配偶者が「農地等に係る相続税の納税猶予」を受ける場合 平成28 年9 月

平成 28 年 9 月 26 日
No.552
配偶者が「農地等に係る相続税の納税猶予」を受ける場合
配偶者が農地等に係る相続税の納税猶予の適用を受ける場合、配偶者の税額軽減の適用により、配偶者の納付すべき相続税額が
零となるケースがあります。
この場合でも、配偶者が農業相続人ではないものとして計算したときに納付すべき相続税額が算出されれば、配偶者は農業相続
人として相続税の納税猶予の適用を受けることができます。以下の設例で確認します。
1.相続財産と分割内容
相続人
相続財産
配偶者
(農業相続人)
生産緑地
農地を通常評価①
農地を農業投資価格で評価②
(配偶者が農業相続人)
農地を農業投資価格で評価③
(配偶者が農業相続人でない)
8,000 万円
1,000 万円
8,000 万円
土地・家屋
16,000 万円
16,000 万円
16,000 万円
生産緑地
16,000 万円
2,000 万円
2,000 万円
6,000 万円
6,000 万円
6,000 万円
財産の合計
46,000 万円
25,000 万円
32,000 万円
相続税の総額
11,410 万円
3,970 万円
6,420 万円
長男
(農業相続人)
長女
預貯金
2.具体的計算
(1)配偶者が農業相続人となる場合の計算
A.配偶者の算出相続税額
ⅰ)3,970 万円×(1,000 万円+16,000 万円)/25,000 万円【上記②の課税価格・相続税の総額をもとに計算】=2,699 万円
ⅱ)
(11,410 万円-3,970 万円)
【上記①と②の相続税の総額の差額】
×(8,000 万円-1,000 万円)/(8,000 万円-1,000 万円)+(16,000 万円-2,000 万円)=2,480 万円
ⅲ)ⅰ)
【期限内納付分】+ⅱ)
【納税猶予分】=5,179 万円
B.配偶者の税額軽減額
11,410 万円×23,000 万円(※)/46,000 万円=5,705 万円【通常評価ベースの課税価格・相続税の総額をもとに計算】
(※)46,000 万円×1/2=23,000 万円>16,000 万円 ∴23,000 万円
C.納付すべき相続税額
A-B=0
本来の納税猶予額は、農地を相続税評価額で評価した場合の相続税の総額 11,410 万円と、農地を農業投資価格で評価し
た場合の相続税の総額 3,970 万円の差額である 7,440 万円について、農業投資価格を超過した金額で按分した 2,480
万円となりますが、税額控除の適用がある場合、納税猶予の対象とならない期限内納付税額から控除し、控除不足があれば
納税猶予額から控除されることになります。この結果、配偶者の期限内納付税額及び納税猶予額ともに零となります。
その結果、納税猶予額は 7,440 万円から 4,434 万円に圧縮され、配偶者の納付すべき相続税額もゼロとなります。
(2)配偶者が農業相続人ではないものとした場合の計算
A.配偶者の算出相続税額
6,420 万円×(8,000 万円+16,000 万円)/32,000 万円【上記③の課税価格・相続税の総額をもとに計算】=4,815 万円
B.配偶者の税額軽減額
6,420 円×16,000 万円(※)/32,000 万円=3,210 万円【上記③の課税価格・相続税の総額をもとに計算】
(※)
(8,000 万円+16,000 万円)×1/2=12,000 万円<16,000 万円 ∴16,000 万円
C.納付すべき相続税額
A-B=1,605 万円
配偶者が農業相続人ではないとした場合の計算では納付すべき相続税額が算出されるため、配偶者は農地等に係る相続税の
納税猶予を受けることができます。つまり、配偶者は「配偶者の税額軽減」の適用があるため、法定相続分相当額を超える
財産を取得しなければ、農業相続人ではないものとして計算した場合でも納付すべき相続税額が零となり、納税猶予を受け
られないことに留意する必要があります。
3.納税猶予を受けるかどうか
相続財産が高額で、相続財産に占める土地の割合が高く、相続人に納税資金もないような場合、一次相続の納税を乗り切るため
に一旦配偶者が納税猶予の適用を受けるケースがあります。
この場合、配偶者は法定相続分を超える財産を取得するため、配偶者の年齢や健康状態・固有財産額によっては、一次相続・二
次相続をトータルした相続税の負担が増加することも考えられます。
納税猶予の適用を受けるかどうかは重要な判断となるため、二次相続を見据えた相続税のシミュレーションのほか、農業継続の
見通しや将来的な土地の有効活用の可能性なども踏まえ、慎重に検討を行う必要があります。
(担当:三浦 希一郎)