[5]地震力 地震力は、建築物の任意階に作用する層 せん断力として求める。 次に、地震力について説明します。 最初に、地震について述べます。 地震は、地殻の破壊現象です。地殻は、地表の土の部分より、もっと深い固い岩の部 分を指します。通常、深さ約30~40kmにあります。この地殻が破壊を起こして、その衝 撃が地殻中を伝わって、地震となります。 この破壊はある1点で起こっているのではなく、面的な広がりを持っています。このとき、 最初に破壊が起こった点が震源、その真上の地表面上の点を震央と呼んでいます。 地殻の破壊は、震源から発生し、周辺に拡大していきます。そしてある面積を破壊して 終わります。この破壊された領域を震源域と言います。 地震が発生すると、テレビ画面に震度いくらとかマグニチュードいくらとかいう数字が報 じられますが、地震の震度は各地の揺れの強さを表す指標です。一方、マグニチュード は地震の規模とかエネルギーを表す指標です。 例えば、ダイナマイトで地表を揺らす場合、ダイナマイトの量に相当するものがマグニ チュードです。そして、その爆発によって、各地で観測される地面の揺れの強さが震度 です。 38 層せん断力 上階の水平 外力の合計 ΣW 層せん断力 Qi=CiΣW 地面は、地震によって振動します。一方、建物は、基礎を介して地面に固定されていま すので、地震のエネルギーは基礎から建物の上部へと進入します。建物上部に入力さ れた地震エネルギーは、建物を振動させようとし、建物は振動し始めます。 通常、地震動は小さな縦揺れの後、大きな横揺れを生じます。そして、この横揺れの中 でも、最初の10~15秒の間に非常に大きな地震波を伴い、時と場合によっては、建物 に甚大な被害をもたらすのです。 このように地震によって建物は振動を起こしますので、これは振動現象です。そして、建 物に甚大な被害をもたらす力は、振動による慣性力と言えます。 慣性力は、質量と加速度の積で求められます。建物の高さ方向の質量分布は、通常床 位置で極めて大きな値を持っていますので、床位置に質量が集中していると仮定しても 差し支えません。 設計では、地震によって床位置に作用する最大水平外力を予想し、その水平外力に対 して、建物の各層が安全であるように部材断面を決定していくことになります。 従って、建物各層に生じる最大せん断力の大きさを求め、各層が安全であるように設計 することになります。 水平方向の力の釣り合いを考えれば、各層のせん断力は、当該階よりも上の層に作用 している水平外力の総和と等しくなります。従って、この当該階よりも上の層に作用する 水平外力の和がその層に作用する地震力の大きさになります。これを層せん断力と呼 んでいます。 39 層せん断力係数(Ci) Ci=Z・Rt・Ai・Co Z:地震地域係数 Rt:振動特性係数 Ai:地震層せん断力分布係数 Co:標準層せん断力係数 ところで、建物重量(W)は建物の質量(m)と重力加速度(g)の積で与えられます。 言い換えれば、建物の質量は建物重量を重力加速度で割ったものです。 慣性力は質量(m)と加速度(a)の積ですから、その層の水平外力(P)は、P=a/g × Wで 表されることになります。 1層建物の層せん断力(Q)は、水平外力(P)と等しいですから、Q=a/g×Wとなります。 しかし、設計では多層建築物を考えなければなりません。そこで、層せん断力を Qi=Ci×ΣWiとして求めています。ここで、Ciのことを層せん断力係数と呼んでいます。 また、ΣWiは、当該階よりも上層の建物重量を表しています(層せん断力は、当該階よ りも上層の水平外力の和と等しいですから)。 設計では、層せん断力係数は、上式に示すように、地震地域係数と振動特性係数、地 震層せん断力分布係数および標準層せん断力係数の積で求めることになります。 それでは、次に地震地域係数、振動特性係数、地震層せん断力分布係数および標準 層せん断力係数について説明します。 40 Z:地震地域係数 地震地域係数(Z)は、地域ごとに想定される地震の大きさによる低減率です。 ちなみに、広島県は、0.9です。 41 Rt:振動特性係数 振動特性係数(Rt)は、地盤および建物の振動特性を考慮した低減係数です。 もう少し詳しく説明しましょう。 まず、振動特性として、固い建物では大きな地震力を受けやすいのですが、柔らか い建物になると柳の木のように建物が受ける地震力を受け流す性質があるので、地 震力は小さくなります。建物の固さや柔らかさの度合いは建物の(1次)固有周期に よって表されますので、設計では周期が長ければ長いほど低減率を大きくとることが できるようにしてあります。 もう一つ、振動特性の一つに、固い地盤の上に立つ固有周期の短い建物は揺れや すい性質があります。また、柔らかい地盤の上に立つ固有周期の長い建物も揺れや すい性質があります。そこで、地盤を硬質、普通、軟弱の3種類に分けて、建物の固 有周期が長くなると、低減係数を硬質地盤ほど大きく、軟弱地盤ほど小さくとるように してあります。 42 Ai:地震層せん断力分布係数 また、建物の振動特性として、下層部よりも上層部の方が振幅や応答加速度が大きくな る性質があります。 そこで、建物の高さ方向の水平外力の分布を表す係数が必要になります。 しかし、設計では、層せん断力に対してその層の安全性を検討するので、層せん断力 の分布として表した方が都合が良くなります。そこで、層せん断力の分布を表すために、 層せん断力を当該階より上の建物重量で割って、層せん断力係数の分布として表した のが、地震層せん断力分布係数(Ai)です。 最下層ですと、それよりも上の層の重量の総和は全重量になりますから、地震層せん断 力分布係数は最下層では1.0になります。 また、上層へいけばいくほど、加速度応答倍率は大きくなるので、地震層せん断力分布 係数は1.0よりも大きくなります。 43 Co:標準層せん断力係数 中地震動に対して、建物に損傷を起こさせ ないように設計するときの荷重レベルで、 通常、Co=0.2(2割の重力加速度が建物 に作用する)として設計している。 大地震動に対して、建物が危険な崩壊を 起こさせないように設計するときの荷重レ ベルで、通常、Co=1.0(重力加速度が建 物に作用する)として設計している。 地震による水平外力は、F=a/g×Wで表されることは、すでに説明しました。 ここで、a/gは、重力加速度に対する建物の応答加速度を意味します。 中小地震動では、重力加速度の2割の加速度が建物に作用するとして設計します。 中小地震動は、建物の耐用年限中に建物が何度か遭遇するかもしれない地震です。こ のときは、建物は損傷させないように設計しなければなりません。 また、大地震動では、重力加速度と同じ大きさの加速度が建物に生じるとして設計しま す。 大地震動は、建物の耐用年限中に運が悪ければ一度は建物が遭遇するかもしれない 極めてまれな、しかし非常に大きな地震です。このときは、建物に損傷が出ても致し方 ありません。しかし、人命を損なうことがあってはなりません。そのためには、ねばり強い 建物を設計しなければなりません。 44 [6]荷重の組み合わせ 雪、風、地震が同時に 作用する可能性は低い。 長期荷重は、基本的には固定荷重と積載荷重の和です。多雪区域の積雪時には、積 雪荷重を加えます。 短期荷重は、風圧力あるいは地震力または積雪荷重が長期荷重と同時に作用します。 しかし、通常、風圧力と地震力および積雪荷重は同時には作用しないとして設計します。 ただし、多雪区域では、暴風時や地震時に積雪荷重を加えます。 45
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