FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性

152
第Ⅲ部
家 族 シ ス テ ム 円 環 モ デ ル の 理 論 的 ・ 実 証 的 研 究 (2):
カ ー ブ リ ニ ア 尺 度 の 開 発 ( 1994 年 以 降 )
第 9 章 FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構
成概念妥当性の検討
FACESKG シ リ ー ズ は , 円 環 モ デ ル に 準 拠 し な が ら も , そ の 項 目 は 我 が 国 の 文
化 的・社 会 的 コ ン テ ク ス ト に 沿 う よ う に 独 自 に 開 発 し た 質 問 紙 で あ る 。FACESKG
初 版 は 1987 年 度 に 開 発 さ れ た( 石 川 ,1987; 武 田 ,1989; 池 埜 ら ・ 立 木 ,1990; 武
田 ・ 立 木 ,1991)。 1990 年 度 に は , FACESKG で 欠 落 し た 「 親 子 間 連 合 」( き ず な
次 元 の 概 念 ) を 復 活 さ せ , 行 動 レ ベ ル で の 質 問 を 重 視 し た FACESKGⅡ ( 岩 田
ら ,1990)を 開 発 し た 。し か し 前 章 で 見 た よ う に ,FACESKGⅡ を 用 い た 実 証 家 族
研 究 は ,き ず な 次 元 で の カ ー ブ リ ニ ア 仮 説 を 実 証 し な か っ た( 曽 田 ら ,1992; 栗
本 ・ 下 岡 , 1993; 平 尾 , 1993;立 木 ・ 栗 本 , 1994; 立 木 , 1994; 西 川 , 1995)。
以 上 の よ う な 結 果 を 踏 ま え て , 栗 本 か お り は 1994 年 度 の 関 西 学 院 大 学 社 会 学
研 究 科 修 士 論 文 調 査 と し て ,立 木 の 指 導 の も と FACESKG 第 3 版( FACESKGⅢ )
の 開 発 に 着 手 し た( 栗 本 ,1995)。栗 本( 1995)は ,こ れ ま で の FACESKG シ リ
ーズでカーブリニア仮説が検証されなかった理由として 2 つの可能性をあげた。
ひとつは円環モデル自体が家族の実態を反映していないとする立場である。もう
ひとつは円環モデルの妥当性には問題ないが尺度開発の手続きに問題があるとす
る 立 場 で あ る 。栗 本( 1995)は 後 者 の 立 場 を と り ,き ず な 自 体 は カ ー ブ リ ニ ア な
概 念 で あ る に も か か わ ら ず ,そ れ が 質 問 紙 に 反 映 さ れ て い な い と 考 え た 。そ こ で ,
こ れ ま で の FACESKG シ リ ー ズ ,そ し て オ ル ソ ン ら の オ リ ジ ナ ル FACES シ リ ー
ズ の き ず な 項 目 を 読 み 直 し て み た 。す る と ,「 き ず な 次 元 」と さ れ る 項 目 の ほ と ん
どは,むしろ「家族の暖かさ」を問う項目であると結論づけた。測定されていた
のが「家族の暖かさ」であるなら,なぜ家族機能度とリニアな関係ばかりが報告
さ れ て き た の か を 説 明 す る こ と が で き た 。「 家 族 の 暖 か さ 」は ,家 族 の き ず な の あ
る 水 準 ま で は 捉 え る こ と は で き る 。し か し ,き ず な が 超 高 水 準 で あ る「 ベ ッ タ リ 」
状態は,概念の射程からはずれるのである。
第9章
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
栗 本 ( 1995) は , リ ニ ア な 「 家 族 の 暖 か さ 」 概 念 を 越 え て , 家 族 の 集 団 凝 集 性
の程度を,超低水準から超高水準まで具体的に行動レベルで問うような質問項目
を準備した。そのために,測定尺度も,従来のライカート尺度法からサーストン
尺度法に変更することにした。サーストン尺度法の方が,各次元の意味水準の幅
(スパン)をより広く捉えることができると考えたからである。以下,尺度開発
と内的構造的検討,続いて確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
の 順 で , FACESKGⅢ の 開 発 と 構 成 概 念 妥 当 性 の 検 討 の プ ロ セ ス を 述 べ る こ と に
する。
1 . FACESKGⅢの開 発 と内 的 構 造 的 検 討
(1)
アイテムプールの作成
カーブリニア仮説の検証のため,アイテムプール作成段階で,きずな・かじと
り両次元について,その概念の各水準ごとに分けて項目を用意した。さらにより
水準の相違を際だたせるために,各水準を2段階に細分化した。結局,きずな・
かじとりについて,臨床評価尺度と同様に8段階に分けて,その各水準ごとの項
目を作成した。このようにして,きずな・かじとり次元とも,各概念の意味水準
が 超 最 低 か ら 超 最 高 ま で ,完 全 に 網 羅 さ れ る よ う に 配 慮 し た の で あ る 。と り わ け ,
きずな次元の超高水準では,家族のサポートや親密さではなく,ベッタリ状態が
測 定 で き る よ う な 項 目 を 準 備 し た 。 そ の た め に FACESKGⅢ で は , こ れ ま で の
FACES や FACESKG シ リ ー ズ と 異 な り , サ ー ス ト ン 尺 度 法 を 採 用 し た 。 サ ー ス
トン尺度は等現間隔尺度ともいわれ,物理的測定の器具と同じようにあらかじめ
目 盛 り の つ い た 尺 度 を 作 成 し ,そ れ に よ っ て 態 度 を 測 定 す る( 井 上・井 上・小 野 ,
1995)。 ラ イ カ ー ト 尺 度 ( 正 規 法 ・ 簡 便 法 ) が 調 査 対 象 者 の 回 答 に 尺 度 の 基 礎 を
おき,個人の尺度値はその時の回答者集団の結果に基づく相対的な位置として表
されるのに対し,サーストン尺度は,一群の判定者に項目を分類させることによ
っ て ,あ る 程 度 絶 対 的 な 尺 度 値 を 求 め る こ と が で き る 。つ ま り FACESKGⅢ で は ,
各区項目がきずな・かじとり次元の1から8までの段階のどこかを表すものであ
り,その項目に「当てはまる」と回答すると,その尺度値が被験者に付与される
し く み に な っ て い る 。こ れ に よ っ て ,き ず な が 7 や 8 と い っ た 超 高 水 準 の 項 目 が ,
154
必ず含まれるように配慮したのである。
項 目 の 準 備 作 業 は , 1994 年 1 月 か ら 5 月 に か け て 行 わ れ , き ず な 次 元 で 233
項 目 , か じ と り 次 元 で 145 項 目 , 計 378 項 目 を 作 成 し た 。
(2)
項目の判定
準備した項目の判定は 2 段階に分けて行った。第1段階では,家族システム論
を 専 攻 す る 関 西 学 院 大 学 立 木 ゼ ミ の 3 回 生・4 回 生 28 名 の 諸 君 に 協 力 し て も ら い ,
各項目について,きずな・かじとりのどの水準であるのかを,1 点から 8 点まで
の 8 段階で評定を依頼した。
ゼ ミ 生 か ら の 回 答 を も と に , そ れ ぞ れ の 項 目 に つ い て 判 定 の 中 央 ( M) 値 と ,
四 分 偏 差( Q)値(( 75 パ ー セ ン タ イ ル 値 − 25 パ ー セ ン タ イ ル 値 )/2)を 求 め た 。
Q 値 が 大 き い 場 合 に は ,判 定 に ば ら つ き が あ っ た こ と を 示 す 。 Q 値 が 1 以 上 の 項
目は,この段階で削除した。さらに,内容妥当性について,栗本かおりと平尾桂
の 2 名 の 院 生 で 協 議 し な が ら ,あ い ま い な 文 言 の あ る 項 目 を 削 除 し て い っ た 。 そ
の 結 果 , き ず な 68 項 目 , か じ と り 69 項 目 に 絞 り 込 ん だ 。
第 2 次 評 定 は ,関 西 学 院 大 学 で 筆 者 の『 家 族 シ ス テ ム 論 』を 受 講 し て い る 3・4
回生である。受講生は,オルソン円環モデルに関する論文を熟読し,きずな・か
じ と り の 各 概 念 に つ い て 精 通 す る こ と が 求 め ら れ た 。「 判 定 は ,円 環 モ デ ル の 精 通
度のテストであり,春学期の成績に反映する」という指示の後,項目の判定を依
頼 し た 。受 講 生 の う ち ,103 名 が き ず な 項 目 を ,残 り の 93 名 が か じ と り 項 目 の 判
定を行った。第 2 次評定では,Q値が 1 を越える項目はなかったが,1 次評定時
の 項 目 の M 値 と 差 が 大 き い も の は 削 除 し た 。さ ら に ,栗 本・平 尾 の 2 名 の 大 学 院
生が内容妥当性について最終的なチェックを行った。
以 上 の 手 続 き を 経 て ,き ず な 37 項 目 ,か じ と り 35 項 目 の 予 備 尺 度 を 完 成 さ せ
た。なお,この予備尺度は「思春期の子ども版」であった。父親版・母親版は,
子ども版のワーディングを変更して作成した。その際,父親には不適当な項目 2
項 目 , 母 親 に 不 適 当 な 項 目 1 項 目 を 削 除 し た 。 結 果 的 に , 父 親 版 は き ず な 35 項
目 , か じ と り 37 項 目 , 母 親 版 は き ず な 36 項 目 , か じ と り 37 項 目 と な っ た 。
(3)
調査対象
大 阪 府 下 の 私 立 男 子 高 と 私 立 女 子 校 の 1・2・3 年 生 と そ の 保 護 者 を 対 象 に ,1,200
家 族 分 の 質 問 紙 セ ッ ト を 教 室 を 通 じ て 配 布 し た 。そ の う ち 386 家 族 分 の 質 問 紙 が
第9章
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
回 収 さ れ た 。 調 査 期 間 は 1994 年 6 月 か ら 7 月 で あ る 。 こ こ か ら , 父 ・ 母 ・ 子 の
3 名 の 回 答 が 含 ま れ て い な い ,欠 損 値 が 10 個 以 上 あ る ,回 答 が 1 ペ ー ジ 連 続 し て
同 じ か , あ る い は 規 則 的 で あ る ( 121212… … ) な ど の 質 問 紙 68 家 族 分 を 抜 き 取
っ た 。 結 果 と し て , 317 家 族 を 有 効 サ ン プ ル と し て 項 目 分 析 を 行 っ た 。
子 ど も の 性 別 は ,男 子 が 202 人 (63.7% ),女 子 が 115 人 (35.3% )で あ っ た 。年
齢 は ,15 才 (44.9% ),16 才 (38.8% ),17 才 (11.5% )の 順 で あ っ た 。父 親 の 年 齢 は ,
40 代 後 半 が 最 も 多 く ( 50.7% ), つ い で 40 代 前 半 (27.6% ), 50 代 前 半 (17.9% )の
順 で あ っ た 。一 方 ,母 親 は ,40 代 前 半 が 最 も 多 く (56.5% ),続 く 40 代 後 半( 32.4% )
に 年 齢 が 集 中 し て い た 。家 族 の ラ イ フ サ イ ク ル 上 の 位 置 は ,第 一 子 が 高 校 生 が 204
家 族 ( 65.2% ), 第 1 子 が 18 才 以 上 109 家 族 ( 34.8% ), 不 明 4 家 族 で あ っ た 。
(4)
反応通過率チェック
ほとんどの回答者が同じ回答をする項目は弁別性に乏しい。そこで各項目につ
い て ,反 応 通 過 率 が 98% 以 上 の 項 目 を 削 除 し た 。こ の 結 果 ,父 親 版 で は 6 項 目( き
ず な 2 項 目 , か じ と り 4 項 目 ), 母 親 版 で は 17 項 目 ( き ず な 8 項 目 , か じ と り 9
項 目 ), 子 ど も 版 5 項 目 ( き ず な 1 項 目 , か じ と り 4 項 目 ) が 削 除 さ れ た 。 削 除
さ れ た 項 目 は す べ て き ず な ・ か じ と り 次 元 で 極 端 な 段 階 ( 1・ 2 点 も し く は 7・ 8
点段階)にある項目であった。
(5)
双対尺度法による項目類似性の分析
双 対 尺 度 法 ( 西 里 , 1982) は , 一 貫 し た 回 答 パ タ ー ン を 探 索 す る 手 法 で あ る 。
たとえば「きずな」次元が低い回答者は,バラバラやサラリ項目を一貫して選択
することが予想される。一方,ベッタリやピッタリ項目は一貫して選択されない
だろう。双対尺度法は,一貫して選択される項目には似た値を,また一貫して選
択されない項目にも似た値を,そして選択される項目と選択されない項目との間
は出来るだけ異なった値を,各項目に付与する。したがって,双対尺度法が付与
した値を探索することによって,項目間の類似性を数量的に判断することができ
る。
き ず な 次 元 で は ,父・母・子 ど も 版 と も ,中 庸 な 水 準( 3 点 ∼ 6 点 )の 項 目 に は
負 の 値 が ,極 端 な 水 準( 1・2 点 お よ び 7・8 点 )の 項 目 に は 正 の 値 が 付 与 さ れ た 。
これは,中庸な水準の項目は一貫して選択される傾向にあり,同時に極端な水準
の 項 目 は 一 貫 し て 選 択 さ れ な い 傾 向 に あ る こ と を 示 し て い た 。か じ と り 次 元 で も ,
156
父・母・子ども版でも,中庸な水準(3 点∼6 点)の項目と,極端な水準の項目
( 1・ 2 点 お よ び 7・ 8 点 ) が , 明 確 に 分 離 さ れ た 。
以上の類似性分析の結果,内容上は極端な水準であるにもかかわらず,中庸水
準項目と似たような尺度値が付与された項目は削除した。同様に,内容は中庸な
水準であるにもかかわらず,極端項目と似たような尺度値が付与された項目も削
除 し た 。こ の 結 果 ,き ず な 次 元 で は ,父 版 6 項 目 ,母 版 3 項 目 ,子 ど も 版 6 項 目
を削除した。一方,かじとり次元では,子ども版 2 項目を削除した。
以 上 の 手 続 き に よ っ て , 父 親 版 56 項 目 ( き ず な 25 項 目 , か じ と り 31 項 目 ),
母 親 版 50 項 目 ( き ず な 25 項 目 , か じ と り 25 項 目 ), 子 ど も 版 59 項 目 ( き ず な
26 項 目 , か じ と り 33 項 目 ) に 絞 り 込 ま れ た 。
(6)
因子構造の安定性への貢献度に基づく項目の精選
父・母・子 の き ず な・か じ と り の 6 つ の 総 得 点 を 変 数 と し て 因 子 分 析 を 行 っ た 。
手順は,バックワードのステップワイズ重回帰分析のように,その項目を総得点
か ら 削 除 す る と「 き ず な ・ か じ と り の 2 因 子 構 造 が 崩 れ る か 」,「 コ ミ ュ ナ リ テ ィ
が 下 が る か 」,「 因 子 負 荷 量 が 小 さ く な る か 」,と い っ た 基 準 を 用 い て 各 項 目 の 因 子
構 造 の 安 定 性 へ の 貢 献 度 を チ ェ ッ ク し た 。 そ の 結 果 , 父 親 版 31 項 目 (き ず な 15
項 目 , 舵 取 り 16 項 目 ), 母 親 版 ( き ず な 11 項 目 , か じ と り 15 項 目 ), 子 ど も 版
( き ず な 12 項 目 ,か じ と り 14 項 目 )に 最 終 的 に 絞 り 込 ま れ た 。こ の 最 終 項 目 を
用いた父・母・子のきずな・かじとり得点の相関行列と探索的因子分析の結果は
表 9-1 と 表 9-2 に , そ れ ぞ れ 示 す 通 り で あ る 。
2.
確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検証
項目を抜き差し,入れ戻ししながら探索的因子分析を繰り返して,最適の因子
構 造 ( 表 9-2) を 示 す 項 目 セ ッ ト が で き あ が っ た の を 待 っ て , こ の 最 終 項 目 セ ッ
ト の 多 特 性・他 方 法 行 列( 表 9-1)に 対 し て ,確 認 的 因 子 分 析 モ デ ル( Widaman,1985)
第9章
表 9-1
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
父・母・子のきずな・かじとり得点(最終項目セット)の多特性・多方法行列
( 栗 本 , 1995)
父きずな 父かじとり
父きずな
−
父 か じ と り .20 *
母きずな
.37 *
母 か じ と り .06
子きずな
.19 * * *
子 か じ と り .10
n=317
表 9-2
*
母きずな
−
.09
.37 *
.05
.27 *
p< .01
***
母かじとり
−
.05
.20 *
.01
子きずな
子かじとり
−
-.07
.26 *
−
.20 *
−
p< .001
父 ・ 母 ・ 子 の き ず な ・ か じ と り 得 点 の 因 子 分 析 の 結 果 ( 栗 本 , 1995)
母かじとり
父かじとり
子かじとり
父きずな
母きずな
子きずな
因子 1
因子 2
.62400
.61578
.41685
.14683
.03910
.02914
-.04892
.14564
.10861
.62172
.55222
.35133
コミュナリティ
.391771
.400401
.185561
.408092
.306477
.124282
による構成概念妥当性の検証を行った。特性の構造と方法の構造を入れ子状に
階 層 化 さ せ た モ デ ル の 適 合 度 は 表 9-3 に 示 す 通 り で あ る 。 な お , 一 般 化 最 小 自 乗
法により解を求めるために,父母については,きずな・かじとりの測定誤差の推
定 値 を 等 し く δ 1 * * と ,子 ど も に つ い て は き ず な・か じ と り 得 点 の 測 定 誤 差 は δ 2 * *
に等しいとする制約条件を仮定している。
ま た ,確 認 的 因 子 分 析 モ デ ル の 構 造 で は ,方 法 因 子 な し( 構 造 A ),1 つ の 方 法
因 子 ( 構 造 B ), 2 つ の 方 法 因 子 ( 因 子 間 相 関 な し )( 構 造 B ’), そ し て 2 つ の 方
法 因 子( 因 子 間 相 関 あ り )( 構 造 C)と い う 4 段 階 を 設 け た 。要 素 の ス テ ッ プ ワ イ
ズ追加による最適モデルの検討で後に詳しく述べるが,これは方法因子間の相関
を 想 定 し な い モ デ ル ( 3B’) が 最 も 高 い 適 合 度 を 示 し た ( AIC=− 4.45) た め に ,
収束性・弁別的妥当性の検定に当たっては,このモデルを基準とした対抗モデル
を用意する必要が生じたためである。
(1)
収束的妥当性の検定
方 法 因 子 構 造 の 各 段 階 ご と で ,1 つ の 共 通 特 性 因 子 を 想 定 す る「 収 束 性 モ デ ル 」
と,特性因子を想定しない「対抗モデル」の適合度χ自乗値の差を検定した。表
158
表 9-3
FACESKGⅢ 多 特 性 ・ 多 方 法 行 列 デ ー タ の 確 認 的 因 子 分 析 諸 モ デ ル の 適 合 度 指 標 の 比 較
特 性 因 子 ・ 方 法 因 子 な し モ デ ル ( 1A)
特性因子なし
三 つ の 方 法 因 子 ,因 子 間 相 関 な し( 1B’)
特性因子なし
父 母 報 告 因 子 間 相 関 あ り ( 1C₁ )
特性因子なし
父母,母子,父子報告因子間相関あり
( 1C)
1 つの共通特性因子のみ
方 法 因 子 な し ( 2A)
1 つの共通特性因子のみ
3 つ の 方 法 因 子 , 相 関 な し ( 2B’)
1 つの共通特性因子のみ
父 母 報 告 因 子 相 関 あ り ( 2C₁ )
1 つの共通特性因子のみ
父母,母子,父子報告因子すべてに相
関 あ り ( 2C)
2 つの特性因子,因子間相関なし
方 法 因 子 な し ( 2’A )
2 つの特性因子,因子間相関なし
1 つ の 方 法 因 子 ( 2’B)
2 つの特性因子,因子間相関なし
3 つ の 方 法 因 子 , 相 関 な し ( 2’B’)
2 つの特性因子,因子間相関なし
父 母 報 告 因 子 相 関 あ り ( 2’C₁ )
2 つの特性因子,因子間相関なし
父母,母子,父子報告因子すべてに相
関 あ り ( 2’C)
2 つの特性因子,因子間相関あり
方 法 因 子 な し ( 3A)
2 つの特性因子,因子間相関あり,
3 つ の 方 法 因 子 ,因 子 間 相 関 な し( 3B’)
2 つの特性因子,因子間相関あり,
父 母 報 告 因 子 間 相 関 あ り ( 3C₁ )
2 つの特性因子,父母子報告因子間す
べ て に 相 関 あ り ( 3C)
適合度
χ自乗
180.00
自由
度
19
155.08
13
84.16
12
76.60
10
87.88
13
67.50
7
149.76
6
310.76
4
34.92
13
15.47
9
9.95
7
93.24
6
92.15
4
28.07
12
7.55
6
128.93
5
92.11
3
確率
GFI
AGFI
AIC
.000
1
.000
1
.000
1
.000
1
.83
.81
142.00
.85
.76
129.08
.92
.86
60.16
.92
.83
56.60
.91
.85
61.88
.93
.79
53.50
.87
.73
129.76
.7945
.46
294.76
.97
.94
8.92
.98
.95
1.47
.99
.97
-4.05
.91
.78
75.24
.91
.76
76.15
.97
.95
4.07
.99
.97
-4.45
.88
.80
110.93
.91
.73
78.11
.000
1
.000
1
.000
1
.000
1
.000
9
.036
4
.191
6
.000
1
.000
1
.005
4
.27
.000
1
.000
1
注1) 母数の推定に当たって,父・母・子のきずな得点における測定誤差は全て等しくσ 1
に ,か じ と り 得 点 に お け る 測 定 誤 差 は 全 て 等 し く σ 2 と す る 制 約 条 件( 仮 定 )を 設 け た 。
第9章
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
注2) 適合度χ自乗値は,その値が小さくなればなるほどモデルの適合度が高いことを意味
する。従って,適合度χ自乗値の確率は通常の頻度のノンパラメトリックχ自乗検定
と は 逆 に , p 値 が .05 を 越 え れ ば , デ ー タ へ の 適 合 度 が 有 意 に 高 い こ と を 意 味 す る 。
注 3 ) GFI お よ び 自 由 度 調 整 GFI(AGFI)は 0∼ 1 の 間 の 値 を 取 る 。 値 が 大 き い ほ ど 適 合 度 が 高
い 。 GFI 値 と AGFI 値 に 開 き が あ る 場 合 に は , モ デ ル に 改 善 の 余 地 が 残 さ れ て い る こ と
を示す。
注 4 ) AIC 値 も , そ の 値 が 小 さ い 方 が , モ デ ル と の 適 合 度 が 高 い 。
9-4 が そ の 結 果 で あ る 。 な お 最 終 的 に , 方 法 因 子 間 の 相 関 を 認 め な い モ デ ル が 最
終モデルとなったために,それよりも方法因子構造が複雑なモデル間の比較(3
C と 1C の 比 較 ) は , 参 考 の た め に だ け 載 せ て い る 。 表 か ら 明 ら か な よ う に , 方
法 因 子 構 造 が B’(3 つ の 方 法 因 子 , 因 子 間 相 関 な し ) ま で で は ,「 収 束 性 」 想 定 モ
デルの方が,対抗モデルよりも有意に適合度が高かった。
(2)
弁別的妥当性の検定
弁別的妥当性の検定では,きずな・かじとりという二つの特性因子をそれぞれ
に想定する「弁別性モデル」と,一つの共通特性因子のみを想定する「対抗モデ
ル 」 の 適 合 度 を 比 較 す る 。 表 9-5 が そ の 結 果 で あ る 。 χ 自 乗 値 の 差 の 検 定 は 「 弁
別 性 モ デ ル 」 が ,「 対 抗 モ デ ル 」 よ り も 有 意 に 適 合 度 が 高 い こ と を 示 し た 。 ま た ,
AIC 値 の 比 較 で も 同 様 の 結 果 で あ っ た 。
表 9-4
比較するモデル
FACESKGⅢ の 収 束 的 妥 当 性 の 検 定
χ 自 乗
値の差
1 つ の 共 通 特 性 因 子 ,方 法 因 子 な し( モ 92.12
デ ル 2A) 対
特性因子なし,方法因子なし(モデル
1A)
1 つ の 共 通 特 性 因 子 ,3 つ の 方 法 因 子( 相 87.58
関 な し )( モ デ ル 2B’) 対
特 性 因 子 な し ,3 つ の 方 法 因 子( 相 関 な
し )( モ デ ル 1B’)
1 つ の 共 通 特 性 因 子 ,3 つ の 方 法 因 子( 父 -234.16
母 ,母 子 ,父 子 間 す べ て に 相 関 あ り )( モ
デ ル 2C) 対
特性因子なし,3 つの方法因子(父母,
母 子 , 父 子 間 す べ て に 相 関 あ り )( モ デ
ル 1C)
危険率
AIC 値 比 較
P<.001
2A<1A
6
P<.001
2B’11B’
6
P<.001
2C>1C
自
度
差
6
由
の
注 ) AIC 値 は , そ の 値 が 小 さ い 方 が , モ デ ル と の 適 合 度 が 高 い 。
160
表 9-5
比較するモデル
FACESKGⅢ の 弁 別 的 妥 当 性 の 検 定
χ 自 乗
値の差
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 方 法 因 子 59.81
な し ( モ デ ル 3A) 対
一 つ の 共 通 特 性 因 子 ,方 法 因 子 な し( モ
デ ル 2A)
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方 59.94
法 因 子 ( 相 関 な し )( モ デ ル 3B’) 対
一つの共通特性因子,三つの方法因子
( 相 関 な し )( モ デ ル 2B’)
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方 218.65
法 因 子( 父 母 ,母 子 ,父 子 間 す べ て に 相
関 あ り )( モ デ ル 3C) 対
一つの共通特性因子,三つの方法因子
( 父 母 ,母 子 ,父 子 間 す べ て に 相 関 あ り )
( モ デ ル 2C)
危険率
AIC 値 比 較
P<.0001
3A<2A
1
P<.0001
3B’<2B’
1
P<.0001
3C<2C
自
度
差
1
由
の
注)AIC値は,その値が小さい方が,モデルとの適合度が高い。
(3)
要素のステップワイズ追加による最適モデルの検討
最後に,多特性・他方法行列データに最もよく適合するモデルを決定するため
に ,モ デ ル 1A か ら モ デ ル 3C ま で に つ い て ,特 性 お よ び 方 法 因 子 の 構 造 を ス テ ッ
プワイズに洗練化させてゆき,適合度が各ステップで有意に高まるかを系統的に
比 較 し て い っ た 。な お ,第 7 章 の 曽 田 ら( 1992)の デ ー タ の 再 分 析 と 同 様 に ,特
性 の 構 造 に つ い て は , 特 性 因 子 間 に 相 関 を 想 定 し な い 構 造 2’を , ス テ ッ プ と し て
追加している。
表 9-6 の 第 一 行 が , 最 初 の 比 較 ス テ ッ プ で あ る 。 き ず な ・ か じ と り の 二 つ の 特
性 因 子 と 因 子 間 の 相 関 を 想 定 し な い モ デ ル( 2’A)と ,特 性・方 法 と も 因 子 を 想 定
し な い 対 抗 モ デ ル( 1A)を 比 較 し ,相 関 を 認 め な い 二 因 子 構 造 が 有 意 に 適 合 度 が
高 い こ と が 示 さ れ た ( χ 自 乗 = 145.08, df=6, p<.001)。
第 2 ス テ ッ プ で は ,方 法 因 子 を 要 素 と し て 加 え て( モ デ ル 2’B’),方 法 因 子 を 想
定 し な い モ デ ル ( 2’A) と 比 較 し た 。 こ の 比 較 も 有 意 な 差 が 示 さ れ た ( χ 自 乗 =
25.47, df=6, p<.001)。
第 3 ス テ ッ プ で は ,特 性 因 子 間 の 相 関 を 要 素 と し て 加 え た( モ デ ル 3B’)。こ の
要 素 負 荷 は , 10% 水 準 で 有 意 な 傾 向 を 示 し た ( χ 自 乗 = 2.40, df=1, p<.10)。
第 四 ス テ ッ プ で は , 方 法 因 子 間 の 相 関 を 追 加 し た ( 3C)。 す る と χ 自 乗 値 の 差
第9章
表 9-6
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
FACESKGⅢ 多 特 性 ・ 多 方 法 行 列 の 因 子 構 造 の ス テ ッ プ ワ イ ズ 検 定 の 結 果
( 栗 本 , 1995)
危険率
AIC 値 比 較
P<.001
2’A<1A
6
P<.001
2’B’<2’A
2.40
1
P<.10
3B’<2’B’
-84.56
1
P<.001
3B’<3C
比較するモデル
χ 自 乗
値の差
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 な し ), 方 法 因 子
な し ( モ デ ル 2’A) 対
特 性 因 子 な し ,方 法 因 子 な し( モ デ ル 1
A)
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 な し ), 三 つ の 方
法 因 子 ( 相 関 な し )( モ デ ル 2’B’) 対
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 方 法 因 子
な し ( モ デ ル 2’A)
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方
法 因 子 ( 相 関 な し )( モ デ ル 3B’) 対
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方
法 因 子 ( 相 関 な し )( モ デ ル 2’B’)
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方
法 因 子( 父 母 子 報 告 因 子 す べ て の 間 に 相
関 あ り )( モ デ ル 3C) 対
二 つ の 特 性 因 子 ( 相 関 あ り ), 三 つ の 方
法 因 子 ( 相 関 な し )( モ デ ル 3B’)
145.08
自
度
差
6
25.47
由
の
注 ) AIC 値 は , そ の 値 が 小 さ い 方 が , モ デ ル と の 適 合 度 が 高 い 。
は有意ではあったが,その値はマイナスとなった。すなわち,方法因子間の相関
を 想 定 し な い モ デ ル 3B’の 方 が 適 合 度 が 有 意 に 高 い こ と が 示 さ れ た 。 AIC 値 の 比
較でも同様の結果であった。
以上に見たように,因子構造をステップワイズに追加する方法をもとに検討し
た と こ ろ , デ ー タ と の 適 合 度 が 最 も 高 か っ た の は ,「 き ず な ・ か じ と り の 斜 交 2
特 性 因 子 構 造 , 父 ・ 母 ・ 子 の 3 方 法 因 子 ( 報 告 因 子 間 に 相 関 な し )」 の 構 造 を 想
定 す る モ デ ル 3B’で あ っ た 。 図 9-1 は , こ の 最 終 モ デ ル を パ ス 図 で 表 現 し た も の
である。
図 9-1 の パ ス 図 に よ る と ,家 族 シ ス テ ム の き ず な・か じ と り 因 子 に つ い て は ,
父・母・子のきずな・かじとり得点にそれぞれ安定して有意に反映されているこ
とが分かる。きずな因子とかじとり因子について相関を想定したものの,両因子
間 の 相 関 係 数 の 推 定 値 は r = .16 で は あ っ た が ,そ の t 値 は 5% 水 準 で 有 意 で は な
かった。
方法因子については,父・母・子にそれぞれ特徴的な回答の偏りが示された。
162
e1
父回答
-.38 * * *
父きずな
.55 * * *
家族の
きずな
e2
-.30 * * *
父かじとり
.67 * * *
.30 * * *
-.00
母回答
. 16
母きずな
e3
.25 * * *
母かじとり
. 60 * * *
e4
.62 * * *
子回答
.50 * * *
子きずな
e5
家族の
か じ と
り
.44 * * *
. 40 * * *
子かじとり
e6
図 9-1
FACESKGⅢ の 多 特 性 ・ 多 方 法 行 列 デ ー タ の 確 認 的 因 子 分 析 の 最 終 結 果
( 係 数 は 標 準 化 パ ス 係 数 。 * 印 は 素 係 数 の t 検 定 結 果 )。
た と え ば ,「 父 の き ず な・か じ と り 両 得 点 は ,実 際 よ り も 低 め の 点 数 に な る( き
ず な の 標 準 化 パ ス 係 数 -.38, p<.001,か じ と り -.30, p<.001)」,「 母 親 の か じ と り 得
点 は 実 際 よ り も 高 め の 点 数 に な る ( 標 準 化 パ ス 係 数 .25, p<.001)」,「 子 ど も の き
ずな・かじとり両得点は,父とは反対に,実際よりも高めの点数になる(きずな
の 標 準 化 パ ス 係 数 .50, p<.001, か じ と り .40, p<.001)」 な ど が 確 認 さ れ た 。
(4)
各尺度の信頼性
FACESKGⅢ の 開 発 で は , 従 来 の 方 法 と 異 な り , 測 定 尺 度 に サ ー ス ト ン 法 を 採
用した。そのために,ライカート法のようにクロンバックのαなどの内的一貫性
信頼性係数は求められない。これは,クロンバックのαが,等質項目間の相関の
あ る 種 の 平 均 値 と し て 求 め ら れ る か ら で あ る 。サ ー ス ト ン 法 の 場 合 に は ,き ず な・
かじとりの各水準内では,項目の等質性は想定されるが,水準をまたいだ項目間
には相関を想定しないからである。そこで,父・母・子の各得点に対する決定係
数( R 2 )を 信 頼 性 の 推 定 値 と し て 用 い る こ と に し た 。決 定 係 数( R 2 )は ,0 か ら
1 までの間に分布し,値が 1 に近いほど得点の分散が,誤差ではなく,対応する
因子による影響を強く受けることを示す。
第9章
FACESKGⅢの開発と確認的因子分析モデルを用いた構成概念妥当性の検討
FACESKGⅢ 各 尺 度
父きずな
父かじとり
母きずな
母かじとり
子きずな
子かじとり
決定係数(R2)
.45
.45
.45
.45
.35
.35
なお,一般化最小自乗法によって解を求める際に,父母については,きずな・
か じ と り の 測 定 誤 差 の 推 定 値 を 等 し く δ 1 * * と ,子 ど も に つ い て は き ず な・か じ と
り 得 点 の 測 定 誤 差 は δ 2 * * に 等 し い と す る 制 約 条 件 を 仮 定 し て い た 。こ の た め ,決
定係数はきずな・かじとりについて等しい値となっている。より正確な信頼性の
推定値を求めるためには,今後テスト・再テスト法や折半法などの手法で今後,
再度検討をし直す必要があるだろう。