2008 年 8 月 27 日 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 三菱電機株式会社 CO2計測の計測精度と高速性において世界最高性能を達成 衛星からの温室効果ガス計測を目指した「小型CO2濃度計測ライダ」を開発 独立行政法人宇宙航空研究開発機構(理事長:立川 敬二、以下「JAXA」)と三菱電機株式会社(執 行役社長:下村 節宏、以下「三菱電機」)は、衛星からCO2濃度を高精度かつ高速に計測する独自の CW(Continuous Wave、連続波)変調方式を開発するとともに、その方式を採用した世界最高の高精 度・高速の計測が可能な地上検証モデル「小型CO2濃度計測ライダ」の開発に成功しました。 開発の背景と概要 地球温暖化の防止や地球環境問題に対する意識の高まりを背景に、CO2をはじめとした温室効果ガス の濃度を、地球規模で観測できる人工衛星搭載センサへの期待が高まっています。これに関し、地表で 反射された太陽光のスペクトルを利用するパッシブ(受動型)センサにより、温室効果ガスの濃度を観測 する衛星(GOSAT:Greenhouse gases Observing SATellite)が今年度の冬に打ち上げられる予定で す。一方、アクティブ(能動型)センサの一つとして、レーザ光を空間に発信して反射体に当たってはね返 ってくる光を測定するレーダであるライダ(LIDAR: Light Detection And Ranging)があります。日米欧 では、高精度で高速なCO2濃度計測を実現するため、わずかに波長が異なる 2 つのレーザ光を送受し、 CO2 分子による光の吸収量が波長間で異なることを利用してCO2 濃度を計測するDIAL(DIfferential Absorption LIDAR、差分吸収ライダ)の研究開発が行われています。しかし従来のDIALは、大型でか つ高精度な計測に長時間を要し、衛星に搭載するアクティブセンサに必要な高い計測精度、高速性、小 型化の実現が困難でした。 今回、JAXAと三菱電機は、独自のCW変調方式を採用した小型のCO2濃度計測ライダを開発し、世 界最高の計測精度と高速性を達成しました。本ライダは、GOSATに搭載するセンサの観測性能を評価 するために用います。またこの方式は、衛星搭載用のセンサとしても有効な方式です。 主な開発成果 1.CW変調方式を開発し、装置の小型化と高信頼化を実現 2 つのレーザ光源から波長が異なる 2 つのレーザ光を発信し、各々に対し異なる周波数で変調をかけ た後に光合波器を使って 1 本のファイバに合波し、このファイバから計測したい空間に 2 波長同時に送 信する CW 変調方式を開発しました。 この方式によれば、光ファイバ増幅器をはじめ、フレキシブルかつ高信頼な通信用光ファイバ部品が使 用でき、装置の小型化と高信頼化を実現できます。 2.CO2濃度の測定で、計測時間 32 秒、計測精度 4ppmと世界最高性能を達成 CW変調方式を採用したCO2濃度計測ライダを開発しました。 この装置は 1km先までの空間におけるCO2濃度の変化を 32 秒間隔で計測でき、計測精度 4ppm※1 相当と高精度であり、高速性と計測精度において世界最高性能を達成しています。 ※1 parts per million、大気中に存在する分子百万個に含まれている計測対象分子の数。計測精度 4ppmは分 子 100 万個あたりに含まれるCO2分子の個数を 4 個の誤差で計測できるということ 今後の展開 今後、CO2濃度の計測精度に関するより詳細な検証を行った後に、本装置を航空機に搭載して衛 星搭載時の模擬試験を実施するとともに、衛星搭載に向けた技術開発を進めたいと考えています。 お問い合わせ先 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 広報部 報道グループ 電話:03-6266-6413∼7 FAX:03-6266-6911 三菱電機株式会社 <報道関係からのお問い合わせ>広報部 電話:03-3218-2333 FAX:03-3218-2431 <開発内容に関するお問い合わせ>情報技術総合研究所 業務部 電話:0467-41-2148 FAX:0467-41-2142 1 開発内容の詳細 1.DIALの計測原理とCW変調方式 CO2濃度計測DIALは、波長が異なる 2 つのレーザ光(CO2吸収率の大きい波長のON波長のレーザ 光とCO2吸収率の小さいOFF波長のレーザ光)を送受し、CO2分子による光の吸収量が波長間で異な ることを利用してCO2濃度を計測するものです(図 1)。 CW 変調方式は DIAL の原理を使っていますが、2 つのレーザ光を同時に送信し(図 2)、2 波長間の 計測領域を一致させ計測精度を向上できる点が大きな特長です(図 3)。 ・計測原理 ・吸収線 計測空間における吸収量 (分子数に依存) 計測空間 2波長のレーザ光を送信 (ON波長、OFF波長) 受信パワー比から 空間における 平均濃度を算出 CO2吸収 (ON波長のみ で発生) 散乱光を 受信 反射体 光波長 ON波長 OFF波長 図 1 DIAL の計測原理 発振器 (周波数:fm1) レーザ光 (ON波長) 光源 光源 発振器 (周波数:fm2) fm1≠fm2 2波長同時 送信 変調信号 光変調器 レーザ光 (OFF波長) 光ファイバ 増幅器 光合波器 変調信号 計測空間 光変調器 図 2 CW 変調方式の光送信部構成 ・従来方式(2波長交互送受信) ON波長 レーザ光 計測領域 (ON波長) 装置 (衛星に搭載) OFF波長 レーザ光 ・CW変調方式(2波長同時送受信) 計測領域 (ON・OFF波長共通) 計測領域 (OFF波長) 図 3 従来方式と CW 変調方式における 2 波長の送受信タイミングの違い 2.CO2濃度計測ライダと計測結果 CO2濃度計測ライダの外観写真(図 4)とCO2濃度計測結果の一例(図 5)を示します。 光アンテナ 550 制御部 光送受信部 光源部 電源部 図 4 CO2濃度計測ライダ CO2濃度 [ppm] 525 信号処理部 500 475 450 425 400 375 350 17:30 21:30 1:30 5:30 時刻 9:30 13:30 17:30 図5 CO2濃度計測結果(反射体:1km離れた樹木) 2
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