特集2 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ JA共済における 共済約款の平明化と今後の展望 2 ~保険法施行にともなう共済約款の改訂経過と 今後の取組課題~ JA共済連 全国本部 開発部 開発企画グループ 石原 秀紹 1.はじめに 用いて重要事項の説明を行うことが「約款」 JA共済では、平成22年4月施行の保険法 が法的拘束力を持つための要件としており、 に対応するため、ほぼ全ての「ご契約のしお 契約実務的にはまさにこのような実態なので り・共済約款」について、記載内容や仕様の はないかと考える。 大幅な改訂を行った。 平成22年4月に施行された保険法は、共 本稿は、保険法施行という節目において 済・保険契約に関する共通の契約ルールを定 JA共済が取り組んだ共済約款の平明化に関 めた民事法であるが、この中では「約款」の する改訂経過を振り返るとともに、JA共済 意義については明記されていない。これは、 における共済約款の位置付けや、今後取り組 「約款による取引」が共済・保険に限らない むべき主要な課題についても触れることとし ことにもよるが、今、まさにこの「約款によ たい。 る取引」について民法上の整備がなされよう としていることも背景にあったと思われる。 2.共済約款とは この点については、後述する。 1)法源 2)事業実施規程上の位置付け そもそも共済約款とは、大量の取引にかか 共済事業の事業実施規程である共済規程に わる事務を迅速に処理し、また、多数人の集 は、 「共済契約は、共済約款により締結する。」 合の存在を前提とする中で合理的な計算の基 と当たり前のように規定されている。 礎に立脚するためには契約内容が各契約者に 共済約款は、1)のとおり「共済者と共済 とって共通に定められる必要があるといった 契約者との権利義務関係を規定する規範」で 契約内容の定型化の要請から、共済契約の約 あるが、同時に、農業協同組合法および農業 定事項をまとめたものであり、 その規範性 (法 協同組合法施行規則が定める「共済規程の記 的拘束力)については、学説上、古くは意思 載事項」の一部を構成する規範でもある。 〔2〕 理論に始まり、意思推定理論、自治法理論、 なお、共済約款は、当初は各JAが個別に 商慣習法理論、新契約理論等が展開されてき 設定していたが、昭和30年代の事業実施規程 〔1〕 の整備・簡素化に関する検討を受け、昭和40 詳細は専門書に譲るが、前述の「新契約理 年3月に「全国共済農業協同組合連合会が行 論」では、特に家計保障分野について、消費 政庁の承認を受けて定めた共済約款をすべて 者契約性に注目し、 「約款」 の事前開示を前提 のJA・連合会において使用する」こととさ に、 「約款」と一体不可分である「ご契約のし れ、現在に至っている。 た。 おり」 、 「パンフレット」その他の募集文書を 10 共済総研レポート 2011.2 JA共済における共済約款の平明化と今後の展望 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 3.JA共済における共済約款平明化 の取組み 内容も全て重複して規定されていた。 )の規定 1)平成21年度までの取組み た。 内容を契約者向けに再構成して作成されてい 契約当事者間の権利義務関係を規律する契 ① 平成4年度まで<法令・通知のルールに 準拠した規定内容> 約規範であることに鑑み、あらゆる場面に対 共済約款の規定内容は、 「共済規程」 (当時 応できる網羅性や抽象性を実現するという点 は、共済規程の承認基準として農林水産省が では合理的であったが、法令・通知のルール 発出していた通知である「共済規程例」にも にもとづいた規定内容であったため、必ずし とづき設定されており、共済約款に相当する も読みやすいものではなかった。 平成4年当時の共済規程と共済約款の規定内容(終身共済の支払事由) 共済規程 1 この組合は、次の各号に掲げる共済事故が発生したときは、その共済事故に係る共済金を、(ア)に掲げる共済事故にあ つては共済金受取人に、(イ)に掲げる共済事故にあつては被共済者に支払うものとする。 (ア) 被共済者が死亡したこと。 (イ) 被共済者が共済契約の成立又は復活の日以後に生じた疾病又は傷害により別表1第1級に掲げる後遺障害(以下こ の章において「第1級後遺障害」という。 )の状態に該当するに至つたこと(その日前に既にあつた後遺障害の状態に、 その日以後に生じた疾病又は傷害(その日前に既にあつた後遺障害の状態の原因となつた疾病又は傷害と因果関係の ない疾病又は傷害に限る。 )による後遺障害の状態が新たに加わつて第1級後遺障害の状態に該当するに至つた場合を 含む。 ) 。 2 前項の規定により支払う共済金の額は、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に掲げる額とする。 (ア) 前項各号に掲げる共済事故が共済掛金の払込期間(共済掛金払込免除契約にあつては、その変更前の共済契約に係 る共済掛金の払込期間。次号において同じ。 )内に発生したとき。終身共済金額と定期共済金額との合計額に相当する 額 (イ) 前項各号に掲げる共済事故が共済掛金の払込期間の満了後に発生したとき。終身共済金額に相当する額 第10条 この共済契約により組合が支払う共済金については、次のとおりとします。 共済金の種類 支払事由 (ア) 死亡共済 金 被共済者が共済掛金の払込期間内に死亡 したこと 被共済者が共済掛金の払込期間満了後に 死亡したこと 被共済者が共済契約の成立または復活の 日以後に生じた疾病または傷害により共 済掛金の払込期間内に第1級後遺障害の 状態になったこと(共済契約の成立また は復活の日前にすでにあった後遺障害の 状態に、その日以後に生じた疾病または 傷害(その日前にすでにあった後遺障害 の状態の原因となった疾病または傷害と 因果関係のない疾病または傷害に限りま す。)による後遺障害の状態が新たに加わ って第1級後遺障害の状態になったとき を含みます。以下この項において同じ。 ) (イ) 後遺障害 共済金 共済金の額 共済金受取人 終身共済金額と定期共済金額との合計額 死 亡 共 済 金 受 と同額 取人 終身共済金額と同額 終身共済金額と定期共済金額との合計額 被共済者 と同額 共済約款 被共済者が共済契約の成立または復活の 終身共済金額と同額 日以後に生じた疾病または傷害により共 済掛金の払込期間満了後に第1級後遺障 害の状態になったこと 共済規程の規定を「ですます」調にし、表形式にした程度であり、基本的な規定表現は共済規程(法令用 語)を維持していた。 11 共済総研レポート 2011.2 特集2 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ② 平成5年度から平成14年度まで<法令用 しては不十分な面があった。 語から一般用語への段階的な移行> 2)組合員・利用者に対する意向調査(平成 行政手続の効率化の観点から、平成5年度 20年度) に共済規程の簡素化が行われ、共済規程と共 JA共済連では、平成22年4月の保険法施 済約款との重複が解消された。 行に向けた約款改訂を進めるにあたり、一層 これを受けて、平成6年度に導入した「生 の平明化にも取り組むこととし、その一環と 命総合共済」の共済約款では、 「読みやすさ」 して平成20年度に実施した「JA共済モニタ の向上に向けて、参照条文の注記を設け利便 ー調査」 性の向上を図るとともに、体裁についても、 読んだことがありますか。 」、 「読んだことがな それまでのB5判から当時保険業界の主流で い理由は何ですか。 」といった率直な質問を行 あったA5判に改められた。 ったところ、次のような結果が得られた。 〔3〕 において、「あなたは共済約款を 「分からないことがあるときは、JAの担 ③ 平成15年度から平成20年度まで<分かり やすい約款に向けた取組強化> 当者に聞けばよいから」という点については、 平成15年には、 「事業者による自己責任」と 対面推進を基本とするJA共済にあっては頼 いう行政改革の流れの中で上述の「共済規程 もしい結果であったが、組合員・利用者の安 例」が行政通知からJA共済連が定める規範 心感や信頼感を一層高めるには、約款の規定 に変更された。 表現に加え、 「字の小ささ」 、「文字の多さ」と いった視認性に関する仕様面での改善も不可 また、請求漏れの発生等を契機に、契約者 保護の一層の徹底を図る趣旨から、共済約款 欠であることが定量的に明らかになった。 の平明化( 「平易化(読みやすさ) 」および「明 ① 「読んだことの有無」 「読まない理由」 回答者の約60%が「約款」を「読んだこと 確化(理解しやすさ) 」の略。 )に取り組んだ。 当時の主な平明化の取組内容は次のとおり がない」としており、その理由としては「分 であるが、仕組改訂の機会を捉えて段階的に からないことがあるときは、JAの担当者に 取り組んだため、共済約款横断的な取組みと 聞けばよいから」が最も多く、次の理由とし 平成15年度から平成20年度までにおける共済約款の平明化の実施状況 共済約款の区分 生命系共済約款 建物系共済約款 自動車系共済約款 傷害・賠責系共済約款 ― 実施 実施 ― 二重カッコ解消 ― 実施 ― 実施 二重否定解消 ― ― ― 実施 表形式の活用 実施 実施 実施 ― 計算式の活用 ― ― 実施 ― 取組内容 条項配列の見直し(支払・免 責関連条文を共済約款の前段 に規定する 等) 規定表現の見直し 12 共済総研レポート 2011.2 JA共済における共済約款の平明化と今後の展望 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ て、 「字が小さくて、読む気がしないから」が 層の向上を図るため、共済約款・共済掛金率 多かった。 審議委員会(契約者代表委員、学識経験委員、 (単位:人) 約款を読んだ経験 JA代表委員等で構成される共済約款改訂の 読んだことがない理由 (複数回答) 諮問機関)における審議・研究も織り込み、 1位: 167 読んだことが ある (21.7%) 担当者に聞く 255 (55.6%) 2位: 459 読んだことが ない (59.5%) 字が小さい 183 (39.9%) 覚えていない 112 3位: (14.5%) 難しい 159 (34.6%) 無回答 33 4位: ( 4.3%) 分量が多い 152 (33.1%) 共済約款の平明化を行った。 今回の平明化の取組みは、契約規範として の抽象性・法的厳密性を損なわない範囲で、 文章の短縮化、表や計算式の活用等を行うこ とによって、法令・通知のルールに縛られな い読みやすい文章に改め、同時に文字のサイ ズや印刷物の仕様についても見直しを行い、 ② 分かりやすさ・分かりにくい理由 共済事業向けの総合的な監督指針 〔4〕 が要請 回答者の約75%が「約款」を「とても分か している「契約関係者にとって読みやすく、 りにくい」 、 「どちらかといえば、分かりにく 理解しやすい共済約款」の実現に向けた改善 い」と感じており、その理由としては、 「読み を図ったものである。 慣れない言葉や用語が多いから」 、 「文字が小 ① 規定表現の改善 約款共通的に規定表現の統一を図り、読み さくて、読みにくいから」が多かった。 にくさの改善を図った。 (単位:人) 分かりやすさ 分かりにくい理由 (複数回答) 主な項目 1位: 146 395 とても分かり 言葉・用語が にくい (18.9%) 難しい (68.8%) 内容 請求漏れの防止策の一助とするため、条文 条項配列の見 の順序を見直し、支払・免責にかかる条文 直し を共済約款の前方に配置した。 どちらかとい 428 2位: えば、分かり 字が小さい (55.5%) にくい 302 (52.6%) どちらかとい 87 3位: えば、やや分 文字が多い (11.3%) かりやすい 約款冒頭に記載している「用語の説明」を 用語の説明の 充実し、難解用語の説明を充実するととも 充実 に検索性の向上を図った。 246 (42.9%) 6 とても分かり 4位: やすい ( 0.8%) 見つけにくい 175 (30.5%) 従来カッコ書きとなっていた規定につい カッコ書きの て、「注書き」や「用語の説明」に変更し、 変更 併せて二重カッコを解消した。 その他 2 ( 0.3%) 無回答 102 (13.2%) 「〇〇は適用しません。ただし××はこの 二重否定の解 限りではありません。」等の二重否定とな 消 っている表現を解消した。 項・号番号の 振り方・他の 項・号の引用 方法の見直し 3)平成22年4月の保険法施行にともなう取 一般的に馴染みが薄い条文の「項」や「号」 の振り方や、他の項・号を引用する場合の 方法について、誤読を避ける観点から見直 した。 条文を視覚的に見やすくし、共済契約者の 理解を促進する観点から、列挙方式であっ た規定を中心に表形式による規定に変更 表形式・計算 した。 式の活用 また、共済金の支払額の算出方法など、文 章で規定している条文について、計算式に よる規定に改訂した。 組み(平成21年度) 上述のような経過・調査結果を踏まえ、 JA共済では、保険法施行に対応した約款改 訂の中で、保険法の趣旨である利用者保護を 実体面からも強化し、所謂「業務品質」の一 13 共済総研レポート 2011.2 特集2 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 平成22年4月に実施した平明化の具体例 項目 条項配列の 見直し 従来の約款 新約款 「契約成立→支払→消滅」という契約の時系列的な流 れに則した構成 保障内容の理解促進を重視し、支払事由や免責事由を 前方に配置した構成 用語の定義 用語の説明 責任開始 支払・免責事由/払込免除 掛金の払込み関係 責任開始 失効・復活 掛金の払込み関係 支払・免責事由/払込免除 失効・復活 契約内容の変更 契約内容の変更 無効・解除・消滅等 無効・解除・消滅等 貸付 貸付 その他 その他 2.被転換契約の普通約款の[共済契約の転換]の規 定により被転換契約が消滅したものとされる日の翌 日からその日を含めて前項に該当することとなった 日までの間に到来した被転換契約(失効していたも の(被転換契約が転換契約または一部一時払特約付 契約であるときは、払込部分または分割払部分が失 効していたもの)を除きます。)の共済掛金の払込期 カッコ書き 月(被転換契約が共済掛金の払込猶予期間中に転換 の変更 されたときは、その払込猶予期間にかかる共済掛金 の払込期月を含みます。 )において払い込まれるべき 共済掛金 (2)被転換契約の普通約款の[共済契約の転換]の 規定により被転換契約が消滅したものとされる時 の属する日からその日を含めて(1)に該当する こととなった日までの間に到来した被転換契約 (注1)の共済掛金の払込期月(注2)において 払い込まれるべき共済掛金 (注1)失効していたものを除きます。この場合に、 被転換契約が転換契約、乗換契約または一部 一時払特約付契約である場合は、失効してい たものとは、払込部分、先進医療部分または 分割払部分が失効していたものをいいます。 (注2)被転換契約が共済掛金の払込猶予期間中に 転換された場合は、その払込猶予期間にかか る共済掛金の払込期月を含みます。 第1条 ← 条 1.〇〇〇 ← 項 項・号番号 (1)〇〇〇 ← 号 の振り方・ 他の項・号 4.第1項の状態が戦争その他の変乱によって異常に 発生した場合で、その発生が共済掛金の計算の基礎 の引用方法 に影響をおよぼすときは、組合は、共済掛金の払込 の見直し みを免除しないことがあります。 第1条 ← 条 (1)〇〇〇 ←(かっこいち) ① 〇〇〇 ←(まるいち) 5.次の場合には、この特約は、それぞれ各号の時に 消滅します。 (1)この特約の復活の申込みがあり、主契約のみが 復活した場合には、主契約が復活した時 (2)被共済者が第1級後遺障害の状態または重度要 介護状態になり、特約後遺障害共済金が支払われ 表形式・計 た場合には、被共済者が第1級後遺障害の状態ま 算式の活用 たは重度要介護状態になった時 (3)被共済者が死亡した場合には、被共済者が死亡 した時 約款では「項」 「号」は使用し ない。 (4) (1)の状態が戦争その他の変乱によって異常に 発生した場合で、その発生が共済掛金の計算の基 礎に影響をおよぼすときは、組合は、共済掛金の 払込みを免除しないことがあります。 (5)この特約は、次の表の区分に応じて、同表の時 に消滅します。 区 分 消滅する時 ① この特約の復活の申込み 主契約が復活した時 があり、主契約のみが復活し た場合 ② 被共済者が第1級後遺障 害の状態または重度要介護 状態になり、特約後遺障害共 済金が支払われた場合 被共済者が第1級後 遺障害の状態または 重度要介護状態にな った時 ③ 被共済者が死亡した場合 被共済者が死亡した 時 14 共済総研レポート 2011.2 JA共済における共済約款の平明化と今後の展望 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ において印象を尋ねたところ、A4判に変更 ② 仕様の見直し 「文字が小さい」「見づらい」といった視認 した約款については特に文字サイズ・書体に 性に関する指摘に的確に対応するためには、 ついて約75%のLAから「良くなった」、 「少 文字の大きさや行間の拡大といった物理的な し良くなった」という回答をいただいたが、 面の改善も不可欠であるため、共済約款のサ 変形縦判に変更した約款については「変わら イズや文字サイズ等の仕様・体裁についても ない」という回答が半数弱を占めており、今 見直しを行った。なお、郵送による約款交付 後の改善に向けてはさらに掘り下げて検証し が見込まれるものについては、郵券代への影 ていきたい。 響も考慮し、サイズや重量、紙質の検討を行 また、既に各所で指摘されている 〔6〕 が、 各社が「約款の平明化」を進めた結果、 「ご契 った。 従来の約款 約のしおり」と「約款」とが接近または重複 新約款 しつつあるのは事実であろう。「利用者が契 文字サイズ 8ポイント (長期共済) 7ポイント (短期共済) 9ポイント (長期共済) 8ポイント (短期共済) 書体 明朝体 ゴシック体 見出し 条タイトル・表タイ 条タイトル・表タイ トルと本文の区分が ト ル を 網 掛 け す る ない 等、本文との区分を 強調 約款サイズ A5判(長期共済) A4判(長期共済) 変形横判(短期共済) 変形縦判(短期共済) 約後に本当に使いやすいもの」 、 「共済証書と 突き合わせて読めば保障内容(免責事項)が ほぼ理解できるもの」という視点から、組合 員・利用者の意向も十分に把握したうえで、 「ご契約のしおり」と「共済約款」の役割に ついても再検証していく必要があると考えら れる。 4.共済約款をめぐる環境変化 1)民法(債権法)改正 ③ 「ご契約のしおり」の改善 ① 概略 JA共済では、共済約款の平明化と同時に、 現在、法務省において民法(第3編 債権) 共済約款の内容のうち重要な事項を平易に再 の改正に向けた審議が行われている。 構成している「ご契約のしおり」についても、 実際の利用シーンを想定した構成への再編や これは、法務大臣の諮問 〔7〕 を受けて、 「民 見出しの工夫による検索性の向上等の改善に 法の債権関係の諸規定につきましては、その も取り組んだ。 内容を社会・経済の変化に対応させるととも 4)今後の検討課題 に、判例法理等を踏まえて規定を明確化する 今回の取組みにより、約款共通的に一定の ことにより、国民一般に分かりやすいものと 平明化はできたと考えられるが、今後に向け するなどの観点から、国民の日常生活や経済 ては、規定表現や仕様等の技術的な取組みだ 活動にかかわりの深い契約に関する規定を中 けではなく、仕組みの構造自体のシンプル化 心としまして早急に見直しを行う必要があ ・簡素化も含めた検討も必要と考えられる。 る」 〔8〕 との視点から、法制審議会の民法(債 権関係)部会として進められているものであ なお、3)②の仕様の見直しについて、平 〔5〕 る。 成22年度に実施した「LAモニター調査」 15 共済総研レポート 2011.2 特集2 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ② 共済約款に関する影響 が同部会の中で提示されている。 共済約款に少なからず影響すると思われる 既に消費者契約法において規定されている 項目として、次の3点が挙げられる。 (この他 不当条項規制も含め、民法への統合も視野に にも消滅時効の見直しや民事法定利率の見直 入れた検討が行われており、 「約款」 を使用す し等、契約実務に影響する項目も多い。 ) る契約について不当条項規制の再検証が求め ア 約款に関する規定の新設 られる。 約款の内容を相手方が知るための機会が十 ③ 今後の取組み 分には無く、相手方の利益が害される場合が 「民法の債権関係の諸規定」は、およそ契 あるのではないか等の問題意識を背景に、約 約取引全般に影響を及ぼすものであり、また、 款を利用した取引の安定性を確保する等の観 商法、消費者契約法その他の法律との関連整 点から、 「民法に規定を設けるべきである」と 理も必要となることから、同部会の開催回数 いう考え方が同部会の中で提示されている。 は、平成21年11月24日の第1回から数えて既 イ 約款を契約内容とするための要件 に20回を超えている。 (平成23年1月末時点) 約款を個別の契約の契約内容とするための 今後は、これまでの審議結果を踏まえた中 要件(約款の組入れ要件)について、例えば、 間論点整理がなされ、パブリックコメントに 「原則として約款が相手方に開示されている 付される予定である。 ことが必要であるとした上で、約款の開示が 約款にもとづく取引について、民法上、明 現実的に困難である場合の例外要件を設定す 確な規定が設けられる可能性があることに加 る」という考え方が同部会の中で提示されて え、その規定内容や提供方法といった技術的 いる。 な側面についても影響が想定されることか 共済約款に関しては、「開示」の内容次第 ら、同部会の検討状況を注視しつつ、分析を で、次の事項について影響が生じうる。 深めていくこととしたい。 〇共済推進時、契約継続時、契約更新時の共 2)環境保護と電子化・ペーパーレス化 済約款の開示・交付のルール ① 一般情勢 〇共済約款上「組合の定める手続」 、 「組合の 近年、保険業界においては、環境保護や企 定める取扱い」等とのみ記載し、その具体 業の社会的責任の向上の観点から、保険約款 的内容は共済者の内部規範である「共済約 の冊子配付に代えてデータ提供(CD-ROM 款の別定事項」に掲載されている規定内容 の配付やウェブサイトへの掲示)が進みつつ ウ 不当条項規制 ある。 契約取引時の情報・交渉力において劣位に インターネットの人口普及率が78.0%(平 〔9〕 ある一方当事者の利益が不当に害されないよ 「紙」 成21年末) に達した現状においては、 うに契約内容に介入し、不当な内容の契約条 にこだわる理由がないというのも事実であ 項の拘束力を否定する必要がある場合がある り、紙資源の節約や物流におけるCO2削減等 という問題意識(当事者間の情報・交渉力格 により環境負荷軽減に資する面だけでなく、 差の是正) を背景に、 「不当条項を規制する規 頻繁な商品改訂の度に生ずる資材の改廃コス 定を民法に設けるべきである」という考え方 トや版管理の徹底といったバックオフィス事 16 共済総研レポート 2011.2 JA共済における共済約款の平明化と今後の展望 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 携帯型端末機の利便性向上や無線通信環境 務の軽減にも資する取組みと考えられる。 の整備を背景に、今後は、保険業界において ② JA共済における考え方 JA共済も状況は類似するが、次のような も既存機器の更新にあわせてこのような携帯 点を一つ一つクリアにしておく必要があると 型端末機の普及や利用は進むと考えられ、契 考える。 約事務のワイヤレス化やペーパーレス化も一 〇組合員・利用者が電子化・ペーパーレス化 層進んでいくものと考えられる。(既に一部 の保険会社では先行事例が登場している。 ) を求めているのか。特に高齢の共済契約者 JA共済においても、このような技術変化 が多い契約構造の中で適切な選択肢か。 〇保障期間が長期間となる共済契約につい を前向きに捉え、契約締結時点の「共済約款 て、将来にわたっていつでも約款データに の取扱い」という部分的な局面に終始するこ アクセスできる環境整備が可能か。 となく、4.で述べた環境変化も織り込み、 〇アフターサービス面での利便性確保の点か 一連の契約事務プロセスや契約後のアフター ら、代替資材(約款の代わりに契約の概要 フォローも含めた組合員・利用者の利便性向 が分かるもの)の必要性が高まるが、 「ご契 上と理解促進に向けて、一気通貫した全体最 約のしおり」との区分はどうなるか。 適化を指向していく必要があると考える。 〇民法(債権法)改正における約款規制の影 響がどの程度見込まれるか。 ③ 今後の取組み 次のような視点も織り込みながら、契約実 務的、法律的な影響等、多面的に検証してい くこととしたい。 〇契約事務プロセスの見直しや資材の統廃合 による分かりやすさの向上 〇共済約款等の印刷、配送、保管といった一 連の物流プロセスにおける無駄の解消 〇各JAに展開している共済オンラインシス テムを活用した電子化・ペーパーレス化の 拡充 5.結びにかえて 平成22年は「スマートフォン元年」と言わ れた。同時にiPadやKindle、Reader等の発 売が相次ぎ「電子書籍元年」とも言われ、活 字メディアの電子化が急速に進みつつある。 また、平成23年以降は、「タブレット型端末」 の普及が一層進むとも予測 〔10〕 されている。 17 共済総研レポート 2011.2 特集2 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■参考資料■ 〔1〕金澤理「保険法 上巻〔改訂版〕」(成文堂 〔5〕「LAモニター調査」 2005)P.27~P.33 JA共済連と㈳農協共済総合研究所とが共 〔2〕「共済規程の記載事項」に関する農業協同組 同で毎年実施しているLAを対象としたアン 合法および農業協同組合法施行規則の規定 ケート・ヒアリング調査 〔6〕山本英人「約款平明化への取組み」(生命保 【法律】農業協同組合法 [共済規程] 第11条の7 〔略〕 2 前項の共済規程には、共済事業の種類その 他事業の実施方法、共済契約、共済掛金及び 責任準備金の額の算出方法に関して農林水産 省令で定める事項を記載しなければならな い。 【農林水産省令】農業協同組合法施行規則 [共済規程の記載事項] 第11条 法第11条の7第2項の農林水産省令で 定める事項は、次に掲げる事項とする。 一 事業の実施方法に関する事項 二 共済契約に関する事項 三 共済掛金及び責任準備金の額の算出方法 に関する事項 険経営 第77巻第2号)P.106 小林雅史「約款の平明化について」(ニッセ イ基礎研所報 Vol.57)P.63 〔7〕法制審議会第160回会議(平成21年10月28 日開催) 諮問第88号 「民事基本法典である民法のうち債権関係 の規定について、同法制定以来の社会・経済 の変化への対応を図り、国民一般に分かりや すいものとする等の観点から、国民の日常生 活や経済活動にかかわりの深い契約に関する 規定を中心に見直しを行う必要があると思わ れるので、その要綱を示されたい。 」 〔8〕法制審議会 この部分に相当するものが「共済約款」である。 民法(債権関係)部会 第1 回会議(平成21年11月24日開催)議事録 〔9〕総務省「平成21年 通信利用動向調査」 〔10〕I DC 〔3〕「JA共済モニター調査」 イス市場 JA共済連と㈳農協共済総合研究所とが共 2010年第3四半期の実績と予測」 2010年12月27日 同で毎年実施している主に組合員を対象とし たアンケート調査 〔4〕共済事業向けの総合的な監督指針(農林水 産省 Japan株式会社「国内モバイルデバ 平成22年8月23日改正) Ⅱ-2-10-2 主な着眼点(5)⑨ 「共済約款の作成については、共済契約者 の視点に立って、分かりやすい内容となるよ う努めているか。なお、専門用語や法律用語 の安易な使用が共済契約者の共済約款に対す る理解を困難なものにすることに留意してい るか。」 18 共済総研レポート 2011.2
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