21 世紀 COE は何を目指すか 北海道大学大学院水産科学研究院教授

21 世紀 COE は何を目指すか
北海道大学大学院水産科学研究院教授・21 世紀 COE プログラム「海洋生命統
御による食糧生産の革新」拠点サブリーダー
荒井克俊
21 世紀 COE プログラムは、2001 年 6 月の遠山文部科学大臣(当時)が打ち
出した「大学の構造改革の方針」のひとつである、通称「遠山プランの大学ト
ップ 30 構想」をもとにしており、日本の大学を国際競争力のある世界最高水準
に押し上げるために、大学の先駆的特色的な研究教育拠点を選抜して、重点的
資金配分を行なうことを目的としています。平成 14 年度は、①生命科学、②化
学・材料科学、③情報・電気・電子、④人文科学、⑤学際・複合・新領域、15
年度は①医学、②数学・物理学・地球科学、③機械・土木・建築・その他工学、
④社会科学、⑤学際・複合・新領域の 10 分野(1 つ重複)において、1075 件の
申請から 246 件 85 大学が採択されました(採択率 23%)。本水産科学研究科(当
時)も平成 15 年度⑤の分野に申請し、書類選考をパスして二次選考(ヒアリン
グ)まで行きましたが、惜しくもここで不採択となりました。ところが、平成
16 年度についても、1 分野「革新的な学術分野」のみで募集があり、本研究科
生命資源科学専攻を中心に、関連のある4部局(北方生物圏フィールド科学セ
ンター、農学研究科、獣医学研究科、および医学研究科)の協力を得て、相当
な準備を経て本課題「海洋生命統御による食糧生産の革新」の申請に臨んだと
ころ、幸いにも激戦を勝ち抜き、採択に至りました(320 件の申請中 28 件のみ:
採択率 9%)。本公開講座では、本プログラムの目指すところを、その特色・重
要性と合わせ、研究、教育、社会貢献の観点から説明したいと思います。
本拠点の特色:「水に棲む生物の特異な生命機能に学ぶ!」
人類の生存と繁栄には、安全で安心な食糧が安定的に供給されることが必要
です。我々が注目した点は、既に開発し尽くされた感のある陸上生物に比べ、
海洋生物は今なお未知・未開発の資源が多く、桁違いの多様性と多産性を有す
ることです。例えば、皆さんは魚の名前をいくつあげられますか。正確なとこ
ろはわかりませんが、現存する魚種は 3 万ともいわれています。このような種
類の違いも多様性の一例です。食膳に上る「たらこ」や「すじこ」を想像して
みてください。いったい、いくつの卵(たまご)がはいっていますか?一尾の
雌はどれほどの卵をうむのでしょうか?さらに、たくさんの卵を産む海洋生物
もたくさんいます。莫大な多産性は簡単にイメージできるはずです。
さらに、海洋生物では、陸上生物には稀な現象が多く見られます。自然に生
じる「性の揺らぎ」や「クローン発生」、「ゲノムの変異」がその典型的な例で
す。これらの事例は、海洋生物では遺伝的な機能制御が柔軟であることを示し
ています。我々人類(哺乳類)の場合、性の決定に関る遺伝子は Y 染色体に乗
っかっており、男性(雄)はこの Y 染色体と X 染色体を一つずつ持つのに対し
て(XY)、女性(雌)は X 染色体のみをもちます(XX)。従って、男性になる
か、女性になるかは、卵が Y 精子で受精されるか、X 精子で受精されるかで決
まります。そして、一度、男性、あるいは女性に生まれれば、その性は一生変
わることがありません。鳥や一部爬虫類では、卵が Z 染色体をもつか、W 染色
体をもつかで、性が決定されます(ZW 雌―ZZ 雄システム)。ところが、魚類を
見わたすと、このような遺伝的なシステムがしっかりしているもの(サケ・マ
スは XX―XY 型、チョウザメは ZW―ZZ 型と推定される)の他、稚魚のときの
環境水温や、年齢、あるいは、社会関係で性が決まるものがあり、その「ゆら
ぎ」は多様です。たとえば、ヒラメやマツカワガレイは子供の時の高水温で、
本来の雌が雄に性転換してしまいます。また、クロダイは、若いときは雄です
が、加齢により雌になります。さらに、ベラの一種でハーレムを作るものは、
最も大型個体が雄となり、ハーレムに君臨しますが、その個体が死亡すると、
雌のうち大型のものが雄となります。これは社会関係で性が決定する例です。
生殖を見るとさらに奇天烈なことがあります。ヒトや他の哺乳類のように男
性(雄)と女性(雌)がある世界から見ると、理解しがたいのですが、
「お父さ
ん」のいない魚がいます。その一例を挙げると、ドジョウです。北海道の網走
地方のドジョウには、普通にお母さんとお父さんがいて、卵と精子の受精によ
り繁殖するもの(両性生殖といいます)の他、お母さんの産む卵は、お母さん
の遺伝的コピーで、しかも、この卵はお父さんの遺伝的関与なく発生します(お
父さんドジョウは自分の遺伝子を子供に伝えられません)。従って、このドジョ
ウの親子、兄弟(正確には姉妹)は遺伝的に同一の「クローン」となります。
北海道のドジョウは相当量が東京に送られ、料理(柳川鍋など)に使われてい
るようですが、ひょっとするとお客さんは知らずにクローン魚を食べているこ
とになります。もちろん、このクローンは「羊のドリーちゃん」を作った技術
とは全く異なるメカニズムで生まれている自然食資源ですが、クローンである
ことは間違いありません。実は、このような魚は、他にも知られており、有名
なのは「ギンブナ」です。
ところで、我々の体の設計図を「ゲノム」といいますが、卵を通じて 1 組が
母親から、精子を通じて 1 組が父親から、子供に伝達されます。従って、子供
は、2 組のゲノムを持つことになり、このことにより多様性が作られていきます。
このように、我々は 2 組のゲノムを持つことになり、このような生物を「二倍
体」といいます。ところが、水に棲む生物には、このゲノムを 3 組も、4 組も持
つものがおり、前者を「三倍体」、後者を「四倍体」、このようなもの全体をひ
っくるめて、
「倍数体」といいます。先ほどの自然クローンドジョウでは、多く
の場合、父親からの精子の遺伝的関与なくクローンとして発生しますが、たま
に精子を受け取る卵があります。このとき、ドジョウは三倍体となります。他
の地方の三倍体のドジョウの中には、三倍体の卵を産むものがいますので、そ
の子孫には四倍体が生じる可能性があります。さらに、二倍体と三倍体の細胞
を両方持つ個体(モザイク)が出現することもあります。このことは、ゲノム
の変異が自然に起こっていることを示します。
以上は、動物のお話ですが、植物(海藻)にもこのような特殊な生命現象が
見られます。例えば、海苔では受精により繁殖する生活環(ライフサイクル)
のほかに、クローンとして繁殖する副生活環を有します。海藻では、様々な面
で、さらに未知の領域が広がっています。水生生物における特殊な生命機能の
例示にはきりがありませんが、ここで大事なことは、このような特異な現象に
真剣に学び、それらが生じるメカニズムを細胞、分子のレベルで解明すること。
そして、その原理・原則を生物生産(水産増養殖、栽培漁業など)の様々な場
面に応用し、革新的な食糧生産技術を創出することにより、人類社会に貢献す
ることです。本 21 世紀 COE 拠点は、このような海洋生物の特異な生命現象に
学び、それらを原理・原則とした、新しい食資源生産技術を創成する点に特徴
があります。
研究プロジェクトの特色と方向性
自然の海洋生命機能を引き出し、さらにその機構解析を通じて得た法則性を
生物生産に活用することが本拠点の一つの理念です。このような方向の海洋生
命科学の研究を行なえば、養殖魚の性を望む方向(雌あるいは雄)のみにした
り、品質の均一なクローン種苗を作ったり、親を使わずに試験管の中だけで培
養した配偶子(卵・精子)や胞子で子孫を作ったり、また、人工的に生産する
ことが困難なウナギのような魚の卵を別の繁殖させやすい養殖魚に産ませる借
り腹養殖などの革新的技術体系を開発することができると確信しています。こ
のような方向性を目指す一連の研究が「海洋生命統御プロジェクト」です。
しかし、いくら革新的な技術であっても、食資源としての安全性に問題があ
ったり、消費者に不安感を与えたり、生産を行なう環境に著しい負荷をかける
ものであってはなりません。食の安全・安心の多角的保障のためには、生産さ
れる生物の病原性、毒性、その生物が環境に与えるインパクトを含めて様々な
観点から評価する必要があります。さらに、その生物の持っている機能性を最
大限に引き出し、利用することが重要です。例えば、養殖魚の病気の原因解明
やその予防のためのワクチン研究、いわゆる環境ホルモンや海中の汚染物質(有
毒物質、発ガン物質など)の研究、DNA を指標としたサケの回遊や遺伝資源と
しての水産生物の研究、海藻中の抗がん・抗肥満などの機能性物質の研究、さ
らに、漁獲から流通までの全過程の衛生管理に関する研究は、一見相互に関連
がないようですが、これらを有機的に重層化することにより、食資源の安全・
安心を多角的に保障するシステムの構築が実現します。このような方向性の研
究を進めるのが「食糧安全保障プロジェクト」です。
次世代への使命:若手・女性研究者支援プログラム
学際性と創造性、国際性に富む、若手研究者の養成をどのように行なうかと
いうことが、次世代の水産科学・海洋生命科学の発展に必須の要素です。また、
本分野では歴史的な経緯もあって、女性研究者が少ないことから、その養成に
真剣に取り組む必要があります。
そこで、本 COE 事業では、公募・審査により博士の学位を有する若手研究者
を学術研究員(PD)として採用し、将来の研究指導者としての育成を目的に、
事業推進担当者の指導の下に先端的研究に従事させています。昨年度は 11 名(男
性 7 名、女性 4 名、うち外国人 1 名)を採用し、うち 1 名が今年度国立大学助教
授に採用されました。また、同様に公募・審査により、博士後期課程大学院生
から 8 名(男性 4 名うち外国人 1 名、女性 4 名)をリサーチアシスタント(RA)
として採用し、博士論文作成に関連する本 COE プロジェクトの研究を行わせて
います。昨年度採用者からは、地方自治体の研究職員、私立大学講師が誕生し
ました。
さらに、今年度推進担当者のなかの、気鋭の女性研究者(教授・助教授)と若手
研究者(助手)の主導による「若手・女性研究者支援プログラム」を立ち上げました。
このプログラムでは、競争的な研究助成制度を整備し、公募・審査の結果、研
究資金を PD、RA に与えることにより、独立的かつ創造的な研究を企画・実施
する能力を磨かせました。また、PD、RA、大学院生を国際学会(国内外)に積極
的に派遣し、国際的な環境の中で発表・論議の経験を積ませました。本拠点が
主催した国際シンポジウムでは、PD、RA はもちろん、関連大学院生にも広く
積極的発表を呼びかけ、これらの中から特に優秀な研究成果を選考・表彰し、
若手の研究意欲の一層の向上をはかりました。同時に、海外より招へいした研
究者、事業推進担当者による高度な授業(定例 COE セミナー、特別セミナー)を
実施し、大学院教育の向上をはかりました。本年度からは、これらのセミナー
等が分野横断型の科目として広く大学院生に開講されています。
教育計画と新時代の大学院再編成
本 21 世紀 COE の教育理念は、「海洋生命統御を応用した食糧生産技術開発を
通じて『次世代の食糧科学体系』を担いうる学際的かつ国際的研究能力を身に
つけた高度専門家の養成」を掲げています。ここで目指す人材は、技術を開発す
る高度専門家であるばかりか、生命現象を解明する点でも専門家である必要が
あります。また、フロンティア精神を備えた起業家のセンスを持ちつつ、協調
性と独創性に富む研究者の顔を持つことが求められます。そして、国際舞台で
リーダーシップを発揮できるオピニオンリーダーでなければなりません。そこ
で、このような理想の人材の育成を目指して、本拠点では次のような教育改善
計画が立案され、それぞれ実行されています。
(1)本拠点活動と一体化した大学院カリキュラムの創成
大学院教育の改善のためには、本拠点活動と一体化した大学院カリキュラム
の創成が重要です。北海道大学では、かねてより学院・研究院構想が練られて
おり、これにより機動的な研究組織による新規課題への即応、柔軟な教育組織
による大学院教育の向上、さらに大学院教育における責任の明確化を構想して
きました。そこで、本拠点活動をこの構想に対応させ、大学院研究科を研究院(研
究組織)と学院(教育組織)に再編し,時代に即応し,かつ自律的にその変化に合わ
せて研究・教育を実施するシステムとすることを目指しました。その結果、全
学のトップをきって、平成 17 年 4 月 1 日から、海洋生物資源科学部門と海洋応
用生命科学の 2 部門からなる「水産科学研究院」、海洋生物資源科学専攻と海洋
応用生命科学の 2 専攻からなる「水産科学院」として、新たな大学院の体制を整
備するにいたりました。この改組により海洋生命統御とそれを基盤とする食糧
生産革新に関する研究・教育を充実させるための分野(講座)再編が図られ、「海
洋応用生命科学」部門(専攻)を 5 基幹分野(講座)である「増殖生物学」、
「育
種生物学」、「海洋生物工学」、「生物資源化学」、「生物資源利用学」の 5 基幹講
座と新たに設置した 1 時限(任期制)分野(講座)「安全管理生命科学」により
構成しました。時限分野(講座)では、時代に応じた研究・教育を推進するこ
とになります。この体制により、平成 17 年度からは COE 関連のセミナー、特
別講演会等を包含した「分野(講座)横断型特論」が科目として開講され、新
たな大学院カリキュラムが創成されました。現在、学部においても、大学院組
織に対応させ、その学科内容の一層の複合化と重層化を実現するため、学科再
編成を企画しています。目下のところ、平成 18 年 4 月より、「海洋生物科学」、
「海洋資源科学」、「増殖生命科学」、「生命資源化学」の 4 学科に改組の予定で
す。
(2)国内外第一線研究者との積極交流
平成 16 年度では、大学院教育の充実のため、定期的な COE セミナー(5 回)
と外国人招へい研究者による特別セミナー(2 回)を実施しました。これらのセ
ミナーには大学院生を中心に、毎回約 30〜60 名の参加者があり、延べ参加人数
は 300 名を超えました。本セミナーにより、様々な部局の事業推進担当者と外
国人第一線研究者との積極的な交流を実現することができました。このような
定期 COE セミナーならびに特別セミナーは月に一度の定例として、今年度も実
施されています。日本の大学では、国際的雰囲気の中での研究討議というのは
容易なことではありませんが、第一回国際シンポジウム「海洋生命統御の可能
性と方向性」を本年 2 月末に、第二回国際シンポジウム「海洋生物資源の健康
機能性」を 5 月末に、北大遠友学舎と学術交流会館(札幌市)において主催し、
国際ポスターセッションへの PD、RA、大学院生の発表を呼びかけたところ、
多数のポスター発表が集まりました。ポスター発表と討議は、外国人招へい講
演者も参加して、全て英語で行なわれ、大学院生・若手研究者にとっては、大
変貴重かつ重要な経験を得ることができました。研究内容についても、外国人
研究者からは、院生の発表内容から世界水準での高度な大学院教育がなされて
いるとの、賞賛の辞が寄せられました。このような積極交流は、大学院生・若
手研究者を海外学会(Marine Biotechnology Conference、Asian Fisheries
Forum 等)に送り出すことにより、より一層深めることができました。このよ
うな活動も、国際的レベルでの研究を目指す若手研究者にとっては必須の体験
と評価されます。
(3)国際交流の一層の推進
国際交流をさらに進展させるためには、水産科学、海洋生命科学などに関
する世界の中核大学との学術交流協定締結が必要です。既に、大学間あるいは
部局間のレベルで、ハワイ大学、アラスカ大学、釜慶大学、ワシントン大学、
ブリティッシュ・コロンビア大学、大連水産学院等との間で国際交流協定を締
結していますが、
「地球規模での社会システム」である「水産」を適正に運用す
るには、国際的な学術協力のネットワークを形成する必要があります。本拠点
では、海外における推進拠点形成に向けて、山内拠点リーダーほか教授 5 名が、
上海水産大学を訪問し、本年 7 月中旬に開催する北大―上海水産大学間の部局
間国際学術協定の締結ならびに両校学術交流協定の記念シンポジウム(本 COE
拠点主催の第三回国際シンポジウム)開催について打ち合わせを行ないました。
また、今後の研究留学生の派遣と受入についても話し合いがもたれました。
本拠点による国際シンポジウムは既に 2 回実施し、第 3 回は上述の様に中国
上海で、そして第 4 回は、同じ水産・海洋を課題に含む近畿大学と琉球大学の
21 世紀 COE 拠点と共同で、函館市において開催の予定です。この会議では、
国内外より水産・海洋生物の生殖生物学、増殖・養殖学、遺伝資源学、ゲノム
学、魚病学などの領域の第一線研究者を多数招へいし、活発な国際学術交流が
予定されています。このような国際級のイベントは今後も、継続的に実施する
ことが予定されています。
(4)海洋生命ベンチャー育成教育の推進
本拠点では、大学院生や若手研究者が将来、海洋生命ベンチャーを起業しう
るようなセンスと能力を身につけさせることを掲げています。この目的で、第
一回国際シンポジウムと COE 特別セミナーでは、海外養殖ベンチャーの研究者
による、招待講演が実施されました。今後は、マリンバイオテクノロジーをコ
ア技術とした企業による講演、あるいは現場研修などを取り入れた人材育成事
業を進める予定です。
(5)文理融合型倫理教育・知財教育の実践
海洋生命統御技術により生産される生物は、いわゆる遺伝子改変生物(GMO)
とは一線を画すものですが、これらが広く社会に受け入れられ、安心して利用
されるためには、このような研究を指向する若手研究者ならびに大学院生に、
きちんとした生命倫理、環境倫理を教授し、
「地球市民としての高い倫理性」を
涵養することが重要です。その為には、生物多様性保全等に関する国際条約、
海洋政策、バイオ特許・知的所有権などに関する広汎な文理融合型の研究教育
を実践しなければなりません。平成 16 年度は、初年度ということもあり、これ
らが不十分でしたので、今年度以降はこれらの課題に関する国内外の専門家を
招へいし、セミナー、講演などを実施したいと考えています。
情報の公開と発信
本事業には多大な国民の税金が投入されていることから、その成果を広く情
報発信し、皆さんに本 21 世紀 COE 拠点において、「何がおこなわれているの
か?」、それは国民また地域にとって「どのような価値があるのか?」を知って
いただくことも重要な要素です。もちろん、この公開講座もその一環でありま
すが、広報のため出版物も刊行しています。その一つがほぼ三ヶ月毎に出版さ
れる「ニュースレター」であり、高校生から一般市民まで広く知っていただく
ために、トピックスや各種イベントが解説されています(現在 No.3 まで刊行)。
また、本事業の概要を広報する各種「パンフレット」も用意しました。このほ
かに、国際シンポジウムについては、開催前に「要旨アブストラクト集」が刊
行され、開催後には「プロシーディング」が発行されます。また、セミナーに
ついては、年度ごとに要旨や発表スライドなどをまとめた「資料集」が発行さ
れ、研究・教育のマテリアルとしての有効利用が図られています。さらに、市
民フォーラム「海・函館・北海道発、わたしたちの健康と水産物の安全・安心」
が本年 3 月に函館において開催され、多数の市民に本拠点の目指すところを理
解していただけました。今年度末にも同様のイベントを企画しております。ま
た、国内学会等では「展示ブース」を開設し、広く参加研究者・企業人等に本
拠点の存在感をアピールしてきました。
上記の各種出版物を含め、本拠点における様々な活動の情報は全て、ホーム
ページ http://www.fish.hokudai.ac.jp/21coe/index.htm において公開され、誰で
も閲覧できるようになっています。もちろん、本拠点は世界最高水準を目指す
ものですので、広く海外に知っていただくのも重要です。そこで、ホームペー
ジについても、基本の日本語版以外に英語版、韓国語版を開きました。中国語
版もおそらくこの講演のときまでに開かれているものと思います。もちろん、
パンフレットなど一部刊行物については、英語版を作成し、広く海外に広報し
ています。
21 世紀 COE プログラムと地域連携
本拠点における国際連携については既にのべましたが、地域連携も重要な柱
です。この 21COE プログラムの本拠地が、札幌ではなく、函館の水産科学研究
院にあるということは、極めて重要な意味をもっています。本拠点では、この
公開講座でもお話のある「都市エリア産学官連携促進事業」、また、「函館国際
水産海洋都市構想」などと連動して、地域連携ネットワークの形成についても
力をいれ、函館をウッズホールやナポリと並ぶ、国際的な水産・海洋に関する
学術研究拠点都市とすることを目指します。そのためには、本拠点の研究成果
をどのように産業に移転するかについて、知恵を絞る必要があります。函館に、
国、地方自治体、民間企業、第三セクターの研究・調査機関が集まり、そのメ
リットを生かす形で新たな海洋バイオ産業、アクアビジネスが起業・展開され
れば、本事業の目的は完全に達成できることになります。このためには、北大
の研究者のみならず、地域住民各位のご理解とご指導が欠かせません。
なお、水産学と地域連携のあり方については、来たる 9 月 20 日、函館におい
て開催予定の平成 17 年度日本学術会議地域振興・北海道地区フォーラム「海が
ひらく地域振興—水産を核とした産学官連携」においても議論する予定です。
おわりに
函館地域に、世界最高水準の研究教育機関があることは、大きな誇りと考え
られます。大都市を中心とする都会地域では、生産現場からの地理的心理的な
距離が著しく遠いため、
「水産は斜陽産業」、
「魚介類は輸入すればよい」といっ
た、間違った考え方が流布していると聞き及びますが、例えば世界的に見れば
養殖産業は毎年 10%近く生産額の伸びを示す成長産業です。また、水産は地球
規模での食糧活用の重要な社会システムです。国家の生存戦略を考えれば、国
民へのタンパク供給を自給しうることは自明の前提です。従って、日本に生ま
れた「海と人をつなぐ学問である水産学」をさらに発展させ、関連産業の活性
化をはかることが、21 世紀の重要な課題です。このような大きな目的のために、
本 COE 拠点事業が行なわれていることを是非ご理解いただきたいと思います。
最後に我々が少し寂しく思っていることをお話します。実は、国際水準の教
育機関(北大大学院水産科学研究院・大学院水産科学院・水産学部)がありな
がら、道南地域からの本学への進学者は必ずしも多くありません。これは一つ
には、我々の水産科学の魅力や将来性を強くアピールする努力が不足していた
こともありますが、誤解に基づく点も多くあります。ある大手予備校の出版物
の大学ランキングでは、水圏生物学の分野において北大は他を引き離して圧倒
的なトップと評価されています。また、このことは某大手新聞のコラムにも紹
介されました。本学では、最先端の研究が成されており、海洋に棲む多種多様
な生命の分子・細胞の生物学・化学、食品・医薬品開発、海洋環境・生態科学、
情報工学、システム工学から社会科学まで、広範囲の教育メニューが用意され
ています。また、数次にわたる学部・大学院改組により一層効率的な教育を行
うシステムが構築されています。就職先も実例をあげれば、好調であることが
ご理解いただけるはずです。大学の志望について迷っているご子弟、ご親戚を
お持ちの皆さんがいらっしゃれば、是非、ご相談いただきたく存じます。個別
あるいはオープンキャンパス、体験入学などのイベントを通じて、詳しくご説
明したいとおもいます。
本 21 世紀 COE ならびに北大大学院水産科学研究院の活動をより一層活発に
するために、函館・道南域市民の皆様の格段のご協力とご理解が必要となりま
す。是非、今後とも暖かく見守っていただけるよう、お願いいたします。
(追記)本公開講座では各種印刷物の配布が予定されていることから、重複を
避けるため、本テキストでは図・表は省略いたしました。ご容赦ください。