症例2

初心者を対象とした
形態グループミーティング
症例 2
症例2
【症例】
70歳代 女性
【既往歴】
特記なし
【現病歴】
下腿腫脹のため前医受診時、下腹部腫瘤を
認め、精査目的で当院内科紹介受診
症例2
血液検査
WBC 18.6×109/L
Hct
RBC 3.73×1012/L
MCV 87.9 fL
Hb
10.3 g/dL
PLT
32.8 %
251×109/L
症例2
TP
ALB
LD
AST
ALT
生化学検査
6.1 g/dL
BUN
3.2 g/dL
Cre
575 U/L
CRP
52 U/L
24 U/L
13.1 mg/dL
0.55 mg/dL
1.28 mg/dL
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×200
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×400
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×400
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×400
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×1000
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×1000
GM2 末梢血血液像 (MG染色)
×1000
GM2
血液検査(血液像)
Sta
0.0 %
Ab-Lym
27.0 %
Seg
43.0 %
所見
Lym
24.5 %
anisocyte
Mono
5.0 %
Eosi
0.5 %
Ba
0.0 %
GM2
凝固検査
PT(sec)
12.1 sec
PT(%)
90 %
PT(INR)
1.05
APTT(sec)
23.7 sec
GM2
ウイルス感染症・腫瘍関連検査
1.4(+)
EB EBNA IgG
EB VCA IgG
8.6(+)
EB VCA IgM
0.3(-)
HTLV-1
陰性
sIL2R
9860 U/mL
GM2
• ここまでの検査データで異常値は?
• 血液像の所見は?
• どの様な疾患が類推できますか?
• 診断に必要と考える検査は?
GM2
• ここまでの検査データで異常値は?
WBC ↑ 、RBC ↓、 Hb ↓、Hct ↓
TP↓、ALB ↓、AST ↑ 、 LD ↑ 、CRP ↑
EB EBNA IgG (+)、EB VCA IgG (+)、sIL2R ↑
APTT↓
血液像の所見は?
Ab-Lym出現、anisocyte
GM2
• どの様な疾患が類推できますか?
悪性リンパ腫
• 診断に必要と考える検査は?
骨髄検査、病理検査、細胞表面マーカー、
染色体検査
GM2 骨髄像 (MG染色)
×100
GM2 骨髄像 (MG染色)
×200
GM2 骨髄像 (MG染色)
×400
GM2 骨髄像 (MG染色)
×400
GM2 骨髄像 (MG染色)
×400
GM2 骨髄像 (MG染色)
×1000
GM2 骨髄像 (MG染色)
×1000
GM2 骨髄像 (MG染色)
×1000
GM2 骨髄像 (MG染色)
×1000
GM2 骨髄像 (PO染色)
×1000
GM2 骨髄像 (PAS染色)
×1000
GM2 骨髄像 (ACP染色)
×1000
GM2 骨髄検査
赤芽球系細胞
顆粒球系細胞
その他
Megaloblast
% Myeloblast
0.2
% Immature-Mo
Proerythro
% Promyelo
2.2
% Mature-Mo
0.2
%
Baso-macro
% Myelocyte
7.2
% Lympho
5.0
%
% Metamyelo
7.6
% Plasma cell
3.6
%
Ortho-macro
% Stab
18.2
% Macrophage
0.8
%
Baso-normo
% Segment
13.6
% Mast cell
Poly-macro
2.4
%
%
Poly-normo
6.0
% Immature-Eo
1.4
% Abn- Lym
Ortho-normo
0.4
% Mature-Eo
4.6
%
%
%
%
%
%
%
% Immature-Ba
Erythro
8.8
% Mature-Ba
%
Granulo
0.4
55.0
M/E比
26.4
6.25
%
GM2 骨髄検査
• 骨髄検査での所見をあげてください。
GM2 骨髄検査
• 骨髄は正形成
• 3血球系統の細胞に形態異常は認めない
• Abnorml Lymphoid cellは大きさ12~25μ、小型~
中型でN/C比70~90%、核形は不整形で切れ込
み、分葉状、2核等様々。核網は粗荒で、一部の
細胞に核小体を有する細胞も認める。細胞質の
好塩基性は弱~中等度(出現率:26.4%)
【特殊染色所見】
• PO染色陰性
• PAS染色陰性
• ACP染色顆粒状陽性
GM2 細胞表面マーカー
T系
B系
その他
CD2
20.8 %
CD3
18.9 %
CD4
8.7 %
CD5
95.2 %
CD7
17.9 %
CD8
14.2 %
CD10
3.4 %
CD19
81.8 %
CD20
81.3 %
CD23
3.6 %
Κ-ch.
83.6 %
λ-ch.
5.7 %
CD11c
9.0 %
CD16
3.6 %
CD25
32.1 %
CD30
2.3 %
CD34
1.9 %
CD56
5.1 %
GM2 細胞表面マーカー
細胞表面マーカーの所見をあげてください。
GM2 細胞表面マーカー
CD2(+)、CD5(+)、CD19(+)、CD20(+)、CD25(+)、
κ鎖:83.6%、λ鎖:5.7%
κ鎖とλ鎖に20%以上の陽性率の差が認められた。
又、CD23(-)でCLLは否定される。
B-CLL/SLLを除く、CD5(+)の成熟B細胞性腫瘍は?
GM2
• 染色体検査(G-BAND)
46,XX
【20/20細胞】
染色体異常は認められなかった
(正常女性核型)
G-bandの結果の解釈について
染色体検査で正常の結果が出た場合には、このような4つ
の解釈が考えられる。
①本当に正常である場合。
②Gバンドの検出率は統計学上20細胞分析で14%程度の
為、異常細胞の割合が低いために検出できない可能性
がある。MLは染色体異常の検出率が高いため、正常な
結果の場合、腫瘍細胞数が少なかったと考える。
③腫瘍細胞が細胞周期に入らず、G0期にあたる休眠して
いる状態dormant cellはなかなか増殖しない場合は異常
細胞が増殖せず正常の結果となる。
MM,CLLなど増殖が遅い腫瘍では分裂期細胞が少ない
ため、染色体異常の検出率は低い。
④形態では判別できない潜在的な(cryptic)な異常は正常
となる。
※(②~④は異常があっても検出できなかった場合。)
GM2
• 病理検査
【クロットセクション】
cellularity60%の軽度過形成骨髄で、M/E比=3
~4/1、巨核球2/HPF観察される。小型から中型
異型リンパ球の集簇を認める。免疫組織化学的
に、集簇を伴う増加するリンパ球は、CD20+Bリン
パ球で、CD5+、cyclinD1+、CD10-、bcl-2+、CD3-細
胞からなる。
GM2 病理 cyclinD免疫染色
×400
GM2
• 末梢血で白血球高値、貧血、Ab-Ly出現あり
• 3血球系統の細胞に形態異常はみられない
• 骨髄検査で小型~中型の核形不整を伴う、
Abnormal Lymphoid cellの増加がみられる
• 細胞表面マーカーはCD5(+)、CD10(-)、CD23(-)、
κ鎖,λ鎖に20%以上の陽性率の差を認める
• 染色体検査は正常核型
• クロットセクションで小型から中型異型リンパ球の集
簇を認める。免疫組織化学的にはCD20+Bリンパ球
で、CD5+、cyclinD1+、CD10-、bcl-2+、CD3‐、細胞か
らなる。
• IL-2R:9860 U/mLと高値
GM2
• これまでの検査で考えられる疾患は?
GM2
• 本症例は
マントル細胞リンパ腫(MCL)
マントル細胞リンパ腫とは、小型~中型のリンパ球
が単調に増殖するB細胞性腫瘍で、形態的には核
形不整があり、centrocytes/cleaved follicle center
cells(FCC)に類似している。ただし、FCCより核形不
整は軽度である。CyclinD1の転座を伴う。
マントル細胞リンパ腫
【疫学】中高年の男性に多い。
【臨床病変】リンパ節浸潤が高頻度。脾・骨髄・末梢血(白血化)も重要。
【予後および予後因子】核分裂像増加、Ki67陽性細胞の増加、芽球様/多形性バリ
アント、トリソミー12、p53変異、白血化等は予後。
【形態学的特徴】小型~中型の異型細胞が単調な増殖を示す。
【免疫学的所見】IgM/IgDが陽性で軽鎖タイプはκ型よりλ型が多い。
CD5+、FMC7+、CD43+/-、CD10-、BCL2+、BCL6-、CD23-。※CD5-僅かに存在。
cyclinD1(BCL1)+を証明する事がMCLの診断に極めて重要である。
【染色体異常・癌遺伝子】t(11;14)(q13;q32)はほとんどのMCL症例で認められ、最も
重要な遺伝子変異である。
※サイクリンD1陰性MCL:サンクリンD1発現やt(11;14)陰性であるが、他の免疫
マーカーなどは典型的所見を示すMCLが稀に存在する。
マントル細胞リンパ腫の形態的特殊型
【Aggressive variant】
Blastoid
リンパ芽球様で核分裂が多数(高倍率10視野で20~30
個)みられる。
Pleomorphic
多形を示し、多くは大型細胞で核小体が明瞭である。
【Other variant】
Small cell
小型の円形細胞よりなりCLL様である。
Marginal zone-like
単球様細胞や濾胞辺縁帯細胞様で、時にはCLL/SLLの
増殖中心様の像をとる。
B細胞系リンパ腫の代表的な表面形質
1)CD5陽性B細胞性リンパ腫
B-chronic lymphocytic leukemia(B-CLL)
small lymphocytic lymphoma(SLL)
mantle cell lymphoma(MCL)
2)CD10陽性B細胞性リンパ腫
lymphoblastic lymphoma/leukemia
follicular lymphoma
Burkitt lymphoma
3)CD5,CD10陰性B細胞性リンパ腫
marginal zone B-cell lymphoma(MALT type)
plasmacytoma
(diffuse large B-cell lymphoma)※
その他
CD5
CD10
CD20
+
-
+
M.D
CD23(+)
+
-
+
M.D
cyclinD1(+)
-
-
-
+
+
+
-
+
+
-
M+/-,D>G>A
M
TdT(+)
bcl‐2(+)
+
―
+
M>G
clg
variable
―
-
―
―
―/+ ―/+
sIg
CD38(+++)
※diffuse large B-cell lymphomaは各亜型からの
transformationがある。
※CD5陽性B細胞性リンパ腫
B-CLL/SLLはCD23の発現により、MCLはcyclinD1の過剰発現により鑑別が可能。
MCLはIgM/IgDが陽性で,軽鎖タイプはκ型よりλ型が多い。
CLLはsmIgM(dim)またはsmIgM+IgD(dim)
成熟型B細胞腫瘍における表面マーカー診断チャート
B-cell 1st panel
Lineage
CD19,CD20,smIg
分化度
Clonality
(Κ,λ)20%<
腫瘍性
T&B markers
CD5
CLL markers
CD23,CD22,FMC7
CLLマーカー
CLL/SLL,MCLのみ陽性
B-CLLs CD45+
B-CLL phenotype
CD5+,CD23+,FCM7-※1
SmIg+/-(weak),CD22+/-
CLL
2st panel
※1 dimCD20
Other phenotypes
CD19+,CD20+ (κ,λ)20%<
CD25+,
CD11c+,
CD103+
HCL
CD5+,
CD23-,
MCL※2
DLBCL
の一部
※2 brightCD20
CD5-少数有
CD10+
FL
BL
DLBCL
の一部※3
※3 GCBのDLBCL
CD19+,
smIg-,
CD38+,
CD138+,
cyIg+,
CD56+/-
PCL
ポイントはB-CLLと他の成熟型B細胞性リンパ腫瘍を分ける事!!!
CD5陽性を示す腫瘍にはCLL/SLL,MCL・・・CD23の発現とsmIg抗原量(蛍光強度の強さ),CD20発現量
CD10陽性を示す腫瘍にはFL,BL,DLBCLの一部。特にFLは50%を超える症例で陽性。
CD25とCD11cが同時に発現するとHCLに特徴的
エビデンス血液形態学より
成熟B細胞腫瘍(mature B-cell neoplasms)
病型
染色体
遺伝子
CLL/SLL
13q14.3
11q22-23
17q13
+12,6q21
miR-16-1/miR-15a:micro-RNA
ATM
P53
MALT
t(11;18)(q21;q21.1)
t(14;18)(q32;q21.1)
API2-MALT1
IGH-MALT1
FL
t(14;18)(q32;q21.3)
t(2;18)(p12;q21.3)
3q27
BCL2-IGH
BCL2-IGL
BCL6転座
MCL
t(11;14)(q13;q32)
CYCLIN D1-IGH
DLBCL
3q27
t(14;18)(q32;q21.3)
8q24
BCL6転座
BCL2-IGH
MYC転座
BL
t(8;14)(q24;q32)
t(2;8)(p12;q24)
t(8;22)(q24;q11)
IGH-MYC
IGL(κ)-MYC
IGL(λ)-MYC
エビデンス血液形態学より
白血化しやすい成熟B細胞性腫瘍
正常リンパ球
CLL/SLL
Mantle
Follicular
典型例では,成熟し
た小型リンパ球(赤血
球の2倍を越えない
程度)で,核は凝縮濃
染し,N/C比は高く,
通常核小体は認めら
れない。
小型~中型リンパ球
で核形不整があるが、
多くはcleavedの形態。
その切れ込みは軽い。
小型リンパ球様で
cleavedがあるものと、
大型でnoncleavedの2
タイプから構成される。
小型はCLL様だがさら
に細胞質に乏しく核に
鋭く・深い切れ込みが
特徴。
CD5(+),CD23(+),
CD5(+),CD23(-),
CD5(-), CD23(-/+),
CD10(-),Cyclin D1(-)
CD10(-),Cyclin D1(+)
CD10(+/-),BCL2(+)
trisomy 12,13q14欠失
t(11;14)(q13;q32)
t(14;18)(q32;q21.3)
他のB細胞系腫瘍でみられる細胞
HCL(有毛細胞白血病)
CD5-,10-,11c +,CD23,25+,103+,ANXA1+
B-PLL(B細胞性前リンパ球性白血病)
CD5-/+,10-,11c-,23-,17q欠失,p53
変異,13q14欠失
CD19,20,22,79a,PAX5
t(14;18)BCL2/IgH,3q27(BCL6),MYC
DLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)
CD10,19,20,22,38,43,77,79a,
smIg,HLA-DR,8q24(c-myc),
14q32(IgH)
BL(バーキットリンパ腫)
LPL(リンパ形質細胞性白血病)
CD5-,10-/+,11c-,23-,38+,
138+,56+/-,sIg-,cIg+
MM(多発性骨髄腫)
光顕的に形態学的特徴を呈するリンパ腫
成熟B細胞性腫瘍
成熟T細胞性腫瘍
慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫
前リンパ球性白血病
ヘアリー細胞白血病
濾胞性リンパ腫
マントル細胞リンパ腫
リンパ形質細胞性リンパ腫
形質細胞骨髄腫
形質細胞性白血病
びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫
血管内大細胞型B細胞性リンパ腫
バーキットリンパ腫
慢性リンパ性白血病
前リンパ球性白血病
T細胞性LGL白血病
慢性NK細胞増加症
アグレッシブNK細胞白血病
成人T細胞性白血病/リンパ腫
セザリー症候群
エビデンス血液形態学より
他のB細胞性リンパ腫との鑑別
マントル細胞リンパ腫(MCL)
PB400倍
慢性リンパ性白血病/
小リンパ球リンパ腫腫(CLL/SLL)
PB400倍
他のB細胞性リンパ腫との鑑別
マントル細胞リンパ腫(MCL)
BM1000倍
濾胞性リンパ腫(FL)
BM1000倍
マントル細胞リンパ腫と成人T細胞性白血病/リンパ腫との鑑別
マントル細胞リンパ腫(MCL)
BM1000倍
成人T細胞性白血病(ATLL)
悪性リンパ腫における骨髄検査の意義
1)診断確定(特に原発巣からの組織・細胞の採取が
困難な場合)
2)病期の決定
3)進行期症例における治療に対する反応性の評価。
悪性リンパ腫の骨髄浸潤の診断
1)末梢血塗抹標本
2)骨髄穿刺吸引薄層塗抹・圧挫伸展標本
3)クロット(組織切片)標本
4)骨髄生検標本
5)免疫組織化学
6)フローサイトメトリー
7)染色体・遺伝子解析
悪性リンパ腫細胞の捉え方
• 異常リンパ球の質的(形態)異常は、N/C比が
高く、クロマチン(核網)は粗剛で濃染状、歪
な核形不整、明瞭な核小体、細胞質の偽足など
の所見を持ち合わせたもの。
• 1個の細胞に限定することなく、背景に散見さ
れる「単一様式」を確認すれば腫瘍性を疑う。