長期利用型家具に対する消費者の選好調査方法

第3章
長期利用型家具に対する消費者の選好調査方法
3−1
概要
現在オフィス家具メーカーではリサイクル、長期利用への取り組みが行われている。しか
し木製家具メーカーにおいては現在は健康配慮への取り組みに重点がおかれており、
リサイ
クル・長期利用への取り組みは目立たない(Appendix3 参照)
。そこで本研究では消費者の長
期利用型の家具に対する関心を調査する方法として、仮想的な家具を用いて調査を行う。本
章ではその調査方法について説明していく。
3−2
調査方法
本調査では、消費者の認識を明確にする方法としてコンジョイント分析を用いる。多くの
商品の中で、ある特定のブランドを他のものよりも先に取るように好む事、
「好み」
「ひいき」
を preference といい、この和訳として「選好」という言葉を用いる。コンジョイント分
析とは、消費者の選好を分析する統計的方法であるということができる。またコンジョイン
ト分析では商品の好き嫌いを訪ねる事によって、なぜその商品が好まれるのか、その属性ご
「メ
との影響度を明確にすることができる1)。ここで属性とはパソコンに例えれば「CPU」
モリ」などがそれにあたいする。またその具体的な数値、つまり「128 MB」
「256 MB」
などを水準と呼ぶ。コンジョイント分析ではその属性を組み合わせた仮想的な商品をコン
ジョイント・カードとして被験者に提示し、好みを尋ねる事で分析を行う(図
3‑1)
。
図 3‑1
属性
CPU
メモリ
モニター
水準
500
800
128MB 256MB
15インチ 17インチ
直交計画
直行計画
コンジョイント・カード
パソコン−1
CPU
500
128MB
メモリ
モニター
15
パソコン−2
CPU
500
256MB
メモリ
モニター
15
パソコン−3
CPU
800
メモリ
モニター
128MB
17
パソコン−4
CPU
800
メモリ
モニター
256MB
17
図3−1 コンジョイント分析の手法
3−3
家具の選定
家具にはその用途により様々な種類があるが、大きく分けて「オフィス家具」と「木製家
具」の二つに分類することができる。本研究では一般消費者を対象に研究を行う事から「木
製家具」に焦点をあてる。更に木製家具は「たんす」
「ドレッサー」「棚」
「机」
「テーブル」
「いす」
「ベッド」
「システム収納家具」
「その他」に分類することができる。上記9項目のう
表 3‑1
ち1998年の生産数量、販売数量はともに「椅子」が1位となっている(表
3‑1)
。また平
成10年度東京都の粗大ごみ収集実績ではこちらでも個数で椅子が1位となっている(表
表
1‑1 参照
参照)。
以上のことからコンジョイント分析では椅子を用い、消費者の選好分析を行う。
11
表3−1
98年家具の生産・販売数量(単位:千個)2)
たんす ドレッサー棚
机
テーブル椅子 ベッド システム収納その他
98生産数量
561
1256 2606 667 1060 2767 1163
572 3268
98販売数量
605
1303 2618 663 1087 2759 1133
577 3348
3−4
家具の基本属性
家具の属性としては「インテリア大辞典(壁装材料協会)
」の中で、
「家具が備えるべき基
表 3‑2 の5つが挙げられている。
本的な条件」3) として表
本研究では被験者に家具の属性を示したカードを並び替えてもらう事により、分析を行う。
表 3‑2 示した①機能性、⑤審美性については素材の材質や、手触りなども大きく影響を及ぼ
すためイラストからそれを判断することは困難である。よって本研究では①、⑤については
同一のものとして設定し属性としては取り上げなかった。
表3−2 家具の基本属性
基本属性
① 機能性
②
安全性
③
耐久性
④
⑤
経済性
審美性
3−5
具体例
・ 適材が適所に使い分けてある
・ 荷重に対して充分に耐える設計である
・ 寸法調整ができていること
etc
・ 地震に対しても転倒しない
・ 日常的な取り扱いにおいて、人体に損害を与えない
・ 燃焼時に有毒ガスを発生しない
・ 熱、水、湿気、日光、腐食、油、薬品などに対して充分耐
えられる 造り
・ 保管管理がしやすい
・ 商品に見合った適切な価格である
・ 生活に潤いをあたえるデザインである
表3−3 本研究で扱う属性と水準
本研究で扱う属性と水準
3−5−1
属性の設定について
属 性 は 右 の 表 に 示 す 「 価 格 」「 耐 用 年 数 」
「ISO9001 の取得」
「メーカー修理保証の有無」の
4つを設定した(表
3‑3)
。水準はそれぞれ価格は
表 3‑3
「15,000 円・30,000 円」、耐用年数は「20 年・50
年」
、ISO9001 の取得とメーカー修理保証の有無に
ついては「有り・無し」と設定した。
12
属性
価格
水準
15000円
30000円
20年
耐用年数
50年
有り
ISO9001の取得
無し
メーカー修理保証の 有り
有無
無し
3−5−2
価格の設定
(1)属性の設定理由
家具の長期利用を考える際には、価格は欠くことのできない要素である。長期利用可能な
家具は、一般的に高価なものが多い。また現在家具製造メーカーは低価格な輸入家具の増加
に伴い価格競争を余儀なく競れている状況である。
以上のことから属性の一つとして「価格」
を設定した。
(2)価格の水準
2001 年度家具産業白書に掲載される木製家具メーカーのうち A,B,C の3社のカタログか
らコンジョイント分析に用いる椅子と同類のもの(ダイニングチェア・アーム無し)を抽出
し、その平均の価格を求めた。
A社平均:9,384 円(n= 23)
A + B社平均:17,286 円
B社平均:25,189 円(n= 37)
B + C社平均:30,422 円
C社平均:35,656 円(n= 48)
図3−2 椅子の平均価格計算
A,B,C3社の平均価格は図
図 3‑2 のようになり、更にA + B社、B + C社の平均を求めた
結果それぞれ、17,286円、30,422円となった。この値を参考に分析では2つの水準を「15,000
円」
「30,000 円」と設定した。
3−5−3
耐用年数の設定
(1)属性の設定理由
家具の耐用年数においては、
購入者それぞれの意思により大きく変化することが考えられ、
それを設定するのは困難である。本調査で予想耐用年数を一つの属性として設定したのは、
購入者の意思を明確にするためである。つまりこの属性は消費者が家具(椅子)を購入する
際に「長く使えるもの」がどれだけ重要とされているのかを明確にするために設定し、以下
のような注意書きを添えた。
予想耐用年数とは、
メーカーが独自に行う加重テストなどの
予想耐用年数とは、メーカーが独自に行う加重テストなどの
品質規定により定められるものです。
13
(2)耐用年数の水準
東京都生活文化局が行った消費者モニター調査より、
「一般机・椅子」の平均使用年数
18.9 年4) から一つの水準を20年と設定した。水準2については被験者に長期利用をい
イメージさせる年数として50年と設定した。
3−5−4 ISO9001 の設定
属性の設定理由
家具の品質を示すものとしては家庭用品品質表示法に基づいた品質表示ラベルがあり、
た
んす・イス・テーブルにはその表示義務がある。それには寸法、材質、表面加工、取扱い上
の注意などが記入されているが、食器棚やベッドが含まれていないなど不備な点も多い。ま
た「天然木」といっても樹種は表記されていない5)。本調査では品質保証に値するものとし
て ISO9001 の取得を属性に加えた。またアンケートには以下のような説明文を添えた。
ISO9001 とは国際標準化機構
(ISO
)が定める
「品質保証」の国際規格で、
とは国際標準化機構(
ISO)
が定める「
製品の設計・
開発、製造、
製造、据付け、
据付け、付帯するサービスのプロセス全般につ
製品の設計
・開発、
製造、
据付け、
付帯するサービスのプロセス全般につ
いて、
顧客に対し製品の品質を保証する
「しくみ」 として供給者が具備す
いて、顧客に対し製品の品質を保証する
顧客に対し製品の品質を保証する「
べき要求事項を定めたものです。
* ISO9000 シリーズの概要より引用6)
3−5−5
メーカー修理保証の設定
(1)属性の設定理由
家具の修理を行うシステムの構築が現在、困難である事は2章で示した通りである。しか
し家具を次世代に受け継ぎ長期利用していくためには、修理を行う必要がある。消費者の修
理への選好を明確にする事は、長期利用型の家具への関心を調査する上で重要な事である。
よって本調査ではメーカー自身が保証を行うシステムとして「メーカー修理保証」を属性の
一つとして加えた。
修理保証とはメーカー自身が椅子の修理
(座面の張替えなど)を行える事を
修理保証とはメーカー自身が椅子の修理(
メーカーが修理の相談窓口
保証したものです。
万が一椅子が故障した際には、
保証したものです。万が一椅子が故障した際には、
万が一椅子が故障した際には、メーカーが修理の相談窓口
となり、
場合によっては出張での修理も行います。(一定期間内の無料での修理
となり、場合によっては出張での修理も行います。
を保証するものではありません。)
14
3−6
プロファイルの作成
表 3‑4
本研究では上記のように4つの属性を用い、直交計画に基づき8つのプロファイル(表
3‑4)
を作成した。(網掛け部分=水準2)
表3−4 直交計画により作成されたプロファイル
カード番号 修理保証
無し
A‑1
有り
A‑2
無し
A‑3
無し
A‑4
有り
A‑5
有り
A‑6
無し
A‑7
有り
A‑8
ISO9001
有り
無し
有り
無し
無し
有り
無し
有り
耐用年数
50年
50年
50年
20年
50年
20年
20年
20年
価格
30,000円
15,000円
15,000円
15,000円
30,000円
15,000円
30,000円
30,000円
作成されたプロファイルは A‑1 〜 A‑8 までの番号を付けそれをもとにコンジョイントカード
を作成した。図 3‑3
3‑3がそのサンプルである。それぞれ2つの水準は、耐用年数については『○
○年耐用設計−予想耐用年数は当社が独自に行う品質規定により定めるものです』と表し、
ISO9001 については『ISO9001 は国際標準化機構(ISO)が定める「品質保証」の国際規格で
す』と表した。詳細は表
表 3‑5 の通りである。
図3−3 アンケートに用いるコンジョイントカード
15
表3−5 コンジョイントカード内での水準の表示
水準1
水準2
価格
耐用年数
ISO9001
表示無し
修理保証
3−7
表示無し
アンケート調査
3−7−1
アンケート対象の選出と調査方法
アンケートは、環境に対する意識が高いという共通性があり、世代の違う2つの集団を対
象として行った。
若い世代として滋賀県立大学環境科学部の学生および環境に関連したサー
クルの部員、年配の世代として遊林会の会員を対象とした。
(1) 学生への調査
学生へのアンケート調査は、2001 年 11 月 2 日に環境サークル K 17名、同じく 11 月 8 日
にグリーンコンシューマーサークル7名、同じく 11 月 22 日に応用統計学Ⅱの受講者 31 名、
同じく 12 月 4 日に大気・水圏化学実験の受講者 24 名の計 81 名に対し行った。調査方法は
資料を入れた封筒を配布し、その場で回答してもらい回収するという方法を取った。
(2) 遊林会への調査
遊林会は滋賀県八日市市を拠点に活動を行う森林ボランティア団体である。
遊林会では毎月
会報を全国の希望される方に配布しており、
本調査では遊林会の協力を頂き個人で会報の郵
送を希望されている方 175 名を対象にアンケート調査を行った。そのうち 25 名に関しては
2001 年 11 月 10 日に行われた遊林会の定例会にて直接手渡し、残り 150 名の方には郵送でア
ンケートの配布を行った。
16
3−7−2
アンケートの作成
アンケートは以下に示す①〜⑭の質問を用いて行った。
アンケートには既存研究との比較
を行うため、東京都生活文化局が行ったモニター調査7)と同じ質問を問4に用いた。また⑨
〜⑫に示した問5については遊林会会員、学生それぞれ別の質問を用いた。
①コンジョイント分析を行うための質問
(遊林会会員、学生共通)
コンジョイント分析を行うための質問(
《問1》(1)A1〜A8の椅子をあなたが購入したいと思う順に並び替えてください。
②分析結果と選好理由の適合を考察するための質問
(遊林会会員、 学生共通)
分析結果と選好理由の適合を考察するための質問(
《問1》( 2 )(1)であなたが1位の椅子を選ぶ決め手となった理由を一つだけお答えくだ
さい。
③順位付けにかかった時間と選好結果の関係を考察するための質問
(遊林会会員、 学生共通)
《問1》( 3 )(1)の順位付けにかかった時間をお答えください
④回答者の環境に対する意識と選好結果を考察するための質問
(遊林会会員、 学生共通)
回答者の環境に対する意識と選好結果を考察するための質問(
《問 2》あなたは環境を守るためなら値段の高い商品(環境に配慮したもの)でも買うつもり
はありますか?
⑤ ISO の認識と選好結果の関係を考察するための質問
(遊林会会員、 学生共通)
の認識と選好結果の関係を考察するための質問(
《問3》(1)あなたは ISO 9000シリーズについてご存知でしたか?
⑥ ISO 9001の説明を読む事による選好の変化と分析結果の関係を考察するための質問
(遊林会会員、学生共通)
《問3》
(2)ISO9001についての説明を読む事によってあなたの椅子を選ぶ基準は変
わったと思いますか?
⑦家具に対する意識と選好結果の関係の考察、
並びに既存研究との比較を行うための質問
家具に対する意識と選好結果の関係の考察、並びに既存研究との比較を行うための質問
(遊林会会員、学生共通)
《問4》(1)あなたは今までに家具を修理したことがありますか?
⑧家具の長期利用に対する意識と選好結果の関係の考察、
並びに既存研究との比較を行う
家具の長期利用に対する意識と選好結果の関係の考察、並びに既存研究との比較を行う
ための質問
(遊林会会員、学生共通)
ための質問(
《問4》
(2)家具を修理する制度が身近にできた場合あなたは利用したいと思いますか?
17
⑨家具の現状を把握するための質問
(遊林会会員のみ)
家具の現状を把握するための質問(
《問5》(1)あなたは今までに家具を廃棄したことはありますか?
⑩家具の廃棄理由と選好結果の関係性の考察、
並びに家具の現状を把握するための質問
家具の廃棄理由と選好結果の関係性の考察、並びに家具の現状を把握するための質問
(遊林会会員のみ)
《問5》(2)(1)ではいと答えた方。家具を廃棄した一番の理由をお答えください。
(複数回、廃棄されたことがある方はもっとも多い理由をお答えください。
)
⑪家具の現状を把握するための質問
(学生のみ)
家具の現状を把握するための質問(
《問5》
(1)あなたは今までに、就学・就職のために下宿をする際に家具を購入されたこと
がありますか?
⑫家具の今後の使用予定と選好結果の関係性の考察、
並びに家具の現状を把握するための
家具の今後の使用予定と選好結果の関係性の考察、並びに家具の現状を把握するための
質問
(遊林会会員のみ)
質問(
《問5》(2)(1)で「はい」と答えた方
その際購入された家具は、
下宿の必要がなくなった際には主にどうしようと考えて
いますか?
⑬プロフィールと選好結果の関係性を考察するための質問
(性別・年齢は共通、
遊林会会員には職業、
学生には学科を質問)
年齢は共通、遊林会会員には職業、
遊林会会員には職業、学生には学科を質問)
《問6》あなたのプロフィールについてお答えください。
⑭被験者の意見を得るための質問
その他、ご意見・ご感想などありましたらご自由にお書きください(自由記述)
3−7−3
プレ調査の実施と単純集計結果
プレ調査は 2001 年 10 月 24 日〜 26 日の 3 日間に環境社会計画専攻の生徒を対象に行った。
プレ調査では 3‑7‑2 に示したアンケート以外に以下の質問も行った。
(1) カードついての説明
「ISO9001 について」
「修理保証について」「予想対応年数に
カードついての説明「
ついて」
は分かりやすかったですか?
ついて」は分かりやすかったですか?
(2) 問1での順位付けは分かりやすかったですか?
(3) アンケートに拘束される時間は長かったですか?
18
プレ調査でのアンケートの結果、
「カードに
プレ調査 問(1)
図 3‑4
ついての説明文」
(図
3‑4)については「非常
に分かりやすかった」「分かりやすかった」
の合計が63%であった。また「カードの並
図 3‑5
3‑5)では非常に分かりやすかっ
び替え」
(図
4)非常
に分かり
にくかっ
た
4%
た」
「分かりやすかった」の合計が74%で
あった。
図 3‑6
「アンケートに拘束される時間」
(図
3‑6)に
おいても「長かった」と答えた人は全体の7
%にとどまった。
5)どちら
とも言え
ない
7%
3)分か
りにく
かった
15%
3)分か
りにく
かった
11%
プレ調査 問(3)
1)非常
に分かり
やすかっ
た
19%
3)短
かった
30%
1)長
かった
7%
2)普通
だった
63%
2)分か
りやす
かった
55%
図3−6 アンケートに拘束される時間は
長かったか
図3−5 カードの並び替えは分かりやす
かったか
3−7−4
2)分か
りやす
かった
56%
図3−4 カードについての説明文は分か
りやすかったか
プレ調査 問(2)
4)非常
に分かり
にくかっ
た
4%
1)非常
に分かり
やすかっ
た
7%
5)どちら
とも言え
ない
22%
プレ調査後の変更点
プレ調査の結果から、学生には現在一人暮らしである人が多くいることや、収入も社会人
とは大きく異なっているため、アンケートの問1(1)の並び替えにおいて以下のような注
釈を付け加えた。
「あなたは大学を卒業し社会人となり、 住環境の変化に伴い食卓用の椅子
が必 要とな りまし た。」
(問1、についてのみ上記のような仮定のもとに質問に答えてください)
またプレ調査により得られた意見から、
問に対する選択肢と全体のレイアウトの変更を行
い、本調査を行った。
19
引用文献リスト
1)岡本眞一著:コンジョイント分析− SPSS によるマーケティング・リサーチ,p.1 ナカ
ニシヤ出版(1999)
2)矢野経済研究所:2001 年度版−家具産業白書−進む環境対応と変わる家具小売市場,
pp.73 − 74,矢野経済研究所(2001)
3)壁装材料協会:インテリア大辞典,pp.635 − 638,彰国社(1988)
4)
東京都生活文化局:家具の長寿命化に向けて−商品の長寿命化等に関する懇談会報告書,
p.12, 東京都生活文化局(2000,7)
5)日経 ECO21,p36, 日経ホーム(2001, 1月)
6)日本工業標準調査会ホームページ:
http://www.jisc.org/index.htm
7)東京都生活文化局:前掲書 ,pp.24‑25, 東京都生活文化局(2000,7)
20