現代日本における現し木架構の構法的特徴

現代日本における現し木架構の構法的特徴
安田研究室 12_02668 大内真理奈 (OUCHI, Marina)
1. 序 近年、木材利用の重要性が見直され、建築物にお
が多いが (29/70)、2010 年以降は偏りがほぼみられな
ける木造化・木質化が推奨されている 。このような背
かった ( 図 5)。さらに、架構の構造を木造 (43/70) とハ
景の中、木材が構造体として内部空間に表出した現し木
イブリッド (27/70) に、材を束ねの有無から束ね材
1)
架構 は、少ない部材量で大空間を可能にする技術の発
2)
(35/70) と単材 (35/70)、材の接合部を材同士の位置関
達や、多くの木材利用を求める社会的要請に伴い変化し
係から同面 (34/70) と重ね (36/70) に分類した。
てきたと考えられる。その変化は、木架構の構法的特徴
5. 現し木架構の材種と材の成 材種を加工方法から無
と年代から捉えられる。そこで本研究では、規模に左右
されない指標として単位量 を定義し、架構のスパン、構成
3)
や材種と材の成といった構法的特徴を分析し、年代と併
垢材、集成材、LVL に分類した ( 図 6)。全年代では集成
材が最も多いが (39/70)、2001 年以降は無垢材と集成
材が同数であった (22/70)。LVL は 2000 年以降にみら
せて検討することで、現代日本における現し木架構の特
れた。また、材の成を規格寸法から 120mm、450mm
徴の一端を明らかにすることを目的とする。
を基準に3つに分類すると ( 図7)、M が最も多くみられ
2. 現し木架構の単位量 見た目と実際の木の量を捉え
るため、平面に対する部材の体積と表面積を「単位部材
量」
「単位表面積」と定義した ( 図 3)。単位部材量、
単位
表面積の平均値 0.079 ㎥、1.827 ㎡を基準に大小に大別
た (37/70)。
6. 現し木架構の構法的特徴 6-1. 現し木架構のタイプ 前章までの分析から構法的
特徴を複合的に検討した。2章で得られた 4 つの単位量
し、その組み合わせから 4 つの単位量パタンに分類した。
パタンと架構のスパン、架構形式、材種の組み合わせが共通す
3.現し木架構のスパン 架構のスパンを15mを基準に分類
るもののうち、3 事例以上がみられたものを現し木架構
し、年代の傾向を検討したところ ( 図 4)、2010 年以降
のパタンとして抽出し、A-K の 11パタンが得られた ( 表5)。
では狭が多かった (23/26)。
小・小のものは A,B,C,D,E,F である。A,B,C は狭いスパ
4. 現し木架構の構成 架構形式を登り梁、面格子、洋小
屋、和小屋に分類した ( 表1)。年代ごとにみると洋小屋
No.56 木の構築 工学院大学ボクシング場 福島加津也+冨永祥子 2013年 sk1307
2章
現し木架構の単位量 5章
単位部材量
0.133㎥ (大) 架構形式
現し木架構の構成
和小屋
3.22㎡ (大) 架構の構造
単位表面積
木造
現し木架構のスパン 材の束ね
3章
単材
7.3 m (短) 材の接合部
スパン
同面
現し木架構の材種と材の成 6章 現し木架構の構法的特徴
材種
無垢材
4章
材の成
210mm(M)
J ⅲ期
㎡( )
プロソミュージアム
8.00
(木造3F、大断面集成材可)
(高さ・延床面積制限撤廃)
大・大
1m
小・小
大・小
牧野富太郎記念館
0.00
図3 単位部材量と単位表面積
0.05
出雲ドーム
0.15
0.079 0.10
単位部材量 (㎥)
平均値
大
小 1.827
0.20
27
1987-1999
2000-2009
2010-2015
2005-2009
狭(<15m) 42
広(≧15m) 28
23
3
9
束
束ね材
単
35
同
同面
単材
18
5
面格子
11
6
洋小屋
29
和小屋
12
LVL
(L)
スパン
5
3
重ね
12
4
10
13
5
10
15
20
30
35
(件)
30
35
(件)
8
15
9
20
25
4
12
10
5
図7 材の成
25
2
10
12
M(120<M≦450) 37
36
(件)
6
17
3 2
22
11 1
35
2
図6 材種の年代別傾向
材の成
S(≦120)
20
15
9
5
30
13
9
図5 架構形式の年代別傾向
L(>450)
34
10
4
6
25
15
5
集成材 (集) 39
35
重
架構形式
登り梁
材種
無垢材 (無) 26
表3 材の束ね
表4 材の接合部
0.25
7
1995-1999 10
図4 木架構のスパン
43
群馬県農業技術センター
凡例
図2 日本の木材利用促進に関わる法規と年代別事例数
表1 架構形式
20
10
5
15
スパン
表2架構の構造
工学院大学ボクシング場
25 (件)
20
15
2010年 木材利用促進法 ⅲ 2010-2015 26
木造(木) ハイブリッド(ハ)
工学院大学弓道場
2.00
1.827
大
10
5
4
2000年
2000-2004 11
建築基準法規制撤廃 ⅱ
12
洋小屋(29) 和小屋(12)
和
洋
大館市樹海体育館
単位表面積
小
小・大
4.00
1m
年代
法規
1987-1989
1987年
建築基準法規制緩和 ⅰ 1990-1994
狭山の森礼拝堂
平均値
0.079
6.00
単位表面積
架構表面積 [ ㎡ ]
=
主室平面 [ ㎡ ]
材が同面にされた木造洋小屋形式のもの、C は集成材の
登り梁(18) 面格子(11)
面
登
図1 分析例
単位部材量
架構体積[ ㎥ ]
=
主室平面 [ ㎡ ]
ンのもので、A は集成材の登り梁形式のもの、B は無垢
15
4
13
5
20
2
12
25
30
35
(件)
12
5
表1~4,図1~8註)表中の数字は、対象資料70件の内の該当数を示す。
25
30
35
(件)
代の偏りがみられなかったタイプは、集成材とスパン、架構形
ある。次に、年代の偏りがみられたタイプに着目すると、ⅱ
期を境にスパンの傾向がⅱ期以前のものは広、以降のものは
よって特徴づけられている。さらに、単位表面積と単位
部材量に着目すると、単位部材量と単位表面積が相関し
ているものがほとんどで、全体としては実際の木の量と
見た目の木の量がともに少なくなっている小・小のもの
の木の量がともに多くなっている大・大のものが多くみ
られた。これは近年の木材利用促進という社会的背景に
が多いにも関わらず、見た目の木の量は少ない大・小で
ある H は、構造的に合理的なものである。一方で、見た
木という素材を最大限テクスチャとしてみせるものである。こ
うことで、特徴的な 11 種類の木架構タイプを導き、年代と
の関係から、法改正や木利用促進という社会的背景と木
架構タイプの対応関係など、現代日本における現し木架構の
特徴の一端を明らかにした。
註 1) 図2のように、法改正がすすめられており、事例件数をみても近年増加傾向にある。
註2) 建築専門誌「新建築」の 1987-2015 年に掲載された住宅を除く新築の作品のなかで、屋根を支持す
る木架構が現しになっていて充分な資料が得られた 70 作品を対象とし分析した。
註3) 本研究では、単位部材量と単位表面積を併せて「単位量」と呼ぶ。
A (6)
D (3)
C (4)
K (3)
F (3)
E (3)
H (4)
B (3)
G (3)
I (3)
J (3)
2000-2009
ⅲ
7. 結 以上、現し木架構を対象として複合的な検討を行
-1999
ⅱ
変化し、それを反映した特徴的な木架構のタイプである。
ⅰ
れらは同時代の法改正などを背景とし木材の使われ方が
2010-
スパン 架構形式
材種
登り梁
集成材
広
登り梁
集成材
狭
洋小屋
集成材
狭
広
広
洋小屋
No.20 牧野富太郎記念館
E
No.57 砥用町林業総合
センター
(3)
F
No.1 龍神村民体育館
(3)
G
No.27 二宮のアトリエ
H
No.6 出雲ドーム
(3)
(4)
I
No.68 十日町産業文化
発信館いこて
J
No.8 木の構築 工学院
大学ボクシング場
(3)
(3)
K
(3)
No.8 海の博物館
構造 束ね 接合部
集成材
束
洋小屋 集成材
単
単位 単位
部材量 表面積
小
小
小
小
小
小
大
面
大
小
小
小
小
大
小
広
洋小屋
ハ
広
無垢材
登り梁
集成材
ハ
狭
洋小屋
無垢材
木
面
小
小
木
重
小
大
大
大
狭
狭
狭
洋小屋
洋小屋
和小屋
図8 木架構タイプと年代との対応関係
無垢材
集成材
無垢材
木
束
単
重
大
大
ⅰⅱⅲ
目の量が多く、実際の木の量が少ない小・大である G は
(3)
ⅰⅱⅲ
対応したものであると考えられる。また、実際の木の量
D
No.19 林業機械化センター
展示棟
ⅰⅱⅲ
が過半数を占め、一方ⅱⅲ期では実際の木の量と見た目
C
(4)
No.59 eコラボつるがしま
ⅰⅱⅲ
や材種だけではなく、構造や接合部などの構法の違いに
B
(3)
ⅰⅱⅲ
狭と変化している。年代の偏りがみられるタイプは架構形式
No.10 志摩ミュージアム
(6)
ⅰⅱⅲ
式の組み合わせのみによって特徴づけられているもので
A
木架構タイプ
ⅰⅱⅲ
ⅱⅲ期のみには B,G,I、ⅲ期のみには J がみられた。年
M
M
M
M
M
M
M
S
S
S
S
M
M
S
M
S
S
M
S
S
S
M
M
L
M
M
M
M
M
M
M
S
S
S
M
S
S
S
S
M
L
M
M
L
L
M
L
S
L
L
M
S
M
M
S
S
M
M
M
M
L
M
M
M
L
M
L
L
S
M
ⅰⅱⅲ
てには A,C,D,K、
ⅰ期のみには F、
ⅰⅱ期のみには E,H、
集
集
集
集
集
集
無
無
無
集
集
集
集
無
無
無
集
L
L
無
無
集
集
集
集
無
無
無
集
集
集
無
無
無
無
無
無
L
無
無
集
無
集
集
集
集
集
集
集
集
無
集
集
集
無
無
無
集
L
集
集
無
無
集
集
集
集
集
L
無
ⅰⅱⅲ
架構タイプと年代との関係を分析した ( 図8)。ⅰⅱⅲ期全
同
同
重
重
同
重
同
同
同
同
同
重
重
同
重
重
重
同
重
重
重
重
同
同
同
同
同
重
同
同
同
同
重
重
重
重
重
重
重
同
重
重
重
同
同
重
同
同
同
同
重
重
重
重
同
重
同
同
重
重
重
同
同
重
重
同
同
重
重
同
ⅰⅱⅲ
6-2. 木架構タイプの年代との関係 前節で得られた木
単
単
単
束
単
束
束
単
単
束
単
単
束
単
束
束
束
単
束
単
単
束
単
単
束
単
束
単
単
単
単
束
束
束
単
束
束
単
束
単
束
束
単
束
束
束
束
単
単
束
束
束
単
束
単
単
単
単
束
単
単
単
単
束
束
束
束
束
単
束
ⅰⅱⅲ
ある。J は無垢の単材で木造和小屋形式のものである。
ハ
ハ
ハ
木
木
木
木
木
木
ハ
木
木
木
木
木
木
木
木
ハ
木
ハ
木
ハ
ハ
ハ
木
ハ
ハ
木
木
ハ
ハ
ハ
木
木
木
木
ハ
木
木
木
木
木
ハ
ハ
ハ
ハ
木
木
ハ
ハ
木
ハ
木
木
木
木
木
木
木
木
木
木
木
ハ
木
ハ
ハ
ハ
ハ
年代
なり狭いスパンものであり、K は束ね材で広いスパンのもので
登
登
登
登
登
登
洋
洋
洋
洋
洋
洋
洋
登
登
和
和
面
面
面
面
登
登
登
登
洋
洋
洋
洋
洋
洋
面
面
洋
洋
洋
面
面
和
洋
和
和
洋
登
登
登
登
面
洋
洋
和
洋
洋
洋
和
和
和
登
面
和
和
洋
洋
洋
洋
洋
登
面
洋
和
成
る。I,K は集成材の洋小屋形式のものである。I は材が重
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
広
広
広
広
広
広
広
広
広
広
広
狭
狭
狭
狭
狭
狭
広
狭
狭
狭
広
広
広
広
広
広
広
広
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
狭
広
広
広
広
広
広
広
接合部
リッド構造で登り梁形式のものである。大・大は I,J,K であ
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
大
大
大
大
大
大
大
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
材種
ある。大・小は H のみで、束ねた集成材で広いスパンのハイブ
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
小
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
大
構成
束ね
で、無垢の束ね材で狭いスパンの木造で洋小屋形式のもので
1993
志摩ミュージアム
気仙沼留守家庭児童センター 2012
2009
虎屋京都店
2012
ふじ幼稚園
東京キリスト教学園礼拝堂 1989
2001
富士高原研修所
宮崎県木材利用技術センター 2001
2014
eコラボつるがしま
蛍遊苑長府製作所記念館 2014
こだま幼稚園支援センター 2011
雄武町日の出岬展望台 1992
林業機械化センター展示棟 1999
2007
とらや工房
1997
安曇野ちひろ美術館
2014
木の歯科
1998
古河総合公園管理棟
2011
りくカフェ
東北大学葉山東スクエアブックカフェ 2010
2015
JR女川駅
岡山県立大学同窓会館 2013
群馬県農業技術センター 2013
高知県立中芸高校格技場 1995
1999
牧野富太郎記念館
1988
赤城林間学園森の家
2012
オガールプラザ
1988
小国町民体育館
2004
所沢市民体育館
砥用町林業総合センター 2004
1987
龍神村民体育館
森林文化交流センター森愛館 1998
水俣第三中学校体育館 1999
2003
西袋中学校体育館
ハイブリッド・ハイパードームE 1990
2003
二宮のアトリエ
2008
駿府教会
下川町のトドマツオフィス 2015
みんなの森ぎふメディアコスモス 2015
2001
Plywood Structure-03
木の構築 工学院大学弓道場 2013
2010
北沢建築工場
2006
梼原町総合庁舎
三重県立熊野古道センター 2007
2010
梼原・木橋ミュージアム
1992
出雲ドーム
1996
堀之内町民体育館
梼原町雲の上のプール 1998
2009
高知駅
芦北町総合交流促進施設 2009
1992
健康スポーツドーム
2003
愛媛県武道館
小国中学校屋内運動場 1993
佐渡海洋深層水NISACO工場 2005
2006
塩原温泉湯っ歩の里
十日町産業文化発信館いこて 2015
プロソミュージアム・リサーチセンター 2010
木の構築 工学院大学ボクシング場 2013
2015
南小国町役場
2014
狭山の森礼拝堂
千葉商科大学The University DINING 2015
2002
壬生寺阿弥陀堂
2012
あさひ幼稚園
国際教養大学図書館棟 2008
道の駅 なぶら土佐佐賀 2014
1992
海の博物館
2008
日向市駅
2014
住田町役場
2007
大館市樹海体育館
1997
大館樹海ドームパーク
2002
Plywood Structure-04
2003
埼玉県立武道館
単位量
部材量 表面積
構造
は単材の集成材が同面のものである。小・大は G のみ
10
54
44
52
4
23
24
59
62
49
9
19
38
14
64
16
50
46
67
58
55
12
20
2
51
3
31
32
1
17
21
28
5
27
40
70
66
22
57
48
35
37
47
6
13
18
43
42
7
30
11
33
34
68
45
56
69
61
65
26
53
41
60
8
39
63
36
15
25
29
名称
架構
小屋形式のもので、E は無垢材でハイブリッド構造のもの、F
No.
スパン
ので、D は集成材の登り梁形式のものである。E,F は洋
表5 現代日本における現し木架構の構法的特徴
竣工年
洋小屋形式のものである。一方で D,E,F は広いスパンのも