教育の機会均等、子どもの学習権を脅かす「配置計画」の撤回を求 める

2015年9月2日
教育の機会均等、子どもの学習権を脅かす「配置計画」の撤回を求
める
~「公立高等学校配置計画」
(2016~2018 年度)、2016 年度「公立特別支援学校配置計画」
に対する声明~
北海道高等学校教職員組合連合会
全 北 海 道 教 職 員 組 合
1.
「指針」に固執した「配置計画」を撤回し、子ども・学校の実態と保護者・地域の願い
にもとづいた学校配置を
北海道教育委員会(以下、道教委)は9月1日、
「公立高等学校配置計画」
(2016~2018 年度(以下、
「高校配置計画」)と「公立特別支援学校配置計画」(2016 年度。以下、「特別支援学校配置計画」)を
決定した。
今回の「高校配置計画」には、2016 年度に奥尻高校の道から奥尻町への移管、長万部高校の地域キ
ャンパス校化(センター校は八雲高校)
、定時制課程では、2017 年度に再編整備する函館工業の1学級
減、2018 年度には8校(滝川西、札幌南陵、札幌厚別、石狩南、旭川北、旭川工業、帯広三条、釧路
江南)の各1学級減、市立函館の2学級減、小樽商業(2学級)と小樽工業(3学級)を募集停止し4
学級の新設校(学科検討中)として再編、留萌(4学級)と留萌千望(2学級)を募集停止し6学級の
新設校(単位制普通科、電気・建設科、情報ビジネス化)として再編するなどが「配置計画案」のまま
決定された。6月に「配置計画案」が出されたあと、各地域で開催された第2回地域別検討協議会では、
「中卒者が減っているからといって、ただ単純に学級を減らすということではなく、地域の実情を考え
るべき。今の北海道教育委員会の考え方は、国が推し進めている地方創生の施策に逆行するものである」
などの意見が出されたが、結局「高校配置計画」に反映されることはなかった。
また、「特別支援学校配置計画」では、閉校した高校や中学校を活用するなどして、職業学科の北海
道札幌あいの里高等支援学校、北海道旭川高等支援学校、北海道新得高等支援学校の新設と、普通科の
北海道札幌伏見支援学校の新設(学校名はいずれも予定)などが決定された。新設校が高校や中学校の
校舎の転用では、教室の広さや実習設備等に関わる電源確保など解決しなければならない課題は多い。
また、寄宿舎が併設されない見通しであり、障害のある子どもの学習権を保障するには不十分な内容で
ある。特別支援学校の増設にあたっては、単なる「通学保障」だけではなく、「教育保障」の観点で寄
宿舎の設置・充実を行うことが必要である。
私たちはあらためて道教委に対し、
「新たな高校教育に関する指針」
(以下、
「指針」
)にもとづく「配
置計画」を撤回し、子ども・学校の実態と保護者・地域の願いにもとづいた学校配置の策定を求めるも
のである。
2.地域の声に耳を傾け、その意見を反映した教育政策をすすめることを求める
私たち高教組・道教組などによって組織する「ゆきとどいた教育をすすめる北海道連絡会」では、6
月の「配置計画案」発表後、道内各自治体の首長、教育長と教育懇談を実施し、「指針」見直しを求め
る声を多く聞いてきた。「中学生には高校を選ぶという選択肢も必要である。高校が地域に果たす役割
は大きい」
「町の活性化のためには、高校のあるなしは非常に大きい。希望するものが何人になっても
高校は残していきたい」
(宗谷管内)。
「指針の見直しが必要と何年も同じ事を言っているのに、どうし
て何も変わらないのか」
「北海道も東京も沖縄も同じ基準で学校を設置するのはおかしい」
「自治体とし
て道に対するさまざまな要望があるが、それを伝える手立てがない。教育行政の最も足りない部分であ
る」
「
(高校再編について)まだまだ統合しなくてもやっていけるのではないか。校舎の大きさにも無理
があるのであれば、今でなくてもいいのではないか」(留萌管内)
、など厳しい意見が語られていた。
このまま「指針」にもとづいて「高校配置計画」がすすめば、地域の子どもの学習権を脅かしかねな
い。奥尻高校の町立移管も、道立での存続はいずれ困難であり、高校生が島内で暮らすことが地域の活
力を確保する道につながると判断してのことだ。道教委は一律、機械的な判断ではなく、とりわけ地域
別検討協議会での「聞き置く」姿勢を改め、地域住民や保護者、子どもたちの声に耳を傾け、子どもた
ちの学習権を保障する教育政策をすすめるべきである。
3.地域の学校が果たしている多彩な役割にこそ光をあてるべきである
6月に開催された「第1回北海道総合教育会議」で、柴田教育長は「北海道の場合、179 市町村の 55%
を占める 86 市町村で中学校が市町村に 1 校しかなく、1/5 の当たる 36 市町村で小学校も 1 校しかない
のが実態。これ以上、統廃合を進めていくことがかなり難しい」と述べている。現在 235 校ある道内の
公立高校においても、2020 年度には 10 校減の 225 校となり、自治体に公立高校の無い地域は 30%(54
市町村)となる。自治体に公立高校が1校だけの地域も 53%(94 市町村)になり、高校の無い地域と
併せると 83%(148 市町村)にも達する。
道教委は8月、我々とのやり取りの中で、地域における高校の果たす役割を「単に教育機関としての
役割だけではなく、地域のスポーツ、文化、生涯学習の拠点であり、地域産業へも貢献している。高校
生が地域の行事に参加することで、地域が活性化するなど大きな役割を果たしている。経済効果も生ま
れている」と述べている。さらに学校は住民の交流の場であるとともに、避難所や防災拠点の役割も担
う多様な機能があるということを忘れてはならない。学校がなくなることで地域と子どもたちの結びつ
きは希薄になり、人口減少・過疎化の進行とともに地域活力はますます低下する。
道教委は、
「指針」に基づき機械的に実施している学校再編を地域の未来を左右する重大な問題であ
ると捉え、地域の小規模校にしっかりと目を向け、自治体の将来像と重ね合わせて検討していくべきで
あるし、今春の知事選挙での高橋知事の公約でもあった「急速に進む人口減少と高齢化の克服」とも
相容れない。わたしたちは、希望するすべての子どもに学校教育を保障するため、地域の学校を守るこ
とを求める。効率性一辺倒で地域の文化、コミュニティの中核としての役割を果たしている学校をなく
してはならない。
4.地域による教育「格差」解消が『輝きつづける北海道』につながる
教育基本法第4条の「教育の機会均等」には「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受
ける機会を与えられなければならず、(略)教育上差別されない」と記されている。しかし、総務省の
都道府県別教育費(2013 年度)のデータで在学者一人当たりの学校教育費(注 1)を比較すると、北海道
の小学校は 8 位、中学校は 7 位、特別支援学校は 2 位にもかかわらず、高校・全日制は 27 位、定時制
は 26 位、通信制は 21 位という状況で、道教委の予算に占める高校予算が他の学校種と比べて低く、全
国的にも平均以下に抑えられている。
2013 年度全国学力テストの結果を受け、道教委は『
“平均点そのもの”を追求している訳ではありま
せん。教育の機会均等という義務教育の趣旨を踏まえれば、本来、生まれ育ったところによって学力に
大きな差があってはならず、すべての子どもたちに“社会で自立するために最低限必要な学力”を保障
しなければなりません。
(略)子どもたちの自立や地域社会の発展にも関わる問題です』と述べている。
私たちも、教育の機会均等という趣旨を踏まえて、本来、生まれ育ったところによって教育環境に差
があってはならず、すべての子どもたちに保障しなければならない問題であると考える。高校における
一人あたりの学校教育費が全国と比べて低いということは、子どもたちの自立や地域社会の発展に関わ
る問題であると考える。
どのような学校規模がよいのかは、地域の実情によって異なり、全道一律に決められるべきではない。
少子化の進行しているいまだからこそ「指針」を改め、保護者や地域住民との丁寧な議論を積み重ねて
決める必要がある。諸外国で学校規模が小さいのは、それだけ教育効果が高いからであり、子どもたち
の人格形成・人間的成長にとっても効果的であることが実証されているからである。
高校配置や特別支援学校の増設の問題は、教育予算の充実と密接に関わる問題である。国や道がすす
める、一部「エリート」養成への予算の集中化をただし、教育の機会均等の理念に照らした教育予算の
充実と配分が求められる。私たちは現在、国の責任による 35 人以下学級の前進、教育の無償化、教育
条件の改善を求める「教育全国署名」に全力でとりくんでおり、「ゆきとどいた教育」を求めるすべて
の道民とともに運動をすすめている。同時に、北海道の教育課題や高校配置のあり方を積極的に議論し、
「指針」による高校・特別支援学校の配置計画の問題点を明らかにするとりくみを、今後さらに強めて
いくことをあらためて表明するものである。
(※注 1)
学校教育費とは地方公共団体が公立の幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校、高等学校などにおける学校教育活動の
ために支出した経費で、消費的支出(人件費、教育活動費、管理費、補助活動費、所定支払金)・資本的支出(土地費、
建築費、設備・備品費、図書購入費)・債務償還費(教育施設建設や退職手当等のために起債した地方債の元金の返済や
利子の支払い及び手数料に要した経費)からなる。