-267- 第 3 節 市場調査 【解説】 下水処理に伴う汚泥は永続的に発生

第 3 節
市場調査
§15 市場調査の必要性
下水汚泥の建設資材化は、市場調査によって一般市場での利用の可能性等を的確に把握したう
えで、事業化することが必要である。
【解説】
下水処理に伴う汚泥は永続的に発生し、今後も下水道の普及とともに増加していく。近年になって
下水汚泥が有効活用されるようになってきているが、いまだに埋め立て処分の割合が高く、今後処分
地の確保が困難になることは明白である。
そこで、下水汚泥の建設資材化による有効利用を推進し、下水道事業を安定的に運営していくこと
が重要となってくる。
更に、地球的規模での資源枯渇問題やゼロエミッションに向けた取組みなど、社会的な要請も高ま
っている。
今後、下水汚泥を建設資材として安定的に利用していくためには、製品化を進める前に市場調査を
行い、一般市場での利用の可能性、市場の規模、中期的な需要見込み、購入希望価格、受渡し形態等
を的確に把握したうえで事業化することが必要である。
§16 市場調査の目的
市場調査とは社会の変化と需要の変質を見極め、何をすべきかの判断材料とするマーケティ
ング要素である。
市場調査は①需要、②販売効率、③事業環境の三つに分類され、この三つの観点から行うこ
とが望ましい。
【解説】
(1)目 的
市場と呼ばれる場は、ある商品やサービスに使用価値を見出し、それに対価を払う人や団体の集
団である。その集団は時間の流れとともに増加、減少したり、変質する。その要因としては、人の
趣向の変化、技術開発による新製品の登場、周辺環境(社会環境)の変化等があげられる。
市場調査とは、このような市場の量的変化や質的変化を明確化していくことである。つまり、過
去から現在について市場の状況を掌握し、その市場の将来を予測することが市場調査といえる。市
場調査はマーケティング活動の主要な柱で、下水汚泥建設資材化の検討のためには重要な判断材料
を得る方法である。
(2)分 類
市場調査は、市場へ商品を提供する事業の判断材料とすることから、①需要の分析、②販売効率
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の分析、③事業環境の3つの視点から行うことが望まれる。
表5-4 市場調査の分類
市場調査の分類
①需要の分析
②販売効率の分析
③事業環境の分析
導
き
出
す
内
容
商品の生産量、販売量等から市場の規模や状況を掌握
・需要量(市場規模と動向、市場実態、今後の予測等)
・需要先(購買動機等)
・需要者要望との適合性
・その他
商品の販売方法等から流通の状況や特性を掌握
・販売経路(流通経路の構成、流通業態の変化等)
・販売方法(営業活動、受発注方法、アフターサービス等)
・需要先(購買動機等)
・販売促進(広告宣伝策、販売促進策等)
・流通経路の必要性と選択(既存経路、新規経路の開拓等)
・その他
事業展開上、影響のある周辺事情を掌握
・社会経済環境(景気動向、業界動向、業界の将来性等)
・競合関係(競合企業の状況、競合商品の有無、新規参入状況等)
・経営状況の変化(事業性、事業体制、経営手法の変化等)
・他市場の影響度
・政治、法律等の影響
・その他
§17 市場調査の方法
市場調査の方法は実態調査と文献調査に大別される。調査には様々な手法があり、調査する対
象や調査する項目によって選択される。
【解説】
(1)市場調査の方法
市場調査の方法は、現状の実態を把握する実態調査と統計資料など既存の調査結果を活用する文
献調査に大別できる。
実態調査は、「調査」という形で実施されるだけではなく、日常的な販売活動や広告・宣伝活動
の現場においても行われる。日々の事業活動から市場や環境の変化を感じ取り、その変化に合わせ
て事業活動の手法や進め方を変えていくことである。
文献調査は「内部資料の利用による調査」と「外部資料の利用による調査」の二つの方法がある。
対象となる商品や顧客が限定されればされるほど、既存の調査データが存在、あるいは公開され
ている可能性が少なく、実態調査の必要性が増してくる。実態調査は新たに調査を実施する必要性
があるため文献調査よりも業務量が増え業務費用が高くなる傾向がみられる。
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市場調査の方法を、表5-5に示す。
表5-5 市場調査の方法
市場調査の分類
調査の種類
①実態調査
・消費者調査
・企業調査
・メーカー調査
・卸売業者調査
・小売業者調査
・その他
②文献調査
・業界統計調査
・政府統計調査
・各種データベース
・その他
(2)市場調査の形態
市場調査の形態を大きく分けるとヒアリング調査(聞き取り調査)、アンケート調査(自己記入
式)に分けられる。
表5-6 市場調査の形態
調査の形態
ヒアリング調査
アンケート調査
取材方法
直接、間接
直接、間接
調査対象の抽出
・任意
・特定
・任意
・標本
調査特性
・郵送
・面接
・電話、FAX
・電話(FAX)
・面接
・グループインタビュー
・インターネット
・その他
・その他
定量的、定性的
定量的
コスト
高い
調査方法
安い
§18 市場調査の内容
市場調査とは市場の規模と動向を正確に掌握して、将来の判断材料とすることである。
【解説】
的確なマーケティングを展開するためには、市場調査によって市場の規模と動向を正確に掌握して、
将来の判断材料とすることが重要である。
(1)市場規模
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市場規模は生産者による製品の出荷段階の市場規模(出荷市場規模)と、消費者による購入段階
の市場規模(小売市場規模)の2つに大きく分かれる。
1)出荷市場規模
出荷市場規模は、生産者にとっての商品戦略、生産体制、投資規模を考える指針である。
例えば、インターロッキングブロックを生産している各生産者の毎年の販売量を調査・集計す
ることにより、年間出荷量の推移や生産者占有率の変化が明らかになり、インターロッキングブ
ロックにおける各生産者の位置付けが把握できる。
2)小売市場規模
小売市場規模は、流通業者にとっての指針であり、商品の最終的な使用者(消費者)に渡った
段階での市場規模である。
例えば、インターロッキングブロックでは自治体等の施主が購入した段階の市場規模、地域別
販売量、販売経路別販売量等がわかり、広告、宣伝の指標にもなる。出荷市場規模との差異を比
較、検討することで流通コストや販売効率等を捉えることができる。流通戦略や営業戦略(直販、
ルート販売、営業拠点、人員等)を決定する際の判断材料にもなる。
(2)市場動向
市場調査に当たっては、現在の状況を知るだけではなく、どう変化してきたのか、どう変化して
いくのかといった推移を市場動向として捉えることが重要である。過去の市場動向を様々な角度か
ら考察することで、より正確な今後のゆくえ、将来の方向性を予測することができる。
市場動向の判断要素について、現在から将来に関する市場動向の仮説を構築して、その仮説どお
りになった場合、マーケティングの4P(商品開発、価格設定、流通方法、販売促進)がどうなる
のか、どういった戦略を行うべきかを考えて事業を進めていくことが望まれる。以下に、市場動向
の判断要素をあげる。
1)市場規模の推移と予測
2)当業界に影響を与える要因分析
法律、景気動向(設備投資等)、他商品(住宅、建築、リフォーム動向等)、その他
3)消費者動向、性向
所得、購入商品、ライフスタイルの変化、その他
4)販売効率
販売経路、販売方法、営業活動、販売促進、その他
5)企業環境
経営状況の変化、競合企業の状況(市場占有率、技術等)、参入障壁、その他
6)技術革新
必要技術の変化、技術改革の方向性、技術改革による商品の変化(機能、価格等)
7)その他
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§19 下水汚泥利用製品の市場調査
下水汚泥利用製品を建設資材等として安定的に利用していくためには、その特性を考慮した市
場調査を行うことが重要である。
【解説】
(1)下水汚泥利用製品の特性
下水汚泥を建設資材として利用する場合には以下のような特性に配慮する必要がある。
下水汚泥は継続して発生するため、自治体で製品を製造する場合は一定量で製造し続けなくては
ならず、製品の需要に応じた生産や在庫調整をすることが難しい。製品の利用時期に偏りがある場
合は膨大なストックヤードが必要となる。
また、製品によっては下水汚泥のイメージからスムーズに市場で受け入れられない場合が多い。
そこで、公共事業での利用による需要拡大、
自治体間や自治体内の部署ごとの協力体制が望まれる。
自治体が直営で販売する場合には、
地方自治法や会計・経理関係規則等の法制度面の関係により、
事務手続きや取引が民間企業の取扱いと異なり煩雑になるため、民間企業のような効率的な事業展
開ができず、販売効率が低下することも考えられる。
更に、下水道事業に企業会計を採用しているところでは、財産としての製品の貯蔵品管理を行う
ための新たな組織的、人的対応が必要となる。
(2)下水汚泥利用製品の市場調査
下水汚泥利用製品の市場調査においては、①一般的な市場での利用可能性、②中長期的な需要見
込、③競合製品価格、④受渡し形態等に特に重点をおいて行う必要がある。
例えば、大阪市では、汚泥焼却灰を利用した浸透ブロックを製造するに際し、事業実施に先立っ
て市場調査を行った。試験施工による製品について、品質と施工性、透水性等の機能確認を行うと
同時に、ブロック舗装材全般を対象に市場規模と流通経路を調査し、商品性の評価、生産、流通、
販売上の管理、先行事例の調査を行っている。
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