キヤノンが東芝子会社買収

NEWS RELEASE
2016年3月18日
キヤノンが東芝医療機器子会社を買収―格付動かさぬが信用力を下押し
キヤノン(証券コード:7751、発行体格付=AA+)は 17 日、東芝(証券コード:6502、発行体格付=
BBB-、格下げ方向でレーティング・モニター中)の子会社でヘルスケア事業を手掛ける東芝メディカル
システムズの全株式を 6655 億円で取得し子会社化すると発表した。買収の完了は、所要の競争法規制当
局のクリアランスを取得することが条件となる。
東芝メディカルシステムズを主体とする東芝のヘルスケア事業は、画像診断装置をフルラインアップ
で展開、CT(コンピュータ断層)機器は世界大手の一角を占めている。2014年度のヘルスケア事業の売
上高は4095億円、営業利益は239億円、償却前の営業利益は337億円、同年度末の保有資産は3222億円だ
った。利益は研究開発費の投入状況に左右される面はあるものの、おおむね安定している。
キヤノンは法人向けの事業を中心に新規分野の育成に力を入れており、M&A(合併・買収)にも意欲的
に取り組んでいる。医療事業も注力分野の一つに位置付けているが、これまでは眼科診断機器などが主
体で、全体の収益基盤や業績への貢献は小さいものにとどまっていた。東芝メディカルシステムズを傘
下に入れ、キヤノンの医療事業のポートフォリオは大幅に拡充が進む。
買収に要する資金はキヤノンの 2015 年末のネットキャッシュを上回る。多額ののれんも抱える見通し
だ。年間で 2000 億円を超える水準のフリーキャッシュフローを生み出す力があり、遠くない時期に実質
無借金に戻ることは難しくはない。ただ、従来のようにかなりの余裕をもった状態に復旧するには時間
を要する可能性が高い。格付は動かさないが、買収に伴う財務負担は信用力を下押しする。
キヤノンが抱える最大の課題は収益基盤の拡充だ。レンズ交換式カメラが柱のカメラ事業は、需要の
縮小になお歯止めがかかっていない。事務機の主力であるレーザープリンターも市場が成熟しつつあり、
伸び悩みが鮮明になっている。これら主力商材の苦戦が続いて収益力・キャッシュフロー創出力が低下
すると、財務基盤の修復もはかどらず、格付に下方圧力がかかってくる。
医療事業のほか、商業印刷機やネットワークカメラなど、ここ数年の買収により橋頭堡を築いてきた
事業の成長性は比較的高い。シナジー効果を着実に生み出し収益成長を加速できれば、信用力の安定性
が高まろう。既存事業のテコ入れも含め、今後の取り組みとその成果を見守っていく。
主任格付アナリスト:石野田
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