第 36 回 シスメックス学術セミナー/質疑応答

第 36 回 シスメックス学術セミナー
第 36 回
シスメックス学術セミナー/質疑応答
3.骨髄と骨の深い関係:多発性骨髄腫,骨転移の骨微小環境と腫瘍進展
【東京座長・中原】安倍先生,
ありがとうございました.
安倍
正博
られています.破骨細胞においては,破骨細胞分
骨と骨髄細胞,特に骨髄腫−多発性骨髄腫 ( Multiple
化が誘導されると DC - STAMP の発現が高まって,
Myeloma ) に焦点を当てていただき,詳細に多くの
それにより破骨細胞の多核化が起こります.
サイトカイン始め,数々の因子を介する破骨細胞,
しかしながら,マクロファージの多核化と破骨
造骨細胞の関係を非常にきれいにお話しいただき
細胞の多核化の違いや,どうして多核化しないと
ました.また,実際の臨床に応用され,診断のみな
いけないのか等,それらについて具体的なところ
らず治療にも既に応用されてきているということ
はあまりよく分かっていません.
であります.Multiple Myeloma というのは,治療に
ただ,実験系で作る破骨細胞は非常に多核化し
難航するというのが今までの印象だったように思
やすく,非常にたくさんの核が融合してできます.
いますが,最近,かなり色々な病態解析を伴った,
実際,数十個くらいの核の細胞もできるため,非
今日の安倍先生のような解析が進み,いわゆる病態
常に多核化が起こりやすい細胞だと思います.
からの治療ということが本当に現実的になってき
【東京座長・中原】ありがとうございました.それで
たのだなということがよく分かる講演をいただき
ました.どうもありがとうございました.
は,神戸会場から質問があるようです.よろしく
それでは,質疑応答に移りたいと思います.今,
お願いします.
一つ質問をいただきましたのでご紹介をしたいと
【神戸座長・直江】今日は,多発性骨髄腫を中心に,骨
思います.
会場からのご質問で,
「破骨細胞は単球系から,
と骨髄の関係を分かりやすく詳細に説明していただい
特殊な分化をしてできたと考えますが,その活性化と
たのですが,私から安倍先生に是非とも伺いたいこ
多核化というのは合胞体と考えた場合に,合体する
とがあります.そもそも,造血の発生の過程において
仕組みは説明できる時代になったのでしょうか?
な
は,胎児期化,胎児期造血というのは,例えば,肝
ぜなら,核が小分けされたものではなく,それぞれ
臓や脾臓で行われていて,成人造血になると骨髄が
核小体を持つ核に見えますので,多核化には,それ
中心になるということだと思います.私も詳細はよく分
なりの形態学的な説明ができてこないと納得しにくい
かりませんが,魚などは腎臓で作られて,陸上に上がっ
のです」ということですが,いかかでしょうか.
た動物は骨を中空にする,骨をある程度破壊する形
で血管系が入ってきて,そこを造血の場にしていると
【安倍】破骨細胞が,分化して成熟していくと多核化
いうようなことを聞いたことがありますが,正常造血
していきますが,これは細胞核が分裂するのでは
において骨髄がある程度スペースを維持されていると
なく,細胞同士が融合していくということです.
いうことは,これは,どのような細胞,どのようなメ
その機序に関しては,慶應義塾大学の先生方の研
カニズムが,骨髄のスペースを一定にしているのでしょ
究により,DC - STAMP が関係していることが分
うか.少し漠然としていますが,この際,教えていた
かってきました.以前から,膜の表面にある物質
だけるとありがたいと思います.
が大事だと言われていたのですが,詳しいところ
【安倍】骨髄を作るときに非常によく言われているの
まではあまりよく分かっていませんでした.破骨
細胞に限らず,マクロファージも多核化しますが,
が,まず血管が入って,血管のところに破骨細胞
よく似た機序が関与しているのではないかと考え
ができて,それで骨が溶かされて骨髄のスペース
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ができてくるというような話です.骨髄を作るた
ないかと単純に思いますが,具体的な関連につい
めには破骨細胞が必要になります.骨粗しょう症
ては現状では分かりません.
( Osteoporosis ) という状態は,例えば,M-CSF に
最近では,重力だけでなく,光の刺激で交感神
問題があって破骨細胞ができないような場合,骨
経が骨の量を変えていく,つまり破骨細胞とか骨
髄腔ができず,造血もできなくなってくるような
芽細胞の分化にも影響するということまで言われ
ことが言われていますので,破骨細胞が造血の骨
ています.本当に生命現象の色々なものが骨髄の
髄腔を作るのに大事で,骨髄腔がないと造血もな
骨代謝状態に影響していて,それらと骨髄のスペー
かなか上手くできないということになります.し
スの維持は関連があるのではないかと想像します
かし,実際,何によって骨髄腔が一定に維持され
が,実際のところはよく分かりません.
ているのかは知りません.骨リモデリングは一生
【神戸座長・直江】ありがとうございました.東京の
続きます.歳をとると Osteoporosis が起こってく
る方が多いと思いますが,そのようなだんだん骨
ほうに,一旦,戻したいと思います.
が少なくなっていくなかで,リモデリングで骨が
【東京座長・中原】あり がとうございます.そろそろ,
溶かされて作られているということが,どのよう
にして調節されているかに関しても,現状ではあ
規定の時間がきましたので,質問がなければ,こ
まりよく分かっていないと思います.骨髄のスペー
れで第三講演を終わらせていただきます.安倍先
スと骨のリモデリングの維持は関係があるのでは
生,どうもありがとうございました.
【後日ご回答をいただいた質問】
【質問1】
髄内では次第に骨病変が進展し骨病変が多発する
1) 骨髄腫にみられる多発性の骨破壊に関して,一部
と考えておく必要があります.進行例では多くの場
分からの病態の進行なのか,それとも同時期に起
合同時期に多発すると考えて下さい.
こっているのでしょうか.
2) 骨髄腫では腫瘍細胞により骨微小環境の変化を来
2) 腫瘍細胞以外の影響では,骨微小環境の変化は主
します.腫瘍細胞以外の影響ということであれば,
に何によって起こるのでしょうか.
骨髄腫は高齢者に好発しますので年齢的な骨粗鬆
症などの変化やステロイドの骨形成の抑制など治
【回答 1】
療による変化があります.
1) 骨髄腫骨病変の評価には画像で見られる溶骨性病
変の個数を用います.初期には病変の個数が少な
く,骨病変が見つからないことや,1 個しか確認で
【質問 2】つい先日,MM の患者で,CD138 が 10% ほ
きないことがあります.一般的には,進行とともに
どしか出ていない方がおられました.今までの
骨病変数が多くなり,全身性に広範に分布するよう
MM の症例では CD138 強陽性の例が多かったの
になります.しかし,画像で診断出来る骨病変がな
で,再検もしましたが,やはり低い結果となりま
くとも骨吸収マーカーがすでに上昇している場合
した.先生が最後に話されていた,骨髄腫細胞の
や,CT や MRI での評価で骨病変が検出される場合
幼若化の可能性はありますでしょうか.なお,検
があります.骨髄腫細胞は通常骨髄内に広く分布し
体は BM です.
ており,骨髄腫細胞が破骨細胞などを活性化し骨病
もしそうだとしたら,CD138 低値〜中値の患者
変を形成しますので,骨髄腫細胞が分布している骨
はしばしばおられるのでしょうか ( 頻度 ).また,
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CD138 強陽性と弱陽性が混在していると考えてよ
です.酸環境が強くなりすぎると多くの癌細胞も
ろしいのでしょうか.
それに耐えられなくなり死滅しやすくなりますが,
( 上述の患者は,CD138 強陽性,M 蛋白+で,MM
癌幹細胞のような細胞はそのような環境にも耐性
の診断がついた方 )
を持っている可能性があります.今後は酸環境と
癌幹細胞の生存との関連が重要な検討課題になる
合わせて,CD138 弱陽性例および強陽性例にお
と思われます.
ける予後の違いについてもご教授くださいますと
幸いです.
【質問 4】骨髄腫の時,破骨細胞は増加し,腫瘍細胞
【回答 2】骨髄腫細胞は一般に CD138 強陽性ですが,
の近くに存在しているとのことですが,吸引塗抹
CD138 弱陽性や陰性の骨髄腫細胞が見られること
標本や吸引の圧挫伸展標本で破骨細胞が見られな
があります.治療経過で再発時などに CD138 の発
いのは何故でしょうか ( 骨にすべて付着している
現が減弱する場合がよく知られており,このよう
のでしょうか? ).
な場合は治療抵抗性です.治療後残存した CD138
弱陽性の幼若な治療抵抗性をもった骨髄腫細胞が
【回答 4】吸引塗抹標本で破骨細胞が見られることが
増殖アドバンテージを獲得し増えている,との考
ありますが,破骨細胞は骨に強く張り付いて存在
え方が一般的です.成熟骨髄腫細胞が幼若化 ( 脱
しているため吸引では採取されることが少ないと
分化 ) し CD138 弱陽性分画が出現することも示さ
考えればよいと思います.
れていますので,CD138 弱陽性分画は全ての骨髄
腫患者で多かれ少なかれ存在する治療抵抗性の分
画と考えるべきと思います.CD138 低値〜中値の
【質問 5】臨床検査技師は,尿 BJ 蛋白や,分画の M
患者の頻度に関しては,進行性の経過になったり
蛋白,免疫グロブリン増加など,また,血液の形
治療抵抗性になったりする場合に多くなると考え
態や分子遺伝子検査により診断することに関わり
て下さい.CD138 弱陽性や陰性例は予後不良とみ
ます.今回の話題とは別に,日常の検査で困るこ
なされています.
とも多いので教えていただけたらと思います.
生化学用採血で,分離が困難な時は,ヘパリン
採血し血漿で検査を行いますが,凝固検査でクエン
【質問 3】骨破壊・解糖系が亢進した結果,酸環境の
酸 Na 3.2%で採血すると,分離はできるのですが
変化は,薬剤耐性の影響があるとのお話がありま
ほとんど判定ができません.その原因としては,
したが,どのようなメカニズムで起こっているの
尿蛋白が多いこと,また,講演の中でお聞きした
かご教授いただけますでしょうか.
腫瘍が骨髄以外の環境に多く存在すると言われた
こと,などが関係しているのでしょうか.どのよ
【回答 3】癌の酸性環境と薬剤抵抗性との関連はかな
うに工夫して検査を行えば良いのかご教授いただ
けますでしょうか.
り以前から言われています.しかし,そのメカニ
ズムの解析はほとんど進んでいません.我々の検
分野以外の質問かと思いますが,日常困ってお
討では,酸性の程度にもよりますが酸性環境では
りますので,できましたらご回答くださいますと
腫瘍細胞の PI3K/Akt 経路などの生存シグナルが活
幸いです.
性化していることや薬剤排出ポンプの活性が高く
なることが示されています.また,一部の抗癌剤
【回答 5】骨髄腫では採血後の凝固 ( フィブリン形成
は酸性環境では薬剤の極性が変わり膜の透過性が
や重合 ) がうまくできず血清分離が困難なことが
低下し腫瘍細胞内濃度が増えないこともあるよう
あり,血漿で検査をすることもあると思います.
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クエン酸 Na で判定できないということですが,
2 - mercaptoethanol 処理で M 蛋白の検討をされる
M 蛋白が重合し沈殿しているのではないでしょう
のがよいと思います.腫瘍細胞は特殊な例を除き,
か.その患者様の M 蛋白に何らかの特徴 ( 原因 )
骨髄外には少ないですので骨髄外の腫瘍による直
がある可能性が考えやすいと思います.治療後の
接的な影響は考えにくいです.講演で話したのは,
M 蛋白が減少している時の検体では判定はどう
骨髄腫前駆細胞などはもしかしたら骨外の方が多
なのでしょうか.M 蛋白の重合があるとすれば,
い可能性があるということです.
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