化学者のための 密度汎関数理論

化学者のための
密度汎関数理論
常田貴夫
山梨大学燃料電池ナノ材料研究センター
2012年11月6‐7日
京都大学理学部後期特別講義
科学における演繹と帰納
科学においては,理論にもとづく演繹的な推論の
重要性が強調されてきた
「実験結果のみからの帰納的推論は論理的な
演繹なしに科学的事実と認めえない」(ヘーゲル)
→オームの法則は数十年間,科学的事実として
認められなかった
Georg Wilhelm Friedrich Hegel
「自然の理解における真に偉大な進歩は帰納的
手法とほとんど正反対のところにある」
(『物理学における帰納と演繹』,アインシュタイン)
Georg Simon Ohm
「実験は,科学的事実を確かめる唯一の手段
である」(ファインマン)
理論による演繹的推論は,近年の科学において
は特に日本において軽視されてきた
Albert Einstein
実験結果に矛盾しない理論計算からの考察は,
実験結果のみからの考察より優位にある
Richard Feynman
量子化学の貢献できる研究分野
科学と理論化学の主題
期間
科学の主題
理論化学
科学全体
1926 – 1937
量子力学の基礎理論
HF法,経験法,VB法,摂動法, 量子論,相対論的理論,
固体論,反応論など
原子核論,核融合など
1938 – 1949
原子爆弾関連
反応速度論など
1950 ‐ 1960
コンピュータと量子力学 ローターン法,基底関数,古
の応用
典MD法,電子相関法など
1961 ‐ 1968
具体的な対象のための
技術・理論
1969 ‐ 1984
汎用コンピュータと生体 DFT,MDポテンシャル,励起
機能の解明
状態理論,Gaussian公開など
1985 ‐ 1995
ナノマテリアルと光化学
第1原理MD法,DFT汎関数,
多参照法,MDアンサンブル
フェムト秒などレーザー科学,
高温超伝導,C60など
1996 – 2005
技術・理論の融合によ
るユーティリティの追求
Order‐N化法,QM/MM法,
DFT補正法など
フェムト秒科学応用,アト秒
科学,ES細胞,ゲノム科学など
2006– 現在
不可能を可能にする
技術・理論?
軌道論,線形応答論,CC法,
多配置法,GVB法など
?
核分裂,超ウラン元素,
超流動,原爆など
大型計算機,レーザー,DNA,
超伝導理論など
タンパク質,カオス,クォーク,
RNAなどの解明
パソコン,遺伝子,塩基配列
解読,固体電子論など
メタマテリアル,iPS細胞,
エピジェネティクス
量子化学計算における理論の利用頻度
90年代から利用されはじめた密度汎関数法(DFT)が,現在では量子化学計算の主流
5000
4000
Total
DFT
HF and Post‐HF
図.化学系電子ジャーナル
掲載関連論文数
3000
DFT関連論文が量子化学計算論文
の数を完全に牽引
(ISI Web of Science調べ)
2000
1000
0
919293949596979899000102030405060708091011
Year
図.量子化学論文における
DFT関連論文の割合
2012年時点で,全体の82%がDFT
関連論文
応用計算に限れば9割以上
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
% of DFT studies
# of quantum chemistry papers
6000
World
Japan
91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
Year
1. 量子化学の歴史と基礎
量子化学以前の理論化学
期間
1
2
3
– 1850ごろ
1840年代
– 1880年代
1890年代
– 1920年代
主題
主な成果
化学の創生
リバビウス(錬金術→化学),ボイル(圧力×体積一定),
ラボアジェ(質量保存の法則),プルースト(定比例の法則),
ドルトン(倍数比例の法則),ゲイリュサック(気体反応の法則),
アヴォガドロ(アヴォガドロの法則),ベルセリウス(元素記号,
化学反応式),ファラデイ(電気分解の法則),
フランクランド(価電子の概念)
熱・統計力学
ヘス(ヘスの法則),フォンメイヤー(熱力学第1法則),
クラジウス(熱力学第2法則),ウィリアムソン(化学反応速度論),
グルベルグ・ヴォーゲ(質量作用の法則,化学平衡式),
マクスウェル(気体分子の速度分布式),
ボルツマン(エントロピーと確率との関係式),
ギブズ(自由エネルギー,化学ポテンシャル,相律など
化学熱力学理論)
初期量子論
トムソン(電子の発見),プランク(黒体放射解明→量子仮説),
レナルト(光電効果),アインシュタイン(光電効果→光子説),
ラザフォード(原子モデル),ボーア(水素原子モデル),
ドブロイ(物質波)
黒体放射と量子仮説
黒体放射は空洞内のエネルギー密度u(, T)と関係(は波長,Tは温度)
図.黒体放射光
振動数=c/(cは光速)で考える
ウィーンの法則:
高振動数について
入射光を
完全吸収
 
u ( , T )   3 g  
T 
古典物理と矛盾
レイリー・ジーンズの法則:
低振動数について
8 2
u ( , T )  3 k BT
c
プランクの公式(1900年):
両法則を補完して
このイメージは、現在表示できません。
全エネルギー
密度が∞で×
なぜ,ここまで一致?
電磁場の各モードのエネルギー
=nh (nは整数,hはプランク定数)
なら説明できる!
h k BT
8 2
u ( , T )  3 k BT
exp(h k BT )  1
c
全エネルギー密度がぴたり正確
⇒量子(quantum)仮説
M. K. E. L. Planck
光電効果と光量子説
トムソンの電子の発見(1897年) → レナルトの光電効果の発見(1902年)
≧ 0(しきい振動数)の光を金属に照射
→光の強さに比例する電流(光電流)
+光の強さに依存しない電子(光電子)
古典電磁気学で説明できる
光電子のエネルギーは入射光の振動数と
ともに線形的に増える
古典電磁気学で説明できない
光はエネルギー
hをもつ光子の
あつまりである!
A. Einstein
光量子=光子(photon)説(1905年)
•光はエネルギー量子hのあつまり
•電子による光吸収は電子のエネルギーをh増やす
•電子が金属から離れるのに仕事量Wのエネルギー
が必要
•残りは電子の運動エネルギーに
コンプトン効果(1923年)で証明!
原子モデルと水素原子発光スペクトル
トムソンモデル→ラザフォードモデル(1908年)
電子は正電荷
分布にうまる
粒子を金属はくに打ち込む
と大角度で散乱→正電荷は
原子の中心に局在してるはず
ラザフォードモデルは水素原子の発光スペクトルを説明できない
リュードベリ式
 1
1 
 定数  2  2 

 n1 n2 
1
n1, n2は整数
古典電磁気学⇒
円運動している電子は加速度をもって運動するから,
放射して原子核に落ちこむ
ボーアの水素原子モデル
ボーアの量子仮説(1913年)
1. 電子は,角運動量h/2の整数倍の軌道上を
運動し,かつ放射せずに定常状態にある
mvr  nh 2
(n  1, 2,3,)
2. 電子は一つの許された軌道から他の軌道へ
不連続に遷移し,そのエネルギー変化E‐E’を
放射・吸収
h  E  E '
m:電子の質量
e: 電子の電荷
Z: 原子核電荷
v: 電子の速度
r: 軌道の半径
クーロン力と
遠心力の釣合い
角運動量量子化
電子の全エネルギー
電子の角運動
量が量子化
水素原子の発光
スペクトルを
完全に説明!
軌道半径
n=1→ボーア半径
周期的軌道
にある電子
は量子化
されている!
N. Bohr
Ze 2 mv 2

2
r
r
mvr  nh 2
2 Ze 2
v 
nh
1 2 Ze 2
E  mv  2
r
2
2 2 mZ 2 e 4
 En  
h2
nh
1
rn 
 2
2 mv 4
1
n2
n2h2
Zme 2
物質波と電子の回折
光の波動‐粒子の二重性から類推し,
物質波を提案(1923年)

h
h

p mv
ドブロイ波長
周期的軌道になくても,
粒子は量子化されている!
L.‐V. P. R. de Broglie
入射電子線
反射電子線
検証実験1:
デヴィッソン・ガーマーの電子線の散乱実験
干渉パターンがみられる
n  2d sin 
格子間隔 d
検証実験2:
電子線の二重スリット回折実験
波動性と粒子性の二重性がみられた
水素やヘリウムの分子線,
遅い中性子でもたしかめられた
解析力学:停留作用の原理=変分原理
最小停留作用の原理=変分原理:
系は作用
(t2, q2)
q(t2)=0
t2
S   L(q, q , t )dt
t1
が最小値をとるように運動
(t1, q1)
q(t1)=0
t2
 S    L(q, q , t )dt
t1
t2
t2  L
d L 
L
q    

 qdt  0
t
1


q
q
dt
q

 

t1
q(t1)=q(t2)=0より,オイラー・ラグランジュ方程式
L d L

0
q dt q
ラグランジアン:
独立な質点の系について
運動エネルギー
ma va2
L
 V (r1 ,r2 ,)
2
a
ポテンシャル
オイラー・ラグランジュ方程式より
ニュートン運動方程式
ma
dva
V

 Fa
ra
dt
J.‐L. de Lagrange
解析力学:ネーターの定理
ネーターの定理 (1918年):
空間が一様⇒運動量保存則
時間が一様⇒エネルギー保存則
dL
L
L
  qi   qi
i
dt
i qi
i q
運動量pi
L
d  L 
d  L 




q
q
qi 

 i 


i






dt
q
q
dt
q
i
i
i
i
 i
 i 

L
d  L
 
qi  L   0  E  
qi  Lは不変
i
dt  i qi
i q

オイラー・ラグランジュ
方程式より

ハミルトニアンと正準方程式:
ラグランジアンの全微分
dL  
i
L
L


dqi  
dqi   p i dqi  d   pi qi    qi dpi
i
qi
i q
i
 i
 i


 d   pi qi  L   dH   p i dqi   qi dpi
i
i
 i

正準方程式(ハミルトン方程式)
 qi 
H
H
, p i  
pi
qi
ハミルトニアン
A. E. Noether
解析力学:ハミルトン・ヤコビ方程式
作用を物理量として再定義
L
オイラー・ラグランジュ方程式と pi 
より
qi
 S   pi qi
i

作用の定義より
S
 pi
qi
dS S
S
S
L

  qi 
  pi qi
dt t
t
i qi
i
W. R. Hamilton
ハミルトニアンの定義より
時間依存のハミルトニアン・ヤコビ方程式
S
 L   pi qi   H (q, p, t )
t
i
∴
 S 
S
  H  q, , t 
t
 q 
時間にあらわに依存しないとき,エネルギー保存則より
S  S0 (q )  Et
時間非依存のハミルトン・ヤコビ方程式(エネルギー保存式)
 S 
H  q,   E
 q 
C. G. J. Jacobi
シュレーディンガー方程式
「物質波」の提唱
(ドブロイ,1923年秋)
ハミルトン・ヤコビ(HJ)方程式:
時間依存の場合
 S 
S
  H ( q, p, t )   H  q, , t 
t
 q 
時間非依存の場合
 S 
H  q,   E
 q 
Vによって境界条件をかす
⇒Ψが有限ならば定数Eは離散的
(固有値問題)
⇒固有値がエネルギー準位を決定
(波動力学)
ドイツで紹介
(1925年)
空間関数Ψの有限性と一価性
の仮定⇒量子化の規則
(シュレーディンガー,1926年)
E. Schrödinger
関数の和としての
作用Sを積であらわす
Ψに変換
シュレーディンガー方程式:
時間依存HJ方程式より
S  i ln 
   exp[ S i]
i
Ψは有限かつ一価

2
 d  1

 H
t
時間非依存HJ方程式より
2 2

   V   E
2m
波動力学と行列力学との数学的同等性を示す
⇒ディラック・ヨルダン変換理論で証明
ファインマンの経路積分
最小作用径路のみでなく全経路が寄与
S i は微小な経路変化でも非常に大きい
⇒Ψの位相が激しく振動⇒最小作用以外の寄与0
波動関数の解釈
シュレーディンガーの波動的解釈:
・物理的実在は波動のみ
・離散的固有値はエネルギーと
いうより波動の固有振動数
⇒離散的エネルギー準位や
量子遷移を独立に仮定する
行列力学は意味がない
問題点:
1.波束は基準振動の整数倍の級数展開
⇒調和振動子以外ダメ
2.3次元しか考えていない
⇒n粒子系では3n次元必要
3.波動が実在⇒Ψが複素数と矛盾
4.Ψは測定を通じて非連続的に変化
5.Ψの運動量空間表示は位置空間表示
と根本的に異なる
ボルンの確率論的解釈:
衝突過程の議論からの解釈
・波動力学は|Ψ|2dで与えられる
微小体積d内に粒子がいる確率
のみあつかう
・この確率は古典的にふるまう
・Ψは物理系もその物理的属性も
あらわさず,後者についての知識
のみあらわす
コペンハーゲン学派が支持
⇒現在主流のコペンハーゲン解釈
M. Born
波動関数の解釈
ボーア・アインシュタイン論争:
コペンハーゲン解釈vs隠れた変数解釈
思考実験:二重スリット実験,光子箱実験,
EPR実験など
⇒すべてコペンハーゲン解釈の勝ち
コペンハーゲン解釈:
現象は確率でのみ議論可能
観測⇒波束収縮
光子箱実験
シュレーディンガーの猫:
部屋をのぞくまで,猫の生死は
わからない
EPR実験
フォンノイマンのノーゴー定理:
シュレーディンガー方程式には隠れた変数は
ないことを数学的に証明
⇒コペンハーゲン解釈の勝ち
エヴェレットの
多世界宇宙論:
観測⇒世界が分岐
J. von Neumann
ボームの隠れた変数再解釈:
ノーゴー定理の前提が厳しすぎると
指摘⇒隠れた変数として「量子力学
的力」を導入
⇒ベルの不等式の破れの発見で
D. J. Bohm
完全に否定
分子運動の量子化
並進運動
分子運動の4つのタイプ→ポテンシャルV
・並進運動:箱型,自由粒子(V=0)
・回転運動:中心力+遠心力
・振動運動:調和振動子,モースポテンシャル
・電子運動:核‐電子,電子‐電子の2体間の
相互作用
自由度:3
回転運動
自由度:直線 2
非直線 3
振動運動
状態はボルツマン分布に
したがって存在
N2
 e  E /( k BT )
N1
図.分子運動の固有状態と状態の占有
自由度:直線 (3N‐5)
非直線 (3N‐6)
並進運動の量子化:箱のなかの分子
最低エネルギー状態=基底状態 u1(x)の
最低エネルギーはゼロではない
9 2 2
E3 
2ma 2
 2 2
E1 
0
2ma 2
4 2 2
E2 
2ma 2
⇔古典状態:穴の中で静止している粒子
( E = T + V = 0 )
 2 2
E1 
2ma 2
固有関数が実数
⇒ 運動量期待値はゼロ
p 0
∵任意の実関数 R(x)について,
dxR( x )(  / i ) dR dx ( x ) は虚数だから,
*
p  0 以外では p  p にならない

固有関数の節 (node) の数が多いほど,
エネルギーが高い
∵運動エネルギーは関数の曲率が大きいほど
大きい
2
2
d 2u
du
*
(
)
(
)
( x)
T 
dxu
x
x
dx


2m 
2m 
dx 2
dx
du
( x )が大  T は大

dx
固有関数は単位ベクトルであり,任意の関数
は固有関数による展開であらわせる
2
フーリエの定理「任意の関数は三角関数
の級数展開であらわせる」
すべて,並進運動以外の運動でもなりたつ
並進運動の量子化:運動量固有関数
固有関数や固有値をもつ演算子はハミルトニアンだけではない
図.平面波のイメージ
運動量演算子 p̂  i  d dx  について
ˆ p ( x)  i
pu
du p
dx
( x)  pu p ( x)
 u p ( x)  Ceipx 
⇒ pは実数だから,up(x)は常に有限
⇒「連続スペクトル」という
固有関数に規格直交条件をかす




dxu *p ' ( x)u p ( x)  C 2  dxei ( p  p ') x 
図.ディラックの
デルタ関数の
イメージ

2
 2 C  ( p  p ')
 u p ( x) 
とすると
1
eipx 
2 
ディラックのデルタ関数



p’
dxu *p ' ( x)u p ( x)   ( p  p ')
p
並進運動の量子化:自由粒子
実際の並進運動のイメージ⇒ポテンシャルに壁がない場合
自由粒子のエネルギー固有方程式
d 2u
2mE
2
2
(
x
)

k
u
(
x
)

0,
k

dx 2
2
 ikx
⇒固有関数: u ( x)  e とその線形結合
V
問題点:



dx Aeikx  Be  ikx
2
があらゆるA,Bで発散
解決法の例:
箱の中の粒子を考え,壁を無限に遠くまで遠ざける
箱の壁を±a/2にとり,a→∞とすると,
2
2
n


u ( x) 
sin(kx) or
cos(kx)  k 
は有限 
a
a
a


ikx
規格化できない原因は, e
のような固有関数に対して,
粒子が空間のいかなる領域にも固定されないから
図.箱型ポテンシャルの
壁を遠ざける
分子の振動運動の量子化
9
2
7 
E3 
2
5
E2 
2
3
E1 
2

E0 
2
E4 
離散的で同じ差をもつ固有値
1

E n   n   
2

⇒ 黒体放射に関するプランクの仮説を裏づける
関数 h(y) は,規格化定数をのぞけば,
エルミート多項式 Hn(y):
d 2 Hn
dH n
(
)

2
( y )  2nH n ( y )  0
y
y
dy 2
dy
H n ( y )  ( 1)n e y
規格化:
直交性:



2
dye  y H n 2 ( y )  2n n ! 
1


 un ( y )   n

 2 n!  
d n  y2
e
dy n
①の左からul*,②の右からunを掛けて②‐①
1/ 2
H n ( y )e  y
2
2
 d 2 un mk 2
2mEn


x
u
un  ①
 2
n
dx
2
2
 2 *
 d ul  mk x 2 u *  2mE l u *  ②
l
l
 dx 2
2
2
d  * dun dul  2m
ul
un   2  El  En  ul * un


dx 
dx dx  
両辺をxについて‐∞から+∞まで積分すると
 El  En   dxul * ( x )un ( x )  0
∴ El≠Enについて,固有関数は直交
振動についても,ゼロ点エネルギーがある
分子の振動運動の量子化
非調和性:
二原子分子のポテンシャル
エネルギー曲線
→モースポテンシャル
振動が非調和であることを考えると,
2
n2
n  1 図.モースポテンシャルと
調和振動子ポテンシャル
n0
振動エネルギー準位間の選択律:Δv = ±1
たいていの分子は室温で基底状態 (v = 0)
∴ 赤外光の吸収はほぼつねに v=0→1遷移
(基本バンド)
v=1→2遷移はホットバンドという
(温度上昇で強度が増えるため)
非調和性が大きい場合
・ホットバンドが基本バンドと区別できる
・選択律が破れて,v=0→2,0→3に遷移できる
(倍音)
1
1


Ev   v     xanhrmnc  v   
2
2


非調和定数
(v  0,1, 2,)
n6
n5
n4
n3
n2
n1
n0
振動スペクトル解析
太陽光
ビーム
スプリッタ
光路A
光路B
ラマンスペクトル
往復運動
フーリエ変換赤外(FTIR)分光法
インターフェロ
グラム(時間領域)
フーリエ変換
ミラー移動(mm s-1)
可動ミラー
検出器(赤外線
の強さを検出)
赤外(IR)分光法
FTIRが主流
指紋法で
振動バンドを
構造に帰属
ラマン分光法
レーザーが必要
C=Cなどの無極性
や弱い極性の分子
や環状分子に有用
水溶媒もOK
振動バンドを振動
モードへ帰属
透過率T (%)
固定ミラー
強度
赤外吸収スペクトル
IRスペクトル
(波数領域)
波数(cm-1)
分子の回転運動の量子化
分子の回転運動の固有関数
図.分子の回転
分子の回転運動:換算質量 m の質量をもつ物体の中心力運動
動径方向の固有関数:結合の種類によってポテンシャル
エネルギーVのかたちが異なり,しかもきわめて深いため無視
角度方向の固有関数=球面調和関数
固有関数Ylmは,演算子LzとL2の同時固有関数
Ylm ( ,  )  lm ( ) m ( )
 APl |m| (cos  )eim
( Aは規格化定数)
回転運動の固有エネルギー
回転運動の
エネルギー
L2 l (l  1)  2
E

2I
2I
規格化すると
Ylm ( ,  )  ( 1)
具体的には
( m m ) / 2
2l  1  l  m ! m
Pl  cos   eim
4  l  m  !
1
Y2,0 ( ,  ) 
4
3
Y1,0 ( ,  ) 
Y2, 1 ( ,  ) 
cos 
4
3
Y1,1 ( ,  ) 
sin  e  i Y2,2 ( ,  ) 
8
Y0,0 ( ,  ) 
5
3cos 2   1

16
15
sin  cos  e  i
8
15
sin 2  e 2i
32
これらの関数を球面調和関数という
 l  0,1, 2, 


 l  m  l 
図.回転運動の
固有関数
水素原子のなかの電子運動の量子化
図.極座標表示
量子数 n, l, ml を持つ
x  r sin  cos 
y  r sin  sin 
n: 主量子数→電子殻
n=1 2 3 4 …
K L M N …
z  r cos
l: 角運動量量子数→副殻
水素原子の電子のシュレーディンガー方程式
2me 
e2 
 2 2  1 
 r 2  r r  r 2     2  E  4 r    0


0 

1 2
1  
 

 sin   2
sin  
  sin   2
原子核と電子と
のクーロン相互
作用ポテンシャル
動径分布関数
波動関数
エネルギー
 ( r , , )  Rnl ( r )Yl m ( , )
En  
4
me e 1
2 2 n 2
球面調和関数
l
0
1
2
3
4 5
副殻
s
p
d
f
g h
ml: 磁気量子数
ml=‐l, ‐l+1, …, l, l+1
例
n=2, l=1の軌道→2p軌道
ml=‐1, 0, +1の3つ存在
原子軌道=動径分布関数×球面調和関数
原子軌道
動径分布関数
3s軌道
3pz軌道
3dz2軌道
球面調和関数
s軌道
px軌道
py軌道
pz軌道
dxy軌道
dz2軌道
dyz軌道
dx2‐y2軌道
dxz軌道
2. ハートリー・フォック法
3体問題
図.3体運動のシミュレーション
3体の運動をシミュレーションすると,
すくなくとも1つが超高速ではじき出される
図.平面上で逆回りしている2つのペアの間を
1つの小粒子が往復する質点モデル
2つのペアは無限の速さで遠ざかる
多電子問題の解きかた:ハートリー法
図.ヘリウム原子
ハートリー近似
独立電子近似にもとづく方法
波動関数
  1 (r1 )  2 (r2 )
ハミルトニアン演算子
Hˆ  hˆ(r1 )  hˆ(r2 )
ハートリー方程式
多電子からの寄与はすべてポテンシャルで近似する
 1

2
hˆ(r1 )1 (r1 )   12 
 Veff (r1 )  1 (r1 )  11 (r1 )
r1 A
 2

 1

2
hˆ(r2 )1 (r2 )    22 
 Veff (r2 )  2 (r2 )   22 (r2 )
r2 A
 2

非線形方程式=自己無撞着場(SCF)法で解けばよい
D. R. Hartree
水素分子のなかの電子運動
水素分子H2のなかの電子運動のシュレーディンガー方程式
断熱(ボルン・オッペンハイマー)近似
原子核の運動を考えない近似
図.水素分子
ハミルトニアン演算子
1
1
1
1
1
1
1 1
Hˆ   12   22 



 
r1 A r1B r2 A r2 B r12 R
2
2
運動エネルギー
演算子
2
2
2
  2 2 2
xi yi zi
2
i
核・電子静電ポテンシャル演算子
(各原子核について)
J. R. Oppenheimer
電子・電子,核・核静電
ポテンシャル演算子
このハミルトニアン演算子を使ったシュレーディンガー
方程式を厳密に解くことはできない!
分子軌道法
LCAO‐MO近似:
分子のなかの電子運動の経路=分子軌道を,
原子のなかの電子運動の経路=原子軌道の線形結合であらわす
J. E. Lennard‐Jones
電子を原子核に帰属させる
この近似により,分子のなかの
電子運動を計算できる
⇒分子軌道法
図.分子軌道モデル
分子軌道に対する変分原理
古典力学における変分原理=最小停留作用の法則(δS=0)
量子力学における変分原理
 
 h ij


 S ij
d 3 r  * ( r ) hˆ ( r )
C


 d r  ( r ) ( r )
  d r  ( r ) hˆ  ( r )
  d r  (r )  (r )
3
*
3
h1 1  C 22 h 2 2  2 C 1 C 2 h1 2
C 12  C 22  2 C 1 C 2 S 1 2
2
1
*
i
3
j
*
i
j



 0
C1
C 2
h1 1  
h1 2   S 1 2
σ*軌道:
σ軌道:
図.水素分子の電子状態
 
 
C. A. Coulson
h1 2   S 1 2
 0
h22  
1   2
2  2 S12
1   2
2  2S12
,  
h11  h22
1  S12
,  
h11  h22
1  S12
パウリ排他原理を満たす波動関数
パウリの排他原理
電子系の波動関数は反対称である
=2電子の交換で波動関数の符号が変わる
W. Pauli
電子の交換に対して反対称な波動関数
 (r1 , r2 , , ri , r j , , rN )   (r1 , r2 , , r j , ri , , rN )
W. Heisenberg
反対称な波動関数は行列式であらわすべき [Heisenberg, Dirac, 1926]
1 1  r1   N  r1 
 (r1 , r2 , , rN ) 



N ! 1  rN   N  rN 
P. A. M. Dirac
反対称化波動関数にもとづく解きかた
スレーター行列式
 (r1 , r2 ,  , rN ) 

1
(2 n )!
1 (r1 )
1 (r2 )
1 (r1 ) 
1 (r2 ) 

1 (r2 n )

1 (r2 n ) 
  n (r1 ) 
  n (r2 ) 


  n (r2 n ) 
1
det 11    n 
(2 n )!
J. C. Slater
ハートリー・フォックエネルギー:スレーター行列式に対するエネルギー期待値
E
* ˆ
d


H

 d  
*
n
 2  hi 
i 1
 2J
n
i , j 1
ij
 K ij 
多電子からの寄与をポテンシャルではなくあらわな軌道間相互作用とする=ab initio法

 1 2

3
*
(
)
(
)
h
d
r

r
V
r





  i (r )
 i
ne
i

2




1
3
3
*
(
)
(
)
J
d
r
d
r

r

r
 j * ( r 2 ) j ( r 2 )

 ij 
1
2 i
1
1
i
r1 2


1
3
3
*
 j * ( r 2 ) i ( r 2 )
 K ij   d r1 d r 2  i ( r1 ) j ( r1 )
r1 2

1電子積分
クーロン積分
2電子積分
交換積分:
パウリの排他原理に
由来する量子論的効果
Ab initio ハートリー・フォック法
ハートリー法へのスレーターの解法の適用⇒ハートリー・フォック法
ハートリー・フォックエネルギー
E  2 hi    2 J ij  K ij 
n
n
i 1
i , j 1
分子軌道iの微小変化に対する変分原理 (E/i=0)
V. A. Fock
ハートリー・フォック法
ハートリー・フォック方程式
二電子演算子
フォック演算子
Fˆ i   ii
Fˆ  hˆ   (2 Jˆ j  Kˆ j )
j
クーロン演算子
1
Jˆ j (r1 )i (r1 )   d 3r2 j * (r2 ) j (r2 ) i (r1 )
r12
交換演算子
1
Kˆ j (r1 )i (r1 )   d 3r2 j * (r2 )i (r2 )  j (r1 )
r12
非線形方程式の解法=SCF法
演算子が固有関数である分子軌道iを含むため,
ハートリー・フォック方程式は非線型方程式
Ab initio ハートリー・フォックSCF法
1
初期分子軌道{i}
2
フォック演算子F フォック演算子F
ハートリー・フォック方程式
分子軌道{ i(1)}&軌道エネルギー{(1)}
3
4
{ i(1)} F(1)
{ i(2)}& {εi(2)}
{ i(n‐1)}≒ { i(n)} かつ {εi(n‐1)}≒{εi(n)}なら終了
そうでないなら3へ戻る
コンピュータによる計算のために
ハートリー・フォック方程式の実際的な解法:
フォンノイマン型コンピュータの得意な行列計算に
ローターン法
分子軌道関数を基底関数の組{χp}で展開
i 
Nbasis
 C
p
pi
 χCi
p
Fˆi
C. C. J. Roothaan
ハートリー・フォック方程式は行列形式に
F: フォック行列
  ii  FCi   iSCi
S: 重なり行列
| F   S | 0 Ci: 係数行列
i
実際には,規格直交な基底関数(S=E)を作成し,
フォック行列 F を対角化して軌道エネルギーi を求める
基底関数の種類
ハートリー・フォック方程式などの量子化学計算は,
ガウス型基底をはじめとする基底関数を使っておこなう
基底関数の種類
スレーター型基底
ガウス型基底
平面波基底
ウェーブレット基底
混合基底
スレーター型軌道(STO)関数 exp(-r)で展開
原子軌道は本来,この関数形をもつ
ガウス型軌道(GTO)関数 exp(-r2)で展開
2電子積分計算の効率がよくなる
一般的な量子化学計算プログラムにおける基底関数
平面波(PW)関数 exp(ik・r)で展開
高速フーリエ変換で積分を高速計算
一般的な固体バンド計算プログラムにおける基底関数
ウェーブレット(WL)分解で展開
関数を統一的にWL変換して超高速計算
大規模分子計算の有力なツールとして期待される
上記の基底関数の長所を補完するため組み合わせた基底関数
例えば,GTO+PW,GTO+WL
ガウス型基底関数
ガウス型関数は尖った頭をもたない
現在の量子化学計算で最も使用される
基底関数は,原始関数gnを使って
スレーター型関数mに近い関数を
与えるように線形結合で作成
m=ndnmgn(n)
dnmは短縮係数, nは軌道指数という
図.スレーター型関数とガウス型関数
ガウス型軌道(GTO)関数
s軌道関数: exp(‐r2)
p軌道関数: (x, y, z)exp(‐r2)
d軌道関数: (x2, y2, z2, xy, yz, zx) exp(‐r2)
f軌道関数: (x3, y3, z3, x2y, x2z, xy2, y2z, yz2, xz2, xyz) exp(‐r2)
本来,d軌道,f軌道はそれぞれ5つと7つしかないことに注意
ガウス型基底の種類
最小(minimal)基底関数: STO‐LG
STO関数をL個の原始GTO関数で展開
分割価電子(split valence)基底関数: 6‐31G,6‐311Gなど
内殻軌道は1つの短縮GTO,価電子軌道は複数の短縮GTOで展開
分極(polarization)基底関数: 6‐31G*,6‐31G**など
さらなる改良として,結合による分子軌道の異方性を取り込むため,
原子の占有軌道よりも高い角運動量をもつ分極関数を加えたもの
拡散(diffuse)基底関数: 6‐31G+,6‐31G++など
励起状態や負イオンなど,電子密度の広がった電子状態を
取り扱うために取り込まれる基底関数
分極関数と同様に,「+」ではH以外,「++」ではH原子にも加えることを意味する
内殻電子の簡略化
重い原子のすべての電子を取り扱うと,
膨大な計算時間が必要となる
実際の化学物性・反応においては,
内殻電子はほとんど直接的には関与しない
有効内殻ポテンシャル(ECP)
内殻電子からの相互作用をポテンシャルで
近似して直接的な関与をカットし,価電子のみ
の計算を行なって計算時間を大幅削減
有効内殻ポテンシャルの例
相対論的有効内殻ポテンシャル(RECP)
相対論的な効果が効くのは主に重原子の内殻電子であることを利用したポテンシャル
第一原理的モデルポテンシャル(AIMP)
内殻電子の波動関数の節も与えるポテンシャル
基底関数をつかうことによる誤差
基底関数重ね合わせ誤差(BSSE)
通常非直交である基底関数の重なりにより生じた
偽の安定化エネルギー
原子どうしが近づく方向に安定化する⇒プーライ力
ファンデルワールス結合など弱い結合で顕著
図.基底関数の重なりとプーライ力
Counterpoise(平衡力)法
2分子A,Bに,各々下つきaとbで示される基底関数を使い,二量体ABにはその基底の組み
合わせabを使うとき,錯体の構造の場合に「*」をつけると,二量体の結合エネルギーは,
Ecomplexation  E (AB)*ab  E (A)a  E (B) b
このとき,BSSEは,
ECP  E (A)*ab  E (B)*ab  E (A)*a  E (B)*b
だから,BSSE補正した結合エネルギーは, Ecomplexation  ECP
どこで計算時間がかかるのか?
ハートリー・フォック計算の律速プロセス
1
クーロン積分
形式的には電子数Nの4乗の計算量を必要とするが,標準的な積分
高速化によりNの3乗の計算量にまでは近づく
量子論的な相互作用ではないので,古典物理の計算高速化法が利用できる
さまざまな線形スケーリング化法が提案され,成功を収めつつある
2
交換積分
同様に,標準的な積分高速化によりNの3乗の計算量になる
さまざまな線形スケーリング化が試みられてきたが,どれも失敗に終わっている
3
フォック行列の対角化
非常に大規模な系の計算でなければ律速にならないため,問題にならない
むしろNの2乗の大きさの記憶容量が問題とされている
4
その他
それ以外の1電子積分などは,計算コスト的に重要でない
高速多極子法(FMM)
FMM [Greengard and Rokhlin, J. Comput. Phys., 73, 325, 1987.]
天体に散らばった星の間の重力を算定するのに利用される古典物理の手法
クーロン相互作用は古典的な相互作用なので適用可能
多極子展開
局所展開
局所点
遠距離粒子
近距離粒子
遠距離粒子⇒多極子展開した点との相互作用
近距離粒子⇒通常のクーロン相互作用
図.FMMのプロセスのイメージ
電子密度フィッティング
電子密度フィッティング: ポアソン方程式を利用したクーロン積分高速化法
[Becke & Dickson, JCP, 89, 2993, 1988; Delley, JPC, 100, 6107, 1996.]
ポアソン方程式
 2   r '
 d r ' r  r '  4   r 
3
補助密度基底関数{a}のラプラシアン{∇2a}
を基底関数とすれば,クーロン積分を1重積分
に変換できる!
補助基底関数{∇2a}どうし:
補助密度基底関数{a}は,モデル電子密度
  r    ca a  r 
a
を張る任意の電子密度基底であり,
1 3 3   r1     r1    r2     r2 
   d r1d r2
2
r12
のΔの最小化により係数{ca}を決める
⇒電子密度フィッティング
J ab   d 3r1d 3r2
12 a  r1   22b  r2 
r12
 4  d 3r a  r   2b  r 
補助基底関数と通常の基底関数{p}との組み
合わせ:
J ap   d 3r1d 3r2
12 a  r1   p  r2 
r12
 4  d 3r a  r   p  r 
線形スケーリング化法の計算時間の比較
[Watson, Kurashige, Nakajima, and Hirao, JCP, 128, 054105, 2008.]
エネルギー
計算
図.3次元ピラミッド構造の
ダイヤモンドのクーロン積分
計算の計算時間
BLYP/6‐31G**計算
O(N2.6)
解析積分
O(N2.6)
RI
O(N2.5)
CFMM
O(N1.2)
GFC=CFMM+電子
密度フィッティング
O(N3.2)
エネルギー
微分計算
O(N1.3)
スピンの考慮
非制限ハートリー・フォック (UHF)法
異なるスピンに対して異なる軌道をあてた
開殻系計算のためのハートリー・フォック法
S2の固有値の問題
UHFの波動関数はS2の固有関数にならない
という問題
純粋なスピン状態では,スピン演算子Sの
S2演算子について,<S2>=Sz(Sz+1) を与えるが,
UHF法は,
S
2
N MO
= S z  S z + 1 + N β -  φ φ
α
i
β 2
j
ij
⇒よりスピン多重度の大きい配置の混合
が原因であり,多配置状態が安定になると
より顕著

Energy
制限開殻ハートリー・フォック (ROHF)法
異なるスピンに対して同じ軌道をあてた
開殻系計算のためのハートリー・フォック法

RHF
1重項
ROHF
2重項
UHF
2重項
図.RHF,ROHF,UHFの軌道占有
原子のなかの電子の占有軌道
パウリの排他原理
① 多電子原子は,量子数n, l, ml とスピン量子数ms(+1/2, ‐1/2)
の4つの量子数が同じ値をとらないように電子を配置
②
5s
フントの規則
2つ以上の電子が幾つかの縮退した準位に入るとき,
最も安定な配置は平行なスピンが最も多い配置
↑↓
F. Hund
4p
3d
↑ ↓ ↑↓ ↑↓
希ガス
↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓
図.周期律表
4s
3s
↑↓
↑↓ ↑↓ ↑↓
3p
↑↓ ↑↓ ↑ ↓
2p
遷移金属
↑↓
2s
↑↓
1s
↑↓
図.原子の電子占有
f‐ブロック原子(ランタニド,アクチニド)
原子のなかの電子の占有軌道
図.周期律表
遷移金属
③
スピン・軌道相互作用
最外殻軌道の占有が半分
以下の場合は全角運動量が
最小の電子配置が,半分
以上の場合は全角運動量が
最大の電子配置が最も安定
f‐ブロック原子(ランタニド,アクチニド)
6d
↑↓
7s
↑↓
6p
6s
↑↓
↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓
5d
↑↓ ↑ ↓ ↑↓
↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓
5p
↑↓ ↑↓ ↑↓
4d
↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓
5s
↑↓
5f
4f
↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓ ↑↓
希ガス
3. 電子相関
電子相関の定義
電子相関
ハートリー・フォックエネルギーは全エネルギーの99.8%以上を与える
ハートリー・フォック法では化学反応を定性的にも与えられない
→電子相関が足りないため必要な精度が得られないから
化学反応を与えるのに必要な精度(化学的精度)
=結合距離0.1Å程度,結合エネルギー数kcal/mol程度の誤差
電子相関の定義
[Löwdin, Phys. Rev. 97, 1509, 1955.]
電子相関エネルギーは厳密エネルギーと
ハートリー・フォックエネルギーとの差
Ecorrelation  Eexact  EHF
P. ‐O. Löwdin
電子相関はなぜ生じる?
電子相関が生じる理由
ハミルトニアン演算子とシュレーディンガー方程式は矛盾?
ハミルトニアン演算子
シュレーディンガー方程式
1
Hˆ  hˆ  
i  j rij
N
Ĥ  E
ハミルトニアン演算子は特異点(rij=0)をもつのに,
シュレーディンガー方程式の右辺は特異点をもたない
電子相関のみなもと
特異点をなくすためには,
波動関数はrij→0で消えなければならない
2次密度行列
 (1, 2;1, 2)
0
クーロン孔(相関孔)
r12  0
ただし,同じ軌道に入った反対スピン電子間はのぞく
ハートリー・フォック波動関数については,
1  2
HF
Exact
 HF (1, 2;1, 2) r12 0  0
HF1  2 (1, 2;1, 2) r12 0 
⇒スピンの同じ電子の間
にはフェルミ孔をつくる
1
P(1,1) P(2, 2) ⇒スピンの異なる電子
の運動は独立
2
r12
図.クーロン孔
動的電子相関
電子相関は,動的電子相関と静的電子相関の2種類にわけられる
ハミルトニアン演算子の特異点を取りのぞくための必要条件
波動関数の相関カスプ条件

r12
r12 0
クーロン孔(相関孔)


2 r12 0
ハートリー・フォック波動関数は相関カスプ条件を
満たさない(r12→0で左辺0)
⇒動的電子相関がたりない
カスプ
r12
図.クーロン孔
動的電子相関
おもにハートリー・フォック法が余計に取りこんだ短距離電子間のクーロン反発
動的電子相関は,化学結合(反平行スピンの対)が切れるとつねに減る
動的電子相関が大きいならば,ハートリー・フォック法は
結合長を長く,結合エネルギーを小さく与える
電子配置間の相互作用
HIJ  I | Hˆ | J 
配置間相互作用(CI)展開
ハートリー・フォック(HF)波動関数に電子相関を
取りこむには,励起配置と線形結合させ,
変分原理にもとづいてその係数を求めればよい
を計算し,
  CHF HF   Ci a  i a   Cij ab  ij ab  
ia
ijab
| H  EI |
(H-EI)C=0
を行列対角化
により解く
すべての電子配置の線形結合をとれば,完全な電子相関を与えられる
励起電子を増やすにつれて,配置の数が指数関数的に増える
表.H2O分子の6‐31G(d)基底関数についての励起配置の数
J. C. Slater
E. U. Condon
励起のレベル n
n電子励起配置の数
全励起配置の数
1
71
71
3
40040
42596
5
1723540
2114666
7
8688680
15836556
9
4554550
29044751
計算時間がかかりすぎる!
0
摂動法による電子相関
メラー・プレセット摂動法
計算時間を減らすため,電子相関を効率的に取りこむ手法
量子化学計算でよく使われているのは,
ハートリー・フォックエネルギーに対する2次メラー・プレセット(MP2)摂動法
励起配置 HF V I
Hˆ  Hˆ 0  V
ハミルトニアン演算子Hを
E  EHF  
Hˆ 0   Fˆi  MP2
フォック演算子Fiの和により
EHF  EI
I
i
あらわし,Vを摂動展開
HF V I   d 3{r} *HFV  I
V  Hˆ  Fˆ

i
i
EMP2  EHF 
C. Møller
占有軌道 仮想軌道
 
i j
a b
| ij | ab    ij | ba |2
 a  b  i   j
 ij | ab   d 3r1d 3r2i* (1) j * (2)
1
a (1)b (2)
r12
残るのはこれだけ
i : HF分子軌道
i :軌道エネルギー
MP2法の特徴
CI法と比べると,高速に電子相関を与えられる
計算の精度は十分ではない
3次以上の摂動計算は時間がかかりすぎる
M. Plesset
2
静的電子相関
静的電子相関
エネルギーの近い電子配置間の長距離相互作用(擬縮退効果)
静的電子相関は,結合が切れるときの軌道の入れかわりにおいて効く
静的電子相関が重要ならば,ハートリー・フォック法は
結合長を短く,結合エネルギーを大きく与える
結合が入れかわるとき,電子配置のエネルギー
が近くなるために摂動展開の分母が小さくなり,
電子相関が大きくなる
仮想軌道
静的電子相関を与えるには,エネルギーの近い
結合性軌道を組みかえた励起電子配置の線形
結合からなる多配置波動関数を作ればよい
結合性軌道
きわめて高精度な方法として,多配置波動関数
をHF波動関数と置きかえて,動的電子相関を
取りこむ多参照法がある
占有軌道
図.結合性軌道
水素分子の解離ポテンシャル
電子相関のもう1つのみなもと
水素分子の基底電子配置の波動関数
図.水素分子の解離ポテンシャル
 基底配置  A1 (1)1 (2)
解離極限
 基底配置  A(  A (1)  B (2)   B (1)  A (2)
  A (1)  A (2)   B (1)  B (2))
⇒イオン状態波動関数のために解離極限の
エネルギーが高くなる
⇒励起電子配置を考慮
 励起配置  A2 (1)2 (2)
解離極限:
 励起配置  A(  A (1)  B (2)   B (1)  A (2)   A (1)  A (2)   B (1)  B (2))
基底配置+ 励起配置で正しい解離極限が得られる
  A(1 (1)1 (2)  2 (1)2 (2))  2 A  A (1)  B (2)   B (1)  A (2)
解離極限以外では, 基底配置 と 励起配置 の線形結合を使う
  c基底配置  基底配置  c励起配置  励起配置
配置間相互作用
静的電子相関を取りこむ方法
多配置SCF法
CI小行列計算とSCF計算を交互に行なって電子相関を取りこむ
CI行列計算→SCF計算→CI行列計算→SCF計算→収束まで
CI小行列に取りこまれる電子配置と
しては,小分子では化学結合に関与
する分子軌道(アクティブ軌道)の
すべての可能な電子配置を線形結合
することが多い→CASSCF法
仮想軌道
アクティブ軌道
占有軌道
図.アクティブ軌道
静的電子相関を取りこむ
反応過程の結合の組みかえを正しく与える
分子構造の変化については安定だが,結合長を長く与える
アクティブ軌道が増えるとCI行列の次元が等価級数的に増えるうえ,
SCFの収束が遅いので計算時間がかかる
動的電子相関を含まないため,単独では定量的な議論には使えない
ヘリウム原子の電子運動のCI
ヘリウム原子の電子配置:
基底配置
(1s)2
1電子励起配置
(1s)1 (2s)1
2電子励起配置
(2s)2
基底配置 (1s ) 2 ⇒ 1 
1電子励起配置 (1s ) (2s ) ⇒  2 
1
1
 3 
 4 
 5 
2電子励起配置 (2s ) 2 ⇒  6 

ただし, h  d 3r *hˆ
i
 i i
1
det 12
2
1
det 1 4
2
1
det 23
2
1
det  24
2
1
det 1 2
2
1
det 34
2


1
3
3
*
*
 J ij   d r1d r2i (1) j (2) i (1) j (2)
r12


1
3
3
*
*
 K ij   d r1d r2i (1) j (2)  j (1)i (2)
r12

軌道関数:
1s軌道関数 1s 2s軌道関数 2s
スピン軌道関数 
スピン軌道:
11s 
21s
12s 
22s
スピン軌道は規格直交だから,  d r  
3
*
I
J
  IJ
ハミルトニアン行列Hの対角項H II :

H II   d 3 r *I H  I
 hi  h j  J ij  K ij
非対角項H IJ :

H IJ   d 3 r *I H  J
 i h k  jl  j h l  ik  i h l  jk  j h k  il
 ij | kl  ij | lk
 i h k  d 3ri*hˆk



1
3
3
*
*

|
(1)
(2)
ij
kl
d
r
d
r


k (1)l (2)

j
1
2 i

r
12

ヘリウム原子の電子運動のCI
1電子励起配置(1s)1 (2s)1について,
非対角項を考えると,2と3の組の交換積分項
ij | kl  K12
だけが値をもち,それ以外はゼロ
変分法により | H  EI | 0 であるから,
h1  h2  J12  E
 K12
0
0
 K12
h1  h2  J12  E
0
0
0
0
h1  h2  J12  K12  E
0
 E1  E2  E3  h1  h2  J12  K12 : 3重項状態
E3  h1  h2  J12  K12 : 1重項状態
 3重項状態の波動関数
 1   4 ,  2   5 ,  3 
1重項状態の波動関数
1
 4 
2  3 
2
1
2  3 
2
0
0
0
h1  h2  J12  K12  E
0
1電子励起配置からくる電子相関
ブリュアン定理
1電子励起配置(1s)1 (2s)1と基底配置 (1s)2および2電子励起配置(2s)2とを別個に
考えられるのは,1電子のみ異なる配置間の相互作用が1電子SCF方程式の場合
ゼロだから
⇒ ブリュアン定理
n
 0 | Hˆ | ia  i h a   ij | aj  ij | ja 
j
n
 i h a   i 2Jˆ j  Kˆ j a
j
  d3ri* (r)Fˆa (r)  0
L. Brillouin
HF法を含む1電子SCF方程式は,フォック行列を対角化することにより,基底配置と
1電子励起配置との配置間相互作用があらかじめ取りこまれている
系の分割に対する整合性
大きさに対する無矛盾性(size‐consistency)
結合を無限にのばしたときのエネルギー=個々のエネルギーの和
1,2電子励起CI法やCASSCF法以外の多配置SCF法はこれを満たさない
[Pople et al., Int. J. Quant. Chem. 12, 149, 1977.]
r=∞
=
+
クラスター展開法
大きさに対する無矛盾性を満たしながら電子相関を効率的に取りこむために,
励起配置を指数関数的に生成させる方法
 
1


 CC  exp Tˆ   1  Tˆ  Tˆ 2    
2


Tˆ   Tˆ   Tˆ   
1
2
  Ci a  i a 
ia
1
Cij ab  ij ab  

4 ijab
特に2電子励起演算子+3電子励起演算子を摂動的に取りこんだCCSD(T)法は,
実用性と高精度さを併せ持つ理論として黄金理論とすらよばれる
動的・静的電子相関を両方取りこむ方法
多参照分子軌道法
電子相関をバランスよく取り込むには,静的電子相関と
動的電子相関の両方を取り込んだ理論が必要
ハートリー・フォック波動関数の代わりに,多配置SCF法により
求めた波動関数を参照関数にして,CI法や摂動法を行なえばよい
(例:MRCI法[Whitten & Hackmeyer, JCP, 51, 5584, 1969],MRMP法[Hirao, CPL, 190, 374, 1992],
MCQDPT法[Nakano, JCP, 99, 7983, 1993],CASPT2法[Roos et al., CP, 48, 157, 1980]など)
多参照分子軌道法の特徴
とにかく高精度な結果(結合距離0.1Å以下,結合エネルギー
1kcal/mol以下の誤差)が得られ,多くの場合実験誤差の範囲内
→実験値の評価にすら利用される
電子配置の数や摂動展開項が多配置SCFのCI配置の数×HFの場合の数
となり,とにかく膨大な数になるため,膨大な計算時間が必要
通常のやりかたではせいぜい十原子程度までの分子しか計算できない
膨大な数の電子配置を取りこむ方法
密度行列繰りこみ群(DMRG)法
CASSCF法の励起配置数問題を解決するた
め,固体物性理論のDMRG法を利用
[Yanai & Chan, JCP, 124, 194106, 2006.]
β‐カロテン
繰りこみ変換で,特定の相関長以上離れた
多電子基底表現を縮約
取り扱える電子配置数は107‐8⇒1020‐30に
図.繰り込み群法のアルゴリズムの概略
[柳井,JST‐CREST報告書より]
60.0
CCSD(T)
CIPT2(8e8o)
CASSCF(8e,8o)
DMRG(M=1600)
40.0
20.0
0.0
-20.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
-40.0
図.生体内酸素活性のコア分子である多核金属
化合物Cu2O2の反応エネルギープロファイル
動的相関を波動関数で取りこむ方法
ヒレラース法とR12法
相関カスプ条件:

r12

r12  0

2
r12  0
波動関数があらわに電子間距離r12の項を含んでいればよい
波動関数にr12/2をかけた項をたす方法
[Hylleraas, Z. Phys. 54, 347, 1929; Kutzelnigg, TCA, 68, 445, 1985.]
 r 
 r   1  12   0 r 
2

⇒線形R12法
基底関数の数を増やしたときの電子相関の基底関数極限への収束性が上がる
F12法
基底関数極限への収束性をさらに向上するため,r12/2を指数関数に置きかえた方法
[Ten‐no, CPL, 398, 56, 2004.]
 1

 r   1  exp   r12    0 r 
 

内殻電子に対する基底関数の数に対する電子相関の収束性が上がる
4. コーン・シャム法
密度汎関数法のはじまり
密度汎関数法(DFT)の基本コンセプトは,
「ポテンシャルを波動関数(軌道)ではなく電子密度であらわし,
固体の電子状態計算を高速化すること」
L. H. Thomas
E. Fermi
トーマス・フェルミ理論 [Thomas, Proc. Camb. Phil. Soc., 23, 542, 1927]
トーマスによる固体の電子状態計算のための仮定:
1. 相対論の効果を無視
2. 原子のなかには(核・電子相互作用などの)外場ポテンシャルがあり,それは
原子核からの距離のみで決定
3. 電子は,1電子の運動について6次元の位相空間に,1辺がプランク定数の単位格子
あたり2つの割合で等しく分配
4. 外場ポテンシャルは核電荷と電子密度で決定
3
→電子のエネルギーを電子密度ρの汎関数としてあらわす
T[ ] 
3 2
運動エネルギーの局所密度近似(LDA)汎関数:
10
フェルミも,絶対零度のフェルミ統計から同じ汎関数を導いた(1928年)

  d r
2/3
3
5/3
(r )
運動・交換エネルギーの密度汎関数
トーマス・フェルミ理論は,実際の電子状態計算では定性的な議論すらできない
この問題を解決するために,最初の密度汎関数が考えだされた
nocc
1
3
Ts    d r  | i |2
2 
i
3
6 2

10

   d r
2/3
3

1/3
3 6 
Ex    
4 

  r 
1
3
r     d r
72 
  r 
d r  r 



3
厳密なLDA交換汎関数である
ディラックのLDA交換汎関数
(1930年)
P. A. M. Dirac
5/3
2
4/3
最初の一般化勾配近似
(GGA)であるワイツゼッカー
運動エネルギー補正項
(1935年)
C. F. von Weizsäcker
ホーヘンベルク・コーン定理:基礎定理
密度汎関数法はホーヘンベルク・コーン定理にもとづく理論
[Hohenberg & Kohn, PRB, 136, 864, 1964.]
ホーヘンベルク・コーンの定理
P. Hohenberg
第1定理: 外場ポテンシャルは電子密度で決められる
背理法により,電子密度は一意的に外場ポテンシャル
(核・電子相互作用ポテンシャルなど)を決めることを証明
第2定理: 電子密度であらわされた変分原理
(N表現可能な)電子密度であらわされた
ハミルトニアン演算子は,必ずエネルギー最小
となる解をもつことを証明
W. Kohn
ホーヘンベルク・コーン定理の問題
ポテンシャルV表現可能性問題
HK定理では波動関数と(V表現可能な)電子密度との1対1対応関係を仮定
↓
レヴィの制限つき探索法 [Levy, PNAS, 76, 6062, 1979.]
Euniv     min  | Tˆ  Vˆee | 

↓
非相互作用系での制限つき探索法
[Levy & Perdew, in Density Functional Methods in Physics, Eds. Dreizler & da Providencia (Plenum, New York, 1985), p.11.]
M. Levy
Ts (  )  min  | Tˆ | 

電子数N表現可能性問題
電子密度のN表現可能性 [Gilbert, Phys. Rev. B, 12, 2111, 1975.]
 (r )  0,
 d r (r )  N ,
3
 d r 
3
1/ 2
2
(r )  
コーン・シャム法:計算理論
密度汎関数法は一般にコーン・シャム法を使う
[Kohn & Sham, PRA, 140, 1133, 1965.]
W. Kohn
分子構造
図.コーン・シャム
SCF法のプロセス
L. J. Sham
分子軌道{i}
電子密度  
occ

i
2
i
空間の各点における外場有効
ポテンシャルVeffを電子密度の
汎関数で計算
Veff (r )  V (r )   d 3r'
 (r')
r  r'
 Vxc (r )
厳密運動エネルギーと
Veffを使った非線形方程
式により,分子軌道{i}
と軌道エネルギー{i}を
決める
分子軌道と
軌道エネルギー
 1 2

(
)



V
r
eff
 2
  i   i i


 1

E    d 3r i* (r )    2  i (r )   d 3r (r )V (r )  J [  ]  Exc
 2

i
ポテンシャルの直接決定
厳密な電子密度から厳密交換・相関ポテンシャルを直接求める
[Zhao, Morrison, and Parr, PRA, 50, 2138, 1994.]
新しいレヴィ制限つき探索方程式
R. Parr
従来のレヴィの制限つき探索方程式 = コーン・シャム方程式
↓
新しい束縛条件
[  (r )   0 (r )][  (r ')   0 (r ')]
1
3
3
d
r
d
r
'
0

2
r  r'
↓
ラグランジュ未定乗数つき有効ポテンシャル
Veff (r )    d 3r'
 (r')   0 (r')
r  r'
↓
新しいレヴィ制限つき探索方程式(V0は外場ポテンシャル)
=∞でコーン・シャム方程式
を固定してSCF→=∞に
 1 2
 

 
  2   V0 (r )  Veff (r )   i   i  i
交換・相関ポテンシャルの直接決定
フェルミ・アマルディ自己相互作用補正
電子の自己相互作用を取りのぞくフェルミ・アマルディ項 2 1  1 N  Jˆ をたす
Ĵ はクーロンポテンシャル
 (r')
Jˆ (r )   d 3r'
r  r'
occ

2
i により Ĵ  を与える
↓  
i
ラグランジュ未定乗数つき有効ポテンシャル
 1 2
 
 1  ˆ

r
r
r
(
)
2
1
(
)
(
)






V
J
V
i   i i
eff
0


 2

 n


フェルミ・アマルディ補正を用いる利点
1.SCFの収束が高速になり,数値的に正確になる
2.交換・相関ポテンシャルの明示的に決められる
2 

Vxc  lim Veff  Jˆ  
 
n 

3.この項のために有限のが可能になる
4.固有値がエネルギーシフトのないコーン・シャムエネルギーになる
ポテンシャル直接決定のアルゴリズム
フェルミ・アマルディ補正レヴィ制限つき探索方程式
ラグランジュ未定乗数つき有効ポテンシャル
 1 2
 
 1  ˆ




r


r

r
V
J
V
i   ii
(
)
2
1
(
)
(
)
eff
0


 2

 n


厳密外場ポテンシャルV0と厳密密度0を与える
特定のの値を与えてSCFを解く
の値を大きくする
最終的にが∞になったらコーン・シャム軌道&エネルギーが決まる
交換・相関ポテンシャルおよびエネルギーが決まる
2 

Vxc  lim Veff  Jˆ  
 
n 



Exc  E[  ]     i  2 J [  ]   d 3r (r )Vxc (r ) 
 i

直接得られた交換・相関ポテンシャル
図.多参照CI法で求めた電子密度によって求めた原子の交換・相関ポテンシャル
実線はVxc, 点‐破線は(1/N)J, 破線はVeff
He
Be
Ne
Ar
厳密な交換・相関ポテンシャルは均一でも局所的でもない!
DFTが化学において有効である理由
化学=物質の電子状態間の電子のやりとりによる状態変化
化学を定量的に与えるには,電子相関をバランスよく取りこむことが必要
動的電子相関
相関カスプをもたないことにより余計に取りこまれた短距離電子間のクーロン反発
静的電子相関
エネルギーの近い電子配置間の長距離相互作用(擬縮退効果)
DFTの交換・相関汎関数はこの2種の電子相関をバランスよく取りこむ
相関汎関数
交換汎関数
交換・相関汎関数
図.
ツァオ・モーリソン・パール法
により多参照CI電子密度を
使って直接決定した
交換・相関ポテンシャルと
交換・相関ポテンシャル
汎関数との比較
[Schipper et al., PRA, 57, 1729,1998.]
時間に依存する場合の定理
ルンゲ・グロスの定理 [Runge & Gross, PRL, 52, 997, 1984.]
E. K. U. Gross
仮定
E. Runge
① 時間に依存する外場ポテンシャルV(r,t)は時間について周期的に依存
② V(r,t)=時間に関係ない静的部分Vstat+時間に少しだけ依存する摂動部分Vpert
定理
① 時間依存のHK第1定理
時間について展開できる1電子ポテンシャルVについて,V(r,t)→(r,t)変換が
運動方程式(時間依存シュレーディンガー方程式)を解くことに相当する
⇒仮定②のとき,→V変換できる
② 厳密な電子密度を決める,電流密度jの時間変化の密度汎関数 P[  ]  j t が必ず存在
③ 時間依存のHK第2定理
t1

作用積分 S  t dt  (t ) i  Hˆ  (t ) は密度汎関数S[]としてあらわせ,
0
t
t
t

S [  ]  t dt  (t ) i  Hˆ  (t )  t dt  d 3r (r , t )V (r , t )
t
と分解できる⇒作用積分汎関数S[]は変分原理を満たし,厳密な密度で停留値をとる
④ 1電子軌道i(r,t)は運動方程式を満たす
  1 2
 i    i (r , t )  Veff [r , t ;  (r , t )]i (r , t )
 t 2

断熱近似:
有効1粒子ポテンシャルVeffは
 (r ', t )  S xc [  ]
 S xc [  ]  Exc [  ]

Veff [r , t ;  (r , t )]  Vs (r , t )  d 3r

r  r '  (r , t )
 (r , t )  (r , t )
であり,Sxcは作用の交換・相関部分
1
1
0
0

時間発展する系のための理論
時間依存コーン・シャム法
ルンゲ・グロス定理にもとづき,外場ポテンシャルには弱い摂動Vextのみかかるとすると,
電子密度も微小変化だけと解釈できる
Vxc    (r1, t1 )  Vxcstat    (r1)   dt2d 3r2 fxc  stat  (r1, r2 , t2  t1)(r2 , t2 )
fxc  stat  (r1, r2 , t2  t1) 
Vxc    (r1, t1)
(r2 , t2 )  
stat
交換・相関積分核
=交換・相関ポテンシャルの導関数
ポテンシャルの微小変化に対する電子密度の応答関数KSを
(r1, t1)   dt2d 3r2 KS  stat  (r1, r2 , t2  t1)VKS (r2 , t2 )
占有軌道iと仮想軌道a
と定義すると,応答関数はグリーン関数法により
i*  r1  a  r1  i  r2  a*  r2  i  r1  a*  r1  i*  r2  a  r2  
KS (r1, r2 , )  2 lim 


 0








i
i










i a 

a
i
a
i

nocc nvir
とフーリエ変換(t→)される
軌道エネルギー差に依存
この応答関数はωが励起エネルギーのときに極(pole)をもつ
励起スペクトルを求める方法
時間依存応答コーン・シャム法
カシーダは,次の行列方程式を解けば極の値を求めることができることを示した
[Casida, in ‘Recent Developments and Applications of Modern Density Functional Theory’ (Elsevier, 1996).]
励起エネルギー
時間依存応答コーン・シャム(TDKS)方程式
応答関数行列
行列K:
 A B   Xi  a 
 1 0   Xi  a 








 B A   X a i 
 0 1   X a i 
 Aia , jb   ij ab ( a   i )  Kia , jb
M. E. Casida

 Bia , jb  Kia ,bj
占有・仮想軌道の軌道エネルギー差
K ia , jb    d 3r1 d 3r2i* (r1 )a (r1 )
1
 j (r2 )b* (r2 )
r12
高精度な軌道エネルギー
が必須!
   d 3r1 d 3r2i* (r1 )a (r1 ) f xc (r1 , r2 ) j (r2 )b* (r2 )
ただし,1電子励起にしか適用できない
交換・相関積分核
光化学反応
光合成
光触媒
光化学反応は,量子化学のターゲット
になりはじめた新しい分野
フェムト秒化学:
極短時間での励起状態ダイナミクス
光制御分子マシン設計:
非断熱遷移による分子構造変化
強相関電子系の化学:
さまざまな電子間相互作用の微妙
なバランスによる光化学反応
レーザー蛍光
視覚
光誘起相転移
有機電子ルミネッセンス
励起状態計算の現状
励起状態計算論文の数
2500
2000
1500
TDDFT
MR+MC+CAS
1000
500
0
91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10
年
図.化学系ジャーナルにおける励起状態計算論文の数の推移
(Google Scholar調べ)
今世紀に入るまでほとんど利用されていなかった時間依存DFT(TDDFT)は,
その後急速に利用が増加し,現在は励起状態計算でもっとも利用されている
TDKS法の問題
Ethylene‐tetrafluoroethylene
の電子移動励起エネルギーを
著しく小さく与える
[Dreuw, Weisman & Head‐
Gordon, JCP, 119, 2943, 2003.]
Zn‐bacteriochlorin‐bacteriochlorinの
電子移動励起を著しく低く与える
[Dreuw & Head‐Gordon, JACS, 126, 4007, 2004.]
リュードベリ励起エネルギーを著しく小さく与える [Tozer & Handy, JCP, 109, 10180, 1998.]
振動子強度を著しく小さく与える [van Gisbergen, Kootstra, Schipper, Gritsenko, Snijders, & Baerends, PRA 57, 2556, 1998.]
応答物性
化学で対象となる物性のほとんどは応答物性で
あり,応答物性はエネルギーの偏微分である
応答物性
nF
nB
nI
nR
0
0
0
0
エネルギー
1
0
0
0
双極子モーメント
0
1
0
0
磁気双極子モーメント
0
0
1
0
超微細結合定数
0
0
0
1
エネルギー勾配
2
0
0
0
分極率
0
2
0
0
磁化率
0
0
2
0
核スピン・スピン結合
0
0
0
2
調和振動子
 nF  nB  nI  nR E
応答物性  nF nB nI nR
F B I R
応答物性
nF
nB
nI
nR
1
0
0
1
赤外 (IR) 吸収強度
1
1
0
0
旋光性,円偏光二色性
0
1
1
0
核磁気遮蔽
2
0
0
1
ラマン強度
3
0
0
1
超ラマン効果
2
1
0
0
磁気円偏光二色性
(ファラデイ効果)
表.応答物性と導関数の次数
1
0
0
2
[Jensen, “Introduction to Computational Chemistry, 2nd Ed. (Wiley, Chichester, UK), 2007.]より抜粋
倍音や結合バンドに対する
赤外強度
2
0
0
2
倍音や結合バンドに対する
ラマン強度
2
2
0
0
コットン・ムートン効果
電場に対する応答物性
外部電場に対する応答物性:
電場ポテンシャルφと電子の電荷分布ρとの相互作用エネルギー:
電場 F    r は,分子レベルでは均一だから,
E    (r ) (r )d 3r
双極子モーメント
1 F

E  q  μF  Q
2 r
四重極子モーメント
正味電荷(単極子)
0    r  , Q 0   rr 
電場が存在しないとき,
電場存在下での双極子モーメントの展開:
t
E

F
2 E
 2
F
F 0
1 3 E
F
3

F
2
F 0
1 4 E
F 
4

F
6
F 0
2
2
  E 
 μ 
赤外吸収強度     

 q 
 FR 
2
2
2次超分極率
1
1
F 3    0  αF  βF 2  γF 3 
2
6
F 0
永久双極子モーメント
電場を含む混合応答物性:
赤外吸収強度は正規座標に沿った構造変化
による双極子モーメントの変化に関係
分極率
(1次)超分極率
ラマン吸収強度は正規座標に関
する分極率の導関数(調和近似)
2
 3 E 
 α 
ラマン吸収強度      2 
 q 
 F R 
2
磁場に対する応答物性
磁気四重極子モーメント
外部磁場に対する応答物性:
磁場相互作用は電場相互作用より明らかに小さい
磁場が存在しないとき,
1
E  mB  ξB 2  
2
軌道角運動量演算子
磁気双極子モーメント
1
m 0    Lˆ G  g eSˆ  , Lˆ G   r  R G   pˆ
2
磁場存在下での磁気双極子モーメントの展開:
m
E
1 E

B B 0 2 B 2
2
ランデのg因子=2.0023
磁化率=磁気感受率
1
B    m0   B2  
2
B 0
磁気双極子モーメント
内部磁場に対する応答物性:
核スピンによる内部磁気モーメント I への応答
核スピン‐スピン結合定数
=NMR結合定数
E
E
1 2 E
E (I1 , I 2 ,)  E (0) 
I1 
I2 
I1I 2    E (0)  A1I1  A 2 I 2  hJ12 I1I 2  
I1
I 2
2 I1I 2
磁場を含む混合応答物性:
NMR遮蔽テンソルは外部と核の
混合磁場の混合導関数
核‐電子超微細結合定数
 2 E 
NMR遮蔽度  

 BI 
2
磁気応答物性
表.磁気応答物性と摂動次数
[Jensen, “Introduction to Computational Chemistry, 2nd Ed. (Wiley, Chichester, UK), 2007]より
外部磁場-電子
核スピン-電子
電子スピン-電子
核スピン-磁場
相対論的効果
応答物性の計算法
摂動法:
摂動が加わったときのハミルトニアン演算子
H  H 0   P1   2 P2
レイリー・シュレーディンガー摂動論より,エネルギーの摂動補正
W1    0 P1  0

 0 P1  i  i P1  0 
W2     0 P2  0  

E

E

0
i
0
i


2
全ての励起状態に対する和→現実的でない→応答理論で解かれる
エネルギーの導関数:
1次導関数
E

 0
 0
  0 P1  0  2
H0  0

2次導関数(変分波動関数の場合)
1 2 E
2  2

 0
 0
P1  0   0 P2  0

波動関数の1次変化のみ必要であり,厳密なら,
DFTやHF法で得られた変分波動関数の
場合,ヘルマン・ファインマン定理よりゼロ

 i P1  0
 0
  ai  i , ai 

E0  Ei
i 1
2次以上のエネルギー導関数を求める方法
Coupled‐perturbed コーン・シャム法
2次(以上)の導関数計算に必要な波動関数応答を求める方法
行列方程式表現:
コーン・シャム方程式と規格直交条件
FC  SCε
 C SC  1
t
1次の摂動展開= 1次Coupled‐perturbed コーン・シャム法
F ' C  FC '  S ' Cε  SC ' ε  SCε '
 F  Sε  C '   F ' S ' ε  Sε ' C
 C SC  '  C ' SC  C S ' C  C SC '  0
t
t
t
t
摂動微分MO係数C’が求められる.
摂動微分MO係数があれば,2次エネルギー導関数が求まる
具体的な応答物性計算法
軌道回転表現=Coupled コーン・シャム法
摂動がなければエネルギーは停留値=MOの変化についてエネルギー導関数はゼロ
=フォック行列の占有‐仮想軌道間の非対角項がゼロ
摂動の加わったMOは非摂動MOのユニタリ変換で書ける
i  i ' 
M basis
u
i 1
M basis
 j  i    u ji ' j  
ji
j 1
C '  U 'C
フォック行列は対角化されているから,ユニタリ変換に対して線形
AU '    F '
フォック演算子の1次導関数
均一電場の摂動なら,
Aia , jb   ij ab ( a   i )  Kia , jb
Kia , jb
占有・仮想軌道の軌道エネルギー
を使って計算
1
   d r1d r  (r1 )a (r1 )  j (r2 )b* (r2 )
r12
3
3
*
2 i
 F 'ia   d 3ri*  r  ra  r 
定量的な応答物性を与えるには,
高精度な軌道エネルギーが必須!
   d 3r1d 3r2i* (r1 )a (r1 ) f xc (r1 , r2 ) j (r2 )b* (r2 )
CPKS法の問題
図.長鎖ポリエンの
光学応答物性の鎖長
への依存性
[Champagne et al., JPC, 104, 4755, 2000.]
縦分極率
/unit cell
H
O 2N
H
n
zz/n
NH2
a,w‐nitro,amino‐
polyacetylene
ユニットセルの数 n
標準的な汎関数
を使ったTDDFT
では,長鎖ポリ
エンの双極子
モーメント,分極
率,超分極率
すべてを著しく
大きく与える
zzz/n
z
ユニットセルの数 n
超分極率
/unit cell
縦双極子モーメント/unit cell
ユニットセルの数 n
5. 交換・相関汎関数
交換・相関汎関数の種類
図.交換・相関汎関数
の分類
局所密度近似(LDA): 電子密度ρのみであらわした汎関数
一般化勾配近似(GGA):LDAを密度勾配∇ρで補正した汎関数
メタGGA(meta‐GGA): GGAを運動エネルギー密度τで補正した汎関数
混成GGA(hybrid‐GGA): GGAをハートリー・フォック交換積分を一定割合混合して
補正した汎関数
半経験的汎関数:
多くの半経験的パラメータを使い,高精度に物性を与える
ことを目的とした汎関数
プログレッシブ汎関数: いっしょに使う汎関数により形を変える汎関数
汎関数に対する1つの考えかた
図.ヤコビのはしご
普遍的汎関数を導くには,変数に対する
摂動項(のようなもの)をつみあげて近似
を高めていけばいいという1つの考えかた
[Perdew et al., JCP, 123, 062201, 2006.]
汎関数開発における基準
1
基礎物理条件を満たす
汎関数がしたがうべき物理的な条件を満たすかどうかで,汎関数の物理的な
正しさを判定できる
2
いろいろな分子のいろいろな物性や反応の計算に適用できる
分子の構造や分光学定数などをどの程度与えられるかで,汎関数の数値的
な正しさを評価できる
3
パラメータを極力減らした簡単な定式をもつ
物理的な意味が明確になり,結果が解釈しやすくなる
4
基礎物理条件を満たすためだけに付け加えられた部分がない
小手先のやりかたで改良しても,汎用性や適用範囲をかえって狭めるだけ
5
物理的な補正項を加えるだけで補正することができる
パラメータなどを変えなおさず物理的な補正をおこなえる汎関数でなければ,
長い間使用されることはない
GGA交換汎関数の一般形と例
Ks
GGA交換汎関数の一般形
1
Ex  
2
d r



3
4/ 3
K [x ], x 
5

B88
4

4/ 3
ディラック のLDA
LDA
K
PW91
K
LDA
 K
 3 
 3

 4 
LDA
1
1/ 3
20
40
60
80
100
xs
図.各交換汎関数のKのx依存性
パーデューらのPBE GGA→revPBE
(k=0.804, m=0.21951→k=0.967, m=0.235)
ベッケのGGA (=0.0042)
B88
PBE
3
2
ほとんどのGGA交換汎関数は,
LDA交換を密度勾配近似
LDA以外は,対応する密度行列
がほとんどの場合ない
revPBE
x2
 2
1  6x sinh 1 x


K (rev)PBE  K LDA  1   
1   x2 ( 48 2 ) 2 / 3 





パーデュー・ワンの PW91 GGA
PW91
K
LDA  1  6x
 K





sinh 1 x  0.2743  0.1508 exp[  100 x2 ( 48 2 ) 2 / 3 x2 ( 48 2 ) 2 / 3 

1
4
2 4/3

1  6x sinh x  0.004 x ( 48 )

無変数交換汎関数
密度行列展開法 [J. W. Negele & D. Vautherin, PRC, 5, 1472, 1972]:
3 j1 (k r )
35 j3 (k r )  2  ( R )
r
r
3 2
P ( R  , R  ) 
 ( R ) 
(



k  ( R ))

3
k r
4
5
2
2
2k r
しだいに減衰する波動である
球ベッセル関数jnで密度行列を展開
kは対電子の平均相対運動量
運動エネルギー密度であらわす
k  5  3
図.密度展開係数の電子間距離への依存性
無変数交換汎関数 [T. Tsuneda & K. Hirao, PRB, 62, 15527, 2000]
ただし,運動エネルギー密度:
Ex
Pfree
1

2
 
7 x 2  5 / 3 3
27 3
]d r
 [1 
108 
5 
1
Ts 
2
occ



i
|  i |2 d 3r 
1
2
  d r.



3
GGA相関汎関数の一般形
密度汎関数法は,相関汎関数によって電子相関を簡単に取りこめる
相関汎関数はおおむね次の2種類に分けられる
コール・サルベッティ型(LYP,OP,Lapなど)
電子間の距離r12が短いときに相関カスプ
をもつ相関孔を与える関数fをかけた
相関波動関数より導かれた汎関数
これまでのCS型汎関数の導出においては,
基礎物理条件はまったく考慮されていない
図.CS型汎関数の相関孔
密度勾配展開型(PW91,PBEなど)
局所密度近似(LDA)に対する勾配近似の汎関数
基礎物理条件を満足するように定式を決めた後,さまざまな試行計算で
パラメータを決めて導かれている
GGA相関汎関数の例
1/ 3
パーデュー・ワンのLDA
ec
LDA
 3 
rs  

4



パラメータ数は6個(a,      )
値は基礎物理条件を満たすように決めた


1
  2 a  (1   1 rs ) log 1 
1/ 2
3/2
2 
2
(



a

r

r

r

r

1 s
2 s
3 s
4 s )

パラメータ数は(6+11=)17個
値は基礎物理条件を満たすように決めた
パーデュー・ワンのPW91 GGA
e cPW91  [ e c LDA (  )   H (  , s , t )]
2

 2 100 s
 2 t 2  At 4 
C2  C3rs  C4 rs
2
log 1 

C
H

C
C

c
1
c
0
1

t e
2
3
2
2 4
2
1
At
A
t



1  C5 rs  C6 rs  C7 rs




A
e

2
 2 c
LDA
()/  2
k F  (3  ) ,
2
1/ 3

1
2
1
1/ 2
 4k 
ks   F  ,
  
s
|  |
,
2k F 
t
|  |
.
2k s 
J. P. Perdew
パラメータが多いので,ポテンシャルエネルギー曲面に大量のにせの極小点
複雑な分子系の計算には,パラメータの少ない汎関数が適する
GGA相関汎関数の例
パーデューらのPBE GGA
e cPBE  [ e c LDA (  )  H ( rs ,  , t )]
   1  At '

H   3 log 1  t '2 
 ,
2
2 4 

1

'

'
At
A
t



2

 
e

A
LDA
c
(  ) /  3

1
1 ,
パラメータ数は(6+2=)8個
値は3つの物理条件を満たすように決めた
用いている物理条件の1つが間違っている
上,他の1つと矛盾するため形がいびつに
1
2
  [(1   ) 2 / 3  (1   ) 2 / 3 ].
リー・ヤン・パール(LYP)のGGA
パラメータ数は5個(q, a, b, c, d )
値は原子の相関エネルギーを与えるように決めた
LYP
c

a
1
1 2   c 1/3 
2/3 
5/3

   b CF   2tW  (tW    )  e

1  d  1/3 
9
2



tW

1  |   |2
 
 2 
8 

e
基礎物理条件を満たさないので,あらゆる計算系で
相関エネルギーが正しく与えられる保証はない
大規模分子と標準的な分子とでは,異なる基礎物理条件にしたがうことが多い
とくに大規模分子計算では,いろいろな基礎物理条件を満たす汎関数が必要
一変数(OP) 相関汎関数
コール・サルベッティ型相関波動関数
 [1   (r , r )]
  exp  r 1  (1  r / 2) (r )
   0
i
j
i j
2
2
12
12
近似
1. コーン・シャム近似:
密度行列は独立電子近似でもよく
あらわせる
2. ベッケの相関距離の定義:
相関孔は交換汎関数で決まる相関距離
を半径とする球の体積に比例する
3. 密度勾配近似:
電子相関は非常に近い2電子間のみ
に効く
図.OP汎関数の相関孔
OP相関汎関数 [Tsuneda, Suzumura & Hirao, JCP, 110, 10664, 1999.]

Ec OP     
  q

1/ 3
1.5214   0.5764
4
3
  1.1284  0.3183

1/ 3
K K 
  1 / 3 K    1 / 3 K 
2
d 3r
 q  2.3670 for B88 


 q  2.3789 for PBE 
ただし,交換汎関数項K:
Ex  
1
2




4/3
K d 3r
交換汎関数に対する基礎物理条件
表.各交換汎関数の基礎物理条件の達成度
条件
LDA
PW91
PBE
B88
PFTFW
負値条件
○
○
○
○
○
リーブ・オクスフォード束縛条件
○
○
○
×
○
三次均一座標スケーリング条件
○
○
○
○
○
二次不均一座標スケーリング条件
×
×
×
×
×
一次不均一座標スケーリング条件
×
×
×
×
×
局所密度近似極限条件
○
○
○
○
○
一般化勾配近似極限条件
‐
○?
○?
×
○?
自己相互作用必要条件
×
×
×
×
×
長距離漸近相互作用条件
×
×
×
△
×
無変数交換汎関数はもっとも基礎物理条件を満たす交換汎関数の1つ
[Tsuneda & Hirao, PRB, 62, 15527, 2000.]
相関汎関数に対する基礎物理条件
表.各相関汎関数の基礎物理条件の達成度
条件
LDA
PW91
PBE
LYP
OPB88
負値条件
○
×
○
×
○
三次均一座標スケーリング条件
×
×
○
×
○
二次不均一座標スケーリング条件
×
○
×
×
×
一次不均一座標スケーリング条件
×
○
×
×
×
局所密度近似極限
×
×
×
×
○
一般化勾配近似極限
‐
○
○
×
○
高密度勾配・低密度極限
×
○
○
×
○
自己相互作用必要条件
×
×
×
○
○
OP相関汎関数は基礎物理条件をもっとも満たす相関汎関数
[Tsuneda, Suzumura & Hirao, JCP, 110, 10664, 1999.]
交換エネルギーの座標スケーリング条件
表.交換エネルギーの座標スケーリング [OuYang & Levy, PRA, 42, 155, 1990.]
電子密度のスケーリング
座標スケーリング条件
電子密度依存性
(rx,ry,rz)→=rx,ry,rz)
E x [   ]  E x [  ]
E x  d 3rO (  4 / 3 )
(rx,ry,rz)→
x,y=r
x,ry,rz)
(rx,ry,rz)→x=rx,ry,rz)

  d rO ( 
lim  E x [   ]   const.  0
3
3/ 2
E
)
x
xy
lim 0 E x [   ]   const.  0
lim  E x [  x ]  const.  0
E x  d 3rO (  )
x
lim 0 E x [   ]  const.  0
xy

図.交換積分計算の計算時間のスケーリング
グラファイト板の計算時間
水クラスタの計算時間
線形アルカンの計算時間
はO(N)より大
はO(N)に近づく
はO(N)
相関エネルギーの座標スケーリング条件
表.相関エネルギーの座標スケーリング [Levy & Perdew, IJQC, 49, 539, 1994.]
電子密度のスケーリング
座標スケーリング条件
(rx,ry,rz)→=rx,ry,rz)
電子密度依存性

lim   Ec [   ]  const.  0
Ec  d 3rO (  )
lim 0 Ec [   ]   const.  0
Ec  d 3rO (  4 / 3 )
lim  Ec [   ]  0
(rx,ry,rz)→x,y=rx,ry,rz)
xy
lim  0 Ec [  
] 2  const.  0
lim   Ec [  x ]  const.  0
(rx,ry,rz)→x=rx,ry,rz)
lim  0 Ec [  x ]   0
xy

  d rO ( 
3
m
Ec
)
Ec   d 3rO(  )
Ec  d 3rO (1)
Ec  d 3rO (  n )


大規模分子計算に関する一考察
1次元大規模分子
(例:線形アルカン)
lim  Ec E x

 d 3rO (  1 / 3 )
2次元大規模分子
(例:グラファイト板)
lim   Ec E x

 d 3rO (  1 )
3次元大規模分子
(例:水クラスタ)
lim  Ec E x

 d 3rO (  1 )
密度勾配に関する極限
運動・交換・相関エネルギーの密度勾配展開
ゆっくりと変化する電子密度について(x=|∇|/rs4/3, x=|∇|/4/3)
2/3
x2
1
3
3
5/3
2
運動エネルギーTs    d r T  lim T  6

 O ( x4 )
x  0
2 
5
36
1/3
1
5
 3  
2
4 


交換エネルギーEx     d 3r4/3 K  lim K  3 
1
(
x
O
x
 )
 
2 2/3 
x  0
2 
 4   162(6 )

1 3
相関エネルギーEc    d r   H  lim H [  ]  c1[  ]  c2 [  ]x 2  O ( x 4 )
x 0
2
とくに,電子密度勾配ゼロの場合(=局所密度近似極限)では

 
3
T  6 2
5
2/3

1/ 3
 3 
, K  3

 4 
, lim  2 / 3 H [  ]  0, lim  2 / 3 H [  ]  const.  0
 
 0
これまでの交換エネルギーの密度勾配展開に関する疑い
交換エネルギーの密度勾配展開 [Kleinman & Lee, PRB, 37, 4634, 1988]
無変数交換汎関数は,xに関する2次の展開係数がちょうど2倍!!
↓
おそらく,原論文が間違っている!(∵従来から経験的に小さすぎると指摘)
自己相互作用に関する条件
1電子系の自己相互作用無誤差条件
自己相互作用誤差のない交換エネルギー条件(r1は1電子系の密度)
E x [ q1 ]  q 2 E x [ 1 ] (0  q  1)
自己相互作用誤差のない相関エネルギー条件
H [   q 1 ]  0
長距離(遠核)漸近相互作用条件
交換エネルギーの長距離漸近相互作用条件

E x  d 3r (r ) x (r )  lim  x  
vx 
r 
1
E x
 lim v x  
r 

r
1
2r
GGA汎関数形では
両立しえない
密度の減衰極限(r→∞)では,xs→∞なので,運動エネルギーは
ワイツゼッカー運動エネルギーに近づくはず
自己相互作用する
x2
W
電子の密度行列を
lim T  T 
x 
4
通して関係する
運動エネルギーを使った汎関数
メタGGA汎関数:(と∇2)の項を加えてGGA汎関数の近似を高めた汎関数
1
 
2

i
 i 
2
 
3

6 2
10
2/3
1  
 5 / 3 
72  
Lap系相関汎関数
[Proynov et al., ICQC Symp., 29, 61, 1995.]
最初のメタGGA汎関数
コール・サルベッティ型相関汎関数
パラメータ数は8個
PKZB交換相関汎関数
[Perdew et al., PRL, 82, 5179, 1999.]
運動エネルギー密度を使ってPBE汎関数の
近似を高めることを目的とした汎関数
パラメータ数は2個
Weizsacker運動エネルギー密度を使い,
自己相互作用補正する形をもつ
2

1 2
   O ( 4 )
6
VS98汎関数
[Van Voorhis & Scuseria, JCP, 109, 400, 1998.]
密度行列展開法にもとづき,
21個のパラメータを使って定式化
基礎物理条件を満たすように決めた
TPSS交換相関汎関数
[Tao et al., PRL, 91, 146401, 2003.]
PKZB汎関数に含まれる半経験的
パラメータをなくし,非経験的なメタGGA
汎関数を作ることを目的とした汎関数
半経験的パラメータはないが,
「基礎物理定数」を6個含む
メタGGA汎関数の計算結果
表.PKZB汎関数とTPSS汎関数によるベンチマークセットのテスト計算結果
[Tao et al., PRL, 91, 146401, 2003.]
TPSS汎関数は,水素結合や反応障壁の計算でもPBE汎関数を改善
[Kanai, Wang, Selloni, & Car, JCP, 125, 234104, 2006.]
ハートリー・フォック交換を混ぜた汎関数
混成汎関数:断熱結合の考え方のもと,交換汎関数に一定の割合でHF交換を混合した汎関数
非相互作用系(=0)を完全相互作用現実系(=1)に結合

1
E xc  d  E xc ,
0
E xc ,   Vee  
1
2

d 3rd 3r '
 (r )  (r ' )
r  r'
ただし,単なるHF交換と混ぜた汎関数
を指すわけではなく,HF交換とGGA交換
との間に厳密交換が存在しているという
経験的仮定がもとにあるもの
典型的な小分子計算では,きわめて正確な化学物性値を与える
物理的意味がとぼしいうえ,大規模分子などに関して問題が報告されている
B3LYP汎関数 [Becke, JCP, 98, 5648, 1993.]
量子化学計算で最も利用される汎関数(パラメータ数は3個)



B3LYP
LDA
E xc
 E xc
 a 1 E xHF  E xLDA  a 2  E xB88  a 3 E cLYP  E cLDA

PBE0汎関数 [Adamo & Barone, JCP, 108, 664, 1998.]
PBE汎関数をパラメータを使わずに拡張することを目的とした汎関数
1
PBE0
PBE
E xc
 E xc
 E xHF  E xPBE
4
HSE汎関数 [Heyd, Scuseria, Ernzerhof, JCP, 118, 8207, 2003.]
PBE交換汎関数にHF交換の短距離部分のみを混合する固体バンド計算向け汎関数


ExcHSE  aExcSR‐HF  1  a  ExPBE  EcPBE
A. D. Becke
大量のパラメータを使った汎関数
半経験的汎関数:大量の半経験的パラメータを使っても
物性値を高精度に与えることを目的とした汎関数
ただし,無次元パラメータであるxやzを使ってあらわされており,
汎関数形はこれまでの半経験的汎関数の拡張もしくは改良
Exc  
x 
1
3
d
rExc[ ] f [x , z ]


2

4/3
 TF 
, z  5/3  5/3  CF


表.半経験的汎関数のパラメータ数
種類
密度以外の変数
例
パラメータ数
B97
x
13
HCTH
x
15
B97系列
x , ExHF, LC
B97‐1, B97‐D, B97など
13以上
Mx系列
x , z, ExHF, LC
M06‐2x, M06‐L, M08, M11など
22以上
半経験的汎関数の計算例
表.半経験的汎関数によるベンチマークセットのテスト計算結果
[Peverati & Truhlar, JPC Lett., 2, 2810, 2011.]
基本的な反応の計算
図.反応障壁エネルギーと反応エンタルピー計算の平均絶対誤差
化学反応のベンチマーク計算(78反応)
反応障壁
MAE of reaction barrier
energies(kcal/mol)
反応エンタルピー
10
Hydrogen transfer reactions
Nonhydrogen-transfer reactions
8
反応障壁エネルギー
6
[Song, Hirosawa, Tsuneda, & Hirao, JCP, 126, 154105, 2007; Vydrov & Scuseria, JCP, 125, 234109, 2006.]
4
2
0
BOP
PBE
PBE0
B3LYP M05-2X LC-BOPLC-ωPBE
Hydrogen transfer reactions
Nonhydrogen transfer reactions
反応エンタルピー
MAE of reaction
enthalpies
(kcal/mol)
8
6
4
B3LYPは反応障壁を低く与えすぎる
2
0
BOP
B3LYP
LC-BOP
長鎖分子の単結合開裂反応
誤差 (0K).
図.直鎖アルカンのisodesmic反応の
反応エンタルピーの鎖長への依存性
[Song, Tsuneda, Sato & Hirao, Org. Lett. 12, 1440, 2010.]
単結合の解離であるが,
B3LYPはもちろん,半経験的
汎関数でも大きく与えすぎる
半経験的汎関数(M05‐2x, M06‐2x, BMK)はさらに,
分子の長さについて振動する
結果を与える
異性化反応
[Song, Tsuneda, Sato & Hirao, TCA (Imamura Festschrift), 130, 851, 2011.] 原子置換反応 水素,メチル基
環化反応
環収縮反応
移動
M06‐2x
分岐化反応
M06‐2xはおおむね高精度
この反応はパラメータを
決めた試行系に近い
LC汎関数は,環化反応も分岐化反応
以外は高精度に与える
分散力汎関数とくみあわせると,分岐化
反応も高精度になる
B3LYPは,どの反応の反応エンタルピー
も高精度に与えられない
B3LYP
LC‐BOP
LC‐BOP+LRD
図.反応エン
タルピー計算
値の実験値
からの誤差
縮合反応
[Singh, Tsuneda & Hirao, TCA (Nagase Festschrift) 130, 153, 2011.] Aldol反応
α‐Aminoxylation反応
縮合反応においてB3LYPは
定量的なエンタルピーを
与えない [Wheeler et al., JPCA, 113, 10376, 2009.]
Isogyric反応
LC‐DFT計算は,縮合反応
においても同等に高精度
な結果を与える
Mannich反応
表.縮合反応エンタルピーの平均絶対誤差(kcal/mol)
Reaction
Aldol
Mannich
α-Aminoxylation
Isogyric
Total
LC-BOP LC-ωPBE CAM-B3LYP B3LYP BMK M06-2x
1.7
1.1
2.8
3.7
2.2
1.9
2.9
1.5
4.8
2.8
3.0
1.9
1.4
2.0
2.2
7.6
6.3
2.4
1.9
5.0
3.4
0.9
3.8
2.3
2.6
1.7
1.3
3.9
4.0
2.6
Diels‐Alder反応
a.
b.
a.
b.
I
R
( )n
a.
b.
R
II R = H
III R = Me
R
( )n
Diels‐Alder反応においても,B3LYPは定量的な
エンタルピーを与えない [Pieniazek et al., Angew. Chem. Int. Ed. 47, 7746, 2008.]
B3LYPの結果はかなり悪い
半経験的汎関数のM06‐2xとBMKは高精度に与える
LC汎関数(後述)も高精度な結果を与える
-20.0 -10.0
( )n
IV n = 2
V n=1
[Singh, Tsuneda, Song & Hirao, J. Comput. Chem., in press.] 図. 反応エンタルピーの誤差(kcal/mol)
0.0
10.0 20.0 30.0
-20.0 -10.0
LC-ωPBE
Ia
LC-BOP
IIa
IIIa LCgau-BOP
IVa
Va
LC-ωPBE
BOP
BOP
B3LYP
B3LYP
B97-D
B97-D
BMK
BMK
M06-2x
M06-2x
LC-BOP
LCgau-BOP
0.0
10.0 20.0 30.0
Ib
IIb
IIIb
IVb
Vb
交換・相関汎関数の妥当性
基準
LDA・GGA
メタGGA
混成
半経験的
物理的な正当性
○
○
△
×
小分子の物性の定量性
×
△
○
○
大規模分子の物性の定量性
×
×
×
△
半経験的パラメータの少なさ
○
△
△
×
人為的な付加項の有無
○
△
△
×
操作なしの物理的補正の可否
○
○
△
×
どこで計算時間がかかるのか?
コーン・シャム計算の律速プロセス
1
クーロン積分
最近のアルゴリズムの進展により,計算時間は電子数Nに比例
2
交換積分
ハートリー・フォック交換積分は混成汎関数や長距離補正などに含まれる
Nの3乗のオーダーの計算時間が必要で,線形スケーリング化してもNの1.5乗
3
交換・相関汎関数の数値積分
効かない空間のカットやスクリーニングだけで,計算時間は電子数Nに比例
4
フォック行列対角化
ハートリー・フォック法と同じ
数値積分のグリッド計算
数値積分における系の原子単位への分けかた
[Becke, JCP, 88, 2547, 1988; Stratmann, Scuseria & Frisch, CPL, 257, 213, 1996.]
3次元積分の数値計算
rig g
i
I   d r F (r )
3
rjg
Rij
j

atoms grid
 
k
g
pk (rg ) F (rg )
g
ベッケのファジーセル法
共焦楕円座標: ij  ( rig  r jg ) / Rij
奇パリティの3次多項式
 h (1)  1, h ( 1)  1, 
3
1


h ( ij )  ij  ij3
h
h
'
(
1
)

0
,
'
(

1
)

0
2
2


原子k中のグリッド点rgの規格化重率
pk (rg )  wk (rg ) /
 w (r )
j
g
j
wk (rg ) 
atoms

s ( ij ) 
i k
g ( ij )  h{h[ h ( ij )]}
atoms
 
i k
3
1  g ( ij )
2

スクーゼリアらの方法
セル関数gの再定義
 1 ( ij   a )
g ( ij )  z ( ij ; a ) (  a  ij   a )
1 ( ij  a )
 z ( ij  a )  1 , z ( ij   a )  1, 


 z ' ( ij  a )  0 , z ' ( ij   a )  0 


新しい多項式(±aで導関数がゼロ)
1
z ( ij ; a ) 
35( ij / a )  35( ij / a ) 3
16
 21( ij / a ) 5  5( ij / a ) 7


ij=±aで2次,
3次の導関数が
ゼロになる関数
a=0.64が経験的
な最適値
基底関数やグリッド数のスクリーニング
汎関数の数値積分計算のプロセスと線形スケーリング手法
1
グリッド計算においてスクリーニング
各グリッドで重率ゼロの原子を計算から除外
2
ガウス型基底関数の減衰の利用
グリッド点ごとに基底関数値を考え,数値的に重要なものだけ計算
ある原子の全基底関数の与えられたグリッド点での値がしきい値より小さい
⇒その原子の重率をゼロとして除外
3
グリッド圧縮
空間的に近いグリッド点の座標をそれぞれ小バッチにまとめ,
連続したメモリの番地にわりあて
圧縮のとき,無視できる重率をもつグリッド点は除外
数値積分の計算オーダー
図.交換・相関汎関数計算の計算時間の基底関数数への依存性
グラファイト板(2次元)
ダイヤモンド塊(3次元)
汎関数の数値計算の線形スケーリング化は比較的容易に達成
[R. E. Stratmann, G. E. Scuseria & M. J. Frisch, CPL, 257, 213, 1996.]
6. 汎関数に対する補正
6.1. 長距離補正
長距離補正(LC)とは
交換汎関数の長距離相互作用誤差の補正
[Iikura, Tsuneda, Yanai and Hirao, JCP, 115, 3540, 2001; Savin, in ‘Recent Developments and Applications of Modern Density Functional Theory’ (Elsevier, 1996)]
1 1  erf(r12 ) erf(r12 )


r12
r12
r12
短距離部分には一般的な交換汎関数をそのまま使用
( a   /(2k ), k  (9 K  )1/ 2 1/3 )
1
8
4/3
(1

K

a



2  
3
1
1
)  (2a  4a 3 )exp(
)  3a  4a 3 ])d 3R
[  erf(
2
2a
4a
Ex sr  
長距離部分はハートリー・フォック交換積分で補正
Ex
lr
erf(  r12 )
1 occ occ
    d 3r1d 3r2 i * (r1 ) j * (r2 )
 j (r1 ) i (r2 )d 3r1d 3r2
r12
2  i j
長距離補正をもとに,さまざまな汎関数が開発されてきた
CAM‐B3LYP [T. Yanai, D.P. Tew, & N.C. Handy, CPL, 91, 551 (2004).]
LC‐PBE [O. A. Vydrov, J. Heyd, A. Krukau, & G. E. Scuseria, JCP, 125, 074106 (2006).]
LCgau‐BOP [J.‐W. Song, S. Tokura, T. Sato, M. A. Watson, & K. Hirao, JCP, 127, 154109 (2007).]
MCY [A. J. Cohen, P. Mori‐Sanchez, & W. Yang, JCP, 126, 191109 (2007).]
BNL [E. Livshits & R. Baer, PCCP, 9, 2937 (2007).]
B97 [J.‐D. Chai & M. Head‐Gordon, JCP, 128, 084106 (2008).]
長距離補正が解決・改善した問題
分散力結合など弱い結合
水素結合錯体
双極子‐双極子
錯体
Excited state calculations
光化学反応
長距離補正は,特に
大規模分子でみられ
るDFT 計算の問題を
解決あるいは劇的に
改善
双極子‐誘起
双極子錯体
リュードベリ励起
大規模分子の光化学反応
光触媒
光合成
スタッキング錯体
分散力錯体
電荷移動
長距離補正
(LC) 光学応答物性
軌道エネルギー
化学反応
固体バンド
クラスタ
長鎖ポリエン
分子軌道
エネルギー
反応障壁
光誘起相転移
水クラスタ
アニオン
TDKS法の問題
ethylene‐tetrafluoroethylene
の電子移動励起エネルギーを
著しく小さく与える
Zn‐bacteriochlorin‐bacteriochlorinの電子移動励起を
著しく低く与える
[Dreuw & Head‐Gordon, JACS, 126, 4007, 2004.]
[Dreuw, Weisman & Head‐
Gordon, JCP, 119, 2943, 2003.]
リュードベリ励起エネルギーを著しく小さく与える[Tozer & Handy, JCP, 109, 10180, 1998.]
振動子強度を著しく小さく与える [van Gisbergen, Kootstra, Schipper, Gritsenko, Snijders, & Baerends, PRA 57, 2556, 1998.]
電子スペクトル計算
図.リュードベリ励起エネルギーのMAD
図.価電子+リュードベリ励起エネルギーのMAD
図.振動子強度
SAC‐CI の結果を100%とする
LC‐TDKS法には,リュードベリ励起も
振動子強度も高精度に与える
[Tawada, Tsuneda, Yanagisawa, Yanai & Hirao, JCP, 120, 8425, 2004.] 1 1 + 1
u
u
N2
CO
1B
2
1
1E
1A 1B 1B
3u B1u
1u
1
2
H2CO
C2H4
C6H6
電子移動励起
2.0
LC-BOP
AC-BOP
1.5
B3LYP
SAC-CI
1.0
図.ethylene‐
tetrafluoroethyleneの
電子移動エネルギー
⇒問題解決
-1/R
0.5
0.0
5
6
7
8
9
10
図.Zn‐bacteriochlorin‐
bacteriochlorinの低励起
⇒問題解決
Intramolecule distance R ( Å )
表.解離極限でのCTエネルギー
Exp.
ECT (R=∞)
12.5
LC‐TDBOP
12.43
Excitation Energy (eV)
電子移動エネルギー
計算
HF
4.5
TDB3LYP
7.42
SAC‐CI
14.43
4
CT (ZnBC→BC)
Q (ZnBC)
Q (BC)
Q (ZnBC)
Q (BC)
3.5
LC‐TDBOP
3
2.5
2
1.5
5.5
6
6.5
7
7.5
8
Distance (Å)
E x c it a t io n E n e r g y ( e V )
 CT(R) -  CT(5.0 Å ) (eV)
BOP
Q (BC)
Q (BC)
4.5
4
TDB3LYP
3.5
Q (ZnBC)
CT (BC→ZnBC)
3
CT (ZnBC→BC)
2.5
2
1.5
5.5
[Tawada, Tsuneda, Yanagisawa, Yanai & Hirao, JCP, 120, 8425, 2004.] 6
6.5
7
Dis tanc e ( Å)
7.5
8
光誘起相転移
TTF‐CA結晶の光誘起相転移のメカニズムの解明
[Nakatsuka, Tsuneda, Sato, and Hirao, JCTC, 7, 2233, 2011.]
図.TTF‐CAの基底状態と第1励起状態
のポテンシャルエネルギー曲面
S1
E
S0
G’
G
TTF‐CAの光誘起相転移
において,滑り振動が
重要な役割をはたすこと
をはじめて提案した
酸化チタン光触媒反応
TiO2光触媒反応の初期過程
[Suzuki, Tsuneda & Hirao, JCP, 136, 024706, 2012.]
図.TiO2表面モデル
の励起スペクトル計算
LC‐TDDFTでなければ,TiO2結晶自体のスペクトル
の形状すら与えられない
LC‐TDDFTにより,TiO2光触媒の初期過程は吸着子
からの直接電子移動であることを提案した
図.フェノール吸着TiO2表面モデル
の励起スペクトル計算
図.TiO2表面の
UV-Visスペクトル
LUMO
光合成の初期電子移動
紅色細菌の光合成初期過程の解明 [Suzuki, Tsuneda and Hirao, to be submitted.]
LUMO+1
P→ BL
HOMO
電荷移動
図.紅色細菌の反応中心
のUV-Visスペクトル
HOMO‐2
[Hara et al., J. Biochim
Biophys Acta, 1363, 1998.]
p‐p bonding
LUMO
Non‐bonding
HOMO
BL→HL
Non‐bonding
LUMO+1
S1
+
電子ポンピング
Oscillator strength
図.反応中心の吸収スペクトル
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
LC-BOP
B3LYP
LUMO HL→MQ
HOMO‐5
HOMO
S1
LUMO+5
S2
内部転換
200
400
600
800
1000
Wavelength (nm)
LC‐TDKS法により,スペクトルを正しく与え,
初期電子移動過程を提案することに成功
HOMO‐14B
MQ→Fe →UQ
LUMO+6B
UQへのプロトン付加による過程
長鎖ポリエンの光学応答
縦分極率 zz
/unit cell
H
図.長鎖ポリエンの光学応答
の鎖の長さへの依存性
[Kamiya, Sekino, Tsuneda, & Hirao, JCP, 122, 234111, 2005.]
NH2
O 2N
n
‐nitro,amino‐
zzn
polyacetylene
zzn
H
縦双極子モーメント 
/unit cell
ユニットセルの数 n
zzz/n
z/n
ユニットセルの数 n
縦超分極率 zzz
/unit cell
LC‐DFTは,線形・非線形
光学応答物性の発散の
問題も解決した
ユニットセルの数 n
ジラジカルの超分極率
図.p-quinodimethaneモデルの超分極率
(x102 a.u.)のジラジカル性y依存性
[Kishi, Bonness, Yoneda, Takahashi, Nakano, Botek, Champagne, Kubo, Kamada, Ohta, & Tsuneda, JCP, 132, 094107, 2010.]
LC‐DFTはジラジカルの超分極率,2次超分極率を
きわめて高精度に与える
表.1,4-bis-imidazol-2-ylidenecyclohexa-2,5-diene
(BI2Y)の2次超分極率 (x102 a.u.)
方法
6‐31G
6‐31G*+p
UHF
1736
2002
UMP2
9387
9962
UCCSD
4474
‐
UCCSD(T)
5244
‐
nHOMO  nLUMO
2T
,
y  1
T

2
1 T 2
UBLYP
‐129
‐298
UB3LYP
‐377
‐472
閉殻→y=0, ジラジカル→y=1
LC‐UBLYP
4310
6019
何が原因だったか?
時間依存応答コーン・シャム(TDKS)方程式
 A B   Xi  a 
 1 0   Xi  a 



 X 

 X 
B
A
0
1


  a i 

  a i 
 Aia , jb   ij ab ( a   i )  Kia , jb

占有・仮想軌道の軌道エネルギー
 Bia , jb  Kia ,bj
行列K:
を使って計算
K ia , jb
1
   d 3r1 d 3r2i* (r1 )a (r1 )  j (r2 )b* (r2 )
r12
交換・相関積分核
   d r1 d r  (r1 )a (r1 ) f xc (r1 , r2 ) j (r2 ) (r2 )
3
3
*
2 i
*
b
fxc  r1, r2  
Vxc  r1 
  r2 
Coupled コーン・シャム (CPKS)方程式
フォック演算子の1次導関数
均一電場の摂動なら,
AU '    F '
Aia , jb   ij ab ( a   i )  Kia , jb
Kia , jb
 F 'ia   d 3ri*  r  ra  r 
占有・仮想軌道の軌道エネルギー
1
   d r1d r  (r1 )a (r1 )  j (r2 )b* (r2 )
r12
3
3
*
2 i
   d 3r1d 3r2i* (r1 )a (r1 ) f xc (r1 , r2 ) j (r2 )b* (r2 )
交換・相関積分核
6.2. 自己相互作用補正
自己相互作用誤差
自己相互作用誤差(SIE)とは?
本来相殺されるはずのクーロン自己相互作用と交換・相関自己相互作用が,
交換・相関汎関数を使っているために残ってしまうための誤差
i番目の分子軌道 について,
1 i (r1 )i (r2 ) 3 3
d r1d r2  Exc[i ]  0

r12
2
自己相互作用誤差はコーン・シャム法の化学反応障壁過小評価の原因?
SIEが遷移状態エネルギーを下げるのは,遷移状態が分数占有数状態
をとるからという説 [Y. Zhang and W. Yang, JCP, 109, 2604, 1998.]
一電子系電子密度r1について,SIEのない交換汎関数ならば,
Ex [q1 ]  q 2 Ex [ 1 ]
(0  q  1)
だが,これまでのすべての交換汎関数は,
Ex [q 1 ]  q 2 Ex [ 1 ]
(0  q  1)
分数占有数状態をとる遷移状態のエネルギーを低く与える
自己相互作用補正(SIC)
はじめての自己相互作用補正はハートリー法の論文
[Hartree, Math. Proc. Camb. Phil. Soc. 24, 1928.]
1電子分のクーロン相互作用を差し引く方法
[Fermi & Amaldi, Accad. Ital. Rome 6, 117, 1934.]
VJ
FA
1 n ˆ

 2 1    J j  
n j

汎関数の自己相互作用誤差部分を差し引く方法
[Perdew & Zunger, PRB, 23, 5048, 1981.]
E  E 
n

i
1

2

 i ( r1 )  i ( r2 )
r1 2

d 3 r d 3 r2  E x c [  i ] 

SCFにおける軌道のユニタリ変換のため,軌道の局所化が必要
軌道の局在化にもとづく自己相互作用補正
[Johnson et al., Chem. Phys. Lett. 221, 100, 1994.]
最適化有効ポテンシャル法にもとづく方法
[Krieger, Li, & Iafrate, PRA, 46, 5453, 1992.]
KLI近似した最適化有効ポテンシャル(OEP)法にもとづき,
汎関数を軌道依存にしたのち,自己相互作用を取りのぞく方法
J. P. Perdew
古典SICによる計算結果
表.酸化物遷移金属のバンドギャップ計算値 (eV)
[藤原毅夫,固体電子構造(朝倉書店)]
SIC‐LDAa
VO
0.0
0.0
CrO
0.0
1.01
MnO
0.8
3.98
6.5
3.5
FeO
0.0
3.07
6.1
3.2
CrO
0.0
2.81
5.3
3.2
2.4
NiO
0.2
2.54
5.6
3.1
4.3, 4.0
CuO
0.0
1.43
1.9
1.37
a
SIC‐LDAb
LDA+Uc
実験値
LDA
0.0
Svane & Gunnarsson, PRL, 65, 1148, 1990.
b Arai & Fujiwara, PRB, 51, 1477, 1995.
c Anisimov, Zaanen, & Andersen, PRB, 44, 943, 1991.
3.6 – 3.8
自己相互作用密度行列にもとづく関係
[Tsuneda, Kamiya, Morinaga, & Hirao, JCP, 114, 6505, 2001.]
自己相互作用密度行列
にもとづく物理関係
P  r1 , r2    1/ 2  r1  1/ 2  r2 
r 
E x  r  

  W
1
  r 
2r
自己相互作用する電子
に対する1次密度行列

Ec  0
自己相互作用密度行列に対し,
1. 運動エネルギー密度はワイツゼッカー運動エネルギー密度
     P  r1 , r2  r  r
2

1
2
1  


 8
2
 W
2. 交換エネルギー密度は遠核漸近相互作用条件を満たす
1 3 P  r, r '
1
r 

    r 
r     d r '
2
r r'
2r
2
E x
3. 相関エネルギー密度は平行スピン間についてゼロである
P2  r1 , r2  

2
1
  r1    r2   P1  r1 , r2    0  E c  0

2
運動・交換・相関エネルギー間の関係
[Tsuneda, Kamiya, Morinaga & Hirao, JCP, 114, 6505, 2001.]
自由電子領域
自己相互作用領域
電子密度がゆるやかに
横断的関係がなりたたない
変化する領域において,
領域では,自己相互作用
運動‐交換‐相関エネルギー間
密度行列にもとづくまったく
には横断的な物理関係がある
異なる物理関係がある
運動
交換
相関
自己相互作用密度行列
分子のなかの電子運動の3つの形態
自己相互作用のみの電子の運動エネルギー密度がワイツゼッカー運動エネルギー密度
に等しいことを利用すると,分子のなかの電子運動は3つの領域に分けられる
自由電子領域
電子が遷移金属の自由電子のように運動する領域
電子は平面波のような軌道(波動関数)で運動し,
ポテンシャルは電子密度であらわせる
自己相互作用領域
電子が水素原子軌道のような軌道で運動する領域
電子は自分自身と,同じ軌道にある反対スピンの
電子としか相互作用しない
長距離相互作用領域
遠く離れた電子と長距離相互作用しながら運動する
領域
図.ホルムアルデヒドのなかの
比W/total のプロット
白い領域でこの比は1になる
領域的な自己相互作用補正
領域的自己相互作用補正(RSIC)は,自己相互作用領域にある電子に対してのみ,
交換エネルギー密度を交換自己相互作用エネルギー密度に置きかえる補正
[Tsuneda, Kamiya, & Hirao, J. Comput. Chem. 24, 1592, 2003.]
交換自己相互作用エネルギー密度
水素様原子の交換エネルギー密度 → RSIC法
 xSI  r   
1
1  1   r  e 2 r 
2r


2 
擬スペクトル交換エネルギー密度 → 擬スペクトル(PS)RSIC法
[Nakata, Tsuneda & Hirao, JPCA 114, 8521, 2010.]
 r   r 
1
  r     P P *  r      r    2  2 dr2
4 
r2  r
*
自己相互作用領域
SI
x
自己相互作用補正交換エネルギー密度
DFT
SI
 xSIC
  r   1  f   x  r   f  x  r 
分割関数f.
自己相互作用の大きさと反応障壁
H He Li Be B
C
N
Atoms
O F Ne Na Mg Al Si
P
S Cl Ar
0
図.原子の自己相互作用領域にある電子の
交換エネルギー
Exchange energies (hartree)
-0.5
-1
a = 0.99
-1.5
自己相互作用領域の交換エネルギーは,
原子が重くなるにつれて明らかに減る
a = 0.95
-2
a = 0.90
-2.5
-3
-3.5
表.反応障壁エネルギー計算値(a = 0.95, kcal/mol)
反応
BOP
B3LYP
RSIC‐BOP
実験値
H2+OH→OH+H2O
‐2.0
4.3
8.0
8.6
NH3+OH→NH2+H2O
0.7
‐3.2
4.1
1.4
CHF3+O→CF3+OH
0.8
6.0
11.5
11.5 PH3+H→PH2+H2
‐0.6
2.6
3.6
3.2
CH3Br+O→
CH2Br+OH
‐2.9
0.3
4.5
8.3
RSIC法は,いくつかの反応障壁
を改善するが,ほかの場合では
著しく悪くする
SIEは少なくとも反応障壁を
低く与える唯一の原因ではない
反応障壁はなぜ低く与えられるのか?
図.化学反応ベンチマークセット(78反応)の反応障壁計算値の平均絶対誤差
MAE(kcal/mol)
10
Hydrogen transfer reactions
Nonhydrogen‐transfer reactions
8
6
4
2
0
BOP
PBE
PBE0
LCは明らかに,低く与えられた
反応障壁を明らかに改善
[Song, Hirosawa, Tsuneda, & Hirao, JCP, 126, 154105, 2007; Vydrov & Scuseria, JCP, 125, 234109, 2006.]
B3LYP M05-2X LC-BOPLC-ωPBE
従来のDFT計算が反応障壁を低く与えてきた原因は,
言われてきた自己相互作用誤差ではなく,
交換汎関数の長距離相互作用の不足にある!
自己相互作用誤差が大きいのは内殻電子
図.CO2, N2, HF およびNeの
内殻イオン化エネルギーの平均絶対誤差
図.時間依存コーン・シャム法による
C2H2, C2H4, N2, CH2O, NH3, H2O, HFおよびNeの
内殻励起エネルギーの平均絶対誤差
0
平均絶対誤差 (eV)
5
10
15
20
平均絶対誤差 (eV)
0
2
4
6
8 10
25
BOP
BOP
B3LYP
B3LYP
LC‐BOP
LC‐BOP
LC‐PSRSIC‐BOP
LC‐PSRSIC‐BOP
PSRSICは,LC‐DFT計算の内殻イオン化エネルギーの精度をたもったまま,
内殻励起エネルギーを大きく改善
振動子強度への影響
表.TDKSによるC2H4分子の内殻,価電子,
リュードベリ励起の振動子強度(×10–2)
Transition
C1s → *
C1s → 3s
→ *
→ s
図.TDKSによるCO2 とN2の吸収スペクトル計算
値
CO2 (Carbon)
LC‐PSRSIC‐
BOP B3LYP LC‐BOP
BOP
5.64 8.19
0.00 0.60
20.87 27.82
7.10 8.00
6.64
0.53
34.47
9.29
6.98
0.53
35.02
9.07
自己相互作用誤差は,LC‐DFT計算の
振動子強度の値にほとんど影響していない
LC‐PSRSIC‐DFTは,内殻励起スペクトルを
定量的に与えることができる
C1s → *
Exp.
C1s → 3s
C1s → 3p
N2 (Nitrogen)
N1s → *
Exp.
N1s → 3p
288 290 292 294 296 298 399 401 403 405 407 409
LC‐PSRSIC‐BOP
LC‐PSRSIC‐BOP
288 290 292 294 296 298 399 401 403 405 407 409
B3LYP
B3LYP
288 290 292 294 296 298 399 401 403 405 407 409
[eV]
[eV]
内殻以外の励起エネルギーへの影響
0
平均絶対誤差 (eV)
0.2 0.4 0.6 0.8 1
1.2 1.4
BOP
図.価電子およびリュードベリ励起
エネルギー計算値の平均絶対誤差
PSRSICは,LC‐TDKSの高精度な価電
子,リュードベリ励起エネルギーに影
響を与えない
B3LYP
Valence excitations
Rydberg excitations
LC‐BOP
PSRSICは,LC‐TDKSの高精度な
電子移動エネルギーも保持
価電子励起エネルギーの問題は,
純粋に長距離相互作用誤差に起因
LC‐PSRSIC‐BOP
表.ethylene‐tetrafluoroethylene錯体の解離極限での
電子移動エネルギーとc1 係数値(eV)
CT  R   c0 
c1
R
H
H
C
BOP
B3LYP
LC‐BOP LC‐PSRSIC‐BOP 実験値
H
H
R
F
R=∞ (c0)
5.85
8.07
12.97
13.09
12.5
c1 (a.u.)
0.08
0.28
1.06
1.06
≥1 C
C
F
F
C
F
6.3. ファンデルワールス
(分散力)補正
結合の種類
結合
化学結合
分子間力
疎水効果
種類
おもな安定化要因
強さの程度
(kcal/mol)
例
共有結合
軌道混成によるTの減少
50 ~ 200
H‐H
イオン結合
電荷間静電相互作用
10 ~ 100
Na+Cl‐
金属結合
擬縮退効果などによるTの減少
1 ~ 20
‐Fe‐Fe‐
水素結合
電子移動励起配置の混合
1 ~ 10
(H2O)2
イオン‐双極子
電荷‐分極の静電相互作用
1 ~ 15
Na+H2O
イオン‐誘起双極子
電荷‐励起分極の〃
0.1 ~ 1
Na+C6H6
分散力
励起分極‐励起分極の〃
0.1 ~ 10
Ar‐Ar
双極子‐双極子
分極‐分極の〃
0.1 ~ 4
SO2‐SO2
双極子‐誘起双極子
分極‐励起分極の〃
0.1 ~ 1
HClC6H6
疎水結合
エントロピーによる安定化
< 3
タンパク質
間
黒字はHF法やKS法で与えられる結合,赤字は電子相関による結合,
青字は配置間相互作用だがHF法やKS法で与えられる結合(ブリュアン定理)
分子間力とは
分子間相互作用は長距離相互作用なので外場ポテンシャルVとしてあらわせる
分子間力とポテンシャルの関係性
分子間相互作用ポテンシャル
イオン-双極子相互作用
V 
 A qB
r
2

dV
F 
dr
イオン-誘起双極子(ind=E)
qB
V 
+
-+
- +
- +
-+
双極子-誘起双極子相互作用
双極子-双極子相互作用
A B
1 qA2  B
V 
4
2 RAB

V 
3
RAB
分散力相互作用
(ロンドン相互作用)
ファンデルワールス相互作用

V 
3  A B I A I B
6
2 RAB
IA  IB
A2  B
6
RAB

-+
- +
- +
-+
Iは第1イオン化エネルギー
αは分極率
GGA汎関数による分散力計算
図.Ar2の分散力ポテンシャルエネルギー曲線計算
Counterpoise法によるBSSE補正 [Kamiya, Tsuneda & Hirao, JCP, 117, 6010, 2002.]
解離ポテンシャルは,もちいる
交換汎関数によって大きく異なる
DFTが分散力ポテンシャルを与えられない
原因が交換汎関数に起因することを示す
LYP相関汎関数を使った場合も,
ポテンシャル曲線が著しく違う
Ar2
相関汎関数の種類によっても,
ポテンシャル曲線が大きく影響される
汎関数に分散力を補正する方法
交換・相関汎関数の分散力補正法
1
古典的ポテンシャルによる補正
ロンドン分散力ポテンシャルに半経験的パラメータをかけて組みあわせる単純な補正
2
摂動法と組みあわせる方法
MP2法と組みあわせることで,その摂動エネルギーに含まれる分散力エネルギーを
取りこむ補正法
3
線形応答理論にもとづく方法
断熱接続・揺動散逸定理(AC/FDT)ともよばれる方法で,TDKSで求めた応答関数で
分散力を含む相関エネルギーを与える方法
4
ファンデルワールス(分散力)汎関数
AC/FDTの分散力を密度汎関数であらわして組みあわせる補正法
古典的ポテンシャルによる補正
ロンドンの古典分散力ポテンシャルつき半経験的汎関数
DFT‐D汎関数 [Antony & Grimme, PCCP, 8, 5287, 2006.]
半経験的汎関数(たとえばB97)に古典分散力をたしあわせ,パラメータs6をきめた汎関数
M06‐2x汎関数 [Zhao & Truhlar, JPC, 125, 194101, 2006.]
Edisp
C6AB
  s6  6 f damp ( R AB )
A  B R AB
図.Ar‐Neの分散力ポテンシャルエネルギー曲線計算
[Pernal, Podeszwa, Patkowski, & Szalewicz, PRL, 103, 263201, 2009.]
交換孔双極子モーメント(XDM)法
[Becke & Johnson, JCP, 123, 154101 & 154105, 2005.]
C6係数を半経験的にではなく計算で
きめる
C6AB 
d x2
A
d x2
d x2
A
A
d x2
B
 A B
 B  d x2
B
A
   d 3r  r d x2  r 

 1

3


d x  r   
d




r
r
r
r
'
'
'
'
 j   i j   r
ij  
i 

r


 

摂動法と組みあわせる方法
図.Ar2の解離ポテンシャル曲線
DFT対称適合摂動法(DFT‐SAPT)
[Williams & Chabalowski, JPCA, 105, 646, 2001.]
化学結合していない構成要素間の電子相関のみ
摂動法で取りこむ方法
部分系をはっきり定義できる系についてはベストな
結果を与える
分子内分散力は与えられない
計算時間もMP2法ほどではないがかかる
表.S22ベンチマークセットに関する計算誤差(kcal/mol)
二重混成(double‐hybrid)汎関数
[Schwabe & Grimme, PCCP, 9, 3397, 2007.]
混成汎関数の相関汎関数にMP2相関
エネルギーを混成させる方法
中距離電子相関を取りこめる
分散力を全て取り込んでいるわけではない
ので,分散力結合計算には不向き
線形応答理論にもとづく方法
断熱接続・揺動散逸定理(AC/FDT)法
[Langreth & Perdew, Solid State Commun., 17, 1425, 1975.]
TDKS法の解である応答関数を使って計算する電子相関

(
,
';
)
(
,
';
)
du

r
r
iu

r
r
iu




0
0

0
 交換・相関積分核


  (r , r ';  )   0 (r , r ';  )   d 3r1d 3r2   0 (r , r1 ,  )   f xc (r1 , r2 ,  )    (r2 , r ',  )
 r12

1
EC [ n ]    d   d 3rd 3r '
1  1
r12  2

1電子SCF方程式計算の枠内で厳密であり,長距離相関として分散力を含む
ただし,計算時間がかかりすぎる
図.長距離補正LDA(RSH)+長距離AC/FDT相関によるポテンシャルエネルギー曲線計算
[Toulouse, Gerber, Jansen, Savin, and Angyan, PRL, 102, 096404, 2009.]
ファンデルワールス(分散力)汎関数
分散力汎関数
アンダーソン・ラングレス・ルントクヴィスト (ALL)汎関数: AC/FDT長距離相関のLDA近似
ディオン・リュードベリ・シュレーダー・ラングレス・ルントクヴィスト (DRSLL)汎関数: ALL汎関数を改善した減衰関数を必要としない汎関数
ヴィドロフ・ファンブーアヒス(VV09)汎関数:独自の誘電体モデルを使って改善した汎関数
局所応答分散(LRD)汎関数:ALL汎関数に誘電体モデルをとりこんだ汎関数
vdW‐DF分散力補正法: 交換・相関汎関数+DRSLL分散力汎関数
図.Ar2の分散力ポテンシャル
エネルギー曲線計算
Counterpoise法による
BSSE補正
revPBE汎関数を使う
vdW‐DFは解離ポテンシャル
曲線を与えない
[Vydrov, Wu, & Van Voorhis, JCP, 129, 014106, 2008.]
vdW‐DF(revPBE)
vdW‐DF(HF)
長距離補正との組みあわせ
分散力結合は,分散力と長距離交換とのバランスで形成される
LC+vdW法
長距離補正(LC)DFTに分散力をたしあわせる方法
相関汎関数には分散力を含まない汎関数を使う
[Kamiya, Tsuneda & Hirao, JCP, 117, 6010, 2002.]
V1
C
例:LC + ALL法
ALL汎関数
ALL
disp
E

3
2(4 )3/2

V1
d r1  d r2
3
3
V2
1 (r1 )  2 (r2 ) f damp (r12 )
1 (r1 )   2 (r2 ) | r1  r2 |6
減衰関数
指数係数はペアとなる原子のvdW半径Rmの和
にフィットして決定
[Sato, Tsuneda, & Hirao, Mol. Phys. 103, 1151, 2005.]
f damp (r12 )  exp[(
a AB  C1 Rm  C2
a AB 6
) ]
r12
A
B
V2
長距離交換の重要性
図.アルゴン2量体の解離ポテンシャル曲線計算(BSSE 補正)
[Kamiya, Tsuneda & Hirao, JCP 117, 6010, 2002.]
Bond Energy (kcal/mol)
0.60
SOP
BOP
PBEOP
LC-SOP
LC-BOP
LC-PBEOP
LC-BLYP
Exact
Ar2
0.45
0.30
0.15
0.00
-0.15
0.75
LC汎関数はそれぞれ
非常に近い
解離曲線を与える
-0.30
-0.45
LC‐BLYP はにせの結合を与える
∵ LYP 相関は低密度・高密度
勾配の物理条件を破る
-0.60
-0.75
3.0
4.0
5.0
Bond distance (Å)
6.0
LC-BOP+ALL
0.60
Bond Energy (kcal/mol)
0.75
Ar2
0.45
mPWPW91
mPW1PW91
B3LYP+vdW
0.30
MP2
0.15
Exact.
0.00
-0.15
-0.30
-0.45
LC‐BOP+ALL は非常に
高精度な分散力結合を
与える
-0.60
-0.75
3.0
4.0
5.0
Bond distance (Å)
6.0
弱い結合をもつ錯体
分散力錯体
[Sato, Tsuneda & Hirao, JCP 126, 234114, 2007.]
LC‐BOP+ALL は系に
よらず同等に高精度に
結合を与える
スタッキング
錯体
双極子‐誘起
双極子錯体
双極子‐
双極子錯体
水素結合錯体
結合エネルギーのパーセント誤差
MP2 は擬縮退効果のため,
スタッキング錯体の結合を
正しく与えられない
分散力結合の結合角
CCSD(T)/aug‐cc‐pVQZ+結合関数(3s3p2d2f1g)
[Prosmiti et al., JCP 119, 4216, 2003.]
図.FCl-He分散力結合系のポテンシャル
曲面計算
分散力ではなく長距離交換相互作用が,
分散力結合の角度をきめる
エネルギーの結合角
への依存性
LC-BOP ♢
LC‐BOP+ALL/aug‐cc‐pVQZ
‐46.53 cm‐1
He
ALL +
R
CCSD(T)×
LC-BOP
+ALL ♦
‐30.04 cm‐1
‐76.43 cm‐1
Ө
Cl
F
[Sato, Tsuneda, & Hirao, Mol. Phys., 103, 1151, 2005.]
弱い結合系のベンチマーク計算
方法
表.S22ベンチマークセット
(22個の弱い結合系)の
結合エネルギー計算値の
平均絶対誤差
補正法
平均絶対誤差
B97X‐D
LC + 古典ポテンシャル
0.22
BLYP‐D3
古典ポテンシャル
0.23
B97X‐2
LC + 摂動法
0.26
LC + vdW汎関数
0.27
B2PLYP‐D3
古典ポテンシャル + 摂動法
0.29
RSH+RPAx
LC + AC/FDT
0.32
M06‐2x
古典ポテンシャル
0.44
BLYP‐D
古典ポテンシャル
0.55
B97‐D
古典ポテンシャル
0.61
B3LYP‐D
古典ポテンシャル
0.70
MP2/CBS
摂動法
0.78
VV09(HF)
vdW汎関数
0.89
古典ポテンシャル
0.90
vdW‐DF(rPW96)
vdW汎関数
1.03
VV09(rPW96)
vdW汎関数
1.20
vdW‐DF(revPBE)
vdW汎関数
1.44
vdW‐DF(HF)
vdW汎関数
2.80
LC‐BOP+LRD
M05‐2x
分散力結合計算に必要な条件
表.分散力結合計算に必要な条件とさまざまな分散力計算法の達成度
B97-D
M06-2x
AC/
FDT
vdWDF
DFTSAPT
LC+
vdW
水素結合の定量性
○
○
-
△
○
○
電子相関の二重計算回避
×
○
○
△
○
△
厳密な漸近的ふるまい ~ r‐6
○
×
○
○
○
○
半経験的パラメータの少なさ
×
×
○
○
○
○
系の分割の不要さ
○
○
○
○
×
○
必要な計算時間
△
△
×
○
×
△
条件
6.4. 相対論的補正
相対性理論
特殊相対論(1905年)
・相対性原理:ローレンツ変換に対して物理法則の形は不変
・光速度不変:互いに等速運動する座標系で光速度は常に一定
⇒ミンコフスキーの4次元空間座標系(等速系のみ)
一般相対論(1916年)
・等価原理:重力と慣性力とは等価
⇒重力方程式の解である計量テンソルをもつリーマン空間座標系
(空間各点が慣性系,測地線が質点運動の座標,加速系OK)
A. Einstein
g=1/(1‐v2/c2)1/2
ct
t=t0での2つの
同時の出来事
ローレンツ変換(1897, 1899, 1904年)
電磁気学と古典力学との矛盾の解消の
ため,ラーモアとローレンツが提案
光速が座標系によらず一定とすると,
高速で動く座標系で2点間距離が縮む
慣性系Sの時空座標
(t, x, y, z)と,x軸に
沿って相対速度vで
運動する慣性系S’の
時空座標(t’, x’, y’, z’)
との関係性⇒
t'
x' 
(t  vx / c )
1  v2 / c2
( x  vt )
y'  y
z' z
1 v / c
v=c
x’
2
2
ct’
2
(x’, ct’)=(0,1)
(x, ct)=(gv/c, g)
(x’, ct’)=(1,0)
(x, ct)=(g, gv/c)
x
時間依存シュレーディンガー方程式
 1  2

2
2 





V

 i
 2
2
2 
t
 2m  x y z 

⇒ローレンツ変換に対して不変でない
ディラック方程式
相対論的シュレーディンガー方程式=ディラック方程式

cα  pˆ  βmc 2    i
t

σ x, y , z 
 0
 I 0
1 0
α x , y , z  
, β  
, I  

σ
0
0
1
0
I





 x, y , z


0 1
 0 i 
1 0 

σ x   1 0  , σ y   i 0  , σ z   0 1







静止エネルギー
5.11×105 eV ≫ H2の結合(13.6 eV)
はβをβ’で置きかえればなくなる
⇒E≦‐2mc2に陽電子の連続状態が
つまっていると考える
  L 



L 
 
  S 


  S 
非相対論的
0
‐2mc2
Large成分
電子 (a, b)
Small成分
陽電子 (a, b)
相対論的
連続状態
エネルギー
0 0 
β'  

0
2
I


P. A. M. Dirac
pˆ   iは空間に対して1次
導関数なのでローレンツ変換不変
ディラック方程式は4次
⇒波動関数ψは4成分
電子状態
離散状態
連続状態
陽電子状態
2成分の相対論的方程式
束縛電子のディラック方程式
光速c  極限 
Kˆ  1,  σ  pˆ  σ  pˆ   pˆ  pˆ  iσ  pˆ  pˆ  =0
cα  pˆ  β ' mc  V    E 
2
①
 pˆ 2


 V  L  E L
 2m

②
⇒非相対論的シュレーディンガー方程式
2成分波動関数ψL,ψSを使って分解
c  σ  pˆ   S  V  L  E  L

2
ˆ
c
σ

p



2
mc
 V  S  ES



L

②を変形
 S   E  2mc  V  c  σ  pˆ   L
2
  2mc

2 1
1
1
 E V 
c  σ  pˆ   L
1 
2 
 2mc 
σ  pˆ
 Kˆ 
L
2mc
∴2成分ディラック方程式
 1
ˆ  σ  pˆ   V  E     0 W. Pauli
ˆ

K
σ
p


 2m
 L
ブライト・パウリ方程式
1
E V
 E V 



Kˆ  1 
1
2 
2
2mc
 2mc 
∴ブライト・パウリ方程式
ダーウィン項
 pˆ 2
pˆ 4
Zsˆ  ˆl
Z  (r ) 




V

3 2
2 2 3
2 2 
m
m
c
m
c
r
m
c 
2
8
2
2

 L  E L
スピン・軌道
質量速度
補正項
相互作用項
質量速度+ダーウィン=スカラー補正
相対論的な補正項
一電子
演算子項
二電子
演算子項
Nelec

1


Zeeman
s  Bi  πˆ i2 
 g e  B  s i  B i 
ゼーマン項:H e
2  i
2mc

i 1 

Nelec
質量速度項:Hmv   1
πˆ i4

e
3
2

8m c i 1

Nelec
スピン・軌道相互作用項:H eSO   g e  B2  si  πˆ i  Fi  si  Fi  πˆ i 
4mc i 1

Nelec

1
Darwin
  2 2    Fi
ダーウィン項:H e
8m c i 1

Nelec Nelec  s  r  p

ˆ
s  r  pˆ j  
ˆ SO   ge B    i  ij i   2 i  ij
スピン・軌道相互作用項:H

ee
2mc 2 i 1 j i 
rij3
rij3


G. Breit


2 2 Nelec Nelec 

s r r s
スピン・スピン相互作用項:H
ˆ SS  ge B    si  s j  3  i ij  ij j   8  s  s   (r ) 
i
j
ij
ee

2c 2 i 1 j i  rij3
3
rij5




1 Nelec Nelec  πˆ i  πˆ j  πˆ i  rij  rij  πˆ j  
OO
ˆ


軌道・軌道相互作用項:H ee   2 2   
3
ブライト演算子
m
c
r
r
4
i
j
i


1


ij
ij



 Nelec Nelec
Darwin
ˆ
 α1  r12  α 2  r12  
1 1 
ダーウィン項:H ee   2 2    (rij )
r
α
α




V
(
)
m
c
2


ee
12
1
1

i 1 j  i
r
r
r2
12
核‐電子項
12

12

ˆ SO  ge B   Z si   riA  πˆ i 
スピン・軌道相互作用項:
H

A
ne
riA3
2mc 2 i 1 A1

Nelec Nnuc
ˆ
常磁性スピン・軌道相互作用項:H
ˆ PSO  N   g I A   riA  pi 
ne
A

mc 2 i 1 A1
riA3

Nelec Nelec


ˆ SS   ge B N   g  si  I A  3  si  riA  riA  I A   8  s  I   (r ) 
核スピン・電子スピン相互作用項:H
ne
A
i
A
iA
3
3
c2
rij5

i 1 j  i
 rij

Nelec N elec

ˆ Darwin      Z  (r )
ダーウィン項:H
ne
A
iA
2m 2 c 2 i 1 j i

Nelec Nnuc

4成分そのままの計算法と化学への影響
ディラック・コーン・シャム法
4成分単行列式「スピノル」による波動関数ψ⇒
相対論的時間非依存コーン・シャム方程式=ディラック・コーン・シャム方程式
cα  pˆ  β ' mc 2  Vˆ    E   FC  SCε


陽電子状態を含むので,最安定状態は出せない⇒変分原理がなりたたない
⇒Large成分の基底関数LとSmall成分の基底関数Sでバランスをとる
Large‐Smallの2電子積分が8倍
σ  pˆ
運動(エネルギー)
S 
L
Small‐Smallの 〃 が16倍
バランス条件
2mc
全体として積分数は25倍に
化学への相対論的効果
相対論的効果を考慮したことによる違い
1.電子の速度依存質量による効果→s, p軌道を収縮,d, f軌道を拡張
2.電子スピンによるハミルトニアン演算子への新しい(磁気的)相互作用
→スピン・軌道相互作用によるスピン軌道モデル(α,β)の崩壊
3.陽電子状態をとりこんだことによる効果
→波動関数にSmall成分をもたらし,軌道の形を変える
4.光速の有限性によるポテンシャルの修正
→クーロン演算子へのブライト演算子の追加
相対論の原子に与える影響
水素様原子の1s軌道電子
・軌道エネルギー E = ‐Z2/2 (Zは核電荷)
・運動エネルギー T = mv2/2
∴ビリアル定理(E=‐T=V/2)より,v = Z (原子単位)
光速 c=137.036 ⇒ Z≧138で1s軌道電子の
速度は光速をこえる→存在しない
各軌道への相対論の影響
重原子で1s電子が重くなる
⇒1s軌道の大きさが収縮
⇒直交性で2s以上のs軌道
も収縮
⇒核電荷がより遮蔽され,
高角運動量軌道の大きさ
が拡大
p軌道はスピン・軌道
相互作用でs軌道と混ざり,
さほど拡大しない
d, f軌道は拡大して分散
相対論効果の大きさ
Z>10→相関エネルギーより大
Z>50→交換
〃
1~3列→構造や物性に無効果
4列→構造や物性に効果あり
5, 6列→ 〃 に主な役割
6.5. ベクトルポテンシャル補正
と電流密度
ベクトルポテンシャル補正と磁場
πˆ  πˆ  pˆ  A  A  pˆ
一般化運動量演算子
 pˆ  A  A  pˆ    iB
πˆ  pˆ  A
磁場 B    A
 πˆ 2 ˆ σ  B 

V 
 L  E L

2m 
 2m
外部磁場がかかったときの
ベクトルポテンシャル
1
A  B  r  RG 
2
ゲージ中心(ベクトルポテンシャル
の中心):通常,質量中心におく
時間非依存のディラック方程式


 1

ˆ
ˆ
ˆ
ˆ
σ
π
σ
π
K
V
E




  
 2m 
  L  0
c
 1
ˆ    E
ˆ
ˆ
ˆ
ˆ
π
π
π
π
i
V










L
 2m
 L
ゼーマン相互作用項
s=スピン演算子s ×2
⇒
σ  B 2m  s  B
実際には,量子場ゆらぎにより
g因子(2.0023)
σ  B g e es  B

 g e  Bs  B
2m
2m
ボーア磁子(原子単位1/2)
相対論的運動エネルギー
 πˆ 2  pˆ 2  pˆ  A  A  pˆ  A 2
 pˆ  A    iA      i    A 

1
1
ˆ
A

p

B

r

R

B  LG


G
2
2

2
 A 2  1  B 2   r  R G     B   r  R G  2

4
核磁気共鳴(NMR)分光
エタノールのNMRスペクトル
NMRスペクトル
原子核スピンと磁場との相互作用
低分解能NMR
原子核の位置によりしゃへい効果で
エネルギー準位が分裂(ゼーマン分裂)
化学シフトとスピ
ン‐スピン結合に
よる分裂で予測
高分解能NMR
‐CH2は1:3:3:1
‐CH3は1:2:1
純粋エタノール
‐OHの影響で
それぞれ2つに分離
磁場の強さ
核スピン状態エネルギー
EI   mI B0
スピン‐スピン結合
分子内の原子核スピンどうし
の相互作用
‐CH2
磁気回転比
例: プロトン1H (I=1/2)
mI=+1/2
mI=±1/2のエネルギー差
E  B0 
実際には歳差運動
振動数はラーモア振動数
mI=‐1/2

 B0
2
‐CH3
磁気的に等価
でない近い原子核
どうしの相互作用に
よる二項分布に
したがう
1 : 3 : 3 : 1 1 : 2 : 1
スペクトル分裂
電子スピン共鳴(ESR)分光
電子スピン(s=1/2)由来の磁気モーメントによるエネルギー準位の分裂
電子のスピン量子数ms=±1/2
共鳴条件
E  h  g e B B0
ボーア磁子=eh/(2pmc)
ランデのg因子(2.0023)
測定は通常,約0.34T(テスラ)の磁場で9.5GHz(マイクロ波)の周波数でおこなわれる
選択律
Δms=±1
ΔmI=0
超微細分裂:
不対電子と核との
磁気的相互作用による
エネルギー分裂
電子スピンが方向を
変える間に核スピン
は再配向しない
孤立電子の共鳴条件
水素原子の電子の共鳴条件
ESRが観測できるのは不対電子のみ
→化学的・電気化学的にアニオンラジカルに変換して測定する
時間依存電流DFT
時間依存DFTに電流密度の効果を取りこむことで,汎関数の局所性に起因する
と考えられる時間依存線形応答の問題を解決することを目的とする
時間依存電流DFT
ベクトルポテンシャルAを導入して構成しなおされた時間依存の(相対論的)DFT
[Vignale & Kohn, PRL, 77, 2037, 1996.]
2

 1

i
t
v
t

t
i
 n (r , t )




(
,
)

(
,
)
(
,
)

A
r
r
r


KS
KS
 2
 n
t
ベクトルポテンシャルAKSは時間依存電流密度 j を用いて計算
フーリエ変換
 j(r, )   fn
j(r, t ) 
t 
n
i *
n (r, )n (r, ) n (r, )n* (r, )
2
フーリエ変換
3

d


AKS  Aext  Axc , Axc (r, t ) 
A
(
r
,
)
xc
t 
 r ' fxc (r, r ',)  j(r ',)
1. オリジナルの時間依存電流DFTでは,fxcについて厳密な定式を導出
[Qian & Vignale, PRB, 65, 235121, 2002; PRB, 68, 195113, 2003.]
2
Fourier変換
Axc (k, )  fxc,L ()k  j  fxc,T ()k  (k  j)
Axc (r, ) 
rk
k
2
2. 多くの電流DFTは,電流密度をパラメータとして含む汎関数にもとづく方法
[Becke, JCP, 117, 6935, 2002; Maximoff et al., JCP, 120, 2105, 2004.]
電流密度 j まで考慮した密度行列の展開から交換汎関数を導出
励起エネルギー計算
電流TDDFTは,一部の
→*励起について,
きわめて正確な
励起エネルギーを与える
しかし,電流TDDFTは,
ある種の分子の電子励起
について,壊滅的にひどい
励起エネルギーを与える
電流TDDFTは,リュードベリ励起に
ついて改善の傾向を示し,
一部の励起エネルギーを大きく改善
[M. Faassen & L. de Boeij, JCP,120, 8353, 2004.]
振動子強度は改善せず,一部の
励起エネルギーについて劣悪な値を与える
電子移動励起の計算例はない
長鎖分子の分極率計算
図.さまざまな長鎖分子の
分極率の鎖の長さへの依存性
[van Faassen et al., JCP, 118, 1044, 2003.]
ユニットセルの数 n
ユニットセルの数 n
長鎖分子の分極率に
ついて,電流TDDFT(VK)は,
従来のTDDFT(ALDA)に比べ,
分極率を大きく与えすぎる
問題を改善
z
超分極率など非線形
光学応答について,
電流TDDFTによる計算例
はまだない
電流DFTにもとづく
構造最適化は見当たらない
化学反応計算も分散力結合
計算もまだない
ユニットセルの数 n
ユニットセルの数 n
縮退すべき原子軌道エネルギー
ハミルトニアン演算子へのベクトルポテンシャルの導入は,
磁気量子数の異なる縮退すべき原子軌道のエネルギー差に明らかに影響
Atom
LDA
B88XC
PBEXC
jBRX
jPBEXC
B
1.0
2.7
2.9
0.6
0.1
C
0.3
2.5
2.7
0.4
0.2
O
1.6
4.6
6.1
0.9
0.7
F
0.6
4.1
5.5
0.7
0.7
Al
0.4
1.1
1.7
0.2
0.3
Si
0.2
0.6
1.3
0.0
0.1
S
0.2
1.3
2.8
0.1
0.2
Cl
0.5
0.8
2.2
0.0
0.2
表.ベリリウム原子の2つの電子励起エネルギー(eV)
Transition
Expt.
ALDA1
VK1
ALDA2
VK2
2s→2p
5.27
5.07
6.24
4.86
5.62
2s→3s
6.77
5.62
5.67
5.65
5.63
表.原子の縮退すべき
p軌道の磁気量子数1と0の
軌道のエネルギー差
E(ml=1)-E(ml=0)
(kcal/mol) 電流密度を取り込んだ
汎関数では,大きく改善する
[Becke, JCP, 117, 6935, 2002; Maximoff, JCP, 2105, 2004.]
厳密な電流TDDFT(VK)では
2s→2pでは補正しすぎ,
2s→3sでは改善しない
[van Faassen & de Boeij, JCP, 120, 8353, 2004.]
7. 軌道エネルギー
軌道エネルギーに関する疑問
軌道エネルギーは化学の解析において当然
のように利用される
たとえばフロンティア軌道理論による反応解析
電子状態理論の根幹をなす方程式である
ハートリー・フォック法やコーン・シャム法に
おいて,軌道エネルギーは方程式の解
 hˆ  Jˆ  V    
xc
i
i i
軌道エネルギーは,その物理的な意味に
ついても懐疑的にとらえられてきた
←どの方法でも正しく与えられなかったため
分子軌道は計算結果が利用される
対応する固有値である軌道エネルギーが
正しく与えられていないにもかかわらず
分子軌道は分子系の電子の運動状態
では,軌道エネルギーの物理的意味は?
しかし,実際の計算で得た軌道エネルギーを
もとに解析しているわけではない
軌道エネルギーの物理的意味
軌道エネルギーの物理的な意味はクープマン定理で明らかになる
クープマンの定理
ハートリー・フォック方程式の場合,
占有軌道エネルギー:その軌道から電子を取り除いたときのイオン化ポテンシャルの逆数
 i   d r (r ) Fˆ i (r ) hi    J ij  K ij 
3
n
*
i
j
E (n)   hi    J ij  K ij     i   J ij  K ij 
n
n
i
i j
n
n
i
i j
E (n  1)  E (n)  hi    J ij  K ij   E (n)   i
n
j
IP  E (n  1)  E (n)   i
仮想軌道エネルギー:その軌道に電子を加えたときの電子親和力の逆数
E (n  1)  E (n)  ha    J aj  K aj   E (n)   a
n
j
EA  E (n)  E (n  1)   a
ただし,これはSCF計算をおこなわない場合である
T. J. Koopmans
もっと一般的な軌道エネルギー
ヤナクの定理
ヤナクの定理は,独立電子モデルにもとづくあらゆる1電子SCF方程式でなりたつ定理
占有電子数つきのコーン・シャム方程式
n
 1 2

ˆ
V
J
V







ext
j
xc  i   ii
j
 2

n
E   ni ti  Eext  J  Exc
i
のとき,
2
n
n
n


t j




E
2
i
3
ˆ


 ti   n j
  d r   J j  Vxc   i   n j

ni
ni
ni 
j
j
 j
 
2
n
n
 t j





i
3
ˆ
 i   n j 
  d r   J j  Vxc 



n
n
j
 i
i 
 j


2
n
n
 3  i 
 
2
3
d
 i   n j j  d r
r

   i   n j j 
i 

n
ni 

j
j

 i

ヤナクの定理
E
 i
ni
ある軌道の占有電子数を変えたときの全電子エネルギー
の変化は,その軌道の軌道エネルギーに等しい
→分数占有数状態を考えれば,容易に確かめられる
一般的な軌道エネルギーの物理的意味
分数占有数に対する直線性定理
分数占有数の場合の全電子エネルギーに対する定理
[Perdew, Parr, Levy, and Balduz Jr., PRL, 49, 1691, 1982;
Yang, Zhang, Ayers, PRL, 84, 5172, 2000.]

p p
q p
E  n    E (n  1) 
E ( n)
q
q
q


E(n)
分数占有数に対するエネルギーの直線性定理:
分数占有数の全電子エネルギーは直線的に変化する
IP
E
(n  n)
n
  LUMO
E
(n  n)
n
  HOMO
-1
ヤナクの定理と組み合わせることで,より一般化された
クープマンの定理になる
EA
E
 i
ni
⇒ HOMOエネルギーはイオン化ポテンシャル,
LUMOエネルギーは電子親和力の
それぞれ符号を変えた値である
0
n
+1
軌道エネルギーが計算できない理由
一般的なコーン・シャム方程式が軌道エネルギーを与えられないのはなぜか?
コーン・シャム方程式:
 hˆ  Jˆ  V    
xc
i
i i
バンドギャップ(HOMO‐LUMOギャップ)が過小評価される原因は,交換・相関ポテンシャルの
一定の不連続性にあり,これがエネルギー誤差を与える
[Perdew, Parr, Levy, & Balduz Jr., PRL, 49, 1691, 1982.]
Vxcn  n  Vxcn n  const.  0
 xc  IP  EA    n 1 (n)   n (n) 
エネルギー誤差Dxc は,最外殻軌道に電子を増やしたときのその軌道エネルギーの変化に
対応する(軌道エネルギー条件)[Sham & Schlüter, PRB, 32, 3883, 1985.]
 xc   n 1 (n  1)   n 1 (n)
このエネルギー誤差は,交換・相関ポテンシャルであらわせる
 xc   d 3r Vxcn n  Vxcn n  n 1  r 
軌道エネルギーが計算できない理由
エネルギー誤差を交換と相関にわけて考えると?
交換エネルギーにおけるエネルギー誤差
[Perdew, in Density Functional Methods in Physics, Dreizler & da Providencia Eds. (Plenum, New York, 1985); Görling & M. Levy, Phys. Rev. A 52, 4493, 1995.]
 x  K ( n 1)( n 1)  K nn   d 3r   n 1  r    n  r   Vx   n 
K ii   d 3r1  d 3r2i*  r1  i*  r2 
1
i  r1  i  r2 
r12
原因はHOMOとLUMOに関する自己相互作用誤差にある
軌道エネルギーが計算できない理由
相関エネルギーにおけるエネルギー誤差 [Görling & M. Levy, Phys. Rev. A 52, 4493, 1995.]
c 
SD exc.

 KS (n  1) Vpert  I (n  1)
I
2
SD exc.

I
EKS (n  1)  EI (n  1)
2
 KS (n) Vpert  I (n)
EKS (n)  EI (n)
2

SD exc.

I
 KS (n  1) Vpert  I (n  1)
2
EKS (n  1)  EI (n  1)
  d 3r   n 1  r    n  r   Vcunif   n 
摂動ポテンシャルVpertと3次均一座標スケーリング極限での相関ポテンシャル汎関数Vcunif
 n ˆ

Vpert  Vee    J j  Vx 
 j

unif
Vc  lim Vc   
 
3次均一座標スケーリング条件
リレーションシップ ID rId9 のイメージ パーツがファイルにありませんでした。
を満たす相関汎関数を使えば,相関汎関数由来の軌道エネルギーの誤差はなくなる
残りの摂動エネルギー項は,おもに電子数の違いによる軌道緩和の効果の違い
軌道エネルギーにおける電子相関の効果
グリーン関数法による電子相関が軌道エネルギーへ与える効果のみつもり
[Pickup & Goscinski, Mol. Phys. 26, 1013, 1973.]
グリーン関数の極として与えられる軌道エネルギーとIPやEAとの差
 k   k  IP
nocc nvir
 
ik
イオン化後の
MOの緩和

a
ki ka  ki ak
2
a  i
ab ki  ab ik
1

2 i  k a ,b  a   b   i   k
nocc nvir

2
ij ka  ij ak
1

2 in a  a   k  i   j
nocc nvir
2
イオン化後の
電子対緩和
イオン化前の
電子対除去
 c   c  EA
2
nocc nvir
ac ci  ac ic
1 nocc nvir ab ci  ab ic
 
 
2 i a ,b  c  a   b   i   c
a  i
i ac
2
1 nocc nvir ij ca  ij ac
 
イオン化前の
2 i, j ac  a   b   i   k
電子対緩和
2
イオン化後の
電子対除去
2次摂動のこれらの項を加えて軌道エネルギーを補正しても,さほど正しく与えられない
⇒正しい軌道エネルギーを与えるにはさらに高次の電子相関が必要
軌道依存なポテンシャルを作る方法
最適化有効ポテンシャル(OEP)法
ポテンシャルをエネルギーと対応させる積分方程式を解いて求めた
軌道依存なポテンシャルを使うコーン・シャム法 [Talman & Shadwick, PRA 14, 36, 1976.]
OEP方程式:
 1 2

V



OEP  i   ii

 2

n
VOEP  Vext   Jˆ j  Vxceff
j
軌道依存の交換・相関ポテンシャルVxceffは交換・相関エネルギーと対応させる積分方程式を
nocc
解いて求める
 Exc i (r ')
3
eff
3
t (r)   d r ' OEP (r, r ')Vxc (r ')   d r ' 
i i (r ') VOEP (r)
n n
 (r)a (r)a (r ')i (r ')
(r ')
OEP (r, r ') 
 4 i
VOEP (r)
i   a
i a
occ
vir
この方法は,局所有効ハートリー・フォックポテンシャルを求める方法の拡張
[Sharp & Hornton, Phys. Rev. 90, 317, 1953.]
OEP法の積分方程式を解くのは簡単
nocc nvir  (r) (r) d 3r (r ')V HF (r, r ') (r ')
ではない
i
a
i
 a x
t (r)  4
数値積分では大きい分子や固体の
i   a
i a
計算では取りあつかえない
nocc
 j (r) j (r ')
基底関数を使った解析積分では
VxHF (r, r ')  
正しい解を与えられない
r ' r
j
OEP法の積分方程式の近似解法
クリーガー・リー・アイアフレート(KLI)近似
積分方程式の簡便な近似的解法 [Krieger, Li, Iafrate, PRA 45, 101, 1992.]
i (r)i (r) 3
KLI
HF
d
V

V
r
'

(
r
')

i (r ') 非局所的なHF交換ポテンシャルを
i
x
x


(
r
)
i
局所化する方程式
n
i (r)i (r) 3 i (r ')i (r ')
Slater
⇒軌道エネルギーは与えられない
Vx (r)  2
d r'

(r)
r r'
i
KLI
x
V
(r)  V
Slater
x
n-1
(r)  2
KLI近似に電子相関を取り込む方法:
1.摂動ポテンシャルを使う方法
2次摂動エネルギーを軌道で展開
ホレブーム・ベーレンズ法
[Holleboom et al., JCP, 89, 3638, 1988.]
2.自己エネルギーに取り込む方法
相関自己エネルギーを2次摂動で計算
シャム・シュリュータ法
[Sham & Schlüter, PRL, 51, 1888, 1983.]
3.交換・相関汎関数を使う方法
交換・相関汎関数を自己相互作用補正
KLI‐SIC法
[Tong & Chu, PRA, 55, 3406, 1997.]
n-1

i
ji


 M ji   d 3r 'i (r ') VxKLI VxHF i (r ')


 2 d 3r j (r) VxSlater VxHF  j (r) ( j  1,, n 1)
M ji   d 3r
 j (r)i (r)
(r)
OEP‐KLI法による軌道エネルギー計算
KLI-LDA+shift
EXX
KLI-LDA
IP
表.OEP‐KLI‐LDA法による
HOMOエネルギー計算値
[Hamel, Casida, & Salahub, JCP, 116, 8276, 2002.]
OEP‐KLI法は,エネルギーシフトなしに
は高精度な軌道エネルギーを
与えられない
2次摂動ポテンシャルを使った場合の
分子の計算例はない
表.OEP‐KLI法による
HOMOエネルギー計算値
[Kim, Stadele, & Martin, PRA, 60, 3633, 1999.]
厳密交換を使っても,分子が
大きくなると合わない
高精度な交換・相関ポテンシャルを作る方法
Ab initio密度汎関数法
Ab initio波動関数法の知識を生かして作られた高次の電子相関を含んだ
交換・相関ポテンシャルを使ったDFT [Bartlett et al., JCP, 122, 034104, 2005.]
Ab initio DFT開発にあたっての5つの条件:
1. すべて基底関数を使った解析積分でおこなうこと
2. 波動関数法にもとづく軌道依存ポテンシャルを使うこと
3. 基底関数と電子相関のリミットのある厳密解が存在すること
4. スレーター行列式は対応する交換・相関ポテンシャルと一貫性があること
5. 交換・相関ポテンシャルはDFTのように乗法的だが,汎関数は非局所的であること
交換ポテンシャルには厳密交換(EXX)ポテンシャル[Görling & Levy, PRA 50, 196, 1994.]
 Ex  (r) n n n
  (r ')i (r ')  VKS (r ')
 4 d 3r ' Kij a
Vx (r) 

(r)
i   a  (r)
i
j a

occ
occ
vir
n n
 (r)a (r)a (r ')i (r ')
(r)
KS (r, r ') 
 4 i
VKS (r ')
i   a
i a
occ
vir
を利用
最近は,内殻軌道エネルギーを定量的に与えるためにHF交換ポテンシャルと混成
Vx (r)  VxHF  (1  )VxEXX
きわめて高精度な相関ポテンシャル
OEP‐MBPT2(H) (PT2H)ポテンシャル:
CCSDTレベルの高次の電子相関を取り込んだ相関ポテンシャル
[Schweigert & Bartlett, JCP, 129, 124109, 2008.]
Vc (r) 
相関ポテンシャル
 Ec  (r)
(r)
nocc nvir
Ec  t ia Hˆ KS
a
i
j
tia 
tijab 
a
1 nocc nvir ab a b b a
  tij  ti t j  ti t j
4 i, j a,b
Kia   d 3ri (r)VxEXXa (r)
i   a

  ij ab  ij ba 
(1  )
ij ab  ij ba
i   j   a  b
Ab initio DFTでは,1電子励起波動関数にスレータ―行列式ではなく,
基底状態スレーター行列式と最大の重なりをもつブリュックナー行列式を使うので,
ブリュアン定理がなりたたない
PT2SCポテンシャルは,tijabを無視した相関ポテンシャル
「SC」は半標準的(semicanonical)の意味
Ab initio DFTによる軌道エネルギー計算
表.
占有軌道エネルギー計算値
[Schweigert & Bartlett, JCP, 129, 124109, 2008.]
EXX+PT2SCは,原子価軌道エネルギーを化学的精度で与えるが,
内殻軌道エネルギーをかなり小さく与える
逆傾向のHF交換と混成することで,すべての占有軌道エネルギーを精度よく与える
⇒正しい軌道エネルギーを与えるにはCCSDTレベルの高次の電子相関が必要
内殻軌道エネルギーはそのレベルでも十分ではない
自己相互作用補正する方法
自己相互作用補正(SIC)法:本来クーロン相互作用と相殺されるべき交換の
自己相互作用を汎関数からのぞく方法 [Perdew & Zunger, PRB 23, 5048, 1981.]
n
E  EKS    J ii  Exc  i 
i
パーデュー・ズンガーのSIC法で補正したコーン・シャム法を検証した結果,
軌道エネルギーを定量的に与えるための条件をまったく満たさないことを確認
[Vydrov, Scuseria, & Perdew, JCP, 126, 154109, 2007.]
図.分数占有数に対する
全エネルギー(左)と
HOMOエネルギー(右)の変化
自己相互作用誤差は
軌道エネルギーを与えられ
ない原因の1つではあるが,
原因でない部分もかなり
含んでおり,交換部分に
限っても明快な理由ではない
高精度ポテンシャルを直接決定する方法
高精度電子密度からの直接決定法により求められた高精度な運動・交換・相関
ポテンシャルを用いた軌道エネルギー計算 [Wu & Yang, JCP, 118, 2498, 2003.]
OEP法とZMP法(電子密度からの交換・相関ポテンシャル決定法)からの類推により,
運動エネルギーはTWYを最大化した値となる
初期電子密度
 1 
TWY    d 3ri  r     2  a  r    d 3r    r   initial  r   VWY  r 
 2 
i
 r 
 1
VWY  r   Vext  r   1    d 3r ' 0
  C p  p r 
r r'
 n
p
n
交換・相関ポテンシャルも同時に決める
参照する
高精度電子密度
交換・相関ポテンシャルを
基底関数の線形結合で表現
 r 
 r 
 1
VxcWY  r    C p  p  r   1    d 3r ' 0
  d 3r '
r r'
r r'
 n
p
高精度電子密度から直接決定された運動・交換・相関ポテンシャルを使えば,
軌道エネルギーを計算することができる
高精度ポテンシャルによるHOMOエネルギー
WY
PBE PBE(AC) B3LYP
表.HOMOエネルギー計算値
とイオン化ポテンシャルの
逆符号との比較
[Teale, de Proft, & Tozer, JCP, 129, 044110, 2008.]
CCSD(T)/aug‐cc‐pVTZ法で
計算された電子密度を使う
高精度ポテンシャルを
使ったコーン・シャム法は,
HOMOエネルギーを
きわめて高精度に与える
MAE(eV) 0.08
4.73
4.84
3.54
高精度ポテンシャルによるLUMOエネルギー
WY
PBE PBE(AC) B3LYP
表.LUMOエネルギー計算値と
電子親和力の逆符号との比較
[Teale, de Proft, & Tozer, JCP, 129, 044110, 2008.]
CCSD(T)/aug‐cc‐pVTZで計算
された電子密度を使う
高精度ポテンシャルを使った
コーン・シャム法は,
LUMOエネルギーを負の値を
与える
LUMOエネルギーは,
CCSD(T)計算による電子密度
から直接決定したポテンシャル
でも与えられない
MAE(eV) 5.20 1.12
0.87
0.60
長距離補正DFTによるHOMOエネルギー
HF
BOP
B3LYP
M05-2X
LCgau-BOP
LC-BOP
希ガス原子と
水素原子
だけはさほど
良くない
SiH4
CH4
PH3
NH3
HCOOH
H2S
H2O
CH2O
C2H4
C2H2
CO2
ClF
CS
CO
HCl
HF
Cl2
P2
F2
N2
Ne
He
H
-10.0-9.0 -8.0 -7.0 -6.0 -5.0 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
HOMO  IP (eV)
HOMOエネルギーと
イオン化ポテンシャルの逆符号
との差 (HOMO + IP) [Tsuneda, Song, Suzuki, & Hirao, JCP, 133, 174101, 2010.]
LC‐DFTは,HOMOエネルギーを
化学的精度で与える
表.HOMOエネルギー
の平均絶対誤差(eV)
方法
MAE
LC‐BOP
0.27
LCgau‐BOP
0.33
M05‐2x
1.60
B3LYP
3.09
BOP
4.58
HF
1.82
長距離補正DFTによるLUMOエネルギー
SiH4
CH4
PH3
NH3
HCOOH
H2S
H2O
CH2O
C2H4
C2H2
CO2
ClF
CS
CO
HCl
HF
Cl2
P2
F2
N2
Ne
He
H
HF
BOP
B3LYP
M05-2X
LCgau-BOP
LC-BOP
-6.0
-5.0
-4.0
-3.0
-2.0
-1.0
LUMO + EA (eV)
0.0
1.0
LUMOエネルギーと電子親和力の
逆符号との差 (LUMO + EA) [Tsuneda, Song, Suzuki, & Hirao, JCP, 133, 174101, 2010.]
LC‐DFTは,LUMOエネルギーも
化学的精度で与える
表.LUMOエネルギー
の平均絶対誤差(eV)
方法
MAE
LC‐BOP
0.14
LCgau‐BOP
0.12
M05‐2x
0.62
B3LYP
1.37
BOP
2.12
HF
0.29
長距離補正DFTによるHOMO‐LUMOギャップ
SiH4
CH4
PH3
NH3
HCOOH
H2S
H2O
CH2O
C2H4
C2H2
CO2
ClF
CS
CO
HCl
HF
Cl2
P2
F2
N2
Ne
He
H
HF
BOP
B3LYP
M05-2X
LCgau-BOP
LC-BOP
-8.0 -7.0 -6.0 -5.0 -4.0 -3.0 -2.0 -1.0 0.0
1.0
(LUMO – HOMO) – (IP – EA)CCSD(T) (eV)
2.0
HOMO‐LUMOギャップエネルギーと
CCSD(T)/CCSD/aug‐cc‐pVQZによる
IP ‐ EAとの差
[Tsuneda, Song, Suzuki, & Hirao, JCP, 133, 174101, 2010.]
LC‐DFTは,HOMO‐LUMOギャップも
化学的精度で与える
表.HOMO‐LUMOギャップ
の平均絶対誤差(eV)
方法
MAE
LC‐BOP
0.28
LCgau‐BOP 0.45
M05‐2x
1.00
B3LYP
1.44
BOP
2.51
HF
0.73
分数占有数に対する直線性(カチオン側)
12
全エネルギーの中性状態
からの変化 (eV)
HF
BOP
B3LYP
M05-2X
LC-BOP
LCgau-BOP
10
8
6
4
図.分数占有数に対する
C2H4の全電子エネルギーの
C2H4+カチオンに向けての変化
LC‐DFTは,電子を減らす側の分数占有数
に対して直線的に変化する
全電子エネルギーを与える
HOMOLC-BOP
=10.2eV
IP=10.6eV
2
0
-1 -0.9 -0.8 -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1
0
表.C2H4とC2H4+ の軌道エネルギーと
全電子エネルギーの占有数に対する勾配
との比較
占有数の変化 n
どの汎関数もヤナクの定理は満たす
E ni   i
直線性定理を満たさなければ,∂E/∂n(0)は
–IPに近づかない
中性状態のHOMO はカチオンのLUMO と同じ
= シャム・シュリュータの軌道エネルギー条件
方法
C2H4+
LUMO ∂E/∂n(1)
C2H4
∂E/∂n(0)
HOMO
LC-BOP 10.22
10.17
10.71
10.68
B3LYP
13.48
13.46
7.59
7.60
BOP
14.40
14.39
6.43
6.45
HF
7.71
7.61
10.11
10.22
M05-2X
11.92
11.67
9.17
9.16
LCgau
10.37
10.33
10.53
10.56
分数占有数に対する直線性(アニオン側)
3.5
全電子エネルギーの中性状態
からの変化 (eV)
HF
BOP
B3LYP
M05-2X
LC-BOP
LCgau-BOP
3
2.5
2
1.5
図.分数占有数に対する
C2H4の全電子エネルギーの
C2H4アニオンに向けての変化
LC‐DFTは,電子を増やす側の分数占有数に
対しても直線的に変化する
全電子エネルギーを与える
LUMOLC-BOP
=2.6eV
1
EA=2.3eV
表.C2H4とC2H4 の軌道エネルギーと
全電子エネルギーの占有数に対する勾配
との比較
0.5
0
0
-0.5
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
占有数の変化 n
中性状態のLUMO もアニオンのHOMO と同じ
LC‐DFTは分数占有数に対する直線性定理を
ほぼ満たすため,LUMOエネルギーを高精度
に与える
1
方法
C2H4
C2H4
LUMO
∂E/∂n(0)
∂E/∂n(1)
HOMO
LC-BOP
2.60
2.62
1.97
1.94
B3LYP
0.22
0.20
4.69
4.66
BOP
0.78
0.72
5.74
5.68
HF
3.56
3.95
2.23
2.11
M05-2X
1.12
1.15
3.49
3.47
LCgau
2.54
2.56
1.97
2.10
分数占有数に対する軌道エネルギー変化
図.分数占有数に対するC2H4 の最外殻軌道エネルギーの変化: ‐1 < n < 0 (左) および0 < n < 1 (右)
最外殻軌道エネルギー
最外殻軌道エネルギー
6
-6
-7
5
-8
4
-9
3
-10
-11
-13
-14
-15
-1 -0.9 -0.8 -0.7 -0.6 -0.5 -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0
占有数の変化 n
2
(kcal/mol)
(kcal/mol)
-12
HF
BOP
B3LYP
M05-2x
LC-BOP
LCgau-BOP
1
0
-1
HF
BOP
B3LYP
M05-2x
LC-BOP
LCgau-BOP
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
占有数の変化 n
LC‐DFTの最外殻軌道エネルギーは,占有数が変化してもほとんど変化しない
⇒ シャム・シュリュータの軌道エネルギー条件を満たす
軌道エネルギーの占有数に対する依存性
コーン・シャム方程式の軌道エネルギーは,占有数に対して次の依存性をもつ
[Tsuneda, Song, Suzuki, & Hirao, JCP, 133, 174101, 2010.]
 1
 i
v 
  i* (r )i* (r ') 
 xc  i (r )i (r ')d 3rd 3r '
 ni
 r  r '  
交換・相関ポテンシャル導関数=交換・相関積分核 fxc=vxc/ を通しての交換・相関と
クーロンの自己相互作用との和=自己相互作用誤差のみが
軌道エネルギーの占有数に対する依存性の原因
規格化ガウス型関数:
i (r ) 
i
exp   i r 2 

近似クーロン自己相互作用ポテンシャル:
  i  exp  2 i  r  r12  2rr12 cos    3
SI
ˆ
J   
d r12
r12
 

 r 1 exp  2 i r 2   r121 exp  2 i r122  sinh  4 i rr12  dr12
2
0
水素原子に対しては厳密形
2
自己相互作用エネルギー
原子核からの距離(Bohr)
図.水素原子のHOMOの
交換自己相互作用エネルギーの積分核
LDA以外のどの汎関数でも,
交換自己相互作用エネルギーは
クーロン自己相互作用エネルギー
とほぼ相殺する
自己相互作用エネルギーの誤差は,
軌道エネルギーを定量的に
与えられない原因ではない
原子核からの距離(Bohr)
図.水素原子のHOMOの
交換積分核fx=dvx/d を通しての
交換自己相互作用エネルギーの積分核
LC‐DFTのみが交換積分核を通しても
クーロン自己相互作用とほぼ相殺する
なぜLC‐DFTは希ガス原子では良くないのか?
原子核からの距離(Bohr)
図.ヘリウム原子のHOMOの
交換自己相互作用エネルギーの積分核
(交換汎関数部分のみ)
どの汎関数でも交換自己相互作用
エネルギーはクーロン自己相互作用
エネルギーとほぼ相殺する
LC‐DFTとLDAだけは少し誤差が大きい
原子核からの距離(Bohr)
図.ヘリウム原子のHOMOの
交換積分核fx=dvx/d を通しての
交換自己相互作用エネルギーの積分核
LC‐DFTですら,交換積分核を通しての
交換自己相互作用を小さく与える
短距離交換の誤差が原因している?
LC‐DFTが正しい軌道エネルギーを与える場合
原子核からの距離(Bohr)
LUMO = 2.653 eV
垂直EA = ‐2.653 eV
図.ヘリウム原子のLUMOの
交換自己相互作用エネルギーの積分核
長距離交換が非常に大きいので,
LC‐DFTは若干大きく与えるが,
破たんはしない
LYP相関を使うと破たんする
補正なしのB88交換の値も大きすぎる
原子核からの距離(Bohr)
図.ヘリウム原子のLUMOの
交換積分核fx=dvx/d を通しての
交換自己相互作用エネルギーの積分核
LC‐DFTのみ,交換積分核を通しても
交換自己相互作用が
クーロン自己相互作用と相殺する
エネルギー成分の比較
図.ヘリウム原子のHOMOとLUMOの交換積分核fx=vx/ を通しての
交換自己相互作用エネルギーの積分核のエネルギー成分ごとの比較
原子核からの距離(Bohr)
原子核からの距離(Bohr)
ヘリウム原子のHOMO
ヘリウム原子の
LUMO
LC‐DFTの軌道エネルギーの誤差は,短距離交換の交換積分核fx=vx/を通しての
自己相互作用誤差が原因
軌道エネルギー計算には長距離補正が必要
LC‐DFTは価電子軌道エネルギーを化学的精度で与えるので,短距離交換の交換積分核を通して
の誤差は,一般的な分子ではさほど大きくないはず
化学反応と軌道エネルギー
1.00
反応にともなうGlobal hardnessの変化
[Singh & Tsuneda, J. Comput. Chem., in press.]
ƞ – ƞreactant (eV)
0.80
0.60
遷移状態
0.40
0.20
B3LYP
LC‐BOP
0.00
‐0.20
0.04
E – Ereactant (hartree)
図.1,3‐butadiene+ethyleneのDiels‐Alder
反応におけるGlobal hardness
(HOMO‐LUMOギャップの半分)の変化
生成物
B3LYPは反応過程全体にわたって
単調増加するGHを与える
0.02
B3LYP
LC‐BOP
0.00
‐0.02
LC‐BOPは遷移状態付近までほぼ一定
で,その後急激に増加するGHを与える
‐0.04
LC汎関数による軌道エネルギーは
化学反応の解析にも利用可能
‐0.06
‐0.08
‐0.10
‐0.12
反応物
Intrinsic reaction coordinate
スピン軌道相互作用の与える効果
図.希ガス原子のクープマン
イオン化ポテンシャル() .
16
Ar 3P1/2
Ar 3P3/2
Kr 4P1/2
Kr 4P3/2
Xe 5P1/2
Xe 5P3/2
Rn 6P1/2
Rn 6P3/2
15
14
Ionization potentials (eV)
[Nakata, Tsuneda & Hirao, JCP, 135, 224106, 2011.]
13
12
SCF法で分裂した軌道に対する
イオン化ポテンシャルを求めるのは,
電子の出し入れで分裂がこわれるので
難しい
LC‐DFTは,もっとも苦手な希ガス原子の
イオン化ポテンシャルすら,圧倒的に
正しく与える
11
表.希ガス原子のイオン化ポテンシャル
のスピン軌道分裂
10
9
Ar
Kr
Xe
Rn
8
7
LDA
0.194
0.656
1.135
3.226
BLYP B3LYP LC-BLYP Exptl.
0.191 0.200
0.203
0.178
0.645 0.671
0.696
0.665
1.113 1.157
1.225
1.306
3.169 3.312
3.518
6
LDA
BLYP
B3LYP LC-BLYP Exptl.
スピン軌道分裂自体は,原子が重い場合
に汎関数によって大きく異なる
内殻軌道エネルギー
LC‐DFTは,水素原子や希ガス原子のHOMOだけではなく,分子の内殻1s軌道の
軌道エネルギーもかなり小さく与える
表.内殻1s軌道と水素・希ガス原子のHOMOエネルギーの平均絶対誤差 (eV)
BOP
B3LYP
LC-BOP
LC-PSRSIC-BOP
1s IPKoopmans
25.5
16.9
19.2
1.2
H, He, Ne IPKoopmans
7.9
6.0
2.2
0.9
LC‐DFTが価電子軌道エネルギーを高精度に与えるのに,内殻軌道エネルギーを
非常に小さく与えるのは,ab initio DFTにおいて厳密交換+CCSDTレベルの
相関ポテンシャルを使った場合と似かよった問題
LC‐DFTの問題は,擬スペクトル領域的自己相互作用補正(PSRSIC)を使うと解決
⇒問題の原因は内殻電子に関する自己相互作用誤差