国内新聞社のウェブサイト展開と新聞社規模との関連性

日本マス・コミュニケーション学会 2009 年度春季研究発表会(2009 年 6 月 6 日)
国内新聞社のウェブサイト展開と新聞社規模との関連性
―ウェブコンテンツとウェブテクノロジーに関する量的比較―
○小寺敦之
(上智大学文学研究科)
○竹村朋子
(上智大学文学研究科
博士後期課程)
デジタル技術とコンピュータネットワークを中心とした新たなメディア環境は、マス・メディア
の活動や経営戦略にも大きな変更を促した。特に、人々と社会とをつなぐ主要な媒体であった新聞
は、インターネットによる多彩な情報の前に、その役割の再検討を迫られている。
そのような状況において、近年、通信を用いた新聞社による新たな情報サービスが相次いで発表
され、サービスの提供に際して他社との横のつながりを強める動きも活発になってきた。新聞社の
ウェブサイト展開は、今後の新聞社の役割を考える上で大きな意味を持つことになると思われるの
である。
新聞社のウェブサイト展開は、未だ発展途上であり、アクセス数も大手ポータルサイトに比べれ
ば充分なものとは言い難い。しかし、この新たな媒体と向き合うことは時代の趨勢であり、その潜
在的可能性も決して小さくないと考える。ユーザーを惹きつける展開に成功すれば、その形態が紙
媒体であり続けるか否かは別として、新聞が情報産業の中心として支持され続けるだけでなく、収
益面や読者増加にプラスに働く可能性も芽生えるかもしれない。
本研究は、以上の問題意識に基づいて、現在の日本の新聞社が展開するウェブサイトの現状を経
験的データから明らかにするものである。
1.問題提起
新聞とウェブサイトの関係については、国内外を問わずその競合性がインターネットの普及初期
から指摘されていた。つまり、紙媒体の新聞がインターネットによるニュース受容に置き換えられ
るのではないかという議論である。しかし、国内外の利用者調査を見ても、現時点ではウェブサイ
ト展開が直接的に紙媒体の競合になっているという決定的な証拠は見出されていない。
・印刷版とオンライン版の読者はオーバーラップしている(Chyi & Lasorsa,2006)。
・インターネットユーザーの方が印刷版の新聞を購読する傾向がある(Stempel et al.,2000)。
・インターネット利用時間と新聞閲覧時間との間には正の相関がある(橋元,2005)。
つまり、発行部数減少の現実を認めるとしても、現状では紙媒体とウェブサイトは競合するとい
うより補完的であり、場合によっては相乗効果的な側面もあると考えるのが妥当だと思われる。少
なくとも、印刷版の発行部数減少の要因をウェブ展開のみに帰するのではなく、新聞を取り巻く社
会状況や経営の在り方を踏まえた総合的議論の中で紙媒体に対するウェブの位置付けを考えてい
く必要があると言えよう。
紙媒体とウェブサイト展開を両立させていくためには、両者が有している媒体としての性質を的
確に捉えた戦略が求められるかもしれない。印刷された新聞には、携帯性、周期的総括性、概覧性
という特性があり、オンラインメディアには速報性、詳報性(=ページ数が無限)という特性があ
る(筑瀬,2002)。近年では、多機能性もオンラインメディアの強みとして目立つようになってきた。
1
さらに、新聞が培ってきた価値や有用性はオンライン展開でも強みとなる可能性がある。つまり、
新聞の利点とウェブの利点とをどのように組み合わせ、新旧の読者を惹きつけるサービスをどのよ
うに構築していくかということが、新聞社のウェブサイト展開に求められる課題だと考えられるの
である。
では、新聞社は現在どのようなウェブサイトを提供しているのだろうか。新聞社が早くからウェ
ブ展開に進出してきたアメリカでは当初からいくつかの調査研究が行われてきた。
・新聞社のウェブサイトはテキスト情報が主となっている(Li,1998)。
・「ニュースの多様性」がウェブサイトの中心(Massey & Levy,1999)。
・
「ニュース」
「マルチメディア」
「インタラクティビィティ」
「収益源」に属するコンテンツが増加
傾向にある(Greer & Mensing,2004)。
・消費者サービス(consumer services)コンテンツが多用(Dibean & Garrison,2001)。
新聞社のウェブサイトを取り巻く現状と研究成果を踏まえると、新聞社はニュースのオンライン
提供という枠組みに留まらず、「ウェブサイトを通じて誰にどのような情報・サービスを提供して
いくか」「新しいデジタル技術とどのように付き合っていくか」についての課題を抱えながらこの
新たな取り組みを行っていると言えそうである。
ところで、Tremayne et al.(2007)は、ニュースのアップデートや、ウェブサイトで扱われる
ニュースの種類について分析する中で、新聞社の規模によってウェブサイト展開への取り組みにタ
イムラグが生じていることを発見した。新聞社の規模によってウェブ展開に時間的差異が見られる
ことは、Zaharopoulos(2003)や Greer & Mensing(2004)も指摘していることであり、本来で
あれば小さな新聞社に情報発信能力を与えると期待されていたインターネットは、資本規模のギャ
ップを埋めるどころか、資本格差を助長しているという見方もできる。
新聞社によってウェブサイト展開が多様であるという推測は難くないが、日本の新聞社ウェブサ
イトを取り巻く現状を大きく捉え、有効な将来像を考えていくためには、充分な現状分析を踏まえ
た上で議論を進めていくことが有効であろうと思われる。特に、発行部数やエリアが多様な日本の
新聞社間にウェブ展開の差異が生じているならば、それぞれの規模の新聞社がどのようにウェブ展
開に取り組むべきかについての示唆を得ることができると思われる。
しかし、現在のところ、日本では新聞社のウェブサイトを対象とした実証的な調査研究はほとん
ど行われていない。この状況を打開するためには、日本の新聞社ウェブサイト展開の現状に関する
基礎的な調査研究を行う必要がある。以上の観点から、日本の新聞社ウェブサイト展開の大枠を理
解することを目的として、本論文では以下のリサーチクエッションを設けることとする。
RQ1 日本の新聞社ウェブサイトにはどのようなコンテンツが設けられているか
RQ2 日本の新聞社ウェブサイトにはどのようなテクノロジーが搭載されているか
RQ3 新聞社ウェブサイトに搭載されるコンテンツやテクノロジーは、新聞社の規模によってど
のように異なるか
2.方法
『日本マスコミ総覧 2007-2008 年版』
(文化通信社)に収録されている一般紙(通信社・専門紙・
スポーツ紙等を除いた新聞)312 社を調査対象として抽出した。さらに、刊行形態による偏向を避
けるために日刊発行(夕刊紙含む)であることを条件に加え、各社のウェブサイト開設の有無を確
認したところ、上記 312 社は 125 社に絞り込まれた。さらに調査前に休刊が判明したものが 1 社、
2
調査期間を通してリニューアル工事中のサイトが 1 社あったため、これらを除外した 123 社を最終
的な分析対象とした。
本調査では購読者数データから調査対象を 3 階層に分類することとした。1 日の購読者数が 50
万部を超える新聞(全国紙・ブロック紙とブロック紙に準ずる購読者数を有する一部の県紙)を「広
域紙」、購読者数が 5 万部以上 50 万部未満の新聞(大半の県紙と購読者数の多い一部の広域ローカ
ル紙)を「地方紙」、購読者数が 5 万部未満の新聞(一般的なローカル紙)を「ローカル紙」とカ
テゴライズして上記 123 社を振り分けた。その結果、
「広域紙」は 13 社、
「地方紙」は 46 社、
「ロ
ーカル紙」は 64 社となった。
その後、分析対象のウェブサイトを通覧する予備調査を行い、各ウェブサイトが提供する情報・
サービス、および搭載されているデジタル技術を【表 1】のコーディングカテゴリーとして整理・
分類した。
【表1】コーディングカテゴリーと細目・評価法
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以上の手続きを定めた上で、2008 年 12 月 12 日~26 日に共同研究者である筆者(2 名)が同時
並行でコーディング作業を行った。同時並行作業としたのは、ウェブサイトの改編やアップデート
による分析対象の不一致を避けるためである。分析は、ホームページ(トップページ)と、ホーム
ページから派生するコンテンツに限定することとして、擬似的に内部コンテンツとして搭載されて
いる外部サイトも分析対象から除外した。また、ページの入り口が存在していても「準備中」と表
記されていたり、該当ページへのリンクが失われていたりなど、実際に機能していないと判断され
るものはカウントしないこととした。さらに、単純なリンク集のように、新聞社が一定の情報を作
成していないものに関しても、原則的に除外することとした。
作業終了時のコーディング一致度は、最も高い「マルチメディア」で 91.9%、最も低い「バラエ
ティ」で 85.7%、トータルでは 87.5%であった。差異が生じたデータに関しては、両者の合議によ
って最終的な判断を下すこととした。
3.調査結果と分析
国内の新聞社ウェブサイトのコンテンツ展開も、アメリカと同様にニュースを中心としたもので
あると言えそうである。新聞社のウェブサイトではニュースを複数のカテゴリー・細目にラベリン
グして利用者にニュースアクセスの選択肢を与えているが、これらの「ニュースの多様性」は、45
項目に細分化されたサイトからニュースを全く掲載していないサイトまで幅は拡いものの、約 3 個
(Median=3, Mean=7.3, SD=8.3)であった。ただし、「他紙ニュースの掲載(8.9%)」や「通信
社ニュースの掲載(26.0%)」は多いとは言えず、他紙・通信社とのつながりは「47NEWS」に加
盟している地方紙を中心に見られるに過ぎなかった。
新聞社の規模によってニュースのコーナー数に違いがあるかを調べるために、広域紙・地方紙・
ローカル紙の平均値をそれぞれ算出すると、広域紙が約 20 個(M=20.2, SD=9.8)、地方紙が約 10
個(M=10.3, SD=8.0)、ローカル紙が約 2 個(M=2.4, SD=2.4)であった。広域紙のウェブサイト
には、ハードニュースだけでなく、スポーツや芸能ニュース、文化欄や囲碁・将棋欄に至る多くの
記事が丁寧に掲載されており、新聞が扱うニュースの幅や量、ウェブサイトに関わる人的資源の差
が如実に反映されていると推察することができる。新聞社の規模を独立変数、
「ニュースの多様性」
の得点を従属変数とした分散分析でも有意な群間差が見られた(F (2,120) = 56.45, p<.001)。Tukey
の HSD 法(5%水準)による多重比較では「広域>地方>ローカル」の序列が見られ、新聞社の規
模とウェブサイトにおける「ニュースの多様性」には強い関連があると言えそうである。
ニュース外コンテンツに関しては、
【表2】
(上段)に示した。比較的多くのウェブサイトに搭載
されているコンテンツとしては、「天気・災害情報(39.8%)」「生活情報(43.9%)」などの実用的
「地域行事情報(56.9%)」
「宿泊・飲食店情報(45.5%)」
な地域情報、そして「地域自然情報(44.7%)」
などの観光・レジャー情報が挙げられる。共同ショッピングサイト「47CLUB」の影響もあって「シ
ョッピング(41.5%)」の割合も高い。目立った傾向があるとは言い難いものの、全体的にエンタ
ーテイメント性を追求するよりも、実用性・地域性を重視した情報を提供しようという流れが見出
せる。
同じく【表2】(上段)には、広域紙・地方紙・ローカル紙に区分したコンテンツの搭載割合を
示したが、広域紙はほとんどの項目で他を圧倒する割合を誇っており、多様なコンテンツを盛り込
んだ展開が行われている状況が見出せる。
「ゲーム(61.5%)」を除いた「生活バラエティ」の各項
目は 8 割以上のサイトで見られ、規模の小さな新聞社群に比べてエンターテイメント性のあるコン
テンツを多く搭載しているのも広域紙の特徴である。求人情報・不動産情報が含まれる「生活情報
(100%)」や、レストランガイドが含まれる「宿泊・飲食情報(92.3%)」など、データベースを
構築することでこれらの情報をカバーしている側面もある。こうした広範な展開が可能な背景には、
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ウェブ事業への人的・金銭的投資が可能であることに加えて、自社が抱える新聞外メディアとの融
合を図っている点、さらに自社の印刷版の新聞がカバーするコンテンツ自体に多様性があり、ウェ
ブサイトに素材を転用することが可能であるという点を挙げられよう。
地方紙には、広域紙との格差を多様な手法でカバーしながら、地域メディアとしてのウェブサイ
トを構築しようという方向性が感じられる。先述したように、多くの地方紙は他紙・通信社との連
携(ニュース・ショッピング)によって自社のみでは難しいコンテンツ展開をカバーしている。さ
らに、「地域自然情報(58.7%)」「地域行事情報(76.1%)」の割合は広域紙より高く、広域紙より
も地域を重視した展開を行っていることが推察される。都道府県や市などの限定的な購読・取材エ
リアを有していることで、地域情報を丁寧にフォローできる強みが表れていると言える。
【表2】「コンテンツの多様性」×新聞社規模(上段=項目別割合/下段=カテゴリー別得点平均値)
全項目を通じて、地方紙と広域紙との差は、地方紙とローカルとの差よりも小さい。言い換えれ
ば、特徴的な展開を見せる広域紙・地方紙に対して、ローカル紙はウェブ展開に手が回っていない
状況にあると言える。ローカル紙には、自社の会社概要だけを掲載するサイトが複数あり、それら
が平均値を下げたという側面もある。「地域自然情報(32.8%)」「地域行事情報(40.6%)」が 4 割
前後あるものの、その他のコンテンツが掲載されている割合は広域紙・地方紙に比べると非常に少
ない。
これら各項目をカテゴリー別に集計したものを【表2】(下段)に示す。これを見ても、新聞社
の規模が大きくなれば新聞社ウェブサイトの展開が多様になっていくことが分かる。カテゴリー得
点のバラつきも小さく、広域紙が 5-4 点、地方紙が 3-2 点、ローカル紙が 1-0 点の付近に分布して
いる。コンテンツは新聞社によって多彩だが、その量や幅は新聞社の規模によって規定されている
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と言える。
さらに、
【表2】
(下段)には、新聞社の規模を独立変数、カテゴリー得点を従属変数とした分散
分析を行った結果を示したが、全てのカテゴリーで有意な群間差が見られる(生活バラエティ:F
(2,120) = 100.46, 地域生活情報:F (2,120) = 85.78, 地域観光・レジャー情報:F (2,120) = 38.46,
全て p<.001)。多重比較でも、「地域観光・レジャー情報」を除く全カテゴリーで「広域>地方>
ローカル」の序列が見られた。新聞社の規模とウェブサイト展開には、かなり明確な格差があると
言えそうである。
多重比較における唯一の例外である「地域観光・レジャー情報」においては、広域紙と地方紙に
有意な差が見られなかった。さらに、「コンテンツの多様性」に含まれる 3 カテゴリーのバランス
を見ると、広域紙では「生活バラエティ」が最も高いのに対して、地方紙では「地域観光・レジャ
ー情報」が最高値のカテゴリーとなっている。つまり、ニュース以外で重視されているコンテンツ
は、広域紙では「生活バラエティ」であり、地方紙では「地域観光・レジャー情報」というわけで
ある。これは地方紙が地域情報に強いこと、もしくは地域情報に特化せざるを得ない状況を反映し
ていると思われるが、言い換えれば、広域紙のウェブ展開に対抗して地方紙らしさを表現できるア
プローチとなる可能性があることを示唆している。
【表3】「テクノロジー」×新聞社規模(上段=項目別割合/下段=カテゴリー別得点平均値)
次に、新聞社ウェブサイトにおける「テクノロジー」の搭載についての調査結果を【表3】(上
段)に示す。全体的な傾向としては、
「掲示板・ブログ(30.9%)」
「オンライン投稿(42.3%)」
、そ
して「記事配信(39.0%)」
「検索システム(69.1%)」を搭載する新聞社が多い。動画ニュースや定
点カメラなど「動画(30.1%)」を組み合わせるサイトも少なからず見られた。技術の普及やブロ
ードバンド化によって、搭載できる技術の幅が拡がっていることを示している。
新聞社の規模別で項目を見ると、広域紙では「会員制サイト(76.9%)」が目立つ。また、RSS
を中心とした「記事配信(84.6%)」や、
「動画ニュース(92.3%)」
「音声ニュース(38.5%)」など、
テキストと写真を超えたニュース配信の仕組みを多く提供している点にも特徴が見られる。いずれ
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の場合も、「コンテンツの多様性」と同じく人的・金銭的投資が可能であるという側面が大きいよ
うに思われる。
地方紙では、
「オンライン投稿(71.7%)」を可能としている割合が広域紙より高い点が注目され
る。また、号外や特集をオンラインで配布する「記事 PDF 提供(39.1%)」は、技術的により高度
な「記事配信」への移行段階と見ることができる。ローカル紙では、
「検索システム(51.6%)」は
5 割を超えたものの、ウェブサイトの技術的可能性を充分に活かせているというレベルには至って
いないという印象を受ける。「動画ニュース(9.4%)」「音声ニュース(0%)」など、マルチメディ
アニュース配信への取り組みにも挑めていない。
「コンテンツの多様性」と同様に、「テクノロジー」の各項目をカテゴリー別に集計したものを
【表3】(下段)に示した。ここでも、全カテゴリーで有意な群間差が見られた(インタラクティ
ブ:F (2,120) = 34.55, マルチメディア:F (2,120) = 65.79, 全て p<.001)。多重比較でも「広域>
地方>ローカル」の明確な序列が見られ、「コンテンツの多様性」と同じく資本格差が存在してい
ることが確認された。
4.考察
本論文では、国内新聞社のウェブサイト分析を通じて、新聞社ウェブサイトに搭載されているコ
ンテンツとテクノロジーの現況、および新聞社の規模によるウェブサイト展開の差について調べて
きた。その結果、搭載されているコンテンツやテクノロジーには一定の傾向があることが示された
と同時に、アメリカの先行研究の指摘と同じく、新聞社の規模によってウェブサイト展開には格差
が存在することが確認された。
ただし、調査で高得点を記録したウェブサイトが必ずしも優れているとは限らないという点は指
摘しておく必要があるだろう。特に広域紙においては、多くのコンテンツを盛り込むがゆえに、利
便性に欠けるものも少なくないように思われた。また、大手ポータルとの差別化が難しいという印
象も受けた。本調査では、多くのコンテンツを盛り込めば評価点がアップするという分析手法を用
いているため、その利便性については言及できていない。この点については、利用者調査を組み合
わせた多角的な調査研究が求められる。
新聞社の規模とウェブサイト展開との関連性については、日本的な特徴と言える状況が明らかに
なった。つまり、広域紙がポータルサイトに準じる展開を行っているのに対して、地方紙は地域情
報を重視したサイト展開を図っているわけである。ただし、これはコンテンツのバランスに注目し
た場合に言えることであり、展開の多様性の観点から見ると、広域紙は地方紙よりも地域情報を扱
っていることは【表2】に見られる通りである。
一方で、ローカル紙は広域紙・地方紙に大きく溝を開けられており、積極的なウェブサイト展開
には至っていない状況にある。また、本調査では、ウェブサイトを有している新聞社を分析対象と
したが、企業がウェブサイトを開設することが趨勢の現状においても、ウェブサイトを有していな
いローカル紙が圧倒的に多いことは述べておく必要がある。本調査で取り上げたローカル紙が、必
ずしも国内のローカル紙を代表するものではないのである。その意味において、ローカル紙がウェ
ブサイト展開で大きく広域紙・地方紙に溝を開けられている状況は、調査結果よりも遥かに大きな
ものであると思われる。
ただし、ローカル紙でも高い得点を示したウェブサイトの取り組み方には、新聞社のウェブサイ
ト展開に関する幾つかのヒントが隠されているように思われる。例えば、唐津新聞社(佐賀県)の
ウェブサイトは同社を中心に立ち上げた地域観光総合サイトである。また、東海日日新聞社(愛知
県)のサイトは、地域情報誌発行企業が立ち上げた東三河の総合サイトの一部として運営されてい
る。新聞社がその目的に沿って地域や地域企業と連携して地域サイトを構築することは、今後の地
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域メディアの在り方のひとつでもあり、また地域活性化の試みにつながっていく可能性がある。今
後は、このような新聞社ウェブサイトの在り方についても議論していく必要があると思われる。
最後に、本調査の限界と課題について述べておきたい。本調査では、コンテンツとテクノロジー
に注目したため、収益性やプロモーションなどの経営的関心については扱っていない。ウェブ展開
が新聞社の収益やイメージアップにどのように役立っているかを調べることは、特に現場からは強
く要請される課題であると思われ、アクセス分析等を交えた総合的調査が期待される。また、本調
査で見出された大きな課題として、コンテンツの質的な違いを反映できるような分析手法を開発す
る必要性を挙げることができる。例えば、「宿泊・飲食店情報」と言うときに、これはレストラン
検索を示すのか、それとも地域の店を丁寧に紹介した特集を示すのかという区分が本調査の分析基
準では対応できなかった。その結果、本調査では幾つものコンテンツを盛り込んだ広域紙が高ポイ
ントを示すという結果になった。より質的な側面を区分できれば、地方紙やローカル紙の地域性が
より明確になったかもしれない。これらを含め、項目やカテゴリーの妥当性について充分な検討を
行うことは、新聞社に限らず、ウェブサイトの内容分析手法を確立していくためにも必要な作業で
あると考える。
【参考文献】
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Newspaers: The Case of Hong Kong,” in X. Li(ed.): 193-205.
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Content in Online Newspapers,” Journalism and Mass Communication Quarterly, 84(4):
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Zaharopoulos, T.(2003),”Online Versions of US Daily Newspapers: Does Size Matter?,” Presented
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研リポート』156: 4-26.
橋元良明(2005)
「現状はニュースサイトと補完関係-利用動向調査から読む新聞への影響」
『新聞研究』
642: 15-18.
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