意思決定追加資料

リスクを含む意思決定(1)
期待値原理
情報システム分析論
補足資料
数理的意思決定・多基準意思決定・AHP
京都大学 経営管理大学院
松井啓之
リスクを含む意思決定(2)
例題
各行動について利得の期待値(期待賞金額:
EMV)を計算して最適な行動を選択
リスクの指標として分散も考慮
⇒期待値・分散原理
要求水準原理
要求水準(=最低限欲しいと考える利得の水準)
を達成する可能性が最も高い行動を選択
最尤未来原理
最も起こる確率が高い自然の状態(最尤未来:
Most Problem Future)だけに注目し、その他を無視
リスクを含む意思決定(3)
期待値原理の場合
週末に家族と過ごすためにA~Dの案を考えた。
それぞれの案で得られる満足度は、天候で大
きく左右するので、天候毎(晴、曇、雨、風)の
満足度とその発生確率をペイオフ表にまとめた。
レジャー案\天候
晴
確率
0.30
A 遊園地
40
B 映画鑑賞
35
C 海(マリンスポーツ) 30
D 山(アスレチック)
30
曇
0.20
40
35
70
60
雨
風
0.40 0.10
20
50
35
35
20
20
20
30
(発生確率が分かっている)どの案が最適か?
リスクを含む意思決定(4)
期待値原理は、「長期間(nが十分に大きい場
合)」での意思決定を考える場合には有効
A:遊園地
B:映画鑑賞
C:海
D:山
0.3・40+0.2・40+0.4・20+0.1・50 = 33
0.3・35+0.2・35+0.4・35+0.1・35 = 35
0.3・30+0.2・70+0.4・20+0.1・20 = 33
0.3・30+0.2・60+0.4・20+0.1・30 = 32
⇒最も期待値の高い「映画鑑賞」を選択
期待値は十分に多数回同じ決定が繰り返されることを前提
X:期待値E(X)と分散を持つ確率変数⇒x=Σxi/nは分散/nとなる
したがって、n→∞とすると/n→0なので、xはE(X)に近づく
※聖ペテルスブルグのパラドックス
 正確なコインを表が出るまで投げ、第n回目にはじめて表が出れば、
2nドルを獲得できるゲーム。EMV=Σ2n(1/2)n=∞>100
EMVは∞だが、このゲームの参加料100ドルを払うか?
リスクを含む意思決定(5)
要求水準原理の場合
要求水準「35」の場合⇒「映画鑑賞」が最も確実
確率:遊園地 0.60 映画鑑賞 1.0 海 0.20 山 0.20
期待値だけで十分か?⇒期待値・分散原理
リスクの大きさの指標として「分散を採用」
分散が大きい=不安定⇒リスクが大きい
儲けは大きいかも知れないが、損することも多々ある
分散が小さい=安定⇒リスクが小さい
儲けは小さいけれど、損する機会はあまりない
指標の例:期待値/標準偏差、期待値-標準偏差
期待値は大きく、分散が小さい(=標準偏差が小さい)
選択が行われる。
要求水準「70」の場合⇒「海」のみ可能性有り
確率:遊園地 0 映画鑑賞 0 海 0.25 山 0
最尤未来原理の場合
最も起こる確率が高い場合=「雨(確率:0.4)」
遊園地=20、映画鑑賞=35、海=20、山=20
⇒最も得点が高い「映画鑑賞」を選択
本来は、特にある状態の発生する確率が他の場合より著
しく高い場合、全ての状態での利得に差がない場合(=
失敗しても損失が少ない)に用いる。
1
リスクを含む意思決定(6)
個々の意思決定原理の問題点
不確実な場合の決定原理(1)
不確実性をリスクとして認識できない場合
⇒自然状態の確率分布が全く分らない
⇒確率に基づく期待値を計算できない
期待値原理
リスク(=分散)を無視
⇒期待値・分散原理の採用
⇒期待効用を指針とする
確率分布を自ら決めれば(=主観確率)、リスクを含む場合に帰着
客観的満足度
要求水準原理
要求水準を所与とする。しかし、人や問題によって水準
が変化
最尤未来原理
1つの選択の確率が著しく大きいか、起こりうる全ての
条件で利得に大きな差がないか、の条件を満たさない
と適用不可
不確実な場合の決定原理(2)
複数の決定基準が存在
ラプラス(等確率)、マキシミン(悲観的)、フルビッツ(楽
観的)、ミニマックス(最大機会損失)
wij:満足度指数
i:代替案の番号(a1=A,…,a4=D)
j:天候(j=1:晴,…,j=4:風)
不確実な場合の決定原理(3)
ラプラス基準 ⇒A(a1)を採用
例題
週末に家族と過ごすために、A~Dの案を考え
た。それぞれの案で得られる満足度は、天候で
大きく左右するので、天候毎(晴、曇、雨、風)
の満足度(=利得)をペイオフ表にまとめた。
レジャー案\天候
A 遊園地
B 映画鑑賞
C 海(マリンスポーツ)
D 山(アスレチック)
晴 曇
40 40
35 35
30 70
30 60
雨
20
35
20
20
風
50
35
20
30
(発生確率が分からない)どの案が最適か?
不確実な場合の決定原理(4)
マキシミン(マックスミニ、ワルド)基準
⇒B(a2)を採用
WW →Max s.t. WW(ai)=Min wij
最も悲観的な立場に立った基準(天候は、人間の選
択に対してその結果が最悪となるような状態となる)
WW(A)=20
WW(B)=35
WW(C)=20
WW(D)=20
利得が負(損害)の場合は、最悪の中で最善を求め
るということでミニマックス(Min Max)原理となる
逆に最も楽観的な基準を考えることも可能
⇒マクシマキシ(サベージ)基準(Max Max)
WL →Max s.t. WL(ai)=Σwij/m
天候の状態を等確率と考え、期待値を最大化する
⇒等確率の期待値原理
WL(A)=37.5
WL(B)=35
WL(C)=35
WL(D)=35
不十分理由の原則
選択肢のどれかが、他より大きい/小さい確率を持つ
十分な理由がないときは、全ての状態は同じ確率を
持つと考えよう
不確実な場合の決定原理(5)
フルビッツ(ハーヴィッツ)基準
⇒ α>0.3のとき C(a3)を採用
WH→Max s.t. WH(ai)
=αMax wij +(1-α)Min wij
αは楽観度を示すパラメータ(0<α<1)
α=0→マキシミン、α=1→マキシマックス(楽観)
WH(A)=30α+20
WH(B)=35
WH(C)=50α+20
WH(D)=40α+20
2
不確実な場合の決定原理(6)
ミニマックス損失基準 ⇒D(a4)を採用
WS →Min s.t. WS(ai)=Max vij , vij=Max wij-wij
vij は、もし天候の状態が真(もっとも利得が高い天候)で
あることを知っていれば選択した(得られる)利得を、知ら
なかったために別の選択をして生じる損失⇒機会損失
機会損失を最大にする天候になるという悲観的立場で、
損失を最小にする選択を行う
損失表
レジャー案\天候 晴 曇 雨 風
A 遊園地
0 30 15
0
B 映画鑑賞
5 35
0 15
C 海(マリンスポーツ) 10
0 15 30
D 山(アスレチック)
10 10 15 20
WS(A)=30、WS(B)=35、WS(C)=30、WS(D)=20
意思決定基準と決定
意思決定を行う際には
各種の決定基準が立脚している視点のうち最
も適当なものを選択する
各種の決定基準のもつ性質を検討し、直面し
ている意思決定問題の状況の最もふさわしい
基準を選択する
基準の恣意性および、そこでの利得の定義
の曖昧さ⇒効用理論/主観確率の導入
ベイジアン意思決定理論
事前確率として主観確率を積極的に採用し、さらに
情報の獲得によって、逐次的に修正を行う
不確実な場合の決定原理(7)
不確実な場合の決定原理の問題
それぞれが何らかの問題を有している。
ラプラスの原理
意思決定者が勝手な確率分布を想定
同じ問題状況でも選択肢の表記の仕方で結果が変わりうる可
能性がある
マクシミン/マキシマクス原理
各行動に対して1つの最悪値/最良値しか考慮に入れていない
フルビッツの原理
基準をどのように決めるのか
ミニマックス損失基準
機会損失の値が他の行動の利得に依存→新たな行動を考慮
すると行動の優劣順序が変化
※適切な「決定原理」を選ぶための決定原理は存在
しない
多基準意思決定問題(1)
意思決定の一般式において、z = f(xi,yj)は、
複数個の基準を持っている。
多目的意思決定問題
複数の評価指標が登場する:複数の目的を最大ある
いは最小にする意思決定問題
⇒複数の目的を比較することは困難→最良な妥協解
具体的な解法:多目的数理計画法など
多属性意思決定問題
単一の評価指標が登場する:代替案を決定付ける属
性が複数存在する意思決定問題
補償型モデル(例:入試の試験科目)
非補償型モデル(例:運転免許試験の学科と実技)
多基準意思決定問題(2)
(線形の)補償・多属性意思決定問題
複数の目的(基準)を総合化して比較可能なスカ
ラー量へ変換する
f(xi)=Σajxji →Max(Min)
となるxiを求めること(yiはfix)
ajは個々の基準に対する重み
一般的に重みは正規化(重みの合計=1)する
1次結合(線形式)ではない関数になる場合もある
課題:適切な「重み」をどう決めるのか?
一対比較法、クリーの方法、PATTERN、AHP
その他にも、コンコーダンス分析なども存在
一対比較法(1)
各代替案に関する評価項目ごとの評価を一定
の基準によってスコアとして表し、評価項目の
一対ごとの比較によって付したウェイトを総合
化する
例:交通事故対策
評価項目4項目(a1~a4):死亡者の減少、負傷者
の減少、外観、実施コスト
評価項目
判定
1
2
3
死亡者の減少
1
1
1
負傷者の減少
0
外観
実施コスト
4
1
0
0
6
得点
3
1
0
5
0
ウェイト
3/6=0.50
2
2/6=0.33
0
0
0/6=0.00
1
1
1/6=0.17
3
一対比較法(2)
一対比較法(3)
交通事故対策を一対比較法で解くことを考える。以下
の条件、代替案の中で最も優れたものを選択。
評価項目4項目:死亡者の減少、負傷者の減少、外観、実
施コスト
代替案の効果の数値
代替案\評価項目
死亡者の減少(人)
負傷者の減少(人)
外観
ガードレール
5
10
悪い
20
歩道
6
15
非常に良い
100
信号
3
8
普通
5
ガードレールの場合
実施コスト(百万円)
5
4
3
2
1
死亡者の減少(人)
8人以上
6~7人
4~5人
2~3人
1人以下
負傷者の減少(人)
30人以上
20~29人
15~19人
10~14人
9人以下
外観
非常に良い
良い
普通
悪い
非常に悪い
0~20
21~40
41~60
61~80
81~
実施コスト(百万円)
死亡者の減少:5人→スコア:3
負傷者の減少:10人→スコア:2
外観:悪い→スコア:2
実施コスト:20(百万円)→スコア:5
3×0.50+2×0.33+2×0.00+5×0.17=3.01
歩道の場合
4×0.50+3×0.33+5×0.00+1×0.17 =3.16
信号の場合
2×0.50+1×0.33+3×0.00+5×0.17 =2.18
スコアリング基準
評価項目\スコア
スコアリング基準に基づき、代替案の効果をスコア化
し、総合得点を評価する。
⇒最も高得点な「歩道」を選択
クリー(A.J.Klee)の方法(1)
クリーの方法(2)
2)評価項目ごとに代替案の評価を行う
項目間の重要性について数量的な判断が
可能なときに用いる
評価項目が比率の計算が可能な比例尺度の場合その
まま計算可能
1)評価項目のウェイト決定
①評価項目を任意の順序に並べる
②評価項目の上から順に隣接する
次の項目を基準として重要度の
判定を数量的に行う(Ri欄)
評価項目
Ri
Ki
Wi
死亡者の減少
3
9.0
0.62
負傷者の減少
3
3.0
0.21
経済的損失の減少
2
1.0
0.07
外観
0.5
0.5
0.03
実施コスト
-
1.0
0.07
14.5
1.00
 死亡者の減少は、負傷者の減少の3倍の価
値がある。負傷者の減少は、経済的損失の
3倍の価値がある。…
計
③最下行の実施コストを1.0として
基準化(Ki欄)
④Kiの合計を1.0に基準化してウェ
イトWiを求める
クリーの方法(3)
代替案
Ri
Ki
Wi
ガードレール
歩道
信号
0.8
2.0
-
1.6
2.0
1.0
0.35
0.43
0.22
4.6
1.00
負傷者の減少
ガードレール
歩道
信号
0.67
1.88
-
1.26
1.88
1.00
0.30
0.46
0.24
計
4.14
1.00
経済的損失の減少
…
…
…
…
外観
…
…
…
…
実施コスト
…
…
…
…
計
参考:PATTERN(1)
PATTERN:ハネウェル社が開発
3)代替案の総合得点 Aj=ΣWiSij を計算する
ガードレール
評価項目
死亡者の減少
歩道
信号
評価項目
ウェイト
Wi
Si1
WiSi1
Si2
WiSi2
Si3
WiSi3
死亡者の減少
負傷者の減少
経済的損失の減少
外観
実施コスト
0.62
0.21
0.07
0.03
0.07
0.35
0.30
0.33
0.20
0.19
0.2170
0.0630
0.0231
0.0060
0.0133
0.43
0.46
0.50
0.50
0.04
0.2666
0.0966
0.0350
0.0150
0.0028
0.22
0.24
0.17
0.30
0.77
0.1364
0.0504
0.0119
0.0090
0.0539
計
1.00
-
0.3224
-
0.4160
-
0.2616
今回の例の場合は、「歩道の設置」が最も望ましい
と判断
Planning Assistance Through Technical Evaluation of
Relevance Numbers
関連樹木法の一種
目的の階層を樹木状に配列し、各階層の重要度を判定する
ための基準となる項目を選定する。
下位の階層では必ずしも手段目的関係にこだわる必要なし、単なる
分類に過ぎない。
樹木の各レベルにおいて、そのレベルに属する各項目を設
定し、各基準項目のウェイトを合計が1になるように定める。
樹木のそのレベルに属する各項目のウェイトを基準項目毎
に合計が1になるように定める。
各項目の重要度を、項目のウェイトと基準のウェイトの積和
で求める。
4
参考:PATTERN(2)
交通安全対策を例に、簡略化のため目的を3階層に
区分して「(中目的)事故の防止」の下位レベルに掲げ
た三つの項目が事故防止に関してもつ重要度を評価
することとする。
運転者の教育・訓練
運転者の安全運転
意識の向上
事故防止
車軸の操縦機能の
向上
道路施設の改善
交通事故に
よる社会的
損失の緩和
損失の緩和
………
(中目的)
………
評価の基準
①死亡者の減少(0.7)
②負傷者の減少(0.2)
③経済的損失(0.1)
小目的は単純化のため
①運転者の安全運転意識の向上
②車軸の操縦機能の向上
③道路施設の改善
回復の促進
(大目的)
広報活動
(小目的)
とする。
(細目的)
参考:PATTERN(4)
最上位の目的に対する総合評価
各レベル毎に重要度の評価を行い、全レベル通
じて乗算を行う
大目的のウェイト1に対して、中目的Aiの重要度
をw(Ai)、Aiの下位の小目的Bjの重要度をw(Bj)、
さらにその下位Ckの重要度をw(Ck)とするとき、
Ckの総合的重要度(TDR:total direct relevance)
TDR(Ck)= w(Ai)×w(Bj)×(Ck)
レベルが4以上になった場合も同様に掛け合せる
交通安全対策の「(中目的)事故の防止」の重要度を
0.5とするとき、「(小目的)運転者の安全運転意識の
向上」のTDR=0.5×0.34=0.17となる。
AHPの長所と欠点
AHPの長所
問題を明確に構造化できる
単純な一対比較で対応できる
意思決定者の判断の一貫性を確保できる
多方面に活用できる
AHPの短所
数量化に伴うあいまいさ
新たな代替案が既存の代替案の順位へ影響
代替案、目的が多くなると一対比較の手間増大
必ずしも検証可能な公理に基づいていない
参考:PATTERN(3)
3つの小目的のそれぞれについて、3つの基準それぞ
れで重要度を評価すると、「(中目的)事故の防止」に対
する各小目的の重要度は表のようになる。
基準
死亡者
の減少
負傷者 経済的損
の減少 失の減少
基準のウェイト
0.7
0.2
0.1
1.0
運転者の安全運
転の意識向上
車軸の操縦機能
向上
道路施設の改善
0.3
0.2
0.5
0.7×0.3+0.2×0.2+0.1×0.5=0.34
0.1
0.2
0.3
0.7×0.1+0.2×0.2+0.1×0.3=0.14
0.6
0.4
0.2
0.7×0.6+0.2×0.4+0.1×0.2=0.52
合計
1.0
1.0
1.0
1.0
合計
※複数人で評価する場合には、全員の評価結果の平均値を各基準毎の各目的
のそれぞれについて求めた上で、各基準についての合計が1になるように比
例配分する。
AHP(Analytic Hierarchy Process)
AHP(階層分析法、階層化意思決定手法)
1970年代にSaaty教授(ピッツバーグ大学)によっ
て開発された意思決定問題(評価問題)に対する
システムアプローチ
問題を階層化
問題-評価基準-代替案
一対比較
客観的評価の実現
整合性を客観的に評価する計算方法が存在
固有値問題として定式化
幾何平均を用いた簡便法も存在(理論的根拠有り)
有意差については、現状では数学的に証明されていない
AHPの計算の概要
(1)問題を分析して階層構造図を作る.
(2)階層図の各レベルの要素をすぐ上のレベルの
各要素から見て一対比較をして、行列を作る。こ
れを階層図の上から順に下に行う。
(3)各一対比較行列で、要素のウェイト、整合度
(C.I.)を計算する。C.I.が大きすぎる場合、(2)の
一対比較をやりなおす。
(4)一対比較の結果から、ウェイトを合成し、最終
目標から見た代替案の総合ウェイトを求める。
意思決定にはまず「問題」があり、そして決定の対象
になるいくつかの「代替案」がある。代替案を選択する
ために「評価基準」が存在する。
5
参考:AHPの数学的背景(1)
階層のあるレベルの要素A1, A2,…, Anのすぐ上のレ
ベルに対する重みw1, w2,…, wnを求める。このときai
のajに対する重要度をaijとすれば、要素A1, A2,…, An
のペア比較マトリックスは、A=[aij]となる。
もし、 w1, w2,…, wnが既知のとき、A=[aij]は
参考:AHPの数学的背景(3)
さらに、Aのランクは1なので、固有値λi(i=1,…, n)は
1つだけが非ゼロで他はゼロとなる。また、Aの主対
角要素の和はnなので、ただ1つゼロでないλiをλmaxと
すると
λi= 0,λmax = n
( λi≠λmax )
となる。
したがって、 A1, A2,…, Anに対する重みベクトルWは
Aの最大固有値λmaxに対する正規化(Σwi=1)した固
有ベクトルとなる。
実際には、Wが未知で、意思決定者の答えから得ら
れたペア比較マトリックスよりW’を計算する。すると、
A’W’= λ’maxW’ (λmaxはA’の最大固有値)
となる
参考:AHPの数学的背景(5)
簡便法⇒ウェイト:固有値→幾何平均
幾何平均:(ai1×ai2×…×ain)1/n
対数最小二乗法(LLS)による説明
一対比較のデータaijに対して、その真の値wi/wjに、あ
る正の値の誤差eijを乗じたものと考えることは妥当。
したがって、aij = wi/wj・eij (eij>0)となるので、両辺の
対数をとると log aij = log wi-log wj +log eij
ここで誤差の二乗和を最小にするlog wi(=最小二乗推
定)を求めると、その解はaijの幾何平均となる。
⇒「LLSの方法によれば第i番目の対象の個別評価値
は、ペア比較行列の第i行の幾何平均で与えられる
※LLSと固有ベクトル法はどちらが良いのかは、分かって
いない(n≦3の場合は一致することが証明済み)。
参考:AHPの数学的背景(2)
この場合(=意思決定者の判断が完全に首尾一貫し
ている場合)、すべての i, j, k について aij×ajk=aik
が成り立つ。
このペア比較マトリックスAに重み列ベクトルWをか
けるとベクトルn・Wを得る。すなわち、
A・W=n・W
となる。この式は、固有値問題
(A-n・I)・W = 0
(Iは単位行列)
に変形できる。ここで、W≠0 が成り立つためには、n
がAの固有値にならなければならない。このときWは
Aの固有ベクトルとなる。
参考:AHPの数学的背景(4)
したがって、前述したとおり、W’はA’の最大固有値
λ’maxに対する正規化した固有ベクトルとなり、これに
より未知のW’が求まる。
ただし、実際に状況が複雑になると意思決定者の答
えが整合しなくなる(首尾一貫しなくなる)。A’が整合し
なくなるにつれて、λmaxはnより大きくなる。
サーティの定理
より、常にλmax≧nが成り立ち、等号は首尾一貫性の
条件が満たされるときのみ成立するので、これより整
合度指数(C.I.)=(λmaxー n)/(n ー 1)を首尾一貫性の
指標として採用できる。
AHPの例題(1)
携帯電話機のデザイン
選択すべき電話機がA,B,Cの3つ
評価項目が「スタイル」、「携帯性」、キーの押し
やすさに関する「操作性」の3つ
携帯電話機のデザイン
スタイル
モデルA
携帯性
モデルB
操作性
モデルC
6
AHPの例題(2)
AHPの例題(3)
簡便法による評価項目の重要度の計算
評価項目についての一対比較
行(縦の項目欄)と列(横の項目欄)の関係に表記
して、行と列との組み合わせで比較
対
スタイル
携帯性
操作性
スタイル
1
3
1/3
携帯性
1/3
1
1/5
操作性
3
5
1
1両方の項目が同じくらい重要
3行の項目が列よりやや重要
5行の項目が列より重要
7行の項目が列よりかなり重要
9行の項目が列より絶対的に重要
携帯性
操作性
スタイル
1
3
1/3
携帯性
1/3
1
1/5
0.41/3.87= 0.105
操作性
3
5
1
2.47/3.87= 0.637
整合度=(平均-項目数)/(項目数-1)=(3.039-3)/(3-1)=0.019 < 0.1
※なお、2,4,6,8の値は補間的に
利用)
※数の逆数:後の項目から前の項目
をみた場合に用いる
 整合度は、一般に0.1以下であることが望ましい(問題によっては0.15まで許容
される)が、その以上の数値の場合には、一対比較表を再度チェックして、首尾
一貫性がとれているか確認し、必要に応じて修正する必要がある
⇒比較項目の一覧表は整合性があることが分かる→重み付けが決定
AHPの例題(5)
評価項目毎に携帯電話を評価する
スタイル
モデルA
モデルB
評価項目の重み付けと評価項目毎の評価対
象(携帯電話)の重み付けから総合評価する
整合度=0.032<0.1
モデルC
幾何平均
評価値
モデルA
1
5
1/3
1.186
0.28
モデルB
1/5
1
1/7
0.306
0.07
モデルC
3
7
1
2.759
0.65
総合評価
モデルA
携帯性
スタイル
携帯性
操作性
0.258
0.105
0.637
(0.279)
(0.105)
(0.105)
0.072
幾何平均の和=3.872 整合度=0.019<0.1
携帯性
モデルA
モデルB
モデルC
幾何平均
評価値
モデルA
1
1/3
1/5
0.405
0.10
モデルB
3
1
1/3
1.000
0.26
モデルC
5
3
1
2.466
0.64
操作性
モデルA
モデルB
モデルC
幾何平均
評価値
モデルA
1
1/5
1/3
0.405
0.10
モデルB
5
1
3
2.466
0.64
モデルC
3
1/3
1
1.000
0.26
操作性
1.00/3.87= 0.258
 評価の整合性(C.I.=Consistency Index)がとれているかどうか
チェックする
AHPの例題(4)
スタイル 幾何平均の和=4.250
重要度(幾何平均を縦
の合計で割る)
スタイル
縦の合計=3.87
例えば,「スタイル」(行)と携帯性(列)を比較して、スタイルの方が
携帯性よりやや重要であれば、この枠に「3」の数値を記入する.





幾何平均(横の数字を掛
けて3乗根をとる)
対
幾何平均の和=3.872 整合度=0.019<0.1
集団AHP法
集団でAHPを行うためには?
各人が行った一対比較の結果をまとめる必要
Saatyの方法
話し合い:集団を構成しているメンバー全員で集団
としての一対比較値とする
モデルB
(0.072)
モデルC
(0.649)
0.011
(0.258)
0.019
0.027
(0.637)
0.168
0.067
総合評価
(0.258*0.279+0.105*0.105+0.637*0.105=)
0.067
(0.637)
0.150
(0.258*0.072+0.105*0.258+0.637*0.637=)
0.406
(0.258)
0.451
(0.258*0.649+0.105*0.637+0.637*0.258)=
0.165
0.399
総合評価の結果から、モデルB、C、Aの順となる
※計算の詳細については、別資料(AHP.PDF、AHP.XLS)
を参照
ANP:AHPの応用
AHP(問題の階層構造)⇒ANP:Analytic
Network Process(ネットワーク構造)へ
評価される代替案自身が評価基準を評価
⇒集団AHP法の応用問題になる
時間がかかる。メンバーの力関係で結論が変わる
幾何平均:各メンバーが与えた一対比較値をそれ
ぞれ幾何平均する
集団としての結果が、どのメンバーの値と離れる可能性
その他、区間AHP法、アクター法など(省略)
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