算数科の授業にいかせるコンピュータ利用

算数科の授業にいかせるコンピュータ利用
97E13007 岡田 宜典
97E13023 塩原 浩明
97E13047 吉田 大地
の関わりについて考えていくことにした。
はじめに
そして次に、コンピュータからの情報検索
や参考文献を用い、コンピュータの活用例を
現在、様々な場面で情報化が叫ばれ、社会
考え、コンピュータに期待できる効果を中心
に大きな変化をもたらしている。
に研究を進めていくことにした。
学校教育において、子ども達に情報化社会
に対応できる能力を育むことは重要なことで
研究内容
あると思われる。情報化の主なものとしてコ
ンピュータの導入が挙げられる。近年多くの
(1)算数科の目標から見たコンピュータの
学校においてコンピュータが導入され、私た
位置付けについて調べてみた。
ちの実習校においてもコンピュータが導入さ
れていた。にもかかわらず、実際にはごく一
今までの主な授業であった一斉授業では、
部の場面でしか利用されていないという現状
授業についていけない児童、いわゆるおちこ
であった。もし、コンピュータをうまく導入
ぼれが出てしまうという問題が常につきまと
することができれば、よりよい授業ができる
うといわれている。その理由として、その児
であろうことは予想できる。しかし、私たち
童が自分なりに考えを進めていこうとした場
の小学校時代にはコンピュータを用いた授業
合、次から次へ求められる問題が高度なもの
は無かった。そのため、私たちが現場に立っ
へと変わっていってしまえば、初めから考え
たときどのような指導をしたらよいかは知識
ることをあきらめてしまう恐れが出てくると
不足である。
思われる。そうすると、その児童にとっては、
よって、算数科の授業におけるコンピュー
まったく意味の無い、そしてつまらない授業
タの活用により、どのような効果を得られる
に成りかねない。
のかということを調べようと思い、このテー
コンピュータを活用した授業では、個々の
マを研究課題に設定した。
児童応じて練習問題を用意したり、ヒントを
与えたりといった、ある程度学力に応じた進
研究方法
度をとることができるため、各自のペースで
問題解決を進めていくことができると思われ
学校の情報化を考えていくうえで、学習指
る。そして、探求し答えを得た時の満足感を
導要領の改訂は無視できない。そこで、私達
味わうことができるだろう。
は、まずはじめに、新学習指導要領を読み、
基礎的な知識と技能を身に付けるという点
算数科の新しい目標の内容とコンピュータと
から考えると、授業におけるコンピュータの
利用は、基礎・基本を踏まえた上での活用に
1年生の子どもたちは,算数の学習が大好
なるので、発展的なものであるといわれてい
きである。具体物を用いたり,あるいはプリ
る。であるから、コンピュータを利用する場
ントでの練習など,様々な学習方法を組み合
面ではそれだけではなく、具体物との併用が
わせることによって,より興味・関心を継続
望ましいのではないかと思った。
させることができる。
また、これからコンピュータの導入が進み、
コンピュータの活用もその一つとして考え,
一人が1台ずつ利用できるような時代が来る
必要な場面を見つけて利用させている。今回
ならば、児童間での情報交換ができるため、
の「1ねんの おさらい」も,コンピュータ
互いの意見を理解し合える可能性が増すと思
と他の方法を組み合わせて,同時進行で学習
われる。そしてまた、教師と児童の間の情報
を進める方法をとった。1年生の子どもたち
交換もより容易となり、児童一人ひとりの学
も,コンピュータを使っての学習は大好きで,
力の把握や、個人差を踏まえた授業が期待で
時間の経過するのも忘れて,おさらいをして
きるのではないかと思う。
いた。
小学校では、コンピュータの仕組みや機能
1年生の子どもたちにとっては,コンピュ
については深く学習させたり、コンピュータ
ータはもう,いつでも身近にあるごく普通の
の操作の仕方を教え込むことは、本来の目的
楽しい学習のツールのようである。
ではないと学習指導要領では述べられている。
小学校の段階では、目的達成に向けた学習活
②河北町立溝延小学校 阿部静子教諭による、
動の中で、ごく自然な形で取り入れ、日常化
第2学年「はこづくり」の実践例 2)
していくような道を探ることが重要であると
使用ソフト 「さんすうランチボックス
思った。
(立体をうごかそう)」
(2)授業でのコンピュータ活用例を調べ、
我々が興味を持った事例を紹介する。
①兵庫県篠山町立大芋小学校 本田毅教諭に
よる、第1学年「1ねんのおさらい」の実
践例1)
使用ソフト「ねっとスクール」
(志学社)
阿部静子教諭は、次のように述べている。
この単元の学習は、はこを構成する要素と
しての面、辺、頂点の形や数をとらえさせる
ことである。具体物操作を通して立体の概念
を理解することはできるが、具体物から離れ
て、平面に描かれた立体図から構成要素をさ
ぐる段階となると、なかなか困難な子供もい
る。そこで、コンピュータを活用し、画像の
回転や展開など空間の機能を利用して、立体
概念を楽しく学習しながら理解させたい。
本田毅教諭は次のように述べている。
子供たちは、コンピュータを活用した学習
では面や辺に簡単に色がついたり変えたりで
考えた。)
きるため、とても楽しく進めていた。特に、
第二に、一つの画面をグループ、またはク
立体画像が回転したり、自動で立体を切り開
ラス全員で見ることができ、一人の考えをみ
いたり、逆に組み立てたりできることがわか
んなに伝える手段として有効である。
ったときには、驚きの声が出た。画像を動か
実際に活用してみて、単独で存在する三角
しながら立体概念が理解できたものと思う。
形は色をぬることで容易に見つけることがで
きていた。
(下図の三角形②と③)きれいにぬ
③山崎新二教諭による、第2学年「三角形と
四角形」の実践例
3)
れ、色も鮮やかなので、はっきり三角形と認
識できていたようである。しかし、三角形と
使用ソフト
四角形が合わさった形の三角形はなかなか見
「たのしい算数セット2年・ジオボード」
つけることができなかった。三角形(①+②)
、
(①+③)これは、学習活動2の理解が不十
分であったことが大きな原因である。それで
も画面を見て予想しながら色をぬり、ようや
く見つけた者や、ぬったり消したりするうち
に偶然できて見つけた者もいた。おそらく、
プリントに色をぬっていく方法だとかなりの
時間を要したと思われる。
山崎新二教諭は次のように述べている。
パソコンを操作したり画面を見ながら考え
たりすることで、児童は大変興味をもって授
業に取り組んだ。今回の授業では、具体的な
操作活動を通して三角形が分割できることを
④手島隆之教諭による、第4学年「四角形」
の実践例3)
使用ソフト 「PCソフト平行四辺形」
「PCソフトジオボード」
理解し、それを生かして抽象的な図形の中か
ら三角形を見つけ出すことをねらっていた。
そこで、抽象的な図形を提示し、その図形か
ら三角形さがしをする場面でパソコンを用い
た。
パソコン活用の利点は、第一に、着色が自
由にできることである。問題として提示する
図が抽象的であるため、色をぬったり消した
りという操作により、理解の手助けをはかり
たいと考えた。今回のソフトでは、自由に色
をぬったり消したりすることができる。(も
ちろん、プリントに色をぬる活動も可能であ
るが、これでは一度ぬったところを消すこと
が大変であり、また、色をぬるにしても低学
年ではかなりの時間をとってしまう。パソコ
ンを用いればその難点が大きく解消されると
手島隆之教諭は次のように述べている。
今回の授業では、PCソフト平行四辺形は
教師の提示、PCソフトジオボードは児童の
作図ツールとして使用することとした。授業
をする上で一番気になったのが、図形の学習
でパソコンを使って作図することについてで
ある。辺の長さを調べるにしても、ディスプ
レイに物差しやコンパスを当てて調べるわけ
にはいかない。また、たとえそうしたとして
後藤弘恵教諭は次のように述べている。
も正確な数値はでてこない。(ディスプレー
手作業では限界がありイメージをもたせる
には歪みがあるし、画面サイズによって直線
ことが困難な場面でも、コンピュータを効果
の長さは変わってしまう。
)
的に活用すれば、ねらっているイメージに近
そこで、PCソフト平行四辺形を使っての
づけることができ、子供が自ら考えるための
作図を提示することにより、それでは本当に
支援として有効であった。コンピュータを活
平行四辺形かどうかの確認ができない点を逆
用させる場面として、1 時間のなかにポイン
手に取り、児童に自分達で平行四辺形かどう
トとして提示することも大変有効であり、教
かが確認できる方法で作図しようとする意識
室に 1 台ずつコンビュータがあれば手軽に使
を持たせようとした。
えることができ、さらに学習意欲を高めるこ
もう一つのPCソフトジオボードは、紙の
とができると思われる。
上での作図だけでなく、その他の作図する道
コンピュータは思考を助ける手段であって、
具の一つとして取り上げた。さらに、このソ
本時のねらいは何かを指導者がしっかり持つ
フトを使えば画面上で綺麗な平行四辺形を比
ことが大切であると改めて思った。
較的簡単に作図できるので、作図が苦手な子
に、できる喜びを味わわせてやりたいという
⑥目黒区立中目黒小学校 大川原幸生教諭に
意図で取り上げた。
よる、第6学年「立体」の実践例 4)
使用ソフト 記載無し
⑤河北町立溝延小学校 後藤弘恵教諭による、
5学年「円と正多角形」の実践例 2)
使用ソフト 「円等分シミュレーション」
(使用ソフト一例:
さんすうランチボックス)
大川原幸生教諭は次のように述べている。
コンピュータの利用によって,子どもたち
の作りたい立体の展開図をかくという一人一
人の願いに応じやすくなった。
空間図形は,日常的な学習ではノートや教
科書のように平面で表現されている。平面上
で表現されている立体と,積み木など実物の
立体との関係をとらえることが苦手な児童に
とって,画面の中で立体が回転したり,展開,
組み立てられるところをシミュレートしなが
ら何回も繰り返し確かめることができたこと
等組み立てることができるのである。操作活
は,分かりやすかったようである。平面表現
動をしながら,コンピュータを活用しながら,
と実物とをつなぐ中間の素材としてコンピュ
平面と立体との関係を理解させ,小学校の図
ータの果たす役割は大きかったと思える。特
形領域のまとめをしたいと考えた。
に立体という空間概念が苦手な児童にとって
は,「画面の中で動くからよくわかった」と言
⑧河北町立溝延小学校 小山田邦子教諭によ
うように効果的な支援の道具であった。また,
る、第6学年「資料の調べ方」の実践例 2)
得意な児童にとっても「こんなにいろいろな
使用ソフト 「スーパーYUKI(ひょうグラフ)」
展開図ができるなんて,おもしろかった」と
言うようにコンピュータを利用すことによっ
て,自分で考えた多様な展開図が正しいか確
かめたり,違う展開図の情報を得たりしてさ
らに興味や関心が高まったようである。しか
し,どんな展開図になりそうか予想や見通し
を持たないうちに,安易にコンピュータを使
ってしまう児童もいたので,事前指導を徹底
したい。
小山田邦子教諭は次のように述べている。
⑦狭山市立山王小学校 大舘信浩教諭による、
コンピュータを使ったグラフの表示は、グ
第6学年「多角形の敷き詰め」の実践例 4)
ラフの種類や大きさ、目盛りなどを自由に変
使用ソフト 「算数ランチボックス」
えることができた。また、計算による誤差が
なく、色使いも工夫できるのでグラフの作成
が簡単にでき、適切なグラフを選択する課題
提示や課題解決に効果的であった。また、子
供も短時間でグラフに表すことができるので、
いろいろな資料を集めて分かりやすいグラフ
をかいてみようとする意欲にもつながった。
コンピュー夕の特性を生かし、子供の疑問
や気づきを喚起するような課題提示の在り方
を工夫していきたい。
大舘信浩教諭は次のように述べている。
1つの立体を「平面の集まり」とも見るこ
(3)実践例から、我々は次のように考える。
ともできるようにしたいと考えた。そのこと
が,次題材の「立体の体積と表面積」の学習
活用例を調べてきた中で、コンピュータは
に役立つはずである。面積と体積は似ている
様々な場面で利用価値があることが分かった。
が,基本単位や考え方,求め方は全くちがう
思考的な活動において大きな教具であるこ
のである。しかし,関連づけて考えるとわか
とがいえるので、今までの一斉授業では実現
りやすいはずである。
できなかった操作や、新たな見方、考え方が
正五角形で平面を敷き詰めることはできな
できるようになる。空間図形やグラフや表を
いが,立体では正十二面体・サッカーボール
学習する場面では、視覚的な訴えができるた
め、イメージをつかみやすい。また、ゲーム
必ずしもそれが効果的になるとは限らないこ
的感覚で楽しんで問題に取り組むことができ
とがいろいろな事例を見ることを通して分か
るため、児童の積極的な活動を促すことがで
った。教師の立場としては、本当に必要だと
きるようである。そして、時間も短縮できる
思われる場面、有効だと思われる場面を選び
ため、考える時間を十分用意することができ、
出し、授業にうまく導入していくことが必要
児童の多様な考えを引き出すことができてい
になるであろう。
たように感じられた。
また、現代社会においてのコンピュータの
具体物との併用については、実践例におい
果たす役割の大きさを考えれば、コンピュー
ても行われていた。例えば、図形を取り扱う
タの活用は決して無視できるものではない。
授業では、コンピュータの中だけでの操作に
算数科の授業においても、コンピュータを有
留まらず、その中の一つを実際に紙に書いた
効に利用できる場面に限っては、積極的に導
り、模型を用いたりといった活動を行ってい
入していくことが重要になると考えられる。
た。コンピュータのみの授業よりも、児童の
小学校の授業では、将来的なことを考えてコ
理解が深まっているようであった。
ンピュータを細かく操作できる能力を身に付
しかし、まったくコンピュータを使わなく
けることよりも、児童にとってコンピュータ
ても効果的な算数の授業はできるということ
に慣れ親しむことができれば、大きな意味の
も感じた。なぜならば、計算問題などはコン
ピュータを利用するよりも、ノートに書きな
ある活用が行われたことになるのではないか。
がら進めていった方が計算の流れが確認でき
るからである。図形を描く場合でも、コンピ
ュータを用いれば容易に作図をすることがで
<参考文献>
きるが、コンパス・定規が使えなくなり、そ
1)新興出版社啓林館
の便利さに気づけないことは大きな問題とな
http://www.shinko-keirin.co.jp/index.html
ってしまう。コンピュータはいろいろなもの
2)河北町立溝延小学校ホームページ
を簡略化して、分かりやすいものとしてくれ
http://www.ic-net.or.jp/home/ac-kawar/index.html
るが、児童の活動自体が、動きの少ないもの
3)授業実践例
となってしまう場合もあり、授業の印象も薄
http://www.urban.ne.jp/home/takajs6/zirei/g_zirei.
く、生き生きとした感動が得られにくくなる
html
恐れがあると感じた。
4)市販ソフト実践事例集
コンピュータを用いる場面、または使用す
http://www.cec.or.jp/books/H09sihan3/A01.html
るソフトを選択するときは、教師が慎重な判
断を行ったうえで、活用していかなければな
らないと思った。
まとめ
今回私たちは、
この研究を進めていく中で、
コンピュータを活用することの利点という観
点から、授業のすべての場面においてコンピ
ュータを活用することを考えてきた。しかし、