情報化の進展と権限・責任の見直し

PPPニュース 2016 No.15 (2016 年 11 月 10 日)
情報化の進展と権限・責任の見直し
自治体経営の情報戦略の核として、
「情報通信革命による自治体経営」から「情報通信革命を育て
る自治体経営」へ、将来に向けた進化の視野を広げる必要がある。その理由として、①地域メッシュ
情報の集積度とそのネットワーク化(伝達移動)が地域活力と競争力の原点となること、②情報通信
革命による行政内外の情報コミュニケーションの形態を変革し、公共サービスの効率化・質的向上の
枠組みを高めること、などがあげられる。情報は、組織・地域の内外を問わない人間関係を形成する
中核的要素であり、情報の流れの変化は、人間関係を形成する「情報の集積」と「伝達移動」の流れ
を変える。情報化の流れは、効率的に人間関係の権限と責任の体系化を図る経済社会のガバナンス構
造の中核的位置づけにある。同時に、様々な社会現象が相互連関性を強めるなかで、それらに対応す
るため社会の脱縦割り等従来の枠組み自体の変革をも求める要因となる。このため、行政組織内部だ
けでなく行政組織外の地域や官民連携に関する情報化においても、ガバナンス構造、すなわち権限と
責任の構図の見直しが不可欠である。たとえば、HP 等による積極的かつ適時適切な地域の情報発信
には、情報発信に関する稟議制度や文書主義等の階層的決裁主義の見直しが大前提となる。また、官
民連携による公共サービスの効率化や付加価値向上においても、情報の集積・伝達の変革とそれに伴
う官民の権限・責任の見直しがセットで行われる必要がある。
行政組織内領域にかかる情報化は、従来の縦割り構造・閉鎖的行政組織の中で情報の適切かつ効率
的な管理と活用を図る領域である。住民票や徴税、給付の分野が代表的であるほか、地域内の経済社
会活動に関するデータ情報の管理・活用も含まれる。従来も住民票番号等で一定の管理は行われてき
たが、地方自治体ごとに情報の管理や活用、企画部門を含めた庁内共有体制等、質の面も含めて大き
く異なるのが実態である。マイナンバー制度も含め、庁内情報の体系的な把握・活用、地域メッシュ
情報の把握・活用が極めて重要であり、公共サービスの効率化や質的改善の根底に位置する。また、
公共施設の再編でも、部局単位の業務別施設管理ではなく、施設管理の面から一括した情報の下での
業務委託等の手法が必要となる。
また、公共サービスの需要サイド重視型への転換を模索するいわゆる「アウトリーチ型」の公共サ
ービス提供領域への視野も重要となる。庁内管理型と同様に行政組織内領域の情報を対象とするもの
の、行政内部の縦型ネットワークを克服し、個々の住民・世帯の状況に応じて必要としている公共サ
ービス情報を積極的に提供することが求められる。これまでの公共サービスは、行政側の視点で情報
提供を行うことを中心とした供給サイド型が基本であり、部局ごとのタテ割りでの情報提供、住民か
ら行政機関にアクセスする申請主義を基本としてきた。このため、住民側が情報へのアクセスコスト
を負担し、住民側の得た情報が量的・質的に不足していれば、公共サービスの選択が制限的となる「限
定された選択肢」の構図の中にあった。顧客側から動くことを前提に財やサービスの提供を行ってき
た従来の「百貨店方式」と同様である。こうした実態を情報面から改善し、公共サービスを住民が自
ら知り選択できる環境の形成が求められる。住民、行政の機会コストの概念をイメージすることで、
公共サービスの進化に結び付けるためのトリガー的要素の発掘が可能となる。機会コストは、現金主
義を基本とする地方自治体等公的部門では理解が難しい概念である。機会コストとは、そもそも希少
性を前提とする概念であり、右肩上がりで新しい資源を追加投入できる時代にはあまり意識されなか
った。しかし、21 世紀において地方自治体では、財源も人材も時間も大きく不足し、あらゆる資源
が希少性を高めている。希少化する財源、人材、時間を少しでも比較優位の分野に投入し、より良い
公共サービスを提供することが求められる中で、機会コスト概念の活用は一層重要となっている。情
報の形態を申請書への記入やそれの電子化で生じる転換コスト、住民が窓口に来て相談し申請する移
動コスト等を減らし、住民と職員の時間的余裕を共に拡大し生じた余裕を付加価値の高い領域に活用
する仕組みづくりなどが重要となる。
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