2013年度 岐阜経済大学 学内ゼミナール大会 参加論文 ゼミ名 高橋信一(演習Ⅱ)ゼミナール テーマ アップル社、グーグル社、マイクロソフト社の経営戦略比較 代表者 寺口栞(ゼミ長) 参加者 寺口 栞 鈴木 健太 稲田 丈 加藤 滉基 久保田 莉子 梅本 直久 チン ジン フアム ティ スアン グエン 目次 はじめに 第一章 アップル社 第1節 アップル社の概要 第2節 アップル社の経営戦略 (1)iPod によるデジタル・ライフスタイル (2)iPhone によるデジタル・ライフスタイル (3)iPad によるデジタル・ライフスタイル 第二章 グーグル社 第1節 グーグル社の概要 第2節 グーグルの経営戦略 第三章 マイクロソフト社 第1節 マイクロソフト社の概要 第2節 マイクロソフト社の新経営戦略 おわりに 参考文献 1 はじめに これまで、パソコン用の OS、Windows を販売するマイクロソフト社はパソコンの世 界では圧倒的な市場力を持ち、CPU を販売するインテル社とともにウインテルとも称 されていた。しかし最近では、アップル社が iPad によってグーグル社が Android タブ レット端末によって、パソコン販売の停滞状況を生み出し、マイクロソフト社の圧倒的 な優位性を脅かしつつあるようにも見える。 私たち演習Ⅱ(高橋信一)ゼミナールでは、3つの班、すなわちアップル班、グーグ ル班、マイクロソフト班に分かれて、それぞれの会社の概要や現在の経営戦略について 色々と調べてきた。各班が調べた成果を以下の章で述べ、それぞれの会社の経営戦略の 違いを明らかにする。 第一章 アップル社 第1節 アップル社の概要 アップル(Apple)社は一方でパーソナル・コンピュータ(パソコン)の Macintosh (通称 Mac) 、携帯音楽プレーヤーの iPod、スマートフォンの iPhone、タブレットの iPad などハードウェア製品を販売するだけでなく、他方では iTunes Store という Web サイトを通じて音楽、オーディオブック、ゲーム、ミュージックビデオ、テレビ番組、 映画などのデジタルコンテンツのダウンロード販売も提供している。同社は 1977 年1 月の設立以来、アップル・コンピュータ社という社名であったが、2007 年1月に事業内 容を反映させて、現社名のアップル社に改称した。 スティーブ・ジョブスとスティーブ・ウォズニアックが出会い、この二人がウォズニ アック自作のコンピュータを「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」というコンピ ュータ自作マニアの会合に出展した際に好評を得たことがきっかけで、二人はパソコン の開発・販売のためにアップル社を創業した。本社所在地はシリコンバレーの中、カリ フォルニア州サンタクララ郡クパティーノである。 一度はアップル社を退社し離れていたスティーブ・ジョブスがアップル社に CEO と して復帰し、iPod、そして iPhone を商品化して以来、アップル社はめざましく業績を 回復した。 第2節 アップル社の経営戦略 アップル社に復帰したスティーブ・ジョブスが打ち出した戦略は新しいデジタル・ラ イフスタイルの提案である。 (1)iPod によるデジタル・ライフスタイル これは音楽を軸としたデジタル・ライフスタイルの構築である。iPod が発売される前 の音楽市場はハード媒体によるサービス提供が中心であった。そのような状況の中、 mp3 プレイヤーの可能性に目をつけたアップル社は 2001 年に iPod を発表し、mp3 プ 2 レイヤー市場のリーダーとなった。機能や音質だけを比べれば、iPod より優れた携帯音 楽プレイヤーはたくさん存在する。では、なぜ iPod だけが大ヒットしたのであろうか。 iPod が成功した要因は 5 つ考えられる。①卓越したデザイン。iPod のデザインはシ ンプルで潔い。②使いやすさ。アップルの製品すべてに共通することであるが、その直 観的な操作性がよい。 マニュアルを読まなくても、 ある程度の操作はできるようになる。 ③価格。競合製品に比べて容量などスペックも優れている上に、価格も安い。④ブラン ド力。親しみやすい名前から、製品パッケージや CM から伝わってくるクールで洗練さ れたイメージがある。⑤便利さ。一度、iPod の生態系に入ってしまうと、わざわざ音楽 CDから曲を取り込まなくても iTunes Store から直接デジタルデータ化された曲を購 入することができる。 (2)iPhone によるデジタル・ライフスタイル iPhone は携帯電話+iPod+携帯コンピュータのスマートフォンである。さらに iPhone はデザインにも優れ、何よりタッチパネルを使った操作が斬新である。iPhone はアップル以外のロゴは一切掲げず、携帯電話サービス会社(キャリア)独自のサービ スを一切利用しないという点で他のスマートフォンとは異なった特徴を持つ。それにも かかわらず、世界中の携帯電話サービス会社はアップル社との契約に積極的であった。 日本では Softbank が契約し、2008 年 7 月 11 日から販売している。第4四半期の業績 によると、iPhone の販売台数は約 690 万台になったという。5 年前、iTunes と iPod が 音楽市場を大きく揺さぶったように、 iPhone もまた携帯電話という巨大な市場を大きく 揺さぶっている。 (3)iPad によるデジタル・ライフスタイル iPad はタブレットの1つであり、スマートフォンとノートパソコンの間にまたがる広 範なニーズの取り込みを狙った製品である。従来のパソコンや携帯電話の需要が世界的 に伸び悩む一方で、スマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末の市場が急成長し た。 パソコンと携帯電話の長所を併せ持ったタブレットが潜在的な需要を掘り起こした。 この潜在的な需要への対応こそがアップル社の提唱するデジタル・ライフスタイル戦略 の狙いである。iPad には、今日のデジタル・ライフスタイルに快適さを提供する広範な 機能が装備されている。こうした快適さを提供するために、スティーブ・ジョブスは 7 つの機能が重要であると説いた。7 つの機能とは、ネット閲覧、動画、音楽、ゲーム、 電子書籍、電子メール、写真である。iPad にはこれら 7 つの機能の全てが兼ね備えられ ている。 第二章 グーグル社 第1節 グーグル社の概要 3 グーグル(Google)社はスタンフォード大学の大学院生であったラリー・ペイジとセ ルゲイ・ブリンによって、インターネット検索エンジンを設計し監理する会社として 1998 年 9 月に創業された。本社所在地はシリコンバレーの中、カリフォルニア州サン タクララ郡マウンテンビューである。Google という社名の由来は 10 の 100 乗を意味す る Googol をもじった言葉である。 グーグル社の検索機能の良さは、無駄なバナーなどを排したシンプルな画面構成とと もに、独自なキャッシュシステム(以前に表示したサイトの情報を一時的に保存し、素 早く表示するしくみ) 、重要度の高いサイト順に表示する PageRank 技術などにある。 第2節 グーグルの経営戦略 グーグルは人類が扱う情報のすべてを検索可能にするということを理念として掲げて いる。インターネット上のコンテンツを検索できるようにしたことに続き、地球上の地 図や衛星写真を検索できるようにした Google Map や Google Earth などのサービスも 提供している。グーグルによる検索の特徴は地球上のほとんどすべての言語で検索でき ること、そして検索結果は多くの人の評価が高いと思われるウェブページの順位が上位 にランクされるところにある。具体的な評価の仕組みは公開されていないが、検索結果 が上位に表示されるほど検索結果のクリック率なども高くなる。検索結果の表示順位は PageRank(リンク構造を解析することにより、ウェブページのリンクの量や質などを 判断する評価システム)によって判定され決められている。 また、グーグルは各種の検索サービスを無償で利用者に提供するとともに、検索結果 の表示ページに検索キーワードと連動した広告を表示する検索キーワード連動型広告サ ービスである Google AdWords(グーグル・アドワーズ)を提供する。この広告掲載料 がグーグルの主な事業収入となっている。検索キーワード連動型広告は情報を探してい る消費者の関心にあった広告が提供できること、また広告掲載料は安価で、広告がクリ ックされて初めて課金されるといういわゆる成果報酬型広告モデルであったことから、 大規模なポータルサイトやニュースメディアに広告を出せないような小規模事業者でも 効率のよい広告活動ができるということから注目を集めた。 このようなことから、コンテンツの提供側は Google で上位に掲載されること、そし て広告がクリックされることを目ざした最適化(オプティマイゼーション)を工夫する ようになった。この最適化は SEO とよばれ、インターネットのマーケティング上で必 須とされるテクニックになっている。 なお、前記の広告掲載サービスである Google AdWords のほか、サイトを運営する個 人や企業に対してサイトの内容と関連する広告を配信する Google AdSense(グーグ ル・アドセンス)という広告配信サービスも行っている。サイト運営サイドは Web 広 告のクリック数などの実績に合わせた収益を得ることができる。 さらにグーグルは、YouTube という動画投稿サイト、Gmail というウェブメールサー 4 ビスなど、ウェブページ上で使用するサービス(機能)を提供しており、いわゆる Web2.0 とよばれる環境を提供するリーダー企業となっている。2008 年 9 月には Internet Explorer、Fire Fox といったウェブブラウザに対抗する Google Chrome を発表した。 またグーグル社はスマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末を主なターゲットと して開発されたオープンソース OS である Android を提供している。Android を搭載し たスマートフォンやタブレットが様々なメーカーから提供され、さらにグーグル社から もタブレットの Nexus が提供され、アップル社が提供する iPhone や iPad の iOS と並 ぶ重要なプラットフォームとなっている。 第三章 マイクロソフト社 第1節 マイクロソフト社の概要 雑誌『ポピュラー・エレクトロニクス』に載った MITS 社開発の「アルテア 8800」 の記事を読んだビル・ゲイツとポール・アレンは MITS 社と契約を結び、アルテア 8800 用プログラミング言語のBASIC インタプリタを開発・販売するために、 1976 年にMITS 社があったニューメキシコ州アルバカーキにマイクロソフト社を創業し、 1979 年にシア トルに近いワシントン州ベルビューに本社を移転した(シアトルはゲイツの出身地であ る) 。現在の本社所在地はワシントン州レドモンドである。 マイクロソフト社の飛躍のきっかけとなったのは、1980 年に IBM 社がマイクロソフ ト社に対し、IBM 社開発のパソコン用に OS の開発依頼を行ったときであった。IBM 社はシアトルにある小さなソフトウェア開発会社に外部委託(アウトソーシング)する だけと認識していたが、パソコンにおける OS の役割の重要性、すなわちパソコンのユ ーザーは OS を通じてパソコンというハードウェアを操作しており、OS を支配する者 がパソコン世界で主導権を持つことを認識していたゲイツは IBM 社以外のメーカーに も OS をライセンスする権利を確保した。このことにより、IBM パソコンの規格が業界 標準になるや、マイクロソフト社のパソコン用 OS が業界標準となり、MS-DOS から Windows に至ってマイクロソフト社に大きな成長をもたらした。 第2節 マイクロソフト社の新経営戦略 マイクロソフト社は数年前に「3スクリーン+クラウド戦略」としてまとめていた。 すなわちパソコンと携帯電話、テレビという 3 つのスクリーンから、クラウドというハ ブを通じてネットワークにつながり、あらゆるサービスを受けることができるコンピュ ーティング環境の提供である。そのために、同社がもつ Windows、XBOX、Windows Azure、.NET、Silverlight などのソフトウェアやハードウェアの全てが活用される。そ れをさらに発展させた新戦略が「デバイス+サービス」戦略である。例えば、ビル内の センサーや工場内のセンサー、カメラなどのデバイスは大量のデータを生成する。これ らのデバイスとクラウドが連携することによって新しいサービスが実現できる。マイク 5 ロソフト社のレドモンド本社ビルには何万個もセンサーが備え付けられ、どこかが故障 すればそれをすぐに感知して修理することができ、人がいない場所の明かりは自動的に 消して電気代を節約できる。こうしたデバイスを活用するサービスはクラウド上に構築 され、Windows 以外のデバイスにも対応してオープンな方法で API やデータが公開さ れる。マイクロソフト社には、デバイスの OS、コネクティビリティ、クラウドのプラ ットフォームが揃っている。 今日、アップル社とグーグル社がスマートフォンやタブレットの分野で躍進している 一方で、逆にマイクロソフト社はしだいに経営的には停滞状況に追い込まれつつある。 マイクロソフト社の売上高の 82.8%は Windows と Windows 上のアプリケーションや 開発ツールである(2012 年度決算)ゆえに、世界的にパソコン市場が横ばい状態である ことが同社の経営業績に大きく影響している。同社は成長のために Windows 8/RT 搭載 のタブレットである Surface を自社開発して販売し始めたが、これは同社の主要顧客で あるパソコン・メーカーと競合することを意味する。Surface が順調に売れれば同社の 業績は一時的に回復するかもしれないが、パソコン用 Windows 8 の業績は長期的には 落ち込むかもしれない。 おわりに アップル社、 グーグル社、 マイクロソフト社のそれぞれの経営戦略を比較してきたが、 それぞれの企業に得意とする分野がある。 アップル社の場合に、 iPhone や iPad など人々 が欲しい機能、 人々のニーズをうまく取り入れることがうまい。 グーグル社の場合には、 広告料を主な収入源として、検索機能だけでなく、YouTube という動画投稿サイト、 Gmail というウェブメールサービスなど、利用者を惹きつける無料のウェブサービスに おいて優れている。マイクロソフト社においては、Windows という過去の栄光に縛られ ている感じで、アップル社やグーグル社の戦略に比べると時代遅れの印象が強く、これ ら2社に対抗できる別分野の製品やサービスが必要である。 参考文献 ・ 岡崎裕史著『アップル、グーグル、マイクロソフト ― クラウド、携帯端末戦争の ゆくえ』光文社 ・ 雨宮寛二著『アップル、アマゾン、グーグルの競争戦略』NTT 出版 ・ 小川浩、林信行『アップル vs グーグル』ソフトバンク出版 ・ チャールズ・アーサー著『アップル、グーグル、マイクロソフト ― 仁義なき IT 興亡史』成甲書房 6
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