BOP 水ビジネスセミナー「マルセイユから大邱慶北までのロードマップ」 (要約版) 日時 2012 年 7 月 4 日 12:00-13:30 会場 シンガポール 主催者 BOP 水ビジネス実行委員会 マリーナベイサンズ 3 階 ヘリコニア 3503 室 独立行政法人国際協力機構(JICA) 目的 2012年3月に第6回世界水フォーラム(マルセイユ)で行ったBOP水ビジ ネスのサイドイベントの成果を踏まえ、2015年開催の第7回世界水フォー ラム(大邱)に向けた準備に着手する機会にするとともに、特にアジア 諸国における国連ミレニアム開発目標達成に資するためBOPビジネスを どのようにスケールアップしていくかを論じる。 参加者 43 名(基調講演者、パネリスト含む) 主催者挨拶 冒頭のあいさつの中で、山田雅雄氏(BOP 水ビジネス実行委員会委員長)は、世界に 40 億人いるとされる BOP 層の貧困の軽減や途上国開発において、水が最重要分野の1 つであり、9億人にのぼる人々が未だ安全な水にアクセスすることができない中で、 「BOP 水ビジネス」による新しいアプローチが期待されること、それについて議論を深 めていくことが本セミナーの趣旨であることを述べた。 基調講演1 基調講演では、K.E.Seetharam 氏(シンガポール国立大学客員教授)が、水と衛生へ の投資は人間開発指数から見れば人類の発展の鍵であるが、飲料水適格性指標(IDWA: アジア開発銀行等により開発)を見ると、アジアにおいて水と衛生に関する開発投資・ 改善があまり進んでいないことを紹介し、適切な給水を普及させるためには強いリーダ ーシップとガバナンスが重要であることを述べ、人口 100 億人に達しようとする 2020 年に向けて、ガバナンスの改善、水と衛生設備の普及、BOP ビジネスの創設の3つのビ ジョンを示した。 基調講演2 続く基調講演では村田修氏(JICA 民間連携室審議役)が、JICA が Business-Based Pro-poor Approach を推進していること、その中でも水分野において、従来の ODA に加 えて民間セクターがビジネスを推進する上での問題解決に取り組んでいること、これら の新しい取り組みの中で、民間企業による BOP ビジネスの FS 支援を目下行っており、 水分野では 11 事業の支援を行っていることを紹介した。 このうち、豊田通商社が名古屋市等と推進したスリランカにおける小規模水供給検討、 四国化成社による浄水剤を用いたインドでの取り組み、および天水研究所による雨水タ ンクとマイクロファイナンスを活用するバングラデシュでの事例について、事業スキー ムの説明を行った。 さらに、2011 年より 10 年ぶりに海外投融資を再開したこと、そのターゲットがミレ ニアム開発目標達成への貢献や、貧困低減などであることなどを示した上で、これまで 水インフラ整備は公的セクターが受け持ってきたものの、現在では民間セクターによる 参入が着実に拡大していること、それらは PPP(官民連携)の形で都市部を中心に展開 されているが、今後は都市周縁地域においても BOP ビジネスの形で事業展開が可能で あり、それが大きな事業可能性を持っており、JICA がそれをサポートしていくことな どについて、まとめた。 発表1 パネルディスカッションでは最初に、Anand Chiplunkar 氏(アジア開発銀行 中央・ 西アジア部 都市開発・水課長)より、水供給・衛生分野での貧困層に配慮した(プロプ ア)対策」と題し、計画段階から住民が参加し、未給水地域に給水を行う「Small Piped Water Network(SPWN)」、および、成果の評価を行った後に支援(支払)を行う 「Output-Based Aid(OBA)」について、BOP ビジネスの観点から紹介・解説を行った。 SPWN は、通常の水インフラが届いていない貧困層が居住する地域においても、良い サービスがあれば住民は料金を支払う意思があり、そういった地域に短期間で効率よく 水供給を行う手法であることを述べた。 一方の OBA は、水のサービスを提供する事業体にとって、支援(支払)を受ける前に 支出が必要であり、成果を達成しなくてはその後の支援(支払)が受けられないため、 それがサービスを確実に行う上での大きなインセンティブになること、また、支援側と 被支援側の合意に基づいたサービスが提供されたかどうかを確認する認証機関として、 NGO のような団体の参加を必要とすることなど、ポイントについて解説した。 総じて、BOP ビジネスの推進にあたって、どのようにビジネスリスクを回避し、一方 で貧困層に対する支援の成果を確実なものにしていくか、適切な方法をこれからも検討 していく必要があるとまとめた。 発表2 続いて、山村尊房氏(日本水フォーラム)は、MDGs では意欲的な目標が掲げられ、水 分野においてその達成が進んでいるとされるものの、未だ世界の 57%の人々しか水道か ら水を得ることができず、都市と農村部の間には水供給システムの整備状況に大きなギ ャップがあり、特に農村部の 84%の人々は、安全な水を得ることができておらず、これ らの状況を正しく認識する必要を示した。 日本においても、1952 年の時点では、農村部では 97%、都市部でも半数近くの人々に は水道供給が行われていなかったことを示し、1950 年代に政府が農村部には補助金で都 市部には起債による水道供給に対する助成システムを構築したこと、その後、全国的に 整備が進み、水系伝染病や乳幼児死亡率が大きく減ったことなどを成果として示した。 山村氏は、この日本の経験から水供給システムの整備には政府の支援が必須であり、 特に都市部においては地域債を含む融資を受けて、自己投資を行うことが良いこと、農 村部においては政府による助成システムが整備普及に大きく寄与することを示した。 その上で今後、PPP に基づいた長期低利融資を含んだ民間資金による投融資の活用が、 BOP ビジネスをスケールアップさせる効果的な金融メカニズムとなること、また、BOP 層を対象とした水ビジネスは、浄水剤利用などのポイントオブユースだけでなく、安全 な水供給、衛生設備の整備にも適用していくことができることを述べ、BOP ビジネスの 市場規模予想に占める水分野の割合は過小評価されており、それは今後再評価されてい くべきであり、スケールアップのために行動していくべきであるとまとめた。 発表3 最後に、山田喜美雄氏(名古屋市上下水道局) ・小田俊司氏(豊田通商株式会社)が発 表を行い、スリランカにおいて推進する未給水地域における水供給の検討について事例 紹介を行った。 これは、スリランカにおいて都市郊外・農村部・山間部のそれぞれに経済性に優れた シンプルな水供給システムを設置し、未給水地域における水供給を実現する検討を行う もので、JICA の支援を受けて実施可能性調査を行い、名古屋市の有する緩速濾過技術 の活用などを想定するもの。 検討は、①それぞれの地域における水供給システムの検討、②建設・維持のための資 金調達、③運営・維持管理のための効果的なマネジメント方策、④雇用創出、⑤施設を 最初運営していくための日本からの専門家派遣などの観点から行い、スリランカ政府の National Water Supply and Drainage Board(NWSDB)とともに、具体的な場所にお ける検討を行ったことを紹介した。 現在、JICA の協力や、投資家、金融機関からの出資・投資に基づいて SPC(特別目 的会社)を設立し、水供給施設の建設・運営を行うスキームについて具体的に検討を行 っていることを合わせて紹介し、従来 ODA の対象地域とならなかったような地域にお いても、先端的な技術に頼らず、貧困層の住む地域に即した、効率の良いシステムを構 築することで水供給がビジネスとしても実現できる可能性を示した。 このモデルが、スリランカだけでなく、他の地域に適用・普及されることを期待とし て示し、発表を終えた。 質疑応答 質疑応答の冒頭に、司会の Seetharam 氏は、ADB による SPWN・OBA、日本の急速 な水道普及の歴史、そして BOP 水ビジネスモデルとしてのスリランカの事例などの発 表があった中で、 「いかに水供給・衛生設備普及を加速していくことができるか?」につ いて議論を進めたい旨を述べ、参加者を含めた質疑に移行した。 質疑では参加者より、山田氏・小田氏に対し、水供給に対して人々が料金を支払うこ とをどのように考えているかについて質問があり、地域住民にヒアリングを行っている こと、地域住民は水供給を渇望しており、確かに料金が上がっていってしまうことは受 け入れられないが、良いサービスに対して安定的で適切な料金を支払う意欲は高いこと、 施設整備をする日本側にとっても、地域住民の人々が料金をどのように考えるか、また その設定は基本的かつ非常に重要な点であるので、NWSDB とよく議論しており、今後 も深く議論していくと回答した。 さらに、村田氏が、Viability Gap Funding(VGF)について補足し、料金徴収だけで は賄いきれない運営の赤字分を補填するメカニズムが NWSDB を介することにより出 来上がっていることを述べた。司会の Seetharam 氏も、ベトナムでの例などを踏まえ、 創造的な料金システム開発が必要であることを述べた。 他、スリランカの山間部において想定している簡易な浄化システムの原水に関する質 問があり、それは重金属や化学物質を含むものではなく、し尿や生活排水等により汚れ ているもので、浄化後には飲用可能であることを小田氏が述べた。また、緩速濾過シス テムで使われる砂ろ過層の砂を、どのように浄化するかについて質問があり、山田氏が、 40~50 日ごとに表層の砂をかき取ることを回答し、Chiplunkar 氏が急速濾過との相違 点や、メンテナンスコストの面も含めて都市周縁部で緩速濾過システムの適応性がある ことなどを補足した。 特別講演 質疑応答の後に、Yu Myeonggeun 氏(韓国国土交通省課長補佐)が、2015 年に韓国・ デグにおいて開催される第 7 回世界水フォーラムについて紹介し、“Future Water Together”をテーマとし、2015 年 3 月ないし 4 月に開催すること、プログラムは、① Thematic Process、②Regional Process、③Political Process、④Science & Technology Process で構成すること、各プロセスを推進し、統括・運営するための委員会組織を今 後構築すること、キックオフ会合を 2013 年 3 月までに開催することなど、準備過程に ついて説明を行った。 その中で、多くの水に関するステークホルダーや関連機関・団体の参加を得ていくこ と、そして、ミレニアム開発目標の期限である 2015 年の後をどのように展開していく か、その準備を行っていくことなどについて述べ、デグおよび慶北慶尚北道地域の自然、 河川環境や民俗・文化等をあわせて紹介し、日本で開催された第 3 回世界水フォーラム の成功的経験の共有や、多くの人々の参加を期待していることを述べた。 総括 本セミナーの最後に Seetharam 氏は、各発表者・パネリスト・参加者に感謝を示すと ともに、10 年前は第 3 回世界水フォーラムが日本で開催され、本年はフランス・マルセ イユにおいて第 6 回世界水フォーラムが開催されたが、BOP 水ビジネスの確立を共に目 指す全てのパートナーが、MDGs の期限である 2015 年にデグで再会するときには、そ れぞれの結果を持ち寄りたいと述べた。最後に、本セミナーが貧困層に安全な飲み水や 適切な衛生設備を供給していくための、良い協働機会になることを望み、セミナーを締 め括った。
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