日米歴史教科書比較から考えさせる―思考力伸長をめざした国語授業

[教材開発]
日米歴史教科書比較から考えさせる
―思考力伸長をめざした国語授業―
山本 かおり(北海道函館水産高等学校)
Ⅰ はじめに
米国理解教育研究プロジェクトチームのメンバーとなり、渡米が決まったのは平成 14 年8月末の
ことである。ちょうどその頃私が担当する 1 学年の「国語Ⅰ」の授業では生徒達がグループごとに壁
新聞作りに励んでいた。題材は 1 学期末に学習した長崎の原爆投下にまつわる翻訳小説読解からの発
展ということで、原子爆弾に関することと他にもう一つ、補足的な要素として取り上げた真珠湾攻撃
に関することであった。後者の指導には以前ハワイのアリゾナ記念館を訪れた時に入手した資料を用
いた。英語、日本語、中国語、韓国語、スペイン語で書かれたパンフレット、戦艦アリゾナが水面下
に映る写真を載せたカレンダー、攻撃を報じた当時の新聞のレプリカ等である。レアリア(実物教材)
の魅力は生徒達の好奇心を引き出す大きな力を持っていることを実感した。
本校生徒は自分に自信がない者が多く、自分の考えを発言することを好まない傾向がある。また、
自分自身で考えるということを極端に面倒くさがる者もいる。そういう生徒達の好奇心を上手く引き
出し、主体的に物事を考え、自分の考えをもつきっかけとなる教材開発を目指し、米国での現地調査
にあたってはその一助となるレアリアの入手を目標の一つとして心がけた。
シアトルでの現地調査の中で特に印象深かったところは「Tillicum Village」、「African American
Museum」、「Wing Luke Asian Museum」であった。それぞれネイティブアメリカン、黒人、日系人
を含むアジア系移民の歴史を学ぶことができ、マイノリティーへの差別について考えさせられた。ブ
ルーミントンでは「ESL」(第二言語としての英語)の授業を多数視察させていただいた。移民の子供
たちがどのように暮らし、学んでいるかを垣間見ることができた。また、ある高校の歴史の授業を視
察させていただいた時、教室に生徒が作成した一枚のポスターがあった。それは山本五十六を取り上
げたもので、とても興味深く、写真にも収めてきた。米国の生徒達がどのように戦争の歴史を学んで
いるかということにも興味が湧いた。幸い歴史の教科書を頂くことができたので、それも教材として
活用することとした。
帰国後すぐ、北海道では外国人に対する「入浴拒否訴訟」への判決が下され、入浴施設を経営する
会社に損害賠償を命ずる判決が出た。本校生徒の中には 2 学年時に約 50 日ほどの長期乗船実習を体
験する者がいる。その際にはハワイ、あるいはサイパンなどに寄港し、現地で国際交流を行う場合も
ある。もちろん将来船員として各国を訪れることになる者もいるかもしれない。従って、今回の教材
開発は差別のない、平和な社会について考えることを目的とし、米国視察で得たレアリアを活用し、
見聞して学んだことを還元する教材開発を目指した。
Ⅱ 単元の目標
米国の歴史教科書と日本の歴史教科書を的確に読解し、その比較を通し、主体的に考える態度を養
い、論理的に意見を述べる能力を育成する。
文化の多様性をもつ米国が掲げる「理想」と「現実」について学ぶとともに、多文化の共存につい
て考えさせ、更に今後の日本の「国際化」について自分自身で考え、健全な社会づくりに積極的に関
わる意欲や態度を身につけさせる。
― 243 ―
日米歴史教科書比較
Ⅲ 指導計画
第1時
日米歴史教科書比較から考える① 真珠湾攻撃
第2時
日米歴史教科書比較から考える② 日系人収容
第3時
日米歴史教科書比較から考える③ 原子爆弾が戦争を終わらせる
第4時
アメリカは自由で平等な国?
第5時
日本に差別はない?
Ⅳ 事前アンケート調査結果(アンケート対象 1 学年 141 名 平成 14 年 10 月実施)
(回答結果は複数回答のあったものを回答数の多いものから配置)
1.自分の身の回りに人種差別はあると感じますか?
はい 34%
いいえ 66%
2.1で「はい」と答えた人は具体的な例を挙げてください。
アイヌの人たちに対する差別 50%
その他の答え(黒人に対する差別、入浴拒否問題 等)
3. あなたにとって一番身近な外国はどこですか?
アメリカ合衆国 29%
中国 22%
韓国 21%
その他の答え(オーストラリア、ロシア、イギリス等)
北朝鮮 8%
4. 3 番の答えを選んだ理由
アメリカ合衆国=音楽や映画がたくさん入ってくるから
ハンバーガー等の食べ物も影響を受けているから
中国、韓国=距離的に近いから
5. 「アメリカ」と聞いて思い浮かぶことは?
「9.11」テロの被害 15%
自由の女神 10%
ハンバーガー、ホットドッグ、ステーキ 9%
第 2 次世界大戦(真珠湾攻撃、原始爆弾投下を含む)8%
銃 7%
自由 5%
戦争 5%
大きい4%
その他の答え(安全保障条約、軍事施設、星条旗、友好関係、主従関係、ハリウッド等)
6. アメリカの同年代の学生に聞いてみたいことは?
興味があることは? 日本をどう思う? 学校は楽しい(自由)?
なぜアメリカはすぐに戦争をするの?
7. 異なる社会の人とのコミュニケーションの妨げとなるものは?
言葉の違い 35% 文化の違い 9% 人種の違い 6% 国境の存在 5%
その他の答え(習慣の違い、差別主義者の存在、宗教の違い、戦争等歴史的背景 等)
8. 異なる社会の人々とのコミュニケーションを円滑にするための解決策は?
世界共通語を作る 10% 相手を良く知る 9% 言葉を覚える 6%
翻訳機を使う 3% その他の答え(インターネットの活用、交流活動を行う 等)
9. 人種差別の加害者とならないための方法は?
誰に対しても平等に接する 7% 相手を知り、正しい知識を持つ7%
その他の答え(何が差別かを知る、言葉を覚える、平和社会を築く)
10. 日本の入浴施設で外国人と一緒になるのはいやですか?
いやではない 85%
いや 9%
どちらとも言えない 6%
― 244 ―
教材開発
Ⅴ
指導の実際
1. 第 1 時 日米歴史教科書比較から考える① 真珠湾攻撃 (平成 14 年 12 月 9 日、10 日に実施)
本時の授業は 12 月 8 日(日本時間)が真珠湾攻撃の記念日であることをふまえ、実施した。
本時の指導については紙面の都合上、生徒に配布した教材の一部と感想の紹介にとどめる。(第
2 時、第 3 時も同様。)実際の教材には米国の歴史教科書の原文と、本校生が学習する「世界史 A」
の教科書から該当する内容の本文も載せた。(第 3 時も同様。)
日本 真珠湾を攻撃
米国イリノイ州 Junior High School 用 American History 教科書 762 ページより(日本語訳)
1940 年、日本はドイツ、イタリアと同盟関係を結んだ。1941 年、日本ではより一層軍事的な政権
が力を持つにいたった。その指導者は陸軍元帥、東條英機であった。東條内閣はオランダの植民地で
ある東インド諸島や他のアジアの植民地を石油の供給源として侵略する構想を立てた。
日本の支配者の前に立ちはだかるのは米国海軍であった。1941 年 12 月 7 日、日本の戦闘機が巨大
な米国海軍基地であるハワイ、パールハーバーを爆撃した。その1日のうちにおよそ 2400 人のアメ
リカ人、(軍人、民間人ともに)が命を落とした。多くの米国戦闘機や戦艦が破壊、あるいは破損した。
ルーズベルト大統領は議会に日本への宣戦布告を要求した。彼は 1941 年 12 月 7 日を「不名誉の
日」と呼んだ。米国は大統領を支持し、急速に団結した。12 月 11 日、ドイツ、イタリアは米国に宣
戦布告した。次の章ではヨーロッパへの参戦について学ぶ。
アメリカの遺産 アリゾナ記念館
戦艦アリゾナは真珠湾攻撃で壊滅的な打撃を被った。船は沈み、1177 名の乗員も死んだ。米国は、
船を引き上げず、代わりに沈んだ船体の上に記念館を建てることを考えた。船の上で非業な死を遂げ
た全ての船員達の名は記念館に刻まれた。50 周年にあたる記念日にはジョージ・ブッシュ大統領がそ
こを訪れ、船の上の水面に花を捧げた。
米国と日本の歴史の教科書を比較し、内容について共通点、相違点を挙げてみよう。また比較した
上での感想、意見を書いてみよう。
共通点
相違点
感想など
(生徒の感想より
*生徒の記述についてはそのまま掲載。以下も同様。)
・ どちらも自分の国を悪くするような言い方はしていない。むしろ相手を悪くしているからその考
えが戦争を引き起こす引き金になっていると思った。
・ アメリカでは真珠湾攻撃を大きく載せているのに日本ではあまりそのことについてふれていない。
― 245 ―
日米歴史教科書比較
これを日本という国が真珠湾攻撃のことにあまり関心がないのと同時に全然責任を感じていない
のかなあとぼくは思った。
・ 今もちゃんとアメリカでは思い出していたり、記念館などを建てているのは、日本でずっと原爆
ドームのようなかんじで日本人も原爆投下の日はちゃんと覚えていることと同じだと思った。で
もお互い自分達がしたことについてはあまり関心がないところが同じだと思った。
・ 戦争のない時に生まれて良かった。
・ やったこと、やられたことをお互いしっかり書いて理解しあわないとだめだと思う。
・ やっぱり自分の国を良く書いていると思った。相手への悪かったという気持ちはないのかなあと
思った。
2.第2時
日米歴史教科書比較から考える② 日系人収容 (平成 14 年 12 月 11 日〜16 日実施)
日系人収容
米国イリノイ州 Junior High School 用 American History 教科書 776、777 ページより(日本語訳)
真珠湾攻撃のあおりを受け、米国民の間で、日系人に対して怒りの矛先を向ける人が増えた。多く
の米国人はアジア系移民を彼らの職を奪う脅威として見ていた。また、アジア人はアメリカ社会に決
してなじめないものとみなしていた。実際米国議会は 1924 年、アジアからの移民をほとんどすべて
禁じていたのである。
①真珠湾攻撃後、数日から数週間の間に新聞数紙は、日系米国人が安全を脅かすものと公表した。
ルーズベルト大統領はついに加熱する反日系人感情に応えた。1942 年 2 月、大統領は②太平洋岸か
ら日本人と日系人を移動させる議案書にサインした。これが 日系人収容 として知られるものとなっ
た。11 万人以上の男性、女性、そして子供たちが収容された。日系人達は家や持ち物を売り、仕事も
辞めなければならなかった。
これら日系市民達は収容所で監視下に置かれた。収容所では一家族が一部屋に住み、プライバシー
がほとんどない生活だった。③収容されたうちの 3 分の 2 は「二世」と呼ばれる米国で生まれた日系
人達であった。
彼ら日系人の不忠に対するおそれは根拠の無いものであった。④多くの収容者達は毎朝米国の国旗
を掲揚していた。また、⑤収容所内から数千人の若者達が、米国のために戦うことを志願した。日系
二世の部隊である⑥第 442 歩兵隊、第 100 歩兵隊はヨーロッパで戦った。彼らは戦争中もっとも多く
の勲章を授けられた部隊であった。そのうちの一人、ダニエル・イノウエはこの上ない勇気を見せた
人であった。彼はイタリアで重傷を負った後も、攻撃の指揮を執りつづけたのである。彼は右腕を失
ったが勲章を授かった。
市民権の今日
政府に手紙を書く
1970 年代の終わり、日系人達は政府に対し、第二次大戦中の収容を不当な仕打ちであったとして補
償を求めた。日系人達による手紙執筆運動は 1988 年の「市民的自由条例」の確実な議案の通過に役立
った。この議案は収容所に収容された日系人達への正式な謝罪と一人につき 2 万ドルの支払いを認め
るという内容を含んでいた。また将来、このような差別をなくすための教育計画を確立することもそ
の中に盛り込まれていた。
― 246 ―
教材開発
「日系人収容」の日本語訳を読んで考えてみよう。
問1
外国の日系人のことで何か知っていること(聞いたこと)はありますか。
問2
第 2 次世界大戦中の米国の「日系人収容」についてきいた事はありましたか。
はい
いいえ
問3
問2で「はいと答えた人はどのような話を知っていましたか。
問4
傍線部①「真珠湾攻撃」があった日は何年何月何日でしたか。
問5
傍線部②日本から米国に移住した人の多くが太平洋岸やハワイを選んだ理由を考えよう。
問6
傍線部③で言おうとしているのは収容された 3 分の 2 にあたる「二世」がつまりはどのような
人たちだったということですか。
問7
傍線部④で国旗を毎朝掲揚するということが意味していることは何ですか。
問8
傍線部⑤で大勢の若者が志願兵となった理由として考えられることは何ですか。
問9
傍線部⑥で日系人の部隊が(アジアではなく)ヨーロッパに送られた理由として考えられること
は何ですか。
問10 日系人収容について教科書で学習したことがありましたか。
はい
いいえ
問11 日系人収容について米国の教科書で取り上げられていることについてどう考えますか。
問12 「日系人収容」を読んで感じたこと、あるいは考えたことを書いてください。
問13
政府あるいは自分の住んでいる市や町の役場などに対する「要求書」を書いてみよう。
(生徒の解答より)
* 4 クラス(約 150 人)の生徒達の中で「日系人収容」について聞いたことがあった生徒は一人しか
いなかった。
問 11 についての解答
・ アメリカではこのような不当な仕打ちを認めて教科書に載せて子供たちにも教えようとしている。
とてもいいことだと思った。日本にもいろいろ不当なことがあると思うのでこのように教科書に載
せていろいろな人達にこのようなことがあったということを伝えて欲しいと思った。
・ 教科書に載るということはこのできごとは忘れてはだめなのだと思った。
・ 日本も取り上げた方がいいと思う。知らない人がいるのはだめだと思う。
・ ちゃんと米国でした歴史を学んでいると思った。これを勉強した子供は大人になって同じようなま
ちがいをしなくなっていくと思う。
― 247 ―
日米歴史教科書比較
・ アメリカでの教科書ではちゃんと自分の国がした悪いことをとりあげて子供たちに教えているの
に日本では真珠湾攻撃などのことについてちゃんとした事実を子供に教えていないと思った。
問 12 についての感想
・ 見えない恐怖にかられて半分は自分達の仲間を収容してしまうなんて……と思ったが、実際そう
いうことになったら同じ事が日本でも起こると思う。もう二度とこんな事が起こらないようにし
て欲しいと思います。
・ 黒人差別、ユダヤ人収容など代表的なこの差別と同じで日系人の人達もつらい思いをしていたと
いうことは知らなかったです。どうして人はその場の感情で分けたりするんだろうと思います。
・ アメリカ人なのにアメリカ人が差別しているのはおかしいと思った。二世でも心は「アメリカ」 だ
と思う。
・ どんなに長く同じ国にいても「外人」ということだけで信用されないんだなと思いました。
・ アメリカは日系人に補償、謝罪したのに対し、日本はいまだに(過去に過ちに対し)謝罪していない。
これが日本とアメリカの違い。
・ 日本人の血をひく日系人達が一番優秀な部隊だったのは、アメリカのために戦ったとしても誇りに
思わなければならないと思う。
・ 日系人だけの部隊がアメリカ軍一優秀だったのはなんだか虚しいような悲しいような感じに思い
ました。
問 12 についての疑問
・ 収容されている時はどんなことをしていたのか疑問に思いました。
・ 日系人に対する差別はいまもあるのか。
・ どのような生活を送りその中にあった楽しみや悲しみの生の声が聞きたい。
・ きっと教科書に書いてあるのは収容での一部の話でもっとひどいことをされていたと思う。
・ 平等なはずの国がなんで人種差別をするのかなあと思った。
3.
第3時
日米歴史教科書比較から考える③ 原子爆弾が戦争を終わらせる
(平成 14 年 12 月 17 日〜20 日実施)
原子爆弾が戦争を終結させる
(米国イリノイ州 Junior High School 用 American History 教科書 773 ページより(日本語訳)
1945 年夏、日本は戦いを続けていた。連合国側は 1945 年 11 月に日本へ侵入することを計画して
いた。米国の軍事指揮官達は、日本本土への侵入が米国側に 20 万人の犠牲者をもたらすおそれがあ
ると考えた。従って米国は原子爆弾の使用を検討した。戦争が始まってまもなくの 1942 年、米国は
「マンハッタン計画」を立てていた。これは原子爆弾を作るための極秘計画であった。アメリカ人科
学者 J.ロバート・オッペンハイマーが指揮を執り、科学者達は 3 年間、兵器製造のために働いた。
爆弾の実験が成功を収めた直後、トルーマン大統領は日本に対し、「降伏しなければ日本を破壊する」
と伝えた。日本は降伏しなかった。1945 年 8 月、B―29 型戦闘機エノラ・ゲイが広島に原子爆弾を
投下した。爆発で 7 万人以上の人が死亡し、8km 四方が廃虚と化した。それでも日本は降伏しなかっ
た。8 月 9 日、米国は長崎に 2 個目の原子爆弾を投下し、さらに 4 万人の命を奪った。8 月 14 日、日
― 248 ―
教材開発
本は降伏した。
1945 年9月2日、日本は連合国側と東京湾の戦艦ミズーリの上で会い、降伏の正式な文書に調印し
た。
第 2 次世界大戦はそこで戦った兵士達の人生を大きく変えてしまった。
Background(予備知識)
1945 年末までに更に 7 万人の人が広島に投下された原爆によるけがや、放射能のために死亡した。
問1 日本の教科書と比較し、共通点、相違点をそれぞれ挙げてみよう。
共通点
相違点
問2 アメリカの教科書の「原子爆弾」についての記載内容についてどのように感じましたか。
問3 原子爆弾の使用について、肯定する意見と否定する意見とがある。両者の言い分をそれぞれ考え
て書こう。(アメリカの教科書にもこれと同じ問題が載っています。)
肯定
否定
問4 あなた自身は肯定派、否定派、どちらですか、理由も書こう。
(生徒の解答より)
(問 2 についての生徒の意見)
・ もう少し日本のことを勉強して欲しい。日本の痛みも知って欲しい。
・ 「そこで戦った兵士達の人生を大きく変えてしまった」という文のように兵士の人々の気持ちもこ
のように載せた方がいいと思う。
(問 3 についての生徒の意見)
〈肯定派〉
・ 原爆被害を受けた人には悪いけれど、これで戦争が終わる(被害が出ないように)ならいいと思う。
多分最低限の被害者ですんだと思う。
・ 原爆を落とさなかったら日本はきっと降伏しなかったから、戦争を終わらせるにはきっと仕方がな
い行為だった。
・ 爆弾のおかげで戦争が終わったし、幸せの日々がやってきたから。多くの犠牲者はかわいそうだが
……。
〈否定派〉
・ たくさんの死者をだす兵器なので否定したいと思います。それに本当に戦争を終わらせたいなら武
力で終わらせてはいけないと思います。なぜなら武力で終わらせると悲しむ人達が出てきて、そこ
― 249 ―
日米歴史教科書比較
から例えばアメリカ軍やアメリカ自体を憎んで、また争いになる可能性があると思うからです。
・ いくらなんでも限度を超えた攻撃だと思う。子孫にも被害が出るのはひどすぎる。あまりの被害
に現実感がない。
・ 否定派ですが、こういうことがなければ今のような生活ができなかったのかもしれない。ただや
はりあのようなことが二度とあってはいけないと思う。
・ どんな理由があっても絶対にダメ。そもそも良いか悪いかという質問が出てくるところから間
違っていると思う。人を殺すということは絶対にだめなことであって、あってはいけないことで
す。
以上第 3 時までの授業は 2 学期中に終えた。
4・ 第4時
アメリカは自由で平等な国?
(1)生徒への配布資料
アメリカは自由で平等な国?
みなさんのアンケート結果と、これまでの授業で書いてもらった感想や疑問をふまえ、アメリカの
理想と現実を探ってみたいと思います。みなさんにとって一番身近な国、アメリカを探ることは今の、
そしてこれからの日本が抱える問題の解決にヒントを与えてくれることになるかもしれません。
みんなのアメリカに対するイメージ
キーワード1「自由」(アンケート結果より)
「『アメリカ』と聞いて思い浮かぶことは?」に対する答えは10%の人が「自由の女神」、5%の
人が「自由」で二つあわせて15%。2001年の「同時多発テロ」を挙げた人の数と並んでトップ
でした。
みんなのアメリカに対するイメージ
キーワード2「平等」(「日系人収容」に対する感想より)
「平等なはずの国がなんで人種差別をするのかなあ」、「日系人に対する差別はあるのか?」。
「アメリカ=自由」の根拠
1
「独立宣言」(日本語訳)
「1776年7月4日連合会議における13のアメリカ連合諸邦による全会一致の宣言・・・(中
略)
・・・我々は次にあげる真理を自明のことと信ずる。すなわち人はみな平等に造られ、造物主によ
って、誰にも譲ることのできない一定の権利を授けられているのであり、その権利の中には生命、自
由、および、幸福の追求が含まれる。またこれらの権利を確保するために人々のあいだに政府が組織
されたのであって、政府の権力は被治者が同意を与える場合にのみ、正当とされるのである。
・・・・・・」
この「独立宣言」の最後は「われわれは生命、財産、そして尊い名誉を捧げることをお互いに誓う。」
と締めくくられています。「日本国憲法」前文の最後は「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげ
てこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」です。
2
「アメリカ合衆国憲法」前文
1787年草案
(日本語訳)
われら合衆国の人民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の
防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のうえに自由のもたらす恵沢を確保する
― 250 ―
教材開発
目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する。
「日本国憲法」前文より。「日本国国民は・・・われらとわれらの子孫のために・・・我が国全土
にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、・・・この憲法を制定する。・・・」
3
「自由の女神」の台座に刻印された詩(エマ・ラザルス作
「汝の疲れたる貧しき
自由の空気を吸わんものと
汝の豊かなる海辺に集まる
1883年)
(日本語訳)
身をよせあう人々を、
うちひしがれた人々を、われに与えよ。
かかる家なき嵐に弄ばれたる人々を、我に送り届けよ。
我は黄金の門戸にかたわらに、ともしびを高くかかげん。」
4
アメリカ合衆国国歌
「The Star-Spangled Banner」(1 番)
Oh, say can you see, by the dawn’s early light,
What so proudly we hail’d at the twilight’s last gleaming?
Whose broad stripes and bright stars, thro’the perilous fight,
O’er the ramparts we watch’d, were so gallantly streaming?
And the rocket’s red glare, the bombs bursting in air,
Gave proof thro’ the night that our flag was still there.
O, say does that Star~Spangled Banner yet wave
O’er the land of the free and the home of the brave?
日本語訳
おお、夜明けの薄明かりの中で、我らが誇り高く呼びかける、あの旗が見えるか?
夜通しの激しい戦闘の中にも、要塞に勇ましくはためき続けた、あの星条旗は誰のものか?
砲弾が赤く閃光を発し、砲弾が空に炸裂する中にあっても、
我々の旗はずっと要塞にはためき続けていたのだ。
おお、星をちりばめた美しい旗は、自由の地、勇者達の地に今もはためいているか?
「アメリカ=平等」の根拠
5
「アメリカ合衆国憲法」修正第13条第1節
1865年確定
(日本語訳)
奴隷および本人の意に反する労役は当事者が犯罪に対する刑罰として正当に有罪の宣告を受けた
場合以外は、合衆国内またはその管轄に属するいかなる地域内にも存在してはならない。
6
「アメリカ合衆国憲法」修正第14条第1節
1868年確定
(日本語訳)
合衆国において出生し、またはこれに帰化し、その管轄権に属する全ての者は、合衆国及びその
居住する州の市民である。いかなる州も合衆国市民の特権または免除を制限する法律を制定あるい
は施行してはならない。またいかなる州も、正当な法の手続きによらないで、何人からも生命、自
由または財産を奪ってはならない。またその管轄内にある何人に対しても法律の平等な保護を拒ん
ではならない。
1〜6を読んで次の点について考えてみよう。
問1
3の詩は文語で書かれていますが、詩の内容を現代語でわかりやすく言い換えてみよう。
問2
1〜4を読んで共通することから考えると、アメリカはどのような国であり、どのような理想
― 251 ―
日米歴史教科書比較
を抱いているということがわかりますか。
問3
5,6はアメリカが誰に対しても平等な国であるということを示していますが、あなたはこれ
を肯定しますか、否定しますか、自分の知っている事実に基づき立場を決め、理由を説明しよう。
問4.アメリカを構成する人種を五つに大別した人口比率です。A〜E にどのような人種が入るか、
考えてみよう。
(2000年の国勢調査結果、米国の総人口は約2億8千万人
*2002年現在の総人口は約2億
9千万人)
(A)75.1%
(B)12.3%
(C)12.5%
(D)3.6%
(E)0.9%
(2020年の人口構成比予測)
(A)64%
A=
問5
(B)13%
B=
(C)16%
(D)6%
C=
(E)1%
D=
E=
問4の表を見て今後のアメリカはどのようになって行くか、予想しよう。
問6 「1」の「独立宣言」なかに「人はみな平等に造られ」とありますが、当時、実際にはその「人」
として認められていなかった人達がいます。どのような人達だったでしょう。
問7
「メルティング・ポット」、「サラダ・ボウル」という語はともにアメリカを表現した言葉であ
す。それぞれどういう意味か、違いに留意してその意味を書こう。
問8
2002年11月、「入浴拒否訴訟」で札幌地裁は入浴施設を経営する会社に損害賠償を命ずる
判決を下しました。これから日本でも外国人の人とふれあう機会が多くなると考えられます。差
別のない社会をめざす方策として考えられることを挙げてください。
(2)第 4 時の展開
導
入
主な学習内容
生徒の学習活動
1 アンケート結果に基づ 自分が抱くイメージと、他者の
く米国に対するイメージ。 抱くイメージをともに確認し、
人によりいろいろなイメージが
あることを知る。
2 「自由」と「平等」が アンケート結果、これまでの授
米 国 理 解 の キ ー ワ ー ド と 業で寄せられた感想のなかで何
なる。
度も出てきた「自由」と「平等」
という語の米国における意味に
ついて考える。
― 252 ―
指導上の留意点
「一番身近」と感じる米国につい
て、様々なイメージがあること、
様々な面があることに関心を持
たせる。その中でも「自由の国ア
メリカ」、「誰に対しても平等」と
いうイメージに対し、「日系人収
容」や黒人への差別の存在に目を
むけた者もいることを指摘する。
日米歴史教科書比較
(3)第 4 時指導のための参考資料
① 米国視察中に撮影した写真( 5 色からなるアメリカ地図、国旗がある教室 )
② 日系人収容時のネームタッグ複製 (Wing Luke Asian Museum で入手)
③ 「アメリカ合衆国憲法」複製
④「独立宣言」複製
⑤ 「奴隷解放宣言」複製
(③、④、⑤は Lincoln Home Visitor Center で入手)
5. 第5時
日本に差別はない?
本時の授業は以下の「北海道新聞」の記事を教材として用いる授業であるが紙面の都合上、簡単
な指導手順と記事の紹介のみにとどめる。
利用する記事
① 平成 11 年 9 月 21 日 「外国人入浴だめ 小樽で 3 施設」
② 平成 12 年 10 月 6 日 読者の声 「外国人拒む温泉 利用控えて抗議」
③ 平成 14 年 11 月 12 日 社説 「入浴拒否訴訟 差別はもう許されない」
④ 平成 14 年 11 月 24 日 21 世紀 人 「無意識に強い差別 「民族」と「部族」に意味上の違いはほ
とんどない。なら、ランク付けはやめるべき」
以上の新聞記事を配布し、指名読みをしながら、漢字の読み、難語句の確認をする。「入浴拒否問題」
の訴訟を起こした外国人側、入浴を拒否した施設側、それぞれの言い分を読み取らせる。「差別」の問
題解決の具体策として記事の中に提示されていることを読み取らせる。さらに「入浴拒否」だけでは
なく、もっと身近に無意識の差別が存在していることにも気付かせる。最後に記事を読んでの感想を
まとめさせ、発表させる。
Ⅵ おわりに
「そんなに厚い教科書、1 年で終わらせるの?」、「他の教科書もそんなに厚いの?」と、矢継ぎ早
に質問が飛んできた。アメリカの歴史の教科書に対する反応である。回覧すると、皆、じっくり手に
取り、1 時間経っても私の手元に戻ってこなかった。その厚い教科書から米国と日本の学校生活の違
いも自ずと知れた。ロッカーの存在、移動教室、クラス担任の有無……。プリントに載せた米国教科
書の英文を懸命に読もうとした生徒がいた。「『(第 2 次大戦は)そこで戦った兵士達の人生を大きく
変えてしまった』という表現が胸を打つね。日本の歴史の教科書にはこういう書き方はしてないけれ
ど、こういう方がいい。」とわざわざ私のところにプリントをもってきて語る生徒もいた。日系人収容
の歴史に関心を持った生徒は多く、「映画などがあれば見たい」という声が多数あった。生き生きとし
た反応を得る機会に恵まれたのは、今回のプロジェクトを支えてくださったみなさんのおかげと深く
感謝している。現地の視察で出会ったすばらしい先生方、日本語や日本文化に興味を持って学んでく
れている生徒さんたち、私の質問に真剣に答えてくれた生徒さん達には感銘を受けた。渡米前、米国
の生徒達に渡すための折り鶴をたくさん折ってくれた生徒達にも感謝する。最後に、本教材は英語、
社会、総合的な学習等に応用が可能と思われる。ご高覧のうえ、ご意見等いただければ幸いである。
参考文献一覧
・「Creating America
History 教科書)
A History of the United States」(イリノイ州 Middle School 用 American
・「現代の世界史 改訂版」 山川出版社
メリカ文化史 ミネルヴァ書房
― 254 ―
・「日本国憲法」 童話屋
・概説ア