ヨルダンにおける 廃棄物管理と リサイクル事業について

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ヨルダンにおける
廃棄物管理と
リサイクル事業について
レバノン
地中海
シリア
ヨルダンという国
︵パレスチナ︶
イラク
ヨルダンは人口535万人余、面積8.9万㎢(日
本の面積の約4分の1)の中東の国である。国
アンマン
イスラエル
土の南端に紅海に面するアカバ港を有するも
死海
ヨルダン
サウジアラビア
のの、国土の大半は年間降水量200ミリ以下
の沙漠が占める乾燥地帯に位置している。ま
エジプト
ヨルダン・ハシェミット王国
アカ
バ湾
人口:535万人(2005年)
面積:8.9万㎢
首都:アンマン
(2006年11月現在)
た、ヨルダンは、イスラエル、パレスチナ、
シリア、イラク、サウジアラビアといった国々
と国境を接し、いわば中東紛争の狭間にあっ
て全ての国との良好な外交関係を維持してお
り、地域の安定と和平構築にとって小さいな
がらも一定の役割を果たしている国でもあ
る。ヨルダン経済は、1990年代以来の経済構
造改革を通じた経済財政面での改革の成果、
国際協力専門員・独立行政法人国際協力機構
吉田充夫
ヨルダン環境省派遣専門家2005〜06年
湾岸産油諸国から投資の流入等により、パレ
スチナ紛争やイラク戦争による様々な悪影響
にもかかわらず、近年では平均で年5%を超
える高い経済成長を達成している(国民一人
当たりGDP=2,152ドル、2004年度統計)。し
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(上記の地図および基礎データは、日本国外務省のHP 他を参考にトレース、記載しました。)
イラク問題、中東和平問題等を抱える国々に取り囲まれる中東の国、ヨルダン。
各国と良好な外交関係を維持し、中東地域の平和と安全に向けて貢献している。
高い経済成長を達成する中、急速な都市化や工業化により環境汚染や廃棄物問題が深刻化している。
ヨルダンにおける廃棄物管理を概観し、政府、環境省、地方自治省の取り組む課題を示す。
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かし、人口は年々増加傾向にあり、都市・地
終処分を行うことになっている。この実施面
方間の所得格差が拡大し、高い水準で推移す
での監督官庁は地方自治省である。一方環境
る貧困率・失業率もあり、多額の公的債務残
省は法制度や廃棄物管理に関するガイドライ
高など構造的な問題も抱えている。 ンの策定などを行う。また、産業廃棄物につ
ヨルダンの近年の経済発展は、急速な都市
いては事業者の責任で処理処分が行われるこ
化や工業化を促進しており、これと裏腹の関
ととなっており、とくに有害廃棄物について
係で、環境汚染や廃棄物問題も過去10年間で
は環境省が強い監督権限を持っている。
急速に深刻化してきており、廃棄物発生量は
地方自治体による一般廃棄物処理事業の実
全国平均で年3%上昇、工業地帯では5年間で
施とはいえ、規模の小さい自治体においては
倍増したといわれている。筆者は、このよう
事業コストが割高になることから、ヨルダン
な状況のもと、2003年に設立されたヨルダン
の地方都市では、複数の近隣自治体が共同し
環境省を支援するべく、環境行政アドバイ
て一部事務組合(Joint Council)を組織し、組
ザーとして派遣され技術協力を行ってきた。
合方式で集団的に廃棄物処理を行うケースが
以下では、同国の環境・廃棄物問題について
多い。また、最終処分場の建設、維持、管理
概観し、今後の課題と取り組みを紹介したい。
は非常に大きな負担となることから、中央政
府が補助金(最大80%程度)を出している。な
ヨルダンの廃棄物管理制度
お、日本政府は2次のODA無償資金協力によ
ヨルダンにおける一般廃棄物処理の事業
り、ごみ収集・運搬機材や処分場重機の供与
実施は、地方自治体(Municipality)の主管と
を行い、収集・運搬・最終処分能力の強化に
なっており、地方自治体毎に収集・運搬・最
貢献している。
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ヨルダンにおいては、一般家庭のごみ収集
る一般廃棄物発生量(実測値)は、一日482ト
料金は電気料金と合わせて集金される(1ヶ月
ンであり、人口一人当たり0.44㎏の発生量で
1JD(約170円)程度)。なお、大規模商業施設
ある。
および工場から発生する事業系および産業廃
これらのデータから明らかなように、廃棄
棄物は、それぞれ事業者の責任において収集
物の総量に占める食品ごみ(野菜くずや残飯)
と運搬を実施することになっており、基本的
が59〜62%と非常に大きい。ヨルダン政府で
に全て民間の廃棄物処理業者が収集・運搬・
は、このような大量の有機性廃棄物に着目し、
処理し、一部非有害廃棄物のみ、地方自治体
国連開発計画(UNDP)の協力を得てメタン発
の最終処分場での受け入れが有料で行われて
酵によるバイオガス回収と発電を、ザルカに
いる。ただし、こうした民間セクターの廃棄
おいてパイロットスケールですでに実証して
物処理事業への参入は限定的で、大きなウェ
いる。今後もこのようなバイオガス発電を普
イトは占めていない。
及させる方針であり、その資金調達方法とし
一般廃棄物の組成(ごみ質)は、ヨルダンの
ては今後CDM 01 プロジェクトの適用も念頭
全国平均とザルカ市における実測値(湿重量
においているが、現在のところあくまで案の
ベース)を図1に示す。年間の一般廃棄物発生
段階である。なお、有機性廃棄物によるコン
量は約146万トン、一日一人当たり平均発生
ポスト製造については積極的な取り組みはほ
量は都市部で0.70〜0.85㎏、地方で0.65㎏であ
とんどなされていない。
る。また、ザルカ市の一般家庭から排出され
ヨルダンにおいては、最終処分場はほとん
どが降水量100〜200ミリ以下の沙漠に設置さ
れており、土砂による覆土はなされているも
食品 62%
プラスチック
16%
13%
01 CDM(Clean Development Mechanism)
「クリーン開発メカニズム」
1%
2%
5%
7%
繊維 4%
ガラス 2%
金属 2%
その他 3%
図1 ヨルダンにおける一般廃棄物の平均的組成(内側円グラフ)と
ザルカ市における実測データ
(外側円グラフ)
。
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されていない。統計によれば、発生する全廃
紙 11%
16%
56%
のの、ライナー構造や浸出水処理施設は設置
京都議定書に規定される柔軟性措置のひとつ。
先進国と途上国が共同で温室効果ガス削減プロジェ
クトを途上国において実施し、そこで生じた削減分の
一部を先進国がクレジットとして得て、自国の削減に
充当できる仕組み。(EICネット環境用語集より抜粋)
写真1 北部のマフラック最終処分場におけ
る廃棄物中の有価物の手選別状況。契約
ベースの廃品収集業者(組織化されたWaste
Pickers)が作業に当たっている。選別された
有価物は廃品回収業者(ディーラー・仲買人)
に売却される。
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棄物の約95%が収集運搬され、そのうち85%
Pickersである)と廃品回収業者(ディーラー・
はこうした最終処分場において埋め立てられ
仲買人)により、自発的にリサイクルが行わ
ており、15%が不規則にオープンダンピング
れている。例えば、ヨルダン環境協会(JES)
されている。
によるリサイクル・キャンペーンでは、学校、
大学、事務所から紙の分別回収が行われ、再
生紙産業と連携してリサイクルが行われてい
中東のリサイクル拠点としての
ヨルダン
る。また、民間廃品収集業者は、街路に設置
輸送力が限られていることから分別収集は
ほか、最終処分場において地方自治体と民間
実施されておらず、リサイクルは公的セク
廃品回収業者との契約ベースで、リサイクル
ターでは具体的に取り組まれていない。しか
可能な有価物の手選別による回収を行ってい
し、紙、プラスチック、ガラス、金属などの
る(写真1)
。
廃棄物は、部分的であるとはいえ、NGOや民
選別された回収品はヨルダン国内の静脈産
間廃品収集業者(比較的組織化されたWaste
業によってかなりの部分を自家処理、リサイ
されたコンテナから有価物を任意に回収する
クルすることができる。ヨルダンのリサイク
ル産業は、鉄、アルミなど非鉄金属、プラス
チック、紙を中心に比較的よく発達しており、
とくに鉄については、ヨルダン国内のみなら
ず、シリア、イラクなど周辺各国からの輸入
も多く、地域的なリサイクルセンターの様相
を呈している。アルミについてはアルミ缶の
写真2 ザルカにあるアルミニウム・リサイクル工場。アル
ミインゴットの60%は日本
(自動車産業)
に輸出されている。
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リサイクルが中心だが、そのインゴットは欧
アンマンに隣接する同国第二の都市であり、
州や日本に対して輸出されている(写真2)。
人口は約100万人余であるが、アンマンの首
プラスチックは、国内にてリサイクルするほ
都圏と合わせれば同国の人口の過半の300万
かサウジアラビアの企業と連携して地域的な
人を越える。ザルカは中小の360工場が集中
リサイクル・ネットワークを形成している(写
するヨルダン最大の工業地区としても知られ
真3)。このようなことから、中東ではリサ
ており、多量の産業廃棄物が発生する。工場
イクルの動きが民間を中心に市場メカニズム
としては、石油精製、金属、化学、皮なめし、
にもとづいて相当規模進んでおり、また技術
皮革製造、衣料、肥料、食品、セメント、プ
的基盤も確立しており、今後3Rの観点を積
ラスチック、ガラスなどがある。しかし、現
極的に導入し、循環型社会の廃棄物管理の視
状では産業廃棄物のインベントリーや発生量
点から適切に政策誘導するならば、より効果
が必ずしも正確に把握されていない。ヨルダ
的なリサイクルが進む基盤があるものと思わ
ン王立科学協会(RSS)の調査によれば、例え
れる。
ば皮なめし工場からの廃棄物(六価クロム汚
染が懸念される)は年間1万トンに及ぶと報告
ヨルダンの産業廃棄物
されている。
ヨルダンの環境汚染問題を語るとき、常に
産業廃棄物に由来する有害廃棄物
ホットスポットとして語られるのは、ザルカ
(Hazardous waste)については、環境省がア
(Zarqa Governorate)である。ザルカは首都
ンマン東方の沙漠地帯に2000年に設置した遮
断型の有害廃棄物処分場に一括して処分する
(排出者が費用負担)システムとなっている
(写真4)。ただし、現状では行政の管理や査
察など執行面が不十分であるために、必ずし
も全ての有害廃棄物が集約するまでにはいた
らず、その稼働規模は小さい。その反面、国
土の広大な部分が沙漠であるため、有害廃棄
写真3 アンマンにあるプラスチック
リサイクル工場。プラスチックの選
別と粉砕を行い、サウジアラビアに
送って溶融精製し、ペレットを製造
する。
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写真4 アンマン東方の沙漠に立地する有害廃棄物処分場
の埋立地。全国の有害廃棄物は8000haの広大な敷地に
隔離される。
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物の不法投棄があとを絶たない。この問題
環境意識啓発キャンペーンの実施
に対応するために、ヨルダン環境省は内務
(2)産業廃棄物のインベントリーの作成とマニフェ
省と連携して環境警察制度(Environmental
スト制度などによる運搬・処理・処分の適切な
Police)を2006年に創設し、より強い権限を
監視体制の強化、
環境警察の活動強化
持った取り締まりを実施しつつある。また、
(3)廃棄物最終処分場の近代化、バイオガス発
わが国が採用しているマニフェスト制度や
PRTRシステムの導入を検討中である。これ
ら執行面の強化については、わが国の技術協
力がかなり貢献してきている。
電などの導入
(4)地方自治体の廃棄物管理体制強化のための
政策的支援
といった課題に取り組んでいる。
医療廃棄物については、感染性廃棄物も含
めて従来は一般廃棄物と混合されて処理さ
れてきたが、現在、ヨルダン科学技術大学
(JUST)にパイロットスケールの焼却施設を
設置して適正処理・処分が試みられている。
〈参考文献〉
Al-Dabbas, M.A.F.
(1998)
“Reduction of methane emissions and
utilization of municipal waste for energy in Amman”Renewable
Energy, No.14, p.427-434
Mrayyan, B. and Hamdi, M.R.
(2006)
“Management approaches to
integrated solid waste in industrialized zones in Jordan: A case
以上、ヨルダンにおける廃棄物管理を概観
of Zarqa city”Waste Management, No.26, p.195-205.
Abbasi, G.Y. and Abbassi, B.E.
(2004)
“Environmental assessment
した。ヨルダン政府、環境省、地方自治省は、
for paper and cardboard industry in Jordan - a cleaner production
今後より効果的効率的に廃棄物管理がなされ
Ministry of Environment
(2006)
“Strategic Direction for the Min-
るべく、
(1)市民参加やコミュニティとの連携、
3Rのための
concept”Journal of Cleaner Production, No.12, p.321-326.
istry of Environment 2006-2007”
METSAP - Mediterranean Environmental Technical Assistance
Program
(2005)
“Solid Waste Management in Jordan”
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