよう,穿孔部位が上となる体位をと b) り,可及的にクリップにて穿孔部位の完全縫縮を試みる 2, 10) (Surg Endosc 2012; 26: 473-479 [検 索期間外文献] ) . 穿孔部位の完全縫縮が行い得た場合でも,緊急手術が可能となるよう外科との連携を行った うえで,患者全身状態の詳細な観察下で絶食,輸液,抗菌薬の投与などの適切な保存的治療を 行う(専門科の意見) . 完全縫縮が不可能な場合は,縫縮に固執せず,外科手術も考慮した適切な対応を行う(専門科 の意見) .内視鏡的治療後の遅発性穿孔はほとんどの場合外科手術の適応であるため,外科手術 を躊躇しないことが望ましい(専門科の意見) . 文献 1) Witt DM, Delate T, McCool KH, et al. Incidence and predictors of bleeding or thrombosis after polypectomy in patients receiving and not receiving anticoagulation therapy. J Thromb Haemost 2009; 7: 1982-1989 (コホート) 2) Dobrowolski S, Dobosz M, Babicki A, et al. Prophylactic submucosal saline-adrenaline injection in colonoscopic polypectomy: prospective randomized study. Surg Endosc 2004; 18: 990-993(ランダム) 3) Luigiano C, Ferrara F, Ghersi S, et al. Endoclip-assisted resection of large pedunculated colorectal polyps: technical aspects and outcome. Dig Dis Sci 2010; 55: 1726-1731(ケースシリーズ) 4) Di Giorgio P, De Luca L, Calcagno G, et al. Detachable snare versus epinephrine injection in the prevention of postpolypectomy bleeding: a randomized and controlled study. Endoscopy 2004; 36: 860-863(ランダム) 5) Watabe H, Yamaji Y, Okamoto M, et al. Risk assessment for delayed hemorrhagic complication of colonic polypectomy: polyp-related factors and patient-related factors. Gastrointest Endosc 2006; 64: 73-78(横断) 6) Saito Y, Uraoka T, Matsuda T, et al. A pilot study to assess the safety and efficacy of carbon dioxide insufflation during colorectal endoscopic submucosal dissection with the patient under conscious sedation. Gastrointest Endosc 2007; 65: 537-542(ケースシリーズ) 7) Ko CW, Dominitz JA. Complications of colonoscopy: magnitude and management. Gastrointest Endosc Clin N Am 2010; 20: 659-671(非ランダム) 8) Galandiuk S, Ahmad P. Impact of sedation and resident teaching on complications of colonoscopy. Dig Surg 1998; 15: 60-63(コホート) 9) Crispin A, Birkner B, Munte A, et al. Process quality and incidence of acute complications in a series of more than 230,000 outpatient colonoscopies. Endoscopy 2009; 41: 1018-1025(横断) 10) Christie JP, Marrazzo J 3rd. “Mini-perforation” of the colon-not all postpolypectomy perforations require laparotomy. Dis Colon Rectum 1991; 34: 132-135(ケースシリーズ) 11) Parra-Blanco A, Kaminaga N, Kojima T, et al. Hemoclipping for postpolypectomy and postbiopsy colonic bleeding. Gastrointest Endosc 2000; 51: 37-41(ケースシリーズ) 【検索期間外文献】 a) 藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,ほか.抗血栓薬服用患者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.Gastroenterol Endosc 2012; 54: 2075-2102(ガイドライン) b) Cho SB, Lee WS, Joo YE, et al. Therapeutic options for iatrogenic colon perforation: feasibility of endoscopic clip closure and predictors of the need for early surgery. Surg Endosc 2012; 26: 473-479(ケースシリーズ) — 113 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-3 大腸腺腫に対する内視鏡的摘除により大腸癌罹患率は低下す るか? CQ 7-3 大腸腺腫に対する内視鏡的摘除により大腸癌罹患率は低下するか? ステートメント ● 欧米では大腸腺腫性ポリープを内視鏡的に摘除することにより,大 腸癌罹患率は低下するとされているが,本邦からのエビデンスの高 い報告はない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし B 解説 米国 National Polyp Study(NPS)group から,大腸腺腫性ポリープをすべて摘除することによ り 76~90%の大腸癌抑制効果が得られるという報告がなされ,腫瘍性ポリープの内視鏡的摘除 が支持されるに至った 1) .しかし本邦では,大腸腺腫・早期癌の自然史の解明や大腸内視鏡検査 による表面型腫瘍や陥凹型大腸癌の発見から,大腸腺腫を一律に前癌病変として扱うべきでは ないという意見もあり,内視鏡的ポリープ摘除が及ぼす大腸癌抑制効果についてのエビデンス の高い報告はない. 本 CQ について議論すべき事項は,以下の 2 つに大別される.つまり,①腫瘍径別担癌率,② 内視鏡的ポリープ摘除後のサーベイランス間隔である.腫瘍径別にみた担癌率については,厚 生労働省:樋渡班からの報告がある 2) .この報告によると,径 5 mm 以下のポリープは 98.8%が 腺腫であり,担癌率は 1.2%である.これは,欧米からの報告(0.03~0.05%)よりも高い頻度に みえるが,病理診断基準の違いが一因と考えられ,径 5 mm 以下のポリープにおける担癌率は 極めて低いことが予想される.また,内視鏡的ポリープ摘除後のサーベイランス間隔について は,1 回の内視鏡検査ですべての腫瘍性ポリープを拾い上げることには限界があること,また, 腺腫癌化説に基づいた大腸癌以外(いわゆる de novo 癌など)の存在とその臨床的重要性も数多く 報告されており,1 回のクリーンコロン化でその後の大腸癌発生がすべて抑制されるわけではな い点に留意する必要がある 3~5) .これらの点を踏まえながら,内視鏡的ポリープ摘除による大腸 癌罹患率抑制効果を期待するべきである. 文献 1) Winawer SJ, Zauber AG, Ho MN, et al. Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy: The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med 1993; 329: 1977-1981(ランダム) — 114 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 2) 澤田俊夫,樋渡信夫,藤好建史,ほか.ポリープ取り扱い小委員会報告. 厚生省がん研究助成金による「大 腸がん集団検診の精度向上と評価に関する研究」平成 6 年度研究報告,1995: p66-72 3) 五十嵐正広,勝又伴栄.放置したポリープのサーベイランスはどうすべきか.大腸ポリペクトミーはどこ まで必要か,多田正大,工藤進英(編) ,日本メディカルセンター,東京,1997: p155-160(コホート) 4) Nozaki R, Takagi K, Takano M, et al. Clinical investigation of colorectal cancer detected by follow-up colonoscopy after endoscopic polypectomy. Dis Colon Rectum 1997; 40: S16-S22(コホート) 5) Nusko G, Hahn EG, Mansmann U. Risk of advanced metachronous colorectal adenoma during long-term follow-up. Int J Colorectal Dis 2008; 23: 1065-1071(コホート) — 115 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-4 大腸腺腫の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべきか? CQ 7-4 大腸腺腫の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべきか? ステートメント ● 大腸腺腫性ポリープに対する内視鏡的摘除後のサーベイランス内視 鏡検査は,3 年以内に行うことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) B 解説 米国 National Polyp Study より,大腸腺腫性ポリープを内視鏡的にすべて摘除することで,そ の後のサーベイランス内視鏡検査は 3 年後と推奨された 1) . European guideline(Endoscopy 2012; 44(Suppl 3): SE151-SE163 a) [検索期間外文献] )および 米国 guideline 改訂版(Gastroenterology 2012; 143: 844-857 b) [検索期間外文献] )に従えば,全大 腸内視鏡検査(TCS)における腺腫性ポリープの個数と最大径,病理組織診断(villous 成分と high-grade dysplasia の有無)により,それぞれ推奨すべき TCS 間隔が決められている.基本的 に径 10 mm 以下の腺腫性ポリープ(軽度異型腺腫)が散在性に(European guideline では 4 個, 米国 guideline では 9 個まで)認められ内視鏡的に摘除された場合には,一律 3 年後のサーベイ ランス TCS が推奨されている.さらに,それらが 2 個までの場合には,European guideline で は年齢や家族歴を考慮したうえで routine screening(通常の便潜血などのスクリーニング)を,米 国 guideline では 5~10 年後の TCS が推奨されている.その他,腺腫性ポリープが多数認めら れる場合や 1 つでも high-grade dysplasia(本邦では粘膜内癌に相当)が認められた場合など,初 回の TCS 所見によって詳細なリスク層別化がなされ,それぞれに推奨される TCS 間隔が定めら れている. 日本では,いまだ径 5 mm 以下の腺腫性ポリープの取り扱いが一定でないため,海外のガイ ドラインをそのまま適応してよいかどうかは明らかではない.つまり,発見した腺腫性ポリー プをすべて摘除すること(クリーンコロン化)が強く推奨されている欧米と,担癌率の極めて低 い径 5 mm 以下のポリープについては,摘除せずに経過観察してもよいとする本邦の立場が異 なるため,サーベイランス TCS 間隔については一定の見解が得られていない 2~6) .そこで,本 CQ に対しては,Japan Polyp Study 本試験前に報告された遡及的検討結果(“1 回のクリーンコロ ン化では,検査間隔を一律 3 年後に設定することの安全性が十分担保できない” という結論)に 基づき,本推奨草案とした 7) .今後,Japan Polyp Study 本試験の結果が待たれる. — 116 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Winawer SJ, Zauber AG, O’Brien MJ, et al. Randomized comparison of surveillance intervals after colonoscopic removal of newly diagnosed adenomatous polyps: The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med 1993; 328: 901-906(ランダム) 2) 鈴木康元,松生恒夫,野沢 博,ほか.大腸ポリープの治療方針と Total Colonoscopy によるサーベイラン ス法.Therapeutic Research 1997; 18: S362-S365(コホート) 3) Fukutomi Y, Moriwaki H, Nagase S, et al. Metachronous colon tumors: risk factors and rationale for the surveillance colonoscopy after initial polypectomy. J Cancer Res Clin Oncol 2002; 128: 569-574(コホート) 4) Yamaji Y, Mitsushima T, Ikuma H, et al. Incidence and recurrence rates of colorectal adenomas estimated by annually repeated colonoscopies on asymptomatic Japanese. Gut 2004; 53: 568-572(コホート) 5) 浅野道雄,松田保秀,河合めぐみ,ほか.多発性大腸ポリープ症例からみた大腸腺腫切除後の長期経過と サーベイランス.消化器科 2006; 43: 299-306(コホート) 6) 河村卓二,上田モオセ,趙 栄済:長期観察症例からみた腺腫性ポリープ切除後のサーベイランス.消化 器科 2006; 43: 307-310(コホート) 7) Matsuda T, Fujii T, Sano Y, et al. Five-year incidence of advanced neoplasia after initial colonoscopy in Japan: a multicenter retrospective cohort study. Jpn J Clin Oncol 2009; 39: 435-442(コホート) 【検索期間外文献】 a) Atkin WS, Valori R, Kuipers EJ, et al. European guidelines for quality assurance in colorectal cancer screening and diagnosis: First Edition- Colonoscopic surveillance following adenoma removal. Endoscopy 2012; 44 (Suppl 3): SE151-SE163(ガイドライン) b) Lieberman DA, Rex DK, Winawer SJ, et al. Guidelines for colonoscopy surveillance after screening and polypectomy: a consensus update by the US Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer. Gastroenterology 2012; 143: 844-857(ガイドライン) — 117 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-5 大腸 SM 癌の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべき か? CQ 7-5 大腸 SM 癌の内視鏡的摘除後のサーベイランスはどうすべきか? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● 局所再発のみならず,リンパ節再発や遠隔転移再発にも十分留意す る.摘除後,最低 3 年間の慎重な経過観察を行うことを提案する. 2 (100%) C 解説 多施設における遡及的検討(retrospective cohort study)により, 「長期的にみた再発リスク」 の観点からも, 「同時性リンパ節転移リスク」をいずれか 1 因子でも認めた場合には,追加治療 としてリンパ節郭清を伴う腸切除を考慮すべきであることが報告された 1) . ①経過観察可能群:内視鏡的摘除にて大腸癌治療ガイドラインの根治基準を満たし,経過観 察された症例 ②追加手術非施行群:内視鏡的摘除にて同基準を満たさなかったものの,外科手術せずに経 過観察された症例 ③追加手術施行群:内視鏡的摘除にて同基準を満たさず,外科手術が施行された症例 ④初回手術群:初回治療として外科的切除が施行された症例 上記のごとく,初回治療として内視鏡的治療を選択した大腸 SM 癌症例 626 例(観察期間中央 値 4.6 年)を対象とし,その後の再発率について遡及的検討を行った.その結果,大腸癌治療ガ イドラインの根治基準を逸脱しながら追加手術を行わなかった群(追加治療・非施行群)におい て 7.1%の再発を認めた.一方,ガイドラインの基準をすべて満たした群(経過観察可能群)にお ける再発率は 1.9%と低く,5 年 RFS(relapse free survival)は 98%と前者に比し良好な成績で あった(表 1) . 表1 症例数 再発率 5y-RFS (再発・原病死) 5y-OS (他を含む) 105 1.9%(2/105) 98% 93% 84 7.1%(6/84) 90% 97% 追加治療・施行群 159 2.5%(4/159) 97% 98% 初回手術群 278 1.4%(5/278) 98% 99% 経過観察可能群 追加治療・非施行群 OS:overall survival — 118 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 さらに,上記検討対象において再発を認めた症例 17 例中 10 例で遠隔再発(肝・肺・骨転移の いずれか)を認めている.その他の本邦からの報告と併せて判断すると,ガイドライン根治基準 を逸脱しながらもやむを得ず追加手術を行わず経過観察する際には,局所再発のみならずリン パ節再発や遠隔転移再発にも十分留意し,最低 3 年間の慎重な経過観察が必要である(まれに 3 ) 年目以降でも再発例の報告があり,可能であれば 5 年間の経過観察が望ましい)2, 3) (大腸癌治療 a) ガイドライン [検索期間外文献] ) .さらに,直腸 SM 癌における再発率が結腸病変よりも高率 であることにも留意が必要である(Gastroenterology 2013; 144: 551-559 b) [検索期間外文献] ) . 現時点では,大腸 SM 癌に対する内視鏡的摘除後のサーベイランス方法として明確な規定はな いが,6 ヵ月ごとの腫瘍マーカー(CEA/CA19-9)測定,胸腹部 CT・腹部超音波検査(CT と超音 波検査は交互に行うため各々年 1 回) ,大腸内視鏡検査(EMR 後初回検査は 6 ヵ月後,その後は 1 年ごと)は最低限行うべきである. また,有茎性 SM 癌の場合には,同時性リンパ節転移率のみならず再発率も無茎性病変に比 し極めて低いことから, 「head invasion にとどまり脈管侵襲が陰性」の場合には,内視鏡的摘除 のみで経過観察することも考慮する[リンパ節転移率 0%(0/101) ,再発率 0%(0/219) ,観察期 間中央値:43 ヵ月]4) . 文献 1) 依田雄介,池松弘朗,松田尚久,ほか.大腸癌治療ガイドライン 2005/2009 の妥当性.胃と腸 2011; 46: 1442-1448(コホート) 2) 田中信治,五十嵐正広,小林清典,ほか.大腸 SM 癌内視鏡治療後のサーベイランス.大腸疾患 NOW 2007,杉原健一,多田正大,藤盛孝博,五十嵐正広(編) ,日本メディカルセンター,東京,2007: p112-120 3) 岡 志郎,田中信治,金尾浩幸,ほか.大腸 SM 癌内視鏡治療の中期予後.胃と腸 2009; 44: 1286-1293(コ ホート) 4) Matsuda T, Fukuzawa M, Uraoka T, et al. Risk of lymph node metastasis in patients with pedunculated type early invasive colorectal cancer: a retrospective multicenter study. Cancer Sci 2011; 102: 1693-1697 (コホート) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) b) Ikematsu H, Yoda Y, Matsuda T, et al. Long-term outcomes after resection for submucosal invasive colorectal cancers. Gastroenterology 2013; 144: 551-559(コホート) — 119 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-6 大腸 SM 癌治療後の長期成績は?(内視鏡的摘除例,外科的 切除例) CQ 7-6 大腸 SM 癌治療後の長期成績は?(内視鏡的摘除例,外科的切除例) ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● 内視鏡的摘除された大腸 SM 癌の再発率は 2.3〜5.6%である. なし C ● 外科的切除された StageⅠ(リンパ節転移のない)SM 癌の再発率 は,結腸 0.8〜1.3%,直腸 1.1〜4.1%である. なし C 解説 内視鏡的に摘除された大腸 SM 癌全体の再発率は,2.3~5.6%と報告されている 1~4) .再発率 は,リスクファクター陰性例で結腸 0%,直腸 0~6.3%,リスクファクター陽性例で結腸 1.4~ 1.7%,直腸 16.2~19%とされている 5)(Gastroenterology 2013; 144: 551-559 a)[検索期間外文 献] ) .内視鏡的摘除と同様に局所切除である TEM においては,局所再発率 0~8.6%,疾患関連 5 年生存率は 100%との報告されている 6, 7) .いずれも,これまでに大規模な前向き試験は行われ ていない. リンパ節郭清を伴う外科的切除術後における SM 大腸癌の長期予後については,リンパ節転 移を認めない症例で再発率 0~3.7%とされているが,いずれも海外の単施設での小規模な報告 である 3, 8, 9) .本邦においても大規模な研究報告は乏しい.大腸癌研究会による SM 癌約 700 例を 対象とした多施設プロジェクト研究では,リンパ節転移を認めない SM 癌の再発率は,結腸で 1.3%直腸で 1.1%と報告されており,リンパ節転移を認めた SM 癌の再発率は,結腸で 3.6%, 直腸で 25%とされている 10, 11) (大腸癌治療ガイドライン b) [検索期間外文献] ) .また,フォロー アップ研究会による報告では,リンパ節転移を認めない SM 癌の再発率は,結腸 0.8%,直腸 4.1%とされている 12) . 文献 1) Kikuchi R, Takano M, Takagi K, et al. Management of early invasive colorectal cancer: risk of recurrence and clinical guidelines. Dis Colon Rectum 1995; 38: 1286-1295(コホート) 2) 石黒彩子.粘膜下注入所見による早期大腸癌の EMR 適応分類と摘除後経過観察―再発,追加腸切除,非 追加腸切除例の検討.日本大腸肛門病学会雑誌 2000; 53: 516-525(ケースシリーズ) 3) Whitlow C, Gathright JB Jr, Hebert SJ, et al. Long-term survival after treatment of malignant colonic — 120 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 polyps. Dis Colon Rectum 1997; 40: 929-934(コホート) 4) Oka S, Tanaka S, Kanao H, et al. Mid-term prognosis after endoscopic resection for submucosal colorectal carcinoma: summary of a multicenter questionnaire survey conducted by the colorectal endoscopic resection standardization implementation working group in Japanese Society for Cancer of the Colon and Rectum. Dig Endosc 2011; 23: 190(コホート) 5) 依田雄介,池松弘朗,松田尚久,ほか.大腸癌治療ガイドライン 2005/2009 の妥当性.胃と腸 2011; 46: 1442-1448(コホート) 6) Lezoche E, Baldarelli M, De Sanctis A, et al. Early rectal cancer: definition and management. Dig Dis 2007; 25: 76-79(ケースシリーズ) 7) Stipa F, Burza A, Lucandri G, et al. Outcomes for early rectal cancer managed with transanal endoscopic microsurgery: a 5-year follow-up study. Surg Endosc 2006; 20: 541-545(コホート) 8) Read TE, Mutch MG, Chang BW, et al. Locoregional recurrence and survival after curative resection of adenocarcinoma of the colon. J Am Coll Surg 2002; 195: 33-40(コホート) 9) Barillari P, Ramacciato G, Manetti G, et al. Surveillance of colorectal cancer: effectiveness of early detection of intraluminal recurrences on prognosis and survival of patients treated for cure. Dis Colon Rectum 1996; 39: 388-393(コホート) 10) Kobayashi H, Mochizuki H, Morita T, et al. Characteristics of recurrence after curative resection for T1 colorectal cancer: Japanese multicenter study. J Gastroenterol 2011; 46: 203-211(コホート) 11) 渡邉聡明.早期直腸癌の治療―局所切除 vs. 内視鏡的治療―早期直腸癌の治療.早期大腸癌 2007; 11: 283288(コホート) 12) 樋口哲郎.大腸癌術後のフォローアップ―Stage 大腸癌のフォローアップについて.日本大腸肛門病学会 雑誌 2006; 59: 857-862(コホート) 【検索期間外文献】 a) Ikematsu H, Yoda Y, Matsuda T, et al. Long-term outcomes after resection for submucosal invasive colorectal cancers. Gastroenterology 2013; 144: 551-559(コホート) b) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) — 121 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 7.偶発症と治療後のサーベイランス Clinical Question 7-7 大腸 SM 癌に対する外科手術後のサーベイランスは必要か? CQ 7-7 大腸 SM 癌に対する外科手術後のサーベイランスは必要か? ステートメント ● 術後のサーベイランスによる再発の早期発見により治癒切除可能で あった症例もあることから,定期的なサーベイランスを実施するこ とを提案する.しかし,SM 癌に対する外科手術後の再発率は極め て低く,医療経済学的観点も含めて至適なサーベイランス法は確立 されていない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 大腸癌研究会による多施設プロジェクト研究によると,リンパ節転移を伴う SM 癌の術後再 発率は高く,結腸で 3.6%,直腸で 25%とされており,定期的なサーベイランスが必要と考えら れる 1)(大腸癌治療ガイドライン a) [検索期間外文献] ) .一方で,本邦におけるリンパ節転移を 認めない SM 癌の術後再発率は,結腸癌で 0.8~1.3%,直腸癌で 1.1~4.1%と報告されており 1, 2, a) , 海外の報告 3)と同等に低く,再発はまれとされている.しかしながら,リンパ節転移を認めな い SM 癌であっても,術後のサーベイランスで発見された再発に対し,治癒切除を行い得た症 例が報告されていることから 4) ,定期的な画像検査により,予後改善が見込める可能性を否定で きない.以上より,リンパ節転移を認めない SM 癌に対しても定期的なサーベイランスが望ま しいと考える. 大腸癌罹患歴は,異時性大腸癌発生のリスクファクターとされている.本邦の報告では,術 後異時性多発癌罹患率(人口 10 万人対)は 238 で,一般人口の癌罹患率(人口 10 万人対)166 に 比較して高率であり 5) ,海外の報告も同程度である 6) .以上より,異時性大腸病変のスクリーニ ングとしても,大腸内視鏡検査による定期的なサーベイランスが望ましい. 医療経済学的な観点からみて妥当といえるサーベイランス法の設定については報告に乏しく, 今後の検討課題である. 文献 1) Kobayashi H, Mochizuki H, Morita T, et al. Characteristics of recurrence after curative resection for T1 colorectal cancer: Japanese multicenter study. J Gastroenterol 2011; 46: 203-211(コホート) 2) 樋口哲郎,榎本雅之,杉原健一.大腸癌術後のフォローアップ―Stage 大腸癌のフォローアップについて. — 122 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 日本大腸肛門病学会雑誌 2006; 59: 857-862(コホート) 3) Read TE, Mutch MG, Chang BW, et al. Locoregional recurrence and survival after curative resection of adenocarcinoma of the colon. J Am Coll Surg 2002; 195: 33-40(コホート) 4) 河俣 真,永野 靖,山本 晴,ほか.リンパ節転移,脈管侵襲ともに陰性の SM 大腸癌異時性肝転移の 1 例.日本臨床外科学会雑誌 2009; 70: 2087-2092(ケースシリーズ) 5) 石黒めぐみ,望月英隆,杉原健一,ほか.大腸癌術後のフォローアップ―大腸癌に合併する多発癌・重複 がんに関するフォローアップについて.日本大腸肛門病学会雑誌 2006; 59: 863-868(コホート) 6) Green RJ, Metlay JP, Propert K, et al. Surveillance for second primary colorectal cancer after adjuvant chemotherapy: an analysis of Intergroup 0089. Ann Intern Med 2002; 136: 261-269(コホート) 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .大腸癌治療ガイドライン―医師用 2014 年版(ガイドライン) — 123 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (1)粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ Clinical Question 8-1 大腸粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の診断と取 り扱いは? CQ 8-1 大腸粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の診断と取り扱いは? ステートメント ● 大腸 SMT の う ち ,SMT 様の 癌,リ ン パ 腫,消化管間質腫瘍 (gastrointestinal stromal tumor:GIST),カルチノイド腫 瘍,腸重積,出血の原因となる病変以外は基本的に摘除の必要はな く,経過観察を行うことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) D 解説 大腸 SMT は内視鏡所見のみから確定診断は困難であるが,周囲と同じ正常粘膜で覆われてい ることを確認するためにインジゴカルミンを撒布する.その際,病変の存在部位,数,大きさ, 肉眼型,色調,表面性状,光沢,びらん・潰瘍の有無,腫瘍の硬さなどに注目する.内視鏡的 性状診断の参考として鉗子で圧迫すると腫瘍がくぼむ cusion sign,腫瘍の表面を牽引すると病 変が変形する tenting sign の有無,体位変換や送気による変形所見を参考にする.血管腫など血 管性病変を疑う SMT に対する生検は大量出血の危険性が高いため,これらに対する生検は行わ ない(専門家の意見) . SMT,特に壁外発育を主体とする病変が存在し,壁外発育型 SMT を疑う場合には EUS を加 えて SMT の性状を推察することが望ましい.また,断層像の得られる CT,MRI も SMT の診 断に有用であり,行うことが望ましい 1~3) . 超音波内視鏡下吸引生検法(endoscopic ultrasonography guided fine needle aspiration biopsy:EUS-FNA)は組織学的診断を得ることが可能であり,診断に有用である 2) . SMT のうち,経過観察中に大きさが増大する病変は悪性の可能性もあるため,摘除を考慮す る必要がある. 大腸の GIST は食道や胃のものよりも悪性度が高く,腫瘍径 2 cm 以上,5 cm 以下の GIST は CT,EUS および可能であれば EUS-FNA により精査を行う.5.1 cm 以上の病変,有症状または 生検で GIST と診断された病変については手術を前提として staging を目的とした画像診断を行 う 4) . SMT のうち,SMT 様の癌,リンパ腫,カルチノイド腫瘍(CQ 8-2 参照) ,腸重積や出血の原因 となっている病変以外は基本的に摘除の必要はなく,経過観察でよい.経過観察期間に関して は文献がなく不明であるが,大腸ポリープの経過観察に準じて行う. 大腸 SMT の診断における EUS の意義は以下の項目があげられる — 126 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 ①腸壁内での腫瘍の局在部位の診断,②腫瘍の内部構造の描出,③腫瘍径の計測,④壁外圧 排との鑑別 1, 2) . カルチノイド腫瘍については内視鏡的治療可否の診断が可能である 5~7) (J Laparoendosc Adv Surg Tech A 2011; 21: 695-699 a) [検索期間外文献] ) . 文献 1) 松本主之,中村昌太郎,中村滋郎,ほか.消化管粘膜下腫瘍の内視鏡診断―通常内視鏡所見からみた鑑別 診断―下部消化管.胃と腸 2004; 39: 457-466(横断) 2) 小林清典,小川大志,春木聡美,ほか.大腸粘膜下腫瘍の内視鏡診断.Gastroenterol Endosc 2007; 49: 2462-2473(横断) 3) Kim H, Kim JH, Lim JS, et al. MRI findings of rectal submucosal tumors. Korean J Radiol 2011; 12: 487-498 (横断) 4) GIST 診療ガイドライン 2010 年 11 月改訂(第 2 版補訂版) ,2010: p9-13(ガイドライン) 5) Hurlstone DP, Cross SS, Sanders DS. 20-MHz high-frequency endoscopic ultrasound-assisted endoscopic mucosal resection for colorectal submucosal lesions: a prospective analysis. J Clin Gastroenterol 2005; 39: 596-599(横断) 6) Ono A, Fujii T, Saito Y, et al. Endoscopic submucosal resection of rectal carcinoid tumors with a ligation device. Gastrointest Endosc 2003; 57: 583-587(ケースシリーズ) 7) Lee DS, Jeon SW, Park SY, et al. The feasibility of endoscopic submucosal dissection for rectal carcinoid tumors: comparison with endoscopic mucosal resection. Endoscopy 2010; 42: 647-651(非ランダム) 【検索期間外文献】 a) Moon SH, Hwang JH, Sohn DK, et al. Endoscopic submucosal dissection for rectal neuroendocrine (carcinoid) tumors. J Laparoendosc Adv Surg Tech A 2011; 21: 695-699(ケースシリーズ) — 127 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (1)粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ Clinical Question 8-2 カルチノイド腫瘍の診断と取り扱いは? CQ 8-2 カルチノイド腫瘍の診断と取り扱いは? ステートメント ● 大きさや表面性状,深達度により内視鏡的摘除を行うか外科手術を 行うかを決定することを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 1)カルチノイド腫瘍の診断 大腸カルチノイド腫瘍のうち直腸カルチノイド腫瘍が 99%を占めている.粘膜固有層深層か ら発生し,早期に粘膜下に発育するため,黄色調の粘膜下腫瘍(SMT)様の形態を呈する.直腸 の SMT をみた際にはカルチノイド腫瘍は一番の鑑別にあがり,色素撒布を行い,表面が正常粘 膜で覆われていることを確認することが望まれる 1, 2) . カルチノイド腫瘍を疑う場合,EUS を併用することが望ましい.EUS ではカルチノイド腫瘍 は通常,均一な低エコー腫瘤として描出される 1, 2) . 2010 年 WHO 分類によりカルチノイド腫瘍は neuroendocrine tumor grade 1 と 2(NET G1, G2)とに類された 3) .詳細については CQ 4-13 を参照されたい. 2)カルチノイド腫瘍の治療 直腸カルチノイド腫瘍の治療前には,CT または MRI にて遠隔転移,リンパ節転移のないこ とを確認することが望ましい.以下に大きさ別の取り扱いについて解説する 4~6) . ①径 10mm 未満 表面に陥凹や潰瘍を認めず,SM にとどまっている場合,内視鏡的摘除を行うことが望まし い.摘除方法としては,EMR,EMR-L 法(ligation 装置を用いる EMR)7) ,cap 法による EMR 8) または ESD 9)などがある.内視鏡的摘除が困難な病変においては外科的局所切除を行う.摘除 後の標本で後述するリンパ節転移の危険因子について評価し,追加治療の是非を決定する 10, 11) . ②径 10mm 以上 径 10mm 以上になるとリンパ節転移の頻度が 18.7~30.4%と上昇することから 4~6) ,原則,リ ンパ節郭清を伴う腸管切除を行う.ただし,患者の年齢や身体的活動度,基礎疾患などの患者 背景によっては,SM にとどまる病変に対して摘除生検として局所切除により病変を完全摘除 し,切除後の標本で後述するリンパ節転移危険因子を評価 10, 11)したあと,追加治療の是非を考慮 することも許容される 4, 6) . — 128 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 直腸カルチノイドにおける臨床病理学的リンパ節転移危険因子として,腫瘍径 11 mm 以上, 腫瘍表面の陥凹・潰瘍,壁深達度 MP 以深,リンパ管侵襲陽性,細胞分裂像:2 個以上/10HPF (× 400 の視野) ,ki-67 labeling Index:3%≦とされている 4~6, 11, 12) . 3)直腸カルチノイド腫瘍摘除後の経過観察 大腸癌に準じたサーベイランスでおおむねよいが,カルチノイドの発育が緩徐であることを 考えると,より長期の経過観察を行う必要がある 12) . 文献 1) Soga J. Carcinoids of the colon and ileocecal region: a statistical evaluation of 363 cases collected from the literature. J Exp Clin Cancer Res 1998; 17: 139-148(ケースシリーズ) 2) 山田一隆,緒方俊二,野崎良一.カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)―カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫 瘍)の治療―外科的治療.日本臨牀 2011; 69: 652-655(ケースシリーズ) 3) Bosman FT, et al. WHO Classification of Tumours of the Digestive System, 4th Ed, IARC Press, Lyons, 2010 4) 斉藤裕輔,岩下明徳,飯田三雄.大腸カルチノイド腫瘍の全国集計―大腸カルチノイド腫瘍の治療方針. 胃と腸 2005; 40: 200-213(ケースシリーズ) 5) Konishi T, Watanabe T, Kishimoto J, et al. Prognosis and risk factors of metastasis in colorectal carcinoids: results of a nationwide registry over 15 years. Gut 2007; 56: 863-868(ケースシリーズ) 6) 上野秀樹,望月英隆,橋口陽二郎,ほか.大腸カルチノイドの治療.臨牀消化器内科 2006; 21: 1423-1430 (メタ) 7) Sakata H, Iwakiri R, Ootani A, et al. A pilot randomized control study to evaluate endoscopic resection using a ligation device for rectal carcinoid tumors. World J Gastroenterol 2006; 12: 4026-4028(ランダム) 8) Jeon SM, Lee JH, Hong SP, et al. Feasibility of salvage endoscopic mucosal resection by using a cap for remnant rectal carcinoids after primary EMR. Gastrointest Endosc 2011; 73: 1009-1014(ケースシリーズ) 9) Park HW, Byeon JS, Park YS, et al. Endoscopic submucosal dissection for treatment of rectal carcinoid tumors. Gastrointest Endosc 2010; 72: 143-149(コホート) 10) 岩下明徳,長谷川修三,原岡誠司,ほか,大腸カルチノイド―内視鏡的治療の根治判定基準を含む.早期 大腸癌 2002; 6: 249-258(ケースシリーズ) 11) Park CH, Cheon JH, Kim JO, et al. Criteria for decision making after endoscopic resection of well-differentiated rectal carcinoids with regard to potential lymphatic spread. Endoscopy 2011; 43: 790-795(ケースシ リーズ) 12) 曽我 淳.大腸内分泌癌(カルチノイド及び類縁内分泌腫)の術後経過.早期大腸癌 2004; 8: 151-157(ケー スシリーズ) — 129 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (1)粘膜下腫瘍・非腫瘍性ポリープ Clinical Question 8-3 非腫瘍性大腸ポリープの診断と取り扱いは? CQ 8-3 非腫瘍性大腸ポリープの診断と取り扱いは? ステートメント ● 非腫瘍性大腸ポリープは,過誤腫性ポリープ,炎症性ポリープおよ び過形成性ポリープに分類される.それらの多くは摘除の必要はな いが,出血や腸重積の原因となる場合や,腺腫や癌などと鑑別が困 難な場合,内視鏡的摘除を行うことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) D 解説 非腫瘍性大腸ポリープは,病理組織学的に過誤腫性ポリープ(Peutz-Jeghers 型ポリープや若 年性ポリープなど) ,炎症性ポリープ(炎症性ポリープや良性リンパ濾胞性ポリープ)および過形 成性ポリープに分類される(Morson and Dawson’s Gastrointestinal Pathology, 5th Ed a) [検索期 間外文献] ) .一般的にポリープの肉眼型,色調,表面模様,pit pattern などの内視鏡所見から腫 瘍性ポリープと区別することは可能と思われるが,鑑別が困難な場合には適宜生検を行うこと が重要である 1) . 腫瘍性ポリープと比較すると癌化の可能性は低いため,通常は経過観察のみでよいと考えら れる.しかし,出血や腸重積などの臨床症状を呈する症例や癌化した症例では切除の適応となる. 文献 1) 佐田美和,五十嵐正広,吉澤 繁,ほか.非腫瘍性大腸ポリープの臨床での取り扱い.早期大腸癌 2002; 6: 443-448 【検索期間外文献】 a) Clouston AD, Walker NI. Polyp and tumor-like lesions of the large intestine. In: Morson and Dawson’s Gastrointestinal Pathology, 5th Ed, Shepherd NA, Warren BF, Williams GT, et al (eds), Wiley-Blackwell, Oxford, 2013: p647-684 — 130 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 Clinical Question 8-4 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 大腸ポリポーシスにはどのようなものがあるか? CQ 8-4 大腸ポリポーシスにはどのようなものがあるか? ステートメント ● 大腸ポリポーシスは遺伝性の有無,および,腫瘍性か否かにより大きく分類される.遺伝性ポ リポーシスには腫瘍性ポリポーシスと過誤腫性ポリポーシスがある. 解説 腫瘍性ポリポーシスには,家族性大腸腺腫症(Gardner 症候群を含む) ,Turcot 症候群があり, 過誤腫性ポリポーシスには Peutz-Jeghers 症候群,若年性ポリポーシス,Cowden 病がある.非 遺伝性の非腫瘍性ポリポーシスには炎症性ポリポーシス,過形成性ポリポーシス,リンパ濾胞 性ポリポーシス,Cronkhite-Canada 症候群がある(表 1) . 主要な大腸ポリポーシスである家族性大腸腺腫症や Peutz-Jeghers 症候群,若年性ポリポーシ ス,Cowden 病などの遺伝性腫瘍においては,特徴的な臨床病理学的な特徴を有しており,疾 患概念が確立している 1~11) . 一方,有病率の低い疾患や非腫瘍性疾患は概念が確立していないものや分類の困難な場合が ある.また,極めて稀少な疾患については,症例の集積が低くエビデンスの質は低い.さらに, multiple lymphomatous polyposis や結節性硬化症など全身性疾患の一分症として大腸病変を有 するため,個体差により,典型的な大腸病変を有さない場合があり,分類が困難な場合がある. 孤在性の Peutz-Jeghers 症候群や若年性ポリポーシスはポリープ数が少なく,大腸ポリポーシス と診断が困難な場合がある.さらに最近では分子生物学的な分類も試みられており,疾患概念, 用語が変わる可能性がある. 表1 遺伝性 非遺伝性 大腸ポリポーシスの分類 腫瘍性 家族性大腸腺腫症 (Gardner 症候群) Turcot 症候群 attenuated FAP / MUTYH 関連ポリポーシス 過誤腫性 Peutz-Jeghers 症候群 若年性ポリポーシス症候群 Cowden 症候群 / Bannayan-Riey-Ruvalcaba 症候群 (hereditary mixed polyposis 症候群) 非腫瘍性 Cronkhite-Canada 症候群 炎症性ポリポーシス 過形成性ポリポーシス リンパ濾胞性ポリポーシス — 131 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 文献 1) 桑木光太郎,唐原 健,河野弘志,ほか.小腸疾患 2008―全身性疾患の部分症としての小腸病変―ポリ ポーシス症候群.胃と腸 2008; 43: 679-685(ケースシリーズ) 2) Sweet K, Willis J, Zhou XP, et al. 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J Pathol 2007; 212: 378-385(ケースシリーズ) 10) 宇都宮譲二,黒木輝幸,三木義男. [大腸疾患の臨床]大腸ポリープ,ポリポーシスの概念定義,分類,疫 学.日本臨牀 1988; 46: 314-325(ケースシリーズ) 11) 宇都宮譲二,松本正道.大腸ポリープとポリポーシス―大腸ポリポーシスの概念と分類.臨牀消化器内科 1987; 2: 1717-1735(横断) — 132 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-5 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 大腸ポリポーシスにおける遺伝子診断の臨床的意義は何か? CQ 8-5 大腸ポリポーシスにおける遺伝子診断の臨床的意義は何か? ステートメント ● 家族性大腸腺腫症においては,APC 遺伝子変異の有無や変異の部 位によって病変の程度や罹患部位,腸管外合併症の有無などが異な るので,遺伝子診断に臨床的意義はある.その他のポリポーシスに おいては,臨床的意義を示唆する十分なエビデンスはない. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 家族性大腸腺腫症(FAP)では,APC 遺伝子変異の有無や変異の部位によって病態が異なるこ とがケースシリーズとして報告されている. FAP のなかで APC 遺伝子変異陽性の群では,遺伝子変異陰性の群と比較して,大腸ポリープ の診断年齢が若く,ポリープ数が 1,000 以上の症例や胃十二指腸ポリープを認める症例が有意に 多い 1, 2) .また,APC 遺伝子変異の部位による影響としては,codon1250 よりも 5’ 側に変異があ る群と比較して,codon1250 よりも 3’ 側に変異がある群で残存直腸の再手術率が高いこと 3) ,十 二指腸腺腫の有病率が APC 遺伝子の変異が exon1-9 にある群と比較して,exon10-15 に変異が ある群で有意に高いことが報告されている 4) . FAP の腸管外病変は,APC 遺伝子変異陽性の患者で頻度が高いとされている.逆に,消化管 外の癌や類表皮囊胞のある症例では APC 遺伝子の変異陽性率が有意に高い 5) .また,網膜色素 上皮過形成は APC 遺伝子の exon9 に変異がある群と比較して,exon15 に変異がある群で有意 に有病率が高いと報告されている 6) (CQ 8-7 参照) . その他のポリポーシスに関しては,遺伝子変異の有無と病状との関連に対する十分な臨床研 究はない. 文献 1) Chiang JM, Chen HW, Tang RP, et al. Mutation analysis of the APC gene in Taiwanese FAP families: low incidence of APC germline mutation in a distinct subgroup of FAP families. Fam Cancer 2010; 9: 117-124 (ケースシリーズ) 2) Heinimann K, Müllhaupt B, Weber W, et al. Phenotypic differences in familial adenomatous polyposis based on APC gene mutation status. Gut 1998; 43: 675-679(ケースシリーズ) — 133 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 3) Vasen HF, van der Luijt RB, Slors JF, et al. Molecular genetic tests as a guide to surgical management of familial adenomatous polyposis. Lancet 1996; 348: 433-435(コホート) 4) Matsumoto T, Iida M, Kobori Y, et al. 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CQ 8-6 遺伝性腫瘍の遺伝子診断を行う場合の手続きとは? ステートメント ● 遺伝性腫瘍の遺伝子診断は被検者の同意と診断基準に基づいて行う.最終的な確定診断は原因 遺伝子の変異の同定である. 解説 遺伝性ポリポーシスは,主に家族性大腸腺腫症(FAP) ,Lynch 症候群,MUTYH 関連ポリ ポーシス,Peutz-Jeghers 症候群,若年性ポリポーシス,Cowden 症候群で構成されている.遺 伝性腫瘍の診断は,臨床的もしくは病理学的な表現型(組織診断)から診断できる場合と最終的 には生殖細胞レベルの遺伝子診断が必要になる場合がある(遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2012 年版,2012 a) [検索期間外文献] ) . 遺伝子診断の診療のための検体採取に際しては,事前に被検者本人に対して,その目的,方 法,期待される利益,予想される不利益(精神的な不利益なども含む) ,遺伝子検査の限界(100% の信頼性が確証されていないこと) ,不確実性(遺伝子の変異から必ずしも発症が予測できるわ けではないこと) ,プライバシーの保護,血縁者が同じ遺伝子変異を有している可能性があるこ となどについて,文書および口頭で十分に説明しなければならない.そのうえで,医師は,患 者の同意を得ることが必要である(文書でなされなければならない) . 遺伝子診断の実際の手続きについては,各疾患の診断基準に基づいて行うが(各疾患の診断基 準を参照のこと) ,遺伝子診断には詳細な家系図の作成が必須である a) .したがって,遺伝子解 析を行う前に家系図の作成を行うべきである. 遺伝子解析は臨床検査会社で検査可能であるが,遺伝子解析は保険収載はなされていないの で,患者もしくは病院の自己負担となる.商業ベースで遺伝子解析は行われていないので,臨 床検査会社を個別に検討するしかない a) . 遺伝カウンセリングは,疾患に対する遺伝学的寄与のもたらす医学的,心理的,家族的影響に 対して,人々がそれを理解し適応していくことを助けるプロセスとされる.このプロセスは,① 疾患の発生および再発の可能性を算定するための家族歴,病歴の解釈,②遺伝,遺伝子検査,予 防,研究などに関する教育,③情報を得たうえで選択肢を自律的に選ぶ決断(informed choice) とリスクや状況に対する適応を促進するための心理カウンセリング,で構成されている 1, 2) .遺伝 カウンセリングは,患者の状況を考慮した場の設定が必要であり,通常の大腸癌の場合とまっ たく異なる配慮が必要である 1) . — 135 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 文献 1) 新井正美.遺伝性大腸癌の遺伝カウンセリングの実際(1)医師の立場から.消化器内科 2008; 23: 13351343 2) Resta R, Biesecker BB, Bennett RL, et al; National Society of Genetic Counselors’ Definition Task Force. 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CQ 8-7 家族性大腸腺腫症(FAP)の臨床像と治療方針は原因遺伝子により異な るか? ステートメント ● 原因遺伝子によって臨床像(phenotype)は異なり,治療方針は遺 伝子型(genotype)よりも臨床像を優先して決定する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし B 解説 家族性大腸腺腫症の原因遺伝子として,APC 遺伝子と MUTYH 遺伝子がある.原因遺伝子と その変異部位が genotype,臨床徴候の特徴が phenotype と呼ばれる.APC 遺伝子において, exon15 内の codon1250 から 1450 付近の変異群が severe phenotype を呈し,5’ 末端側・3’ 末端 側,exon9 付近の変異群が attenuated phenotype を呈する.しかし,同じ遺伝子変異領域・同 一の遺伝子変異例においても,その phenotype には変動がある 1, 2) .一方,MUTYH 遺伝子両ア レル変異陽性のポリポーシスは,診断年齢が高齢であり,大腸ポリープ数が少なく右側結腸優 位である.また,診断時の大腸癌合併率が 50~70%と高率であり,上部消化管徴候や腸管外徴 候の頻度は低率である.従来の attenuated type に類似した phenotype であるといえる 1, 3~6) .ま た,codon1444 から 3’ 末端側の APC 遺伝子変異例は,デスモイド腫瘍の発生が高率であり,特 に codon1445 から 1580 間の変異例に高率にみられる 2) (Dis Colon Rectum 2011; 54: 1229-1234 a) [検索期間外文献] ) .以上のように,原因遺伝子やその変異部位により臨床像は異なると考えら れる. 一方,初回の結腸切除術(IRA)後に,直腸癌の発生やポリープ数の増加のため二次的に直腸 切除を要した患者は,codon1250 から 1450 の APC 遺伝子変異例で高率であり,初回手術から 全大腸切除も検討すべきであるとの意見がある 7, 8) .ただし,現時点で APC 遺伝子変異のみで大 腸癌の発生部位や時期を予測することは不可能であり,治療方針は遺伝子型よりも臨床像を優 先して決定すべきである. 文献 1) Lefevre JH, Parc Y, Tiret E, et al. APC, MYH, and the correlation genotype-phenotype in colorectal polyposis. Ann Surg Oncol 2009; 16: 871-877(ケースシリーズ) — 137 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 2) Friedl W, Caspari R, Propping P, et al. Can APC mutation analysis contribute to therapeutic decisions in familial adenomatous polyposis? experience from 680 FAP families. Gut 2001; 48: 515-521(横断) 3) Aretz S, Uhlhaas S, Friedl W, et al. MUTYH-associated polyposis: 70 of 71 patients with biallelic mutations present with an attenuated or atypical phenotype. Int J Cancer 2006; 119: 807-814(ケースシリーズ) 4) Bouguen G, Manferedi S, Bretagne JF, et al. Colorectal adenomatous polyposis associated with MYH mutations: genotype and phenotype characteristics. Dis Colon Rectum 2007; 50: 1612-1617(ケースシリー ズ) 5) Leite JS, Isidro G, Castro-Sousa F, et al. Is prophylactic colectomy indicated in patients with MYH-associated polyposis? 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Dis Colon Rectum 2011; 54: 1229-1234(コホート) — 138 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-8 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 家族性大腸腺腫症(FAP)と attenuated FAP(AFAP)で 治療方針は異なるか? CQ 8-8 家族性大腸腺腫症(FAP)と attenuated FAP(AFAP)で治療方針は 異なるか? ステートメント ● FAP と AFAP では,ともに若年時から大腸内視鏡によるサーベイ ランスが必要である.また,AFAP でも大腸癌を合併するため, 予防的大腸切除を考慮することを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) D 解説 attenuated FAP(AFAP)の診断基準は,25 歳以上で 100 個未満の大腸腺腫を有する患者とさ れる 1) .AFAP では APC 遺伝子と MUTYH 遺伝子の変異陽性者がみられるが,いずれも大腸癌 が高率に発生する 2~4) .そのため,若年時より定期的に大腸内視鏡によるサーベイランスを行う 必要があるが,予防的大腸切除が勧められる 1, 5) .結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA)後は残存直腸 癌発生のリスクがあるが,直腸に腺腫の少ない AFAP では IRA 後の残存直腸癌発生が低率であ るため,予防的手術の術式として IRA を考慮する.しかし,術後長期間にわたる残存直腸のサー ベイランスを要する.一方,FAP では全大腸切除・回腸囊肛門吻合術(IPAA)が望ましい 6) . 文献 1) Knudsen AL, Bülow S, Tomlinson I, et al. Attenuated familial adenomatous polyposis: results from an international collaborative study. Colorectal Dis 2010; 12: e243-e249(ケースシリーズ) 2) Leite JS, Isidro G, Martins M, et al. Is prophylactic colectomy indicated in patients with MYH-associated polyposis? Colorectal Dis 2005; 7: 327-331(ケースシリーズ) 3) Cattaneo F, Molatore S, Mihalatos M, et al. Heterogeneous molecular mechanisms underlie attenuated familial adenomatous polyposis. Genet Med 2007; 9: 836-841(ケースシリーズ) 4) Neklason DW, Stevens J, Boucher KM, et al. American founder mutation for attenuated familial adenomatous polyposis. Clin Gastroenterol Hepatol 2008; 6: 46-52(ケースシリーズ) 5) Nielsen M, Hes FJ, Nagengast FM, et al. Germline mutations in APC and MUTYH are responsible for the majority of families with attenuated familial adenomatous polyposis. Clin Genet 2007; 71: 427-433(ケース シリーズ) 6) Bülow C, Vasen H, Järvinen H, et al. Ileorectal anastomosis is appropriate for a subset of patients with familial adenomatous polyposis. 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CQ 8-10 家族性大腸腺腫症(FAP)の家族(血縁者)に対する適切なサーベイラ ンス法は何か? ステートメント ● FAP の血縁者に対し,X 線・内視鏡による大腸検査のほか,APC 遺伝子検査,顎骨パノラマ撮影,眼底検査はサーベイランスに有用 である.また,FAP 患者家系では小児期に肝芽腫のスクリーニン グを施行することが望ましい. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 家族性大腸腺腫症(FAP)が発端者の子供の半数近くに確実に遺伝するということや,発端者 と比較して呼び出されてサーベイランスを受けた血縁者のほうが有意に予後良好とされている ことから 1) ,血縁者に対するサーベイランスは重要である. FAP 患者の血縁者に対する APC 遺伝子の変異検索は幼児期でも実施可能であり,発症前の FAP 診断が可能となっている.APC 遺伝子変異部位と表現形に相関があることから,たとえば 密生型と関連する領域(profuse relationg region:PRR)に変異を持つ患者ではより若年期から大 腸検査を開始するなど,サーベイランス計画を練るうえでも参考となる 2) .大腸内視鏡検査を行 うのと比較して,APC 遺伝子変異の有無で高リスク群を絞り込むことによりコストの低下も期 待でき 3) ,遺伝子検査を行うべきと考えられる 4) . スクリーニングの大腸内視鏡検査の開始は 10~12 歳くらい,間隔は 1~2 年ごとが推奨され る 5~10) .ただし,密生型や低年齢で癌化した患者の子供などは,より早めに検査を行う必要があ る.消化管外徴候の評価方法として,顎骨パノラマ撮影による内骨腫の評価は特異性も高く, 小児にも施行可能である 7) .また,眼底検査で先天性網膜色素上皮肥大(CHRPE)を評価するこ とでも,FAP の診断が可能である 11~13) . なお,APC 遺伝子変異陽性者では,小児期に肝芽腫が発生しうるので,生後 1 ヵ月以内から 4 歳までに血中 AFP 測定と腹部超音波検査による肝芽腫スクリーニングが推奨される 14) . — 142 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Jarvinen HJ. Epidemiology of familial adenomatous polyposis in Finland: impact of family screening on the colorectal cancer rate and survival. Gut 1992; 33: 357-360(ケースコントロール) 2) 田村和朗,山村武平,古山順一,ほか.小児消化管ポリープの病態と治療―家族性腺腫性ポリポーシスの 分子生物学的情報の医療への活用法.小児外科 2001; 33: 781-785 3) Cromwell DM, Moore RD, Brensinger JD, et al. 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CQ 8-11 Peutz-Jeghers 症候群(PJS)における消化管サーベイランスの意義 は? ステートメント ● PJS は消化管においても癌化リスクが高いため,消化管サーベイ ランスにより消化管癌の早期発見による予後改善,および小腸ポ リープの早期発見によってポリープ重積による手術を回避しうる. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし C 解説 Peutz-Jeghers 症候群は消化管と消化管外両方の癌の発生頻度上昇に関連があり,癌発生のリ スクは非患者群より高く 1~3) ,消化管サーベイランスは予後改善に有効と考えられる. また,小腸のポリープ重積により 20 歳までに半数が手術を受けており,急性腹症により緊急 手術となることも多く 4, 5) ,定期的なサーベイランスでポリープを発見し重積の原因となりうるポ リープを予防的に内視鏡的切除することが望ましいと考えられるが,エビデンスレベルの高い 立証は存在しない. 消化管サーベイランスの方法としては,上部消化管に対しては上部消化管内視鏡検査,大腸 に対しては大腸内視鏡検査が一般的である 6~9) .カプセル内視鏡検査が X 線造影検査より病変検 出能が高く 10~12) ,病変の大きさは測定できないが低侵襲のため小腸サーベイランスに適してい る 13~15) ,MR entrography は病変検出能がカプセル内視鏡検査と同程度で病変のサイズも測定で きることから優れたサーベイランス法である 16)という報告もある. 推奨される消化管サーベイランスの施行間隔は,一定した見解は得られていない 6~9) . また,STK11 遺伝子変異陽性患者で癌化リスクが上昇する 3, 17) ,exon3 変異陽性 18) ,exon6 の 変異陽性で癌化リスクが上昇する 19)ことが知られており,切断型突然変異(TM)患者では消化 管の手術回数が有意に多く,ポリープの数が多く初回のポリペクトミーの年齢も若い傾向にあ り,発癌リスクが高い傾向にあった 20)ことから,STK11 遺伝子変異陽性患者はサーベイランス に注意が必要である. — 144 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Gupta A, Postgate AJ, Burling D, et al. 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Am J Gastroenterol 2011; 106: 940945(メタ) 6)Boardman LA, Thibodeau SN, Schaid DJ, et al. Increased risk for cancer in patients with the Peutz-Jeghers syndrome. Ann Intern Med 1998; 128: 896-899(横断) 7) Soares J, Lopes L, Vilas Boas G, et al. Wireless capsule endoscopy for evaluation of phenotypic expression of small-bowel polyps in patients with Peutz-Jeghers syndrome and in symptomatic first-degree relatives. Endoscopy 2004; 36: 1030-1066(横断) 8) Brown G, Fraser C, Schofield G, et al. Video capsule endoscopy in peutz-jeghers syndrome: a blinded comparison with barium follow-through for detection of small-bowel polyps. Endoscopy 2006; 38: 385-390(コ ホート) 9) Lim W, Olschwang S, Keller JJ, et al. Relative frequency and morphology of cancers in STK11 mutation carriers. Gastroenterology 2004; 126: 1788-1794(横断) 10) Mata A, Llach J, Castells A, et al. 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Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol 2007; 4: 492-502 20) 大宮直木,中村正直,竹中宏之,ほか.過誤腫性ポリポーシス―Peutz-Jeghers 症候群の長期経過.胃と腸 2010; 45: 2079-2084(コホート) — 145 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-12 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 若年性ポリポーシスに伴う消化管悪性腫瘍に対するサーベイ ランス法は何か? CQ 8-12 若年性ポリポーシスに伴う消化管悪性腫瘍に対するサーベイランス法 は何か? ステートメント ● 1 年ごとの上部・下部消化管内視鏡検査を行い,内視鏡的摘除を行 う.すべてのポリープが摘除された患者では 3 年ごとの経過観察 を行う.びまん性病変のため内視鏡的摘除が困難な場合,dysplasia を生じた場合,十分なサーベイランス検査が行うことができな い場合には予防的に罹患した消化管の切除を検討する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 若年性ポリポーシス(juvenile polyposis syndrome:JPS)は常染色体優性遺伝の形式をとる遺 伝性消化管疾患であり,①結腸,直腸に 5 個以上の若年性ポリープ(juvenile polyp:JP)の存在, ②全消化管にわたる JP の存在,③JPS の家族歴を有し消化管に 1 つ以上の JP の存在,のいずれ かを満たすものと定義されている 1) .結腸・直腸が好発部位であるが,胃や十二指腸,小腸にも 生じることがあり全消化管にわたる検索が必要である.JPS は消化管悪性腫瘍のハイリスク症例 であり,消化管癌の発生率は 17~55%である 1~3) .また,一般人口と比較した大腸癌発生の相対 危険度が 34.0(95%CI 14.4~65.7)とする報告もある 4) . JPS における消化管サーベイランスの開始時期,検査の間隔は一定しない 3, 5, 6) .Jass らの 87 例 において大腸癌を合併した最若年例は 15 歳であり 1) ,同年齢から血算および内視鏡検査による サーベイランスを開始すべきとの意見がある.その場合,1 年ごとの上下部消化管内視鏡検査を 行い,病変が比較的少数にとどまる場合にはポリペクトミーによる切除を検討する.また非発 生例と全ポリープ切除例では 3 年ごとの上下部内視鏡検査によるサーベイランスが推奨されて いる.小腸に関しては手術時の術中内視鏡検査を推奨する意見がある 7) .病変がびまん性に存在 する症例,dysplasia 検出例,厳重な経過観察が困難な症例では罹患部位の予防的切術が考慮さ れる.なお,大腸 JPS に対しては全大腸切除術が推奨されている 8) . JPS の原因遺伝子として SMAD4 と BMPR1A が同定されており,これらの遺伝子変異の有無 を考慮したサーベイランスを推奨する意見がある 9, 10) .しかし,これらの遺伝子変異が証明され ない症例も存在する 11) .現在のところ,サーベイランスを行ううえで遺伝学的検討を行う意義 は明らかではない. — 146 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 文献 1) Jass JR, Williams CB, Bussey HJ, et al. Juvenile polyposis: a precancerous condition. Histopathology 1988; 13: 619-630(ケースシリーズ) 2) Coburn MC, Pricolo VE, DeLuca FG, et al. Malignant potential in intestinal juvenile polyposis syndromes. Ann Surg Oncol 1995; 2: 386-391(ケースシリーズ) 3) Howe JR, Mitros FA, Summers RW. 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CQ 8-13 Cowden 病に伴う悪性腫瘍とそのサーベイランス法は? ステートメント ● Cowden 病では乳癌や甲状腺癌の合併率が高いので,マンモグラ フィーや超音波検査などでサーベイランスを行う. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) なし D 解説 Cowden 病は 1963 年に Lloyd らがはじめて報告した疾患で,顔面の多発性丘疹,口腔内粘膜 の乳頭腫,消化管ポリポーシス,多臓器の多彩な腫瘍性病変などを特徴とする(Ann Intern Med 1963; 58: 136-142 a) [検索期間外文献] ) .全消化管にポリポーシスを合併するが,組織学的には過 形成または過誤腫であり,食道には白色扁平隆起を呈した glycogenic acanthosis を認めることが 特徴的である 1) .PTEN 遺伝子の変異が原因と考えられており常染色体優性遺伝するが 2) ,悪性 腫瘍の合併率が 30%程度と報告されている 3) .男女ともに比較的若年から乳癌のリスクが高い ため 4) ,定期的なマンモグラフィーや超音波検査などが必要とされる 5) .その他には甲状腺癌や 子宮内膜癌のリスクが高いとされるが 6) ,消化管癌の発生リスクが上昇するという報告はない. したがって,消化管のサーベイランスは健常者と同様の検査間隔でよいと思われる 7) . 文献 1) Hobert JA, Eng C. PTEN hamartoma tumor syndrome: an overview. Genet Med 2009; 11: 687-694 2) Liaw D, Marsh D, Li J, et al. Germline mutations of the PTEN gene in Cowden disease, an inherited breast and thyroid cancer syndrome. Nat Genet 1997; 16: 64-67(ケースシリーズ) 3) Hanssen AM, Fryns JP. Cowden syndrome. J Med Genet 1995; 32: 117-119 4) Pilarski R, Eng C. 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CQ 8-14 Cronkhite-Canada 症候群の治療方針は? ステートメント ● 副腎皮質ホルモン投与が有効であるが,投与量や投与期間について 一定の見解はない.また,栄養療法,抗菌薬,ヒスタミン H2 受容体 拮抗薬などの薬物方法も有効な場合がある.重積や穿孔などの重篤 な合併症をきたした場合には外科的治療を考慮することを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) D 解説 Cronkhite-Canada 症候群は 1955 年に Cronkhite と Canada がはじめて報告した,皮膚色素 沈着,脱毛,爪甲萎縮,消化管ポリポーシスを特徴とする非遺伝性疾患である(N Engl J Med 1955; 252: 1011-1015 a) [検索期間外文献] ) .ポリポーシスに起因する消化管からの蛋白漏出によ り高率に低蛋白血症をきたす 1) .消化管に発生するポリープは過形成ポリープもしくは若年性ポ リープに類似しており,消化管癌のリスクが上昇するかについて一定の見解はないが 2, 3) ,消化管 癌合併の報告もあり 1) ,注意が必要である. 本疾患の治療はこれまでに多数の方法が報告されているが 4) ,症例の希少性により多数の症例 を集積した臨床研究は存在しない.副腎皮質ホルモン投与が有効であるが投与を中止すると再 発することが多く,投与量や投与期間についての一定の見解はない 5, a) .その他に,栄養療法 a) (Fortschr Rontgenstr 1974; 120: 310-314 b) [検索期間外文献] )や抗菌薬(Medicine 1982; 61: 293c) 309 [検索期間外文献] ) ,ヒスタミン H2 受容体拮抗薬 6)などが有効な場合もあるが,その治療 効果は不確実である.消化管出血や穿孔,腸重積といった重篤な合併症をきたした場合には外 科的治療を考慮する必要があるが,大腸切除後に著明な低栄養状態が改善したとする報告もあ る 7) .治療方針について明確なエビデンスがない現状では,副腎皮質ホルモン投与を中心とし て,患者個別の治療法を注意深く探っていくこととなる. 文献 1) 後藤明彦.Cronkhite-Canada 症候群.日本臨牀 1991; 49: 2955-2960 2) Daniel ES. 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CQ 8-15 Lynch 症候群の概念と診断基準は? ステートメント ● ミスマッチ修復遺伝子異常を原因とし,家系内に大腸を主として子宮内膜,小腸,尿管や腎, 胃などの悪性腫瘍が発生する常染色体優性遺伝性疾患である.診断基準はアムステルダム基準 Ⅱと改訂ベセスダガイドラインによってスクリーニングされ,マイクロサテライト不安定性検 査(MSI 検査)およびミスマッチ修復遺伝子検査により診断される. 解説 Lynch 症候群は,遺伝性非ポリポーシス大腸癌(hereditary non-polyposis colorectal cancer: HNPCC)と同一の疾患である(遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2012 年版,2012 a) [検索期間外文 献] ) .1966 年 Lynch らが大腸癌や子宮内膜癌が多発する家系を報告し,1984 年 Boland らによ り癌発生が大腸癌に限られる Lynch 症候群Ⅰと大腸癌以外にも癌のみられる Lynch 症候群Ⅱに 分類.区別しない場合は Lynch 症候群あるいは HNPCC と呼称されるようになり,1990 年のア ムステルダムでの国際研究グループのワークショップで HNPCC に統一され,アムステルダム 基準Ⅰが提唱されたが,原因遺伝子の変異を認めても基準を満たさない家系や基準を満たして も原因遺伝子が同定されない家系が多く認められることなどから,1998 年改訂アムステルダム 基準Ⅱが提唱された(表 1) .HNPCC の名称については,大腸以外の臓器に多彩な悪性腫瘍が 発生する本疾患の特徴を踏まえ,現在は Lynch 症候群の名称を用いることが推奨されている a) . Lynch 症候群では,一般の大腸癌に比べ若年発症,異時性・多発性で右側結腸に好発し,散 発性大腸癌より低分化腺癌の頻度が高い 1) .大腸以外に,子宮内膜癌,卵巣癌,胃癌,小腸癌, 胆道癌,膵癌,腎盂・尿管癌など多彩な悪性腫瘍が発生する 2) .診断は,Lynch 症候群が疑われ る臨床情報(家族歴,発症年齢,関連癌,病理組織像)を有する患者に対し,アムステルダム基 準Ⅱ3)や改訂ベセスダガイドライン 2)(表 2)を満たすかを確認する.疑われるものに対し腫瘍 表1 アムステルダム基準Ⅱ(1999) 少なくとも 3 人の血縁者が Lynch 症候群関連癌(大腸癌,子宮内膜癌,腎盂・尿管癌,小腸癌) に罹患しており,以下のすべてを満たしている. 1.1 人の罹患者はその他の 2 人に対して第 1 度近親者である. 2.少なくとも連続する 2 世代で罹患している. 3.少なくとも 1 人の癌は 50 歳未満で診断されている. 4.FAP が除外されている. 5.腫瘍は病理学的に癌であることが確認されている. — 151 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 表2 改訂ベセスダガイドライン 以下の項目のいずれかを満たす大腸癌患者には,腫瘍の MSI 検査を行うことが推奨される. 1.50 歳未満で診断された大腸癌. 2.年齢にかかわりなく,同時性あるいは異時性大腸癌あるいはその他の Lynch 症候群関連腫瘍 * がある. 3.60 歳未満で診断された MSI-H の組織学的所見 ** を有する大腸癌. 4.第 1 度近親者が 1 人以上 Lynch 症候群関連腫瘍に罹患しており,そのうち 1 つは 50 歳未満 で診断された大腸癌. 5.年齢にかかわりなく,第 1 度あるいは第 2 度近親者の 2 人以上が Lynch 症候群関連腫瘍と診 断されている患者の大腸癌. Lynch 症候群関連腫瘍 *:大腸癌,子宮内膜癌,胃癌,卵巣癌,膵癌,胆道癌,小腸癌,腎盂・尿管癌,脳腫瘍(通 常は Turcot 症候群にみられる glioblastoma),Muir-Torre 症候群の皮脂腺腫や角化棘細胞腫 MSI-H の組織学的所見 **:リンパ球浸潤,クローン様リンパ球反応,粘液癌・印環細胞癌様分化,髄様増殖 組織のマイクロサテライト不安定性(MSI)検査で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H) を認めれば Lynch 症候群の可能性が高く 4) ,ミスマッチ修復遺伝子検査で確定診断される a) . 文献 1) 山本博幸,谷口博昭,田沼徳真,ほか.遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC) .臨牀消化器内科 2010; 25: 1341-1348 2) Umar A, Boland CR, Terdiman JP, et al. Revised Bethesda guidelines for hereditary nonpolyposis colorectal cancer (Lynch syndrome) and microsatellite instability. J Natl Cancer Inst 2004; 96: 261-268(ガイドラ イン) 3) Vasen HF. Clinical diagnosis and management of hereditary colorectal cancer syndromes. J Clin Oncol 2000; 18: 81S-29S(ガイドライン) 4) 菅野康吉.HNPCC 診断と問題点.大腸癌 Fronter 2010; 3: 37-40 【検索期間外文献】 a) 大腸癌研究会(編) .遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2012 年版,金原出版,東京,2012(ガイドライン) — 152 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-16 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 Lynch 症候群に対する術式は何か? CQ 8-16 Lynch 症候群に対する術式は何か? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● Lynch 症候群に対する術式は一定のコンセンサスは得られていな い. なし D ● 異時性大腸癌発生のリスクや術後の QOL,サーベイランスの必要 性や限界を含め患者に説明し,術式を決定するのが望ましい. なし D 解説 Lynch 症候群の異時性大腸癌発症に関するコホート研究によると,初発大腸癌に対し大腸部 分切除術を施行された患者は,術後 10 年で 16%,術後 30 年で 62%に異時性大腸癌を発症した のに対し,結腸(亜)全摘術を施行された患者は異時性大腸癌の発生を認めなかった 1) . また,大腸癌を発生しておらず予防的大腸切除術を施行していない患者ならびに初発大腸癌 に対し部分切除術を施行した患者群における,大腸癌の 5 年無発症・無再発生存率は 74%であっ た.これに対して,大腸癌を発症しておらず予防的大腸切除術を施行された患者ならびに初発 大腸癌に対し結腸亜全摘術などを施行された患者群における,5 年無発生・無再発生存率は 94% であった.さらに,新規大腸癌発生までの期間は,結腸亜全摘術などを行った群が行っていな い群に比して有意に長かった一方で,全生存期間延長には寄与しなかった 2) .ただし,異時性大 腸癌発症のリスクに対して結腸亜全的摘術などを施行することに関しては,その有効性を証明 した前向き臨床試験はいまだない. ヒト DNA ミスマッチ修復(MMR)遺伝子の変異を診断された Lynch 症候群患者に関するコ ホート研究によると,MLH1,MSH2,あるいは MSH6 遺伝子に変異を持つキャリアの大腸癌 発症リスクは男性で 66~74%,女性で 30~52.2%であり 3~5) ,生涯にわたって大腸癌を発症しな いキャリアも相当数いることから,一律に予防的大腸切除術を推奨することはできない. 以上より,Lynch 症候群に発生した大腸癌に対し,散発性大腸癌と同様の術式が適切である のか,異時性大腸癌発生のリスクを考慮して結腸亜全摘術などの手術を施行すべきであるかに ついてのコンセンサスは得られておらず,また,大腸癌を発生していない Lynch 症候群患者に 対する予防的大腸切除術についてもこれを推奨するだけのエビデンスはないのが現状である. — 153 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (2)ポリポーシス・遺伝性腫瘍 文献 1) Parry S, Win AK, Parry B, et al. Metachronous colorectal cancer risk for mismatch repair gene mutation carriers: the advantage of more extensive colon surgery. Gut 2011; 60: 950-957(コホート) 2) Natarajan N, Watson P, Silva-Lopez E, et al. Comparison of extended colectomy and limited resection in patients with Lynch syndrome. Dis Colon Rectum 2010; 53: 77-82 (コホート) 3) Stoffel E, Mukherjee B, Raymond VM, et al. Calculation of risk of colorectal and endometrial cancer among patients with Lynch syndrome. Gastroenterology 2009; 137: 1621-1627(コホート) 4) Dunlop MG, Farrington SM, Carothers AD, et al. Cancer risk associated with germline DNA mismatch repair gene mutations. Hum Mol Genet 1997; 6: 105-110(コホート) 5) Hampel H, Stephens JA, Pukkala E, et al. Cancer risk in hereditary nonpolyposis colorectal cancer syndrome: later age of onset. Gastroenterology 2005; 129: 415-421(コホート) — 154 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-17 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 潰瘍性大腸炎における dysplasia の考え方と診断基準とは? CQ 8-17 潰瘍性大腸炎における dysplasia の考え方と診断基準とは? 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ステートメント ● dysplasia は潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌の前癌病変と考えら れている.dysplasia の診断基準は Riddell らの基準と厚生省特 定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班による判定基準がある. なし D 解説 大腸癌を合併した潰瘍性大腸炎の大腸粘膜には,前癌病変と考えられている腫瘍性異型上皮 (dysplasia)が認められることが知られている 1) .したがって,dysplasia は癌の発生や癌の併存 の予測に有用な指標とされている 1) . 潰瘍性大腸炎では炎症や再生異型がしばしばみられるために,これらの反応性異型と腫瘍性 異型である dysplasia との病理学鑑別が困難なことがある.dysplasia の分類は,欧米で広く使 用されている Riddell らの分類 1)と本邦で使用が推奨されている厚生省特定疾患難治性炎症性 腸管障害調査研究班による判定基準がある 2) (表 1) . 表1 Riddell らの IBD-DMSG の分類 UC に合併する大腸腫瘍の病理学的分類 厚生省特定疾患難治性炎症性腸管障害調査研究班の病理組織学的判断基準 negative normal mucosa UC- Ⅰ 炎症性変化 UC- Ⅱ 炎症性か腫瘍性か判定に迷うもの inactive(quiescent)colitis active colitis indefinite probably negative (probably inflammatory) UC- Ⅱ a 炎症性変化がより疑われるもの UC- Ⅱ b 腫瘍性変化がより疑われるもの unknown probably positive (probably dysplastic) positive UC- Ⅲ 腫瘍性変化であるが,癌とは判定できないもの UC- Ⅳ 癌→粘膜内癌 UC- Ⅳ 癌→浸潤癌 low-grade dysplasia high-grade dysplasia 1)この基準には Riddell らの ʻdysplasiaʼ の概念も含む 2)過形成と判定されるものは,そのように記載する 3)通常の腺腫と区別できないものは,そのように記載する (第 6 回診断病理サマーフェストハンドアウト p147 藤井茂彦発表原稿 UC に合併する大腸腫瘍の病理学的分類より一部改変) — 155 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 前者は,dysplasia を,negative for dysplasia,indefinite for dysplasia,positive for dysplasia に分類する.indefinite for dysplasia をさらに probably negative と probably positive に分 け,positive for dysplasia も low grade と high grade に分類する.後者は,UC-Ⅰ(炎症性変 化) ,UC-Ⅱ(炎症性か腫瘍性か判定に迷う変化) ,UC-Ⅲ(腫瘍性変化であるが癌と判定できな いもの) ,UC-Ⅳ(癌) ,に分類する.UC-Ⅱは炎症性変化がより疑われるもの(UC-Ⅱa)と腫瘍性 変化がより疑われるもの(UC-Ⅱb)に亜分類する. 潰瘍性大腸炎における dysplasia の診断は,専門の病理医へのコンサルテーションが必要であ る. 文献 1) Riddell RH, Goldman H, Ransohoff DF, et al. Dysplasia in inflammatory bowel disease: standardized classification with provisional clinical applications. Hum Pathol 1983; 14: 931-968 2) Konishi F, Wakasa H, Kino I, et al. Histological classification of the neoplastic changes arising in ulcerative colitis: a new proposal in Japan. J Gastroenterol 1995; 30 (Suppl 8): 20-24 — 156 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-18 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 潰瘍性大腸炎に合併する dysplasia/早期癌の形態的特徴 は? CQ 8-18 潰瘍性大腸炎に合併する dysplasia/早期癌の形態的特徴は? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● 境界や立ち上がりが不明瞭な顆粒状隆起で,絨毛状の表面構造を呈 する病変が多い. なし D ● 周囲と異なる色調(発赤)や表面構造の違いでしか認識できない平 坦な病変も存在する. なし D 解説 潰瘍性大腸炎に合併する早期大腸癌・dysplasia は,その発生および進展に炎症が関与するた め,従来の表在型肉眼形態分類にあてはまらない,病変の境界や立ち上がりが不明瞭で丈の低 い顆粒状の隆起が多い.また,生検の結果はじめて認識されるような,通常内視鏡では認識が 困難な平坦型 dysplasia が存在する(図 1) .隆起病変の周囲にも平坦な病変が連続して広がって いることが多い.サーベイランスにあたってはわずかな顆粒状の隆起や,周囲と異なる発赤を 示す領域に注意する.背景に活動性の炎症があると病変として認識することが困難なことが少 なくない. 図 1 典型的な内視鏡像 — 157 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 文献 1) Matsumto T, Iwao Y, Igarashi M, et al Endoscopic and chromoendoscopic atlas featuring dysplastic lesions in surveillance colonoscopy for patients with long standing ulcerative colitis. Inflamm Bowel Dis 2008; 14: 259-264 2) 岩男 泰,三上修治,向井萬起男,ほか.Colitic cancer/dysplasia の画像診断―拡大内視鏡を中心に.胃 と腸 2008; 43: 1303-1319 — 158 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-19 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 潰瘍性大腸炎に対する癌化サーベイランスの対象と方法は? CQ 8-19 潰瘍性大腸炎に対する癌化サーベイランスの対象と方法は? ステートメント 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) ● 罹患年数 6〜8 年以上の全大腸炎型および左側大腸炎型患者を対象 として初回サーベイランスを施行することを推奨する. 1 (100%) C ● 内視鏡的寛解を確認できていない患者ではそれ以前に開始すること を推奨する. 1 (100%) C ● 色素内視鏡検査(コントラスト法)を併用した全大腸内視鏡検査を 施行し,隆起性病変や周囲と異なる粘膜性状,色調を呈する部位に 注意して狙撃生検を行うことを推奨する. 1 (100%) B ● 区域ごとにステップバイオプシーを併用することを推奨する. 1 (100%) C 解説 潰瘍性大腸炎に対する内視鏡サーベイランスは,大腸癌による死亡を防ぐ効果があることが 示されている 1) .対象や開始時期については,欧米のガイドラインでは発症後 10 年 2) ,6~8 年 2) とされている.炎症が残存していると病変の発見が難しいため,寛解期にサーベイランス内視 鏡検査を行うことが望ましいが,寛解が達成できない場合はその限りではない. 検査間隔については,大腸癌発生リスクを層別化し,リスクに応じたサーベイランス間隔の 設定が推奨されている.The British Society of Gastroenterology(BSG)および The Association of Coloproctology for Great Britain and Ireland(ACPGBI)によるガイドラインでは 2) ,①lower risk:内視鏡的および組織学的に炎症のない全大腸炎型,もしくは左側大腸炎型,②intermediate risk:軽度の炎症のある全大腸炎型,もしくは炎症性ポリープ,もしくは 1 親等で 50 歳以上 で大腸癌の家族歴あり,③higher risk:中等症以上の活動性のある全大腸炎型,もしくは過去 5 年以内に狭窄あり,もしくは過去 5 年以内に dysplasia あり,もしくは原発性硬化性胆管炎の合 併,もしくは 1 等親で 50 歳未満の大腸癌の家族歴あり,と層別化し,lower risk は 5 年ごと, intermediate risk は 3 年ごと,higher risk は毎年の screening colonoscopy を推奨している.最 新の European Crohns’ and Colitis Organization(ECCO)のガイドライン(J Crohns Colitis 2013; 7: 1-33 a) [検索期間外文献] )では高度危険群(強い炎症,炎症性ポリープ,管腔狭小化,LGD 検 出)は 1~2 年,中等度危険群(軽い炎症の持続)は 2~3 年,低度危険群(内視鏡的寛解)は 3~4 — 159 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 年に一度はサーベイランスを行うことが望ましいとしている. 検査法に関してはインジゴカルミンなどの色素内視鏡検査を併用したほうが,検出率が高く なることが RCT 3)やメタアナリシス 4)で示されている.narrow-band imaging(NBI)による病変 拾い上げ率,発見率向上は RCT では否定的であった 5) . 従来,欧米で行われてきた盲目的に多数生検を行う方法の有効性は示されていないが,内視 鏡的な視認が困難な病変が少なくないため,最近のガイドラインにおいても区域ごとにステッ プバイオプシーを施行することが推奨されている 1, 2) . 文献 1) Lindberg J, Stenling R, Palmqvist R, et al. Efficiency of colorectal cancer surveillance in patients with ulcerative colitis: 26 years’ experience in a patient cohort from a defined population area. Scand J Gastroenterol 2005; 40: 1076-1080(コホート) 2) Cairns SR, Scholefield JH, Steele RJ, et al. Guidelines for colorectal cancer screening and surveillance in moderate and high risk groups (update from 2002). Gut 2010; 59: 666-689(ガイドライン) 3) Kiesslich R, Fritsch J, Holtmann M, et al. Methylene blue-aided chromoendoscopy for the detection of intraepithelial neoplasia and colon cancer in ulcerative colitis. Gastroenterology 2003; 124: 880-888(メタ) 4) Subramanian V, Mannath J, Ragunath K, et al. Meta-analysis: the diagnostic yield of chromoendoscopy for detecting dysplasia in patients with colonic inflammatory bowel disease. Aliment Pharmacol Ther 2011; 33: 304-312(メタ) 5) Dekker E, van den Broek FJ, Reitsma JB, et al. Narrow-band imaging compared with conventional colonoscopy for the detection of dysplasia in patients with longstanding ulcerative colitis. Endoscopy 2007; 39: 216-221(メタ) 【検索期間外文献】 a) Van Assche G, Dignass A, Bokemeyer B, et al. Second European evidence-based consensus on the diagnosis and management of ulcerative colitis Part3: Special situations. J Crohns Colitis 2013; 7: 1-33(ガイドラ イン) — 160 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-20 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 潰瘍性大腸炎に dysplasia/癌が検出されたらすべて手術適 応か?(low-grade dysplasia:LGD でも手術適応か?) CQ 8-20 潰瘍性大腸炎に dysplasia/癌が検出されたらすべて手術適応か? (low-grade dysplasia:LGD でも手術適応か?) ステートメント ● LGD が検出されても,直ちに手術が必要なわけではない.隆起性 病変から LGD が検出された場合には,通常腺腫との鑑別が必要で ある.一方,癌および high-grade dysplasia(HGD)が認めら れ,慢性炎症を背景に発生したと判断された場合には大腸全摘術の 適応であり,行うことを推奨する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 1 (100%) D 解説 平坦粘膜から生検で low-grade dysplasia(LGD)と判定された病変の取り扱いについては,現 時点では一定の見解が得られていない.LGD と判定された症例の経過観察により,高頻度に highgrade dyplasia(HGD)や癌が発生したという報告 1~3)と,進行する例は少ないとする報告 4, 5)の 両者がある.メタアナリシスもなされているが 3) ,採択されている論文はいずれも 20 年以上前 のものであり,エビデンスレベルも高くない.また,盲目的生検による検討結果であり,病変 そのものの経過を追った研究ではない.LGD 検出時の診断レベルが明らかでなく,病理医によ る判定基準の乖離という問題点も大きく,これらの論文から LGD の自然史を評価するのは困難 である.現時点では平坦病変から LGD が検出された場合は,経験のある複数の病理医にコンサ ルトすることが望ましく,そのうえで経験のある消化器専門医,大腸外科専門医が合議のうえ でフォローアップ期間を決定すべきである.隆起性病変から LGD が検出された場合,まず通常 腺腫との鑑別が重要である(CQ 8-21 参照) .通常腺腫の可能性が高いと判断された場合は,内視 鏡的摘除を行って病理組織学的に精査する.一方,隆起型 dysplasia と判断された場合,表層の 異型が低くても深層では異型度の高い場合や,浸潤癌を伴っていることがありうるため,3 ヵ月 を目処に,より厳重なフォローアップを行う.なお,罹患範囲外に発生した通常腺腫について は内視鏡的切除で問題ない 6) .罹患範囲内に発生した通常腺腫と隆起型 dysplasia との鑑別につ いては,CQ 8-21 を参照のこと. — 161 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 文献 1) Ulman T, Croog V, Harpaz N, et al. Progression of flat low-grade dysplasia to advanced neoplasia in patients with ulcerative colitis. Gastroenterolgy 2003; 125: 1311-1319(ケースシリーズ) 2) Ullman TA, Loftus EV Jr, Kakar S, et al. The fate of low grade dysplasia in ulcerative colitis. Am J Gastroenterol 2002; 97: 922-927(コホート) 3) Thomas T, Abrams KA, Robinson RJ, et al. Meta-analysis: cancer risk of low grade dysplasia in chronic ulcerative colitis. Aliment Pharmacol Ther 2007; 25: 657-668(メタ) 4) Pekow JR, Hetzel JT, Rothe JA. Outcome after surveillance of low-grade and indefinite dysplasia in patients with ulcerative colitis. Inflamm Bowel Dis 2010; 16: 1352-1356(ケースシリーズ) 5) Befrits R, Ljung T, Jaramillo E, et al. Low-grade dysplasia in extensive, long-standing inflammatory bowel disease: a follow-up study. Dis Colon Rectum 2002; 45: 615-620(コホート) 6) Van Assche G, Dignass A, Bokemeyer B, et al. Second European evidence-based consensus on the diagnosis and management of ulcerative colitis Part3: Special situations. J Crohns Colitis 2013; 7: 1-33(ガイドラ イン) — 162 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 Clinical Question 8-21 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 潰瘍性大腸炎における隆起型 dysplasia と通常腺腫の鑑別診 断は? CQ 8-21 潰瘍性大腸炎における隆起型 dysplasia と通常腺腫の鑑別診断は? ステートメント ● 通常腺腫と比較して dysplasia は病変の境界や立ち上がりが不明 瞭なことが多い.周囲粘膜の平坦型 dysplasia の有無も確認し, p53 免疫染色を行うことを提案する. 推奨の強さ エビデンス レベル (合意率) 2 (100%) C 解説 潰瘍性大腸炎にも炎症が関与しない通常腺腫,大腸癌が発生しうる.罹患範囲外にある隆起 性腫瘍性病変は,基本的に通常腺腫,大腸癌と判断してよい 1) .一方,罹患範囲内に発生した腫 瘍性病変については慎重な取り扱いが必要である.従来は,隆起型の腫瘍性病変は一括して DALM(dysplasia associated mass or lesion)と呼ばれ,同時性,異時性の多発の可能性および浸 潤病変の併存率が高いことから,発見時点で全大腸切除術の適応とされていた.近年,形態的 に境界や立ち上がりが明瞭な通常の腺腫と鑑別がつかない病変(adenoma-like mass/adenomalike dysplasia:ALM/ALD)は,厳重な経過観察が必要ではあるが,局所治療が可能なことがわ かってきた 2, 3) . 炎症粘膜を背景として発生した隆起型 dysplasia と通常腺腫の可能性が高い病変とを鑑別する には,形態学的な特徴に加え,隆起型 dysplasia では,①周囲粘膜まで dysplasia の拡がりがみ られることが多い,②病変表層部分で dysplastic 上皮と非 dysplasic 上皮が混在している所見が みられること,③p53 が陽性,β catenin の核内発現が陰性であること,などが鑑別に有用とされ る 4, 5) .病理組織学的鑑別診断および治療方針の決定にあたっては,経験のある専門医にコンサル トすることが望ましい. 文献 1) Torres C, Antonioli D, Odze RD. Polypoid dysplasia and adenomas in inflammatory bowel disease: a clinical, pathologic, and follow-up study of 89 polyps from 59 patients. Am J Surg Pathol 1998; 22: 275-284 (ケースコントロール) 2) Ozde RD, Farraye FA, Hecht JL, et al. Long-term follow-up after polypectomy treatment for adenoma-like dysplastic ledions in ulcerative colitis. Clin Gstroenterol Hepatol 2004; 2: 534-541(ケースシリーズ) 3) Vieth M, Behrens H, Stolte M. Sporadic adenoma in ulcerative colitis: endoscopic rescection is an adequate treatment. Gut 2006; 55: 1151-1155(コホート) — 163 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 8.その他 (3)潰瘍性大腸炎関連腫瘍/癌 4) Mueller E, Vieth M, Stolte M, Mueller J. The differentiation of true adenomas from colitis-associated dysplasia in ulcerative colitis: a comparative immunohistochemical study. Hum Pathol 1999; 30: 898-905 (ケースコントロール) 5) Fogt F, Urbanski SJ, Sanders ME, et al. Distinction between dysplasia-associated lesion or mass (DALM) and adenoma in patients with ulcerative colitis. Hum Pathol 2000; 31: 288-291(ケースコントロール) — 164 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 索 欧文索引 引 H HGD(high-grade dysplasia) 161 HNPCC(hereditary non-polyposis colorectal cancer) A adenoma-carcinoma sequence 36 advanced neoplasia 49 AFAP(attenuated FAP) 139 151 HP(hyperplastic polyp) 54, 82 I APC 変異 133 inflammatory myoglandular polyp 26 B K BRAF 変異 40, 80 KRAS 変異 30 C chemoprevention 96 CIMP( CpG island methylator phenotype) 32, 40, 82 CIN(chromosomal instability) 34 Cowden 病 131, 135, 148 Cronkhite-Canada 症候群 131, 149 L LGD(low-grade dysplasia) 161 LOH(loss of heterozygosity) 34 LST(laterally spreading tumor) 31, 45, 48, 83 Lynch 症候群 135, 151, 153 M CT colonography 17 medullary carcinoma 72 MSI(microsatellite instability)phenotype 32, 40, 82 D DALM(dysplasia associated mass or lesion) 163 de novo 癌 37 DNA aneuploidy 34 DPC4 変異 30 dysplasia 155, 161, 163 E EMR 87, 98, 100 ESD 89, 98 EUS 64 EUS-FNA 126 N NEC(neuroendocrine carcinoma) 73 NET(neuroendocrine tumor) 73 NPG(non-polypoid growth) 38 NSAIDs 112 P F FAP 133, 135, 137, 139, 140, 142 FOBT 10, 12 G muco-submucosal elongated polyp 26 MUTYH 関連ポリポーシス 135 Gardner 症候群 131 GIST(gastrointestinal stromal tumor) 126 p53 変異 30 PET 19 Peutz-Jeghers 症候群 131, 135, 144 PG(polypoid growth) 38 pit pattern 分類 46 S SMT(submucosal tumor) 126 SM 高度浸潤癌 59 SPS(serrated polyposis syndrome) 43 — 165 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 SSA/P(sessile serrated adenoma/polyp) 40, 54, 80, 82 T 経仙骨的切除術 108 こ 抗血栓薬 102 TSA(traditional serrated adenoma) 54, 82 Turcot 症候群 131 さ サーベイランス内視鏡検査 116 し 和文索引 色素撒布 57 若年性ポリポーシス 131, 135, 146 腫瘍性ポリポーシス 131 あ アスピリン 112 消化管間質腫瘍 126 上皮性腫瘍 52 神経内分泌癌 73 い 遺伝性腫瘍 135 遺伝性非ポリポーシス大腸癌 151 印環細胞癌 71 神経内分泌腫瘍 73 心臓ペースメーカー 104 深達度診断 61, 66, 68 え す 炎症性ポリープ 26, 130 炎症性ポリポーシス 131 髄様癌 71 そ か 組織分類 71 潰瘍性大腸炎 155, 157, 159, 161, 163 拡大内視鏡検査 56, 61, 63 た 大腸癌 2 大腸がん検診 8 過形成性ポリープ 80, 130 過形成性ポリポーシス 131 過誤腫性ポリープ 26, 130 過誤腫性ポリポーシス 131 大腸粘膜下腫瘍 126 大腸ポリポーシス 131 担癌率 28 画像強調観察 22, 63 家族性大腸腺腫症 131, 133, 135, 137, 139, 140, 142 カルチノイド腫瘍 128 間質性ポリープ 26 管状腺癌 71 き 鋸歯状ポリープ(病変) 26, 54, 82 緊急内視鏡検査 92 ち 注腸造影検査 16, 66 超音波内視鏡検査 64 つ 通常型腺腫 26 て く 低分化腺癌 71 け 内視鏡検査 14, 15 内視鏡的摘除 76, 84 内視鏡的粘膜下層剝離術 89, 98 偶発症 15, 110, 112 クリッピング 101 経括約筋的切除術 108 経肛門的切除術 108 な 内視鏡的粘膜切除術 87, 98, 100 — 166 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 索 内分泌性ポリープ 26 に 肉眼的分類 45 乳頭腺癌 71 ね ほ 粘液癌 71 ひ ポリペクトミー 91, 92, 98 ポリポイド腺癌 26 非腫瘍性ポリープ 130 微小腺腫 78 病理診断 70 ふ 腹腔鏡手術 106 へ 平坦陥凹型腫瘍 6 便潜血検査 8, 10, 12 便中遺伝子 20 り リンパ組織性ポリープ 26 リンパ濾胞性ポリポーシス 131 わ ワルファリン 112 — 167 — 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014 引 複製・転載禁止 © The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 大腸ポリープ診療ガイドライン 2014 2014 年 4 月 20 日 発行 一般財団法人日本消化器病学会 理事長 菅野健太郎 〒104-0061 東京都中央区銀座 8-9-13 K-18 ビル 8 階 電話 03─3573─4297 編集・発行 株式会社 南 江 堂 〒113-8410 東京都文京区本郷三丁目 42 番 6 号 電話 (出版)03─3811─7236 (営業)03─3811─7239 制作 印刷・製本 日経印刷株式会社 Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Colonic Polyp The Japanese Society of Gastroenterology, 2014 落丁・乱丁の場合はお取り替えいたします. 転載・複写の際にはあらかじめ許諾をお求めください. 大腸ポリープ診療ガイドライン2014,南江堂,2014
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