シャープ技報 第76号・2000年4月 ディジタル複合機 LIBRE / LIBRE mini シリーズ Digital Multifunction Device “LIBRE/LIBRE mini Series” 小 倉 充 *1 Mitsuru Ogura 辻 井 利 典 *1 Toshinori Tsujii まえがき こうした時代を予見し,当社独自のコア・コンピタ ンスである, ディジタル画像処理技術/小型化精密設 計技術/光学技術/ソフト制御技術等を集大成して, 独自特長を有し, コスト競争力に優れた世界初のパー ソナルディジタル複合機シリーズを他社に先駆けて商 品化した。 これらの複合機は LIBRE / LIBRE mini シリーズの 愛称のもと,1998 年 6 月から生産を開始した。 以下に当シリーズの製品概要, 及び技術的特長の概 要について紹介する。 1 . 製品概要 LIBRE / LIBRE mini シリーズは,8枚機(以下 LEO という),10/12/15 枚機(以下 PUMA という),16/20 枚機(以下 PANTHER という)の3シリーズから構成 されている。 各シリーズの基本構造は, ディジタル機のベースエ ンジンとして A4 サイズ用 PUMA を新規開発し,更に 同一設計構想のもとに, 用紙搬送系の断面構造を同一 方式とした A3 サイズ対応の PANTHER を開発した。 一方 LEOは,現有の小型 A4 レーザプリンタエンジ ンを基礎技術に,小型スキャナを新規に開発し,世界 最小ディジタル複合機として商品化した。 こうした一連の商品開発により,LEO,PUMA, PANTHER の3シリーズで,8 ∼ 20 枚機までのフルラ インアップ化を完成させた。 *1 ドキュメントシステム事業本部 ドキュメント第2事業部 第1技術部 * ドキュメントシステム事業本部 ドキュメント第2事業部 商品企画部 貴 志 信 哉 *2 Nobuya Kishi 以下に全シリーズ各々の主な特長,製品仕様(表1) , 製品概観(写真1)を示す。 ディジタル化, ネットワーク化が凄まじい勢いで進 展する環境下,ITの加速的な進化,インターネット/ イントラネット化による機器需要の拡大,ソリュー ションビジネスの増加などが, ドキュメント処理に対 する急激な市場変化をもたらしている。 2 鈴 木 通 之 *1 Michiyuki Suzuki 1・1 LEOシリーズ 注1) A4 読取/ A4 複写,複写速度毎分8枚の世界最小 パーソナルディジタル複合機。(写真1(a) (b)) (1)コンパクトなボディに, 「コピー」 「プリンタ」 「ファクス」 「スキャナ」注 2) の機能を凝縮した SOHO(Small Office Home Office)/パーソナ ルユースに最適なマルチファンクション機。 (2)独自の「文字・写真領域分離検知方式」,書込 み解像度 600dpi による鮮明コピー。 注 2:搭載する機能は機種により異なる。 1・2 PUMAシリーズ 注1) B4 読取/ A4 複写,複写速度毎分 10 枚 /12 枚 /15 枚 のパーソナルディジタル複合機。(写真1(c) (d) ) (1)独自の「文字・写真領域分離検知方式」,書込 み解像度 600dpi による鮮明コピー。 (2)排紙部が本体内に納まったウイングレスデザ インにより,当社従来機(Z-830-H)に比べ約 28% 減の省スペース化を実現。 (3)ユーザの用途に応じた,プリンタ機能/ファク ス機能の複合モデルをラインアップ。 1・3 PANTHERシリーズ 注1) A3 読取 /A3 複写,複写速度 毎分 16 枚 /20 枚の普及 型ディジタル複合機。(写真1(e)(f) ) (1)本体内排紙で,奥行きがスリムでオフィスに フィットする“スマートウイングレス”デザイ ン。当社従来機(SF-2020)に比べ約 40% 減の 省スペース化を実現。 (2)独自の「文字・写真領域分離検知方式」,書込 み解像度 600dpi による鮮明コピー。 (3)スーパー G3ファクス,ネットワークプリンタ 機能に対応。 (4)自動的に丁合して出力する電子ソート機能な ど,多才なディジタル機能を実現。 ― 86 ― ディジタル複合機 LIBRE/LIBRE mini シリーズ (a)AL-841 (b)AL-880 (d)AR-F151 (e)AL-1600 写真1 LIBRE/LIBRE mini シリーズ (c)AL-1200 (f)AR-F160/F200 表1 製品仕様(各シリーズの代表機種を記載) 基本仕様 コピー機能 プリンタ機能 ファクス機能 スキャナ機能 シリーズ名 形名 形式 書込み解像度 用紙セット枚数 原稿自動送り装置SPF 現像方式 定着方式 寸法(mm) (幅×奥行×高さ) 機械占有寸法(mm) (幅×奥行) 質量(kg) 原稿台方式 複写方式 原稿サイズ 複写サイズ 複写速度(A4) 連続複写 ウォームアップ/ファーストコピー 印刷速度 印刷解像度 プリンティング方式 インタフェース 排紙方式 メモリ容量 相互通信 送信原稿サイズ 記録紙サイズ 電送時間(A4標準原稿) メモリ容量 解像度 階調 方式 インタフェース LEO AL-880 PUMA PANTHER AR-F151 AR-F200(プリンタ機能はオプション) デスクトップ型 600dpi 最大600枚 最大250枚 最大550枚 標準装備 非磁性一成分現像方式 非磁性二成分現像方式 加圧ローラ定着方式 ヒートローラ定着方式 590×531×650 460×425×307 518×483×381 883×531 460×650 809×483 41 13.3 22 固定式 レーザ静電複写方式 最大A3 最大A4 最大B4 A3∼A6 A4∼A6 20枚/分 8枚/分 15枚/分 1∼50枚 1∼99枚 35秒/7.2秒 0秒/11秒 0秒/9.6秒 20枚/分 8枚/分 1200dpi相当(スムージング時) 600dpi SPDL2(PCL6) シャープGDI IEEE1284/ネットワーク (オプション) IEEE1284 IEEE1284/USB フェイスアップ フェイスダウン 8MB(Max 136MB) 6MB スーパーG3/G3 G3 最大A3 最大A4 最大B4 A3∼A5 A4∼B5 約3秒 約6秒 2MB(Max 10MB) 2MB ― 300/400/600dpi ― ― 2値/誤差拡散 ― ― TWAIN 1.6 ― ― IEEE1284 ― ― 87 ― シャープ技報 第76号・2000年4月 こうした他社を凌駕する特長に加え, 機能的デザイ ンや商品性も市場で高く評価され, 以下に示す多数の 賞を受賞した。 (1) LEOシリーズ ・(財)日本産業デザイン振興会: グッドデザイン賞 ・Industrie Forum Design Hannover: iF Design Award 2000 (ドイツ国内販売製品のデザインに対する受賞) ・2000 International CES (Winter CES) : Small Office / Home office INNOVATIONS 2000 (2) PUMAシリーズ ・(財)日本産業デザイン振興会: グッドデザイン賞 (3)PANTHER シリーズ ・(財)日本産業デザイン振興会: グッドデザイン賞 ・Industrie Forum Design Hannover: iF Design Award 2000 (ドイツ国内販売製品のデザインに対する受賞) ・ドイツ FACTS 紙: SEHR GUT(Very Good)評価 ・米国 Better Buy for Business 誌: Editor's choice (2)小領域の画像領域に対して,テクスチャー解 析からテクスチャー情報を算出。 (3)物体の境界線を抽出した画像領域に対して, 形状解析から形状情報を算出。 上記特徴量から, 三次元ルックアップテーブルを使 用して,下記領域への分離に成功した。 (1)銀塩写真のような滑らかな階調を持った写真 画像領域。 (2)布の織目のような繰り返しパターンを持った 点画像領域。 (3)手書き文字や印刷文字画像領域。 領域分離された各画像データは, それぞれに最適な 空間周波数フィルタ技術と補正技術により,高精細 画質を達成させた。 (図1) 図1 ディジタル画像処理 注 1:LEO, PUMA, PANTHERは社内開発コードであり,実際 の製造・販売にあたって,かかるコード名は使用して いません。 2 . 新規要素技術 2・1 ディジタル画像処理技術 全シリーズに搭載した新規画像処理技術は, 独自領 域分離アルゴリズムを採用することにより,文字/写 真画像が混在した原稿に対しても, 中高速機に迫る高 画質を実現させ,細かな文字をくっきりと,写真は微 妙な中間調までも階調豊かに再現させている。更に, この画像処理システムは, 複数のラインメモリを外付 けの SRAM で代用することでゲート数を削減させて いるほか,従来機では複数搭載していた画像処理デバ イスをワンチップ化することにより, システム価格を 従来同等装置品の1/5まで大幅削減して商品に実装す ることができた。 こうした技術を創出できた背景には, 下記3種類の 解析手法から特徴量を算出する領域分離アルゴリズム を開発した事にある。 (1)小領域の画像領域に対して,濃度解析から濃 度情報を算出。 2・2 小型化精密設計技術 PUMA/PANTHERは,パーソナルアナログ機開発で 蓄積した精密技術を基礎にした高精度用紙搬送系,ま たキセノンランプ採用による低消費電力のスキャナ光 学系, 更に独自開発のレーザ書き込み系等を有機的に 結合させ,本体内フェースダウン排紙ウイングレス構 造の省スペース商品を実現させた。 特に PUMA では,3次元シミュレーション解析を 駆使した開発による排紙部開放構造は, 軽量化と操作 性に大きく寄与し,優れたデザインをも提供すること ができた。 一方 LEO は,スキャナ部に,更に低消費電力の冷 陰極管を採用し,スキャナユニットはPUMA比で,容 積比 2/3,価格1/2 を達成した。そして小型プリンタエ ンジンユニットとの結合により,世界最小のディジタ ル複合機を完成させた。 また,アナログ複写機の基本技術を踏襲し,徹底し た高信頼度設計を採用し,特に環境条件,振動,落下 など,各種社内規定された評価基準値に対しては,基 準値の 1.5 ∼ 2 倍の過酷条件下で評価したこと,更に 開発関連部門が一体となった「コンカレント開発」に よる,一貫した「造りやすさ」と「使いやすさ」等, ― 88 ― ディジタル複合機 LIBRE/LIBRE mini シリーズ 新規ディジタル機の商品としての信頼性を徹底して追 及し開発した。こうした基本設計に加え,従来アナロ グ機比10%の部品点数削減による簡易構造が,安定し た信頼性を提供している。 2・3 ソフトウェア制御技術 ここでは,上位モデルPANTHERシリーズのソフト ウェア制御技術の特長を述べる。 2・3・1 モジュールソフトウェア構成 ソフトウェア構成は, 独立分散型のソフト設計思想 を導入することにより, 独立性の高い機能別モジュー ル化を実現した。 (図2)特に, 「アプリケーション層」 と「制御層」の分割化は,個々の独立した設計と評価 が可能となり,開発効率の向上に大きな効果をもたら せた。 マルチアクセスを容易にするため, ソフトウェアの 階層構造は,従来の「制御層」と「アプリケーション 層」の2階層構造ではなく,シーケンスの生成を受け 持つ「中間層」を加えた3層構造とした。こうしたソ フトウェア構造のもと,更にコンパクト・高性能のリ アルタイムOSの採用と,16bit 1chip CPU構成により, 高レスポンスのディジタルコピア機能を提供した。 また,低機能機から高機能機まで,ソフトウェアの 共用化により,開発及びテスト効率を向上させ, PANTHER 全 21 機種のシリーズ展開を6ヵ月の短期 間で商品化した。 2・3・3 解析モニタ また,PANTHER シリーズは,サービスポート増設 により,解析モニタを構築し,実機ベースでリアルタ イムに内部ソフト処理情報を外部パソコンに経過別に 記録できるシステムを採用している。(図4) これは,品質確認のみならず,遠隔地あるいは生産 拠点で発生する極めて頻度の低い問題の早期発見と, サービス性の向上に大きく貢献している。 図2 ソフトウェア構成 2・3・2 マルチアクセス可能な階層構造 ソフトウェア構造は,プリンタ,ファクス,コピー の3機能を有したマルチファンクション機を, システ ムとして機能させるために, 「制御層」を「プリンタ 制御」と「スキャナ制御」に分離し,各々を組み合わ せるシーケンス生成によりコピー機能を実現させた。 (図3) 図3 ソフトウェア構造 図4 解析モニタ 3 . モデル展開 当ディジタル複合機シリーズは, ディジタル処理の 特長を生かし,複合させる機能をモジュール化するこ とで,ユーザニーズに応じた幅広い商品群展開(モデ ルバリエーション)を可能とした。 現在商品化しているモデルを表2に示す。 PUMA / PANTHER は「原稿自動送り装置(SPF) 」, 「給紙ユニット」 ,更に PANTHER は「両面原稿自動送 り装置(R-SPF) 」, 「電子ソートボード」, 「ジョブセパ レータ」, 「プリント・サーバ・カード」等の高機能が オプションで装着できる。 これらオプションと本体と の有機的な結合により,モデル数は全シリーズ合計 ― 89 ― シャープ技報 第76号・2000年4月 表2 モデルバリエーション 複合機種 ◎:標準機能 ○:オプション機能 LEO シリーズ PUMA シリーズ PANTHER シリーズ 機種数 コピー プリンタ ファクス コピー ディジタル複写機 AL-800 ◎ ― ― ― 1機種 プリンタ複合機 AL-840 ◎ ◎ ― ― 1機種 プリンタ・スキャナ複合機 AL-841 ◎ ◎ ― ◎ 1機種 ファクス・プリンタ・スキャナ複合機 AL-880等 ◎ ◎ ◎ ◎ 3機種 ディジタル複合機 AL-1000/1200等 ◎ ○ ― ― 13機種 ディジタル複合機 AR-150 ◎ ○ ○ ― 1機種 プリンタ複合機 AL-1241/DM-1500等 ◎ ◎ ― ― 8機種 ファクス複合機 AR-F151(海外向け) ◎ ○ ◎ ― 1機種 ファクス・プリンタ複合機 AR-F151/DM-1510 ◎ ◎ ◎ ― 2機種 ディジタル複写機 AL-1600等 ◎ ― ― ― 4機種 ディジタル複合機 AR-160/200等 ◎ ○ ○ ― 5機種 プリンタ複合機 AL-1640等 ◎ ◎ ― ― 4機種 プリンタ複合機 AR-N200/DM-2000等 ◎ ◎ ○ ― 4機種 ファクス複合機 AR-F200等 ◎ ○ ◎ ― 2機種 ファクス・プリンタ複合機 DM-2010等 ◎ ◎ ◎ ― 2機種 52 機種に展開し,市場の多様なニーズに対応を図っ た。 むすび こうした独自のディジタル画像処理技術・省スペー ス構造を開発したことにより, 高品位なドキュメント 出力,自由度の高い設置性,更に機能的なデザインを 有する商品を実現した。また同時に「コピー」単機能 から「プリンタ」 「ファクス」等 複合機能を持つ多次 元シリーズ展開を行い, オフィスニーズからパーソナ ルニーズに至る幅広い用途に対応したディジタル商品 群を提供することができた。 今後,これからのディジタル複合機は,ソリュー ションビジネスへの対応が必要であり, 特に上位機種 では, 「文書ファイリング機能」,「インターネット・ イントラネット対応」,「より高速なドキュメント処 理」から,更に「次世代画像認識技術をベースにした 高次元ソリューション展開」 を図ってゆくことが急務 である。 当社独自のコア・コンピタンス技術を継承しつつ, これら高次元機能の早期実現と,更なる事業拡大に向 けて,新規商品群の開発に邁進してゆく。 謝辞 最後に,本製品の開発・商品化に対しまして,終始 多大なる御指導, 並びに御尽力を頂きましたドキュメ ントシステム事業本部山田本部長をはじめ,御協力を 頂いた関係各位に深く感謝致します。 (2 00 0年2月2日受理) 〈お問い合わせ先〉 ドキュメントシステム事業本部 ドキュメント第2事業部 商品企画部 〒63 9-1 18 6 奈良県大和郡山市美濃庄町492番地 電話 (0 74 3)53−5 52 1(代表) ― 90 ―
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