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¡第159 号¡2009年3月
研修会
関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
岡部・山口・相澤・戸塚法律事務所 左合輝行 弁護士
JIFFA広報委員会では、NVOCCへの期待が高まるなか、運送人としての責任を果たすために留意すべき事項につ
いて、継続的にセミナーを開催していきたいと考えています。昨年来の世界同時不況の影響から、海運業界を取り巻
く環境も今後益々厳しくなるものと予想されており、「関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策」というテ
ーマで、JIFFA顧問法律事務所の左合輝行氏に講師を依頼し、2月20日に東京で、27日に大阪で多数の受講者を得て
研修会を開催しました。以下はその講演の概要です。
はじめに
昨年、中国系の某船会社、次いで韓国
系のライナーが倒産状態となりオペレー
ションを停止したとの事案が見られまし
た。今年はさらに厳しい状況が見込まれ、
今後同じような形で船会社、関係会社が
倒産に追い込まれる可能性があります。
法律関係を知っていたからといって
100%リスクを回避できるかといえば、
決してそうではありません。関係会社、
取引先の倒産というのは基本的には商売
上のリスクであるため、まず取引に入る
前に相手方の信用調査を行い、信用状況
を確認することが大原則です。それでも
相手方が倒産してしまった場合には、状況的に何らかの
年度の段階で約50億円の損失、08年度(1-10月)では約
損害を被らざるを得ないことにはなり得ますが、ただ、
25億円の赤字となっていて、完全に債務超過状態であ
その際にも法律関係を知っておけばそれなりに対応はで
り、破産状態にあるのは間違いありません。仮にSYMS
きるのではないだろうかと思います。
に何らかの債権を持っている場合でも、回収は難しいで
昨年10月に中国系の山東省煙台国際海運公司、(以下
しょう。ちなみに、昨年12月の段階で所有船2隻が確認
「SYMS」)がオペレーションを停止し、JIFFAの顧問弁
されていますが、中国商業銀行の抵当権がついているの
護士事務所として本件に関して諸々のご相談を受けまし
で、換価価値はほとんどないとみられます。このように
た。中国の弁護士による現状調査によると、SYMSの営
SYMSの件で何らかの被害を被っていたとしても、その
業自体は完全に停止しているが、Grand China Shipping
回収はかなり厳しい状況です。
(YANTAI)が業務を引き継いでいるということでした。
この研修会は関係会社倒産のリスクへの完全な対応策
ただ、営業権は引き継いでいるものの、債務は引き継い
というわけではありませんが、同事案を踏まえ、まずは
でいないため、SYMSは現在、債務の整理会社という状
法律関係を知り、検討の機会としていただければと思い
況に陥っています。中国法も日本と同様に破産の手続き
ます。
を規定していますが、その手続きはまだとられておらず、
事実上の倒産状態でそのまま立ち枯れしているという状
況です。
SYMSのバランスシート(貸借対照表)をみると、07
倒産関連法の概要
日本法上、倒産手続きには、概ね(1)破産法、
(2)特別
¡第159 号¡2009年3月
関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
研修会
清算、
(3)民事再生法、
(4)会社更生法に基づく方法があ
の2種類があります。財団債権は、破産手続きによらず、
ります。このうち、破産法と特別清算は「清算型」、つまり
破産財団から随時弁済を受けることができるもので、3
会社を潰し、今後継続しないことが前提の手続きとなりま
ヶ月分の労働債権のようなものが財団債権として認めら
す。破産法は破産会社の財産を換価、処分して各債権者
れています。労働者を保護するため、労働債権の3カ月
に平等に配当するもので、特別清算は特定の場合に裁判
分については、配当ではなく、随時に破産財団から労働
所の監督のもと清算手続きを行うものです。
者に弁済されることになるのです。財団債権以外は原則
一方、民事再生法、会社更生法は今後会社を継続させ
的には配当手続きによって弁済を受ける破産債権となり
ていくことを前提とした「再建型」手続きです。会社更
ますが、破産債権の中でも、優先的に配当を受けられる
生法は原則として管財人が選任されて管財人が会社の更
「優先的破産債権」や、劣後してしまう「劣後的破産債
正を図るもので、主に大企業向けといわれ、一方、民事
権」などがあります。
再生法では原則的に管財人は選任されず、債務者自身が
再生計画を立てて再生をさせます。DIP型と呼ばれる手
続で、中小企業および個人向けの手続となります。
今回は破産関連法についてはあくまで前提問題として
話をするだけですので、破産関係の法律としては破産法、
民事再生法、会社更生法を覚えておけば十分でしょう。
─実体法上の問題点
破産の時によく起こりうる法律上の問題としては、否
認、相殺、双方未履行債務、別除権の問題などがありま
す。
会社の代表者が支払不能状態にあることを分かりつ
つ、会社の財産を破産逃れのために処分してしまうよう
破産法
─基本的な流れ
破産手続開始の申立て→破産手続開始の決定→破産管
な詐欺的な行為や特定の債権者(個人的に仲の良い債権
者など)に優先的に返済をしてしまった場合などの偏頗
行為があった場合には、事後的に管財人によってその行
為自体が否認されることがあります。
財人の選任、公示・知れたる債権者への送達→破産債権
破産会社に債務がある場合には、原則的に相殺出来る
の届出→債権調査→破産財団に属する財産の調査・管
状態であれば相殺することが可能です。ただし、破産開
理・換価→配当、という流れで進行します。
始決定後に負担した債務や支払不能状態に陥っているこ
ちなみに破産会社だけでなく、債権者にも申立てが出
来るため、債権を有していて、債務者側が破産状態にあ
とを知りながら敢えて負ったような債務については相殺
禁止となります。
るにもかかわらず破産をしないような場合、裁判所が認
また、未だ履行をしていない双務契約の債務がある場
めれば債権者側が申立てをして最終的な配当を受けると
合には、破産会社に対してその契約を履行するか解除す
いうこともできます。ただし、ほとんどのケースでは債
るかの催告でき、何も返答がなければ解除されたものと
務者自身の申立てで破産が行われています。
みなされます。これが「双方未履行契約」
という問題です。
申立てがあると、裁判所が本当に破産状態にあるのか
また、「別除権」の問題があります。抵当、特別の先
を確認し、確認できれば申立てから数週間で破産手続き
取特権がある場合など特定の担保権がある場合には破産
の開始決定がなされるのが通常です。その際に破産管財
手続とは別に優先的に行使してよいことになっていま
人の選任が行われ、債権者へ債権の届出を指示する送達
す。破産の手続きによって配当を待つことなく、抵当権
がなされます。その後、期日までに債権者は破産債権の
があれば競売し優先してお金を受け取ってよいというこ
届出を行います。管財人は届出された債権の合理性(債
とが認められており、これは破産手続きの枠外に置かれ
権として認められるのかどうか)を精査するとともに、
ています(手続きから「別除」した権利)。
破産会社に属する財産を調査、処分して最終的に各債権
者に案分で配当します。
─届出債権について
「破産債権」
届出債権には、大きく分けて「財団債権」、
民事再生法
─基本的な流れ
基本的な流れは破産と同じく、申立てがあって最終的
3
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に再生計画に基づいて履行されます。再生手続き開始の
会社更生手続きの枠内で処理されます。
申立て→再生手続の開始決定、再生機関の選任→再生債
権の届出→再生債権の調査及び確定→債務者の財産状況
の調査→再生計画の作成及び成立→再生計画の履行確保
(終結)というのが一般的な流れです。
各国の破産法
英国ではAdministrationとReceivership、Company
Voluntary Agreement( 和 議 ) が 再 生 型 、 そ し て
─届出債権・実体法上の問題点
Liquidation (Winding-Up)が清算型の手続きです。
民事再生法における届出債権のうち、「共益債権」と
米国でも清算型(連邦破産法第7章)と再生型(同11
「一般優先債権」については、他の再生債権と違い、随
章)の手続きがあります。最近、米国のビックスリーへ
時弁済を受けることが出来ます。
民事再生法に基づく手続きにおいても、実体法上「否
の公的資金投入の問題に関連して、再生計画として
「Chapter11」を使うかどうかについて議論がなされて
認」、「別除権」、「双方未履行債務」など破産の場合と同
いるような話がありますが、そこで言う「Chapter11」
じ問題が生じるこがあります。一方、「相殺」について
とは連邦破産法の第11章のことであり、それを利用し
は破産法に基づく手続きでは原則的に「決定後の債務に
て再生計画を立てるかどうか論じられているということ
ついての相殺はだめ」ということでしたが、民事再生法
です。
に関しては、債権の届出期間満了前に相殺できる状況
(相殺適状)になっていたら相殺可能です。
中国では2007年6月1日から、企業破産法という法律
が施行されています。個人以外の国有企業、外資企業含
む全企業がこの手続きに則って清算または再生手続きが
なされます。SYMSが破産処理をするのであればこの法
会社更生法
律が適用されることになります。内容的には日本法と基
─基本的な流れ
本的な手続きの流れは似たようなものであり、債権の届
再生手続き開始の申立て→再生手続開始決定→管財人
出をして、最終的に換価する資産があれば配当を受ける
の専任→更正債権・更正担保権の届出→更生計画案の作
ことが出来ます。それから、企業破産法では中国以外に
成、決議、認可→更正計画の遂行→更正手続きの終結と
ある国外資産もすべて破産の対象となるとが明記されて
いう流れとなります。
いますので仮にこの手続によるのであればSYMSの国外
主に大企業の会社更生の方法として使われ、常に管財
人が選任される点が民事再生とは異なります。債権者と
資産も処分されて配当にまわされることになるのではな
いでしょうか。
して関与するのであれば、債権の届出をするほか、更正
案を認めるかどうかの決議権があり、更正案に納得がい
例:船主倒産の場合
かないということであれば、否決することもできます。
:本邦NVOCCのA社はシンガポールから東京への貨
物輸送を引き受け、シンガポールで荷送人にHouse
─届出債権・実体法上の問題点について
会社更生法における届出債権については民事再生法と
同じです。
また実体法上の問題点についても、基本的には破産法、
B/Lを発行、その後、A社は傭船者Bからback to back
でB/Lの発行を受けた。当該貨物はコンテナにバン
詰めされた後、C所有のD船に積載され、香港経由で
仕向け地東京に向かった。なお、BC間ではD船の定期
民事再生法と同じ問題点が発生します。ただ、会社更生
傭船契約が締結されている。しかし、船主C社は破産
法では「別除権」の取り扱い、抵当権などの別除権の考
状態のため、C社債権者から香港で本船Bを差し押さ
え方が他の2法とは全く違う点に注意していただく必要
えられた。A社のリスクと対応は?
があります。他の2法の場合は、配当手続き、破産手続
きとは別枠に置かれ自分たちで行使してよい(状況によ
ってはする必要がある)ということになっていますが、
それに対して、会社更生法は更正担保権として原則的に
本船差し押さえの効力
貨物を積んでいて差し押さえされれば、貨物の運送自
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関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
体が止まります。ただし、差し押さえの効力は船および
は、契約上の責任履行を主張できるのは(B社を飛び越
船の属部(クレーンなど)だけにしか及ばないので、実
えて)C社のみということになります。B/Lに傭船者B
務上の手続きは必要ですが、荷主としては貨物を返せと
社のロゴが入っていても、B社は契約関係には入ってお
主張できます。しかし、本件では香港で本船を押さえら
らず、契約を主張できるのはC社に対してのみという法
れているので、実際の問題として東京まで貨物を運送す
律関係になります。
ることがどうしても必要になります。その時にA社は誰
本件の場合には、C社は「東京まで貨物を運送する」
に運送手配をさせるのか、どうすればいいのかを検討致
という契約を結んでいるので、NVOCCのA社としては、
します。
C社に対して「ちゃんと東京まで運んでくれ」と契約上
当然に言うことが出来ます。しかしC社は倒産状態にあ
るため、現実には、荷主からのプレッシャーからA社自
誰に何を言えるのか
身が東京まで運ばざるを得ないという状況が想定されて
─運送契約関係の確認(船主B/Lか傭船者B/Lか)
しまいます。C社が今後破産手続きをとるのであれば、
まず、その時の契約関係、誰とどのような契約を結ん
でいるのかを当然確認する必要があります。例えば、
C社に対して賠償請求し、破産等の手続きに参加するく
らいしか手段はないでしょう。
B/Lが発行されているということを前提として、 同
B/Lに基づく契約内容はA・B社間の運送契約なのか、
それともA・C社間の運送契約なのかということが問題
─B社による傭船者B/Lが発行されている場合
B/Lの発行がB社、つまり傭船社B/Lだった場合は、
となります。つまり、傭船者のB/Lなのか、船主、い
運送契約はA・B間にあります。仮に本船が香港で差し
わゆるMaster B/Lなのかということを確認する必要が
押さえられたとしても、それは契約関係に入っていない
あります。現実問題としてNVOCCが関与するケースで
船主の事情であるため、A社はあくまで「そちらの費用
はコンテナ輸送のケースがほとんどだと思われ、Master
で東京まで運んでくれ」とB社に求めることができます。
B/Lが発行されている可能性は極めて少ないとは思い
ただし、B社が代替船を手配して喜んで運んでくれるか
ますが、理論上はあり得る問題ですので、検討する必要
といえば、B社も倒産状態のC社に事実上何も求めるこ
があります。
とが出来ないはずなので、事実上は動いてくれない可能
傭船者B/LかMaster B/Lかという問題については、
性もあります。その時には、A社として一旦は費用負担
「ジャスミン号事件」というケースで最高裁による判例
をし、事後的にB社に賠償請求をしていくという方法も
があります。同事件では、For the Masterと記載された
考えられます。ただ、B社が代替船を手配し、B社の費
傭船者のロゴ入りのB/Lが発行されていました。この
用負担で運ぶというのがA社の原則的な主張となりま
とき、このB/Lでは傭船者が運送人として評価される
す。
のか、または船主が発行したB/Lとされるのか、とい
うことが争点となりました。最終的には船荷証券の券面
上の記載に基づいて運送人を確定するとされ、結論とし
荷主に対する責任
ては、「For the Master」=船主のため、との記載から、
─運送義務
運送人は船主ということになりました。同事件では
一方、A社は荷主と運送契約を結んでおり、House
Master B/Lが出ている時には、運送契約の主体はあく
B/Lに基づく運送契約を締結しているという法律構成
までも船主で、荷主と船主が結んだ運送契約だというこ
になります。荷主は「A社の責任で東京まで運んでくれ」
とを結論付けました。従って、運送契約を確認する時に
と主張できます。A社は荷主に対しては、東京まで貨物
はB/L券面の記載を確認する必要があります。
を運ばなくてはならないという義務を法律上負ってしま
っているのです。
─C社による船主B/Lが発行されている場合
JIFFAのB/Lだと、第10条で運送人側(ここではA社)
上記の例が船主B/Lだった場合は、契約関係はA社と
が相当な努力を尽くしても避けることができないような
C社が結んだということになります。するとA社として
障害が発生した場合は運送を途中で終了できる、という
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B/L規定があります。しかし、こういった不測の事態
のマーケットバリューと遅延して到着したときのマーケ
におけるabandonment(運送の打ち切り)規定を援用出
ットバリューに差が生じた場合は、その差額だけ賠償す
来るのは極めて限定的な場合に限られます。船主倒産に
ればよいということになります。一方、例えば、1カ月
よる船の差押えについては、その主張が出来るのかとい
遅延し、1カ月後にマーケットバリューが上がっていた
えば、実際には難しいでしょう。不測の事態における
場合などには、相手方に遅延による損害はないというこ
abandonmentというのは、事情変更の法理に基づきます。
とになるので、賠償しなくてよいということになります。
これは、契約時に到底予想できない状況、また契約履行
マーケットが存在しない貨物の場合は、同種同等の貨物
が当事者に不利益になり、公平を害するというような場
などから推測するしかなく、荷主に損害額を証明してく
合に、事情変更のため契約関係は無効にしてもよい、と
れと主張することも法律上は可能です。
いう極めて例外的な考え方で、今回の場合でももちろん
結論として、原則的には、遅延損害金はマーケットバ
主張すること自体はできますが、裁判所はおそらく認め
リューの差額であり、不稼動損害などの間接的な損害は
ないでしょう。結論としては、10条を援用し運送をス
賠償しなくてもよいということを認識していただければ
トップすると荷主に主張するのは難しく、対荷主の関係
と思います。
では、自己の負担によって東京まで貨物を運ぶという義
務は存続するだろうと思われます。
例:傭船者倒産の場合
上記の例で、船主C社ではなく傭船者B社が破産状態
─費用の帰趨・遅延損害金の賠償責任
となっていた。B社に傭船料の不払いがあり、C社が
仕向地まで貨物を運ぶ義務がある以上、そこから発生
BC間の傭船契約を約定解除。航海をabandonし、香港
する追加的な費用に関しても負担せざるを得ません。代
CYに貨物を下ろした。船社C社は、NVOCCのA社およ
替船手配、荷役費用などを荷主に付け替えることは難し
び荷主に対して、香港での荷役費用等と引き換えに貨
く、B社に請求をしていくことになるでしょう。
物をリリースするとしている。なお、本件ではB社発
一方で、荷主との関係では遅延損害金の賠償責任とい
行にかかわるB/Lは傭船者B/Lである。
う問題が発生します。本例でも香港で船が取り押さえられ
ていることからも、スケジュールに遅延が発生することが
想定され、荷主から遅延損害金を請求される可能性があ
ります。これに関してはJIFFA B/Lの23条6項に規定があ
誰に何を言えるのか─船主に対する主張─
これはまさにSYMSで起こった事と同じケースです。
り、そこでは、運送人は「特定の時間以内に貨物を運ばな
傭船社B社(SYMS)が傭船料を払えず、C社が貨物を香
くてはいけない」
という義務を負ったわけでなく、
「物を仕
港に降ろして船を引き揚げてしまいました。このような
向地まで運ぶ」
という義務しか負っていないことが原則的
ケースで、A社はB社に何が言えるのか、またはC社に何
に遅延損害金を負担しないと規定されています。
を言えるのかを検討します。
(上記規定が無効と判断された場合や)B/Lにこうい
本件は傭船者B/Lが発行されていることが前提なの
った規定がない場合は、国際海上物品運送法12条の2第
で、A社は、傭船者B社としか契約関係にないため、契
1項の賠償の規定に基づき損害額が決まります。ここで
約上の主張を出来るのはB社に対してのみということに
は、運送品に関する損害金の額は、荷揚げされるべき
なります。C社は傭船料を払わないB社に対して傭船契
地・時における市場価格によって定める、と規定してい
約の約定解除をしていますが、これは契約上の権利を行
ます。これは逆にいえばその額に限定されるということ
使しただけということになり、法律上は非難されるべき
で、むしろ運送人側に有利な規定と言われています。と
立場にはないという評価となってしまいます。C社の約
いうのも、遅延損害の時には間接的な損害が発生し得ま
定解除が合理的なものである以上、A社から直接にC社
すが(貨物が届かず工場の稼動が停止、多大な不稼動損
に対して責任を問うのは難しいということになります。
害が発生した、など)、法律上はそこまでは賠償責任と
して認めてはおらず、貨物の価格さえ賠償すればそれで
十分であると規定しています。本来着くべきであった時
─荷役費用の支払いを拒否することができるか
本例のように、「貨物を降ろす際に掛かった荷役費用
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関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
や保管費用等を払えば貨物をリリースする」とNVOCC
め、現実的にC社に対して運送を要求するのは極めて困
が言われるという状況が予想されます。SYMSのケース
難な状況にあります。ではB社に対してはどうかという
は、ほとんどの場合、費用を払って貨物のリリースを受
と、今回のSYMSの件では、SYMSは代替船も手配できる
けて、仕向地まで運んだという処理がなされたと聞いて
状況になく、結局は荷主任せという状況でした。ただ、
います。その時の荷役費用の支払いを拒否できるかとい
法律上は、傭船者B社(SYMS)に対しては契約がある
えば、難しいものと考えます。C社の約定解除がとくに
ので「ちゃんと最後まで貨物を運べ」と言うことは可能
非難されるべきものでない以上、運送品の処分に関して
でした。しかし、SYMSにその能力がすでになかったた
発生した費用については、その処分品について、いわゆ
め、現実的には、A社が対応せざるを得なかったという
る商事留置権という権利が発生します。貨物を勝手に捨
ことです。
ててしまったような場合は不法行為として賠償請求の対
象になり得ますが、リリースのために荷役するというの
は、運送品のために払った費用だと法律上は評価される
荷主に対する責任
可能性が高く、運送品のために出した費用であれば、そ
船主倒産のケースと同じく、荷主に対しては運送契約
の貨物を留置する権利が船主に発生します。費用を払わ
を負っているため、運送を放棄することは困難です。た
ない限り、貨物を留置する権利が船主にはあったという
だし遅延損害金については一定程度に減額される可能性
ことになるので、貨物の引き渡しと引き換えに費用を払
はきわめて高いでしょう。
えとしていた本件の船主側の主張は法律に則ったもので
あったと言えます。
ただし、SYMSのケースの場合は、コンテナ1個当たり
の金額で費用の支払いを強要してきたようですが、その
額は妥当でなかったのではないかとは聞いています。実
債権保全の手段(船主に対する請求権保全)
船主に対して債権を有している場合、どう保全して担
保をとるのか、一般的な手段についてお話しします。
際に多くの場合はある程度減額をして費用を支払い、貨
物のリリースを受けたようです。いずれにせよ、結論と
─Rule B Attachment
しては、支払拒否は難しく、貨物のリリースを受ける以
通常ドル決済で取引をしていると思いますが、ドルの
上、荷役費用、保管費用等は払わざるを得なかったとい
すべての送金は仕向けでも被仕向けでも、必ずニューヨ
うことになります。
ークにある銀行を経由して送金がなされます。Rule Bは、
債務者が関与している送金途中のドル資産をニューヨー
─荷主了解のもと貨物を放棄することができるか
クで差押えるという債権保全手段です。これは(少なく
放棄自体は出来ないことはありませんが、所有物から
とも現状では)米国の判例法上認められていると言われ
発生した費用、損害に関しては所有者がそれを負担せざ
ているもので、船主のその他の資産が確認できない場合
るを得ない可能性があります。つまり、放棄するのは自
などに、ドル資産を送金中に押さえるこの方法がよく行
由ですが、そこから何らかの損害が発生したのであれば、
われています。日本法の考え方では、送金中の金員とい
荷主が事後的に賠償請求を受けるなどのリスクがあると
う現物がない状態での差押えというのは、かなり違和感
考えられます。法律家としては、そういったリスクがあ
のある手段に思えますが、現実に、Maritime Lawyerな
る以上勧めることはできません。現に、SYMSの件でも
どはよくこの手段を使っています。
生鮮食品を放棄したいという相談があのですが、その際
基本要件は(1)一見して有効な海事クレームである
にもそう忠告して、結果、引き取った上、転売処理した
こと、(2)相手方がNYの管轄内に所在していないこと、
と聞いています。
(3)法定または海事法上の障害がないこと、(4)NYで
相手方の財産が発見されうることとなります。この4要
誰に何を言えるのか─傭船者に対する主張─
船主に対しては、NVOCCとしては契約関係がないた
件を満たしていれば、「Rule B Attachment」で、ドルの
送金資産を押さえることができます。具体的には、NY
の裁判所から差押えのオーダーを受けて、20行ほどの
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研修会
銀行に対してアットランダムにそのオーダーを送達し、
ど諸々発生する費用負担の負担いついては事前に荷主と
債権額全額になるまでそれを続けます。アットランダム
約定し、「荷主負担」との確約書を取り付けてから手続
に送達する手続きなので、運任せの部分もありますが、
きに入るべきです。これはリスク回避のために当然やる
頻繁に行われている手続きなので紹介しておきます。
べきことだと思います。
送金が止まると商売上かなりのダメージとなることが
積み戻しの具体的手続きは、外貨のまま保税地域から
想定されます。やられる側の対抗手段としては、(2)
仕出し地に戻します。関税法上、輸出に類する規定が利
の要件、ニューヨークの管轄内に相手方が所在していな
用されて、輸出の際の「輸出申告書」の標題を「積戻し
いという要件を利用したものとして、ニューヨークに登
申告書」と変えて申請するという流れになります。
録上だけのオフィスを設置するなどの手段を米国弁護士
にアドバイスされることもあります。
破棄についても同じく、破棄の費用負担は荷主と書面
で約定をとってから初めて動くべきです。これが債権保
全の原則と心得て下さい。関税法上規定に基づく具体的
─船舶の差し押さえ
船主責任制限法95条などにより先取特権が成立した
な手続きは、税関長の事前承認を受けて破棄処分を行う
という流れです。
場合には、船を差押えて相手方から担保、特に本船の
P&I保険者から「何かあったら責任を負う」との趣旨の
─運送人の処分義務について
securityを取り付けて船をリリースするといった手続き
「荷主の指図に基づいて」と申し上げましたが、ここ
を取ることがあります。日本では、大きく分けて民事執
で現実には誰の指図に基づくべきでしょうか。荷送人は
行法上の強制競売に基づく船舶差押え(民事執行法112
B社だが、券面上の荷受人はD社となります。「荷主の指
条以下、189条)と、民事保全法に基づく仮差押え(民
図」というのはB社の指図なのか、D社なのか、または
事保全法20条以下、48条)の2つのやり方があります。
第三者なのかということを明確に検討しなければならな
先取特権は船舶抵当権に優先するので、船舶に抵当が
りません。何の処分権もない者からの指図に基づいて処
付いていても、差押え債権の方が優先し、債権保全手段
分してしまったら、事後的に賠償請求等を受けるリスク
としてはかなり有効な手段といえます。
があります。誰に法律上処分権があるのか、誰の指図に
基づいて処分すべきかについて明確に認識する必要があ
例:荷主倒産の場合(貨物受け取り拒否)
NVOCCの A社 が 日 本 向 け 貨 物 の 輸 送 を 引 き 受 け 、
ります。
表題の「運送人の処分義務」というのは、処分権限の
House B/Lを荷送人B社に交付、実運送をC社に委託
ある人間の指図に基づいて処分する義務があるというこ
した。貨物は仕向け地日本に到着した。しかし、証券
とを表します。
記載の荷受人B社が倒産状態、受け取り拒否。A社の
リスクと対応は?
─HouseB/Lが発行されている場合
大正時代の判例で処分権について言及している判例が
荷主が倒産状態となると、まず貨物を受け取り拒否す
あり、そこではB/Lの所持人のみが処分権をもつと明
るということが想定されます。その際、特段の合意がな
確に言っています。つまり、荷送人であっても、B/L
ければ、以下の3つの手段が考えられます。
を第三者に渡してしまっている以上、そのB/Lを戻し
(1)荷主の指図に基づき仕出し地に積み戻す
てもらわない限り、その貨物に関する処分権はないとい
(2)荷主の指図に基づき破棄する
うことになります。B/Lを発行した場合には、あくま
(3)競売手続きをとる。
でもB/Lの所持人の指図に基づいて処分しなくてはな
その時の法律上の問題点、注意点について説明します。
らないということです。たとえ荷送人から要請があって
も、B/L提示がない場合には、その指図に基づき処分
(1)荷主指図による積み戻し、(2)荷主指図による破
棄の場合
(1)積み戻し、(2)破棄の場合は、積み戻し費用な
してしまうと事後的に正当なB/Lの所持人から貨物の
引き渡しを要求された場合に対抗する手段がないことに
なってしまいます。そのような場合には、賠償請求の対
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関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
象ともなり得ますので、「処分権を持つのはB/Lの所持
ぎ、積み戻しなり、破棄なりの処分を決めてもらうこと
人」であるということを明確に認識する必要がありま
になります。当然、その指図は事後的に否定されてしま
す。
うことを避けるために、何らかの書面でとっておくこと
B/Lは「貨物の引渡請求権がB/Lという紙に付着し
がリスクを回避するため必要です。
ている」、「B/Lとうい紙を持っている人が貨物の引き
渡し請求権を有している」と評価されます。B/Lは、
─Surrender B/Lの場合(証券が発行されていない場合
いわゆる有価証券ということになり、有価証券の特殊性
に類して検討)
から、B/Lの所持人が貨物引渡請求権を有し、かつ貨
この場合、元地で回収されているので、そこでB/L
物に対する処分権を持っているということになる訳で
としての役割は終えていると考えます。Surrenderと刻
す。一方、誰がB/L所持人かわからないケースも出て
印されたコピー自体はWaybillと同じく、当初のB/Lの
くることもあるでしょう。その時には(3)競売、とい
ような有価証券性はなく、単なる運送契約を示す証拠書
う手段をとるのが妥当かつ法律上リスクを負わない方法
類としての評価となります。B/Lの裏面に特に規定の
と言えます。
ない限り、B/Lとは違う扱いがされます。
D社が倒産した場合、最終的に荷送人であるB社にB/
元 地 回 収 さ れ た B/ Lの 場 合 の 処 分 権 は 関 し て は 、
Lが戻るというケースはありますが、その時にはドキュ
Waybillのように明確に規定された一定のルールがなく、
メントを所持している荷送人の指図に基づき処分しても
当事者に別段の合意がない限り、法律に基づき処分する
構いません。ただし、B/Lを複数通発行している場合
ということになると考えます。日本法では国際海上物品
は、発行数全部の提示を求めた方がよりリスクを回避で
運送法20条2項が商法582条を準用しており、同商法の
きます。まず荷送人にB/Lの所持を確認し、最終的に
規定に基づいて処分されるべきものと考えております。
積み戻して貨物を渡す時にはB/Lを3通発行しているな
法律は原則的には「貨物の処分権限は荷送人にある」
ら3通全てと引き換えに貨物を渡す、というのが最もリ
と規定しています。ただし、仕向地で荷受人が運送人に
スクを回避する方法です。
対して貨物の引渡しを請求した場合には荷送人の処分権
は消滅するという規定になっています。よって、文理的
─Waybillが発行されている場合
に荷受人の引き渡し請求があるまでは貨物の処分権は荷
Waybillは、法律的にB/Lとは全く評価が違うものと
送人にあるということになります。本件では、荷受人で
なります。Waybillは有価証券性が否定され、単なる運
あるD社が現れず引き渡し請求がないということなの
送契約を示す証拠書類でしかないとされています。実務
で、荷送人B社の指図に従って処分することで足りま
上は記載された荷受人に貨物を引き渡しますが、記載さ
す。
れた荷受人以外がWaybillを持っていたとしても、引渡
一方、学説では仮に引き渡し請求があった後でも、荷
請求権はWaybill所持人にはないので、運送人が貨物を
送人の処分権が消滅するわけではなく、荷受人の処分権
引き渡す義務はありません。
が単に優先するだけで、荷受人の引き渡し請求があった
では、Waybillが発行されている場合、誰の指図に従
後、貨物の処分指図がされないような場合には荷送人に
って処分(積み戻しまたは破棄)すればよいのか。これ
も指図を求めてOKだとの見解があります。ただ、学説
についてはCMIのUniform Rulesによって規律されていま
でしかなく、特段の判例がある訳ではない点は注意が必
す。貴社のWaybillの裏面にも、おそらくCMI Uniform
要です。
Rulesに準拠するといった記載があるはずです。
いずれにせよ、Surrenderされた場合、証券が発行さ
CMI Uniform Rules第5条には、(原則的に)「処分権は
れていない場合で、本件のようにD社が現れない場合に
荷送人にある」ということが明確に規定しています。
は、B社に指図を求めればそれで足りるということにな
Waybillの場合には、当事者が別段の合意をしない限り、
ります。
(引き渡し請求前は)処分権は荷送人にあるという認識
で間違いありません。よって、Waybillが発行されてい
て、記載上の荷受人が現れない場合、荷送人に指図を仰
─費用負担について
その時に発生したヤードでの保管費用やコンテナの超
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研修会
過費用は原則的に荷主負担となります。荷主が本来引き
き渡さなければならない義務があります。相手が貨物の
取るべき貨物を引き取っていないということになるの
引き取りに現れない場合でも引渡義務は消えず、その義
で、それに掛かった費用は基本的に荷主に負担を求める
務をずっと負い続けることになってしまいます。それで
べきであると考えます。
は不都合なので、法律が「供託」という制度を規定して
います。商法585条で運送人に供託権という権利を認め
*費用についての合意がある場合
特に費用負担に関して合意がある場合には、その合意
に基づき処分します。JIFFA B/Lでも費用負担につい
ており、供託さえすれば引き渡し義務を免れることがで
きるというのが、法律が用意している上記不都合を回避
する方法論です。
ての荷主の連帯責任を決めており、荷送人、荷受人双方
しかし、実際は物品供託という方法は全く使われてい
が連帯して費用負担するという規定になっています。仮
ません。ルール上は、法務局が指定した特定の民間倉庫
にJIFFA B/Lを発行していて、それに依拠するのであ
業者に当該物を渡して、それで供託が済むということにな
れば、荷送人, 荷受人の両方に対して費用請求するとい
っています。しかしながら、倉庫業者としてもそのようなも
う流れになると思います。
のを受け取っても処分に困りますし、また保管費用も掛か
ります。そのため、指定業者が物品供託品は受け取れな
*費用についての合意がない場合
一方、当事者間でとくに費用負担の合意がない場合は
法律(商法583条2項を準用する国際海上物品運送法20
いとして、この法律上の制度は全く運用されていないのが
現状です。供託はコストの面からも一番簡便な方法のは
ずですが、事実上は全く活用されていません。
条2項)に従います。商法583条2項は、「費用負担は基
本的に荷送人」と規定していますが、荷受人が貨物を受
─競売について
け取った後の費用負担(保管料、運賃含め全費用)は荷
競売の手続きによって運送人の貨物の引渡義務が消滅
受人側に請求できるとなっています。よって、特段の合
するわけではないはずですが、供託という制度が事実上
意がない場合は、貨物の受け取りまでは荷送人が負担、
存在していない以上、競売をすれば引き渡し義務を履行
貨物の受け取り後は荷受人が負担するということになり
したものだと評価せざるを得ず、現状は、貨物受け取り
ます。
拒否の場合に法が用意している制度は競売、という認識
でよいと考えます。
*費用請求権の時効
荷主に対して何らかの費用請求権を持っていた場合、
具体的には民事執行法上の形式競売という手続きで競
売されて、売れればそこから配当を受けるという手続き
いつまで請求できるのかという問題では、国際海上輸送
になります。ただ、現実的に競落人が現れるかというと
法20条1項(商法589条、567条を準用)において明確に
貨物によっては疑問であり、自分たちで落としてバイヤ
時効は1年と規定されています。1年経過すると時効で
ーに売却するなど自ら処分せざるを得ない、などといっ
消滅してしまう危険性があるため、早い段階で請求、回
た現状も聞いています。
収するといった手段をとらざるを得ないでしょう。
競売は費用が掛かり、かつ競落人が現れないと自分た
ちで処分せざるを得なくなり逆にコストと時間が掛かり
(3)競売の場合
貨物の受け取り拒否が発生した場合に、法律が手段と
して予定しているのは(3)の競売に基づく方法であり、
ます。ただし法律はこの制度を予定しているため、法的
リスク回避には、競売が一番安全だとアドバイスせざる
を得ないというのが現状です。
きちんと法律に基づきリスクを回避したいのであれば、
現実に費用が掛かるとは思いますが、競売手続きによら
ざるを得ないでしょう。
─倒産手続きとの関係
仮に貨物の所有者が破産した場合であったとしても、競
売というのは物の商事留置権に基づくもので、あくまでも
─貨物の引き渡し義務、「供託」について
運送人には運送委託を受けた物を指定された相手に引
破産手続きとは別枠、
「別除権」
として扱われるので、競売
して配当を受けることは手続き上問題ありません。
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関係会社倒産とNVOCCのリスク及びその対応策
だと考えます。ただし、D/Oが発行された段階で
船社C社に対する責任
本件の場合には船社のC社に対する責任としては、
貨物の占有改定による引き渡しがあったとして、引
き渡しが擬制(受け取ったのと同じ法律状況にある)
されるとする説もあります。法律的に明確な回答が
NVOCCは荷主と同じ立場で原則的に貨物を引き取らな
出ていない状況です。そのため、運送人としては、
ければならなくなる可能性が高いと考えます。Master
D/Oを発行した段階で荷受人が受け取ったと擬制
B/Lを所持しているのであれば、それに基づき貨物の
されている、と有利な方を主張すべきではないでし
引き渡しを受けざるを得ないので、その間に仮にC社で
ょうか。ただし、裁判でどのように判断されるかは
保管料など何らかの費用が発生したのであれば、負担せ
現状では不明です。
ざるを得ません。
証券等の回収
Q:Master B/Lを発行して船社が倒産した場合、船社
が責任回避を目的に船主に委任されていないのにサ
(3)の法律上予定している競売制度をとれば、荷主
インをするなどでMaster B/Lを偽造していた場合、
に対してはそれ以上の引き渡し義務、競売したことによ
荷主としては不利な立場になると思うが、どう考え
って発生する賠償義務を負う可能性はないので、証券の
ればよいか。
回収は特にしなくてもリスクは回避できます。ただし
(1)荷主指図による積み戻し、(2)荷主指図による破
A:船主B/Lの権限の所在、偽造の可能性があるのでは
棄の方法をとる場合には、荷主の指図に基づいて処分を
ないか、というリスクについては、基本的には
しているので、最終的に処分するにあたっては、荷主か
MasterB/Lが出る時は、傭船契約上でMasterB/L
らB/Lを全通回収してから処分すべきです。
を出す権限があるかどうか規定されているのが普通
です。よって、MasterB/Lが出ている場合には、傭
保証状渡し
船契約を確認すれば、権限の所在は明らかになると
考えられます。ただし、荷主は通常そこまで確認し
Single L/Gを出して受け取る場合、荷主の倒産リス
ないし、船社側も見せたがらないでしょうが、本当
クはそのまま覆い被るので、我々としてはきちんと
に事後的な紛争を避けたいというのであれば、確認
Bank L/Gをとって、その上で引き渡して欲しいとアド
するべきとなります。さらに、もし偽造の場合には、
バイスしています。
表見代理の法理を使って、船主にも責任の一端があ
ると主張することはできる可能性はあります。事後
質疑応答
Q:Surrenderの場合の費用負担について荷受人が貨物
を引き取るまでは荷送人に負担義務があるとのこと
的に何らかの請求をする場合には傭船者に対する偽
造責任の主張に加えて、船主に対してもその責任の
一端があるとして何らかの主張をすることはできる
のではないかと考えます。
ですが、「引き取る」の定義は。実際に貨物を引き
取る時なのか、D/Oを発行した時点なのか。
Q:オリジナルB/Lを3部発行し、輸送途上で荷送人が
A:明確な判例はありませんが、学説等では「実際の引
倒産、B/Lの所在を確認したところ荷受人の手元
き渡し」時であると一般的に言われています。運送
に1部届いた。B/Lのコンサイニー欄はその荷受人
契約というのは多くの場合には荷送人と運送人間で
名が記載されていた。この場合、貨物を引き渡して
結んでいるため、荷受人を関与させる際は、荷受人
も問題がないか。
がそれなりに責任を負えるような状態になった時
(現に受け取った時)に初めて責任を負わせるべき
A:問題ありません。先ほどは、法律関係の事後的な紛争
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研修会
を避けるためには3部全部回収した方がよいと申し上
引き渡し義務はあると解釈するべきだと思うので、
げましたが、純法律的に考えれば、1通でもB/L提示
C社に主張することになるでしょう。
があって、貨物の引き渡しをすれば、運送人側として
は義務を履行したと評価されます。裏書の連続等、内
容が正しいかどうかを精査する必要はあるものの、正
に発行したB/Lだということであれば、コンサイニー
Q:B/Lの裏面約款と日本の海上運送物品法と内容が
若干違う場合にはどちらが優先されるのか。
側に貨物を引き渡して問題ありません。
A:海上運送物品法15条に、「荷主の不利になる規定、
例えば責任を限定、低くするような規定に関しては
Q:傭船者倒産で香港に揚げられて貨物が留め置かれた
無効とする」という規定があります。荷主の運送責
場合、船主の商事留置権というのが船体とコンテナ
任を減縮するような規定に関しては、B/Lの裏面約
に及ぶが、中身の積み荷には及ばないと理解してい
款があっても、日本法が適用法規であればその効力
る。その場合、中身の積み荷だけを香港でデバンし
は否定される可能性は高いでしょう。ただし、荷主
て、自分の手で運びたいということを主張したい場
の責任を限定するような規定でない場合には、契約
合、相手は船主になるのか、傭船者になるのか。
自由の原則が適用されるので、B/Lの裏面約款が優
先します。時効については、海上運送物品法の強制
A:SYMSのケースでは、契約義務を主張する相手は傭
適用の範囲は貨物の荷揚げから荷降しまでであり、
船者であるSYMSということになりますが、実際は
その間の事故に関しては、時効を減縮するというこ
SYMSと交渉しても全く埒が明かないため、現実に
とにより運送人の責任を限定してしまうので、15条
貨物を下ろした船主と交渉をしたようです。事実上
によりB/Lの約款で定められた9ヶ月という時効は
貨物を所有している当事者と交渉せざるを得ないた
無効となり法が優先、1年となるものと考えます。
め、船主のC社と交渉したということになります。
ただし、陸上輸送を含む場合は、別段の法の規定が
その場合、船主が貨物の引き渡し義務を負うかどう
ない限り、引き渡し後等(海上輸送とかかわりのな
かについては法律論的には難しい問題です。貨物の
い部分)に関してはB/Lの時効(9ヶ月)が優先し
引き渡し義務を契約上負っているのはB社となりま
て解釈される可能性が高いと思っています。つまり、
す。ただしC社としてはそれを破棄するといったこ
損害の発生した場所等によって若干異なってくると
とは不法行為となります。契約上ではなく信義上の
言えるでしょう。