第1−31 〔知財管理 2008 年 4 月号発表〕 商品化権と知的財産権の関係 −抱える課題と対策− 牛 木 理 (弁理士) 目次 1.はじめに 2.商品化権の対象としてのキャラクター 3.著作権法上の「キャラクター」の定義 4.商品化権とは何か 5.わが国の現状 6.国際的動向 7.その他の問題 8.むすび 1 一 1.はじめに 筆者は、本誌の2001年3月号(Vol.51 No.3)が特集した論説「著作 権法制の現状と未来」において、「キャラクターと商品化権(Character Merchandising and Legal Protection)」と題した論説を発表し、広く「キ ャラクター」と呼ばれるものが、他人の商品やサービスに利用され、他人の 事業のための商業的利益に貢献している経済財となっていることを論じた。 今回、編集子から問われたことは、いわゆる「商品化権」問題は、著作権 法,意匠法,商標法,不正競争防止法に関する知的財産法や民法等多岐にわ たる権利でありながら、独立した実体法が存在しない中で、今日抱えている 課題やそれに対応する対策について、実務者の立場に立って論じていただき たいというものであった。編集子が、「商品化権」という非実定法上の権利 にスポットライトを再び当て、本誌上に登場させたことは時機を得ているこ ととはいえ、その保護範囲の広さと保護考察の深さを考えるとき、その荷の 重さを痛感する。 さて、筆者が『商品化権』という題名の著書を六法出版社から出版したの は1980年5月であり、その後、この改訂版ともいうべき『キャラクター 戦略と商品化権』という題名の著書を発明協会から出版したのは2000年 11月であった。しかし、この問題に対する立法化の動きは皆無であり、前 述したとおり、多岐にわたる法分野に分散している状況に変わりはない。ま た、過去数年間における裁判例の蓄積もさほどなく、落着いている感じのす る法分野となっている。 そこで、今回与えられた表題について論ずるに当たっては、商品化権の保 護対象のまとめから始まる総論的な論説を、わが国の現状を見ながら裁判例 を紹介しながら展開することにする。そして、最後に国際的動向を見るとと もに筆者の持論である「商品化権法」(sui generis)の確立のための方法論 を模索したいと思う。 2.商品化権の対象としてのキャラクター 2.1 「商品化権」という用語は、わが国では放送業界から出た用語である ところ、英語の”Merchandising Rights”を語源とした訳語であるといわれ ていることは知られているところである 1)。 2 ただこの訳語だけからは、その権利の対象は何かは明らかではない。しか し、TVのマンガやアニメに登場する人物(キャラクター)に対する産業界 からの利用申込みを見ると、商品化の対象はそれらのキャラクターであり、 それに関する使用許諾契約ということになる。しかし、今日では、産業界が 広く国民(需要者)に向って自社の商品の販売やサービスの提供の媒体とし て利用するキャラクターの種類や範囲は限界を知らない様相を見せている。 そこで、 まず今日考えられるキャラクターの種類について紹介してみよう。 筆者が旧著『商品化権』の冒頭に紹介したキャラクターの種類は、(1)フ ァンシフルキャラクター、(2)フィクショナルキャラクター、(3)実在人物(パ ーソナリティ)、(4)動物,建築物,自動車,航空機,雑誌の表紙,人形, 商品それ自体など,現実の物体で表現されているもの、(5)標章,サービス マーク,シンボルマーク,ネーミング,ワードなど,図形や文字や記号で表 現されているもの、(6)企業団体などの名前や略称などで,文字だけで表現 されているもの、(7)その他以上の分類に属さないすべてのものであり、こ れらは、あくまでも筆者の独創による分類であるところ、この分類は新著『キ ャラクター戦略と商品化権』においても引き継がれている 2)。 このうち、(1)ファンシフル・キャラクターは、形態によって表現されて いるキャラクター(視覚的キャラクター)であるところ、さらに次の3つに 分類されるだろう。 ① 漫画として新聞,雑誌,本,インターネットなどに掲載されている静 止画上の人物。 ② 映画,TV,VTR,DVD,インターネットなどに登場する動画上 の人物。 ③ 特に登場する場のない、それ自体で完結している人物。 ところで、研究社発行の『じてん・英米のキャラクター』(船戸英夫・中 野記偉 1998)の「はしがき」では、“character”の語源はギリシャ語であ り、この語は本来、他と区別するためにつける「目印」を意味し、現代英語 でいえば「マーク」が一番近く、原意は今にしっかり残っていると編著者は 語り、現行の掌中版英英辞典の「キャラクター」の項から、キャラクターを 分類すると、おのずから次の 4 つになると述べている。 (1) 演劇・映画・詩歌・小説・マンガなどの登場人物 3 (2) 伝説・民話・おとぎ話・マザーグースなどに出てくる人物妖精怪物 (3) 聖書・ギリシャ・ローマ神話を形成する神とその世界に登場する人物 (4) 有名なキャラクターを生み出した作家を中心とする歴史上実在の人物 このうち、分類(1)に、漫画のキャラクターが、小説その他のキャラク ターと同類に区分されていることは、筆者がそれを特に「ファンシフル・キ ャラクター」として別分類においたのも、これはもともとは広義の「フィク ショナル・キャラクター」の種類に属するものであることを考えれば、問題 はない。しかし、商品化権の問題を考えるときは、視覚的かつ具象的な漫画 のキャラクターが主役となるものであるから、「ファンシフル・キャラクタ ー」との用語の方がわかり易いだろう。 前記キャラクターの分類を見ても明らかなように、漫画の歴史は小説や物 語のそれよりはるか後であるけれども、独立した作品として社会的に認知さ れるようになったのは、 シリーズ漫画やストーリー漫画やアニメーション (動 画)が登場した20世紀に入ってからであり、また漫画のキャラクターが、 他人の商品やサービスの“商業的目的”のために利用され始めたのは、20 世紀も30年以上経ってからであろう 3)。 2.2 ところで、漫画のキャラクターは、単に一枚の紙に描かれた絵という 静止的なものではなく、それ自体生命をもって活動する存在である。したが って、一回の一コマだけの登場ではなくシリーズに登場する。こういう生命 をもって連続的に活動するキャラクターはまた、ただの1個ではなく、多く のかついろいろな仲間をもっているから、その間に当然、言葉(文字)によ る会話が交わされる。したがって、前記のような発表の場に登場するキャラ クターたちの作者は、絵という美術作品ばかりでなく、言葉や文字による言 語作品の作者でもある。しかし、われわれが漫画キャラクターの商品化権問 題を考えるときは、そのキャラクターの絵(姿態)と名前だけが重要なので あって、会話という言語は原則として対象外となる。 作品が言葉の表現によるのではなく、漫画その他図画的表現によるもので ある場合には、キャラクターは保護され易い。この場合、2つのキャラクタ ーの姿態が完全に一致していなくても、視覚の中にキャラクター固有の特徴 が共通に表現されていると認められるときは、原告のキャラクターの名前と 被告のキャラクターの名前とがたとえ異なっていても、著作権侵害が成立す 4 る証拠となる 4)。 3.著作権法上の「キャラクター」の定義 3.1 筆者は、ファンシフル・キャラクターを3つの登場人物に分類したが、 これらの登場人物に対しては、さらに4つの観点からの考察が必要となる。 すなわち、視覚的外見的要素、聴覚的(話し方)要素、性格的(特性、習慣)要 素をもつキャラクターの形態および名前である。 しかし、商品化権問題を考えるときに重要な要素は、このうちキャラクタ ーの視覚的外観的要素と名前の2つである。 3.2 わが国でキャラクターを著作権法で保護することを最初に認めた裁判 例の「サザエさん」事件(東京地判昭 51 年 5 月 26 日)において東京地裁は、 観光バスの車体に表現された3人のファミリーのキャラクターの似顔絵を模 して、「キャラクター」について次のように説示している 5)。 (1) 話題や筋がどのようなものであっても、そこに登場する人物がサザ エ,カツオ,ワカメであると認められるならば、漫画「サザエさん」であ る。また、他人が作成した漫画であっても、そこに登場する人物が原告の 作成する漫画「サザエさん」に登場するサザエ,カツオ,ワカメに同一ま たは類似していれば、その他人の漫画は、漫画「サザエさん」と誤認され る場合がある。 (2) 「サザエさん」のように、長期間にわたって連載される漫画の登場 人物は、話題や筋の単なる説明者というよりも、むしろ話題や筋の方が登 場人物にふさわしいものとして選択され表現されることの方が多いだろう。 これは、漫画の登場人物の役割,容貌,姿態のような恒久的なものとして 与えられた表現(物)は、言葉で表現される話題や筋や、特定の人物の表 情、頭部の向き、体の動きなどを超えたものであるからである。 (3) キャラクターという言葉は、「サザエさん」のような連載漫画に例 をとれば、そこに登場する人物の容貌,姿態,性格などを表現するものと してとらえることができる。 また、「ポパイ」著作権第3事件(最高判平成 9 年 7 月 17 日)において 最高裁は、「キャラクター」について次のように説示している 6)。 「一定の名称,容貌,役割等の特徴を有する登場人物が、反復して描かれ 5 ている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の 漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆ るキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクタ ーといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともい うべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想 又は感情を創作的に表現したものということができないからである。」 前記「サザエさん」事件の東京地裁判決では曖昧であった「キャラクター」 自体の著作物性について、この最高裁判決では明瞭に否定している。 3.3 いま商品化権問題で示された2つの裁判例における「キャラクター」 についての基本的理解と、筆者が示した前記理解とを対比すると、最高裁は 全要素を含む総合的人物像と解しているから、抽象的概念のものといわざる を得ないのに対し、筆者は、キャラクターから聴覚的要素と性格的要素を拾 象して考え、残る視覚的外見的要素(絵)と名前という具象的概念のものを、 商品化権の対象となる「キャラクター」と理解するから、両者の理解は共通 しているといえるのである。 したがって、仮に、 「キャラクター権」という新用語を創作するとしても、 実定法上の意味内容は、登場人物の視覚的外見的要素(絵)と名前について の著作権と解することになるであろう。 4.商品化権とは何か 4.1 商品化権の定義 現行の実定法には存在しないが、業界用語となっている「商品化権」とい う名の権利の実体を理解することは簡単ではない。それは前記したとおり、 この権利が保護対象として含もうとしているものの範囲の広さにまず原因が ある。そして、この範囲が広くなれば広くなるほど、これらのキャラクター 自体の発生源は種々様々であるから、それらを保護する固有の法律や権利も また種々様々となる。 したがって、あるキャラクターを商品やサービスの吸引媒体として使用す る行為に対する保護に焦点を絞り、それを「商品化権」と命名して保護の態 様を考えれば、そこに含まれる実体の違いから共通の法的性質を見い出して 規定することは、さほど困難なことではないと考える。 6 今日では、あらゆる商品やサービスのための顧客吸引媒体として利用され るキャラクターの種類の多様化によって、商品化権の定義は一件困難になり そうであるけれども、種類を問わず平均的な定義をすることが許されるなら ば、次のようになるであろう。 「商品の販売やサービスの提供の促進のためにキャラクターを媒体として 利用する権利」 このように利用されるキャラクターは、商品やサービスから分離独立して 存在するものではあるが、それ自体の発生源や有名無名は問われないことに なる。 4.2 キャラクターと実定法との関係 「商品化権」の定義を考えるときに問題となるのは、各種キャラクターと 実定法との関係である。 ① ファンシフル・キャラクター→著作権法,意匠法,商標法,不正競争 防止法 ② パーソナリティ(実在人物)→民法(名称や肖像の権利を侵害する不 法行為に関する規定) ③ マーク/ワードロゴ→不正競争防止法,商標法 ④ 商号→商法,不正競争防止法 ⑤ 自動車,飛行機,建造物等→民法(不法行為法),不正競争防止法 これらの実定法は、キャラクターの所有者(ライセンサー)と利用者(ラ イセンシー)との関係、および所有者または利用者と模倣侵害者との関係を 規制するための法律として、現在は有効に機能しているといえる。 しかし、今日の商品化権問題は、これらの関係範囲だけではすまないよう になっている。新しく起こっている法律問題は、消費者に対する製造者の製 造物責任(Product Liability)である。例えば、人形メーカーが製造販売 したキャラクターを使用した人形を持って遊んでいた子供が、機械のメカの 一部によって指を切ったとか、玩具のピストルの操作を誤まって怪我をさせ たとか等が考えられる。 わが国では、平成7年7月1日に「製造物責任法」が施行されたが、民法 における不法行為制度の原則である過失責任主義に限界のあることから、こ れを製品の製造者に責任を課す主義に軌道修正し、製造業者等に過失の有無 7 を問わない損害賠償責任の考え方をとり、製品の「欠陥」を製造業者等の「過 失」に代わる帰責事由とした製造物責任を法制化したものである。 5.わが国の現状 5.1 「商品化権」という新しい権利名を創設したのはマンガやアニメのキャ ラクターの創作者や制作者であり、この権利を受け入れたのはキャラクター を自社の商品やサービスに利用することを願った業者らであり、この当事者 間を橋渡ししたのは契約であった。そして、この契約関係が業界の法秩序と して今日では定着化している。大手出版社や日本商品化権協会ではその契約 書のモデルを用意している 7)。 しかし、このような業界の法秩序は、必ずしも現行の実定法の正確な理解 と解釈の上に確立しているものではないから、当事者間では有効に維持され ても、もし商品化物が第三者によって模倣盗用されたときに、この法秩序が どこまで有効であるかは必ずしも明らかであるといえない。 そこで、このような事件の解決は、訴訟というかたちをとって裁判所に求 められることになり、求められた侵害裁判所はこれまでに多くの判決を出し ており、様々なケースについて判例法を確立しつつある。 しかし、わが国では、マーチャンダイジングを規制する法律や裁判例がま だ完備しているとはいえないが、マーチャンダイジング・ビジネスによって もたらされる諸問題を解決する方法は、例えば、商標法の改正(サービスマ ーク制度の導入)や不正競争防止法の改正(著名表示の保護、商品形態のデ ッドコピーの禁止)によって強化されているといえる。したがって、関係者 が適正な権利行使をすれば、現在の日本の法制度の下でも保護の機能は果せ ると思われる。そのためには、関係法を逐次改正し、将来にわたって裁判例 を積み重ねていくことが望ましい。 5.2 マーチャンダイジングを規制する特別法は、それがマーチャンダイジ ングのあらゆる側面を規制できるならば望ましいが、架空のキャラクターと 実在人物とでは、それぞれ異なった保護方法をとる必要があり、また仮にこ のような特別法を作っても、既存の多くの知的財産法との関係で新たな問題 を惹起することになろう。したがって、現状では、権利行使の面で適切な考 慮がなされるならば、複数の相異する法律の関連規定の適用で目的が達成さ 8 れるものと思われる。 すると、わが国においては、現存する法律、特に著作権法,商標法,不正 競争防止法をある程度改正するだけで解決できるであろう。 ① 著作権法関連: キャラクターの名前はキャラクター自体と不可分一体のものであり、名 前を言えばキャラクターの顔が浮かんでくるから、名前それ自体も著作権 法により保護されるべきである。しかし、キャラクターの名前自体につい ては著作権法による保護を裁判所は未だ認めていない。この保護を著作権 法によって積極的に認める裁判例を確立することが望ましい。 ② 商標法関連: 実在人物の名前や肖像(本人の同意,死者の場合は個人の配偶者等相続 人の同意が必要) 、 漫画のキャラクターや名前(著作権者の同意が必要)が、 商標登録の対象となる。 ③ 不正競争防止法関連: 他人の商品等表示の中には、例えばマンガやアニメのキャラクターの絵を 表現した商品形態なども含まれるから、不競法2条1項1号・2号・3号に 該当する不正競争行為を競業者が起した場合には、差止請求や損害賠償請求 の対象となる場合がある。 6.国際的動向 6.1 WIPOのレポート 8) WIPOは、1991 年に行った世界各国の現状分析をもとに、“Character Merchandising”に適用できる法律に関し、1993 年 11 月、「レポート」を発表 した。このレポートは、「消費者への商品・サービス販売を増すもっとも現代 的手段のひとつ」であると、WIPOが考えたキャラクターマーチャンダイジ ングの問題の考察を目的としたものである。このレポートは、キャラクターの 概念(定義,由来,最初の使用)、キャラクターマーチャンダイジングの概念(定 義,歴史,様式タイプ)、キャラクターの合法的マーチャンダイジング(所有権 と関係者)、法的保護の種類(知的財産法規およびパーソナリティとパブリシテ ィの権利)、保護の範囲、これらの権利の行使について考察している。 (1)キャラクターマーチャンダイジングの概念 9 このレポートによれば、キャラクターマーチャンダイジングとは、「架空の キャラクターの創作者、または、許諾を受けた第三者によって、キャラクター の重要な個性的特徴を種々の商品やサービスに使用または二次的に使用して、 消費者となる見込みのある人々に、そのキャラクターへの好感ゆえに商品を手 に入れたいとか、サービスを利用したいという欲求を起こさせることを目的と するものである。」と定義されている。 このレポートには、次の例が載せられている。 −架空のキャラクター「ミッキーマウス」の立体複製であるおもちゃ −架空のキャラクタの「忍者タートル(Ninja Turtles)」という名前とイメージ の付いているTシャツ −「アラン・ドロン」の名前のラベルを付けた香水ビン −「アンドレ・アガシ」の名前の付いているテニスシューズ ‐流行歌手のエルトン・ジョンがコカ・コーラ・ライトを飲んでいるところを 見せる、コカ・コーラ・ライト飲料の広告キャンペーン映画 このレポートは、マーチャンダイジングの主役について、架空のキャラクタ ーに関するものを「キャラクター・マーチャンダイジング」、実在人物に関す るものを「パーソナリティ・マーチャンダイジング」、混成された第三の範疇 に属するものを「イメージ・マーチャンダイジング」と呼んでいる。 架空のキャラクターについてのマーチャンダイジングは、主にキャラクター の名前,イメージ,および/または二次元や三次元の複製を商品やサービスに 使用するものであるが、「パーソナリティ・マーチャンダイジング」は、次の 2つの様式に分けられる。 第1は、実在人物の名前,イメージまたは他の特質を低価格の大衆商品であ るマグ,スカーフ,バッジ,Tシャツなどに使用することで、この場合はその 人物の魅力が消費者にとって主な重要性を持つことになろう。第2は、パーソ ナリティが商品やサービスの広告キャンペーンの中に登場する場合で、ここで は、パーソナリティは、商品やサービスとそのパーソナリティの主な活動との 関係によって、利用者とみなされたり、専門家とみなされることさえあるだろ う。 「イメージ・マーチャンダイジング」の範疇では、実在の俳優が演じる映画 やテレビの中の架空のキャラクター、Laurel & Hardy, the Marx Brothers, 10 Crocodile Dundee, Colombo, McGyver などを使用し、大衆が実在人物とこの架 空のキャラクターを結びつけて考える場合が含まれる、という。ここでは、商 品やサービスは、映画やテレビのキャラクター以外の要素のマーチャンダイジ ングも伴って、市場に出されることになろう。 このレポートは、マーチャンダイジングプログラムは単にキャラクターに関 するものばかりではなく、大学,組織,スポーツ,社会的イベント,芸術的展 覧会,自然科学的イベントにも関わるものでありうることを認めている。 (2)キャラクターの合法的マーチャンダイジング このレポートのこの章では、架空のキャラクターに属する権利を、キャラク ターの名前,イメージ,外観等を使用する権利、その使用に由来する利益を得 る権利、それを売却する権利を含む「所有権(property right)」として考察し ている。これらの権利は、キャラクターの創作者が権利を譲渡するか、キャラ クターを創作することを委託されているか、雇用されているかまたは死亡して いない限り、キャラクターの創作者が主に所有する。 実在人物に属する権利については、「パーソナリティ権(personality right)」 または「パブリシティ権(publicity right)」と呼ばれ、重要なパーソナリティ の特徴を使用する権利、およびその使用に由来する利益を受ける権利を含む。 この権利は、関係する実在人物が所有する。WIPOは、マーチャンダイジン グの権利は、キャラクターの創作者から映画会社などの新権利保持者へ譲渡さ れるばかりでなく、許諾を求めるものと直接交渉したり、非許諾者と交渉して 下請け会社や他社に、二次的に許諾を与えたりする権利を認められた特別の代 理人へもしばしば譲渡されるものであることを述べている。 (3)法的保護の形式 WIPOは、キャラクター・マーチャンダイジングの保護そのものの特別法 規を有する国はいまだなく、特にこの問題を扱った国際条約も存在しないこと を認めている。したがって、この保護のためには現状では、著作権,商標,サ ービスマーク,工業デザインに関する法律および不正競争と不法行為(passing off)に対する保護に依拠しなければならないとしている。 また、パーソナリティ・マーチャンダイジングに関しては、パーソナリティ または「パブリシティ」の権利に関する法律分野が該当する。 このレポートは、関連する知的財産法の特色についての短い紹介の後、各法 11 律のどの局面が該当するか、その法律では、どのような場合にキャラクターの 保護が可能であると考えられるかを説明している。大部分のフィクショナル・ キャラクターが著作権法と商標法によってほぼ保護されるが、実在人物は通常 不法行為を含む不正競争防止法およびパーソナリティまたは「パブリシティ」 の権利による保護に依拠しなければならないだろう。 (4)権利の行使 このレポートは、キャラクター・マーチャンダイジングの権利の行使につい ての適切な方法は、権利の原所有者にとっても、また、実際にマーチャンダイ ジング活動に従事する者にとっても、いかなる法的保護の形式でも与えられる べきであると述べている。レポートでは、例えば、刑法による制裁とともに禁 止命令や損害賠償を含む民法による救済,証拠を確保する方法,手続を迅速に する可能性についての指摘がある。 最後にこのレポートは、重要なマーチャンダイジング・プログラムの主役で 現実に信用をすでに生み出している有名な架空のキャラクターや実在人物にと っては、かなり納得のいく救済の道が開かれているとの所見で締めくくってい る。しかし、いまだ一般に広く知られていない架空のキャラクターや実在人物 にとっては、同様のことはいえないであろう。 なお、キャラクター・マーチャンダイジングに関する特別法を導入する可能 性への提言はなされていない。 6.2 AIPPIの決議 9) AIPPIは、Q.129 として「マーチャンダイジングの法的側面」を、19 95年6月に開かれたモントリオール総会の議題の一つとし、筆者も日本部会 から発言した。 同総会では、AIPPIの決議として次のような勧告が出されたが、この内 容は、同決議の委員長が商標法専門の弁護士であったことから、偏向するよう なものになったといえる。 ① AIPPIは、マーチャンダイジングを規制する特別法の採用は勧告し ない。ただし、この決議においてすでに述べた各項目に示したように、標 章、不正競争等を規制する上記諸法を、必要ならば修正を加えた上で解釈 適用することを勧告する。 12 ② AIPPIは、マーチャンダイジングの規制については、商標法が最も 適切なものと認められるべきであるが、マーチャンダイジング特別法とは いえないその他の諸法による保護も除外されるべきではないと解する。 にもかかわらず、委員長は決議案について採択し、若干の修正はあったが、 賛成多数で可決された。しかし、著者は最後まで反対の意思を通した。けだし、 この決議案では多種多様な対象を保護しようとしている商品化権問題を、商標 法を中心に解決しようとすることは、理論的にも実務的にも無理というものだ からである。 7.その他の問題 マンガやアニメのキャラクターに焦点を絞った場合、平面物から立体物への 変更によって人形やぬいぐるみという商品化利用の歴史があるところ、それは 著作物から工業物品への転用という応用美術としての保護の問題に発展する。 そして、この問題はわが国では、昭和45年著作権法の改正審議時に議論とな っており、次の第1案と第2案とが著作権制度審議会から文部大臣に答申が提 出されている 10)。 第1案は、応用美術について、著作権法による保護を図るとともに現行の意 匠法など工業所有権制度との調整措置を積極的に講ずる方法としては、次のよ うに措置することが適当と考えられる。 (1)保護の対象 ① 実用品自体である作品については、美術工芸品に限定する。 ② 図案その他量産品のひな型また実用品の模様として用いられることを目 的とするものについては、それ自体が美術の著作物でありうるものを対象 とする。 ③ 意匠法,商標法との調整措置 図案などの産業上の利用を目的として創作された美術の著作物は、いったん それが権利者によりまたは権利者の許諾を得て産業上利用されたときは、それ 以後の産業上の利用の関係は、もっぱら意匠法などによって規制されるものと する。 第2案は、上記の調整措置を円滑に講ずることが困難な場合には、今回の著 作権制度の改正においては以下によることとし、著作権制度および工業所有権 13 制度を通じての図案などのより効果的な保護の措置を、将来の課題として考慮 すべきものと考える。 (1)美術工芸品を保護することを明らかにする。 (2)図案その他の量産品のひな形または実用品の模様として用いられること を目的とするものについては、著作権法においては特段の措置を講ぜず、原則 として意匠法など工業所有権精度による保護に委ねるものとする。ただし、そ れが純粋美術としての性質をも有するものであるときは、美術の著作物として 取り扱われるものとする。 (3)ポスターなどとして作成され、またはポスターなどに利用された絵画、 写真などについては、 著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。 この結果、第1案は意匠権等との関係で総合的な検討を要することから実現 困難となり、第2案が採用されたのである。 第2案のうち、とくに重要なのは(2)であり、実用品の模様として用いら れることを目的として創作されたものでも、それが純粋美術としての性質をも 有するものであれば、たとえ意匠法の保護対象となる意匠であったとしても、 美術の著作物として著作権法で保護することができるとしたのである。 しかし、この問題の解釈は、将来の課題として残されたままとなっているけ れども、著作権制度審議会の立場としては今後も、第1案を否定し、第2案を 維持する方向を示すにせよ、その後今日に至るまでこの課題は未解決のまま放 置されている無責任のそしりは免れないだろう。 したがって、昭和45年(1970年)の施行から40年近く経過しようと している現在、最初に美術の著作物(マンガ)や映画類似の著作物(アニメー ション)として著作権法による保護が発生した後に、その中のキャラクターが 物品に転用されたことによって意匠法による保護対象となる場合に起る著作権 との重畳的保護の是非については、広く応用美術作品の保護を論ずる問題とな ることから、英国をはじめとするEUデザイン法における取組みをモデルに、 わが国において残されている前記課題の解決を図る努力をすべきであろう 11)。 8.むすび 筆者は、「商品化権法」(仮称)の立法化を長年模索してきているところ、 その対象物の多さと広さ故に、保護態様の多様性と深さに戸惑うことを経験し 14 ている。かといって、保護対象に合わせた保護方法の立法化はけっして不可能 ではないと考えているし、実務界においても学会においても研究を始めること を勧めたい 12)。 また、国際的には、WIPOがレポートを提出した1991年以来、各国に おいては裁判例の蓄積があるだろうから、再度この課題に取組み、モデル法の 確立を目指してはどうだろうかと思う。 注 1) 牛木「キャラクター戦略と商品化権」11 頁(発明協会 2000 年) 牛木前掲 5 頁 3) 英国における「ポパイ事件」は、1940 年 3 月 25 日の第一審判決に遡ることになるが、“Popeye the Sailer”として知られている「船乗りポパイ」のキャラクターの絵が最初に登場したのは、1929 年 1 月 17 日付 New York Evening Journal の 5 連一組の連載漫画”THE THIMBLE THEATER”の中であった。同紙の各 号はニューヨークでの発行と同時にカナダでも公に発売された(カナダにおける漫画の発行は、同時にイ ギリスにおける著作権を取得した)。その作者は、エリジー・クライスラー・シーガー(Elizie Chrisler Segar) である。そして、第三者が、この漫画キャラクターについて、著作権者のキング・フィチャーズ・シンジケー ト・インクの許諾を得て、ポパイの人物絵を形取ったブローチや人形等を製造,輸入,販売していたのを 見た被告が、原告(著作権者)に無断で、ブローチや人形を日本で製造させ輸入して販売したことが、原 告が著作権(複製権)侵害の訴訟を起した発端である。ということは、1930 年代には、英国ではすでにマ ンガキャラクターの顧客吸引力を利用した商品化現象は起っていたといえる。牛木理一「ポパイ事件の著 作権法学的考察」パテント 1977 年 3 月号・4 月号(これは、牛木理一「デザイン キャラクター パブリシティ の保護」255 頁悠々社に所載)。 4) 後記の「サザエさん」事件の説示を参照されたい。 2) 5) 無体裁集 8 巻 1 号 219 頁,特許ニュース 4507 号昭和 51 年 9 月 22 日.著作権研究 8 号 163 頁.半 田正夫「著作権をめぐる最近の著作権判例について」ジュリスト 618 号 109 頁.水田耕一「著作権法とキャ ラクターの保護」商事法務 739 号.伊藤信男「二つの画期的な著作権裁判の経過と問題点」コピライト 185 号 2 頁.牛木前掲 99 頁 6) 無体裁集 22 巻 1 号 34 頁,知的裁集 24 巻 2 号 385 頁,民集 44 巻 5 号 876 頁.牛木前掲 162 頁 7) 牛木前掲 353 頁 8) Document WO/INF/93. このレポートはその後、Document WO/INF/108 が 1994 年 12 月に発表され た。 9) AIPPI 日本部会月報 Vol.40 No.9 p.622 (1995) 10) 牛木理一「意匠法の研究(四訂版)」364 頁発明協会(1994 年) 11) わが国の意匠法は平成 18 年改正において、意匠法の存続期間を設定登録日から 20 年間に延長し た(意 21 条 1 項)ことは、EUデザイン法との整合性やベルヌ条約7条4項との関係を考慮すれば、次回の 意匠法改正時には 25 年間とすることへのステップとなったといえる。 12) (社)著作権情報センターでは、平成 13・14 年度事業として「応用美術委員会―著作権と意匠法との 交錯問題に関する研究」(委員長・紋谷賜男成蹊大学教授.筆者も委員)において、「報告書」(著作権研 究所研究叢書 No.9)をまとめ 2003 年 3 月に発表しているが、両法の交錯問題の先にある商品化権問題 についてまでは論及されず、次の課題として残された。 15
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