知的財産で 勝ち抜く ジュエリービジネス 2002 年、小泉元内閣が「知財立国宣言」を行い、国家戦略として、 「日本人が産み出す新規性・独創性あるデザインや技術などの創作 第 1 回 「知的財産権を活用したジュエリー事業の保護」 性」を手厚く保護し始めており、現在では中小企業にむけての知的財 産権対策に様々なサービスがある。そして、この「創作性=知的財 産」が、元来、資源の少ない日本が生き残る道であるという意味合 いを含めている。実は、 オリジナルデザインを産み出すジュエリーには、 知的財産権を活用すべきキーポイントがいくつもあるのだ。従来、ど のように活用してよいかわからなかった知的財産権をジュエリー事業 からの視点で、数回にわけて詳しく紹介していく。 第 1 回は、「知的財産権を活用したジュエリー事業の保護」である。 自社でデザインしたジュエリーが、模倣された経験は あるだろうか? 以前、(社)日本ジュウリーデザイナー協会が全国の中 小規模宝石業 348 社対象にアンケートを実施したところ、 「模倣されたことがある」= 37,1% 「把握していない」= 23,1%にまで及んだ。「それに対し、なんらかの対処をし たか」の質問に、約 70%が「何の対処もしなかった」と の回答が出た。 労力と時間をかけて創作されたオリジナルのデザイン をマネされることになぜ何の対処をしないのであろう か? そのデザインが模倣かどうかの判断がつきにくい、デ ザインを保護する法律はあるが、時間とコストがかかり、 ジュエリーのライフサイクルに合わないなどの意見が考 えられる。 たとえば、知的財産権のひとつ、デザインの保護権利 =「意匠権」を取得するためには、約 3 ヶ月(早期審査 適用の場合)かかり、費用は約 20 万円。独占保護期間は 20 年。この金額を高いとするか安いとするかは、活用次 第なのである。 ひとつのデザインのライフサイクルをのばしてみては どうであろうか?独占権利を活用して、そのデザインを デザインの保護匠権 量 産 商品に対するデザインを 20 年間保護独占できる権利を 「意匠権」という。 注 意しなくてはならないのが、 貴社より、後発デザインであろ うと、他社が先に権利を取得し てしまった場合、 「うちが先に販売をしていた」と主張しても、貴社 商品の販売停止まで追い込まれる可能性のある強力な権利である。 そのような事態が発生しないように、この権利を事業に活用する 様々な裏ワザを紹介していく。 ■デザイン模倣防止 1. デザイン段階から出願できる権利である。 使用させてほしいというニーズにライセンスビジネスを 実施したり、将来の事業価値予測がつく権利なので事業 資金調達の指標にもなるのが知的財産権である。権利自 体は原石であり、磨き次第では何十倍も価値をもつ権利 であることを忘れてはいけない。 知的財産権とは 指輪に関する知的財産権の例 独創的なカッティング デザインの保護 石留め技術の独自考案の保護 ■実用新案権 ■意匠権 金属アレルギー コーティング剤の 開発の保護 商品名の保護 ■特許権 ■商標権 ※その他の知的財産 商品を模倣されてしまった! ■不正競争防止法 「人の精神的な創作や産業活動における発明などをある一定の期 間、独占的に法律で保護することができる権利権」と定義される。 上図のとおり、指輪ひとつとっても、5 つの権利を取得できる可 能性があり、これらの権利を取得すると、10 ~ 20 年間は独占保 護できる。商標権は、更新すれば、永続的に権利を持てるのである。 ことは意外に知られていない。 最近では、早期審査によれば出願 3 ヶ月程度で意匠権を取 得できるようになったため、市場に出回る頃には、登録ができ ており、堂々と、 「意匠登録済」と公開できる。 2. 秘密意匠 これは売れそうだ!というデザインが出来上がったが、なん らかの事情で販売が遅れてしまった。その間に似たようなデザ インがでてきたらどうしようという場合に、 「秘密意匠制度」と いう権利がある。これは意匠の登録日から 3 年間はそのデザイ ンは公開されずに保護できる制度である。そのような機会には ぜひ活用していただきたい。 3. 関連意匠・部分意匠 「部分意匠制度」とは、そのデザインの特徴的な一部を保護 商品が市場に出て 3 ヶ月~ 1 年の間がもっとも模倣商品が する制度、 「関連意匠制度」とは、そのオリジナルデザインを基 出回りやすい。意匠権は、デザイン決定の段階から出願できる 本としたバリエーション、リデザインを保護する制度である。ど Japan Precious Winter 2007 155 んな模倣をされそうかの予想を立て、どのような意匠権を取得 するかを検討することで、意匠権の効力を最大限に発揮できる。 することで、ブランディングに成功している。それは、先ず、消 効力拡大! 費者にブランドネーミングを認知させ、 知名度をアップ。各商品に、 関連 関連 たとえば、 “Samantha tiara”( サマンサ・ティアラ ) は、ブラ ンドごとに商標権出願をしており、有名人を宣伝広告として起用 部分 本意匠 ブランドネームを入れていくことで、模倣を防止している。 関連 関連 たとえば、右下図のようなハート&月&星型のメレダイヤの リングを開発した場合、そのハートや星、月の配列を変えたり、 色石を変えたり、そのコンセプトでネックレス、イヤリングとセッ トで販売展開を検討される場合は、そのハート型や星型、月型 パーツだけの「部分意匠」を、そしてその組み合わせや型の大 きさを変えたバリエーションデ ■オリジナルサービスの保護活用 卸業や小売店にとって活躍する権利改正が、2007 年 4 月よ り 「 小売等役務商標改正 」 としてはじまった。 <改定内容> ザインを「関連意匠」として出 小売・卸売の事業者が商品販売に際して行っている顧客に対 願して、保護範囲を広げておく する便益の提供 (品揃え、 陳列、 接客サービス等からなる総合サー と、様々な模倣からデザインを ビス)を第 35 類の役務商標として登録可能とする。 守ることができるのだ。 こちらは、自社オリジナルサービス、たとえば、包装ポーチ や包装箱、ショップカード、制服、看板、独自の陳列ケースな ■活用 どを一括保護できることになり、とくにショップにとってはブラ 梱包するケースやポーチも重要である。 ショップ全体のイメージがとても重要だからである。 小売業の場合、ショップイメージを表現する陳列棚や商品を ンディングしやすい権利保護である。どのお店で購入するかは、 もちろん独自性あるデザインであれば、その関連物の意匠権 を取得できることも忘れずに覚えておきたい。 技術・アイディアの保護 特許権 実用新案権 ジュエリーは身につけるものなので、機能性も重要なポイント である。特許権は新規性のある高度な技術の保護、実用新案権 は、物品の形状、構造又は組合せに関する技術的なアイデアを ブランド名を守る商標権 商標権とは、営業上の自社名や商品、サービスの名称やロゴ を保護する権利である。登録しておけば、他社はその名称やロ ゴを使うことはできないため、オンリーワンのブランディングを 構築することができる。 保護する権利である。 特許権は出願時に審査があり、時間と費用がかかるが効力は 大きい。実用新案は低費用、権利化されやすいが、無審査のた め効力としては特許権より制限される。 どちらの出願が適切かは事業内容や費用対効果を考慮し、検 討した方がよい。 今回は実用新案権について詳しく紹介してみる。 会社設立時の商号は、同一住所に同一名称がなければ登録さ 高度な技術の発明ほどではないアイディアなどは、日々ジュ れる。しかし、商号が登録されたからといって、他人の商標権 エリーに携わるプロフェッショナルならではのおもしろい発想も の効力を免れるわけではない。自社の商号名あるいはその類似 浮かぶであろう。実用新案権は、他社との業務提携やライセン 名を他社が商標登録してしまうと、自社の商号さえ製品やパン ス事業につながりやすいため、事業拡大に結びつきやすい。 フレットに付けることができなくなる可能性がある。商号を決め る際の調査、商号の商標登録が重要である。 実用新案権の例 ■ネーミング・ロゴ模倣防止 商品数が多く、それぞれのデザインに意匠出願をしていくと、 多額の費用がかかる場合、ブランド名の認知度をアップさせて、 実用新案公開平 6-125 商標権で保護しておくことで模倣を防止することができる可能 ハート型が完成するデザイン 性がある。 156 Japan Precious Winter 2007 2 本組み合わせることにより、 実用新案公開平 7-20823 星型をした装飾性に富んだピアス のキャッチの実用新案。ピアス本 体としても、使うことができる。 ヒット商品がなかなか生まれない時代であ る。それは、従来までの隣の人が買ったから 私も―という時代ではないからである。 今は、個人主義の時代だ。みんな「私だけ の・・・」探しには貪欲であり、それにはお 金を惜しまない。 「私だけの」が見つかれば、 大切に使い、メインテナンスしてまた使用。 そのブランドのリピーターになっていく。 どうも数ではなく 「質の時代」になってきた。 自社だけのオリジナルデザインを産み出す クリエイティブという作業は大変なことでは あるが、製造機械と違い、劣化したり壊れた りしない。クリエイティブという知的作業は 事業を守る不正競争防止法 事業者間において、正当な営業活動を実施するための、適切な競争を 確保するための法律である。 実際、判決などで争われる場合は、両社(者)の営業努力やその商品が 産み出されるまでの労力や時間なども公平に判断される。 よって、商品に関する制作工程から販売実績などすべての資料は、つね に保管しておきたい。今回はジュエリー業界に関連する主な権利をケース スタディで紹介する。 事業上、こんなことが起き たら 「大ヒットしたうちのブラン ドをマネされた!」 【混同惹起行為規制】他人の商品等表示(氏名,商号, 商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又 は営業)として需要者の間で広く認識されているものと 同一・類似の商品等表示を使用し,他人の商品または営 業と混同を生じさせる行為を禁止します。 「 ポンテベッキー」 という ジュエリーブランドで販売し たら、警告状がやってきた 【著名表示冒用行為】著名(よく知られている)な商品等 表示と同一あるいは類似の商品の使用禁止,またはその ような表示が使用された商品を譲渡引渡等することを禁止 します。 「どうもあの商品はうちのデ ザインと似ているなぁ」 【著名表示冒用行為】著名(よく知られている)な商品等表 示と同一あるいは類似の商品を使用の禁止,またはそのよ うな表示が使用された商品を譲渡引渡等することを禁止 「競合他社に「うちの製品は ニセモノブランドを輸入して いる」というウソの情報を 流された」 【信用毀損行為】競合企業などの信用を害する虚偽の事実 を告知し,又は,流布する行為をさします。 「退社した社員に顧客情報 を盗まれた!」の情 報を流 された」 【営業秘密不正取得・利用行為等】営業秘密を不正な方 法で取得したり,第三者に開示したり,利用したりする行 為を禁止します。 発想すればするほど豊かになる大きな知的財 産である。クリエイティブを産み出すための 名言がある。 ―知的能力(創造)は腕や脚のようには疲 れない。知的能力(創造)に必要なのは、休 息ではなく変化なのだ。 アーノルド・ベネット やっと産み出されたクリエイティブに知的 財産権を上手に活用し、ライフサイクルの長 い商品をつくるという発想の転換が必要な時 代になってきたのではないか? ジュエリー業界に関連する主な不正競争防止法 社団法人日本ジュウリーデザイナー協会にデザイン 保護について訊く 経済産業省を主務官庁 とする(社 )日本ジュウ リーデザイナー協会(以 下 JJDA)では、専門の 研究組織を作って知的財 産権についての調査・研 究と広報活動を実施して いる。JJDA 創作保全委 員会委員長らに話しを聞 いた。 のですが、JJDA では「デザイン画貸出書」を作り、模倣防止対策の ツールとして利用を薦めているので、参考にしていただきたいと思いま す。現在は、 「デザイン画の著作権化」にむけて文化庁へ働きかけたり、 「ネット上で自由に公開されてしまうデザイン保護」についても対策検討 しており、そういった部分で今後もジュエリー業界にお役に立てるよう な様々な事業を考えています。 左から JJDA 事務局長上田幸子さん、 JJDA 創作保全委員会委員長 山岸正治氏、 JJDA 理事 福地隆芳氏 私ども JJDA では、日本のジュエリーデザインの発展を目指し、様々 な活動をする中で、ジュエリーデザインのデータベース化やデザインに 関するアンケート調査などの貴重な資料を数多く提供しています。 また、国内のみならず欧米など海外に向けて日本のジュエリーデザイ ンを展覧会やトレードフェアの場を通じて発表したり、各界の専門家や 制作技術に関する講演会などを定期的に実施しています。 その中で、 「オリジナルデザインの創作保全」について普及啓発活動 を積極的に実施しています。 例えば定期的に、 「デザイン模倣防止」 や 「取 引契約書の書き方」などのセミナーを開催したり、小冊子なども発行し、 ビジネス上におけるサポートもしています。 JJDA のサイトから自由にダウンロードできる「ジュエリーデザイン 110 番」は、事業上に起こりうるトラブルをケーススタディを交えなが ら、適切な回答をし、皆様から、とても役に立つ内容になっているとの お褒めの言葉も頂いております。 また、デザイン画を外部へ貸出しする際にはトラブルが発生しやすい ジュエリーに関する 各種知的財産権についてのご相談は ジュエリーデザイナーズ in Japan 協会創立 40 周年記念に発行された、 コンテンポラリー・クラフト・宝 飾と 多 岐 に 渡る作 品を 354 名 の デ ザイ ナーにより集められた珠玉の 1 冊 問い合わせ先 社団法人日本ジュウリーデザイナー協会 TEL: 03-3523-7344 http://www.jjda.or.jp 今回の記事にご協力いただいたアイピーピー国際特許事務所(http://www.ippjp.com) とジャパンプレシャスが、 貴社のジュエリーに関する知的財産権について、 質問・相談を受け付けております。下記へお気軽にご連絡をください。 ■問い合わせ先 矢野経済研究所ジャパンプレシャス編集部 0120-463-160 Japan Precious Winter 2007 157
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