カナダNRCを訪ねて

カナダ NRCを訪ねて
海外出張報告 2
冨田隆太
NRC にて(Dr. Trevor Nightingale 氏と)
平 成 20 年 8 月 5 日 ~ 28 日 の 24 日 間 に わ た り, 日 本
待たせしてしまい申し訳なく思った(翌日夜には無事に
大学海外派遣研究員として,カナダ・アメリカ合衆国を
ホテルに届きました)。空港から市の中心地まで約 30 分
訪 れ る 機 会 を い た だ い た。 出 張 目 的 は,「 住 宅 床 の か た
の間,同氏にオタワの見所を話してもらい,ホテルまで
さ感覚と振動特性に関する研究のため」であり,私の専
送っていただいた。車中から見た市の中心を流れている
門分野である「音・振動環境」に関する研究機関の訪問
Rideau Canal( リドー運河)は,冬季凍結すると約 8 km
と 関 連 す る 建 築 物 の 調 査 で あ る。 ス ケ ジ ュ ー ル と し て
にわたりスケートリンクとして開放され,世界最長のス
は, 出 張 期 間 の 大 部 分 に あ た る 2 週 間 半 を カ ナ ダ の 首
ケートリンクになるとのことに自然の壮大さを感じた。
都 オ タ ワ に あ る NRC(National Research Council
翌 日 朝, ホ テ ル ま で Dr. Trevor Nightingale 氏 に 迎
Canada) と い う カ ナ ダ 国 立 研 究 機 関 に 滞 在 し, 残 り の
えに来ていただき,NRC まで連れていっていただいた。
5 日間でボストン,ニューヨークを訪れた。
ホテル近くにあるバス停を教えてもらい,翌日からは毎
NRC を 訪 れ よ う と 思 っ た き っ か け は,2 年 前 に ハ ワ
朝バスで約 20 分かけて NRC まで通った。
イ で 開 催 さ れ た INTER-NOISE 2006( 国 際 騒 音 制 御
NRC の 中 に は,20 を 超 え る 研 究 所 が あ り, 私 の 訪
工 学 会 議 ) で, 今 回 の 出 張 の 窓 口 に な っ て い た だ い た
問 先 は Institute for Research in Construction
Dr. Trevor Nightingale 氏 と デ ィ ス カ ッ シ ョ ン を し た
と い う 建 設 研 究 所 で あ っ た。 そ の 中 に は,Urban
こ と に あ っ た。 ま た, 同 氏 と は 翌 年 3 月 に, 同 氏 が 井 上
Infrastructure,Indoor Environment,Fire
教授を訪問した際にも,ディスカッションをする機会を
Research,Building Envelope and Structure とい
得,チャンスがあれば NRC に行ってみたいと思っていた。
うプログラムがあり,さらにその Indoor Environment
そ こ で, 今 回 の 出 張 機 会 を い た だ き, ま た Dr. Trevor
の 中 に は 3 つ の サ ブ プ ロ グ ラ ム が あ り,Acoustics の
Nightingale 氏に連絡したところ,快いご返事をいただ
チ ー ム で 研 究 活 動 に 参 加 さ せ て も ら っ た。NRC の 敷 地
き,NRC を訪問することに決めた。本稿では,全体の中
はとにかく広大で,研究室から実験室までも車で移動す
でとくに印象に残った部分について紹介し,出張報告と
るほどであった。敷地内は芝生や樹木が多く,歩道,車
させていただきたい。
道もきれいに舗装されており,滞在中は天気にも恵まれ
8 月 5 日, 東 京 は 雷 で 悪 天 候 の 中, 飛 行 機 は 約 1 時 間
息抜きに散歩にでかけたくなるようなすばらしい場所で
遅れで出発した。途中シカゴで乗り継ぎ,カナダの首都
あ っ た。 オ タ ワ の 気 候 は, 日 本 に 比 べ 湿 度 が 低 い た め,
オタワに到着した。スーツケースが出てくるのを待って
からっとしていて過ごしやすい。不思議な感覚であるが,
いたが,最後まで出てこなく,ロストバゲージにあって
強 い 日 差 し を 受 け る と 暑 い 感 じ を 受 け る が,真 夏 に も か
し ま っ た。 空 港 に は,Dr. Trevor Nightingale 氏 が 迎
かわらず,少しでも日陰にいると涼しいとさえ感じる,気
えにきており,ロストバゲージの手続きで同氏を大変お
持ちの良い気候であった。
木質系の Flanking の実験室
(写真は Dr. Berndt Zeitler 氏)
4
NRC のミーティングルームにて
(研究発表風景)
Rideau Canal 沿いのレストランにて
(NRC のスタッフの皆さんと)
Acoustics の ス タ ッ フ は 10 名 程 で 構 成 さ れ て お り,
始め,スタッフの皆さんに大変お世話になり心より御礼
それぞれが各テーマを精力的に研究していた。私の受入
を申し上げたい。
れ研究者は,前述したように,主席研究員の Dr. Trevor
オタワ滞在期間中,NRC の休みである土日を利用して,
Nightingale 氏 で あ り, 木 質 系 建 築 物 の 遮 音 技 術 を 専
2 泊 3 日 で モ ン ト リ オ ー ル を 訪 れ た。 オ タ ワ ─ モ ン ト リ
門 と し て い る。 ま た,Dr. Berndt Zeitler 氏 も 同 様 の
オール間は VIA 鉄道の CORRIDOR 号で約 2 時間という
研 究 を 行 っ て い る。 私 は,Dr. Trevor Nightingale 氏
距離であり,時間も正確な上,車内もきれいでとても良
と Dr. Berndt Zeitler 氏のチームに NRC 滞在期間中参
い気分転換がはかれた。モントリオールに到着して驚い
加し,毎日実験やミーティングに参加をさせていただい
たのは,ものすごく大都会であることであった。オタワ
た。Acoustics の ス タ ッ フ は, 国 際 色 豊 か で 世 界 中 か
は首都であるが,高層建築物もそれほど多くなく,コン
ら研究者が集まっているような印象を受けた。建築音響
パクトにまとまった住みよい街であるとの印象であった。
の施設としても,残響室,無響室の他に遮音性能測定室
オタワに比べ,モントリオールは経済の中心であり,旧
と し て, 木 質 系 の Flanking の 実 験 室 が あ っ た。 木 質 系
市街と新市街の 2 つの側面をもつエネルギーにあふれた,
の Flanking の施設は合計で 8 室(2 階部分に 4 室,1 階
オタワとはまた異なる魅力をもった街であった。
部 分 に 4 室 ) あ り,2 階 と 1 階 の 界 床 を 交 換 で き, さ ま
モ ン ト リ オ ー ル で の 見 学 し た 建 築 物 を 1 つ 挙 げ る と,
ざまなパターンで Flanking の測定を行うことができる。
Moshe Safdie と い う 建 築 家 に よ っ て 設 計 さ れ た Cite
これらの成果は,遮音性能に関する規格・規準などにい
du Harve という興味深い集合住宅があった(写真参照)。
かされているそうである。また,数多くの論文やガイド
現地の人に伺うと,コンクリートブロックによるプレハ
ブックの発行も行っている。現在,木質系の床衝撃音に
ブ工法とのことであった。経済性を高めるために,プレ
関する研究も精力的に行われている。重量床衝撃音につ
ハブ化したとのことであるが,最近売りに出された住戸
いては,日本での先行研究を随分参考にしており,井上
はその立地もあり,日本円で約 1 億円とのことであった。
教 授 に よ り 開 発 さ れ た 床 衝 撃 音 測 定 用 ゴ ム ボ ー ル(JIS
現地で眺めると,落ちてこないかと思うくらい各住戸が
にも規定されている)を用いて研究が行われていた。私
は り だ し て い る と て も 印 象 に 残 っ た 集 合 住 宅 で あ っ た。
も毎日実験やミーティングに参加させてもらい,今後の
また,モントリオールの地下街はとても有名とのことで,
研究活動の参考となる知見が得られた。
地下がずっとつながっていた。写真の空間はモントリオー
NRC 滞 在 生 活 も 約 10 日 間 と な っ た と こ ろ で,
ルの地下街で,教会の真下である。ずっと地下を歩いて
Dr. Trevor Nightingale 氏 か ら の 発 案 で 私 の 博 士 論 文
いると方向感覚がなく道に迷い,地上に出て何度か確認
をスタッフの皆さんに紹介する機会をいただいた。発表
するほどであった。
では,たくさんのご意見とご質問をいただけたことに感
オタワを離れ,ボストン,ニューヨークを回り日本へ
謝 を し た い。 ま た,Dr. Trevor Nightingale 氏 の 家 に
と帰国した。ボストン,ニューヨークについては紙面の
お 招 き い た だ き, お い し い ご 馳 走 を た く さ ん い た だ い
都合もあり別の機会としたい。
た。同氏の家にあがるとき,日本の玄関のように段差は
全体を通して,約 1 ヵ月にわたり,たくさんの北米の
ないがマットがひかれており,そこで靴を脱ぎ,日本の
建 築 物 を み る こ と が で き, ま た NRC で 今 後 の 研 究 活 動
ように住宅内では靴下で生活をしていた。周りの家もほ
の参考となるディスカッションや実験に参加することが
とんどが靴を脱ぎ生活をしているとのことで,大変驚か
でき,大変充実した出張であったと思う。最後になりま
さ れ た。NRC 滞 在 最 終 日 の 昼 食 に は, ス タ ッ フ の 皆 さ
すが,このような貴重な機会を与えていただきました関
ん に Rideau Canal 沿 い の レ ス ト ラ ン に 連 れ て い っ て
係各位に,この場をお借りして,心より御礼を申し上げ
い た だ き, お 別 れ 会 を し て い た だ い た。NRC 滞 在 中,
ます。
Dr. Trevor Nightingale 氏と Dr. Berndt Zeitler 氏を
SAINT-LOUIS 公園周りの集合住宅
(モントリオール)
(とみたりゅうた・助教)
Cite du Harve
モントリオールの地下街
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