民主主義連合下の東アジアにおける 新たな安全保障観 ─台湾の観点─ 蔡 明 彦 (中興大学国際政治研究所副教授) 葉 宸 羽 (中興大学国際政治研究所大学院生) 一 序論 東アジアの安全保障環境は、21 世紀に入ってから変動が続いてい る 。 北 朝 鮮 の 核 兵 器 開 発 、「 中 国 の 台 頭 」、「 大 量 規 模 破 壊 兵 器 」 (weapons of mass destruction:WMD)拡散、国際的なテロの脅威、 海上運輸の安全保障などいずれも地域の安全保障に深刻な打撃を与 える問題である。米国は第二次世界大戦終結後、 「ハブ・アンド・ス ポーク戦略」(hub-and-spoke strategy)によりアジア地域に政治・経 済・安全保障の秩序を構築してきたが、こうした新たな安全保障情 勢の下、新たな課題に直面し、調整の必要に迫られている。 2007 年 5 月、日本・米国・オーストラリア・インドは「ASEAN 地域フォーラム」(ARF)開催というチャンスを利用し、4 カ国外相 による戦略対話を開催した。2007 年 9 月には、米国ブッシュ大統領 -85- 問題と研究 第 37 巻 2 号 ( George W. Bush) が 「 ア ジ ア 太 平 洋 の 民 主 化 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 」 (Asia Pacific Democracy Partnership)の創設を提唱し、アジア地域の 自由主義国が共に民主的価値を支持し、地域内の民主メカニズムを 強化し、各国が自由社会を構築・維持することをサポートする一種 のプラットフォームを提供するとの考えを示した 1。 日本・米国・オーストラリア・インド間には過去 2 年来、多国間 の外交および安全保障協力関係が徐々に発展しつつあるが、日・米 ・豪・印間の協力はイデオロギーと政治的価値観における共通の信 条に基づいて構築されたもので、地域内の他国が自由民主という基 本原則に違反したり、或いは暴力的手段により地域の現状を破壊し たりすることに反対するものである 2。では、日・米・豪・印が創設 を追求する東アジア民主主義連合とは、本質的にどのように構成さ れ、運営されるのであろうか。また、東アジア民主主義連合はどの ような意味を持ち、どのような地域安全保障問題に対し、多国間協 力を発展させうるのであろうか。東アジア民主主義連合の多国間協 力というプロセスで、台湾はどのような役割を果たしうるであろう か。本稿は、こうした問題について検討することで、東アジア民主 主義連合の創設が地域安全保障にもたらす意義について分析し、同 時に台湾が民主主義連合という枠組みの中の東アジア安全保障環境 において果たしうる役割について評価を試みる。 1 Emma Chanlett-Avery and Bruce Vaughn, Emerging Trends in the Security Architecture in Asia: Bilateral and Multilateral Ties Among the United States, Japan, Australia, and India, CRS Report for Congress, 7 January 2008, p.CRS4 2 Thomas S. Wilkins, “Towards a Trilateral Alliance? Understanding the Role of Expediency and Values in American-Japanese-Australian Relations,” Asian Security, Vol.3, No.3 (2007), p.267. -86- 2008 年 4.5.6 月号 二 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 東アジア民主主義連合の現実と理想 東アジア民主主義連合の創設は、基本的に 2 つの側面から観察す ることができよう。一つ目は、東アジアの安全保障環境が過去数年 間、変動を続けていることから、東アジアの民主主義国家が多国間 協議や協力を通じて、各国が直面する課題を共同で管理し始めてい ることである。2 つ目は、米国が国際的な「覇権」(hegemony)とし て東アジアの民主主義国家との協力強化を望み、米国が東アジアに おいて構築した「覇権的秩序」(hegemonic order)の維持、地域の政 治・経済・安全保障の現状確保、東アジアにおける民主主義発展促進 を希望していることである。 安全保障環境についてみると、東アジアは 21 世紀に入り、権力構 造・安全保障情勢共に一種の変動状態に陥っている。変動しつつあ る東アジアの安全保障環境は、主に次の幾つかの特徴を有している。 二つ目の特徴は、日本・米国・中国などを含む東アジアの主要な 大国間の戦略関係が、地域の権力構造調整に伴い、変化しているこ とである。中国は、東アジアに台頭しつつある権力で、近年では経 済・国防の現代化を積極的に推進し、東アジアにおける影響力を拡 大しようとしている。中国の台頭に対し、米国は東アジアの指導的 地位を確保するため、地域国との協力強化に着手し、中国が台頭し つつある自国の国力を利用し、地域の現状に対して挑戦することを 防止しようとしている 3。米国の東アジアにおける最重要同盟国であ る日本は、国の地位を「普通の国」にしようとし始めており、積極 的に地域および国際問題に参与している。こうした東アジアの権力 3 Young Deng, “Hegemon on the Offensive: Chinese Perspectives on US Global Strategy,” Political Science Quarterly, Vol.16, No.3 (2001), p.349. -87- 問題と研究 第 37 巻 2 号 構造変動に対して、日・米・中がいずれも権力基盤の拡大、地域に おける役割向上を目指しており、大国間の戦略的競争関係が漸次的 に表面化している。 第二の特徴は、東アジアの諸国間における経済協力関係が益々緊 密化し、各国が市場・貨物・流通・投資・技術各分野で相互依存を 深め、地域の経済統合の足取りが加速していることである。 「アセア ン+1」や「アセアン+3」、「東アジアサミット」などを含む多国間 経済協力メカニズムも具体化しつつある。しかし、地域経済協力統 合が東アジアにおける地政学的な政治の今後の発展を牽引し、各国 が地域経済統合を推進する反面、自国の商業利益と戦略的地位も高 めようとするため、東アジア各国間における経済統合の動きに加 え、協力と競争が交錯する複雑な関係が浮上している 4。 第三の特徴は、東アジアが直面する安全保障上の脅威が益々多元 化しており、伝統的および非伝統的な安全保障問題の課題に直面 し、地域の安全保障に不確定性がもたらされていることである。北 朝鮮の核兵器およびミサイル問題、 「中国の台頭」が地域の現状に与 える影響、WMD 拡散、国際テロの脅威、海上運輸の安全保障などの 問題はいずれも東アジアにおける重要な安全保障問題となってい る。 変動に直面した東アジアに対し、覇権の地位を有している米国も 東アジア戦略を調整し始めており、当該地域を戦略的配置の重心に 据えている。冷戦期においては、米国は東アジアにおける戦略目標 を主にソ連による勢力拡張の封じ込めにおいていたが、当時は米国 4 Ellen L. Frost, “Implications of Regional Economic Integration,” in Richard J. Ellings and Aaron L. Friedberg (eds), Strategic Asia 2003-2004: Fragility and Crisis (Seattle, WA: The National Bureau of Asian Research, 2003), pp.420-421. -88- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 が「ハブ・アンド・スポーク戦略」により日本・韓国・台湾・ニュ ージーランド・オーストラリア・東南アジア諸国と個別に二国間の 経済および防衛協力関係を発展させ、米国主導による地域的な二国 間 同 盟 ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し た 5ポ ス ト 冷 戦 期 に は 、 ソ 連 崩 壊 に 伴 い、米国も東アジア戦略目標を転換した。安全保障の関心は、 ① 東 アジアに新たな地域権力が出現し、米国のリーダーシップに挑戦す ることを防止すること、 ② 地域の同盟システムを維持し、米国の東 アジアにおける戦力投射能力を強化すること、 ③ 円滑なシーレーン を確保し、米国の経済利益と地域内の自由貿易を保持すること、 ④ 東アジアにおける民主主義発展を促進することの 4 点に絞るように なった 6。 「覇権理論」の観点に基づけば、覇権国家が覇権秩序を構築する ためには、覇権秩序の合法性への承認や、覇権秩序の持つ価値観お よび目標の共有など国際社会の支持を得て初めて覇権秩序が成立 し、維持される 7。21 世紀に入ってからは、米国は東アジアにおける 覇権秩序を維持するため、積極的に同盟国との協力を強化し、地域 内の「集団自衛」(collective defense)網を強化しており、地域の現 状を維持することで米国が東アジアにおいて構築した覇権秩序を確 保している 8。 米国ブッシュ(George W. Bush)大統領の考え方によれば、米国の 5 Philip C. Saunders, “A Virtual Alliance for Asian Security,” Orbis, Vol.43, No.2 (Spring 1999), p.247. 6 Chanlett-Avery and Vaughn, Emerging Trends in the Security Architecture in Asia, p.CRS1. 7 Robert W. Cox, “Gramsci, Hegemony, and International Relations: An Essay in Method,” Millennium, Vol.2, No.2 (Summer 1983), pp.162-175. 8 US DoD, Quadrennial Defense Review Report (Washington DC: US DoD, 2001), p.4; Clark S. Judge, “Hegemony of the Heart,” Policy Review, No.110 (December 2001/January 2002), via http://www.mtholyoke.edu/acad/intrel/bush/judge.htm -89- 問題と研究 第 37 巻 2 号 東アジアにおける利益を最大限確保する方法とは、当該地域内で価 値観を共有する国との協力を強化することにほかならない 9。このよ うな米国による 東アジア民主主義国との協力強化構想は、中でも日 本から高い支持を受けた。日本の安倍晋三首相(当時)は 2006 年 9 月 29 日、就任演説で「価値観外交」の概念を提唱し、日本が米国・ オーストラリア・インドなど価値観を共有する国との対話および協 力を強化するべきだと主張した。2007 年 4 月に行なわれた日米首脳 会談では、安倍晋三首相は日本・米国・オーストラリア・インドな どアジアの民主主義国によるサミット開催で相互協力・交流を深 め 、 ユ ー ラ シ ア 大 陸 に 「 自 由 と 繁 栄 の 弧 」( Arc of Freedom and Prosperity)を作りたいと提案した 10。 米国と日本が主導し、日本・米国・オーストラリア・インドなど アジアの民主主義国による多国間の外交・安全保障協力関係はこの 数年で具体的な協力段階に突入している。進展状況は次のとおりで ある。 1 日米同盟と米豪同盟の強化 冷戦期以来、日本とオーストラリアは米国のアジアにおける最も 重要な 2 大同盟パートナーである。2005 年 2 月 19 日、日米は「2+2 戦略対話」を開催し、両国のアジア太平洋地域における共通の戦略 目標を発表した。2006 年 3 月には、米国のライス(Condoleezza Rice) 国務長官が日本の麻生外相、オーストラリアのダウナー(Alexander Downer)外相と初の日米豪 3 カ国戦略対話を行い、その際、米国は 9 10 Chanlett-Avery and Vaughn, Emerging Trends in the Security Architecture in Asia, p.CRS.4. Michael J. Green and Shinjiro Koizumi, “U.S.-Japan Relation: Steadying the Alliance and Bracing for Election,” Comparative Connection, Vol.9, No.2 (July 2007): pp.21-30. -90- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 日豪がアジアの安全保障問題で米国と共同歩調を取ることを促して いる 11。 2007 年 2 月下旬には、米国チェイニー(Dick Cheney)副大統領が 日本とオーストラリアを訪問、日米同盟・米豪同盟強化の重要性を 強調した。チェイニーは当時の安倍首相との会談に際し、将来的に 日米が安全保障協力を強化し、中国の軍事動向を注意深く監視する 必要があると表明した。また、訪豪時はオーストラリアのハワード (John Howard)首相(当時)との間で「米豪リーダーシップ対話」 (Australian-American Leadership Dialogue)を開き、両国が防衛・テ ロ対策・情報などの分野で協力を強化することを強調した。 2 日豪間の「安全保障協力に関する共同宣言」の調印 チェイニー訪日・訪豪後、オーストラリアのハワード首相は 2007 年 3 月 13 日、日本を訪問し、安倍首相と共に「安全保障協力に関す る日豪共同宣言」を発表した。この宣言には、 ① 両国の安全保障協 力を強化する行動計画の制定、 ② 両国の外相・防衛相の対話強化と 日豪「2+2」安全保障対話メカニズムの構築、 ③ 両国の国連改革・ テロ対策・災害救援・犯罪対策などの分野における協力の強化、 ④ 自衛隊とオーストラリア軍の防衛関連の協力強化、 ⑤ 両国の政治・ 安全保障・経済分野における協力強化、がうたわれ、全面的な戦略 的パートナーシップが構築された 12。2007 年 6 月 6 日には、日豪の 外相・防衛相が初の「2+2」安全保障対話を開催し、両国の戦略・ 11 “Condoleezza Rice’s Remarks with Australia Foreign Minister Alexander Downer, March 16, 2006, Sydney, Australia,” via http://www.state.gov/ 12 “Japan-Australia Joint Declaration on Security Cooperation (March 13, 2007), via http://www.mod.go.jp -91- 問題と研究 第 37 巻 2 号 防衛協力について具体的な計画を提起した 13。 3 米印・日印間の戦略および防衛協力関係の発展 2005 年 6 月 8 日、米国とインドは「防衛関係の新たな枠組み」に 調印し、両国が防衛・安全保障分野で協力関係を強化することを宣 言した。2006 年 3 月 3 日には、米国ブッシュ(George W. Bush)大 統領がインドを訪問、インドが核保有国であることを認め、 「米印戦 略的パートナーシップ」構築を宣言した。日本も 2006 年 5 月 25 日 にインドとの間で「防衛協力協定」に調印し、2006 年 12 月 15 日に は安倍首相がインドのシン(Manmohan Singh)首相との間で「日印 戦略的パートナーシップ」構築を宣言し、両国の外相が戦略対話を 行なうことを定めた。 4 日米豪印による海上共同訓練 米国はアジア太平洋地域の同盟国と外交・安全保障協力を強化す るに当たり、多国間共同軍事演習も推進し始めている。2007 年 9 月 4 日から 9 日にかけて、日本・米国・オーストラリア・インド・シン ガポールの海軍がインド洋で行なった大型共同軍事演習では、米国 空母 2 隻、インド空母 1 隻を含む 27 隻の艦艇が動員された。これは 2007 年 4 月に日米印が日本近海で行なった海上共同訓練に続くもの で、米国の東アジア同盟国が再度行なった多国間防衛協力行動であ るといえよう。 日本・米国・オーストラリア・インドが多国間の安全保障協力関 係を発展させていることは、米国とアジアの同盟国の協力関係に構 13 “Japan-Australia Joint Foreign and Defense Ministerial Consultations Joint Statement 2007 (June 6, 2007),” via http://www.mod.go.jp -92- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 造的変化が生じていることを示すものである。即ち、従来の「二国 間協力」から「多国間協力」への漸次的発展を示しているのである。 東アジアの民主主義連合の形成には本質的に見て 2 つの重要な特徴 がある。 一 つ 目 の 特 徴 は 、 東 ア ジ ア 民 主 主 義 連 合 は 、「 リ ア リ ズ ム 」 (realism)の「利益」と「権力」に対する考慮を反映したもので、 東アジアの民主主義国が多国間外交・安全保障協力を通じ、地域内 における侵略的権力の出現を防止し、共通の安全保障問題の解決協 力によって各国の安全保障上の利益を確保しようとするものであ る。 二つ目の特徴は、東アジア民主主義連合により「多元主義」 ( pluralism) の 色 合 い が 深 ま っ て い る こ と で あ る 。 東 ア ジ ア の 民 主 主義国は民主主義を共有の価値とし、多国間協力を通じて、域内の 民主主義の発展を推進し、域内で自由貿易を安定化しようとしてい る 14。 運営面から考えた場合、東アジア民主主義「連合」(alignment)は 正式な「同盟」(alliance)関係ではなく、また東アジアの民主主義国 同士で多国間同盟条約締結や共同の同盟政策発表などで相互協力関 係として拘束したり、ましてや管理したりしているわけでもない。 従って、正式な「同盟」に比べてその運営も緩やかなものである。 しかし、日・米・豪・印間の「連合」協力は、危機発生時および戦 時の共同アクションプロセスを定めてはいないものの、戦略対話メ カニズムの構築や戦略パートナーシップ関係の構築、安全保障に関 する共同宣言や防衛協力協定調印などを含む様々な二国間および多 国間の協力を提唱することにより、相互の外交および安全保障分野 14 Wilkins, “Towards a Trilateral Alliance?” p.272. -93- 問題と研究 第 37 巻 2 号 の協力を強化している。 現在、東アジアの権力構造は正に変動状態にあり、伝統的および 非伝統的な安全保障問題の脅威に曝されている。日・米・豪・印か らなる東アジア民主主義連合が、「リアリズム」と「多元主義」とい う色彩を持ち、地域の安全保障問題を処理し、地域の安定を維持す る新しい一環となるかもしれない。つまり、 「リアリズム」の観点を 運用し、勢力均衡を通じて東アジアの安全保障の現状と秩序を確保 しつつ、同時に「多元主義」の理想を発揮し、東アジアの民主主義 という価値と自由貿易を促進する一環として機能するのではないだ ろうか。 本稿は、東アジア民主主義連合は変動する地域の安全保障環境に 直面し、地域内の重大な安全保障問題について適切な処理を行なわ ざるを得なくなり、それに際しては、次の 3 つの問題を重視するで あろうと分析する。3 つの問題とは即ち、①「中国の台頭」が地域安 全保障に与える影響、 ② 地域経済統合の発展趨勢への対応、 ③ 非伝 統的安全保障問題がもたらす課題への対応である。 「リアリズム」の 観点であろうと、 「多元主義」の観点であろうと、東アジア民主主義 連合における安全保障問題処理協力のプロセスにおいて、台湾も一 定の役割を果たすべきであり、また民主主義連合の実際の運営に参 与するべきでもあろう。 三 「中国の台頭」がもたらす安全保障への影響 東アジアは 21 世紀になり、地域の権力構造に変化が生じている。 中でも、「中国の台頭」が地域の安全保障秩序に衝撃を与えるかは、 各界から最も注目を集めている 15。近年、「中国の台頭」は既に東ア 15 David Shambaugh, “China Engages Asia: Reshaping Regional Order,” International Security, -94- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 ジアの政治・経済・軍事情勢に重要な影響を与えている。中国は所 謂「平和的発展」戦略を表明し、中国が平和的であるというイメー ジを作り出そうとしているが、その国際社会における行為は周辺国 の注意を引いている。各界の「中国の台頭」に対する憂慮は、基本 的にある仮定に基づくものである。即ち、中国の政治的な政策決定 メカニズムは不透明で、中国の真の戦略的意図がどこにあるかが外 部からは計り知れず、中国国内の政治経済状況に変化が現れたり、 中国が対外環境への認識を変えたりした場合、中国の国際社会にお ける行為に変化が現れるという結果になりかねないという仮定であ る 16。中国の戦略的意図が不明確で、更に軍事現代化を積極的に推進 していることから、中国が次第に向上している軍事力を運用して、 今 後 周 辺 国 に 対 し 「 強 制 外 交 」( coercive diplomacy) 的 な 行 動 を 採 り、特定の政治的目標を追求するのではないかと周辺国は懸念して いる 17。 米 国 国 防 総 省 は 、「 中 国 の 軍 事 力 年 次 報 告 書 」( Annual Report to Congress on the Military Power of the PRC)および「4 年毎の国防計画 の見直し」(Quadrennial Defense Review, QDR)において、近年は中 国の軍事的発展に対する憂慮を何度か表明している。米国国防総省 が 2006 年に発表した「中国の軍事力年次報告書」では、中国の軍事 力の成長は台湾にとって脅威となるだけでなく、長期的には地域全 体の軍事バランスに衝撃を与えるであろうと警告している。つま り、国防総省は中国の軍事能力の発展が今後アジア地域の安定に影 響を与えることを憂慮し、中国の軍事力発展を地域性の安全保障問 Vol.29, No.3 (Winter 2004/2005), pp.64-95. 16 17 Saunders, “A Virtual Alliance for Asian Security,” p.241. Ashton B. Carter and William J. Perry, “China on March,” The National Interest, No.88 (March 2007), pp.16-22. -95- 問題と研究 第 37 巻 2 号 題であると定義付けたと言えよう 18。 国防総省の分析によると、中国の通常戦力のセクションで、解放 軍の海空軍の戦力投射能力は台湾海峡の地理的行動範囲を超えてお り、中国空軍が対空警戒および空中給油技術を掌握すれば、作戦実 行可能な範囲は南シナ海を覆うことになる。その上、中国は新世代 弾道ミサイルを積極的に開発しているが、この弾道ミサイルの射程 内には日本・米国・インド・ロシア・オーストラリア・ニュージー ランドを含むアジア太平洋地域の各国が含まれる。将来、解放軍の C4ISR および宇宙軍事能力が引き続き向上すれば、アジアにおける 全ての外国軍事目標に対する精密攻撃が可能になるであろうとも分 析している 19。 更に、中国は、米国とその同盟国が過去 15 年間行なってきた軍事 行動の関連手順に対する研究など米国の突出した軍事力に対抗する 戦略の発展を模索しており、米軍およびそのアジア同盟国の弱点究 明を画策している。米国国防総省の分析では、中国は所謂「反介入」 (anti-access)戦略発展を積極化し、非対称戦により敵国の指揮系統 および軍事拠点に対する重点攻撃を行なうことを企図しているとい う。これにより日米などが東アジアおよび台湾海峡情勢に介入する ことを抑止しようとしていると米国国防総省は見ている 20。 総 体 的 に 見 れ ば 、 中 国 は 現 在 「 戦 略 的 岐 路 に 立 つ 国 」( country at 18 Annual Report to Congress on the Military Power of the PRC 2006 (Washington D.C.: US DoD, 2006), p.10. 19 Annual Report to Congress on the Military Power of the PRC 2005 (Washington D.C.: US DoD, 2005), p.8. 20 Annual Report to Congress on the Military Power of the People’s Republic of China 2007 (Washington, D.C.: U.S. Department of Defense, 2007), pp.1-5; Roger Cliff and Mark Burles, Entering the Dragon’s Lair: Chinese Anti-access Strategies and Their Implications for the United States (Santa Monica: Rand, 2007), pp.27-44. -96- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 strategic cross-roads)であり、中国の戦略的意図が不明である以上、 「中国の台頭」が地域情勢にもたらす影響はプラスのものである可 能性もあるが、マイナスのものである可能性も否定できない。従っ て米国は、中国とのエンゲージメントを進め、中国が積極的な方向 へ発展し、米国の重要な経済パートナーかつ「利害関係者」 (stakeholder)となるよう環境を整えつつ、もう一方で日・米・豪・ 印の安全保障協力を強化し、中国が武力により地域の現状に挑戦す ることを抑止するという「ヘッジ」(hedging)戦略をとる必要がある と考えている 21。例えば、米国と東アジア民主主義国が具体的行動を 採 ら ず に 、「 中 国 の 台 頭 」 が 地 域 の 安 全 保 障 状 況 に 衝 撃 を 与 え た 場 合、アジア諸国は米国には地域の現状を維持する意図も能力も欠乏 していると認識し、最終的に中国との妥協を迫られることにもなろ う 22。 東アジア民主主義連合は、基本的に「中国の台頭」に対応して進 行した協力であり、「戦略的」であるべきで、「軍事的」であるべき ではない。即ち、東アジア民主主義連合が外交および防衛協力を発 展させた目的は、アジアを「ゼロサム」の軍事的対立状態に持ち込 むことではない。むしろ、戦略上、明晰な立場を構築し、東アジア 諸国が現状を維持する能力も意欲も持っていることを示し、中国に 東アジア諸国のボトムラインがどこにあるのかを理解させ、結果と して中国が武力により地域の現状に挑戦することを抑止し、同時に 中国が国際的な規範を受け入れるよう促すことにある 23。 東アジア民主主義連合が中国の台頭により地域の安全保障環境に 21 Quadrennial Defense Review Report 2006, pp.29-30; Wilkins, “Towards a Trilateral Alliance?” p.262. 22 Saunders, “A Virtual Alliance for Asian Security,” p.243. 23 Ibid. -97- 問題と研究 第 37 巻 2 号 マイナスの影響が発生しないよう「ヘッジ」する過程において、台 湾はその独特な地政学的な役割を、一定の範囲で発揮することがで きる。 「リアリズム」の観点から台湾の役割を分析すると、台湾は東ア ジア民主主義連合が中国の台頭を「ヘッジ」し、中国の国際社会に おける行為を監視する上での重要なパートナーとなることができる と言えよう。台湾は東アジアで重要な戦略的地位を持つ。将来的に は東アジア民主主義連合の協力パートナーとなることも可能であ り、中国が軍事的冒険主義に走ることを「ヘッジ」する上で役割を 果たせるであろう。 また、台湾の役割を「自由主義」という観点から考えると、台湾 は東アジア民主主義連合が地域において民主主義という価値を促進 ・普及する動きに参与することができる。 「中国の台頭」に潜在する 最大の不確定要素とは、中国が内部的に全体主義・専制主義的な政 治的存在であることに端を発している。台湾と東アジア民主主義連 合が共有する民主主義という価値は、台湾内部で民主政治という形 で体現されており、中国の将来的な政治発展に重要な模範を示すこ とができるであろう。 四 地域経済統合が安全保障に対して持つ意味 東アジア諸国はこの 10 年間、世界的な経済統合の急速な発展に直 面し、既に多くの地域経済貿易協力メカニズムを発展させている。 「アセアン+3」(アセアン 10 カ国と日本・中国・韓国)の経済貿易 交渉メカニズムは 1997 年に生まれ、2005 年には「東アジアサミット」 のメカニズムへと発展している。2005 年 11 月には第 1 回「東アジア サミット」が開催され、参加国はアセアン 10 カ国・日本・中国・韓 国・インド・ニュージーランド・オーストラリアなど 16 カ国に上 -98- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 り、東アジアの地域経済貿易協力メカニズムは新たな段階に突入し た。 東アジアが地域経済貿易統合を発展させるプロセスにおいて、中 国は積極的に参与するだけでなく、主導的な役割を果たしている。 中国の目的は、台頭する経済力を利用し、貿易を外交の道具とし、 米国が東アジアにおいて構築したものと別の経済貿易協力システム の創造を追求することにある。中国の手法としては、中国と東アジ ア諸国が積極的に自由貿易協定を交渉することと、 「東アジアサミッ ト」および「アセアン+3」というプラットフォームを通じ、不断に 地域経済貿易協力推進を提唱することの 2 つにある 24。中国は地域経 済貿易の統合推進を積極的に進める上で、経済的利益を考慮してい るが、この動きには外交上の動機も潜んでいる。その動機とは、 ① 東アジア諸国の「中国の台頭」に対する疑念や憂慮の払拭、 ② 中国 と東アジア諸国が共有する経済成長という善意の体現、 ③ 地域にお ける中国の影響力の向上、の 3 点にまとめられる 25。 ここで注目すべき点は、中国が地域経済貿易協力を推進すると同 時に、故意に「地域主義」を操作し、所謂「東アジア主義」を利用 することを通じ、米国による地域経済貿易統合推進への参与を排除 し、結果として中国が東アジアの経済における指導的地位を構築す ることを目指している 26点である。中国は「東アジアサミット」を推 進する過程で元々はインド・オーストラリア・ニュージーランドな 24 Chanlett-Avery and Vaughn, Emerging Trends in the Security Architecture in Asia, p.CRS.1. 25 Naoko Munakata, “The Impact of the Rise of China and Regional Economic Integration in Asia: A Japanese Perspective.” Statement before the US-China Economic and Security Review Commission, 4 December 2003, Washington, DC. 26 Myrna S. Austria, East Asian Regional Cooperation: Approaches and Processes, Discussion Paper Series, No.2003-02, Philippine Institute for Development Studies, p.8. -99- 問題と研究 第 37 巻 2 号 ど東アジア以外の親米国が加入することにより、日本とこれらの国 が連合して中国に対抗することを排除しようとしていた。しかし、 日本と東南アジア諸国は中国の勢力が過大になることを憂慮したた め、インド・オーストラリア・ニュージーランドなど東アジア国以 外が「東アジアサミット」の運営に関わることに同意したのである 27。 東アジア経済貿易統合が成功するかどうかは、このメカニズムに 公平性および開放性が存在するかにかかっており、また「グローバ ル化」という趨勢とも関連づけて、地域における排他性出現を回避 できるかにもかかっている。畢竟、東アジア諸国の主な貿易上の利 益は、これまで北米およびヨーロッパと行なってきた貿易協力の上 に構築されてきたものであるからだ 28。 「リアリズム」の観点から言えば、東アジア経済貿易統合は地域 の経済協力に積極的な意味を持つ。しかし、地域統合が中国により 主導され、排他的な地域主義となれば、地域統合の不確定要素が増 加することになる。東アジア民主主義連合にとっても地域経済貿易 協力推進は共同の利益であることから、地域経済貿易統合が中国単 独で主導され、地域統合が米国排除、日本牽制、台湾威圧の道具と なることを協力して防止すべきである。なぜならそのような形での 地域統合は東アジア諸国の経済利益最大化に不利となるからだ。 「多元主義」という観点に基づけば、地域経済貿易統合は自由貿 易の精神を強調し、各国が平等に参与する機会を提供し、政治的要 素による操作は減少させるべきである。米国が主導する「アジア太 平洋経済協力」(APEC)は「開かれた地域主義」(Open Regionalism) 27 Mohan Malik, China and the East Asian Summit: More Discord Than Accord, Asia-Pacific Center for Security Studies, February 2006, pp.3-4. 28 Austria, East Asian Regional Cooperation: Approaches and Processes, p.5. -100- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 を強調しており、地域内および周辺国との対話の強調とアジア太平 洋地域全体の貿易協力の促進を主張している 29。東アジア民主主義連 合は東アジアで更に開かれた、包容性を持つ経済協力メカニズムを 推進するべきであり、地域経済貿易統合のメカニズムおよびプロセ スが東アジア民主主義連合の共有する価値と模範を包括するものと し、結果として地域内の自由貿易活動を促進できるものにしていく べきである。 五 非伝統的安全保障問題がもたらす課題 米国の連続テロ事件発生後、国際社会に非伝統的安全保障問題を 重視する動きが高まっている。東アジアの平和と安定を維持するた めに、米国と当該地域における米国の同盟国は非伝統的安全保障問 題における協力を、WMD 拡散防止、海上運輸の安全保障、テロ対策 などの分野に集中させている 30。 WMD 拡散防止に関しては、米国ブッシュ大統領が 2003 年 5 月に 「拡散に対する安全保障構想」(Proliferation Security Initiative, PSI) を提唱し、これを東アジアへ拡大しようとしている。PSI は世界的な テロ対策行動の一環であり、国際協力を通じ、WMD 関連設備および 原料の不法拡散を海上臨検し、WMD がテロリストの手中に落ち、テ ロ活動の危険性が高まることを防止することにある 31。 また、海上運輸の安全保障問題も、東アジア諸国が直面する重要 な課題である。東アジアの海域は国際的にも重要な水上航路であ 29 30 Ibid., p.10. Stephanie A. Weston, “The US-Japan Alliance in the New Post Cold War,” Japanese Studies, Vol.24, No.1 (May 2004), pp.45-59. 31 Sharon Squassoni, Proliferation Security Initiatives, CRS Report for Congress, 14 September 2006, p.CRS1. -101- 問題と研究 第 37 巻 2 号 り、南シナ海を航行する一日当たりの通過船舶数はパナマ運河およ びスエズ運河の通過船舶数の総数を上回る数値となっている。例え ば、マラッカ海峡はインド洋と太平洋をつなぐ航路として、世界で 最も混雑する航路の一つである。一日当たり 600 隻の船舶が通航し、 商品運輸は世界全体の 4 分の 1、原油に関しては 2 分の 1 を担ってい る 32。その一方で、国際海事機関 (International Maritime Organization, IMO)の統計によると、1984 年から 2005 年の間に発生した世界の海 賊事件は 3,992 件に上り、中でも南シナ海・インド洋・マラッカ海峡 にその大多数が集中しているという 33。東南アジアでは頻繁に海賊が 出没しており、海洋交通路の安全に深刻な影響を与えている。海賊 の攻撃による商業損失は 1 年当たり約 10~45 億米ドルにも上ると見 積もられており、各国の経済およびエネルギー輸送の安全性に多大 なる危険をもたらしている 34。 更に、テロリズムが東アジアに蔓延しているかも注目に値する安 全保障問題である。東南アジア諸国は政府の統治能力が比較的弱 く、宗教と民族の問題も深刻な状態にあるため、テロリズム活動の 温床となっている。東南アジアの危険性の高いテロ組織としては、 インドネシア・マレーシア・フィリピンに分布するジェマー・イス ラミア(Jemaah Islamiah) 、フィリピン南部で暗躍する「アブサヤフ」 (Abu Sayyaf Group, ASG) 、インドネシア内で活動している「ラスカ 32 Tamara Renee Shie, Ports in a Storm? The Nexus between Counterterrorism, Counter- 33 IMO, Reports on Acts of Piracy and Armed Robbery against Ships: Annual Report 2005 proliferation, and Maritime Security in Southeast Asia (Honolulu, HA: CSIS, 2004), p.7. (London: The International Maritime Organization, 22 March 2006), pp.1-2. 34 Jennifer C. Bulkeley, “Regional Cooperation on Maritime Piracy: A Prelude to Greater Multilateralism in Asia?” Journal of Public and International Affairs, Vol. 14 (Spring 2003), pp.1-26. -102- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 ル・ジハード」(Laskar Jihad)などがある。これらテロ組織は、現在、 国境を越えて国際的に発展しつつあり、活動のパターンも薬物密輸 や海上攻撃などを含む過激な暴力活動を展開しており、当該地域諸 国に脅威を与える上、近海の航路にとっても危険要素となっている 35 。 上述の各種非伝統的安全保障問題は、影響を与える範囲も広範 で、一国が独力で処理できるものではない。東アジアの海域の安全 確保、国家または非国家の行為者による地域の海運ルートの掌握・ 擾乱防止、各国経済の安全確保などは東アジア民主主義連合の国境 を越えた協力の重点となるべきであろう。例えば、日本とオースト ラリアは安全保障協力関係を発展させると同時に、非伝統的安全保 障問題における協力を十分に重視している。また、日・豪は既に、 今後行なう安全保障協力に、合同軍事演習・テロ対策・人道的救援 実施・海空運の安全性確保などを含めることを発表している 36。その 他、2008 年に行なわれた「豪米閣僚会合」(Australia- United States Ministerial Consultations)で、米国とオーストラリア両国の外相およ び防衛相が、今後東南アジアにおけるテロ対策を強化し、当該地域 の海洋上の安全を確保するとした。また、両国は東南アジア諸国に よる現地港湾安全性改善とテロリストの資金の流れに対するコント ロールを支援することに同意した 37。 台湾は東アジアにおける海洋国家の一つであり、近海には重要な 35 Dana R. Dillion, “Southeast Asia and the Brotherhood of Terrorism,” http://www.heritage. 36 The White House, “President Bush and Prime Minister Yasuo Fukuda of Japan in Joint org/Research/AsiaandthePacific/hl860.cfm Statements,” http://www.whitehouse.gov/news/releases/2007/11/20071116-8.html 37 Australian Department of Foreign Affairs and Trade, “Australia-United States Ministerial Consultations 2008”, via http://www.dfat.gov.au/geo/us/ausmin/ausmin08_joint_communique.htm -103- 問題と研究 第 37 巻 2 号 海運航路が存在する。東アジア民主主義連合は非伝統的安全保障問 題に関して協力関係を構築する上で、関連分野における台湾との対 話や協力を考慮するべきであろう。例えば、台湾が東アジア民主主 義連合の各国とテロリストの犯罪、テロリスト引渡しおよび起訴な どの問題について協議することが可能になれば、税関・空港・港湾 の安全に関して国境を越えた協力を発展させることができ、それに より国際的なテロリズムの当該地域内での拡散予防に効果が期待で きるであろう。 また、日米は東アジア諸国に対し、PSI 参与を積極的に奨励し、域 内における WMD 拡散防止のための海上臨検ネットワーク構築に努 めている。しかし、台湾は中国の外交的圧力により PSI には参与で きないのが現状だ。PSI は基本的には一種の「国際行動」に過ぎず、 「国際組織」ではないため、主権国家の国籍問題とは無関係であり、 これが台湾の PSI 加入拒絶の理由となるべきではない。今後、台湾 が東アジア民主主義連合と PSI 関連で協力できる空間を最大化すれ ば、二国間または多国間の会合を通じて、海上パトロールや港湾検 査における協力を実施することができる。 台湾と東アジア民主主義連合が非伝統的安全保障問題で協力を発 展させることは、地域で現実に存在する安全保障上の利益と需要に 合致するだけでなく、地域各国が問題を共同で管理し、共同で関心 を持つという理想にも適合している。台湾が関連問題に参与するに あたり、「中国ファクター」が影響を及ぼすべきではないだろう。 六 結論 東アジアの安全保障環境には、現在、重要な変化が出現しており、 将来の地域情勢が安定を維持できるか、地域の民主主義国が関連問 題を協力して処理する意欲と能力を持ちうるかが問われている。伝 -104- 2008 年 4.5.6 月号 民主主義連合下の東アジアにおける新たな安全保障観 統的に米国が東アジアにおいて構築してきた地域安全保障政策は、 既に調整が必要な局面にあり、地域内の民主主義国は政策面におけ る 対 話 メ カ ニ ズ ム と 行 動 面 の 協 力 体 制 を 改 め て 構 築 し 、「 中 国 の 台 頭」 、地域経済の安定および非伝統的安全保障問題がもたらす脅威な どを含む各種の地域安全保障問題に対応する必要が生じている。 東アジア民主主義連合の協力には、現実と理想が存在する。つま り、国境を越えた協力を通じて、共同で関心を持つ安全保障問題を 管理し、東アジアに侵略的権力が出現することを防止し、地域内の 安全保障秩序を確保する一方で、同時に東アジアに民主主義の発展 と自由貿易を促進し、共通の政治的価値を実践するという二面性を 持つ。 台湾は、東アジア民主主義連合と共通の安全保障への関心と政治 的価値を有しており、東アジア民主主義連合の重要なパートナーと なりうる。「中国の台頭」がもたらす地域安全保障への影響にせよ、 東アジアの自由貿易活動の促進にせよ、また非伝統的安全保障問題 がもたらす挑戦への対応にせよ、台湾は地政学的に特殊な位置にあ り、これに起因した積極的な役割を果たせるはずである。将来、台 湾が民主主義連合の協力に更に参与を拡大できれば、東アジアの民 主主義諸国が安全保障に対する脅威に共同で対応するという現実に 適合するだけでなく、東アジアの民主主義国が地域の民主主義とい う価値と自由貿易を促進するという理想にも適合することになろ う。 翻訳:遠藤利恵(フリーランス翻訳者) -105-
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