みんなの認知症予防ゲーム - 特定非営利活動(NPO)法人認知症予防

みんなの認知症予防ゲーム
リーダー養成青い鳥講座
講義録
Ⅰ はじめに
Ⅱ 優しさのシャワーと表現される対応とは................
Ⅲ 予防ゲームはなぜ効果があるのか............................
Ⅳ 道具を作ってみましょう............................................
Ⅴ 予防教室のボランティア講座を行う時のために............
「みんなの認知症予防ゲーム」のコツ
「1から10まで」......................................................
「でんでんむし」........................................................
付録 お手玉の作り方・シーツ玉入れシーツの縫い方................
付録 教室スタッフチェックリスト・講座用ゲーム記録用紙.........
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みんなの認知症予防ゲーム
リーダー養成青い鳥講座 講義録
まえがき
ここに講義録と名付けている冊子は、2009 年 2 月宇治市大久保地区で「青い鳥講座」
と名付けて『認知症予防ゲーム』のリーダー養成講座 5 回シリーズを始めた時に準備
したレジメが基です。
NPO 法人としてのリーダー養成は 2007 年 8 月大阪府交野市主催で実施したのが初めて
で、同年宇治市で 5 回シリーズを実施しました。その後は法人活動の一環として、認知症
予防を可能にしたいという長年の思いを原動力にして各地の講演や養成講座に出向き、講
義やゲームリードの仕方を伝達してきました。
その中でご参加者や受講生の反応から毎回何かしら新しい発見、気づきがあり多くを教
えられ、その都度改善工夫し、講義録に反映させ、内容が少しずつ深くなってきました。
青い鳥講座は 2016 年 6 月で 30 期開講になるのをきっかけに「みんなの認知症予防ゲー
ム」の呼称と同じく、幸せを運ぶ青い鳥に相応しいどなたにでも役立つ講義録に改訂致し
ました。また昨年、この度ゲームの呼称を「みんなの認知症予防ゲーム」と名付けたのは、
認知症のみならず、心身の不調で元気を失っている方々に対しても年齢を問わず有効だと
いう気づき、及び、ゲームの質をみんなの智恵で高めていこうと言う希望から命名したも
のです。
いま、超高齢社会から要望されている課題は、介護予防、中でも認知症への全面対策で
す。脳の活性化に効果のある「みんなの認知症予防ゲーム」のゲームリーダーが大勢育っ
てこそ、津々浦々のポストの数ほどに認知症予防教室が増え、課題の解決に繋がるのです。
遠方の方にも、なかなか受講できないお忙しい方にも講義録が教科書となり得るならば
と、ホームページに公開しています。しかし独学では、人々を抵抗なくゲームに誘い込む、
言葉で表しにくい声の強弱や体の動きなど、コツと言っても良いような独りでは気付きに
くい点の習得に、難しさがあります。養成講座へのご参加の価値はこの点にあります。
いずれにしても講義録とテキスト、DVDと併せて認知症予防に役立てていただいて
“楽しいゲームで認知症予防”が社会の常識となることを願っています。
2016 年 5 月 18 日
NPO法人認知症予防ネット
理事長 髙林 實結樹
-2-
(第 1 回)
はじめに
今日は第 1 回ですので、NPO 法人発足までの経緯と「高齢者リフレッシュセンタース
リーA」の変遷のあらましと、認知症予防の意味と、認知症予防教室の意義について説明
します。
NPO 法人発足までの経緯
「高齢者リフレッシュセンタースリーA」の足跡
へんせん
[スリーA]の変遷
(1)発病軽度の方の合宿型教室
(2)発病前(脳機能低下段階)の方を対象に移行
(3)一般の方にも良い影響
認知症予防・早期受診
八幡市教室での体験から
予防教室ボランティアの役目
NPO 法人発足までの経緯
1963 年(昭和 38 年)に老人福祉法が出来たが、デイサービスもショートステイも対象は
「寝たきりと虚弱老人」だけ。認知症は蚊帳の外であった。
1972 年(昭和 47 年)有吉佐和子の「恍惚の人」が出て、世間の耳目を集めた。つまり、
高齢化社会の入り口では、認知症は少数派だったことが分かる。誰もが無知、介護家
族は手探りの世界。
1980 年(昭和 55 年)京都で「呆け老人をかかえる家族の会」が発足。
1983 年(昭和 58 年)アルツハイマー型と診断されていた実母の在宅介護を終わった私
は、認知症の在宅介護しかなかった当時の在宅支援ボランティア活動に、昼は働きな
がら、毎日の夜と休日の全てを投入して、認知症のために起きる最悪の悲劇を防ごう
と、支援活動に打ち込んだ。ボランティアのみによる月 2 回のデイケア活動のコーデ
ィネーターも担当した。
1992 年(平成 4 年)ようやく日本に初めて認知症対応の 3 ヶ月合宿教室、「高齢者リフレ
ッシュセンタースリーA」が静岡に創設された。(創始者増田末知子氏)
1993 年 (平成 5 年)雑誌の記事で増田氏の認知症改善データ(MMSE で平均 6.2 点の上昇)
を読む。増田末知子氏とは、ボランティアグループ「痴呆性老人デイケア運営協議会」
において隔月発行していた新聞「友の会だより」(編集・制作担当髙林)を、毎号無
料贈呈していた読者の 1 人という関係であった。カンパを送金していただいた事もある。
2000 年 (平成 12 年)4 月 1 日 介護保険法制定によって初めて認知症に福祉の光が届き、
予防が謳われた。
「介護保険法第 4 条(国民の努力及び義務)」
・国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変
化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合にお
・・メ モ・ ・
-3いても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サー
ビスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。
・国民は、協働連帯の理念に基づき、介護保険事業に要する費用を公平に負担するも
のとする。
2004 年(平成 16 年)京都府知事から平成 16 年 9 月 14 日付けで認証を得て、NPO 法人と
しての活動をスタートし、増田氏の教室で行われていた事業の中から、ゲームに特化
して普及活動に本気で取り組んだ。
2008 年(平成 20 年) 法人活動として、認知症予防ゲームのリーダー養成講座を開始。
2016 年 (平成 28 年) 認知症予防ゲームリーダー養成資格公認講師制度発足。
活動内容
増田方式の教室はテストを行って、参加者のレベルを発症軽度者や MCI レベルに限定
されたので、医療の専門知識が無い者には許されない教室であった。そのため、一般人で
も実施可能な、認知症の一次予防に力点を置いた健常者レベルの老人会などでのサロン的
な形態での、予防ゲーム普及活動に取り組んできた。しかし現実には一次予防のサロン的
わら
ふ ぜい
な教室に、家族同伴、又は単身で発症した人も参加される。藁にもすがる風情の人を拒絶
することは出来ない故に、必要に迫られて健常者と発症した人の混合教室での効果をあげ
る方法を独自に研究し、ゲームの進行方法に工夫を凝らした結果、「みんなの認知症予防
ゲーム」と呼称しているとおり、自ずと増田式ゲームとは違って状況の如何に関わらず、
ゲームに使用する道具の工夫、扱い方も含め、全ての人たちに対応出来るものに深化し、
地域、施設、会合など様々な場面でも活用されるに至っている。
今なすべき役割は何か
かつて認知症については偏見が充満していた。2025 年問題を目の前にして現代は、医学
知識のある人は発症域に入った認知症本人たちの改善を担当すべきであり、医学知識の無
い人は個々人の能力、または資格・専門分野に依って、一次予防に的を絞って予防教室を
担当し、両分野に於いて、国民的理解を普遍化し 2025 年問題に寄与して頂きたいと、心
底より願う。
高齢者リフレッシュセンタースリーAの足跡
(注)平成 24 年 12 月に「スリーA」は増田所長によって商標登録された。
ここで言う「スリーA」は「高齢者リフレッシュセンタースリー A」の略語として使用。
認知症予防と言う概念が一般的でなかった 1992(平成4)年1月、静岡市の看護師増
ま ち こ
田末知子氏が、
「高齢者リフレッシュセンター“スリーA”」という認知症予防教室を創設。
教室は発病した人々を元の生活に戻す、素晴らしい目標をもった3ヶ月の合宿教室であっ
・・メ モ・ ・
-4た。増田所長は進行を食いとめ、認知症から元の生活に引戻す教室を始めるに当たって、
事業所のモットーを「あかるく あたまを使って あきらめない」とし、その頭文字、三
つの「あ=A」をとって教室の名前を「スリーA」と命名。
「スリーA」での方法の特徴は脳を活性化させる、いわば脳のリハビリ訓練になるゲー
ムにある。ゲームの多くは古くから親しまれた子供の遊びに似たもので、高齢者用のレク
レーションゲームも取り入れられている。しかしその位置づけは頭と体を同時に使って脳
の活性化を目指すもので、例えば記憶に残る童謡を歌いつつ、手拍子や体の動作でリズム
をとって、人間にとって大切なリズム感を活性化させるなどである。
「スリーA」では、職員やボランティアが参加者の心を癒し自信を回復させる全面的な
受容と共感の対応を「優しさのシャワー」と表現し、実際に教室を経験した方は自然にニ
コニコ、イキイキとされ、人が変わったように、自立的な生活ができるようになる。私は
そのことを知って、この「スリーA」での方法の根幹にあるものを日本中、津々浦々に、
ポストの数ほど広めたいと思ったのである。
へんせん
「スリーA」の変遷
事業所スリーAは 1992 (平成 4 )年設立で、20年以上の長い歴史があり、時代と共に変化して
きた。
(1) 発病軽度の方の合宿型教室
最初は、医師からの紹介を受けて、発病してもまだ軽度の方を、定員9人で3ヶ月間の合
宿型教室から開始。目的は、衰えた脳にさまざまな穏やかな刺激を与えて、日常生活に引
き戻すこと。そのために脳の活性化を図り、脳のリハビリになるような、思わず笑いがで
る楽しいことを多く取り入れたプログラムが組まれた。初年(1992)の1月から翌年の3月ま
での15ヶ月間に、3ヶ月教室(土日は帰宅)を5回連続的に実施。
そのころは認知症のケアワーカーは一人も存在せず増田所長自身が連日の夜勤をこなすな
ど、非常に厳しい状況の中で行われた。
5回の合宿訓練によって得られた成果を、30点満点のMMSテスト(註)の数値として、
発表されている。このテストは、世界中で広く行われている、対面式の簡単なメンタルテ
スト 。
(註)MMSテストとか、MMSE(Mini-Mental
State Examination)というテストは、アメリカのFolstein夫妻
の開発による精神現在症(Mental state)の臨床評価の簡略版で、神経心理士が行う対面テストで
ある。テストの内容は次のようなものである。
「今年は何年ですか」「ここは何県ですか」「100から7を5回引き算する」などの簡単な問題で30点が
満点となる。30点、29点は正常、28~24点がグレーゾーン、23~16点が軽症、15点以下が重症
とされている。精密検査ではないが、広く目安に用いられている。
これを教室開始の前と3ヶ月後の終了時におこなって点数の比較をされた結果、全体
・・メ モ・ ・
-5の平均で6.2点もアップした。
(表1)。この点数は驚異的な高い成果である。3ヶ月間優し
さのシャワーでの対応と、楽しく脳の活性化をしながら暮らした方たちが、元気に元の生
活に戻られた。本人や家族の方からの感謝の声はとても大きいものであった。中には、職
業復帰を果たされた方もあり、発病しても、元の生活に引戻して、ほぼ5年の維持ができ
た。
(表1)
「高齢者リフレッシュセンター“スリーA”」で行われた認知症軽度発症者の合宿教室における脳活
性化の成果
入所時平均 21.2点
退所時平均27.4点
平成4年1月13日~5年3月26日
合宿3ヶ月での変化
全体上昇平均6.2点
1~5期
計45人対象
MMSテスト(30点満点)の平均上昇点数
第1期
第2期
第3期
第4期
第5期
5.9点
6.2点
5.3点
6.3点
7.2点
出典:日総研発行季刊雑誌平成 5 年 9 月『老人看護+介護(創刊準備号)』所収
「痴呆を初期にくいとめるー脳の活性化訓練を実施して」
高齢者リフレッシュセンタースリー A 所長増田末知子
(2)発病前(脳機能低下段階)の方を対象に移行
合宿型の教室を19期開催後、
「スリーA」の予防教室は合宿型から通所型へと、形を変
えた。合宿型開始から数年遅れて平行して試みられた発病前の方のための、通所型教室が
全国展開されるようになった。
対象者を軽度の認知症の方から発病の前、
(グレーゾーンとか「MCI」とか言われる脳
機能の低下段階)まだ一人で通所ができる方とした。(表2)
当時は脳機能低下段階でのサービスはどこにも何も実施されておらず、まさに「サービス
空白地帯」であった。認知症予防という意味では、発症してからの重度化予防よりも、こ
の段階でくいとめることが、本来の予防教室である。
(表2)認知症レベルごとの提供サービス
認知症(痴呆症)
認知症レベル
提供サービス
健康者
脳機能低下段階
生きがいデイ
サービス
空白地帯
軽度
中度
重度
デイサービス
グループホーム
特養など
『痴呆(認知症)予防教室(増田方式)に関する調査研究報告書』厚生労働省「平成 16 年度老人保健健康増進
等事業」補助金事業
高齢社会をよくする女性の会・京都
調査研究委託先:㈱UFJ総合研究所P2
・・メ モ・ ・
-6一週間に一度2時間か3時間ほどの通所型の教室は、20回で卒業。この予防教室の価値
を、上掲の厚生労働省の「平成16年度老人保健健康増進等事業」による調査研究報告書が 以 下
の よう に 語 って いる 。( 報告書 は今で は絶 版だが 、国 会図書 館に 行けば誰でも閲覧できる)。
卒業時点でデータを取ることのできた126人の教室参加前後のMMSテストの点数は、平
均で2.76点、アップした。(表3)
以下は、当時同報告書作成に参加した高林の保存版(p16)からの転載。
教室 参加前 後の MMS テス ト結 果の 変化
①教 室参加 前後の MMS テスト 結果の 点数変 化
痴 呆 (認 知 症 )予 防 教 室 参 加 前 後 の M M S テ ス ト の 点 数 の 変 化 を み る と 、 デ ー タ を
取 る こ と が で き た 126人 の 教 室 参 加 前 の 平 均 が 22.90 点 、 参 加 後 の 平 均 が 25.66 点
と な っ て お り 、 全 体 で は 、 平 均 し て 2.76 点 上 昇 し て い る 。
なお 、この 結果に ついて は、「 t検定」(註 )を行 い、有 意との 結果を 得た。
(註)統計的 検討法
(表3) 教室参加前後のMMSテストの点数変化(数値項目 N=126)
出典 同上のP16
②教室参加前点数ごとのMMSテストの点数変化
痴 呆 (認 知 症 )予 防 教 室 参 加 前 の M M S テ ス ト の 点 数 ご と に 、 教 室 参 加 後 の M M S
テ ス ト の 点 数 を プ ロ ッ ト し た も の が 次 図 で あ る 。 (○ の 大 き さ 及 び 右 側 の 数 字 が 、
人 数 を 表 す )こ れ を 見 る と 、 教 室 参 加 前 後 で M M S テ ス ト の 点 数 を 把 握 で き た 126人
の う ち 、 点 数 上 昇 が 110 人 (87.3% )、 横 ば い が 12人 (9.5% )、 下 落 が 4人 (3.2%)と な
っ て お り 、 痴 呆 (認 知 症 )予 防 教 室 ・ 増 田 方 式 の 効 果 の 大 き さ が 伺 え る 。
( 表 3 ) M M S テ ス ト の 教 室 参 加 前 後 の 点 数 変 化 そ の 1 (数 値 項 目
N=126)
『痴呆(認知症)予防教室(増田方式)に関する調査研究報告書』厚生労働省「平成 16 年度(2004 年)老
人保健健康増進等事業」補助金事業
高齢社会をよくする女性の会・京都
合研究所
・・メ モ・ ・
調査研究委託先:㈱UFJ総
-7週1回の通所型教室でも、発病の予防に成果があがることが判った。この調査以前より、
「スリーA」では全国視野の通所型予防教室の指導者養成研修会が始められており、その
結果、全国に100ほど教室が増えた。
2002年12月私たちの仲間3人が静岡で行われた指導者養成研修を受講したが、教室を
作る力はなかったので、津々浦々に教室が増えるようにと願って、広報活動を始めること
にした。それが現在のNPO法人認知症予防ネットの前身、“痴呆予防教室を広げるネットワ
ーク”である。
(3)一般の方にも良い影響
私たちのNPO法人はこのように認知症予防教室の広報活動を始めたのだが、運動を続ける
中で、頭が全然衰えていない一般の方にも、とてもよい効果があることに気づいた。
教室に通っているうちに参加者の方々が明るく優しく変わられる様子が次々と報告され、
それをみて、一次予防にもなることを、ひしひしと感じた。
認知症予防
「認知症予防」という意味について
風邪の予防とか、虫歯の予防とかは日常生活で、誰でも心がける。早いうちに手当てを
したら早く治る、ということも誰でも常識として知っている。知っていても、予防をして
いても、風邪を引いたり虫歯になる。
予防注射の場合、赤ちゃんに伝染病の予防注射をしたら、一生涯、病気にかからない、
…それが医学でいう予防。医学的予防と一般常識的な予防には、このような違いがあるこ
と自体、誰もがよく承知している。
「スリーA」で行われている認知症予防は、その意味では医学的な予防ではない。増田所
長は保健予防と言われる。認知症は保健予防で、何年間か、発病を先送りすること、重度
化をくいとめて引戻すことを目指している。
早期の受診
脳の働きが衰えてきたら「スリーA」が展開する予防教室に20週間通って、MMSテス
トで3~4点アップさせて、毎日をにこにこ明るく暮らせたらどんなに良いか、それを実
現する教室だが、医療によって完治する認知症もあるので、
「スリーA」の認知症予防ゲー
ムが万能というわけではない。早期の受診は必要。
2004 年アルツハイマー病の国際会議が京都で開催されたときに、世界の学者がアルツ
ハイマー病を5年先送りさせたいと言われた。5年先送りさせたら世界の患者は半減する
と言われた。
それを現実のものにするために研究が世界で進んできた。薬も開発されている。一番早く
現れた薬「アリセプト」が効果をあげると1年前後の先送りが出来ると言われている。2011
年には更に3種類の新薬が出て、効果をあげている。医療とゲームによる予防法が、車の両
輪のように動き始めたら、認知症予防の基盤が整うことになる。
・・メ モ・ ・
-8-
八幡市教室での体験から
2002 年12月から私たちは4人で「スリーA」の教室を各地に広めることを目的とし
て、広報活動に重点をおいたグループ活動を始めた。しかし自分でも教室を実際に運営し
て体験しないと、教室開設を人に勧めるだけでは説得力にかける。2004 年9月に NPO 法
人の認証を受け、意を決して翌 2005 年4月から京都府南部の木津町(現木津川市)で自
主教室を開催し、次いで同年7月からは、八幡市役所の事業委託を受けて、毎週1回、2
0回で完了の本格的なレベル揃えをした予防教室を運営した。
八幡市の教室は、市の委託事業で公的な事業。100 円コミバス(コミュニティバス)が
通所に便利などの好条件もあり、出席率がどこよりも高かった。成果が低いようでは許さ
れない。9回目には増田所長の実地指導もあったが、教室の前後でMMSテストをおこな
って点数を比較すると、なんと平均点が3.9点もアップした(表4)。4点アップさせた
と聞く増田所長の実績に迫る成績といえる。
( 表 4)
20 回教室の最終回まで
年齢
開始時点数
終了時点数
点差
出席回数
参加した10名の平均
76歳
22.9
26.8
+3.9
18.9
参加の方々は予防教室に通うことによって、表情がいきいきと変わる、身なりをこざっ
ぱり整えられるようになる、会話が弾む、家族が喜ぶ、などの生活改善は目を見張るもの
があった。
前述のUFJ総合研究所の調査では、平均点は、2.76 点上昇と報告されている。地域に
よって交通事情や地形の違いも出席率に影響する。全国の教室も取り組み方を研究すれば、
より高い成果を出せる可能性がある。
MMS テストで 1 点アップしたら、1 年の先送りが出来るという知見もある。
予防教室ボランティアの役目
私塾のような、この「青い鳥リーダー養成講座」で学ばれた方には、予防教室を可能な
形で開いていただき、実質の成果をあげられますように期待します。
予防教室にボランティアさんの応援がある場合はしっかりとボランティアさん教育をし
てください。
予防教室でのボランティアさんの役目は、世話を焼いたり、蔭働きをすることではあ
りません。参加者の方々と一緒に、みんなが同列の仲間として同じことをします。ゲーム
の輪のなかに溶けこんで入り、隣の方が失敗されたら自分は間違えていなくても同じよう
に残念がって「むつかしいですね、私も間違えましたわ」と、共感しあうのが大事な役目
です。うまく出来たら、「上手にできましたね」と褒めて喜びあうのです。
両隣の方と共感しあうからこそ、スタッフの笑顔が効果をあげるのです。単にニコニコ
しているだけでは、上滑りのお愛想と思われます。ですから自分もゲームで楽しい場面で
は遠慮なく声を上げて笑いましょう。ただし笑ってはいても、両隣の方が失敗したと落ち
込まれないように、あたたかな声かけを即座に、静かに優しくしてあげることが出来るよ
うに、事前の勉強が必要です。
・・メ モ・ ・
-9教室の成果はリーダーとスタッフ力にかかっていると言えるのです。
次回からは、具体的なお話に入ります。
では「みんなの認知症予防ゲーム」が、
「どんな場面で楽しいのか、みんなが笑うって本当か」
「頭が活性化すると感じられるか」
「優しさのシャワーと表現される対応とは」
この三つを考えながら、実習に入ります。
(第2回)優しさのシャワーと表現される対応とは
「スリーA」で説かれる優しさのシャワー
意図的働きかけとは
具体的な行為のこと
癒やし、優しさのシャワーが必要なわけ
何より辛い孤立
ゲームの中での優しさのシャワー
(1)共感を伝える
(2)ゲームの中での注意点
(3)良くなってからの保持
「スリーA」で説かれる優しさのシャワー
「スリーA」では、教室の基本として「優しさのシャワー」という言葉が重要視されて
います。「優しさのシャワー」による接し方を確保するために、参加者2人に対して1人
の割合で教室スタッフを配置して、「一人ずつへの言葉かけ、タッチング、褒める、感謝
の言葉を言う、落ちこぼれさせない、一人ずつにスポットを当てる、晴れがましい少しの
緊張感で脳を刺激する」と、厚生労働省の「平成16年度老人保健健康増進等事業」の調
査研究報告書には解説されています。
さらにこの接し方は特に珍しいものではなく、ケアの世界ではどこでも求められる基本
とも書かれていますが、ただ関わり方は同じでも、人員配置の厚さが違うという認識です。
この対面での関わり方は認知症の患者さんには必要不可欠ですが、一次予防を目指すサ
ロン的な予防教室では、「優しさのシャワー」での関わり方だけでは対応できない場合も
あるのです。
予防教室の種類
予防教室は、対象にあわせた三つの種類があります。 種類ごとに関わり方、進め方が、
歴然と違います。当然、共感も受容も、時にはゲームの進め方でさえ、対象によって表現
すべき言葉も違ってきます。
・・メ モ・ ・
- 10 一次予防
健康な方の一次予防の教室というと老人会や高齢者サロンですが、そこでは月に1回か
2回か、ゲームを楽しんでいただくのが目的となります。
二次予防
発病前の低下段階(MCIレベル)では、通所型の食い止め教室ですから、必要になる
のは食い止め、引き戻しを意識した関わり方です。簡単に言うと「笑顔プラス引戻し目的」
で、たとえば、じゃんけんゲームでは「あら、じゃんけんに勝たれましたね、たすきは何
本でしたかねぇ?」と記憶力の引き戻しを意識した言葉かけ、つまり声かけのタイミング、
当意即妙の表現技術が必要です。その場合も「…でしたか」という詰問調でなく、あたか
も自分が忘れて尋ねているかのような「…でしたかねぇ?」と笑顔対応ですね。単に、に
こにこ笑顔を向けてさえいれば良いのではない、ということです。優しさのシャワーの表
わし方の違い、スタッフ一人ずつが参加者の方々の状況判断が出来るようになっていただ
きたいのです。
三次予防
すでに発症している方の合宿教室では、24時間体制の関わり方が必要です。合宿教室
は専門教育を受けないと出来ませんが、以上のように3種類の教室と言っても線を引いた
ようには区切れません。境目には重複している幅がありますが、およそ3種類の教室があ
ると考えてください。
この講座で学んでいただくのは、一般高齢者向けのサロン的な教室(一次予防)と、週
1回の通所教室(二次予防)にかかわる場合との2種類となりますが、いずれにも応用性
があります。
「優しさのシャワー」
さて、「優しさのシャワー」という言葉を初めて聞いたときに、いい言葉だな…、と言
葉の響きが耳に心地よく響くために、この関わり方に、実は落とし穴もあるという事実が
見えにくくなっていると言いたいのです。
つまり温かな関わり方がすべてだとリーダーが思いこむと、ゲームの進行中に特定の参
加者に注意力が向いた場合、よほど自覚していないと過度の情実的な対応になる恐れがあ
るのです。例えば、リーダーがその落とし穴におちて、一人の参加者への濃厚スキンシッ
プに時間を使うと、他の参加者を無視する雰囲気になります。
このことを強く自覚していない場合「優しさのシャワー」が裏目に働いて、教室全体の
気分高揚に影を落とすことになりかねません。理性的な「意図的働きかけ」(後述)の重要
性を自覚することで、感覚的・情実的「優しさのシャワー」で見逃されている側面も補填
し得ると思うのです。満座の中で、特定の個人との濃厚なふれあいを多数の人に見せつけ
る行為、即ち「優しさのシャワー」一辺倒では、せっかくの善い進行を阻害することがあ
る、という意味から、ゲームの意義と進行の基盤を支えるのは、「意図的働きかけ」であ
ると言いたいのです。
・・メ モ・ ・
- 11 -
意図的働きかけとは
「スリーA」では、教室の基本として「優しさのシャワー」という言葉が重要視されて
いる事は先にも言いましたが、一次予防を目指すサロン的な教室においては、「優しさの
シャワー」での関わり方だけでは対応できない場合があります。
医療・福祉の専門教育を受けていない私のような無資格者に許されるのは、一次予防に
限定された中での予防ゲームの実施ですが、一次予防のサロンと言っても、ご家族同伴で
認知症を発症した方が参加されることも少なくありません。
そのような中でのゲームであっても、可能なかぎり生活改善の実を挙げたいものです。
そこでは関わり方だけではなく、「意図的働きかけ」が特に重要になってきます。
リズム感を失っておられる認知症の方は、リズムのゲーム(その1,その2)では、無
表情と言うよりも「出来ない」という不安げな表情を浮かべられます。声には出ない SOS
の発信なのです。即座に対応しなければ、という緊急事態なのです。しかもゲームリーダ
ー、インストラクタ-に必要になるのは、大勢の健常者の中で、いかに目立たないように
リズム感という“命の源”の取り戻し効果をあげるかが、大きな課題となります。
こういう変則混合教室で、対症療法的なゲームの進行をするのですから、大勢の参加者
にも違和感をもたせず、楽しみつつ一緒にゲームを進めねばなりません。その秘策の一つ
が、お手玉回しの導入部分でのロボットのようなギクシャク・超スローモーでの始め方や、
「替えて」をリズムから切り離して浮き立たせるような言い方をする、などの工夫で対応
します。「グーパー」や「でんでん虫」でも、類似の工夫を駆使して、人には感づかれな
いような援助の仕方で、効果をあげるのです。
一度の参加で効果を生み出す方法が「コツ」です。コツさえ会得すれば大抵の場合、早
い救出が可能です。リズム感を失って「ついて行けない。面白くない」という SOS を声
無き声で、弱く発信している方が、リズムの楽しさをしっかりと感じとられるならば、そ
の瞬間が自立の第一歩であり、それは表情の変化と体の弾みに現れます。
とにかく楽しんでいただくのが一番で、そのように持っていく瞬間的発想による、ゲー
ムの進行方法の転換が、“抱きしめ”には無い効果をあげます。スキンシップはこの場合
は無用で、離れた位置からで充分です。
専門職によるケアする側からの、確信に満ちた浴びせる優しさのシャワーとはやや異質
な「意図的働きかけ」は、本人も気づかないような、介護家族のような、必死の願いが伝
わり、全員の共感を呼び起こすのです。全員の共感が効果を後押しするのです。
整然と並べたお手玉を見た途端に「あら~
キレイ」と感嘆の声を発し、一般の高齢者
と一緒に心のときめきを言葉で表現されます。序破急を用いて“いざなう”全員への「意
図的働きかけ」。その意図的誘いによって、リズム感を失った人がリズムに乗られる、そ
の時のイキイキした嬉しそうなお顔、人間性の回復と言っても過言でない瞬間を間近に見
・・メ モ・ ・
- 12 るとき、ゲームの中に仕組んだ働きかけと、弱い SOS 信号が正に融合する瞬間とも言え
るものであり、SOS に即座に対応できた、協働効果となります。
この計画的「働きかけ」は、道具の準備段階から始まっており、お手玉やリボンの並べ
方に現れます。また声かけ、間の取り方、動作を暗示する声の勢いの付け方、等々見えな
い部分に「意図」があるのです。単なるレクと見まがうようなゲームですが、リーダーの
「意図」が重要で、「関わり方」とは技巧上でも、本質的意義においても異なる、気づか
れない中での行為ですから、「意図的働きかけ」と称して、一次予防を主意とする“リー
ダー養成講座”では力説しています。
これらは全て、NPO法人認知症予防ネットの活動の中から、必要に応じて編み出した
独自の工夫です。この工夫を、一次予防ゲームで実行し、予防の成果がより高くあがるよ
うにと願っています。
認知症予防ゲームの目的は一つです。脳が衰えてきても、楽しい刺激で目指すのは「自
立的な生活」への誘引です。衰えた人を甘やかすのとは意味が違うのです。リーダーは、
立場の自覚が大事です。
優しさのシャワーと表現される対応はケアする側からの対応のあり方で、内容としては
「スリーA」独自のものではなく、またゲームリーダー自身が気付かないような落とし穴
があることを心にとめて、優しさのシャワーを正しく理解しましょう。
具体的な行為のこと
「優しさのシャワー」とは、誰でもが心して実行すべき関わり方と言うことが出来ます。
それは教えられて覚える理論とか特別な専門知識ではないのです。心と身体が一致して
“行うこと”ができるようになって初めて、優しさのシャワーがわかる、という関わり方
の言動です。ですから講義を受けて丸暗記して、筆記試験で 100 点をとってもダメなので
す。先ずは、皆が、優しさのシャワーが行えるようになっていただきたいのです。予防教
室のリーダーとして、又はアシスタントとして、行為、行動、発言の上で、実行出来なけ
れば値打ちがありません。そのことを先ず分かってください。
NPO 法人認知症予防ネットが全国に広めたいと願っている認知症予防ゲームの真髄は、
優しさのシャワーと意図的な働きかけとの二つと言うことに特長があります。
教室が無い地域では参加の皆さんと一緒に楽しむゲームはできませんが、優しさのシャ
ワーの関わりかたを在宅介護に取り入れると成果があがります。ですから、特定の特殊な
方法でない人道的な、とても大事な教えです。教室で複数の人たちに、シャワーのように
優しさを降り注ぐのは、「こんにちは」から「さようなら」まで絶え間なく、です。相手
が背を向けても笑顔でお見送りが続けられるようになりたいものです。目の前だけの笑顔
ではない、本心からの笑顔を絶え間なく、ということはむつかしいようですが、教室に通
うようになって優しさのシャワーを身近に見聞きしていると、自然に、不思議と、自分も
出来るようになるのです。誰でも本来は優しさを持っていますから心配ありません。弱い
ようでも「優しさ」の感化力は強いのです。
・・メ モ・ ・
- 13 「スリーA」で言われる「優しさ」とは、性格的な優しさとは少し違って、具 体 的な行為
です。
行為を意識して積み重ねると、性格にまで感化がおよんでくるように思います。
予防教室は、大きく三つのランクで考えていることはお話しました。
(1)認知症発病者への重度化予防、くいとめ、引戻し
(2)脳機能低下段階での発病予防、引戻し
(3)一般の方への予防
以上の3種類でした。
「物忘れがちょっと心配」という発病の前、脳機能の低下段階の方への、週 1 回の通所
型教室を始める場合を想定してお話します。その教室でボランティアとして、又はスタッ
フとして参加される方たちに行なっていただきたい優しさのシャワーの、具体的な方法に
ついてです。
「スリーA」で行われる脳活性化の方法には二つの大きな要素があります。本人を癒し
支える“優しさのシャワー”と、脳のリハビリ“予防ゲーム”を行うことの二つです。ど
ちらが欠けてもうまくいかないと言われています。たとえば“こより”でも、二本をよ
り合わせた“かんじんより”が抜群に強いのと同じと言えるでしょう。
優しさのシャワーと脳活性化が一つのものとなり、さらに“笑い”が加わることで、成
果は高くあがります。
癒し、優しさのシャワーが必要なわけ
せきりようかん
認知症予防に癒し、優しさのシャワーが必要な理由は、本人が寂 寥 感に打ちひしがれ
ていることが多いからと考えられてきました。
高齢になると、肉親との別れ、定年などで職業を失う淋しさ、記憶力も気力も体力も衰
えていく心細さ、将来に対する不安、人との接触を避け、孤独感を強くしている方が多く
なります。誰も理解してくれない、うっかりミスを取り繕っても逆効果、家族からもバカ
にされ叱られてばかり、誰もやさしく本気で付き合ってくれない…、孤独感が押し寄せる。
「ナニクソ」と跳ね返す気力が萎える… 、「ボケへの逃避」とも言われたものです。
そういう気持ちの時に、教室では皆から笑顔で接してもらえる、温かい声をかけられる、
以前と同じように一人の人間として向き合ってもらえる、すると凍った心がほのぼのと息
づいてきます。萎縮した気持ちが潤うと、回を追って、温かく優しくご自分が変わられ、
生きる力をとりもどしていかれます。2対1で配置されたスタッフ(ボランティアさんを
含む)が笑顔で接し続ける優しさのシャワーが第一に必要な理由です。
向き合った時だけの笑顔ではシャワーになりません。優しさのシャワーは絶え間なく降
り注ぐからこそ癒しになるのであって、一回きりの水鉄砲のような優しさでは逆効果にな
ります。この違いが成果につながります。
何より辛い孤立
認知症は「子供がえり」や「二度わらし」ではなく、「ぼければ天国」でもなく、「社会
のお荷物」でもなく、基本的にはそれらは誤解だと思います。
・・メ モ・ ・
- 14 さいな
認知症に入っていく本人の気持は、将来への不安と、変わってしまった人間関係とに 苛
まれる極度の孤独感、ブラックホールに堕ちていく自分を家族も気づいてくれない。適切
な表現力を失っているので、自分では理解してもらうことが出来ない、そういう辛い病気
です。
辛いのは、信頼関係にあった人との交流が絶たれることです。勤務先の同僚であろうと、
近隣の人であろうと、家族であろうと、
“理解しがたい言動をする”と見られたとたんに、
壁で囲われたように孤立してしまいます。家族関係も親族関係も、おかしくなります。非
常識な発言をする本人を、家族は、受け入れがたい戸惑いと悲しみから、往々にして他人
に見せまいとしがちです。本人も自分の発言が周りに違和感を持たせることがわかるので、
閉じこもりがちになります。こうなると悪循環です。
人は社会から阻害されても平気で生きていけるほど強くはありません。交際範囲が広く
ない地味な暮らしの方でも、さまざまな人間関係があって、精神の平衡を保って生きてき
たのです。それなりに評価しあって、自分の居場所を確保してこられました。認知症が進
むと、介護家族は神経と体力をすり減らし、介護疲れによる悲劇に見舞われるようにもな
ります。
血縁があろうと無かろうと、「忘れても幸せ」(註)といえる関係への修復を、早い段階で
行うことが求められます。そのために「スリーA」では“優しさのシャワー”による癒し
を第1とされました。本人に笑顔が戻ることが目的です。疲弊した家族関係も、友人関係
も、本人に温かな笑顔が戻れば、自然に優しい関係が戻ります。社会生活はおだやかにな
ります。鶏が先か、卵が先か、ではなくて、「優しさのシャワー」と脳活性化ゲームによっ
て本人が明るい笑顔に戻ることが、こじれた人間関係を回復させるのだ、と言えるのです。
ですから初期の「スリーA」では、発病した方達を一旦家庭や社会から隔離するように
合宿型とし、3ヶ月で笑顔を回復させて元の暮らしに戻すようにされました。
発病前のランクで週1回の通所型の教室で予防するのは、全国で展開できる良い方法です。
脳の働きが良くなると、自然に笑顔が出てきます。
優しさのシャワーに裏付けられた、脳を活性化させる認知症予防ゲームには、人間関係
を回復させる力をもつ素晴らしさがあるのです。
(註)映画「折り梅」の原著者小菅もと子著のタイトル『忘れてもしあわせ』
ゲームの中での優しさのシャワー
教室では到着してスタッフに迎えられ、座についてお茶を飲んで一息つき、近況などを
話し合って、心がやわらいで来たところで、ゲームの開始となります。
ゲームでは失敗しても隣に座っているスタッフが、「私も間違えましたわ。難しいです
ね。間違ってもいいのですって」などと言って、肩や膝をポンポンと軽くたたいたりしま
す。そのことで、自分だけがダメ人間かと思っていたが皆も一緒なんだ~、と安心できま
す。「難しいですねえ」「ああ、上手にできた」と共感しあう、この共感はやがて自信につ
ながるようになります。
ゲームは間違っても OK と言うのですが、やはり最初の「1から10」が綺麗に出来る
ようになると嬉しく、ホンモノの笑顔が出てきます。良く出来たときはリーダーが即座に
・・メ モ・ ・
- 15 褒めます。何でも褒めます。
両手をそろえての1から10まで。このようなものでも、最初から褒めます。「1」か
ら「9、10」まで進んだとたんに「上手にできましたぁ」とリーダーが言いますと、苦
笑のような表情の動きが先ず見えます。苦笑であっても頬の筋肉がゆるみますね。眠った
状態の脳の目覚めです。
目覚めた脳への次の大事な働きかけが、ゲームの中でのコツです。急き立てるような言
こん ど
い方で、「今度は早くしますよ~!」と、勢いづいたリーダーの声に反応して、「早くだ
と?」、「ヨーシ、来い」とでも言いたそうな、身構えるような雰囲気になります。皆さん
の脳の活性化です。皆が勇んで大きく声を張り上げて1から10まで元気に来たら、リー
かんはつ
ダーは間髪を入れず、「皆さんきれいに揃いましたぁ」と言葉を変えてまた褒めます。笑
い声が最初よりアップします。こういう褒め言葉の変化の工夫、声の強弱、配慮が効果と
なります。
こうして最初に心を少しほぐし、2回目でさらにほぐしておくので、次の難しい「1か
ら10」のゲームで失敗しても、「ああ、むつかしかったですね~」「私も間違えた」の言
葉にすんなり安堵感を持てるのです。微妙なほどの心のステップアップ。この見えないほ
どの変化、心の弾みから、他人と共感しあう、参加者の心が通じあう、これが、スタッフ
陣の息のそろった重要な優しさのシャワーによる改善の第一歩です。
サービス過剰な、まとわりつくような対応は優しさではなく、自己満足でマイナスに働
きます。さりげないゲームの中での、目的にずれない優しさのシャワーが重要です。
(1)共感を伝える
「1から10」に限らず、原則としてどのゲームも、失敗されたらスタッフはすかさず
「私も失敗よ」と言って同列意識を持っていただきましょう。
よく出来たらすかさず褒める、それらが脳活性化をうながす“脳活性化ゲーム”の中で
の“優しさ”のシャワーです。
皆が一緒に失敗するからこそ安心して爆笑が得られます。皆が一緒に爆笑できるように
もっていくこと、それが表に見えない優しさのシャワーです。笑顔がどんどん溢れてくる
と、笑いの効用で皆の表情が明るくいきいきと変わってきます。自信のわずかな芽生えで
す。だからリーダーは「グー、チョキ、パー」のゲームでは、早口言葉のような発声も自
れん ま
己練磨でマスターしておかなければ、形だけのゲームになって引き戻し効果には結びつき
ません。お義理の笑いでは効果と言えません。優しさのシャワーへの熱意が問われるとこ
ろです。
2対1のスタッフ(ボランティア)配置は必要な人数です。いつも一緒に隣にいますよ。
いつもあなたのことを気にかけていますよ。よかったですねぇ。よくできましたねぇ。あ
あ難しかったですねぇ。…というように自分が思っていることを隣のスタッフも同じに感
じているのだと確認できるとホッとして、癒しになります。教室にいる事でやすらぎ、自
然に楽しくなるのです。
スタッフは両隣の二人だけに配慮するのですから、言葉を掛けやすいのです。離れた席
や向こう側の人には声をかけなくて良い人員配置です。両隣の人にゲームの中で一杯声か
・・メ モ・ ・
- 16 けをしてください。笑顔で、相手の目を見て、時々手や肩に触れて、話はよく聞く、面倒
がらない。受け入れてもらっているという満足感をもっていただく。手を握ったり、腕や
肩を組んだり、抱いたり、これらの濃厚なタッチは時にはわざとらしく思われて、相手に
よっては嫌われることがあります。時と場合、その場の判断です。必要な場合も、しては
いけない場合もあります。場合によるので、見きわめが大事です。
以上をまとめますと、優しさのシャワーとは、対面での関わり方であり受容と共感から
い
の発露、謂わば情緒的な対応の仕方です。これはどのランクの教室にも必要なものです。
反して意図的働きかけは、瞬間的な発揮であろうとも理性的、計画的な行動であり、違い
の理解があれば、特に必要としない場合もあるのです。
(2)ゲームの中での注意点
*褒める
ゲームは自立していただくのが目的です。
そのためには、ゲームで落ちこぼれないように、リーダーは全員が理解できるように
ルールの説明をきちんと順序だてて理解しやすく話します。
道具を配ってもらった時、片付ける時、手伝ってくださった方には即座に温かい感謝
の言葉をかけます。
それらはゲームの中だけでなく、教室全体をそのような優しい雰囲気にするのです。
そうすることによって、仲間として大事にしてもらっているという喜びで、萎縮した心
が、じわーっと生き返ってきます。
認知症は脳の萎縮の前に、心が萎縮していると思います。「私もみんなと同じだわ、
捨てたものじゃないわ」という安心感から元気が出てきます。そのころから、頭も活発
に働き始めるように思います。
*自分も笑うのだけれど
共感しあうためには、ゲームでスタッフも一緒に楽しんで笑いあうことが必要で、そ
れは自然にできます。なぜなら認知症予防ゲームが、本当に楽しくなれるゲームだから
です。ですがゲームの中で特に大事なのは、スタッフは笑い転げながらも、自分が主体
にならないように、参加の目的を忘れないことです。自分も笑うのですけれど、笑いほ
うけてはいけない、この意味ですね。
隣の方が記憶力・理解力・判断力が低下しておられることを念頭に置いて、聞こえや
すい言葉で、温かい声で、優しく、穏やかに、しかも年長者に対する自然な敬意を忘れ
ずに説明し、褒めてください。子供に接するような態度やぞんざいな言葉使いでは、自
立心の回復に結びつきにくいので、こちらからは敬語で話します。
*敬語
地域の方言はイキイキした関係を作りやすいです。敬意をもって話すと言っても、場
違いなおおげさな敬語は避けてください。相手が親しみを感じて友達言葉になられても、
同調しないで双方が同じ方言で話し合っても、軽い敬語で話してください。
(1)粗菓ですが召し上がって下さい (上下関係的で不適切)
(2)お菓子食べよし(子供用語・親密すぎ・卑俗で不適切)
(3)お菓子どうぞ (軽い敬語)
・・メ モ・ ・
- 17 「教える教室」でなく、こまやかな注意と努力で「一緒に楽しむ教室」に、軽い日常
的な敬語を自然体で使ってください。使い慣れない丁寧すぎる敬語でなく、上長者への
礼節が自然に“にじみ出る”ような、日常的な軽い敬語でお願いします。
*注意点
1) 恥をかかせない 間違いを人前で指摘しない
2)常に声をかける 一人淋しくさせない
3)常に一緒に行動する 数を数えたり道具を配ったりの役をリーダーやボランティア
さんが取らないで、ご参加の方に協力してもらうように誘いかけをする。
4)ルールの説明が聞こえず理解できていない人を残したまま始めないように
5)説明は一度でわかるような聞こえやすい温かい声で、身振りも交えてハキハキゆっく
り言う、言い間違えや言い直しをしないように
6)全員に目配りしながら、全員が納得、共感しあえるように
7)失敗しても本人もろとも皆が笑える声かけを
8)黙っている時でも温かい気持ちを向け続けるように
これが優しさのシャワーです。各種のゲームごとの言葉かけ例は、テキストを参照して
ください。
(3)良くなってからの保持
増田所長の事業所スリーAで最初に取り組まれたのは、すでに発病した方を元の生活に
引き戻す合宿型の教室だったことは、先にお話しました。そのときの成果は前にも言いま
したように、MMS テストで平均 6.2 点アップしました。平均という言葉は注意しなけれ
ばなりません。通所型の教室では平均点でのアップは優れたリーダーの場合は4点、通常
は 2.76 点と言われています。上位の方で 7 点も上昇すると、発病後の合宿型教室でも職
業復帰されたり、通所型の教室でも、日常生活は目を見張るほど良くなられます。毛糸編
み物のセーターを何年ぶりかで完成させた女性とか、おせち料理が美味しく全部出来るよ
うになった、一人でお留守番が出来るようになった、一人で外出が出来るようになった、
一人で関西から東京まで新幹線に乗って行き、携帯電話を使って出迎えの人と出会えた等
々、好転した方の実例は数多く報告されています。
教室では笑顔に溢れていたのに、送迎車を降りて我が家の門をくぐった途端に厳しい顔
に一変していた方も、回を重ねていくにつれて好転していかれます。
その好転状態が生活のうえで何年持続できるかが問題ですが、1年でも2年でも、さら
には5年とか10年とか長く維持できたら、あるいはデイサービスを週に1~2回程度の
利用におさえられたら、成功です。本人の幸せ、家族の幸せ、周囲の幸せ、介護保険の国
家的財政の幸せも何兆円となります。それらを全部含めた予防教室です。
ゲームで「何年ぶりかでおなかの底から笑った」とか、会場全体が笑いの渦になるとか、
「明日が教室だと思うだけでも嬉しく楽しみだ」と、そのように言ってもらえる教室を目
指してください。ゲームそれぞれの注意点はテキストに書いてある通りです。
優しさのシャワーを忘れたゲームでは、「仏作って魂入れず」です。似たようなゲーム
・・メ モ・ ・
- 18 のルールであっても、目的意識、ゲームの進め方が違います。魂が復活するような優しさ
のシャワーを、各自が身につけて発揮してください。
“優しさのシャワー”は目に見えないような仄かなものですが、積み重ねることで、影
響力は根付きます。誰でも気持ちさえ持ちつづけるならば、必ず自分のものになります。
人柄まで優しく温かく変わっていきます。押し付けでない優しさが身に付くように自然に
なっていきます。そのように自分に願う心を忘れなければ大丈夫です。
以上は教室やサロンなどで行う、ゲームの中での関わり方です。
*在宅介護では
私たちの活動仲間のお母さんが、2002 年に認知症を発症。気づいた介護者(娘)が、
縋る思いでスリーA予防教室指導者研修会静岡研修で「優しさのシャワー」を学び、家で
の関わり方に取り入れて約100日目に、「お母さんに元の笑顔が戻った」と大喜びをさ
れました。その後穏やかで明るい暮らしを続けて8年目、初めて介護保険を申請して歩行
補助具を購入されました。その時点で要介護2だったそうです
研修で学んだ事を徹底して実行された結果、無理なく穏やかな在宅生活が継続できたの
です。「スリーAでの研修の御陰」と述懐されますが、社会的に見れば一家庭の幸せだけ
でなく、8年間も介護保険財政に貢献ができているのです。
テキストには予防ゲームを20種目書いています。この中には家族だけで出来るものと
出来ないものがあります。予防教室が近くにない場合は、20種目の中から二人で向き合
ってでもできるゲームを試みてください。基本は、相手のために時間を使うことです。
「あ
なたは一人ぼっちじゃない」と態度で伝える努力です。
毎晩、母子二人で2時間ほど膝頭をそろえて一緒にテレビを見続けることで、お母さん
に元のお母さんの笑顔を取り戻した実例報告は、ホームページ www.n-yobo.net/ のブロ
グ「在宅での引戻し記録」をご覧ください。
(第3回)予防ゲームはなぜ効果があるのか
予防ゲームは楽しく自然に大笑い
脳の活性化リハビリ訓練
脳のリハビリゲームと言う理由
萎縮した心が息づいてくる癒し
予防ゲームの意図するもの
説明する立場になったら
ゲームで多用するグーパー、速度の基準など
予防ゲームは楽しく自然に大笑い
認知症予防教室でおこなう脳活性化訓練とは、スタッフ自身もとても楽しめるゲームです。
・・メ モ・ ・
- 19 それは実技の体験で、十分わかったと思います。
知らない人ばかりでも部屋はすぐに笑いでいっぱいになり、知らない人同士でも皆が共通
意識(共感)をもつことができますね。笑って元気が出て、ニコニコ、いきいき、ハキハキして
きて、誰とでも仲良く話せるようになる、人間関係が温かく社会性が持てるようになるのです。
優しい家族関係、近隣関係が復活していきます。微々たるものの積み重ねが効果につな
がります。予防教室は、毎週1回、20回の継続で、ご参加の皆さんに効果があるように、考え
られています。
脳の活性化リハビリ訓練
認知症予防ゲームには、種々の簡単なルールの中に、脳活性化の働きが潜んでいるので
す。笑いながら脳が働くように仕向けるので、“訓練”という言葉は不似合いかもしれません。
しかし教室の目的はまさに脳の活性化をめざす訓練になっています。
予防教室の特長は、参加者みんなで一つの輪になって座ることです。席に上下関係があ
りません。皆の顔が皆に見えます。こういう平等、“みんな一緒”という環境を作って、共通意
識でみんなが一緒に声をあげて笑えてしまう短いゲームを、次々と進めていくのです。それ
らがすべて大きな効果につながっていきます。
どのゲームも、単に楽しく笑いを伴うだけでなく、認知症予防、認知症からの引き戻しとい
う目的をもって、優しさのシャワー精神で組み立てられています。
脳のリハビリゲームと言う理由
「でんでんむし」のような1分間にも足りないような短いゲームの中にも、頭を幾通りにも同
時に使う工夫があります。
①ルールの説明をよく聞いて理解する(聞き留める習慣の取り戻し)
②二番を歌い終わるまで記憶の継続訓練
③歌詞を思い出す(1番は「頭出せ」、2番は「目玉出せ」)正確に覚え直す(記憶の引き戻し)
④大きな声で歌って発声機能を活発化
⑤皆と音程、声を揃えて歌うので聴覚機能を働かせる
⑥指の屈伸で脳を刺激
⑦二の腕を高く構えることで筋力の増進
⑧ユックリから少しずつ早めることでリズム感を失った人にリズム感を取り戻す
以上のように8種類の脳の働きを同時進行で行なって、少しずつ脳の活性化を促します。
予防教室では、20回でその積み重ねを身につけていただくのです。認知症予防ゲームは、
脳の認知機能以外の機能も活性化させます。握力も歩行意欲もです。楽しみながら自然に
心身のリハビリ訓練を行なって結果を出すのです。
ラジオ体操では、伴奏音楽と共に号令をかける先生の指示に従って運動をします。
その場合、脳の働きは幾種類でしょうか?
聴覚・リズム・運動本位で、笑ったり歌ったり、考えたりは主眼ではなく、リズムを取り戻す考
えは全くありませんね?
・・メ モ・ ・
- 20 脳を鍛えるドリルではどうでしょうか?
紙と向き合って計算、書き取り、音読、その中には笑い、歌う、リズム、協力関係、協調精
神や運動機能の改善は見当たりません。
それぞれの方法にはどれも効果があります。しかし「みんなの認知症予防ゲーム」の特色
は、脳を同時に幾種類も楽しく働かせることで、心が萎縮した人に自ら立ち上がる力、自立
的で明るい生活に戻る力をつけていただく、という点にあります。
脳の簡易テスト“MMSE”30点満点(第1回のP5の(註)参照)で20点台前半に落ちた発病
直前の人を、20点台後半へと押しあげる、という目的を、片時も忘れないでください。
ゲームが次々と進むにつれて、運動量も指先から少しずつ増えていきます。スパルタ教育
式の厳しい訓練とは大違いの、楽しみながら知らないうちに、自然に身に付くように考えられ
た脳の活性化リハビリ訓練、運動もいつのまにか知らないうちに同時進行で出来ていくのです。
萎縮した心が息づいてくる癒し
ゲームはみんなと共通意識で笑い、スタッフからの優しさのシャワーを浴びることがとても
重要です。認知症に近づいて、萎縮しがちな心が、優しさのシャワーでほんのりと癒され、元
気が少しずつ沸いてきます。
教室に参加されても初めのうちはスタッフから話しかけないと口を開かれなかった方が、回
を重ねると参加者同士でスタッフそこのけで話に花を咲かせるように変わられます。長年かか
えていた自分のトラウマを、同席の方に打ち明けておられる様子を見ることもあります。それ
らの変化は、一歩さがって黙ってみているスタッフの、最高の喜びと言えるでしょう。
それがこのゲームの効果の一つです。
あ うん
リーダーとスタッフ、ボランティアさんは、一心同体、阿吽の呼吸でゲームの進行、教室運
営にあたります。参加者の話に割り込んで、自分が話の輪の主導権をとるようなことをしては
なりません。
予防ゲームの意図するもの
① やる気を起こす言葉かけで、自主的な発声とともに両手の指の屈伸からはじめ、徐々に
運動量を増やす。
② 高齢者ならば日本中の誰でも知っているリズムの取りやすい短い歌、《昔の小学唱歌・童
謡》などを歌いながらゲームを進めることで、歌詞と昔の記憶を呼び覚ます。
③ ゲームの“ルール難度”を少しずつあげて、記憶の継続訓練を楽しく自然におこなう。
④ リズム感を耳から、目から、腕から、運動で、掌へのタッチで、楽しく浴びせるように伝達
する。
⑤ 一定のリズムに緩急変化を隠し味のように入れてメリハリをつけ、ゆっくりから始め種目に
応 じて速くする。楽しみながら程よい緊張感で変化へのすばやい適応力をつける(グー
チョキパーやお手玉回し)。一斉に間違えさせて緊張感から爆笑へと瞬時に切り替える。
⑥ 簡単な計算を随所に織り交ぜて数える習慣、数への慣 れ親しみ、計算の記憶を呼び起こす。
⑦ チーム対抗ゲームでは協調性と活力を自然に養う。
⑧ 上手にできても失敗しても皆で安心して明るく大笑いすることで、笑いの効用を最大限に
生かし、連帯感をもつ。
・・メ モ・ ・
- 21 ⑨ スタッフからの優しさのシャワーとあいまって、安心感から自信の回復へとつなげる。
以上のことが身についてくると、自然にニコニコ、明るく、いきいき、ハキハキと変化が見え
る よ うになります。その重要性を認識してください。でないと単に“楽しいゲーム”で終 わ っ て
し ま う の では も っ た いな いの で す。
脳を活性化させるのがゲームの目的です。認知症に一歩入っても引き戻すことが目的で
す。この成果をあげるのが「みんなの認知症予防ゲーム」の進め方のコツです。楽し
いだけじゃない。認知症を先送りするように。認知症だけではない。元気を失った全
ての人に人間性を取り戻して頂くように!!
単なる楽しいゲームでももちろん悪くはありませんし、副作用はありません。しかし、
スタッフたちの目的意識が明確であるかどうかによって、成果が高くなる、ということを
知っていただきたいのです。脳の機能をいくつも同時に働かせる、それらを優しさのシャ
ワーで包みこみ、みんなで大笑いすることで、血行が促進されます。
教室では、ボランティアさんが隣にすわっている高齢者に、常に共感を伝えることで成果
があがるということを実行し、変化の状態を自分で感じてください。
説明する立場になったら
認知症予防教室は、小学唱歌や童謡を使いますが、決して「大人の幼稚園みたい」とか「年
長者を子ども扱いして」とか、「子どもだましみたい」とかではないのです。深い意味が
あってのことです。リズム感、記憶力を取り戻すには一番良いお薬だと思ってください。
なぜ小学唱歌や童謡を使うかというと、記憶力が弱ってくると、大人になってから覚え
た歌や、ポップ調の歌は、皆が揃っては歌えなくなります。昔の文部省制定の「小学唱歌」
などで育った高齢の方は、認知症に入ってもかすかな記憶に残っていますので、みなで合
唱すると懐かしく思い出すことができます。
このなつかしく思い出すことが記憶の回復です。単純明快なリズムの歌が懐かしいとい
う感情を引き出すだけでなく、揃いやすくもあります。歌いだしの一句でリズムに乗れる
歌は何か、考えてみてください。他には無いのではないでしょうか。
外から眺めてとやかく言う人や冷笑する傍観者がおられたら、リズム感を取り戻すには、
子どもの時に染み付いた歌、出身地がどこであっても、方言抜きで合唱できるから童謡、
小学唱歌を使って、脳の活性化を実現させるのだと、説明してあげてください。
ゲームで多用するグーパー、速度の基準など
どのゲームも指の運動、閉じたり開いたり、グーパーがたくさん使われています。これも理にか
なっているのです。
指と脳神経は直結していると言われます。グー、チョキ、パーは、指の屈伸運動です。
最初のゲー ム 「 1 か ら 10」 に 始 ま り 、 「 ゲ ー ム そ の 4 」 の シ ー ツ 玉 入 れ で は 丸 い シ ー ツ
の 端 を 掴 む こ と で 、 握 力 ま で も が ゲ ーム の 中 で 自然に 鍛え られ ま す。
広告パズルでは新聞折り込み広告の紙を、リーダーから指示された枚数になるまで、何度も破
って数の確認をしたり、ちぎった紙を元通りに並べるなど、指先の神経と頭を細かく使います。
・・メ モ・ ・
- 22 ジャンケンたすき取りゲームでは、リボンやテープなどの薄い、細いものを何度も指先で数
え て触覚の訓練ができていきます。このように指先や指の関節をゲームで使うと、脳が活性
化 、 健 全 化 に 向か い ま す 。す る と、 つ り銭で う け と っ た 小 銭を 床 に 落と す よ う な こ とが 少 な
く なり、 指先の神経が働くようになって、お札の枚数の数え間違えが減ります。生活改善です。
グーとパーをたくさん取り入れている予防ゲームで、イキイキ、頭が動き出すというの
が理解できますね。こういう技法で予防ゲームは目的を達成していくのです。
“ゲームその1”でグーとパーをたくさん取り入れているのは、脳の健全化に役立っている
のです。
ゲームその1、その2では速度変換をよく入れます。テンポについては、教室の何回目
からテンポアップするとか、どの程度、何秒速くか、などは参加される方の心身の状況で
違います。ストップウォッチで計測して決める、などは出来ません。相手の状態を見きわ
めて、とっさの判断で決めます。スタッフのミーティングで了解しあって次回に反映させ
てください。リーダーもスタッフも、毎回感じる手ごたえを確認しあって、あせらず、チ
ャンスを逃さず、細やかな配慮で、一心同体で、ゆったりムードからテンポアップに、無
理なく、しかし弾みをつけて、気分高揚を積み上げてください。
歌い出す音程も、リーダーは参加者への年齢的配慮で、老化で音域が狭くなった高齢者
が歌いやすいように、音階がだんだん高くなっていく歌は少し低めで歌い出し、だんだん
低くなっていく歌は少し高めで歌い出しましょう。
(第4回)道具を作ってみましょう
お手玉
ビンゴゲーム
広告パズル
追っかけ将棋
2種類の太鼓の合奏
風船バレー
風船サッカー
シーツ玉入れ
じゃんけんたすき取りゲーム
認知症予防ゲーム(テキスト20種目)の中で、次の9種目に道具が必要となります。
ゲームその2
ゲームその4
(10)お手玉回し
(16)2種類の太鼓の合奏
ゲームその3
(17)風船バレー
(13)ビンゴゲーム
(18)風船サッカー
(14)広告パズル
(19)シーツ玉入れ
(15)追っかけ将棋
(20)じゃんけんたすき取りゲーム
・・メ モ・ ・
- 23 お手玉作りの材料
糸、針、布、ペレット(ポリエチレンの小さな粒)又は数珠玉、小豆など。
ゲームでは一人に一個ずつお手玉が必要です。最近はお手玉の縫い方を知らない方が多いよう
です。70歳、80歳代の高齢女性の方は、小学生のころに自分でよく縫った経験があって、お手
玉を見るだけでも懐かしく喜んで手を出されます。新式のお手玉は、一枚の布を俵型や、枕型に
簡単に縫ってありますが、やはり昔ながらの手間をかけた4枚の布を縫い合わせた形のものを見る
と、目を輝かせる方が多いのです。目を輝かせる瞬間を大事にするには、時間をかけて丁寧に縫
わねばなりません。
中に入れるのはモミがら、小豆、数珠玉(野草の実)などの植物系のものよりも、手芸用ペレ
ットのほうが洗濯も丸洗いができて衛生的です。
作り方
ぬ
しろ
材料 1対2の長方形の布4.5センチ×9センチ(縫い代こみ)を、1個につき4枚(配色のよい
ものを2枚ずつ)
ペレット(手芸用直径5ミリ)を1袋(1kg¥1296円(税込み)参考価格) 1個に35g必要
縫い方の詳細は最後の付録をご覧ください。
ビンゴゲーム
コピー用紙のA4サイズの白紙1枚と鉛筆1本を、人数分用意します。高齢者は筆圧が弱くなりがち
ですから、鉛筆は「4B」が望ましいですが、無ければせめて「2B」ぐらいのものを、芯の先はやや
丸く綺麗に削っておきましょう。
広告パズル
新聞の折込広告、新聞の半ページ大のサイズのもので、表と裏の色や柄がくっきりと異なるもの
を一人につき1枚。
*選び方のポイント
両面ともマンションの間取り図や、自動車の写真が小さくぎっしり詰まっているもの
はゲームで使いにくいので、避けましょう。人の顔が大きく出ているものも避けます。
お墓、仏壇の広告は縁起が悪いと思う高齢者への配慮で、準備段階で取り除きま
す。うっかり渡してしまった場合は対応の仕方が大事です。好ましくないからと
一旦渡したものを他のものと取り替えるのではなく、逆手にとって「お宅のお寺
さんの宗派は?」「お墓参りはご近所ですか?」など和やかな話の題材にします。
配っているときに目の前で除けるのはかえってよくないと思います。縁起がわるいか
らと隠すのでなく、渡してしまった場合には、アッケラカンとおだやかなコミュニケ
ーションのきっかけにするのは、聞いていて気分の良いものです。
追っかけ将棋
将 棋 盤 と 将 棋 の コ マ を 4人 で 1セ ッ ト 。 ど ち ら も 百 円 シ ョ ッ プ に あ り ま す 。 た だ し 、 夏 祭 り の
前やお正月の前には売り切れていることがあります。コマを買うと紙に印刷した将棋盤が小さ
く 畳 ん で 入 っ て い ま す が 、別 売 り の ベ ニ ヤ 板 製の 108円 の も の の ほ う が 音 が よい の で、 お
勧めです。
・・メ モ・ ・
- 24 2種類の太鼓の合奏
革製の本式の和太鼓はインターネットでも購入できますが、数万円と高価です。予算が無い場合
は代用品として、段ボール箱でも充分使えます。音が似ているからです。
竹太鼓は孟宗竹を一節。割り竹(健康足踏み用)でもかまいません。竹は南方系植物なので、北
限があり、日本でも北部など入手できない場合は、代用品を工夫してください。ペットボトルの
小型のものにペレットを入れて、逆さに持ってマラカスのように振っても代用できます。または、
カスタネットで代用しても構いません。
参加人数の半数を太鼓、半数を竹太鼓と、ほぼ同数で準備します。
撥はいずれも一人に2本。マラカスやカスタネット代用の場合には撥は不要です。
撥を作るには、直径1.5センチ程度の丸棒(ホームセンターで販売)を長さ30センチ程度 に
切って2本1組とします。ビニールテープの赤や緑を斜めにだんだらに巻くと、お祭りの賑や
かさを演出できます。それも作ることが出来ない場合は、スーパーで売っている太目の“菜ばし”
でも代用できます。
作ってみよう
太鼓材料 ダンボール箱+包装紙、鳩目+紐
ペ ット ボ ト ル+ペレット
丸棒+ビニールテープ
楽譜材料 障子紙1巻+鋸+マジックペン黒・赤・緑・黄の4色+丸棒+半月棒(掛け軸材料:ホ
ームセンターで売っている)
幅広(4~5センチ)の透明な粘着テープ(セロハンテープ)
大きく書いた楽譜は教室ごとに1枚必要です。上から下まで、全員によく見えるように壁に高めに
貼ります。貼り方注意はテキスト参照。
風船バレー
ゴム風船を人数の半数程度用意します。
ゴム風船を処分する時に破裂音を出さない方法は?
*風船の口を引っ張り伸ばして、ハサミで一気に切る。結び目を最初からほどける結
び方にしておくと問題なしです。
紙風船は良い音がして郷愁が感じられて良いものです。
紙風船が破れたときの修理の方法は?
*風船を畳んでから、細長く切った紙を破れた所に丁寧に貼り付け自然乾燥させる。
風船サッカー(ゴム風船を蹴るのは割れると破裂音が恐いので、ビーチボールが安全)
全員でビーチボールを1個用意。人数が多いときは2個。
ビーチボールは、空気をいれすぎないで、心もちぶわぶわ状態で使うと、当たりがやさしくなり、
跳ねすぎなくて使いやすいです。
ゴールには室内競技用(玩具)の紅白のカラフルな既製品も市販されていますが、ゴール用特製
品が無くても充分に楽しむ事は出来ます。
・・メ モ・ ・
- 25 シーツ玉入れ
玉入れ用のシーツは、寝具のシーツでは気持ちが弾みません。カラフルで丈夫な布を使う方が、
雰囲気が明るくなります。作り方は「付録2」を参照。縫製業者に注文するとサイズ大中小に
もよりますが2万円前後かかります。
完成品のサイズは参加者の人数によります。およそ一人当たり約40センチ程度の幅でシーツの
端を持つので、およその人数×40センチで円周寸法が出ますから、円周率で割って布地を買う
ときの必要寸法を割り出してみましょう。
計算方法
標準人数を14~16人とするならば、40×16=640センチ(円周)
640 セ ン チ ÷ 円 周 率 ( 3.14) ≒ 204セ ン チ ( 直 径 ) 2 メ ー ト ル ち ょ っ と の 四 角 い 布 を 丸 く
裁 つ とよい、と言うことになります。およそのめどです。
大は小を兼ねると思って、直径3メートルにすると重くなって、高齢者の負担になります。
大きめに作るのは健常者の感覚で、高齢者の過労になります。
布地はデニムのうす手が使いやすいのでお勧めですが、ゲームでは力を入れて引っ張るので、
丈夫な布であれば何でもかまいません。但し水玉模様などでなく、無地がよいのです。
へり
裁断した円周の縁には、5~6センチ幅の布を裏側にぐるりと縫い付けます。握力の衰え
た高齢者には、シーツの端、薄い布一枚が持ちにくい人もおられますから、持ちやすいよ
うに、縁の芯にパイプを通しましょう。
パイプの材質は、ホームセンターなどの建築材料店で販売されている“バックアップ材”(軽量ポリ
エチレン)、直径2センチのものが持ち心地もよくて、手になじみます。
表側には綺麗な色のテープを3本、円形の直径に等間隔に縫いつけます。これらの配慮はゲー
ムが有効に楽しくできるようにという、優しさのシャワーを秘めた準備心得です。
縫い方の詳細は付録2とテキストをご覧ください。
カラーボールは、ほぼシーツを取り囲む人数程度の数が標準です。ボールの材質(スポンジ)に
よって、跳ねやすいものと、跳ねにくいボールがあります。ど ち ら が 良 い と も 言 い に く い の
は、どちらも一長一短あるからで、跳ねるボールは跳ねるからこそ面白い…、という一 面 が あ
り ます。特にこだわる必要はありません。テニスボールの廃物を洗って、色を塗ると、転がり方
が最適だと言われる教室もあります。
百円ショップでは1袋2個入りや、5~6個入り、1個入りなど種類があります。きらきら光るボ
ールは2個入りで鈴が入っていたりします。光るボールは目立つので、少数混ぜて、ボールの点
数変化に使ったりできるので、数の計算には面白い材料となります。
108円で5~6個入っているのは、冬には凹んだりします。
じゃんけんたすき取りゲーム
「ジャンケンたすき取りゲーム」といいますが、本式の縫った“たすき”でなく、紙テープでも、リボン
でも構いません。ただし紙テープは保管の時に皺になりやすく又、新品の時にはあたりが強いと
皮膚を痛めるので、綺麗な色のリボンを用いるのが良いでしょう。
一人に5本準備します。長さは1.25メートル程度。リボンの材質はサテンが滑りやすくて使いや
・・メ モ・ ・
- 26 すく、百円ショップで扱っているリボンはどちらかというと「安かろう悪かろう」で、腰が弱くてほつれ
やすいため、使っていると“よれよれ”になってきます。手芸用品店で手触りの良いサテンの高級
品が特価売出しになるのを狙うのが賢明ですが、高級品は特価でも高価です。但し、高価なだけ
あって、手触りがとても良く、色つやの良さは上品で最高です。
事務用品の通信販売などのカタログを見ると、包装用として格安の片面サテンのものが売られて
います。片面サテンでも充分使いやすいです。
リボンは毎回使用後に綺麗にそろえておきましょう。皺になりにくい高級品といえども押し込んだ
ままでは皺がつきます。安価なものほど皺になりやすく、しかも皺が取れにくいです。それを1
0本ずつ束にして「8の字形」の巻き方でまとめて箱に保管するようにお勧めします。
道具を綺麗に保管しておきますと、次に使用するときに人数に合わせて取り出しやすく、数を数
えやすいです。
保管が悪い皺だらけのリボンを教室で取り出すようでは、道具を粗末にしているあらわれです。参
加者の皆さんが、保管の悪いリボンを見られると、“しかめっ面”をされます。それでは教室の
楽しい雰囲気や、良い印象を壊すことになりますから要注意です。細やかな配慮で、道具の保管
もきれいにしていただきたいものです。
ゲームを開始する時に、「8の字型」に整然とそろえたリボンを、惜しげもなくパッと投げるよ う
に広げると、サテンの光沢と色の美しさで、部屋中がはなやかになり、あたかもお姫様ご っ こ
を思い出すような「あらぁ、キレイ」と、うっとりした声を参加者があげられることがよくあり
ます。非日常の喜びは良い影響になります。
(第5回)予防教室のボランティア講座を行う時のために
教室ボランティアの目的概論
認知症予防教室のプログラム
変化をつけたくなったら
よその教室の実践報告から学ぶ
ゲームがなぜ認知症を先送りできるのか
教室ボランティアの目的概論
予防ゲームが、本当に楽しい中で成果をあげていくのだと、これまでの学習で充分に理解
できたでしょうか。どれほど良くなるかを第 1 回でデータを示しましたが、復習します。
増田所長が事業所スリーAで最初に取り組まれたのは、発病軽度の方を対象とする合宿
3ヶ月教室でした。MMS テスト(前述P5註)で、教室開始時と終了時の比較でどのよ
うに変化したかというと、平均 6.2 点アップしました。映画『折り梅』のモデル小菅まさ
子さん(実名)は 22 点から 29 点へと 7 点のアップでした。
合宿の次に行われたのが通所型の教室です。週1回20回シリーズのこの教室は、
頭の働きが落ちてきたレベルで、発病には至っていないグレーゾーンにレベルを揃え
た本格的な発病予防目的の教室です。この方法が研修生たちによって全国に展開され
・・メ モ・ ・
- 27 ました。
教室の開始時と終了時に行うMMSテストの点数比較では、平均で 2.76 点アップと調
査で発表(第1回で前述)されています。職員教育が充分できていて、教室への道路
事情や環境が良いと出席率が高くなるので、4 点のアップも夢ではありません。
1点アップで1年の認知症の先送りが出来るそうです。教室のボランティアさんの質を高めて教室
が高い成果(4~5年の予防)を出せるように、ボランティアさんの講習もできるようになってい
ただきたいです。
認知症予防教室のプログラム
原則は、毎回同じ場所、同じ顔ぶれ、同じゲーム、同じ歌、が良いと言われています。
なぜなら脳機能が衰えてくると、変化に対応できなくて混乱しやすくなるので、認知症予
防の目的が充分に発揮しにくくなるからです。同じゲームばかりでも20種目を少し入れ
替えることで、飽きないで安心してゲームを楽しんでいただけます。
*同じ場所
条件によりますが、会場を借りて教室を開催する場合は、会館の都合によって場所が変
更になることもあります。いつもの同じ会場を取れない場合はどのように工夫するかが問
題となります。
出迎え・道案内などの気配りで、部屋の雰囲気の違いを極力感じないで済むように心が
けます。建物の玄関の外で顔なじみが出迎える。ドアの外で顔なじみが待つ。または部屋
のドアは開放して、ドアの外で不安感を持たせない、などの工夫です。
*同じ顔ぶれ:先生(リーダー)役を交代制にしない
ボランティアスタッフの力量がほぼ等しい場合、特定の人をリーダーに固定することに
え こ ひい き
なります。リーダーが偉いのか、スタッフは一段低いのか?と、まるで依怙贔屓かのよう
に誰かが誰かを白い目で見る、と心配して、平等主義というか、一日の教室の中で、種目
別にリーダーを交代制にする教室もありました。しかし、それではボランティア仲間で起
そうこく
きるかもしれない相克を避けるための交代制です。主客転倒の教室運営、逆転思考ですね。
リーダーが次々と交代すると、参加者は気持ちが落ち着きません。信頼関係も持ちにくい
のです。リーダーは原則一人で貫きます。
リーダーと同等の力量を持つボランティアさんたちは、スタッフに徹して参加者の一人と
なることがとても重要なのです。それがとりもなおさずリーダーを補佐して、良い教室運営
ができていく基礎となるのです。自分の待遇に不満を持ってリーダーに選ばれた人を羨ん
で白い目を向けるようなことでは参加者の鋭い神経で見ぬかれてしまいます。
大事なことは、リーダーと同等の力をボランティア全員が持っていて、両隣の参加者に最
高の言葉かけ、優しさのシャワーをかけることができ、リーダーや全スタッフと、目配せ
も要らないようなツーカーで、教室を進めて行くことが、最大に重要なのです。隣に座る
ボランティアさんの力量は、リーダーを完璧に補佐する重要な役目があるのです。それを
各ボランティアさんに自覚していただくように、ボランティア養成講座では心がけて頂き
たいのです。
・・メ モ・ ・
- 28 スタッフがリーダーに反目しながらの教室では、20回目のテストの点数に響きます。
20回教室が終了して、次期の教室開始前には、誰がリーダー役を努めるか、大いに話し
合って交代し、皆が体験して実力を高めるようにしてください。最初にボランティアさん
の覚悟が求められる、その理由をしっかり共有されるようにお願いします。
3時間の教室を一人でリードするのでは声が嗄れて疲れすぎるなどの必要があるなら
ば、ゲームその1、その2はAさん、その3はBさん、その4はCさんというように、ゲ
ームの雰囲気がガラリと変わるときにリーダーを交代するのも一つの方法です。もし20
回の教室で、Aさん、Bさん、Cさんという担当を決めるならば、その方式を途中で替え
ないようにしましょう。
*同じゲーム
毎回同じゲームばかりだと、飽きてこないかと心配な場合
ゲームその2で、2拍子と“やさしいほうの3拍子”を7~8週間も続けると、参加者は
間違えなくなられます。そのときに
「もう卒業ぐらいに皆さん上手になられて間違える方が一人もおられませんねえ」
などと褒めて
「では3拍子の難しいほうをしましょう」
などと告げてから3拍子のルール説明を理解できる言い方で話すと良いでしょう。
でもゲームを変えるのは、少しアレンジするだけであって、異質なものをいれるのではあ
りません。同じゲームで退屈するのは健常者であり、少し物忘れが始まると同じゲームが
安心なのです。教室を370回(2016 年 5 月 18 日現在)継続しておられる「スズメの学
校」(京都市伏見区の予防教室)では、参加者が少しも飽きないで楽しんでおられると報
告されています。http://blog.livedoor.jp/suzume3a/
*同じ歌
若い職員やスタッフは童謡や小学唱歌のほとんどを暗記しているでしょう。しかし予防
教室の参加者は、孫と一緒に歌った時代さえ遠い昔になっており、殆どの歌詞を正確に記
憶できているわけではありません。大きな声を張り上げて歌ってこそ気持ちが晴れるので
す。若いリーダーについて後追いで途切れ途切れで歌うのは惨めな気持ちになります。だ
から同じ歌が安心できて良いのです。
*同じゲームが良い理由
教室の回数が7回、8回と進むにつれて、
「1から10」の次はスピードをあげての「1
から10」。その次は右手の親指を曲げて「1から10」というぐあいに楽しさが積み重
ねられてくると、記憶力がついてきます。ここまでくると参加者はリーダーの褒め言葉ま
でも覚えてくるので、「ここは、こう言ってほめるぞ」と、半ば期待して待ち構えるよう
になります。
それに応えて同じせりふで褒めるからこそ、「そらきた、やっぱり当たった」という一
おう
種得意な気持ちになって、いっそう大笑いになる。このわずかな「感と応」。予測と結果
の確認をみんなが楽しむ。この貴重な喜びを奪ってはならないと思います。
・・メ モ・ ・
- 29 *ゲームの流れの順番
一度目の教室で、もし「ゲームその1」で「お茶つぼ」を省略して「ゲームその2」に
移ったとします。その場合は2回目以降もずーっと「お茶つぼ」を使わないまま進みます。
最後まで使わないでもかまいません。「ゲームその1」は「お茶つぼ」をはずして同じ種
目を基本のゲームとして毎回行います。時間の都合で20種目全部は一日に出来ないので
すから、「その1」(6種目)の中から5種目ぐらいに減らしてちょうど良い時間です。
変化をつけたくなったら
他のゲームを入れたくなるのは、20種目では飽きてきたと感じる健常者の感覚で一種
の誘惑です。例えば百枡計算とか、ドリルとか、トランプの神経衰弱とか、ストループテ
ストとか、椅子取りゲームとか、目先の変わった種目のゲームを取り入れたくなる教室が
あります。なぜ賛成できないかを考えてみましょう。
分からなければ、「みんなの認知症予防ゲーム」はなぜ良いか、ゲームの基本の考え方
がすばらしい成果につながる理由を思い出してください。そうしたら、ゲームの種目に飽
きた時の誘惑に負けません。
このゲームは出来ない人を寂しく思わせない、落ちこぼれさせないことが基本なのです。
その心配りがゲームの中での効果につながる貴重なやさしさのシャワーでもあります。上
記の目新しい各種のゲームは、脳が衰えてきた人には途中で「できない」と投げ出したく
なる種目であり、できる人は得々となるゲームです。グループわけで複数の人にストルー
プテストを一斉に言ってもらうと、一つのグループの中で、元気に得意げに大きな声で言
う人と、黙って口パクの人に分かれていることが見て取れます。口パクの人がどんなに淋
しい思いになるか、リーダーはそのことを見落としがちです。
百枡計算やドリルは、得意な人が速さを競うように枚数をこなすので、自然に優越感と劣
等感をもたせることになります。偏差値で優劣を競うかのようです。このように個人的な
優劣が4~5人のグループ分けの中や隣同士で明らかになるゲームは、ゲームの本質的な
目標から外れます。だから困るのです。みんな一緒、という気づきで人間性を回復させた
いのがこの教室なのです。10数人と言うグループ、少人数の教室で認知症予防を目指す
にはふさわしくないゲームだと分かりますね。ゲームの本質的な特性、これをしっかり見
分けてください。本質に適合する新しいゲームならば、採用は大いに結構です。
なぜ退けるべき一種の誘惑になるのか、判断するのは皆さんのゲームの理解度といえます。
今後、ボランティアさんを教育する立場になられるときに、いろんな雑音が耳に入るで
しょう。良さそうに見えるどのような誘惑にも負けない力、すなわちゲームの目的をしっ
かり掴んでください。「私だけがダメ人間と思っていたが、そうじゃなかった、みんな一
緒だ」この気づきで自ら立ち上がってもらうための認知症予防教室だ、ということを忘れ
ないでください。
20回の教室が終了しても、続けてほしいという希望が多くて 370 回(2016 年 5 月 18
日現在)も続けている「スズメの学校」では、ある程度のアレンジは行なっておられます。
ゲームの種目にどのような変化を付けられているのでしょうか。
20種目のまま、原則は変化ナシですが、ほんの少しの変化とは、風船バレーを、ゴム
・・メ モ・ ・
- 30 風船を止めて、昔の紙風船を使用する。少人数の教室なので、1個の紙風船で充分楽しめ
るそうです。また、加齢と共に脚を左右に動かしてボールを蹴るのが難しい方が増えたこ
とで風船サッカーのゴールを左右に置かず、グループの前方に置いて PK 戦方式にしてみ
んながキックする機会を持てるようにしている、休んでいた「お茶つぼ」をいれて「でん
でんむし」を止めるとか、しばらく遠ざかっていた種目を、20種目内で交換できるので
充分、飽きずに楽しめると言っておられます。
*歌を変えたくなる
これも健常者の感覚です。一度換えると次々と換えたくなるものです。変更に際しては、
歌の吟味が不足しがちになるのが心配です。3拍子の歌がなぜ「故郷」を用いるか、「み
かんの花さく丘」ではなぜふさわしくないのか実験してみましょう。
「う・さ・ぎ」と歌うと一拍に一音ですね。「もしもし・かめよー」は一拍に4音、又は
2音ですね。「みーかんーの」の場合は歌いだす「みー」は2拍に一音ですね。リズム感
を失った方がおられる高齢者教室では、歌いだしで全員を“のり”にサッと乗せにくい歌
なのです。3拍子の歌なら何でも良いのではなく、歌いだしの一瞬で、打楽器のような明
快な単純なリズムを伝える選曲がほしいのです。
それならば富士山の歌も「あーたまを」と第一声を引っ張るではないかという疑問がで
るかもしれません。ところが不思議なことに日本人は4拍子の国民性で、3拍子は遺伝的
に難しいリズムだという見えない感覚があります。富士山は4拍子のせいか、つまずく例
を私は見たことがないのです。
*変化させなくて良い
毎日のように通所するデイサービスであれば、また別の配慮が必要です。増田所長が開
設されている「予防デイサービス折り梅」では、太鼓を「花笠音頭」に換えたり豊富なレ
パートリーの中で、他の種目を入れられます。週に何日も利用するデイサービスというこ
とは介護保険対象の方、つまり発病後ですから、生活改善のためにオムツはずしを念頭に
おいたダンス種目なども行う必要があるでしょう。しかし介護保険対象以前での、週1回、
20回通所の教室では原則として変化は必要ない、それをわかってください。
変化させないプログラムの立て方は、やさしさのシャワーに基づいているのです。変化
を求めるのは、ご自分が健常者だからです。安心して自信をもって変化を入れないで下さ
い。予防教室は誰のためのものであるか、認知症に近づいている方、半歩入っている方が
第一です。言うまでもありませんが、ゲームの目的を忘れないでください。
よその教室の実践報告から学ぶ
ゲームは、なぜ認知症を先送りできるのか
よその教室での失敗例は貴重な参考資料で、良いことも悪いことも参考になります。
①ミーティングで決めた予定種目を、リーダーが本番で間違えたら?
《リーダーにサッとあわせる》
・・メ モ・ ・
- 31 ②本番で、リーダーがゲームのルール説明で右と左など、誰にもわかる明白なミスを言っ
て気づかないでいる時は?
《明るい声で「アッ、先生が間違えた」などとおおっぴらに言うのがよい。参加者さんも
気がついておられるから、即座にカバーするため。リーダーは“めげない”で、もろとも
に率先して明るく笑うこと》
③明るい声とは?
《トーンを少し上げて、ハキハキ笑顔で言う》
④2拍子、3拍子、4拍子の歌を入れる際に、リーダーが絶句したら?
《すかさず横からスタッフが歌いだすよりも、ハプニングが起きたときは、明るく
リーダーもお仲間さんも全員で笑うほうがよい》
⑤ゲームは職員も楽しめるようでないと本物でないが、ボランティアさんが遊んでしまっ
たら?
《職務違反です~ 笑っているときも隣のお仲間さんに優しさのシャワーを向けている。
椅子取りゲームを入れた教室でボランティアさんがお年寄りを突き飛ばして座った実例も
あります。お年寄りは尻餅をつかれました。尾てい骨複雑骨折したらどうなる??? 危
険は常にあると思ってボランティアさんは自分が楽しさに溺れないこと》
⑥一般の活動でのボランティアさんと、認知症予防教室のボランティアさんとが異なる点
は何か?
《教室の中でいわゆる世話はしない、手を出さない、尋ねられない限り教えない、仲間意
識をもってもらう》
⑦ボランティアさんが無報酬でも継続できる理由は何?
《理由は、「他では見られない感動と感激がある」 報酬は、「自分自身がホンモノの
しい人になれること」》
優
⑧ボランティアさんに求められる勉強は?
《物言い、タッチの仕方、目線》
⑨ボランティアさんの目標は?
《ケアハウスや老人会、自治会の行事などに出かけていって、ゲームのリードを出来
るように》
⑩ゲームは認知症予防を目的としているが、内容は「大人の幼稚園」?
《童謡や小学唱歌などを使用する深い意味を知らずに、もし軽侮する人に出会った場合は、
ゲームの良さ、理論的根拠を教えてあげられるようになってください》
認知症予防ゲームはどこに行ってもレクの時間にレクとして立派に通用します。ただし
・・メ モ・ ・
- 32 本来の目的は認知症予防、認知症からの引き戻しですから、単なるレクリエーションのよ
うでも見えないところで効果を発揮します。わずかでも働きます。認知症予防という言葉
を嫌う人が居る場合は「レクです」と言っても全然かまいません。
ゲームがなぜ認知症を先送りできるのか
ルールの記憶継続の訓練になっていく
関節・筋肉の運動
発声機能を活発にする
みなで声を合わせることで聴覚の刺激
リズム感の取り戻し
昔歌った歌詞の記憶の引き戻し
数を数えて数への慣れ親しみの習慣づけ
指先の感覚の研ぎ澄まし
他者とのふれあいで人間関係がやさしくなる
協調性の自然回復
教室なればこその、おなかの底からの爆笑、愉快な自発的笑いの効用を誘い出す
握力の強化
気分・活気の高揚
一つのゲームの中に以上の各種が同時進行で脳を刺激するので、いろんな面の脳機能の
活性化が図れるのです。
30点満点の簡易テストで平均でも4点の上昇、4~5年の予防、先送りをめざすのが
みんなの認知症予防ゲームです。その教室を支えるのがスタッフ、ボランティアさんの役
目です。
自覚をもって、誰から聞かれても、「大人の幼稚園」「子供だましみたいなゲーム」など
と酷評されても、ひるまないで優しく説明が出来るようになってください。
教室の持ち方で、何かわからなくなった場合は、教室の本来の目的を思い出してくださ
い。脳の働きが衰えてきた方を、引き戻すのが目的だということを。
似たようなゲームであっても、子どもの教育や中高年を対象にした脳を鍛える教室では
ないということです。だから変化をつけないことが重要になるのです。このような教室の
目的を思い出してくださるならば、必ず道筋が見えるはずです。
目的意識を共有することが大事です。教室を進める中で感じる小さな疑問などは教室前
後のミーティングの時に、リーダー、スタッフ、ボランティアさんによるチーム全員で話
し合いましょう。違和感を残しておくとチームにヒビが入る原因になります。疑問がわい
たその都度に理解を深め、全員の意識を揃えておくことが大事です。意識の確認、強い協
力体制、高い志によって教室運営は理想に近づきます。成果をあげる予防教室をつくりあ
げてください。
5回シリーズ講座の最後では、以上のように講座を修了された皆さんが、これからは地
元で身の回りで、ボランティアさんや周辺の人々を対象にゲームについて伝達、教育され
・・メ モ・ ・
- 33 る時のための心得を参考のために取り上げました。
リーダー候補の方には、教室を開始する前にあちこちの教室に、実地見学をされること
をお勧めします。各地で実施されている教室は、リーダーの顔が一人ずつ違うように、同
じゲームであっても教室ごとに雰囲気の違いが出てきます。できることなら、各教室を見
学実習して、学ぶべき点、自分ならこのようにしたい点などを感じて、自分なりの理想像
を考えてみてください。見学実習を受け入れてくれる一般開放の教室と、介護保険事業で
行っている非公開の教室があります。お近くの教室はどちらのタイプでしょうか。
一日も早く、予防ゲームを地域で活用できるようスタッフ、ボランティアさんの養成、
教育、自分自身の向上にも、日々の努力をお願いします。
以上
・・メ モ・ ・
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あとがき
私が、アルツハイマー型認知症だった母を在宅介護で見送ったのは1983年。もう30 年 も
超えた昔になります。当時の悲痛な思い出は今も鮮明な記憶で、忘れることはできませ
ん 。 介 護 家 族 の 会 での知恵の出し合い、慰め合い、今も同じかと思いますが、後続の未知
の方たちの嘆きと困惑が、すこしでも希望に替わる方法は無いのかと、我が身に照らして思
い続けていました。
福祉・医療の世界での認知症対策は、想像も出来なかったほどの進歩ですが、家族の嘆きと
本人のつらさは今も同じと感じています。私の後半人生は認知症になっても、明るい気持ち
で生きていける世の中になって欲しいという願いで、今に 至ってい ます。
かつて私は、2年足らずの短い期間ですが、高齢者のデイサービスセンターで、事務員をして
いました。その時に見聞したレクリエーションゲ ー ム は 、 大 変 失 礼 な 言 い 方 に な り ま す が 、
専 門 学 校 で 学ばれたであろう高 齢 者 レ ク ゲーム、中身は、体を動かしてのリハビリゲームで
すが、参加されている高齢者の表情からは、単なる時間つぶしのよ う に み え ま し た 。 そ れ
で も 無 い よ り は ず っ と 良 い 方 法 で し た 。 私 は 職場ではゲームに参加する事はなく、仕事で
通りすがりにチラッと見るだけの高齢者レクを見た事が、後年の大きな資産となっています。
このことが後日、認知症予防ゲームを初めて見た瞬間に、悟りを得たように思いました。ゲー
ムの考え方、具体的なやり方進め方、声のかけ方の工夫で 、 結 果 が 見 違 え る ほ ど 高 く な る
方 法 を、知っ てほし い、拡 げ たい という 願いが 年月と とも に 強くなっています。
出来ることなら、出会うこともない多くの人々にも役立てて頂きたい、という願いでこの講義
録をホームページで公開しています。ゲームのコツは日進月歩的に新たな発見や気づきが
加わって、再々部分的な書き換えをしています。先に読んでくださった方には、一々連絡は
出来ないのでお許し頂き、折々ホームページで講義録に進歩改訂のあとを見て頂きたいと
願います。
平成6年1月に静岡県掛川市に出かけて行って初めて聞いた認知症予防講演会で、ゲ
ームに意味があることを教えられ、平成14年12月にグループ活動を始めてからは、何
のゲームにも何故?何故?と真意を探求するようになり、類型ごとに纏めて整理をして、
能楽の五番立て番組の原則に倣って並べ替えてみたことから、是だとゲーム進行の順番を
確信したのです。以来、ようやく平成20年にテキスト公刊にたどり着きました。その2
年後に私は医療福祉の無資格者でありながら、静岡研修の受講を許されて、本場で行われて
いるゲーム指導を実見したのでした。それがきっかけとなり、なおなおゲームの進め方、
様々なコツの更なる発見などにより、現在では随分深化したと些か自負しております。
具体的な方法に、創始者との相違が出てくるのは、やむなき成長の証でもあります。創
始者の不興を招くことがあっても、ゲームの成長はご恩返しだと心底で考えています。全
ての道は先覚者を乗り越えて進歩する、それが先覚者への報恩だと、どの世界でも言われ
ている真理をなぞっているつもりであることを、ご理解頂ければ、幸いです。
この講義録が役だつことを心から願っています。
2016 年 5 月 18 日
広野町一里山にて
高林実結樹
・・メ モ・ ・
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「みんなの認知症予防ゲーム」のコツ
数える習慣を取り戻すためのゲーム「1から10まで」
20種目のゲームの中で、リーダーが悩むのは、最初の「1から10までの指数え」で
す。このゲームでは、ハードルが高いと感じる人が、殊に若いリーダーに多いようです。
高齢者のなかには「1から10まで指を曲げながら声を出して数を数えろだって? 何を
失礼な、子どもじゃあるまいし」という反感をもつ人もおられます。
通常の老人会などでは、「指を曲げながら1から10まで数える」と聞いた途端に、不穏
な表情になる高齢者もおられます。上長者に失礼だと思って、若いリーダーは気後れしま
す。しかしこのゲームは、簡単な計算が出来るように、先ず以て、数える習慣を取り戻す
のが目的ですから、両者の違和感は早く消したいものです。その最高の解決法が、「誘い
かけの言葉」です。
「みんなの認知症予防ゲーム」のゲームリーダーは、年齢にかかわりなく、春風駘蕩と
言ったムードや、けしかけるような声の使い方や、イントネーションにも意識した工夫が
実行出来るように力を付けていただくと、ハードルは消えていきます。
全員を指折りゲームに誘うには、共感してもらわねばなりません。それが言葉での意図的
な誘いかけで、成功率は高くなります。
意図的働きかけの言葉例
(まじめなムードで言う)人間だれでも
オギャー と生まれた時は、
この世の中に計算とか数とか、あると
言うことも、知りませんでした。
初めて数を教えてもらったのは、
おそらく記憶もないほど幼いころに、
お風呂に入って、
お父さんか、お母さん、おばあちゃん
か、おじいちゃんと一緒に、お湯の中
で指を折って、1から 10 まで、数えた
のでは、なかったでしょうか?
(声を張り上げて、楽しい雰囲気で)
その時のことを思い出しながら
今ここで、皆さんと一緒に、声を揃え
て、指を折って、1から10まで数え
てみま。
しょう~ と言いざま両手を開いて、
掲げる
→
→
→
反応
少々引き締まった気分、小さな緊張
意外性で、緊張感がガバッと外れる
共感 肯定(耳を傾けはじめる)
→
→
何を言うのかと興味を持つ
回想
→
→
→
→
そうだあ。子どもにも教えてやった。孫
にも教えてやった。
又は「違うぞ、1から100だぞ」とか
回想が自然に始まる=脳の目覚めを誘い
だす。
ペースに巻き込まれる。素直な気持ちが
湧いてくる
誘導
思わずスタッフ達につられて手を掲げる
・・メ モ・ ・
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リズム感を取り戻すゲーム「でんでんむし」
認知症になると、簡単な童謡などのリズムにさえも乗れなく、リズム感が衰える方がよ
くおられます。リズム音痴になりがちな高齢者を、どのように誘えば、リズム感を取り戻
してもらえるか? そのコツが認知症からの引き戻しの門戸を開くことになると思ってい
ます。単にリズミカルな所作や歌い方だけでは、成功しにくいのです。リズムに乗せる、
それは自然体で、流れるように誘って持っていかねば効果につながりにくいのです。リズ
ムに乗れず、リズム音痴になってしまった認知症の人に、幼少の頃の弟や妹に対するよう
な優しさでリードしてください。
始めはリズムを全く消して説明します。以下「でんでんむし」のゲームを例にとります。
ルール説明の言いかた
右手をチョキにしてください~
解
説
→ 聞き取りやすい声、明瞭な発声、明るい温かい
会話の話しかた。
左手はグーにしてください~
→ 同上
チョキの上にグーを載せてください
全員を見回すように問いかける。名指しで、一
全員に自分の手を見せながら、
→ 人に問いかけるのは厳禁です。全員への質問を
ぐるりと見回して問いかける。
「何に見
会話体で。
えますか~」でんでん虫、かたつむり
と、ぱらぱらと聞こえたら成功。
「そう
ですね~でんでん虫ですね~」
次は反対で、左がチョキです~。右は
変化=言葉のアクセントでなく、喋り言葉全体
グーで、グーをチョキの上に載せてく → のイントネーションで歌を歌うかのように楽し
ださい。
い雰囲気で話すような言い方。
是を交互に繰り返しますから、一緒に → 変化=会話の話かた、お願い口調。
言ってくださいね。
右がちょき~。左がちょき~
→ 変化=のんびり。リズムナシで、唱えるように
(ゆっくり繰り返す)
語尾を引っ張る
(ゆっくり続けながら、全員が揃って → リズムを加える。どこに? どのように?観察
出来るようになるのを、見届けたら)
力が問われる!
右が~チョキ、左が~チョキ、
→ 変化=語尾だけ短く切り字に換える「キリッ」
としたムードを少しずつ加える。
何回か繰り返し、一番遅い人も切り字 → 「チョキ」を勇ましく言う。全員が自然に揃っ
に慣れたら
たら新たな変化
ミぎがちょき、ヒダりがちょき、
→ 変化=1拍めを強調して短く、歌うように、語
尾は軽く、ゆっくり目の2拍子に替えていく。
全員が拍子に乗ったら、「ハイ」とだけ言って、楽しさを誘い出すように、いきなり
「でんでん虫むし」と歌いだす。スタッフをはじめ全員が自然について歌い出す。
リーダーは、手首を振動させないで、見えやすい角度に構えて、手首を固定する。
一生懸命でないとリーダーの願いは通じないが、一生懸命さは表に現さないで、ひたす
ら楽しさ一辺倒に見せかけつつ、内心は、誘うことを心がける。
リズム感が身に戻ると、笑顔が変わります。
・・メ モ・ ・
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付
①
②
③
④
録
お手玉の作り方
シーツ玉入れの縫い方
チェックリストの見本
実施ゲームの記録表見本
・・メ モ・ ・
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お問い合わせ
連絡先
NPO法人認知症予防ネット
〒611-0031
京都府宇治市広野町一里山15-10
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話
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FAX
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平成28年5月18日改訂