2016年のデジタルヘルス動向と2017年展望

第1章 総括
2016 年のデジタルヘルス動向と2017 年展望
新たな医療システム構築への大変革期である今、既存プレーヤーの役割は変化し、新たな役
割を担う新規プレーヤーの存在も重要になる。同時に、デジタルヘルスは、さまざまな周辺
業界のビジネスを変えていく可能性がある。
2016 年のデジタルヘルス業界で話題の中心にあったのは、「製薬業界 × デジタルヘルス」の動
きだったといえるだろう。製薬各社が、デジタルヘルスを取り込んだ新たな価値の提供を模索し
始めたのである。
例えば、MSD はヘルスケアベンチャーの支援を通じ、ICT を活用したヘルスケアビジネスの
土壌づくりを狙う「ヘルステックプログラム」を始動。バイエル薬品は、同社が提示した課題を
解決するデジタルヘルス技術を募集し、優秀解決策に対して助成金を支払う「Grants4Apps
Tokyo」を開始した。武田薬品工業と第一三共は、デジタルヘルス分野のスタートアップとベン
チャーキャピタル、事業会社のネットワーキングを狙ったイベント「D2T Meetup -Digital
Health-」を開催。スマートフォンやウエアラブル端末を活用し、新薬の臨床試験(治験)の効
率を高める取り組みに着手する製薬企業も登場しつつある。この他にも、事例を挙げればきりが
ない(表1)
。
こうした動きの背景の一つには、製薬業界に漂う危機感がある。新薬の承認数は年々減少し、
ブロックバスターと呼ばれる大型新薬も不発。低分子医薬品から高分子(バイオ)医薬品へのシ
フトに伴って新薬開発の難度は増し、次世代薬の候補(パイプライン)も枯渇気味。その間に、
既存のビジネスを守ってきた特許も次々と切れていく…。まさに今、製薬業界にとっては次の一
手を打つ時にきているというわけだ。
大変革期に突入
しかし、この動きは、単なる製薬業界の危機感だけで片づけられるものではない。健康・介護
も含めた広義の医療システムの再構築が進もうとしている今、それぞれのプレーヤーの役割が大
きく変わっていく可能性があることにこそ、事の本質がある。
社会全体が医療の担い手となる「ソーシャルホスピタル」。日経デジタルヘルスでは、この新
たな方向性へと医療を取り巻く構造が変化していくことをかねて発信してきた(図1)。この動
きについて、
「デジタルヘルス DAYS 2016」(2016 年 10 月 19~21 日、主催:日経 BP 社、協力:
日経デジタルヘルス)のオープンシアターに登壇した日本医療機器開発機構 取締役 CBO の石倉
大樹氏は、
「技術の集約から分散へと向かう段階、専門性のコモディティー化するところにデジ
タルヘルスのイノベーションが起こる」との表現で説明した。
これは、著名な経営学者であるクレイトン クリステンセン氏の「破壊的イノベーション」を
医療分野に当てはめて論じたセオリーをひも説きつつ、今後、医療分野にデジタルヘルスが展開
されていく流れを語ったものである。クリステンセン氏は、技術は一般的に分散から集約、集約
日経デジタルヘルス年鑑 2017 19
から分散という流れをたどるとしている。これを医療に当てはめると、診断・治療技術の発展に
よる医療の流れは、高度で専門的な直感に基づく「直感的医療」から治療法の有効性を基にした
「経験的医療」へ、さらに正確な診断の下に期待できる治療の確立した「精密医療」へと変化し
ていくという。
石倉氏は、
「こうした切り口から見ると、多くの医師が取り扱え、患者自身にも知れ渡るよう
表 1 「製薬業界×デジタルヘルス」の主な動き
企業名
MSD
主な取り組み
2016 年 2 月、ベンチャーキャピタルのグロービス・キャピタル・パートナーズと共
同で「ヘルステックプログラム」を始動。ヘルスケア分野で ICT を活用したサービス
やソリューションを開発するベンチャー企業に対し、事業化に必要な知見やノウハウ、
ネットワークなどを無償で提供する。MSD はヘルスケア業界の課題や専門知識、各
種法規制に関する知見やノウハウを提供。グロービス・キャピタル・パートナーズは、
経営や資金調達に関するノウハウやネットワークを提供する。同年 6 月には、そのメ
ンタリングキックオフミーティングを東京都内で開催。支援先に選ばれた認知症総合
支援機構、ミナカラ、エクスメディオが登壇した
Novartis
2015 年にデジタルメディスン(Digital Medicine)部門を立ち上げるなど、デジタル
ヘルス分野の研究開発に注力。米 Qualcomm Life 社と、薬の吸入器の IoT(Internet
of Things) 化 に 取 り 組 む。 米 Microsoft 社 と は 中 枢 神 経 領 域 で 協 業。
「Multiple
Sclerosis Assess and Connect(Assess MS)
」 と 呼 ぶ、 多 発 性 硬 化 症(Multiple
Sclerosis:MS)による運動機能障害を評価するシステムを共同開発中
アステラス製薬
2016 年 7 月、米 MPM Capital 社と共同でデジタルヘルス領域の投資会社、米 DigiTx
Partners 社を設立。DigiTx Partners 社はデジタルヘルス領域で、患者の健康や治療
を改善するソリューションを創出する、特に製薬ビジネスに相乗効果をもたらすよう
な企業に投資していく考え。起業間もない企業に注目するが、既に成長段階にある企
業への投資も検討する
エーザイ
2016 年 6 月、東京大学医学部附属病院およびココカラファインと共同で、認知症・
軽度認知障害の患者とその家族向けのコミュニケーションツール「わすれなびと」の
予備的臨床研究を開始。同年 8 月には MAMORIO と、認知症者を対象とするお出か
け支援ツール「Me-MAMORIO」の開発提携に関する契約を締結。行政や医療従事者、
介護関係者などの協力のもと、実用化に向けた実証実験と開発を実施する。同年 9 月
には、てんかん患者支援アプリ「EMILY(エミリー)
」の提供を開始した
大塚製薬
2016 年 6 月、精神科医療に対するデジタルヘルスソリューション事業を手掛ける合
弁会社「大塚デジタルヘルス」を日本 IBM と共同で設立。大塚製薬が持つ中枢神経領
域の知見と、日本 IBM のコグニティブコンピューティング技術「IBM Watson」を融
合して共同開発したデータ分析ソリューション「MENTAT」を販売する。医療機関に
存在する膨大なデータを統合・分析し、治療の質向上や有用性の高い情報の共有につ
ながるソリューションを提供する。このほか米 Proteus Digital Health 社とは、セン
サー内蔵の「デジタルメディスン」を共同開発中
20
第1章 総括
に専門性がコモディティー化し、拡散するところにデジタルヘルスのイノベーションが生まれる」
とし、
「医療におけるバリューシフトにより、IoT やデジタルヘルス技術進展の恩恵にあずかれ
る環境基盤へと変化しつつある」と語る。
ソーシャルホスピタルへの構造変化、あるいは石倉氏が指摘している「医療のバリューシフト」
が起こる局面では、既存の医療業界のエコシステムを担ってきたプレーヤーも、その役割を変え
企業名
グラクソ・
主な取り組み
リアルワールドデータ(Real World Data)を活用した医薬品マーケットモデリング
スミスクライン(GSK) に取り組む。売り上げデータよりも患者や診療、処方の実態により近いと考えられる
処方データに着目し、医薬品マーケットを分析
塩野義製薬
2016 年 4 月、新薬の臨床試験の解析に使うプログラムと関連文書を自動生成する人
工知能技術の開発に着手。米 SAS Institute 社の機械学習ツールを活用し、2016 年度
内の開発完了を目指す。人工知能を活用し、臨床試験の解析業務の多くを自動化する
ことで、臨床試験の解析に要するコストや時間、ヒューマンエラーを大幅に低減する。
2015 年 11 月には、がん患者向けの症状記録アプリ「つたえるアプリ~つらさを和ら
げるために~」の提供を、ウェルビーと共同で開始した
武田薬品工業
デジタルヘルス分野に注力。アステラス製薬および第一三共とは、健康成人のバイオ
マーカーの基礎データを網羅的に取得し解析する研究を手掛ける。生体内のたんぱく
質や代謝物をバイオマーカーとした臨床試験に必要となる、健康成人におけるバイオ
マーカーの基礎データを網羅的に取得し、共同で解析する
第一三共
「IBM Watson」を新薬開発に利用していく。研究テーマの選定支援や、開発管理プロ
セスの支援、これらを通じた新薬開発サイクルの短縮化につなげる。発売済みの薬に
関する情報を緊急に収集・報告するような用途にも Watson を使っていく考え
バイエル薬品
2016 年 3 月、デジタルヘルス技術を支援するオープンイノベーションプログラム
「Grants4Apps Tokyo」を開始。バイエル薬品が提示した課題を解決するデジタルヘ
ルス技術(ソフトウエア、ハードウエア、モバイルアプリケーション、ウエアラブル
デバイスなど)を募集。最優秀の解決策に対して、助成金(100 万円)を支給する。
既に欧州で同様のプログラムをスタートさせており、それを日本でも展開する。第 1
回のお題「服薬アドヒアランスを改善する革新的な解決方法」に対して集まった応募
の最終選考会を同年 6 月に開催。公立昭和病院、情報医療、慶応義塾大学 医学部 循
環器内科の 3 者が登壇し、慶応義塾大学の提案を最優秀賞に選出した
日経デジタルヘルス年鑑 2017 21
第2章 注目トレンド解説
遠隔診療、“ 厚労省通達 ”からの1 年
厚生労働省が 2015 年 8 月に出した通達を受け、
遠隔診療のサービスが民間から相次ぎ登場し
ている。一方、多くの医療現場は現時点では様
子見。遠隔診療は次代を担う医療インフラに育
つのか―。
フォンやタブレット端末を使って、医師による診
察や健康相談を遠隔で受けられるサービスだ。既
に全国 1340 の医療機関の協力を取り付けている
という。
提供する 3 つのメニュー、
「かかりつけ医診療」
「予約相談」
「 今 す ぐ 相 談 」 の う ち、 い ち 早 く
いつでもどこでも、医師の診察や健康相談を手
2016 年 4 月に提供を始めたのが「かかりつけ医
軽に受けられる―。そんな利便性をうたったサ
診療」。初診にかかった医師による再診を、保険(電
ービスがここに来て、民間から相次いで登場して
話等再診)を適用した形で患者が遠隔から受けら
いる。
れるサービスだ。スマートフォンやタブレット端
きっかけは、厚生労働省が 2015 年 8 月に各都
末が内蔵するカメラを活用することで、医師は相
道府県知事宛に出した 1 本の通達。互いに離れた
談者の顔色や患部の状態を確認しながら診察でき
場所にいる医師と患者を情報通信機器でつないで
る。
行う診療、いわゆる「遠隔診療」の適用条件を、
ポケットドクターの大きな特徴は、ウエアラブ
必要以上に狭く解釈しなくてよいと伝える内容
ル機器や家庭用ヘルスケア機器、さらには医療機
だ。
関の院内システムとの連携を想定している点にあ
遠隔診療は従来、離島やへき地の患者を診察す
る。ウエアラブル機器やヘルスケア機器で集めた
る場合など、対面診療が物理的に難しいケースを
血圧や体温などのバイタルデータ、PACS(医用
除けば「原則禁止」と捉える医療関係者が多かっ
画像管理システム)に保存された医用画像などを
た。患者との対面診療を原則とする医師法第 20
遠隔診療に利用できるようにする。これにより、
条への抵触などを恐れてきたためだ。
利用者自身が自覚していないような疾患情報を医
そうした中での厚生労働省の通達は、遠隔診療
療機関といち早く共有し、症状の悪化を事前に検
の活用に “ お墨付き ” を与えた―。多くの関係
知する仕組みを構築する。ここに向けて、疾患デ
者がそう受け取った。国内の医師の約 3 人に 1 人
ータを自動解析できるクラウドサーバー基盤を開
が参 加 し て い る コ ミュニティーサイト「Med-
発する狙いだ。
Peer」を手掛けるメドピア 代表取締役で医師の
石見陽氏は、2016 年 1 月に東京都内で開催され
たイベントで次のように語った。
「厚生労働省の
通達は本当にインパクトがあり、業界に “ 激震 ”
が走った。10 年後を考えれば、遠隔診療の活用
は当たり前になっているだろう」
。
ウエアラブルやPACSと連携するサービス登場
まずは、2016 年に入って登場した遠隔診療サ
ービスのいくつかを見ていこう。
いつでもポケットに医師を。
「ポケットドクタ
ー」という名称にそんな思いを込めたサービスを
2016 年 2 月 に 発 表 し た の が、 オ プ テ ィ ム と
MRT。専用アプリをインストールしたスマート
2016 年 2 月に開催したオプティムと MRT の「ポケットドクター」発
表会の様子
日経デジタルヘルス年鑑 2017 39
第2章 注目トレンド解説
医療等 ID
主な関連情報
(2015 年 12 月 4 日)
デジタルヘルス用語「医療等 ID」
いよいよ動き出す医療等 ID、2020 年に本格運用へ(2016 年 7 月 4 日)
医療等 ID、考えられているユースケースとは?(2016 年 9 月 5 日)
主なトピック
異なる ID 体系で管理された医療情報を突き合
わせるための識別子を「医療等 ID」と呼ぶ。医
療機関や薬局、地域医療ネットワークなどの組織
が持つそれぞれの患者・利用者の識別子を結びつ
方法や運用・保護状況を監視・監督する機関など
の法整備を行う」。
2020 年から本格運用
ける役割を果たす。例えば、地域医療ネットワー
保健医療分野における ID の導入については「日
クの管理用 ID、医療保険の機関別符号をそれぞ
本再興戦略改訂 2015」
(2015 年 6 月閣議決定)
れ医療等 ID と 1 対 1 対応させた上で、地域医療ネ
の中で、次の内容が盛り込まれていた。
ットワークと医療保険の連携に医療等 ID を用い
ることなどが想定されている。
2017 年 7 月以降早期に医療保険のオンライン
資格確認システムを整備し、医療機関窓口で個人
医療等 ID に関連する法制度や関係制度のあり
番号カード(マイナンバーカード)を健康保険証
方については、日本医師会と日本歯科医師会、日
として利用することができる情報連携の共通基盤
本薬剤師会が 2014 年 11 月に「医療等 ID に係る
を構築すること。医療等 ID の具体的な制度設計
法制度整備等に関する三師会声明」を公表。そこ
や固有の番号が付された個人情報の取り扱いルー
では、「マイナンバーとは異なる医療等 ID の必要
ルについて検討を行い、2015 年度末までに一定
性」「医療情報そのものを保護対象とした法整備
の結論を得て 2018 年度からオンライン資格確認
が必要」
「医療情報の二次利用・突合は厳しく制
の基盤を活用して医療等 ID の段階的な運用を開
限するべきである」
「個人番号(マイナンバー)
始、2020 年までに本格運用を目指すこと。
を医療の現場で利用するべきではない」など、医
閣議決定された内容は、医療等分野における番
療等 ID による医療の ICT 化推進においては、医
号制度の活用等に関する研究会(座長:金子郁容
療にかかわる個人情報の保護を最も重視すべきと
慶 應 義 塾 大 学 政 策・ メ デ ィ ア 研 究 科 教 授 ) が
の考え方を強調している。
2015 年 12 月 10 日に取りまとめた報告書を踏ま
この声明を公表した後、日本医師会は「医療分
えたもので、医療保険のオンライン資格確認の具
野等 ID 導入に関する検討委員会」を設置。2015
体的な仕組みや医療等 ID の具体的な制度設計に
年 11 月には医療等 ID について、次のような方針
ついても整理・検討の結果を取りまとめている。
をまとめた。
そして政府が 2016 年 6 月に閣議決定した「日
「1 人に対して目的別に複数の ID を付与できる
本再興戦略改訂 2016」では、医療保険のオンラ
仕組みとする」
「本人の希望に応じて、一定制限
イン資格確認および医療等 ID 制度の運用を 2018
の中で知られたくないと思った場合や忘れたいと
年度から段階的に開始し、2020 年からの本格運
思った場合に名寄せや検索ができないなど、情報
用を目指すことが明確に打ち出された。
をコントール可能な仕組みにする」
「患者同意を
ここに向けて、2016 年度中に具体的なシステ
原則として、それぞれの医療等 ID での情報の突
ムの仕組みや実務について検討。2017 年度から
合が可能な仕組みとしておく」
「医療等 ID を発行
システム開発を行う。
する根拠に関する法整備、医療等 ID の変更事由
日経デジタルヘルス年鑑 2017 61
第3章 分野別動向データベース
ディー・エヌ・エー(DeNA)
主な関連情報
歩数に応じてキャラが成長、アプリで競う(2016 年 6 月 15 日)
(2016 年 7 月 24 日)
DeNA 南場氏、
「デジタルヘルスのうねりを民間から」
DeNA と森永乳業、
「腸内フローラ」で健康可視化(2016 年 9 月 2 日)
主な取り組み
ディー・エヌ・エー(DeNA)は 2015 年 11 月、
子会社の DeNA ライフサイエンスを通じて、イ
による健康状態の可視化に注目が集まっている。
実証事業では、「腸内フローラ解析サービス」
ンターネットを活用したユーザー参加型のゲノム
の開発に向けて、推定腸内年齢の解析手法の検証
研究プロジェクト「MYCODE Research」を立
や、同サービスによる意識・行動変容に関する調
ち上げることを発表した。一般向け遺伝子検査サ
査を行う。MYCODE ユーザーの中から 1000 人
ービス「MYCODE」の一環として実施する。
以上が協力する予定だ。今後、腸内フローラと遺
MYCODE Research では、MYCODE ユーザー
伝情報の関連についての研究も予定している。
で研究参加に同意した人を対象に、インターネッ
DeNA は、ヘルスケアアプリ事業にも乗り出し
トによるアンケートへの協力を依頼。回答結果と
ている。同社と住友商事の共同出資会社である
遺伝子解析結果を照らし合わせることで、病気や
DeSC ヘルスケアは 2016 年 6 月 13 日、歩数に応
体質と関連する新たな SNP(一塩基多型)を発
じてキャラクターが成長する iPhone 向け歩数計
見することを狙う。これにより、日本人において
アプリ「目指せ!さんぽジスタ」の提供を始めた。
関連 SNP が見つかっていない病気や体質のリス
2016 年 7 月 24 日には、武田薬品工業、第一三
ク予測モデルを構築する。
共と共同で、デジタルヘルス分野のミートアップ
DeNA ライフサイエンスが手掛ける MYCODE
イベント「D2T Meetup -Digital Health-」を東
は 2016 年 6 月 1 日、 個 人 遺 伝 情 報 取 扱 協 議 会
京都内で開催。DeNA にとって「デジタルヘルス
(CPIGI)による「CPIGI 認定」を得た。同認定は、
分野では初めて」
(同社 取締役会長の南場智子氏)
「個人遺伝情報を取扱う企業が遵守すべき自主基
のミートアップイベントだ。デジタルヘルス分野
準」
(CPIGI 自主基準)を遵守し、健全・適正に
のスタートアップとベンチャーキャピタル、事業
遺伝子検査サービスを提供していることを認定す
会社のネットワーキングを狙ったものである。
る制度。「消費者が技術的側面や倫理的・法的・
DeNA は、デジタルヘルス分野のベンチャー企
社会的側面から健全・適正な遺伝子検査サービス
業家を生みだす母体ともなっている。同社元会長
を選択できるようになること」
「事業者が消費者
の春田真氏は 2016 年 2 月、人工知能と機械学習
に対してわかりやすく適正な遺伝子検査サービス
に特化したベンチャー企業である「エクサインテ
を提供すること」がその狙いだ。
リジェンス」を立ち上げた。エクサインテリジェ
DeNA ライフサイエンスは 2016 年 9 月からは、
ンスは 2016 年 7 月 20 日、医療分野での画像診断
森永乳業と「腸内フローラ」をテーマにしたヘル
技術の共同開発に関して、CV イメージングサイ
スケアサービスの実証事業にも着手した。
エンスと協業すると発表。人工知能を活用した心
腸内フローラとは、多種多様な細菌が人間の腸
臓 MRI 診断支援などに取り組む。春田氏は、遠
内に多数共存し、密集して生育しているさまを指
隔診療プラットフォーム「first call」を手掛ける
す。近年ではこの腸内フローラが肥満や腸疾患、
メディプラット(Mediplat)の立ち上げにも携
大腸がんといったさまざまな病気や老化に関連す
わり、同社は 2016 年 5 月にメドピアの傘下に入
ることが分かってきており、腸内フローラの解析
った。
日経デジタルヘルス年鑑 2017 75
第3章 分野別動向データベース
CYBERDYNE
主な関連情報
ロボットスーツ HAL、いよいよ保険が適用(2016 年 1 月 28 日)
「ロボットスーツ HAL × iPS 細胞」で何が生まれるか(2016 年 4 月 27 日)
HAL、脳卒中患者を対象に医師主導治験(2016 年 10 月 3 日)
主な取り組み
CYBERDYNE は 2015 年 11 月 25 日、
「ロボッ
で講演。
「異質なものと一体となって新たな分野
トスーツ HAL 医療用(下肢タイプ)
」について、
を開拓する」
(山海氏)ことを強く意識している
日本国内で医療機器としての製造販売承認を取得
と語った。一例が、iPS 細胞などを使った再生医
した。同年 3 月 25 日の申請から 8 カ月でのスピ
療との融合である。同年 4 月には慶應義塾大学医
ード承認。ロボットスーツ HAL 医療用(下肢タ
学部と連携し、iPS 細胞による再生医療を組み合
イプ)は、患者に装着して下肢の動作を補助し歩
わせ、脊髄損傷患者の機能を再生する技術の臨床
行運動を繰り返すことで、歩行機能を改善する。
応用を目指すことを発表した。神奈川県川崎市に
治験を通じ、緩徐進行性の神経・筋疾患患者への
ある再生・細胞医療の産業化拠点「ライフイノベ
安全性と進行抑制効果が認められたことで、ロボ
ーションセンター」に入居し、「異分野融合プロ
ット治療機器として日本初の承認取得に至った。
ジェクト室」を共同で運営していく。
その後、2016 年 1 月 27 日の中央社会保険医療
2016 年 8 月 22 日には、福島県郡山市に整備を
協議会で保険適用が決定。2016 年 4 月から収載
進めてきた「次世代型多目的ロボット化生産拠点」
を開始した。
保険償還価格は新規技術料で評価し、
の竣工式を開催した。ロボットスーツ HAL や手
技術料は診療報酬改定に伴い評価を検討する。推
のひらサイズの心電・動脈硬化計、各種バイタル
定適用患者数は 3400 人を見込む。
センシングシステムなどの製品をこの拠点から展
2016 年 9 月 2 日には大同生命保険と業務提携
開する。同社は「早急に本格稼働できるよう、設
契約を締結。
大同生命保険は当局の認可を前提に、
備や新技術などを投入していく」とコメントした。
ロボットスーツ HAL 医療用を用いた特定の疾病
ロボットスーツ HAL の医療機器としての適用
治療に対し、受療者の治療費用負担を軽減する保
範囲拡大への取り組みにも力を入れている。筑波
険商品を開発する。
大学附属病院と茨城県立医療大学付属病院は
2016 年 7 月 26 日には、100%米国子会社「CY-
2016 年 9 月 30 日、脳卒中患者の歩行能力回復を
BERDYNE USA Inc.」を米国デラウェア州に設
目的とする、CYBERDYNE のロボットスーツ「医
立すると発表した。
「ロボットスーツHAL医療用」
療用 HAL 単脚モデル」の医療機器承認のための
について、「FDA(米国食品医薬品局)による医
医 師 主 導 治 験 を 開 始 し た。 両 病 院 は CYBER-
療機器承認を見越し」
(同社)たもの。米国事業
DYNE と連携し、脳卒中患者の歩行障害の新しい
と世界展開の戦略的拠点とする考えで、
「日本と
治療を目指した臨床研究を 2013 年から実施して
欧州、米国の 3 極における事業推進体制が確立す
きた。今回の治験ではこれまでの研究成果を基に、
る」
(同社)としている。
医療用 HAL の治験モデル「HAL-TS01」(治験用
ロ ボ ッ ト ス ー ツ HAL の 生 み の 親 で あ る CY-
機体識別番号)の医療機器承認を目指す。日本医
BERDYNE 代表取締役社長 CEO の山海嘉之氏は、
療研究開発機構(AMED)の支援を受け、筑波
さらなる未来を見据える。同氏は 2016 年 3 月 25
大学附属病院が中心となって茨城県立医療大学付
~26 日に兵庫県淡路市で開催された「2016 ワー
属病院など 7 施設で実施予定である。
ルド・アライアンス・フォーラム IT あわじ会議」
日経デジタルヘルス年鑑 2017 149
第4章 ベンチャー/スタートアップ総覧
BCC 株式会社
設立年月日
代表者
資本金
2002 年 3月6日
代表取締役社長 伊藤一彦
URL
2 億 5600 万円(準備金等含む)
https://www.e-bcc.jp/
コンタクト先 TEL:06-6443-7878
事業概要(主な取り組み/手掛けているプロジェクト)
当社のスマイル・プラスカンパニーでは、
「人を支える人を支える」という理念のもと、ご高齢者を支える介護現
場に携わる方々のお役に立つサービスを提供しています。5000 点を超える介護レクリエーションで使える素材
(塗り絵、計算問題など)や企画を無料で活用できるサイト「介護レク広場」を運営しており、全国 7 万人を超
える会員数となりました。現場の声で誕生した資格「レクリエーション介護士」は2014 年 9月からわずか 2 年間
で1万 3000 人を超える人気の資格となり、厚労省の介護保険外サービス活用ガイドブックにも事例としても取
り上げられています。また、ヘルスケア業界に参入しようとする企業からは、介護レク広場とレクリエーション
介護士のネットワークを活用したマーケティング、プロモーションの依頼が急増しています。今後も、ご高齢者
と介護に携わる方々の双方に笑顔を生み出していけるような事業を続けていきます
主要メンバーの氏名と経歴
代表取締役社長 伊藤一彦(中小企業診断士)
大阪市立大学卒業後、日本電気株式会社(NEC)
、ベンチャー企業を経て、営業創造株式会社(現 BCC 株式会
社)を設立し、現任。スマイル・プラスにてレクリエーション介護士制度を創設
常務取締役 岡林靖朗
セキュリティシステムを構築するIT企業の財務経理責任者を経て、当社に入社。現在、財務経理及び株式上場
準備の責任者として活動
取締役 安原弘之
日本電気株式会社(NEC)
、外資系IT企業を経て、営業創造株式会社(現 BCC 株式会社)に入社し、事業統
括本部長として営業創造カンパニーとスマイル・プラスカンパニーを統括
将来の事業展望(計画)
レクリエーション介護士 2 級は、5 年後には10 万人を超える規模に展開していきます。さらに本年より開始した
レクリエーション介護士1級制度を展開し、介護レクリエーションを全国に普及していきます。そして、レクリ
エーション介護士が活躍し、介護保険外サービスの普及の拠点となる「レク・カフェ」を展開していきます。今
後も当社スマイル・プラスカンパニーは、レクリエーション介護士や介護レク広場の数十万人を超える介護現場
で働く方々とのネットワークを活用して、介護現場に商品サービスを提供していきたい企業と、介護業界をつな
ぐ架け橋となります
株式上場の意向 有
業務提携の意向 有
希望提携先の業種・重点領域や希望する提携の形態
介護レクリエーションに関する商品やサービスを展開している企業との提携を希望します。具体的には、すでに、
プラス株式会社とは介護レクリエーションの通販の分野で連携したり、NTT 西日本・東日本とは介護レクリエー
ションの動画コンテンツの配信で連携しています
デジタルヘルス年鑑 2017 265
第6章 注目3分野重点レポート
厚労省の “ 解禁通達 ” で潮目が変わる
「どうなる?遠隔診療」から
厚生労働省は 2015 年 8 月、互いに離れた場所にいる医師と患者を情報通信機器でつない
で行う「遠隔診療」の適用範囲について、より広い解釈を明確にする事務連絡を出した。
これを受け、遠隔診療の利用シーンが大きく広がると期待される。医療機関中心のケアか
ら日常生活を中心とする予防型ケアへ。こうしたヘルスケアのパラダイムシフトにおい
て も、遠 隔 診 療 の 役 割 は 高 ま
る。スマートフォンの普及な
ど、遠隔診療の実現手段も大き
く変化し始めた。セミナー「ど
う な る? 遠 隔 診 療 」
(2015 年
12 月 9 日、主催:日経デジタル
ヘルス)では、遠隔診療にかか
わる医療関係者や産業界のプ
レーヤーを招き、遠隔診療の動
向とそれが生み出す新たな市
場機会を展望した。
写真:皆木 優子
講演内容
日本遠隔医療学会 理事・副会長
酒巻 哲夫 氏
うだ」(酒巻氏)。
遠隔診療の有用性については、脳血管障害の後
遺症や末期がんの患者を対象にした、安全性に関
するレトロスペクティブ調査(2010 年度)の結
日本遠隔医療学会 理事・副会長の酒巻哲夫氏
果を紹介。遠隔診療を受けた在宅患者群と、訪問
は、患者のそばにいる担当医を遠隔地の専門医が
診療を受けた在宅患者群の比較で、死亡や入院な
アシストする DtoD や、医療機関と在宅患者が通
どのイベント発生率は変わらないことが確認でき
信する(多くの場合、
訪問看護師がサポートする)
たという。
DtoP の遠隔診療の様子を映像で紹介。遠く離れ
患者の意向については、全国 33 医療機関で実
ていてもスムーズにやりとりができている様子
施したアンケートの結果を報告した。アンケート
や、診療に使える画質での画像・映像の送受信が
によれば、DtoP、センシングデバイスなどによ
一般普及レベルの機器でも可能なことなどを示し
る遠隔モニタリングとも、
「ぜひ実施したい」ま
た。
「医師が患者に様子を聞くなかで、患者に笑
たは「どちらかといえば実施したい」との回答が、
顔が出るのが印象的。遠隔でも心が通じているよ
合計で 6 割強を占めたという。
日経デジタルヘルス年鑑 2017 377