À/00.4 (Page 24)

「お役に立つ」精神で他とは違うことを進める
これが、地方に交流と連携をもたらす
私は導入には反対だが、東京都が進めている外形標準課税の導入で、銀行は
東京から逃げ出したいと思っているのではないか。では、新潟県へいらっしゃ
いといえばいい。越後湯沢には使い手のないマンションがたくさんある。今は
パソコンだけで銀行業務はできるから、銀行の本店は是非、越後湯沢へと勧誘
すればいい。支店や営業所もみんな止めて、業務はすべてパソコンでやる。そ
*8 外形標準課税
法人事業税の税額を、事業規模を反映する
なんらかの基準によって決める課税方式のこ
と。現在は所得を基準に課税されているが、
都道府県税収の約3分の1のウエートを占め
る法人事業税は景気の影響をうけやすく、税
収が安定しないという問題がある。こうした
ことから、東京都の石原都知事が、大手金融
機関の法人事業税に外形標準課税を導入する
ことを発表し、大きな論議を呼んだ。東京都
議会は2000年3月にこの条件を可決、2000
年度から課税されることになった。
うすると、東京都は税金を取り損ねる。新潟県はそういう変わったことをすれ
ば、寝ていて儲かることになる。
アメリカのピッツバーグという町は、古くから栄えた町だが、大正から昭和
にかけて、見る見るうちに没落した。工場が隣りの町、隣りの町へと移ってい
った。その理由の一つに、住民の都合第一で固定資産税を安くして、所得税を
高くするという税制を導入したことがあった。固定資産税を払うのは地主だか
ら、古くからいる住民の税金が安くて、新しく来た人に負担を押し付けた。し
ばらくは良かったが、だんだん工場も研究所も大学も寄り付かなくなった。一
方で、まわりの都市は固定資産税を地主が自らたくさん払い、新しく来た人に
は固定資産税も安いし、所得税も安いという誘致運動をしたので、みんなそち
*9 ピッツバーグ
アメリカ合衆国北東部のペンシルバニア州
の都市。五大湖に近く、川を利用した水運が
発達したことから、古くからアメリカの鉄鋼
業の中心地として知られ「アメリカのバーミ
ンガム」とも呼ばれた。製鉄だけでなく、ガ
ラスや化学、電気機器等の製造業が集積し、
工業都市として発展してきた。アメリカの鉄
鋼業の衰退や「煙の街」といわれるほどの環
境汚染もあって、1970年代にピッツバーグ
市は危機的状況を迎えたが、市と民間が協力
して産業構造の改革と都市環境の整備を進め
再生を遂げた。こうした都市の再生を評して、
「ピッツバーグ・ルネッサンス」と呼ばれて
いる。
らへ行ってしまった。
こうしたことを反省して、ピッツバーグの議会は我々が税金を払い、よそ者
からは取らないというタックスを採用した。これはグレーデッド・タックスと
呼ばれる。これを10年やったら、ピッツバーグの町は見違えるように良くなっ
た。これがホントの誘致運動である。
自治省の委員もしているが、ある時大臣に次のように言ったことがある。
「日本中全部税率が同じで、後は交付税で調節している。税率はもっと自由化
すべきだ。地方自治体がもっと特色を出して、あなたは安くする、あなたは高
くする、なるべくなら住民が払う。それで町が栄えたら、後で儲けを取る。と
りあえずは自分で負担する、というようなことをする市町村が、日本中どこに
もない。何もかも日本中を画一的にそろえるから、地方に開発競争が起こらな
いのだ。結局、日本では交渉の余地がないから、日本の会社はアジアへ出て行
く」というようなことを言ったことがある。
これからの日本は次第に地方自治体が特色を出しやすくなり、画一的でなく
なっていくだろう。そう考えると、東京都の外形標準課税という試みは一石を
投じたことにはなる。
誘致あるいは連携や交流を進める際には、自分が得をすることばかり考えず
に、まず身銭を切って人のお役に立つことから考える。ワンセット主義ではな
く、他とは違うことを考える。そうすれば、自然と交流や連携が進んでいく。
そして、儲けはあとでゆっくりいただく。これが重要だ。
21