JCOAL Journal vol.8 2007年3月号

JCOAL Journal
8
vol.
2007.3
2007 APEC Clean Fossil Energy Technical and Policy Seminar
1. 巻頭言
石炭分野の新しい時代に向けて ・
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4. 地球温暖化問題
1
(1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書
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・ 17
第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について・
2. スペシャルレポート
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米国DOEのCCT実証プロジェクト ・
(2)我が国の温室効果ガス排出量の実態及び京都議定書
2
3. 石炭技術最前線
石炭部分水素化熱分解技術(ECOPRO)の現状と
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・ 11
今後の展開について ・
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目標達成計画について ・
5. JCOALの海外石炭情報
APECクリーンフォッシルエネルギーテクニカル&
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ポリシーセミナーについて ・
29
6. JCOALだより
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・ 31
(1)平成18年度伊木賞の表彰式・
(2)米国SES社が中国に石炭ガス化プラントの建設開始
財団法人 石炭エネルギーセンター
Japan Coal Energy Center
http://www.jcoal.or.jp
石炭分野の新しい時代に向けて
財団法人
石炭エネルギーセンター
工学博士
(財)
石炭エネルギーセンター
(JCOAL)
と
(財)
石炭利用
総合センター
(CCUJ)
が統合し、
新生
(財)
石炭エネルギー
安藤
理事長
勝良
な石炭技術の開発を加速化してゆくことも必要となって
おります。
センター
(JCOAL)
が誕生してから、
早いもので2年が経過
しようとしています。
JCOALは、
統合のメリットを最大限
今年の2月2日には、
「IPCC第4次評価報告 第1作業部会
に発揮して、
経済性、
供給安定性という石炭の優位性を高
報告書」
が公表されました。
地球温暖化の進行が人為的な
めつつ、石炭をさらにクリーンで、有効な資源・エネル
原因であることを自然科学的根拠に基づいて結論付けた
ギーとして位置付ける活動を積極的に展開して参りまし
ものとなっております。
「京都議定書」
が発効し、
「温室効果
た。石炭分野が直面している新しいエネルギーと環境の
ガス削減義務」を達成するための取り組みが進められる
時代に向け、これまで培ってきたノウハウや機能を有効
中で、高効率でクリーンな石炭火力発電技術の開発はも
に活用し、我が国の優れたクリーン・コール・テクノロ
とより、
米国が進めるFutureGenに見られるようなCO2の
ジー
(CCT)
を広く世界に普及・展開して、
エネルギーの安
地下隔離・貯蔵技術の開発も急がなければなりません。
し
定供給の確保と地球環境問題の克服のために努力致して
かし、
何よりも、
CDMなど京都メカニズムによる取組みこ
おります。
そ、我が国の持つ技術力を国際的な場で活かすことので
きる、
我が国にとってもメリットのある取組みであり、
グ
さて、
この度、
「エネルギー基本計画」
の改定が行われる
ローバルな環境問題の克服につながる、即効性のある解
ことになりました。この基本計画では、先に策定された
決策であると申すことができます。JCOALがこれまで進
「新・国家エネルギー戦略」の内容をもとにして、エネル
めて来た、途上国に対する技術移転や人材育成等の国際
ギー安全保障と原子力の重要性が明確に位置付けられて
協力が、
CDMをベースとして、
一層強力に推進されること
おりますが、資源確保の面では、資源外交の積極的展開
を期待しております。
これからも、
石炭需要の増大が見込
や、
科学技術やODAの戦略的活用、
エネルギー・環境分野
まれる中国などのアジア地域へ、
わが国のクリーン・コー
でのアジア地域での協力関係の強化、先進国首脳会議
ル・テクノロジーを積極的に普及・展開し、エネルギーの
(G8)
など多国間による枠組みを通じた国際協力の推進な
安定供給とグローバルな環境改善に努力して行かなけれ
どの方針が掲げられております。我が国のエネルギー政
ばなりません。
そして、
このような石炭の開発から利用に
策目標の重点は、
「安定供給の確保」
と
「環境対策の推進」
に
至るコールチェーン全体の課題に対して、上流から下流
あります。環境を十分考慮したエネルギー利用を図ると
までの総合的な展開が必要であり、当センターの役割が
共に、
市場原理の活用を進め、
より優れたエネルギー分野
今後一層高まってくるものと考えております。
の技術革新を進めて行くことが求められております。
最後に、
経済産業省資源エネルギー庁をはじめ、
新エネ
石炭は、
アジア、
世界と共生するとの基本的立場のもと
ルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)等
で、我が国の持つ技術力や経験などを国際的な場で活か
の関係機関の皆様方のご指導と、
会員各社・各組織の皆様
したエネルギー技術移転の観点からも、エネルギーの安
方のより一層のご協力をお願い申しあげ、ご挨拶と致し
定供給の確保につながる重要な意味を持っております。
ます。
また、
更なる高効率化や、
クリーンで経済性のある革新的
1
スペシャルレポート
米国DOEのCCT実証プロジェクト
手源も明記されている。この中のプロジェクトの1つ
「高
はじめに
度石炭改質プロセスの実証」は、2004年12月に最終技術
ここでは、クリーンコールテクノロジー実証計画
報告書の提出により終了している。2004年の終了にもか
(CCTDP)
、発電所改善イニシアティブ
(PPII)
、およびク
かわらず、実績情報が前回のファクトシート公表に間に
リーンコール発電イニシアティブ
(CCPI)
を柱とする各種
合わなかったため、今回の報告となった。残り3つのプ
クリーンコールテクノロジー実証プロジェクトのファク
ロジェクトは、2005年6月に終了している。
トシートについて説明する。このプロジェクトファクト
シートは、「2005年クリーンコールテクノロジー計画:
技術の概要
プロジェクトファクトシート」の公表以降に実施された
以下は、現在、CCPI、PPII各プロジェクトとともに残
取組みを反映したものである。
このプロジェクトファクトシートは、利害関係者に
りのCCTDPプロジェクトの中心をなしている主要技術分
とって、主要関心分野の取組み領域が分かりやすいよう
野、潜在的分野、およびそれに関連した挑戦的取組みの
に、計画別ではなく、市場部門別にまとめられている。
概要である。
ここに言う市場部門とは、(1)既存および新設の発電所
排出抑制
における排出抑制、(2)高度発電システムによる発電容
高度NOx抑制:高度窒素酸化物
(NOx)
抑制は、新たに
量の増設や新設、(3)国家の膨大な石炭資源から低エ
設けられた法規による厳しい排出規準に対処するための
ミッション燃料を得るためのクリーンコール燃料技術、
ものである。新たな法規とは、次の様なものである。
および(4)石炭やその副産物の産業用途といった部門で
(1)
米国環境保護局
(EPA)
が、オゾンの地域輸送を削減す
る目的で、オゾン輸送査定地域とされる各州を対象に、
ある。
報告書で取り上げている20のプロジェクト中17のプロ
その貢献度の知見により制定した規則(通称「NOx SIP
ジェクトについては、2ページのファクトシートが作成
Call」
)、(2)2006年2月27日付けEPA電気事業用蒸気発生
されている。この2ページのファクトシートは、プロ
装置性能基準等、(3 )E P A の州の大気汚染防止規則
ジェクトの参加者、立地、および資金に関する情報、プ
(C A I R )、(4 )E P A の水銀による大気汚染防止規則
ロジェクトの目的、プロジェクトおよび技術の内容、プ
(C A M R )、および(5 )クリアスカイイニシアティブ
ロジェクトの派生利益、プロジェクト
特有の社会的位置付けや成果、ならび
に明確な工程計画がその内容となって
いる。
プロジェクト諸活動の最終報告書作
成が終了し、本報告書への掲載に間に
合った3つのプロジェクト
(高度石炭改
質プロセス、JEA大規模CFB燃焼実証
プロジェクト、およびビッグベンド発
電所における神経回路状排煙換気最適
化システム)については、4ページの
ファクトシートとなっている。これら
のファクトシートは、主要知見ならび
にかかる知見に至った経緯の立証に向
イリノイ州ボールドウィン村にあるDynegy Midwest Generationのボールドウィン・
けたプロジェクトの十分な検討結果を エネルギーコンビナートでは、高度排出抑制強化最適化ソフトの実証が行われてい
その内容としているが、追加情報の入 る。
2
スペシャルレポート
(CSI)
。
下に減らすことである。SCRはもともと金がかかり、
高度NOx抑制技術には、以下のものが含まれる。
●燃焼プロセスへの段階的な空気引き入れにより
NOxの生成を抑える低NOx燃焼・再燃装置(燃焼
SNCRは効率が悪い。したがって、燃焼技法の改善や
SNCRの高効率化、あるいはSCRのより効果的な利用が
選択肢となる。
水銀抑制:水銀抑制は、CSIの提案目標や全米水銀排
改善)、
● 選 択 的 触 媒 還 元( S C R )、 選 択 的 非 触 媒 還 元
出量の約3分の1を占める石炭系発電からの水銀排出に関
(SNCR)
等、生成されたNOxに作用して、これを
するEPA規制に対処するためのものである。さらに、水
還元する化学プロセス(燃焼後のプロセス)、
●一部、空気に替えて酸素を用いる酸素燃焼型低
NOxバーナー。
銀排出へのより厳しい制限を採択しているか、採択する
動きを見せている州も多い。水銀抑制技術には、以下が
含まれる。
低NOxバーナーは、(1)燃料に混入している窒素が分
●水銀を固化し、静電集塵器
(ESP)
または
「バグハウ
解する燃焼の初期段階での空気の量を少なくし、(2)炎
ス 」と も 呼 ば れ る 繊 維 性 フ ィ ル タ ー 集 塵 装 置
を長くしてホットスポットが生じないようにし、(3)よ
(FFDC)
でフライアッシュとともに取り除くため
り低温域で燃焼を完結させるために、追い焚き用空気と
統合し、(4)負荷追随性能を最適化すべく、神経回路状
抑制装置と併用されることが多い。再燃装置は、排煙ガ
スに燃料を注入してNOxを還元し、追い焚き用空気を引
き入れて燃焼を完結させる。SCRおよびSNCRでは、ア
の吸着剤や酸化剤、
●酸化剤と湿式排煙ガス脱硫
(FGD)
スクラバーの併
用による硫黄副産物としての水銀捕捉、
●工程管理や工程確認に向けた水銀種や水銀総量の
リアルタイム測定。
ンモニアや尿素を用いてNOxを窒素と水に変える。SCR
固体吸着剤は、水銀を吸着した後、ESPないしFFDC
が、通常、反応器内に並べた一連の触媒をボイラ後段の
のいずれかで除去される。酸化剤または酸化のメカニズ
比較的低い温度で作用させなければならないのに対し、
ムにより、蒸気状の水銀元素はESP、FFDC、あるいは
SNCRは、高温のボイラにアンモニアや尿素を注入しさ
湿式FGDでの捕捉が可能な固体状の水銀酸化物に変換さ
えすればよい。酸素燃焼は、加える窒素の量を少なく
れる。湿式FGDを備えたプラントであれば、酸化剤は硫
し、燃焼効率を上げることで燃焼をより完全なものとす
黄の捕捉に用いるスクラバーでスラリーに混ぜ込める。
ることができる。
FGD副産物
(壁材に利用されることが多い石膏)
内に捕捉
課題は、現在のSCR装置より25ないし50パーセント低
6
コストの技術を用い、NOx排出量を0.15ポンド/10 Btu以
された水銀は、化学的に閉じ込められており、再排出の
危険性はない。水銀の計測制御装置は、抑制装置に入る
水銀種
(元素・酸化物)
とともに煙突に
入る水銀総量を測定する。
課題は、活性炭素による現行除去コ
ストの70パーセントで、90パーセント
の水銀除去を達成することである。単
純な活性炭素注入技法では、発電所の
排煙ガスでは、水銀が、通常、3 0
parts/billion程度という極めて希薄な
状態で生じていることから、90パーセ
ント除去の達成に有効な接触が得られ
ない。FGDを利用すれば、良好な水
銀接触のメカニズムが得られるが、
FGDプロセスで水銀種を固相から蒸
気相に移行させなければならない。
粒子状物質抑制:粒度2.5ミクロン
ミシガン州マーケット郡にあるウィスコンシン電力社のプレスクアイル発電所では、
水銀捕捉効率の高い多重汚染物質抑制技術TOXECONの実証が行われている。
3
以下のPM(PM 2.5 )を含む粒子状物質
(PM)の抑制は、EPA規制とCSI目標
スペシャルレポート
に対応するためのものである。PM抑制計画の目的は、
PMそれ自体や二次的生成物質(SO2およびNOx)、さら
に、噴出炎を部分的に不透明にして視認性を低下させ、
人間の健康被害に関連性があるとされている厄介な酸性
ガスの大幅な削減につながる石炭系排出源向け技術の構
築である。抑制技術には、以下が含まれる。
●NOx、SO 2 両者の除去特性を最良にするための
ESP/FFDCハイブリッド技法、
●排煙ガスの前処理によるESPの性能強化、
●ESP出口における粒子状物質の再利用向け濃縮
●煙霧状の酸性生成物質である三酸化硫黄
(SO3)を
抑制するためのアルカリ注入、
●SO3の連続分析による工程管理および確認。
ESPは、荷電した粒子状物質を収集板上で捕捉する。
FFDCは、繊維性のフィルターバッグでその外面に粒子
状物質を捕集し、内側から空気を噴射し、その振動によ
り捕集した粒子状物質を振るい落とす。前処理剤は、
入ってくる粒子状物質の抵抗力を引き下げるか、集塊化
のいずれかを行う。アルカリの注入により、酸性の生成
サウスダコタ州ビッグストーン・シティー
のOtter Tail Power Company社ビッグス
トーン発電所では、高度ハイブリッド型粒
子状物質集塵機の実証が行われている。
物質であるSO2およびSO3が捕捉し易い硫酸塩の粒子状物
質に変換され、塩酸、フッ化水素酸等他の酸性ガスが中
ミクロン以上のPMそのものを大量且つ効率的に捕捉す
和される。SO3分析器により、管理、確認用に入出量が
る。FFDCは、0.1ミクロン以上の細かい粒子状物質を効
測定される。
率的に補足するが、大量の場合は経済的に不利となり、
課題は、粒子状物質そのものであるPM2.5を99.99パー
6
また、PPDCの繊維も、排煙ガスに高濃度で含まれるSO2
セントの捕集効率で0.01ポンド/10 Btu以下に抑え、酸性
の厳しさには勝てない。どちらの装置も、単独ではコス
煙霧を95パーセント減らすことである。ESPは、粒度10
ト効果的な99.99パーセントのPM2.5除去を実現すること
はできない。既存の前処理剤による集
塊化を通じたESPの性能強化には、新
しい法律の下では極めて危険とされて
いるアンモニアが大量に必要となる。
煙霧は従来型の汚染物質抑制装置から
容易に脱出する。SCRを使用すれば、
排煙ガスにより多く含まれるSO2の部
分的な触媒酸化により、SO3の生成が
増す。0.05mg/m3という抑制効果立証
に必要なEPA試験法での感度を有する
連続SO3分析器は存在しない。
高度発電システム
高度発電システム:高度発電システ
ムは、発電の高効率化、汚染物質のニ
アゼロ・エミッション、水素分離と二
捕捉・隔離の実現努力
酸化炭素
(CO2)
フロリダ州ジャクソンビル市のJEAノースサイド発電所では、高度CFBの実証が行わ
れている。
により、地球気候変動、クリアスカイ
構想、および水素燃料イニシアティブ
4
スペシャルレポート
空気のジェット噴射により燃焼がサ
ポートされ、原料とSO2吸着剤が効果
的に混合され、その混合物が混送さ
れる。サイクロンに運ばれた混合物
は、排ガスから固体物質が分離され
る。分離された高温の固体物質は
CFBの燃焼器に戻される。比較的ク
リーンな排ガスは熱交換器に向か
い、そこで、蒸気タービンを回すた
めの蒸気を生成する。CFBの混合・
循環機能により、NOxの熱生成温度
に満たない温度での高効率の燃焼が
ノースダコタ州アンダーウッド市のGreat River Energy社コールクリーク発電所では、
褐炭燃料高度化の実証が行われている。
可能となり、吸着剤とSO2を長時間直
接接触させることで高効率にSO2を捕
捉する。
に取り組むためのものである。高度発電技術には、以下
が含まれる。
課題は、従来型の石炭焚き技術に近い資本コストで、
石炭系高度発電装置の効率を現在の40パーセント程度か
●石炭をガスタービンや高度燃料電池への利用に適
ら2010年を目処として50パーセント程度に、さらに、
したクリーンな合成ガスに変換し、化学物質やク
2020年には60パーセントに引き上げることである。
リーンな輸送用燃料への変換と水素とCO2への分
クリーンコール燃料
離を可能にし、残留するガスや固体を市場性副産
高品位化:石炭の高品位化は、発電所の効率を上げ、
物に変換する石炭ガス化複合発電
(IGCC)
装置、
発電1kW当たりのエミッションを少なくすることで、
●低級燃料と廃棄物により、環境管理の必要性によ
CAIR、CAMR、およびClean Skies and Global Climate
る、寄生的な電力の垂れ流しを行うことなく、高
Change Initiativesをサポートすることになる。高品位化
効率で極めて低エミッションの発電を行う循環流
技術には、石炭の乾燥やアッシュの除去で石炭エネル
動床
(CFB)
燃焼装置、
●空気に替えて酸素を用いる高度
燃焼システムもしくは燃焼と同
等の効果を得るケミカルループ
等の化学的手段
IGCCは、ガス化装置により、蒸気
存在下での加圧加熱により、炭化水素
原料を気体成分に変換する。通常は純
粋な酸素で原料を部分的に酸化させて
熱を発生させる。熱と圧力の両方で原
料成分間の結合を解き、化学反応によ
る沈殿を生じさせ、主として、水素と
二酸化炭素の合成ガスを生成する。ガ
ス化装置でその原料である燃料から分
離される鉱物性物質
(アッシュ)
は、そ
の大半が市場性を有している。ガス化
装置で、主として、硫化水素として生
じる硫黄分は、純粋な硫黄や硫酸の副
バージニア州キングジョージ郡のバーチウッド発電所では、建材用軽量骨材へのアッ
産物に容易に変換される。CFBでは、 シュ変換スプレードライヤーの実証が行われている。
5
スペシャルレポート
ギーを濃縮する技法が含まれる。
石炭の乾燥やアッシュの除去での課題は、高品位化製
品が正味のエネルギー量の増加を実現することであり、
製品輸出段階の大きな課題は、水分除去製品の安定性維
持
(自然発火防止)
にある。
ファベット順に並べられている。7頁の地図には、プロ
ジェクトの立地場所が示されている。10頁の工程表は、
市場部門別のプロジェクト実施工程を示している。
ファクトシート
(ここでは省略)
は、それぞれ、サイド
バーとヘッダーにプロジェクトの概要説明が書かれ、
改質:クリーンな液体燃料、化学物質、もしくは水素
ヘッダーを取り囲むようにプロジェクトの詳細な内容が
への石炭の改質は、エネルギーの安全保障を強化し、地
記載されている。各々、図解の上部には、4市場部門ご
球気候変動や水素燃料への率先的取組みを支える。その
との刷新技術に関する囲み記事が掲げられている。いず
ための技術には、フィッシャー・トロプシュ法により、
れのファクトシートも、2ページ目の一番上に、プロ
石炭ガス化で生じる合成ガスを硫黄や芳香族炭化水素を
ジェクトの実施期間と業務期間が月数で示されている。
含まない輸送用燃料に変える石炭液化や、現在、開発途
プロジェクト存続期間とは、プロジェクト承認の日から
上にある石炭水素化処理の技法が含まれる。
業務終了日までの期間のことである。工程表は1本の帯
課題は、プロセスコストを下げて、世界市場で競争力
のある輸送用燃料製品とすることにある。
産業分野の用途
グラフで表され、
「契約前」
から順次、
「設計」
、
「建設」
、
「実証」
、
「報告書作成」
、そして
「完了」
へと基本業務段階
ごとに区切られている。区切りの幅は期間の長さと無関
石炭の直接利用:この分野における取組みは、製鉄業
係で、各段階の期間は、区切りの最初と最後に、それぞ
界におけるコークス代替やエネルギー生産での石油・天
れ、開始日と終了日が記されている。進捗状況について
然ガス代替等、産業用途としての石炭による高級燃料代
は、グラフに区切りのない帯を平行させ、実施途上にあ
替に向けた取組みである。
る段階の消化率を表示している。
副産物の利用:この分野における取組みは、選炭や石
プロジェクト・ファクトシートには、全て、実証技術
炭燃焼により大量に生じる副産物、すなわち、石炭利用
の理解を容易にすべく、その図解が施されている。実証
副産物
(CUB)
の利用に向けた取組みである。これには、
の対象となるプロセスや設備は、その部分に影をつけて
(1)
以前の採炭に伴う野積みの石炭廃棄物、および
(2)
既
示されている。支障なく業務段階を終了したプロジェク
存の石炭火力発電所から出るアッシュ、という2つの大
トには、プロジェクトタイトルの真下に
「実証業務終了」
きな対象がある。石炭廃棄物には、地下水汚染の脅威と
の表示がなされている。計画から撤退したプロジェクト
潜在的なエネルギー資源という2つの面がある。石炭
は、そのタイトルの下に
「撤退プロジェクト」
と表示され
アッシュは、比較的未開の建材用資源であるが、その大
ている。撤退プロジェクトとは、自主的あるいはDOEの
部分は、供給不足の傾向にある埋め立て処分に利用され
指示のいずれかにより活動を早期に切り上げたプロジェ
ている。副産物利用技術には、下記項目が含まれる。
クトである。撤退は、協力契約締結以前、以後のいずれ
●野積み石炭廃棄物の埋め立てに資する電力生産へ
においても行われている。
の石炭廃棄物再利用、
●セメントの代替または添加物質や建設等級骨材へ
その他の情報源
の石炭灰の利用。
課題は、2010年を目処とする現行30パーセントから50
本書を補填する他の情報源からは、関係者による計画
パーセント以上への利用拡大につながる、産業分野の受
やプロジェクトの発表に応じた追跡が可能である。DOE
入拡大のはずみとなる、CUB利用の可能性の実証とその
化石燃料局のホームページhttp://www.fossil.energy.govから
記録である。
は、インターネットを通じ、クリーンコールテクノロ
ジーの計画やプロジェクトに係る主要情報が得られる。
プロジェクト・ファクトシート
米国立エネルギー技術研究所
(NETL)
は、クリーンコー
ルテクノロジーの実施機関であり、そのホームページ
8頁の表は、市場部門別の提出順に並べたプロジェク
http://www.netl.doe.govには、包括的最新情報保管場所
ト・ファクトシートの索引である。計画別(CCTDP、
「CCT Compendium」
(http://www.netl.doe.gov/technolo-
PPII、CCPI-1、およびCCPI-2)
の索引は9頁の表にまとめ
gies/coalpower/cctc/cctc̲main.htm)がこの計画やプロ
られている。計画別のものでは、プロジェクト名がアル
ジェクトに関するもう1つの情報源として存在してい
6
スペシャルレポート
る。また、ニュースレター
「Clean Coal Today」
は、主な
クトの終了と同時に、
「プロジェクト実績のまとめ」
が発
出来事やプロジェクトの最新状況を中心に、また、最新
表され、プロジェクトの概要を伝えるとともに、業務
の発表事項や計画予定などを含め、四半期ごとのクリー
上、環境上、および経済上の実績を明確に述べている。
ンコールテクノロジーやそれに関連する情報を読者に提
また、NETLは終了プロジェクトごとのDOE査定結果も
供している。ニュースレター
「Clean Coal Today」
の最新
発表している。
号を含むバックナンバーは、http://www.netl.doe.gov/
*************************
technologies/coalpower/cctc/newsletter/newsletter.html
以上は、U.S. Department of EnergyのAssistant Secre-
で閲覧可能である。
tary for Fossil Energyが2006年6月付で発表した「Clean
新たなプロジェクト発表に伴い、NETLは、重要な局
Coal Technology Program」
の
「3.Projects」
を
(財)
石炭エ
面で技術的特長、プロジェクト計画、および結果の予想
ネルギーセンター
(JCOAL)
にて翻訳・編集したものであ
に焦点を当てた
「現況報告書」
を発表している。プロジェ
る。
プロジェクトの立地場所
サウスダコタ州ビッグストーンシティー市
Otter Tail Power社
(PPII)
モンタナ州Colstrip町
Western SynCoal社
(CCTDP)
ノースダコタ州アンダーウッド市
Great River Energy
(CCPI-1)
ミシガン州マーケット郡
ウィスコンシン電力社
(CCPI-1)
ニューヨーク州トーリー町
CONSOL Energy社
(PPII)
ミネソタ州ホイトレークス市
MEP-I社
(CCPI-2)
ケンタッキー州ゲント市
ケンタッキー大学研究財団
(CCPI-1)
ペンシルベニア州
ギルバートン市
WPMI社
(CCPI-1)
バージニア州キングジョージ郡
Universal Aggregates社
(PPII)
ウエストバージニア州
Rainelle町
Western Greenbrier
Co-Generation社
(CCPI-1)
ニューメキシコ州
ミラノ村
Mustang Clean Energy
(CCPI-2)
フロリダ州ジャクソンビル市
JEA
(CCTDP)
イリノイ州
ボールドウィン村
NeuCo社
(CCPI-1)
アラスカ州
フェアバンクス市
TIAX社
(CCTDP)
7
テキサス州
ジェウェット市
Pegasus Technologies
(CCPI-2)
カンザス州ガーデンシティー市
Sunflower Electric Power社
(PPII)
フロリダ州オーランド市
Southern Company Services社
(CCPI-2)
ケンタッキー州Trapp
Kentucky Pioneer Energy社 フロリダ州アポロビーチ町
(CCTDP)
Tampa Electric社
TIAX社
(PPII)
(未定)
(PPII)
スペシャルレポート
市場部門別プロジェクト・ファクトシート
計画
参加者
状況*
ボイラー燃焼最適化計画での低NOxバーナー
一体化を通じたNSPS排出基準達成
PPII
Sunfl ower Electric Power社
撤退
空輸プロセスの商業規模実証
CCPI-2
Mustang Clean Energy
撤退
ビッグベンド発電所における神経回路網状煤煙換気
システム最適化
PPII
Tampa Electric社
終了
PPII
Otter Tail Power社
終了
ボールドウィン・エネルギーコンビナートに
おける総合最適化ソフトの実証
CCPI-1
NeuCo社
業務
FLGR/SNCR/SCRハイブリッド型高度NOx
抑制装置の開発
PPII
TIAX社
撤退
グリニッジ多重汚染物質抑制プロジェクト
PPII
CONSOL Energy社
建設
水銀種・多重汚染物質抑制
CCPI-2
Pegasus Technologies
設計
90MW石炭焚きボイラー3基の水銀・多重汚染
物質抑制を目的とするTOXECON改装
CCPI-1
Wisconsin Electric Power社
業務
クリーンコール・ディーゼル実証プロジェクト
CCTDP
TIAX社
撤退
285MWe石炭系輸送用ガス化装置の実証
CCPI-2
Southern Company Services社
設計
JEA大規模CFB燃焼実証プロジェクト
CCTDP
JEA
終了
Kentucky Pioneer Energy IGCC実プロジェクト
CCTDP
Kentucky Pioneer Energy社
撤退
メサバ・エネルギー・プロジェクト−ユニット1
CCPI-2
MEP-I社
設計
高度石炭変換技法実証
CCTDP
Western SynCoal社
終了
ギルバートン石炭由来クリーン燃料・電力同時生産
プロジェクト
CCPI-1
WMPI社
交渉
発電所高効率化−褐炭燃料強化
CCPI-1
Great River Energy
設計
高度多重石炭製品利用製品別処理プラント
CCPI-1
ケンタッキー大学研究財団
設計
スプレードライヤー・アッシュによる骨材製品処理技術
の商業実証
PPII
UniversalAggregates社
業務
Western Greenbrier複合生産実証プロジェクト
CCPI-1
Western Greenbrier Co-Generation社
設計
プロジェクト
排出抑制
高度ハイブリッド型粒子状物質捕集装置
(Advanced HybridTM)全面改装技術の実証
高度発電装置
クリーンコール燃料
産業用途
8
スペシャルレポート
計画別プロジェクト・ファクトシート
参加者
状況*
高度石炭変換技法実証
Western SynCoal社
終了
クリーンコール・ディーゼル実証プロジェクト
TIAX社
撤退
JEA大規模CFB燃焼実証プロジェクト
JEA
終了
Kentucky Pioneer Energy IGCC実証プロジェクト
Kentucky Pioneer Energy社
撤退
ボイラー燃焼最適化計画での低NOxバーナー
一体化を通じたNSPS排出基準達成
Sunfl ower Electric Power社
撤退
ビッグベンド発電所における神経回路網状煤煙換気シス
テム最適化
Tampa Electric社
終了
スプレードライヤー・アッシュによる骨材製品処理技術の
商業実証
UniversalAggregates社
業務
高度ハイブリッド型粒子状物質捕集装置(Advanced
HybridTM)全面改装技術の実証
Otter Tail Power社
終了
FLGR/SNCR/SCRハイブリッド型高度NOx抑制装置の
開発
TIAX社
撤退
グリニッジ多重汚染物質抑制プロジェクト
CONSOL Energy社
建設
高度多重石炭製品利用製品別処理プラント
ケンタッキー大学研究財団
設計
ボールドウィン・エネルギーコンビナートにおける総合最適
化ソフトの実証
NeuCo社
業務
ギルバートン石炭由来クリーン燃料・電力同時生産プロ
ジェクト
WMPI社
交渉
発電所高効率化−褐炭燃料強化
Great River Energy
設計
90MW石炭焚きボイラー3基の水銀・多重汚染物質抑制
を目的とするTOXECON改装
Wisconsin Electric Power社
業務
Western Greenbrier複合生産実証プロジェクト
Western Greenbrier Co-Generation社
設計
空輸プロセスの商業規模実証
Mustang Clean Energy
撤退
285MWe石炭系輸送用ガス化装置の実証
Southern Company Services社
設計
水銀種・多重汚染物質抑制
Pegasus Technologies
設計
メサバ・エネルギー・プロジェクト−ユニット1
MEP-I社
設計
プロジェクト
CCTDP
PPII
CCPI-1
CCPI-2
*
撤退:自主的あるいはDOE指示のいずれかにより、プロジェクトで計画されている活動をその終了を待たずに、早期に切
り上げたプロジェクト。撤退は、協力契約締結以前、以後のいずれにおいても行われている。
9
スペシャルレポート
市場部門別プロジェクト工程表
暦年
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
ボイラー燃焼最適化計画での低NOxバーナー一体化
によるNSPS排出基準の達成
撤退
空輸プロセスの商業規模実証
撤退
ビッグベンド発電所における神経回路状排煙換気シス
テムの最適化
排出抑制
実証完了
高度ハイブリッド型粒子状物質捕集装置の実証
実証完了
ボールドウィン・エネルギーコンビナートにおける総合最
適化ソフトの実証
FLGR/SNCR/SCRハイブリッド型高度NOx抑制装置
の開発
撤退
グリニッジ多重汚染物質抑制プロジェクト
水銀種・多重汚染物質抑制
90MW石炭焚きボイラー3基の水銀種・多重汚染物質
抑制を目的とするTOXECON改装
クリーンコール・ディーゼル実証プロジェクト
撤退
高度発電装置
(注記参照)
285MWe石炭系輸送用ガス化装置の実証
JEA大規模CFB燃焼実証プロジェクト
実証完了
(注記参照)
Kentucky Pioneer Energy IGCC実証プロジェクト
撤退
(注記参照)
メサバ・エネルギー・プロジェクト−ユニット1
高度石炭改質プロセスの実証
クリーンコール燃料
実証完了
(注記参照)
ギルバートン石炭由来クリーン燃料・電力同時生産プ
ロジェクト
交渉中のプロジェクト
発電所高効率化−褐炭燃料の増強
産業用途
高度多重石炭製品利用製品別処理プラント
スプレードライヤー・アッシュによる骨材製品処理技術
商業化の実証
Western Greenbrierコプロダクションプロジェクトの実
証
契約前
設計および建設
業務および報告
注:2001年以前の実績スケジュールについては、個々のファクトシート参照。
10
石炭技術最前線
石炭部分水素化熱分解技術(ECOPRO)の現状と今後の展開について
(財)石炭エネルギーセンター
新日鉄エンジニアリング
(株)
川村 靖
後藤耕一郎、並木泰樹、小水流広行、矢部英昭
技術開発部
前検討を開始し、1997年より小型試験装置を用いた基礎
1.はじめに
試験、引き続き1999年よりプロセス開発試験装置
(PDU)
石炭は世界的に最も豊富に存在するエネルギー資源で
による反応確性試験を実施した。また、2003年12月より
あり、可採埋蔵量は155年と他の化石エネルギーの3〜4
実用化へ向けた技術評価のため、パイロットプラントに
倍長い。また、中国・インド等のエネルギー需要の増大
よる試験研究段階(通称ECOPRO)
へ移行している。
や中東情勢から原油・天然ガス価格が上昇しており、石
本報では、石炭部分水素化熱分解技術の概念、過去の
炭の発熱量当りの単価は他の1/4〜1/3と経済的にも優れ
研究開発結果ならびに今後の計画について以下に報告す
ている。これらから、石炭は重要な一次エネルギーとし
る。
て世界各地で広く用いられている。一方、CO2による地
球温暖化をはじめとする地球環境問題の解決が人類に課
2.技術概要
せられた大きな課題となっており、発熱量当りのCO2排
出量の大きい石炭に対してクリーンかつ高効率で使用す
図1に本技術の全体プロセスフローを示す。石炭部分
る技術
(CCT:Clean Coal Technology)
の開発と実用化が
水素化熱分解炉は、スロートで直結した2つの反応部
(部
求められている。
分酸化部と改質部)からなり、各々の反応部に石炭を吹
石炭部分水素化熱分解技術(Coal Flash Partial Hydro-
き込みそれぞれ部分酸化反応と熱分解・改質反応を行わ
pyrolysis Technology)
は、適度な加圧
(2〜3MPa)
かつ水
せる。下段の部分酸化部では、微粉炭およびリサイクル
素雰囲気下で微粉炭を瞬時に反応させ、化学原料および
チャーを酸素、スチームによって圧力2〜3MPa、温度
燃料としての軽質オイルを併産しつつ、発電や化学原料
1500〜1600℃でガス化し、COおよびH2を主成分とする
等への展開が容易な合成ガスを一つの炉から高効率に得
高温ガスを発生させる。部分酸化部とスロートで直結し
ることを目的とした新しい石炭転換技術である。従来の
た改質部には、微粉炭をリサイクルH2と共に部分酸化部
1)
水素化熱分解技術である石炭水添ガス化技術 のよう
からの高温ガス流に吹き込み、圧力2〜3MPa、温度700
に、石炭を主としてメタンへ転換するような極めて厳し
〜1100℃、水素濃度30〜50%程度(高温ガス中H2とリサ
い反応条件
(高圧、高温、高水素濃度)
を必要としないた
イクルH2を合わせた値)
、ガス滞留時間1〜2secの条件下
め、設備の簡素化および水素使用量削減による省コス
で改質反応(部分水素化熱分解反応)を瞬時に完了させ
ト、高効率化を実現可能である。また、石炭急速熱分解
る。また、部分酸化部からの高温ガスは改質部における
2)
3)
技術
(多目的石炭転換技術=通称CPX) は主として製鉄
所要反応熱の供給源としても機能するため、改質部出口
所への適用
(COG代替ガス、タール、チャーの生産)
を想
ガス温度は部分酸化部出口ガスより500〜800℃低下す
定した低圧プロセスであるが、本技術は高圧プロセスで
る。改質部では微粉炭から放出された熱分解一次生成物
あることから、製品として回収されるガスの使用用途拡
大、タールの軽質化による付加価値向上が期待できる。
表1に本技術の開発スケジュールを示す。1996年に事
表1 開発スケジュール
図1 プロセスフロー
11
石炭技術最前線
にHを移行させる水素化反応がin-situで進行し、油分は重
部分水素化熱分解炉の反応特性を明確にするため、1t/
質なタール状物質を形成せず軽質オイルが得られる。部
d プロセス開発試験設備(P r o c e s s D e v e l o p m e n t
分水素化熱分解炉において生成したガス、軽質オイル、
Unit=PDU)
を用いた反応確性試験を実施した。
チャーはサイクロンにおいてチャーを分離後、顕熱回収
(2)
試験方法
し、オイル回収および脱硫等のガス精製を経て、合成ガ
図2にPDU試験設備のフローを示す。
ス
(Syngas)
となる。合成ガスの一部はシフト反応、脱炭
部分水素化熱分解炉下段の部分酸化部においては、
によってH2リッチガスへ転換され、生成合
酸
(CO2回収)
バーナーを介して酸素と共に投入した微粉炭を1550〜
成ガスとの熱交換による予熱後、部分水素化熱分解炉の
1650℃程度の高温でガス化
(部分酸化、部分燃焼)
する
改質部へリサイクルされる。最終的な製品合成ガスは、
ことによって、可燃性のガス化ガス
(H2、CO、CO2、
H2、CO、CH4を主成分とするH2/CO≒1程度の高水素含
へと転換する。石炭中の灰分はガス化と同時に溶
H2O)
有ガスであり、発電
(IGCC)
や燃料ガス、燃料合成
(GTL
融し、スラグとして炉底
(スラグタップ)
より抜き出さ
等)や化学(メタノールやアンモニア合成等)原料等の原
れる。部分酸化部において生成した高温のガス化ガス
料ガスとして利用される。また、軽質オイルはベンゼ
はスロートを介して直ちに改質部へと導入され、その
ン、ナフタレン等の1〜2環の芳香族化合物を主成分と
ガス中へ石炭ノズルより微粉炭を吹き込むことによっ
し、化学原料あるいは発電燃料として利用される。
て、ガス化ガスの持つ顕熱を利用して水素化熱分解反
応および改質反応を行わせる。なお、水素添加試験実
3.石炭部分水素化熱分解技術の研究状況
施時においては、石炭ノズルから水素を石炭と共に改
質部内へ供給し、石炭の熱分解・改質反応場に水素を
3.1
5)
,6)
小型試験装置による基礎試験
供給するようにした。
本技術において狙いとする比較的緩やかな反応条件
改質部から放出された生成物(部分酸化部生成ガス
(水素化熱分解雰囲気=改質部条件を模擬)
下における熱
+改質部生成ガス、オイル、チャー)は二重管型水冷
分解反応生成物の収率および性状を明らかにするため、
ジャケット方式のガス冷却器を用いて冷却後、サイク
石炭を連続的に供給可能な気流層型小型熱分解試験装置
ロンにおいてチャーを分離され、更にベンチュリース
による基礎試験を実施した。
クラバーにおいて冷却・除塵され、最後はフレアス
試験の結果、本技術で狙いとする緩やかな反応条件下
タックにて燃焼放散される。また、サイクロンの後段
においても、石炭の水素化熱分解反応は充分に進行し、
からガスの一部を抜き出し、オイル回収器において冷
液成分の軽質化およびCH4等炭化水素ガスの収率が増加
却
(液体窒素による間接冷却)
を行うことによって、ガ
することが判明した。特に、BTXを初めとする軽質オイ
ス中に含有されるオイル分を凝縮させて回収(分析用
ルの収率向上に関して高水素濃度
条件(すなわち水素消費量の増加)
は必要条件でないことが明らかに
なり、実用化の際に大幅なコスト
増要因となる水素製造が回避でき
る見通しを得た。また、高揮発瀝
青炭〜褐炭クラスまでの幅広い炭
種において本技術のコンセプトが
有効であることを確認でき、本技
術の多くの地域で活用できる見通
しを得た。
3.2 プロセス開発試験設備
(PDU)
による試験7)
(1)
概要
本技術における核となる改質
部と部分酸化部の二室からなる
図2 PDU試験設備フロー
12
石炭技術最前線
サンプルとして)した。
よるCO生成、すなわちチャーのガス化反応
(C+H2O→
表2に試験条件の一例を示す。各々のCASEにおいて
が、改質部内においても(特に
CO+H2、C+CO2→2CO)
異なった改質部温度とすることにより、改質部におけ
高温条件であるCASE2では顕著に)起きているのでは
る石炭の熱分解反応生成物収率の変化について検討し
ないかと考えられる。
た。なお、試験炭としてはインドネシアの亜瀝青炭を
図4にCASE1において回収されたオイルの蒸留曲線
(ガスクロ蒸留)
を示す。コークス炉において生成した
用いた。
表2
PDU試験条件
室炉タールと比較して、今回のオイルは留出温度が全
般的に低く
(360℃以下留分が9割以上)
、軽質成分が主
体を占めている。留出温度200℃付近の平らな部分はナ
フタレンの留出部を示しており、今回のオイルは、
タールに含有される種々の成分の中でも特に高付加価
値成分であるナフタレンを高濃度で含有していること
が判明した。また、組成分析の結果、従来の室炉ター
ルにおいてはかなりの割合でナフタレンと共存してい
た異性体
(メチルナフタレン)
含有量が極めて少なく、
水素化熱分解過程においてナフタレンの側鎖(メチル
(3)
試験結果および考察
基)
が切断されているものと推定される。
図3に改質部における熱分解反応生成物の収率
(改質
部へ投入した石炭に対する炭素転換率)
を示す。ガス収
したが、特
率は、温度上昇と共に増加
(COおよびCH4)
にCOの収率増加が顕著であった。CASE1において
(C2H6、C2H4)
が発生した
は、CH4以外の炭化水素ガス
が、より高温条件であるCASE2においては認められな
かった。液収率は、温度上昇と共にBTXが増加する傾
向にあったが、BTX以外のオイル成分(Non-BTX オイ
ル)
は温度上昇と共に減少し、より軽質な成分へと転換
したものと考えられる。なお、改質部温度を更に高温
(1050℃以上)
とすることによって、BTX以外のオイル
図4 回収オイル蒸留曲線
成分が消失し、ほぼすべてをガスへと転換できること
も確認している。BTXの内訳に関し、その大部分はベ
図5に部分酸化部における石炭のガス化(部分酸化)
ンゼンであり、トルエンおよびキシレンの生成量は極
結果を示す。ガス化条件
(ガス化温度、石炭供給量等)
めて僅かであった。チャー収率は、改質部温度の上昇
によって若干異なるが、H 2 およびCOを70%(N 2 free
に伴って減少したが、この収率減少分は、先に示した
ベース)程度含有するガスを、概ね炭素転換率90%以
COの収率増加分にほぼ一致しており、チャーの反応に
上、冷ガス効率60%程度の効率で安定して発生させる
ことが可能であった。今回の試験においては、
改質部への石炭供給量をできるだけ多くするた
め、改質部への熱供給機能を兼ねる部分酸化部
の温度を高め
(平均温度1600℃以上)
に設定した
が、実用的
(灰溶融温度との関係)
にはより低い
温度でのガス化でも何ら問題なく、冷ガス効率
を一層向上させることも可能である。
図6に、PDU試験結果から推定した部分水
素化熱分解炉における炉内反応イメージについ
図3 PDU試験結果 生成物収率
13
て示す。部分酸化部において石炭を酸素によっ
石炭技術最前線
図5 部分酸化部ガス組成・炭素転換率・効率
図6 炉内反応イメージ
てガス化することによって生じた高温のガス化ガス
は、直ちに改質部へと導入される。改質部において、
石炭は水素と共に部分酸化部から導入された高温ガス
中に吹き込まれることによって水素化熱分解
(石炭急速
熱分解+水素による不安定ラジカルの安定化)される
が、この高温ガスおよび石炭が最初に反応する部分
(遷
移域)
において極めて活性の高いチャー
(ラピッドカー
ボン)が析出 8)し、かつその場での滞留が起きるため
に、比較的低温であるにもかかわらずチャーのガス化
反応
(ガス化ガス中に含有されるスチームまたはCO2と
の反応)
が進行するものと考えられる。遷移域から放出
される重質なタール
(揮発分)
は炉の上部において更に
水素化熱分解されることによって、より軽質なオイル
(一部はガス)
へと転換する。なお、この部分水素化熱
分解炉内の機能を高性能に維持するためには、CPXの
場合と同様、遷移域の状態を適切に管理、制御するこ
とが極めて重要である。
3.3
パイロットプラント試験
(ECOPRO)
本技術の実用化へ向けた諸課題を解決するため、2003
年度より6年間の計画で石炭処理量20t/d規模のパイロッ
トプラント
(PP)
による試験研究を開始した。本研究(事
写真1 ECOPROパイロットプラント全景
14
石炭技術最前線
業名:化学原料併産型石炭熱分解技術=通称ECOPRO
で各々試験を実施し、約50時間の連続運転を達成した。
〈Efficient Co-production with Coal Flash Partial
現在、生成物の分析等を実施しており、効率、生成物収
Hydropyrolysis Technology〉
)
は、経済産業省資源エネル
率等詳細な解析を実施中である。2回の試験においてプ
ギ ー 庁 の 支 援 の 下 、( 財 )石 炭 エ ネ ル ギ ー セ ン タ ー
ラントの運転制御性を確認しており、今後、次ステップ
(JCOAL)
事業として、
(独)
産業技術総合研究所
(AIST)
、
であるプロセス検証や設備安定性の確認、多炭種対応試
新日鉄エンジニアリング
(株)
、バブコック日立
(株)
、三
験等を行う予定である。
菱化学(株)
の各機関、各社が参画している。
表3 パイロットプラント試験状況
事業開始から2006年6月までの間にパイロット試験設
備
(新日本製鐵
(株)
八幡製鐵所構内に設置)
の設計および
建設を完了し、運転研究を2006年9月から2008年度にか
けて実施する。また、平行して支援研究(1t/dayPDUに
よる試験、シミュレーション開発、生成物用途研究等)
を実施している。
以下に本研究のパイロットプラントの開発目標と実機
(1000t/day規模)における目標推算値を示す。
・エネルギー効率[
(1)
式にて定義、LHVベース]
:
4.実用化イメージについて4)
PP:78%以上、実機:85%以上
・液生産比率
[対投入石炭比
(dry ash freeベース)
]
:
図7にPDU試験結果を基に算出した本技術の実用機
(石
PP:5wt%、実機:8wt%
炭処理量1000t/day規模)
におけるプロセス収支を示す。
・液性状:
PP、実機ともに、沸点360℃以下の軽・中質油留分
部分水素化熱分解炉で発生したチャーは回収し、その全
が80%以上
量を部分酸化部にリサイクルするのものとした場合、最
3
終製品として6.1万Nm /hのガスと3t/hの軽質オイルを併
・経済性:
実機推算において、合成ガスの用途に応じて、既存
産することが可能である。製品ガスはH2とCOを主成分
製品との価格競争力が現状および近い将来において
とし、若干のCH4を含有する3000kcal/Nm3程度の中カロ
見込めること。
リーガスとなる。また、(1)式で定義されるエネルギー
2006年度は設備の冷間・熱間試運転の後、2007年1月
転換効率は88%に達するという試算結果となり、従来の
までに2回の試験運転を行った。表3に試験条件を示す。
各種石炭転換技術における効率を大幅に凌駕する見込み
試験水準として、改質部を1000℃以上の高温とした完
である。
全ガス化条件および800℃程度とした液併産条件の2水準
図7 実機規模でのプロセス収支
15
石炭技術最前線
※エネルギー効率(LHV基準)=
6.おわりに
製品
(ガス+オイル)
発熱量/石炭発熱量×100 …
(1)
本技術は石炭の反応特性を生かした付加価値の高いガ
本技術は従来の石炭ガス化技術と異なり、1基のプラ
ス・液併産を高効率かつ経済的に行うことが可能であ
ントを用いた複合生産
(ガス+軽質オイル)
が可能である
り、将来的には、本技術をコアとする石炭をベースとし
ため、製品も多目的用途に利用可能である。例えば製品
た業界融合型複合事業
(電力/化学/鉄鋼を中心)
を実現
ガスは、高圧ガスであることに注目して、コンバインド
することにより、トータルエネルギー利用効率の飛躍的
サイクルによる高効率発電(IGCC)やメタノール、アン
な向上も期待できる。
モニア、GTL等液体燃料の合成用化学原料として利用す
近年石炭ガス化技術がCCTの有望な技術であるとの認
る。軽質オイルは各種芳香族化学製品を製造するため高
識が深まり、世界各国で石炭ガス化技術の開発・商用化
付加価値な化学原料として利用可能であり、例えばガス
が加速されている。例えば、中国における欧米企業のガ
発電と組み合わせた場合には、軽質オイル売却による利
ス化炉商用機の建設・運転開始やGreenGEN計画による
益によって発電コストを低減
(副産物控除)
することが可
自国ガス化技術の開発、米国におけるFutureGEN計画や
能となる。また、本技術は電力使用量変動に対応可能な
EPACT2005による実用化推進政策などが挙げられる。こ
発電プロセスとしての応用も期待できる。すなわち、ガ
れら世界の動向を睨みつつ、本技術の開発、とりわけ実
スをベースロード用の発電燃料として使用する一方で、
用化に向けた開発を推進していく所存である。
貯蔵の容易な軽質オイルを電力ピーク時における発電燃
料として集中して使用すれば、効率の大幅低下を招く石
炭転換設備のターンダウンを行うことなく、日々の電力
使用量の変動へ追従することが可能となる。
謝辞
本技術開発
(ECOPRO)
は、石炭生産・利用技術振興補
助事業
(石炭利用実用化技術開発)
の一環として実施して
5.今後の課題
いる。研究の遂行にあたり、多大なる御支援、御指導を
頂いている経済産業省資源エネルギー庁、技術検討委員
パイロットプラント試験は建設・試運転完了から3ヶ
会の関係各位、および共同研究者である
(財)
石炭エネル
月で初期運転を計画通りに実施し、運転制御性確認等の
ギーセンター(J C O A L )、(独)産業技術総合研究所
成果を挙げた。今後はパイロットプラントを用いて、下
(AIST)
、バブコック日立
(株)
、三菱化学
(株)
の関係各位
記課題に取り組む。
に厚く御礼申し上げます。
(1)
プロセスの検証
高エネルギー効率・液併産が本技術の大きな特徴で
参考文献
あり、PDU試験で想定された炉内反応(部分水素化反
1)
加茂徹
応)
を検証し、技術優位性を確認する。
2)
Yamaguchi, K. et al.:Proc 7th China-Japan Symposium
(2)
設備信頼性の確認
石炭ガス化炉の実用化においては、設備信頼性が重
要であり、昨年実施した50時間連続運転をベースに長
時間運転を実施し、設備信頼性を確認する。
(3)
実用化を目指した諸データの取得
実用化に向けては、スケールアップのためのエンジ
ニアリングデータの取得、多炭種適応性の確認等が必
要である。また、パイロットプラント試験のデータを
取得し、ラボ試験・PDU試験のデータと合わせてシ
ミュレータの精度アップを図り、大型機の炉内状況を
再現可能とするモデルとして完成させる。
ほか:燃料協会誌.69(8)
,684
(1990)
on Coal and C1 Chemistry,277(2001)
3)
小野田正巳 ほか:第11回石炭利用技術会議講演集,63
(2001)
4)
矢部英昭
ほか:新日鉄技報,382,8(2005)
5)
下田博巳 ほか:第10回石炭利用技術会議講演集,269
(2000)
6)Yabe, H. et al.:Proc 7th China-Japan Symposium on
Coal and C1 Chemistry,199
(2001)
7)
Yabe, H. et al.:Proc 21st Annu Int Pittsburgh Coal Conf,
S32-1
(2004)
8)
林潤一郎
ほか:エネルギー・資源.21(1)
,50(2000)
16
地球温暖化問題
気候変動に関する政府間パネル
(IPCC)
第4次評価報告書
第1作業部会報告書
(自然科学的根拠)
の公表について
原因とほぼ断定。(第3次評価報告書の「可能性が高
はじめに
い」
より踏み込んだ表現)
気候変動に関する政府間パネル
(IPCC)
第1 作業部会第
●20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間の
10 回会合(平成19年1月29日〜2月1日、於フランス・パ
内で最も高温で、最近12年
(1995〜2006年)
のうち、
リ)
において、IPCC 第4 次評価報告書第1作業部会報告書
1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850年以降
(自然科学的根拠)
の政策決定者向け要約
(SPM)
が承認さ
れるとともに、第1作業部会報告書本体が受諾された
(IPCC の概要については22頁を参照)。
過去3年間にわたる取りまとめ作業の仕上げとなる本
で最も温暖な12年の中に入る。
●過去100年に、世界平均気温が長期的に0.74℃
(1906
〜2005年)
上昇。最近50年間の長期傾向は、過去100
年のほぼ2倍。
会合での議論により、地球温暖化の実態と今後の見通し
●1980年から1999年までに比べ、21世紀末
(2090年か
についての、自然科学的根拠に基づく最新の知見を、本
ら2099年)の平均気温上昇は、環境の保全と経済の
報告書にバランスよく取りまとめることができた。今後
発展が地球規模で両立する社会においては、約1.8℃
本報告書は、
「気候変動に関する国際連合枠組条約」
をは
(1.1℃〜2.9℃)である一方、化石エネルギー源を重
じめとする、地球温暖化対策のための様々な議論に科学
視しつつ高い経済成長を実現する社会では約4.0℃
的根拠を与える重要な資料となると評価される。
同報告書の取りまとめに当たり、わが国の多くの研究
(2.4℃〜6.4℃)と予測(第3次評価報告書ではシナリ
オを区別せず1.4〜5.8℃)
者の論文が採用されたほか、報告書の原稿執筆や最終取
●1980年から1999年までに比べ、21世紀末
(2090年か
りまとめにおいてわが国は積極的な貢献を行ってきた。
ら2099年)の平均海面水位上昇は、環境の保全と経
済の発展が地球規模で両立する社会においては、
IPCC 第1作業部会第10回会合の概要
18cm〜38cmである一方、化石エネルギー源を重視
しつつ高い経済成長を実現する社会では2 6 c m 〜
開催月日:平成19年1月29日
(月)
から2月1日
(木)
まで
の4日間
開催場所:国連教育科学文化機関
(UNESCO)
本部
(フ
ランス・パリ)
(WMO)
、
出 席 者:107か国の代表、世界気象機関
59cmと予測
(第3次評価報告書
(9〜88cm)
より不確実
性減少)
●2030年までは、社会シナリオによらず10年当たり0.2
℃の昇温を予測
(新見解)
●熱帯低気圧の強度は強まると予測
国連環境計画
(UNEP)
等の国際機関等から
●積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏におけ
合計306名が出席。わが国からは、経済産
る海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅すると
業省、気象庁、環境省などから計9名が出
の予測もある。
(新見解)
席した。
●大気中の二酸化炭素濃度上昇により、海洋の酸性化
が進むと予測
(新見解)
報告書の主な結論
●温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋へ
の取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中
同報告書SPM の主な結論は以下の通りである
(SPM の
概要は18頁に示す)。
●気候システムに温暖化が起こっていると断定すると
ともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の
17
への残留分が増加する傾向がある。
(新見解)
地球温暖化問題
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
第4次評価報告書第1作業部会報告書
政策決定者向け要約
(SPM)
の概要
速報版(今後公式資料により修正の可能性がある)
温室効果ガス等の変化
●現在の二酸化炭素及びメタンの大気中濃度は過去65万
年間の自然変動の範囲をはるかに超えている。
(図1)
◇二酸化炭素の濃度は工業化以前の約280ppmから
SPM の主なポイント
2005 年には379ppmに増加。
●気候システムに温暖化が起こっていると断定する
◇メタンの濃度は、工業化以前の約715ppbから、2005
とともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖
年には1774ppbに増加。メタン濃度の増加率は1993
化の原因とほぼ断定。(第3次評価報告書の「可能
年以降低下。
性が高い」より踏み込んだ表現)
●20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間
の内で最も高温で、最近12年
(1995〜2006年)
のう
ち、1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850
年以降で最も温暖な12年の中に入る。
●過去100年に、世界平均気温が長期的に0.74℃
(1906〜2005年)
上昇。最近50年間の長期傾向は、
過去100年のほぼ2倍。
●1980年から1999年までに比べ、21世紀末
(2090年
から2099年)の平均気温上昇は、環境の保全と経
済の発展が地球規模で両立する社会においては、
約1.8℃(1.1℃〜2.9℃)である一方、化石エネル
ギー源を重視しつつ高い経済成長を実現する社会
では約4.0℃
(2.4℃〜6.4℃)
と予測。
(第3次評価報
告書ではシナリオを区別せず1.4〜5.8℃)
●1980年から1999年までに比べ、21世紀末
(2090年
から2099年)の平均海面水位上昇は、環境の保全
と経済の発展が地球規模で両立する社会において
は、18cm〜38cmである一方、化石エネルギー源
を重視しつつ高い経済成長を実現する社会では
2 6 c m 〜5 9 c m と予測。(第3 次評価報告書(9 〜
88cm)
より不確実性減少)
●2030年までは、社会シナリオによらず10年当たり
0.2℃の昇温を予測。(新見解)
●熱帯低気圧の強度は強まると予測。
●積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏にお
ける海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅す
るとの予測もある。
(新見解)
●大気中の二酸化炭素濃度上昇により、海洋の酸性
化が進むと予測。(新見解)
●温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋
への取り込みが減少するため、人為起源排出の大
気中への残留分が増加する傾向がある。
(新見解)
図1
過去1万年及び1750年以来の二酸化炭素、メタン及び一
酸化二窒素の大気中濃度の変化。大きい図の右軸は対応
する放射強制力。
18
地球温暖化問題
●温室効果ガスの増加は、化石燃料の使用、農業及び土
年の上昇率はさらに大きく年あたり3.1[2.4〜3.8]mm
地利用の変化といった人間活動による排出が主な要
で、気候が及ぼした寄与の合計と不確実性の範囲で一
因。
致。
●1750年以降の人間活動(温室効果ガス、エーロゾル、
対流圏オゾン、ハロカーボン類、アルベドの変化等)
が温暖化の効果をもたらしたことには高い信頼性があ
る。(太陽放射の変動がもたらす効果よりはるかに大
きい。)
●二酸化炭素による放射強制力(地球温暖化を引き起こ
●1961年以降における、世界平均海面水位の年当たり1.8
[1.3〜2.3]mmの上昇のうち年当たり0.42[0.30〜0.54]
mmが海水の膨張によると見積もられる。
●北極の平均気温は、過去100年間で世界平均の上昇率
のほとんど2倍の速さで上昇したほか、海氷や積雪面
積が減少。(図2(c)
)
す効果)は、1995から2005年にかけて20%増加。これ
は、少なくとも過去200年間のあらゆる10年間におけ
る最大の変化。
気候システムの変化の実態
●気候システムに温暖化が起こっていると断定。
◇気候システムの温暖化には疑う余地がない。このこ
とは、大気や海洋の世界平均温度の上昇、雪氷の広
範囲な融解、世界平均海面水位上昇が観測されてい
ることから今や明白である。
●20世紀後半の北半球の平均気温は、過去1300年間の内
で最も高温であった可能性が高い。最近12年(1995〜
2006年)のうち、1996年を除く11年の世界の地上気温
は、1850年以降で最も温暖な12年の中に入る。
●1850年から1899年の期間に比べて、2001〜2005年の世
界平均気温は0.76
[0.57〜0.95]
℃上昇
(図2(a)
)。
●最近50年間(100年当たり1.3[1.0〜1.6]℃)の長期傾向
は、過去100年
(100年当たり0.74[0.56 〜 0.92]
℃)
のほ
ぼ2倍。(第3次評価報告書
(1901〜2000 年)における変
図2 (a)
世界平均地上気温;(b)
潮位計
(青)
と衛星
(赤)
データ
による世界平均海面水位の上昇;
(c)
3月〜4月における北
半球の積雪面積それぞれの観測値の変化。すべての変化
は、1961年〜1990年の平均からの差である。滑らかな曲
線は10年平均値、陰影部は平均値の不確実性の幅、丸印
は各年の値をそれぞれ示す。
化傾向は100年当たり0.6[0.4〜0.8]
℃)
●海洋の平均水温は上昇し、気候システムに加えられた
熱の80%以上を海洋が吸収し、海面水位上昇をもたら
した。
●南北両半球において、山岳氷河と雪氷域は平均すると
後退。
●グリーンランド氷床と南極氷床の一部の流出速度が増
●1900年から2005年にかけて、アジア北部と中部等の地
域では降水量がかなり増加した一方、サヘル地域等は
乾燥化。
●1970年代以降特に熱帯地域や亜熱帯地域で、干ばつの
地域が拡大し、激しさと期間が増した。
加。グリーンランド氷床と南極氷床の融解が1993年か
●寒い日、寒い夜及び霜が降りる日の発生頻度は減少。
ら2003年にかけての海面水位上昇に寄与(この効果は
一方、暑い日、暑い夜及び熱波の発生頻度は増加。
海面水位予測に反映)。
●大雨の頻度は増加。
●20世紀を通じた海面水位上昇量は0.17
[0.12〜0.22]
m。
●熱帯低気圧の発生数にははっきりした傾向はないが、
(第3次評価報告書では、20世紀中の地球の平均海面水
北大西洋の強い熱帯低気圧の強度に増加傾向が見られ
位上昇量は0.1〜0.2m)
(図2
(b)
)
●世界平均海面水位は1961年から2003年にかけて、年あ
たり1.8[1.3〜2.3]mmの割合で上昇。1993年から2003
19
る。
●南極の海氷面積には変化傾向はなく、竜巻等の小規模
現象の変化傾向は不明。
地球温暖化問題
図3 1906〜2005年の世界規模及び大陸規模の10年平均地上気温の変化
(1901〜1950年の平均値が基準)
と
モデルシミュレーションの比較。黒線は観測された変化
(観測面積が全体の50%未満の期間は破線)
。
青帯は、気候モデルを用いた、自然起源の強制力のみを考慮したシミュレーション。また、赤帯は、
気候モデルを用いた、自然起源と人為起源の放射強制力を共に考慮したシミュレーション。
気候変化の原因特定
て、大陸平均すると、人為起源の顕著な温暖化が起
こった可能性が高い。(図3)
●人為起源の温室効果ガスの増加によって、20世紀半ば
以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどがも
●人間活動の影響が、海洋の昇温、大陸規模の平均気
温、極端な気温現象などにも及んでいる。
たらされた可能性がかなり高い。
(第3次評価報告書で
は
「過去50年間に観測された温暖化の大部分は、温室効
地球規模の将来予測
果ガス濃度の増加によるものであった可能性が高い」
)
●特に、地上及び自由大気の気温、海洋の上部数百メー
●「排出シナリオに関する特別報告(SRES)」に規定する
トルの水温、及び海面水位上昇に、気候システムの温
各シナリオに基づく、2100年までの平均気温と海面水
暖化が検出されるとともに、人為起源の強制力の寄与
位上昇予測
(氷の流れの力学的変化の影響を含まない)
をその要因として特定。
を改定(図4参照)
●過去50年にわたって、南極大陸を除く各大陸におい
●どのシナリオでも、今後20年間に、10年当たり約0.2℃
図4 SRES シナリオによる、21世紀末
(2090〜2099 年)
における世界平均気温(左)
及び世界海面水位予測
(第4次評価報告書における予測値を表1及び表2に掲載。)
いずれも1980〜1999年を基準とした上昇量
(最良の予測と予測幅)
を示す。各シナリオの、左が第3次
評価報告書の予測、右が第4次評価報告書の予測。
(図4は、SPM から気象庁作成)
20
地球温暖化問題
の割合で気温が上昇。
●気温予測の不確実性の上限は、採用したモデルの数が
増えたことと、多くのモデルが、炭素循環のフィード
バックなど複雑な過程を取り入れたことにより、第3
次評価報告書における予測幅より拡大。
●海面水位上昇予測の予測幅は、不確実性に関する情報
が改善したため縮小した。
●温暖化により、大気中の二酸化炭素の陸地と海洋への
海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅するとの予
測もある。
●ほとんどの陸域における極端な高温や熱波、ほとんど
の地域における大雨の頻度は引き続き増加。
●熱帯の海面水温の上昇に伴い、熱帯低気圧の強度は強
まり、最大風速や降水強度は増加。
●大気中の二酸化炭素濃度の増加に伴い、海洋の酸性化
が進行する。
取り込みが減少するため、人為起源排出の大気中への
●大西洋の深層循環は、21世紀中に弱まるが、大西洋の
残留分が増加する傾向がある。(地球温暖化の進行を
深層循環が21世紀中に、大規模かつ急激に変化する可
さらに早める効果)
能性はかなり低い。
●21世紀の温暖化予測の地理的分布は、ほとんどシナリ
●放射強制力を2100年時点で安定化しても、主に次世紀
オには依存せず、過去数十年に観測された分布と類
中、約0.5℃のさらなる昇温が予測される。また、その
似。
後数世紀にわたって海面水位上昇は継続する。
●昇温は、陸域と北半球高緯度で最大、南極海と北大西
洋の一部で最小。
●降水量は、高緯度地域では増加する一方、ほとんどの
亜熱帯陸域においては減少。
●積雪面積や極域の海氷は縮小。北極海の晩夏における
●グリーンランドの氷床の縮小が続き、2100年以降の海
面水位上昇の要因となる一方、南極の氷床の質量は増
加。
●人為起源の二酸化炭素により、千年以上にわたって温
暖化や海面水位の上昇が続く。
表1 SRESシナリオによる21世紀末(2090〜2099年)に予測される世界平均地上気温の上昇量(単位℃)。
1980〜1999年に対する昇温量(最良の予測と対応する可能性が高い予測幅)
表2 SRESシナリオによる21世紀末
(2090〜2099年)
における世界平均海面水位の上昇量
(氷の流れの力学
的変化の影響を含まない)
(単位m)
。1980〜1999年に対する上昇量。
21
地球温暖化問題
SRES(排出シナリオに関する特別報告)の温室効果ガス排出シナリオ
○A1
「高成長社会シナリオ」
半ばに世界人口がピークに達した後に減少するが、経済
構造はサービス及び情報経済に向かって急速に変化し、
高度経済成長が続き、世界人口が21世紀半ばにピーク
物質志向が減少し、クリーンで省資源の技術が導入され
に達した後に減少し、新技術や高効率化技術が急速に導
るもの。環境の保全と経済の発展を地球規模で両立す
入される未来社会。A1シナリオは技術的な重点の置き方
る。
によって次の3つのグループに分かれる。
A1FI:化石エネルギー源重視
○B2
「地域共存型社会シナリオ」
A1T :非化石エネルギー源重視
A1B :各エネルギー源のバランスを重視
経済、社会及び環境の持続可能性を確保するための地
域的対策に重点が置かれる世界。世界人口はA2よりも緩
○A2
「多元化社会シナリオ」
やかな速度で増加を続け、経済発展は中間的なレベルに
とどまり、B1とA1の筋書きよりも緩慢だがより広範囲な
非常に多元的な世界。独立独行と地域の独自性を保持
するシナリオ。出生率の低下が非常に穏やかであるため
技術変化が起こるもの。環境問題等は各地域で解決が図
られる。
世界人口は増加を続ける。世界経済や政治はブロック化
され、貿易や人・技術の移動が制限される。経済成長は
低く、環境への関心も相対的に低い。
※ SRESシナリオは追加的な気候変動対策を含んでいな
い。すなわち、いずれのシナリオも気候変動枠組条約
や京都議定書の削減目標が履行されることを明示的に
○B1
「持続発展型社会シナリオ」
仮定していない。
※ SRES(Special Report on Emission Scenarios, IPCC
地域間格差が縮小した世界。A1シナリオ同様に21世紀
2000)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
について
気候変動に関する政府間パネル
(IPCC)
の概要
第1作業部会:気候システム及び気候変化の自然科学的
根拠についての評価
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovern-
第2作業部会:気候変化に対する社会経済及び自然シス
mental Panel on Climate Change)
」
は、人為起源による気
テムの脆弱性、気候変化がもたらす好影
候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術
響・悪影響、並びに気候変化への適応の
的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを
オプションについての評価
目的として、1988年に世界気象機関(WMO)
と国連環境
第3作業部会:温室効果ガスの排出削減など気候変化の
計画
(UNEP)
により設立された組織である。
IPCC は、議長、副議長、三つの作業部会及び温室効
果ガス目録に関するタスクフォースにより構成される
(図5)
。それぞれの任務は以下の通りである。
緩和のオプションについての評価
温室効果ガス目録に関するタスクフォース:
温室効果ガスの国別排出目録作成手法の
策定、普及および改定
22
地球温暖化問題
図5 IPCCの組織
IPCCの報告書
公開される予定である。今後の作業の予定は以下の通り
である。
IPCCは、これまで三回にわたり評価報告書を発表して
きた。これらの報告書は、世界の専門家や政府の査読を
受けて作成されたもので、「気候変動に関する国際連合
枠組条約
(UNFCCC)
」をはじめとする、地球温暖化に対
する国際的な取り組みに科学的根拠を与えるものとして
極めて重要な役割を果たしてきた。これまでにIPCCが取
りまとめた評価報告書は以下のとおり。
1990年第1次評価報告書
1992年第1次評価報告書補遺
1995年第2次評価報告書
●1月29日〜2月1日 第1作業部会
(於フランス・パリ)
(第1作業部会報告書審議・承認)
●4月2日〜5日
第2作業部会(於ベルギー・ブリュッ
セル)
(第2作業部会報告書審議・承認)
●4月30日〜5月3日 第3作業部会
(於タイ・バンコク)
(第3作業部会報告書審議・承認)
●5月4日 IPCC第26回総会
(於タイ・バンコク)
(第4次
評価報告書第1〜第3作業部会報告書承認)
●11月12日〜16日 IPCC 第27回総会
(於スペイン・バ
レンシア)
(統合報告書承認)
2001年第3次評価報告書
2007年第4次評価報告書
わが国における取り組み
第4次評価報告書の作成には、3年の歳月と、130を超
える国の450名を超える代表執筆者、800名を越える執筆
わが国は、同報告書取りまとめに当たり、省庁連携に
協力者、そして2,500名を越える専門家の査読を経て、本
よるIPCC 国内連絡会を組織し活動支援を行ってきた。
年順次公開される。
わが国の多くの研究者の論文が数多く同報告書に引用さ
れたほか、多くの研究者が執筆者として原稿を執筆し
今後の予定
た。また同報告書の最終取りまとめにおいてわが国は積
極的な貢献を行っている。
IPCC 第4次評価報告書は、第1〜第3の各作業部会報告
今後、第1作業部会報告書については、SPM の日本語
書および統合報告書から構成され、各作業部会の報告書
訳を、3月末を目途に気象庁ホームページに公開する。
は、各作業部会総会において審議・承認・公開され、本
また、IPCC 第26回総会において、第4次評価報告書が採
年5月のIPCC第26回総会において採択される。また、各
択された後、第1作業部会報告書各章概要等の日本語訳
作業部会報告書の分野横断的課題についてまとめた「統
を公開する予定である。
合報告書」
が本年11 月のIPCC 第27回総会において承認・
23
地球温暖化問題
我が国の温室効果ガス排出量の実態
及び京都議定書目標達成計画について
●2007年度の目標達成計画見直しにおいて、「環境と経
見直した成果として、
「京都議定書目標達成計画」
が閣
済の両立」を実現するための実効性ある温暖化対策を
議決定された。同計画に基づき、現在、関係省庁が中
実現するため、産業構造審議会環境部会地球環境小委
心となって温暖化対策が進められている。
員会において検討が開始された。
●他方、我が国の最近の温室効果ガス排出実績を見る
●地球温暖化問題は、人類の生存基盤に関わる最も重要
と、2004年度が基準年比+7.4%、2005年度が基準年比
な環境問題の1つである。この温暖化問題に国際的に
+8.1%と、6%削減目標の達成は容易ではない状況に
対応するため、1997年に京都議定書が採択され、同議
ある。
定書は2005年2月に発効した。
京都議定書目標達成計画においては、その実効性を
●京都議定書上、我が国は、温室効果ガスを基準年(原
確保するため、「2007年度に本計画の定量的な評価・
則1990年)
比6%削減することを約束している。この約
見直しを行い、第一約束期間
(2008年度〜2012年度)
に
束の達成に向けて、政府は、「地球温暖化防止に関す
おいて必要な対策・施策を2008年度から講ずる」もの
る基本方針(1998年)」
「地球温暖化対策推進大綱(1998
とされている。上記のような厳しい状況の中、第一約
年、2002年)
」
を策定し、地球温暖化対策を推進してき
束期間開始を間近に控え、2007年度に如何なる評価・
た。
見直しを行うかは、今後の我が国の温暖化対策の在り
●2005年4月には、「地球温暖化対策推進大綱」を評価・
1
方を示す観点から、非常に重要なものである。
京都議定書目標達成計画による対策の推進
24
地球温暖化問題
2
京都議定書目標達成計画策定時からのマクロ経済状況等の変化
3(1) 我が国の温室効果ガス排出量の推移
25
地球温暖化問題
3(2) 部門別にみた我が国の温室効果ガス排出量の状況
4
産業部門における排出量推移
26
地球温暖化問題
27
5
運輸部門における排出量推移
6
業務部門における排出量推移
地球温暖化問題
7
家庭部門における排出量推移
8
代替フロン等3ガスの排出量推移
28
JCOALの海外石炭情報
APEC クリーンフォッシルエネルギーテクニカル&ポリシーセミナーについて
(財)石炭エネルギーセンター企画調整部
「Clean Coal as a Sustainable Energy Development
Strategy」
と題し、2007年APECクリーンフォシルエネル
堺
義明
インドネシア、中国、韓国、台湾、フィリピンの17カ国
であった。
ギーテクニカル&ポリシーセミナーがベトナム社会主義
共和国ハノイ市ホライゾンホテルで開催され、参加した
5.セミナー概要
ので概要を報告する。本セミナーでは、今回、ベトナム
側のホスト役をつとめるVINACOMINの要望もあり、マ
5.1 プログラム 6日
(火)
〜7日
(水)
イニングのセッションも設けられ、各国の石炭政策、需
平成19年2月6日
(火) 08:30−17:45
給、石炭生産・保安技術、石炭利用技術に関して発表が
(1)
開会
行われ、最後にパネルデイスカッションも行われた。
(2)
Session 1 4件
Clean Fossil Energy Policy Coal Demand Outlook in
1.開催日時
the APEC Region
(i)
(3)
Session 2 4件
平成19年2月6日
(火)
〜2月8日
(木)
Clean Fossil Energy Policy Coal Demand Outlook in
the APEC Region(ii)
2.開催場所
(4)
Session 3 4件
Clean Fossil Energy Policy Coal Supply Outlook in
ベトナム社会主義共和国ハノイ市ホライゾンホテル
the APEC Region
(iii)
3.主催及び後援
(主催)
・APEC化石エネルギー専門グループ
(EGCFE)
(ステア
リングコミッティー)
・日本経済産業省(METI)
・ベトナム工業省
(MOI)
・米国エネルギー省
(DOE)
(後援)
・新エネルギー・産業技術総合開発機構
(NEDO技術開
発機構)
・太平洋コールフロー推進委員会
(JAPAC)
・ベトナム VINACIMIN
・米国エネルギー省国立エネルギー技術研究所
(National Energy Technology Laboratory : NETL)
写真1 会場となったハノイホライゾンホテル
平成19年2月7日
(水)
08:30−17:00
4.参加国、参加人員
(5)
Session 4 5件
Advanced Mining Coal Technology
会議参加者数は総計約150名、参加国は開催国である
ベトナムの他、日本、米国、英国、豪州、カナダ、ドイ
ツ、ポーランド、ロシア、タイ、マレーシア、インド、
29
(6)
Session 5 4件
Commercial Clean Coal Technologies
(7)
Session 6 5件
JCOALの海外石炭情報
Emerging Clean Coal Technologies
現行の石炭火力発電所の効率が、日本のような高効率技
(8)
Panel Session
術を導入することにより、環境負荷低減、使用燃料節減
(9)
閉会
や石炭灰の排出削減等、大きなメリットがある等の意見
もあり、今後のCCTの技術移転について、可能性とその
平成19年2月8日
(木) テクニカルツアー
期待が大きいことも示された。同様に、石炭生産・保安
Coc Sau 露天炭鉱および、Cam Pha 港湾石炭積み出し
について、露天掘り炭鉱の大型機械化と坑内掘り炭鉱の
施設の見学
効率化・安全化が必要であること、それには技術者の育
成と確保が必要であることも示された。
5.2
概要
その他、各国より、現在のクリーンな石炭エネルギー
オープニングでは、米国NETL Scott Smouse議長によ
を知らない人が多く、石炭のダーティーイメージを払拭
る開会宣言に続き、ベトナム工業省から開会の挨拶をい
する必要があり、環境に調和した石炭の利用について理
ただき、ホスト役VINACOMINを代表してHung副総裁
解を得るべく石炭に係る広報が重要であることも指摘さ
による
「ベトナムの環境に調和した石炭産業の開発」
につ
れたので、筆者より日本のクリーン・コール・デーの内
いての基調講演が行われた。また、JAPACの副会長で、
容について紹介を行った。
(財)石炭エネルギーセンター(JCOAL)の安藤理事長よ
安藤理事長からは、本セミナーでの紹介や統計に表れ
り、
「21世紀の石炭の役割と課題
(石炭に対する期待と不
ているように、石炭には大きな期待が寄せられている
安)
」
と題し、継続が期待される世界の経済成長によりエ
が、石炭需給に不安があることを認識する必要があり、
ネルギーの需要が増大し、それに伴って資源確保を巡る
地球温暖化問題では更に石炭にプレッシャーが強まるこ
動きが急変するとともに、地球環境問題が顕在化し、そ
とが予想されることより、これまで開発されたCCTの導
の解決対策が急がれる状況および石炭のダーティーイ
入や将来に向けて開発を行うCCTの加速化を区別して議
メージー
(汚い、危険)
の払拭の必要性について所感を述
論を進める必要があることが指摘された。
べ、アジアの市場が自立出来るかをキーワードに、石炭
最後にScott Smouse議長より、まとめとして持続的経
に対する期待と不安について各国の参加者へ意見を求め
済成長には化石燃料が必要であること。また、その利用
た。
については幅広いオプションを持っておくことも必要で
講演では、各国の石炭政策・需給とともに、石炭生
あること、本APECクリーンフォシルエネルギーテクニ
産・保安技術や石炭利用技術の合計26件の発表が行なわ
カル&ポリシーセミナーで、各国の抱える問題や情報を
れた。日本からは、NEDO飯田健治氏から日本の石炭政
共有し、開発した石炭生産・利用技術を市場に出してい
策について、ベトナムでの石炭鉱山保安技術開発につい
くシステム作りが必要であることが提言され、本セミ
てJCOAL山下栄二が、ベトナムでの選炭技術について
ナーは成功裏に閉会した。
JCOAL小柳伸洋が、またEAGLEプロジェクトについて
NEDO大林誠司氏がそれぞれ発表を行った他、筆者が
セッション1の議長を務めた。
各講演の内容については、紙面の関係で省略するが、
予稿集を保管しているので、閲覧ご希望の際にはご連絡
いただきたい。
本セミナーを総括すると、APEC諸国の石炭需要は
益々増加し、産炭各国の生産増計画との格差は輸入に期
待しており、今後さらに石炭需給問題の深刻化の懸念が
感じられた。
写真2 セミナーでの講演風景
パネルディスカッションでは、安藤理事長の提言によ
り、石炭に対しての期待と不安についてディスカッショ
尚、本ジャーナルの表紙に掲載の写真は、本セミナー
ンを深めた。その中では、APEC域の石炭需給につい
を開催した主催・後援者の代表と、今後のAPEC域内の
て、中国はもちろんのこと、インドの今後の展開が、一
石炭について、情報交換し親交を深めたメンバーの皆様
番大きなキーとなるとの指摘があった。また、インドの
である。
30
JCOALだより
JCOALだより
1.平成18年度伊木賞を決定し表彰
に石炭鉱業の保安向上に尽力した。特に北海道管内
での石炭鉱業の災害防止と保安確保に主導的役割を
「伊木賞」
は、我が国の石炭技術の進展並びに後進の指
果たした。また受入れ研修はもとより、中国への派
導・育成に尽力された、元全国炭鉱技術会会長 伊木正
遣研修でも鉱山保安監督業務の講師として、技術移
二工学博士
(東京大学名誉教授)
の功績を末永く顕彰し、
転先の健全な発展に大きく寄与している。
より一層の石炭技術の向上に資することを目的として、
●皆川喬氏は札幌鉱山保安保安監督局、本省公害保安
平成9年3月14日に設立され、功績賞と奨励賞が設けられ
局等において石炭企業の自主保安確立及び石炭鉱業
ている。
の保安向上に努め、特に採掘区域の深部化での技術
伊木賞委員会
(委員長:安藤勝良)
は、平成18年12月15
開発では優秀な技術と指導力を発揮し、その開発を
日、平成18年度伊木賞として、功績賞4件を採択し、平
推進した。石炭鉱業の構造調整期には九州通商産業
成19年1月12日に表彰を行った。奨励賞の該当者はな
局石炭部長として構造調整の円滑な遂行に尽力し
かった。
た。それらの経験と豊富な知見で「炭鉱技術海外移
転5ヵ年事業」
の受入れ研修講師としても多大な貢献
を果たした。
●吉原輝男氏は福岡鉱山保安監督部において、永年に
わたり鉱務監督官として石炭鉱山の監督及び指導に
従事し、石炭企業の自主保安確立を支援するととも
に石炭鉱業の保安向上に尽力した。特に九州管内で
の石炭鉱業の災害防止と保安確保に主導的役割を果
たした。また受入れ研修はもとより、中国への派遣
研修でも鉱山保安監督業務の講師として、技術移転
先の健全な発展に大きく寄与している。
−伊木賞委員会事務局−
受賞者各位(敬称略)
前列左から安藤勝良、内野健一、林一勝、
後列左から中村和夫、皆川 喬、吉原輝男
【功績賞受賞者】
2.ノルウェーでCCS付石炭火力発電
プラントの建設計画がスタート
●林一勝氏は中国側から日中間の経済、貿易、及び友
好促進事業に一貫して従事してきた。特に2001年の
国際企業グループがノルウェーで、地球温暖化ガスを
中国の行政改革によって、国家安全生産監督管理局
95%回収する革新的石炭火力発電プラントを2011年まで
と国家煤砿安全監察局の国際合作司副司長に任命さ
に建設する計画を開始した。多くの国で、地球温暖化ガ
れた以降は、日中石炭鉱業の生産技術・保安技術交
スを発生させる原因となる化石燃料からのエミッション
流を積極的に推進し、「炭鉱技術海外移転5ヵ年事
を抑制する技術の開発が進められているが、フランスの
業」の開始に当たっては中国側での準備に奔走し、
Eramet社、米国のAlcan社及びノルウェーのNorsk Hydro
当事業の立ち上げに大きく貢献した。事業開始後は
社は、約800百万米ドルで、西ノルウェーにCCS
(Carbon
運営委員会の設立、その機能確立に取り組み、尽力
Capture and Storage)
を含む400MWの石炭火力発電プラ
した。同事業成果の礎を築いた一人として、氏の功
ントを建設する計画を発表した。
績はきわめて大きく、日中石炭事業発展への貢献が
高く評価された。
●中村和夫氏は札幌鉱山保安監督部にあって、永年に
わたり鉱務監督官として石炭鉱山の監督及び指導に
従事し、石炭企業の自主保安確立を支援するととも
31
このプラントは、ノルウェーのクリーンエネルギーグ
ループであるSargasが開発した煙突中の排ガスからCO2
を95%以上回収
(N2Oも回収可能)
する新しい技術が採用
されることになっている。
Sargasの専務取締役であるHenrik Fleischer氏は、
「石
JCOALだより
炭火力のコンポーネントすべてについて試験を実施して
る。
非常に優れた結果を得ており、今すぐにでも建設する準
山東省棗庄市にある山東海化煤業化工有限公司のコー
備ができている。」と述べている。競争相手は、米国の
クス炉及びメタノールプラントに隣接する、U-GAS石炭
FutureGen Allianceが2012年ごろ建設する予定の発電と水
ガス化プラントは、年間20万トンの利用されない石炭を
素を製造する石炭プラントだが、
「発電コストはCO2回収
28,000Nm3/hでガスに転換する。山東海化煤業化工有限
コストを含めて0.047〜0.055米ドル/kWhと予測してい
公司はここで製造された合成ガスを、別の新しいプラン
る。これはCO2回収が発電コストを約25%押し上げた結
トでメタノール製造に使用し、また、コークス製造の燃
果であるが、それでもノルウェーで今後予想される発電
料や自家発電の燃料としても使う。
コストより低くなる。」
と、Fleischer氏は述べている。
SES石炭ガス化プラントは、2007年の第三四半期に営
このプラントは年間2.6百万トンのCO2を回収できる。
業運転を開始することにしており、運転員を約100人雇
回収したCO2はパイプラインと船舶で海洋に運ばれ、油
用する予定である。SESと山東海化煤業化工有限公司は
田やガス田に貯留される。ノルウェーはSleipnerガス田
既に、今後のメタノールの需要増大や工業団地建設に伴
で、世界で数少ない炭素回収システムの商業化を実現し
うガスの需要増大に合わせて生産の拡大を検討している。
ている。ここでは、現在年間100万トンのCO2が海底下の
山東海化煤業化工有限公司の親会社である山東海洋化
地層に貯留されている。
工集団公司の副会長Liu Jingmeng氏は、
「山東海化煤業化
ほとんどが水力発電のノルウェーにとって、石炭火力
工有限公司は、このプロジェクトで、SES社のU-GAS技
発電プラントについては基礎的なところからスタートす
術を使うことにより、低品質、低価格の石炭を、クリー
ることになるが、2007年から準備が開始され、2011年に
ンに、しかも効率よく付加価値の高い化学原料に転換で
は発電を開始する予定になっている。
きるようになる。山東海化煤業化工有限公司とSES社と
(2006年11月27日Advertisementより)
のパートナーシップは、両者にとってプラスになる。な
ぜなら、山東海化煤業化工有限公司は、発生する利用さ
3.米国SES(Synthesis Energy Systems)
社が中国に石炭ガス化プラントの建設を開始
れない石炭からクリーンな合成ガスを製造して、メタ
ノールプラントに供給することができるようになる。一
方、SES社は、この価値ある解決策を提供することで、
SES
(Synthesis Energy Systems)
社は、95%子会社の合
弁会社SES棗庄新ガス社が、山東省に新しい石炭ガス化
プラントを建設するセレモニーを行ったと発表した。
大きな経済的なリターンが期待できるからである。」と
述べている。
(2006年12月5日SESプレスリリースより)
このプラントは、SESが保有しているU-GAS技術を
使って、利用されていない石炭を環境に調和した形で合
成ガスに転換するものである。また、このプラントは、
4.MESABA ENERGY
(次世代IGCC)
プロジェクトが米国でスタート
SES社が最初に設計し、建設するU-GASの石炭ガス化プ
ラントであり、同社のガス化技術の開発及び商業化のマ
イルストーンを意味するものとなる。
ConocoPhillips E-Gas プロセスを使った606MW
(2 基の
うち1 基)
の次世代IGCCプラントが建設される計画であ
「中国の石油製品の輸入依存度を減らすためにはいろ
る。ConocoPhillips E-Gasプロセスは、DOEのCCT 実証
いろな方法があると思うが、石炭ガス化技術はこの石油
プロジェクトにおいてWabash River 石炭ガス化リパワリ
代替製品をつくる技術である。」と、SES会長Lorenzo
ングプロジェクトで実証試験が行われたプロセスであ
Lamadrid氏は語っている。
「中国は石炭資源を最も多く
る。Mesaba Energy プロジェクトのプラントは、その時
持つ国の一つであり、我々のクリーンで効率的な石炭ガ
の2 倍の大きさで、より高効率で、信頼性が高く、環境
ス化技術が中国の事情に完全にフィットすると確信して
負荷も少なく、ミネソタ州Duluth の北部に建設予定であ
いる。このプラントは、低品質で低コストの石炭をいろ
る。プロジェクトの費用は21.6億ドルで、DOEが3,600 万
いろな化学製品をつくるための合成ガスに転換出来る、
ドル負担する。このプロジェクトは、D O E のC C P I
クリーンで高効率なU-GAS技術を中国に最初に導入する
(Clean Coal Power Initiative)
のラウンドⅡで選ばれた4 つ
ものである。我々はこの技術が中国だけでなく世界中に
普及する技術であると自信を持っている。
」
とも述べてい
のプロジェクトのうちの1つである。
Mesaba プロジェクトの目的は、大型で燃料がフレキ
32
JCOALだより
シブルな、標準的IGCCプラントを開発することであ
ネルギーの多様化を進め、クリーンな石炭の利用、原子
る。技術的な目標は高く、システムの利用率は90%以
力エネルギー、および再生可能エネルギーなどのクリー
上、燃料は瀝青炭、亜瀝青炭及び石油コークスとのブレ
ンな代替エネルギーの用途拡大や、エネルギー産出国で
ンドが可能で、水銀やCO2に対する環境対策も十分に施
の投資の改善などが、日米相互のエネルギー安全保障
されたプラントであるとのことである。E-Gasプロセス
や、地球環境問題にとって不可欠との考え方で一致し
では約80%の化学エネルギーを回収でき、また蒸気によ
た。
る熱回収システムで従来より約15%以上回収率が高くな
原子力分野では、長年に渡る原子力エネルギー分野で
り、トータルで原料の持つエネルギーの95%が利用可能
の協力関係を認識し、新しい原子力発電所の建設につい
なエネルギーに転換できるとしている。
て協力して行く方針が示された。
現在詳細なエンジニアリング及び設計が行われてお
また、クリーンな石炭の利用については、米国主導の
り、建設はFluor Enterprises、ConocoPhillips 及びSi-
(CCS)
プロジェクト
「FutureGen計画」
に日
CO2回収・貯留
emens のコンソーシアムで、2008年4月に開始される予
本政府が参画することとなった。同時に、両政府はAPP
定である。DOEはプレコンストラクションコストである
などを通じて、IGCCやCCSの官民協力を進める。
4,450万ドルの50%を補助することになっている。また、
DOEは建設には補助金を出さないが、2012年に始まる実
証運転については、5,640万ドルの運転費用の24.5%であ
る1,380万ドルを補助する予定である。
メタン・ハイドレート分野では、研究協力や情報交換
を継続する。
再生可能エネルギーでは太陽光発電やバイオ燃料など
での革新的な研究開発での協力を拡大する。
ガス化炉は、スラリー供給、酸素吹、2 段噴流床タイ
中国やインドなどの新興国に対しては、昨年12月に開
プである。ガス化炉内で炭素成分原料は合成ガスとガラ
催した日米中韓印の5カ国閣僚会合の重要性を認識し、
ス質のスラグを生成する。Wabash の時より進化した高
日米が中印へ省エネ協力の強化や緊急時の協調行動を働
効率で環境負荷の少ない、コストパフォーマンスに優れ
きかけていくことになっている。
たプラントであると報じられている。
(http://www.energy.gov/print/4572.htm より)
(DOE Clean Coal Today No.69より)
5.甘利経済産業大臣がワシントンにて
「日米エネルギー安全保障」
の協力関係
強化について合意
6.日経スペシャル「ガイアの夜明け」第247回
「黒いダイヤが燃えている
〜資源警報!石炭を確保せよ〜」
「黒いダイヤ」
と呼ばれ、産業革命の時代から親しまれ
訪米した甘利経済産業大臣と米エネルギー省
(DOE)
の
てきた石炭。原油価格が高水準で推移する中、その価値
サミュエル・ボドマン長官が、1月9日にワシントンで会
が再び急上昇している。そして中国などの経済成長に
談し、
「日米エネルギー安全保障」
の協力関係強化につい
よって、無限と思われた資源・石炭にも不吉な影が差し
て合意した。日本と米国は国際エネルギー機関(IEA)
、
始めた。限りある資源を、どう確保し有効活用するか。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)
エネルギーワーキン
日本は、持てる技術力を駆使して石炭争奪戦に挑む。
ググループ、クリーンな開発と気候におけるアジア太平
【石炭争奪・忍び寄る中国の影】
洋パートナーシップ
(APP)
、および国際的なエネルギー
石炭のメリットは、何よりも安いことにある。例えば
フォーラム等を通じて強いエネルギー協力関係を構築し
同じだけの電力をつくるのに必要な燃料コストは石油を
ている。また、水素経済
(IPHE)
のための国際的な核エネ
1とすると、石炭は5分の1にすぎない。しかも、中東な
ルギー研究イニシアチブ
(I-NERI)
、国際熱核融合実験炉
ど一部の地域に偏在している石油と違い、石炭は埋蔵量
(ITER)
プロジェクト、炭素隔離リーダーシップフォーラ
ム
(CSLF)
、および国際的協調を含むエネルギー技術協力
関係を構築している。
が豊富で世界中に存在している。
しかし最近の原油高騰によって石炭の人気がにわかに
高まり、雲行きが怪しくなってきた。最大の理由は、世
米国と日本は、世界の主要な経済大国でありエネル
界一の石炭消費国、中国の急成長だ。中国では発電の殆
ギー消費国として、両国間のエネルギー安全保障協力の
どを石炭に頼っている。電力不足の解消には、石炭の確
強化を約束する。両国は、エネルギー効率の向上と、エ
保が至上命題なのだ。
33
JCOALだより
もともと石炭生産量世界一で、日本など各国への輸出
国だった中国。しかし急激な経済成長でここ数年は逆に
輸入量が急増、国外での石炭確保が積極化している。狙
入った。
(テレビ東京:http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber/
preview070123.html より)
うは、未開発の大地が広がるモンゴル。モンゴルの砂漠
地帯では中国人が炭鉱を開発し、大型トラックで石炭を
7.
「世界に生かそう日本の石炭技術」
中国に向けて運び出している。
一方、中国の石炭消費量増加の影響を受けかねないの
が、日本。実は、日本は世界一の石炭輸入国なのだ。発
電エネルギーの約3割は石炭に頼っており、現在の石炭
の年間消費量は高度成長期の約3倍の1億8000万トン。そ
の99%が豪州や中国からの輸入炭だ。しかし、その中国
の急成長で、世界規模での石炭の争奪戦が始まった。日
本は石炭を確保できるのか?
【ニッポンの技術で石炭を確保せよ】
日本国内で唯一、石炭を坑内から掘り出している北海
道・釧路コールマイン。そこにはベトナムなどから研修
生が入れかわり立ちかわりやってくる。ベトナムの炭鉱
では機械化が進んでおらず、未だに人力に頼った採掘を
行っている。ベトナムからの研修生たちは釧路で、世界
最高水準を誇る日本の採炭技術を学ぼうというのだ。
ここに示す1枚の写真は、1995年11月8日
(水)
の北海道
一方、ベトナムでは日本の炭鉱技術者が採炭の技術指
新聞に掲載された、特集 第57回道新フォーラム
「世界に
導にあたっている。その最前線に立つのが釼谷啓吾さん
生かそう石炭技術」
の中で、
「努力する太平洋炭鉱を支援
(53歳)
。釧路コールマインの前身である太平洋炭鉱に19
したい」と力をこめて講演する、NEDO理事時代の安藤
歳で入社して以来、34年間に渡って坑道掘り一筋に生き
現JCOAL理事長である。この写真の姿には、中華人民共
てきた炭鉱マンだ。日本人の指導チームを統率しなが
和国
「友誼奨」
受賞時の穏やかな表情
(JCOAL Journal第6号
ら、日本が培ってきた炭鉱技術をベトナム人たちに教え
に掲載)からは想像することのできない、往年の「鋭さ」
込んでいく。
を漂わせた説得力のある姿と、当時の、厳しい情勢をう
実は、こうした取り組みには大きな狙いがあった。技
かがい知ることができる。この中で、安藤NEDO理事
術協力の見返りに、ベトナムを安定的な石炭供給元にし
は、将来アジアの石炭需要が急増することをこの時すで
ようというのだ。果たして、技術と引き換えに石炭を確
に予告しており、「日本の石炭産業は技術力を一層高
保する事は出来るのか?
め、ハードとソフトが一体となって国際協力を進めるこ
【先端技術で弱点を克服せよ】
とが必要である。インドネシアや中国、ベトナムなどの
石炭には他のエネルギーに比べて、大きな弱点があ
石炭資源開発の国際化を進展させ、太平洋炭鉱も、これ
る。それは二酸化炭素の排出量が多いことだ。天然ガス
まで築いた技術や人材を大いに活用して、釧路の炭鉱か
に比べて、約1.5倍の二酸化炭素を排出するのだ。そこ
らアジアや世界の炭鉱に脱皮し、多角的なエネルギー産
で、その弱点を克服するための技術開発が日本で進んで
業に成長してほしい。」
と述べている。
いる。東京電力など9 つの電力会社などが設立したク
「ガイヤの夜明け」
は、まさに安藤JCOAL理事長が長年
リーンコールパワー研究所では、石炭を一度ガス化さ
にわたって描いて来た成果の1つであり、今回伊木賞を
せ、ガスタービンと蒸気タービンを利用して発電する石
中国人として受賞された林一勝氏や、
「ガイヤの夜明け」
炭ガス化発電技術の実証が進められている。成功すれば
で主役を演じた釼谷啓吾氏などは、
「国際貢献」
で活路を
今までより発電効率が約2割高まり、二酸化炭素の排出
見出そうとした、当時の日本の石炭産業の思いを現実の
量を約2割減らすことが出来るのだ。世界中が注目する
ものとした点で、立場は異なるが、共通するものがあ
最新技術、その実験設備に世界で初めてテレビカメラが
り、石炭分野の皆様と共に拍手を送りたいと存じます。
34
Mi 三田
taLin 線 三
eM
田駅
ita
Sta
.
都営
駅
三田 .
線 ita Sta
草
M
浅
e
in
都営kusa-L
Asa
札の辻交差点
Fudano-tsuji Crossing
歩道橋
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Tax
口
A1出 xit
E
A1
.
町駅 hi Sta
JR田Tamac
e
Lin
JR-
東口
East Exit
ice
Off
ice
札
の
辻
橋
Pol
明治安田生命三田ビル9階
9F, Meiji Yasuda Seimei Mita Bldg.
都
税
三
事
田
務
署
所
西口
West Exit
最寄りの交通機関:JR田町駅西口より 徒歩6分、都営三田線・浅草線 A1出口より 徒歩5分
JCOAL Journal Vol.8(平成19年3月発行)
発行所:
(財)石炭エネルギーセンター
〒108-0073 東京都港区三田三丁目14番10号 明治安田生命三田ビル9階
Tel:03-6400-5191(総務部)6400-5193(企画調整部)6400-5196(資源開発部)
03-6400-5198(技術開発部)6400-5197(事業家推進部)6400-5194(国際部)
Fax:03-6400-5206/5207 E-Mail:[email protected]
URL:http://www.jcoal.or.jp
「JCOAL Journal」は石炭分野の技術革新を目指す(財)石炭エネルギーセンターが発行する情報誌です。
[禁無断転載]
京浜
第一ute 15
Ro