脊椎関節炎の治療 –最近の話題⼤阪市⽴⼤学⼤学院医学研究科 整形外科学 乾 健太郎 強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis:AS)は慢性進⾏性の⾃⼰免疫性疾患で、疾患概念上は脊椎関 節炎(Spondyloarthritis:SpA) に含まれる。また AS は単独の疾患として以外に、乾癬に伴うもの、炎症性腸 疾患に伴うものなども存在するが、従来の様な分類では疾患概念に混乱が⽣じやすいため、近年では末梢型 SpA (peripheral SpA: perSpA)と体軸型 SpA(axial SpA: axSpA)に⼤別し、必ずしも明確には分類しにくいもの の、反応性関節炎・乾癬性関節炎・炎症性腸疾患に伴う関節炎および分類不能関節炎が perSpA に、axSpA はレントゲン所⾒のない axSpA(nonradiographic SpA: nr-axSpA)と所⾒のある AS に分けている。すなわち、 SpA を⼀つの疾患にまとめ、症候として脊椎(体軸)症状、関節(末梢)症状、関節外症状(眼、⽪膚、腸 管、泌尿器)として扱う傾向がある。 本疾患は現在でも発症から診断までに要する期間が平均して⻑い。これは、患者側の要因としては、進⾏が緩徐 であり、また疾患の進⾏期が⻘年から壮年に当たるため、就労を中⼼の⽣活を過していると医療機関への受診が 遅れる傾向にある事があげられる。⼀⽅、遺伝的背景により、我が国の患者数は欧⽶に⽐べ極めて少なく、医師の 間でも⼗分に周知されていないため診断が遅れがちとなり、結果として初発から診断までに平均 9.3 年を要するとの 報告もある。 AS は無治療では主に脊椎・仙腸関節および四肢の⼤関節が侵され、⾝体的のみならず⼼理的・社会的にも QoL の著しい低下を招く。患者の多くが 30 歳前の若年者に発症するため、就学・就労の⼤きな障壁となるため、 nr-axSpA の段階で診断し、早期薬物介⼊することが肝要である。1984 年に発表された改訂ニューヨーク基準では、 すでに X 線変化をきたした段階での診断となるため現実的には患者の QoL の悪化の抑制は不⼗分に終わる。⼀ ⽅、2011 に ASAS が提⽰した基準では(図1)、まず炎症性腰背部痛の存在を問診のみで Screening した上で、 診断項⽬を満たせば SpA と診断される。これによれば、nr-ax SpA の段階でも診断できるため、早期に治療介⼊で きる可能性が⾼まる。 今回の講演では、上記の歴史的背景に加え、SpA の診断に重要な臨床所⾒と画像所⾒および⾎液検査所⾒に つき概説し、2011 年に発表された ASAS/EULAR および ACR の治療勧告について説明した。 診断の重要な鍵となる臨床症状の⼀つである「炎症性腰背部痛」を有する患者が受診する可能性が⾼い診療機 関は、地域基幹病院や膠原病内科では無く、 地域の整形外科開業施設が最も多いと考えら れるため、⼤阪市⼤整形外科開業医会の御協 ASAS の炎症性腰背部痛の診断基準 ⼒があれば、SpA 患者を拾い上げやすくなるのは z 40 歳になる前から痛みがある ⾃明であり、本疾患の診療に⼤いに貢献できる。 z 緩徐に発症 また、平成 27 年度から AS は難病疾患に新たに z 動くことで痛みが改善する 指定されたため、⻑期に渡る治療に対しても経 z 安静にしても痛みが改善しない 済的に対応できる可能性が⾼まっている。 z 夜間に痛みがある(起きると改善する) ➡以上の4つ以上当てはまれば該当 図1: ASAS の ax SpA の診断基準 3ヶ⽉以上持続する腰背部痛があり、かつ、発症が 45 歳未満の患者 画像による仙腸関節炎★ + 1つ以上の SpA 臨床兆候** HLA-B27 陽性 または + 2つ以上の SpA 臨床兆候** 仙腸関節炎の画像所⾒★: • MRI にて、活動性の SpA に伴う仙腸関節炎が強く⽰唆される • 仙腸関節の X 線所⾒にて改訂ニューヨーク基準の確実例に合致する SpA の臨床兆候**: 炎症性腰背部痛、関節炎、付着部炎(踵)、ぶどう膜炎、指趾の関節炎、乾癬、炎症性腸疾患、 NSAIDs が著効する、家族歴に SpA が存在する、HLA-B27 陽性、CRP の上昇
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