澁谷政子 - Buncademy

2015年度後期特別企画 「演奏解釈と作曲の関係をめぐって」 第2回
【講 師】 澁谷政子
【日 時】 2015年12月26日(土)14:00-16:00 (開場 13:30)
【会 場】 BUNCADEMY
【ご予約/お問合せ】 [email protected]
Buncademyでこの秋から行われているシリーズ「演奏解釈と作曲の関係性をめぐって」。次回の講座は12
月26日(土曜日)14時〜に行われますが、講座を前にして、本シリーズ講座の企画委員の星谷が今回の講
師で音楽学者の澁谷政子氏にお話を伺いました。 (2015年12月11日(金)福井大学にて)
先ず私から今回の企画を初めたきっかけについてお話したいと思います。現代の作曲家がある程度
共有している問題かと思うのですが、私たちが今少しでも新しいものを作ろうとするとニッチな傾向に
なる一方なのですね。作曲家は自分の理想を求めて、より“ピンポイント”な演奏方法を求めるようにな
り、演奏家に求められる技術もより特化していると思います。これは 一般に言われる“特殊奏法”だけ
に限ったことではなく、通常の奏法であっても同じことだと思います。そのような 状況で作曲家が具体
的な音をイメージすればするほど演奏家との共同作業が必要となります。そう考えると、もはや作品は
作曲家だけのものではなく、演奏家も「共同制作者」として創作に関与しているのではないか、と感じ
るわけです。そこで、今回は「作曲家」と「演奏家」の関係性について考えたいと思い、企画を試みま
した。最初に思い出したのは、 2009年に澁谷さんがデイヴィット・チューダーについて書かれた論文
(注1)です。論文冒頭で澁谷さんは、ケージなどのアメリカ実験音楽について、作曲家と演奏家の共
同作業が従来の伝統的な関係性を飛び越えた「作品の枠組みずらし」であることを指摘された上で、単
なる演奏者としてではなく、創作者として のチューダーについて論じられています。まさに今回のテ
ーマにぴったりだと思い講座をお願いしました。
澁谷さんはいつの時点からそのようなチューダーの一面に注目し研究を初められたのですか?
元々私はシェーンベルクの研究をしていたのですが、研究を進めて行く中で作曲家の言っているこ
とと、聴き手の立場の間にはギャップがあるなと感じていてそこに 一番問題意識を感じていました。
例えば12音技法の作品では全て音列の組み合わせで書いてありますけれど、実際そのようには聴こえ
ないですよね。「作曲する側と聴く側の論理には違いがある」ということをしっかりと言いたいなと思
ったことが(今でも思うことなのですが)原点です。シェーンベルクの後、 ウェーベルンやフェルド
マンを経由してケージに辿り着きました。シェーンベルクは構造が明らかですが、ケージのほうは構造
が見えない。では受け手がどう向かい合ったらいいのかという問題があるわけです。ケ ージ自身は「聴
く事が創作だ」といっていますが、それもある意味ではケージの論理なわけです。
ケージの場合は「彼だけが音楽を作っているのではない」ということは多くの方達が 指摘していま
す。また、「聴く」というところだけではなくて、演奏家(の存在)が大きいということは皆さん言っ
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ているところですよね。でも意外と演奏を実際にどうするか、ということについては、触れられていな
いですね。ケージが言っているということは沢山でてきているわけだけれど、私たちが結局耳にしてい
るのは、演奏家が吸収して考えて出している音なのにあまりそこのところは語られていないなと思った
わけです。「作曲家側」ではない方から考えるという視点から見るとこの点は気になります。
ケージといえばチューダーが盟友ですが、ケージについてはたくさんのことが言われていてもチュー
ダーについてはあまり言われていないわけです。これはやはりちょっとアンバランスでおかしいなと感
じました。チューダーという人が何を考えて演奏をしてきて、最後はサウンドクリエイタ ーをやったわ
けですから、その辺りの思考が見えてきたらかなり面白いなと思ったのが7年くらい前でした。
チューダーが他のピアニストに比べて特徴的なのはどのような部分だとお感じになりますか?
すごく過激なところがありながら、パッショネートではないというか、どこか単純じゃないなとい
う印象をうけますね。やっていることはとても尖っているのですが、それに 酔っている感じがなくどこ
か冷静でいる印象を受けます。それを「他のピアニストと比べてどうか」というと 難しい問題ですけれ
ども。よく謎めいた人物と言われますね。
不確定的な作品におけるチューダーの解釈は、とても緻密であったと言われていますよね。
自分の世界というかルールに基づいていたというのはわかっています。彼が演奏する時に定めた何
らかのルールがあるということは、(計算された)沢山のメモ書きなどからわかるのですが、それが一
体どういうルールなのか、それがどのようにつながって結果としての演奏につなが ったのか、なかなか
わからないところが多いのですね。雰囲気や直感で演奏していたのではない、というのははっきりして
いるのですが 。
先行研究でも言われていることですが、計算している途中どのようにしていたか、ということは人に
あまり見せなかったそうです。どのようなプロセスを得て解釈していたのか教えて欲しいと、ケージや
フェルドマンが言っても絶対に見せなかったようなので、自分が納得できる形になってはじめて見せた
いという思考がとても強かったのではないかと思います。
ピアニストとしてのチューダーと作曲家としてのチューダーの違いについてはどうお考えですか?
今の結論としては(難しいところですが)、本人としてはそれほど違うことを行っているという意
識はなかったのではないか、と思っています。
ケージと出会う前にはステファン・ヴォルペの奥さんにピアノを習っていたのですが、その時からヴ
ォルペに乞われて草稿を演奏し、それをヒントにヴォルペが曲を完成させるという共同作業をしていた
ようです。
その後すぐにケージと出会い、キャリアが偶然性の音楽から始まるのですね。ですから、枠組みはあ
るけれども、それにどのような音楽を見出すのか、という 作業は最初からしていたわけです。ケージ
との共同作業では、「枠組み」自体はどんどんラフになっていくわけですが、その中にどのような音を
入れるかという 作業を50年代はずっと行っていたわけですね。それなら、自分で「 枠組み」を作っ
てしまえばいいのではないか、と思ったのだと思います。
基本的に初期のケージからチューダー自身が核となる最後の時期まで、基本「共同制作」を行ってい
ますね。全く違うものを組み合せる「面白さ」に興味があったのではないかと思います。
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チューダーはアントナン・アルトーからはどのような影響を受けたのでしょうか?
チューダーはブーレーズの《第2ソナタ》を解釈するにあたって、ブーレーズの研究をしましたが、
その時にアルトーやマラルメと出会っています。
アルトーの理論では、同時発生的なものが複数おこることによって魔術的な空間ができるというよう
な、少しアニミズム的な世界なのですね。アメリカに入ってきてアメリカの前衛劇とかパフォ ーマンス
に影響を与えました。
「異質なものが共存するとか」「因果関係のなさ」といったことがチューダーにとって発見でした。そ
してチューダーが面白がっていたのを聞いてケージにもア ルトーの考え方が共有されたようです。体
系的に理解しているというよりも、チューダーにとってピンとくるところを、取り上げたということだ
と思います。アルトーはチューダーにとってはとても重要で、アルトーの考え方はパフォーマンスをす
るという意味においてチューダーにとって大きな転換点になったと思います。彼のパートナー、メアリ
ー・キャロライン・リチャーズは、アルトーの著作を英訳しています。
最後に今回の講座の概要についてお話頂けますでしょうか。
大きく3つお話したいと思います。
1つ目は50年代にチューダーがどのような演奏生活を送っていたか、誰のどういう曲をどれくらい
のスケジュールで弾いていたか、ちょっと信じられない曲数だと思います。
2つ目は、ブーレーズやケージを弾きはじめたところでどのように演奏者としての意識が変わったか、
とくにアルトーの影響についてです。
3つ目は、不確定性の作品をチューダーどのように解釈したのかについてお話したいと思います。例
としてフェルドマンの《IntersectionⅡ、Ⅲ》について、チューダーがどのように解釈して演奏している
か、資料をお見せしながらお話したい。それと《Music of Changes》について、これは 音符について
は確定しているわけですが、時間配分についてどのように解釈してアプローチしていたかという問題が
あります。また《VariationsⅠ》 についても触れられればと思います。
ありがとうございました。
注1
澁谷
政子(2009) 「プログラムからみるデイヴィッド・チューダーの音楽活動」-「デイヴィッド・チュー
ダー・ペイパーズ」の調査から-
『福井大学教育地域科学部紀要』第6部
芸術・体育学(39),1-15.
◎ 本講座のチラシおよび概要などの詳細情報は、以下のリンク先からご覧いただけます。
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