年次活動報告書 2013 法専門家活用能力の増進をはかる戦略的法ゲームの開発 名古屋大学法学研究科/タシケント法科大学 講師 久保山力也 1 ていない。法専門家が介入する教育プログラムにおいて も同様の内容が提供されることが多く、実践力の開発に 非常に乏しい。 (2) 「法ゲーム」については、裁判員裁判の導入以降、 DS ソフト「もしも!? 裁判員に選ばれたら…」(タカラト ミー) 、 GB/DS ソフト「逆転裁判」 「逆転検事」シリー ズ(カプコン)などが開発されている。また荒川・久保 山による「裁判員裁判ゲーム(小学生版) (中高生版) 」 があるほか、近年大阪弁護士会が「スィートホーム殺人 事件」と題する裁判員裁判ゲームを制作している。また 久保山は平成22 年度財団支援により、 「ADR ゲーム」を 作成しており、報道もされている。 (3) 「法専門家」については、近年、民事紛争処理実態 調査、法科大学院修了弁護士に対するマインドとスキル 全国調査、弁護士62 期実態調査、法曹の質調査など、法 専門家に関する調査研究が進展してきた。日本弁護士連 合会は 10 年に1 度実施している「経済基盤調査」と称 する弁護士調査を2010 年に実施し、その結果を 2011 年 にまとめている。また司法書士会は、初めてとなる司法 書士の「マインドとスキル」実態調査を 2011 年に行い、 データを2012 年に明らかにしている。その結果は『司法 書士白書2012 年版』に収録されているが、本調査ならび に司法書士会における他調査に代表者久保山は主体的に 関与してきた。 研究背景と目的 本研究は、法専門家の適切かつ効果的な活用をはかる ゲームを開発し、市民の法リテラシーを増進させること を目的とするものである。法リテラシーとは、市民が情 報を取捨選択し、対象を鋭く批判的に思考し、問題を俯 瞰的にとらえ、多様で柔軟な解決を志向するための、 「法 資源」 (法専門家を含)活用能力のことを意味する。 本研究の緊急性の背景には、次のような問題状況があ る。①法科大学院制度の導入、弁護士の大増員の説明根 拠となった法的サービスの需要は幻想で、増えた人員を まかなうためのリアクションが今起こりつつある。②こ れまで「隣接」法専門家とされてきた司法書士、行政書 士、土地家屋調査士などの職域が社会の変化とともに消 失し、法専門職間の統合や廃止などが直近の課題として 存在する。③情報化社会の進展とともに、専門家と非専 門家の関係性が変容し、専門家とは何かといった疑問が 拡大している。④FTA や TPP など、国際的な枠組みが 国内の法律市場にも影響を与え、海外の法専門家による 日本市民社会への直接的な介入も十分に可能になりつつ ある。 こうした状況下、市民にはどのような能力が必要であ ろうか。本研究では、適当なコントロールの下、法専門 家を効果的に活用する力の開発を目指す。こうした能力 は、裁判員裁判制度の学習など、局限的な状況における 対応能力ではなく、 「生きる力」に直結するものである。 2 3 研究の独創性と焦点 本研究では、リーガルサービスの実態的な面に着目し、 法専門家選択ゲームを製作することとした。すなわち、 法専門家の活用、選択という営みを戦略としてとらえ、 「遊び」を通じて、専門家―非専門家関係の再構築をう ながそうとした。従来、法教育ないし法ゲームの多くは 法的世界をほぼ「裁判」に収斂させてきたが、これは市 民の実践力や法リテラシーの向上に大きく寄与するもの ではなかった。そこで本研究では日常のなかから紛争や 法専門家をとらえ、これらとの距離をうまくとりながら、 勝利を目指すゲームを開発しようとした。こうした視点 に立つゲームは国際的にも稀有で、独創的であるといえ る。 研究環境と動向 上記目的を達成するためには、まず関連する分野にお ける国内外の環境と動向を把握する必要がある。ここで は、 (1) 「法教育」 、 (2) 「法ゲーム」 、 (3) 「法専門家」の 3 つのキーワードからそれらに接近する。 (1) 「法教育」については、法と教育学会が発足し、教 材開発、教育プログラムの開発、実証分析などが盛んに 行われている。しかし、その大半は「憲法」学習や「ル ールづくり」 、 「模擬裁判」などの法制度学習に傾注して おり、これらを批判的、俯瞰的にとらえるレベルに達し -1- 年次活動報告書 2013 4 研究開発成果 4.1 裁判所」 、 「法テラス」 、 「主たる事務所」 、 「ロースクール」 などが配置されている。プレイヤーはまず「主たる事務 所」からスタートする。 (3) 業務カードは「主たる事務所」や「法テラス」な どに止まることで獲得できる可能性がある。獲得した業 務カードは、それぞれカードごとに定められた条件をク リアすることで「業務完了」にすることができる。 (4) 事務所は特定の条件で拡張できる可能性がある。 また、新たに「NPO 法人」や「ADR 機関」を設置する こともできる。 (5) 業務カードには、士業によって「業務完了」でき るものとできないものがある。また、効果を発生する専 門家カードとしない専門家カードがある。しかし、プレ イヤーの選択次第では、通常「業務完了」できないカー ドも「業務完了」することができる。この場合、一定の リスクが課せられる。 (6) 選択した士業にはそれぞれ属性がある。たとえば、 「弁護士」は多くの業務カードを「業務完了」できるが、 その他の士業には制限がある。また「行政書士」は幅広 いネットワークで、ゲームを遂行できる。このゲームは、 「弁護士」が圧倒的に有利な状況のなかでスタートする。 「司法書士」 、 「行政書士」 、 「土地家屋調査士」には独自 の戦略が必要となる。 (7) 士業はそれぞれ特定の条件のもとで、 「業務連携」 を結ぶことができる。しかし、一定のリスクを負う。 (8) 他事務所への攻撃と自事務所の防禦、それと業務 提携とをいかにうまく使いながら、業務をこなしていく かという戦略が本ゲームのポイントになる。 戦略的法ゲーム研究会 本研究開発においては、課題に対する研究体制をしっ かり構築し、方向性ならびに方法論を整理できたことも 成果として挙げられる。研究代表者久保山は法社会学を フィールドとし、これまでも数多くの法教育プログラム や教材を製作してきたが、ここに野田昌利(行政書士: 福岡県行政書士会元理事) 、福田哲也(司法書士:日本司 法書士会連合会中央研修所副所長(申請時、全国青年司 法書士協議会副会長) )を加え、戦略的法ゲーム研究会と して検討を行ってきた。 4.2 法専門家選択ゲーム 本研究により開発された戦略的法ゲームは次の通りであ る。以下に、概要を示す。 【準備】 ①業務カード、②専門家カード、③イベントカード、④ ゲームボードを準備する。①業務カードには、 「刑事接見」 や「登記」 、 「建設業許可申請」など、法専門家が行う業 務がある。②専門家カードには「 (弁護士法)72 条カード」 (弁護士法72 条は、一定の業務について弁護士以外の介 入を排除している) 、 「 (司法書士法)73 条カード」 (司法 書士法73 条は、一定の業務について司法書士以外の介入 を排除している) 、 「業務調査カード」 、 「懲戒請求カード」 、 「業務提携カード」などがある。③イベントカードには 「広報効果カード」 、 「資格内資格カード」 、 「報道カード」 、 「過疎カード」 、 「連合会カード」などがある。 5 学会報告等成果 研究期間中、 「司法書士」の解体と再生(2013 年3 月2 日:全国青年司法書士協議会全国研修会@長野メトロポ リタンホテル) 、 「紛争解決と“生ける法”からとらえる “いじめ” 」 (2013 年3 月3 日:シンポジウム「いじめ問 題プロジェクト -いじめ・人権・教育・法-」@秋田大 学) 、 「行政書士」の解体と再生(2013 年3 月28 日:福 岡県行政書士会@行政書士会館) 、 「司法書士」は解体す べきか-上田調査から(2013 年5 月10 日:日本法社会 学会@青山学院大学) 、How is the way to re-formalize and combine of society by Law-related Education? (2013年11月29日:Improving the justice and political culture of the population – a key factor in ensuring democracy and justice in society@ウズベキスタン・タシ ケント市・Judicial Training Center) などにて学会報告、 講演等を行い、法専門家の現状と課題について論じた。 こうした成果は、本研究開発にも多分に活かされている。 【勝敗条件】 プレイヤーは、仮想マップ「ホーム(法務)タウン」 の法専門家となり、多くの業務をこなし、ホーム(法務) タウンでもっとも評価が高い法専門家になることを目指 す。勝敗は、業務実績と評判(→法専門家プレステージ ポイント:LPP)によって決まる。ゲーム中、廃業にな ってしまうとゲームオーバーになる。 【ゲームの流れ】 (1)プレイヤーは、 「弁護士」 、 「司法書士」 、 「行政書士」 、 「土地家屋調査士」の 4 士業のうちから 1 つを選ぶ(2 名から4 名まで可能。4 名推奨) 。プレイヤーはターンご とに(A)サイコロを転がして移動する、か、 (B)その 場に立ち止る、ことを選択する。 (2) マップには「地方裁判所」 、 「簡易裁判所」 、 「家庭 -2-
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