「21世紀型サスティナブルビルディングを考える

オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
株式会社オフィスビル総合研究所は2007年7月11 日、丸の内の丸ビルコンファレンスにおいてオフィスビルシンポジウムを開
催した。テーマになったのは、
「サスティナブルオフィス標準内装提言プロジェクト」と「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」
の2つの研究会によって進められてきた次世代オフィスビルに関する研究の報告と提言だ。
サスティナブル(持続する)オフィスの標準内装とは、未使用廃棄ゼロによる豊かなオフィス空間づくりを目指すもので、年々、高
まるテナント企業側の独自デザインへのニーズに応える新しい賃貸方式である。これまでのオフィスビルでは、天井埋め込み型白
色蛍光灯照明とグレーのカーペットに代表される「無難な内装」を一度完成させてから、テナント側に引き渡すのが常識だったが、
その結果、大きな問題が生じている。
たとえば、建築工事がある程度進んだ段階(竣工の約10 カ月前)以降にテナント独自のオフィスデザインを希望した場合には、
標準内装は計画通り仕上げられてしまうため、それをいったん壊してから改めて工事を行わなければならない。これは手間やコス
トの無駄になるだけでなく、未使用材をそのまま廃棄してしまうため、環境への悪影響は甚大だ。ちなみに、オフィスデザインを重
要視する外資系企業では「標準の照明機器は半分以上が使われずに捨てられている」という報告もある。
テーマ1
豊かなオフィス空間づくりを支援する
∼未使用廃棄ゼロの新オフィス標準内装のあり方
株式会社オフィスビル総合研究所「サスティナブルオフィス内装提言プロジェクト」より
●床材(カーペット)未施工による引渡し手法の推奨
●グリット天井システムの規格統一(標準化)提言
本田広昭
株式会社オフィスビル総合研究所 代表取締役
今はほとんどの賃貸ビルにおいて、標準内装を先に仕上げてからオフ
そこで私たちは、
さまざまな提案をしていきたいと思いました。一つは森
ィスの引き渡しを行っています。
したがって、
そのスペースを借りた企業は、
ビルさんが愛宕ヒルズから始めた「クォータースケルトン貸し」手法の推
お仕着せの空間でがまんするか、
あるいは解体して新たに内装工事をす
奨です。カーペット後施工方式と、今では新築ビルにかなりの比率で採
るか、2つの選択しかないのです。
用されているグリッド型のシステム天井の採用です。このグリッド方式はさ
ここに大きな問題点があります。
らに、付属器具などの取り付け寸法の規格統一が進めば、照明や空調・
まず、
この表をご覧になってください。
防災関連など天井に取り付ける設備品のReduce(リデュース/廃棄物
外資系企業の入居工事事例に見る
未使用廃棄
事例 A
発生抑制)、Reuse(リユース/再使用)、Recycle(リサイクル/再生
フリーアクセスフロアー
タイルカーペット
13.3%
14.3%
4.0%
100%
39.5%
91.0%
46.6%
0%
24.5%
49.3%
26.1%
55.0%
12.6%
システム天井
システム照明
24.6%
事例 A /3.5フロアー/14365㎡
事例 B
事例 B /1.5フロアー/4582㎡
事例 C
事例 C /3.5フロアー/13590㎡
いずれ、日本の企業も同じ道をたどることに!
未使用
廃棄率
第一部のパネルディスカッションのテーマ
●床材(カーペット)未施工による引渡し手法の推奨
●グリット天井システムの規格統一(標準化)提言
窓開け(自然換気)は、本来オフィスビルにも必要とされる機能だ。現在の空調と照明による人工的な空間は、外界との接点が少
なくなり、時間や季節などの変化を感じにくい。
しかしオフィスを知的生産の場として考えたとき、このような職場環境はマイナス
要因になりかねないという指摘は数多くされている。
また、自然換気を導入すると、空調用エネルギーコストの削減につながるだけでなく、もし電源がストップしても最低限の執務環
境は守られる。さらに窓開けによるリフレッシュ効果は大きいはずだ。
これまでは風圧や気圧のコントロールが難しかったことから高層ビルでは窓開けどころか自然換気も避ける傾向にあったが、昨
今の技術の進歩はさまざまな形でこれを可能にしている。もっとも先進的なオフィスビルの一つであるミッドタウン・タワーではテナ
ント側の希望により高層階にバルコニーさえ設置できる仕様にしたほどだ。
21.1%
OAフロア
37.6%
カーペット
システム天井
照明器具
利用)に加えLease(リース/脱着部位のリース化)
までが可能になり、
環境問題を解決する手段である3R+1Lがすべて実現できるのです。
また、米国の制度を参考にした、
より現実的で合理的なビルの建築確
認・検査方法についても法改正の必要性を訴えていますので、
ぜひ耳を
傾けてください。
考えてみれば、
オフィス空間という商品において、
たった1種類の「お
仕着せ」の内装しか提供できなかったところに、
オフィスのクオリティ問題
これは、
ある大規模ビルにおいて外資系企業がどれだけデザイン変更
がありました。時代は個性あるオフィスデザインを求めているのですから、
を行ったかという数字です。
この機会にみんなで考え、供給側も需要側も満足できる新しい賃貸のス
事例Bではカーペットは100%、標準品からオーダー品に替えられてい
タイルを定着させていきたいと願っております。
ます。外資の場合はコーポレートカラーに対する意識が高く、
グレーのカ
ーペットのままで満足するケースは少ないようで、
このような結果は日本企
業にもごく普通に見られます。
「クォータースケルトン」という新しい試みが
未使用廃棄物の軽減とデザインの自由を生んだ
ちなみに事例Cのカーペット交換率は0%ですが、
これはもともとカーペ
ットは後施工で引き渡す方式のビルだったためで、決して標準内装のま
まではありません。
さて、
このようなデザイン変更の結果、
「標準」として一度設置された
松本栄二氏
森ビル株式会社 PM企画室課長
内装材がどのくらいの廃棄をされているか示したのが表の数字です。カ
ーペットは事例Cのようなケースがあったにも関わらず4割弱、照明器具
に至っては半分以上の55%が一度も使われることなく捨てられています。
第二部のパネルディスカッションのテーマ
しかも、
これらの内装材は他のビルに流用できませんから、再利用率はゼ
森ビルではかなり早い時期から現在の標準内装の問題点について考
ロ、
そのまま不燃ゴミとして環境を汚染してしまうのです。
えてきました。テナントさんからデザイン変更のお申し入れがあったとき、
●高層ビルにおける自然換気技術開発の必要性
●“縁側(バルコニー)”オフィスの提言
これを、
「外資系企業はわがままだから」と言って見過ごすことはできま
いったん仕上げた内装を取り壊すのは資源の浪費や環境負荷の増大
せん。最近は日本企業の間でもオフィスの価値が再認識されています。
につながるだけでなく、標準内装の設置と解体・撤去という必要のない
従来の事務処理のための場ではなく、知的生産を行う戦略的スペース
工事をすることで時間的な無駄にもつながるからです。
オフィスビル総合研究所が提言する次世代ビルのスタイルは不動産・建築業界やテナント企業だけでなく、行政にも注目されて
おり、シンポジウムの会場には多くの関係者が集まった。ここではそこで行われたディスカッションの模様をレポートしよう。
主催:株式会社オフィスビル総合研究所 代表取締役 本田広昭
「サスティナブルオフィス標準内装提言プロジェクト」
「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」
後援:社団法人日本ビルヂング協会連合会 社団法人ニューオフィス推進協議会
社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会 日本オフィス学会
へと変化してきました。このため、標準内装を変更して独自のデザインを
当初は米国の方式に習い、完全なスケルトンスタイルで提供する方法
施したいというニーズは、年々、高まっています。つまり、
この廃棄率の数
も検討しましたが、
日本には、
まだ「標準内装のままでもいい」といったニ
字は、
いずれすべてのオフィスビルにあてはまってしまうのです。
ーズがあることと、小規模なテナントさんの中には契約したらすぐに入居
そのとき、
「もったいないから」と標準内装のまま我慢してオフィスを使
したいというケースもあるため、折衷案として考え出したのがクォータース
うのがいいのでしょうか? オフィスの供給に携わっている者すべてが、
も
ケルトン仕様による引き渡しだったのです。
っと自由にデザインできる空間を提供していくにはどうしたらいいか考える
この方式では、標準内装から天井とカーペットを取り去ったような状態
べきなのです。
で引き渡しが可能です。
しかも天井は、私たちが独自に開発した「フォレ
オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
しています。つまり、
これだけの未使用廃棄物をなくすことができたのです。
クォータースケルトン仕様とは
天井材、カーペットが設置されていない状態
一方、天井については予想していたより低い数字でしたが、
これは長
スケルトンとインフィルを分けて行う
二段階確認・検査方式なら解決は可能だ
この新制度を考えるにあたって参考にしたのは、
ストック主流のビルマ
ーケットを持つ米国のケースです。たとえばニューヨーク市ではコア&シェ
引く不況で経費削減時代を色濃く反映したもので、森ビルとしては、今後
ルのベースビルディングと、内装などインテリアを完全に分けて建築許可
もデザインの自由度を高める方向で検討を重ねていくつもりです。
を出しています。
したがって、
テナントが全部決まらずビルの一部が空い
ているような状況であっても、
その部分の内装工事は後回しにして使用
藤本秀一氏
標準内装をつくってから、壊し、捨てる
その背景にあるのは日本独自の慣習
独立行政法人建築研究所
住宅・都市研究グループ主任研究員
を開始できるのです。
最後に、新たな仕組みにより期待される効果(ねらい)
をまとめておきま
した。
小林 厚氏
三菱地所株式会社 ビル管理部副理事
・天井材やカーペットを変更する場合の撤去工事、
及び原状回復工事の工事費用が不要
・天井材やカーペットを変更する場合の撤去工事、
及び原状回復工事の工期短縮が可能
・床下や天井内の通線工事が容易
・未使用廃材(天井材・カーペット)の削減により、
二酸化炭素排出量を削減することが可能
スト・シーリング・システム」により、
すでに設置されたグリッドに天井板や照
明などを取り付けるだけで完成しますから、工期は大幅に短縮しています。
また併行して、標準内装による引き渡しという選択肢も用意してありま
すので、
「受付や会議室は自分たちのデザインにしたいのでクォータース
ケルトンで、執務スペースは標準内装で……」という契約も可能です。
この場合でもカーペットは寒色系と暖色系の2種類を用意しております
ので、一般的な標準内装よりデザインの自由度は高くなります。
2000年に竣工した後楽森ビルでグリッド天井を採用し、2001年以降
に竣工の愛宕グリーンヒルズMORIタワー、六本木ヒルズ森タワー、
オラ
ンダヒルズ森タワー、
そして改修後のアーク森ビルにおいてクォータース
ケルトン仕様による引き渡しを行ってまいりました。そこで改めて確認し
たメリットを整理しておきます。
所では「二段階確認・検査方式」という新しい制度の採用を提言してい
ます。これは長く使えるビルの構造やフレームと、時代やニーズに応じて
法です。
三菱地所ではご存じのように丸の内を中心に街の再構築を進め新し
現在、国土交通省では「100年使える共同住宅」としてSI(スケルトン・
いビルへと建て替えを進めていますが、
そこで未使用廃棄がどのくらい出
インフィル)住宅の普及を推進していますが、
ここでは構造躯体と内装・
ているのか調べた数字があります。それによりますと、
たとえば先日竣工し
設備が完全に切り離されており、
そのため入居者の8割近くは標準では
建築物
天井変更比率
た新丸ビルの場合、
タイルカーペットについては標準仕様品の使用率が
ない内装に変えています。また通常の分譲マンションでも、最近はフリー
1つめは、設計が確定したところから順次、確認、着工することが可能
約70%であり、30%は変更されているという結果になりました。そしてこ
プランとメニュープランが用意されており、内装変更の自由度はかなり高
となり、設計、
チェックの手間と負担の軽減、
コストダウンを実現できる点
の30%のうちの3分の2、つまり全体の20%は未使用のまま廃棄されて
くなってきました。そして当然、
オフィスにおいても同じような要求があるは
です。2つめに、検査を内装完成部分ごとに行い、建物の使用を開始で
います。残りの10%は工程的に間に合ったものですから、事前に発注を
ずで、
それに合った新しい制度の確立が必要になっています。
きることで、
テナント決定の時間差への対応が容易となります。また標準
ストップしたことで無駄は生じておりません。
変更率が30%というのはこれまでの報告に比べれば少ないように思え
ますが、私たちが標準品として用意したカーペットは特注のかなりグレード
の高いものでしたし、3色から選べるようになっていたので、
その点が評価さ
れたからだと考えています。色が変えられるならこちらで一括して発注したほ
うが価格も安くなり、
テナントさんにとってメリットは大きかったのでしょう。
ただそのカーペットの変更も、
あるいは全面的な内装の変更にしても、
竣工の10カ月前に決めていただかないと、画一的な標準内装を施す手
配をしなければならない関係上、廃棄物が生じてしまうのです。
どうして10カ月前に決めなければいけないのか? それは決して工事の
進め方だけに問題があるのではありません。ビル建設における完了検査
の段階で室内も仕上げておかなければならないため、
どうしてもそれだけ
8%
17%
テナントさんのデザインへの要求が強くなってきた現在、
このような建
床変更比率
内装で仕上げる必要がなくなり、未使用廃棄物の発生を抑制できるの
ストック時代に対応した確認・検査方式のイメージ
1.
スケルトンの確認Sとインフィルの確認Iを分ける。
2.
最初に確認Sを行う。インフィルは確認S以降、設計が確定したところから順次、
確認Iを行う。
3.
スケルトンの工事完了後、
スケルトン完了検査Sを行う。また、
インフィルは、
それ
ぞれの工事完了後、内装完了検査Iを行う。検査済証Sと検査済証Iの両方がそ
ろった部分から、順次、建物の使用を開始。
4.
内装(インフィル)の確認I、検査Iは一定の有資格者によるチェックも可能とする。
この場合、
自らの責任においてチェックしたことの証明としての報告を行政部局
に提出。
スケルトン設計
▼
工事施工
▼
スケルトン完成
▼
建物全体完成
▼
です。そして3つめは、確認・検査のSI分離により、建物の改装時などの
安全性チェックを行いやすくし、建物の長期使用に寄与していきます。
以上、
この時代に合った制度をできるだけ早く実現していきたいと考え
ておりますので、
オフィスビルに携わる多くの方に関心を持っていただけ
れば幸いです。
米国の合理的で効率的な発想が
グリッド天井システムを生み出した
スケルトン建設
確認
S
検査
S
インフィルの建設
小山知巳氏
築制度や慣習が時代に合わなくなってきているのは確かです。それどこ
確認
I1
株式会社イリア
取締役専務執行役員
検査
I1
ろか、国際問題にもつながりかねないという指摘がされているほどなのです。
33%
建築工事の完了検査のときに内装まで仕上げ、場合によってはその後、
75%
それを壊して新たな内装を行うというやり方は日本独自のものであるため、
愛宕グリーンヒルズMORIタワー、六本木ヒルズ森タワー、オランダヒルズ森タワーの実績値
インテリア(内装)
コア&シェル
(ベースビルディング)
の期間が必要になってくるのです。
テナントの内装変更比率
外資系企業
米国・NY市の建築許可の仕組み
変更される内装部分などを分け、別々に確認および検査を行うという方
導入のメリット
全体
オフィスビルの標準内装に伴う問題に対し、独立行政法人建築研究
有資格者による自主確認・
自主検査による円滑化
確認
In
検査
In
外資系企業などが参入する障害になっているといわれています。現在、
私も鹿島建設の米国法人に長く駐在していたため、向こうの建築確
認制度についてはよく知っておりますが、非常に合理的であり、経済的な
のは事実ですね。
東京を国際金融センターにしていくというプロジェクトが国や都によって
進められているのですが、
その事務局である都市再生本部でもこの点が
ここまで指摘されたようなさまざまな
現行のビルの確認・検査方式は、
日本でこれを参考にした「二段階確認・検査方式」を採用しようとした
協議され、私たちはヒアリングを受けて現状の報告と意見を求められました。
問題を含んでいるだけでなく、今後、
日本でもビルを長く使う「ストックの
場合、内装部分に関して民間の有資格者がチェックを行うという部分に
少しでもイメージを掴んでいただこうと、内装変更工事の実態を写真で
時代」になっていくべきだと考えた場合、
まったく対応していけません。な
不安が生じるかもしれませんが、
それはまったくの杞憂です。なぜなら、米
竣工後にテナントさんの要望に応じて工事をいたします。このとき従来型
お見せしたのですが、
これはかなりの衝撃を与えたようです。何しろ、一度、
ぜなら躯体に影響を及ぼさない内装工事については検査そのものを行う
国ではそれで何の問題もないからです。
の標準内装ビルでは天井板やカーペットをほとんどはがして、
その後、再び
完成したビルの内部を再び解体し、
それに伴って多くの廃材が生じるの
システムがないからです。この点、私たちが提案している「二段階確認・
元に戻すという手順が必要なのですが、
クォータースケルトンであればその
ですから、誰が見ても問題なのは明らかなのです。今のままの制度を続け、
検査方式」は、
スケルトンの確認Sとインフィルの確認Iを分けていますの
手間は大幅に軽減されます。さらにグリッド状態の板を張る前の天井は簡
未使用廃棄物を生じさせているのは大きな問題であり、私たちのようなビ
で、新築時にもリニューアル時にも適切な対応ができるのです。具体的
単に通線が可能で、時間的にも短縮効果は大きなものがありました。
ルの供給側としては、今後も行政に働きかけていくつもりです。そして、新
には建物の完成前に仮使用承認によって使用を開始し、
そして内装など
クォータースケルトン仕様による引き渡しを行ったビルについての内装
しいオフィスのニーズに対応したビルの供給システムを確立していかない
改装工事後に再び検査を行うという方式をとり、
しかも内装の確認Iは民
変更比率を見てみますと、
たとえばカーペットについては外資系のテナン
と思いを新たにしております。
間の資格者によるチェックを可能にしますので、
それにより行政側の手間
なかでも、予想以上に好評だったのが3番目の通線工事におけるメリッ
トです。
電源や通信などのラインは「標準のまま」
というわけにはいきませんから、
トさんで75%、全体でも33%が標準品として提示した以外のものを採用
が増えることはありません。
ニューヨーク市の仕組みの特徴
・コア&シェルとインテリアの設計者が異なるのが一般的。
・建築の工事には建築許可が必要。建築許可を得るためには計画承認が必要。
・最初の計画承認は、
まだ工事に着手しないインテリア部分は未確定でも可能。
(全体の用途・床面積等の申請は必要)
・最初の計画承認と仮占有許可、占有許可の際の検査は行政部局で実施。
・インテリアに関する追加の計画承認、仮占有の検査は登録建築士等による自主
チェックが一般的。
・仮占有許可の有効期間は90日間。これを超える場合は期間を更新。
オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
ビルをストックとしてとらえ、
テナント企業が次々と入れ替わるたびに内
装工事を加えていく米国では、
そのたびに検査をしていては大変だという
さらなるサスティナブルを実現していく
グリッド天井と設備の規格統一に向けて
モジュールの統一、設備取り付け構造の統一、
そして省エネ型天井シス
に照明を一直線に並べたい」とか「柱と窓の間には絶対に照明がなけ
テムの開発が重要だと思っています。それによる効果は、
ここにまとめて
ればいけない」と仕上がり至上主義に陥ってしまうのは本末転倒です。
ことから、
自然に「申請と自主チェック」という方式が確立されてきました。
おきました。
天井の機能はあくまでそのオフィスで働く人のためにあるのですから、
グリ
日本でいう一級建築士にあたる有資格者が検査し、合格であればサイン
モジュールの統一ではランプの開発が早急に求められます。日本の蛍
ッド天井の普及とさらなる規格の統一などにより、合理性、柔軟性重視
光管は640ミリ×280ミリというライン天井のサイズに合わせたものが主
の方向へ変えていければいいと思っています。
をします。
したがって、
もし何か問題が見つかればその人の責任になりま
井上雅弘氏
すし、当然、資格剥奪といった厳しい処分も科せられるので、決して疎か
流になっており、600ミリモジュール用のものはまだ充分に用意されてい
松下電工株式会社
施設屋外照明事業部副参事
にはできないのです。逆にいえば、
このような制度により建築士の立場が
るとはいえません。また空調機もこのサイズに合わせたものがもっと出て
高められているともいえるのですね。
くる必要があるでしょう。
さらに次世代グリッド天井用のモジュールとしては、
今の日本では、建物は建築時に検査をしておけば、
それで終わりという
空調吹出口やスピーカー、感知器などの設備と照明が一体化したもの
考え方で、
ストックという意識がかなり欠けています。
しかし今後、
ビルとい
日本のビルの場合、天井についても非常に高い仕上がり感を求めます。
設備取り付け構造の統一では、図で示したようなスタイルのものであ
なります。また照明器具をコネクター接続できるような規格が生まれれば、
脱着が簡単になるだけでなく、電気工事ではなく建築工事として作業で
■スッキリした
天井の柄
無方向柄
きますので、手間の軽減につながるはずです。
天井の仕上がり感に高いレベルを求める日本人の美意識は大切です
が、
しかしそれが行き過ぎて、
「窓からオフィスの天井を美しく見せるため
天井面がフラット
要でしょう。
グリッド天井システムの規格統一(標準化)に向けて
ピンホール柄
スリットがTバーの細さを強調
検査・確認の制度とともに、
もう一つ、私たちが米国に学ぶべきは、森
ビルさんがいち早く採用したグリッド天井システムのさらなる普及と高機
まず天井面ではフラットな仕上がりでなければなりません。また天井板
能化です。
などを取り付けるTバーも、従来25ミリあったものが15ミリ幅になり、
これも
米国では1980年代に入り、
それまでの個室が多かったオフィスから、大
すっきりした印象をあたえます。
しかも下の部分にスリットがあることで細
空間でもっと効率的にスペースを利用しようというスタイルに変わってき
さを強調し、仕上がりをより美しくしているのですね。さらに天井板も昔の
ました。それまで、個室以外のオフィスの天井は、簡易なTバーを張った上
ような穴が目立つものではなくピンホール柄などになり、色も白くなって明
に2×4の岩綿吸音板をただ置いていくだけのちゃちなものだったのですが、
るい空間を実現します。
このような流れの中で、
より合理的な2×2のグリッド天井システムが生ま
次にこれも日本のビルの特徴ですが、建築スパンが6000ミリから6400
れてきたのですね。米国の施工精度では従来型の工法ではフラットな天
ミリ、
そして最近ではより広い空間を確保できる7200ミリになってきていま
井をなかなかつくれなかったという問題もあります。
すが、
それに合わせて天井モジュールも600ミリと640ミリを用意すること
もう一つ、電話やデータ通信の配線を細かくしなければならなくなった
で均等に分割できるのです。
とき、
日本ではOAフロアが普及しましたが、5センチ上げた床の下にすべ
「サスティナブルオフィス内装提言プロジェクト」の提言
グリッド天井システムの規格統一(標準)化要望
「サスティナブルオフィス内装提言」
オフィスビル総合研究所主宰「サスティナブルオフィス内装提言プロジェクト」
グリット天井システムの規格統一(標準化)提言
て配線するといった芸当は米国では無理で、ヘタをすると20センチ近く
設計・レイアウト変更がフレキシブル
■日本の建築スパンに対応した天井モジュール
確保しなければならない。それではまずいというので天井内配線をするこ
・600mm×600mmモジュール
専用金物
れば高さを調整できますし、Tバーの形状にかかわらず取り付けが可能に
グリッド天井の特徴 デザイン性
う資産を有効に活用していくことを考えたら、早急な制度の見直しが必
■間仕切りの設置・変更・現状復旧が容易
などが増えてくると、
よりフレキシブルなデザインが可能になるはずです。
グリッド天井のメリットについて説明させていただきます。
■スリムなTバー
■フラットな天井
設計・レイアウト変更がフレキシブル
オフィスの天井には、実に多くの機能が集約されている。
● 天井板・照明器具の取り付け
● 安全設備(煙感知器・スプリンクラー・非難誘導灯・非常用照明、
スピーカー・排煙設備など)の取り付け
● 空調設備(噴出し口(アネモ)
・リターン口・ダクト・空調機)の取り付け
在来工法(軽量鉄骨・ボード貼・蛍光灯)によるオフィス天井から、霞ヶ関ビルで登場したライン型そして、ロの字型システム天井と進
化を遂げたものの、上記の機能を満たすのが精一杯で、空間利用者の空間デザインへの要求に耳を傾ける余裕はなかった。
● 受付、応接・役員室など改装エリアの“未使用廃棄と二重投資”のムダ
● 間仕切りの都度変更される天井設備の高額な移増設費のムダ
● 原状回復で繰り返される“廃棄物と二重投資”のムダ
融通が利かない頑固者の天井システムの“ムリ・ムダ”に留まらず、
“もったいないからそのまま使おうオフィス”は、
日本人からオフィ
スを創る意識(楽しさ)
を奪い続けている。
米国生まれのグリッド天井システムに大改良を加えた、
日本版グリッド天井システム(森ビル株式
会社)の開発、装着(愛宕・六本木ヒルズなど)が協力な推進力となり、新しいオフィスビルの条件
として定着した。
● どこでも点検口として天井裏のメンテナンスや工事など時間とコストが飛躍的に短縮
● 照明器具など付属設備の脱着、移設、交換の時間とコストが飛躍的に短縮
● グリッドバーへの間仕切りパネル取り付(Tボルト対応)などテナント工事の時間とコストが飛躍的に短縮
オフィス空間価値の向上というビル経営課題を背景として、天井システムの決定権限は、設計の
先生からようやく施主の手元に戻った。
・
・
・
・
・
・ グリッド天井システムの更なる進化(規格統一)が生み出す計り知れないメリットとは・
・
・
・
・
・
●オフィス空間における環境対応として3R・REDUCE
(廃棄物発生抑制)
・REUSE
(再使用)
・RECYCLE(再利用)の実現
●空間づくりにおける選択肢の増加がもたらす、豊かなオフィス空間の実現
●二重投資の無駄が排除され、投資コスト軽減の実現
豊かなオフィス空間づくりの支援や産業廃棄物抑制は、新しい時代のオフィスビルの価値創造への重要課題であり、施主(発注者)
の立場として、
グリッド天井システムの規格統一を要請するものである。
・
・
・グリット天井システムの更なる進化(規格統一)が生み出す計り知れないメリットとは・
・
・
天井モジュールの統一
■600mm×600mmモジュール
・640mm×640mmモジュール
照明器具 空調吹出口
スピーカ
感知器
スプリンクラー
とになり、点検や工事の容易性からシステム天井になっていったという事
情もあります。そして不経済なことを嫌う国民性から、設備も特注品から
設備分散
配置
標準化されていったのです。
天井材
■6400mm×6400mmモジュール
ここで米国のシステム天井の写真をお見せしましょう。地震の心配を
豊かなオフィス空間づくりの支援や産業廃棄物抑制は、新しい時代のオフィスビルの価
グリット天井システムの規格
値創造への重要課題であり、施主(発注者)の立場として、
統一(標準化)
を要請するものである。
しないでいいことから針金でグリッドを吊っただけとか、
けっこう簡単なので
設備集中
配置
入替え
設備プレート
すが、
ただグリッド天井のシステムがいかに合理的であるかはわかってい
ただけると思います。
日本の場合は、当然、
この国の事情に合った天井システムを導入しな
ければいけませんが、大空間の天井を効率的につくっていくにはこの方
法に学ぶのがやはり最適であり、
もっと便利になり、普及していけばいい
と思っています。
したがって、
グリッド天井用の照明モジュールもこのサイズに合わせて
つくられますし、
またスリットを利用して脚を付けるので、取り外したあとに
タタミ以来初めてではないかと期待される建築モジュールの統一の対象として、
グリッド天井システムが急浮上してきた。
森ビル株式会社が改良開発した、
グリット天井システム「フォレストシーリング」が引き金となり、大手ビルオーナー各社が、
フレキシビリティ
に着目して一気に採用が拡大した。
穴が残ることはありません。もちろんレイアウト変更も簡単にできます。
●建築モジュール(柱間隔)にあわせてグリットサイズは、
600mm(3600mmモジュール)
と640mm(3200mmモジュール)が採用
●照明器具などの取り付け部の内寸もほぼ同じで、規格はおおむね統一されている・
・
・といっていい。
もともと天井にはさまざまな設備が付きますが、
グリッド天井の規格に
オフィス空間づくりにおいて、
グリット天井システム普及は、以下のような大きな期待
を担っている。さらなるモジュール統一によるサスティナビリティの実現、中でも付属
品の取り付け寸法の規格統一により、器具の脱着が飛躍的に改善が図られるため、
照明器具などの交換やリユース( Reuse:再使用)が可能となる効果は絶大である。
合わせることで設計やレイアウト変更が非常にフレキシブルになります。
照明器具、ルーバー、空調器具、
スプリンクラー、
スピーカー、感知器、
セ
ンサーなどを自由に取り付けできるのですね。
しかもモジュールの中に集
約して設置できます。
そして最大の特徴は、取り付けや撤去、変更が短工期でできることで
しょう。部品数や残材も少なく、
どのモジュールも簡単に外せますから全
面点検口がいらず、改修やメンテナンスが容易だという点も見逃せません。
このようなメリットを活かし、
さらなるサスティナブルを実現していくには、
●付属器具取り付け規格の統一により、多種多様な器具の供給に期待※
●付属器具取り付け規格の統一により、脱着器具のリース化が可能
●付属器具取り付け規格の統一により、脱着器具のリユース(再使用)化が可能
●空間デザインに対するフレキシブルな対応が可能
●空間デザインに対するローコストの変更工事が可能
●空間デザインに対する照明方法の多様な選択肢とローコスト対応が可能
※多種多様な器具の供給に期待・
・
・器具の取り付け寸法が統一(規格化)
されることで、文字通り多様な商品開発が活発
化する可能性を秘めている。
(オープン・アーキテクチャ思想)
多様な照明器具/多様な天井板/多様な防災設備(煙感知器・スプリンクラー・非常照明・非常用放送・防炎たれ壁など)/空気
清浄機 /室内空調機/天井式輻射空調装置/扇(送)風機/遮音装置 etc
頑固者の天井システムとともに、標準内装で引き渡され、
そのまま使うことの多い日本のオフィス空間づくりを大きく変えていく可能性を秘
めている。
自然発生的に概ね規格統一がなされているなかで、採用者(建築発注者:利用者)
から、天井システム関連の供給者(メーカー・流通など)
に向けて、
さらなる規格統一要望を発信することで、前述した大きな効果への期待を確実なものにしたいと考える。
設備取付の構造の統一
■Tバーの寸法の統一
■設備取付の構造の統一
取付金具
H
W
H
ビス
W
・Tバー見付寸法(W)の対応
国内製品 15mm、20mm、25mm
海外製品 14.3mm、23.4mm
2タイプに統合
14.3mm、15mm兼用型照明器具
23.4mm、25mm兼用型照明器具
天井材
照明器具
取付金具
ビス
・Tバー高さ寸法(H)の対応
国内製品 40mm
海外製品 32mm、36mm、38mm
1タイプに統合
高さ自在対応型取付金具の採用
天井材
照明器具
テーマ2
オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
「自然と人との親和空間構築に向けて
∼自然換気(窓開け・縁側)オフィスの提言」
「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」の研究成果より
●高層ビルにおける自然換気技術開発の必要性
●“縁側(バルコニー)オフィス”の提言
サンケイビル西梅田プロジェクト
窓開け超高層オフィスビルへの挑戦
だったのです。そして町も、
そんなコンセプトでつくられていきます。
ところが近代になってガラスの大量生産が始まると状況は一変しました。
鋼鉄やコンクリートの躯体とともに、窓も単なる透明な壁になってしまった
のです。
本田広昭
株式会社オフィスビル総合研究所 代表取締役
ジェントルビルディング
日 秀行氏
20世紀はそれでよかったのかもしれません。人々を人工の力で集団管
■環境にも、そこで働く人の
ココロとカラダにも優しい、
次世代ビル
株式会社サンケイビル
取締役専務執行役員
現在のオフィスビルは、
ほとんどが窓の開かない構造になっています。
株式会社サンケイビルでは、現在、大阪の西梅田において旧サンケイ
超高層ビルではなおさらです。そして誰もが、空調システムでコントロール
ビルの建て替え事業を進めており、新しいビルでは超高層でありながら窓
された人工的な空間の中で外界との関係性をできるだけシャットアウトし
開けと自然換気を可能にしようと計画しています。
ながら仕事をしています。
今回、
デザインアーキテクトをお願いしたドイツのクリストフ・インゲンホ
「開放感、
リラクゼーション」、
そして第三は「災害時の室内環境維持」です。
しかし、
果たしてこういう生活が人間にとってふさわしいことなのでしょうか。
ーフェンさんは、
自然換気ビルのパイオニアともいえる人物です。たとえば
省エネについては今さら説明の必要はないでしょう。自然の風力や外
日本は豊かな四季がある国です。このため私たちの祖先は、
日々、時
代表作の一つであるUptown Munchenでは、回転軸によって窓の一部
気温度を利用することで空調の負荷を大きく減らすことができます。また
自然換気の効果は大きく3つあります。第一は「省エネルギー」、第二は
間的な変化、つまり「うつろい」を楽しみ、独自の文化を築きあげてきたの
開放感も大切です。外の風を感じるだけで人はリラックスできるので、
そ
です。もちろんそんな難しいことを考えなくても、
自然に触れ、一体感を持
れによって仕事の効率が高まれば、生産性は大きく向上します。つまり自
つことで気分がリフレッシュされることは誰にでも共通しているのではない
然換気を採用したビルは、入居される事業者にとってメリットがあるのです。
でしょうか。
理し、工業を発展させる時代だったのですから。
しかし環境の時代であり、
そして最後の災害時の室内環境維持は重要です。すべて空調でコン
多様性の時代に入った21世紀、
そろそろ異なる尺度で建築を考えていく
たしかに、今、
オフィスビルを建てるなら、窓は開かないほうが効率的な
トロールしているビルでは電源が確保できなければそこにいることもできま
設計ができます。
しかし考えてみてください。その建物は、
だいたい100年
必要があるように思うのです。つまり普遍性よりも特殊性、一般性より個
せん。
しかし窓から外気を入れられれば、
かなり改善されるのです。
先ぐらいまで使われるのです。
したがって、現状のままでいることは、1世紀
「個人個人が自由意思で多様な
別性への転換です。具体的に言えば、
風圧対策については、私たちは何度も風洞実験を行い、
ダブルスキン
先の子孫に不自然な空間を伝えてしまうことになるのです。
環境を選択できる可能性を与えること」
「地域や気候に根ざし、
それを利
方式であれば問題がないという確信を得ました。調整弁を組み込むこと
用した建築の実現」といった方向が考えられるのではないでしょうか。
で室内の気圧や風は規定値内に収まるのです。つまり、超高層ビルで窓
20世紀を代表する建築家ルイス・カーンは、代表作の一つフィッシャー
開けが可能なことが証明できたのです。
邸において、窓を「見るための窓」
「風のための窓」
「ベンチとしての窓」
新しいビルのCO2排出量を試算したところ、
ダブルスキンの採用により、
に分割しました。これなど、
そんな発想を具現化しています。
複層ガラスのビルと比べても年間で39.87%減という結果が出ています。
現在、私たちが進めている「Y-project」は、
このような時代の流れに
オフィスビルの窓開け合意形成に向けて
低層ビル
高層ビル
共通課題
低層ビル
の課題
窓開け慎重(反対)派
窓開け推進(賛成)派
1.コストアップ問題
・イニシャルコストのUP
・ランニングコストのUP
2.空調のエアバランス問題
3.管理上の懸念
・窓からの落下物が心配
・窓の閉め忘れなどが心配
4.その他(花粉アレルギーなど含む)
7.生活空間としての窓開放欲求への対応
8.災害時の自然換気対応(換気・室温調整)
9.空調エネルギーの削減効果への期待
・夏季のナイトパージ
(夜間冷却)
・春秋の自然換気
・冬季の外気冷房
10.その他
5.落下物など
11.落下物など
・物理的対策
・運営上の対策
そしてその省エネ効果をビルのライフサイクルコストに換算してみますと
沿って、22階程度の超高層のテナントビルにおける自然換気の可能性
を押し出す方式により、非常に簡単な方法で自然換気を可能にしました。
約17%の削減となり、長く使っていけば収益性はむしろ高いといえるかも
を探求していくものです。現状ではまださまざまな問題点があり、
それに対
「どんなビルでも自然による換気をできるのが当たり前だ」
しれません。
する解決方法を検討していきました。それを整理してお話しします。
という信念の持ち主であり、新しいサンケイビルでもダブルスキンによ
竣工後、1年を通して運用してみないと正確なところはわかりませんが、
る外気導入、つまり自然エネルギーを利用した換気ができるようなシステ
このような試みは、ぜひ多くのビルで行ってほしいので、今後も定期的に
ムを、一緒になって考えていってもらったのです。
報告させていただければ幸いです。
なぜ私たちが窓開けや自然換気にこだわったかといいますと、
それはや
はり、
ビルとしての特色を明確にしたかったからです。そして「環境にも、
そ
高層ビル
の課題
6.技術対応への懸念など
・煙突効果への懸念
・空調のエアバランスが狂う
・強風など気象状況への対応が心配
12.技術対応
・オフィスバルコニー設置により
すべてが解決するのではないか?
こで働く人のココロとカラダにも優しい次世代型のジェントルビルディング」
というコンセプトから、
この方針に行き着きました。
その中で、
オフィスビルの窓開けについて合意形成をするためのポイ
ントをまとめてみました。高層ビルの場合、
たしかにいろいろな問題はある
のですが、
しかしこれらも、最近の技術進歩は徐々にクリアし、実際に自
超高層ビルで窓を開けられるようにした場合、落下物の危険性、台風
時の水や風の流入という問題が発生します。サンケイビルさんはダブル
スキンで対応していますが、中規模のテナントビルでは外装コストを抑え
る必要があり、
なかなか難しいでしょう。
そこで提案するのが逆流防止弁付の定風量装置の導入です。落下
勝矢武之氏
オフィスに携わる者として果たしてそれでいいのだろうか? そんな問い
かけから、私たちの研究がスタートしました。
風窓(KAZAMADO)というコンセプトを
オフィスビルで実現していきたい
●窓周りの管理と空調バランスの問題
自然換気の効果
■省エネルギー
■開放感、リラクゼーション
■災害時の室内環境維持
株式会社日建設計
設計部門設計室
物はサッシュで食い止め、台風時の風の流入は定風量装置でコントロー
ルできます。さらに定風量装置は電動制御を用いないことでコストを抑え
ます。手動でローカル制御するほうが、
むしろ窓らしくていいという考え方
をしました。
古来の窓は、
もともとただの穴でした。住居を密閉するのは難しく、光
●風量の確保の問題
然換気システムを採用したビルはいくつも誕生しています。本日は、
そん
と風は自由に通り抜けていたはずです。
しかし「建築」の技術が進んでく
な新世代ビルの建設プロジェクトの推進者や、私たちの活動を応援し、
ると窓は開け閉めして気候や明るさ、
プライバシーをコントロールするもの
協力してくださっている大学の先生、建築家、設備設計の専門家などに
自然換気を効果的に利用するためには、無風時にも自然換気ができ
になります。特に高温多湿な日本では、
この役目は重要でした。これはア
お話をうかがい、一緒にこの問題を考えていきたいと思っております。
るようにしなければなりません。これについては建物の高さを利用し、煙突
ジア諸国の多くでも同じで、窓によって空間の中と外は比較的あいまい
効果を用いた重力換気が最適なのですが、排気専用の効果的な吹抜
オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
けはテナントビルではコスト面からは設置が困難です。
したがって既存の
平面計画を利用した縦シャフトの可能性を模索しなければなりません。こ
視覚化の偏重:身体こそがクオリアを感じる
人工と自然の関係
●風圧による自然換気
「オフィスの縁側」として機能する
バルコニービルの可能性を探る
れには重力換気用のシャフトを低層と高層で二箇所に分ける方法などが
有効です。また事務室全体の換気についてはコア側に排気シャフトを設
自然
けることで対応できます。
岩澤昭彦氏
建築家 A&I研究所代表
●デザインの問題
建築
機構としてはこのようにさまざまな解決策がありますが、
しかし、
自然換
身体
気を日常的に行うにはデザインの問題も重要です。なぜなら今までのサッ
脳
シュは閉まっている状態で美しくなるように設計されており、開いている状
私たち建築家は、ふだん、建物にしか目がいかないのですが、考えてみ
れば日本は水と風と緑といった自然に囲まれた国であり、
それを無視して
態のことを考慮していないからです。
したがって、換気装置があることをむ
は本当にいい建築物などつくれません。そんな考えから、新しく出版され
しろ美しいデザインにできないか検討してみました。考え方として、手摺に
た『次世代ビルの条件』に書かせていただいたのが、
「みずほのビル構想」
近い高さに家具のように自由に操作できる換気口を取り付ける方法が
換気と温度差換気を実現しました。省エネ効果では最大で26%の削減
有効です。
を可能にしています。
一つとしてバルコニーの検討を行いました。オフィスに縁側的な空間を
ポイントは、開いている状態、つまり、今、風が入ってきていると室内の
超高層の汐留メディアタワーの場合は吹抜けを利用した自然換気で
設けることで、外界との接点にするのです。
人にわかるようなデザインが重要であり、
それにより窓と同じように意識し、
すが、三角形のビルの角に給気と廃棄口を設け、風量を機械で細かく制
ローカルな判断で自然換気をすることができるのです。
御することにより空調とのバランスを図っています。
二重入れ子の構造
住宅におけるパッシブデザイン
窓開けと自然換気は、
オフィスビルだとついつい最初から「できないん
オフィスビルでも窓を開けよう!
そう思うことが環境技術の開発につながる
1)省エネルギー・環境負荷削減
2)自然の気持ちよさ
じゃないか」と決めつけがちですが、住宅であれば高層マンションであって
も開くのが常識ですし、商業ビルでもすべてクローズというわけではありま
Passive Design for Active Life
せん。ですから、
まずやってみようという意識が必要なのではないでしょうか。
発想の転換
少なくとも中低層ビルでは、
もっと挑戦していってほしいですね。
高層ビルになると、
いつも窓を開けるというわけにはいきませんが、
これ
森島清太氏
までの事例では1年のうち半分は自然換気が可能であり、
その省エネ効
鹿島建設株式会社
建築設計本部
常時 閉、必要ならば開
常時 開、必要ならば閉
果は大きいといえるでしょう。
という開放感のあるビルのコンセプトです。ここでは窓開けの解決策の
検討してみると、最初にぶつかったのは法律の壁でした。面積不参入
条件では奥行きは2メートル以内なのですが、
やはり3メートル以上はない
と独立したスペースとしては使いにくく、
この点が解決されなければバル
コニーとしての用途はかなり限られてしまうでしょう。
そのほかのものも含め、バルコニービルを実現していくうえでの問題点
をまとめておきました。
構造的にはさまざまなスタイルが可能であり、
これらの問題点さえ解決
できればバルコニーは充分に設置可能です。そのモデルを示しておきま
したので、ぜひご参考にしていただき、多くのオフィスビルに開放的なス
ペースが生まれればうれしいですね。
とにかく、古い常識を変えるようにみんなで努力していくことが大切だと
思っています。
私たち鹿島建設でも自然換気には強い関心を持っており、中低層の
オフィスビルはすべて窓が開くようにしようと考えています。さらに高層以
上であっても、共同通信本社である汐留メディアタワーでは自然換気の
「宇宙の秩序に包まれている状態、広大な世界の中に自分自身を発見
なぜオフイスの窓を開けるのか
「正の循環」
「身体性の回復」に向けて
た落下物の可能性であれば、
たとえ鉛筆ほどの大きさのものでも外に落
小玉祐一郎氏
ちたら事故につながりかねませんから、防虫も兼ねたスクリーンは必要で
神戸芸術工科大学
環境デザイン学科教授
しょう。
しかしそれらはさまざまな構造的な工夫で対処が可能です。
温度差換気
オフィス
ガーデン
ダブルスキン
ファサード
エコシャフト
そして、
このような考え方に基づき、
オフィスビルも自然を感じられる知
人工と自然の関係を図にしてみるとこうなります。脳、身体、建築、
自
然の関係は二重の入れ子構造になっており、特に身体は建築という殻
を飛び越え、主に視覚によって自然を感じることで安心します。この前、
学会でニューヨークに行ったのですが、泊まったプラザホテルは超高層
中低層ビルの実例としては積水ハウス九段南ビルについて紹介して
風力換気
自然とのコンタクトが必要だ」
たドイツのコメルツバンクなどはその代表ですね。
もちろん、解決しなければならない問題はあります。先ほども指摘され
●自然光と自然換気
バルコニーの検討 次世代ビルの条件(鹿島出版刊)
みずほのビル構想
的・創造的仕事場へと確実に進化してきています。自然換気を採用し
採用により大きな省エネ効果をあげています。
おきましょう。ダブルスキンファサードと縦に貫くエコシャフトにより、風力
するとき、
自然の営みに触れるとき…………知的・創造的仕事場にこそ
でありながら窓が開き、私は自然と接することでリラックスできる効果を実
今日はオフィスビルの窓開けを推進する人々への応援団としてやって
感しました。
きました。
実をいえば、
オフィスビルだけでなく住宅においても窓開けはより重要
20世紀はとにかく「エネルギーの世紀」で、
あらゆる課題をエネルギー
になってきました。これまでの「常時 閉、必要ならば開」から「常時 開、
による力ずくブレークスルーで解決してきました。このため現代建築は鉄
必要ならば閉」へと発想の転換が進んでいるのですね。そんなパッシブ
やコンクリートではなく
「エネルギーがつくった」という人さえいるほどです。
デザインの実例をいくつか紹介しておきます。これによる省エネ効果は
そのおかげで私たち人類が、寒冷地や砂漠などの極地から宇宙空間で
絶大で、冷房は80%カットできているのです。
まで生活できるようにはなったのですが、同時にエネルギーの浪費という
20世紀がエネルギーの浪費による「負の循環」であったのに対し、
大問題を抱えてしまったのです。
21世紀は「正の循環」に向けての取り組みが必要です。具体的には立
エネルギーの浪費によって実現した快適さ、
これは均質な空間であり
体緑化、
クールスポットの形成、環境ポテンシャルの改善、窓を開ける、
「comfortable」と呼ぶことができます。
しかしこれから目指すのは、省エネ
脱エネルギーといったキーワードで建築も変えていくべきでしょう。そして
ルギーによる変化のある快適さ、つまり「pleasant」なのではないでしょう
地球環境負荷の低減による持続可能性と、私たち人間の身体性の回
か。単調な環境ではなく変化を楽しむことで人間らしさを取り戻そうという
復を目指すべきなのです。
考え方に変わってきたのです。
美学者の中井正一は「美の意識」の中でこう書いています。
みずほビル・バルコニーまわりのイメージパース
バルコニーの検討 バルコニービルの問題点
1.面積不参入は事実上不可能
天井高さの1/2解放・奥行き2mは少なすぎる
2.ものの落下防止と開放感 落下対策と開放感を出すことは、相容れない条件となる。
3.家具などの飛散 家具は風で飛ばされないように床に固定する。
4.飛び降り対策 開放部分に格子をつけるなどの対策を講じないと飛び
降りへの対策にはならない。
5.バルコニーへの出入りの工夫
オフィス環境を乱すドラフトやエアバランス問題の克
服のため、2重のドアを設置する。
オフィスビルシンポジウム・レポート
「21世紀型サスティナブルビルディングを考える」
未使用廃棄ゼロを目指す新しいオフィスの標準内装と
窓開けによる自然換気を採用した次世代オフィスビル
自然換気を普及させていくうえで
設備設計の果たす役割は大きい
発言しているのですから、今後はもっとドラスチックな変革が必要でしょう。
たとえば照明についていえば、現在の蛍光灯では1平米あたりだいたい
20ワット必要ですが、LEDになれば4分の1、5ワットで済みます。同じよう
に空調も自然換気を利用して省エネを目指していくべきなのです。
葛岡典雄氏
株式会社アルモ設計
専務取締役
私は設備設計に長く携わり、
これまで均一な空間をたくさんつくってき
たという前歴があるため、
これまでの話を聞き、
ちょっと居づらく感じました
(笑)。ただ設備側の条件を考えると窓開けや自然換気はかなり高いハ
これは技術的には充分に可能です。先ほど森島さんが紹介した積水
〈窓開け感覚〉…サンケイビルが取り組む
外気の取り込みを可能にした
高層ビル「ブリーゼタワー」
ハウス九段南ビルでも、風力換気や温度差換気により20∼30%の省
エネ効果をあげています。つまり、知恵を絞ればいろいろな工夫が生まれ
ダブルスキンファサードと自然換気システムにより、
オフィスフロアに外気や自然光を取り
るのです。
込みながら、熱を遮断することを可能にしたブリーゼタワー。自然エネルギーを活用すること
汐留メディアタワーなんかはその最たる例で、機械室で給気と排気の
により、環境負荷の低減を実現。超高層ビルでありながら、爽やかな風が通り抜け、
自然
コントロールを細かく行えたから超高層ビルでも自然換気ができました。
光があふれるオフィスフロアが誕生!
つまりこの課題は、建築だけでなく設備設計をする人が果たす役割が大
◎ 透明ガラスとLow-E ガラスを二重に配し、ダブルスキンファサードにより、
きいのです。
ードルであったのと、
ビルオーナーさん側がそういう挑戦を求めなかったこ
建物も設備も変わることで、
自然換気は多くのビルで可能になります。
ともあり、
なかなか難しかったのですね。
そのことを、
オフィスビルに携わる人はしっかり認識してほしいですね。
ただ、
日本でも2050年までに50%の省エネを実現すると首相自身が
外部からの熱負荷を最小限にとどめることが可能
◎ 自然光が入る昼間は、自然調光システムが外の明るさを検知、照明器具の
明るさを調整
◎ 超高層ビルでありながら、オフィス内執務者が手動により「換気小窓」を開
けることで、自然換気を実現
「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」の提言新しいオフィスの価値空間
縁側(バルコニー)オフィス の活用
建物概要
名
春・夏・秋・冬たぐいなき四季をオフィスに!
外でもない内でもない中間領域として
縁側の文化がある日本
外界との接点を持ったオフィスビルを (新・次世代ビルの条件より抜粋)
人間の感覚を刺激するという点で「窓」は大きな役割を果たす。しかし、高層ビルや超高層ビルでは、煙突効果対策と
縁側(バルコニー)オフィスの提言
して回転ドアなどで空気の流入を制限しなければならないほど、気圧と風圧との闘いにさらされる。そのため、近年の高
層ビルや超高層のオフィスビルは窓を閉ざしてしまった。
●窓開放の自然換気では、花粉症などへの配慮が必要となるが、外気と接したい人だけが利用できる点
●開放部分へのガラスシャッター装着などにより、荒天や寒暖の激しい真夏や真冬の季節にも利用が可能な点
◎緊張状態のオフィスワークへの弛緩(息抜・気分転換をするなど)への効果が高い点
◎コミュニケーションやコラボレーションの場(Ba)
を変える効果が高い点
風除室
ガラスシャッター
天井高 2,800
縁側オフィス
縁側オフィス
縁側(バルコニー)オフィスの提言
オフィスビル総合研究所「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」
竣
工:2008年7月(予定)
階
数:地上34階・地下3階、塔屋1階
敷 地 面 積:5,291,89 ㎡
建 築 面 積:3,616,04 ㎡
延 床 面 積:84,790,04 ㎡
最 高 高 さ:174.90 m
天 井 高:2.8 m
縁側オフィス
風除室
建 築 主:株式会社サンケイビル、株式会社島津商会
構 造:地上/鉄骨造 地下/鉄骨鉄筋コンクリート造
縁側(バルコニー)オフィスの効用
●出入り口の二重扉で中・高層ビルのドラフト
(煙突効果)問題の影響を受けずに外界との接点を確保できる点
ガラスシャッター
称:ブリーゼタワー
所 在 地:大阪市北区梅田2-4-9
縁側のようにバルコニー室をつかう・
・
・縁側オフィス。
雨・風の日はガラスシャッターを閉めていつものオフィスとして使う。
縁側(バルコニー)オフィスの提言
オフィスビル総合研究所「オフィスビルの窓開け(自然換気)研究会」
OAフロア:100mm