IPSN新規事業のご案内 - 知的財産戦略ネットワーク株式会社

The IPSN Quarterly
東京都千代田区丸の内1-7-12サピアタワー10階
Tel:03-5288-5401
知的財産戦略ネットワーク株式会社 ニュースレター
2012年夏(第10号)
Intellectual Property Strategy Network, Inc. (IPSN)
ごあいさつ
代表取締役社長 秋元 浩
■CONTENTS■■■
IPSN創立3周年を迎えて
1
LSIPの支援領域拡大のお知らせ
2
創立3周年
これまでの歩みと将来に向けて
4
【寄稿】 遺伝資源の利用から生じる
利益の配分とMTA ~大学の視点
北海道大学 産学連携本部
特任教授 ニューヨーク州弁護士
堀田 行久
6
バイオジャパン2012に出展します
9
IPSN新規事業のご案内
10
第6回IPSN講演会開催のお知らせ
11
INFORMATION
12
IPSNは、おかげさまで創立3周年を迎えることができました。
まずは、IPSNの設立並びに事業について、心温まるご支援・
ご協力・ご指導をいただきました、IPSNネットワーク会員の
方々をはじめ多くの関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
ライフサイエンス分野における大学・研究機関等から生み出
された研究成果を知財をサポートしながら企業へつなぐという
事業は、分野特有のさまざまな困難が伴い試行錯誤の連続で
したが、おかげさまでIPSNネットワークも、連携会員(大学・研
究機関等)約80機関、優先・賛助会員は約40機関にまで拡
大し、IPSNを介した連携会員からの研究・知財情報の企業
への提供を中心として、知財コンサルティング、マッチング支
援、知財人財育成及びグローバルネットワークの構築を推進
してまいりました。この間、連携会員と優先会員との共同研究
が生まれたことは、私たちに大きな喜びと自信を与えてくれま
した。
最近では、IPSN及びLSIP(ライフサイエンス知財ファンド)の取り組みを紹介していただきたいとのご要望
を海外からも多くいただき、2011年11月にチュニジア共和国・ハマメットで開催されたチュニジア-日文化・
科学・技術学術会議第11回大会、2012年6月に開催された日中韓シンポジウム(日本知財学会・日本弁理
士会共催)、同じく6月にフランス・パリにて開催されたOECD Innovation and Technology Policy (TIP) 、7月
には台湾・台北にて開催された2012 BBA Conferenceにおいて招待講演させていただきました。
世界からも注目して頂いていることを大きな励みとして、今後とも、創薬はもちろんのこと、医療機器や再生
医療だけでなく、広範なライフサイエンス分野において創造的かつ現実的な付加価値を提供することに全力
で取り組む所存です。引き続き、皆様からのご支援・ご協力・ご指導を何卒よろしくお願い申し上げます。
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
LSIPの対象領域を大幅に拡大しました
LSIP(Life-Science Intellectual property Platform Fund(通称:エルシップ))は、2010年8月に㈱産業革新
機構(INCJ)と民間会社の出資で設立されたライフサイエンス分野の知的財産を扱う我が国初の知財ファンド
です。ファンド運営は知的財産戦略ネットワーク(株)(IPSN)の100%子会社LSIPファンド運営合同会社が
引き受けており、実務的な業務は総てIPSNが受託しています。
この度、LSIPの対象領域をライフサイエンス分野のほぼ全域に拡大しましたので、お知らせします。
【これまで】
①がん、②アルツハイマー、③ES細胞/幹細胞、及び④バイオマーカー(全領域)の4領域
並びにこれらの医療機器
【拡 大 後】
ライフサイエンス分野ほぼ全域に亘る以下の領域とこれらの医療機器
拡大後の対象領域
1 バイオマーカー
2 悪性新生物
3 アルツハイマー病
4 ES/幹細胞
運用・備考
「再生医療」は、幹細胞を用いる医療技術であるため、
「ES/幹細胞」の中に含まれるものとして扱う。「細胞治療」
も「再生医療」と同様とする。
5 疼痛
6 統合失調症
「双極性障害」は、いわゆる躁うつ病であるため、「うつ病」
の中に含める。
7 うつ病
8 多動性障害
9 関節リウマチ
10 炎症性腸疾患
11 アトピー性皮膚炎
12 アレルギー性鼻炎
13 喘息
14 乾癬
15 糖尿病および糖尿病合併症
16 末梢動脈疾患
17 急性・慢性心不全
18 肝線維症・肺線維症・腎線維症
19 希少疾病用医薬品
「インスリン抵抗性疾患」、「Ⅰ型糖尿病」、「糖尿病合併
症」は、「糖尿病および糖尿病合併症」として扱う。
「慢性閉塞性肺疾患」は、「線維症(肺)」として扱う。
「筋委縮性側索硬化症」、「多発性硬化症」、「ニューロパ
チー」、「筋ジストロフィー」、「全身性エリスマトーデス」、
「強皮症」、「レビー小体病」、「パーキンソン病」は、「希少
疾病用医薬品」として扱う。
20 ワクチン
21 抗体
22 ドラッグデリバリーシステム
並びに上記に係る医療機器
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
LSIPをご活用ください -事業のご案内-
◆知財バンドリング事業
大学・公的研究機関から事業化に適した知財の譲渡や、実施権の許諾※をお願いしています。
また、特許費用(各国移行費用)支援も行っています。これらを集約(バンドリング)してパッケージ化した上
で、企業に提供します。
※ LSIPへの譲渡または実施権許諾について
(1)LSIPへ特許権を譲渡していただく場合(名義:LSIP)
LSIPは購入対価をお支払いし、出願費用(PCT各国移行費用)を負担します。
(2)LSIPへ実施権を許諾していただく場合(名義:各機関のまま)
LSIPは実施権許諾対価をお支払いし、出願費用(PCT各国移行費用)も負担します。
当該特許の権利化、維持管理は各機関の責任で各機関の費用によって行っていただきます。
◆知財インキュベーション事業
事業化の見込みのある研究については、知財を強化するための研究費の支援を行います。
■研究の継続について
バンドリング事業において知財の譲渡や実施権の許諾をした後、または知財インキュベーション事業でLSI
Pから支援を受けた場合でも、研究は自由に行っていただけます。ただし、研究状況のご報告をお願いする
ことがあります。
■JST(科学技術振興機構)特許出願支援制度との連携
(1)JST知財審査委員会で外国出願やPCT各国移行の支援が不採択となった案件でも、LSIPによる支援を
受けられる場合があります。
(2)外国出願後3年経過時等に実施する支援継続見直しなどによりJSTの支援が終了となった場合、LSIPへ
有償譲渡できる場合があります。
【手続方法】
LSIPによる支援を希望される場合は、JST特許出願支援制度の申請書類(発明概要)の所定欄に知財ファ
ンドLSIPの利用希望する旨ご記入下さい。
JSTの支援不採択が決定した場合、LSIP担当者から連絡させていただきますので、「発明概要」、「特許明
細書」、「不採択の理由」、「研究者から見た技術の特徴」及び「ライセンス活動の進捗状況」をご提出ください。
LSIPによる支援が可能か否かを検討させていだきます。
参考:JST特許出願制度について http://kenri.jst.go.jp/pat/p_s_03etc.html
大学の知的財産の活用 2011-2012 http://www.jst.go.jp/tt/pamph/tt2011-12.pdf
■お問い合わせ
詳細につきましては、どうぞお気軽にお問い合わせください。
知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN)
担当窓口:金野陽子(こんのようこ)
Tel:03-5288-5401
Email: [email protected]
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
創立3周年 IPSNの歩み
IPSNはおかげさまで、2012年7月1日に創立3周年を迎えることができました。
これまでの主な出来事をまとめてみました。
2008年11月 IPSNの前身となる製薬協知財支援プロジェクト発足(時限プロジェクト)
日本製薬工業協会(以下「製薬協」)は、大学や各研究機関が行っているiPS細胞関連の研究成果を、グ
ローバルな視点から知的財産として適切に保護することを支援するために「知財支援プロジェクト」を、1年間
の期限付きで立ち上げました。プロジェクトリーダー秋元浩、メンバー長井省三(現IPSN取締役)、高島義典
(同左)含め5名で、 iPS細胞研究を行っている国内の34大学・研究機関に足を運び、知財戦略の重要性、特
に米国の仮出願制度の活用などについてコンサルティング、アドバイスを行いました。
2009年7月1日 知的財産戦略ネットワーク㈱(IPSN)設立
製薬協知財支援プロジェクトで訪問した大学等から、知財相談に関連して、プロジェクトの終了後の知財戦
略の支援継続の要望や、iPS細胞関連の研究以外の分野での知財支援などについて多くのご要望をいただ
きました。また、日本のライフサイエンス産業の発展には産学官連携によるオールジャパン知財体制の早急な
構築が必要不可欠であると考え、バイオ・ライフサイエンス分野や先端医療分野における知財支援、人材の
育成・確保およびアジアネットワーク構築を使命としたナショナルプロジェクト的新会社として、関係省庁、製薬
協・バイオインダストリー協会などの業界団体、各界有識者等の支援を受けて、発起人秋元浩、長井省三、玉
井彰一によりIPSNが設立されました。
2009年10月 文科省iPS細胞等研究ネットワーク業務受託(~2010年3月まで)
文部科学省iPS細胞等研究ネットワークから知財戦略に関するコンサルティング業務を受託し、当該ネット
ワークに参画している大学・研究機関の研究者、知財担当者に対して国際競争を見据えた知的財産戦略や
管理・活用について知財コンサルティングやセミナーを行いました。
2010年1月 ㈱経営共創基盤の参画
㈱経営共創基盤(IGPI)がIPSNへ出資を行い、IGPIのマネージングディレクター(現パートナー&マネー
ジングディレクター)の堀越康夫が経営に参画することになりました。現在は、他に新谷元彦がIPSNに常駐し
ています。
2010年3月 会員企業向け情報提供開始
大学・研究機関等の連携会員から得られた研究・知財情報を研究開発型企業からなる優先会員に提供する
事業を開始しました。この時点の連携会員数は26機関でしたが、今では80を超える大学等に連携会員として
参画していただいております。これまで10回に亘って企業へ提供した情報は計268件になりました。
連携会員と優先会員との間で情報提供を通じた共同研究も生まれました。
2010年8月 我が国初のライフサイエンス知財ファンドLSIP設立
IPSNと㈱産業革新機構(INCJ)がLSIP(エルシップ)の設立を決定しました。LSIPはがん、アルツハイ
マー、バイオマーカー、幹細胞を投資対象として、これまで各大学・研究機関等でバラバラに保有していた知
的財産を集約し、知財を強化するための研究や周辺特許の取得で魅力的な知財群を産出し、企業に提供す
ることにより、革新的な技術の実用化やベンチャーの創生を目指して始まりました。
2011年1月 LSIP運用開始
INCJ及びご賛同いただいた複数の企業からの出資金6億9,000万円にて実質的な運用を開始しました。
この時期に特許買取第1号として国内の某医科系大学からバイオマーカー、がん両分野の特許を買取りまし
た。
2011年5月 研究情報公開
大学・研究機関等から入手した研究の事業化の機会及びマッチングの確率を高めるために、これらの情報
のWEB公開を開始しました。 研究情報リスト http://www.ipsn.co.jp/research/article/index.html
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
2011年9月
知財人財育成のための実践研修(OJT)開始
某国立医科系大学の知財担当者の実践研修を3ヶ月間行いました。2012年4月からは、別の某国立大学
の知財担当者(弁理士)を1名受け入れ、目下研修中です。
2012年1月 LSIP・企業との提携に向けたライセンス活動を開始しました。
LSIPの運用開始から取得した知的財産は100出願を超え、これらの知財を事業化に向けて集約するバン
ドリングの方針を打ち立て、企業との提携に向けたライセンス活動を開始しました。本年7月には第1号案件と
して、インキュベーション支援を行った某研究機関と企業との共同研究契約及び特許実施許諾契約が締結さ
れました。
2012年7月 LSIP対象領域をライフサイエンス分野ほぼ全域に拡大
拡大後に対象となった領域について支援のご依頼をたくさんいただいています。現在LSIPでの支援が可
能かどうか、精査を行っています。
NEXT STAGE
これからは、既存の事業基盤を固めて安定した会社経営を維持しながらも失敗を恐れず、新しい事業にも果
敢に挑戦します。
これまでの事業基盤を確固たるものとすべく、堅実にかつ充実したサービスを提供し、
お客様から愛されるIPSNを目指します。
-知財サポート事業
○知財コンサルティング
○マッチング
○知財価値評価
○知財業務の代行
-グローバルネットワーク構築
-知財人財の育成
-LSIP知財ファンド
企業の知財に関する中長期事業計画の策定及び実行支援などのコーポレート支援業務や、
IPSNのネットワークを生かしたオープンイノベーションなど、新しいビジネスモデルを打ち出し、果
敢に挑戦します。
-知財を中心としたコーポレート支援業務
-化合物の新用途発見を目指したオープンイノベーション
など
(左上から) 金野陽子、高島義典、堀越康夫、小此木恒夫、熊田芳光、黄黛莉、横山雅与、千代道行
柏原秀雄(研修生)、玉井彰一、秋元浩、長井省三
新谷元彦 宮岸明
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
寄
稿
遺伝資源の利用から生じる利益の配分とMTA
~大学の視点
北海道大学産学連携本部 特任教授 ニューヨーク州弁護士 堀田 行久
らくだの分配問題、といわれる逸話が中東にある。ら
くだ17頭が遺産のすべてであったが、被相続人(父
親)の遺言によると、相続人(息子3人)のそれぞれの
相続分は、長子が2分の1、次子が3分の1、末子が9
分の1と決められていた。そのため、遺産の分割をめ
ぐって、3人の間で争いとなり決着がつかなかった。
そこに、旅の老人が1頭のらくだに乗って、通りか
かった。争いの次第を聞いて、「そうか。では、わたし
のらくだを差し上げよう。これで分けられる」と提案した。
被相続人(父親)の遺した17頭に1頭加わって18
頭になったので、長子が9頭、次子が6頭、末子が2
頭で、遺言のとおりの遺産分割が実現し、争いは収
まった。
旅の老人は、「これで円満に分配ができた。結局、1
頭余ったではないか。これはもともとわたしのものだ。
では、さようなら」といって、らくだに乗ってどこかへ立
ち去った。
1.配分対象が不明
CBD(生物多様性条約)の第15条の下で、遺伝資
源の利用から生じる利益は公正かつ衡平に配分され
なければならないが、これの難しさは、らくだの逸話に
おける配分の難しさをはるかに超えている。逸話では
3人の相続人は争っていても、互いに親族であり、配
分比率はあらかじめ決まっていて、かつ、配分対象は
17頭のらくだという目にみえる物(動物)であった。遺
伝資源の利用の場合は、提供者(国)と利用者は親
族ではなく、利益の配分比率は決まっていなくて、収
集した遺伝資源の研究開発によりどういう成果が創出
されるか、また、創出されたとして果たして商業的利
用がなされるのか、さらに、商業的利用がなされたとし
てどういう規模の利益が生じるのか、がすべて不明で
あり、配分対象はまだ具体的に存在していない。
具体的に存在していない対象を表現するには抽
象的な記述が用いられることがあるが、CBDによる利
益配分対象に関してそういう記述の試みの一つが派
生物(デリバティヴ)という用語である。配分に直接係
る用語であるため、当然、遺伝資源の提供者(国)と
利用者の間で派生物の定義をめぐって立場の相違
がある。提供者(国)によると、遺伝資源を用いた研究
開発で創出されたものであれば、遺伝の機能的単位
を有する有しないにかかわりなく、一切がふくまれ、
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したがって、化学物質、加工品又は情報などがふくま
れるから、それらによって生じた利益も配分対象にな
る。他方、利用者によると、CBDの主題は遺伝資源
であり、遺伝資源とは遺伝の機能的単位を有するも
のであるとCBDの第2条で規定されているのだから、
派生物も遺伝の機能的単位を有する必要があり、し
たがって、化学物質、加工品又は情報などはふくまれ
ないから、それらの利用から生じる利益は配分対象か
ら外れる。
名古屋議定書をみると、派生物に関しては、提供
者(国)側の主張が基本的に容れられたようにみえる。
名古屋議定書の第2条(e)は派生物を定義し、その
中で、天然に存在するものと規定する一方、生化学
的化合物で遺伝の機能的単位を有しないものもふく
まれると規定した。また、同じ第2条(c)と(d)は、遺伝
資源の利用とバイオテクノロジーを定義し、その中で、
派生物を利用する応用技術を用いて行う研究開発は
遺伝資源の利用にふくまれると規定した。
とはいえ、それらの新しい定義によって利用者側が
とくになにか失ったわけではない。もともと、リアリティ
でいえば、遺伝資源というよりは派生物が利用対象で
あることは自明であり、提供者(国)の主張は無理な主
張とはいえないことは利用者側も理解していた。また、
名古屋議定書では、利益配分は提供者(国)と利用
者による利益配分に関する契約(相互に合意する条
件=MAT)によりなされるべきであるとあらためて明
記され、その点では利用者側はかねてからの主張を
貫徹した。
2.MTAの役割が大きい
結局、MATでどういう取決めをするかが決定的に
重要となる。既にCBDの中で、利益配分はMATで
取り決めると規定されていたところに、名古屋議定書
ではさらに進めて、前記のとおり、派生物の定義や利
益配分対象のコンセプトが決着し、また、利益配分は
金銭的な利益のほかに非金銭的な利益も配分対象
になることが規定され、そして、付属書の中で金銭的
な利益と非金銭的な利益の例示もなされたが、それら
によって、MATの記述が具体的に定まるわけではな
い。具体的な案件において、提供者(国)と利用者が
交渉し取り決めてゆくしかない。
The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
ところで、名称はともかく内容に着目すると、MAT
は、通例のMTA(素材提供契約)と変わりがない。提
供者(国)と利用者が当事者となり、遺伝資源の提供
について取り決める契約についてはMATないしバイ
オプロスペクティング契約(素材取得契約)と呼ぶ一
方、その利用者とさらに別の利用者が当事者となり、
それら遺伝資源の再提供ないし派生物の提供につ
いて取り決める契約についてはMTAと呼ぶ、名称の
使い分けがなされる例を見かけるが、内容が特にどこ
か異なるわけではない。どちらにおいても、典型的に
は、提供の時期、場所、方法のほか、提供代金の有
無と金額、提供された遺伝資源の利用のリスクと利用
の範囲、遺伝資源の所有権の帰属、遺伝資源を用
いる研究開発で創出された成果に係る知的財産権
の帰属、法令の遵守、そして、商業的利用がなされ
た場合の利益配分の記述がなされる。したがって、
本稿では両者を区別せず、MTAと呼ぶことにする。
具体的案件のたびに煩雑な交渉をする手数とリス
クを回避するため、MTAの標準約款のようなものが
必要といわれているが、少なくとも、利益の配分の記
述に関するかぎり、特に、利益配分に係る紛争解決
の規範となりうるレベルの記述に関するかぎり(注:
「公正かつ衡平に配分」しなければならないというCB
Dの記述をたんにコピーするレベルのものは理念を
謳い上げているだけで紛争解決の規範としては有用
性が低い)、提供者(国)の立場と利用者の立場は基
本的に異なる以上、標準約款が成立し通用するまで
の道のりはひどく遠い。仮に成立し通用しても、大型
の案件や複雑な案件では、当事者の意向や力関係
により、標準約款と異なる記述が多数なされるであろ
うし、標準約款自体、いくつかに分かれる可能性があ
る(提供者(国)に有利な標準約款、利用者に有利な
標準約款、細部にわたり詳細に記述する標準約款、
どちらかといえば簡潔に記述する標準約款)。
3.提供国の研究機関と利用国の研究機関が連
携する国際共同研究
複雑な案件の一つの例は国際共同研究である。提
供者(国)自らが遺伝資源の利用の研究に参画する
例は多くないので、それを度外視すると、CBDに関
連する国際共同研究は、通例の場合、利用者とさら
に別の利用者の間で形成される。利用者は大学や
研究機関の場合もあれば企業の場合もある。また、
利用者のうちのいずれかが提供国に所在する場合も
あればもっぱら利用国ないしさらに別の利用国にの
み所在する場合もある。
遺伝資源を利用する国際共同研究でよくみられる
例は、提供国に所在する大学や研究機関と、利用国
に所在して、研究成果の商業的利用者の候補企業
とコンタクトないし連携を有する大学や研究機関との
連携による共同研究である。それには様々な要因が
考えられるが、基底には、提供国に所在する大学や
研究機関にとっては、自国内の遺伝資源を利用する
研究に携わる機会が得られ、かつ、創出された研究
成果が実際に商業的にグローバルに利用される可
能性が拡がるというメリットがあり、他方、利用国に所
在する大学や研究機関にとっては、海外の遺伝資源
を利用するグローバルな研究に携わる機会が得られ、
かつ、創出された研究成果が実際に自国内で商業
的に利用されれば自国内の課題の解決に寄与でき
る、というメリットがあるなど、双方に有益だからであろ
う。
4.国際共同研究のMTAの内容は複雑
北海道大学でも、何人かの研究者がそういう類型
の国際共同研究に参画している。そのため、下名も
それらに用いるMTAに関与しているが、国際共同研
究ではMTAの記述内容は一層複雑になることを実
感している。例えば、ススキをセルロース系バイオ燃
料の資源作物として利用できるかどうかを模索検討
する観点から、ススキのバイオマス特性を明らかにす
る研究や栽培管理技術の研究プロジェクトが進行し
ているが、提供されたススキの派生物は、利用から生
じる利益の配分との関係では、MTAにおいて一まと
めに定義して記述することが可能であっても(注:前
記のとおり、遺伝資源というよりは派生物が利用対象
であることはほぼ共通の理解であることが、この点に
関係する)、所有権の帰属との関係では、一まとめに
定義する記述はできず、二つに区分して記述する必
要がある。すなわち、提供されたススキの複製、増殖
ないし他のススキとの交雑による新種については
(注:要するに、遺伝の機能的単位を有するものにつ
いては)、研究者の意向にしたがうと、共同研究に携
わる大学や研究機関のうちのいずれが得たものかに
かかわらず、一律に共有とすることが望ましいが、他
方、研究成果として得られるその他の成果物で遺伝
の機能的単位を有しないものは、一律に共同発明
(共有)としないで、発明者を決定する基準に沿って
いずれかの単独発明(所有)なのか、それとも両者の
共同発明(所有)なのかを論じる必要がある。
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
したがって、ある研究プロジェクトでは、派生物とい
う用語の使用をやめて、素材という用語の定義を拡
張し、ススキの複製、増殖ないし他のススキとの交雑
による新種がふくまれるように、提供された素材から
の遺伝の機能的単位を有するものすべてを意味する
という記述にしたが、その一方、改変物という用語を
新たに加え、研究成果として得られるその他の成果
物で遺伝の機能的単位を有しないものであって発明
に相当するものは発明者を決定する基準に沿って取
り扱うことにした。
国際共同研究におけるMTAでなければ、こういう
錯綜は生じない。また、MTAの中で利益の配分比
率について記述する例があるが、遺伝資源の寄与
(商業的利用への寄与)の全体に対する配分比率に
ついてだけではなく、寄与した遺伝資源のそれぞれ
に対する配分比率算出のコンセプトについても記述
する場合には、当然、国際共同研究に参画した大学
や研究機関のいずれが遺伝資源のいずれに対して
どういう関与をしたかという話に発展する。ススキでい
えば、採取、複製、増殖、交雑のどれにだれがどれ
だけ関与したかという議論である。それらを的確に反
映するMTAの記述を考案するのは容易ではない。
ススキの研究プロジェクトのほかにも、例えば、海藻
やサトウキビ搾りかす(バガス)をエネルギーに変換で
きる海洋微生物(細菌)の分離培養及び遺伝子抽出
に係る研究プロジェクトが進行しているが、抽出した
遺伝子を用いて遺伝子を組み換えた細菌は発明に
なりうるとすると、この場合に用いるMTAには、おそ
らく、素材という用語から遺伝子を組み換えた細菌を
除き、他方、改変物の範囲を拡げて、遺伝子を組み
換えた細菌をふくめる必要が出てきそうである。また
共同研究に携わる大学や研究機関の一方が遺伝子
抽出を行い、他方の大学や研究機関がその組み込
みを行った場合は、どこまでが共同発明で単独発明
かは、実際の抽出と組み込みにおいて両大学や研
究機関のそれぞれの研究者が実際に果たした役割
が明らかにならないかぎり、判定はおそらく難しい。
繰り返しになるが、国際共同研究におけるMTAでな
ければ、こういう問題は生じない。
5.立場の相違から生じる論点がある
国際共同研究で生じる問題はほかにもある。CBD
の下で、遺伝資源の利用者と提供者(国)との間で締
結するMTAに対する関心の高さは、提供国に所在
する大学や研究機関と共同研究の相手方の大学や
研究機関(利用国に所在する大学や研究機関)との
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間で基本的に同じレベルであるが、しかし、利用国に
所在する大学や研究機関の側の関心はどちらかとい
うと、MTAを作成するという外形を重視する関心で
あり(要するに、CBDを遵守しているという外形)、C
BDの精神に沿って利益を配分するという、MTAの
内容を重視する関心であるとはかぎらない。そもそも
研究成果の商業的利用者の候補企業にとっては、
提供者(国)への利益配分を増やすことは、自らへの
利益配分が削られることを意味する。
したがって、それら企業とコンタクトがあり、距離が
近い大学や研究機関(利用国に所在する大学や研
究機関)としては、提供者(国)への利益配分に対す
る熱意は少ない。だから、ススキの研究プロジェクトの
場合(日本が提供国)、海外の共同研究相手方が当
初に提示してきた案では、ススキの複製、増殖ないし
他のススキとの交雑による新種の利用から生じる利
益は提供者への配分対象とするが、研究成果として
得られるその他の成果物で遺伝の機能的単位を有
しないものから生じる利益は配分対象としないという
記述になっていた。これは押し返して、前記のとおり、
それもふくめて配分対象とする記述にしたが、これも、
国際共同研究における立場の相違から生じる論点の
一つである。
6.大学は利用者と提供者(国)の狭間にいる
もっとも、立場の相違がなく、立場が共通している点
もある。それは、MTAにおける提供者(国)に対する
コミットメントの性質についてである。提供国に所在す
る側か、利用国に所在する側かにかかわりなく、大学
や研究機関は、提供者(国)に対しては、MTAの上
では利用者として登場するが、いうまでもなく、最終
の利用者は、研究成果の商業的利用者の企業であ
る。いってみれば、それら企業でなければ、本来の利
益配分コミットメントをできる立場にない。
しかし、いまの時点でそれら企業がそのようなコミッ
トメントをするはずもなく、結局、MTAの段階では、
国際共同研究を遂行する大学や研究機関がなんら
かのコミットメントをするほかない。そういうディレンマ
の中で創出されたのが、ストレートなコミットメントの記
述ではなく、将来、研究成果の商業的利用がなされ
る場合には、商業的に利用する企業と提供者との間
で、利益配分に関してCBDの精神に沿う相応な条
件の取決めがなされるように大学や研究機関は「努
力する」、というコミットメントの記述である。
The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
要するに、配分するという約束ではなく、配分がなさ
れるように努力するという約束をしていることになる。
都合よく言葉をすりかえているようにみられるかもしれ
ないが、大学や研究機関の立場としてはこれが最大
限であり、しかも、もし研究成果に関して発明が創出
されて、知的財産権を有するに至れば、それをテコ
に、企業に対して、利益配分に関してCBDの精神に
沿う相応な条件の取決めを提供者とするよう迫ること
もできるので、決して空疎な約束をしているわけでは
ない(注:アメリカの国立がん研究所が用いているM
TAをみても、配分がなされるように努力する約束に
なっている)。
逸話の中の旅の老人のように、利用者と提供者
(国)の間に立って大学や研究機関が争いを調停す
る役割を果たせれば、どんなによいであろう。(了)
今年もバイオジャパン2012に出展します
2012年10月10日(水)から12日(金)まで、パシフィコ横浜にて開催される「バイオジャパン2012」に出展し
ます。IPSN、LSIPの事業活動の説明、知財コンサルティング・マッチング相談などを随時承ります。
また、ブース内で技術相談会を開催します。知財の活用で困っていること、知財戦略及びライセンスあるい
は事業戦略について知りたいなど、知財に関連するあらゆるご相談を承ります(事前アポイントをお取りいただ
ければスムーズにご案内します。)。プロフェッショナルスタッフが複数待機して、皆様をお待ちしております。
◆技術相談会
第1回
第2回
第3回
場所:IPSN展示ブース内
10月10日(水)13:00~15:00
10月11日(木)14:45~17:00
10月12日(金)10:00~12:00
個別に対応させていただきます。お気軽にお声がけください。
10月11日(木)13:00~14:30まで、グローバル知財人財の育成と確保をテーマにした講演会も開催
します。詳細は11ページをご覧ください。
技術相談会へのアポイント、本件に関するお問い合わせ:
金野 陽子 (こんの ようこ)
Tel: 03-5288-5401 Fax: 03-3215-1103
-アジア発オープンイノベーション新時代-
皆様のご来場を心よりお待ちしています。
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
IPSN新規事業のご案内
化合物の新用途発見を目指したオープンイノベーションのご提案
海外ではオープンイノベーションの取組みの一つとして、複数の製薬企業が公的機関を通じて大学・研究
機関へ化合物や薬剤を無償提供し、共同研究によって新用途の発見(効能追加)を目指しています。
このような中、IPSN優先会員企業より、自社の提供化合物の作用効果を研究する大学等の研究者を紹介し
てほしいとのご要望をいただきました。また、一部の連携会員からは、研究対象化合物は一般に購入できる化
合物に限られ研究に限界があるため、化合物を提供して下さる企業紹介のご要望がありました。
そこで、IPSNでは優先・賛助、連携会員からなるIPSNネットワークを活用して、連携会員から評価試験対
象及び試験法の概略をご提供いただき、優先・賛助会員企業へ化合物提供を依頼する取組みを開始しまし
た。
IPSNは、優先・賛助会員と80を超える大学等の連携会員とのマッチングを図ることをミッションとしており、さ
まざまな形での各社のニーズに沿った形でフレキシブルにオープンイノベーションのお手伝いをさせていただ
きたいと考えております。
この取組みを優先・賛助会員様に広げることにより、化合物の潜在的価値の最大化、特に、新たな効能効果
の発見を願っております。
◆化合物提供までの流れ
⑥化合物提供
企業会員
連携会員
⑤共同研究契約
③採択通知
②研究計画送付
④採択通知
IPSN
本件に関するお問い合わせ:
長井 省三 (ながい しょうぞう)
Tel: 03-5288-5401 Fax: 03-3215-1103
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①応募
(研究計画提出)
The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
第6回IPSN講演会開催のお知らせ
国際競争力の源泉
~グローバル知財人財の育成と確保~
2012年10月11日(木)13:00~14:30
■会 場 パシフィコ横浜 アネックスホールF201号(横浜市西区みなとみらい)
■参加費 無料
■日
時
■定
員
120名
プログラム
(8月現在・敬称略)
13:00~13:10 開会挨拶(モデレータ)
東京大学先端科学技術研究センター 教授
13:10~13:35【産学官連携の現状と今後の展開】
文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長
13:35~14:00【製薬産業におけるグローバル知財人材】
第一三共株式会社 代表取締役会長
14:00~14:25【知財人財の育成と確保~IPSN/LSIPのミッションを含めて】
知的財産戦略ネットワーク㈱
14:25~14:30 閉会挨拶
玉井
克哉
里見
朋香
庄田
隆
秋元 浩
代表取締役社長
知財戦略を理解し実行できる人財は国際競争に打ち勝つための重要な要素の一つであり、日本でも「知的
財産立国」の実現を国家戦略として掲げた当初からその育成・確保は最重要課題としてあげられています。
とりわけ、創薬に係わるグローバルな知財戦略の展開は高度に専門的な仕事であり、多くの困難を伴いま
す。さらに近年は、欧米はもとより、中国、韓国、シンガポールなども国家戦略を実施していく上で必要
とする優秀な人財の獲得に力を注いでおり、日本も他国を上回るあらゆる手段を講じて一刻も早くできる
ことから着手していかなければなりません。
産学官がそれぞれの持ち味を活かし、連携しながらいかなるグローバル知財人財を育て、確保するべき
か。各界を代表する方々に具体策を中心に産学官連携に向けた取組みをご講演いただきます。弊社からは
IPSNの知財人財育成の育成への取り組みをご紹介させていただきます。
本講演会が人財育成・確保の議論を掘り下げるきっかけになれば幸いです。
■お申込み方法:
バイオジャパン2012ウェブサイトよりお申込みくだ
さい。
http://www.ics-expo.jp/biojapan/
※9月上旬・申込み受付開始
※講演会に参加するためには、バイオジャパン2012の
入場登録が必要となります。入場無料招待状をご希望
の方は下記までお問い合わせください。
■お問い合わせ先
金野陽子(こんの ようこ)
知的財産戦略ネットワーク㈱
Tel: 03-5288-5401 Fax: 03-3215-1103
Email: [email protected]
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The IPSN Quarterly 2012, Summer, No.10
INFORMATION
■主な活動報告(2012年6月~8月)
6月27日
第10回優先会員向けゼロ次情報提供
6月15日
第9回ノンコン情報送付(賛助会員企業)
6月15日
第9回研究情報リスト掲載
詳細は⇒ http://www.ipsn.co.jp/research/article/index.html
7月20日
第10回優先会員向け臨時ゼロ次情報提供
■主な国際活動報告(2012年6月~8月)
6月23日
日中韓シンポジウム(日本知財学会・日本弁理士会共催)講演(東京)
6月27日
OECD Innovation and Technology Policy (TIP)招待講演(フランス・パリ)
7月5日
中国・煙台ハイテク産業開発区説明会での基調講演(東京)
7月24日
2012 BBA Conference招待講演(台湾・台北)
■主な活動予定(2012年9月~11月)
9月下旬
第11回優先会員向けゼロ次情報提供
9月下旬
第10回ノンコン情報送付(賛助会員企業)
10月10日~12日
バイオジャパン2012ブース出展
10月11日
第6回IPSN講演会開催(@バイオジャパン2012会場)
■寄稿のお願い
IPSNでは、皆様から産学官連携推進、先端技術分野の知財を巡る問題や課題などの幅広いご意見、論
文をお寄せ頂き、かかる問題を考える場として本ニュースの紙面を活用しています。
ご意見、論文がございましたら弊社までお寄せください。
編集後記
ユニークな開会式とともに始まったロンドンオリンピック
(個人的には、Mr.Beenの「炎のランナー」が楽しめま
した!)。競泳、卓球、サッカー等さまざまな感動と超越し
た身体・精神力に驚き、寝不足になりながらも約2週間楽
しませていただきました。今回のオリンピックで印象に
残ったのは、好成績をあげた多くの選手がチームの力を
大事にしていたことです。団体競技ではチーム一丸と
なって個々の実力以上の成果をあげて多くのメダルを獲
得しました。IPSNは創立3周年を迎えましたが、これか
らも様々な厳しい局面が待ち受けていることと思います。
そのようなときにはオリンピック選手さながらIPSNネット
ワークのチーム力を最大限に生かして、日本のライフサ
イエンス産業に貢献してきたいと思います。(金野陽子)
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本書の内容を無断で複写・転載することを禁じます。
2012年8月発行 The IPSN Quarterly (第10号・夏)
〒100-0005 千代田区丸の内1-7-12サピアタワー10階
電話:03-5288-5401 ファクシミリ:03-3215-1103
URL: http://www.ipsn.co.jp/
Email: [email protected]