ランドバンク制度におけるバンドリング導入の背景と運用課題に関する一

公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
ランドバンク制度におけるバンドリング導入の背景と運用課題に関する一考察
- 米国オハイオ州、ミシガン州の事例と MCMC を用いた数値シミュレーションに基づき
Background and Difficulty in Dealing with Foreclosed Properties through Bundling by Land Bank
- Based on the Experiences of the States of Michigan and Ohio, and the simulated outcomes by Markov Chain Monte Carlo Methodology
西浦定継*、平 修久**、吉川富夫***
Sadatsugu Nishiura, Nobuhisa Taira, Tomio Yoshikawa
The paper tried to reveal why land banks have been established in the states of Ohio and Michigan, and carried
“bundling” system to deal with foreclosed properties, going through the interviews for professionals and Markov chain
Monte Carlo simulation. Bundling system has positive aspects, in one sense, and negative consequences we must take
in account when foreclosed properties are grouped into bundling. In particular, extremely distressed situation might be
attributable to further agglomeration of the properties and a community of degradation. In order to avoid worse,
consistent efforts with urban planning are crucial and ingredient of reusing the properties for community benefits.
Keywords: Bundling, Land Bank, the state of Ohio, the states of Michigan, MCMC (Markov chain Monte Carlo)
バンドリング、ランドバンク、オハイオ州、ミシガン州、マルコフ連鎖モンテカルロ法
1. はじめに
本論文では、税滞納差押物件を一括して管理するバンド
リング(bundling)制度に着目し、米国において先行して対応
に当たってきているミシンガン州とオハイ州の経験からそ
の導入の背景、経緯、問題点を明らかにしていく。
人口減少・高齢化が進む我国においては、今後、国土管
理という観点から考えて非常に厳しい選択を迫れることに
なるであろう。具体的には、都市部における放棄宅地、地
方における耕作放棄地、放棄森林などが考えられ、その影
響は社会、経済、自然環境など様々な分野に及ぶことが予
想される。欧米諸国では、都市の人口減少を経験し、既に
都市部における空き家及び放棄地対策に取組んでいるとこ
ろもある。本研究が対象とする米国のミシガン州、オハイ
オ州でも産業構造の転換に伴い 1970 年代から都市人口の
減少を経験しているところもあり、空き家、放棄地対策に
長年の蓄積がある。その対策の一つとしてランドバンク
(Land Bank : LB)制度が導入されてきており、固定資産税の
滞納物件や放棄された所有者不明の物件などの所有権を
LB に移管し、
それらを管理することにより都市の社会的、
経済的な負の影響を緩和する役割を担ってきている。
ミシンガン州の Genesee County Land Bank(以下 GCLB)と
オハイ州のCuyahoga County Land Reutilization Corporation(以
下 CCLRC)は、その中でも先行的に取り組んでいる組織で
あり、藤井(2013, 2014)に設立の経緯、税滞納差押物件の処
置の仕組み、
再活用の課題などが詳細にまとめられている。
その中で、本研究が着目するバンドリングについても、藤
井(2013)の中で GCLB の取組みが考察されている。バンド
リングとは、複数の税滞納差押物件を競売にかける前に一
括して管理する仕組みであり、一団の固まりとして取扱う
制度である。この目的は、投機筋の介入を防ぐことと、一
団となった物件を長期的観点からコミュニティー全体の福
祉の向上に資するように活用することである。ただし、た
だ単に物件をバンドリングに入れて済むという話ではなく、
対象となる条件が設定されていると同時に(1)、入れた後の
処置方法如何によっては負の効果が発生すると考えられる。
本研究では、この点に着目し、本論文の後半部分において
数値シミュレーションにより評価、考察を行なう。本論の
前半では、ミシガン州、オハイオ州において、ランドバン
ク制度の導入やバンドリングを運用するに至った経緯を整
理し、後半のバンドリングの課題につなげていく。
米国のランドバンクに関する研究はこれまで多くの蓄積
がある。日本では先の藤井(2013,1014)に加えて、清水
(2012,2014)が地域改善の支援組織として活動する非営利組
織、特に Community Development Corporation(以下に CDC)
という組織に着目して空き家・空き地の活用方法を研究し
た論文がある。米国では、Alexander(2011)が全米を対象に州
法としてランドバンク制度を導入している州について導入
の背景、制度の仕組みについて整理している。Dewar(2013)
では、地域産業の衰退、人口流失により放棄された都市を
対象に CDC など市民セクターを中心に再生に取組む事例
報告をまとめている。また、Mallach(2013)では、そのよう
な放棄された都市を legacy city と称し、都市再生の種とな
る多くの資産が残されているとしてその活用による再生方
法を論じている。Whitaker(2012)では、ランドバンク制度の
効果について CCLRC のデータを用いてヘドニック法によ
り分析している。評価としては、ランドバンクが取得した
物件の周囲 500ft 内の物件の価格がそれ以遠より 5%ほど
高く取り引きされ、更にランドバンクにより取り壊れ、売
却されると近隣の物件より 9%ほど高くなることが示され
ている。この分析結果は、ランドバンク制度の有用性を示
*正会員:明星大学理工学部総合理工学科環境・生態学系(Meisei Univ.)
*正会員:聖学院大学政治経済学部政治経済学科(Seigakuin Univ.)
*正会員:大阪経済大学経済学部(Osaka Univ. of Economics)
- 45 -
公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
得した事業者と払戻計画を運用することを通じて、税滞
納差押物件手続きに入る時間的余裕を得られること、2)
民間事業者にとっては、税滞納額に利子を上乗せした分
割払いを所有者に課す事により利益を得られることが
ある 13)。当然ながら、分割払い期間中の物件の管理運営
は民間事業者が係わることとなる。つまり、放っておけ
ば税滞納差押物件手続きに入る物件管理に民間のノウ
ハウを活用することを期待した制度である。ただ、この
制度の運用には条件が盛り込まれており、当該物件の不
動産価値が払戻計画に盛り込まれたトータルの払戻額
を下回った場合には、裁判所等(6)が全ての条件付売却決
定書の無効を決定する。これがこの制度の運用を難しく
している要因との批判がある 13)。つまり、条件付売却決
定書を取得し、所有者と民間事業者との間で払戻計画が
策定され、それに基づいて先取特権が行使される分には
問題ないが、現実的に考えてこの条件付売却決定書の受
渡しが行なわれた物件の不動産価値は下落する傾向に
あり、結果として無効が宣言されて元の状態に戻ってし
まい、税滞納差押物件となってしまうことである 13)。民
間事業者としては、その無効宣言までの間に利益を取得
できればいいわけであり、おのずと払戻期間中の管理運
営にも支障をきたすことが十分予想される。加えて面倒
なことは、当該物件の管理運営が不十分なまま払戻計画
2. オハイオ州
期間中に放置されることにより、その周辺物件にも負の
1998 年に Tax Certificate Statute(House Bill 371、 効果が及び広い範囲で不動産価値の更なる下落、税滞納
以下 HB371)が制定された。これは、人口 20 万人以上 差押物件の増加につながることである。このように、民
の都市に限って条件付売却決定書(tax certificate)(3)を民 間事業者が投機目的で条件付売却決定書を取得するこ
間事業者に売却できるとするものである。意図するとこ とが指摘されている 13)。
公立学校区の財政難を解決する短期的目的で条件付
ろは、地価および不動産価格の下落により不動産税収入
が下がり、主として不動産税でまかなわれている公立学 売却決定書を売却してきたが、かえって不動産価値の下
校区(school district)の財政状況を改善するというもの 落を招き、税滞納差押物件の増加につながってきた。こ
である。この HB371 の手続きを経ることにより、数年 のような問題を抜本的に解決すべく導入されたのがラ
かかった譲渡抵当実行手続(Foreclosure)(4)を 1 年程で完 ンドバンク制度である。詳しい制度の仕組みは藤井
了することができ、空き家処分の法的手続きが迅速に進 (2014)に譲るが、このランドバンクが郡政府の制度であ
むことが期待された 13)。しかし、結果としては、更に空 るバンドリングを運用するにより投機筋の介入を防ぎ、
き家が増加することになった。以下にその詳細を説明す 空き家・空き地を地域コミュニティーの福祉の向上に役
る。
立てようとするものである。しかし、バンドリングに入
通常、税滞納物件は郡の財務当局により競売手続きが れた後の管理運営がポイントであり、都市計画行政と連
進められ、民間事業者との協議により処分される。売却 携して取組んでいくことが求められる。土地利用計画、
価格は、税滞納額、時価評価額、滞納に係わるペナルテ 地域のまちづくり方針、再活用のための都市基盤整備と
ィ、
当該物件が抱えるローン支払いの利子などとなる 13)。 の連携がないままバンドリング入れた状態にしておけ
協議の場合は、それに協議に係わる法的手続き諸費用 ば、先の条件付売却決定書の売却に係わる諸問題と同じ
(弁護士費用など)が加算される 13)。この制度を通じて、 ようなことになりかねない。これについては次節のミシ
条件付売却決定書を取得する利点としては、当該物件に ガン州の事例でも指摘する。
係わる債権の弁済のための物的担保の先取特権(lien)(5)
が最優先で得られることがある。条件付売却決定書の取 3. ミシガン州
得手続き後、民間事業者は 1 ヶ月の間に抵当物件の払戻
1999 年 に Public Act 123, 132, 133( 以 下
計画(redemption payment plan)を作成することになる。 PA123,PA132,PA133 )が制定された。これは、オハイオ
この払戻計画を作成することのメリットとしては、1)当 州同様、不動産所有に係わる権利関係をクリアーにして
該物件の売主(所有者)にとっては条件付売却決定書を取 譲渡抵当実行手続(Foreclosure)を早めること、投機筋の
す一つのエビデンスであるが、都市計画制度との係わりと
いう観点についても、ランドバンク制度の評価をする際に
欠かせない点ではなかろうか。ランドバンクそのものは、
税滞納物件に係わる権利関係をクリアーにし、所有権をそ
の管理下におく仕組みであるが、再活用により再度不動産
市場に戻しコミュニティーの福祉の向上に役立たせるため
には都市計画サイドとの連携が不可避であろう。HUD
(2009)などは、その観点も含めて処方箋を論じている。
LaCroix (2010)は都市内緑地として活用を、Laura(2009)では
低所得者層への賃貸住宅としての活用を論じている。いず
れにしても取得後の管理活用まで含めて包括的なアプロー
チが必要であり、そこには都市計画の連携が重要であり、
本論の後半部分で数値シミュレーションによりその必要性
を論じる。
本論の構成と手法は以下のとおりである:1)ミシガン、
オハイオを対象としてランドバンク、バンドリング制度導
入の経緯を文献調査およびヒアリング調査(2)に基づき整理
する、2)数値シミュレーション手法として MCMC(Markov
chain Monte Carlo)ギブスサンプラー手法を用いてバンドリ
ングの負の効果について考察し、都市計画との連携が不可
避であることを強調する。シミュレーションでは R を用い
た。
- 46 -
公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
介入を防ぐことが主たる狙いである。特に、税滞納で放
棄された物件の所有者確認手続きが混乱しており、それ
にかかる諸費用も増大していた。以前の制度である The
General Property Tax Act of 1893 (以下 GPTA)の問題
点として、1)公共が当該物件の所有権を取り上げるには、
その手続き(旧所有者への確認)に 7 から 8 年かかったこ
とや、2)一旦取得した公共用地としてこれを再利用目的
で適正な価格(当該物件の利用価値)で民間に売却するこ
とは禁じられていたこと、などがあった 14)。特に 1)に
ついては、PA123、PA132 によって、3 年未満に短縮さ
れることとなった。これは物的確認手続きの簡素化や、
所有者の確認や告知の手続き期間を 8 ヶ月に短縮した
ことがある。この所有者へのアプローチについては民間
コンサルタントへの依頼することも可能となり、迅速化
がはかられたことが効いている。
一方で、PA 全般に係わる課題もあり、1)空き家・空き
地の物件情報を一括して管理するデータベースの構築
が求められること、2)課税システムの簡素化が必要なこ
と、3)投機筋の介入を防ぐこと、などがある。特に 3)に
ついては、通常年 2 回の競売(auction、7 月の第 3 火曜
と 11 月の第 1 火曜)が行なわれるが、11 月の第 2 回目
の際には投機筋が介入して問題視されていた 14)。7 月の
1 回目の時には売却予定価格として、滞納税額と行政手
続きに係わる諸費を合わせた額が設定されるが、11 月
の 2 回目の時には最低価格が設定されず、行政手続きに
係わる諸費のみであることが大きな要因とされている。
その後、
PA123 が Land Bank First Track Act of 2004
へとつながり、州内において各郡内にランドバンクが設
立されることとなった。このランドバンクの権限の中に
バンドリングがあり、郡の財務担当官と協議の上である
一定量の税滞納差押物件を一団の固まりとして管理で
きるような仕組みが整っている 14)。これにより、投機筋
の介入を防ぐことが可能となる。藤井(2013)で述べられ
ているように、バンドリングに入れる対象としては 8 つ
の基準があるが、最も多いのが単なる空き地となってい
る物件、建物解体を行なう必要のある物件、居住者が現
にいる物件である。特に GCLB では積極的に活用して
おり、その効果も現れている(7)。しかし、バンドリング
に入れた物件が再活用に成功するかの条件は、都市計画
行政との連携が重要と思われる。GCLB の場合は、ジェ
ネシー郡(Genesee)ではなくフリント市(Flint)の都市計
画部局と協議し、バンドリング物件の戦略的な活用を、
フリント市の都市計画、特に土地利用計画やゾーニング
システムと連動させ、計画的な建物の解体、周辺インフ
ラの整備などに取組んでいる(7)。つまり、バンドリング
の効率的な運用には行政との連携がポイントと言える。
4. バンドリングの一課題
4.1 バンドリングの賛否
バンドリングの目的は主として以下の 2 つに絞られる:
1)投機筋の介入を防ぐ、2)まとまった土地として戦略的活
用に資する。1)についてはオハイオ、ミシガンともにラン
ドバンク設立の背景ともなっている。ミシガンの場合、最
初に郡の財務部局とランドバンクが協議し、バンドリング
に入れるか否かを判断する(8)。もし何らかの改修措置を施
した上で市場で売却できると判断した場合は、ランドバン
クが取得するが、バンドリングに入れて一括管理する必要
があると判断した場合はバンドリングに入れる(8)。それ以
外は2回の競売にかけて2回とも売却が成立しない場合は、
州、郡、またはランドバンクのいずれかが管理することに
なる。これ時点でもランドバンクの管理となった場合はバ
ンドリングに入れることとなる。2)については、バンドリ
ングに入れた上でどのようにコミュニティーの福祉の向上
に活用していくかという判断に係わり、例えば低所得者へ
の住宅提供、地域の市民農園、コミュニティーカレッジの
設立、防災関連施設などに活用される場合がある(9)。しかし
先に述べたように、このためには都市計画行政との連携が
ポイントなる(9)。どの地区のバンドリング物件から解体な
どの処置を施し、活用していくかの優先順位に関わること
であり、周辺土地利用や都市インフラ整備との調整のうえ
で活用を図る必要がある。この観点では、GCLB とフリン
ト市の事例が比較的機能していると考える。不良物件を、
一旦、不動産市場から取り除き、それを修復してサイド市
場に戻し税収を生むような物件にすることや、公的土地利
用として活用することが行なわれている(9)。
しかし、このような連携が無い場合はどうなるであろう
か?単に機械的にバンドリングに入れて放置しておけば、
その周辺地域の居住環境の悪化を招くと共に、比較的健全
な不動産への波及も懸念され、結果として益々地域全体が
荒廃していくことが考えられる。バンドリングに対する批
判として、
近隣住民が空き家・空き地物件を購入する機会を
最初から制限してしまうことや、不動産市場への健全な投
資機会を奪ってしまうことが言われている(9)。つまり、バン
ドリングに入れることは、先の 1)、2)の目的からは理解で
きるが、都市計画行政との連携が保たれ、長期的な活用戦
略がないと、逆に負の効果をもたらしてしますのではない
だろうか?次節では、この負の効果の発生確率について試
算してみる。
4.2 バンドリングの負の効果の試算
本節ではバンドリングの負の効果の発生確率について考
察する。用いる手法は MCMC(Markov chain Monte Carlo、以
下 MCMC)ギブスサンプラー手法である。MCMC にはいつ
かの手法があるが、ギブスサンプラーのメリットは、複雑
な問題を、より簡単な複数の問題、例えば低次元の目標分
布の系列に分割してシミュレーションできることである 15)。
以下では、Robert (2010)を参考にモデルを構築した。
1 表 1 に今回のシミュレーションで用いる 4 つの設定(単
位としては、都市、地域、地区などを想定)を示す。表の数
字は、各設定内において、税滞納差押物件(以下、差押物件)
5
- 47 -
公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
この尤度関数のもとで、本論では更に全体の 2 割、すな
わち追加を 20 として 5 件以上の固まりとなるベクトル(z1,
z2, z3,…. z20)について完全条件分布より補完ギブスサンプラ
ーを導く。
表 1 シミュレーションに用いた 4 つの設定条件
*
x0
A
80
B
50
C
40
D
20
x1
10
30
15
20
x2
5
15
15
40
x3
3
3
15
10
x4
2
2
15
10
∼
Ӏ
の状況の数を示す。X0 は健全な状態の物件、X1 は 1 件の差
押物件が独立して立地している状態、X2 は 2 件の差押物件
が隣り合って立地している状態、X3 は 3 件が固まって立地
している状態、X4 は 4 件が固まっている状態を意味する。
Whitaker (2012)で示されたように、
差押物件は連鎖的に周辺
物件に正負の効果をもたらす。本想定では、負の効果が連
鎖的、集約的に発生する状態を想定している。A、B、C、
D ともに X0 から X4の数字を足して 100 になるように設
定してあり、言い換えれば全体を 100%とした場合の割合
と考えてもよい。A は全体の 8 割が健全な状態で、4 件の
固まりはわずか 2%程度である。一方で D の場合は全体の
6 割が 2 件以上の固まりとなっており、3 件、4 件であわせ
て 2 割を設定してある。つまり、A から D に移行するに従
って差押物件が固まりとなって存在しており、それぞれの
設定において、後にバンドリングという大きな固まりの枠
に入れ、戦略的かつ積極的な手当て無しの場合、周辺への
影響により今後どのように物件の固まりが発生していくか
試算してみる。A から D の間にもいつかの設定パターンが
考えられるが、今回は極端な例として A から D の4つで
試算してみた。最初に表 1 の各設定でポアソン分布のパラ
メータλを試算し、追加で 20 件が加わった場合、4 件以上
つまり更に悪化して 5 件、6 件、7 件、8 件と固まりとなる
状態の発生確率を試算してみる。シミュレーション回数は
5000 回として行なった。
分析モデルの尤度関数としてポアソン分布を仮定し以下
を設定する。
,
,
…
∾
∑
∙
∑
∙
1
・・・・(2)
:i(1,2,…20)の各事象の t 時点での発生確率
x の下付数字は差押物件の固まり数。A から D のそれぞ
れの値は合計が 100 となるようにしてある。
λ
1,2,3, … .20
Ӏ
∑
!
・・・・(1)
L:尤度関数
λ:ポアソン分布のパラメータ値
xi:各設定におけるそれぞれの差押物件の固まりの数
(表 1 参照)
Si:差押物件の固まりの数(0,1,2,….10))
:5 以上となる条件。乱数を発生させて条件設定に
より 5 以上となる場合は 1 とする
∼
∑
∑
, 120
・・・・(3)
g:ガンマ分布
xj, Sj:先の xi、Si と同意
zi:5 件以上の固まりとなるベクトル
図 1 ポアソン分布のパラメータλの収束
図 1 にシミュレーションによるポアソン分布のパラメー
タλの収束状態を示す。A、B、C、D 共に収束しているこ
とがわかる。この収束した個々のλを用いて設定毎に 5 か
ら 10 件の固まりとなる発生確率を示したのが表 2 である。
表 3 では、比較的健全な状態にある A に対する B、C、D
の比も示してある。5 件、6 件、7 件については、B/A、C/A、
D/A はあまり A の状態と変わりないが、8 件、9 件、10 件
になると劇的にその発生確率の比が上昇する。例えば、8 件
では B/A に比べて D/A が 2.5 倍、10 件に至っては 6 倍に
跳ね上がっている。こうなると、複数のブロック全体が滞
納物件の空き家、空き地で埋まっている状態であり、D の
ような状況において差押物件に対する具体的、計画的な対
- 48 -
公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
λ
x5
表 2 5 から 10 件の発生確率
A
B
C
1.247
1.597
2.252
0.363
0.332
0.249
D
2.439
0.226
x6
0.214
0.253
0.269
0.264
x7
0.084
0.129
0.194
0.206
x8
0.025
0.049
0.105
0.120
x9
0.006
0.015
0.045
0.056
x10
0.001
0.004
0.016
0.022
ーションによれば既に差押物件が固まりとなっている状態
で更にバンドリングに入れていった場合、状況が更に悪化
する確率は高くなる。
今後の研究課題としては、バンドリング物件をどのよう
な優先順位と事業手段によって再生し不動産市場に戻して
いくかという出口戦略を詰めることである。どのような条
件が整えば、再度、税収を生む物件となるかを検討するこ
とであろう。その際、都市計画行政との連携がポイントで
あり、連携のあり方も出口戦略に大きく影響してくる。
【謝辞】
本論文は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C)
26420626)を受けて実施した調査研究の一部である。
表 3 表 2 の計算結果に基づく A に対する比較
B/A
0.915
C/A
0.686
D/A
0.622
【補注】
x5
(1) 藤井(2013)に示されている。
(2)
インタビュー先は以下のとおりである:①
x6
1.184
1.258
1.234
Genesee County Land Bank: Christina Kelly,
x7
1.532
2.307
2.447
Douglas Weiland、②City of Flint: Kevin
Schronce, Vincent Slocum、③Genesee County
x8
1.982
4.230
4.852
Metropolitan Planning Commission: Chrisitne
x9
2.565
7.757
9.621
Durgan, Shela Taylor、④Detroit Land Bank
x10
3.319
14.222
19.077
Authority: Richard Wiener、⑤Ingham County
Land Bank: Jeff Burdick、⑥Michigan Land
Bank Fast Track Authority: Jeff Huntington,
処方法が曖昧な状態で次々とバンドリングに入れた場合、
Shellene Petrowski、⑦Mahoning County Land
その影響は深刻な状況になることを示している。連鎖的に
Reutilization Corporation (Youngstown): Debora
Flora、⑧Cuyahoga County Land Reutilization
悪影響が広がり地区全体が荒廃する状況につながる。
上記のことを踏まえて考えておくべきことは 2 点に絞ら
Corporation: William Whitney、⑨City of
れる。一つは、A から D に移行しないように A の状態で発
Dayton, Nuisance Abatement Specialist: Dennis
Zimmer、⑩City of Dayton, Planning and
生した差押物件については、
迅速に先手を打つべきである。
安易にバンドリングの固まりの中へ放り込むことは避ける
Community Development: John Carter, Paula
Powers, Turner-Sloss, Shenise、⑪Montgomery
べきである。二つ目は、バンドリングの中の物件の活用に
関する出口戦略なるものを詰めておくべきである。バンド
County Land Reutilization Corporation: Mike
リングの目的である投機筋への対応や長期的視点での活用
Grauwelman、⑫Hamilton County Land
は理解できるが、長期間に渡って放置しておくことの負の
Reutilization Corporation , General Counsel/VP影響はシミュレーション結果より明らかである。コミュニ
Port of Greater Cincinnati/management
ティー全体の福祉の向上につながる各種利用に向けた活用
company of HCLRC: Paula Boggs Muething、⑬
戦略が必要であり、そのためには当該自治体の都市計画行
Federal Reserve Bank of Cleveland: Thomas J.
Fitzpatrick, Lisa Nelson, Stephan Whitaker、⑭
政との連携が不可欠である。
Lucas County Land Reutilization
5. まとめ
Corporation:David Mann, Cynthia Geronimo,
本論文の目的は、税滞納差押物件を一括して管理するバ
Joshua Murnen
ンドリング(bundling)制度に着目し、ミシンガン州とオハイ (3) Tax sale (換価処分)において滞納者の財産を買
い受けた者に対し、税務当局が発行する決定書の
州の経験からその導入の背景、経緯、問題点を明らかにす
ことであり、 一定期間内に滞納者が受戻しを行わ
ることであった。得られた知見は以下の 3 点にまとめられ
る:1)両州とも投機筋の介入を回避する手段の一つとして
ないことを条件として、その財産は買い受けた者
1
の所有となることが記載されている。
(財団法人東
バンドリングを運用している、2)しかし運用には批判もあ
京大学出版会 英米法辞典より)
り、近隣住民による活用機会、不動産投資、都市計画との
連携などが指摘されている、3)MCMC による数値シミュレ (4) 抵当物を完全に抵当権者のものとすることまたは
5
- 49 -
公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.14, 2015 年 5 月
Reports of the City Planning Institute of Japan, No.14, May, 2015
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
そのための裁判手続を意味する。
(財団法人東京大
学出版会 英米法辞典より)
債務の履行、債権の弁済のための物的担保を取得
する権利。
(財団法人東京大学出版会 英米法辞典
より)
Board of Revision も判断を下すケースもある。
フリント市の都市計画部局へのヒアリング結果よ
り。
Genesee County LB、Ingham County LB、
Detroit LB、Michigan LB Fast Track Authority
へのヒアリング結果より。
Michigan LB Fast Track Authority の Shellene
Petrowski へのインタビュー結果より。
【参考文献】
1) 藤井康幸、他(2013)、
「米国ミシガン州ジェネシー
郡におけるランドバンクの担う差押不動産、空き
、日本都市計画学会都市計
家・空き地対策の研究」
2)
画論文集、Vol.48, No 3, pp.993-998
「米国オハイ州クリーブラン
藤井康幸、他(2014)、
10) The United States Department of Housing and
Urban Development (HUD) (2009), Revitalizing
Foreclosed Properties with Land Bank,
U.S.D.H.U.D: Washington D.C.
11) LaCroix, Catherine(2010), Urban Agriculture
and other Green Uses: the Shrinking City, Urban
Lawyer Spring 2010: the American Bar
Association
12) Schwarz, Laura(2009), The Neighborhood
Stabilization Program: Land Banking and
Rental Housing as Opportunities for Innovation,
Journal of Affordable Housing and Community
Development Law: the American Bar
Association
13) Rittenhouse, Charles D(2011), The True Costs of
Not Paying Your Property Taxes in Ohio,
University of Dayton Law Review Winter 2011:
Dayton, OH
14) Gunton, Thomas(2007), Coping With The
Specter of Urban Malaise in A Postmodern
Landscape: The Meed For A Detroit Land Bank
Authority, University of Detroit Mercy Law
ドにおける二層制のランドバンクの担う差押不動
、日本都市計画学会
産、空き家・空き地対策の研究」
3)
都市計画論文集、Vol.49, No 1, pp.101-112
「ランドバンクを活用した都
前根美穂 , 他(2010)、
市政策に関する研究 : アメリカ ジェネシー郡を
、日本建築学会建築学会学術講演梗概
対象として」
4)
集. F-1, 都市計画, 建築経済・住宅問題、pp. 123124
清水陽子、他(2012)、
「アメリカ Land Bank の取
組と滞納空家物件の活用:ミシガン州・オハイオ州
の事例」
、日本建築学会技術報告集 18(40)、10515)
Review Summer 2007: Detroit, MI
15) Robert, Christian, George Casella (2010),
Introducing Monte Carlo Methods with R,
Springer Science + Business Media: New York,
pp.199-236 (邦訳は「R によるモンテカルロ法入
門」(丸善出版))
16) Gelman, Andrew(2004), Bayesian Data Analysis,
Chapman & Hall/CRC
1056
清水 陽子 , 他(2014)、
「アメリカの人口減少都市
における非営利組織 CDC の地域改善活動とその
役割:ミシガン州フリント市 Salem Housing を事
例として」、日本都市計画学会都市計画論文集
6)
7)
8)
9)
49(3), pp.777-782
Alexander, Frank S(2011), Land Banks and Land
Banking、Center for Community Progress: Flint,
MI
Dewar, Margaret, June Manning Thomas(2013),
The City after Abandonment, University of
Pennsylvania Press: Philadelphia, PA
Mallach, Alan, Lavea Brachman(2013),
Regenerating America’s Legacy Cities, Lincoln
Institute of Land Policy: Cambridge, MA
Whitaker, Stephan, Thomas Fitxpatrick(2012),
Land Bank 2.0: An Empirical Evaluation, the
Federal Reserve Bank of Cleveland: Cleveland,
OH
- 50 -