中国(中華人民共和国) 2013/11/16 メンバー:鈴木、松下 <基本情報> 面積: 約 960 万平方キロメートル(日本の約 26 倍) 人口:13 億人 首都:北京 (人口:2069 万 3 千人) 言語:漢語(中国語) 人種:漢民族(総人口の 92%)及び 55 の少数民族 宗教:仏教・イスラム教・キリスト教 名目 GDP:8,227,106 百万 US ドル 一人当たり GDP: 6,076 ドル(JETRO、2012 年) 識字率: (男性:96.3% 女性 89.5%) 2008 年 9 月ユネスコ統計研究所 推計値 通貨:人民元(1ドル=約 6.2 元) (2012 年末) (中国国家外国為替管理局) 政体:人民民主共和制 国家主席:習近平(2013 年 3 月 14 日‐第七代国家主席) 在日中国人数:652,555(法務省、12 年 12 月) 観光都市:上海、北京、香港(マカオ) 、西安、四川 主要産業:繊維、食品、化学原料、機械、非金属鉱物 略史: 1911 年 辛亥革命がおこる 1912 年 中華民国成立、清朝崩壊 1921 年 中国共産党創立 1949 年 10 月 1 日 中華人民共和国成立 中国(民族差別)統一資料 1 <司法アクセス概観> 中国(民族差別)統一資料 2 <発表内容> テーマ: 中国 少数民族問題. ◆国際的意義、中国の民族問題、発表の方向性 日本を含め、歴史上世界には数え切れない民族紛争が存在する。中国の民族問題は、そ の一つとして数えられる。チベットなど中国の民族問題の動向は常に注目されるトピック である。それは、個々人の人権の重要性が強く認識されるようになった国際社会にあって、 少数民族といったマイノリティの人権保護が多民族国家の課題として常に存在するからで ある。アイヌ民族や在日韓国人・中国人のいる日本も決して民族問題を無関係とはできな い。 2008 年のチベット暴動や 2009 年のウイグル暴動、2011 年の内モンゴルの暴動は、中国 で普段抑えられている民族問題が表出したものであった。その原因には様々な要因が考え られるが大別すると、複数の民族間における「経済的不満」や「文化的摩擦」が民族問題 の根幹を成すものだと思われる。そこで、経済分野と文化分野の 2 方向から、民族問題を 分析することが有用である。 具体的には、民族問題の特に重要な内容である「民族間の経済格差」と「文化の喪失」 をとり上げ、その問題に対する中国政府の民族政策を分析する。ここで気をつけることは、 巷の認識に沿って民族問題を「政治問題」としてのみ捉えるのではなく、 「法的問題」つま り政策の制度的な問題として捉えなおしてみることである。民族問題を別の面から分析す ることで、また違った像を描くことが可能になる。 ◆中国の民族政策 中国の民族政策は、端的にいえば少数民族に自治権を与えるものである。ただし、その 自治権の行使主体は地方政府である。これが中国の民族政策の特殊なところである。特定 の民族が集中的に暮らしている地域を指定し、そこを「民族自治地方」という行政区とす る。その自治地方の「自治政府」は、通常の地方行政に加え、条例の制定という形で少数 民族のために自治権を行使する。中国でいう自治権とは、少数民族個人が裁判で請求でき るような権利ではないのである。以上のことが、民族区域自治法に定められている。 ◆民族間の経済格差 (経済自治権) ①内モンゴル自治区の例のように、中国では都市部と農村部との間に経済格差が広まって いる。ところが新疆ウイグル自治区では、都市部に漢族が多く住み、農村部にウイグル族 が多く住んでいることで、都市・農村間の経済格差が、民族間の経済格差ともなるのであ る。このとき、経済格差が民族問題として現出する。 中国(民族差別)統一資料 3 ②このような少数民族に不利な格差を是正するために、経済自治権は行使される。 ③しかし、その経済自治権が行使される途上に、多くの問題が浮上してくる。 □中央の補助金に依存する自治地方財政 □「国家計画の指導」を受ける経済自治権 □自治権を行使するため条例を制定する際、中央政府の承認が必要 ◆民族文化の喪失 (教育自治権) ①内モンゴルにおいては、学校教育を受けるモンゴル族の子どもの人口は年々増加してい る。ところが、モンゴル語による教育を受けるモンゴル族の子どもの比率は、むしろ低下 しているのである。言語習得において、教育でどの言語が使われるかは非常に大きな影響 を持つ。中国語の浸透に反比例し、民族言語を話せる人口は着々と減っているのが現状で ある。 ②民族教育というのは、自民族の文化を伝え、民族のアイデンティティを維持するのに必 須の役割を担う。 ③中央の教育政策や、学校の現状に柔軟に対応するためにも、教育自治権の有効的な運用 は不可欠である。しかし、それを阻む問題がある。 □民族教育の内容の形骸化 □教育自治権の実効性の欠如 ◆他国の法制度からの解決策の示唆 ◆ノルウェー 北欧のスカンディナビア半島北部からコラ半島一帯はラップランドと呼ばれ、先住民 族サーミ人の居住地となっている。 ノルウェーでは 1989 年にサーミ議会という機関が発足した。サーミ議会は、法律を 制定する権限も税金を徴収する権限もない。しかし、サーミの利益に直接影響する立法 や行政措置について、選挙で選ばれた議員がサーミ人を代表して中央政府と直接協議の 場を持つことができる。 複数の民族を構成員とする自治政府が自治権を行使する中国の民族区域自治制度で は、主体となる少数民族の要請を確実に政治に反映するための制度的工夫が必要である。 サーミ議会を参考に各自治地方に主体民族のみの議会を作り、自治権の行使つまり自治 条例等の制定につき、中央政府か少なくとも自治政府の間で協議の場を持てる制度が考 えられる。 ◆日本 日本の地方自治法 242 条 1 項は「普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体 …について、違法…がある…と認めるとき、又は違法…に…財産の管理を怠る事実…が あると認めるときは、…監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是 中国(民族差別)統一資料 4 正し、…必要な措置を講ずべきことを請求することができる」と規定する。 中国の民族自治権については立法不作為や権利侵害がしばしば生じる。民族区域自治 を真に実効性あるものにするために、外部監査制度の導入は必須である。 <キーワード> □民族区域自治法 現行の民族区域自治法律制度は、民族区域自治という中国の民族政策を法律制度の上に 表現したものである。民族区域自治とは、国家の統一的指導の下に、各少数民族の集居し ている地方が区域自治を実行し、自治機関を設立し、自治権を行使することをいう。 民族区域自治法は、民族関係と民族区域自治関係を調整する法律規範の総称をいうものと 定義できる。 □自治権 自治権とは、自治機関が憲法と法律に照らして、当地の民族の政治、経済、文化の実際 の状況に基づき、当該地方、当該民族の内部事務を自主的に管理する特定の権利と定義で きる。 自治権の内容は様々であるが、以下のように 3 種に大別できる。①政治面の自治権、② 経済管理の自治権、③教育科学等を管理する自治権である。 □経済自治権 民族自治地方における経済自治の基本的な内容は、民族自治地方の①財政、②経済、③ 貿易の管理である。すなわち、民族自治地方の自治機関が地方財政、経済、貿易の事務を 自主的に管理することが、経済自治である。 □教育自治権 教育自治権とは、憲法、民族区域自治法や教育法の中の民族区域自治地方の教育に対す る自治権をいい、主に次の 3 つの権利を含んでいる。 ①当該少数民族自治地区の政治、経済、文化の特徴に基づいて教育関係の単行条例を制 定する権利 ②上級機関の決議、決定、命令、指示が自治地方の実情に適合しない場合は弾力的に執 行するか、執行停止を命じる権利 ③国家の教育方針と法律に基づき、自治地区の教育計画、学校の設置、教育内容、使用 言語・文字などを決定する権利 中国(民族差別)統一資料 5 <追加資料> 中華人民共和国憲法 112 条 民族自治地方の自治機関は、自治区、自治州、自治県の人民代表大会および人民政府であ る。 中華人民共和国民族区域自治法 6 条 ①民族自治地方の自治機関は、各民族人民を指導し、全力をあげて社会主義現代化建設を 進める。 ②民族自治地方の自治機関は、当該地方の上京に基づき、憲法および法律に違反しない原 則の下で、特別の政策および弾力的措置を講じて民族自治地方の経済、文化建設事業の発 展を速める権限をもつ。 ③民族自治地方の自治機関は、国家計画の指導の下で、実際から出発し、労働生産性およ び経済効果を絶えず高め、社会的生産力を発展させ、各民族の物質的生活水準を徐々に高 めていく。 ④民族自治地方の自治機関は、民族文化の優れた伝統を継承、発揚し、民族的特長を具え た社会主義精神文明を建設し、各民族人民の社会主義的自覚および科学文化水準を絶えず 高めていく。 中華人民共和国民族区域自治法 19 条 民族自治地方の人民代表大会は、当地の民族の政治、経済および文化の特徴に照らして、 自治条例および単行条例を制定する権限を有する。自治区の自治条例および単行条例は、 全国人民代表大会常務委員会に報告し、承認された後に効力を生ずる。自治州、自治県の 自治条例および単行条例は、省、自治区、直轄市の人民代表大会常務委員会に報告し、承 認された後に効力を生じ、またこれを全国人民代表大会常務委員会および国務院に報告し、 記録に留める。 中華人民共和国民族区域自治法 25 条 民族自治地方の自治機関は、国家計画の指導の下で、当該地方の特徴と必要に基づき、経 済建設の方針、政策および計画を制定し、地方性の経済建設事業を自主的に割り当てて管 理する。 中華人民共和国民族区域自治法 29 条 民族自治地方の自治機関は、国家計画の指導の下で、当該地方の財力、物力およびその他 の具体的条件に基づき、地方基本建設プロジェクトを自主的に割り当てる。 中国(民族差別)統一資料 6 日本地方自治法 242 条 1 項 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は 当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管 理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該 行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。 )と認めるとき、又は 違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る 事実」という。 )があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監 査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該 行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために 必要な措置を講ずべきことを請求することができる。 <参考文献> 大西広『チベット問題とは何か “現場”からの中国少数民族問題〔初版〕』(かもがわ出版、 2008 年) 呉宗金(西村幸次郎監訳)『中国民族法概論〔初版〕 』(成文堂、1998 年) 加々美光行『中国の民族問題 危機の本質〔初版〕 』(岩波書店、2008 年) 小林正典『中国の市場経済化と民族法制〔初版〕 』(法律文化社、2002 年) 佐々木信彰『現代中国の民族と経済〔初版〕 』(世界思想社、2001 年) 西村幸次郎『中国少数民族の自治と慣習法〔初版〕 』(成文堂、2007 年) グローバル化と中国の少数民族政策の変容 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?file_id=62430 遊牧を禁じられた内モンゴルの遊牧民=草原と風車とレアアース―中国 http://kinbricksnow.com/archives/51850285.html レコードチャイナ 中国、少数民族自治区の自治条例制定に乗り出す http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=40909 高成長の利益は漢族が独占、ウイグル族の失業率は 70%以上に http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=43568 中国の民族区域自治 (北京 2005 年 国務院報道弁公室) http://japanese.beijingreview.com.cn/wxzl/txt/2007-02/06/content_56358.htm ダライ・ラマ法王日本代表部事務所 チベットと国際情勢 http://www.tibethouse.jp/international/inter1.html 中国行政法 Q&A http://www.spc.jst.go.jp/experiences/chinese_law/12006.html 中国(民族差別)統一資料 7 Human Rights Watch 国連加盟国はチベットでの人権危機に取り組むべき http://www.hrw.org/ja/news/2012/09/21 小野寺理佳「サーミ議会の構成と活動」 李復屏「中国内モンゴルにおける地域経済格差の実態と要因分析」 哈斯額尓敦「中国少数民族地域の民族教育政策と民族教育の問題」 費燕「新疆におけるウイグル族の中国語教育、学習の現状について」 亡来夫「中国における民族自治地方の立法自治権の現状と課題」 呉東鎬「中国民族区域自治モデルの基礎理念および実現ルート」 中国(民族差別)統一資料 8
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