公益財団法人 内藤記念科学振興財団 設立趣意書

公益財団法人 内藤記念科学振興財団 設立趣意書
今日、日本の科学技術は、欧米先進国なみといわれるが、それはただ表面的あるいは部分的なことで、
真の意味での国際的水準とは言いがたいのが実情ではなかろうか。日本独自の科学的発明や発見が少な
く、産業界が欧米先進国にいかに多額の技術導入料を支払い、これにたいし、日本が受ける特許料がい
かに少ないかという一事からも明らかである。欧米に比して近代科学の歴史が浅いとはいうものの、明治
維新後100余年が過ぎた今日、科学研究の面においても、それを利用する産業界においても、日本にオリ
ジナリティをもつ独創的な発明や発見が貧困で、底の浅さが強く指摘されている。これは、外国で基礎
研究されたものをそのまま採り入れ、これを応用することにかけては長じているけれど、基礎研究そのも
のを軽んじてきた日本の学界および産業界の盲点がしからしめたところであるといっても過言ではない。
また、応用面の研究には高率の資金が投下されるが、基礎面の研究には、きわめて低率なことにも問
題がある。医薬品ひとつを例にとってみても、現在日本で売られている医薬品の大半は、欧米の研究者
の手で研究され、その息のかかったもので占められており、日本人の手で研究されたものは、きわめて少
ない。近時、日本製品の海外輸出が興隆をきわめているなかに、ひとり日本製薬品の輸出のみが貧困で、
ほとんど見るべきものがないのも、一にこれに起因する。これは医薬品にかぎらず、人類の疾病の予防と
治療に関する自然科学のあらゆる分野についても同様であり、この面の基礎研究の振興が叫ばれている。
資本も貿易も、広く世界に門戸を開いた今日、これら欧米先進国に負けず劣らず日本の科学技術水準
を進歩向上させるためには、まず自然科学の基礎的研究の発展が要望される。しかるに、自然科学の基
礎的研究に携わる者にとっての悩みは、これに要する研究費の不足である。自然科学の基礎的研究の振
興なくして、すぐれた応用科学品を産み出すことは、木によって魚を求めるにひとしいたとえのとおりで
あって、より多額の研究資金が渇望されるゆえんである。
これらの現状にかんがみ、国または個人たるとを問わず、自然科学、なかんずく人類の疾病の予防と
治療に関する研究の助成に重大なる関心を示し、すすんでその資金を提供することが、わが国の科学技
術が、真の意味での国際的水準に達する一助ともなりうるであろうと信ずる。
さて、エーザイ株式会社の創業者たる内藤豊次から、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の助
成のために役立てたいと、その所有する株式50万株の提供があった。同氏は、中学中退後、苦学力行し、
薬業界に身をおくこと50余年、国産医薬品の研究開発を目的とした桜ヶ岡研究所、日本衛材株式会社、
エーザイ株式会社を創立し、日本における最初のビタミンC合成をはじめ、ビタミンA、D、Eなどの企業
化、国産医薬品の研究開発とその育成普及など、医薬品を通じて人類の健康増進に大きな業績をあげたが、
かねがね、外国品の模倣追従に明け暮れている業界の現状を不満としていたが、このたび、私財の一部
を広く自然科学振興助成のために提供したいとの申し出があった。
さらに、エーザイ株式会社から、創業25周年を記念して、社業収益の一部を社会還元して科学振興に
役立てるべく、1億円を提供する旨、申し出があった。
よってここに、財団法人内藤記念科学振興財団を設立し、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学
の研究を奨励し、もって学術の振興と人類の福祉に寄与せんとするものである。当財団の事業が、これ
ら研究者の研究の一助になりうるならば、発起人一同の喜びは、このうえもないところである。
昭和44年2月26日
設立発起人 緒方知三郎 内藤 豊次 石橋 長英 内藤 祐次 高木 誠司
田辺 普 森 高次郎
設立年月日 昭和44年4月7日 内藤財団時報 第90号 目次
内藤記念科学振興財団 設立趣意書 68
巻頭言 ─ 若い研究者のために ─ ○
我が国の医療のあるべき姿
─ 安全、安心で標準的医療を担う専門医の育成 ─
池田 康夫 …………………………………………………………… 2
2011年度内藤記念科学振興財団贈呈式
①式次第 ………………………………………………………………… 5
②第43回内藤記念科学振興賞受賞研究 …… 濱田 博司…………… 6
内藤記念科学振興賞 受賞者一覧 ……………………………………… 13
第33回内藤コンファレンス ……………………………………………… 17
第34回内藤コンファレンス ……………………………………………… 20
内藤コンファレンスの歩み ……………………………………………… 23
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて ………………………………… 27
海外留学だより …………………………………………………………… 61
第43期(平成23年度)決算報告 ………………………………………… 68
2012年度助成事業の紹介 ………………………………………………… 75
内藤記念くすり博物館だより …………………………………………… 84
ご寄附をお寄せくださる方に/ご寄附者名簿 ………………………… 85
2012年度役員および評議員・選考委員・名誉理事 …………………… 87
2012年度内藤コンファレンス告知ポスター …………………………… 89
─1─
巻 頭 言
若 い 研 究 者 の た め に 68
我が国の医療のあるべき姿
─ 安全、安心で標準的医療を担う専門医の育成 ─
早稲田大学理工学術院先進理工学部生命医科学科 教授 内藤記念科学振興財団 理事 池田 康夫
国民皆保険制度を維持し低医療費政策をとり
我が国の専門医制度は1962年の日本麻酔学
ながらも、世界一の長寿国となり、もっとも低
会の麻酔指導医制度の発足に始まり、約50年の
い新生児死亡率を誇る我が国の医療制度は国際
歴史を刻むが米国と比べるとその歴史は浅いと
的に非常に高い評価を受けて来た。
言わざるを得ない。しかも、2002年に厚生労働
しかし、現状はと言えば、
“医療崩壊”なる言
省が規制緩和の一環として、専門医資格を認定
葉で表わされるごとく、医療の地域格差、診療
する団体(学会)の外形基準(9項目)を定め、
科における医師の偏在、救急医療体制の不備等
その団体の認定する専門医は広告を許可すると
多くの緊急に解決すべき課題が山積している。
いう“専門医広告に関する基準・手続き等”な
超高齢化社会を迎え疾病構造は変化し、Unmet
る厚生労働大臣告示を発出した事から、外形
medical needsに応える為の新たな治療法の開発
基準を満たす学会はこぞって専門医制度を作り
競争の激化、益々高騰する医療費、患者の先進
始め、医療の質の議論を置き去りにした安易な
医療に対する期待と共に医療安全に対する厳し
専門医が乱造され、専門医制度全体を俯瞰し
い監視等を考える時、我が国の医療体制をどの
た時、患者さんに理解し難い状況が生じる事に
ように再構築して行くべきかの待ったなしの議
なった。
論が必要である。
我が国の専門医制度の特徴は、それぞれの学
その解決のキーワードは“医療の役割分担の
会が独自で制度設計をしており、多くは専門医
確立”と“的確な医療情報の提供”ではないだ
認定委員会等を設けてカリキュラムの作成、受
ろうか? 験資格、試験の内容等を決定し、合格者に学会
前者について言えば、可及的速やかに医師や
認定専門医の称号を与えている事である。学会
医療施設間、更には医療を支える多くのコメ
がそれぞれに専門医制度を設けている事から、
ディカルと医師等の間での役割分担を明確に
残念ながら我が国では全体が俯瞰できる専門医
し、医師は勿論の事、薬剤師、看護師、臨床検
制度とはなっておらず、本来、専門医制度は患
査技師、医療工学士等それぞれも“医療人”と
者さんの為に役立つ制度であるべきなのに患者
しての誇りと責任を持ち、患者を中心とした
さんの立場で考える時、必ずしも受診に際して
チーム医療の推進を目指す必要がある。
有用、且つ効率的な制度になっているとは言
ここでは、安全、安心の医療、地域医療格差
い難い状況である。また、多くの学会の専門医
是正を目指し、国民に広く理解され、患者さん
制度では、カリキュラムは整備されつつあるも
の効率よい受診行動につながる新しい専門医制
のの、専門医育成の修練プログラムは確立され
度の確立に関する最近の動きについて触れてみ
ておらず、臨床能力本位の専門医にはなってい
たい。
ない。 ─2─
巻頭言 ─若い研究者のために─ 68
専門医の適正数・適正な配置等、我が国の医
新たな専門医制度の基本設計を描くにあ
療が現在抱えている問題(地域医療の崩壊、診
たって、制度の枠組みの再構築、専門医認定の
療科の医師の偏在等)の解決に資する制度設計
透明性、公正性の確保、安心、安全、効率の良
の議論が十分でない。
い医療を担当出来る専門医の育成、専門医の地
2010年に
(社)日本専門医評価・認定機構が
域・診療科への適正な配置、専門医へのインセ
専門医制度についてのインターネット調査を
ンティブ賦与等を考慮した。ここで専門医とは、
行った。20−69歳の男女、合計15,000人を対象
メディアが言う所の“神の手”を持つ医師を指
にした調査であるが、それによると専門医の認
すのではなく、標準的な医療を安全に行い、患
知度については、80−90%の人が“具体的に
者が安心して任せられる医師を意味している。
知っている”或は“何となく知っている”と回
専門医は個別学会単位ではなく診療領域単位
答しているものの、専門医を受診した事がある
の認定とする事を明確にし、制度の枠組みと
とした人は20−30%にとどまっている。専門医
しては内科、外科、小児科、産婦人科、整形
のイメージについては矢張りスーパードクター、
外科、耳鼻咽喉科等の基本領域と更に細分化し
重症・難病の治療に当たっている医師、大学・
たSubspecialtyの2階建て制とするものである。
研究所等で研究している医師等が挙げられて
専門医の存在が社会に広く認知され、将来的に
いる。専門医に対する期待は病気、薬剤等に対
は専門医に何らかのインセンティブが与えられ
する知識、診断の迅速さ、正確さ、安心感、信
るようになるには、その認定は学会が行うので
頼感が挙げられている。一方、一般医と比べて
はなく中立的第三者機関を設立してそこで認定
患者への親切さ、丁寧な対応や患者の立場に立
を行う制度設計である。中立的第三者機関のも
てる等の点で専門医の評価が低い。患者さんは
う一つの大切な業務として研修プログラムと研
専門医への受診を希望したいがどのようにして
修施設の評価・認定がある。現在、全国で数多
受診したら良いのか、治療費・薬剤費等が高い
くの研修施設がそれぞれの学会により認定され
のではないかとの不安も持っている。等の事が
ているが、それらの施設が専門医を育成するに
明らかにされた。
この調査から明らかなように、
相応しい施設であるかについて、指導プログラ
患者さんには“専門医”がどのような医師であ
ム等の点で評価する事が重要である。これらの
るかについて十分な理解が得られているとは言
施設をサイトビジットして評価するには非常に
えない。
多くの労力、時間、費用が必要であるが体制を
専門医制度の意義に関しては今更述べるまで
整えて行かなくてはならない。幸い基本領域学
もないかも知れないが、医師にとっては、修練
会の協力もあり、そのシステム構築が始まって
プログラムの充実によってその診療レベルを高
いる。
める事が出来ると同時に、自ら修得した知識、
初期臨床研修を終わり、臨床医としての道を
技術、態度について認定を受け、それを社会に
志す医師は基本領域のいずれかの専門医育成過
開示出来る事である。患者さんの側から見ると、
程に進み、その認定を受けた後に希望により更
診療を受けるにあたり、医師の専門性の判断が
に専門的なsubspecialty領域の研修過程に入る
でき、受診に際して参考になる。医療制度から
事になる。現在、18の基本領域に専門医制度が
見ると医師の役割分担を進める事によって、効
設けられているが、この他早急に解決しておか
率化が図れる。そして、専門医を公示する事に
なければいけない問題に、主として診療所等で
より現在問題視されている“診療科の自由標榜
地域における医療を担当する家庭医或は総合診
制の矛盾”を解決出来る。等である。
療医の育成がある。総合的に患者を診られる医
─3─
巻頭言 ─若い研究者のために─ 68
師は重要なプロフェッショナルとして専門性を
も一定の距離を置く中立的第三者機関の設立が
持っており言葉の問題はあるが、これらの診
必要であり、長年にわたって努力をして来た各
療領域も専門医制度に組み入れて行く必要が
学会と密接に連携をとりながらも国民の視点か
ある。このような“専門医”を専門医制度の枠
ら専門医制度を考える中立的第三者機関をどの
組みの中にどのように組み入れるかの重要な議
ように作って行けるか、患者の理解も得て、日
論が始まっている。
本医学会、日本医師とも緊密に連携し、我が国
この基本設計に盛られた各事項を実現する為
の医師集団の英知を結集して早期に実現したい
に先ず必要な事は、学会と密接に連携しながら
ものである。
─4─
2011年度内藤記念科学振興財団贈呈式
日 時 2012年 3 月13日
(火)
15:30開式
場 所 千代田丸の内 1 − 4 − 6
日本工業倶楽部 大会堂
( 2 階)
式次第(敬称略)
開式
理事長挨拶 … …………………………………………………………………………
選考経過報告 … …………………………… 京都大学大学院理学研究科 教授
贈呈書授与
第43回内藤記念科学振興賞
受賞者 … ……………… 大阪大学大学院生命機能研究科 教授
授与者 … …………………………………………………… 理事長
第43回内藤記念科学奨励金・研究助成
代表受賞者 … ……… 熊本大学大学院自然科学研究科 准教授
授与者 ……………………………………………………… 理事長
第 1 回内藤記念科学奨励金・若手ステップアップ研究助成
代表受賞者 ……… 東京医科歯科大学難治疾患研究所 准教授
授与者 … …………………………………………………… 理事長
第 6 回内藤記念女性研究者研究助成金
代表受賞者 … …………… 東京工業大学資源化学研究所 助教
授与者 … …………………………………………………… 理事長
第28回内藤記念海外研究留学助成金
代表受賞者 … ……… 東京大学大学院医学系研究科 大学院生
授与者 … …………………………………………………… 理事長
第40回内藤記念特定研究助成金
①代表受賞者 … ………… 東北薬科大学分子生体膜研究所 助教
授与者 … …………………………………………………… 理事長
②代表受賞者
医薬基盤研究所創薬基盤研究部 … …… プロジェクトリーダー
授与者 … …………………………………………………… 理事長
科学振興賞受賞者記念講演 … ………
閉式
記念祝賀パーティ 大ホール( 3 階)
大阪大学大学院生命機能研究科 教授
─5─
内
阿
藤
形
晴
清
夫
和
濱
内
田
藤
博
晴
司
夫
石
内
川
藤
勇
晴
人
夫
平
内
山
藤
晴
順
夫
高
内
尾
藤
昭
晴
子
夫
大久保 公 美
内 藤 晴 夫
永
内
福
藤
正
晴
和
夫
石
内
井
藤
晴
健
夫
濱
田
博
司
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
テーマ
体の非対称性が生じる機構
Molecular and cellular mechanisms generating morphological asymmetries
研究者
大阪大学大学院生命機能研究科
研究科長・教授
推薦者
内藤記念科学振興財団 理事
日本学術振興会 ストックホルム研究連絡センター センター長
東北大学 名誉教授
はま
だ
ひろ
し
濱 田 博 司
ふじ
い
よし
あき
藤 井 義 明
研究業績概要
Ⅰ.背景:
体ができあがる仕組みを理解することは、生
体ができあがる仕組みを理解することは、生
物学的な興味だけではなく、医学の進歩のため
物学的な興味だけではなく、医学の進歩のため
にも不可欠です。我々の体は、頭尾・背腹・左
にも不可欠です。私たちの体の設計図(Body
右という3つの方向性
(非対称性)
を持ちますが、
Plan)の基本は、胚発生をとおして多種類の細
この方向性は発生の極めて早い時期に決まりま
胞を生み出すことと、細胞集団の中に方向性(将
す。非対称性が正しく決められないと、先天性
来の体の軸)を決定することです。私達の体は
心疾患など、さまざまな発生異常を引き起こし
頭尾・背腹・左右という3つの方向性(頭尾、
ます。私達は、マウス胚で左右非対称に発現す
背腹、左右)を持ちますが、体の左右非対称性
る遺伝子(Lefty )を発見して以来、それを糸
はいかにして生じるのか? これは発生生物学
口にして、左右非対称性を生じるしくみの全貌
の基本命題であるにもかかわらず、その機構は
解明を目指しました。まずは遺伝学的手法を用
1990年代に至るまで全く不明でした。
いて、シグナル因子であるLeftyの役割・非対
称な発現制御の機構を明らかにしました。さら
Ⅱ.左右非対称に発現するLefty遺伝子
に、左右対称性が破られる機構(とくに繊毛の
私達は、それまでのES細胞が持つ全能性に
役割)
、シグナル因子が構成するネットワーク
関する研究の中から、マウス胚で左右非対称に
により非対称性が樹立する機構、臓器の形態や
発現する初めての遺伝子(Lefty )を発見しま
位置に非対称性が生じる機構を解明しました。
した。新たなTGFβ増殖因子をコードする遺
一方、頭尾の方向性が決まる機構にも研究を進
伝子Lefty の発現をマウス胚で調べると、受精
め、頭尾の方向性が驚くほど早い時期に決定さ
後8日目という短期間だけで胚の左側で左右非
れている事を発見しました。これらマウスをモ
対称に発現していました(次頁上図)。実際に
デルとした研究を通して、哺乳動物の体の非対
は、Lefty1 、Lefty2 という良く似た2つの遺伝
称性が生じるメカニズムの中核を明らかにしま
子があり、Lefty1 は主に予定神経底板と呼ばれ
した。しかし、まだ解決すべき重要な問題が多
る正中部分の組織の左半分で、Lefty2 は側方に
く残っており、今後は非対称性の起源を解明し
位置する側板中胚葉(LPM)と呼ばれる組織
たいと思います。
の左半分で、発現することが判りました。また、
─6─
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
側相同を示しました。もし、Lefty が左側を規
定しているなら、Lefty のノックアウトマウス
は右側相同を示すはずですが、実際の症状は逆
でした(文献②)。このパラドックスは、しば
らくの間謎でした。
Ⅲ.NodalとLeftyによる非対称性の確立
Lefty の働きを理解するまでには、幾つかの
ヒントが必要でした。1つ目は、Lefty と全く
同じように左右非対称な発現を示す、もう1つ
左右の形態がランダムになるiv 変異マウスでは
Lefty の発現もランダムに、左右が逆転するinv
変異マウスではLefty の発現も逆転することか
ら、当初は体の左側を規定する遺伝子だと想像
しました(文献①)
。
Lefty (Lefty1 、Lefty2 ) の ノ ッ ク ア ウ ト マ
ウスを作製して表現型を調べると、両者ともに
期待通り左右の異常を示しました。しかし予想
に反して、どちらのノックアウトマウスも、左
の遺伝子(Nodal )があったことです(下図)。
Nodal もTGFβに属する蛋白質をコードしてい
ます。これは、他の研究者による発見でした。
2つ目のヒントは、Lefty蛋白質の働きがNodal
の活性を阻害することが判って来たこと。最後
のヒントは、Lefty とNodal の遺伝子発現制御機
構に関する情報でした(文献③)。即ち、2つの
遺伝子が左右非対称に発現する機構を調べた
所、両者の遺伝子ともに非常に良く似たエンハ
ンサーで制御されていました。これらのエンハ
ンサー活性に必須な塩基配列を決定した所、そ
の塩基配列にはFoxH1と呼ばれる転写因子が
結合することが判りました。FoxH1は、それま
─7─
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
に制限していることが判りました。すなわち、
Lefty が無くなるとNodalが暴走し、Nodal の発
現場所が右側へも漏れるために、左側相同を引
き起こすわけです。
Ⅳ.繊毛による左右対称性の破れ
Lefty やNodal 遺伝子が非対称発現をする前に
左右の対称性を破るのは、胚のノードと呼ばれ
る場所にある繊毛です。ノードの各細胞は1本
の繊毛を持ち(下図)、その繊毛が時計方向へ
でにTGFβシグナルを伝える転写因子という
ことが知られていましたから、LeftyとNodalの
非対称な発現はNodalシグナルで誘導されてい
ることが示唆されました(上図)
。
以上の情報を総合すると、1)体の左側を規
定するのはNodal、2)LeftyはNodalの活性を抑
制することで、Nodalが働く場所と時間を厳密
─8─
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
回転するために、ノードの窪みの中に左向きの
Ⅴ.形態の左右非対称性
水流が生じます。以上は、廣川信隆博士らによ
Nodalシグナルを受け取った左側LPMの細胞
る発見です。我々は繊毛・水流に関する研究を
は、腹腔内の臓器に寄与し、そこで左側特徴的
更に進め、人工的な水流を胚へ与える独自な実
な形を作ります。しかし、左右非対称な形が出
験系を開発し水流そのものが対称性を破ること
来上がる仕組みは、マクロのレベルで見ると
を明らかにしました(文献④)
。
様々です(下図)。例えば、肺は一対の対称な
回転運動により左向きの水流が生じる理由
肺芽として始まるが、やがて分岐パターンが左
は、繊毛の回転軸が体の尾側(後側)へと傾い
右で違ってきます。消化管は、最初は正中に位
ているためです。それではどのような仕組み
置する真っ直ぐな管ですが、その後片方へ屈曲
で、ノード繊毛の回転軸が尾側へ傾くのでしょ
します。また、血管は最初は左右対称に作られ
うか? ノード繊毛の回転軸が尾側へ傾く理
ますが、発生の途中で左右の片側が消失するな
由は、繊毛の基部に存在する基底小体と呼ばれ
ど再構成(リモデリング)され、最終的には一
る細胞小器官が、ノード細胞内において尾側へ
部の血管は左右非対称になります。しかし、細
偏って位置するためでした(前頁下図)
。基底
胞レベルで何が起こっているのかは、多くの場
小体は、最初はノード細胞内においてランダム
合不明です。
に位置していますが、発生が進行するに従って
そのなかで、1つの器官が非対称になる仕組
細胞の尾側へ移動することが分かりました。基
みを明らかにしました(文献⑧)。それは、心
底小体が移動しない変異マウスでは、回転軸が
臓から末梢へ動脈血を運ぶ大動脈です。心臓の
後傾せず左向きの水流ができません。細胞内極
左心室から出る大動脈は必ず左側へアーチし大
性を決めることが知られているDvlと呼ばれる
動脈弓となります。大動脈弓は、なぜ左側へアー
たんぱく質を調べたところ、ノードの細胞内に
チするのでしょうか? 発生の初期に大動脈の
おいて尾側へ偏って位置していました。
つまり、
近くに形成される6対の鰓弓動脈のうち、第6鰓
ノードの細胞は、頭尾の位置情報を感知して
弓動脈の右側が消失することによって、左側へ
Dvlたんぱく質を尾側へ配置することにより、
アーチすることが知られていましたが、なぜ片
基底小体を尾側へ移動し、その結果繊毛が尾側
側の鰓弓動脈が消失するのかは不明でした。そ
へと傾くことが明らかになりました(文献⑨)
。
の仕組みを調べてみると、左右性を決める遺伝
Dvlたんぱく質を細胞の尾側へ配置させてい
子(Pitx2 )の働きにより、心臓から出る大血
るためには、なんらかの頭尾の位置情報が必要
管が頭尾軸に沿って回転し、その回転の結果、
と予想されます。その位置情報の実体は、いま
左右対称に存在した第6鰓弓動脈の右側部分が
だ不明です。
細くなります。右側第6鰓弓動脈が狭くなった
結果、そこに流れる血流が少なくなり、血管内
皮細胞が受け取る増殖因子のシグナルが減少
─9─
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
し、やがてアポトーシスを引き起こして右側第
従来の研究では、頭尾方向のもととなる分子
6鰓弓動脈が消失することが分かりました。つ
情報は受精後5日目の胚で予め存在しており、
まり、左右性を決める遺伝子によって決められ
この情報をもとに頭部を誘導する細胞群「遠位
た血流動態が、血管のリモデリングを引き起こ
臓側内胚葉(DVE)」が将来の頭側に移動し、
「前
すことが明らかになりました。左右の決定が異
側臓側内胚葉(AVE)」と名称を変え、AVEが
常になるとPitx2 の発現・機能が変化し、本来
近くの細胞へ頭部誘導シグナルを送ることで、
左側が残るはずの第6鰓弓動脈が、両側あるい
頭尾方向が形成されると考えられてきました。
は右側に残ることとなり、心臓の奇形を引き起
蛍光たんぱく質を用いて、母胎内外両方でマウ
こすことになります。
ス胚の細胞の運命・挙動を追跡する技術を開発
しました。この技術を用いて、受精後3日目か
Ⅵ.頭尾の非対称性
ら6日目までの胚においてLefty 遺伝子(DVE
また、LeftyとNodal(Leftyが抑制するシグ
とAVEの両方で発現する遺伝子)を発現する
ナル因子)が一対となり、初期発生のさまざま
細胞の挙動を詳細に解析しました。その結果、
な局面(体の頭尾の決定や中胚葉形成など)を
①DVEになるべき細胞は、遅くとも受精後4日
支配していることも示しました。例えば、頭尾
目にすでに決定されていること、②同じ細胞と
の極性が決まる機構、とくに頭尾の極性を決め
考えられてきたDVEとAVEは、実は異なる由
る特殊な細胞の起源や働きへと研究を進め、頭
来の細胞であること、③DVEの役割は、自ら
尾の極性が驚くほど早い時期に決定されている
が頭側へ移動することにより、遅れて生じる
事を明らかにしました。発生のより早い時期に
AVEを頭側へガイドすることなどを明らかに
遡る事により、哺乳動物で最初に決定される体
しました。これらの結果から将来の頭尾方向を
軸である頭尾極性の起源を解明しつつあります
決める細胞は、従来の考えよりも早い時期に決
(下図)
。
められていることが分かりました(次頁上図)
(文献⑤⑥⑩)。
─ 10 ─
第43回内藤記念科学振興賞受賞研究
Ⅶ.まとめ
私達は、Leftyの発見を糸口に体の非対称性
が生じる仕組みを明らかにしてきました。左右
非対称性に関する研究は、多様な生物を用いた
研究へと広がり、またヒトの先天性心奇形や代
謝疾患までも含む様々な疾患の原因となってい
る事も判りました。まだ未解決な問題も残され
ていますが、現在では多くの研究者が広い分野
から参画しています。
これらの研究成果は、
我々
の体ができあがる仕組みという生物学的な謎を
明らかにするのみならず、近い将来に医学の基
盤としても貢献することを期待します。
─ 11 ─
— 主要研究論文 —
①Meno, C., Saijoh, Y., Fujii, H., Ikeda, M., Yokoyama, Y., Yokoyama, M., Toyoda, Y. and
Hamada, H. (1996). Left-right asymmetric expression of the TGFb-family member lefty
in the mouse embryo. Nature 381:151-155.
②Meno, C., Shimono, A., Saijoh, Y., Yashiro, K., Mochida, K., Ohishi, S., Noji, S., Kondoh, H.
and Hamada, H. (1998). lefty-1 is required for left-right determination as a regulator of
lefty-2 and nodal. Cell . 94:287-297.
③Saijoh, Y., Adachi, H., Sakuma, R., Yeo, C.-Y., Yashiro, K., Watanabe, M., Hashiguchi,
H., Yashiro, K., Kawabata, M., Miyazono, K., Whitman, M. and Hamada, H. (2000). Leftright asymmetric expression of lefty2 and nodal is induced by a signaling pathway
that includes a transcription factor FAST2. Mol. Cell 5:35-47.
④Nonaka, S., Shiratori, H., Saijoh, Y., and Hamada, H. (2002). Determination of left-right
patterning by artificial nodal flow in the mouse embryo. Nature 418:96-99.
⑤Yamamoto, M., Saijoh, Y., Perea-Gomez, A., Shawlot, W., Behringer, R., Ang, S.-L.,
Hamada, H.* and Meno, C. (2004). Nodal antagonists regulate migration of the visceral
endoderm along the future anterio-posterior axis of the mouse embryo. (*corresponding
author) Nature 428:387-392.
⑥Takaoka, K., Yamamoto, M., Shiratori, H., Meno, C., Rossant, J., Saijoh, Y. and Hamada,
H. (2006). Mouse embryo is autonomously patterned for anterio-posterior polarity at
implantation. Dev Cell . 10:451-459.
⑦Nakamura, T., Mine , N., Nakaguchi, E., Mochizuki, A., Yamamoto, M., Yashiro, K.,
Meno, C., Hamada, H. (2006). Generation of robust left-right asymmetry in the mouse
embryo requires a self enhancement lateral inhibition system. Dev Cell . 11:495-504.
⑧Yashiro, K., Shiratori, H, and Hamada, H. (2007). Haemodynamics determined by
a genetic programme govern asymmetric development of the aortic arch. Nature ,
450:285-288.
⑨Hashimoto, M., Shinohara, K., Wang, J., Ikeuchi, S., Meno, C., Yoshiba, S., Takada S.,
Hatta, K., Wynshaw-Boris, T., and Hamada, H. (2010). Planar polarization of the node
cells determines the rotation axis of the node cilia. Nat Cell Biol . 12:170-176.
⑩Takaoka, K., Yamamoto, M. and Hamada, H. (2011). Origin and role of distal visceral
endoderm, a group of cells that determines anterior-posterior polarity of the mouse
embryo. Nat. Cell Biol . 13(7):743-752.
⑪Shinohara, K., Kawasumi, A., Takamatsu, A., Yoshiba, S., Botilde, Y., Mototyama, N.,
Reith, W., Durand, B., Shiratori, H. and Hamada, H. (2012). Two rotating cilia in the
node cavity are sufficient to break left-right symmetry in the mouse embryo. Nat.
Commun . 3 : 622 doi: 10.1038/ncomms1624.
─ 12 ─
内藤記念科学振興賞 受賞者一覧
(敬称略)
受賞年度
(回)
受 賞 者
研 究 テ ー マ
東京大学薬学部 教授
1969年
(第 1 回)
浮田忠之進
名古屋大学理学部 教授
岡崎 令治
1970年
(第 2 回)
九州大学歯学部 教授
1971年
(第 3 回)
東京大学医学部 教授
1972年
(第 4 回)
岡山大学医学部 教授
1973年
(第 5 回)
京都大学理学部 教授
1974年
(第 6 回)
東京大学理学部 教授
1975年
(第 7 回)
東北大学医学部 教授
1976年
(第 8 回)
九州大学医学部 教授
1977年
(第 9 回)
福島県立医科大学 教授
栗山 熙
山崎 英正
岡田 節人
向山 光昭
菊地 吾郎
大村 裕
小島 瑞
須田 正己
城西大学薬学部 教授
山田 俊一
1979年
(第11回)
DNA複製の分子機構に関する研究
内臓平滑筋細胞の電気生理学的研究
複合糖脂質とその先天代謝異常症
山川 民夫 (リピドーシス)の生化学的研究
愛媛大学医学部 教授
1978年
(第10回)
核酸および関連物質の生物化学的研究
大阪大学医学部 教授
山村 雄一
ヒスタミンの遊離および代謝に関する研究
細胞分化と細胞分化転換の研究、高等動物
における細胞分化の転換
生理活性物質の新合成法に関する研究
グリシンとその関連物質の代謝に関する研究
摂食調節の神経機序
細網内皮系統の細胞病理学的研究
高等動物におけるバイオリズムに関する研究
アミノ酸を用いる光学活性生物活性物質の
合成研究
免疫異常とその制御−結核菌及びその菌体
成分を用いた免疫機構の人為的制御−
名古屋大学農学部 教授
1980年
(第12回)
後藤 俊夫
国立がんセンター研究所 部長
tRNAに含まれる超修飾ヌクレオシドQの
化学的・生化学的研究
西村 暹
─ 13 ─
内藤記念科学振興賞 受賞者一覧
受賞年度
(回)
1981年
(第13回)
1982年
(第14回)
受 賞 者
研 究 テ ー マ
岡山大学 名誉教授
水原 舜爾
該当者なし
1983年
(第15回)
群馬大学医学部 教授
1984年
(第16回)
熊本大学医学部 教授
1985年
(第17回)
京都大学理学部 教授
高木 貞敬
林 秀男
大西 俊一
帝京大学薬学部 教授
1986年
(第18回)
野島 庄七
北海道大学理学部 教授
正宗 直
1987年
(第19回)
京都大学薬学部 教授
山科 郁男
名古屋大学理学部 教授
1988年
(第20回)
野依 良治
帝京大学医学部 教授
藤井 儔子
1989年
(第21回)
東京大学薬学部 教授
1990年
(第22回)
大阪大学医学部 教授
1991年
(第23回)
東京大学応用微生物研究所 教授
1992年
(第24回)
ハーバード大学 教授
大沢 利昭
濵岡 利之
水島 昭二
岸 義人
九州大学理学部 教授
1993年
(第25回)
新含硫アミノ酸の発見と代謝異常の研究
岩永 貞昭
大阪大学基礎工学部 教授
柳田 敏雄
嗅覚の神経生理学的研究
炎症における白血球遊出の分子病理学的機構
スピンラベル法の開発と生体膜の動的構造
及びウイルス細胞内侵入機構の解明
生体膜脂質の代謝および機能に関する研究
ダイズシスト線虫ふ化促進物質に関する研究
細胞膜糖タンパク質糖鎖の生化学的研究
有機金属化学を基盤とする生理活性物質の合成
妊娠中の母体環境要因により子孫に発現する
継世代的機能異常の基礎的研究
レクチンの生化学と細胞生物学的応用
免疫応答におけるヘルパーT細胞機構の解明と
細胞性免疫制御への応用
細菌の細胞表層の構造と機能に関する研究
複雑な天然有機化合物の全合成および構造に
関する研究
血液凝固の分子機構に関する研究
1分子解析法の開発と生物分子モーターの
動作原理に関する研究
─ 14 ─
内藤記念科学振興賞 受賞者一覧
受賞年度
(回)
受 賞 者
研 究 テ ー マ
1994年
(第26回)
東北大学農学部 教授
1995年
(第27回)
東京都臨床医学総合研究所 副所長
1996年
(第28回)
名古屋大学大学院理学研究科 教授
1997年
(第29回)
徳島大学医学部 教授
安元 健
矢原 一郎
山田 靜之
山本 尚三
東北大学医学部 教授
1998年
(第30回)
丹治 順
東京大学医科学研究所 教授
野本 明男
1999年
(第31回)
東京大学大学院総合文化研究科 教授
2000年
(第32回)
東京大学大学院理学系研究科 教授
2001年
(第33回)
東京大学大学院薬学系研究科 教授
2002年
(第34回)
名古屋大学大学院理学研究科 教授
2003年
(第35回)
東京都臨床医学総合研究所 副所長
2004年
(第36回)
神戸大学大学院医学系研究科 教授
2005年
(第37回)
東京大学医科学研究所 教授
2006年
(第38回)
早稲田大学理工学術院 教授 2007年
(第39回)
学習院大学理学部 教授、大阪大学 名誉教授
浅島 誠
若林 健之
柴﨑 正勝
郷 通子
田中 啓二
清野 進
竹縄 忠臣
木下 一彦
花岡 文雄
海洋毒の化学構造、作用及び動態に関する
研究
細胞骨格とストレス蛋白質の機能的研究
特異な生物活性を有する天然物質に関する
化学的研究
アラキドン酸カスケードの生化学的・分子
生物学的研究
大脳皮質高次運動野の機能に関する研究
ポリオウイルスの複製および病原性の分子
生物学的研究-小児マヒ制御への応用-
試験管内での臓器形成と遺伝子発現の制御の
基礎的研究
筋収縮の分子機構の三次元構造に基づく研究
革新的不斉触媒の創製を基盤とする医薬合成・
天然物合成・生物有機化学に関する研究
タンパク質のモジュール構造とゲノム構造の相関に
見るタンパク質デザインの原理に関する研究
プロテアソームの構造と機能及び病態生理に
関する包括的研究
インスリン分泌の分子機構とその破綻に
関する研究
イノシトールリン脂質による細胞骨格、
細胞運動制御
光学顕微鏡を用いた一分子生理学の創成
高発がん性遺伝病細胞を用いた遺伝性維持
機構の解明
─ 15 ─
内藤記念科学振興賞 受賞者一覧
受賞年度
(回)
受 賞 者
研 究 テ ー マ
慶應義塾大学理工学部 教授 2008年
(第40回)
上村 大輔
理化学研究所脳科学総合研究センター グループディレクター
御子柴克彦
2009年
(第41回)
東京大学大学院医学系研究科 教授
2010年
(第42回)
東京大学医科学研究所 教授
2011年
(第43回)
大阪大学大学院生命機能研究科 教授
谷口 維紹
河岡 義裕
濱田 博司
生物現象に着目した生物活性天然物の
探索研究
中枢神経系の発生と分化
-IP3受容体の発見とその機能の解明-
サイトカインを基軸とした自然免疫系調節
機構の研究
インフルエンザ制圧に関する研究
体の非対称性が生じる機構
─ 16 ─
第33回内藤コンファレンス
酸素生物学:酸素濃度に対する生物応答とその制御破綻による疾患
Oxygen Biology: Hypoxia, Oxidative Stress and Diseases
生物にとって酸素はエネルギー代謝に必須な分子であるが、活性酸素の発生は生体成分の酸化に
よる劣化反応を惹き起こす有害な分子でもある。生物は環境の酸素濃度の変化を巧妙に感知し、遺
伝子発現を変化させることにより応答して、環境に適応するメカニズムを進化させて、地球環境の
変化を生き延びてきた。低酸素環境に対して、センサーとカップルして働く転写因子はHIFと呼ばれ
る一群の因子であり、活性酸素のセンサーと共役して働く転写因子はNrf2である。近年、これらの
転写因子は暴露される低酸素、高酸素の状態に応答して、タンパク質レベルでの安定性を変化させ
ることによって、脱抑制制御機構を活用して、酸化・低酸素ストレスに即応して標的遺伝子の発現
を調節する精緻な分子メカニズムのもとに働くことが明らかになってきた。なお、これらの転写因子
は、環境応答転写因子群と総称される。各環境応答転写因子が制御する生体制御系は多岐に渡り、
この転写因子群の失調は多くの病態を惹起する。例えば、がんの転移、血管梗塞による病的状態な
どにおける血管新生や赤血球の増産に、これらの環境応答転写因子が主要な因子として働くことが
明らかにされている。さらに、その制御機能の異常ががんや生活習慣病などの病態と密接に関係し
ていることも解き明かされつつある。環境の酸素濃度の変化に対する生物のホメオスタシス維持の
分子メカニズムについて、これまでの研究成果をまとめ、議論を深めることは、今後の研究の発展
のみならず、創薬の観点からも大きな収穫をもたらすものと考える。
実際に、このような観点から、2004年にはノーベル財団が「第41回Nobel Conference on Oxygen
Biology」 国 際 シン ポ ジ ウムを ストックホ ル ムで 開 催し、またGordon ConferenceやKeystone
Meetingにおいても定期的に本領域の会合がもたれている。したがって、今回、第33回内藤コンファ
レンスを開催することは、本邦の酸素生物学研究者を大きく激励するものと考える。なお、本コンファ
レンスの重要課題の一つは、次世代を担う若手・中堅研究者の育成にある。本コンファレンスには、
参加者募集の段階から多くの応募があり、研究領域の成熟に向けての熱気が強く感じられた。運営
においては、選ばれた参加者のうち10名の方にショートトークを行って頂くこととし、また、ポスター
発表を重視して、十分な時間をかけてポスターを閲覧できるようにプログラムを組んだ。世界第一線
の研究者と本邦の若手研究者が本コンファレンスにおいて切磋琢磨することを楽しみにしている。
2012年5月
組織委員 山本 雅之 東北大学大学院医学系研究科 教授(組織委員長)
赤池 孝章 熊本大学大学院生命科学研究部 教授
一條 秀憲 東京大学大学院薬学系研究科 教授
井上 正宏 大阪府立成人病センター研究所 部長
深水 昭吉 筑波大学生命領域学際研究センター 教授
顧 問 藤井 義明 日本学術振興会ストックホルム研究連絡センター センター長(財団理事)
巻末のポスターをご覧下さい
─ 17 ─
第33回内藤コンファレンス プログラム
第1日 2012年6月26日(火)
開会挨拶
東北大学大学院 医学系研究科 山本 雅之
基 調 講 演
Epigenetic regulatory mechanism underlying the response to hypoxia
Karolinska Institute, Sweden Lorenz
Poellinger
第2日 2012年6月27日(水)
セッションA
酸化ストレスに対する細胞応答
座長:山本 雅之、T. W. Kensler
1 Keap1-Nrf2 ストレス応答系の機能の分子メカニズム
東北大学大学院 医学系研究科 山本 雅之
2 Genetic determinants of acute cardiopulmonary injury induced by exposure to hyperoxia in adult and neonatal inbred mice
National Institutes of Health, USA Steven R. Kleeberger
3 酸化ストレス応答のエピゲノム制御
東北大学大学院 医学系研究科 五十嵐和彦
4 アストロサイトにおける新しい Nrf2 活性化機構と神経細胞防御機構
弘前大学 医学研究科 伊東 健
5 Keap1-Nrf2 signaling: targets for disease prevention
University of Pittsburgh, USA Thomas W. Kensler
ショートトークセッション A
セッション B
低酸素ストレスに対する細胞応答
座長:井上 正宏、G. L. Semenza
1 Regulation of oxygen homeostasis by hypoxia-inducible factor 1
Johns Hopkins University, Gregg. L. Semenza
2 低酸素応答転写因子 HIF-2 alpha の造血における機能解明
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 大根田 修
3 低酸素誘導転写因子 HIF 活性を有する細胞のイメージングとターゲティング
東京工業大学大学院 生命理工学研究科 近藤 科江
4 Physiological aspects of the molecular response to hypoxia
5 初代培養がん細胞の低酸素応答
University of Cambridge, UK Randall Johnson
大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター 井上 正宏
ショートトークセッション B
ポスターセッション[Ⅰ]
─ 18 ─
第33回内藤コンファレンス プログラム
第3日 2012年6月28日(木)
セッションC
酸素と細胞内シグナリング 座長:一條 秀憲、Z. Ronai
1 The ubiquitin ligase Siah2 in hypoxia and tumorigenesis
Sanford-Burnham Medical Research Center, USA Ze'ev Ronai
2 A role of the p38 pathway in hypoxia induced cellular responses
Xiamen University, China Jiahuai Han
3 蛍光プローブの精密設計に基づく、生細胞・動物のリアルタイム機能イメージング
東京大学大学院 医学系研究科 浦野 泰照
4 VCP による細胞内 ROS レベルの新規制御機構
京都大学大学院 生命科学研究科 垣塚 彰
5 ストレスセンサーとしてのレドックスタンパク質
東京大学大学院 薬学系研究科 一條 秀憲
ショートトークセッション C
セッション D
酸素と代謝
座長:深水 昭吉、B. M. T. Burgering
1 酸素と転写代謝システム
筑波大学 生命領域学際研究センター 深水 昭吉
2 老化に伴う腎障害における SIRT1-autophagy 系の意義
金沢医科大学 糖尿病 ・ 内分泌内科 古家 大祐
3 Protein and metal homeostasis and disease
Buck Institute for Research on Aging, USA Gordon. J. Lithgow
4 The role of FOXO transcription in cellular redox maintenance
Utrecht University, The Netherlands Boudewijn M. T. Burgering
5 Keap1-Nrf2 制御系による酸化ストレス応答と代謝改変機構
東北大学大学院 医学系研究科 本橋ほづみ
ショートトークセッション D
ポスターセッション[Ⅱ]
第4日 2012年6月29日(金)
セッション E
酸化ストレスと病態
座長:赤池 孝章、B. A. Freeman
1 親電子シグナル分子:ニトロ環状ヌクレオチドによる Ras 依存的細胞老化とオートファジー制御
熊本大学大学院 生命科学研究部 赤池 孝章
2 Redox-derived anti-inflammatory mediators
University of Pittsburgh, USA Bruce A. Freeman
3 活性酸素生成酵素 Nox ファミリー NADPH オキシダーゼの調節機構
九州大学大学院 医学研究院 住本 英樹
4 Structural and functional interrogation of protein cysteine S-nitrosylation
University of Pennsylvania, USA Harry Ischiropoulos
5 自己免疫疾患における酸化特異的エピトープ
閉会挨拶
名古屋大学大学院 生命農学研究科 内田 浩二
熊本大学大学院 生命科学研究部 赤池 孝章
─ 19 ─
第34回内藤コンファレンス
感染・炎症・免疫
Infection, Immunity and their Control for Health: Mucosal Barrier, Pathogen and Vaccine
感染症と免疫の研究は近年益々大きなインパクトをもって展開されており、特に病原体感染戦略
と宿主防御戦略間での攻防システム理解、癌や自己免疫疾患等の重篤な疾患と炎症との関係、ミク
ロビオータと腸管免疫および疾患、感染、共生、免疫を起点としたワクチン開発、そして創薬・治療
等の制御に関する研究が飛躍的に進んでいる。今回これらの研究の進展状況を、基礎から臨床まで、
あるいは関連する開発研究について討論し、今後の研究動向を模索することは、感染・免疫・炎症・
制御の領域の研究の更なる発展と、新たな領域の再編成・創成に深く貢献すると考える。
感染において粘膜上皮は、皮膚とともにバリアーとして生体防御の最前線で重要な機能を担って
いる。腸管腔を覆う粘膜上皮は、栄養、水、電解質の吸収と同時に、外界に通ずる管腔と生体との
間でさまざまなクロストークのインターフェースとして働く器官でもある。粘膜上皮は、食物由来の
外来抗原とミクロビオータに曝され、また外来の病原微生物の感染の足場として利用されるために、
免疫系による生体防御機能が幾重にも備えられている。これに対して、病原微生物は高度に進化し
た感染システムを有し、粘膜上皮バリアーを巧みに回避・克服して感染局所に炎症や組織破壊を引
き起こす。またあるものは粘膜上皮を突破し細胞性・液性免疫を回避して全身に感染を広げ重篤な
疾患を引き起こす。一方、腸管内に共生するミクロビオータは、病原体に対するバリアーとなるが、
同時に腸管免疫系に作用して免疫器官の分化誘導や不必要な免疫過剰反応を抑制し生体恒常生維持
機構の一翼を担う。生体では免疫が、外来抗原や病原体成分に加えて、自己成分を抗原や異物とし
て認識し持続的に反応するとさまざまな自己免疫性疾患が引き起こされる。すなわち腸管において
は、粘膜免疫、ミクロビオータに加えて、病原菌の排除と自己免疫反応の適切な制御が行われ、そ
の結果として我々の生体維持機構が正常に保たれる。
本コンファレンスは以上を踏まえて、主題を「Infection, Immunity, and their Control for Health」
とし、副題を「Mucosal Barrier, Pathogen, and Vaccine」として、オープニングおよびそれに続く
5つセッションを設けた。オープニングの二つの講演では、免疫系の生体調節機構に関するトピッ
クスを取り上げる。また5つのセッションでは、1. Bacterial Infection、2. Viral Infection、3. Host
Defense、4. Barrier and Regulation、5. Vaccine、の討論を行う。また一部ポスター発表者のショー
トトークも行う。さらに今回は、ポスター発表者60名の枠内に6名の「アジア枠」を作り、卓越した
若手研究者を韓国、中国、インドから招く。これにより急速に発展するアジアの研究動向に触れ、ま
た若手研究者がアジアおよび海外招待講演者との親睦を深めることを期待している。
2012年5月
組織委員 笹川 千尋 日本生物科学研究所 常務理事(組織委員長)
石井 健 医薬基盤研究所創薬基盤研究部 プロジェクトリーダー
清野 宏 東京大学医科学研究所 所長
竹田 潔 大阪大学大学院医学系研究科 教授
松浦 善治 大阪大学微生物病研究所 教授
顧 問 竹田 美文 国立感染症研究所 名誉所員(財団評議員)
濵岡 利之 大阪大学 名誉教授(財団評議員)
巻末のポスターをご覧下さい
─ 20 ─
第34回内藤コンファレンス プログラム
第1日 2012年10月16日(火)
開会挨拶
日本生物科学研究所 笹川 千尋
オープニングセッション
1
2
Control of immune homeostasis by regulatory T cells
Howard Hughes Medical Institute, USA Alexander
Rudensky
制御性T細胞による免疫応答制御
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 坂口 志文
第2日 2012年10月17日(水)
セッションA
細菌感染
座長:笹川 千尋、S. J. Hultgren
1 赤痢菌による消化管粘膜バリアーの回避
日本生物科学研究所 笹川 千尋
2 Interactions of Salmonella and Listeria with the autophagy system of host cells
Hospital for Sick Children, Canada John H. Brumell
3 The molecular logic of UPEC pathogenesis and targeted therapies
Washington University in St. Louis, USA Scott J. Hultgren
4 ボルデテラ属細菌の III 型分泌装置を介した免疫回避機構
北里大学大学院 感染制御科学府 阿部 章夫
5 ビフィズス菌が産生する酢酸による腸管出血性大腸菌感染の予防:マルチオーミクス手法による解析
理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター 大野 博司
ショートトークセッション A
セッション B
ウイルス感染
座長:松浦 善治、T. S. Dermody
1 Invasion and infection of the brain by reovirus
Vanderbilt University, USA Terence S. Dermody
2 Complex interactions in the gut: enteric viruses, bacteria, mucosa, and immunity
UT Southwestern Medical Center, USA Julie K. Pfeiffer
3 パンデミックインフルエンザ
東京大学 医科学研究所 河岡 義裕
4 C 型肝炎ウイルスの増殖と病原性発現に関与する宿主因子
5 パラミクソウイルスの細胞侵入と膜融合
大阪大学 微生物病研究所 松浦 善治
九州大学大学院 医学研究院 柳 雄介
ショートトークセッション B
ポスターセッション[Ⅰ]
─ 21 ─
第34回内藤コンファレンス プログラム
第3日 2012年10月18日(木)
セッションC
感染免疫
座長:竹田 潔、A. Zychlinsky
1 NETs-from infection to autoimmunity
Max Planck Institute for Infection Biology, Germany Arturo Zychlinsky
2 感染防御における IL-17A、IL-17F の役割
3 自然免疫と炎症
東京大学 医科学研究所 岩倉 洋一郎
大阪大学 WPI 免疫学フロンティア研究センター 審良 静男
4 Dendritic cells and host defence
Cancer Research UK, UK Caetano Reis e Sousa
5 自然免疫系による腸管炎症の制御機構
大阪大学大学院 医学系研究科 竹田 潔
ショートトークセッション C
セッション D
免疫制御
座長:清野 宏、A. Radbruch
1 記憶 CD4 T 細胞の形成と機能維持機構
千葉大学大学院 医学研究院 中山 俊憲
2 Molecular adaptations of proinflammatory Th memory/effector cells to chronic inflammation
Deutsches Rheuma-Forschungszentrum Berlin, Germany Andreas Radbruch
3 サイトカインシグナルの制御と免疫疾患
慶應義塾大学 医学部 吉村 昭彦
4 Learning to tolerate our microbial self
California Institute of Technology, USA Sarkis K. Mazmanian
5 腸内における IgA の産生および選択についての新知見
理化学研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター シドニア ファガラサン
ショートトークセッション D
ポスターセッション[Ⅱ]
第4日 2012年10月19日(金)
セッション E
ワクチン
座長:石井 健、R. Rappuoli
1 核酸代謝と免疫
医薬基盤研究所 創薬基盤研究部/大阪大学 石井 健
2 Vaccines and immunity against infections
Novartis Vaccines and Diagnostics, Italy Rino Rappuoli
3 蠕虫感染で誘導される肺好酸球症は蠕虫成分が自然アジュバントとしてはたらくからである
兵庫医科大学 中西 憲司
4 Prospects for universal influenza and AIDS vaccines
National Institutes of Health, USA Gary J. Nabel
5 粘膜ワクチン開発への新展開
東京大学 医科学研究所 清野 宏
ショートトークセッション E
閉会挨拶
東京大学 医科学研究所 清野 宏
─ 22 ─
内藤コンファレンスの歩み
回数/開催期
第
1
参加者数
細胞における蛋白質移行
講演者
1991年10月
Protein Translocation in the Cell
ポスター発表者 51名
第
2
回
テ ー マ
細胞における蛋白質移行[Ⅱ]
講演者
1992年10月
Protein Translocation in the Cell[Ⅱ]
ポスター発表者 50名
第
細胞における蛋白質移行[Ⅲ]
講演者
1993年11月
Protein Translocation in the Cell[Ⅲ]
ポスター発表者 61名
第
神経・免疫・内分泌ネットワーク
講演者
1994年11月
Neuro-Immuno-Endocrine Networks
ポスター発表者 60名
第
神経・免疫・内分泌ネットワーク[Ⅱ]
講演者
Neuro-Immuno-Endocrine Networks[Ⅱ]
ポスター発表者 53名
3
4
5
回
20名
回
回
回
1995年10月
第
6
回
1995年11月
第
7
回
形態形成プログラム:多細胞生物のパターン形成
Morphogenesis Program: Patterning of Multicellular
Organisms
講演者
21名
22名
27名
25名
27名
ポスター発表者 57名
糖脂質・スフィンゴ脂質の構造と機能
1996年 9 月
講演者
54名
The Gordon-Naito Conference on Structure and Biological
ポスター発表者 60名
Function of Glycolipids and Sphingolipids
第
神経・免疫・内分泌ネットワーク[Ⅲ]
講演者
1996年10月
8
Neuro-Immuno-Endocrine Networks[Ⅲ]
ポスター発表者 60名
第
海洋生物活性物質:構造と活性の多様性
講演者
9
回
回
1997年10月
25名
25名
Chemical and Biological Basis for the Diversity of Marine Life ポスター発表者 58名
第1回開催の1991年以前にも、多様な国内学術会議や国際学術会議を開催いたしておりました。
─ 23 ─
内藤コンファレンスの歩み
回数/開催期
テ ー マ
参加者数
第 10 回
難病の分子生物学
講演者
1998年10月
Molecular Biological Approaches for Intractable Diseases
ポスター発表者 60名
第 11 回
構造ゲノム科学:創薬への新しい道
講演者
25名
21名
1999年10月
Structural Genomics
-Passage to Drug Development-
第 12 回
植物生活環制御の分子機構
講演者
1999年10月
Regulation of Plant Life Cycle at Molecular Level
ポスター発表者 74名
第 13 回
難病の分子生物学[Ⅱ]
ポスター発表者 57名
講演者
26名
25名
2000年11月
Molecular Biological Approaches for Intractable
Diseases[Ⅱ]
第 14 回
昆虫生物活性物質とその活性発現の分子機構
講演者
2001年10月
Insect Bioactive Molecules and their Modes of Action
ポスター発表者 59名
第 15 回
難病の分子生物学[Ⅲ]
ポスター発表者 48名
講演者
25名
24名
2002年10月
Molecular Biological Approaches for Intractable
Diseases[Ⅲ]
第 16 回
自然免疫の医学・生物学[Ⅰ]
講演者
2003年10月
Innate Immunity in Medicine and Biology[Ⅰ]
ポスター発表者 59名
第 17 回
幹細胞の維持と分化の分子基盤[Ⅰ]
ポスター発表者 48名
講演者
25名
26名
2004年11月
Molecular Basis of Maintenance and Differentiation of
Stem Cells[Ⅰ]
第 18 回
自然免疫の医学・生物学[Ⅱ]
講演者
2005年10月
Innate Immunity in Medicine and Biology[Ⅱ]
ポスター発表者 38名
─ 24 ─
ポスター発表者 64名
26名
内藤コンファレンスの歩み
回数/開催期
第 19 回
テ ー マ
幹細胞の維持と分化の分子基盤[Ⅱ]
参加者数
講演者
24名
2006年11月
Molecular Basis for Maintenance and Differentiation of
Stem Cells[Ⅱ]
第 20 回
自然免疫の医学・生物学[Ⅲ]
講演者
2007年10月
Innate Immunity in Medicine and Biology[Ⅲ]
ポスター発表者 60名
第 21 回
細胞核ダイナミクスとRNA[Ⅰ]
講演者
2008年 6 月
Nuclear Dynamics and RNA[Ⅰ]
ポスター発表者 64名
第 22 回
2008年9月
第 23 回
ケミカルバイオロジー[Ⅰ]−天然物化学からの展開−
Chemical Biology[Ⅰ]
-An Emerging Field Inspired by Natural Product Chemistry幹細胞の維持と分化の分子基盤[Ⅲ]
ポスター発表者 62名
講演者
25名
25名
25名
ポスター発表者 61名
講演者
24名
2008年11月
Molecular Basis for Maintenance and Differentiation
of Stem Cells[Ⅲ]
第 24 回
細胞核ダイナミクスとRNA[Ⅱ]
講演者
2009年 6 月
Nuclear Dynamics and RNA[Ⅱ]
ポスター発表者 60名
第 25 回
ケミカルバイオロジー[Ⅱ]−天然物化学からの展開−
2009年 9 月
Chemical Biology[Ⅱ]
-An Emerging Field Inspired by Natural Product Chemistry-
ポスター発表者 63名
講演者
26名
24名
ポスター発表者 59名
25名
第 26 回
オステオバイオロジー
講演者
2009年11月
Osteo Biology
ポスター発表者 49名
第 27 回
生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅰ]
講演者
2010年 6 月
Membrane Dynamics and Lipid Biology[Ⅰ]
ポスター発表者 60名
─ 25 ─
26名
内藤コンファレンスの歩み
回数/開催期
第 28 回
2010年 7 月
第 29 回
2010年10月
第 30 回
2011年 6 月
第 31 回
テ ー マ
糖鎖の発現と制御[Ⅰ]−機能から病態まで−
Glycan Expression and Regulation[Ⅰ]:
Functions and Disease Mechanisms
グリアワールドから見た脳
Glia World
-Dynamic Function of Glial Cells in the Brain生体膜ダイナミクスと脂質生物学[Ⅱ]
脂質ドメイン、脂肪滴、疾患
Membrane Dynamics and Lipid Biology[Ⅱ]:
Domains, Droplets and Diseases
糖鎖の発現と制御[Ⅱ]
−代謝物、ストレス応答、マイクロドメインと展望−
参加者数
講演者
27名
ポスター発表者 60名
講演者
27名
ポスター発表者 60名
講演者
26名
ポスター発表者 60名
講演者
25名
2011年 9 月
Glycan Expression and Regulation[Ⅱ]: Metabolites, ポスター発表者 60名
Stress Response, Microdomains, and Beyond
第 32 回
こころの機能と疾患の分子機構
講演者
2011年10月
Biological Basis of Mental Functions and Disorders
ポスター発表者 58名
第 33 回
酸素生物学:酸素濃度に対する生物応答と
その制御破綻による疾患
講演者
2012年 6 月
Oxygen Biology : Hypoxia, Oxidative Stress and
Diseases
─ 26 ─
25名
26名
ポスター発表者 58名
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて 目次
病原細菌の感染について … ……… 芦田 浩 28
死細胞のリサイクル機構解明を目指して …… 田中 正人 44
ラボの独立 … ……………………… 有海 康雄 28
研究室の転機に … ………………… 棚谷 綾 45
酵素というツールに秘めた可能性 …… 有馬 二朗 29
勇気(有機)を持ってチャレンジする …… 田宮 実 45
体内時計を整えて病気を予防する …… 安藤 仁 29
生命の礎のタンパク質構造に挑戦 …… 茶谷 絵理 46
呼吸活動確立の解明を目指して …… 池田 啓子 30
腸管免疫研究一筋に … …………… 手塚 裕之 46
自然に学ぶ天然物合成 … ………… 石川 勇人 30
がん抑制遺伝子p53について ……… 時野 隆至 47
アフリカツメガエルと共に歩む … … 伊藤 弓弦 31
わたしの夢 … ……………………… 仲 一仁 47
パーキンソン病を治すハエ … …… 今居 譲 31
おくれてきたもの … ……………… 西尾 美希 48
より良い生活習慣病対策を目指して …… 今村美菜子 32
ものつくりの技術力を研究に … … 沼野 利佳 48
温故知新 … ………………………… 臼杵 豊展 32
マクロファージの貪食から放出へ … 華山 力成 49
アメリカからの研究室の引っ越し …… 大澤 匡毅 33
大脳基底核神経回路の制御機構 …… 疋田 貴俊 49
造血幹細胞と健康維持 … ………… 大坪 素秋 33
何故マニアックな内耳なのか? … … 日比野 浩 50
異動から申請、現在に至るまで …… 岡田 正弘 34
脂質メディエーターと代謝疾患 …… 藤森 功 50
奈良女子大学で心機一転 … ……… 小倉 裕範 34
血液がんの新しい治療法の開発 …… 古川 雄祐 51
紫外線と健康 … …………………… 加藤 昌志 35
新光技術が20世紀の夢を叶える …… 別所 義隆 51
ヘルペスウイルスって? … ……… 川口 寧 35
細胞機能をレーザーで制御する …… 細川 千絵 52
構造生物学と細胞生物学のあいだ …… 川㟢 政人 36
タンパク質の形の不具合 … ……… 細川 暢子 52
ATP・アデノシン受容体の研究 …… 川村 将仁 36
百日咳研究に活路が開かれて … … 堀口 安彦 53
ジアゾキノンとの出会い … ……… 北村 充 37
線虫から環境応答のしくみを探る …… 久原 篤 37
ヒトゲノムDNAの柔軟で
… ………… 前島 一博 53
ダイナミックな収納 階層的な知能システム … ………… 小西 慶幸 38
麻疹ウイルスワクチンの有効性 …… 前仲 勝実 54
炎症性がん進展機構解明に向けて …… 阪口 政清 38
力量ある触媒の開発に向けて … … 松永 茂樹 54
AM-RAMPシステムによる血管統合機構の
…… 桜井 敬之 39
解明と慢性臓器障害治療への展開 超分子複合体蛋白質を知る … …… 水島 恒裕 55
小分子RNAの可能性 ……………… 三好 智博 55
研究テーマとの巡り合い … ……… 櫻井 宏明 39
臆病者の研究 … …………………… 村木 靖 56
昆虫の季節適応の仕組みを探る! …… 塩見 邦博 40
動脈硬化から組織を守る … ……… 村田 幸久 56
隠れている乳がん細胞を探して …… 下野 洋平 40
多様性が広がるイオンチャネル研究 …… 森 泰生 57
「病は気から」の仕組みを探る …… 鈴木 一博 41
リアノジン受容体とともに20年 … … 矢野 雅文 57
化学を以て自然に挑む … ………… 鈴木 孝洋 41
置換芳香族化合物の新合成法 … … 吉田 和弘 58
質量顕微鏡の繊毛研究への応用 …… 瀬藤 光利 42
ケミカルバイオロジーの贈り物 …… 吉田 優 58
感染制御を導く微生物認識機構 …… 髙岡 晃教 42
感染パターン認識と自然免疫 … … 米山 光俊 59
2011年度研究助成を頂いて … …… 髙田 健介 43
研究費を頂き師を思う … ………… 渡辺 賢二 59
基礎+基礎+発想転換⇒応用 … … 高野 和文 43
化学の目で、ヒトテロメアの謎を解く …… 徐 岩 60
らせん構造に魅せられて … ……… 田中 正一 44
─ 27 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
病原細菌の感染について
ラボの独立
東京大学医科学研究所
特任助教
熊本大学エイズ学研究センター
准教授
芦田 浩
有海 康雄
この度は、内藤記念科学奨励金に採択して頂き、
昨年は、私にとって母校の熊本大学エイズ学
誠に有り難うございました。私達の研究室では赤
研究センターに初めてラボを独立させることが
痢菌の感染分子機構と宿主応答機構を解析してい
出来た記念すべき年でありました。この記念す
ます。
べき年に内藤記念科学振興財団のご支援を受け
私は大学院博士課程より現在の研究室で研究を
ました。お陰さまで研究室のセットアップを順
開始しました。以来、赤痢菌を始めとする病原細
調に進めることが出来ました。現在の研究室の
菌が有する高度な感染戦略に驚きの日々を送ってい
スタッフは大学院博士課程学生1名と技術補佐
ます。まず、赤痢菌は絶対的な武器である針状の
員の総勢3名(写真)とアットホームな研究環
Ⅲ型分泌装置を菌体表面に有しています。菌は感
境で日々研究に励んでおります。研究対象はヒ
染の各過程でこの分泌装置より様々な機能性分泌
ト免疫不全ウイルス(HIV-1)とC型肝炎ウイ
蛋白質(エフェクター)を宿主細胞に注入し、細
ルス(HCV)です。共にヒトに持続感染する
胞機能を菌にとって有利に変換することで感染を円
RNAウイルスですが、ヒトとチンパンジーし
滑に進めます。例えば、赤痢菌は増殖の場を求め
か感染しないため、有効なワクチンは開発され
細胞内に侵入しますが、この際エフェクターの働き
ていません。私はこの2つのRNAウイルスの増
で自らを細胞内へと取り込ませるように宿主機能を
殖メカニズムの解明を目指し、主に宿主因子と
騙します。その後、宿主は細胞内の赤痢菌を認
の関係から研究を進めております。特にHIV-1
識し、排除しようと様々な攻撃を加えますが、菌は
のインテグレーション機構はHIV-1の生活環に
エフェクターの働きによりこの攻撃をかわします。あ
は必要なステップですが、まだそのメカニズム
るときはエフェクターを隠れ蓑にして攻撃の目を背
については良く分かっておりません。そのため、
け、またあるときは細胞機能を停止させることで攻
インテグレーションを分子標的とした抗ウイル
撃の手を緩めさせ、その隙に感染を拡大させます。
ス剤の開発も遅れております。そこで、現在、
菌は宿主による攻撃を先読みし、それを上回る機
精力的にHIV-1インテグレーションに関与する
能を獲得しているのです。
宿主因子の探索を行っております。また、ヒト
赤痢菌の感染機構はまだ一部しか解明されてお
ゲノム内を動くレトロトランスポゾンのレトロ
らず、今後自分自身が挑戦し、新たな感染現象を
トランスポジションと比較しながらこれらレト
見いだせたらと日々精進しています。最後になりまし
ロエレメントの宿主ゲノム内の動態制御機構を
たが、貴財団の益々のご発展を祈念しております。
明らかにしたいと考えております。
後列右から2番目が筆者
写真中央が筆者
─ 28 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
酵素というツールに秘めた可能性
体内時計を整えて病気を予防する
鳥取大学農学部生物資源環境学科
准教授
自治医科大学医学部薬理学講座
准教授
「酵素でうま味成分を測ろう!」当時大学4年
わが国の3大死因であるがん、心疾患、脳卒中、
生で研究室に入りたての筆者に指導教員から声
そしてそれらの要因でもある糖尿病、高血圧、
をかけて頂いてから15年、酵素を中心に研究を
脂質異常症は、いずれも不適切な生活習慣によ
続けてきました。「酵素」はそれだけを見ると
り発症リスクが増加することから、生活習慣病
狭い研究対象であるように思われます。しかし
と総称されています。生活習慣としてまず思い
合成・分析化学では特異性の高い触媒ツール、
浮かぶのは、食事、運動、喫煙でしょうが、実
天然物化学では生合成ツール、そして生物・生
は不規則な生活も生活習慣病の大きなリスクで
理学では生命維持メカニズムを担う物質として
あることが判明しています。例えば、交代勤務
捉えられ、「酵素」は狭いながらも化学から生
者ではある種のがんや肥満になるリスクが高い
物学まで幅広い分野と関係を結ぶ研究対象でも
ことが知られています。最近は、この分子的機
あります。一方で酵素とは不思議なもので、生
序として、体内時計、特に末梢臓器の体内時計
体内では当たり前のように本来の機能を発揮し
の乱れが示唆されています。体内時計は、中枢
ますが、ひとの手によって生体外で反応させた
神経(脳)のみならず、ほぼすべての臓器の細
とき、条件によって本来の機能から外れた特異
胞内に備わっており、中枢の時計は朝の陽の光
な触媒能を発揮することがあります。ここまで
を感知して時刻を調節し、睡眠・覚醒リズムを
酵素に慣れ親しんだ筆者ですら、新たな触媒能
司る一方、肝臓など末梢臓器の時計は主に食事
や反応生成物に何度となく驚かされました。こ
により時刻がセットされ、代謝の調節などを行
の現象は今回助成頂いている研究テーマ「未
います。これまでにわれわれは、糖尿病の患者
知物質の酵素合成と生理機能」 にも繋がって
さんでは実際に末梢の体内時計が乱れがちであ
おり、 酵素の新たな触媒能が生理学と結びつ
ることを明らかにしました。現代は24時間社会
けば、更に多くの生理活性物質が見出されるか
であり、社会的に不規則な生活を送らざるを得
もしれません。冒頭から引き続き、
気が付けば、
ない人々は多く、したがって不規則な生活の是
筆者は現在も酵素の触媒ツールとしての利用に
正は食生活や運動不足の是正よりもむしろ困難
大きなロマンを抱いており、触媒能や反応生成
です。そこでわれわれは、不規則な生活を送り
物の社会・産業への貢献に夢を馳せています。
ながらでも末梢の体内時計を整えることのでき
このような研究を遂行するに当たり、大きくサ
る新たな生活習慣病の予防法(食事療法・薬物
ポートして頂いた内藤記念科学振興財団に深く
療法)の開発を目指して研究を行っています。
有馬 二朗
感謝申し上げます。
前列左が筆者
左端が筆者
─ 29 ─
安藤 仁
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
呼吸活動確立の解明を目指して
自然に学ぶ天然物合成
兵庫医科大学医学部生物学
主任教授
熊本大学大学院自然科学研究科
准教授
池田 啓子
石川 勇人
このたび、内藤記念科学振興財団から科学奨
「人類の英知は自然を越える事が出来るの
励金・研究助成をいただき、関係各位に心より
か?」この質問に答える時、私の場合、「現時
感謝申し上げます。私は昨年まで、自治医科
点で人類は自然に遠く及ばない」と答えます。
大学・分子病態治療研究センターに所属してお
人類は長い進化の過程で創製された複雑で多
りましたが、昨年4月に兵庫医科大学に赴任し、
様な機能を持つ天然物が、何のために、どの
新しく研究室を主催させていただくことになり
ように作られるのかを明快に答える事ができ
ました。今回助成いただくことになったテー
ません。(天然物とは動物や植物、細菌などの
マ、
「出生前後における呼吸中枢神経系ネット
自然界の生物が産出する有機化合物のことで
ワーク構築機構の解明」は、長年挑戦したかっ
ある。)学生時代、私は薬学部の天然物化学研
たが予算の確保ができなかった課題でありま
究室に所属し、自然界の産出する数多くの天然
す。呼吸活動は、通常無意識に行われます。こ
物に出会いました。大学院を卒業後、そのよう
れを司っているのは脳幹の呼吸中枢にある神経
な多種多様な天然物を人工的に合成する天然物
群であり、ここで発生する神経活動が、横隔神
合成化学の分野に進み、海外留学、助教の間、
経を伝わり、横隔膜(筋肉)を収縮させます。
人類の最先端の英知を駆使して難しい天然物を
ここ10年間で、共同研究者の鬼丸洋博士(昭和
効率的に合成する事に心血を注いできました。
大学・生理学講座)と私は、2種類の神経群の
一方で、次々に天然より単離される美しい天然
存在、それらの解剖学的位置および特性を明ら
物の構造に感銘を受け、圧倒される日々でもあ
かにしてきました。同時に、呼吸活動に異常が
りました。熊本大学に赴任してからは「自然を
ある遺伝子改変マウスの解析から、自立的呼吸
越える」という意識を改め、より一層「自然に
活動の確立に自然分娩が深く関わっているとい
学ぶ」という姿勢を持つ事にしました。そこで、
う知見を得ていました。今回の助成にて、これ
自然界では天然物がどのように作られているの
らの点の解明に邁進することができるようにな
かを改めて勉強し、また、新たに発想し、それ
りました。一方、中枢神経系は外界のガス濃度
をフラスコ内で再現するという合成手法を取り
を常にモニターしているのですが、化学受容器
入れました。幸いにもいくつかの結果を得る事
の分子的実体については生理学の長い歴史の中
ができ、いずれの合成もこれまでの人工的手法
でも未解決の問題として残されているのです。
に比べて無駄がなく、また、極めて効率的な合
今回の研究の中でこの点も同時に明らかにでき
成法となっています。自然から多くの事を学び
れば、と考えています。
ながら研究を進めて行く所存です。
2列目中央が筆者
─ 30 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
アフリカツメガエルと共に歩む
パーキンソン病を治すハエ
産業技術総合研究所幹細胞工学研究センター
研究チーム長
順天堂大学医学研究科
先任准教授
伊藤 弓弦
今居 譲
先ず始めに、この様な素晴らしい研究ご助成
「ショウジョウバエもパーキンソン病になるので
を頂けますこと、深く御礼申し上げます。ご期
すか?」
待外れとならないよう、採択頂いたテーマであ
自分の研究を紹介するときに大抵聞かれる質
る「心臓形成遺伝子の網羅的スクリーニング及
問である。遺伝性パーキンソン病の発症メカニズ
び人工心筋評価アレイの開発」を推進したく存
ムを解明するためにショウジョウバエを利用するよ
じます。
うになって約8年になる。実は最初にショウジョウ
私は学生時代より一貫して、アフリカツメガ
バエで遺伝性パーキンソン病の研究を始めるため
エル胚を用いて臓器形成研究を行ってきました。
に米国に留学した際にも、本財団の海外研究留
研究室を移動する際には、リュックにカエルを
学助成金の援助を頂いた。このようなユニークな
入れ、飛行機移動したほど愛してやまないカエ
研究を評価して頂き勇気づけられたことを覚えて
ル達なわけですが、なぜかと言いますと手放す
いる。その後、ショウジョウバエの活躍なくして
には惜しい特性を備えた、且つヒトに近い実験
はできない多くの発見があった。
動物だからです。先ずは1回あたりの産卵数が
ショウジョウバエはパーキンソン病原因遺伝子
1000個以上と大量、そして体外受精のため観察
の相同遺伝子をもっているし、パーキンソン病で
が簡単です。卵は大きいので、手術や遺伝子導
機能しなくなる神経も持っている。この遺伝子に
入も容易です。さらにオタマジャクシは皮膚呼
人で見つかった遺伝子変異を導入して、神経の働
吸の比率が高いため、心臓が無くてもしばらく
きにどのような影響があるかを調べるのである。
生存可能で、
「未知遺伝子を人工的に欠失→心臓
複数見つかったパーキンソン病遺伝子のどれとど
消失オタマジャクシ完成→その遺伝子は心臓形
れに関係があるかも調べられるし、どの遺伝子
成に必須」
、と言う検証が可能です。マウスの場
の働きを強めたり弱めたりすれば病気を予防でき
合、未知遺伝子を人工的に欠失→死滅→どの臓
る、といった予測もできる。また、薬が効くかど
器が原因なのかすぐには分かりません。それら
うかといった実験も可能である。
特性を駆使して、心臓を作るために必要な遺伝
今回8年後の研究の進展を評価していただき、
子をすべて明らかにし、心臓作りのレシピを完
新たに科学奨励金を頂くことができた。大震災の
成するという研究テーマを推進します。最終的
被害もあったため大変有り難かった。さて、冒頭
には、
「人工心筋を用いた再生医療体制の確立」
の質問ですが「はい。しかも、パーキンソン病を
と言う形で、貴財団を通じ社会貢献したいと考
治すことにも役立っています。
」と答えられるよう
えております。何卒宜しくお願いいたします。
今後も引き続きこの研究を推進していきたい。
前列中央が筆者
─ 31 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
より良い生活習慣病対策を目指して
温故知新
理化学研究所ゲノム医科学研究センター
研究員
上智大学理工学部物質生命理工学科
助教
今村 美菜子
このたびは2011年度内藤記念科学奨励金・研究
助成にご採択頂き、誠にありがとうございます。貴重
な経済的ご支援をいただいたことに深く感謝しており
ます。また、採択していただいたということで自身の
研究への意欲や責任感がいっそう増したように感じ
ております。
学生時代は将来自分が研究者になることは全く想
定しておらず、自身のキャリアは臨床からのスタートで
した。気がつくと今は研究一色という生活を送って
おり、自分でも驚いています。臨床の現場において、
現在の医療技術・知識では解決できない問題に直
面したことが私の研究へのモチベーションとなってい
ます。この20年ほどの間に糖尿病の薬物療法は大
きく進歩しました。しかし、我が国における糖尿病患
者数は増え続ける一方です。現代のライフスタイル
に則した効率的な生活習慣病予防戦略を作ること
が急務であると考えています。
私の所属する理化学研究所ゲノム医科学研究セ
ンターでは、疾患関連遺伝子の一塩基多型(SNP)
を体系的に解析し、疾患関連遺伝子を探索するとと
もに、SNPと疾患及び薬剤感受性との関連を明らか
にするプロジェクト研究を行っています。少し噛み砕
いた説明をしますと、個人の体質の違いを遺伝子レ
ベルで解明し、それをもとに個人に適した疾病予防、
治療法の確立を目指しています。近年の集団遺伝
学の手法の進歩によりここ数年の間に我々を含めた
国内外の研究チームより2型糖尿病にかかわる遺伝
子領域が60個近く報告されてきました。さらに多くの
遺伝子領域の同定とそれらの遺伝子が疾患の発症
に関わるメカニズムの解明が今後の臨床応用に向け
ての課題のひとつとなっています。これらの研究成果
が近い将来人々の健康に役立つ時がくると信じて努
力を続けたいと思っております。
臼杵 豊展
この度は、栄えある内藤記念科学振興財団の科
学奨励金を頂戴したことに深謝いたします。採択し
て頂いた研究テーマ「COPD(慢性閉塞性肺疾患)
バイオマーカー診断法の確立を目指したエラスチン架
橋分子の創製」にまつわるエピソードと内容を、簡
単にご紹介させて頂きます。
そもそも本研究は、私が博士研究員として米国
コロンビア大学の中西香爾研究室に在籍してい
た頃に、Lin先生と知り合ったのがきっかけです。
Lin先生は中西先生の東京教育大学の時からの門
下生で、あの赤潮毒brevetoxin Bの構造決定の論
文(Lin, Y. Y., Nakanishi K. et al. J. Am. Chem.
Soc . 1981, 103 , 6773)の第一著者です。私は学生
時代、東北大学の平間正博研究室でシガトキシンの
構造活性相関に携わっていたため、ポリエーテル系
海洋天然物の先駆的発見であった当該論文は常に
引用していました。実際にお会いすると、とても気さく
な先生で当時の構造決定について興味深いお話を
伺うことができました。
現在はコロンビア大学医学部の研究所にお勤
めのLin先生から共同研究を持ちかけられたのが、
COPDのテーマです。COPDは別名タバコ病とも言
われ、世界第4位の死亡原因という重篤な疾患であ
り、その早期診断を目指したバイオマーカーの開発
が切望されています。現所属で独立研究室を立ち
上げた時から、本研究を開始しています。多くの学
生さん達と一緒に、あのbrevetoxinの時のようなブ
レークスルーを夢見て、鋭意研究を遂行中です。
後列左から2人目が筆者
後列左から3人目が筆者
─ 32 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
アメリカからの研究室の引っ越し
造血幹細胞と健康維持
岐阜大学大学院医学系研究科
教授
別府大学大学院食物栄養科学研究科
教授
大澤 匡毅
大坪 素秋
第43回内藤記念科学奨励金に採択していただ
「造血幹細胞の細胞周期制御」の研究テーマ
きありがとうございました。このような支援をい
で2011年度内藤記念科学奨励金・研究助成を頂
ただけたことは、何よりも心の励みになりました。
きました。別府大学に赴任して新しく研究室を立
同時に、助成金受領者の名に恥じぬよう、今後
ち上げた直後で、助成金が大きな励みと研究を
も一層研究活動に精進すべく、身が引き締まる思
進める助けになったことを財団関係者の皆様に感
いです。
謝申し上げます。
2011年は、大震災に見舞われ、我が国にとっ
助成金の対象となった研究は広島大学で開始し
ては激動の一年でした。これに比べれば些細な
て、現在も瀧原義宏教授(原爆放射線医科学研
ことですが、私にとっても、2011年は転機となる
究所)と共同で研究を行っています。具体的には
年でした。私は、この年に岐阜大学に教授の職
マウスの遺伝子を改変して造血幹細胞に対する影
を得ることができたのですが、それ以前は、アメ
響を調べることで、造血幹細胞を活性化して増幅
リカで、
自分の研究室を構えておりました。そこで、
させる方法の開発を目指しています。造血幹細胞
着任に伴い、アメリカの研究室を閉め、岐阜大学
とは骨髄中のごく少数の細胞で、白血病などの病
に新たに研究室を立ち上げました。前任者とは研
気の治療のための骨髄移植に用いられています。
究分野が全く異なるため着任した研究室には、私
近年、赤ちゃんの臍の緒の臍帯血中の造血幹細
の研究に必要な機器が全くありませんでした。ま
胞も同様に病気の治療に利用されるようになりま
ずは、沢山の不要な物を捨てる作業からはじめ、
した。最近の研究から、骨髄中の造血幹細胞は
必要な機器をだけを買い揃えていきました。雪の
増殖を停止した休眠状態にあり、ほとんど分裂し
中、自転車を漕ぎ、近くのホームセンターまで一人
ないことがわかってきました。こうした特性が一
で細かな備品を買いに行ったこともありました。
生涯に渡って様々な血液細胞を作り続ける造血幹
当初は、私と秘書の2人だけで、途方に暮れるこ
細胞にとって必要であるようです。
「造血幹細胞の
ともありましたが、徐々に、一緒に研究をしても
細胞周期制御」の研究によって、まだよく理解さ
らえる人が集まり、研究室が動き出しました。ア
れていない造血幹細胞のこうした特性について明
メリカでは、予算の都合上、苦楽を共にしてきた
らかにできると期待されます。健康な造血幹細胞
スタッフを解雇する必要がありました。今思い返
を維持することは長寿と健康の増進にも重要であ
してみれば、沢山の人々の支えと、自分の研究が
るので、本研究によって病気の治療だけでなく、
できるという希望が無ければ、この一年を乗り切
高齢化社会の健康の維持にも寄与できることを
れなかったように感じます。
祈っています。
中央が筆者
右から2人目が筆者
─ 33 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
異動から申請、現在に至るまで
奈良女子大学で心機一転
中部大学応用生物学部環境生物科学科
講師
奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科
教授
東日本大震災から1年余りが過ぎました。当
平成23年4月に奈良女子大学生活環境学部食
時、筆者は中部大学に異動する直前に東北大学
物栄養学科において研究室を開設しました。今回
にて震災に遭いました。ラボは甚大な被害を受
このようなタイミングで内藤記念科学奨励金・研究
け、自宅マンションもガスの復旧の見込みが立
助成をいただけたことにとても感謝しております。
たない状態で、トランク1つ持ち、その他の荷
奈良女子大学は日本で2 つしかない国立女子大
物は残して仙台から山形経由で名古屋に移動し
学のひとつであります。当然、学部学生も大学院
ました。まだ精神的なショックを引きずったま
生も女性だけです。そんな奈良女子大学の校風は、
ま、着任後に初めて申請した研究費が内藤記念
学生たちの言葉によれば、「まったり」なのだそう
科学奨励金・研究助成でした。採択して頂いた
です。おおらかさ、穏やかさ、奥ゆかしさを意味す
ときは希望の光が見えたような気がして大変う
るものだと理解しています。
れしかったことを覚えています。現在は、研究
私はここ13年来自然免疫の研究にたずさわってき
岡田 正弘
小倉 裕範
備品なども購入し、中部大学での研究を始める
ました。とても競争の激しい分野であり、「まったり」
ことが出来ました。これからは研究成果で恩返
とは正反対の世界でした。
しが出来ればと、講義等の合間を縫って日々実
最近、そんな競争から少し距離を置き、自身の
験に励んでいるところです。研究内容は、トリ
研究について一歩引いて眺めています。そして気
プトファンのイソプレニル化という翻訳後修飾
がついたのは、栄養にしても薬にしても毒物にして
を受けたペプチドの探索です。
この修飾様式は、
も、身体にとっては外からやってくる異物であり、そ
枯草菌のペプチドフェロモンにおいて、筆者が
れらを仕分ける仕組みが代謝であり免疫であるとい
初めて決定したのですが、当時から他にも必ず
うことです。それならば栄養学と免疫学の中間のよ
存在すると信じていたものの、その後の報告例
うな身体の働きがあっていいのではないだろうかと
はありませんでした。そこで、筆者自らが普遍
考え、栄養学と免疫学の融合を目指そうと思いつき
性を解明するとともに、従来の天然物化学、有
ました。
機化学的手法に加え、新たに分子生物学、分子
研究の世界では男も女も対等です。しかしあえ
遺伝学的手法も取り入れて探索を行うことで、
て男女の違いを言うならば、きめ細かさと粘り強さ
いわゆる「ものとり」研究の新たな方向性を見
が女性研究者の特質だと思います。今後、女性
いだしたいと考えています。最後になりました
研究者の卵たちと一緒に、「まったり」と、しかし丁
が、東日本大震災により被災された皆様に心よ
寧で密度の高い研究を展開していきたいと夢描い
りお見舞い申し上げます。
ています。
前列左が筆者
─ 34 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
紫外線と健康
ヘルペスウイルスって?
中部大学生命健康科学部
教授
東京大学医科学研究所
教授
加藤 昌志
川口 寧
「紫外線を十分に浴びないと、くる病になっ
ヘルペスという言葉は、誰でも一度は耳にし
てしまいますよ」と、学校の先生から言われた
たことがあると思います。昔からよく知られて
ことを筆者は今でも鮮明に覚えています。紫外
いる感染症です。ヘルペスウイルス感染症には、
線を浴びないことは、健康に悪いことだと理解
ノーベル賞受賞対象となった抗ウイルス剤アシ
した少年時代の筆者は、せっせと海水浴に出か
クロビルが開発されており、多くのヘルペスウ
けました。それが、いつの頃からか紫外線は善
イルス感染症に効果を発揮します。しかし、そ
者から悪者に変わっていました。
れにもかかわらずヘルペスウイルス感染症の患
紫外線を浴びると、皮膚癌が誘発されます。
者数は世界で億単位、医療費は千億〜兆円単位
皮膚癌の中でも、メラノーマは、特に悪性度が
であると言われています。これはヘルペスウイ
高く、死亡率が高いので、世界中で恐れられて
ルスが潜伏感染・再発症を繰り返すことに起因
います。近年のオゾン層の破壊による紫外線の
しています。アシクロビルは、ウイルス増殖期
増加により、メラノーマは世界で1番増加して
を標的とするので、潜伏感染しているウイルス
いる癌となっています。欧米の白人では、75人
には全く効果がありません。よって、一度ウイ
に1人がメラノーマを発症し、その20%が死亡
ルスに感染してしまうと、患者は頻繁に引き起
しています。最近の研究では、18歳までに浴び
こされる再発症に長期間苦しみます。我々の研
た紫外線の量が多いとメラノーマが発症しやす
究室では、ヘルペスウイルスの感染・病態発現
いとも報告されています。一方、くる病を予防
機構を分子から個体レベルで解明し、それを基
するために浴びる必要のある紫外線は、少量で
にヘルペスウイルス感染症に対する新しい制御
あることもわかってきました。
法を開発することを目指し、戦略的な基礎研究
健康に無害とされていることが、本当に無害
を推進しています……と、かっこいいことを書
であるかを科学的に調べるのが衛生学です。特
いてみましたが、ウイルスの新しい感染制御法
に、環境(例:紫外線)をターゲットにして、
の確立が容易でないことは、20年以上の自身の
健康への影響(例:メラノーマ)を調べるのが
ウイルス研究経験から良く理解しているつもり
環境衛生学です。筆者らは、オリジナルのモデ
です。しかし、ウイルスの基礎研究に身をおく
ルマウスを用い、まずは動物レベルでメラノー
マの発症するしくみを解明することにより、ヒ
トに対する新しい予防・治療法を開発し、社会
研究者として、「ウイルスを知る」だけでなく、
「ウイルスを知り、そして制御する」ことを目
指して、これからも努力したいと思っています。
に貢献したいと考えています。
後列右端が筆者
─ 35 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
構造生物学と細胞生物学のあいだ
ATP・アデノシン受容体の研究
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所
准教授
東京慈恵会医科大学薬理学講座
助教
川㟢 政人
川村 将仁
この度は伝統ある内藤記念科学振興財団の
この度、
「脳内代謝変化が及ぼすATPおよびア
研究助成をいただきどうもありがとうござい
デノシンを介した神経修飾作用の機序解明」とい
ます。私が構造生物学を始めたのは、今から
う研究課題にて科学奨励金を授与して頂き誠にあ
15年ほど前に生物学で博士号を取得した後のこ
りがとうございます。内藤記念科学振興財団およ
とです。門外漢ながらもタンパク質の立体構造
び選考委員の先生方に、心より御礼申し上げます。
の美しさに魅せられて、稲垣冬彦先生のラボで
私は、研究を始めた大学院生時代より一貫して
NMR構造解析を学びました。2001年からは現
ATP受容体およびアデノシン受容体に関連する
在の所属である茨城県つくば市の高エネルギー
研究を行って参りました。ATPが細胞内ではエネ
加速器研究機構に移り、若槻壮市教授のラボ
ルギー源として用いられることは非常に有名です
で細胞内輸送や翻訳後修飾に関わるタンパク質
が、一方で細胞外では、ATPにより活性化され
のX線結晶構造解析を行っています。特にゴル
るATP受容 体、またはATPが 細胞外で加水分
ジ体膜に局在してその層板構造を維持してい
解されることにより産生されるアデノシンにより活
るタンパク質複合体に注目しています。苦労の
性化されるアデノシン受容体を介して細胞活動を
末に結晶化に成功してタンパク質の電子密度を
様々に修飾することが知られています。また、細
目の当たりにした時の喜びはとても大きいもの
胞内のATPを細胞外に放出する機構も現在まで
です。しかし、結晶の中に閉じ込められたタン
に多数報告されています。つまり、細胞は代謝の
パク質の形から、そのダイナミックな動きを想
最終産物であるATPを細胞外に放出し、細胞膜
像するのは困難です。タンパク質の中には膜と
上に発現するATP受容体またはアデノシン受容体
相互作用して膜を変形するものがあります。そ
を活性化することにより、自らを制御・修飾する
の様子をジャイアントリポソームを使って蛍光
機構を持っていると考えられます。現在私は、そ
顕微鏡で観察した時、目まぐるしく形を変えて
のATPを介した細胞修 飾機構が生体内におい
動き回るリポソームを見て、タンパク質の「形」
てどのような役割を担っているかについて興味を
だけでなく、その「動き」の重要性を再認識し
持っており、本研究課題を助成していただくこと
ました。X線結晶構造解析だけでなくX線溶液
により、さらに研究を進めて行きたいと考えており
散乱や蛍光顕微鏡などを使ってリアルタイムで
ます。
タンパク質と膜の動的構造変化を見ることで、
最後に、内藤記念科学振興財団のさらなる発
構造生物学を細胞生物学にリンクできないかと
展を祈念いたしますとともに、今回の助成に改め
考えています。
て感謝申し上げます。
中央が筆者
─ 36 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
ジアゾキノンとの出会い
線虫から環境応答のしくみを探る
九州工業大学大学院工学研究院
准教授
甲南大学 理工学部生物学科
講師
北村 充
研究は知的な冒険。一緒に研究の大海原に乗
りだそう!研究室のメンバーにそう伝えてい
ます。新大陸(新発見、
新化合物)目指し、
しっ
かりと計画をたて、いざ出発!でも、計画通り
進まないのが研究を冒険と呼んだ所以。予期せ
ぬ出来事が次から次へと起こり、それを乗り越
えないと前には行けません。このような研究に
おけるハプニングは、天からの宝。今回、研究
助成に採用して頂いた研究テーマは「ジアゾキ
ノンの高効率合成法の開発と多置換フェノール
合成への展開」ですが、研究対象となるジアゾ
キノンと私との出会いは、まさに偶然でした。
数年前、アミノ化(N1導入)剤として分子設計
して合成した化合物がジアゾ化(N2導入)剤と
して振る舞うことが分かり、さらにその反応剤
がこれまで難しいとされたフェノール類をジア
ゾ化し、ジアゾキノン類を与えることが分かっ
たのです。予想外の連続であり、この結果との
出会いは、本当に驚きと喜びでした。生成物の
構造が間違っていないか、担当していた学生と
何度もスペクトルを確認しました。本研究は、
このように偶然見出したジアゾキノン合成法を
確立し、さらに、生理活性物質や機能性材料へ
の応用を指向して多置換フェノールの合成法を
開発しようというものです。現在、綿密な計画
のもと進行中。でも、何か起こるのではないか
な?と密かに期待しています。
久原 篤
エレガントな動物のエレガントな応答
先週末、大阪梅田を歩いていましたら、美味
しい匂いにつられてカツ屋さんにきてしまいま
した。このように、わたしたち人間をふくむ動
物は、匂いや光や温度などの周りの環境を感じ
たり、記憶することで、その状況にあった行動
などの応答をすることができます。本研究室で
は、C.エレガンスとよばれるちいさな線虫をつ
かって、動物がどうやって周りの環境を感じ、
記憶や適応するのかを解き明かそうとしてい
ます。具体的には、C.エレガンスの温度にたい
する応答に着目して、動物が温度を感じるメカ
ニズムや、温度環境に適応するメカニズムを解
き明かそうとしています。
これまでに、線虫の研究から、温度の感覚や
記憶に関わる多数の遺伝子が見つかり、それら
は人間の病気にも関わっていました。さらに、
最新の光技術をつかって、脳・神経回路の活動
を色の変化として見ることや、神経の活動を自
由に操作することをおこなっています。今後は
これらの技術にくわえて、数理科学なども組み
合わせて、動物の環境への適応や、脳における
情報処理のメカニズムを解き明かしたいと考え
ています。
エレガントな動物のエレガントな応答のメカ
ニズム、それを解き明かす研究は果てしないで
すが、目指す先にはしっかりとした光が見え
ます。
中央が筆者
前列左から2人目が筆者
─ 37 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
階層的な知能システム
炎症性がん進展機構解明に向けて
福井大学大学院工学研究科
准教授
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
准教授
小西 慶幸
阪口 政清
私が生命科学の研究の世界へ足を踏み入れた
S100タンパク質はCa2+ 結合タンパク質で、ヒ
のは、千葉大学で転写調節の研究をされている
トでは20種が同定されています。メンバー間の構
田村隆明先生のもとで卒研生として学んだこと
造は良く似ていますが機能的には多様です。私
に始まります。高校で学んだJacobとMonodの
は、特に炎症性微小環境で産生、分泌が亢進す
オペロン説から、細胞というブラックボックス
るS100A8、S100A9、S100A11の 機 能とがん へ
で起こる情報処理が、転写調節機構により見事
の役割を研究しています。いずれも、細胞外に分
に説明されることに深い感銘を受けたのが大き
泌されると受容体RAGEに結合し、細胞増殖や
な理由でした。ここで個体の情報処理を司る神
走化性を正に制御しますが、このRAGEの膜直下
経細胞内の転写調節機構の研究テーマを頂いた
での信号伝達機構が不明でした。最近になって
ことが現在の研究に至までの道筋を示したと言
努力が報われ、当機構を解明することに成功しま
えます。その後、細胞内シグナル伝達や細胞骨
した。
格の制御機構について学び、神経細胞の形態制
また、同時にがん幹細胞を独自の技術でクローン
御に深い興味を持ちました。2011年度より福井
化することにも成功し、このような細胞でS100-
大学大学院工学研究科で知能の本質的理解と医
RAGEシグナルが顕著に亢進している可能性を見
工学への応用を目指す、知能システム工学専攻
いだしたのです。この発見より、2011年度に「多
に着任し、神経形態制御研究室をスタートする
機能受容体RAGEによるがん幹細胞活性化と炎
ことができ、これまでの研究をさらに深める機
症憎悪の負の連鎖」をテーマとして内藤記念振
会に恵まれました。動物の高度な知能は、複雑
興財団の科学奨励金を頂いております。
な神経細胞の形態により発揮されると言っても
治療標的としてのがん幹細胞の重要性と、その
過言ではないと思います。神経細胞を観察して
維持に炎症性微小環境が大きな役割を果たして
いると、あたかも個々の細胞が知能を持ってそ
いるという想定は広く受け入れられていましたが、
れぞれの形を構築しているようにも感じられま
微小環境とがん幹細胞の関係の本態を分子レベ
す。このような基礎的な研究内容にご理解とご
ルで理解することは非常に困難でした。私の当財
支援を頂きましたこと、また研究室の立ち上
団における研究テーマの完遂が、この難題の解
げの時期にこのような助成を賜ったことは私に
明に少しでも貢献できるのではと考え、現在、研
とって非常に幸運であります。財団関係者の皆
究に励んでおります。改めて貴財団からの研究援
様ならびに選考委員の先生方に厚く御礼申し上
助に感謝の意を表したいと思います。
げます。
中央が筆者
─ 38 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
AM-RAMPシステムによる血管統合機構の解明と
慢性臓器障害治療への展開
研究テーマとの巡り合い
信州大学大学院医学系研究科
准教授
富山大学大学院医学薬学研究部
教授
桜井 敬之
櫻井 宏明
この度は、内藤記念科学振興財団、科学奨励
研究テーマとは、思わぬところで出会うこ
金の対象研究にご選出賜りまして、誠にありがとう
とが多い。製薬会社に入社3年目、学生時代に
ございます。このような歴史ある財団の研究助成を
転写因子の研究をしていたということだけで、
いただき、大変光栄に存じます。
NF-κBのテーマを与えられたのである。入社
私は2008年より、現在の所属の信州大学大学院
当初2年間は糸球体腎炎のテーマでTGF-βに興
医学系研究科において、研究に従事しております。
味を持っていたため、当時クローニングされ
私たちの研究室では、生体内で作られている生理
たばかりのTGF-β-activated kinase 1(TAK1)
活性物質、中でも、アドレノメデュリン(AM)とい
の機能を解析してみようと考えた。この単なる
うペプチド因子を中心とした研究を行っています。ア
思いつきから始まった研究テーマではあるが、
ドレノメデュリン(AM)は、宮崎大学の北村先生
現在では炎症性サイトカインをはじめとする
らが、ヒトの褐色細胞腫より同定されましたが、そ
様々なNF-κB活性化シグナルにおけるTAK1
の後の研究から、全身の組織でも広範に産生され
の重要性が明らかにされている。
ており、多彩な生理活性を有することが分かってき
その後、富山医科薬科大学(現、富山大学)
ました。私は、AMと、その生理活性制御因子で
に 異 動 し た が、 そ こ で 偶 然 に 出 会 っ た の が
あるRAMPというタンパク質に着目し、AM-RAMP
EGFRである。当時、EGFRチロシンキナーゼ
システムによる生体内の様々な制御機構を研究して
阻害薬が本邦において世界に先駆けて肺がん治
います。
療薬として承認されようとしていたが、指導を
私はこれまで、発生工学、特に、遺伝子改変を
任された大学院生がこの阻害薬を使っていたの
行なったマウスの樹立や解析を中心とした研究に携
である。偶然は重なるもので、なんとTAK1か
わってきました。ノックアウトマウスなどの遺伝子改
らEGFRへと流れるシグナルが存在することを
変マウスは、未知の因子の生体内における役割を
見出したのである。これが本助成の研究テーマ
知る上で、今日大変重要な研究ツールとなっていま
である。
す。今回の採択研究におきましても、RAMPの各
昨年度、研究室を主宰することになった。ま
サブアイソフォームのノックアウトマウスの解析などを
た、偶然の出会いがあると期待していいのだろ
進めてまいります。RAMP分子間の機能分化やそ
うか? いや、そろそろ自分自身で考え抜いた
の病態生理学的意義を明らかにすることで、将来
オリジナリティーのある研究テーマを立ち上げ
的に、炎症や慢性臓器障害の新しい治療法開発
たいと考える今日この頃である。本当の意味で
に展開していきたいと思います。
の研究者としてのスタートである。
後列右から5番目が筆者
前列中央が筆者
─ 39 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
昆虫の季節適応の仕組みを探る!
隠れている乳がん細胞を探して
信州大学繊維学部応用生物科学系
准教授
神戸大学大学院医学研究科
准教授
温帯域に棲む動物は、季節の移り変わりを敏
年間6万人以上の方に発症する乳がんは、日
感に察知し、生存に厳しい冬や春や夏のように
本では最近急速に増加しているがんの一つ
成長や繁殖に都合の良い季節の到来を予知する
です。乳がんは精力的な研究により治療法も進
ことで、自らもしくは子孫の生存に有利なよう
歩してきましたが、治療後10年以上たってか
にライフスタイルを変化させている。例えば、
らでも出現する再発や転移は依然大きな脅威
夏には長い日長も冬には短くなる。動物たち
です。近年、乳がんの組織中には「がん幹細胞」
は、この光周期やこれに伴って変動する温度や
とよばれる特に悪性度の高いがん細胞が含まれ
湿度、さらには食物の量や質などの環境要因を
ていることが示されました。がん幹細胞がどの
感受し、やがて来る季節への適応戦略を練る。
がんにも存在するのかという点に関しては議論
ここで、親が子のために実に興味深い現象をみ
がありますが、少なくとも乳がんでは、治療に
せるカイコ(蚕)を例にしてみたい。カイコは
よりがんを根絶したと思っても、生き残ったわ
メスが初春のような15℃で胚期を過ごすと、そ
ずかながん幹細胞が、がんの再発や転移をおこ
の卵は非休眠となり、約1週間で幼虫が孵化し、
すのではと考えられるようになりました。
子供は夏を過ごすことができる。一方、25℃と
マイクロRNAは、細胞内のタンパク質の発
晩夏のようなシーズンを過ごせば、子供は休眠
現調節に働く遺伝子の一種です。私は、米国ス
し、形態形成を停止させ、やがて来る冬を耐寒
タンフォード大学で、ヒト乳がん幹細胞に特徴
性のある卵で過ごすことになる。私たちはこの
的なマイクロRNAを解明し、その発現を制御
興味深い現象の解明を目指し、その仕組みに関
することで乳がん幹細胞の機能を失わせること
わる遺伝子の探索を続けている。これまでに、
ができることを示しました。今回ご支援を頂い
母親の胚期には22°
C以上で活性化する温度セ
た研究では、ヒト乳がん細胞が転移巣を形成す
ンサーが存在し、このセンサーの活性化が蛹期
る過程で重要となるマイクロRNAを解析して
に休眠ホルモンの分泌を促すこと、そしてこの
いきます。ヒトの乳がんを移植したマウスでは、
ホルモンが卵巣に作用することにより休眠卵が
外見上は正常に見える肺でも、詳しく解析する
誘導されることが分かった。今後もこの季節適
とがん細胞が潜んでいることがあります。この
応に関わる遺伝子の探索を続け、益虫の保存と
ように正常組織の中に隠れて転移先で再発の機
衛生害虫の防除に効果的である技術を開発する
会をうかがうがん細胞の性質の解析を通じて、
ことを目指している。
乳がんの転移の分子機構や、がん幹細胞の役割
塩見 邦博
下野 洋平
を解明していきたいと考えています。
左端が筆者
─ 40 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
「病は気から」の仕組みを探る
化学を以て自然に挑む
東京理科大学薬学部生命創薬科学科
大阪大学免疫学フロンティア研究センター
特任准教授
鈴木 一博
助教
鈴木 孝洋
この度は研究助成金を賜り、誠にありがとう
私は学生時代から天然有機化合物の全合成研
ございます。ご推薦くださった審良静男先生な
究を行って来ました。天然有機化合物は、動植
らびに選考委員の先生方に心より感謝申し上げ
物や細菌、微生物が創りだす多種多様な二次代
ます。私は平成23年4月より大阪大学免疫学フ
謝産物であり、様々な生物活性を示すことが多く、
ロンティア研究センターにおいて、独立した研
医薬品の新たなリード化合物の探索を目的として
究室を立ち上げる機会を頂きました。米国留学
研究が行われています。そのために天然有機化
からの帰国直後ということもあり、人材の面で
合物を化学的に合成し、量的供給するというのが
も、研究資金の面でも文字通りゼロからのス
全合成研究の目的です。しかし、私は純粋に化
タートでしたので、本助成金を頂いたことは大
学的な観点からも天然有機化合物の構造に興味
きな励みになりました。
を持ち、その全合成研究を行っています。
新しい研究室で私が目指しておりますのは、
近年の分析技術の進歩によって、天然から得
端的に言うならば「病は気から」のメカニズム
られる化合物の中には、我々人類が今まで見たこ
の解明です。この諺にも見られるように、古く
ともないような複雑な構造のものが存在すること
から神経系と免疫系の関連性は指摘されてきま
が明らかになってきています。そのような複雑な
した。事実、関節リウマチをはじめとする免疫
化合物は全く新しい構造をしているため、これま
疾患の病態にも自律神経系の関与が示唆されて
でにない作用機序で生物活性を示す可能性があ
おります。しかしながら、現在でもなお、どの
ります。しかしながら、その構造の複雑さ故に、
ようにして神経系の活性が免疫系に影響を及ぼ
まずは基本となる中心骨格が実際に化学的に合
すのか、その仕組みはほとんど明らかにされて
成できるのかどうか、というところから研究を
おりません。そこで私は、神経系と免疫系を連
始めなければなりません。今回、助成金を頂い
動させる分子レベルでのメカニズムの解明に乗
たテーマは、天然有機化合物の中心骨格の構築
り出しました。非常に挑戦的な研究テーマであ
に成功していますが、全合成を達成するにはまだ
ることは十分自覚しておりますが、私のもとも
至っておりません。また、さらに発展させて研究
との専門である免疫学に軸足を置きながらも、
結果を社会に還元するにはまだまだ長い道のりで
本研究を通じて免疫学と神経科学の懸け橋にな
すが、引き続き研究に邁進し、合成研究の完遂
るような新たな研究領域を開拓できればと考え
を目指したいと思います。
ております。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろ
最後に、ご支援を頂きました内藤記念科学振
しくお願い申し上げます。
興財団に厚く御礼申し上げます。
前列左から3人目が筆者
─ 41 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
質量顕微鏡の繊毛研究への応用
感染制御を導く微生物認識機構
浜松医科大学解剖学講座
教授
北海道大学遺伝子病制御研究所
教授
瀬藤 光利
髙岡 晃教
繊 毛 は 細 胞 か ら 生 え る 直 径 わ ず か1mmの
DNAやRNAという核酸は、本来遺伝子の情
4000分 の1ほ ど の 毛のような動く細胞小器官
報が書き込まれた、所謂「生命の設計図」ですが、
です。非常に小さな構造ですが、無数の繊毛の
面白い事に我々の体内に微生物(ウイルスや細
運動が吸入した有害物質を気管から排除すると
菌など)が感染した場合、その微生物由来の核
いった重要な働きをしています。繊毛を作るた
酸は、自然免疫活性化の引き金となります。こ
めに必要な遺伝子の不具合は、多様な繊毛関連
の微生物由来の核酸を認識するタンパク質が代
疾患の原因となると考えられます。
表してパターン認識受容体と呼ばれるもので、
繊毛の主骨格はチューブリンと呼ばれるタン
この発見が2011年のノーベル賞の対象となった
パク質です。我々は近年、チューブリンを修飾
ものです。我々の細胞に侵入した微生物由来の
し機能を変化させる複数の酵素を世界で初めて
核酸を特定のパターン認識受容体によって感知
同定することに成功しました。そこで、それら
される事で、細胞内のシグナル伝達経路が活性
の酵素とチューブリンの翻訳後修飾の異常は繊
化され、免疫応答が始動する仕組みが次第にわ
毛関連疾患の原因となることが予想されます。
かってきました。しかし単純ではなく、一方で
実際に、酵素関連タンパク質の遺伝子異常が
特にこれらの自然免疫系を阻害するシステムを
Joubert症候群の原因となっていることを米国
備えたウイルスもいます。そこで、私どもの研
のグループと共同で明らかにすることができま
究室では、特にこの核酸のセンサー分子に着目
した。
して、それを介する自然免疫応答機構の詳細な
現在、我々は組織中の物質分布を網羅的に可
仕組みを解析すると同時に、これらの機構を阻
視化する質量顕微鏡法と呼ばれる先駆的な手法
害するウイルスの仕組みも合わせて明らかにす
の開発・改良を精力的に行ってきました。
チュー
る事で、ウイルス感染を制御できる効率の良い
ブリンの翻訳後修飾を質量顕微鏡法を用いて疾
新規治療アプローチを見つけていきたいと考え
患で解析することで、今後さらに独自性の高い
ております。最後になりましたが、このような
研究を目指していきたいと思います。
研究にご理解いただき、大変名誉ある内藤記念
科学奨励金の授与対象の研究としてお選び頂い
たことを心より感謝申し上げますとともに、基
礎研究という立場から医学の進歩に少しでも貢
献できますよう、さらに努力して参りたいと存
じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
一番手前が筆者
─ 42 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
2011年度研究助成を頂いて
基礎+基礎+発想転換⇒応用
徳島大学疾患プロテオゲノム研究センター
講師
京都府立大学大学院生命環境科学研究科
教授
このたびは貴財団の2011年度研究助成に採択
私の助成テーマは、安定かつ強力な超好熱菌
頂き、大変光栄に存じます。免疫が体を守る仕
由来プロテアーゼを用いて、異常型プリオンな
組みとして正しく機能するには、リンパ球が適
どの分解困難な感染性アミロイド線維タンパク
切な分化、維持、応答、記憶形成を経なくては
質を完全に分解させるというものです。これは
なりません。これらに異常をきたすと自己免
医療現場や医薬品開発において、感染性アミロ
疫疾患や免疫不全など様々な病気に結びつき
イド線維タンパク質に汚染された器具を安全に
ます。私がアメリカ留学中に、Tリンパ球の維
洗浄し、二次感染予防に役立ちます。本テーマ
持に着目した研究を通して感じたことは、リン
の生い立ちを簡単に紹介させていただきます。
パ球の維持と分化が深く結びついている可能性
私はこれまで「タンパク質のフォールディン
と、
「場」の理解が不可欠であるという今後の
グ」を中心とした基礎研究を行ってきました。
課題でした。免疫細胞の機能が臓器を形づくる
その中で、①プロペプチドを有するプロテアー
細胞によって制御されるという「場」の概念は、
ゼの分子内シャペロンや成熟化機構の解明と、
免疫学者の間ではすでに一般的ですが、留学当
②アミロイド線維形成(ミスフォールディング)
初、免疫学ビギナーであった私には難解なもの
過程の解明を進める課題がありました。これら
でした。そんななか、Tリンパ球分化の場を制
は直接リンクした課題ではありませんでした。
御することの重要性を自己免疫疾患に対する防
①に関して、ある程度成熟化機構などが明らか
御という観点から明快に教えてくれた論文と出
となり、取り扱っていた安定かつ強力なプロテ
会い、その後4年を経て、図らずもその論文の
アーゼを何か生かす方法はないかと考えていま
著者である徳島大学高浜洋介教授のもとで働く
した。また②については、世界中で線維形成に
機会を頂いたことは大変好運でした。このたび
関する膨大な研究が進められる中で、異なる視
採択頂いた研究テーマは、
「正の選択」という
点からの研究展開を模索していました。そこで
Tリンパ球分化の一過程の場における異常が、
線維が形成する過程でなく、繊維を「壊す」こ
Tリンパ球の維持異常を経て自己免疫疾患につ
とに発想を変えたとき、①のプロテアーゼの利
ながるという、帰国後に得た実験結果をもとに
用が浮かんできました。そこでいろいろ調べた
しています。今後、新たな免疫制御機構の解明
結果、医療器具を介した二次感染が問題になっ
につながる可能性を期待しています。検討すべ
ていること、アミロイド線維タンパク質の完全
き課題は山積みですが、研究成果につなげられ
除去がまだまだ成し得ていないことなどがわか
るよう努力していく所存です。
り、研究を開始しました。
髙田 健介
高野 和文
左端が筆者
─ 43 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
らせん構造に魅せられて
死細胞のリサイクル機構解明を目指して
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
教授
東京薬科大学生命科学部
教授
「らせん構造」は自然界のさまざまなものに見
生体では不要となった細胞や有害な細胞は細
られる。例えば、宇宙の銀河、台風の雲、渦潮、
胞死により排除されます。この細胞死はアポトー
アサガオの蔓、巻き貝などに見られる。もっと微
シスと呼ばれ、発生や再生過程における不要細
視的に分子で考えると、DNA、デンプン成分の
胞や、癌細胞やウイルス感染細胞の排除に重要な
アミロースあるいはタンパク質の2次構造などにら
役割を果たしています。生体内で細胞死が起こる
せん構造が存在する。筆者らは、アミノ酸の中で、
と、その死骸はマクロファージ等の食細胞により
そのα位水素原子をアルキル基で置換したジ置換
速やかに貪食されます。これまでこの死細胞貪食
アミノ酸に焦点をあて研究を行っている。ジ置換
は、廃棄物である死細胞を処理するための単なる
アミノ酸の中には、ジメチルグリシンや3員環アミ
“ゴミ掃除”であると考えられてきました。しかし
ノ酸のように微生物の産生する抗生物質や植物中
最近の研究により、マクロファージは貪食した死
に存在するものや、メチルドーパのように医薬品と
細胞を分解・再利用することにより、様々な免疫
して用いられているものもある。
応答を制御していることが分かってきました。生
このジ置換アミノ酸をペプチドの中に導入する
体内では毎日何百万もの細胞が死を迎えている
とその分子は、三次元立体 構造「らせん構造」
と考えられるので、マクロファージのこの仕事は、
を安定に形成するようになる。特に、ジ置換アミ
生体内での効率的な廃品利用(リサイクル)と言え
ノ酸の不斉中心の存在する位置とらせん構造の
るかもしれません。これまでに我々は、この死細
左右の巻き方に特有の関係があることを見つけ、
胞貪食による免疫制御を応用して、自己免疫疾患
環状アミノ酸の側鎖上の不斉中心のみによって、
の発症を予防できることを示しました。最近では、
らせん構造の巻き方を制御できることを見いだし
がん死細胞によるがん増殖抑制現 象に注目し、
た。また、この環状アミノ酸をL-ロイシンに導入
がん死細胞を貪食してがん免疫を活性化する“死
したペプチドはα-ヘリックス構造を形成し、平面
細胞担当マクロファージ”を同定し、本現象の
分子カルコンの不斉エポキシ化反応の有機分子
分子細胞生物学的メカニズムを明らかにしました。
触媒として利用可能であった。有機化学に基づき
今後は食細胞による免疫制御機構の解明をさら
新規に設計したアミノ酸、並びにそのオリゴペプ
に進めるとともに、得られた知見を基に自己免
チド(フォールドマー)の基礎研究は、今後、不
疫疾患や悪性腫瘍の新しい治療法の開発を目指
斉有機分子触媒の創製や、創薬シード化合物の
しています。最後になりましたが、助成をして頂
探索につながると期待している。
きました貴財団の益々のご発展をお祈り申し上げ
田中 正一
ます。
中央が筆者
─ 44 ─
田中 正人
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
研究室の転機に
勇気(有機)を持ってチャレンジする
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科
准教授
新潟薬科大学応用生命科学部
助教
棚谷 綾
田宮 実
2011年度内藤記念科学奨励金を授与して頂
私の専門は天然物およびその誘導体の有機合
き、
ありがとうございました。受賞対象の研究は、
成です。天然物合成を行なうきっかけは、今か
新しい骨格をもつビタミンD誘導体の創製研究
らさかのぼること11年前、東京工業大学の鈴木
で、専門とする芳香族化合物の立体特性と機能
啓介先生の研究室の門を何気ない気持ちでたた
発現に関する研究の知見を生かした独自の医薬
いたことです。それ以来、有機合成の魅力にと
化学研究を展開したいと考えています。
りつかれてしまいました。有機合成の楽しさは、
私は、2006年にお茶の水女子大学に着任し、
なんといってもモノ造りをしているという実感
研究室を立ち上げました。当時は、学生も不在、
を味わえるところにあると思います。また、複
まさしくゼロからのスタートで、研究室の整備
雑な骨格の化合物を、いわゆる“職人技”で作
に必死に走ってきました。2年目に配属された
り上げるという充実感もあります。唯一の難点
4年生は今年、博士課程3年生になり、学生数も
は、成果が出るまで時間がどうしてもかかって
12名になりました。昨年度は、私にとって転機
しまうという点です。しかし、チャレンジング
となる年で、貴財団より採択の通知を受け取り
な研究課題に取り組み、成果とともに優秀な学
ました時、妊娠5ヶ月を迎えていました。研究
生を排出することで、わが国の自然科学の発展
室がようやく軌道に乗りつつある時に、新しく
に貢献できると思います。その一方で、地方弱
誕生する生命に対する楽しみとともに、他に教
小大学で、あまり目覚ましい成果のない私のよ
員がいない研究室の運営に不安も感じていまし
うな若手研究者がチャンレンジングな研究を行
た。しかし、産後休暇の後、4月末に復職しま
なえば、成果が出るまで時間がかかり、研究費
したが、その間、学生達が協力して見事に乗り
が得にくい状況になり、次のステップへ繋げる
切ってくれました。私は今まで実験室の整備や、
ための研究費がないという負のスパイラルに陥
装置の購入など目に見える形ばかりを指標にし
りがちになります。そんな中、科学研究に対し
てきましたが、気付かないうちに学生達が成長
長年助成を続けている内藤記念科学振興財団よ
していたことに感動しました。学生達にはまだ
り研究助成をご援助していただいたことを、と
感謝の意を伝えられていませんが、研究を楽
ても光栄に思うとともに、2007年の新潟薬科大
しみ、学生を育てるという第2のフェーズに入っ
学着任当初から細々と行なっていた研究課題で
たと感じています。一研究者、一教育者として
ある「ブラジキニンB1受容体の作用機構の解
自分の研究分野で微力ながら貢献していくこと
明と創薬研究」を、一気に進めることができる
が貴財団への恩返しと思っております。
ようになりとても感謝しております。
後列右から3人目が筆者
─ 45 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
生命の礎のタンパク質構造に挑戦
腸管免疫研究一筋に
神戸大学大学院理学研究科
准教授
東京医科歯科大学難治疾患研究所
助教
茶谷 絵理
手塚 裕之
このたびは、内藤記念科学奨励金の助成を賜
この度は、2011年度内藤記念科学振興財団の
り、内藤記念科学振興財団および関係者の皆様
科学奨励金・研究助成に採択して頂きまして、心
に心より感謝を申し上げます。
より御礼申し上げます。本支援を励みに今後も頑
私は、タンパク質の構造に関する研究に取り組
張りたいと思っております。
んできました。タンパク質は、それぞれ固有の立
これまで私は、腸管免疫系の主体であるIgA
体構造に折りたたまれる特性を持っており、博士
抗体の生産機序の解明を目的として研究を進めて
号取得までこの仕組みを明らかにする研究を行っ
参りました。一般的にIgGは病原体の感染後に、
ていました。ところが、同じタンパク質が状況に
それらを殺滅するために生産されます。これに対
よっては折りたたみを誤り「アミロイド線維」とい
して、IgAは特に感染のない定常状態の腸管で大
う別の構造体を形成することを知り、驚き、強い
量に生産されています。しかし、
「なぜ腸管では
興味を持ちました。大学院修了後に阪大蛋白研
IgAが効率的に誘導されるのか?」は長年に渡る
の後藤先生の研究室に博士研究員として受け入れ
生物学の謎の一つであり、この解明は粘膜ワクチ
ていただいたのがきっかけで、現在までアミロイ
ンの開発に繋がるものと期待されています。この
ド研究に取り組んでいます。誤った折りたたみは、
謎を解明すべく、私たちは大胆にも「腸管は常に
タンパク質から機能を奪うばかりか、毒性や感染
腸内細菌に感染している状態にある」と捉え、定
性を示す危険な存在に変えてしまう深刻な現象で
常状態のIgA量を指標に感染防御に重要な遺伝
す。その一方で、アミロイド線維構造が次々と複
子改変マウスを調べました。その結果、数種のマ
製される様子は、タンパク質構造のポテンシャル
ウスでIgA量が減少していることを見出しました。
の奥深さを感じさせるものであり、感嘆します。
さらに、これら遺伝子改変マウスの腸管免疫細
その後、平成23年度に現在の大学に移り研究
胞を詳細に解析した結果、腸内細菌の刺激により
室を立ち上げました。研究費も少ない不安定な
腸管に出現する、IgA生産誘導に特化した樹状
時期に貴財団のサポートを受けられたことは、精
細胞を発見することができ、恒常的なIgA誘導は
神的に大きな励みになっています。また、タンパ
同樹状細胞によって維持されていることを明らか
ク質の構造という極めて基礎研究の色の強い課
にしました。
題を選んでいただいたことにも感謝しております。
現在はこれまでの研究に加え、消化器病モデ
生命活動の基盤を担うタンパク質構造の根本解
ルを用いた研究を進めており、腸管免疫機構の
明に向けて精一杯努力する所存です。
解明と消化器病の克服に向けて少しでも貢献した
いと思っております。
中央が筆者
後列左端が筆者
─ 46 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
がん抑制遺伝子p53について
わたしの夢
札幌医科大学医学部フロンティア医学研究所
教授
金沢大学がん進展制御研究所
准教授
時野 隆至
仲 一仁
このたび、内藤記念科学振興財団から「p53経路
まず始めに、内藤記念科学振興財団の研究助成
の破綻による発がん機構の解明とその制御」とい
に採択して頂きましたこと、
心より御礼申し上げます。
う研究テーマで研究助成金をいただくことができま
私は、
マウスを用いた
『がん幹細胞』
の研究を行ってお
した。
この研究では、がん抑制遺伝子p53経路の発
ります。がん幹細胞は、正常な幹細胞と類似の性質
がん機構への関与を明らかにし、新しいがん治療に
を有していて、多くのがん細胞を供給する源になるこ
つながる基礎研究を行いたいと考えています。
とが知られています。このがん幹細胞は抗がん剤に
がんは日本国民の最大の死亡原因であり、現在
抵抗性を示すことから、がんの再発や転移を引き起
では3人に1人が発症、近い将来国民の半数ががん
こす原因になる細胞として近年注目を集めています。
により死亡すると予測されています。
「がん遺伝子」
私たちはこれまでに慢性骨髄性白血病(CML)
や「がん抑制遺伝子」の変異が長い年月かかって正
のマウスモデルを用いて、
フォークヘッド転写因子
常細胞に蓄積することによって、がん細胞になるとい
FOXOがCMLのがん幹細胞(CML幹細胞)の抗が
うことがわかっています。p53は最も高頻度に変異し
ん剤抵抗性を制御することを発見しました。
さらに、
ている遺伝子であり、
「ゲノムの守護神」
としての重要
TGF-βシグナルがFOXOを活性化しており、CML
性が注目されました。
「p53」をPubMed検索すると、
幹細胞を移植したマウスにTGF-β阻害薬を投与す
62,000件以上の論文が現れます。驚くべきことに、最
るとCML幹細胞を抑制できることを報告しました。
近2年間での年間論文数は4,500件以上で、現時点
本研究助成では、
このTGF-β-FOXOシグナルによる
(2012年5月)でも1日に12報のペースでp53関連論
CML幹細胞の治療抵抗性メカニズムの解明を目指
文が発表されていることになります。p53が発見され
した研究に取り組んでいます。毎日、
一喜一憂を繰り
て30年以上になりますが、
p53研究は衰退するどころ
返しながらも、夢中になってがん幹細胞の研究に取
か、がん抑制機能に加え、老化・代謝制御やiPS誘
り組んでいます。
導といった新しい機能が次々と見つかり、
ますます活
私には夢があります。がんの患者さんの治療に貢
性化されているように思われます。今回の研究助成
献するという夢であります。研究を続けていくうえでは
金を有効に活用してp53研究を遂行し、新しいがん
多くの困難が立ちはだかりますが、
このような私を支
治療の標的となる分子経路を発見することによって、
えてくれているのは研究室の仲間であり、多くの友人
がん克服に貢献していきたいと思います。
であります。基礎研究の立場ではありますが、がんの
最後に本研究テーマに多大なご援助を賜りまし
患者さんの治療薬を開発するため精一杯努力したい
て、
改めまして貴財団からの研究助成に深く感謝申し
と考えておりますので、
今後も皆様のご支援を賜りま
上げます。
すよう宜しくお願い申し上げます。
後列左端が筆者
─ 47 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
おくれてきたもの
ものつくりの技術力を研究に
九州大学生体防御医学研究所
助教
豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所
テニュアトラック特任准教授
西尾 美希
沼野 利佳
この度、研究助成して頂いた研究テーマ「組
研究の目標は、日本のものつくりの技術力を
織特異的遺伝子欠損マウスを用いたMob1の機
研究の分野で生かし、独自の実験系を立ち上げ、
能解析」のなかのMob1は「Hippo経路」を構
未知のものを見たり、積極的に作用させたいとい
成する分子のひとつであり、
「Hippo経路」は
うことである。私は江戸っ子であるが、2年前に
ショウジョウバエにおいて器官のサイズを制
愛知県の豊橋技術科学大学に赴任してから、東
御するシグナル伝達経路として見いだされま
海〜中部地方のものつくりの気運にのって、この
した。このシグナル伝達経路の研究の歴史は
目標にとりくんでいる。ちなみに、最終目的は、
10年ほどで、WntシグナルやNoctcシグナルな
あくまでも全研究者共通の“人類のために最大た
どの他のシグナル伝達経路に比べ「遅れてきた
る貢献をする”である。
シグナル経路」
「新しいシグナル経路」などと
豊橋技術科学大学は、精密なセンサー作製や
呼ばれています。大学の修士課程を修了後、た
ロボティクスなど高い技術力を有し、神経活動や、
だただ実験が好きで実験補助員として研究に携
細胞の生理活動の電気的な変化を、低侵襲・多
わり、いつのまにかポスドクなっていましたが
チャネルで測定でき、個別に刺激もできる極小ケ
頭の片隅では研究者としてやっていく自信や自
ンザン型電極のトヨハシプローブを使用する。対
覚が持てないままに時間を過ごしてきました。
象の生理機能としては、学生の時から従事してい
研究の世界で生きていくならばそろそろ覚悟を
る、24時間周期の概日リズムを選んだ。具体的に
決めなければと悩んでいる頃に、内藤記念科学
は、概日リズム発振の中枢といわれる脳の視交叉
振興財団より助成して頂くことが私の「遅れて
上核がどのようにリズムを規定するか、どの神経
きた研究心」を後押しして頂くこととなりまし
にどう刺激を与えれば、時計合わせが自在にでき
た。まだまだ芽生えたばかりの「遅れてきた研
るかを、領域または神経細胞レベルで探求する。
究心」ですが「遅れてきたシグナル経路」の研
そして、体内時計を制御し、不規則な生活から来
究とともに大きくなっていけるようにひとつひ
る成人病の克服に役立てる。単一細胞のパターン
とつと努力を積み重ねていきたいと思います。
刺激は、微小電極による電気刺激で、アウトプッ
最後になりましたが、研究を続ける後押しを
トの計測も可能な実験系で行う。
してくださいました内藤記念科学振興財団のご
一味違った国産研究を目指して、私の研究室は、
支援ならび今日まで見守り、先導して頂いてい
倉庫一つからという状況ですが、内藤記念科学
る先生方に心から深く感謝申し上げます。
振興財団様には研究助成を賜りまして誠に感謝申
し上げます。
中央が筆者
─ 48 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
マクロファージの貪食から放出へ
大脳基底核神経回路の制御機構
大阪大学免疫学フロンティア研究センター
特任准教授
大阪バイオサイエンス研究所システムズ生物学部門
研究員
華山 力成
疋田 貴俊
この度は、内藤記念科学振興財団から御支援
大脳基底核は運動のバランスや、報酬を求める
を頂き大変感謝いたしております。私は昨年の11月
行動、不快なものを避ける行動などを決定づける
に大阪大学に異動し、新しい研究室を立ち上げ
重要な機能を担っています。パーキンソン病、薬物
させて頂きました。機器や試薬など何もないゼロ
依存症、うつ病、統合失調症といった多くの精神
からのスタートでしたが、財団からの助成金によ
神経疾患で大脳基底核の神経回路に異常を来し
り、研究室の運営も可能となり大きな励みとなりま
ており、大脳基底核研究の重要性が注目されてい
した。
ます。大脳基底核の神経回路は、線条体から黒
私はこれまで、体の中で死んだ細胞がどのよう
質網様部に直接つながる直接路と、淡蒼球や視床
に除去されるのかを研究してきました。私達の体
下核を経由する間接路の2つの主な神経回路から
の中では一日に数千億もの細胞が死に、新しい細
なっています。しかし、大脳基底核の機能や病気
胞に置き換わります。このような細胞の死はアポトー
において、直接路と間接路はどのような役割を持っ
シスと呼ばれ、生体にとって不要になった細胞や有
ているかは分かっていませんでした。私は、直接路
害となる細胞を除去する生理的な細胞の死であり
と間接路のそれぞれの回路の働きを一時的に止め
ます。アポトーシスにより死滅した細胞は、マクロ
るスイッチングシステム(可逆的神経伝達阻止法)
ファージなどの食細胞に速やかに貪食され除去さ
を開発し、これらの神経回路の役割を研究してい
れます。私達は、この過程に関わる分子機構を明
ます。
らかにするとともに、死細胞の除去が損なわれる
私たちは、無意識であっても以前に経験し学習
と、死細胞から自己抗原が漏出し自己免疫疾患や
した記憶を基に行動を選択しています。マウスも以
慢性炎症を引き起こすことを明らかにしてきました。
前にチョコレートがあった部屋に滞在するようになり
マクロファージは死細胞を貪食し消化すると、そ
(報酬行動)
、以前に不快な経験をした部屋には
の残渣を細胞の外へと放出します。また死細胞の
入室しなくなります(忌避行動)
。直接路と間接路
抗原情報をエクソソームと呼ばれる小型の膜小胞
のスイッチングシステムを用いて、これらの行動に必
に乗せて放出し、他の細胞へと伝達します。私達
要な大脳基底核神経回路を調べ、報酬行動は直
は現在、マクロファージがどのようにして、これら
接路が、忌避行動は間接路が担当していることが
の放出機構を制御しているかを研究しております。
分かりました。今後、パーキンソン病やうつ病など
財団からの御支援に応えられるよう、本質を突い
の神経回路異常を見つけ、よりよい治療法の開発
た研究を展開してゆきたいと考えております。
につなげていければと思っています。
後列左から2人目が筆者
─ 49 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
何故マニアックな内耳なのか?
脂質メディエーターと代謝疾患
新潟大学医歯学総合研究科
教授
大阪薬科大学薬学部
准教授
日比野 浩
この度は助成を賜り、心より御礼申し上げます。
小生は、H22年より独立し、教室を立ち上げ中です。
藤森 功
私は、
大学卒業後、
企業の研究所に勤務した後、
(財)大阪バイオサイエンス研究所の研究員にな
奨励金は本当に助かります。
りました。そこで、早石修先生、裏出良博先生
音は、外耳や中耳を経由し、内耳の蝸牛という
の下、脂質メディエーターであるプロスタグランジ
数ミリにも満たない器官に受容されます。治癒が見
ン(PG)の研究を開始しました。プロスタグラン
込めない難聴の多くは、
蝸牛が障害されます。今回、
ジンは構造決定されてから50年以上経っており、
テーマにしているメニエール病は、難聴・めまいを
多くの研究者が研究対象にしてきたにもかかわら
繰り返す難病ですが、やはり蝸牛に病因があるとさ
ず、新たな生理作用や調節機構の発見が続いて
れています。小生は、15年程前に耳鼻科医として
おり、まだまだ未知の部分が多いと考えられます。
難聴患者を診療していた際、これらの原因が不明
当初はプロスタグランジンの産生調節機構につい
であることを知り、いつかそれを解明して根本的治
ての研究をしていましたが、別の研究でPGD2を
療法を開発すると決意しました。その為には内耳
大量に作るマウスが肥満になるということに気付
機能の基礎的理解が必要と認識し、以後、基礎
きました。そこから脂質メディエーターと代謝疾患
医学者として蝸牛を研究してきました。自分の教室
(肥満)についての研究が始まりました。平成19年
を運営できる立場になりましたので、所期の目的に
に大阪薬科大学に移り、プロスタグランジンによ
益々注力していきます。
る脂肪細胞の分化制御についての研究を継続し
蝸牛は、小さい上に繊細で、骨に囲まれている
ています。例えば、PGE2とPGF2αは脂肪細胞
ため、扱いが困難であり、研究者には敬遠されが
の初期の分化を抑制しますが、一方、PGD2は脂
ちです。恐らく、国内では我々が内耳研究を専門
肪細胞の成熟化を促進するという、同じプロスタ
とする唯一の基礎研究室ではないでしょうか?そん
グランジンでも全く逆の作用を持っていることが
な中で、15ナノ(15ミリの百万分の一)しかない細
分かりました。しかし、生体内ではこれら逆の働
胞と細胞の間の空間を電極で狙ったり、コンピュー
きをするプロスタグランジンは共存していると考え
ターシミュレーションを駆使したりして、研究していま
られます。現在、動物を使った実験で解析を進
す。相当マニアックですが、結果が得られた時は
めており、脂質メディエーターによる代謝異常疾
大きな達成感があります。今後とも難聴を克服する
患の分子制御機構を解明していきたいと考えてい
という志を強く持ち、全身全霊で研究を進めていく
ます。最後になりましたが、御助成頂きました内
所存です。
藤記念科学振興財団に深く感謝申し上げます。
前列中央右側が筆者
─ 50 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
血液がんの新しい治療法の開発
新光技術が20世紀の夢を叶える
自治医科大学幹細胞制御研究部
教授
理化学研究所・SPring-8センター
チームリーダー
古川 雄祐
別所 義隆
「染色体転座形成のエピジェネティク機構の解
「例外の中に真実あり」と、恩師の大澤省三
明」という研究課題にて2011年度内藤記念科学
先生のお言葉が今も耳に残っています。遺伝暗
奨励金を拝受いたしました自治医科大学の古川と
号は全ての生物に共通で普遍であるとの常識
申します。私の研究室では白血病や多発性骨髄
を、マイコプラズマとミトコンドリアに変則暗
腫など血液のがんを対象として、正常な造血幹
号を発見し覆したのでした。20年以上前のこと
細胞ががん化し、免疫機構や抗がん剤などに抵
です。遺伝暗号の進化のメカニズムを知ること
抗して生存を維持するメカニズムについて研究を
は、生命システムがその初期にどのように自己
行っております。正常細胞においては、DNA配列
組織化されたかを知ることです。変則型tRNA
を基本とする遺伝子発現調節機構(ジェネティク
の構造・機能解析が必須ですが、変則であるが
ス)とは別の制御機構があり、細胞の後生的な多
ゆえ結晶化が難しく、通常の方法では到達でき
様性の維持に関与しております。エピジェネティク
ません。大型放射光SPring-8で、新しくX線レー
スと呼ばれるこの機構が、がん細胞では高い頻
ザー(XFEL)が建設されるのを機に、イメー
度で破綻しており、がん形質の維持に重要な役割
ジング新技術開発のため、播磨に移って来ま
を果たしております。私共は血液がんにおけるエ
した。偶然、私のXFELセミナーに、当時、大
ピジェネティクス異常について解析を進めており、
澤先生と遺伝暗号の謎に挑んでいた渡辺公綱先
その詳細を明らかにすることで、がん細胞のみを
生と何年ぶりかにお会いし、まさか、この変則
選択的に破壊し、正常な細胞・組織にはダメージ
tRNAの謎に対する情熱が途絶えていないこと
を与えない治療法(分子標的療法)を開発するこ
を知ったのが、2010年の秋、2年前のことでした。
とを目標としております。昨今は国の予算が大型
渡辺先生の元でこの研究に励み、しかし道半ば
プロジェクトに集約される傾向があり、私共のよ
で終え、今はタイ国のマヒドン大学講師のサリ
うな弱小のラボでは研究費の確保が難しくなって
ン先生も交えて、共同研究が始まりました。20
きております。内藤記念科学奨励金は、萌芽的
世紀に忘れてきた夢を叶える大変な研究です。
研究や時流から外れたテーマも視野に入れ、独
この最初の産みの苦しみの時期に、内藤記念財
自の基準で採択していただける貴重な研究費と感
団から助けをいただけることには感謝に堪えま
謝しております。ぜひ今回いただいた研究費で大
せん。X線技術は日進日歩です。遠からず、こ
きな成果を挙げ、財団ひいては社会に還元したい
の長年の夢が解明されることを望み、チームが
と考えております。
研究を進めております。
前列中央が筆者
右が筆者
─ 51 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
細胞機能をレーザーで制御する
タンパク質の形の不具合
産業技術総合研究所健康工学研究部門
研究員
京都大学再生医科学研究所
准教授
この度は内藤記念科学奨励金を授与して頂き
私たちの体は様々な種類の細胞からなり、細
ありがとうございます。
私は応用物理の出身で、
胞には多くの種類のタンパク質が含まれてい
学生時代はレーザーを駆使して物理や化学の新
ます。DNAに記された遺伝情報は最終的には
たな現象を解明する研究に従事しました。集光
タンパク質に翻訳されて発現します。タンパク
レーザービームの光放射圧は、溶液中のマイク
質は細胞の中で生合成されますが、それぞれの
ロメートルサイズの粒子や細胞を三次元操作す
タンパク質が正しく機能するためには、本来あ
る光ピンセットとして活用されており、さらに
るべき正しい構造を形成しないといけません。
小さなナノサイズの粒子では複数粒子が集合す
ところが遺伝子に変異が入ったり、細胞内環境
る現象がみられます。この過程を蛍光解析によ
が悪化したり、あるいは老化したりといった
り調べ、ナノ粒子のクラスター形成が進行する
様々なことが原因で、タンパク質が正しい構造
機構を解明しました。本手法を細胞機能計測、
を取れなくなることがあります。このようにタ
操作へと発展させ、
2006年より現所属において、
ンパク質の形が少しおかしくなったら、細胞に
細胞診断、細胞治療のためのレーザー光技術の
ちょっとした不具合が生じます。少しぐらいの
開発を進めています。これまでに、神経細胞シ
不具合なら何とかなる……かもしれませんが、
ナプス領域の分子集合の光ピンセットによる直
異常が蓄積していくと細胞や体の機能が障害さ
接操作に成功しており、神経伝達のレーザー制
れる場合もあるでしょう。実際、タンパク質の
御への応用が期待されます。また、多点電極皿
構造がおかしくなったことが原因で様々な疾患
で培養した神経回路網にフェムト秒レーザーを
が発症することがわかってきました。「少しぐ
集光すると、電極の損傷なしに局所領域を切断
らいの不具合なら何とかしよう」とする細胞の
でき、分断された神経回路網の機能再生を見出
仕組みを私は研究しています。そもそも細胞は、
しました。
今回採択していただいた研究課題
「神
少しぐらいの不具合なのかとんでもなく大変な
経回路網の動作原理解明のための集光フェムト
不具合なのか最初から知るすべもなく、タンパ
秒レーザー刺激技術の開発」は、このフェムト
ク質の形の不具合を見つけ出して修正する仕組
秒レーザーを神経細胞ネットワークの伝達制御
みをもっていて、この仕組みがうまく機能した
に活用するものであり、従来の遺伝子操作を代
か、対応しきれない異常が起こったかの違いと
替する細胞機能操作への応用を目指します。最
も言えます。このメカニズムを解析することで、
後になりますが、貴財団の益々のご発展を心よ
少しでも疾患の原因究明や治療への手がかりが
りお祈り申し上げます。
得られればと願っています。
細川 千絵
前列左が筆者
─ 52 ─
細川 暢子
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
百日咳研究に活路が開かれて
ヒトゲノムDNAの柔軟でダイナミックな収納
大阪大学微生物病研究所
教授
国立遺伝学研究所構造遺伝学研究センター
教授
堀口 安彦
前島 一博
この度は、私どもの研究課題「百日咳の動物モ
私たちヒトの体は約60兆個の細胞からなり、そ
デル作製と病態発生メカニズムの解析」に奨励金
の細胞1つ1つに全長2mのDNAが入っています。
のご助成を賜り誠にありがとうございました。
こんなに長いDNAが、どのように収納され、使
百日咳は主に乳幼児が罹患する呼吸器感染症
われているのでしょうか? 細胞の核や分裂期染
で、特徴的な咳発作を伴います。急性の激しい
色体の中で、DNAはヒストンの芯に巻き付いた直
症状が観察される病気ですが、一方で、原因と
径 11nm(nm=1mの10億分の1)のヌクレオソー
なる百日咳菌はヒト以外の哺乳動物には感染しま
ムを作ります。それが規則正しく折り畳まれて直
せん。そのため、動物モデルによる感染実験が
径30nmのクロマチン線維となり、さらに階層構
成立しないので、咳発作などの病態発生メカニ
造を形成していると考えられてきました。クロマチ
ズムが不明のままでした。しかし近年、百日咳菌
ン線維の存在は電子顕微鏡による観察やX線散
と類縁の気管支敗血症菌が効率よくラットに感染
乱の測定によって裏付けされており、1980年以降
し、しかも百日咳と類似の咳発作を呈することが
の教科書では染色体構造の定説として記載され
当研究室において発見され、これによって病態解
てきました。ところが、私たちがクライオ電子顕
析の道を拓くことができました。研究成果の詳細
微鏡やX線散乱を用いて調べたところ、定説のよ
はまだここで述べることはできませんが、いただ
うなクロマチン線維は存在しませんでした。そし
いた助成金を効果的に使って百日咳の病態解明
て、ヒトゲノムDNAはとても不規則に収納されて
に結びつけたいと考えています。ところで、百日
おり、より柔軟でダイナミックな姿が浮かび上がっ
咳の病態解明に着手する以前の当研究室のメイン
てきました。いま、私たちの研究はとてもエキサ
テーマは「種々の細菌毒素の構造機能解析」で、
イティングな時を迎えています。このような大切な
本研究課題とは全く異なるものでした。そこでこ
時に内藤記念財団にサポートをして頂きました。
こ数年はテーマの大幅な変更が災いしてか、過去
また、内藤記念財団には1999年、私がスイス・ジュ
の業績が重視される公的な競争的資金を思うよう
ネーブ大学のUli Laemmli教授のもとに留学する
に獲得できず苦しんでおりましたところ、当助成
際もサポートして頂きました。そこで学んだことは
事業で課題を採択いただいて本当に感謝にたえ
「常識にとらわれず、自由にものを考える」という
ません。これもまた道を拓かれた思いで、関係の
ものでしたが、今回の研究にも十分に生かされて
先生方に納得していただけるような業績を挙げる
いると思います。この意味で、内藤記念財団の2
べく、研究員一同努力していきたいと考えており
度にわたるサポートに深く感謝しております。
ます。
左端が筆者
後列左が筆者
─ 53 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
麻疹ウイルスワクチンの有効性
力量ある触媒の開発に向けて
北海道大学大学院薬学研究院
教授
東京大学大学院薬学系研究科
准教授
前仲 勝実
松永 茂樹
この度は、研究助成に採択いただきましてあ
この度は、2011年度内藤記念科学奨励金を贈
りがとうございます。採択研究テーマに関連す
呈していただきまして本当にありがとうござい
る麻疹ウイルスワクチンについて紹介させてい
ます。貴重な助成金では、医薬品リード化合物
ただきます。2007年に日本で大流行し、大学が
の探索研究につなげることを念頭におきながら
閉鎖される等、大変社会的に問題となった事も
「力量ある触媒」の開発とその応用を進めてい
記憶に新しいと思います。実は、麻疹ウイルス
ます。特に、抗腫瘍薬、抗結核薬、抗マラリア
は未だに発展途上国の年間数十万人の乳幼児が
薬などの創製に重要な役割を果たすスピロオキ
死亡する、極めて恐ろしい病気を引き起こして
シインドール骨格に着目し、この骨格を効率的
います。しかし、麻疹ウイルスの弱毒生ワクチ
につくる触媒の開発に取り組んでいます。これ
ンは大変有効であり、WHOが中心となり、麻
まで誰もできなかった反応を実現するための鍵
疹撲滅に向けた世界的な取り組みが進んでおり
となるのが、新たな「触媒」のデザインです。
ます。日本は、本年がその目標年に当たり、厚
望みの反応がうまく進行するように、二つの反
労省・感染研・地方衛生研等の努力により、ワ
応剤を複数の触媒活性点で精密に捉え、如何に
クチン接種が進んで撲滅に向けて着実に進んで
活性化/コントロールするかという点に主眼を
おります。他方、なぜワクチンがこれほど重要
置き、試行錯誤を繰り返す毎日です。どういっ
なのかについては、最近まで十分に検討されて
た構造の触媒が優れた機能をもつのか? 触媒
いませんでした。私どもは麻疹ウイルスの蛋白
分子中にどのように金属を配置すればよいの
質の形を詳細に見る事に成功し(目に見えない
か? どのような反応を研究テーマとして設定
X線を使用して)
、全く予想しておりませんで
すれば新しい医薬品の探索研究につなげられる
したが、蛋白質に付いている糖が重要で、それ
のか? そんなことを考えながら、ユニークで
が効率よく免疫能を上げる可能性があることが
力量のある触媒を生み出すべく、一緒に研究を
わかりました。今後は、さらにこのモデルを検
行ってくれる学生さん達と協力しながら実験と
証するために、近縁のジステンパーウイルスに
議論を重ねています。これまで誰も手にするこ
おいて調べることにより、他の感染症について
とができなかった化合物を“創る”手法を開発
合理的なワクチンの設計に役立つ知見を得たい
し、そこを出発点として創薬研究に取り組んで
と考えています。
いきたいと考えています。まだまだ研究者とし
ては荒削りではありますが、情熱を持って研究
に邁進していこうと思います。
前列左から4人目が筆者
─ 54 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
超分子複合体蛋白質を知る
小分子RNAの可能性
兵庫県立大学大学院生命理学研究科
教授
新潟大学研究推進機構
助教
水島 恒裕
三好 智博
私の研究は蛋白質分解経路に関わる超分子複
タンパク質をコードしていないRNAを総称して
合体蛋白質群の構造解析を行い、酵素がどのよ
ノンコーディングRNAと呼ばれています。ゲノムの
うにして働いているかを明らかにすることです。
解読により、ヒトでは、タンパク質をコードしてい
その中でも特に大きく66個のサブユニットから
る領域は、たった2%しかなく、残りの98%の領
成る26Sプロテアソームの構造解析は、複合体
域からは、タンパク質をコードしていないノンコー
蛋白質の作動機構を理解するという点で非常
ディングRNAが作られていることが示されました。
に魅力的であると共に、酵素が生体内において
また、このノンコーディングRNAの割合が高等生
細胞周期制御など重要な役割を担っていること
物になる(生物の複雑さが増す)につれて増加す
から特に興味を持って行っています。私は26S
ることから、生物の複雑さを作り出しているのは、
プロテアソーム中の触媒ユニット20Sプロテア
ノンコーディングRNAである可能性が指摘されて
ソームのX線結晶構造解析のテーマで研究をス
います。
タートしました。20Sプロテアソームの総サブ
近年、これまでその存在が知られていなかった
ユニット数は28個と26Sプロテアソームの半分
20〜30塩基程度の小分子ノンコーディングRNA
以下ですが、当時は本当にX線結晶構造解析が
が、高等動物から植物で塩基配列特異的な遺伝
可能かと学会で質問されたこともありました。
子発現制御を行っていることや、様々な真核生物
約10年がかりで20Sプロテアソームの構造解析
種で保存されていることが明らかになりました。
に成功し、次の目標として26Sプロテアソーム
現在、この小分子RNAによる遺伝子発現制御メ
の構造解析を行う中で、複合体蛋白質がどのよ
カニズムを応用したRNAiという手法が、バイオテ
うにして形成されるかという本研提案の課題が
クノロジーや創薬等の分野で使われていますが、
生まれてきました。これはプロテアソームの複
メカニズムにおいて不明な部分も多く残されてい
合体形成過程に、それを補助する専用シャペロ
ます。私は、X線結晶構造解析という手法を取り
ンが必須であることが見出されたことによるも
入れ、この機構のさらに詳細な解明をして、さら
のです。現在、
蛋白質の奥の深さを感じながら、
なる小分子RNAの応用の可能性を見出して行き
26Sプロテアソームの構造解析に加え複合体の
たいと考えています。
形成機構の研究を行っています。最後に本研究
最後になりましたが、内藤記念科学振興財団よ
課題に対して内藤記念科学振興財団よりご支援
り研究助成金を授与して頂き、誠にありがとうご
を頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
ざいます。貴財団の益々のご発展を祈念しており
ます。
中央が筆者
─ 55 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
臆病者の研究
動脈硬化から組織を守る
金沢医科大学医学部微生物学部門
特任教授
東京大学大学院農学生命科学研究科
助教
インフルエンザウイルスの研究をしていますと
ヒトの体をくまなく走行している血管は、体中
言うと「喰いっぱぐれがないですね」とよく言われ
の臓器に酸素と栄養を供給することで、その機能
ます。新型(鳥)インフル、ワクチンや抗ウイルス
を維持する重要な働きを担っています。ヒトの死
薬の開発……次から次へと研究テーマが現れる
因の多くを占める心筋梗塞、脳梗塞や糖尿病に
のでそのように思われるのでしょう。
合併して起こる虚血性下肢壊死といった病気は、
私はこの20年余り、これらとは縁遠い研究を
生活習慣病に伴って起きる動脈硬化が起こって血
続けてきました。ウイルス粒子の形態形成、ゲノ
管が詰まり、血液が届かなくなった組織が死んで
ムの取込みなどをキーワードとした研究です。今
しまうことで起こります。私事で申し訳ありません
回は、ウイルス粒子のもつイオンチャネル蛋白がゲ
が、私の父も数年前、長く患ってきた糖尿病に併
ノムの取込みにどのように関与するのかを解析す
発した動脈硬化で、片足を失いました。
るというテーマで申請し、科学奨励金・研究助成
これらの病気を治療するには、止まった血流を
をいただきました。あらためて貴財団の皆様と選
いち早く戻すことが大切です。
現在血流の無くなっ
考委員の方々にお礼を申し上げます。
た部分へ、血管を新しく伸ばす薬が開発されて、
恩師の故中村喜代人教授は、一つの研究対象
その治療応用が試みられています。しかし、新た
に固執する勇気と臆病さがあればいずれは一つ
に血管を伸ばすには時間がかかり、酸欠になって
の形が出来上がる、と述べられています(
「東北
死にゆく脳の神経や、心筋の細胞を助けることは
のコロニー」編集後記、No.29、1994年、日本細
できません。
菌学会東北支部会)
。私はウイルスが創り出す美
現在私は、血管の側復路形成というものに注目
しいミクロの世界に魅了され研究を続けてきたと
して研究を行っています。側復路とは詰まった血
いうと聞こえはよいのですが、実は間違いなく臆
管の周りに存在する、無数の毛細血管のことで、
病者です。しかし臆病ではあっても専門バカにな
普段の血液運搬にはあまり利用されていません。
らぬよう、感染症の全体像について考えをめぐら
動脈硬化が起きた時に、詰まった血管の側復路
せながら研究を進めていくというスタンスは失わ
をいち早く、大きく開く方法をみつけて最大限に
ないように心がけています。
「一つの形」への道
活用すれば、血流を早く回復することができ、死
は厳しいものがありますが、今回助成していただ
んでしまう組織を助けることができると考えてい
いたことを励みにして、新たな一歩を踏み出した
ます。動脈硬化で苦しむ多くの患者さんを救うた
いと気を引き締めています。
めに、日々研究に勤しんでまいりたいと思います。
村木 靖
村田 幸久
左から2人目が筆者
─ 56 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
多様性が広がるイオンチャネル研究
リアノジン受容体とともに20年
京都大学大学院地球環境学堂及び工学研究科
教授
山口大学医学部付属病院第二内科
講師
30年近く前からイオンチャネル研究に携わるこ
このたびは2011年度内藤記念科学奨励金・研
とになった。そのころは、非常に鋭敏な電気生
究助成を贈呈して頂き大変ありがとうございます。
理学的手法により先立って機能が明確にされて
私は、今 から約30年前に大学を卒業し臨 床
いたイオンチャネルの分子的実体を、分野に導
医として研 鑽を積む一方、大学院に入学し「心
入された分子生物学が次々と明らかにしつつあっ
不全時の心機能低下」に関する血行動態的研究
た。従って、ある意味、安心して機能を指標に
をしてまいりました。その後、細胞レベルでそ
して研究してればよかった。しかし今はそうは
の機 序を解明したく1993年から2年間、Boston
いかず、不明瞭な機能的特徴を、それも多重に
Biomedical Research Instituteに留学し「 骨格
示すイオンチャネルを相手に四苦八苦することが
筋の筋小胞体(SR)カルシウム(Ca)放出チャ
大事である。それでも本来生命とはそういうもの
ネルであるリアノジン受容体機能に関する研究」
だと納得して、結果として見えてくる生物学的意
を行い、そこで得られた知見、技術を帰国後心
義が高いことから、イオンチャネル研究に以前
筋に応用し、心不全時のCa放出異常に関する研
にも増して親しませて頂いている(歴史に残れる
究を続けてまいりました。今年で約20年になりま
かは別問題であるが)。TRPチャネルはまさにそ
すが、その間数回ですが鳥肌がたつような私の
の代表格と言える。殊に、酸素や活性酸素種な
中でのブレイクスルーがありました。例えば、不
どを含めた内因性の活性化学種との関係が面白
全心筋SRからのCa漏出をある化合物がピタッと
く、しばらくはそれを主要課題にしたい。Redox-
抑制した瞬間(何せ1年間以上、うまくいかず弱
excitation couplingとも言える経路だけでなく、
気になっていた時でありしびれました)、この現
カルシウムシグナル動員する新規経路をRedox感
象を基盤にリアノジン受容体の中にCa漏出を修
受性TRPチャネル群は形成しており、酸素生物
復するドメインが内在されていることに気付いた
学として発展しつつある分野の中でユニークな位
瞬間、です。これらの感動的な瞬間に立ち会え
置を占める研究を展開できると信じている。
ることを期待して、粘り強く地道に研究し約20年
森 泰生
矢野 雅文
が経過しました。
医療人としての奥深さ(思考力・応用力・忍耐力)
を身に着けるうえでも研究は極めて有効でありま
すので、後進には研究の面白さを伝えています。
前列中央が筆者
─ 57 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
置換芳香族化合物の新合成法
ケミカルバイオロジーの贈り物
千葉大学大学院理学研究科
准教授
東京医科歯科大学生体材料工学研究所
助教
吉田 和弘
吉田 優
ベンゼン環上に様々な置換基を有する芳香族化
この度は、第43回内藤記念科学奨励金に採択
合物、即ち置換芳香族化合物は、現在、先端材
していただき、深く感謝しております。本助成に
料物質や工業薬品、医農薬品等における重要物質
恥じない成果を残さねばと身の引き締まる思い
として幅広く利用されています。そのため、これら
です。
の有用な合成法の開発は重要な研究課題となって
今回、
「機能性ジインの創製に基づく生体分子
います。
化学修飾法の開発」という研究テーマに対して、
置換芳香族化合物を合成する従来法としては、
助成をいただくことになりました。この研究で
芳香族求電子置換反応と呼ばれる反応が最も代
は、新しいジイン化合物の創製を通して、生命
表的でありますが、本手法は、一般に激しい反
科学研究を加速させる新手法の開発を目指して
応条件下で反応を行わなければならないというこ
います。
とと、分離困難な位置異性体の副生を伴いやす
私たちは、有機化学の観点から、生命科学研
いという本質的かつ重要な問題点を抱えています。
究に有用な新手法を開発しています。
そのなかで、
このことは、本手法によって得ることのできる置換
最近、一見するとおかしな現象に遭遇しました。
芳香族化合物には合成的な制限があることを意味
一般的には、近くの置換基で化学反応の進行は
しています。
阻害されますが、これとは逆に、大きな置換基が
私達は、より複雑な芳香族化合物の需要に応
近くにある方が反応性の高いアジド基を見つけた
えるべく、望みの位置に置換基をあらかじめ配置
のです(Sci. Rep. 2011, 1 , 82)
。検討の結果、こ
した非環状 基質を選択的に合成し、このものを
の現象が「共鳴禁止」という原理にもとづいて引
閉環メタセシスと呼ばれる反応を用いて閉環させ、
き起こされることが分かりました。これは、アジ
最後に芳香族化させるというアプローチによって、
ド基にまつわる新しい化学としてだけでなく、観
目的の化合物を単一の生成物として得る新たな芳
測したい生体分子を修飾する手法としても重要
香族化合物合成法の開発研究を行なっています。
な結果です。この結果は、アジド基を使った生
現在、本手法を複素環芳香族化合物の合成に
体分子修飾法の研究で偶然出会った現象ですが、
応用する研究も行っておりますが、従来法では得
異常な実験結果を見逃さず、根気よく解析して
難いインドール化合物などを得ることに成功して
原理を突き止めた点では、有機化学者として真
います。益々高まりつつある複雑な置換様式をも
摯に研究に向き合ってきた中での必然でもあると
つ芳香族化合物の需要に柔軟に対応できるよう、
考えています。今後もこのような姿勢を大事にし
今後さらなる方法論の拡張を目指していきます。
て、研究に取り組んでいきたいと思っています。
後列右端が筆者
─ 58 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
感染パターン認識と自然免疫
研究費を頂き師を思う
千葉大学真菌医学研究センター
教授
静岡県立大学大学院薬学研究科
准教授
米山 光俊
渡辺 賢二
我々の日常は、様々な病原体の感染に曝され
北海道大学の学生だった頃、僕は実験中によ
ています。それらによる疾病に対抗するため、
くガラス器具を割ったりした。また、試薬を必
我々の身体は高度に制御された免疫システムを
要以上に使用して実験したことがあった。そ
働かせています。特に、ヒトを含めた高等脊椎
の時は、実験を一生懸命にがんばって論文とな
動物は自然免疫と獲得免疫という2つの免疫シ
るような結果を出せば文句は無いだろうと考え
ステムを持ち、それらが協調的に働くことでか
たことを記憶している。何一つ文句を言わずに
らだの恒常性を維持しています。この10数年の
僕を指導して下さった先生に本当に感謝して
解析から、自然免疫による病原体感染の検知と
いる。先生は、僕に対して細かなことなど一切
排除、獲得免疫制御についての理解が著しく進
言わなかった。トイレから出てきてハンカチで
展してきました。獲得免疫は、リンパ球細胞で
手を拭きながら教授室へ入っていく。何も言わ
の遺伝子再構成を伴った高度な特異性を持つ免
ないからこそ、自分の背中を見て何か学べる
疫システムですが、個々の病原体感染に対して
ことがあったら学びなさいと言っているよう
それぞれ学習・記憶する必要があり、発動まで
だった。自分が大学の教員となり学生を指導す
に時間がかかります。一方、自然免疫では感染
る立場となって、大変申し訳ないことをしてい
を「パターン」として認識するため、特異性は
たと思い悔いている。僕は今、あの時の先生の
低いものの、迅速な病原体排除が可能であるこ
足元にも及ばないであろう。個々の研究のすば
とが明らかになってきました。我々は、この自
らしさと言うものは、アイディアと実験技術に
然免疫において、細胞内に侵入したウイルス由
依存するものであると僕は考えている。しかし
来の非自己RNAを検知するウイルスセンサー
ながら、研究費があれば研究時間を節約できた
分子RIG-I様受容体(RLR)を同定し、その機
り、効率的に実験できたりすることも事実であ
能解析を行っています。我々の細胞内に侵入し
ると思われる。今回、そのような貴重な研究費
た非自己RNAを、RLRがいかにして自己RNA
を頂くことができ大変感謝している。最近では
と識別し、抗ウイルス自然免疫を誘導している
様々なところで予算削減がなされ、研究費獲得
のかを明らかにすることは、将来的に新しいコ
が困難な状況である。その様な状況下で、選抜
ンセプトによる抗ウイルス予防・治療薬の開発
されて今回採択して頂いた。これに恥じぬよう
へとつながる可能性があると考え、その分子メ
すばらしい成果を出すべく日々研究に取り組ん
カニズムについて解析を続けています。
で行きたいと考えている。そして何より僕の先
生に少しでも近づきたい。
右上が筆者
─ 59 ─
科学奨励金・研究助成の贈呈を受けて
化学の目で、ヒトテロメアの謎を解く
宮崎大学医学部機能制御学講座
准教授
新たながん治療のためのターゲットとなっている。ヒ
トテロメアDNAとRNAの分子構造・機能を明らか
にすることより、染色体構造の安定化、老化の調
徐 岩
節や、がん化といった複雑な生命機構の解明に寄
与し、それらの知見に基づいた老化やがん化を標
的にした新薬開発の加速にも大きく貢献するものと
テロメアは遺伝情報を担う生体物質である染色
期待できる。
体の末端に存在するDNAであり、大切な遺伝情
著者はこれまでに、①化学的アプローチによるヒ
報を保護する役目を担っている。生物の体の中で
トテロメアDNAとRNAの分子構造と機能の解明、
は、細胞が分裂するたびに、テロメアが短くなって
②テロメアをターゲットとするがん標的治療手法の
いく。テロメアが限界近くまで短くなると染色体が不
開発、
2つの目標を中心として研究してきた。すでに、
安定になることにより細胞は老化し、
寿命を全うする。
人工核酸を利用することにより、世界で初めてヒトテ
この為、テロメアは『細胞寿命時計』として注目さ
ロメアDNAが新規四重鎖構造をとることを発見した
れている(テロメアについての研究は2009年のノー
( 米 国 化 学 会ACSのChemical & Engineering
ベル医学生理学賞を受賞)
。靴ひもの端には、ほ
News でニュースとして報道された)。また、長鎖の
ヒトテロメア末端DNAが連続的に四重鎖構造を形
成する高次構造を発見した。さらに、四重鎖構造
の形成を利用することで、がん治療のターゲットとし
て注目されているヒトテロメアDNAの特異的切断に
も成功した。
Blackburnらに対してノーベル医学・生理学賞
が与えられたことでもわかる通り、今までのテロメア
研究は主に生物学分野側からのものである。これ
に対して我々の手法は、テロメアを「分子」として
捉え、原子のレベルでその化学反応を追いかける
という新しいアプローチである。こうした手段から今
後何が生まれ、
何が見つかるか。進展を続ける「テ
ロメアの化学」は、
核酸のサイエンスに新たなステー
ジを切り開いていくと確信する。先駆的な研究を生
み出し、独創的な概念の提示を目指したい。
つれを防ぐためのカバーがかぶせられているが、テ
ロメアはそれに似た役割を果たしている。一方、が
ん細胞の多く(90%)ではテロメラーゼ(酵素)が
活発に働き、テロメアを異常伸長させてがん細胞の
無限増殖をもたらしている。このことからテロメアは
─ 60 ─
海外留学だより 目次
コーヒータイム……………………………………………………… 荒磯 裕平
62
かけがえのないアメリカ留学……………………………………… 小川 陽一
62
ロサンゼルス留学日記……………………………………………… 河尻 澄宏
63
チーズバーガーがスープだった…………………………………… 楠瀬 賢也
63
ユトレヒト留学便り………………………………………………… 白戸 憲也
64
サンディエゴでの研究生活………………………………………… 進藤 直哉
64
ロンドン留学記……………………………………………………… 高田 宏文
65
素晴らしき哉、ポスドクライフ!………………………………… 土井真木子
65
フランス留学で得た財産…………………………………………… 冨川 千恵
66
UCSFより……………………………………………………………… 鍋倉 宰
66
ミュンヘン留学記…………………………………………………… 福田 善之
67
ETH研究留学… ……………………………………………………… 三木 剛志
67
─ 61 ─
海外留学だより
コーヒータイム
かけがえのないアメリカ留学
ストラスブール大学生理学・生物化学研究所
博士研究員
Dr Mark C. Udey Laboratory, Dermatology Branch,
National Cancer Institute, National Institutes of Health, USA
リサーチフェロー
荒磯 裕平
「コーヒーヲ、ノミタイデスカ?」
私たちの研究チームの一日は、リーダーである
Becker先生のこの言葉で始まります。先生が私を
コーヒータイムに誘うために一生懸命に覚えてくれ
た日本語です。この言葉を合図に、皆でコーヒー
を片手に研究所玄関前の広場へ向かいます。そこ
では研究に関する議論からプライベートの相談ま
で色々な話を楽しみます。フランス人はコーヒー
を片手にお喋りをするのが大好きで、朝、昼、夕
方には必ずコーヒータイムをとります。密にコミュ
ニケーションを取ることで研究の進捗状況を共有
することができますし、リラックスした雰囲気で
議論を重ねる中で、研究プロジェクトに関する新
しいアイディアが生まれることも多々あります。
私は、ここストラスブールで細胞生物学の研究
をしています。細胞の中には生命活動に必要なエ
ネルギーをつくるミトコンドリアと呼ばれる器官が
ありますが、ミトコンドリアの活性を制御している
細胞内因子を解き明かすことが私の主な研究テー
マです。初めて習う手法が多く大変なときもあり
ますが、コーヒーを片手に皆に相談していると、
必ず解決の糸口が見つかります。
コーヒータイムで育んだチームワークが、大き
な成果を生み出すことを実感する毎日です。今
度は私がフランス語で「Tu veux boire du café
(コーヒーを飲みたいですか?)
」と言う番ですね!
小川 陽一
昨年 8月よりアメリカ国立衛生研究所のDermatology branchのディレクターである Dr. Mark C.
Udeyに師事し研究を行っております。厳しくも研究
に真摯な姿勢に感銘をうけます。現在の研究内容
は2つあり、1つは尋常性乾癬という免疫異常が原
因である皮膚疾患のマウスモデルを用いその発症
機序を検討すること。もう1つは近年、いくつかの
上皮系腫瘍で高発現する、あるいは上皮系腫瘍
のcancer stem cellに発現することが発見された
EpCAM(Epithelial cell adhesion molecule)と
いう膜蛋白の毛包上皮における発現の意義を検討
することです。
元々外国人に接する事が苦手で留学なんてとん
でもない、と考えておりましたが、上司の勧めもあり
留学を決意した経緯があります。まだまだ英語での
コミュニケーションは拙いですが、多様な人種の中
で様々な文化、慣習、思考に触れられていること
は非常に貴重な経験であると感じております。
私 が 他 の 留 学 中の 方々と異なると思われる
のは、3人の子供のうち長男が中学生であるという
ことです。アメリカのelementary schoolの情報は
留学していた先輩などから得られますが、middle
school の情報は無いに等しく、middle schoolに馴
染めるか、また学力が低下しないかを心配しており
ました。よく言われることですが、子供の適応能力
は驚くべきもので、現地のmiddle schoolでの生活
を非常に楽しんでおり、英語の上達も目を見張るも
のがあります。
最後に助成金を頂き留学させて頂いていることを
心より皆様に感謝いたします。
右から2人目が筆者
─ 62 ─
海外留学だより
ロサンゼルス留学日記
チーズバーガーがスープだった
カリフォルニア大学ロサンゼルス校
postdoctoral fellowship
Cleveland Clinic Cardiovascular Medicine, USA.
Research fellow
私は、2011年4月よりカリフォルニア大学ロサン
はじめに、私の海外留学研究において、内藤
ゼルス校(UCLA)生物化学科Van Der Bliek研
記念科学振興財団から助成をして頂き深く感謝
究室でポスドクとして留学させて頂いております。
を申し上げます。私は2011年9月よりアメリカ・
当研究室の主な研究プロジェクトは、ミトコンド
オハイオ州にあるクリーブランドクリニック、
リアの分裂と融合メカニズムの解明であり、これ
Marwick H. Thomas教授のもとで、Research
まで多くのタンパク質の同定及び機能を明らかに
fellowとして研究を行っています。クリーブラ
してきました。そして、上記メカニズムとパーキン
ンドクリニックはUS. News & World Reports
ソン病等神経変性疾患との関連についてが、私
誌のAmerican’
s Best Hospitalにおいて循環器
の研究テーマです。ミトコンドリアはATPを効率
部門では14年連続で全米1位(現在更新中)に
良く産生する重要な細胞内器官ですが、ここ10
ランキングされる、全米を代表する医療機関で、
年で、ミトコンドリアは分裂と融合を繰り返すこと
私は心血管画像部門に所属しており、主に臨床
により、その機能を維持することが分かってきま
研究を行っております。研究については、この
した。神経変性疾患は以前からミトコンドリアの
分野を代表する研究者の先生方に囲まれて、刺
機能異常との関連が指摘されており、このメカニ
激的かつ充実した日々を送っております。また、
ズムの関与を明らかにすることが、治療開発に繋
アメリカでの生活は研究以上に刺激的で、家族
がるものと考えております。
と共に毎日を楽しんでいます。ただし、英語だ
当研究 室はポスドク3人と小規 模ではありま
けは学生時代の無精がたたってか、特にレスト
すが、他の研究室も含めて意見の交換を活発に
ランでの注文は常に戦いです。例えば、メニュー
行っており、効率的且つフットワーク良く実験を進
にチーズバーガーと書かれていたので、頼むと、
められていると実感しております。
チーズバーガー味の本日のスープが出てきま
大学周辺、近隣のビバリーヒルズ、サンタモニ
した。本当にチーズバーガーの味がしたりと、
カ等の治安は非常に良く、また気候も湿気や雨が
日本の感覚が通用しません。めげずに、残りの
少なく、一年中とても過ごしやすい環境です。日
留学生活を充実したものにしていくつもりです。
本では、中々チャンスが無かったテニス等の運動
最後になりましたが、このような恵まれた研究
も始めることができ、公私ともども充実した日々
環境への留学をサポートして頂いた内藤記念科
を過ごしております。
学振興財団に心より感謝申し上げるとともに、
このような貴重な留学をサポートして頂きました内
今後の貴財団のますますの発展をお祈り申し上
藤記念科学振興財団に心より感謝申し上げます。
げます。
河尻 澄宏
楠瀬 賢也
左が筆者
右端が筆者
─ 63 ─
海外留学だより
ユトレヒト留学便り
サンディエゴでの研究生活
Virology Division, Department of Infectious Diseases and
Immunology, Faculty of Veterinary Medicine, Utrecht University
Guest Researcher
Department of Chemistry, The Scripps Research
Institute
Research Associate
私は2011年9月より、オランダユトレヒト大 学 獣
内藤記念科学振興財団からのご支援を頂き、
医学部感染症免疫部門ウイルス学講座において、
米国スクリプス研究所(TSRI)にて研究に従事し
白戸 憲也
進藤 直哉
Peter Rottier教授のもと、Guest Researcherとし
ています。世界最大級の私立研究所であるTSRI
て1年間の研究留学をしています。
は南カリフォルニア、サンディエゴ郊外の街ラ・ホー
ユトレヒトはオランダ第4の都市で交通の要所で
ヤの太平洋を望む丘にあり、晴れの日は夕陽がと
すが、日本の皆様にとってはミッフィーの生みの親で
ても綺麗です。様々な分野で世界トップクラスの
あるディック・ブルーナの出身地として有名かもしれ
研究者を擁するTSRIですが、著者の専門である
ません。ユトレヒト大学は17世紀に設立された古い
有機化学も例外ではなく、中でもSharpless教授
大学で、オランダで唯一獣医学部を持つ大学でも
は不斉酸化の研究で2001年ノーベル化学賞を受
あります。
賞されたほか、
「クリックケミストリー」の概念の
現在のテーマはリバースジェネティクス法より猫伝
提唱者としても有名です。
「クリック」はシートベ
染性腹膜炎(FIP)の発生機序を明らかにするこ
ルトが「カチッ」と音をたててロックされるように、
とです。FIPは猫コロナウイルスによって引き起こさ
小さな分子パーツ同士が素早く確実に結ばれる様
れ、猫においては致死性の高いウイルス疾患です。
子を喩えています。特にSharpless研で開発され
コロナウイルスはRNAウイルスにしては約30kbとゲ
た金属触媒によるアジド−アルキン環化付加反応
ノムサイズが大きく、リバースジェネティクスによる組
では、広範なパーツを高い信頼性で結ぶことが可
換えウイルスの作成は困難な方ですが、Peter先生
能で、医薬探索をはじめ様々な分野に応用されて
のラボでは様々な系が動いています。
います。著者は現在、Sharpless教授とFokin准
帰国まであと4カ月程となってしまいましたが、まる
教授のもとで上記の反応を一層有用なものとする
で博士課程の学生に戻ったように毎日激しく実験を
べく、新たな触媒の開発を目指して日々実験して
しています。30半ばとなった身には少々厳しいので
います。
すが、オランダではおいしいビールが水より安く売っ
TSRIでは共用機器の管理や廃液の処理などは
ていますので、それで自らを鼓舞しています。
全て専門スタッフが行うので、研究に集中できま
最後に、今回助成していただいた内藤記念科学
す。また、内外の研究者による講演が頻繁にあり、
振興財団に心より感謝するとともに、貴財団の益々
研究意欲が刺激されます。一年中温暖で快適な
の発展をお祈り致します。
サンディエゴの気候もあり、TSRIの研究環境はま
さに理想的です。ここで研究できることに感謝し、
これからも日々精進したいと思います。
ユトレヒト大学構内のバス停にて
ユトレヒトの主な交通手段はトラムではなくバスです
─ 64 ─
海外留学だより
ロンドン留学記
素晴らしき哉、ポスドクライフ!
Cell Regulation Laboratory, Cancer Research UK,
London Research Institute
Postdoctoral Scientist
University of Pennsylvania, School of Medicine
Postdoctoral fellow
この度は、私の海外研究におきまして多大なる
不安と期待を胸にアメリカでの研究生活をス
助成をして頂き、内藤記念科学振興財団に深く感
タートさせて丸一年。ここには、素晴らしく自由
謝申し上げます。私は、2011年3月より、イギリス、
で心からサイエンスを楽しめる世界が広がってい
ロンドンに あ るCancer Research UK, London
ました。私の所属するKenneth Zaretラボは、多
Research Institute, Cell Regulation Laboratory
様な文化・分野のバックグラウンドを持つポスド
にてポスドクとして海外留学をさせて頂きました。
ク主体のラボです。メンバー同士は、和して同ぜ
研究所は、ロンドンのほぼ中心部に位置し、建造
ず、非常に良好な関係です。そんな仲間とともに、
物や博物館などからイギリスの歴史を感じられる
私は「細胞分化をもたらす遺伝子発現、そのクロ
だけでなく、Tube(地下鉄)や二階建てバス乗り
マチンレベルでの制御」の解明を目指して日々研
場がいたるところにあり、生活面でも非常に住み
究に励んでいます。はじめにボスと話し合い、研
やすく感じました。
究テーマの大枠を決め、あとは自由に研究を進
私の研究テーマは、細胞の増殖、分化、発達
めています。もちろん、ボスはいつでもディスカッ
において極めて重要な役割を有する染色体がい
ションに応じてくれますし、ラボにない技術を使
かにして正確に細胞分裂装置の中心的役割を持
いたい時には、他のグループとの共同研究をセッ
つ微小管と結合し、分配されるのかを明らかにす
トアップしてくれたりと、サポート体制は万全です。
るものです。この染色体の分配異常は癌化や他
日本のように、一つのラボにすべての実験機器が
の様々な疾患を引き起こすため、現在までに多く
揃っていないので少し不便ですが、他のラボに借
の研究者によって調べられており、近年では微小
りに行く事で情報交換の機会も得られるので、こ
管の伸長を阻害することで抗悪性腫瘍効果を発
れは長所でもあると思います。とにかくラボ間の
揮する乳がん治療薬としてハラヴェン(エリブリン
垣根が低いので、自ら動きさえすれば、大抵何で
メシル塩酸塩)が注目されています。本研究を通
も手に入ります。
して、さらなる医学の発展に貢献できることを目
まだまだ言葉の壁に苦しむ事もありますが、こ
標として日々研究を進めています。
のポスドクライフを存分に楽しめるのは、大阪大
最後になりましたが、このような研究留学をサ
学時代に近藤寿人教授をはじめ、研究室の皆様
ポートしていただきました内藤記念に感謝と今後
に鍛えて頂いたお陰だと感謝しております。そし
の貴財団の益々のご発展をお祈り申し上げます。
て、今回のチャンスを与えて下さった内藤記念科
高田 宏文
土井 真木子
学振興財団に心より御礼申し上げます。
右から2人目が筆者
左サイド後ろから3人目がボス、その手前が筆者
─ 65 ─
海外留学だより
フランス留学で得た財産
UCSFより
愛媛大学大学院理工学研究科
助教
カリフォルニア大学サンフランシスコ校微生物学
免疫学研究室
Postdoctoral scholar
冨川 千恵
鍋倉 宰
私は、フランス国立科学研究センター(CNRS)
・
この度は2010年度内藤記念海外研究留学助成
分子遺伝学研究センター(CGM)に1年間の予
金にてご支援頂き、
誠に有難うございました。現在、
定 で 留学させ て 頂いておりました。CNRSは、
カリフォルニア大学サンフランシスコ校微生物学免
フランス全土に多く研究所がありますが、私は、
疫学研究室のLewis L. Lanier教授の下でポストド
パリ郊外のゆったりとした生活がおくれる田舎町
クターとして留学生活を送っております。サンフラン
にある研究所に勤務しておりました。留学当初、
シスコは西海岸でも有数の風光明媚な観光地とし
暗くなる前には多くの研究者が帰宅してしまうとい
て知られる一方、近隣にスタンフォード大学やカリ
うスタイルに驚きました。彼らは、十分休暇をとり、
フォルニア大学バークレー校などもあり、研究者間
集中して研究を行うことで素晴らしい成果を上げ
の交流や共同研究も非常に盛んです。その意味で
ています。日本人の私は、なかなかこの流儀を真
は、生活上も研究上でも理想的な環境と言えます。
似する事ができず、皆が帰った後もだらだらと仕
現在、私は骨髄移植後の合併症である移植片
事をしてしまうという癖がなかなかぬけませんで
対宿主病の発症と、移植片生着率改善を同時に
した。そうはいっても、せっかくフランスに住ん
制御する研究に従事しております。留学して新規
でいるのだからと思い、週末にしばしばパリに出
の研究課題に臨むに当たり、最も驚いた事は研
かけ、フランス国内や近隣諸国を小旅行してリフ
究者間の協力体制です。基礎研究において遺伝
レッシュすることもできました。本留学で一番良い
子改変マウスやモノクローナル抗体の使用は必須
経験だったのは、世界の第一線で活躍している
ですが、当研究室では、大学内外や国内外を問
研究者とディスカッションし、お知り合いになれた
わず必要な材料は即利用可能な環境が提供され
事だと思います。帰国した現在でも、フランスで
ます。高価な実験機器は共通使用であり、専門
交流のあった方々と、研究を離れたところでもメー
のオペレーターが 管 理し、その 他 多 数のCore
ルでやり取りをしています。本留学での人との出
facilityが存在します。研究の進捗を鑑みた上で、
会い、海外研究者とのやり取りが躊躇なくできる
合理的・効率的なシステムを構築して運用する巧さ
ようになった事は、私にとって非常に大きな財産
に驚愕するばかりです。この点は日本で知り得るこ
となりました。この貴重な経験を生かし、少しで
とは不可能でしたし、留学する必要性を大いに感
も世の中に貢献できるような研究をしていきたい
じた瞬間でした。
と思います。
最後になりますが、海外留学という貴重な機会
最後に、貴財団のご援助に感謝し、今後ます
を与えてくださいました貴財団に心より感謝を申し
ますのご発展をお祈り致します。
上げます。
左から2人目が筆者
右端が著者
─ 66 ─
海外留学だより
ミュンヘン留学記
ETH研究留学
マックスプランク生化学研究所構造生物学部門
ポストドクトラルフェロー
Institute of Microbiology, Department of Biology,
ETH Zürich
Postdoctoral fellow
私は2011年4月より、ドイツ、バイエルン州
2011年4月より、スイス・チューリッヒにあ
のマーティンスリードにあるマックスプランク
るスイス連邦工科大学のWolf-Dietrich Hardt教
生化学研究所の構造生物学部門に留学してい
授のもとでポスドクとして研究を行っています。
ます。
留学地であるマーティンスリードは、
ミュ
本大学は1854年にスイス連邦政府により設立さ
ンヘンに隣接している地域です。
ミュンヘンは、
れた自然科学と工学を対象とした工科大学で、
オクトーバーフェストやクリスマスマーケッ
その頭文字よりETHの略称でチューリッヒ市
ト、サッカーチームのバイエルンミュンヘンな
民に親しまれています。私が所属するHardt教
どで、日本人にとっても聞き覚えのある土地で
授の研究室は総勢約20名からなり、腸管系病原
はないかと思います。ミュンヘンは“人口130
細菌であるサルモネラ属細菌による腸炎発症メ
万人の村”と形容されるだけあって、多くの人
カニズムおよびそれによる免疫応答とその感染
が友好的で、私が拙い片言のドイツ語で話しか
制御について研究しています。
けても笑顔で丁寧に対応してくれます。
未だに言葉の壁に苦しむ毎日ですが、刺激的
留学先では、低温電子線トモグラフィー法を
な環境で研究できることを大変嬉しく思います。
用いて樹状突起スパイン内部の三次元構造を明
特に、Hardt教授とのdiscussionはとても貴重
らかにするために研究を行っています。留学先
な時間であり、その幅広い知識と研究の展開に
である構造生物学部門は、世界に先駆けて低温
は学ぶべきところが多く、今後の研究における
電子線トモグラフィー法を用いた研究を行って
大きな財産になると感じています。また、留学
きたため、実験、解析法などについて多くのこ
して強く感じることは「研究室(者)間におけ
とを学ぶことができ、興奮しながら日々の実験
る連携の早さ」です。これまでに、内外を含め
を行っています。また、仕事の後には、バイエ
て、いくつかの共同研究を行いました。中には、
ルン特産のヴァイスビア(白ビール)の注ぎ方
当初の目的から外れるなどして中断したものも
から飲み方まで教えてもらっています。さすが
ありましたが、最新の実験技術やアイディアを
にビール大国ドイツの中でも有名なだけあっ
体験でき、とても貴重な経験でした。
て、どのヴァイスビアもとてもおいしいです。
最後になりましたが、このような貴重な研究
最後になりましたが、この度は貴財団の海外
留学を支援して頂きました内藤記念科学振興財
研究留学助成金にて海外留学をご支援頂き本当
団に心より感謝申し上げるとともに、貴財団の
にありがとうございました。貴財団の今後益々
更なるご発展をお祈り致しております。
福田 善之
三木 剛志
の御発展を心よりお祈り申し上げます。
左側が筆者
─ 67 ─
第43期(平成23年度)決算報告
貸借対照表
平成24年3月31日現在
(単位:円)
科 目
Ⅰ資産の部
1.流動資産
現 金 預 金
未 収 利 息
前 払 金
立 替 金
流動資産合計
2.固定資産
(1)基本財産
投資有価証券
定期預金
普通預金
基本財産合計
(2)特定資産
研究助成事業基金
特定費用準備資金
(2012年度留学助成金)
当年度
118,110,382
3,206,580
1,022,784
32,876
122,372,622
15,938,555,861
729,130,000
20,000
16,667,705,861
611,660,000
26,000,000
特定資産合計
(3)その他固定資産
投資有価証券
建物附属設備
什 器 備 品
敷 金
その他固定資産合計
固定資産合計
資 産 合 計
Ⅱ負債の部
1.流動負債
未払金
637,660,000
63,357,000
607,947
175,165
6,395,760
70,535,872
17,375,901,733
17,498,274,355
2,828,791
流動負債合計
2,828,791
負 債 合 計
2,828,791
Ⅲ正味財産の部
1.指定正味財産
受 取 寄 附 金
受贈投資有価証券
受 取 配 当 金
304,150,000
13,922,504,277
20,000,000
指定正味財産合計
(うち基本財産への充当額)
2.一般正味財産
(うち基本財産への充当額)
(うち特定資産への充当額)
正味財産合計
負債及び正味財産合計
前年度
増 減
14,246,654,277
(14,246,654,277)
3,248,791,287
(2,421,051,584)
(637,660,000)
17,495,445,564
17,498,274,355
(注)当年度は、公益法人会計基準(平成20年4月11日(平成21年10月16日改正)内閣府公益認定等委
員会)の適用初年度であり、前年度欄および増減欄については記載しておりません。
─ 68 ─
第43期(平成23年度)決算報告
正味財産増減計算書
平成23年 4月 1日から平成24年 3月31日まで
科 目
当年度
Ⅰ一般正味財産増減の部
1.経常増減の部
( 1 )経常収益
①基本財産運用益
基本財産受取利息
基本財産受取利息(振替額)
基本財産受取配当金(振替額)
②特定資産運用益
特定資産受取利息
特定資産受取配当金
③雑収益
受取利息
受取配当金
返還助成金
経常収益計
( 2 )経常費用
①事業費
②管理費
経常費用計
評価損益等調整前当期経常増減額
特定資産評価損益等
投資有価証券評価損益等
評価損益等計
当期経常増減額
2 .経常外増減の部
当期経常外増減額
当期一般正味財産増減額
一般正味財産期首残高
一般正味財産期末残高
Ⅱ指定正味財産増減の部
①受取寄附金
②基本財産運用益
基本財産受取利息
基本財産受取配当金
③基本財産評価益
基本財産評価益
④一般正味財産への振替額
一般正味財産振替額(受取利息)
一般正味財産振替額(受取配当金)
当期指定正味財産増減額
指定正味財産期首残高
指定正味財産期末残高
Ⅲ正味財産期末残高
(単位:円)
前年度
増 減
650,268,833
22,722,076
971,407
626,575,350
5,494,233
2,494,233
3,000,000
6,405,957
28,453
1,555,190
4,822,314
662,169,023
504,814,610
44,617,115
549,431,725
112,737,298
5,600,000
2,823,000
8,423,000
121,160,298
0
121,160,298
3,127,630,989
3,248,791,287
104,150,000
627,546,757
971,407
626,575,350
1,169,607,320
1,169,607,320
△ 627,546,757
△ 971,407
△ 626,575,350
1,273,757,320
12,972,896,957
14,246,654,277
17,495,445,564
(注)当年度は、公益法人会計基準(平成20年 4 月11日(平成21年10月16日改正)内閣府公益認定等委
員会)の適用初年度であり、前年度欄および増減欄については記載しておりません。
─ 69 ─
第43期(平成23年度)決算報告
正味財産増減計算書内訳表
平成23年 4月 1日から平成24年 3月31日まで
(単位:円)
科 目
公益目的事業会計
助成講演事業 資料収集展示事業
共 通
小 計
内部
取引
消去
法人会計
合 計
Ⅰ一般正味財産増減の部
1. 経常増減の部
( 1 )経常収益
①基本財産運用益
491,705,221
4,010,082
24,694,043
520,409,346
129,859,487
650,268,833
0
0
18,177,659
18,177,659
4,544,417
22,722,076
基本財産受取利息(振替額)
971,407
0
0
971,407
0
971,407
基本財産受取配当金(振替額)
490,733,814
4,010,082
6,516,384
501,260,280
125,315,070
626,575,350
②特定資産運用益
特定資産受取利息
5,494,233
2,494,233
0
0
0
0
5,494,233
2,494,233
0
0
5,494,233
2,494,233
特定資産受取配当金
③雑収益
受取利息
3,000,000
4,822,314
0
0
0
0
0
0
0
3,000,000
4,822,314
0
0
1,583,643
28,453
3,000,000
6,405,957
28,453
0
4,822,314
0
0
0
0
0
4,822,314
1,555,190
0
1,555,190
4,822,314
502,021,768
4,010,082
24,694,043
530,725,893
131,443,130
662,169,023
489,411,276
4,012,450
11,390,884
504,814,610
44,617,115
504,814,610
44,617,115
基本財産受取利息
受取配当金
返還助成金
経常収益計
( 2 )経常費用
①事業費
②管理費
経常費用計
489,411,276
4,012,450
11,390,884
504,814,610
44,617,115
549,431,725
12,610,492
△ 2,368
13,303,159
25,911,283
86,826,015
112,737,298
5,600,000
0
0
0
0
0
5,600,000
0
0
2,823,000
5,600,000
2,823,000
5,600,000
18,210,492
0
△ 2,368
0
13,303,159
5,600,000
31,511,283
2,823,000
89,649,015
8,423,000
121,160,298
0
18,210,492
―
―
0
△ 2,368
―
―
0
13,303,159
―
―
0
31,511,283
2,549,516,282
2,581,027,565
0
89,649,015
578,114,707
667,763,722
0
121,160,298
3,127,630,989
3,248,791,287
104,150,000
491,705,221
0
4,010,082
0
6,516,384
104,150,000
502,231,687
0
125,315,070
104,150,000
627,546,757
971,407
501,260,280
935,685,856
935,685,856
502,231,687 △
0
125,315,070
233,921,464
233,921,464
125,315,070
971,407
626,575,350
1,169,607,320
1,169,607,320
△ 627,546,757
一般正味財産振替額(受取利息)
△ 971,407
0
0
△ 971,407
0
一般正味財産振替額(受取配当金) △ 490,733,814 △ 4,010,082 △ 6,516,384 △ 501,260,280 △ 125,315,070
104,150,000
0 935,685,856 1,039,835,856
233,921,464
当期指定正味財産増減額
指定正味財産期首残高
―
―
―
10,422,317,566 2,550,579,391
指定正味財産期末残高
―
―
―
11,462,153,422 2,784,500,855
△ 971,407
△ 626,575,350
1,273,757,320
評価損益等調整前当期経常増減額
特定資産評価損益等
投資有価証券評価損益等
評価損益等計
当期経常増減額
2.経常外増減の部
当期経常外増減額
当期一般正味財産増減額
一般正味財産期首残高
一般正味財産期末残高
Ⅱ指定正味財産増減の部
①受取寄附金
②基本財産運用益
基本財産受取利息
基本財産受取配当金
③基本財産評価益
基本財産評価益
④一般正味財産への振替額
Ⅲ正味財産期末残高
971,407
0
0
490,733,814
4,010,082
6,516,384
0
0 935,685,856
0
0 935,685,856
△ 491,705,221 △ 4,010,082 △ 6,516,384 △
―
―
―
14,043,180,987
3,452,264,577
12,972,896,957
14,246,654,277
17,495,445,564
(注)当財団は、貸借対照表において公益目的事業会計を各事業別会計に区分していないため、一般正味
財産期首残高及び一般正味財産期末残高、指定正味財産期首残高及び指定正味財産期末残高ならび
に正味財産期末残高については、公益目的事業会計の小計欄、法人会計欄、合計欄に記載しており
ます。
─ 70 ─
第43期(平成23年度)決算報告
財務諸表に対する注記
1.重要な会計方針
当年度から「公益法人会計基準」
(平成20年4月11日、平成21年10月16日改正内閣府公益認定
等委員会)を採用しております。
(1)有価証券の評価基準及び評価方法
①満期保有目的の債券
償却原価法(定額法)を採用しております。
②その他の有価証券
時価のある債券については期末前1ヶ月の市場価格の平均に基づく時価法(評価差額
は正味財産増減額として処理し、売却原価は移動平均法により算定)を採用しており
ます。
(2)固定資産の減価償却の方法
建物附属設備及び什器備品は、定率法を採用しております。
(3)消費税等の会計処理
消費税等の会計処理は税込方式によっております。
2.基本財産及び特定資産の増減額及びその残高
(単位:円)
科 目
前期末残高
当期増加額
当期減少額
当期末残高
基本財産
投資有価証券
14,669,888,517
1,370,513,812
101,846,468
15,938,555,861
定期預金
725,000,000
519,130,000
515,000,000
729,130,000
普通預金
―
小 計
20,000
―
20,000
15,394,888,517
1,889,663,812
616,846,468
16,667,705,861
研究助成事業基金
606,060,000
335,600,000
330,000,000
611,660,000
特定費用準備資金
―
特定資産
26,000,000
―
26,000,000
(2012年度留学助成金)
小 計
606,060,000
361,600,000
330,000,000
637,660,000
合 計
16,000,948,517
2,251,263,812
946,846,468
17,305,365,861
─ 71 ─
第43期(平成23年度)決算報告
3.基本財産及び特定資産の財源等の内訳
科 目
基本財産
投資有価証券
定期預金
普通預金
小 計
特定資産
研究助成事業基金
特定費用準備資金
(2012年度留学助成金)
小 計
合 計
(単位:円)
(うち指定正味財産 (うち一般正味財産 (うち負債に
からの充当額)
からの充当額)
対応する額)
当期末残高
15,938,555,861
729,130,000
20,000
16,667,705,861
-13,922,504,277
-324,130,000
-20,000
-14,246,654,277
-2,016,051,584
-405,000,000
―
-2,421,051,584
―
―
―
―
611,660,000
―
-611,660,000
―
26,000,000
―
-26,000,000
―
-637,660,000
-3,058,711,584
―
―
637,660,000
17,305,365,861
―
-14,246,654,277
4.固定資産の取得価額、減価償却累計額及び当期末残高
科 目
建物附属設備
什器備品
合 計
取得価額
2,794,136
613,454
3,407,590
(単位:円)
減価償却累計額
2,186,189
438,289
2,624,478
5.満期保有目的の債券の内訳並びに帳簿価額、時価及び評価損益
内 訳
第298回中国電力株式会社社債
第246回利付国債
第249回利付国債
第36回15年変動利付国債
第277回利付国債
第269回利付国債
第285回利付国債
第258回利付国債
第290回利付国債
第299回利付国債
第291回利付国債
第306回利付国債
第95回利付国債
第299回利付国債
第321回利付国債
合 計
帳簿価額
10,000,000
199,812,724
199,324,864
200,175,704
99,676,806
99,030,958
201,203,688
100,881,372
100,763,355
100,309,431
101,545,873
200,666,649
100,581,517
102,532,020
199,546,623
2,016,051,584
─ 72 ─
時 価
11,112,000
201,040,000
200,990,000
196,700,000
105,400,000
103,430,000
213,640,000
102,390,000
105,600,000
104,850,000
105,010,000
210,250,000
101,410,000
104,850,000
199,990,000
2,066,662,000
当期末残高
607,947
175,165
783,112
(単位:円)
評価損(△)益
1,112,000
1,227,276
1,665,136
△3,475,704
5,723,194
4,399,042
12,436,312
1,508,628
4,836,645
4,540,569
3,464,127
9,583,351
828,483
2,317,980
443,377
50,610,416
第43期(平成23年度)決算報告
6.指定正味財産から一般正味財産への振替額の内訳
内 容
(単位:円)
金 額
経常収益への振替額
基本財産受取利息の計上による振替額
971,407
基本財産配当金の計上による振替額
626,575,350
合 計
627,546,757
7.その他
支払助成金の内訳 (単位:円)
内 容
金 額
科学奨励金事業費
240,000,000
若手ステップアップ研究助成事業費
14,000,000
特定研究助成事業費
30,000,000
海外研究留学助成事業費
15,000,000
若手研究者海外派遣助成事業費
8,460,000
海外学者招へい助成事業費
2,600,000
女性研究者研究助成事業費
50,000,000
講演助成事業費
8,500,000
合 計
368,560,000
附 属 明 細 書
1.基本財産及び特定資産の明細
基本財産及び特定資産の明細は、財務諸表に対する注記2、基本財産及び特定資産の増減額及
びその残高 に記載のとおりであります。
2.引当金の明細
該当事項はありません。
─ 73 ─
第43期(平成23年度)決算報告
財産目録
平成24年3月31日現在
(単位:円)
貸借対照表科目
場所・物量等
使用目的等
金 額
(流動資産)
現金
手元保管
運転資金として
72,942
預金
普通預金
運転資金として
118,037,440
未収利息
公社債・定期預金 経過利子
3,206,580
前払金
前払家賃・次年度購読料
公益目的事業および管理業務の財
源となる公社債・長期性預金の未
収利息
公益目的事業と管理業務に共用の
事務室および書庫の賃借料4月分等
立替金
利付国債・経過利子
公益目的事業および管理業務に使
用する共用財産である利付国債購
入時に支払われた経過利子
32,876
流動資産合計
1,022,784
122,372,622
(固定資産)
基本財産
投資有価証券
公社債 株式
運用益を、公益目的事業(80%)
及び管理業務(20%)に使用して
いる共用財産である。
15,938,555,861
埼玉りそな銀行東京支店
運用益を公益目的事業に使用して
いる。
324,130,000
埼玉りそな銀行東京支店
運用益を、公益目的事業(80%)
及び管理業務(20%)に使用して
いる共用財産である。
運用益を、公益目的事業(80%)
及び管理業務(20%)に使用して
いる共用財産である。
運用益を公益目的事業に使用して
いる。
315,000,000
研究助成事業基金
運用益を助成講演事業の財源とし
て使用している。
611,660,000
特定費用準備資金
公益目的事業(2012年度留学助成
事業)に使用するための準備資金
である。
26,000,000
投資有価証券
運用益を管理業務の財源として使
用している。
63,357,000
建物附属設備
事務室内装工事・入室管理装置他 公益目的事業(80%)および管理
業務(20%)に使用している共用
財産である。
電気錠システム・LANケーブル敷設他 公益目的事業(80%)および管理
業務(20%)に使用している共用
財産である。
敷金
公益目的事業と管理業務に共用の
事務室及び書庫の敷金
607,947
定期預金
三菱東京UFJ銀行本店
普通預金
ゆうちょ銀行郵便振替口座
729,130,000
90,000,000
20,000
特定資産
その他固定資産
什器備品
敷金
175,165
6,395,760
固定資産合計
17,375,901,733
資産合計
17,498,274,355
(流動負債)
未払金
給与手当、贈呈式費等に対する未払金 公益目的事業および管理業務の未払い分
流動負債合計
2,828,791
2,828,791
負債合計
2,828,791
正味財産
17,495,445,564
─ 74 ─
2012年度(平成24年度)助成事業の紹介
2012年度の内藤記念科学振興財団は一部助成金事業拡大を行います。科学奨励金・研究助
成および女性研究者研究助成金につきましては応募状況に伴って採択件数を柔軟に対応いた
します。
また、留学助成金は助成額をこれまで1件100万円から300万円に増額し、申請件数増加に
よる充実を図ります。
◆
科学振興賞
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的領域において、進歩発展に顕著な功績の
あった研究者に対して授与されるほう賞です。
正賞(金メダル)と副賞1,000万円を継続し、受賞件数を1件とします。
◆
科学奨励金・研究助成
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に独創的・先駆的に取り組んでいる
若手研究者を対象とした助成金です。
助成額300万円を継続し、採択件数を80件以上とします。
◆
科学奨励金・若手ステップアップ研究助成
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎研究に携わる若手研究者に対し、科学奨励
金・研究助成を終了した研究テーマの中から、将来有望なものを選抜し、研究費の一部を
継続的に補助する助成金です。
助成額3年間総額1,000万円以内で採択件数3件以内を継続します。
◆
女性研究者研究助成金
出産・育児により研究が中断した際の研究現場への復帰と研究業績を挙げることを支援
する目的で、研究に必要な経費を補助する助成金です。
助成額年間200万円を3年間(総額600万円)で採択件数を10件以上とします。
◆
海外研究留学助成金
若手研究者が海外の大学等研究機関に長期間留学する渡航費、留学に伴う経費ならびに
研究費を補助する助成金です。
2012年度より助成額を300万円に増額し、採択件数は15件を継続します。
◆
特定研究助成金
第33回・第34回内藤コンファレンスにおいてポスター発表の演題を公募し、その中から
優秀な演題(各コンファレンスにつき10件)には50万円を贈呈します。
◆
海外学者招へい助成金
2013年1月〜12月の間に日本国内で開催する学会へ海外から研究者を招へいする際の渡
航費および滞在費を助成します。助成額は招へいする地域によって異なります。
◆
若手研究者海外派遣助成金
2012年7月〜2013年6月の間に海外で開催される学会で口頭発表を行う若手研究者の渡航費
および学会参加費の一部を助成します。助成額は学会が開催される地域によって異なります。
◆
講演助成金
2012年7月〜2013年6月の間に日本国内で開催される国際会議について開催にかかる費用
の一部(上限50万円)を助成します。
─ 75 ─
2012年度助成事業の紹介
第44回 内藤記念科学振興賞候補者推薦要領
趣
旨
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的領域において、進歩発展に顕
著な功績のあった研究者に対してほう賞を授与するものである。
1)人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究において、独創的テー
マに取り組み、進歩発展に顕著な功績を挙げた研究者。
候補者資格
2)候補者は単独とするが、異なる研究グループによる共同研究の場合には、
連名であっても良い。
3)候補者の再度の推薦は差支えない。
1)下記27学会の代表者
推
薦
者
高 分 子 学 会
日 本 獣 医 学 会
日本農芸化学会
日 本 遺 伝 学 会
日本植物生理学会
日本発生生物学会
日本ウイルス学会
日本神経科学学会
日本ビタミン学会
日本栄養・食糧学会
日本神経化学会
日 本 病 理 学 会
日 本 解 剖 学 会
日 本 生 化 学 会
日 本 物 理 学 会
日 本 化 学 会
日本生物工学会
日本分子生物学会
日 本 癌 学 会
日本生物物理学会
日 本 免 疫 学 会
日 本 細 菌 学 会
日 本 生 理 学 会
日
日本細胞生物学会
日 本 動 物 学 会
日 本 薬 理 学 会
本
薬
学
2)当財団の理事、監事および評議員
推薦件数は、1推薦者につき1件
推 薦 方 法
締
切
日
選 考 方 法
顕
彰
当財団ホームページ「助成金事業」に記載の手順に従い推薦する。
2012年10月1日(月)財団必着
選考委員会で審査し、理事会で決定する。
受賞件数1件(正賞:金メダル、副賞:1,000万円)
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 76 ─
会
2012年度助成事業の紹介
第44回 内藤記念科学奨励金・研究助成
趣
旨
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に対し、研究費の一部を
補助するものである。
1)人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に独創的・先駆的に取
り組んでいる若手研究者(年齢制限は無い)
2)当財団の選考委員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)と
申請者資格
同一の教室(講座)に所属する者は申請することができない。
3)本助成金を受領した3年未満の研究者(2009〜2011年度の受領者)は、申
請することができない。
4)海外で行う研究は対象外とする。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
:学長
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等)
ただし、同一専攻の研究科(大学院)と学部(大学)の両方からは申請で
推
薦
者
きない。どちらか一方の推薦者とする。
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
推薦件数は、1推薦者につき1件
推薦者が 1)2)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
締
切
日
2012年6月1日(金)(財団必着)
採 択 件 数
80件以上
選 考 方 法
選考委員会で審査し、理事会で決定する。
助
成
額
300万円
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 77 ─
2012年度助成事業の紹介
第2回 内藤記念科学奨励金・若手ステップアップ研究助成
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎研究に携わる若手研究者に対し、
趣
旨
科学奨励金・研究助成を終了した研究テーマの中から将来有望なものを選抜
し、研究費の一部を継続的に補助するものである。
1)人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に独創的・先駆的に取
り組んでいる若手研究者であること。
2)過去の科学奨励金・研究助成の受領者であること。
3)1972年4月1日以降に出生の者(満40歳以下)
4)科学奨励金・研究助成申請時のテーマ、あるいはそれから派生したテーマ
申請者資格
に基づく申請であること。
5)当財団の選考委員と同一の教室(講座)に所属する者であっても、申請す
ることができる。
6)海外で行う研究は対象外とする。
7)内藤記念科学奨励金・研究助成及び内藤記念女性研究者研究助成金と同時
に申請することはできない。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等):学長
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
推
薦
者
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
4)科学奨励金・研究助成採択時の推薦者と同一の推薦者である必要はない。
推薦件数は、1推薦者につき複数の推薦可
推薦者が 1)
、2)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
締
切
日
2012年6月1日(金)(財団必着)
第1回選考委員会での審査により面接対象者を選出し、面接対象者のみにメー
選 考 方 法
ルで通知します。面接選考会は8月中旬から下旬に実施を予定し、助成対象者
を選出します。助成対象者は理事会で最終決定します。
採 択 件 数
助
成
額
3件以内
助成金額は、3年間で総額1,000万円以内とする。
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 78 ─
2012年度助成事業の紹介
第7回 内藤記念女性研究者研究助成金
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行う女性研究者に対し
趣
旨
て、出産・育児によって研究が中断した際の研究現場への復帰と研究業績を
挙げることを支援する目的で、研究に必要な経費を補助するものである。
1)自然科学の基礎的研究に独創的・先駆的に取り組んでいる一定以上の研究
実績をあげた博士号を持つ研究者
2)出産日から職場復帰(予定日)までが60ヵ月以内の女性研究者
①今後職場復帰する場合
復帰日と復帰場所が明確になっている。
申請者資格
②応募以前に職場復帰している場合
出産日から助成金締切日までが60ヵ月以内であれば応募することができる。
3)当財団以外から同期間(申請年度を含む助成期間(2012年度〜2014年度)
)
に同様(同類)の助成金を受けることはできない。
4)当財団の選考委員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)と
同一の教室(講座)に所属する者は申請することができない。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等):学長
ただし、同一専攻の研究科(大学院)と学部(大学)の両方からは申請で
推
薦
者
きない。どちらか一方の推薦者とする。
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
推薦件数は、1推薦者につき1件
推薦者が 1)2)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
締
切
日
2012年6月1日(金)(財団必着)
選 考 方 法
選考委員会で審査し、理事会で決定する。
採 択 件 数
10件以上
200万円/年の3年間
助
成
額
ただし、3年目については2年目迄の研究結果を評価して継続の可否を決定す
るため、2年目迄の研究成果報告書を2014年9月末日までに送付する。
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 79 ─
2012年度助成事業の紹介
第44回 内藤記念海外学者招へい助成金(前期・後期)
趣
旨
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行う外国の研究者を招
へいする際の費用を補助するものである。
1)人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究に独創的・先駆的に取
り組み、国際的に高い評価を得ている外国の研究者を招へいする際の当該
学術集会組織委員長(ただし当財団の理事、監事、評議員、選考委員は申
請できない)
2)同一年度の同一学術集会に招へいする場合の申請は1件とする。
申請者資格
3)招へい時期が下記の期間内であること。
招へい時期
申請区分
2013年 1 月 1 日〜2013年 6 月30日
前期
2013年 7 月 1 日〜2013年12月31日
後期
4)当財団の選考委員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)と
同一の教室(講座)に所属する者は申請することができない。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等):学長
ただし、同一専攻の研究科(大学院)と学部(大学)の両方からは申請で
推
薦
者
きない。どちらか一方の推薦者とする。
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
4)当財団の指定した学会の代表者(※当該学会には関連書類を送付しています)
推薦件数は、1推薦者につき前期・後期各々1件
推薦者が 1)2)4)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
締
切
日
前期:2012年6月1日(金)
、後期:2012年10月1日(月)(いずれも財団必着)
選 考 方 法
選考委員会で審査し、理事会で決定する。
採 択 件 数
前期・後期各10件以内(予算範囲内)
助
成
額
招へいエリアによる(20万円〜80万円)
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 80 ─
2012年度助成事業の紹介
第29回 内藤記念海外研究留学助成金
我が国の自然科学の将来を担う国際的視野に富む研究者を育成することを目的とし、
趣
旨
人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行うために、若手研究者
が海外の大学等研究機関に長期間留学する渡航費、留学に伴う経費ならびに研
究費を補助するものである。
1)博士号を持つか、出発日までに取得見込みの研究者
2)学生として海外の大学・大学院への留学は対象外とする。
3)1978年4月1日以降に出生の者(満34歳以下)
4)留学先研究機関の責任者または受入研究室の責任者の承諾を得ている者
申請者資格
(受入承諾書(サイン付)を添付する)
5)2013年4月1日〜2014年3月31日の間に出発し、1年以上留学する者
留学先から一時帰国し、再度上記の期間に出発する者は対象にならない。
6)当財団の選考委員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)と
同一の教室(講座)に所属する者は申請することができない。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
:学長
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等)
ただし、
同一専攻の研究科(大学院)と学部(大学)の両方からは申請できない。
推
薦
者
どちらか一方の推薦者とする。
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
推薦件数は、1推薦者につき1件
推薦者が 1)2)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
締
切
日
2012年10月1日(月)(財団必着)
選 考 方 法
選考委員会で審査し、理事会で決定する。
採 択 件 数
15件
助
成
額
300万円
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 81 ─
2012年度助成事業の紹介
第12回 内藤記念若手研究者海外派遣助成金
趣
旨
我が国の生命科学の将来を担う国際的視野に富む研究者を育成することを目
的とし、人類の健康の増進に寄与する自然科学の基礎的研究を行う若手研究
者が海外で行われる国際会議(学会・シンポジウム等)で、自己の成果を口
頭発表する場合の渡航費を補助するものである。
1)日本の大学、研究施設に籍をもつ研究者(大学院生を含む)
2)1972年4月1日以降に出生の者(満40歳以下)
3)日本国内で行った研究成果を海外で開催される国際学会やシンポジウムで
申請者資格
口頭発表することが受付けられた者
ポスター発表者は対象外とする。
なお、①海外留学中または、海外で行った研究の発表には適応しない。
②年1回に限り応募することができる。
③本助成金受領者は、隔年の応募はできるが次年度の応募はできない。
※財団ホームページのQ&A「推薦者の欄」を必ずご覧下さい。
1)大学関係 ①大学院:研究科長、②学部:学部長、③研究所:研究所長、
④大学病院:医学研究科長(又は医学部長)
①②③④以外の大学組織(研究センター、研究施設等)
:学長
ただし、同一専攻の研究科(大学院)と学部(大学)の両方からは申請でき
推
薦
者
ない。どちらか一方の推薦者とする。
注)センター長、施設長、病院長は推薦者となることができない。
2)大学以外の研究機関:当財団の理事会が承認した基礎研究機関の代表責任者
(※該当する研究機関には関連書類を送付しています)
3)当財団の理事・監事及び評議員(ホームページ参照 URL http://www.naito-f.or.jp/)
推薦件数は、1推薦者につき各季各々1件
推薦者が 1)2)の場合:申請者 ⇒ 大学・研究機関事務 ⇒ 財団
申 請 方 法
3)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
当財団ホームページの「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
学会の開催月により、年4回の受付を行う。
締
切
日
申請区分
学会等開催月
申請書受付期間
(期間中財団必着)
採否通知
夏季
7 月〜 9 月
4 月 2 日〜 5 月21日
6 月中旬
秋季
10月〜12月
5 月22日〜 8 月20日
9 月中旬
冬季
1 月〜 3 月
8 月21日〜11月20日
12月中旬
春季
4 月〜 6 月
11月21日〜 2 月20日
3 月上旬
選 考 方 法
選考担当理事、選考委員長で構成される審査会(年4回開催)で選考し決定する。
採 択 件 数
年間予算の範囲内
助
成
額
派遣エリアによる(10万円〜40万円)
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 82 ─
2012年度助成事業の紹介
第40回 内藤記念講演助成金
趣
旨
国際会議の開催において、四半期毎に申請を受理し、所定の選考を経て採否
を決定する助成事業である。
大学、研究機関に所属する者が主催する自然科学の基礎的研究に関する国内
で開催される国際会議(シンポジウム、講演会)の開催責任者
国際会議とは、参加者総数が50名以上で、かつ参加国が日本を含む2カ国以上
を占める会議をいう。
申請者資格
なお、下記の申請者は対象外とする。
①国内で開催される学術集会の定例的な年会や季会
②当該年度に既に当財団が採択した助成金と同一のシンポジウム、講演会
当財団の理事・監事・評議員及び選考委員に対する推薦は基本的に行わない。
但し、助成金を個人のために使用しないことが明白な場合にはこの限りではない。
1)当財団の理事・監事及び評議員(自薦は対象としない)
推
薦
者
2)当財団の指定した学会の代表者(※該当学会には関連書類を送付しています)
推薦件数は、1推薦者につき年間1件
推薦者が 1)の場合:申請者 ⇒ 当財団の理事・監事・評議員 ⇒ 財団
申 請 方 法
(財団への申請書類の送付は、申請者、推薦者のどちらからでも良い)
2)の場合:申請者 ⇒ 学会事務 ⇒ 財団
当財団ホームページ「助成金事業」に記載の手順に従い申請する。
国際会議の開催月により、年4回の受付を行う。
締
切
日
選 考 方 法
採 択 件 数
助
成
額
申請区分
国際会議開催月
申請書受付期間
(期間中財団必着)
採否通知
夏季
7 月〜 9 月
4 月 2 日〜 5 月21日
6 月中旬
秋季
10月〜12月
5 月22日〜 8 月20日
9 月中旬
冬季
1 月〜 3 月
8 月21日〜11月20日
12月中旬
春季
4 月〜 6 月
11月21日〜 2 月20日
3 月上旬
常務理事、選考担当理事、選考委員長全ての承諾により採択する。
同一年度の同一学術集会への複数助成はしない。
年間予算の範囲内
上限は1件50万円
当該国際会議の開催日を勘案し、送金する
詳しい内容は当財団ホームページをご覧ください。URL http://www.naito-f.or.jp/
─ 83 ─
内藤記念くすり博物館だより
資料紹介
2012年度企画展
「江戸のくすりハンター 小野蘭山 〜採薬を重視した本草学者がめざしたもの〜」
内藤記念くすり博物館では、内藤記念科学振興
財団協賛のもと、平成24年度企画展を4月25日より
開催している。
本年度の企画展は、わが国における本草学のあ
ゆみに焦点を当て、日本の本草学を集大成したとい
われる本草学者・小野蘭山について、彼の足跡とそ
れを受け継いだ門人たちの業績をご紹介している。
蘭山の本草学の優れた点は「実物をよく観察する
こと」の大切さを強調し、野外採薬(植物採取)に
積極的に赴き、それにより得られた生きた知識がふ
んだんに加えられているところにある。
本草学とは主に薬用資源として利用できるものを研究する学問です。蘭山の生き
た江戸時代中期〜後期は、薬や健康維持への関心が庶民の間に広まっていった平
和な時代でした。
13歳で本草学を学び始めた蘭山は、18歳の時に師・松岡恕庵を亡くします。以降、
独学で本草学を修め、25歳で京都に私塾を構え、多くの門人を輩出しました。
蘭山の研究のすばらしさは、採薬で得られた膨大な実物調査にあるといえます。
46年間にもおよぶ教育と研究活動の成果は幕府の目にとまり、71歳の時に江戸の
医学館に医官として招聘されました。講義の傍ら門人を引き連れ、国家事業として
採薬調査も精力的に行いました。老いてもなお、
実物を求めて山野を探索する姿は、
まさに江戸時代のくすりハンターといえるでしょう。
明治時代になると医学は漢方から西洋医学へと移り変わり、やがて本草学は植
物学、生物学へと変化していきました。今も牧野富太郎の植物図鑑や国語辞典の
植物の記述には、蘭山とその門人たちの業績が脈々と受け継がれています。 私たちが普段あまり耳にすることのない本草学が近代の自然科学の礎となっていることを、小野蘭山の
学績を通してご理解いただければ幸いです。
内藤記念くすり博物館
〒501-6195
岐阜県各務原市川島竹早町 1
開館時間: 9:00 ~ 16:30
休館日:月曜日/年末年始
T E L:
(0586)89-2101
F A X:
(0586)89-2197
ウェブサイト「くすりの博物館」
http://www.eisai.co.jp/museum
─ 84 ─
ご寄附をお寄せくださる方に
当財団は、人類の疾病の予防と治療に関する自然科学の研究を奨励し、もって学術の振
興と人類の福祉に寄与することを目的としております。具体的には、研究者に対する研究
助成、若い研究者の海外留学の助成、国内・海外の研究者が研究成果の発表をベースにし
た情報交換のための援助等です。
この事業を推進するに当たっては、保有株式の配当金と皆様からの寄附金ならびに財産
の運用による利息収入により行われています。
当財団は、公共法人、公益法人等のうち教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉
への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定められた公益財団法人
(特定公益増進法人)に該当します。当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金は、
個人・法人ともに税法上の優遇措置が与えられます。
優遇措置の概略
個 人
1.所得税:
「所得控除」
・
「税額控除」のいずれかを選択することができます。
「所得控除」1年間に支出した特定寄附金合計−2,000円=寄附金控除対象額
*但し、総所得金額等の40%を限度とする
「税額控除」
(寄附金−2,000円)×40%=控除対象額(所得税から控除)
*但し、控除対象額は、所得税額の25%を限度とする
2.住民税:上記に加え、地域により個人の住民税が控除されます。
例)東京都在住個人
都民税(寄附金額−2,000円)×4%=控除対象税額
区市町村民税(寄附金額−2,000円)×10%=控除対象税額
*詳しくは、所轄の税務署もしくは各地方自治体にお問い合わせください。
法 人 「特定公益増進法人に対する寄附金の特例」により、一般の寄附金の損金算入限度
額と別枠で損金算入できます。
当財団の研究助成事業にご賛同くださる方々からのご寄附をお待ちしております。
詳しいことをお知りになりたい方は、財団事務局までお問い合わせください。
お問合せ先 TEL:03-3813-3005 FAX:03-3811-2917
E-mail:[email protected]
─ 85 ─
ご寄附者名簿
2012年3月1日より2012年7月31日までに次の方々よりご寄附をいただいております。ご支援
に心より感謝し、謹んで御礼申し上げます。
法 人
(単位:万円)
エーザイ株式会社
1,500
高橋電業株式会社
株式会社錦光社
エーザイ生科研株式会社
40
10
エルメッドエーザイ株式会社
30
10
エーザイ物流株式会社
50
5
株式会社東幸
株式会社サンプラネット*
100
日本硝子産業株式会社
10
川津産業株式会社*
30
筑波家田化学株式会社
10
エーディア株式会社*
30
新村印刷株式会社
10
株式会社ほくやく*
20
サンノーバ株式会社*
50
5
株式会社南江堂
エーザイフード・ケミカル株式会社
50
*印は7月31日以降入金予定
個 人
(敬称略)
出口 宣夫
佐藤めぐみ
岡田 真勝
中村 典起
有賀 学
星野 秀一
渡邉 宏男
堀井 美代
有賀 泉
原 典子
小館 裕彦
磯 絢子
増田 宏一
長谷川喜一
佐々木一仁
匿名希望(1名)
※個人名義によるご寄附は、金額の表示を略させていただいております。
(単位:万円)
─ 86 ─
法人
17件
1,960
個人
16件
225
合計
33件
2,185
2012年度役員および評議員・選考委員・名誉理事
2012年4月1日より(敬称略)
理 事 長(代表理事)
常務理事(業務執行理事)
内藤晴夫
エーザイ株式会社 顧問
三井博行
大阪大学免疫学フロンティア研究センター
教授・拠点長
審良静男
日本生物科学研究所 常務理事
東京大学 名誉教授
笹川千尋
日本学術振興会 理事
東京大学 名誉教授
浅島 誠
大阪バイオサイエンス研究所 所長
京都大学 名誉教授
中西重忠
早稲田大学 教授
慶應義塾大学 名誉教授
池田康夫
東京大学大学院 特任教授
東京大学 名誉教授
廣川信隆
神奈川大学 教授
名古屋大学 名誉教授
上村大輔
日本学術振興会ストックホルム研究連絡センター
センター長
東北大学 名誉教授
藤井義明
国際医療福祉大学 教授・大学院長
東京大学 名誉教授
金澤一郎
名古屋大学細胞生理学研究センター
教授
藤吉好則
エーザイ株式会社 顧問
小林精一
仰星税理士法人 代表社員
野村典正
微生物化学研究会 常務理事
同研究会 微生物科学研究所 所長
柴﨑正勝
永井克孝
エーザイ株式会社 代表執行役社長
理
監
事
事
評議員会会長(議長)
先端医療振興財団 理事長
京都大学 名誉教授
井村裕夫
評議員
情報・システム研究機構 理事
名古屋大学 名誉教授
お茶の水女子大学 名誉教授
郷 通子
理化学研究所 研究顧問
東京大学 名誉教授
安田女子大学 教授
京都大学 名誉教授
佐藤公道
日本臓器移植ネットワーク 理事長
九州大学 名誉教授
日本臨床内科医会 会長
慶應義塾大学 名誉教授
猿田享男
理化学研究所 理事長
名古屋大学 特別教授
野依良治
東京大学 名誉教授
秋田県立大学 名誉教授
鈴木昭憲
大阪医専 校長
大阪大学 名誉教授
濵岡利之
国立感染症研究所 名誉所員
竹田美文
東京大学 名誉教授
静岡県立大学 名誉教授
廣部雅昭
─ 87 ─
野本亀久雄
選考委員
慶應義塾大学医学部 教授
岡野栄之
理化学研究所脳科学総合研究センター 副センター長
田中啓治
熊本大学大学院生命科学研究部 教授
小川久雄
東京大学大学院薬学系研究科 教授
長野哲雄
理化学研究所基幹研究所 領域長
長田裕之
大阪大学大学院医学系研究科 教授
仲野 徹
東京大学大学院医学系研究科 教授
門脇 孝
東京大学大学院理学系研究科 教授
濡木 理
大阪大学大学院薬学研究科 教授
小林資正
がん研究会 常務理事・がん研究所 所長
野田哲生
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授
坂口志文
大阪大学微生物病研究所 教授・副所長
松浦善治
札幌医科大学医学部 教授
佐藤昇志
京都大学大学院理学研究科 教授
丸岡啓二
東京工業大学大学院理工学研究科 教授・理事・副学長
鈴木啓介
神戸大学大学院理学研究科 教授
三村徹郎
名古屋大学大学院医学系研究科 教授
祖父江元
東京大学医科学研究所 教授
三宅健介
京都大学大学院理学研究科 教授
高橋淑子
九州大学大学院医学研究院 教授
柳 雄介
京都大学大学院医学研究科 教授
高橋良輔
名誉理事
台湾・國立清華大学 教授
名古屋大学 名誉教授
磯部 稔
サントリー生物有機科学研究所 顧問・名誉理事
東京大学 名誉教授
中嶋暉躬
理化学研究所脳科学総合研究センター 特別顧問
東京大学 名誉教授
伊藤正男
農業生物資源研究所 顧問
東京大学 名誉教授
名取俊二
化学及血清療法研究所 顧問
九州大学 名誉教授
岩永貞昭
東京大学 名誉教授
野島庄七
京都大学 名誉教授
宇野豊三
横浜薬科大学薬学部 教授
北海道大学 名誉教授
野村靖幸
尚絅学園 理事長
熊本大学 名誉教授
江口吾朗
大阪バイオサイエンス研究所 理事長
京都大学 名誉教授
早石 修
介護老人保健施設すみよし 施設長
東京大学 東北大学 名誉教授
遠藤 實
東京大学 名誉教授
廣澤一成
富山国際学園 理事長
北海道大学 名誉教授
金岡祐一
東京大学 名誉教授
お茶の水女子大学 名誉教授・元学長
藤巻正生
北海道対がん協会 会長
札幌医科大学 名誉教授
菊地浩吉
函館国際水産・海洋都市推進機構 機構長
東京大学 名誉教授
伏谷伸宏
大阪大学 名誉教授
北川 勲
東京大学 名誉教授
水野傳一
理化学研究所播磨研究所 客員研究員
京都大学 名誉教授
郷 信広
熊本大学 名誉教授
森 正敬
東北大学 名誉教授
志村憲助
東京大学 名誉教授
東京薬科大学 名誉教授
山川民夫
京都大学 名誉教授
髙木博司
熊本大学 名誉教授
吉永 秀
東京大学 名誉教授
高橋信孝
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※冊子内の挿し絵は、
故内藤祐次理事長が描いたイラストから転載しました。