星々のインセンス

第一部
星々のインセンス
Chungmuro
Seniors
忠武路の古参たち
80年代、いや70年代から忠武路で、
映画俳優として活動してきた人々。
そんな「激動の韓国映画史」を生き延びてきた彼らのことを、
もういちど振り返って考えてみよう。
成熟した演技と貫禄は、韓国映画界を支えてきた力であり、
韓国映画の生命そのものなのだから。
忠
武
路
の
古
参
た
ち
018
Chungmuro Seniors
Chungmuro
Seniors
忠武路の古参たち
アン・ソンギ
Data Base
1952年1月1日生まれ
主な出演作
『黄昏列車』
(57)
『風吹く良き日』
(80)
『鯨とり−コレサニャン−』
(84)
『ディープ・ブルー・ナイト』
(85)
『ツーコップス』
(93)
『祝祭』
(96)
『パク・ポンゴン家出事件』
(96)
『真実ゲーム』
(2000/0.7)
『キリマンジャロ』
(2 0 0 0 / 9 . 6)
『MUSA−武士−』
(2001/85.7)
『黒水仙』
(2001/40.9)
『酔画仙』
(2002/44.3)
『ピアノを弾く大統
領』
(2002/18.2)
『シルミド
/SILMIDO』
(2003/326.2)
『阿羅
漢・掌風大作戦』
(2004/75.6)
019
活躍し続けるベテラン、アン・ソンギの出演作品は年に
1、2本のペースで、今も着実に増え続けている。彼が見
せるキャラクターの多様さは、韓国の映画俳優のなかでも
突出している。落ち目のボス(『キリマンジャロ』)から、
ロマンチックな大統領(『ピアノを弾く大統領』)。高麗時
代の武士(『MUSA−武士−』)から、朝鮮王朝末期の貴
人(『酔画仙』)。終身刑に服する男(『黒水仙』)から、爆
破部隊の指揮官(『シルミド/SILMIDO』)までの幅広さを
見せ、いままさに「第二の全盛期」といったところ。80年
代にはイ・ジャンホ、ぺ・チャンホ監督のペルソナ的存在
だった彼は、『ホワイト・バッジ』に出演したころにはリ
アリズム系映画の主人公といったイメージが既に固定され
ていた。これを打ち破ったのが『ツーコップス』だ。腐敗
した刑事役を演じ、同僚刑事役のパク・チュンフンとコン
ビを組んだ彼は、この映画を通じてヒットメーカーのイメ
ージを確立したと同時にコメディでの才能も披露。しかし
80年代に残した力強い業績にくらべると、90年代の活躍は
控 え め だ 。『 ソ ウ ル ・ ガ ー デ ィ ア ン ズ 退 魔 録 』 や
『NOWHERE 情け容赦無し』に出演したころから、露出
度は低くともインパクトの強い役を演じるようになる。
『 キ リ マ ン ジ ャ ロ 』『 M U S A − 武 士 − 』『 シ ル ミ ド
/SILMIDO』は、そんな彼の魅力が生かされた作品だ。
『MUSA−武士−』で大鐘賞助演男優賞を受賞した際に
「本当に欲しかった賞だった」と心情を語っている。今の
アン・ソンギにとって重要なのは、役の大きさよりも深さ
なのだ。20年以上「アン・ソンギ」ブランドを守り続けて
こられたのは、演技に対して誰よりも誠実だったから。徹
底した自己管理をし、かけもち出演は決してしない。どん
な役にも耐える肉体は、年齢を重ねても変わっていない。
『NOWHERE 情け容赦無し』
『シルミド/SILMIDO』
Chungmuro Seniors
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忠
武
路
の
古
参
た
ち
Data Base
1959年4月2日生まれ
主な出演作
『モモは世間知らず』
(79)
『鯨とり−コレサニャン−』
(84)
『その年の冬は暖か
かった』
(84)
『桑の葉』
(85)
『冬の旅人』
(86)
『情
事』
(98)
『燃ゆる月』
(2000/
6 1 . 6)
『 ベサメムーチョ』
(2001/24.5)
『ウララ・シス
ターズ』
(2002/24.6)
『ス
キャンダル』
(2003/129.
3)
『...ing』
(2003/15.9)
イ・ボヒやウォン・ミギョンらと共に80年
代の三大女優の1人だった彼女は、ほかの
2人がテレビに活躍の場を移した今も、映
画女優として銀幕を守っている。88年に結婚して忠武路を離れたが、
98年に『情事』でカムバック。その感性は10年の歳月で一層熟成さ
れ、年齢を重ねた女性の美しさを見せてくれる。70年代末にデビュ
ーし、当初はメロドラマが多かったが、最近の彼女はアクション
(『燃ゆる月』)やコメディ(『ウララ・シスターズ』)で役の幅を広
げている。特に86年の『内侍(ネシ)』から17年ぶりに出演した時
代劇『スキャンダル』のチョ夫人役では、イ・ミスクという女優の
パワーを十分に見せつけてくれた。嫉妬の化身となったかと思えば、
純愛に身を捧げる女性の感情を表現。絶妙のユーモア感覚までをも
加え、豊かな演技力を見せた。時の流れを感じさせない彼女の姿は、
努力のたまもの。彼女がいるかぎり、韓国映画界において「男優よ
り女優は短命だ」なんてうっかり言えないのだ。
イ・ミスク
021
2003年の『黄山ヶ原』の揩伯
パク・チュンフン (ケベク)役で存在感を見せ
たパク・チュンフンは、90年
代の韓国映画におけるヒットメーカーで、当時は彼を念頭に企画さ
れたコメディ映画が目白押しだった。そのころの大ヒット作品は
『ツーコップス』『ゲームの法則』『女房殺し』『金を持って高飛びし
ろ』『ツーコップス2』『ハレルヤ』。これらでエネルギーを消耗
したせいか、この後、彼はしばらく休養を取る。復帰後、
『NOWHERE 情け容赦無し』に出演。この作品でジョナサン・デ
ミ監督に認められ『チャーリーの真実』に出演、ハリウッドに進出
した。その後『黄山ヶ原』に出演。苦悩する将帥役に、コメディの
イメージが強いパク・チュンフンはどうかという声もあったが、新
境地を切り開くこととなり、興行的にも成功した。04年は、チャ・
テヒョンとコンビを組む『ツーガイズ』に出演。またハリウッドで
は、彼を主人公にした『ビビンバ』(仮題)のプロジェクトが進行
中。
Data Base
1966年3月22日生まれ
主な出演作
『カンボ』
(86)
『青春スケッ
チ』
(8 7)
『ツーコップス』
(93)
『ゲームの法則』
(94)
『NOWHERE 情け容赦
『不朽の名作』
無し』
(99)
(2000/13.4)
『セイ・イエス』
(2001/5.6)
『チャーリーの真
実』
(2002/1.1)
『黄山ヶ原』
(2003/96.0)
『ツーガイズ』
(2004)
所属事務所
ポラム映画社
悪役出身の
彼女は、ヴ
ェネチア、
モスクワの国際映画祭に出展された86年
の『シバジ』、89年の『波羅羯諦/ハラギ
ャティ』で主演女優賞を受賞。その後、
時代劇、現代劇の両方をこなしながら
『青春スケッチ』で青春スターの1人に。
90年代には、変貌する韓国女性の現実を
映し出した作品『君の中のブルー』『ディ
ナーの後に』などに出演。だが、96年の
『激しい恋』の後に出演した『ブラックジ
ャック』『深い悲しみ』は当時の時流とは
かけ離れたものだった。最近、テレビ時
代劇『女人天下』(2001/SBS)の蘭貞
(ナンジョン)役で人気を取り戻した。
忠
武
路
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古
参
た
ち
Chungmuro Seniors
カン・スヨン
Data Base
1966年8月18日生まれ
主な出演作『わたしは告白する』
(76)
『シバジ』
(86)
『青春
スケッチ』
(87)
『波羅羯諦/ハラギャティ』
(89)
『君の中の
ブルー』
(92)
『ディナーの後に』
(98)
『サークル』
(2003/
1.3)所属事務所S.F.A.
ファン・シ
ネにとって、
冷たく人工
的な美人といわれることは一種の束縛だ
った。ペ・チャンホ、イ・ミョンセ、パ
ク・チョルス監督ら名匠のもとで仕事を
してきた彼女が、やっと自由な姿を見せ
ることができたのは90年代の中盤。『産婦
人科』『殺す話』『生寡婦慰謝料請求訴訟』
に出演し、彫刻のような顔に人間味のあ
る魅力が加わり始めた。ドラマ『恋人』
(96/MBC)『シンデレラ』(97/MBC)で
は、映画で引き出すことのできなかった
魅力を存分に発揮した。『ファミリー』で
は好評は得られなかったが、ドラマ『天
生縁分』
(2004/MBC)で再び株をあげた。
022
ファン・シネ
Data Base
1963年12月15日生まれ
主な出演作『すばらしき我が青春の日々』
(87)
『水の上を歩
く女』
(90)
『301・302』
(95)
『産婦人科』
(97)
『殺す話』
(98)
『生寡婦慰謝料請求訴訟』
(98)
『ファミリー』
(2002/13.4)所
属事務所チューブマネージメント
CMで発
した「き
れいじゃ
ない花嫁なんていないよね?」「男は、女
しだいだよ」というふたつのセリフで、
「カワイイ系の女王」と呼ばれるようにな
ったチェ・ジンシル。90年代初めから中
盤にはトレンディドラマなどで活躍し、
『 私 の 愛 、 私 の 花 嫁 』、 ド ラ マ 『 嫉 妬 』
(92/MBC)、『女房殺し』で明るいイメー
ジが定着。一方、『スーザンブリンクのア
リラン』(91)『森の中の部屋』(92)『手
紙』では悲恋に苦しむ役も好演。『燃ゆる
月』以降は、結婚と同時にスクリーンか
らは遠ざかる。プライベートでは夫婦の
不和で大変な時期もあり、それを連想さ
せるような物語のテレビドラマ『バラの
戦争』(2004/MBC)で活動を再開。
チェ・ジンシル
Data Base
1968年12月24日生まれ
主な出演作『南部軍』
(90)
『私の愛、私の花嫁』
(90)
『ミ
スター・マンマ』
(92)
『女房殺し』
(94)
『ゴースト・ママ』
(96)
『手紙』
(97)
『燃ゆる月』
(2000/61.6)所属事務所ビック
エンターテイメント
コカコーラ
のようにス
カッとさわ
やかなイメージのシム・ヘジンは、『追わ
れし者の挽歌』で演技力を認められた。
『結婚物語』では、魅力的で、しっかりと
自分を主張する現代女性の代表的存在に。
一番の魅力は小気味良いセリフ回し。『セ
サン・パクロ 外の世界へ』『サイの角の
ように1人で行け』、96年の『パク・ポン
ゴン家出事件』、98年の『生寡婦慰謝料請
求訴訟』では、はじけるような女性を演
じてきた。また、『グリーンフィッシュ』
の感傷的な演技も印象に残る。98年、日
本映画『失楽園』のリメイクに出た後、
5年ぶりに出演したホラー『アカシア』
は、不発に終わった。
Data Base
1967年1月16日生まれ
主な出演作『追憶の名前で』
(89)
『追われし者の挽歌』
(90)
『結婚物語』
(92)
『セサン・パクロ 外の世界へ』
(94)
『サイの角のように1人で行け』
(95)
『グリーンフィッ
シュ』
(97)
『アカシア』
(2003/3.6)
023
シム・ヘジン
Chungmuro Seniors
024
忠
武
路
の
古
参
た
ち
Data Base
1962年5月1日生まれ
主な出演作
『神の息子』
(86)
『ミスタ
ー・マンマ』
(92)
『結婚物
語』
(92)
『おっぱいのぶら
下がった男』
(93)
『ハリウ
ッド・キッドの生涯』
(94)
『テロリスト 哀しき男に捧
げる挽歌』
(95)
『リベラ・メ』
(2000/53.1)
『イエスタデ
イ 沈黙の刻印』
(2002/
12.5)
『ソウル』
(2002/1.1)
『武 士 伝−B L A D E−』
(2003/19.2)
カリスマ性で勝負するなら、チェ・ミ
ンスを超える俳優は存在しない。95年
に『テロリスト 哀しき男に捧げる挽
歌』と、ドラマ『砂時計』(SBS)に出演し「アクションの帝王」
に。いわゆる「チェ・ミンス・シリーズ」で戯画化されもしたが、
現在も最も鋭い眼光の持ち主だ。アクション一本槍かというとそう
ではない。実は、ブレイクのきっかけは『結婚物語』『ミスター・
マンマ』やドラマ『愛がなんだ』(92/MBC)のようなロマンチッ
クコメディ。メロドラマでのドロドロした演技も一見の価値あり。
99年に『ユリョン』で大鐘賞主演男優賞を受賞。その後の『リベ
ラ・メ』『イエスタデイ 沈黙の刻印』『武士伝−BLADE−』でカ
リスマ性を発揮。2001年の『花嫁はギャングスター』のラストシー
ンも印象的だ。チェ・ミンス語録のなかに「演技は、真理と幻想と
光を探り出す作業だ」という名言があるが、彼は映画俳優であり、
文芸にも携わっている。大韓剣道会の広報大使も務める。
チェ・ミンス
025
80年代のアン・ソンギに「知的
な何か」があったとしたら、90
年代のムン・ソングンには「知
識人的な何か」があった。舞台出身の彼は、30代後半で映画デビュ
ー。彼は、チャン・ソヌ、パク・グァンス、ヨ・ギュンドン監督の
ペルソナだった。一昔前の俳優が嫌っていた無気力さや卑屈さ、邪
悪さを前面に押し出すキャラクターを演じることを厭わず、あらゆ
る問題作の問題を持つ主人公を演じてきたため、観客からは、なか
なか親近感を得られなかった。彼が演じるキャラクターは「破滅す
る知識人」の見本であり、どこか哀れみが感じられる。そんな破滅
の情緒は『セサン・パクロ 外の世界へ』や『つぼみ』のなかで、
彼だけが表現できるカラーとして生かされている。このところ市民
運動(現在は脱退)に参画していたので、90年代のような完成され
た彼の演技を目にすることは少なくなっていたが、それでも『嫉妬
は我が力』では物静かな中年男を演じ、ほろ苦い余韻を残した。パ
ク・クァンジョン演出の『陳述』に出演するという話もあったが、
活動の予定は特にないようだ。
ムン・ソングン
Data Base
1953年5月28日生まれ
主な出演作
『追われし者の挽歌』
(90)
『 競 馬 場へ 行く道 』
(9 1)
『あの島へ行きたい』
(93)
『セサン・パクロ 外の世
界へ』
(94)
『私からあなた
へ』
(94)
『つぼみ』
(96)
『オー! スジョン』
(2000/
9.0)
『 嫉 妬は我が力 』
(2002/3.4)