風力発電のリプレースに関する考察(その2)*1

風力発電のリプレースに関する考察(その2)*1
Consideration about the Replacement of Wind Power Generation System (Part2)
出野 勝*2
延命 正太郎*2
Masaru IDENO, Shotaro ENMEI,
1.はじめに
2. 風力発電のリプレース
世界の風力発電の設備容量は 2012 年末に 2 億 8248 万
ドイツにおいては、風況に恵まれた内陸の適地が開発
kW に達している。2012 年の単年度における導入量は
し尽くされたことから、次の対応としてリプレースと洋
4,471 万 Kw であり、このうちの 1,320 万 Kw が中国で、
上風力発電がキーワードとなっている。リプレースは旧
1,312 万 Kw がアメリカで導入されている。
(CWEC 2012
型の小型施設を最新の大型施設で代替していくことで、
による)
効率やスペースの問題を解決しようとするものである。
また日本における風力発電の設備容量は 2013 年には
264 万 kW、
風車基数は 1913 基を超える状況となっている。
再生可能エネルギーの固定買取価格制度が制定され、
例えば 250kW級風車が 3 基ある場合、リプレースによ
り 2MW級 1 基に置き換えれば、発電量は 3 倍になり、風
車基数は 3 分の 1 になる。
2012 年 7 月より運用が始まり、既設についても設備認定
手続きを持って新制度への適用が図られ、新制度の恩恵
ドイツにおけるリプレースの有効性としては以下のも
のが挙げられている。
が受けられることが期待されている。しかしながら 2012
・同一地域の風力発電所になり、新たな土地は不要。
年度末時点での再生可能エネルギー発電設備導入量累計
・景観保全が強化される中、風車基数は削減される。
367万 Kw の約 90%は太陽光発電設備によるものとなって
・新型の風力発電機は高効率となり、生産コストも低
いる。再生可能エネルギーの旗頭といわれている風力発
減される。
電としては厳しい状況といわざるを得ない。
・新型風力発電機は旧型の風力発電機に比べ視覚的に
国の再生可能エネルギー政策が明確に示されていない
もブレードは低速回転となる。
状況があっても、電力需給検証用の供給力として風力発
・新型風力発電機ではより良い系統を提供し高い利用
電が評価されることもあって、今こそ我が国の確たるエ
度を実現する。
ネルギー政策が求められている。その一環として今後耐
・環境保全面で過去の誤りを是正できる。
久年に達する風力発電設備が続出することは確実であり、
・安定した国内市場は風力発電の国際的な展示場とし
風力発電のリプレースは避けて通れない問題である。
て、新たな風車建設の用地を確保する事が出来る。
そもそもリプレース自体、海外でいわれている小型機
ド イ ツ の 連 邦 風 力 発 電 協 会 ( Bundesverband
を大型化するだけでなく、旧型機を同規模の最新型に置
WindEnergie e.V)の試算では、遅くとも 2015 年頃には
き換えるケースも含んで捉えられており、そのような議
風車 9,500 基、出力 6,000 メガワットがリパワリング時
論が始まったところともいえる。一方で環境アセスメン
期に達する。それに関する投資総額は 400 億ユーロとみ
トにおいては、
「火力発電所リプレースにおける計画段階
られ、そこに生じるリパワリング市場の規模は年間 1,000
配慮事項」のように整理されてきており、その他の発電
メガワット、売上げは 15 億ユーロと推算されている。
所の参考事例として整理され、風力発電所においても、
今後は整理されていく方向が考えられている。
3. 風力発電FT事業概要
既設サイトの中には旧式の風力発電設備でありながら
(1)フイールドテスト事業について
好風況と適切なメンテナンスによる運転で、成果を収め
風力発電フイールドテスト事業は、風力発電の本格的
ているところも見られ、長期にわたる運転管理の実績は
な導入普及に先駆けて、風力発電の普及形成を目的に、
貴重なデータである。これらを今後の導入普及の一助と
平成 7 年度から平成 17 年度までの 11 年間にわたり実施
して捉えることは、今後の我が国の風力発電導入に関し
された風力発電向けの補助事業である。
(平成 7 年から平
ても十分に意味を持ち、参考とすべきである。
成 11年までは「風力開発フイールドテスト事業」として実
施されたが、本文の中では一律「風力発電フイールドテス
*1平成 25年 11月 13 日第 35回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演
ト事業」で統一する。
)
*2(株)東洋設計
-300-
この事業実施期間中に 439 地点で風況精査が実施され
表1.フイールドテスト実証サイト一覧
それらの中から 31地点において運転研究が行われること
となり、システム・実施設計と設置・運転が実施された。
これらの事業は風況等自然条件や配電線網等のインフラ
整備等が異なる北海道から沖縄までの国内各地点におい
て実施され、多くの有用な風況データ、運転実績データ
及び故障事故事例等が蓄積された。
「平成 18 年度風力発電フイールドテスト事業の影響
と効果に関する調査 NEDO」(1)によれば、風況精査を実
施した全国 439 地点における風況観測結果として当時の
「観測高さ 30mでの風速 6.0m/s以上」という基準を満
たしたのは全体の 20%に過ぎなかったことが示されてい
る。1 年間通して観測すると思ったほどの平均風速になら
なかったり、フイールドテスト事業自体が、風車導入施
策の一環であったことも背景には考えられる。この風況
観測地点の中で、要件をみたした 31 のサイトがフイール
ドテスト事業で風力発電設備を設置した。
31 の事業サイトでは 4 ヵ年にわたる実証研究がなされ
ており、そのデータによれば基準風速 6.0m/sを上回っ
たサイトは 11 地点(35%)
、設備利用率 20%を上回った
サイトは 13 地点(42%)となっている。
4. 風力発電のリプレース検討
(風力発電 FT 事業を例と
して)(2)
(1)概要
風力発電フイールドテスト事業の実証サイト 31 地点の
内訳を表.1 に示す。北は北海道から沖縄まで全国に分布
No地点
1 岩手県東山町
2 神奈川県三浦町
3 北海道稚内市
4 北海道上ノ国
5 静岡県大東町
6 長崎県小長井町
7 青森県深浦町
8 群馬県吉岡町
9 新潟県能生町
10 石川県鹿島町
11 熊本県五和町
12 宮崎県北方町
13 沖縄県北谷町
14 北海道浜中町
15 北海道えりも町
16 和歌山県吉備町
17 長崎県外海町
18 長崎県生月町
19 宮崎県串間町
20 北海道小平町
21 北海道興部町
22 新潟県紫雲寺町
23 徳島県佐内河内村
24 長崎県宇久町
25 熊本県産山町
26 秋田県岩城町
27 茨城県里美
28 静岡県御前崎町
29 長崎県鷹島町
30 長崎県高島町
31 鹿児島県与論町
メーカー
出力(kW)
三菱
500
Micon(Vestas)
400
Vestas
225
三菱
500
Enercon
230
三菱
300
Lagerwey
750
三菱
300
Vestas
225
三菱
600
三菱
300
Lagerwey
750
Dewind
490
三菱
600
Micon(Vestas)
400
Enercon
230
三菱
600
三菱
500
Nordex
250
Enercon
500
Dewind
600
Vestas
660
Enercon
280
三菱
990
Micon(Vestas)
600
Lagerwey
750
Enercon
600
Vestas
750
Lagerwey
750
三菱
600
Enercon
600
しているが、当時中国地方では実施サイトは選定されな
かった。
リプレース検討においては、運転研究による平均風速、
現在これらのうちの4地点では風力発電設備が停止、撤
設備利用率の他にアクセス度、周辺導入効果、自治体の
去されており、運転している風力発電サイトは 27 サイト
動向について数値的な評価を行い、各サイトの分析を行
となっている。風車規模も中型クラスが多く、500kW 以下
った。
の風車が 12 基と全体の 39%となっており、1MW 級風車は
1 基のみとなっている。
今回の評価項目については以下の内容を数値で捉える
ものとし、各項目は 10 段階に分類して比較を行った。
① 設備利用率:6%から 30%以上を 10 段階で評価する。
(2)リプレース検討
② 平均風速:風速 0m/s から 10m/s を 10 段階で評価。
風力発電フイールドテスト事業の実証サイト 31 地点で
③ アクセス度評価:5m道路の有無、幹線国道の有無、
は風車の導入が行われ、実証運転で様々なデータを得る
仮設道路の要否、荷揚げ港からの距離、搬入路の状況(ト
ことが出来た。設備利用率が 20%を越えるものは 31 サイ
ンネル等の障害)をそれぞれ区分し全体を 10 段階で評価
ト全体の 42%であるが、設備利用率 30%を越えるサイ
④ 周辺導入効果:フイールドテスト事業後の周辺への
トも見られる。
風車導入について導入箇所数、導入風車規模、周囲 30k
また中型風車であるがゆえに低い数値となっているこ
m範囲での風車密度を検討し 10 段階で評価。
(周辺導入
とも考えられ、風力タービンを大型化することにより更
効果は風車のメンテナンスには好条件となる。
)
なる発電量増大が見込めるものである。
④ 自治体の動向:フイールドテスト事業風車を含む
風力発電に対するホームページでの取り上げ方法等につ
いて 3 段階で評価。
(0,40,80 での評価とした。
)
-301-
⑤ 系統連系:近傍を通る高圧送電線との距離と、直近
の変電所までの距離によって 10 段階で評価。
Cタイプ
(3)リプレース評価
設備利用率
100
5つの評価項目を数値化したチャートグラフで示し、風
系統連系
力発電サイトの評価を行った。一般的に考えて各項目の
風速
50
0
評価が高いものは、風力発電サイトとしての条件が良い
と考えられ、大きなリプレース効果が期待できると判断
系列1
自治体の意欲
される。タイプ別に4つのサイトのグラフを以下の図
アクセス度評価
周辺導入度
1.2.3.4 に示す。
図3.Cタイプ
Dタイプ
Aタイプ
設備利用率
80
設備利用率
100
60
系統連系
系統連系
風速
50
風速
40
20
0
系列1
系列1
0
自治体の意欲
自治体の意欲
アクセス度評価
アクセス度評価
周辺導入度
周辺導入度
図4.Dタイプ
図1.Aタイプ
Aタイプ(外側拡大):好風況で風車の大型化の条件を
ある程度満たしており、リプレース効果が期
待できる。
Bタイプ(内側縮小):評価全体が一回り小さくなる。
リプレースに関しては課題があると判断され
Bタイプ
る。
Cタイプ(右側拡大):好風況で風車の大型化にて発電
設備利用率
100
系統連系
量の増大は期待できるが、アクセスやメンテ
風速
50
ナンスに課題があると判断される。
系列1
0
自治体の意欲
アクセス度評価
Dタイプ:好風況とはいえないがアクセスやメンテナン
スには条件が良いと判断される。
周辺導入度
Aタイプがリプレースとしては最も効果が期待できる
が、Cタイプ、Dタイプにおいても条件を解消すること
でリプレース効果は期待できる。Dタイプにおいては風
図2.Bタイプ
況がやや劣っても、大型風車の導入が可能であれば、発
電量は期待できるものとなる。
リプレース評価により効果が見られると判断できるサ
イトについて、3 つのシナリオによる予測を検討した。
-302-
① ② 既存風車を大型化でリプレースする。
成 21 年までの累計では登録在籍対象船の 0.9%に相当す
(500kW 風車を、1000kW,2000kW 風車にリプレ
るものがリサイクルされている。製造数からみた毎年の
ース)
廃船予備軍といわれるものの 5%程度がリサイクル処理
③ 複数の大型風車でリプレースする。
されていることになるが、風車ブレードで考えた場合は
(500kW 風車を、1000kW 風車 3 基にリプレース)
500kW 風車は実績による発電量を用い、リプレース風車
母数自体がはるかに小さくなることから、その実現性は
現状では考えられない。
の予想発電量は高度補正を行ってレーレ分布による算定
値を用いた。予測表を表.2 に示す。
5. まとめ
風車規模を 2 倍、4 倍としたリプレースの場合、発電電
(1) リプレース評価
力量はそれぞれ 2.4 倍と 5.2 倍と推定され、風車規模を 2
リプレース評価として風速、設備利用率、アクセス度、
倍とし、複数基の設置(3 倍)とした場合では発電電力量
周辺導入効果、自治体の動向、系統連系の6つの項目を
は 7.2 倍になる結果となった。
数値評価して区分を行った結果より、リプレースによっ
て効果が期待できるサイトと、課題の見られるサイトに
表2.リプレース予測表
基数
発電電力量
(kwh)
効果
ついてかなり明確に判別することができた。
(2) リプレース評価の課題
①
1000kW
1基
リプレース予測
②
2000 kW
1基
③
1000kW
3基
1,600,000
3,820,000
8,360,000
11,470,000
1.0
2.4
5.2
7.2
既設
FT事業
500kW
1基
FIT による買い取り価格の見直しにより、既設風車にお
ける事業採算性が 向上したことは風力発電事業として
は好材料といえる。従来不足していたメンテナンスや修
理費用の対応が可能となり、当面の運転のリスクが回避
できると見られるからである。反面、これによってリプ
4.中古風力発電市場について
レースの動きにブレーキがかかった面も感じ取れる。
ヨーロッパでは風力発電設備のリサイクル等が行われ
(3) 今後の課題
ている。その理由としては、
我が国の好風況地域といえる山岳地では依然としてア
・十分な量の同タイプの機種が確保できる素地がある。
クセスに問題があると考えられる。フイールドテスト事
・同機種風車の設置情報が把握できている。
業の風車導入では、周辺のアクセス道路が整備されて大
・新品、中古品のメンテナンス業者が存在する。
型風車が導入された地域も多くみられる。現状では我が
といった理由が挙げられている。
国における山岳地への導入風車規模は 1.5MW 程度が限度
ヨーロッパでは個人事業者として農家が風車を購入す
る場合が多く、新型のメガkW クラス風車を導入する事は
と考えられており、国内における好風況地域への風車導
入はまだ十分検討される余地があるとみられる。
経済的に難しく、中古の安価な風車のニーズがあること
一方で当面の課題として解決すべきものがあり、系統
から、中型(200∼600kW クラス)の風力発電設備が中古市場に
強化の問題と、設置に際しての規制緩和が十分でない現
出回っている。このような中古品市場は主にデンマーク
状がみられる。この点については様々な場で課題として
やドイツに存在する。
挙げられており、早々にしかるべき対応が図られるべき
アメリカにも同様に中古品市場が成立しているが、ア
ものである。
メリカの場合は大規模なウインドフアームの建設が一般
的であり、数百台規模でのメンテナンス事業が発生して
いる。風力発電設備ではなく O&M を含んだメンテナンス
参考文献
※ (1)
NEDO, 平成 18 年度 風力発電フイールドテスト事
業の影響と効果に関する, (2006)
の中古市場と考えるのが適当であろう。
我が国においては風車導入規模からみても考えられる
(2) 出野、延命、風力発電のリプレースに関する 1 考察、
第 34 回風力エネルギー利用シンポジウム、(2012)
対象にする事が難しいのが現状と思われる。
風力発電設備の主要部材のリサイクルについては課題
が多くブレードに関する多くの検討がなされているが、
リサイクル事業としての成立は、その廃棄量から見ても
商業上の実現可能性は低いものとされている。(3)
我が国では以前より FRP 船のリサイクルシステムが検
討されており平成 19 年より全国での展開が始まった。平
-303-
(3) ㈱三菱総合研究所 平成 24 年度使用済再生可能エネ
ルギー設備のリユース・リサイクル基礎調査報告書、
(2013)