GPCI コミッティ会議 @ロンドン

2009 年 9 月 28 日
GPCI コミッティ会議 @ロンドン
森記念財団研究員
久保隆行
世界の都市ランキング2009年版(GPCI-2009)の集計作業が大詰めを迎えるなか、本ランキング
組織の最高顧問であるピーター・ホール卿に中間報告を行うためロンドンに赴く日が来た。個人的
には10年ぶりに訪れるロンドン。グローバル化という言葉がいつしか定着するようになったこの数
年に起きた街の変化についても観察したいと考えた。
ヒースローから都心へ
成田空港からヒースロー国際空港に定刻どおり到着したものの、イミグレーションは長蛇の列。約
一時間かけて通過。ヒースロー・エクスプレスにてパディントン駅まで15分と誇らしげに大きな広
告で宣伝されているがこれを解決しなければ意味がない。一方で成田では日本人のイミグレーシ
ョンは非常に速くて外国人のことは気にしたことがなく、とても気になる。訪問する国・都市の第一
印象が決まるところであり、都市ランキングの指標の一つになるのではないかと思う。ヒースロー・
エクスプレスにて宣伝通り15分にて都心のやや西側のターミナルの Padington までノンストップで
到着。列車は約10~15分おきに発着しており、料金は片道 16.5 ポンド(約 2800 円)と成田エクス
プレスとさほど変わらない。Padington から地下鉄に乗り換える際に階段しかなくまわりの旅行客と
ともに非常に苦労した。しかも、20 ポンド紙幣で先に買ったチケットのおつり 3.5 ポンドのコインを券
売機で利用しようと考えていたが、最低区間で 4 ポンド(約 680 円)もするためコインで買うことがで
きず、さらに紙幣が受付けられずに立ち往生するはめになってしまった。駅員に助けられて漸く地
下鉄に乗ることができ、Great Portland Street 駅に到着。ロンドンの地下鉄は歴史が古いぶん、階
段や通路が狭くてエスカレータが設置できるようなスペースもほとんどない。再び重い荷物を引き
づってなんとか地上にたどり着いた。
Heathrow Express
Paddington Station
Great Portland Street Station
ピーター・ホール先生との GPCI コミッティ会議
Great Portland Street から徒歩15分ほど、リージェント・パークとテムズ川のちょうど中間あたりに
University College London のキャンパスがある。ここもやはり10年ほど前に訪れていたが、
Bartlett School of Planning が入っている Wates House はセキュリティゲートが設置されていた以
外は昔とはまったく変わっていない。Bartlett とはイギリスでいちばん歴史のあるアーキテクチュ
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ア・プランニングスクールであるここの創設者の名前であることをホール先生からはじめて教わっ
た。先生の研究室にて GPCI コミッティ会議の開始。コミッティメンバーの一人でワーキング・グル
ープの主幹でもある市川先生とワーキング・グループの一員である三菱総合研究所の峰尾主席
研究員を交えて会議を行った。森記念財団にとって都市ランキングを昨年初めて作成するなかで
ホール先生からすでに多くの指導を受けていたが、今年はさらに精度を上げるとともに、ランキン
グの意義をより高めるために幾つかの修正を行っている。先ずは日本初の都市ランキングである
にもかかわらず、日本の都市が東京のみとなっていたことから対象都市を30から35に増やし大
阪、福岡を追加し、さらに南米とアフリカからも都市を加えている。また、ここ数年の間にかなり身
近な問題として人々に認識されるようになった環境について独立した分野として立ち上げ、合計で
6分野から成るランキングに変更している。今回は環境という分野を独立させたことによりランキン
グにも大きな変動が生じておりワーキング・グループとして少し戸惑っていたが、ホール先生はそ
の結果を見て「当然の結果であり驚くことは何もない」と評価されている。さらに、昨年は評価の方
法が非常に曖昧であった災害に関する指標については東京が非常に弱いという結果であったが、
災害に対する準備度合い(Preparedness)の評価方法についても指導を受け今年のランキングに
反映させることになった。その他にもさまざまな意見交換を行い、GPCI-2009 の完成度をより高め
ることができる自信をもつことができた。今年のランキングの発表は10月下旬を予定しているの
で期待されたい。
Committee Meeting
Sir Peter Hall
Mineo, Hall, Ichikawa, Kubo
London School of Economics (LSE)
Bartlett School を後にして次の目的地である Urban Age 事務局が設
置されている London School of Economics (LSE)に向かいリッキ
ー・バーデット教授を訪問。Urban Age という組織の成り立ちや今後
の展開について話を伺った。ドイツ銀行がスポンサーとなり LSE に
委託して将来性のあるマーケットのある都市についての調査を行っ
ているもの。2005 年よりニューヨーク、上海、ロンドン、メキシコシティ、
ヨハネスブルグ、ベルリン、ムンバイ、サンパウロにて会議が行われ
LSE 研究者を含む各国の有識者や地元ステークホルダーによって
会議開催都市の調査や都市戦略についての報告がなされている。 Urban Age Magazine
当方にて GPCI の研究概要について説明を行い高い評価を得ることができた。また、11月に開催
予定であるイスタンブールでの会議への招待と会議用の機関紙にて GPGI にかかわるエッセイ掲
載の依頼を受けた。
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セント・ポール大聖堂周辺
LSE より徒歩にて Fleet St.を経由してセント・ポールまで移動。バーデット教授に紹介してもらった
セントポール北側に位置する Paternorster Square と呼ばれる日系ディベロッパーによる再開発プ
ロジェクトを視察。2004年に竣工し、ロンドン証券取引所や大手金融企業が集積する一方で、セ
ント・ポール大聖堂のアーバン・コンテクストを継承しながら広場やモニュメントを整備しつつ店舗
も配置し観光客をうまく呼び込んでいる。地元でも伝統的地域での都市更新の成功例として高い
評価を得ている。 さらに、セント・ポールより南側に移動するとテムズ川に向けて小道が整備され
ており、ミレニアムブリッジへと続きさらにテート・モダン(現代美術館)の塔がアイキャッチとして視
覚的に接続されている。戦略的なアーバンデザインとして両岸が見事に関連付けられていること
が体感できるスペースである。
Paternorster Square
Millennium Bridge and Surrounding
View towards Tate Modern
View towards St. Paul
Charling Cross -Royal Festival Hall 周辺
チャリング・クロス駅よりテムズ川を渡る人道橋 Hungerford Bridge を経て
対岸へ。この橋は鉄道橋の左右に同じものが整備されており、それぞれ
異なる方向の景観を楽しむことができるようになっている贅沢な橋である。
行きは南側の橋をビッグ・ベンやロンドン・アイをそして帰りは北側の橋
をシティ方面の景色を眺めながら歩行した。対岸の川沿いの空間は歩
行者のためにゆったりと整備されており、大勢の人でにぎわっている。そ
の一角にある Royal Festival Hall 内のレストランにて大ロンドン市 Policy
Manager のデービッド・ハチンソン氏と面談。大ロンドン市の近年の都市
政策や開発動向、東京の都市戦略についてのアドバイスなどを受けた。
Hungerford Bridge
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St. Pancras 駅
ハチンソン氏の勧めで見学を行ったロンドンでの最新の施設をもつ駅舎。パリからのユーロスター
も乗り入れており、ローカル線と国際線が交差することなくユニークに配置されている。ユーロスタ
ーのチェックインカウンターは飛行場のものと見分けがつかない。
1860年に建てられた当初駅舎の部分と最新の施設との融合が
デザイン的に面白い。
Kubo, Ichikawa, Hutchinson
View to London Eye
St. Pancras Station
カナリーワーフ~シティ周辺
ホテルのある Great Portland St. より地下鉄にてカナリーワーフまで向かう。シティマップに表示さ
れない範囲に位置し、アクセスの不便さを心配したが、30分ほどで到着。地下鉄を降りて巨大エ
スカレータを上ると超高層ビル群が目前に押し寄せる。さらに、ビル間を DLR(ドックランズ・ライト
ウェイト・レイルズ)が無人運転で刻々と運行している。すでに相当数のビルが建てられているが、
開発はこれからもさらに進むようでインフラ整備を含む建設中の現場も多くみられた。DLR にてミ
レニアムドームまで行き背後のグリニッジ地区を望んだあと都心に向けて再び DLR にて引き返す。
ロンドンブリッジ駅まではさらに近く約10分で到着。副都心としてのアクセシビリティには全く問題
ない。ロンドンブリッジからシティまで徒歩で約5分。シティのなかでも奇抜なデザインで目を引くガ
ーキンと呼ばれるフォスターが設計した建物に入ろうとしたが遭えなく拒否された。
Canary Warf
Millennium Dome
Canary Warf
City
Gherkin
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ロンドンの食事について
ロンドンの食事は美味しくないと一般的に言われているが、今回食事した場所はすべてまずまず
の味であった。ピーター・ホール先生ともその話をしたが、先生曰くこの10年ほどの間に観光客が
増えて、さらに彼らは他の国にもたくさん旅行をしているので評価が厳しくなってきたことに対して
レストラン側も競争にさらされて味を良くする努力をするようになってきたとのことである。
ロンドンの物価について
一番酷いと思ったのは地下鉄の料金であり、オクトパスカードという IC カードを買えば割引がある
そうであるが、最低区間でも4ポンドするのは納得しがたい。その後、香港大学にてロンドンに留
学していた学生から話を伺うことができ、その話をしたが学生は地下鉄にあまり乗らないようにし
て自転車をメインに使うそうである。自転車についてはマーケットに行けば30ポンド程度と地下鉄
数回乗車ぶんで買えるとのことである。ロンドンは地形的にも坂が少なく自転車の運転は比較的
快適なようであり、街中でも多くみられた。
<郊外編>
Letchworth Garden City
First Garden City というキャッチフレーズでハワード自身も計画に参画して1903年に造られた最
初の所謂ガーデン・シティである。現在の人口は約 33,000 人でロンドン市街地の King’s Cross 駅
より電車で1時間半ほどの距離にある。初期のコンセプチュアルなセントリックな都市デザインか
らは随分とかけ離れてしまっているが、メインストリートである Broadway から緑地帯で構成される
Town Square まで都市軸を構成しながら中心部より放射状に街が広がって行くイメージはなんと
か読み取ることができる。また、街の一角に形成されているガラス屋根がかかるショッピングアー
ケードも当初より計画されており、ハワードの理想を感じることができる。実際のところは、職住近
接の職の要素はあまり見当たらず、小奇麗な田舎町といったところか。
Broadway
Shopping Arcade
Letchworth Station
Stevenage New Town
1946年に大ロンドン市で8か所計画されていた最初のニュータウンとして計画人口6万人にて開
発された。King’s Cross 駅より特急で 30 分ほどの距離にあり、市内に通勤が可能である。駅を降
り立つと、ペデストリアンデッキで 70 年代風のデザインのタウンセンターに接続され背後には緑の
中に高層住宅が点在する雰囲気がどことなく大阪の千里中央を連想させる。市川先生からは、こ
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こが千里に似ているのではなくて、千里がここを真似て造ったんですよ、との講義をいただいた。
センター内の商業施設は平日にもかかわらず大勢の人で賑わっている。センター内にはショッピ
ング以外にホテルや文化施設もあり、中心地区がループ状に道路で囲われているが歩道が自転
車道とともに道路と交差することなく完全に周辺の住宅地区に接続されており、ニュータウンとし
ての機能的なアイデンティティを感じることができる。
Pedestrian Deck
Town Centre
Pedestrian Network
Welwyn Garden City
Letchworth での経験を生かしながら同じくハワードの監修のもと1920年代に開発されたガーデ
ン・シティ。現在の人口は約 43,000 であり、都心からも電車で約 20 分と Letchworth と比較して好
立地となっている。そのぶん地価が高いせいか、住宅のグレードも高く、ガーデン・シティというより
も郊外の高級住宅地の様相を呈している。駅前には駅舎と一体化されたハワード・センターと呼
ばれる大型ショッピングモールが配置され、公園上の緑地で街の中心を構成する Park Way とつな
がっている。Park Way はハワードのガーデン・シティのデザイン的要素を大きく継承しているモー
ルであり、約 1.6 キロに及ぶ公園緑地が緩やかな傾斜を保ちながら連続し、さらに遥か遠方の田
園風景を取り込んでる空間である。軸線上に電波塔が建てられるまでは世界で最も素晴らしいア
ーバン・ビスタの一つであると称されていた。
Park Way
Housing on the Mall
Ichikawa, Kubo
短期間の滞在ではあったが、ロンドンの最近の都市事情と都市計画の授業でしか知らなかったロ
ンドン発の理想都市建設の努力を学ぶことができた。郊外の環境を手にしながら都会的な生活を
実現したいという夢は100年前から現在へと受け継がれており、今は逆に都会にもっと郊外的な
要素を取り込んでその夢を実現させる試みが広がっているように思える。市川先生とはここで別
れ、この後は雑誌 MONOCLE で世界で一番住み心地が良いと評価されているスイスのチューリッ
ヒへと向かった。
つづく
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