7 月号(第 19 号)2002.7 東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌 IMCB University of Tokyo IMCB Institute of Molecular and Cellular Biosciences University Tokyo The of University of Tokyo 目 次 研究分野紹介(プロテオーム研究分野)…………………………………1 着任のご挨拶(伊藤 啓、津田岳夫、佐藤 純、北川浩史)…………4 転出のご挨拶(柳澤 純、真弓貞雄、加藤康洋)………………………6 Welcome to IMCB-新人紹介………………………………………………7 分生研所内研究発表会・新人歓迎会(森 靖典)………………………9 分生研所内研究発表会入賞者の発表要旨(華岡光正、佐藤梨奈、久保友照)……11 ドクターへの道(六代 範) ……………………………………………13 海外ウォッチング(船越陽子) …………………………………………14 OB の手記(中野和宏)……………………………………………………15 留学生手記(丁 林賢)……………………………………………………16 研究室名物行事(活性分子創生研究分野) ……………………………17 お店探訪 加美良(降旗桂子) …………………………………………17 国際会議に出席してみて(朴 海龍、金 美善、大竹史明) ………18 所内レクレーション報告 …………………………………………………19 次代のホープ達−分生研卒業生進路紹介− ……………………………20 平成 14 年度科学研究費補助金採択一覧 ………………………………21 平成 14 年度受託研究・共同研究一覧 …………………………………22 研究紹介(関根圭輔) ……………………………………………………23 知ってネット ………………………………………………………………23 研究最前線(分子情報研究分野) ………………………………………24 Tea Time-編集後記(金井由美子、松尾美鶴)…………………………24 研究分野紹介 プロテオーム研究分野 研究テーマ 作用に基づく複雑なネットワークの構築により営まれてい 1. プロテオーム解析技術の開発 る。したがって、生命現象を理解するためには個々のタン 2. 病態プロテオーム解析 パク質の構造と機能ならびに相互作用の理解が必要とな る。私の所属する㈱アプロサイエンスでは、タンパク質の 単離・精製から微量タンパク質の一次構造解析技術の開発 ゲノム解析プロジェクトの進展に伴い種々の生物の遺伝 ならびに新規タンパク質の探索・応用開発を手がけてい 子構造が明らかとなってきたが、生命現象は遺伝子から合 る。また、これまでに蓄積した技術ノウハウを生かしてタ 成されたタンパク質が翻訳後修飾などを伴って分子間相互 ンパク質一次構造解析に関する受託分析を行っている。最 近では発現タンパク質を網羅的に解析するプロ テオーム解析の自動化システムの構築にも取り 組んでいる。プロテオーム解析の流れを図 1 に 示す。 1. プロテオーム解析技術の開発 (a)マイクロシークエンシング タンパク質のアミノ酸配列分析は自動プロテ インシークエンサーのカートリッジにサンプル をセットしてスタートボタンをクリックすれば よいのであるが、実際に満足する分析結果を得 るためにはそれなりの苦労が必要である。反応 図 1. プロテオーム解析の流れと使用機器 の初期収量と繰返収率を高いレベルで維持する 2 オーバーがひどく 10 残基程度しか配列を決定できないとき に、サンプルを還元アルキル化処理後に分析すると50残 基以上の配列を連続して決定できることもある。N末端が ブロックされたタンパク質の場合はプロテアーゼにてゲル 内消化などを行い得られたペプチドを逆相 HPLC にて分離 したのちにタンパク質内部の配列を決定する。この場合に もあらかじめサンプルを還元アルキル化処理することでペ プチドの回収率が向上する。N末端配列解析では 0.2 pmol、 内部配列解析では 1 pmol を下限として分析を行っている。 使用シークエンサー: Procise 494cLC, Procise 494HT, PSQ-1, HP G1005A 図 2. がんミトコンドリアのプロテオーム解析 ラット肝がん細胞株 AH130 より単離したミトコンドリアと正常ラット肝 ミトコンドリアの二次元電気泳動像を比較解析した。青と赤で示すスポッ トはがんミトコンドリアで増大するスポットである。LC-MS/MS 解析によ り同定された。 (b) 質量分析を基盤としたプロテオーム解析 質量分析は、2つのイオン化法、electrospray ionization ためには、反応試薬と機器管理を徹底しなければならない。 (ESI) と matrix-assisted laser desorption (MALDI) の開発に 装置毎の基準値を設定して定期的な保守を行うことや個々 より、生命科学分野、特にプロテオーム解析に必須の分析 の装置の配列に依存した分析結果の“くせ”も見抜く必要 手法となっている。質量分析は短時間で結果が得られるこ がある。高感度分析のためには、ラインやカートリッジの とからプロテオームの意味するところの網羅的な解析には 徹底した洗浄が常に必要である。また、分析結果は、装置 特に有用である。飛行時間型質量分析装置 (TOF MS) と組 だけではなくサンプルの状態にも依存する。例えば、電気 み合わせた MALDI-TOF MS では fmol 程度のペプチドを数 泳動で単一のバンドを示すサンプルであっても低分子量の 分で分析することが可能である。二次元電気泳動で分離し ペプチドが含まれていれば複数のアミノ酸が検出されてし たタンパク質スポットをプロテアーゼ処理して得られたペ まう。N末端が不均一である場合(プロセッシング等によ プチド混合物を MALDI-TOF MS にて精密質量測定し得ら り不揃いとなる)なども想像力をたくましくしなければ配 れたペプチド質量の組み合わせ情報をデータベースに照合 列を読み分けることが難しい。タンパク質のシステイン残 することで同定する PMF (Peptide Mass Fingerprinting) で 基の処理には注意が必要で、分析結果を左右することがあ は一日に数百サンプルの分析も可能である。ただしその場 る。分析時に前サイクルからの PTH-アミノ酸のキャリー 合に、サンプルの前処理からプレートへのスポッティング 図3 がんミトコンドリアの生体エネルギーの流れ がんミトコンドリアでは「型ヘキソキナーゼ、VDAC2、ADP/ATP carrier 1 が増大している。これらのタンパク質がミトコンドリア膜において複合体を形成す ることでミトコンドリアで合成された ATP は解糖系の律速酵素であるヘキソキナーゼに効率よく利用される。 3 が律速となるのでハイスループットのためにはシステムの 受ける HK 「に利用されることでグルコースからグルコー 自動化が好ましい。ESI-MS では高電場で液体をスプレー ス 6 リン酸が効率よく生成する。このようにして、がん細 してイオン化することから HPLC との相性がよく LC-MS 胞は劣悪な環境下においても効率よく生体エネルギーを利 として使用されることが多い。我々のところでは分析感度 用・産生するものと考えられる。また、アポトーシスにお を上げるために内径 0.1mm の逆相キャピラリーカラムを用 けるシトクロームc放出に VDAC や AAC の関与が指摘さ いてペプチドを分離・濃縮し、オンラインでハイブリッド れていることから、がんの悪性化とこれらのアイソフォー 型タンデム質量分析装置(Q-Tof2)に導入している。検出 ムとの関連も興味深いところである。 されたすべてのペプチドを自動で MS/MS 解析し、得られ た部分配列情報と質量値をデータベースに照合する。この 以前と比較して分析装置の性能は格段に向上している。 場合、1 ペプチドの部分配列と質量情報があればタンパク その結果、微量タンパク質の分析も身近なものとなってき 質同定が可能である。LC-MS/MS では 1 回の分析に 30 分か たが、反面、サンプルの取り扱い方法が分析結果に大きく ら 60 分を要するが、PMF より精度の高いサーチが可能で 影響することにもなっている。操作中のケラチンなどのコ ヒット率も高い。質量分析によるタンパク質同定はデータ ンタミネーションには特に注意が必要であり、操作する人 ベースの配列情報に基づいているので、データベースに登 間をコントロールすることも必要かもしれない。微量解析 録されていないものはプロテインシークエンサーにてアミ に関する問い合わせ窓口として以下のメールアドレスをご ノ酸配列を決定する。 利用いただければ幸いである。 使用機器: Voyager DE-STR, Q-Tof2 + Magic 2000 構 成 員 2. 病態プロテオーム解析 客員教授 取締役生命科学研究所長 [email protected] プロテオーム解析では発現タンパク質の分離・検出に二 次元電気泳動がよく使用されるが、個々の細胞で発現して いるすべてのタンパク質を検出することは不可能である。 そこでタンパク質の局在性、構造、機能などに注目して、 アフィニティ分離や細胞の細分画などによりタンパク質の 機能的集団を対象にした解析がより実際的である。また病 態や薬剤投与などの外的環境変化に伴うタンパク質発現変 動を解析することで、病因の理解や診断・治療薬開発、さ らにはより副作用の少ない薬剤の開発といったアプローチ が可能である。我々は、ミトコンドリア機能を網羅的に明 らかにすることを目指して、ミトコンドリア・プロテオー ム解析を進めている(図 2)。ミトコンドリアは生体エネル ギー産生オルガネラとして古くから知られているが、最近 では発生、老化、がん、アポトーシスなどとの関連で再度 注目を集めているオルガネラである。正常細胞のミトコン ドリアとの比較解析から、がんミトコンドリアでは解糖系 の律速酵素であるヘキソキナーゼ (HK) のⅡ型アイソザイ ム、外膜の主要な溶質輸送孔を形成する VDAC(ポーリン) の2型アイソフォーム、内膜にあって ADP と ATP の交換 輸送を司る ADP/ATP carrier (AAC) の1型アイソフォーム の発現が増大していることを見いだしている(図 3)。これ らのタンパク質はミトコンドリア表面で複合体を形成する と考えられることから、ミトコンドリアで合成された ATP は AAC1 により輸送され VDAC2 を経由して膜表面で待ち 真島 英司 取締役 グループリーダー 山本 謙治 チームリーダー 研究員 ホームページ http://www.aprosci.com 3名 12 名 4 着任のご挨拶 高次構造研究分野 助教授 伊藤 啓 4月から細胞機能情報研究センター高次構造研究分野に赴任しました伊藤です。小学生のころから 「宇宙戦艦ヤマト」の波動エンジンにあこがれて、あのようなものを人類が西暦 2199 年に作れるよう になるための礎になりたいと、東大の理学部物理学科に進学しました。しかし量子論・相対論の難解 な数式には早々に落ちこぼれてしまい、こんどは「キャプテン・ハーロック」の宇宙海賊船アルカデ ィア号に搭載されている、死んだ親友の心を移植したバイオコンピューターにあこがれて、西暦 2970 年にああいうものを作れるようになるための礎になろうと、昆虫の分子神経解剖学の道に入りました。 宇宙戦艦からロケット工学や天文学の研究に進もうとは思わなかった点、バイオコンピューターから情報科学やヒトの脳の 研究に進もうとは思わなかった点に、私のスタンスを感じていただければ幸いです。 「ヒトの脳はあまりにも難しいけれど、ショウジョウバエの脳なら基本的回路ぐらい大体もう分かっているだろうから、 コンピューターでシミュレーションして動作を調べてみよう」という学生の頃の私のもくろみは見事に裏切られ、実は誰も ちゃんとやって来ていなかった、神経を 1 本 1 本辿って脳回路の成り立ちを調べるという地道な作業に追われています。科 学の世界には、これぐらい分かっていて当然だと思うことと、実際にいま分かっていることとに、まだまだ多くのギャップ があります。なんとか定年までには、私が学生のころ欲しかったような基礎的情報を揃え、次代(次々代?)の学生に託し たいと思っています。 スペースの関係で今しばらくは岡崎にある基礎生物学研究所で研究を続けているため、分生研に顔を出すことがあまりあ りませんが、空き部屋が出来しだい徐々に引っ越してきたいと思っています。見間違えにくい風体をしていますので、たま に見かけたら声をかけてやって下さい。よろしくお願いいたします。 生体超高分子研究分野講師 杉田 有治 平成 14 年 4 月 1 日付けで、生体超高分子研究分野(豊島教授)の講師に着任いたしました。3 月ま では、愛知県の岡崎市にある岡崎国立共同研究機構分子科学研究所で、助手として勤務しておりまし た。分子研には 3 年半在籍していたのですが、静かな地方都市での生活にすっかりなじんでしまい、 久々の都会生活に慣れるには少し時間がかかりそうです。 私の専門は理論生物物理学で、主に計算機を用いた分子シミュレーションを行うことにより、生体 高分子の機能や物性を理解することが目的です。計算機を用いた研究をしているとお話しすると、実 験をされている方は(分生研のほとんどの皆さんがそうであると思われますが)、机に向かってコンピュータをいじってい るだけで仕事になって楽そうだなあと思われるかもしれません。実際にはこの分野はまだまだ未成熟であり、生物学的に興 味深い現象を理解するためには、まだまだ新しい方法論の開発やプログラム開発などやるべきことが山のようにあり、なか なか大変です。しかし、自分がこの分野の研究を始めた時と比較して、方法論も計算機の性能も格段の進歩があり、ようや く生物学的に面白い問題に挑戦できるようになってきたように思います。分生研では、豊島研で立体構造が解かれた Ca2+ATPase に関する分子シミュレーションを行うことにより、その機能発現のメカニズムに少しでも迫れればと考えていま す。それではよろしくお願いします。 生体超高分子研究分野 助手 津田岳夫 私は平成 14 年 3 月より、生体超高分子研究分野の助手として着任致しました。まず私の経歴につい て紹介させて頂きます。北海道大学理学部化学科生物化学講座において谷口和弥教授の御指導のもと、 酵素反応速度論を学ばせて頂きました。この研究室の目標は、細胞内外のイオン濃度勾配を形成する Na+,K+-ATPase のイオン輸送メカニズムを解明する事です。反応中の酵素の「動き」を追跡するため、 部位特異的に蛍光プローブを導入した酵素標品を調製しリアルタイムで蛍光強度の変化を測定、リガ ンド結合速度と比較解析します。この測定で大切な点の一つは、化学修飾した酵素の性質を正しく知 5 る事です。ラベルされたアミノ酸残基の場所をペプチドマップで同定し、その導入量と活性の関係を求めます。正確に物の 量を見積もることの難しさと大切さを教わりました。ポスドクとして大阪大学医学部の谷口直之研究室で EGF レセプターの Asn 型糖鎖の役割について、カナダ国 University of Toronto (U of T)の David H. MacLennan 研究室で筋小胞体 Ca2+-ATPase と その調節因子について研究を行いました。この期間は、分子生物学的な手法を習得したと同時に、バックグラウンドの異な るたくさんの人たちと知り合えたことは大きな財産になったと信じています。現在所属している豊島研究室は、様々な反応 中間体の Ca2+-ATPase の三次元構造を明らかにしイオンポンプのメカニズム解明を目指しています。私は構造生物学に関し 全くの素人ですが、今後それに関する経験を積むと同時に今まで学んだ生化学の基礎を生かし、蛋白質分子が行う「エネル ギー変換とイオン輸送の精巧な仕組み」を研究室の皆さんと楽しく解き明かせるよう努力して行きたいと考えております。 形態形成研究分野 助手 佐藤 純 この 5 月に助手として形態形成分野に加わった佐藤です。着任の挨拶と言っても何を書いてよいの か分らないので、自分の経歴について少し書こうと思います。学部 4 年から博士号取得までは、東大 理学部 3 号館(生物化学科)、西郷薫教授の研究室にてショウジョウバエを用いた発生学の研究をし ていました。学位取得後、ポスドクとしてカリフォルニア大学サンフランシスコ校に移り、Tom Kornberg 教授の研究室にてこれまたショウジョウバエの発生研究に携わりました。結局、アメリカ でのポスドク生活は 2 年で終えて、今回帰国してきたわけです。本当はもう少し長くいるつもりだっ たのですが、タイミングよくサンフランシスコでの研究が一段落し、かつ分生研でのポジションが見つかったということで、 これも何かの縁かと思い帰国を決意しました。分生研でもやはりショウジョウバエの発生を研究しますし、さらに形態形成 分野の多羽田教授も同じ Kornberg 研出身であります。そういうと変化に乏しい研究人生に聞こえるかもしれませんが、お そらく今後もショウジョウバエとういう点では変わらないかと思います。ショウジョウバエは言わずと知れたモデル生物界 のスーパースター(?)であります。その利点は数えきれないくらいですが、かなりの高等性を持っていながらも、個人レ ベルの実験から十分に精密で一般性を持った研究を展開できるという点が私にとっては最も魅力的です。実際にショウジョ ウバエ研究の先人達は、小規模な研究からでも他の多くの研究分野にインパクトを与える様な仕事をしてきたわけですが、 私にとってもそのような研究は理想ですし、是非とも実現していきたいと思っています。 核内情報研究分野 助手 北川浩史 4 月から核内情報研究分野の助手になりました北川です。よろしくお願いいたします。私は 8 年前 に医師免許をとり、臨床内科医としてのトレーニングを終了した後、4 年半前に研究を始めるに当た り、臨床医学講座より当研究室に派遣されて実験を始めました。右も左も知らない状態から 4 年半が 経ち、まさか医学部以外の場所で職に就くことになろうとは、周りの人も自分も思っても見なかった、 というのが正直なところです。私は、前任の柳澤 純先生にタンパク精製の指導を受けました。私自 身はまだまだ未熟者なのですが、当研究室にて1からその実験系を立ち上げることに携わったという 経験を活かし、当研究室にくる学生の皆さんや、その他の企業、医学部から来られる様々な方々と共に研究に携わっていけ ればいいと思っております。 ご存知の通り、核内情報では実に 30 人以上の人間が研究に携わっております。少ないスタッフでこの人間を統率すること は並大抵のことではないことをこの 2 ヶ月でつくづく痛感させられております。未熟者ゆえ、今後も他の研究室の皆様にも ご迷惑をおかけするとと存じますが、引き続き、ご指導、ご協力を賜りますようよろしくお願いします。 6 転出のご挨拶 前核内情報研究分野 助教授 柳澤 純 4月より筑波大学・応用生物化学系に異動となりました核内情報の柳澤です。1996年、私は米 国のコロンビア大学にてポスドクをしておりました。そんなある日、突然見知らぬ先生から「加藤だ けど、助手で来ない?」と夜中に電話があり、「加藤先生って誰だろう?」と思いつつ、その年の 12 月に助手として分生研に赴任して参りました。赴任してはじめて加藤先生が有名人であることを知り、 大変なところへ来たなと思いました(事実、助手の6年間いろいろと大変なことも多々ありました) が、まわりの方々に支えられ何とか無事過ごすことが出来ました。公私にわたってお世話になり、またご指導・ご鞭撻頂い た加藤教授、技官の金井さんをはじめ、諸先生方、事務の方々、そして研究室員の方々には、心より感謝申し上げます。誠 にありがとうございました。 お蔭様でこの6年間を振り返って見ると、RI 主任者試験に3回落ちたことを除けば、とても充実しておりました。特に研 究において分生研は極めてレベルが高く、さまざまな共通機器類も充実しており、研究者にとっては最高の環境であると思 います。私自身、アメリカも含めて様々な研究所を経験して来ましたが、分生研は、最も研究のし易い研究所でした。この ような研究所で仕事ができたことはとても幸運だったと考えております。これから研究をされる方々には分生研に来られる ことを強くお勧めします。末筆ではございますが皆様のご健康とご発展を祈念しつつお礼かたがたご挨拶申し上げます。 現所属:筑波大学・応用生物化学系・食品生化学研究室 つくば市天王台1−1−1、TEL/FAX 0298-58-6632、 E-mail [email protected] 前会計掛主任 真弓貞雄 平成 14 年 4 月 1 日付けで工学部へ異動することになりました。分生研に在職中は皆様方に大変お世 話になりました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。分生研にお邪魔して 3 年間あっという 間に過ぎていくなかで、在職2年目に再改組が動き、そして翌年には生命科学総合研究棟 8,000 ㎡の 工事が動き始めました。そして今、分生研を出てもう 2 ヶ月、今思うと分生研独特のにおい、狭い事 務室、狭い廊下が懐かしく、たった 3 年間でこんなにドップリ浸かったかなーと思われます。新棟の 目途もたち、今後は念願の狭隘を解決し、よい環境のもとでますますのご発展を心よりお祈りいたしております。ありがと うございました。 前用度掛 加藤康洋 この3月まで用度掛にてお世話になった加藤です。短い間でしたが皆さんの暖かい協力でなんとか やってこれたと思っております。今後この経験を生かしてがんばりたいと思います。今度の勤務地は 三鷹にある国立天文台という所です。そこの司計係に配属になりました。まだまだわからない事だら けですが、足を引っ張らないようにがんばっていきたいと思います。最後に本当に皆さん“ありがと うございました。”_(- -)_ 7 < Welcome to IMCB > −新人紹介− <事務部> 山口 武志 丸山 正巳 大津 勝美 山登 寛子 熊谷 彩 <染色体動態研究分野> 庶務掛員 用度掛主任 会計主任 研究助成掛 事務補佐員 研究助成掛 事務補佐員 園田 陽 薄井 俊樹 徐 建紅 崔 善淑 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科博士課程 2 年 技術補佐員 写真:後列左から山口、丸山、大津 前列左から山登、熊谷 <分子遺伝研究分野> 小林 正典 小山 内崇 川嶋 洋子 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 事務補佐員 写真:前列左から崔、園田 後列左から薄井、徐 写真:左から小林、川嶋、小山 <核内情報研究分野> 清水 崇史 早川 純平 田中 佐依子 沢津橋 俊 椎名 博子 斉藤メアリー Alexander Kouzmenko 三木美智子 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科博士課程 1 年 農学生命科学研究科特別研究生博士課程 1 年 農学生命科学研究科外国人研究生 JSPS 外国人研究員 CREST 派遣職員 写真2:左から三木、斉藤 写真1:後列左から清水、椎名、早川 前列左から沢津橋、田中、 Alexander Kouzmenko <分子情報研究分野> 瀬戸川 健 笠井 真菜 林 寛敦 新井田 厚司 相羽 智生 理学系研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 理学系研究科修士課程 1 年 特別研究学生 <細胞機能研究分野> 小川 太郎 林 光紀 齊藤 裕介 堀田 雄司 理学系研究科修士 1 年 理学系研究科博士 1 年 理学系研究科修士 1 年 新領域創成科学 研究科修士 1 年 カテリナ ビソバ 特別研究員 写真:前列左から笠井、瀬戸川、相羽 後列左から林、新井田 <情報伝達研究分野> 青木 一郎 伊藤 靖浩 大西 啓介 写真:左から青木、伊藤、大西 工学系研究科修士 1 年 工学系研究科修士 1 年 工学系研究科修士 1 年 写真:左から小川、林、カテリナ・ビソバ 堀田、斎藤 8 <細胞増殖研究分野> 田中 浩 奥村 純 川端 篤史 石岡 利康 築茂 由則 大石 智一 写真:左から築茂、 奥村、大石、 川畑、田中、 石岡 薬学部 4 年 薬学部 4 年 薬学系研究科修士課程 1 年 薬学系研究科博士課程 1 年 医学系研究科博士課程 1 年 医学系研究科博士課程 1 年 <形態形成研究分野> 佐藤 純 村上 智史 梅津 大輝 助手 理学系研究科修士課程 1 年 理学系研究科博士課程 1 年 <機能形成研究分野> 渡辺 夏巳 新井 望 安藤 勇樹 松井 等 鈴木 香 理学系研究科修士課程 1 年 理学系研究科博士課程 1 年 東京医薬専門学校、 学外研究生 博士研究員 GINKGO 共同研究員 写真:左から佐藤、村上、梅津 写真:前列左から渓口、渡辺 後列左から伊東、和田 <細胞形成研究分野> 渓口 直弘 和田 理恵子 渡辺 祥司 伊藤 靖子 応用生命工学研究科修士課程 1 年 応用生命工学研究科修士課程 1 年 応用生命工学研究科博士課程 1 年 応用生命工学研究科博士課程 1 年 <生体超高分子研究分野> 杉田 有治 津田 岳夫 福澤 孝昭 神谷 昌男 羽鳥 勇太 写真1:左から松井、安藤、渡辺、 新井、鈴木 講師 助手 農学生命科学研究科修士1年 農学生命科学研究科修士1年 理学研究科修士1年 <生体有機化学研究分野> 下川 淳 坂下 拓人 水津 真未子 薬学部 4 年 薬学部 4 年 共立薬科大学 4 年 写真:左から福澤、神谷、羽鳥 津田、杉田 写真:左から水津、下川、坂下 <バイオリソーシス研究分野> <活性分子創生研究分野> 森本 亜希子 渡辺 周一 千々石 修平 Leslie James Robert Bestilny 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 共立薬科大学修士課程 1 年 博士研究員 三浦 真一 和田 紀子 林 意雀 林 完澤 與口 りお 写真:後列左から林 完澤、三浦 前列左から林 意雀、與口 和田 写真:左から森本、Leslie James Robert Bestilny 渡辺、千々石 農学生命科学研究科修士課程 1 年 農学生命科学研究科修士課程 1 年 リサーチフェロー 外国人研究員 技術補佐員 9 分生研所内発表会・新人歓迎会開催される 情報伝達研究分野 森 靖典 去る 5 月 24 日に 2002 年度分生研所内発表会・新人歓迎会 が開催されました。所内発表会・新人歓迎会の幹事を担当 したことから、紙面にて会の印象や運営上の反省点などに ついて報告させていただきます。 所内発表会は今年で 4 回目の開催でしてまだ新しいもの ではありますが、分生研の恒例行事としてすっかり定着し た印象があります。そのためか発表内容のレベルは高く、 かつ発表にはとても熱意が感じられました。また、質疑応 答も昨年度以上にとても活発に行われました。 発表者・演題(発表順・敬称略) 機能形成研究分野 / 野中 秀紀(博士 1 年) 肝臓におけるオンコスタチンMを介した細胞間コ 情報伝達研究分野 / 小川原 陽子(博士 2 年) Akt による Mdm2 リン酸化を介した p53 制御 ミュニケーション 細胞増殖研究分野 / 六代 範(博士 3 年) 活性分子創生研究分野 / 朴 海龍(博士 3 年) 新規シャペロン誘導抑制物質 versipelostatin の癌細 抗癌剤に誘導される Akt の脱リン酸化を介した TRADD の発現機構 胞に対する効果 生体有機化学研究分野 / 喜多 哲也(修士 2 年) 形態形成研究分野 / 武井 ゆき(博士 2 年) ショウジョウバエ翅成虫原基を用いたコンパート 低分子人工酵素の開発―新規グアニジン化合物を 用いた不斉反応についての研究― メント形成機構の解析 生体超高分子研究分野 / 久保 友照(博士 2 年) 核内情報研究分野 / 中村 貴(博士 1 年) PP2C β-6 による p38 経路の制御機構の解析 骨組織における核内ステロイドレセプター作用機 構の解析 染色体動態研究分野 / 峰松 寛(博士 3 年) 大腸菌の転移性遺伝因子 IS3 の環状化機構 分子情報研究分野 / 佐藤 梨奈(博士 1 年) 細胞骨格、運動系における癌抑制遺伝子 APC の機 能解析 分子遺伝研究分野 / 華岡 光正(博士 3 年) シロイヌナズナにおける葉緑体 RNA ポリメラーゼ シグマ因子 SIG2 の機能解析 バイオリソーシス研究分野 / 丁 林賢(博士 3 年) Micrococcus lteus の賦活化因子( Rpf )を用いた土 壌中の VNC 細菌の分離 発生分化構造研究分野 / 石和 俊(博士 2 年) ヒストンアセチル化酵素およびヒストンシャペロ ンの生体反応における共通性・多様性の解析 10 細胞形成研究分野 / 原 崇(博士 3 年) 所内発表会に引き続き、新人歓迎会が農学部生協にて開 大腸菌リポ蛋白質の局在場所を決定する『選別シ 催されました。歓迎会は 200 人以上という非常に多くの皆 グナル』の解析 様に御参加いただき、鶴尾所長のご挨拶と乾杯の音頭を皮 切りに、研究発表の表彰式、丸尾先生の御挨拶、事務部お 今回は鶴尾所長および去年の幹事からの御提案を受け よび各研究室の新人紹介と終始和やかな雰囲気でとりおこ て、コンピューターを使ったプロジェクター映写によって なわれました。また、研究室によっては新人紹介のときに 発表を行うことで形式を統一しました。プロジェクターの ユーモアのある一芸を披露していただいて会を盛り上げて 使用は初めての試みでしたので、次演者の発表への移行を くれました。 スムーズに行えるように、切替器を用いてプロジェクター なお、会の終了後に各研究室の連絡係の方にアンケート に 2 台のパソコンを接続しておいて次演者は発表中に準備 をとりましたので、その内容に関してコメントいたします。 をするという方法で行いました。しかしコンピューターの 1.開催時期(5/24)について 機種によっては切替器の動作がうまくいかず、一部の研究 5 月 24 日の開催というのは例年の開催時期であります 6 室の発表では準備に手間取り、進行が遅れてしまいました。 月下旬∼ 7 月上旬よりも一ヶ月も早く、各研究室の皆様に 来年度はこの反省を生かして、事前の準備をしっかりやっ は準備の点でいろいろ御負担をかけました。それにもかか ていただけたらと思います。 わらず、「新人歓迎」の意味では早い時期での開催は良か 発表会には例年通り各研究室から2名ずつ審査にあたっ ったという意見を多数いただきました。反面、準備期間が た他、特別審査員として(財)応用微生物学研究奨励会理 短かかったのでもう少し早めに知らせてほしいという意見 事長の木下祝郎様、元分生研所長で奨励会顧問の丸尾文治 もありました。 先生、元分生研所長で奨励会顧問の田中信男先生、元三菱 生命研の坂口健二様、協和発酵工業の穴沢 秀治様に御参 2.審査方法、および賞品について 加いただきまして審査員特別賞を選定していただきまし 審査方法については内容、発表、質疑応答をそれぞれ 5 た。 2002 年度所内発表会入賞者は審査の結果以下のようにな りました。受賞者の方おめでとうございます(敬称略) 。 点満点で評価するという方式をとりました。この方法につ いては問題はなかったとする意見もある一方で、内容の評 価には無理がある、審査員によって点数配分が大きく変わ る可能性もあるという意見がありました。また、今年から 第1位 華岡 光正(分子遺伝研究分野/博士 3 年) 副賞として賞品を加えた点についてはおおむね御好評をい 第2位 佐藤 梨奈(分子情報研究分野/博士 1 年) ただきました。 第3位 久保 友照(生体超高分子研究分野/博士 2 年) 審査員特別賞 喜多 哲也(生体有機化学/修士 2 年) 審査員特別賞 小川原 陽子(情報伝達研究分野/博士2年) 3.新人歓迎会について (食べ物・飲み物の質と量、進行のしかた) 食べ物については質・量ともに良かったという意見が多 入賞者の方には奨励会よりいただいた盾の他に、副賞と かったです。ただ、多すぎるという意見もありましたが、 して 1 位∼ 3 位の方には時計を、審査員特別賞の方には文 終了後各研究室に持ち帰っていただいたので無駄にはなら 房具セットまたはトレーニング器具を贈呈しました。 なかったと思います。また、会場の前部が見えにくいとい う声が多く聞かれました。これは農学部生協を会場として 使っている都合上、毎年必ず出てくる問題です。これにつ いても、来年度に改善していただけたらと思っております。 最後になりましたが、発表会・新人歓迎会を行うにあた り御協力いただきました、各研究室の連絡係の皆様、およ び奨励会の山口さんに御礼申し上げます。 11 分生研所内研究発表会入賞者の発表要旨 シロイヌナズナにおける 葉緑体 RNA ポリメラーゼシグマ因子 SIG2 の機能解析 分子遺伝研究分野 博士課程3年 華岡光正 原始シアノバクテリアの共生によっ て生じたと考えられる葉緑体には、独自の DNA 上に約 100 種の遺伝子が存在し、光合成をはじめとした葉緑体の様々 な機能に深く関与している。しかし、葉緑体遺伝子の転写 図 2 シロイヌナズナにおける光合成関連遺伝子のプロモーター配列の比較 それぞれ (a) SIG2 非依存性、及び (b) SIG2 依存性のものを示す。 制御機構については、未だ不明な点が多い。高等植物の葉 ており、ウエスタン解析の結果からいくつかの葉緑体タン 緑体には、2種類の RNA ポリメラーゼが存在している(図 パク質の蓄積量も大きく減少していることが分かった。そ 1)。一方が核コードの T7 ファージ型 RNA ポリメラーゼ こで、何らかの葉緑体遺伝子の転写が影響を受けていると (NEP)で、もう一方が葉緑体コードのバクテリア型 RNA 考え、葉緑体ゲノム上の全 ORF を網羅した DNA マイクロア ポリメラーゼ(PEP)である。PEP のサブユニットのうち、 レイを作成し転写量の比較を行った。その結果、意外にも プロモーター構造を認識するのに必要なシグマ因子は核に ほとんどの ORF で野生株との顕著な差が認められなかっ た。さらに解析を進めた結果、我々は一部の葉緑体コード コードされており、シロイヌナズナの場合 6 種類存在して いる。従って、葉緑体における転写制御を理解するには、2 種の RNA ポリメラーゼ及び 6 種のシグマ因子の機能分担の の tRNA の発現が変異株において顕著に抑制されていること 解明が必要であるといえる。我々は特に、葉緑体分化や環 を用いて各プロモーターレベルでの転写量を詳細に検討し 境変化に応じて核コードのシグマ因子を使い分けて特定の たところ、psbD プロモーターの1つ(psbD -256)及び trnE、 遺伝子群の選択的発現を行っているとの作業仮説を立て、 trnV プロモーターからの転写量が SIG2 の変異に依存して特 異的に減少することを見出した。また、変異株に SIG2 のゲ ノム領域を導入したシロイヌナズナにおいてこれらのプロ モーターからの転写が野生株と同じレベルまで相補される ことを確認した。さらに、これらの転写開始点を決定し SIG2 に認識されると考えられるプロモーター構造を解析し た結果、大腸菌型の'-10'、'-35'に類似した領域が含まれてい ることが分かった(図 2) 。一方、psbA 及び rbcL プロモータ ーからの転写は SIG2 変異の影響を受けておらず、SIG2 とは 異なるシグマ因子の制御下にあることが示唆された。 追記 このたび私の発表が優秀賞に選ばれたということで、大 変うれしく思っています。当日は審査員や研究室のメンバ ーをはじめとして多くの方に発表を聞いてもらえ、内容に ついてのコメントを頂くことができました。皆様にはこの 書面をお借りして深く感謝いたしますとともに、今後も新 しい発見を目指してさらに努力したいと思っておりますの でどうぞよろしくお願いいたします。 核コードシグマ因子の多型と葉緑体における転写制御との 関係の解明を目指して研究を進めている。 最近我々は、発芽初期から発現する SIG2 遺伝子への TDNA の挿入による変異株(sig2-1)を取得した。pale-green の表現型を示すこの株では葉緑体の発達が著しく抑制され 図1 高等植物における 2 種類の葉緑体 RNA ポリメラーゼ を見出した。そこで、プライマー伸長法と S1 マッピング法 細胞骨格、運動系における 腸癌だけでなく、散発性の大腸癌においても高頻度に見出 癌抑制遺伝子 APC の機能解析 されることが明らかになっている。APC 遺伝子産物は約 分子情報研究分野 博士課程 1 年 佐藤梨奈 300kD の巨大な蛋白質で、β-カテニンの分解を誘導するこ とにより、癌化や形態形成に重要な役割を果たす Wnt/Wg シグナル伝達経路を負に制御する活性をもつことが明らか にされている。 APC (adenomatous polyposis coli) 遺 我々は、APC の機能をさらに明らかにするために、ヒト 伝子は、家族性腺腫性ポリポーシス から C.elegans まで最もよく保存されている APC のアルマ (FAP)の原因遺伝子として 1991 年に単離された癌抑制遺伝 ジロモチーフを bait として、ヒト胎児脳の cDNA ライブラ 子である。APC 遺伝子の不活性化は、FAP 家系の腺腫や大 リーを用いて、yeast two-hybrid screening を行い、APC 結 12 合蛋白質をコードする遺伝子を探索した。その結果、低分 子量 GTP 結合蛋白質の Rho ファミリーに対するヌクレオチ ド交換因子(GEF)をコードする遺伝子を新たに見出し、 Asef(APC-stimulated guanine nucleotide exchange factor) と命名した。Asef は Rho ファミリーの Rac 特異的な GEF と して機能し、さらに APC によって Asef の GEF 活性が正に 制御されていることを見出した。また、イヌの腎尿細管上 皮由来の MDCK 細胞において、APC は Asef を介して細胞 膜のラッフリングやラメリポディアの形成を誘導すること が明らかになった。次に Asef/APC 複合体が細胞形態や細 胞運動に与える影響を検討したところ、Asef は cell-cell に 存在する E-カドヘリンの量の減少を引き起こすことにより 細胞間接着を減衰させ、それとともに細胞運動能を顕著に 活性化する働きがあることを見出した。さらにこの働きは、 多くの大腸癌で見られる変異 APC により制御されているこ ている。したがって、変異 APC/Asef 複合体形成が大腸癌 とがわかった。また、変異 APC を発現する大腸癌細胞では、 細胞の異常な運動性を引き起こす原因の一つである可能性 変異 APC と Asef の結合を阻害することができる dominant- が考えられる。このように、APC/Asef 複合体が細胞接着 及び細胞運動において重要な役割を果たしていることが示 negative mutant により細胞運動能が抑制されることを明ら かにした。これらの知見から、変異 APC は Asef を恒常的に 活性化することにより細胞間接着を減衰させ、細胞運動能 唆された。腸管では crypt に存在する stem cell が分裂して、 を異常に亢進していることが示唆された。FAP 症例や一般 し、絨毛の先端から脱落していくが、この過程に の大腸癌でみられる APC 遺伝子の異常は、ほとんど 5'側半 APC/Asef 複合体が関与している可能性が考えられる。 生じた娘細胞が上方へ移動するに従って分裂を止めて分化 分に集中しているにもかかわらず、Asef との結合に必要な アルマジロモチーフは、多くの変異 APC において保持され PP2C β-6 による p38 経路の制御機構 分が多く残されている。このことを踏まえ、経路の制御機 の解析 構の理解が進んでいる酵母の HOG 経路をモデル系とし、 哺乳類における相同経路である p38 経路の新たな制御因子 生体超高分子研究分野 博士課程2年 久保友照 の同定と制御機構の解明を目指し、以下のような実験を行 った。 細胞は外界の様々な物理化学的スト 恒常的に活性化されるため生育ができなくなる酵母の変異 レスに応じて、適切な細胞応答を起こ 株を用いて、その致死性の抑圧を指標に、哺乳類由来の す。その際のシグナル伝達の主要な役割を担うのが、スト cDNA 発現ライブラリーのスクリーニングを行った。その レス応答性 MAP キナーゼカスケードと呼ばれる一群の情 結果、プロテインセリン/スレオニンホスファターゼであ 報伝達経路である。ストレス応答性 MAP キナーゼカスケ る PP2C βのアイソフォームの一つ(PP2C β-6)を同定した。 ードは、酵母の HOG 経路、哺乳類の JNK 経路および p38 経 PP2C β-6 を COS7 細胞で高発現させると、浸透圧刺激に応 路など、真核生物において種を超えて広く保存されている。 これらの経路はキナーゼによる活性化とホスファターゼに 答した p38 のリン酸化を抑制することから、PP2C β-6 は哺 乳類細胞において p38 経路の負の制御因子として機能して よる不活性化、scaffold(足場)タンパク質による特異性の規 いると考えられる。また PP2C β-6 は、他のアイソフォー 定など、多くの構成因子により厳密に制御されている。 ムに見られない特徴的な長い C 末端領域を持っていること、 p38 経路の負の制御因子を同定する目的で、HOG 経路が 哺乳類 p38 経路は、高浸透圧などの多種の物理化学的ス トレスやサイトカインの刺激によって活性化される。p38 発現は組織普遍的であること、COS7 細胞内では細胞質に 局在することなどの結果が得られた。 経路の活性化 PP2C は in vitro において基質特異性の低いホスファター を担う因子や ゼである。そこで in vivo において PP2C β-6 と相互作用し、 機構について 基質特異性を規定する因子の存在を仮定し、PP2C β-6 を は、多くの報 告が成され理 bait とした two-hybrid スクリーニングを行った。その結果、 C 末端領域にアンキリン様配列のくり返し(ankyrin repeat) 解が深まりつ を持つタンパク質をコードする cDNA が同定された。この つある。しか タンパク質(ANK4)と PP2C β-6 との相互作用は、PP2C β-6 し、不活性化 の特徴的な長い C 末端領域を介していた。これらのことか を担う因子や ら ANK4 は、PP2C β-6 に特異的な相互作用因子であり、 機構について PP2C β-6 を介した p38 経路の負の制御に関与する可能性が は、未知の部 考えられる。 13 ドクターへの道 細胞増殖研究分野 薬学系研究科 生命薬学専攻 博士課程 3 年 六代 範 ついこの間分生研に来たばかりだと思っていたのに、気 が付いてみると分生研生活も今年で6年目を迎え、博士課 程を目指す学生に向けて、「ドクターへの道」なるコラム まで担当することになっていました。果たしてこのコラム がアドバイスと成り得るのか疑わしい所ですが、今後の進 路決定の参考にでもして頂ければ幸いです。 まず、私が鶴尾研に来たのは学部4年生のときでした。 この研究室を選ぶに当たり実の所当時はそれほど明確なビ ジョンを持っていた訳でなく、癌治療の研究が面白そうに 思えたというそれだけの理由でした。当然、研究室に入り たての頃は研究知識はおろか実験技術もなく、それまで学 部で学んだ知識がほとんど通用しないことに驚きを感じた 記憶があります。さて、そうこうするうちに実験操作や研 り、また人の相談に乗ることで苦しんでるのが自分だけで 究の進め方も学び、研究がなんとなく面白いと感じられる ないことが分かることがありました。とにかく色々な意味 様になった頃、就職するか、博士進学するかという大きな で刺激を受けることが多く、コミュニケーションの重要性 岐路に差し掛かりました。博士を取って研究者というコー を認識して以来出来るだけ友人との関係も大切にするよう スは、残念ながら決して割の良い職業ではないでしょう。 に心掛けています。 じゃあ博士のメリットって?色々悩み考えた末に最後に行 き着いた結論がありました。 「とりあえず、一人前になるまでやってみよう。 」 以上、個人的な経験に終始した内容になってしまいまし たが、最後に博士課程を勧めるかと問われれば私は進学を お勧めします。少なくとも私にとって、博士進学は自分の 一人前というと語弊があるかもしれませんが、とにかく 価値観を形成する上でも大きな意味を持つものであったと 博士課程の間に研究仮説を立て、研究計画を考えて実験し、 確信しています。最後になりましたが、我ながらマイペー 研究をまとめて論文を発表するという一連の作業が独力で スな私を暖かく支援して下さっている鶴尾先生及びスタッ 出来るレベルまで到達しようというモチベーションこそが フの方々、修士以来お世話になっている生体有機の橋本先 私の「ドクターへの道」の始まりであったと思います。 生にこの場を借りて感謝の意を表し結びとさせて頂きま さて、次に私が博士課程に進学して考えた或いは感じた 事柄について綴ってみます。まず初めに感じたのが、今ま で如何に考えずに研究をしていたかという事実でした。理 解したつもりのことが実は良く分かっていなかったという 場面には多々遭遇し、その度に熟考することを心掛けるよ うにしました。また研究に没頭してしまうと無意識の内に 周りが見えなくなることがあり、躓いた時に必要以上に考 え込んでしまいがちですが、そんなときは研究室内外問わ ず友人の存在に助けられたと思います。人と話すことで自 分の中でもやもやしていたものが急に明確に見えて来た す。 14 海外ウォッチング ∼地球の裏側で繰り広げられるあまりにも日常的な毎日∼ NJ のポスドク生活 船越 陽子 一昨年、ポスドク先を決める時の一つの条件に、「田舎 過ぎない、かといって都会でもない」場所、と言うのがあ りました。そんなわけでニュージャージー州、NJ が選ばれ たわけですが、、、さて、よく聞かれる質問に、「NJ ってど こ?」 。 NJ は NY 州の南、あるいはマンハッタンの西に位置する 州です。誰でも知っている NY にアクセスできる空港には 3つありますが、そのうちの一つ、ニューアーク国際空港。 実はこれ、NJ にあるのです。それから、NY に住む人たち がよく利用するスウェーデン出身の家具屋 IKEA、そして、 NY 在住の日本人御用達のスーパー MITSUWA(元ヤオハン) などなど。そして、NY への交通が便利なために、NY に通 勤する人々のベッドタウンとして、また、その地の利を生 かして実は製薬会社の研究所なども多いと聞いています。 それから、あの、アインシュタインが教鞭を執ったこと でも有名なプリンストン大学があります。と言っても、私 が通っているのはプリンストンではありません。 ニューアーク国際空港から車で 30 分南に下ったところに NJ 州立ラトガース大学があります。州立大学だけあって、 キャンパスが NJ 中に散らばっており、巨大な大学です。ア リー・マイラブというドラマの主人公を演じるキャリス タ・フロックハートの出身大学と言うことで有名、、、には なっていませんね。それはともかく、私は、そのラトガー ス大学の New Brunswick campus の中の Busch campus のゴ ルフコースの脇の Waksman Institute に所属しています。 この地域に住む人の半数はラトガースに勤めていると言 っても過言ではありません。ラトガースで勤めているとい うと、とたんに相好を崩し、友達のように話しかけてきま す。それから、この Waksman Insitute は、この地域でも特 に美しい建物の部類に属するそうで(と言えば、この周囲 の建物のレベルがおわかりかと思いますが。でも私はこの 建物は好きです。)、「あの白い時計台のある建物」と言う だけでわかるほど、(この周辺では)有名です。ちなみに、 研究所の名前は、ストレプトマイシンの発見でノーベル賞 を取った Selman Waksman にちなんで付けられました。 一般的な生活について。この地域は平和です。駅の繁華 街の方は夜には余り治安が 良くないそうですが、それ 以外の居住地域、大学周辺 はぬるま湯のような安全さ です。夜に運転していると、 物陰にパトカーが隠れてス ピード違反を取り締まって いるのが見られます。この 周辺では、警察の主な仕事 は交通違反の取り締まりく らいなものらしいです。夏 場、外に出かけるときも窓 Waksman Institute。 白い時計台が印象的。 を開けておくことがありま 研究所のholiday partyにて。右から4番目 が著者。周りにいるのは同じ研究室のメ ンバー。 す。近所に住む友達曰く、 「こんな安アパートに侵 入しても、何も取られる もの無いから大丈夫」 。 では、研究生活の方に ついて。さすが大学の研 究室で、研究費が限られ ているだけあって、特別 な研究費を取っている研 究室でなければ研究室の 設備は日本の研究室とほ ぼ変わりません。特筆す ることと言えば、この研 究所では研究室間の交流 がかなり重要視されてい ると言うことでしょうか? 2週間に一度の Tea Time、そして年に一度ずつある Retreat、Picnic、Holiday Party と、研究を離れて他の研究室 の人と食事をする機会が多くあり、また、各階に conference room と呼ばれるお茶のみ部屋があることで、研究所のほと んどの人とそれなりに知り合いになることができます。以前 はボランティアの人が Beer Hour というのを主催していたの ですが、酒飲みが少ないことと皆車通勤なために余り盛り上 がらず、立ち消えになりましたが、最近、Waksman Cinema のグループができ、月に一度映画会を行っています。と言い ますと、遊んでばかりいるようですが、悪いことばかりでは ありません。私自身、日本にいるときよりも他の研究者の人 たちと交流するのに抵抗を感じなくなってきました。他のラ ボの学生であろうとラボヘッドであろうと、お互いに顔見知 りなので必要があれば直接ディスカッション、直談判に行く ことができます。現に、他にショウジョウバエの研究室が3 つあり、時々お邪魔させていただいています。 私が所属しているのは TGF-β情報伝達系の研究では第一 人者になっている Dr. Richard Padgett(以下、Rick)の研 究室です。彼自身は元々ショウジョウバエ研究者だったの ですが、最近では線虫を用いた研究も精力的に行っていま す。現在、メインのメンバーは、ラボヘッド以外にテクニ シャン一人、線虫のポスドク二人、学生二人、そしてハエ の学生一人、となっています。Rick 自身は余りメンバーの 仕事に細かく口を出さない主義です。データをせっつかれ たり、これをしてはいけない、と言われたりしたことはあ りません。すべて、各自の自主性に任されている、と言っ たところでしょうか。 近々、そのハエグループの学生も学位を取り、ラボを出 ていく予定になっていますので、研究室のハエ研究者は私 一人になります。ちょっと心細いことですが、同じ研究所 のハエ研究者たち、そして同じ研究室の線虫研究者たちを 含む他の研究者たちとの交流を大切にし、有意義な留学生 活を過ごしていきたいと思っています。 15 OB の手記 大正製薬 研究員 中野 和宏 原稿依頼をうけて、ふと思い起こせば、分生 研を卒業してから丸 2 年。大学に残っていれば、 ドクター 3 年になるんだな、と感じます。と同 時に、少しは会社に慣れてきたのかなという実 感も湧いてきました。 分生研の時は、宮島研究室に所属し、当初は 血球系でのサイトカイン依存的なアポトーシス の制御の解析、後半はあるサイトカインにより 誘導される肝発生、分化に関わる分子の同定、 並びに、その解析を行っていました。しかし、 この 2 年間で学んだことは、細胞生物学的な技 術よりも、研究者としての在り方、考え方につ いて学んだことの方が多い気がします。熟考し 写真:写真中央が筆者 ないでとにかく手を動かそうとしていた私は、 実験の方向性がずれることも多かったし、くだらない質問 が多い気がします。大学時代には、海でマニアックな魚を で失笑をかうことも度々で、2 年かけて修士学生の平均レ 釣ってくる。それが必ずしも食べられなくても、だれも見 ベルに達したかなという感じです。とても苦しかった 2 年 たことのない魚をつる、そしてその魚がおもしろい生態を 間であったし、とても充実した 2 年間でありました。 していることを知るという感覚に快感を覚え、仕事をして さて、近況ですが、2 年前、大正製薬に入社。現在はす いました。会社は必ず、モノを作らなければならない。サ っかりさいたま市民の一員となってしまっています。学生 イエンス的にも、技術的にも分野が特定されてしまいます。 時代に大宮は遠いなと思っていたが、いざ越してきてみる そういうときに、自分の研究生活の原点である分生研にも と、都心が遠いです(研究室になかなか伺えず、申し訳あ どり、宮島先生や、木下助手に親身に相談にのってもらい、 りません)。そんなことはさておき、入社後、私は、HTS 発想の転換を図ることで釈然としなかった気持ちを取り除 (High Throughput Screening-高速大量スクリーニング)を くことができた気がします。そして、目先の変化に戸惑い、 行い、薬の元となる有機化合物の基本骨格を見出すことが 本質を見抜けなかった自分を取り戻すことができ、苦しか 仕事の部署に配属となりました。スクリーニングをロボッ った学生時代を乗り越えた自信を、いい方向で発揮できる トで行い、高速かつ大量に、他社よりも早くいいものを出 ようになったと思います。 す。この仕事で要求されることは、細胞や酵素反応などの、 現在、私にも部下ができ、また、一つの大きなプロジェ 生物学的知識はもちろんですが、いかに反応や細胞培養を クトに中心となって参加できるようになり、サイエンスを ミニチュア化することができるか、ロボット操作に組み込 使ってものをつくるということにも快感を覚えるようにな めるか、また、膨大なデータをいかに効率よく処理するの りました。でも、まだまだ会社のなかでは、下っ端も下っ かといった大学時代とは全く異なる知識でした。さらに、 端。まだまだ戸惑うことも多いと思います。そういうとき 企業の特徴として、薬に発展していきそうなテーマには、 に宮島研究室で苦楽を共にした仲間に励ましてもらって、 人とお金を一気にかけるといったことにも非常な驚きを覚 自分も大きくなっていこうと思います。宮島研のひと、私 え、当初は、自分の中で何か釈然としないことも多くあり の同期の人よろしくね。会社でもっと仕事を任せられるよ ました。 うになって、分生研の研究員たちと、大きな仕事をできた 会社の仕事は、言うなれば、魚釣りに例えると、必ずお いしい魚が含まれると思われる海で大掛かりに漁をし、確 実に今までになかったおいしい魚を採るという感覚の仕事 らいいな。 最後に、7 月はボーナスが出るから、また飲みに誘いま す。また、お互いの近況を報告しあおう。 16 留学生の手記 ∼「こんにちは」について∼ バイオリソーシス研究分野、博士課程2年 丁 林賢 修士課程修了 文化や、物質繁栄な佛堂鎮を中心に別荘を建設した。友達 した際に、私は 郭さんの村は、その時に別荘に食糧を供給した。そこで地 中国の故郷ー浙 名は“皇田(田反 fan)”となった。梁の武帝期には「天監 江省義烏市に帰 の改革」などを行って最盛期を迎え、中国の諸国家からも った。勤務地の 尊崇を集めた。 双林寺は南北朝から宋時代にかけて全国で有名な五山十 友達郭さんが家 刹の中の一つとして、香港や、台湾、日本などの仏教の伝 に訪ねてきた。 挨拶したのち、 写真:丁林賢。現在、土壌中のVNC細菌を対象に賦 活化条件を検討し、系統分類学的解析に努めている。 播に大きな役割があった。千四百年経って、戦争や時代の 彼は日本の事情 移り変わりにつれて、皇帝も代わった。 双林寺は宋時代か をいろいろ訊いた。“ニハオ”は日本ではなんと言うの? ら戦争で炎上や重建が何度もあった。郭さんの村名の発音 “こんにちは”。“へえ、それは僕らが毎日使って、村のみ は変わらなくそのまま残っているが、かつての皇帝の別荘 んな知っている言葉だよ”。 “本当?”私は驚いた。 や倉庫もなくなり、現在の“黄田(田反)”となった。 勤務地は私の故郷である義烏市と 18km 離れた東陽市だ 私は日本の歴史に興味を持った。昨年3月京都での農芸 った。浙江省では方言がいっぱい使われ、言葉が大変分か 化学学会大会に参加した時、初めて奈良に行き、世界遺産 りにくいところとして有名だ。小さな村でも、他の村と区 である法隆寺を訪れた。特に聖徳太子の政績に感心した。 別できる特別な言葉を持っている。郭さんの村と私の村は 聖徳太子は新しい政治に取り組みつつ、冠位十二階の制定 15km 離れ、言葉も違う。でも、どうして郭さんの村では や、以和為貴、篤敬三宝などで国を治める綱領として十七 “こんにちは”というのだろうか? 帰った間、一つ興味深いことを母親の話から聴いた。昨 条憲法も制定された。また、遣隋使を派遣し、大陸の進ん だ文化を積極的に摂取し、法隆寺が創立され、現在の世界 年我が村で傅大士ご誕生 1500 周年及び 双林寺重建ご開帳 遺産となった。聖徳太子が残した輝かしい業績を崇敬した。 のために大集会が行われた。香港や、台湾、日本の仏教界 聖徳太子時代の略年表を見て、太子が摂政していた年代は 方々と観光客何万人が訪ねてきた。大変賑やかだった。 中国の南北朝と隋末唐初の時代に当たる。聖徳太子に派遣 私はこの村の歴史について僅かしか知らなかった。我が された遣隋使が当時仏教が盛んでもっとも有名な双林寺を 村は羅漢堂と言い、直ぐそばにとっても大きな双林寺とい 訪れたと推定できる。その際、“皇田(田反)”に何ヶ月か う古いお寺の遺跡がある。でも“双林水庫”というダムが 何年間も住んだかもしれない。そう言えば、郭さんの村の 作られたため、双林寺の古跡は今やダムの底に沈睡してい 言葉“こんにちは”が日本に伝播し(日本人が教えた可能 る。 双林寺の大きな鐘は文化大革命時代に粉砕されて廃棄 性もある)、挨拶言葉として定着したかもしれない。日本 金属としてリサイクルされた。また、双林寺を中心とする にも双林寺と同名なお寺がある。悠久な日中交流の歴史が 周辺約 30 平方 km の地域を佛堂鎮と言う。この周辺は仏教 これだけでも見られる。 に密接な源があると言われている。 千四百年前では、日本人が中国へ留学に行き、当時の大 もっと詳しく知ったのは、この度に《雲黄山 双林寺》文 陸の先進的な学問や、技術を学んで、日本の文化と経済の 集を読んだ後だった。傅大士(西暦 497 ∼ 569)、 双林出身、 繁栄に巨大な貢献をした。時代の発展につれて、現在では 中国南北朝梁の武帝時代の禅宗初期の仏教者であり、禅宗 大勢の中国人が世界で最も先進でなる日本に留学に来た。 初祖達磨と同時代で弥勒の生まれ変わりと言われた有徳の 中日交流の発展や、中国近代化事業の促進にきっと大きな 人物だった。日光の輪王寺や、京都の妙心寺、愛媛の瑞応 役に立つことと信じている。私は留学生の一員として、世 寺などに傅大士の像(これらは運慶の作と伝えられている) 界一流である東京大学に勉強するチャンスを得て、特に人 が安置されている。仏教を信仰していた梁武帝はいたく彼 材が集まってきた分生研で最も興味がある研究に努めるこ に帰依し、大士のために双林寺を建てた。梁武帝は中国南 とができた。今後、取得した知識や技能を生かして社会に 方の人であり、首都建康(現在の南京)に住んでいても、 貢献しようと思っている。 17 研究室名物行事 活性分子創生研究分野 はすごかっ 名物行事といえるほどの行事は残念ながら我が6研にはあ た。ガッチ りません。つきなみですが、研究室旅行について紹介します。 今回の研究室旅行は「新しくできたディズニーシーにい ャマン、金 こう!」という計画は敗れ、結局、日光に行くことになり 太の大冒険 ました。研究室旅行は1泊2日が基本なので遠すぎても近 ときて最後 すぎても駄目なのが難しいところですね。日光に決まった は中島みゆ のは秘書さんから「ここの宿いいよ」と勧められたからで きの時代だ す。宿の名前はメルモンテ日光霧降。 「郵便貯金への理解と っだ。 親しみを深めていただくために設けられた」メルパルク系 二日目は 列の宿で、なんでも公共の宿の第一位になったとのとこと。 とりあえず宿に付随しているプールへ行きました。客はう 初日は現地集合ということで、観光もせず宿に直接到着。 ちらしかいなく貸し切り状態。こんなんで経営大丈夫なの 宿は想像以上に良く、フロントを通り過ぎると吹き抜けが かと他人事ながら不安になる。次に観光ということで、ま ありアナトリウムのようになっていて、まぁきれい。部屋 ず牧場に。牛タン、ソフトクリームおいしかったです。さ はベッドルーム二部屋と 10 畳ほどのダイニングルームの組 らに日頃のストレスをマイナスイオンで癒そうと霧降の滝 み合わせで、風呂はジャグジーになっていました。さすが、 へ。でも、展望台からみるだけしかできなくてマイナスイ 第一位。体育館完備だったので宴会までバドミントンやバ オンは浴びれず、逆にストレスがたまる。帰り道、宇都宮 スケなどして時間をつぶす。フリースロー競争で 10 回中一 によって、餃子と評判のシュークリームを食べる。宇都宮 回も入らないでビリになったS君、終わった後「サッカー が餃子の町というのは嘘ではないかと思うようなふつうの は得意なんだ∼」と一所懸命、運痴でないことをアピール 味。でもシャンベルタンのシュークリームはうまい。ご賞 していた姿がほほえましかった。 味あれ。 宴会はまったりと進行。酔った先生に携帯の着信履歴を 面白かった研究室旅行は先生方によって語り継がれてい みられたN君、ご愁傷さま。今回はなかったけど以前の研 きます。今回の研究室旅行がそのような研究室旅行になり 究室旅行でカラオケをしたときの先生の歌のレパートリー 得たかどうか・・・。来年の幹事に期待しましょう。 お店探訪 加美良 活性分子創生研究分野 降旗桂子 東大の正門前 後のコーヒーを飲んでも 1000 円札でおつりがきます。夜は の道を入った右 その他のメニューに石焼き海鮮ごはんがあるようです。ち 側に明るく、綺 ょっと散歩がてら、足をのばしてお昼御飯を食べに行った 麗なお店があり らいかがでしょうか。 ます。町の洋食 住 所 文京区本郷 6-2-6 屋さんといった 電 話 03-3814-8288 感じのお店で す。1年ぐらい 前にできたお店なので、店内は明るく家のダイニングルー ムのようです。 料理もアットホーム的なオムライスやロールキャベツな どでおいしいのですが、逸品なのが本日のランチです。お 野菜がタップリ付き、一工夫したハンバーグや空揚げなど が、見た目美しく1皿に盛られて出て来ますので、ちょっ と嬉しくなります。それにスープが付いて 800 円です。食 18 −国際会議に出席してみて− 分生研では、財団法人応用微生物学研究奨励開のご支援 <核内情報研究分野 博士課程1年 金 美善 > により、毎年十数名の若手職員や大学院生に海外の学会発 表の機会を提供しています。価値ある研究成果を海外で発 会議の名称:「核内受容体」に関するキーストンシンポジ 表すると同時に、若い時期に世界の研究環境を知り、海外 ウム(Keystone Symposia,Nuclear receptors) の研究者と交流する良い機会です。どしどし応募して下さ 開 催 地:米国、ユータ州、ソルトレイクシテイ い。 会 期:2002 年 4 月 13 日∼ 4 月 19 日 発 表 演 題:A Novel Mechanism of the Vitamin D <活性分子創生研究分野 博士課程 3 年 朴海龍> Dependent Transcriptional Repression Through the Human 25-Hydroxyvitamin D3 1 α-Hydroxylase nVDRE(ポスター発表) 会議の名称:93rd AACR (American Association for Cancer Research) 開 催 地:アメリカ, San Francisco この度キーストンシンポジウムに出席するにあたり、財 会 期:2000. 4. 6 - 2000. 4. 10 団法人応用微生物奨励会からの格別の援助を賜り、心より 発 表 演 題:Telomestatin, a novel telomerase inhibitor of 感謝致します。 micro origin(ポスター発表) キーストンシンポジウムは毎年生物学の各分野別に分け て研究の最近の進展を発表、議論する会議であります。今 この度、93rd AACR (American Association for Cancer 回の核内レセプターの分野では約 700 人以上の人が参加し Research) international meeting に参加するにあたり、財団 ており、私の研究室でも約 10 人ぐらい参加し、発表してき 法人応用微生物学研究奨励会から格別の御援助を賜り、心 ました。私は1α水酸化酵素遺伝子のビタミン D レセプタ から感謝致します。 ーを介するリガンド依存的な転写抑制メカニズムに関した 本会議では、当研究室で単離・構造決定を行った 研究成果を発表しました。 telomestatin について発表してまいりました。Telomestatin 今年の会議では、核内レセプターの構造や機能、転写制 はテロメラーゼ阻害剤として天然物で初めて報告されたば 御機構に関与する核内レセプターコアクチベータやコレプ かりでなく、これまで報告されたテロメラーゼ阻害剤の中 レッサー、オーファンレセプター、発生や生理機構におけ で最も強力なテロメラーゼ阻害活性 (IC50 値 5 nM) を示す る核内レセプターの機能解析及び創薬や臨床の場での核内 ことから非常に多くの方に興味を持って頂くことができま レセプターに関する研究など、五つの session に分かれて、 した。Telomestati は、染色体末端に存在する G-quadruplex 五日の間活発な発表や議論が行われました。毎日、朝8時 構造にスタッキングすることにより、テロメラーゼの触媒 から夜 10 時まで続けるハードな会議でしたが、最初の日か 酵素 hTERT のテロメア伸長反応を阻害することが明らかに ら最後の日まで講演や質疑応答、コーヒーブレイクでの議 なりつつあり、制癌剤への応用という観点からも非常に強 論は大変盛り上がりました。また、夜 7 時から始まったサ い関心を抱いて頂くことができました。 ンドイッチやワインを飲みながら自由な雰囲気で行われた また、テロメラーゼ研究は癌や老化における中心的トピッ ポスター発表では自分の研究に関しても世界各地の研究者 クスのひとつであり、本会議で数多く発表されていたテロ 達と活発な議論を交すと共に世界の友達ができ、非常にい メラーゼ活性発現機構の新たな知見や、制癌剤への応用研 い経験になりました。 究は特に印象深く、強い刺激を受けました。 本会議への参加は、海外での発表経験を得る事ができた 今回の海外発表は博士課程に入る私にとって大変良い刺 激になり、今後の研究に大い役に立つことを確信しました。 という点のみならず、世界の研究者の研究動向を探ること 改めて、この機会を提供してくださった当奨励会に感謝致 ができたという点におきましても、実りあるものであった します。 と思います。今後、本会議で得られた知見をもとに、 telomestatin をリードとした独自のテロメラーゼ研究を展開 することができればと考えています。 19 <核内情報研究分野 博士課程1年 大竹史明> 国際会議で発表するのは初めての経験だったのですが、 多くの研究者から Nice work, Interesting,などと声をかけら 会議の名称:核内受容体に関するキーストンシンポジウム (Keystone Symposia, Nuclear Receptors) れ、内容的にも国際学会に通用する研究であることを実感 できたことは大きな収穫でした。この経験を今後の研究に 開 催 地:米国、ユタ州、ソルトレイクシティ 生かしていきたいと思います。この機会を得られたことを 会 期:2002 年 4 月 13 日∼ 4 月 19 日 感謝致します。 発 表 演 題:Dioxins activate estrogen signaling pathway by complex formation of Dioxin(Ah) and estrogen receptors.(ポスター発表) この度はキーストンシンポジウムに出席するにあたり、 財団法人応用微生物学研究奨励会からの援助を賜り、心よ り感謝いたします。 この会議では核内受容体を介した生理作用発現機構につ いて、最新の進展の発表・議論が行われます。核内受容体 は性ステロイドホルモンや脂溶性ビタミン等に対する一群 の受容体であり、主に転写制御因子としてその作用を発揮 することが知られています。 本年の会議では、クロマチン構造の変換を介した転写制 御機構に関する生化学的解析、それぞれの受容体の遺伝子 欠損マウスを用いた受容体の生理機能に関する個体レベル の解析、リガンドが未知であるオーファン受容体の解析、 クロストークや転写非介在性作用などの細胞内シグナル伝 達の解析、など多様な方面で興味深い報告が多数なされ、 この分野の研究の最先端に触れることができました。 報告者は、ダイオキシン受容体と女性ホルモン受容体と の間に新規の機能的相互作用が存在する、という研究成果 を発表しました。ダイオキシン類の女性ホルモン撹乱作用 のメカニズムを分子レベルで証明しようというものです。 ポスター発表会場では数多くの研究者たちと議論し、時に 有用な助言を得ることができ、たいへん有意義なものとな りました。英語での議論は、内容が複雑になってくると考 えを明確に伝えることが困難になり、語学力を身につける ことの必要を痛感しました。 所内レクレーション報告 平成 14 年 3 月 1 日、御殿下記念館ジムナジウムに於いて分生研バトミントン大会が行われました。とてもハイレベ バ ト ミ ン ト ン ルの戦いが繰り広げられ、見ている方も白熱した大会でした。平成 13 年度の分生研レクレーションはこのバトミン トン大会を最後に無事終了した。結果は以下の通り。 優勝 平林・田中ペア(情報伝達) 準優勝 山口・黄ペア(細胞機能) 第三位 芳賀・片山ペア(細胞増殖) 裏トーナメント優勝:峰松・野中ペア(機能形成・染色動態) 20 次代のホープ達 −分生研卒業生進路紹介− 平成 14 年 3 月に博士・修士課程を修了された方々の進路を ご紹介します。 (ただし、同一研究科進学者を除く) 〈分子遺伝研究分野〉 博士卒 中里恵美(農学生命科学研究科):教大園芸 修士卒 高野敦司(農学生命科学研究科):日本アイ・ビー・エム 株式会社 谷川亮平(農学生命科学研究科):興和株式会社 〈染色体動態研究分野〉 博士卒 間山智子(農学生命科学研究科):理化学研究所 博士研 究員 程 朝陽(農学生命科学研究科):日本学術振興会 博士 研究員(独立行政法人・ 生物資源研究所) 修士卒 太田与志津(農学生命科学研究科):味の素株式会社 食 品研究所 松本宏樹(農学生命科学研究科):日本製粉株式会社 〈核内情報研究分野〉 博士卒 中道裕子(農学生命科学研究科):松本歯科大学総合歯科 医学研究所・助手 〈分子情報研究分野〉 博士卒 廣子貴俊(農学生命科学研究科):分生研博士研究員 原口景子(農学生命科学研究科):日本学術振興会 特別 研究員 PD(分生研) 〈情報伝達研究分野〉 博士卒 浦 誠司(工学系研究科):京都大学ウイルス研究所分子 遺伝学研究分野 博士中退 砂澤裕子(工学系研究科):株式会社インターサイエンス社 修士卒 岸下昇平(工学系研究科):中外製薬株式会社 齋藤剛志(工学系研究科):興和株式会社 〈細胞機能研究分野〉 博士卒 Roberto Antonio Barrero(理学系研究科):生物情報解析研究 センター総合デー タベース解析グル ープ博士研究員 修士卒 金 麗華(理学系研究科):総合研究大学院大学遺伝学専 攻博士課程進学 〈細胞増殖研究分野〉 博士卒 坂本 洋(医学系研究科):日本ロシュ研究所 修士卒 石田敦士(薬学系研究科):神戸大学医学部 〈形態形成研究分野〉 博士卒 谷本 拓(理学系):ヴルツブルク大学博士研究員 〈細胞形成研究分野〉 博士卒 菅井理絵(農学生命科学研究科):中外製薬株式会社 宮本厚樹(農学生命科学研究科):佐藤製薬株式会社 福田 歩(農学生命科学研究科):協和発酵株式会社 修士卒 加藤佳久(農学生命科学研究科):明治製菓株式会社 倉田晃文(農学生命科学研究科):三共株式会社 〈機能形成研究分野〉 博士卒 小島伸彦(理学系研究科):財団法人神奈川科学アカデミ ー研究員(分生研協力研究員) 〈発生分化構造研究分野〉 博士卒 木村 暁(理学系研究科):科学技術振興事業団・創造科学 技術推進事業・堀越ジーンセレ クタープロジェクト研究員 〈生体超高分子研究分野〉 博士卒 梅田達也(農学生命科学研究科):萬有製薬株式会社 〈生体有機化学研究分野〉 博士卒 西川明日香(薬学系研究科):三共株式会社 修士卒 真弓 聡(薬学系研究科):資生堂 〈活性分子創生研究分野〉 加藤大暢(農学生命科学研究科):ハウス食品 〈バイオリソーシス研究分野〉 博士卒 倉橋みどり(農学生命科学研究科):分生研博士研究員 21 平成 14 年度科学研究費補助金等採択一覧 〈科学研究費補助金〉 以下は平成 14 年度科学研究費補助金の分生研における採択者(代表者氏名と 研究題目、本年度配分予算額)です。 ○学術創成研究費(2) 豊島 近教授 生体超高分子研究分野 P型イオンポンプによる能動輸送機構の構造的解明 ○特定領域研究(1) 鶴尾 隆教授 細胞増殖研究分野 がん研究の総合的推進に関する研究 大坪榮一教授 染色体動態研究分野 遺伝的組換えの新展開: DNA の切断と再結合 武山健一助手 核内情報研究分野 内分泌撹乱物質による性ステロイドホルモン撹乱作用メカニズムの解明 2,200 千円 88,100 千円 ○基盤研究(S) 橋本祐一教授 生体有機化学研究分野 再生医療を支援する生物応答調節剤の創製研究 16,500 千円 756,300 千円 ○基盤研究(B) (2) 内宮博文教授 細胞機能研究分野 細胞死による植物生存戦略の分子遺伝学的解析 4,200 千円 17,200 千円 ○特定領域研究(2) 大坪榮一教授 染色体動態研究分野 バクテリアのトランズポゾン IS と Tn の転移・制御機構とゲノム再編への 関与 9,500 千円 伊藤 啓助教授 高次構造研究分野 キイロショウジョウバエを用いた脳の感覚情報処理回路の網羅的解析 2,500 千円 秋山 徹教授 分子情報研究分野 Peutz-Jeghers 症候群の原因遺伝子 LKB1/STK11 の機能解析 4,200 千円 豊島 近教授 生体超高分子研究分野 Ca-ATPase の電子線・X線結晶解析 3,500 千円 田中 寛助教授 分子遺伝研究分野 核コードシグマ因子群によるシロイヌナズナ色素体 DNA 転写制御 4,700 千円 葛原 隆助手 発生分化構造研究分野 クロマチン構造変換に関する ATPase および HAT に関する解析 2,300 千円 加藤茂明教授 核内情報研究分野 染色体構造調節因子複合体の機能解析 7,300 千円 宮島 篤教授 機能形成研究分野 胸腺上皮細胞の機能と遺伝子発現の解析 7,200 千円 秋山 徹教授 分子情報研究分野 細胞周期の制御異常 63,100 千円 後藤由季子助教授 情報伝達研究分野 PI3K-Akt 経路による癌化メカニズムの解析 14,000 千円 早川洋一助教授 活性分子創生研究分野 がん細胞のアポトーシス抵抗性を標的とする抗がん物質の探索 加藤茂明教授 核内情報研究分野 核内レセプター転写制御の分子メカニズムの解明 ○基盤研究(C) (2) 松山伸一助教授 細胞形成研究分野 外膜リポタンパク質のみを選別して膜から遊離させる ABC トランスポータ ーの機能解析 700 千円 7,200 千円 金丸研吾助手 分子遺伝研究分野 葉緑体発達過程における核コードσ因子の多面的機能の解析 1,000 千円 25,500 千円 1,400 千円 梅田正明助教授 細胞機能研究分野 植物のメリステム構築とサイクリン依存性キナーゼの活性制御機構 1,000 千円 徳田 元教授 細胞形成研究分野 細菌リポ蛋白質の膜遊離を触媒する新規 ABC トランスポーターの構造 6,500 千円 新家一男助手 活性分子創生研究分野 微生物の生産する脳神経細胞保護を目的としたアポトーシス制御物質に関 する研究 1,300 千円 内藤幹彦助教授 高次機能研究分野 Caspase 非依存性細胞死の誘導剤探索とその分子機構 矢部 勇助手 情報伝達研究分野 パッチクランプ法による大腸菌の呼吸鎖のプロトンポンプの解析 葛山智久助手 活性分子創生研究分野 テルペン−ポリケタイド融合化合物ナフテルピンの生合成 10,000 千円 1,600 千円 冨田章弘助手 細胞増殖研究分野 プロテアソーム蛋白分解系を標的としたストレス誘導性薬剤耐性の克服 9,000 千円 多羽田哲也教授 形態形成研究分野 ショウジョウバエのパターン形成遺伝子の網羅的探索 6,100 千円 土本 卓助手 染色体動態研究分野 花のホメオティック遺伝子の重複による機能の多様性の獲得 2,200 千円 ○萌芽研究 橋本祐一教授 生体有機化学研究分野 ホルモンとしてのサリドマイド─細胞検定を指標にした構造展開 600 千円 葛山智久助手 活性分子創生研究分野 未解明一次代謝経路、非メバロン酸経路に関与する遺伝子の機能解析 6,000 千円 関根圭輔助手 機能形成研究分野 間葉系幹細胞の発生、増殖と分化機構の解析 杉田有治講師 生体超高分子研究分野 拡張アンサンブル法に基づく蛋白質フォールディング機構解析法の確立 5,700 千円 堀越正美助教授 発生分化構造研究分野 核内加水分解酵素 CIB およびヒストンシャペロン CIA の三次構造解析 3,500 千円 中村 勉助手 分子情報研究分野 β-カテニンとそのパートナー分子による神経発生の制御機構 ○若手研究(A) 後藤由季子助教授 情報伝達研究分野 JNK 経路による細胞死誘導メカニズムの解析 6,000 千円 橋本祐一教授 生体有機化学研究分野 がん増悪因子を阻害する医薬リードの創製 8,000 千円 増山典久助手 情報伝達研究分野 PI3 キナーゼ− Akt 経路による p53 調節機構の解析 2,400 千円 梅田正明助教授 細胞機能研究分野 植物発生の基盤となる細胞増殖を制御するシグナル伝達機構 800 千円 13,600 千円 ○若手研究(B) 山田真紀助手 細胞機能研究分野 植物の細胞死制御因子の機能解析 1,100 千円 長澤和夫助教授 生体有機化学研究分野 環状グアニジン構造を有する不斉有機分子触媒の開発 1,200 千円 3,000 千円 松山伸一助教授 細胞形成研究分野 大腸菌細胞表層におけるリポタンパク質の選択的膜局在化と品質管理の分 子機構 19,000 千円 葛山智久助手 活性分子創生研究分野 非メバロン酸経路特異的阻害物質に関する研究 800 千円 武山健一助手 核内情報研究分野 ビタミン D 生合成調節の分子メカニズムの解明 1,100 千円 22 藤田直也助手 細胞増殖研究分野 骨血管内皮細胞を介した破骨細胞形成誘導機構の解析 冨田章弘助手 細胞増殖研究分野 低酸素によって誘導されるアポトーシスの制御機構 700 千円 800 千円 杉田有治講師 生体超高分子研究分野 アミノ酸変異による蛋白質の機能と安定性変化の物理化学的解明 1,000 千円 中村 勉助手 分子情報研究分野 Wnt シグナルの抑制因子 ICAT を利用した新規 Wnt 標的遺伝子の同定 2,100 千円 清水知宏 特別研究員(DC2) 活性分子創生研究分野 非メバロン酸経路に関する研究 1,000 千円 六代 範 特別研究員(DC2) 細胞増殖研究分野 抗癌剤誘導アポトーシスの感受性決定における Akt 経路の役割とその分子 機構 1,000 千円 足達俊吾 特別研究員(DC2) 分子情報研究分野 β-catenin 結合因子の探索及びその機能解析 1,000 千円 富川泰次郎 特別研究員(DC2) 活性分子創生研究分野 癌細胞のアポトーシス抵抗性を標的とする抗癌物質の探索 1,000 千円 増山典久助手 情報伝達研究分野 ミトコンドリアを介したアポトーシス制御機構の解析 2,100 千円 ○特別研究員奨励費 矢花聡子 特別研究員(PD) 分子情報研究分野 癌抑制遺伝子の作用機構の解析 佐藤沙織 特別研究員(DC2) 細胞増殖研究分野 生存シグナル伝達分子 Akt 並びに PDK1 の活性制御機構の解析と治療への 応用 1,000 千円 1,200 千円 西田 歩 特別研究員(DC2) 分子情報研究分野 Armadillo と直接相互作用する新規癌抑制遺伝子産物 D6 の解析 佐藤清敏 特別研究員(PD) 分子情報研究分野 Wnt シグナル伝達経路の異常による癌発症の分子機構の解析 1,200 千円 川崎善博 特別研究員(PD) 分子情報研究分野 癌抑制遺伝子 APC の機能解析 1,200 千円 原口景子 特別研究員(PD) 分子情報研究分野 NMDA 受容体と癌抑制遺伝子産物 APC および DLGファミリーの複合体形成意義 1,000 千円 今井陽一 特別研究員(PD) 分子情報研究分野 TGF-βの標的遺伝子の単離と機能解析 1,200 千円 松井 等 特別研究員(PD) 機能形成研究分野 肝芽細胞の増殖・分化を制御する分子機構の解析 1,200 千円 松本高広 特別研究員(PD) 核内情報研究分野 脳の性分化を規定する分子機構の解析 1,500 千円 1,000 千円 西村(那須)教子 特別研究員(DC2) 分子情報研究分野 カドヘリン−β−カテニン複合体に結合する新規蛋白質 IRAC の機能解析 1,000 千円 華岡光正 特別研究員(DC1) 分子遺伝研究分野 プラスチド分化における核と葉緑体間のクロストーク−葉緑体形質転換系 を用いて 1,000 千円 BISOVA Katerina 外国人特別研究員(受入教官:梅田正明助教授) 細胞 機能研究分野 植物の細胞周期の制御機構に関する研究 900 千円 〈未来開拓学術研究推進事業補助金〉 (代表者氏名と研究題目、本年度配分予算額) 内宮博文教授 細胞機能研究分野 植物細胞死および増殖制御因子の高次発現機構の解明 65,000 千円 平成 14 年度受託研究・共同研究等一覧(平成 14 年 6 月 20 日現在) 〈受託研究〉 ◆情報伝達・後藤由季子・助教授 科学技術振興事業団(若手個人研究推進事業(さきがけ研究 21)) 大脳神経系前駆細胞の生死の制御とその生理的意義 1,300 千円 〈民間等との共同研究〉 ◆活性分子創生・早川洋一・助教授 山之内製薬株式会社 新規生理活性物質の探索 1,000 千円 ◆核内情報・加藤茂明・教授 帝人株式会社 核内レセプターに関する研究 1,420 千円 ◆発生分化構造・堀越正美・助教授 科学技術振興事業団(基礎科学技術推進事業) ジーンセレクターの細胞内機能解析 2,000 千円 ◆核内情報・加藤茂明・教授 科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業) 核内レセプター及びその共役因子の性状の解析 ◆機能形成・宮島 篤・教授 株式会社医学生物学研究所 マウス樹状細胞の cDNA ライブラリー作製 420 千円 9,100 千円 ◆細胞形成・徳田 元・教授 科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業) 分泌蛋白質の膜輸送と膜局在化の分子機構 ◆生体超高分子・豊島 近・教授 社団法人バイオ産業情報化コンソーシアム 電子線及びX線による蛋白質の 構造と分子機構解析技術の開発 10,500 千円 2,600 千円 ◆分子情報・秋山 徹・教授 科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業) 内分泌かく乱物質が減数分裂、相同組み換えに与える影響 ◆機能形成・宮島 篤・教授 株式会社ギンコバイオメディカル研究所 細胞膜抗原の遺伝子解析5,000 千円 520 千円 ◆高次構造・伊藤 啓・助教授 科学技術振興事業団(バイオインフォマティクス推進事業) ショウジョウバエ脳神経回路の徹底解析にもとづく感覚情報処理モデル構築 の検討 2,105 千円 ◆分子情報・秋山 徹・教授 株式会社ファルマデザイン 創薬ターゲットとしての新規 GPCR 遺伝子 APG1 の機能解析 5,617.5 千円 ◆生体超高分子・豊島 近・教授 科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業) G 蛋白質共役受容体の結晶構造解析 390 千円 ◆情報伝達・後藤由季子・助教授 科学技術振興事業団(戦略的基礎研究推進事業) 生のシグナル伝達機構の解析 650 千円 ◆細胞増殖・鶴尾 隆・教授 第一製薬株式会社 細胞生存関連因子 PDK-1 のキャラクタリゼーション研究 及びその阻害剤創製研究 2,000 千円 〈奨学寄附金受入状況〉 総件数 12 件 総 額 15,000 千円(内 500 万円を超えるものはなし) 23 研究紹介 AGM 領域における造血発生 須であること 機能形成研究分野 関根 圭輔 が明らかとな っているの で、Stat3 が 造血幹細胞は多種多様な血液細胞へ AML1 の発現 の分化能をもつ幹細胞である。成体で は骨髄中に少数存在するが、個体の発 および活性に 生過程で AGM(aorta-gonad- ちで関与する mesonephros)領域より発生することが と予想され、 明らかとなっている。我々はこの AGM この点に関し 領域での造血細胞の発生機序を理解するために AGM 領域 分散培養系を確立した。この系では IL-6 ファミリーのサイ て研究を進め ている。また、 トカインである Oncostatin M (OSM)依存的に PCLP1 陽性の Stat3 の遺伝 血液血管前駆細胞を維持することが可能で、血液細胞の生 子欠損マウス 産が支持された。しかし OSM およびその受容体(OSMR) ノ ックアウトマウスを作成するといずれに於いても造血発生 は初期胚で致 の異常は認めらなかった。そこで OSM により活性化される 発生での関与 細胞内シグナル分子およびその標的遺伝子が in vivo での活 は未知である 性本体であると考えられた。OSM は他の様々なサイトカイ が、今後は in ンと同様に Ras 経路および Stat3 経路を活性化する。活性化 型 Stat3 を AGM 領域で強制発現し培養すると、Stat3 の活性 vivo での検証が必要である。 造血幹細胞の研究は古くから骨髄移植という"再生医学" 化のみで OSM と同等あるいはそれ以上の数の血球細胞の生 に応用され利用されている。近年、造血幹細胞が肝臓や神 産が見られた。さらに産生される血球は造血幹細胞を含む 経の細胞にも分化しうるという報告がなされている。この 多様な血液細胞で OSM により誘導される血液細胞と同様で あった。一方、OSM による造血はドミナントネガティブ型 ようなことから我々は造血幹細胞を理解することは、他の の Stat3 で抑制される事からも Stat3 の重要性がわかる。 究を進めている。 何らかのかた 死のため造血 幹細胞研究や再生医学へ向けた足がかりとなると期待し研 造血発生は現在までに AML1 という白血病由来遺伝子が必 掲示板 〈知ってネット〉 職員の異動について 以下のとおり異動がありましたのでお知らせします。 ○平成 14 年 3 月 31 日 〈辞職〉中迫雅由 講師(生体超高分子研究分野) :慶應義塾大学に採用(助教授) ○平成 14 年 4 月 1 日 〈転出〉柳澤 純 助教授(核内情報研究分野) :筑波大学応用生物科学系教授へ 真弓貞雄 会計主任(事務部) :工学系研究科学術協力課共同利用主任へ 加藤康洋 用度掛員(事務部) :国立天文台管理部会計課司計係へ 〈転入〉杉田有治 講師(生体超高分子研究分野) :岡崎国立共同研究機構より 伊藤 啓 助教授(高次構造研究分野) :岡崎国立共同研究機構より 大津勝美 会計主任(事務部) :核燃料サイクル開発機構より 丸山正巳 用度掛主任(事務部) :大学入試センターより 〈新規採用〉北川浩史 助手(核内情報研究分野) ○平成 14 年 4 月 15 日 〈辞職〉石館宇夫 助手(分子情報研究分野) ○平成 14 年 5 月 1 日 〈新規採用〉佐藤 純 助手(形態形成研究分野) 研究助成等公募(2002.6.5 現在) 詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。 ℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected] 最新の情報は、ホームページで公開しております。 http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html 平成 14 年度日産学術研究助成募集について(財団法人日産科学 振興財団) 募集先 2002.8.30 締切 第 19 回井上研究奨励賞受賞候補者の推薦について(財団法人井 上科学振興財団) 研究助成掛 2002.8.23 締切 教官公募(2002.6.5 現在) 詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。 ℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected] 最新の情報は、ホームページで公開しております。 http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html 名古屋大学助手1名(大学院理学研究科生命理学専攻) 2002.7.31 締切 24 研究 究最 最前 前線 線 研 癌抑制遺伝子産物 APC とキネシンスーパー ファミリー mutant を用いた解析により APC が細胞先端に溜まるために 神保猛 1 、川崎善博、小山亮、佐藤梨奈、高田慎治 2 、 原口景子、秋山 徹 (分子情報研究分野、1 現:第一製薬、2 基生研) て先端に溜まると考えられる。興味深いことに、大腸癌で Nature Cell Biol. 4: 323-327 (2002) APC は微小管上を移動して細胞先端に溜まる 大腸癌の癌抑制遺伝子 APC の機能というと、Wnt シグナ ルの伝達因子β-catenin の分解を誘導することが有名で、 APC の機能はもっぱら Wnt シグナルとの関連でのみ議論さ は KAP3 と結合することが必須であることを証明した。従 って、APC は KAP3-KIF3A/3B に乗って微小管上を移動し 発現している断片化した変異 APC 蛋白質は KAP3KIF3A/3B と複合体をつくることはできるが細胞先端にク ラスターを形成する能力はない。 APC が細胞先端に溜まる意味??? 細胞が運動する方向の先端に APC が溜まることから APC クラスターは細胞運動の調節に関与しているのではないか と想像される。事実、KAP3 の dominant-negative mutant を れてきた。しかし、APC は多機能蛋白質でこれ以外にも G タンパク質の活性制御など様々な機能をもっている。例え 発現して APC クラスターの形成を阻害した細胞は運動能が ば、細胞を抗 APC 抗体で染色すると多機能蛋白質であるこ 腸上皮細胞の移動や癌の転移・浸潤に重要な意味をもつ可 とを反映して細胞質、細胞膜、核など様々な部位が染まる。 能性があると考えさらに研究を続けている。 低下していた。APC クラスターによる細胞運動能の調節が 特に目立つのは細胞の運動方向の先端に濃縮してクラスタ ーを形成していることである(図参照)。さらに面白いこ とに APC 蛋白質がクラスターを形成して微小管の上をマイ ナス端からプラス端に移動して細胞の先端に溜まることが 京都の清末さんと月田さんによって発見されている。では APC はどのような機構で微小管上を移動し細胞先端に溜ま るのであろうか?また、細胞先端に溜まる意義は何であろ うか?筆者らは今回の仕事で APC が細胞先端に溜まる分子 メカニズムの基本原理を明らかにした。 APC はキネシンスーパーファミリーと複合体をつくる 我々は、APC が KAP3(kinesin superfamily-associated protein 3) と 結 合 し 、 KAP3 を 介 し て モ ー タ ー 蛋 白 質 KIF3A/3B [kinesin superfamily proteins (KIF) 3A/3B]と複 合体を形成していることを見出した。さらに、様々な (左)MDCK 細胞を抗 APC 抗体(赤)(右)MDCK 細胞を抗 APC 抗体(赤) と抗 KAP3 抗体で二重染色。 と抗チューブリン抗体で二重染 色。 Tea Time−編集後記 今年の季節の移り変わりは、本当に目まぐるしいですね。 暑い夏の予感と共に、サッカーワールドカップが始まりまし 先日、久しぶりに「喜鮨」の暖簾をくぐりました。ご主人は、 分生研ニュースを既に読んでいて、「今年は桜の開花も散りも早 た。日頃はあまり興味がないのですが、つい日本戦の勝敗の行 方が気になります。お昼休みに上野公園を走っていると、各国 くて、とうとう桜飯を作れなかったよ」と、腕をふるえずにた からのサポーターたちの姿を見かけます。この分生研ニュース いそう残念そうでした。 ところで、ある小雑誌(岩波書店、図書 3 月号、2002)に興 が発行される頃には既に優勝国が決まっていますが、さてどの 国が優勝することやら。しばらくはサッカーから目が離せませ 味深い記事が載っていました。「チャップリンの殺人狂時代」の 主人公が処刑まぎわにいう台詞、「One murder makes a villain, ん。(研究助成掛 松尾美鶴) millions a hero, numbers sanctify.」です。そしてもう一つ。ア ウグスティヌス「神の国」の中で、アレクサンダー大王が海賊 に「海を荒らすのはどういうつもりか」と問うた時、「陛下が全 世界を荒らすのと同じです。ただ、私は小さい舟でするので盗 賊と呼ばれ、陛下は大艦隊でなさるので、皇帝と呼ばれるだけ です」と。昨今の世界の動きと重ね合わせると、意味深長な 『言葉』で、考えさせられますね。(核内情報研究分野 金井由 美子) 分生研ニュース第 1 9号 2002 年7月 1 日号 発行 東京大学分子細胞生物学研究所 編集 分生研ニュース編集委員会(田村勝徳、金井由美子、増山久典、 芳賀直美、長澤和夫、松尾美鶴、山口武志) お問い合わせ先 編集委員長 長澤和夫 電話 03 − 5841 − 7848 電子メール [email protected]
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