名城論叢 2015 年 12 月 1 高付加価値サービス・クオリティの研究 ―航空会社のケース― 大 孝 徳 目 次 1.問題の所在 2.高付加価値サービス・クオリティ・モデルとは 3.航空会社のサービス・クオリティに関する先行研究 4.航空会社における高付加価値サービスの実態 5.航空会社における高付加価値サービス・クオリティ・モデル 6.結論 1.問題の所在 る。 本論文では,JAL の“ファーストクラス” 価格競争が激しい現代の市場環境において, や ANA の“プレミアムクラス”といった航空 低価格に依存することなく,顧客から支持を得 会社における高付加価値サービスにおいて重要 る高付加価値サービスの実態に迫ることが筆者 となる要素を明確化させる高付加価値サービ が現在取り組んでいる研究の大きなテーマであ ス・クオリティ・モデルについて検討する。 る。 そのために,まず高付加価値サービス・クオ そのために大﨑(2015)では,サービス・ク リティ・モデルの概要を説明する。次に航空 オリティに関する先行研究調査を踏まえ,高付 サービスの品質測定に関する先行研究を調査す 加価値サービスを測定する枠組みを構築した。 る。その後,国内線における高付加価値サービ 本論文ではこうした枠組みの航空会社における スである JAL の“ファーストクラス”や“ク サービスへの適用について検討する。 ラス J”,ANA の“プレミアムクラス”の実態 国内線の市場環境はスカイマークの経営破綻 について説明する。最後に,こうした航空会社 という問題はあったものの,全日空が主として における高付加価値サービスに適応した高付加 投資する Peach Aviation,豪カンタスグルー 価値サービス・クオリティ・モデルの構築につ プや日本航空などが出資するジェットスター・ いて検討する。 ジャパン,大手物流企業である鈴与が出資する フジドリームエアラインズ(FDA)他,低価 格を強く訴求する LCC(Low Cost Carrier) が大きな話題となっている。一方,日本航空 2.高付加価値サービス・クオリティ・モ デルとは (JAL)の“ファーストクラス”や“クラス J” , サービス品質の測定を目指したサービス・ク 全日空(ANA)の“プレミアムクラス”が高 オリティの代表的な研究として,Parasuraman, 価格ながらもサービスを向上させることによ Zeithaml, and Berry(1985)(1986)(1988) り,高い搭乗率を維持していることも事実であ (1991)による SERVQUAL が挙げられる。そ 2 第 16 巻 第 3 号 の特徴に関して,顧客の事前の期待と実際に知 こうした枠組みには,次元の数や要素に相違 覚した実現値との差を測定する期待不一致モデ はあるものの,サービス全体を一括して次元を ルであるという点,またサービス全体を一括し 抽出するという共通点が見受けられる。しかし たうえで 5 つの次元を抽出している点などが挙 ながら,長島(2009)も指摘している通り,サー げられ,実際に多くのサービスの品質測定に用 ビス全体を一括した要素の抽出では実務への落 いられている。 とし込みが極めて困難になる。よって筆者が構 しかしながら,SERVQUAL に多くの批判が 築した高付加価値サービス・クオリティ・モデ あることも事実である。例えば,Cronin and ルは,まず実務への適用を強く意識し,プロセ Taylor(1992)は満足度パラダイムに基づく スをベースとした測定モデルとなっている。 SERVQUAL よりも実現値のみでサービス品 また,期待不一致モデルの採用に関しては事 質を計測する SERVPERF の方が適合度をはじ 前期待とのギャップの重要性は認めるものの, め,良い結果を得ることができると指摘してい 事前期待は企業により展開されるプロモーショ る。Brown, Churchill, and Peter(1993)も実 ン,企業や商品に対するブランド,口コミ, 証研究を通じて,実現値のみで測定すべきであ 様々な過去の経験などが大きく影響しており, るという Cronin and Taylor(1992)を支持す 高価格でありながらも消費者から評価されてい る結果を得ている。 る高付加価値サービスにおける重要な要素の特 ま た, 次 元 数 に 関 し て,Carman(1990) 定という目的にはそぐわないため,実測値のみ は 5 次元よりも SEVQUAL のオリジナルであ で測定する方式を採用している。 る 10 次元から 7―8 次元を抽出すべきであると 犠牲の概念に関しては,高価格という消費者 指摘している。Babakus and Boller(1992)や における高コストの負担が本論文の重要なポイ Cronin and Taylor (1992) も実証研究を通じて, ントであるため,モデルに組み込んでいる。さ 5 次元の正当性について批判的な見解を示して らに,Zeithaml(1988)や長島(2009)の研究 いる。 を参考にサービスからもたらされた知覚便益と その他,サービス・クオリティに関する代表 高コストという犠牲を払う知覚コストとの差と 的な研究としては,伝統的マーケティング活動 なる知覚価値を総合評価として採用している。 や外部の影響による事前期待と実際に知覚され 結果,構築された高付加価値サービス・クオ たサービスとの差に,技術的品質(何を?)と リティ・モデルはプロセス・ベースで実測値の 機能的品質(どのように?)からなるイメージ みを測定したものに知覚コストを勘案し,総合 による影響を受けたものが知覚サービス品質と 評価を行うサービス品質の測定枠組みとなって なると指摘した Grönroos(1984)がある。さ いる。 らに,こうした研究の影響を受けた Rust and Oliver(1994)のサービス・プロダクト,サー ビス・デリバリー,サービス環境というサービ ス品質の 3 つの構成概念も有名である。また, 支払う金額や消費に伴う時間や労力といった犠 牲の概念を勘案するべき(Zeithaml 1988)か 3.航空会社のサービス・クオリティに関 する先行研究 3.1.航空会社におけるサービス・クオリティ 研究の概要 否かということもサービス・クオリティ研究に 航空会社のサービス品質測定に関しては, おける重要なポイントである。 SERVQUAL の影響を受けたものが圧倒的で 高付加価値サービス・クオリティの研究(大 ) 3 あ る。 例 え ば,Hussain, Nasser, and Hussain という 2 つグループから成っている。顧客の特 (2015)は SERVQUAL の枠組みを利用して, 徴はデモグラフィック的特徴(性別・年齢・所 「信頼性」, 「反応性」, 「確実性」 , 「有形性」 , 「安 得)と状況的特徴(経験・搭乗クラス)から構 全性」,「コミュニケーション」という 6 つの尺 成されている。 度より航空会社におけるサービス品質を測定し さらに,Rust and Oliver(1994)のサービ ている。つまり,SERVQUAL における「共感」 ス環境を加えた 3 つの構成概念の影響も強い。 を航空サービス向けに「安全性」, 「コミュニケー Wu and Cheng(2013)は,サービス品質を相 ション」にカスタマイズしている。さらに,サー 互性品質(品行:態度・専門知識・問題解決) , ビス品質,知覚価値,ブランドイメージが顧客 物的環境品質(清潔さ・快適さ・有形性・安全 満足に重要な影響を与え,ひいてはブランドロ 安心) ,結果品質(待ち時間・誘発性:惹きつ イヤリティの構築に通じると指摘している。 ける),アクセス品質(情報・便利さ)の 4 つ Sultan and Simpson(2000) も,1991 年 に 修 から構成されるモデルを構築し,共分散構造分 正された SERVQUAL の枠組みを利用し,航 析を行っている。 空サービスへの顧客の期待や知覚に関して,欧 期 待 不 一 致 モ デ ル に 関 し て,SERVQUAL 州系と米国系航空会社との比較研究を実施して を参考とする研究はもちろんのこと,例えば いる。 Forbes(2008)は航空サービスを対象に事前 また,Grönroos(1984)の影響を受けた研 期待と実際のサービス品質が不満に与える影響 究も目立っている。Ozment and Morash (1994) について取り上げるなど,多くの研究で採用さ は,まずサービスをコア・サービス,周辺サー れている。 ビスに分類し,広告等による顧客との外的コ 一方,本論文のテーマである高付加価値サー ミュニケーション,サービス・デリバリーの特 ビス・クオリティ・モデルで重視しているプロ 徴という 4 つの要素の関係,およびこうした セス・ベースの研究はあまり見当たらない。例 要素と知覚価値と実際のサービス品質の関係に えば,Namukasa(2013)は,搭乗前,搭乗中, ついても調査している。コア・サービスは乗客 搭乗後という 3 段階のプロセスにおけるサービ サービス(運航中の快適さ,利便性,安全性な ス品質が顧客満足に与える影響,さらにはブラ ど:フライトアテンダントや食事) ,運航サー ンドロイヤリティに与える影響を対象としてい ビス(運航のオペレーション:パイロット), る。しかしながら,3 つのプロセスに分けては 補修サービス(運航機体の補修)から構成され いるものの,その内容は搭乗前 (信頼性,反応, ている。また,周辺サービスは,地上でのサー 割引) ,搭乗中(タンジブル,親切さ,言語能 ビス(荷物,交通関係)と一般的なサポート(金 力) ,搭乗後(FFP,時間の正確性)と,要素 銭や法律に関わることなど)から構成されてい への注目となっている。つまり,実務への適用 る。また,Anderson, Pearo, and Widener (2008) を目指したプロセス・ベースとはなっていない。 は,サービスコンセプトと顧客の特徴が顧客満 その他,航空会社のサービスに関しては, 足度に与える影響について分析している。サー Suki(2014)の「航空機における設備」 , 「空港 ビスコンセプトはコアサービスと周辺サービス における設備」 , 「共感性」が顧客満足,さらに から構成されている。コアサービスはフライト は口コミに与える影響について調査した研究, と時間となっている。周辺サービスは相互性と Steven, Dong, and Dresner(2012) の サ ー ビ 物的サービス(航空機・個人のスペース・食事) ス・プロフィット・チェーン(Heskett, Jones, 4 第 16 巻 第 3 号 Loveman, Sasser, and Schlesinger 1994)を参 は SERVPERF と顧客満足とロイヤリティの 考に顧客へのサービスが満足度,航空会社へ 関 係 に つ い て,FSC(Full Service Carrier) の業績に与える影響について考察した研究, と LCC で 比 較 し て い る。 ま た,Fourie and Keiningham, Morgeson, Aksoy, and Williams Lubbe(2006)はビジネス客の FSC と LCC の (2014)のけがや死につながる重大な出来事, 選択決定要因に関する比較研究を行い,その および身体には影響を与えない小さな出来事が 他,FSC と LCC のビジネス客の異質性(Huse 顧客満足,さらには市場シェアに与える影響に and Evangelho 2007) ,LCC における乗客のロ ついて考察した研究など,様々なものがある。 イヤリティの決定要因(Akamavi, Mohamed, さらに細分化された研究として,Han, Ham, Pellmann, and Xu 2015)など,活発な議論が Yang, and Baek(2012)は航空サービスのな 展開されている。 かでもラウンジに特化したサービス品質測定を しかしながら,航空会社のサービスにおい 試みている。項目としては,「場所の便利さ」, て,高付加価値サービスに該当するファースト 「過去の経験」, 「広告からのイメージ」, 「VIP クラスやビジネスクラスに関する研究は多くは 専用という特権意識」,「親切丁寧なスタッフの ない。そうしたなか,Claussen and O'Higgins 対応」, 「心地よい雰囲気」 「高級なインテリア」 , , (2010)は,ロンドン―ニューヨーク間におい 「広く快適なスペース」, 「食事や飲み物の提供」 , て,全席ビジネス・クラスを提供する Eos や 「ネットや PC 環境」 , 「映画やテレビの設備」 , Maxjet や Silverjet といった新興の航空会社と 「リラクゼーションルーム」 ,「無料通話」 , 「新 BA やデルタといった大手航空会社におけるビ 聞・雑誌」 「 ,シャワールーム」 が挙げられている。 ジネスクラスについて比較している。調査項目 こ の よ う に 航 空 会 社 の サ ー ビ ス・ ク オ リ は,価格 (コストパフォーマンスの良い価格) , ティに関する研究では,代表的な存在である スケジュール(便数や設定時刻や乗継など都合 SERVQUAL に加え,Grönroos(1984)の 2 次 の良いスケジュール・時間の厳守) ,快適さ (ゆ 元,Rust and Oliver(1994) の 3 次 元 な ど, とりある座席スペース・効率的なチェックイ 知名度の高い手法が積極的に試されている。ま ン・友好的で親切な乗務員・専用ラウンジ・食 た,航空会社のサービスを様々な切り口で細分 事と飲物) ,便利さ(FFP などのメンバーシッ 化し,その分野に特化した研究も多く見受けら ,イメージ(栄誉ある賞を プ・事前座席指定) れる。 受賞した航空会社といった評判・安全の評判) 本論文で対象とする高付加価値サービス・ク という Doganis(2002)の 5 次元 12 項目から, オリティ・モデルとの関連では,実測値のみで 競争優位性に影響しない「安全の評判」を削除 の測定より期待不一致モデルが多く用いられ, した 11 項目となっている。結果,新興の航空 実務への適用を考慮したプロセス・ベースによ 会社はコストパフォーマンスでは圧倒的に優れ る要素や次元の抽出はあまり見受けられない。 ているものの,スケジュールや FFP において 大きく劣っていると指摘している。また,価格 3.2.航空会社における高付加価値サービスに 関する先行研究 を抑えながらも,快適さでは大手航空会社と同 等のサービスを提供しており,イメージは逆に 本論文とは逆のポジションとなる低価格 わずかながら高いことを明らかにしている。さ を 強 み と す る LCC(Low Cost Carrier) に らに,余暇やビジネスなど,乗客の利用目的と 関して,Leong, Hew, Lee, and Ooi(2015) の関係も考察している。 高付加価値サービス・クオリティの研究(大 ) 5 その他,サービス・クオリティの研究では は「プレミアムクラス」という名称となってい ないが,Maertens(2011)は,すべての座席 る(ANA ホームページ)。 がプレミアム・シートとなるフライトに関す ・価格: る 戦 略 に つ い て 考 察 し,Hugon-Duprat and 価格に関して,例えば 2 月の平日(17 日) O'Connell(2015)は,エコノミーとプレミア の東京―札幌間の片道運賃は普通席の特割 21 ムの中間に位置し,足元のスペースに余裕を持 の片道運賃が 17,590 円∼に対して,プレミア たせたプレミアム・エコノミーを対象にエコノ ム特割運賃 31,290 円∼(搭乗する便により価 ミーよりも 1.6 倍のコストがかかるものの,収 格が若干異なる)と約 1.8 倍の設定になってい 益が 2.3 倍になることを明らかにしている。 る。 航空会社における高付加価値サービス・クオ ・座席関連: リティの研究はプロセス・ベースか否か以前に 127 cm という,ゆったりとした座席間隔で 未だ活発化しておらず,近年の航空サービス研 ある。一部機材ではパソコン電源やパーソナル 究は進展著しい LCC に集中している状況であ ライトが利用できるようになっている。席数は る。 機体にもよるが 8 席(ボーイング 737)から 21 席(ボーイング 777)ほど用意されている。 4.航空会社における高付加価値サービス の実態 ・アメニティ: 音質にこだわった高性能ヘッドフォン,ウー ル 100%の毛布,国際線ビジネスクラス用のス 高付加価値サービスの代表的な存在ともいえ リッパ,また希望者には,枕・アイマスク・耳 る航空会社における国内線のプレミアム・シー 栓・マウスウォッシュなども提供される。 トに関する事例研究を行う。LCC ブームもあ ・食事関連: り,現在,日本には多くの航空会社があるも 食事に関しては,「プレミアム GOZEN」と のの,国内線に通常の座席とは別にプレミア いう名称で,高級な食事が提供される。細部に ム・シートを提供している航空会社は ANA と わたるこだわりが随所に見られ,例えば,「蕗 JAL に限定される。 の旨煮に花びら百合根,空豆の蜜煮を添え,白 国内線の高付加価値サービスを対象とする理 掛けにしました。その他,おかずには定番の厚 由に関して,国際線のビジネスクラスやファー 焼き玉子や鶏の唐揚げ,鰯銚子煮をご用意しま ストクラスの価格はエコノミーシートの 4 倍 した。ご飯は鮭ご飯に柚子を添えて,香り豊か ∼ 10 倍といったレベルであり,本論文の研究 に仕上げました。けんちんにゅうめんと共にお 背景にある低価格競争の回避の視点から捉える 楽しみください。」などと紹介されている。 と,全くレベルの異なる価格・サービスによる ・空港サービス: 差別化を展開している国際線のビジネスクラス ―プレミアムチェックイン・サービス: やファーストクラスの事例を取り上げても,研 航空券の購入,搭乗手続き,手荷物の預け入 究成果の他のサービスへの一般化などにおいて れなどが専用カウンターで行える。預け入れ荷 有効に機能しないケースが多いとの判断による。 物に関しては,40 kg まで無料となっている(普 通席は 20 kg) 。 4.1.ANA のプレミアム・シート ―専用保安検査場: ANA の国内線における高付加価値サービス 行列に並ぶことなく,いつでもスムーズに保 6 第 16 巻 第 3 号 安検査を受けることができる。 席(ボーイング 767)から 14 席(ボーイング ―優先搭乗サービス: 777)に抑えられている。5 席のボーイング 767 搭乗口では優先的に機内へ案内される。 のフライトではプライベート感が強調されてい ―手荷物の優先受け取り: る。 手荷物は優先して受け取ることができる。 ・アメニティ: ―国内ラウンジの利用: ノイズキャンセリング機能付き密閉型ヘッド 搭乗手続き後,出発までの間,高級なラウン フォン,テンピュール社製クッション,専用ス ジで過ごすことができる。プレミアムクラス利 リッパ,モバイルバッテリーといった装備に加 用の本人に加え,同行者 1 名まで利用可能と え,食事前のおしぼりに JAL オリジナルの香 なっている。 りを提供,上着の預かりなど,充実したサービ スが行われている。 4.2.JAL のプレミアム・シート ・食事関連: JAL の国内線における高付加価値サービス 例えば 1 月は「ミシュランガイド 福岡・佐 は「ファーストクラス」と「クラス J」の 2 本 賀 2014 特別版」にて,二つ星として紹介さ 立てになっている(JAL ホームページ)。 れた佐賀県唐津市にある「つく田」の協力を得 て,玄界灘,有明海,佐賀平野と豊かな自然に 4.2.1.ファーストクラス 恵まれた佐賀県の豊富な食材を使ったオリジナ ・価格: ルメニューが提供されている。お米にもこだわ 国内線一律でプラス 8,000 円という極めてシ り,北海道を代表する高級ブランド米「ふっく ンプルな料金体系となっている。例えば,2 月 りんこ」を使用している。器は有田焼を使用す の平日(17 日)の東京―札幌間の片道運賃は るというこだわりぶりである。飲み物に関して 普通席の特便割引 21 の片道運賃が 17,590 円∼ も,例えばコーヒーは日本が誇るコーヒーの匠 となっており,ファーストクラスが設定されて である川島良彰氏の全面協力を得ており,また いるフライトで比較すると,普通席 20,390 円, お茶に関しても,茶師十段である前田文男氏の ファーストクラスは 28,390 円となっている。 オリジナル煎茶が提供されている。 その差は 1.4 倍程度に抑えられている。しかし ・空港サービス: ながら,距離が短い東京―大阪間では普通席 ANA 同様,専用チェックインカウンターで 12,090 円,ファーストクラス 20,090 円と,そ の諸手続きが可能であり,さらに福岡空港,新 の差は 1.7 倍となる。 千歳空港,伊丹空港では,サクララウンジ内の ・座席関連: ダイヤモンド・プレミア専用保安検査場が利用 前後の座席間隔は 130 cm を確保し,1 席の できる。機内への搭乗も優先され,預け入れ荷 専有スペースは普通席の約 2.7 倍の広さで,木 物は 45 kg まで無料,到着後は最優先で受け取 目調コンソールによって隣席と仕切られ,プラ ることができる。 イベート空間が確保されている。その他,通常 時 27 度,最大 42 度と傾斜角を深く取ったリク 4.2.2.クラス J ライニング,人間工学に基づくクッション形 ・価格: 状,低反発素材を採用した座面など,随所に 国内線一律でプラス 1,000 円という幅に抑え こだわりが見られる。席数は機体にもよるが 5 られている(但し,特便割引で購入の際はプラ 高付加価値サービス・クオリティの研究(大 ) 7 ス 2,000 円の場合もある)。よって,その差は ・ラウンジ:ラウンジ係員の接遇,態度など 概ね 1 割アップ程度におさまっている。 ・機内客室:客室乗務員の接遇,会話,態度な ・座席関連: ど 普通席より約 18 cm 広い前後 97 cm のシー ・到着空港:空港係員の案内,態度,手荷物返 トピッチ,47 cm のシート幅と普通席よりも 却など ゆったりと座ることができる。席数は機体にも ・苦情窓口:苦情窓口の態度,会話,対応など よるが,ボーイング 767 の場合,42 席,ボー 苦情窓口に関して,重要な要素であることは イング 777 では 82 席の設定となっている。 間違いないが,実際の質問票調査では全く利用 ・その他: 経験のない対象者も多く含まれると考えられる アメニティや食事,空港サービスなどに関し ため,プロセス・ベースのサービス品質測定項 て,例えば飲み物では前田文男氏のオリジナル 目に加える際には注意が必要である。 煎茶等が提供されるが,概ね普通席と大きな違 ち な み に, ス カ ン ジ ナ ビ ア 航 空 の 社 長 で いはなく,一般席と差別化されているサービス あった Carlzon(1987,p. 3)は最前線の従業 は広いシートの 1 点に絞られている印象である。 員 が 顧 客 に 直 接, 接 す る 平 均 15 秒 の 時 間 を Moment of Truth(真実の瞬間)と呼び,その 5.航空会社における高付加価値サービ ス・クオリティ・モデル 重要性を指摘している。 また,2007 年に ANA が日本国内の航空利 用者に対して実施した「航空会社を選択する際 5.1.航空会社におけるサービス・プロセス に重視する要素」に関する調査結果は表 1 の通 一般的な航空サービスのプロセスにおける顧 りである。国内線に注目すると,大項目として 客と接する決定的瞬間として,江島(2008a,p. は「マイル」,「ブランド・イメージ」 ,「プロダ 162)は以下の項目を挙げている。 クト・サービス」,「運賃・ダイヤ」が挙げられ ・予約:電話オペレーターの予約手続き,会 ている。小項目では「マイレージサービス」, 「そ 話,態度など の航空会社が好き」 「スケジュールの都合」 , 「安 ・出発空港:空港係員による手続きの手際,搭 乗案内,態度など 心・信頼できる」などが強い支持を得ているが, これらの項目はサービス開始以前の要素である 表 1 航空会社を選択する際に重視する要素 国内線 国際線 マイル 大項目 マイレージサービス 40.1 38.3 ブランド・イメージ その航空会社が好き 26.9 32.7 安心・信頼できる 23.5 24.5 客室乗務員が良い 6.4 9.3 時間が正確 6.3 9.2 機内サービスが良い 5.1 12.9 スケジュールの都合 26.1 16.7 運賃が安い 11.8 16.7 プロダクト・サービス 運賃・ダイヤ 小項目 出所:江島(2008b,p. 170) 8 第 16 巻 第 3 号 ため,プロセス・ベースのサービス品質測定項 リバリーに,場はサービス環境に該当する。高 目への追加には注意が必要となる。サービス・ い利便性は高付加価値サービスにより通常サー プロセスという観点からは大項目の「プロダク ビス以上に強調され,優越感は高付加価値サー ト・サービス」が大きく影響してくる。この項 ビスにより生じる新たなベネフィットであると 目において,国内線よりも国際線の方がより重 捉えられる。 視されている要因として,フライト時間の長さ ・予約 が影響していると考えられる。 情報化が進展する現代社会において,予約は 5.2.航空会社における高付加価値サービス・ インターネット経由で行われることが最も一般 的であると考えられる。その場合はサービス内 プロセスの明確化 JAL の“クラス J”におけるサービスは一般 容(処理手順や決済方法など) ,サイトまでの 席と比較し,座席および足元のスペースが広い アクセスや画面の雰囲気といった場的要素など という極めて限定的なサービスであるため,幅 も確認すべき項目になるであろう。 広く充実したサービスが展開されている JAL また,電話による予約というパターンも考え “ファーストクラス”と ANA“プレミアムク られ,その場合は電話オペレーターの対応(礼 ラス”を航空会社における高付加価値サービス 儀作法,知識,親切さなど)という人的要素や と捉え,検討していく。もちろん,2 つのサー サービス内容(処理手順や決済方法など)など ビスに関して,若干の差はあるものの,大きく が重要なポイントとなる。 捉えると共通化して議論することが可能である さらに,航空会社のカウンターや旅行代理店 と考えられる。 での予約も少数ながら考えられる。その場合は 以下,航空会社における高付加価値サービス 備品やスタッフの服装などの物的要素,スタッ について,プロセスごとに分析していくが,と フの対応(礼儀作法,知識,親切さなど)といっ りわけサービス内容,ヒト,モノ,場,高い利 た人的要素,サービス内容(処理手順や決済方 便性,優越感という 6 つの視点を重視する(表 法など),窓口の場所や雰囲気などの場的要素 2) 。サービス内容は Grönroos(1984)が指摘 が重要になるであろう。 する技術的品質に,ヒト,モノ,場は機能的品 しかしながら,予約のプロセスにおいて高付 質に該当する。また Rust and Oliver(1994) 加価値サービス・シートは通常サービス・シー の研究と対比させると,サービス内容はサービ トと差はなく,ほぼ同様なサービスが提供され ス・プロダクトに,ヒト,モノはサービス・デ るにとどまっている。よって,このプロセスの 表 2 高付加価値サービスで重要となる要素 Kotler(1976) Grönroos(1984) Rust and Oliver (1994) 高付加価値サービス コア・サービス 技術的品質 サービス・プロダクト サービス内容 周辺サービス 機能的品質 サービス・デリバリー ヒト モノ サービス環境 場 ― ― ― 高い利便性 ― ― ― 優越感 高付加価値サービス・クオリティの研究(大 ) 9 高付加価値サービス全体の品質への影響度は限 ことができる。ここは比較的サービスを享受す 定的であろう。 る時間が長くなるプロセスである。まず専用ラ ウンジにおけるソファやテーブルといった備品 ・チェックイン や雑誌や新聞,お菓子や飲み物,スタッフの服 高付加価値サービスの場合,専用カウンター 装などの物的要素,スタッフの対応(礼儀作法, で航空券の購入,搭乗手続き,手荷物の預け入 知識,親切さなど)に代表される人的要素,受 れなどが専用カウンターで行える。こうした 付の処理手順や営業時間などを含むサービス内 チェックインのプロセスにおいては,まず専用 容,ラウンジの場所,広さ,雰囲気などの場的 カウンターの備品やスタッフの服装などの物的 要素などが重要になるであろう。さらに,場的 要素,スタッフの対応(礼儀作法,知識,親 要素には,価値観や行動様式などが自身と近い 切さなど)といった人的要素,チェックインの 属性の利用者が多いことによる居心地の良さと 処理手順や通常サービスと比較して 2 倍程度ま いったポイントも加味されるかもしれない。ま で許容される預け入れ荷物といったサービス内 た,出発までの時間,ゆったり仕事などができ 容,カウンターの設置数・場所や雰囲気などの る高い利便性,専用ラウンジ利用という優越感 場的要素が重要になるであろう。また,専用カ の確認も必要となる。 ウンターであるため,並ぶ時間が最小化される という高い利便性,専用カウンター利用という ・搭乗 優越感なども確認すべき興味深いポイントであ 優先搭乗サービスにより,搭乗口では優先的 る。 に機内へ案内される。一般の乗客より優先さ れ,並ぶことなく,スムーズに搭乗することが ・保安検査 できる。よって時間が最小化されるという利便 高付加価値サービスにおいて,特定の空港で 性に加え,優先搭乗できるという優越感も確認 は専用保安検査場が用意され,列に並ぶことな すべき興味深いポイントである。このプロセス く,いつでもスムーズに保安検査を受けること は短時間ではあるが,備品やスタッフの服装な ができる。よって,時間が最小化されるという どの物的要素,スタッフの対応(礼儀作法,知 利便性に加え,専用保安検査場を利用するとい 識,親切さなど)といった人的要素,サービス う優越感も確認すべき興味深いポイントであ 内容(処理手順) ,優先搭乗ゲートの雰囲気な る。通過時間,つまりサービスが提供される時 どの場的要素も確認すべきであろう。 間が非常に短いため,認知される可能性は低い かもしれないが,備品やスタッフの服装などの ・機内 物的要素,スタッフの対応(礼儀作法,知識, 機内で過ごすプロセスは通常,最も長くサー 親切さなど)といった人的要素,サービス内容 ビスを享受するため,利用者のサービス全体の (処理手順など),雰囲気などの場的要素も確認 評価に対して大きな影響力を持つと考えられ の必要がある。 る。豪華なシートや食事や飲み物,充実した雑 誌やアメニティなど,高付加価値の物的要素が ・待機 満載されている。さらに,スタッフの対応(礼 高付加価値サービスにおいては,搭乗手続き 儀作法,知識,親切さなど)といった人的要 後から出発までの間,高級なラウンジで過ごす 素,豊富できめ細かなサービス内容,前方に位 10 第 16 巻 第 3 号 置し,ゆったりとした雰囲気などの場的要素も 価値サービスの知覚価値の確認項目として,再 充実している。さらに,ラウンジでの待機同様, 利用意向,他者への推奨などが考えられる。 場的要素には価値観や行動様式などが自身と近 い属性の利用者が多いことによる居心地の良さ といったポイントも加味されるかもしれない。 6.結論 また,とりわけプレミアム・シートの前方へ 本論文では,“プロセスへの注目”,“犠牲の の配置やきめ細やかなサービスによる高い利便 概念を含む”,“実測値のみでの評価”を主たる 性,優越感も確認すべき興味深いポイントであ 要素とする高付加価値サービス・クォリティ・ る。 モデルの航空サービスへの適用について検討し た。航空サービスにおける予約∼手荷物の受け ・降機 取りという一連のプロセスに対して,サービス このプロセスは非常に短いプロセスではある 内容,ヒト,モノ,場に関する要素に注目する が,飛行機は一般席においても通常,前方の人 必要がある。また,高付加価値サービスにより, 気が高いことから,いち早く降機することがで その程度が格段に向上する利便性,新たに生ま きるという利便性への評価は高いと考えられ, れる優越感という要素に対しても注意しなけれ また優先的に降機できるというサービスに優越 ばならない。 感を感じる利用者もいるであろう。また,スタッ 今後の計画はこうしたモデルを活用し,航空 フの対応(礼儀作法,知識,親切さなど)といっ 会社における高付加価値サービスの品質を測定 た人的要素,処理手順などのサービス内容も確 することである。そのために航空会社への個別 認する必要がある。 訪問面接調査を実施し,今回のモデルを修正お よびさらに充実したものとする。それを基に質 ・手荷物の受け取り 問票を作成し,高付加価値サービス利用者に対 優先手荷物受け取りサービスにより,手荷物 する調査を実施する。実際の調査において,仕 を優先して受け取ることができる。このプロセ 事もしくは観光といった利用目的,またコスト スも時間短縮による利便性において評価が高い 負担者が本人もしくは所属する組織などの他者 であろう。さらに優越感を感じる利用者もいる であるのかといった点にも注意する必要がある かもしれない。また短い時間ながら,スタッフ だろう。さらに,一般サービスや LCC に対し の服装といった物的要素,スタッフの対応(礼 ても同様の調査を実施し,比較を通じて高付加 儀作法,知識,親切さなど)といった人的要 価値の航空サービスにおいて重要となる要素を 素,処理手順などのサービス内容も確認する必 明確化していく。 要がある。 さらに航空サービス以外にも,多くのサービ スを対象に調査を実施し,高付加価値サービ こうした様々なサービスの享受から構成され ス・クオリティを測定する枠組みの一般化に取 る知覚便益に知覚コストを勘案し,高付加価値 り組む予定であるが,例えば今回の航空サービ サービスの知覚価値は決定される。高付加価値 スにおいて,定時のフライトや安全性の確保と サービスに関わる知覚コストに関して,一般の いったコア・サービスは各社とも高い水準を確 サービスと比較して高価格であることの影響度 保しており,利用者の知覚便益に与える影響は の確認は重要なポイントである。また,高付加 小さいと考えられる。しかしながら,例えば散 高付加価値サービス・クオリティの研究(大 ) 11 , 56(1), 190―213. 髪やマッサージにおけるコア・サービスでは店 舗や担当スタッフにより大きな差が生じるた め,知覚便益に大きな影響を与えるはずであ る。高付加価値サービス・クオリティを測定す Fourie, C. and Lubbe, B. 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