オタク婚活事件

最 新判 決情報
2014 年
〔5 月 分 〕
〇オタク婚 活事 件
知 財 高 裁 H26.5.14 H25(行 ケ)10341 商 標 登 録 取 消 決 定 取 消 請 求 事 件 (富 田 善 範 裁 判 長 )
第 45 類 「結 婚 又 は交 際 を希 望 する者 への異 性 の紹 介 ほか」を指 定 役 務 とする登 録 商 標 「 オタク婚 活 」
(標 準 文 字 )が法 3-1-3 号 該 当 を理 由 とする異 議 申 し立 てにより登 録 取 消 しの決 定 を受 けたため、当 該 異 議
決 定 の取 消 しが求 められた事 案 である。
取 消 事 由 として原 告 商 標 権 者 は、一 部 ネット上 での使 用 例 はあるものの、「オタク婚 活 」が「オタク向 けの結
婚 活 動 」を示 す語 として一 般 的 に用 いられていたとの実 情 はないので、役 務 の質 (内 容 )・用 途 を表 示 するも
のではないと主 張 した。
しかし判 決 は、3-1-3 号 が登 録 を拒 絶 する理 由 は、当 該 表 示 が取 引 に際 して必 要 な表 示 として何 人 も使 用
を欲 するものであるという独 占 適 応 性 を欠 くことを挙 げ、将 来 を含 めて、役 務 の特 性 を表 示 したものと一 般 に
認 識 されるものであれば足 りるとした。
そして、本 件 商 標 「オタ ク婚 活 」 の場 合 、「 オタク」及 び「 婚 活 」とも 良 く 知 られた 語 であり、「アラサー婚 活 」
「シニア婚 活 」「熟 年 婚 活 」のように、「婚 活 」の語 の前 に対 象 者 の属 性 を表 す語 を結 合 した語 は、当 該 対 象
者 向 けの結 婚 するための活 動 を意 味 する語 として、本 件 商 標 の登 録 査 定 当 時 、一 般 的 に理 解 されていたの
で、本 件 商 標 は「オタク」と称 される人 向 けの結 婚 活 動 を支 援 するための異 性 の紹 介 という役 務 の質 (内 容 )
を表 示 するものと一 般 に認 識 され、独 占 適 応 性 を欠 くとして、異 議 決 定 を支 持 した。
なお 3 条 2 項 の判 断 時 期 についても原 告 は、異 議 申 立 があった場 合 には決 定 時 とすべきと主 張 したが、こ
れも斥 けられている。
〇バーキン・バッグ立 体 商 標 侵 害事 件
東 京 地 裁 H26.5.21 H25(ワ)31446 商 標 権 侵 害 行 為 差 止 等 請 求 事 件 (東 海 林 保 裁 判 長 )
第 18 類 「ハンドバッグ」を指 定 商 品 とし、3 条 2 項 により商 標 登 録 が認 め
られた立 体 商 標 の侵 害 事 件 である。筆 者 の知 る限 り、立 体 商 標 の侵 害 事 件
としては初 めてのケースと思 われるが、もし間 違 っていたらご教 示 願 いたい。
原 告 商 標 は、「バーキン」として著 名 なエルメス社 の高 級 ハンドバッグを立
体 商 標 として登 録 したものである。判 決 では、被 告 商 品 の写 真 が省 略 されて
いるため、原 告 登 録 立 体 商 標 とは比 較 できない。
なお本 訴 に先 立 ち、原 告 より被 告 に対 して仮 処 分 命 令 の申 立 てがあり、こ
れが認 容 されている。
また被 告 は本 件 口 頭 弁 論 に出 頭 していないが、請 求 の棄 却 を求 める答 弁
書 では、被 告 はエルメス 社 か ら連 絡 を受 けて 直 ぐにネット販 売 を 中 止 し、在
庫 を韓 国 企 業 に返 品 した、デザインは似 ているかも知 れないが、素 材 や価 格
が明 確 に違 うことが分 かるし、コピーブランドとは極 めて考 えにくい、まったく
違 う商 品 と考 えている、などと主 張 している。
而 して、商 標 権 侵 害 事 件 である以 上 、登 録 商 標 と被 告 標 章 との類 否 判 断 が必 要 となるが、判 決 では「 所 定
方 向 」という判 断 基 準 が用 いられ、検 討 されている。この所 定 方 向 については、小 著 「新 商 標 教 室 」 P22~23
で説 明 したように、侵 害 事 件 ではなく、立 体 商 標 の出 願 に関 する審 決 取 消 請 求 訴 訟 ( 蛸 の図 形 事 件 東 京
高 裁 H12(行 ケ)234)ですでに示 された判 断 基 準 である。用 語 は違 うが、そもそも「商 標 審 査 基 準 」〔改 訂 第
10 版 〕(P45)において、「特 定 の方 向 」として類 否 の判 断 の基 準 が示 されているのと同 じである。
要 は、立 体 というものは、見 る角 度 により様 々に見 えるところ、一 般 の人 が主 に見 るであろう 1 箇 所 又 は 2 箇
所 以 上 の特 定 の方 向 (所 定 の方 向 )を想 定 し、その所 定 方 向 からの看 者 の視 覚 に映 った姿 の特 徴 によって
商 品 や役 務 を識 別 することが通 常 である(判 決 P16)。そして所 定 の方 向 から見 た外 観 同 士 が類 似 する場 合
は、立 体 商 標 相 互 、立 体 商 標 と平 面 商 標 とは外 観 において類 似 する。ただし、所 定 の方 向 ではない方 向 から
見 た姿 は、外 観 類 似 判 断 の要 素 とはならない、というものである。
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而 して、原 告 バーキン・バッグについては、所 定 の方 向 がバッグを横 正 面 からみたところの大 きな台 形 状 の
形 状 であることは誰 も異 存 がないであろう。けだし、ハンドバッグを持 って携 帯 した場 合 に外 部 に向 かって他 者
の注 意 を惹 くのが正 面 部 分 であり、それ故 に装 飾 的 要 素 を備 えた蓋 部 、ベルト、固 定 具 が正 面 部 分 にあしら
われているのである。
被 告 バッグについては、比 較 することができないが、判 決 が「所 定 方 向 である正 面 から見 たときに視 覚 に映
る姿 が、少 なくとも近 似 している」と認 定 しているので、コピー商 品 ともいえるような類 似 性 があるのかも知 れな
い。
そして判 決 は、被 告 は素 材 や価 格 で原 告 商 品 とは明 確 に区 別 できると主 張 するが、所 定 方 向 において外
観 が類 似 するとの判 断 を覆 すに足 る事 実 は認 められないとしている。
損 害 額 については、法 38-2 項 を適 用 し、被 告 の限 界 利 益 は仕 入 価 格 を除 いた 80%であるとした。立 体 商
標 の侵 害 であるので、当 然 商 標 の寄 与 率 は 100%であり、したがって、判 決 ではあえて寄 与 率 は検 討 してい
ない。
さらに、被 告 商 品 が著 しく粗 悪 な商 品 であるとして、民 法 709 条 に基 づく信 用 毀 損 に対 する損 害 として 150
万 円 の支 払 いを命 じている。
〇マキシム事 件
知 財 高 裁 H26.5.21 H25(行 ケ)10345 審 決 取 消 請 求 事 件 (清 水 節 裁 判 長 )
第 25 類 「木 綿 を含 む T シャツ、木 綿 を含 むポロシ ャツ」を指 定 商 品 とする本 願 商 標
「maximum/COTTON(図 形 )」(左 図 )が、引 用 商 標 「マキシマム」によって拒 絶 されたため、
当 該 審 決 の取 消 しが求 められた事 案 である。
原 告 は、本 願 商 標 を一 体 とした結 合 商 標 として捉 えるべきと主 張 したが、「maximum」が
縦 向 きになっていて顕 著 であるのに対 して、その下 の「COTTON」は指 定 商 品 の原 材 料 であ
る「木 綿 」を意 味 し、その下 の小 さな文 字 も判 読 しにくく冗 長 であるので、出 所 識 別 標 識 とし
て機 能 するものではないとはいえず、上 部 の「maximum」の部 分 が要 部 となることは否 定 で
きないであろう。
したがって、審 決 を支 持 する判 決 が下 されている。もし審 決 を取 り消 したいのであれば、例
えば「maximum」の語 の識 別 性 が弱 いなど、他 の実 体 的 な理 由 付 けが必 要 であろう。
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